(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】ポジ型レジスト組成物、レジスト膜形成方法、及び積層体の製造方法
(51)【国際特許分類】
G03F 7/039 20060101AFI20230711BHJP
G03F 7/38 20060101ALI20230711BHJP
G03F 7/004 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G03F7/039 501
G03F7/38 501
G03F7/004 501
(21)【出願番号】P 2019569017
(86)(22)【出願日】2019-01-21
(86)【国際出願番号】 JP2019001684
(87)【国際公開番号】W WO2019151019
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018017605
(32)【優先日】2018-02-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100174001
【氏名又は名称】結城 仁美
(72)【発明者】
【氏名】星野 学
【審査官】塚田 剛士
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第99/062964(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G03F 7/004 - 7/18
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポジ型レジスト組成物を用いて、レジスト膜を形成するレジスト膜形成方法であって、
前記ポジ型レジスト組成物を被加工物上に塗布する塗布工程と、
前記塗布されたポジ型レジスト組成物を加熱するプリベーク工程と、
を含み、
前記プリベーク工程における加熱を、下記式(1)を満たす温度P(℃)及び時間t(分間)で行い、ここで、温度Pは、170℃未満であり、
前記ポジ型レジスト組成物は、重合体と溶剤とを含むポジ型レジスト組成物であって、前記重合体がα-クロロアクリル酸エステル単位及びα-アルキルスチレン単位を含有し、且つ、分子量が70000超の成分の割合が90%以上であり、前記溶剤がシクロペンタノン、3-メトキシプロピオン酸メチル、及びクロトン酸メチルから選択される少なくとも一種を含む、
レジスト膜形成方法。
-0.4P+52≦t・・・(1)
【請求項2】
前記重合体の、分子量が80000超の成分の割合が80%以上である、請求項1に記載の
レジスト膜形成方法。
【請求項3】
前記時間tが1分間超30分間以下である、請求項
1又は2に記載のレジスト膜形成方法。
【請求項4】
基板と、該基板上に形成された遮光層と、該遮光層上に形成されたレジスト膜とを備える積層体を製造する積層体の製造方法であって、前記レジスト膜を請求項
1~3の何れかに記載のレジスト膜形成方法により形成する、積層体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ポジ型レジスト組成物、レジスト膜形成方法及び積層体の製造方法に関し、特に、ポジ型レジスト組成物、該ポジ型レジスト組成物を用いたレジスト膜形成方法、及び該レジスト膜形成方法を用いた積層体の製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、半導体製造等の分野において、電子線や極端紫外線(EUV)などの電離放射線や紫外線などの短波長の光(以下、電離放射線と短波長の光とを合わせて「電離放射線等」と称することがある。)の照射により主鎖が切断されて現像液に対する溶解性が増大する重合体が、主鎖切断型のポジ型レジストとして使用されている。
【0003】
そして、例えば特許文献1には、高感度な主鎖切断型のポジ型レジストとして、α-メチルスチレン単位とα-クロロアクリル酸メチル単位とを含有するα-メチルスチレン・α-クロロアクリル酸メチル共重合体よりなるポジ型レジストが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、レジスト膜の形成プロセスでは、ポジ型レジスト組成物を被加工物上に塗布して形成した塗膜を加熱するプリベーク工程を行う。プリベーク工程で加熱されたレジスト膜中に含まれる重合体は、加熱により分子量が小さくなることがある。この場合、形成されたレジスト膜中に、所望形状のパターンを形成出来ないことがあった。かかる点に対する対処として、比較的分子量の大きい重合体をポジ型レジスト組成物に配合することが検討されてきた。
【0006】
しかし、特許文献1に記載されたような組成を有する、比較的大分子量の重合体を、アニソールのような、従来から一般的に用いられてきた溶剤に対して溶解して得たポジ型レジスト組成物は、塗工性の点で改善の余地があった。
また、近年、被加工物となり得る材料が多様化している。これらの中には、高熱に曝されることで劣化又は変質し易い材料も含まれている。従って、プリベーク工程における加熱温度及び加熱時間、即ち、プリベーク条件を低温領域側に拡大することが求められている。換言すれば、比較的低い加熱温度でプリベーク工程を実施した場合であってもレジスト膜と被加工物との密着性を充分に高めることができる、ポジ型レジスト組成物が必要とされている。
【0007】
そこで、本発明は、例えば、170℃未満といった、比較的低温側の温度範囲でプリベーク工程を行った場合であってもレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができると共に、塗工性に優れる、ポジ型レジスト組成物を提供することを目的とする。
また、本発明は、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができるレジスト膜形成方法を提供することを目的とする。
さらに、本発明は、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と遮光層との密着性が高い、積層体の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意検討を行った。そして、本発明者は、所定の単量体単位を有し、且つ分子量が70000超の成分の割合が90%以上である所定の重合体と、所定の溶剤とを含む主鎖切断型のポジ型レジスト組成物によれば、従来のポジ型レジスト組成物のプリベーク温度よりも低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施して得たレジスト膜と被加工物との密着性が高いことを見出した。さらに、本発明者は、かかるポジ型レジスト組成物は、塗工性にも優れることを見出した。本発明者は、これらの新たな知見に基づき、本発明を完成させた。
【0009】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のポジ型レジスト組成物は、重合体と溶剤とを含むポジ型レジスト組成物であって、前記重合体がα-クロロアクリル酸エステル単位及びα-アルキルスチレン単位を含有し、且つ、分子量が70000超の成分の割合が90%以上であり、前記溶剤がシクロペンタノン、3-メトキシプロピオン酸メチル、及びクロトン酸メチルから選択される少なくとも一種を含む、ことを特徴とする。
所定の単量体単位を有する所定の分子量分布の重合体と、所定の溶剤とを含むポジ型レジスト組成物は、塗工性に優れ、且つ、かかるポジ型レジスト組成物を用いて、従来のポジ型レジスト組成物のプリベーク温度よりも低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施して得たレジスト膜と被加工物との密着性が高い。
【0010】
また、本発明のポジ型レジスト組成物は、前記重合体の、分子量が80000超の成分の割合が、80%以上であることが好ましい。分子量が80000超の成分の割合が80%以上であれば、得られるレジスト膜における重合体の分子量の低減を効果的に抑制することができる。
【0011】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明のレジスト膜形成方法は、上述したポジ型レジスト組成物の何れかを用いてレジスト膜を形成するレジスト膜形成方法であって、前記ポジ型レジスト組成物を被加工物上に塗布する塗布工程と、前記塗布されたポジ型レジスト組成物を加熱するプリベーク工程と、を含み、前記プリベーク工程における加熱を、下記式(1)を満たす温度P(℃)及び時間t(分間)で行う、ことを特徴とする。
-0.4P+52≦t・・・(1)
所定の単量体単位を有する所定の重合体を主鎖切断型のポジ型レジストとして用いて、所定条件でプリベーク工程を行うと、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
【0012】
ここで、本発明のレジスト膜形成方法は、前記時間tが1分間超30分間以下であることが好ましい。プリベーク工程における加熱において、前記時間tが1分間超30分間以下であれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性をより確実に向上させることができる。
【0013】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の積層体の製造方法は、基板と、該基板上に形成された遮光層と、該遮光層上に形成されたレジスト膜とを備える積層体の製造方法であって、前記レジスト膜が上述したレジスト膜形成方法の何れかにより形成されることを特徴とする。上述したレジスト膜形成方法の何れかによりレジスト膜を形成すれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と遮光層との密着性が高い積層体を得ることができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明のポジ型レジスト組成物は、従来のポジ型レジスト組成物のプリベーク温度よりも低温側の温度範囲で、プリベーク工程を行って形成されたレジスト膜と被加工物との密着性に優れると共に、塗工性に優れる。
また、本発明のレジスト膜形成方法によれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
また、本発明の積層体の製造方法によれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と遮光層との密着性を向上させることができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明のポジ型レジスト組成物を用いたレジスト膜形成方法におけるプリベーク工程での温度P(℃)と時間t(分間)との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明のポジ型レジスト組成物は、本発明のレジスト膜形成方法に用いることができる。本発明のレジスト膜形成方法は、例えば、ビルドアップ基板などのプリント基板の製造プロセスにおいてレジストパターンを形成する際に用いられるレジスト膜を形成することができる。そして、本発明の積層体の製造方法は、例えば、ビルドアップ基板などのプリント基板の製造プロセスにおいてレジストパターンを形成する際に用いられる積層体を製造することができる。
なお、本発明のポジ型レジスト組成物に含まれる重合体は、電子線やEUV(Extreme ultraviolet)レーザーなどの電離放射線や紫外線などの短波長の光の照射により重合体の主鎖が切断されて低分子量化する、主鎖切断型のポジ型レジストとして良好に使用することができる。
【0017】
(ポジ型レジスト組成物)
本発明のポジ型レジスト組成物(以下、単に「レジスト組成物」とも称する。)は、重合体と、溶剤とを含み、任意に、レジスト組成物に配合され得る既知の添加剤を更に含有する。そして、本発明のポジ型レジスト組成物は、後述の重合体を含有しているので、後述の条件でプリベークすれば、密着性を向上させることができ、重合体の分子量低下を抑制することができる。
なお、ポジ型レジスト組成物の固形分濃度としては、1質量%以上が好ましく、2質量%以上がより好ましく、20質量%以下が好ましく、15質量%以下がより好ましい。
【0018】
<重合体>
重合体は、単量体単位(繰り返し単位)としてα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を含有するα-アルキルスチレン・α-クロロアクリル酸エステル共重合体である。なお、重合体における、α-アルキルスチレン単位の割合は、特に限定されることなく、例えば30mol%以上70mol%以下とすることができる。また、重合体における、α-クロロアクリル酸エステル単位の割合は、特に限定されることなく、例えば30mol%以上70mol%以下とすることができる。なお、重合体は、α-クロロアクリル酸エステル単位及びα-アルキルスチレン単位以外の任意の単量体単位を含んでいてもよいが、重合体を構成する全単量体単位中でα-クロロアクリル酸エステル単位及びα-アルキルスチレン単位が占める割合が、合計で90mol%以上であることが好ましく、実質的に100mol%であることがより好ましく、100mol%(即ち、重合体はα-クロロアクリル酸エステル単位及びα-アルキルスチレン単位のみを含む)であることがさらに好ましい。
そして、重合体は、α位にクロロ基(-Cl)を有するα-クロロアクリル酸エステルに由来する構造単位(α-クロロアクリル酸エステル単位)を含んでいるので、電離放射線等(例えば、電子線、KrFレーザー、ArFレーザー、EUVレーザーなど)が照射されると、主鎖が容易に切断されて低分子量化する。
【0019】
<<α-アルキルスチレン単位>>
重合体が含有するα-アルキルスチレン単位は、α-アルキルスチレンに由来する構造単位である。α-アルキルスチレン単位としては、例えば、α-メチルスチレン単位、α-エチルスチレン単位、α-プロピルスチレン単位、α-ブチルスチレン単位などの炭素数が4以下の直鎖状アルキル基がα炭素に結合しているα-アルキルスチレン単位が挙げられる。中でも、重合体をポジ型レジストとして使用した際の耐ドライエッチング性を高める観点からは、α-アルキルスチレン単位はα-メチルスチレン単位であることが好ましい。
ここで、共重合体は、α-アルキルスチレン単位として上述した単位を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上有していてもよい。
【0020】
<<α-クロロアクリル酸エステル単位>>
重合体が含有するα-クロロアクリル酸エステル単位は、α-クロロアクリル酸エステルに由来する構造単位である。α-クロロアクリル酸エステル単位としては、例えば、α-クロロアクリル酸メチル単位、α-クロロアクリル酸エチル単位等のα-クロロアクリル酸アルキルエステル単位が挙げられる。中でも、共重合体をポジ型レジストとして使用した際の感度を高める観点からは、α-クロロアクリル酸エステル単位はα-クロロアクリル酸メチル単位であることが好ましい。
ここで、共重合体は、α-クロロアクリル酸エステル単位として上述した単位を1種類のみ有していてもよいし、2種類以上有していてもよい。
【0021】
<<重合体の性状>>
以下、本発明のレジスト膜形成方法に用いられる重合体の性状、即ち、プリベーク工程における加熱前の重合体における「所定の分子量の成分の割合」、「重量平均分子量(Mw)」、数平均分子量(Mn)に対する重量平均分子量(Mw)の比である「分子量分布(Mw/Mn)」について説明する。
なお、本発明において、「重量平均分子量(Mw)」及び「数平均分子量(Mn)」は、ゲル浸透クロマトグラフィーを用いて測定することができる。
【0022】
[所定の分子量の成分の割合]
-分子量が70000超の成分の割合
上述したα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を有する重合体は、分子量が70000超の成分の割合が、90%以上である必要があり、93%以上であることが好ましい。分子量が70000超の成分の割合が、90%以上であれば、かかる重合体を含有するポジ型レジスト組成物を用いて形成したレジスト膜をプリベーク工程で加熱した場合に分子量が低下することを抑制することができる。なお、重合体における分子量が70000超の成分の割合は、100%であっても良い。
-分子量が80000超の成分の割合
さらに、上記重合体は、分子量が80000超の成分の割合が、80%以上であることが好ましく、87%以上であることがより好ましい。分子量が80000超の成分の割合が80%以上であれば、かかる重合体を含有するポジ型レジスト組成物を用いて形成したレジスト膜をプリベーク工程で加熱した場合の分子量の低下を一層効果的に抑制することができる。なお、重合体における分子量が80000超の成分の割合は、100%であっても良い。
なお、上記重合体における分子量が所定値超の成分の割合は、ゲル浸透クロマトグラフィーによって得られるクロマトグラムを使用し、クロマトグラム中のピークの総面積(A)に対するクロマトグラム中の分子量が所定値超の成分のピークの面積の合計(D)の割合(=(D/A)×100%)を算出することにより求めることができる。
【0023】
[重量平均分子量]
そして、上述したα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を有する重合体の重量平均分子量(Mw)は、例えば、10,000以上3,000,000以下、好ましくは20,000以上2,000,000以下、より好ましくは30,000以上1,000,000以下、さらに好ましくは、300,000以上1,000,000以下とすることができる。重合体の重量平均分子量(Mw)が上記上限値以下であれば、レジスト組成物の塗工性を一層高めることができる。また、重合体の重量平均分子量(Mw)が上記下限値以上であれば、過剰に低い照射量でレジスト膜の現像液に対する溶解性を高まることを抑制することができ、得られるレジストパターンの解像度が過度に低下することを抑制することができる。
【0024】
[分子量分布]
そして、上述したα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を有する重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、例えば、2.50以下とすることができる。さらに、重合体の分子量分布(Mw/Mn)は、1.20以上であることが好ましく、1.30以上であることがより好ましく、2.10以下であることが好ましい。重合体の分子量分布(Mw/Mn)が上記下限値以上であれば、重合体の製造容易性を高めることができる。重合体の分子量分布(Mw/Mn)が上記上限値以下であれば、ポジ型レジストとして使用した際に得られるレジストパターンの解像度を高めることができる。
【0025】
<<重合体の調製方法>>
そして、上述したα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を有する重合体は、例えば、α-アルキルスチレンとα-クロロアクリル酸エステルとを含む単量体組成物を重合させた後、任意に得られた重合物を精製することにより調製することができる。
なお、重合体の組成、分子量分布、重量平均分子量及び数平均分子量は、重合条件及び精製条件を変更することにより調整することができる。具体的には、例えば、重合体の組成は、重合に使用する単量体組成物中の各単量体の含有割合を変更することにより調整することができる。また、重量平均分子量及び数平均分子量は、重合温度を高くすれば、小さくすることができる。更に、重量平均分子量及び数平均分子量は、重合時間を短くすれば、小さくすることができる。
【0026】
[単量体組成物の重合]
ここで、本発明の重合体の調製に用いる単量体組成物としては、α-アルキルスチレン及びα-クロロアクリル酸エステルを含む単量体成分と、任意の溶剤と、重合開始剤と、任意に添加される添加剤との混合物を用いることができる。そして、単量体組成物の重合は、既知の方法を用いて行うことができる。中でも、例えば、国際公開第99/62964号に開示されたようなラジカル重合法を用いることが好ましく、中でも乳化重合法を用いることがより好ましい。
【0027】
また、単量体組成物を重合して得られた重合物は、特に限定されることなく、重合物を含む溶液にテトラヒドロフラン等の良溶媒を添加した後、良溶媒を添加した溶液をメタノール等の貧溶媒中に滴下して重合物を凝固させることにより回収することができる。
【0028】
<<重合物の精製>>
なお、得られた重合物を精製する場合に用いる精製方法としては、特に限定されることなく、再沈殿法やカラムクロマトグラフィー法などの既知の精製方法が挙げられる。中でも、精製方法としては、再沈殿法を用いることが好ましい。
なお、重合物の精製は、複数回繰り返して実施してもよい。
【0029】
そして、再沈殿法による重合物の精製は、例えば、得られた重合物をテトラヒドロフラン等の良溶媒に溶解した後、得られた溶液を、メタノール等の貧溶媒、或いは、テトラヒドロフラン等の良溶媒とメタノール等の貧溶媒との混合溶媒等に滴下し、重合物の一部を析出させることにより行うことが好ましい。中でも、所望の性状の生成物を容易に得る観点から、良溶媒に溶解した後に良溶媒及び貧溶媒の混合溶媒に滴下し、重合物を析出させることが好ましい。このように、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中に重合物の溶液を滴下して重合物の精製を行えば、良溶媒及び貧溶媒の種類や混合比率を変更することにより、得られる重合体の分子量分布、重量平均分子量及び数平均分子量を容易に調整することができる。具体的には、例えば、混合溶媒中の良溶媒の割合を高めるほど、混合溶媒中で析出する重合体の分子量を大きくすることができる。
【0030】
なお、再沈殿法により重合物を精製する場合、前記重合体としては、良溶媒と貧溶媒との混合溶媒中で析出した重合物を用いてもよいし、混合溶媒中で析出しなかった重合物(即ち、混合溶媒中に溶解している重合物)を用いてもよい。ここで、混合溶媒中で析出しなかった重合物は、濃縮乾固などの既知の手法を用いて混合溶媒中から回収することができる。
【0031】
さらに、回収した重合物、又は回収後に任意で精製した精製済重合物を、塩酸等の酸を用いて調製した酸性水により洗浄しても良い。酸性水のpHは、例えば、pH6未満であり得る。なお、酸性水による洗浄方法は、特に限定されることなく、例えば国際公開第99/62964号に開示された方法に従うことができる。
【0032】
<溶剤>
溶剤としては、シクロペンタノン(沸点:131℃、表面張力:33.4mN/m)、3-メトキシプロピオン酸メチル(沸点:142℃、表面張力:27.9mN/m)、及びクロトン酸メチル(沸点:118℃、表面張力:25.5mN/m)からなる群より選択される少なくとも1種を含む溶剤を用いることができる。これらは一種単独で、或いは複数種を混合して用いることができる。
上記溶剤を使用することにより、ポジ型レジスト組成物の塗工性を向上させることができる。また、上記溶剤を使用することにより、上述したα-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を有する重合体をポジ型レジストとして用いる場合に、より低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施して形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
中でも、レジスト組成物の塗工性を一層高める観点からは、溶剤が3-メトキシプロピオン酸メチル又はシクロペンタノンを含むことが好ましく、入手容易性及び汎用性の観点からは、溶剤がシクロペンタノンを含むことがより好ましい。また、上述したように、溶剤は、混合物でもよいが、溶剤の回収及び再利用の容易性の観点から、単一の物質からなる単一溶剤であることが好ましい。
【0033】
(レジスト膜形成方法)
本発明のレジスト膜形成方法は、本発明のポジ型レジスト組成物を用いてレジスト膜を形成するレジスト膜形成方法であって、ポジ型レジスト組成物を被加工物上に塗布する塗布工程と、塗布されたポジ型レジスト組成物を、下記式(1)を満たす温度P(℃)及び時間t(分間)で加熱するプリベーク工程と、を含む。
-0.4P+52≦t・・・(1)
なお、式(1)において、t>0である。
【0034】
<塗布工程>
塗布工程では、レジストパターンを利用して加工される基板などの被加工物の上に、上述したポジ型レジスト組成物を塗布する。塗布方法は特に限定されることなく、既知の塗布方法にて行うことができる。
なお、ポジ型レジスト組成物が塗布される被加工物としては、基板であってもよく、また、基板上に遮光層が形成された「マスクブランクス」であってもよい。
【0035】
<プリベーク工程>
プリベーク工程では、塗布したポジ型レジスト組成物を加熱(プリベーク)してレジスト膜を形成する。
ここで、加熱(プリベーク)は、下記式(1)を満たす温度P(℃)及び時間t(分間)で行う。
図1に、式(1)を満たす温度P(℃)と時間t(分間)の範囲を明示する。
図1は、本発明のポジ型レジスト組成物を用いたレジスト膜形成方法におけるプリベーク工程での温度P(℃)と時間t(分間)との関係を示すグラフである。ここで、温度P(℃)及び時間t(分間)が下記式(1)を満たすとは、「
図1のグラフにおいて、温度P(℃)及び時間t(分間)が直線X以上の領域に存在すること」を意味する。これにより、レジスト組成物の塗工性を高めると共に、より低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施した場合のレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
-0.4P+52≦t・・・(1)
【0036】
さらに、温度P(℃)及び時間t(分間)は、下記式(2)を満たすことが好ましい。
-0.25P+37≦t・・・(2)
【0037】
上記式(2)を満たす(
図1のグラフにおいて、温度P(℃)及び時間t(分間)が直線Yに重なるか、直線Yよりも右側に存在すること)温度P(℃)及び時間t(分間)でプリベーク(加熱)を行うと、レジスト組成物の塗工性を高めると共に、より低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施した場合のレジスト膜と被加工物との密着性を高めることとを、一層バランス良く両立することができる。
【0038】
さらに、温度P(℃)は、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性の観点から、100℃以上であることが好ましく、110℃以上であることがより好ましい、また、被加工物及びレジスト膜に与える熱影響を低減する観点から、170℃未満であることが好ましく、150℃以下であることがより好ましい。時間t(分間)は、より低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施して形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を一層向上させる観点から、1分間超であることが好ましく、2分間以上であることがより好ましく、3分間以上であることがさらに好ましく、プリベーク工程前後のレジスト膜における重合体の分子量の変化の低減の観点から、30分間以下であることが好ましく、10分間以下であることがより好ましい。
【0039】
そして、プリベーク工程における加熱による重合体の重量平均分子量の維持率(プリベーク工程における加熱後の重合体の重量平均分子量/プリベーク工程における加熱前の重合体の重量平均分子量)は、95.0%以上であることが好ましい。
【0040】
<レジストパターン形成方法>
レジストパターン形成方法は、(1)上述したレジスト膜形成方法を用いてレジスト膜を形成する工程と、(2)レジスト膜を露光する工程と、(3)露光されたレジスト膜を現像する工程と、を含むことが好ましい。
【0041】
<<露光工程>>
上記工程(2)では、レジスト膜に対して電離放射線や光を照射して所望のパターンを描画する。なお、電離放射線や光の照射には、電子線描画装置やレーザー描画装置などの既知の描画装置を用いることができる。
【0042】
<<現像工程>>
上記工程(3)では、パターンを描写したレジスト膜を現像液と接触させてレジスト膜を現像し、被加工物上にレジストパターンを形成する。ここで、レジスト膜と現像液とを接触させる方法は、特に限定されることなく、現像液中へのレジスト膜の浸漬やレジスト膜への現像液の塗布等の既知の手法を用いることができる。そして、任意に、現像したレジスト膜をリンス液でリンスする。
特に、現像液及びリンス液としては、既知のものを用いることができる。現像液及びリンス液としては、例えば、酢酸アミル、酢酸ブチル、酢酸ヘキシルなどの鎖状アルキル基を有する酢酸エステル;アルコールとアルキル基を有する酢酸エステルとの混合物などを用いることができる。現像液及びリンス液の組合せは、上述した重合体よりなるレジストの溶解性などを考慮し、例えば、レジスト溶解性のより高い溶剤を現像液とし、レジスト溶解性のより低い溶剤をリンス液とすることができる。また、現像液の選定にあたり、上記工程(2)を実施する前のレジスト膜を溶解しない現像液を選択することが好ましい。さらに、リンス液の選定にあたり、現像液と混ざり易いリンス液を選択し、現像液との置換が容易となるようにすることが好ましい。
【0043】
(積層体の製造方法)
本発明の積層体の製造方法は、基板と、該基板上に形成された遮光層と、該遮光層上に形成されたレジスト膜とを備える積層体を製造する積層体の製造方法であって、前記レジスト膜を本発明のレジスト膜形成方法により形成する。
【0044】
<基板>
基板としては、通常、透明基板を用いる。基板の材質としては、例えば、石英、ガラスなどの透明材料が挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、透明性及び耐候性の観点から、石英が好ましい。
基板は、200nm以上300nm以下の波長の光を90%~95%透過する程度の透明性を有することが好ましい。
基板の厚みは、0.5mm以上であることが好ましく、1.0mm以上であることがより好ましく、20mm以下であることが好ましく、15mm以下であることがより好ましい。
【0045】
<遮光層>
遮光層としては、任意の遮光層を用いることができる。中でも、遮光層としては、金属層を備える単層構造または多層構造の遮光層を用いることが好ましい。なお、遮光層を構成し得る金属層以外の層の材質としては、ポリプロピレン、環状ポリオレフィン、ポリ塩化ビニルなどが挙げられる。
金属層の材質としては、例えば、クロム、シリコン、酸化鉄、モリブデンシリサイドなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。これらの中でも、遮光性の観点から、クロムが好ましい。
遮光層の厚みは、5nm以上であることが好ましく、10nm以上であることがより好ましく、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【0046】
<レジスト膜>
レジスト膜は、本発明のレジスト膜形成方法により形成される。これにより、レジスト膜と遮光層との密着性を向上させることができる。
レジスト膜の厚みは、20nm以上であることが好ましく、30nm以上であることがより好ましく、200nm以下であることが好ましく、100nm以下であることがより好ましい。
【実施例】
【0047】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」及び「部」は、特に断らない限り、質量基準である。以下の例にて、「重合体中の所定の分子量の成分の割合」、「重量平均分子量及び分子量分布」、「プリベーク工程を経て形成したレジスト膜と被加工物との密着性」、「ポジ型レジスト溶液の塗工性」、及び「プリベーク工程を経て形成したレジスト膜における重合体の重量平均分子量の維持率」は、それぞれ下記の方法で測定及び評価した。
【0048】
<重合体中の所定の分子量の成分の割合>
ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー社製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、重合体のクロマトグラムを得た。そして、得られたクロマトグラムから、ピークの総面積(A)、分子量が70000超の成分のピークの面積の合計(D7)、分子量が80000超の成分のピークの面積の合計(D8)、を求めた。そして、下記式を用いて各分子量の成分の割合を算出した。
分子量が70000超の成分の割合(%)=(D7/A)×100
分子量が80000超の成分の割合(%)=(D8/A)×100
【0049】
<重量平均分子量及び分子量分布>
測定対象の重合体についてゲル浸透クロマトグラフィーを用いて重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を測定し、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
具体的には、ゲル浸透クロマトグラフ(東ソー社製、HLC-8220)を使用し、展開溶媒としてテトラヒドロフランを用いて、測定対象の重合体の重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)を標準ポリスチレン換算値として求めた。そして、分子量分布(Mw/Mn)を算出した。
【0050】
<プリベーク工程を経て形成したレジスト膜と被加工物との密着性>
形成したレジストパターンの剥がれの有無を観察して、以下の基準に従って、レジスト膜と被加工物との密着性を評価した。レジストパターンの剥がれが無いことは、密着性が良好なことを意味する。
A:レジストパターンの剥がれ無し
B:レジストパターンの剥がれ有り
【0051】
<ポジ型レジスト溶液の塗工性>
重合体の濃度が4質量%であるポジ型レジスト溶液を孔径0.45μmのフィルター(アドバンテック東洋社製、「DISMIC」)で濾過して濾過物を得た。得られた濾過物を、スピンコーター(ミカサ社製、「MS-A150」)を使用し、基板としての直径4インチのシリコンウェハ上に塗布した。なお、塗布は、300rpmで3秒間及び1800rpmで57秒間(室温23℃)の条件で行った。塗布後、さらに、ホットプレートにて180℃で3分間プリベークを行い、レジスト膜を形成した。その後、ポジ型レジスト溶液の塗工性(塗膜性)を、シリコンウェハ上に形成されたレジスト膜表面を目視観察し、以下の基準に従って評価した。結果を表1に示す。なお、本評価にあたり、溶剤としてアニソールを用いた比較例の場合にもレジスト膜の形成を可能として、実施例及び比較例を同条件として塗工性を評価する目的で、180℃といった比較的高い温度でプリベーク工程を実施している。しかし、各実施例にて特定したような溶剤を用いた場合には、レジスト溶液をスピンコート法により良好に塗工することができるとともに、例えば、170℃未満といった比較的低温側の温度範囲でプリベーク工程を行った場合にも、良好に製膜することが可能であった。
<<評価基準>>
A:塗工可能であり、且つ、得られた塗膜に欠陥がない
B:塗工可能であり、且つ、得られた塗膜に許容できるレベルの少量の欠陥がある
C:塗工不良であるか、又は、塗工可能だが得られた塗膜に許容できないレベルの大量の欠陥がある
【0052】
<プリベーク工程を経て形成したレジスト膜における重合体の重量平均分子量の維持率>
ポジ型レジスト組成物の調製に用いた重合体の重量平均分子量MWAを100%としたときのプリベーク工程を経て形成したレジスト膜における重合体の重量平均分子量MWBの割合R(=MWB/MWA×100[%])を算出した。その結果、全ての実施例及び比較例において、用いた重合体について算出したRの値が95%以上であった。これにより、実施例及び比較例でそれぞれ用いた重合体A及びBは、プリベーク工程を経ても分子量がほとんど変化しないことが分かった。
【0053】
(実施例1、実験No.E1-1-1)
<重合体Aの調製>
純水2750部、炭酸ナトリウム3部、KSソープ(花王社製、半硬化牛脂脂肪酸力リ石鹸)をイオン交換水に固形分濃度17.5質量%で溶解して得た溶液225部をセパラブルフラスコに入れ溶解した。単量体としてのα-クロロアクリル酸メチル450部及びα-メチルスチレン1084部を加え、強攪拌して乳化した。フラスコ内を窒素置換した後、亜ジチオン酸ナトリウム0.4部、エチレンジアミン四酢酸鉄ナトリウム三水和物0.15部、エチレンジアミン四酢酸四ナトリウム四水和物0.375部、ナトリウムホルムアルデヒドスルホキシレート0.225部、及びクメンハイドロパーオキサイド0.786部を順に加え、次いで、5℃で48時間攪拌した。2,6-ジ-tert-ブチル-4-メチルフエノール7.5部を加え、反応を停止した後、反応液に14000部のメタノールを滴下し、析出した固形分を濾別した。得られた固形分を8000部のテトラヒドロフラン(THF)に溶解し、得られた溶液を14000部のメタノールに滴下し、析出した固形分を濾別した。さらに、得られた固形分を8000部のTHFに溶解し、得られた溶液を14000部のメ夕ノールに滴下した。析出した固形分を濾別し固形分Aを得た。そして得られた固形分Aを乾燥し、750部のα-メチルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する重合体を得た。重合体は、α-メチルスチレン単位を47mol%、α-クロロアクリル酸メチル単位を53mol%含んでいた。
そして、得られた重合体750部を、9000部のジクロロメタンに溶解し溶液を得た。得られた溶液に対して、0.005Nの塩酸水溶液(pH:2.3)9000部を加えて攪拌し、混合液とした。かかる混合液を静置後、水層をデカンテーションにより除去した。
残ったジクロロメタン層を14000部のメタノールに対して滴下し、析出した固形分を濾別、乾燥して、α-メチルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する重合体Aを740部得た。
そして、重合体Aについて、上記に従って測定したところ、重合体A中の所定の分子量の成分の割合は、分子量が70000超の成分の割合が94.13(%)、及び分子量が80000超の成分の割合が92.53(%)であり、重量平均分子量が342123であり、分子量分布が2.023であった。
<ポジ型レジスト組成物の調製>
上記のように得られた重合体Aを溶剤としてのシクロペンタノンに溶解させ、重合体Aの濃度が2質量%であるレジスト溶液(ポジ型レジスト組成物)を調製した。
【0054】
<レジストパターンの形成>
スピンコーター(ミカサ社製、MS-A150)を使用し、ポジ型レジスト組成物を、直径4インチのマスクブランクス(石英基板(厚み:1.0mm)上にクロム層(厚み:10nm)が形成されたもの)上に塗布した。次いで、塗布したポジ型レジスト組成物を、表1に示したプリベーク条件(温度P[℃]及び時間t[分間])下で加熱して(プリベーク工程)、マスクブランクス上に厚さ50nmのレジスト膜を形成した。そして、得られたレジスト膜における重合体についてゲル浸透クロマトグラフィーを用いて重量平均分子量(Mw)を算出した。上記に従って重合体の重量平均分子量の維持率を評価した。
また、電子線描画装置(エリオニクス社製、ELS-S50)を用いてレジスト膜を最適露光量(Eop)で露光して、パターンを描画した。その後、レジスト用現像液として、酢酸アミルよりなる現像液(日本ゼオン社製、ZED-N50)を用て温度23℃で1分間の現像処理を行った後、イソプロピルアルコールで10秒間リンスして、レジストパターンを形成した。そして、プリベーク工程を経て形成したレジスト膜とマスクブランクスとの密着性を上記に従って評価した。なお、最適露光量(Eop)は、適宜設定した。また、レジストパターンのライン(未露光領域)とスペース(露光領域)は、それぞれ20nmとした。
得られた評価結果を表1に示す。
【0055】
(実施例1、実験No.E1-1-2)
ポジ型レジスト組成物に配合する重合体として、上記重合体Aに代えて、下記に従って調製した重合体Bを用いた以外は、(実施例1、実験No.E1-1-1)と同様にして各種操作及び評価を実施した。結果を表1に示す。
<重合体Bの調製>
<重合体Aの調製>にて記載した手順に従って得られた固形分Aを、8000部のTHFに溶解させ、得られた溶液をTHF及びメタノール(MeOH)の混合溶媒14000部(THF:MeOH=68.5:31.5(質量比))に滴下し、凝固物(α-メチルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する所定性状の重合体)を析出させた。その後、凝固物を含む溶液をキリヤマ漏斗によりろ過し、固形分Bを得た。そして、得られた固形分Bを乾燥した後に、9000部のジクロロメタンに溶解し溶液を得た。得られた溶液に対して、0.005Nの塩酸水溶液(pH:2.3)9000部を加えて攪拌し、混合液とした。かかる混合液を静置後、水層をデカンテーションにより除去した。
残ったジクロロメタン層を14000部のメタノールに対して滴下し、析出した固形分を濾別、乾燥して、α-メチルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸メチル単位を含有する重合体Bを得た。なお、重合体Bは、α-メチルスチレン単位を47mol%、α-クロロアクリル酸メチル単位を53mol%含んでいた。
そして、重合体Bについて、上記に従って測定したところ、重合体B中の所定の分子量の成分の割合は、分子量が70000超の成分の割合、及び分子量が80000超の成分の割合が、共に100.00(%)であり、重量平均分子量が432795であり、分子量分布が1.438であった。
【0056】
(実施例1のその他の実験例、及び比較例1の各種実験例)
<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に配合する重合体、及び、<レジストパターンの形成>の際のプリベーク条件を、表1に従う組み合わせとして、(実施例1、実験No.E1-1-1)と同様の各種操作及び評価を実施した。結果を表1に示す。
【0057】
(実施例2、比較例2)
<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に、溶剤として3-メトキシプロピオン酸メチルを用いた。<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に配合する重合体、及び、<レジストパターンの形成>の際のプリベーク条件を、表2に従う組み合わせとして、(実施例1、実験No.E1-1-1)と同様の各種操作及び評価を実施した。結果を表2に示す。
【0058】
(実施例3、比較例3)
<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に、溶剤としてクロトン酸メチルを用いた。<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に配合する重合体、及び、<レジストパターンの形成>の際のプリベーク条件を、表3に従う組み合わせとして、(実施例1、実験No.E1-1-1)と同様の各種操作及び評価を実施した。結果を表3に示す。
【0059】
(比較例4)
<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に、溶剤としてアニソールを用いた。<ポジ型レジスト組成物の調製>の際に配合する重合体、及び、<レジストパターンの形成>の際のプリベーク条件を、表4に従う組み合わせとして、(実施例1、実験No.E1-1-1)と同様の各種操作及び評価を実施した。結果を表4に示す。
【0060】
(実施例5、比較例5)
実施例1と同様にして調製した重合体A及びB、及び表5に示す各溶剤を用いて、上述した方法に従ってポジ型レジスト溶液の塗工性を評価した。結果を表5に示す。
【0061】
表5において、「Mw」は重量平均分子量を、「Mw/Mn」は分子量分布を、それぞれ示す。
【0062】
【0063】
【0064】
【0065】
【0066】
【0067】
表5より明らかなように、α-アルキルスチレン単位及びα-クロロアクリル酸エステル単位を含有し、且つ、分子量が70000超の成分の割合が90%以上である重合体A及び重合体B、並びに、シクロペンタノン、3-メトキシプロピオン酸メチル、及びクロトン酸メチルから選択される溶剤を含むポジ型レジスト組成物は、塗工性に優れることが分かる。一方、表5より、上記特定の溶剤に代えて、溶剤としてアニソールとした場合には、得られるポジ型レジスト組成物の塗工性が不良であることが分かる。
また、表1~3より明らかなように、上記を満たすポジ型レジスト組成物によれば、170℃未満といった比較的低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施した場合であっても、得られるレジスト膜と、当該レジスト膜が形成された被加工物との間の密着性を向上させることができたことが分かる。
また、表4に示した各比較例4により、上記特定の溶剤を含有しないポジ型レジスト組成物を用いた場合には、170℃未満といった比較的低温側の温度範囲でプリベーク工程を実施して形成されたレジスト膜と被加工物との間での密着性が得られなかったことが分かる。
また、表1~3に示した各比較例によれば、式(1)を充足しないプリベーク条件(温度P及び時間t)を採用したレジスト膜形成方法では、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との間の密着性が得られなかったことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明のポジ型レジスト組成物は、塗工性に優れると共に、比較的低温側の温度範囲でプリベーク工程を行った場合であってもレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
また、本発明のレジスト膜形成方法によれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と被加工物との密着性を向上させることができる。
また、本発明の積層体の製造方法によれば、プリベーク工程を経て形成されたレジスト膜と遮光層との密着性を向上させることができる。