(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】樹脂フィルムの製造方法
(51)【国際特許分類】
B29C 55/02 20060101AFI20230711BHJP
【FI】
B29C55/02
(21)【出願番号】P 2019140636
(22)【出願日】2019-07-31
【審査請求日】2022-04-11
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002147
【氏名又は名称】弁理士法人酒井国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】菊川 賢
【審査官】田代 吉成
(56)【参考文献】
【文献】特開2011-107598(JP,A)
【文献】特開平10-315318(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 55/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成された長尺の延伸フィルムを、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し緊張させた状態で、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を一定に保ちながら、温度T1で処理する工程(A)と、
前記延伸フィルムを、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を前記保持具により保持しながら温度T3で冷却する工程(C)と、をこの順で含み、
前記工程(A)の後であって、前記工程(C)の前に、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を前記保持具により保持し、温度T2で前記延伸フィルムを処理する工程(B)を更に含み、
前記工程(C)の冷却を、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら行い、
前記工程(B)を、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら行い、
前記工程(B)が、
前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら温度T21で前記延伸フィルムを処理する工程(B1)、次いで
前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら温度T22で前記延伸フィルムを処理する工程(B2)を含み、
温度T1
、温度T2、温度T3
、温度T21及び温度T22が、下記式を満た
し、
前記工程(B1)における前記保持具間の距離の縮小率Xb1と、前記工程(B2)における前記保持具間の距離の縮小率Xb2とが、下記式を満たす、樹脂フィルムの製造方法。
Tg≦T1≦Tm (1)
T3≦Tg (2)
T3<T1 (3)
Tg≦T2≦Tm (4)
T3<T2<T1 (5)
Tg≦T22<T21<T1 (7)
Xb1<Xb2 (8)
ここで、Tgは前記結晶性を有する重合体のガラス転移温度を表し、Tmは前記結晶性を有する重合体の融点を表す。
【請求項2】
前記工程(B)における前記保持具間の距離の縮小率Xbと、前記工程(C)における前記保持具間の距離の縮小率Xcとが、下記式を満たす、請求項
1に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Xb<Xc (6)
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂に含まれる前記結晶性を有する重合体が、脂環式構造含有重合体である、請求項1又は2に記載の樹脂フィルムの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂フィルムの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
結晶性を有する脂環式構造重合体を含む樹脂から形成される樹脂フィルムは、製造工程において、重合体の結晶化を促進するため熱処理を行う場合がある(特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成された延伸フィルムを熱処理すると、平面性に劣る樹脂フィルムが得られる場合があった。また、得られた樹脂フィルムの両端部をトリミングすると、端部に細かい糸状のくず(ケバ)が付着したフィルムが得られる場合があった。
【0005】
したがって、結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成された延伸フィルムから、平面性に優れかつトリミング後の端部の性状が良好である樹脂フィルムを製造する方法が、求められている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、前記課題を解決するべく、鋭意検討した。その結果、延伸フィルムの特定の熱処理の後に、特定の冷却工程を行うことで、前記課題が解決できることを見出した。
すなわち、熱処理工程を、延伸フィルムを保持具により保持し緊張させた状態で、特定の温度で行い、次いで、冷却工程を、延伸フィルムの端部を保持具により保持しながら、特定の温度で行うことで、前記課題が解決できることを見出した。
すなわち、本発明は、以下を提供する。
【0007】
[1] 結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成された長尺の延伸フィルムを、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し緊張させた状態で、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を一定に保ちながら、温度T1で処理する工程(A)と、
前記延伸フィルムを、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を前記保持具により保持しながら温度T3で冷却する工程(C)と、をこの順で含み、
温度T1及び温度T3が、下記式を満たす、樹脂フィルムの製造方法。
Tg≦T1≦Tm (1)
T3≦Tg (2)
T3<T1 (3)
ここで、Tgは前記結晶性を有する重合体のガラス転移温度を表し、Tmは前記結晶性を有する重合体の融点を表す。
[2] 前記工程(C)の冷却を、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら行う、[1]記載の樹脂フィルムの製造方法。
[3] 前記工程(A)の後であって、前記工程(C)の前に、前記延伸フィルムの長手方向の二辺を前記保持具により保持し、温度T2で前記延伸フィルムを処理する工程(B)を更に含み、温度T2が下記式を満たす、[2]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Tg≦T2≦Tm (4)
T3<T2<T1 (5)
[4] 前記工程(B)が、前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら行われる、[3]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
[5] 前記工程(B)における前記保持具間の距離の縮小率Xbと、前記工程(C)における前記保持具間の距離の縮小率Xcとが、下記式を満たす、[4]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Xb<Xc (6)
[6] 前記工程(B)が、
前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら温度T21で前記延伸フィルムを処理する工程(B1)、次いで
前記延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を縮小させながら温度T22で前記延伸フィルムを処理する工程(B2)を含み、
ここで、温度T21及び温度T22が、下記式を満たし、
Tg≦T22<T21<T1 (7)
前記工程(B1)における前記保持具間の距離の縮小率Xb1と、前記工程(B2)における前記保持具間の距離の縮小率Xb2とが、下記式を満たす、[4]又は[5]に記載の樹脂フィルムの製造方法。
Xb1<Xb2 (8)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成された延伸フィルムから、平面性に優れかつトリミング後の端部の性状が良好である樹脂フィルムを製造する方法が提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【
図1】
図1は、樹脂フィルムの製造方法における保持具間の距離を模式的に説明する説明図である。
【
図2】
図2は、樹脂フィルムの製造方法に用いうる製造装置の上面を概略的に示す、模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明について実施形態及び例示物を示して詳細に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施形態及び例示物に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0011】
以下の説明において、「長尺」のフィルムとは、幅に対して、5倍以上の長さを有するフィルムをいい、好ましくは10倍若しくはそれ以上の長さを有し、具体的にはロール状に巻き取られて保管又は運搬される程度の長さを有するフィルムをいう。フィルムの長さの上限は、特に制限は無く、例えば、幅に対して10万倍以下としうる。
【0012】
以下の説明において、要素の方向が「平行」、「垂直」及び「直交」とは、別に断らない限り、本発明の効果を損ねない範囲内、例えば±3°、±2°又は±1°の範囲内での誤差を含んでいてもよい。
【0013】
以下の説明において、幅方向とは、長尺のフィルムの長手方向と直交する方向である。通常、長尺のフィルムの長手方向は、フィルムの搬送方向に一致する。
【0014】
[1.樹脂フィルムの製造方法の概要]
本発明は、結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から形成されている延伸フィルムから樹脂フィルムを製造する方法である。本発明の一実施形態に係る製造方法は、工程(A)及び工程(C)をこの順で含む。工程(A)では、延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し緊張させた状態で、延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を一定に保ちながら、温度T1で処理する。工程(C)では、延伸フィルムを延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持しながら温度T3で冷却する。
前記製造方法により、平面性に優れ、トリミング後において端部の性状が良好な樹脂フィルムを製造しうる。
【0015】
本発明の一実施形態に係る製造方法は、工程(A)の後であって、工程(C)の前に、工程(B)を更に含んでいてもよい。
工程(B)では、延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し、温度T2で延伸フィルムを処理する。
【0016】
[1.1.延伸フィルム]
(延伸フィルムを形成する材料)
延伸フィルムを形成する熱可塑性樹脂は、結晶性を有する重合体を含む。ここで、「結晶性を有する重合体」とは、融点Tmを有する重合体を意味する。重合体が、融点Tmを有することは、示差走査熱量計(DSC)を用いて確認することができる。
結晶性を有する重合体の融点は特に限定されないが、好ましくは200℃以上、より好ましくは230℃以上であり、好ましくは290℃以下である。
結晶性を有する重合体のガラス転移温度は特に限定されないが、例えば、70℃以上、75℃以上、又は85℃以上であり、例えば、170℃以下である。
【0017】
結晶性を有する重合体の例としては、結晶性を有するポリオレフィン(例、ポリエチレン、ポリプロピレン);結晶性を有する脂環式構造含有重合体(例、ノルボルネン系重合体);結晶性を有するセルロースエステル(例、トリアセチルセルロース);結晶性を有するポリ塩化ビニル;結晶性を有するポリビニルアルコール;結晶性を有するポリスチレン;結晶性を有するポリエステル(例、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート);結晶性を有するポリアミド;結晶性を有するポリイミド;結晶性を有するポリアセタール;結晶性を有するポリカーボネート;結晶性を有するポリフェニレンスルフィド;結晶性を有するポリアリレート;及び、結晶性を有するポリエーテルエーテルケトンが挙げられる。なかでも、機械的強度、耐熱性、耐湿性などに優れることから、結晶性を有する脂環式構造含有重合体が好ましい。
【0018】
脂環式構造含有重合体とは、分子内に脂環式構造を有する重合体であって、環状オレフィンを単量体として用いた重合反応によって得られうる重合体又はその水素添加物をいう。また、脂環式構造含有重合体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0019】
脂環式構造含有重合体が有する脂環式構造としては、例えば、シクロアルカン構造及びシクロアルケン構造が挙げられる。これらの中でも、熱安定性などの特性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、シクロアルカン構造が好ましい。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数は、好ましくは4個以上、より好ましくは5個以上であり、好ましくは30個以下、より好ましくは20個以下、特に好ましくは15個以下である。1つの脂環式構造に含まれる炭素原子の数が上記範囲内にあることで、機械的強度、耐熱性、及び成形性が高度にバランスされる。
【0020】
脂環式構造含有重合体において、全ての構造単位に対する脂環式構造を有する構造単位の割合は、好ましくは30重量%以上、より好ましくは50重量%以上、特に好ましくは70重量%以上である。脂環式構造含有重合体における脂環式構造を有する構造単位の割合を前記のように多くすることにより、耐熱性を高めることができる。
また、脂環式構造含有重合体において、脂環式構造を有する構造単位以外の残部は、格別な限定はなく、使用目的に応じて適宜選択しうる。
【0021】
前記の脂環式構造含有重合体としては、例えば、下記の重合体(α)~重合体(δ)が挙げられる。これらの中でも、耐熱性に優れる樹脂フィルムが得られ易いことから、結晶性の脂環式構造含有重合体としては、重合体(β)が好ましい。
重合体(α):環状オレフィン単量体の開環重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(β):重合体(α)の水素添加物であって、結晶性を有するもの。
重合体(γ):環状オレフィン単量体の付加重合体であって、結晶性を有するもの。
重合体(δ):重合体(γ)の水素添加物等であって、結晶性を有するもの。
【0022】
具体的には、脂環式構造含有重合体としては、ジシクロペンタジエンの開環重合体であって結晶性を有するもの、及び、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものがより好ましく、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物であって結晶性を有するものが特に好ましい。ここで、ジシクロペンタジエンの開環重合体とは、全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、通常50重量%以上、好ましくは70重量%以上、より好ましくは90重量%以上、通常100重量%以下である重合体をいい、更に好ましくは全構造単位に対するジシクロペンタジエン由来の構造単位の割合が、100重量%の重合体をいう。
【0023】
ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素化物は、ラセモ・ダイアッドの割合が高いことが好ましい。具体的には、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物における構造単位のラセモ・ダイアッドの割合は、好ましくは51%以上、より好ましくは70%以上、特に好ましくは85%以上である。ラセモ・ダイアッドの割合が高いことは、シンジオタクチック立体規則性が高いことを表す。よって、ラセモ・ダイアッドの割合が高いほど、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物の融点が高い傾向がある。
ラセモ・ダイアッドの割合は、後述する実施例に記載の13C-NMRスペクトル分析に基づいて決定できる。
【0024】
延伸フィルムを形成する熱可塑性樹脂において、結晶性を有する重合体の割合は、好ましくは50重量%以上、より好ましくは70重量%以上、特に好ましくは90重量%以上である。結晶性を有する重合体の割合を前記範囲の下限値以上にすることにより、樹脂フィルムの耐熱性を高めることができる。
【0025】
延伸フィルムを形成する熱可塑性樹脂は、結晶性を有する重合体に加えて、任意の成分を含みうる。
【0026】
(延伸フィルムの製造方法)
延伸フィルムは、前記結晶性を有する重合体を含む熱可塑性樹脂から、任意の方法で製造しうる。例えば、熱可塑性樹脂から、射出成形法、押出成形法、プレス成形法、インフレーション成形法、ブロー成形法、カレンダー成形法、注型成形法、圧縮成形法等の樹脂成型法によって原反フィルムを製造し、原反フィルムを延伸して、延伸フィルムを製造しうる。厚みの制御が容易であることから、押出成形法によって原反フィルムを製造することが好ましい。
【0027】
原反フィルムの延伸方法としては、とくに限定されず、任意の延伸方法を用いうる。例えば、原反フィルムを長手方向に一軸延伸する方法(縦一軸延伸法)、原反フィルムを幅方向に一軸延伸する方法(横一軸延伸法)等の、一軸延伸法;原反フィルムを長手方向に延伸すると同時に幅方向に延伸する同時二軸延伸法、原反フィルムを長手方向及び幅方向の一方に延伸した後で他方に延伸する逐次二軸延伸法などの二軸延伸法;原反フィルムを幅方向に平行でもなく垂直でもない斜め方向に延伸する方法(斜め延伸法);などが挙げられる。
【0028】
延伸フィルムの厚みは、樹脂フィルムの厚みに応じて任意に設定できるが、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上であり、好ましくは1mm以下、より好ましくは500μm以下である。
【0029】
[1.2.工程(A)]
工程(A)では、延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し緊張させた状態で、延伸フィルムの幅方向における前記保持具間の距離を一定に保ちながら、温度T1で処理する。本工程により、延伸フィルムの変形を抑えながら、延伸フィルムに含まれる、結晶性を有する重合体の結晶化を促進することができる。
【0030】
延伸フィルムを緊張させた状態とは、延伸フィルムに張力がかかった状態をいう。ただし、この延伸フィルムを緊張させた状態には、延伸フィルムが実質的にさらに延伸される状態を含まない。また、実質的に延伸されるとは、延伸フィルムのいずれかの方向への延伸倍率が通常1.1倍以上になることをいう。
【0031】
延伸フィルムを保持する保持具は、延伸フィルムの長手方向の辺を連続的に保持しうるものでもよく、間隔を空けて間欠的に保持しうるものでもよい。通常、延伸フィルムを保持する保持具は、延伸フィルムの長手方向の一方の辺を保持し、延伸フィルムを下流に搬送する第一の保持具と、他方の辺を保持し、延伸フィルムを下流に搬送する第二の保持具とを含む。
【0032】
図1は、樹脂フィルムの製造方法における保持具間の距離を模式的に示す説明図である。
図1に示すように、一実施形態において、延伸フィルム1は、第一の保持具2R及び第二の保持具2Lにより端部を保持されて搬送される。第一の保持具2R及び第二の保持具2Lは、それぞれ軌跡3R及び軌跡3Lに沿って下流に移動する。
搬送される延伸フィルム1の、ある地点における、搬送方向MDと直交する幅方向WDxにおける保持具間の距離Dxは、幅方向WDxと軌跡3Rとの交点Px1と、幅方向WDxと軌跡3Lとの交点Px2との、距離である。以下、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離を、距離Dxと表示する場合がある。通常、距離Dxは、搬送される延伸フィルムの、両端間の距離と一致する。
【0033】
距離Dxは、工程(A)が行われる間、一定である。距離Dxが一定であるとは、本発明の効果を損ねない範囲内で、距離Dxが変動している場合を含む。距離Dxは、例えば、平均値の±1%以下、±0.5%以下、又は±0.3%以下の範囲内で変動していてもよい。
【0034】
延伸フィルムを、前記の状態に保ちながら、温度T1で処理する。ここで、温度T1は、下記式(1)を満たす。
Tg≦T1≦Tm (1)
ここで、Tgは、延伸フィルムを形成する熱可塑性樹脂に含まれる結晶性を有する重合体のガラス転移温度を表し、Tmは、該重合体の融点を表す。
式(1)を満たす限りにおいて、温度T1は、一定であってもよく、段階的に変化してもよく、連続的に変化してもよい。好ましくは、温度T1は、一定である。
【0035】
延伸フィルムを温度T1で処理する方法は特に限定されないが、通常、延伸フィルムの加熱を行う。加熱のための装置としては、加熱装置と原反フィルムとの接触が不要であることから、延伸フィルムの雰囲気温度を上昇させうる加熱装置が好ましい。好適な加熱装置の具体例を挙げると、オーブン及び加熱炉が挙げられる。通常、延伸フィルムの温度は、延伸フィルムの雰囲気温度に一致する。
【0036】
工程(A)において、延伸フィルムを温度T1で処理する時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、特に好ましくは20秒以上であり、好ましくは10分間以下であり、より好ましくは5分間以下であり、特に好ましくは1分間以下である。処理時間を前記下限値以上とすることにより、結晶性を有する重合体の結晶化を十分に進行させて、樹脂フィルムの耐熱性を高めることができる。また前記上限値以下にすることにより、樹脂フィルムの白濁を抑制できるので、光学フィルムとしての使用に適した樹脂フィルムが得られる。
【0037】
[1.3.工程(C)]
工程(C)は、工程(A)の後に行われる。工程(C)は、延伸フィルムを、延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持しながら温度T3で冷却する。これにより、平面性に優れ、トリミング後において端部の性状が良好である樹脂フィルムを得られる。
【0038】
工程(C)において、延伸フィルムを保持する保持具としては、工程(A)において使用する保持具と同様のものを使用しうる。
工程(C)における、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離(距離Dx)は、一定であってもよく、延伸フィルムが下流に搬送されるのに従って、縮小させてもよい。好ましくは、工程(C)は、距離Dxを縮小させながら行う。
【0039】
温度T3は、通常下記式(2)及び(3)を満たす。
T3≦Tg (2)
T3<T1 (3)
ここで、Tgは、式(1)における定義と同様であり、T1は、工程(A)における処理温度である。
【0040】
式(2)及び(3)を満たす限りにおいて、温度T3は、一定であってもよく、段階的に変化してもよく、連続的に変化してもよい。好ましくは、温度T3は、一定である。
温度T3は、通常延伸フィルムの雰囲気温度である。通常、延伸フィルムの温度は雰囲気温度に一致する。
【0041】
延伸フィルムを温度T3で冷却する方法は、特に限定されない。温度T3で冷却するための装置としては、温度T3に応じて、加熱装置又は冷却装置を用いうる。
加熱装置の例及び好ましい例としては、工程(A)において用いられうる加熱装置と同様の装置が挙げられる。
冷却装置の例としては、ブロワー、冷媒等の循環機構を備える装置などが挙げられる。
【0042】
温度T3は、好ましくは(Tg-60)(℃)以上、より好ましくは(Tg-50)(℃)以上であり、通常Tg(℃)以下、より好ましくは(Tg-10)(℃)以下である。
【0043】
工程(C)において、延伸フィルムを温度T3で処理する時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、特に好ましくは10秒以上であり、好ましくは10分間以下であり、より好ましくは5分間以下であり、特に好ましくは1分間以下である。
処理時間を前記下限値以上とすることにより、結晶性を有する重合体の結晶化を十分に進行させて、樹脂フィルムの耐熱性を高めることができ、平面性により優れ、トリミング後において端部の性状がより優れた樹脂フィルムを製造しうる。また前記上限値以下にすることにより、樹脂フィルムの白濁を抑制できるので、光学フィルムとしての使用に適した樹脂フィルムが得られる。
【0044】
[1.4.工程(B)]
本発明の一実施形態に係る樹脂フィルムの製造方法は、前記の通り、工程(A)の後であって、工程(C)の前に、工程(B)を更に含んでいてもよい。
工程(B)では、延伸フィルムの長手方向の二辺を保持具により保持し、温度T2で延伸フィルムを処理する。
【0045】
温度T2は、通常下記式(4)及び(5)を満たす。
Tg≦T2≦Tm (4)
T3<T2<T1 (5)
ここで、Tg及びTmは、式(1)における定義と同様であり、T1は、工程(A)における処理温度であり、T3は、工程(C)における処理温度である。
【0046】
式(4)及び(5)を満たす限りにおいて、温度T2は、一定であってもよく、段階的に変化してもよく、連続的に変化してもよい。
温度T2は、通常延伸フィルムの雰囲気温度である。
【0047】
工程(B)において、延伸フィルムを保持する保持具としては、工程(A)において使用する保持具と同様のものを使用しうる。
工程(B)における、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離(距離Dx)は、一定であってもよく、延伸フィルムが下流に搬送されるのに従って、縮小させてもよい。好ましくは、工程(B)は、距離Dxを縮小させながら行う。これにより、樹脂フィルムを高温で長時間放置した場合(例、145℃で1時間)の、樹脂フィルムの熱による寸法変化率(熱寸法変化率)を小さくできる。
【0048】
工程(C)及び工程(B)を、距離Dxを縮小させながら行う場合、工程(C)における距離Dxの縮小率Xcと、工程(B)における距離Dxの縮小率Xbは、下記式(6)を満たすことが好ましい。
Xb<Xc (6)
【0049】
ここで、ある工程Yにおける、距離Dxの縮小率Xy(%)は、下記式(9)により表される。
Xy(%)=(Dy0-Dy1)/Dy0×100 (9)
上記式において、Dy0は、工程Yの開始時における、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離を表し、Dy1は、工程Yの終了時における、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離を表す。工程(C)における縮小率Xc及び工程(B)における縮小率Xbも、前記式(9)により算出されうる。
工程(C)における縮小率Xcは、式(6)を満たす限りにおいて、好ましくは1%以上であり、好ましくは10%以下である。
工程(B)における縮小率Xbは、式(6)を満たす限りにおいて、好ましくは0.1%以上であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは10%未満である。
【0050】
工程(B)における、距離Dxを、延伸フィルムが下流に搬送されるのに従って縮小する場合、距離Dxの縮小率を、工程(B)が行われる間、同一としてもよいし、変化させてもよい。縮小率は、段階的に変化させてもよいし、連続的に変化させてもよい。
好ましくは、工程(B)において、距離Dxの縮小率を、延伸フィルムが下流に搬送されるのに従って、段階的又は連続的に大きくする。
より好ましくは、工程(B)において、距離Dxの縮小率を、延伸フィルムが下流に搬送されるのに従って、段階的又は連続的に大きくすると同時に、処理温度T2を、段階的又は連続的に下げる。これにより、平面性により優れ、トリミング後において端部の性状がより優れた樹脂フィルムを製造しうる。
更に好ましくは、工程(B)は、工程(B1)及び工程(B2)を、この順で含む。
【0051】
(工程(B1)及び工程(B2))
工程(B1)では、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離Dxを縮小させながら温度T21で前記延伸フィルムを処理する。
工程(B2)では、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離Dxを縮小させながら温度T22で前記延伸フィルムを処理する。
【0052】
ここで温度T21及び温度T22は、式(7)を満たす。
Tg≦T22<T21<T1 (7)
上式において、T1及びTgは、式(1)における定義と同様である。
これにより、平面性により優れ、トリミング後において端部の性状がより優れた樹脂フィルムを製造しうる。
【0053】
また、工程(B1)における距離Dxの縮小率Xb1と、工程(B2)における距離Dxの縮小率Xb2とが、下記式(8)を満たす。
Xb1<Xb2 (8)
工程(B1)における縮小率Xb1は、式(8)を満たす限りにおいて、好ましくは0.2%以上であり、好ましくは5%以下である。
工程(B2)における縮小率Xb2は、式(8)を満たす限りにおいて、好ましくは0.4%以上であり、好ましくは10%以下であり、より好ましくは10%未満である。
【0054】
工程(B1)における縮小率Xb1及び工程(B2)における縮小率Xb2は、式(9)に従い算出されうる。
【0055】
縮小率Xc、縮小率Xb1、及び縮小率Xb2は、下記式(10)を満たすことが好ましい。
Xb1<Xb2<Xc (10)
これにより、平面性により優れ、トリミング後において端部の性状がより優れた樹脂フィルムを製造しうる。
【0056】
工程(B1)において、延伸フィルムを温度T21で処理する時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、特に好ましくは20秒以上であり、好ましくは10分間以下であり、より好ましくは5分間以下であり、特に好ましくは2分間以下である。
工程(B2)において、延伸フィルムを温度T22で処理する時間は、好ましくは1秒以上、より好ましくは5秒以上であり、特に好ましくは10秒以上であり、好ましくは10分間以下であり、より好ましくは5分間以下であり、特に好ましくは1分間以下である。
処理時間を前記下限値以上とすることにより、結晶性を有する重合体の結晶化を十分に進行させて、樹脂フィルムの耐熱性を高めることができ、平面性により優れ、トリミング後において端部の性状がより優れた樹脂フィルムを製造しうる。また前記上限値以下にすることにより、樹脂フィルムの白濁を抑制できるので、光学フィルムとしての使用に適した樹脂フィルムが得られる。
【0057】
[1.5.任意の工程]
本実施形態の樹脂フィルムの製造方法は、前記の工程(A)、工程(C)、任意の工程(B)の他に、更に任意の工程を含んでいてもよい。
任意の工程の例としては、原反フィルムを延伸して延伸フィルムを得る工程、樹脂フィルムに表面処理を行う工程、樹脂フィルムの幅方向端部をトリミングする工程が挙げられる。
【0058】
[2.実施形態]
樹脂フィルムの製造方法は、オーブンを備え、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離Dxを変化させうる製造装置により行いうる。製造装置としては、横一軸延伸装置に、距離Dxを変化させうる機構を備えた装置が挙げられる。以下、樹脂フィルムの製造装置の一例を説明する。
【0059】
図2は、樹脂フィルムの製造方法に用いうる製造装置の上面を概略的に示す、模式図である。
図2に示すように、製造装置100は、オーブン30及び搬送装置200を備える。
製造装置100は、ロール10から繰り出される原反フィルム20を、オーブン30による加熱環境下で、フィルムの搬送方向MD1と直交する幅方向へ延伸して延伸フィルム40とした後、工程(A)~(C)を行う。
【0060】
製造装置100は、複数個の把持子110R及び110Lと、一対のガイドレール120Rと120Lとを備える。前記の把持子110R及び110Lは、原反フィルム20の幅方向の端部21及び端部22をそれぞれ把持しうるように設けられている。また、ガイドレール120R及び120Lは、前記の把持子110R及び110Lを案内するためにフィルム搬送路の両側に設けられている。把持子110R及び把持子110Lは、フィルムを保持するための保持具として機能する。
【0061】
把持子110R及び110Lは、ガイドレール120R及び120Lに沿って走行しうるように設けられている。また、把持子110R及び110Lはそれぞれ、前後の把持子110R及び110Lと一定間隔を保って、一定速度で走行しうるように設けられている。さらに、把持子110R及び110Lはそれぞれ、製造装置100に順次供給される原反フィルム20の幅方向の端部21及び端部22を、製造装置100の入口部130において把持して搬送し、製造された樹脂フィルム50を製造装置100の出口部140で開放しうる構成を有している。解放された樹脂フィルム50は、図示しない巻き取り装置により巻き取られて、ロール60として回収される。
【0062】
また、ガイドレール120R及び120Lは、把持子110R及び110Lが所定の軌道を周回しうるように、無端状の連続軌道を有している。このため、製造装置100は、製造装置100の出口部140で樹脂フィルム50を開放した把持子110R及び110Lを、順次、入口部130に戻しうる構成を有している。
【0063】
ガイドレール120R及び120Lには、下流になるほどガイドレール120Rとガイドレール120Lとの間隔が大きくなる延伸ゾーン150を備えている。
また、ガイドレール120R及び120Lには、ガイドレール120Rと120Lとの間隔が一定である、第一熱処理ゾーン160を備えている。
また、ガイドレール120Rと120Lには、下流になるほどガイドレール120Rとガイドレール120Lとの間隔が小さくなる、第二熱処理ゾーン170、第三熱処理ゾーン180、及び冷却ゾーン190を備えている。延伸ゾーン150、第一熱処理ゾーン160、第二熱処理ゾーン170、第三熱処理ゾーン180、及び冷却ゾーン190は、連続している。
【0064】
距離Da0は、第一熱処理ゾーン160の最も上流地点における、把持子110R及び把持子110Lとの距離であり、距離Da1は、第一熱処理ゾーン160の最も下流地点における把持子110R及び把持子110Lとの距離である。
距離Da0及び距離Da1が同じになるように、第一熱処理ゾーン160においてガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔が調整されている。
【0065】
距離Db10は、第二熱処理ゾーン170の最も上流地点における、把持子110R及び把持子110Lとの距離であり、距離Db11は、第二熱処理ゾーン170の最も下流地点における把持子110R及び把持子110Lとの距離である。
距離Db10よりも距離Db11が小さくなるように、第二熱処理ゾーン170においてガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔が調整されている。
【0066】
距離Db20は、第三熱処理ゾーン180の最も上流地点における、把持子110R及び把持子110Lとの距離であり、距離Db21は、第三熱処理ゾーン180の最も下流地点における把持子110R及び把持子110Lとの距離である。
距離Db20よりも距離Db21が小さくなるように、第三熱処理ゾーン180においてガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔が調整されている。
【0067】
距離Dc0は、冷却ゾーン190の最も上流地点における、把持子110R及び把持子110Lとの距離であり、距離Dc1は、冷却ゾーン190の最も下流地点における、把持子110R及び把持子110Lとの距離である。
距離Dc0よりも距離Dc1が小さくなるように、冷却ゾーン190においてガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔が調整されている。
【0068】
第二熱処理ゾーン170、第三熱処理ゾーン180、及び冷却ゾーン190において、ガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔は、更にX2~X4が以下の関係を満たすように調整されている。
0<X2<X3<X4
ここで、X2は、第二熱処理ゾーン170における、式(9)に従い距離Db10及び距離Db11から算出される縮小率を意味し、
X3は、第三熱処理ゾーン180における、式(9)に従い距離Db20及び距離Db21から算出される縮小率を意味し、
X4は、冷却ゾーン190における、式(9)に従い距離Dc0及び距離Dc1から算出される縮小率を意味する。
【0069】
オーブン30は、フィルムの搬送経路を囲むように設置され、その内部で、延伸ゾーン150を囲む延伸ゾーン加熱部31、第一熱処理ゾーン160を囲む第一加熱部32、第二熱処理ゾーン170を囲む第二加熱部33、第三熱処理ゾーン180を囲む第三加熱部34、及び冷却ゾーン190を囲む冷却部35に区分されている。
【0070】
第一加熱部32、第二加熱部33、第三加熱部34、及び冷却部35は、内部温度が、それぞれT1、T21、T22、及びT3となるように温度設定されている。
T1、T21,T22、及びT3は、前記と同義であり、下記式(1)~(3)、及び(7)を満たす温度である。
Tg≦T1≦Tm (1)
T3≦Tg (2)
T3<T1 (3)
Tg≦T22<T21<T1 (7)
【0071】
前記の製造装置100を用いた樹脂フィルム50の製造は、以下のようにして行われる。
ロール10から原反フィルム20を繰り出し、原反フィルム20を製造装置100に連続的に供給する。
製造装置100は、その入口部130において原反フィルム20の幅方向の端部21及び端部22を、把持子110R及び110Lによって順次把持する。端部21及び端部22を把持された原反フィルム20は、把持子110R及び110Lの走行に伴って搬送される。
【0072】
前記のとおり、把持子110R及び110Lが走行するガイドレール120R及び120Lの間隔は、延伸ゾーン150において、下流になるほど間隔が大きくなるように配置されている。そのため、把持子110R及び110Lによって把持された原反フィルム20は、延伸ゾーン150において原反フィルム20の幅方向に延伸されて、長尺の延伸フィルム40が得られる。
【0073】
また、前記のとおり、把持子110R及び110Lが走行するガイドレール120R及び120Lの間隔及びオーブン30の温度が調整されている。そのため、第一熱処理ゾーン160において、前記工程(A)を行い、第二熱処理ゾーン170において、前記工程(B1)を行い、第三熱処理ゾーン180において、前記工程(B2)を行い、冷却ゾーン190において、前記工程(C)を行いうる。
【0074】
得られた樹脂フィルム50は、製造装置100の出口部140において把持子110R及び110Lから開放され、巻き取られてロール60として回収される。
【実施例】
【0075】
以下、実施例を示して本発明について具体的に説明する。ただし、本発明は以下に示す実施例に限定されるものではなく、本発明の特許請求の範囲及びその均等の範囲を逸脱しない範囲において任意に変更して実施しうる。
【0076】
以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、別に断らない限り、重量基準である。また、以下に説明する操作は、別に断らない限り、常温及び常圧の条件において行った。
【0077】
[評価方法]
(ガラス転移温度Tgおよび融点Tmの測定方法)
窒素雰囲気下で300℃に加熱した試料を液体窒素で急冷し、示差走査熱量計(DSC)を用いて、10℃/分で昇温して試料のガラス転移温度Tgおよび融点Tmをそれぞれ求めた。
【0078】
(重合体の水素添加率の測定方法)
重合体の水素添加率は、オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、145℃で、1H-NMR測定により測定した。
【0079】
(重合体のラセモ・ダイアッドの割合の測定方法)
オルトジクロロベンゼン-d4を溶媒として、200℃で、inverse-gated decoupling法を適用して、重合体の13C-NMR測定を行った。この13C-NMR測定の結果から、オルトジクロロベンゼン-d4の127.5ppmのピークを基準シフトとして、メソ・ダイアッド由来の43.35ppmのシグナルと、ラセモ・ダイアッド由来の43.43ppmのシグナルとを同定した。これらのシグナルの強度比に基づいて、重合体のラセモ・ダイアッドの割合を求めた。
【0080】
(フィルムの熱寸法変化率の測定方法)
室温23℃の環境下で、フィルムを150mm×150mmの大きさの正方形に切り出し、試料フィルムとした。正方形の各辺は、フィルムの搬送方向又は幅方向に沿うようにした。この試料フィルムを、145℃のオーブン内で1時間加熱し、23℃(室温)まで冷却した後、試料フィルムの四辺の長さを測定した。
【0081】
測定された四辺それぞれの長さを基に、下記式(I)に基づいて、試料フィルムの熱寸法変化率を算出した。式(I)において、LAは、加熱後の試料フィルムの辺の長さを示す。
熱寸法変化率(%)=[(LA-150)/150]×100 (I)
【0082】
そして、フィルムの搬送方向に沿った2辺の熱寸法変化率の計算値の中で、絶対値が最大となる値を、フィルムの搬送方向(MD)の熱寸法変化率として採用した。また、フィルムの幅方向に沿った2辺の熱寸法変化率の計算値の中で、絶対値が最大となる値を、フィルムの幅方向(TD)の熱寸法変化率として採用した。
【0083】
(フィルムの平面性)
製造された樹脂フィルムを目視で観察し、樹脂フィルムの凹凸の有無により、平面性を評価した。評価基準は下記のとおりである。
A:凹凸が観察されない。
B:凹凸がわずかに観察される。
C:フィルム全体に凹凸が観察される。
【0084】
(トリミング後の樹脂フィルム端部の状態)
得られた樹脂フィルムの両端部をカッターによりトリミングし、トリミング後の樹脂フィルム端部の状態を目視により観察し、評価した。評価基準は下記のとおりである。
A:端部にクラック及びうねりが生じていない。かつ、端部に細かい糸状のくず(ケバ)が付着していない。
B:端部にクラック又はケバが生じていないが、うねりが僅かに生じている。
C:端部にクラック、著しいうねり、及び/又はケバが生じている。
【0085】
[製造例1]
(1-1.樹脂ペレットの用意)
金属製の耐圧反応器を、充分に乾燥した後、窒素置換した。この金属製耐圧反応器に、シクロヘキサン154.5部、ジシクロペンタジエン(エンド体含有率99%以上)の濃度70%シクロヘキサン溶液42.8部(ジシクロペンタジエンの量として30部)、及び1-ヘキセン1.9部を加え、53℃に加温した。
【0086】
テトラクロロタングステンフェニルイミド(テトラヒドロフラン)錯体0.014部を0.70部のトルエンに溶解した溶液に、濃度19%のジエチルアルミニウムエトキシド/n-ヘキサン溶液0.061部を加えて10分間攪拌して、触媒溶液を調製した。
この触媒溶液を耐圧反応器に加えて、開環重合反応を開始した。その後、53℃を保ちながら4時間反応させて、ジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液を得た。
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の数平均分子量(Mn)及び重量平均分子量(Mw)は、それぞれ、8,750および28,100であり、これらから求められる分子量分布(Mw/Mn)は3.21であった。
【0087】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部に、停止剤として1,2-エタンジオール0.037部を加えて、60℃に加温し、1時間攪拌して重合反応を停止させた。ここに、ハイドロタルサイト様化合物(協和化学工業社製「キョーワード(登録商標)2000」)を1部加えて、60℃に加温し、1時間攪拌した。その後、濾過助剤(昭和化学工業社製「ラヂオライト(登録商標)#1500」)を0.4部加え、PPプリーツカートリッジフィルター(ADVANTEC東洋社製「TCP-HX」)を用いて吸着剤と溶液を濾別した。
【0088】
濾過後のジシクロペンタジエンの開環重合体の溶液200部(重合体量30部)に、シクロヘキサン100部を加え、クロロヒドリドカルボニルトリス(トリフェニルホスフィン)ルテニウム0.0043部を添加して、水素圧6MPa、180℃で4時間水素化反応を行なった。これにより、ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物を含む反応液が得られた。この反応液は、水素添加物が析出してスラリー溶液となっていた。
【0089】
前記の反応液に含まれる水素添加物と溶液とを、遠心分離器を用いて分離し、60℃で24時間減圧乾燥して、結晶性を有するジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物28.5部を得た。この水素添加物の水素添加率は99%以上、ガラス転移温度Tgは93℃、融点(Tm)は262℃、ラセモ・ダイアッドの割合は89%であった。
【0090】
得られたジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物100部に、酸化防止剤(テトラキス〔メチレン-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート〕メタン;BASFジャパン社製「イルガノックス(登録商標)1010」)1.1部を混合して、フィルムの材料となる樹脂を得た。
【0091】
前記の樹脂を、内径3mmΦのダイ穴を4つ備えた二軸押出機(東芝機械社製「TEM-37B」)に投入した。前記の二軸押出機によって、樹脂を熱溶融押出成形によりストランド状の成形体に成形した。この成形体をストランドカッターにて細断して、樹脂のペレットを得た。前記の二軸押出機の運転条件を、以下に示す。
・バレル設定温度:270℃~280℃
・ダイ設定温度:250℃
・スクリュー回転数:145rpm
・フィーダー回転数:50rpm
【0092】
(1-2.原反フィルムの製造)
引き続き、得られたペレットを、Tダイを備える熱溶融押出しフィルム成形機に供給した。このフィルム成形機を用いて、前記の樹脂からなる長尺の原反フィルム(幅500mm)を、所定のロール速度でロールに巻き取る方法にて製造した。ロールの速度は、原反フィルムの厚みが30μmとなるように調整した。
前記のフィルム成形機の運転条件を、以下に示す。
・バレル温度設定:280℃~290℃
・ダイ温度:270℃
・スクリュー回転数:30rpm
【0093】
[製造例2]
結晶性のポリエチレンテレフタレート(PET)樹脂フィルム(東レ社製、「ルミラーT60」、厚み100μm、ガラス転移温度Tg:76℃、融点263℃)を用意した。
前記PET樹脂フィルムを粉砕機にて細かく粉砕して得られた樹脂を用いて、製造例1の(1-2.原反フィルムの製造)と同様にして、PET樹脂からなる長尺の原反フィルム(幅500mm)を得た。ロールの速度は、原反フィルムの厚みが100μmとなるように調整した。
【0094】
[実施例1]
製造例1で得られた原反フィルムを、
図2に示す製造装置100を用いて処理することにより、樹脂フィルムを得た。
ここで、製造装置100の各ゾーンの温度を、樹脂のガラス転移温度Tg≦T22<T21<T1となるよう、下記のとおりに設定した。
延伸ゾーン加熱部31の温度:Tg+35℃
第一加熱部32の温度(T1):Tg+75℃
第二加熱部33の温度(T21):Tg+65℃
第三加熱部34の温度(T22):Tg+30℃
冷却部35の温度(T3):Tg-45℃
【0095】
延伸ゾーン150において、ガイドレール120R及びガイドレール120Lとの間隔を、横延伸倍率が1.5倍となるように調整した。
【0096】
また、各ゾーンにおいて、縮小率が下記の関係を満たすように、ガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔を調整した。
0<0.5%<X2<X3<X4<5%
【0097】
得られた樹脂フィルムについて、前記の方法により熱寸法変化率及び平面性を評価した。さらに、前記の方法により、得られた樹脂フィルムの長手方向両端部をトリミングしてから、両端部の性状を評価した。
【0098】
[実施例2]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
・第二熱処理ゾーン170及び第三熱処理ゾーン180において、縮小率が下記の関係を満たすように、ガイドレール120R及びガイドレール120Lの間隔を調整した。
X2=X3=0、0.1%<X4<2%
得られた樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価した。
【0099】
[実施例3]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
・製造例1で得られた原反フィルムの代わりに、製造例2で得られた原反フィルムを用いた。
・製造装置100の各ゾーンの温度を、樹脂のガラス転移温度Tg≦T22<T21<T1となるよう、下記のとおりに設定した。
延伸ゾーン加熱部31の温度:Tg+25℃
第一加熱部32の温度(T1):Tg+110℃
第二加熱部33の温度(T21):Tg+95℃
第三加熱部34の温度(T22):Tg+40℃
冷却部35の温度(T3):Tg-25℃
得られた樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価した。
【0100】
[比較例1]
下記事項を変更した以外は、実施例1と同様にして、樹脂フィルムを得た。
・製造装置100の代わりに、製造装置100において、冷却ゾーン190を備えず、第三熱処理ゾーン180に出口部140が直結している製造装置を用いた。この製造装置では、第三熱処理ゾーン180を通過した延伸フィルム40は、冷却ゾーンを経ずに、把持子110R及び110Lから直ちに解放される。
得られた樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価した。
【0101】
[比較例2]
下記事項を変更した以外は、実施例2と同様にして、樹脂フィルムを得た。
・製造装置100の代わりに、製造装置100において、冷却ゾーン190を備えず、第三熱処理ゾーン180に出口部140が直結している製造装置を用いた。この製造装置では、第三熱処理ゾーン180を通過した延伸フィルム40は、冷却ゾーンを経ずに、把持子110R及び110Lから直ちに解放される。
得られた樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価した。
【0102】
[比較例3]
下記事項を変更した以外は、実施例3と同様にして、樹脂フィルムを得た。
・製造装置100の代わりに、製造装置100において、冷却ゾーン190を備えず、第三熱処理ゾーン180に出口部140が直結している製造装置を用いた。この製造装置では、第三熱処理ゾーン180を通過した延伸フィルム40は、冷却ゾーンを経ずに、把持子110R及び110Lから直ちに解放される。
得られた樹脂フィルムについて、実施例1と同様にして評価した。
【0103】
[結果]
以上の結果を下表に示す。
下表において、略号は下記の意味を表す。
COP:ジシクロペンタジエンの開環重合体の水素添加物から形成された原反フィルム
PET:PETから形成された原反フィルム
X2:第二熱処理ゾーン170の縮小率
X3:第三熱処理ゾーン180の縮小率
フィルム端部:トリミング後の樹脂フィルム端部の状態
【0104】
【0105】
以上の結果より、以下の事項が分かる。
冷却ゾーンを有する製造装置により製造された実施例1~3に係る樹脂フィルムは、平面性及びフィルム端部の性状が良好である。一方、冷却ゾーンを有さない製造装置により製造された比較例1~3に係る樹脂フィルムは、平面性及びフィルム端部の性状が不良である。すなわち、延伸フィルムを保持具により保持しながら温度T3で冷却する工程(C)を含む製造方法によれば、平面性及びフィルム端部の性状に優れた樹脂フィルムが得られる。
また、比較例1に対する実施例1の熱寸法変化率の値、比較例2に対する実施例2の熱寸法変化率の値、比較例3に対する実施例1の熱寸法変化率の値は、いずれも小さい。すなわち、製造方法が工程(C)を含むことにより、工程(C)を含まない製造方法と比較して、熱寸法変化率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。
【0106】
さらに、実施例1に係る樹脂フィルムは、実施例2に係る樹脂フィルムと比較して、熱寸法変化率が小さい。実施例1に係る樹脂フィルムは、冷却ゾーンと、第一熱処理ゾーンとの間に、保持具間の距離の縮小率が0以上である第二熱処理ゾーン及び第三熱処理ゾーンが設けられた製造装置により製造されている。一方、実施例2に係る樹脂フィルムは、保持具間の距離の縮小率が0である第二熱処理ゾーン及び第三熱処理ゾーンが設けられた製造装置により製造されている。
すなわち、工程(B)を、延伸フィルムの幅方向における保持具間の距離を縮小させながら行うことにより、熱寸法変化率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。
また、工程(B)が、工程(B1)及び工程(B2)を含むことにより、熱寸法変化率の小さい樹脂フィルムを得ることができる。
【符号の説明】
【0107】
1 :延伸フィルム
2R :第一の保持具
2L :第二の保持具
3R :軌跡
3L :軌跡
10 :ロール
20 :原反フィルム
21 :端部
30 :オーブン
31 :延伸ゾーン加熱部
32 :第一加熱部
33 :第二加熱部
34 :第三加熱部
35 :冷却部
40 :延伸フィルム
50 :樹脂フィルム
60 :ロール
100 :製造装置
110L :把持子(保持具)
110R :把持子(保持具)
120L :ガイドレール
120R :ガイドレール
130 :入口部
140 :出口部
150 :延伸ゾーン
160 :第一熱処理ゾーン
170 :第二熱処理ゾーン
180 :第三熱処理ゾーン
190 :冷却ゾーン
200 :搬送装置
MD :搬送方向
MD1 :搬送方向