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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】近赤外線遮蔽微粒子の製造方法
(51)【国際特許分類】
   C01G 41/00 20060101AFI20230711BHJP
   G02B 5/22 20060101ALI20230711BHJP
   C09K 3/00 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C01G41/00 B
G02B5/22
C09K3/00 105
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2020028176
(22)【出願日】2020-02-21
(65)【公開番号】P2021130599
(43)【公開日】2021-09-09
【審査請求日】2022-10-05
(73)【特許権者】
【識別番号】000183303
【氏名又は名称】住友金属鉱山株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【弁理士】
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100145872
【弁理士】
【氏名又は名称】福岡 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】若林 正男
【審査官】浅野 昭
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2005/037932(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/031246(WO,A1)
【文献】特開2007-238353(JP,A)
【文献】特開2009-271515(JP,A)
【文献】町田 佳輔 ほか,六方晶タングステンブロンズ微粒子におけるプラズモンとポーラロンの共存,第77回応用物理学会秋季学術講演会 講演予稿集,2016年,P.03-504
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C01G 41/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
タングステン化合物粉末と金属タングステン粉末とを含むタングステン原料粉末と、カリウム化合物粉末を含むカリウム原料粉末との混合物を、還元雰囲気下において500℃以上700℃以下、1時間以上10時間以下で熱処理して、カリウムタングステンブロンズ粉末を製造する工程と、
前記カリウムタングステンブロンズ粉末を粉砕して、近赤外線遮蔽微粒子を製造する工程とを有し、
前記金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対して、前記タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数が12.5個以上37.5個以下となるように、前記タングステン化合物粉末と金属タングステン粉末とを混合して、前記タングステン原料粉末を得ることを特徴とする近赤外線遮蔽微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記カリウムタングステンブロンズ粉末の結晶系が、六方晶であることを特徴とする請求項1に記載の近赤外線遮蔽微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記タングステン化合物粉末およびカリウム原料粉末として、タングステン酸カリウム粉末を用いることを特徴とする請求項1または2に記載の近赤外線遮蔽微粒子の製造方法。
【請求項4】
前記カリウムタングステンブロンズ粉末は、一般式KxWOy(但し、0.2≦x≦0.4、2.0≦y≦2.9)で示されるカリウムタングステンブロンズ粉末であることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の近赤外線遮蔽微粒子の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、カリウムタングステンブロンズ微粒子であって、可視光領域の透過性に優れ、近赤外領域においては吸収をもつ近赤外線遮蔽微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、地球資源の節約および環境負荷の低減の為、自動車や建物の窓には、太陽光中の近赤外線を遮蔽する機能が求められている。これは当該自動車や建物の窓において近赤外線が遮蔽されることにより、自動車内や建物内の温度上昇を低減することが出来、冷房負荷を軽減することが出来るからである。
【0003】
一方、視界の確保や安全性の確保など、窓本来の機能を維持する為、窓材には目に感知される明るさ、即ち可視光透過率が、出来るだけ高いことが求められている。これらの要求に対応して、現状では赤外線を遮蔽するガラスとして、ガラス自体にFe、Ce、Tiなどのイオンを導入して赤外線吸収性を持たせた練り込み型の赤外線吸収ガラス(特許文献1)、アルミなどの金属酸化物膜を蒸着させた赤外線反射ガラス(特許文献2)などが提案され、実用化されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2006-264994号公報
【文献】特開平9-107815号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら本発明者の検討によると、特許文献1に記載の練り込み型の赤外線吸収ガラスは、Feイオン等による赤外線吸収力に限界がある。この為、当該赤外線吸収ガラスの可視光透過率を高くすると赤外線吸収性が低下してしまうという難点があった。
一方、特許文献2に記載の金属酸化物を蒸着させた赤外線反射ガラスも、同様に赤外線吸収力に限界があり、可視光透過率を高くすると赤外線遮蔽性が低下してしまうという難点があった。
【0006】
本発明は、上述の状況の下で為されたものであり、その解決しようとする課題は、可視光領域の透過性に優れながら、近赤外線領域においては高い吸収を発揮する近赤外線遮蔽微粒子の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、可視光領域の透過性に優れ、近赤外線領域において高い吸収を発揮する近赤外線遮蔽材料について鋭意検討した結果、所定の製造方法に拠って製造されたカリウムタングステンブロンズ微粒子が、可視光領域の透過性に優れ、近赤外線領域においては高い吸収を発揮する近赤外線遮蔽微粒子であること、および、当該所定の製造方法に拠れば、当該カリウムタングステンブロンズ微粒子を容易に製造出来ることに想到し、本発明を完成した。
【0008】
即ち、上述の課題を解決するための第1の発明は、
タングステン化合物粉末と金属タングステン粉末とを含むタングステン原料粉末と、カリウム化合物粉末を含むカリウム原料粉末との混合物を、還元雰囲気下において500℃以上700℃以下、1時間以上10時間以下で熱処理して、カリウムタングステンブロンズ粉末を製造する工程と、
前記カリウムタングステンブロンズ粉末を粉砕して、近赤外線遮蔽微粒子を製造する工程とを、有することを特徴とする近赤外線遮蔽微粒子の製造方法である。
【発明の効果】
【0009】
本発明に拠れば、可視光領域の透過性に優れ、近赤外線領域においては高い吸収を発揮する近赤外線遮蔽微粒子を製造することが出来る。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の具体的な実施形態(以下、「本実施の形態」という)について説明するが、本発明は以下の実施形態に何ら限定されるものではなく、本発明の要旨を変更しない範囲において、適宜変更を加えて実施することができる。本実施の形態に係る近赤外線遮蔽微粒子について、(1)近赤外線遮蔽微粒子、(2)近赤外線遮蔽微粒子の製造方法、の順に説明する。
【0011】
(1)近赤外線遮蔽微粒子
本実施の形態に係る近赤外線遮蔽微粒子は、一般式KxWOy(但し、0.2≦x≦0.4、2.0≦y≦2.9)で示され、六方晶の結晶構造を有するカリウムタングステンブロンズ微粒子である。そして、当該近赤外線遮蔽微粒子を、適宜な液体溶媒中に分散させることで当該近赤外線遮蔽微粒子の分散液(液体)を製造することが出来、適宜な固体媒体中に分散させることで分散体(固体)を製造することが出来る。それらはいずれも、可視光領域の透過性に優れ、近赤外線領域においては高い吸収を発揮する。
【0012】
(2)近赤外線遮蔽微粒子の製造方法
本実施の形態に係る近赤外線遮蔽微粒子であるカリウムタングステンブロンズ微粒子は、タングステン原料とカリウム原料との混合物を、還元雰囲気中で熱処理して得ることが出来る。
そして、本発明においてタングステン原料とは、後述する所定のタングステン化合物と元素状のタングステンとを含むものであり、タングステン原料粉末とは、当該タングステン原料の粉末である。
一方、本発明においてカリウム原料とは、後述する所定のカリウム化合物であり、カリウム原料粉末とは、当該カリウム原料の粉末である。
【0013】
以下、本実施の形態に係る近赤外線遮蔽微粒子の原料である〈1〉タングステン化合物、〈2〉元素状のタングステン、〈3〉タングステン原料の調製、〈4〉カリウム原料、について説明し、さらに〈5〉原料の混合、〈6〉熱処理(焼成)、〈7〉粉砕と分散、の各工程について説明する。
【0014】
〈1〉タングステン化合物、
タングステン原料に含まれる所定のタングステン化合物としては、三酸化タングステン、二酸化タングステン、酸化タングステンの水和物、六塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、六塩化タングステン、タングステン酸アンモニウム、タングステン酸カリウム、六塩化タングステン粉末をアルコールに溶解させた後、乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、六塩化タングステン粉末をアルコール中に溶解させた後、水を添加して沈殿させ、当該沈殿物を乾燥して得られるタングステン酸化物の水和物、タングステン酸アンモニウム水溶液を乾燥して得られるタングステン化合物、のいずれかから選択される1種類以上を用いることができる。
上述したタングステン化合物の粉末であるタングステン化合物粉末の粒径は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0015】
さらに、所定のタングステン化合物として、液体のタングステン化合物を用いることも好ましい構成である。これは当該液体のタングステン化合物と、後述するカリウム原料粉末とを、均一に混合することが容易であることによる。当該観点から、所定のタングステン化合物として、タングステン酸アンモニウム水溶液や、六塩化タングステン水溶液を用いることも好ましい。
【0016】
〈2〉元素状のタングステン
本発明においては、元素状のタングステンとして金属タングステンを用い、元素状のタングステン粉末として金属タングステン粉末を用いる。
本発明においてタングステン原料として金属タングステン粉末を用いるのは、タングステン原料とカリウム原料との混合物を、還元雰囲気中で熱処理(焼成)する際に、金属タングステン粉末を還元剤として作用させ、生成するカリウムタングステンブロンズに酸素欠損を付与する観点からである。当該観点から、金属タングステン粉末の粒径は0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0017】
〈3〉タングステン原料の調製
上述したタングステン化合物粉末および金属タングステン粉末を混合して、タングステン原料粉末を調製する。このとき、上述した生成するカリウムタングステンブロンズに適宜な酸素欠損を付与する観点から、金属タングステン粉末由来のタングステン原子の存在比を0.03以上0.07以下としたとき、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の存在比を0.93以上0.97以下とすることが好ましいことが知見された。
【0018】
ここで、金属タングステン粉末とタングステン化合物粉末との混合比率を、金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対する、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数を用いて示す。すると、金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対して、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数が12.5個以上37.5個以下となるように、金属タングステン粉末とタングステン化合物粉末とを混合することが好ましい。より好ましくは金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対して、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数が13個以上33個以下となるように、金属タングステン粉末とタングステン化合物粉末とを混合する。
【0019】
金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対する、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数が12.5個以上であると、後述する熱処理により生成するカリウムタングステンブロンズ粉末中に異相が生じることが無く、当該カリウムタングステンブロンズ粉末の色味が担保出来る為、近赤外領域において高い吸収を発揮することが出来る。
一方、金属タングステン粉末由来のタングステン原子1個に対する、タングステン化合物粉末由来のタングステン原子の個数が37.5個以下であると、カリウムがカリウムタングステンブロンズ中に均一に分散し、近赤外線領域の吸収が担保されるからである。
【0020】
タングステン化合物粉末と金属タングステン粉末の混合方法は、例えば、秤量されたタングステン化合物粉末と、金属タングステン粉末とを乳鉢等の粉砕機に入れ、水を加えてスラリーとし、当該スラリーを乳棒等で混合し粉砕混合物とすればよい。
【0021】
タングステン化合物として液体のタングステン化合物を用いた場合は、秤量されたタングステン化合物液体と、秤量された金属タングステン粉末とを乳鉢等の粉砕機に入れてスラリーとし、当該スラリーを混合し混合物とすればよい。
そして、得られた混合物を大気中100℃で乾燥させて乾燥物とし、得られた乾燥物を乳鉢等の粉砕機で粉砕することで、タングステン原料粉末である粉砕混合物を得る。
【0022】
〈4〉カリウム原料
カリウム原料としては、水素、酸素、炭素から選択される1種以上の元素のみを含むカリウム化合物、または、タングステンとカリウムとの化合物を使用することが出来る。具体的には、炭酸カリウム、炭酸水素カリウム、酸化カリウム、水酸化カリウム、酢酸カリウム、タングステン酸カリウム等を挙げることが出来る。そして、これらの化合物から選択される1種類以上を用いることができる。尚、カリウム原料粉末の粒径は、0.5μm以上10μm以下であることが好ましい。
【0023】
上述したようにタングステン酸カリウムは、カリウム原料であるが、同時にタングステン原料でもある。この為、カリウム原料兼タングステン原料として、タングステン酸カリウムを用いることは、異相のないカリウムタングステンブロンズを得る観点、および、製造工程を簡略化する観点等から好ましい構成である。
【0024】
〈5〉原料の混合
タングステン原料粉末とカリウム原料粉末とを、後述する所定の(カリウム原子数)/(タングステン原子数)比の値となるように、それぞれを秤量し、混合して粉砕することにより粉砕混合物を得る。
【0025】
得られた粉砕混合物において、カリウム原子数は、タングステン原子1個に対して0.2個以上0.4個以下であることが好ましい。カリウム原子数がタングステン原子1個に対して0.2個以上あれば、後述する熱処理により生成するカリウムタングステンブロンズ(粉末)中に異相が生じることが無く、当該カリウムタングステンブロンズの色味が担保出来る為、近赤外領域において高い吸収を発揮することが出来る。また、カリウム原子数がタングステン原子1個に対して0.4個以下であれば、カリウムが、カリウムタングステンブロンズ中に均一に分散し、近赤外線領域の吸収が担保されるからである。
【0026】
タングステン原料粉末とカリウム原料粉末との混合方法は、乾式法または湿式法を用いることができる。
尤も、乾式法に拠れば混合後に乾燥などの工程を必要としないため、容易に混合物を製造することができる。
【0027】
一方、秤量されたタングステン原料粉末とカリウム原料粉末との湿式法に拠る混合は、例えば、秤量された酸化タングステンの水和物(HWO)粉末と、金属タングステン(W)粉末と、炭酸カリウム(KCO)粉末とを乳鉢等の粉砕機に入れ、水または有機溶剤を加えて混合し、混合物とすることで実施する。そして水を加えた場合であれば、得られた混合物を大気中100℃で乾燥させて乾燥物とし、得られた乾燥物を乳鉢等の粉砕機で粉砕し粉砕混合物を得る。
【0028】
尚、湿式法において、前記乳鉢等の粉砕機に加える水または有機溶剤の量は、秤量したHWO粉末と、金属タングステン粉末と、炭酸カリウム粉末とが均一に混合できる量であれば良い。また、水を加えた場合であれば、前記大気中100℃での乾燥時間は、水が蒸発し終える時間であれば良いが、例えば12時間程度が好ましい。
一方、水ではなく、有機溶剤を加えた場合は、当該有機溶剤の性質に応じて乾燥温度、乾燥時間を設定すれば良い。
【0029】
ここで、各原料成分が分子レベルで均一混合した混合物を得る観点からは、上述したように各原料粉末を湿式で粉砕混合することが好ましい。そこで、タングステン原料やカリウム原料としては、水や有機溶媒等の溶媒に溶解可能なものを用いることが好ましい。
【0030】
〈6〉熱処理(焼成)
タングステン原料粉末とカリウム原料粉末との粉砕混合物を、還元雰囲気中で熱処理(焼成)し、カリウムタングステンブロンズの粉末を得る。
具体的には、タングステン原料粉末とカリウム原料粉末との粉砕混合物をルツボ等の容器に充填し電気炉内に入れて、還元雰囲気下において、10℃/min以上20℃/min以下の昇温速度で昇温し熱処理する。この時の還元雰囲気には、不活性ガスと還元性ガスとの混合ガスを用いる。
不活性ガスは特に限定されないが、入手のし易さやコストの観点から窒素ガスが好ましい。一方、還元性ガスは、特に限定されないが水素ガスが好ましい。そして、還元性ガスとして水素ガスを用いる場合は、還元雰囲気の組成として、水素ガスが体積比で0.1%以上あることが好ましく、さらに好ましくは1%以上が良い。水素ガスが体積比で0.1%以上あれば、効率よく還元を進めることができる。熱処理温度は500℃以上700℃以下とすることが好ましい。そして熱処理時間は1時間以上10時間以下とすることが好ましい。
【0031】
〈7〉粉砕と分散
上述した熱処理により生成したカリウムタングステンブロンズ粉末から微細なカリウムタングステンブロンズ微粒子とし、本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子を得る為、当該カリウムタングステンブロンズ粉末へ、分散剤と有機溶剤とを添加した後、湿式粉砕することで、当該有機溶媒中に分散した本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子を得る工程である。
【0032】
添加する分散剤としては、特に制限はなく、カリウムタングステンブロンズ微粒子を分散できる一般的な分散剤を用いることができる。好ましい分散剤の例としては、アミンを含有する基、水酸基、カルボキシル基、或いはエポキシ基を官能基として有する分散剤が挙げられる。これらの官能基は、カリウムタングステンブロンズ微粒子の表面に吸着し、カリウムタングステンブロンズ微粒子の凝集を防ぎ、近赤外線遮蔽膜中で本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子を均一に分散させる効果を持つからである。
【0033】
分散剤の添加量としては、カリウムタングステンブロンズ100質量部に対し、5質量部以上1000質量部以下の範囲であることが好ましく、より好ましくは、20質量部以上500質量部以下の範囲である。上記範囲にあることで、効率的に凝集を防ぐことができ、均一に分散することができる。
好ましい分散剤の具体例として、アミノ基を含有するアクリル系分散剤、カルボシキル基を含有するアクリル-スチレン共重合体分散剤等が挙げられる。ただし分散剤はこれらに限定されるものではない。
アミノ基を含有するアクリル系分散剤は、アミン価が5~100mgKOH/gであることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は2000~200000であることが好ましい。市販品としては、ビックケミージャパン社製Disperbyk(登録商標)(以下同じ)-112、116、130、161、162、164、166、167、168、2001、2020、2050、2070、2150等;味の素ファインテクノ社製アジスパー(登録商標)(以下同じ)PB821、PB822、PB711等;楠本化成社製ディスパロン(登録商標)(以下同じ)1860、DA703-50、DA7400等;エフカアディティブズ社製EFKA(登録商標)(以下同じ)4400、4401、5044、5207、6225、4330、4047、4060等が挙げられる。
また、カルボキシル基を含有するアクリル-スチレン共重合体分散剤は、酸価が0.1~100mgKOH/gであることが好ましく、重量平均分子量(Mw)は、2000~200000であることが好ましい。
【0034】
添加する有機溶剤としては特に制限はなく、後工程である塗布工程や成膜工程にて要求される条件により、適宜に選定出来る。
好ましい有機溶剤の具体例として、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブタノール、ベンジルアルコール、ジアセトンアルコール等のアルコール系溶媒、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、メチルイソブチルケトン(MIBK)、シクロヘキサノン、イソホロン等のケトン系溶媒、プロピレングリコールメチルエーテル、プロピレングリコールエチルエーテル等のグリコール誘導体、フォルムアミド、N-メチルフォルムアミド、ジメチルホルムアミド(DMF)、ジメチルアセトアミド、ジメチルスルフォキシド(DMSO)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。
【0035】
カリウムタングステンブロンズ粉末と分散剤とへ、有機溶剤を添加する際、カリウムタングステンブロンズ粉末5質量部以上15質量部以下と、分散剤5質量部以上15質量部以下とへ、有機溶剤70質量部以上90質量部以下を添加した後に、カリウムタングステンブロンズ粉末の粉砕を行うことで、生成したカリウムタングステンブロンズ微粒子の、有機溶剤への分散を図ることが好ましい。
【0036】
カリウムタングステンブロンズ粉末を粉砕し、カリウムタングステンブロンズ微粒子として有機溶剤中へ分散させる方法は、当該カリウムタングステンブロンズ粉末を粉砕出来、生成したカリウムタングステンブロンズ微粒子を有機溶剤中へ均一に分散出来る方法であれば任意に選択できる。具体的には、ビーズミル分散、ボールミル分散、サンドミル分散、超音波分散などの装置や方法を用いることで、カリウムタングステンブロンズ(粉末)を粉砕出来、生成したカリウムタングステンブロンズ微粒子を均一に有機溶剤中へ分散させることで、本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得ることが出来る。
そして、近赤外線遮蔽微粒子分散液は、各種の用途に適用することも出来るが、有機溶剤を除去することにより、本発明に係る近赤外線遮蔽微粒子を得ることも出来る。
【実施例
【0037】
以下、実施例を参照しながら本発明を具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に何ら限定されるものではない。尚、各実施例における可視光透過率および日射透過率は、日立製作所(株)製の分光光度計U-4000を用いて測定した。
【0038】
(実施例1)
タングステン酸カリウム(KWO)粉末を0.15mol、3酸化タングステン(WO)粉末を0.8mol、金属タングステン(W)粉末を0.05mol秤量し、乳鉢で混合して混合粉末とした。
この結果、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数は19.0個となり、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数は0.3個となった。
以上、実施例1に係るカリウム原料粉末およびタングステン原料粉末の配合を表1に記載し、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数、および、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数を表2に記載する。
【0039】
得られた混合粉末を、5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から600℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、5時間熱処理(焼成)してカリウムタングステンブロンズ粉末を得た。得られたカリウムタングステンブロンズ粉末のXRDスペクトルを測定したところ六方晶であった。
以上、実施例1に係るカリウムタングステンブロンズ粉末の焼処理(焼成)条件および結晶構造を表3に記載する。
【0040】
得られたカリウムタングステンブロンズ粉末10質量%と、アミノ基を含有するアクリル系分散剤10質量%と、有機溶剤としてメチルイソブチルケトン80質量%とを秤量した。これらを、0.3mmφのジルコニアビーズを入れたペイントシェーカーに装填し、5時間の粉砕・分散処理をおこなって、生成したカリウムタングステンブロンズ微粒子を均一に有機溶剤中へ分散させ、実施例1に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
【0041】
得られた実施例1に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液を分光光度用セルに投入し、可視光領域である波長500nm、近赤外線領域である波長1000nmにおいて透過率測定を行った。実施例1に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液の製造条件および光学特性を表2に記載する。
以上、実施例1に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液の、製造時の配合、粉砕条件、および、光学特性を表4に記載する。
【0042】
(実施例2)
タングステン酸カリウム(KWO)粉末を0.1mol、3酸化タングステン(WO)粉末を0.87mol、金属タングステン(W)粉末を0.03mol秤量し、乳鉢で混合して混合粉末とした。
この結果、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数は32.3個となり、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数は0.2個とした以外は、実施例1と同様に操作して、実施例2に係るカリウムタングステンブロンズ粉末を作製した。
【0043】
そして実施例1と同様に操作して、実施例2に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している実施例2に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
実施例2に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
【0044】
以上、実施例2に係る原料粉末の配合を表1に記載し、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数、および、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数を表2に記載し、
そして、実施例2に係るカリウムタングステンブロンズ粉末の焼処理(焼成)条件および結晶構造を表3に記載する。
さらに、実施例2に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液の、製造時の配合、粉砕条件、および、光学特性を表4に記載する。
【0045】
以下同様に、実施例3~7および比較例1から6においても、原料粉末の配合を表1に記載し、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数、および、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数を表2に記載する。
そして、実施例3~7および比較例1から6においても、カリウムタングステンブロンズ粉末の焼処理(焼成)条件および結晶構造を表3に記載する。
さらに、実施例3~7および比較例1から6においても、近赤外線遮蔽微粒子分散液の、製造時の配合、粉砕条件、および、光学特性を表4に記載する。
【0046】
(実施例3)
タングステン酸カリウム(KWO)粉末を0.2mol、3酸化タングステン(WO)粉末を0.73mol、金属タングステン(W)粉末を0.07mol秤量し、乳鉢で混合して混合粉末とした。
この結果、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数は13.3個となり、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数は0.4個とした以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末作製し、さらに、実施例3に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、実施例3に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0047】
(比較例1)
タングステン酸カリウム(KWO)粉末を0.05mol、3酸化タングステン(WO)粉末を0.93mol、金属タングステン(W)粉末を0.02mol秤量し、乳鉢で混合して混合粉末とした。
この結果、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数は49個となり、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数は0.1個とした以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例1に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例1に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0048】
(比較例2)
タングステン酸カリウム(KWO)粉末を0.25mol、3酸化タングステン(WO)粉末を0.67mol、金属タングステン(W)粉末を0.08mol秤量し、乳鉢で混合して混合粉末とした。
この結果、金属タングステン由来のタングステン原子1個に対するタングステン化合物由来のタングステン原子の個数は11.5個となり、タングステン原子1個に対するカリウム原子の個数は0.5個とした以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例2に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例2に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0049】
(実施例4)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から500℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、5時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、実施例4に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、実施例4に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0050】
(実施例5)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から700℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、5時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、実施例5に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、実施例5に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0051】
(比較例3)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から400℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、5時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例3に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例3に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0052】
(比較例4)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から800℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、5時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例4に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例4に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0053】
(実施例6)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から600℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、1時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、実施例6に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、実施例6に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0054】
(実施例7)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から600℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、10時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、実施例7に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、実施例7に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0055】
(比較例5)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から600℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、0.5時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と同様に操作して、カリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例5に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例5に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0056】
(比較例6)
5%水素-95%窒素の雰囲気下で室温から600℃迄、10℃/minの昇温速度で昇温し、11時間熱処理(焼成)した以外は、実施例1と操作して、同様にカリウムタングステンブロンズ粉末を作製し、さらに、比較例6に係る近赤外線遮蔽微粒子が有機溶剤中に均一に分散している近赤外線遮蔽微粒子分散液を得た。
そして、比較例6に係る近赤外線遮蔽微粒子分散液に対し実施例1と同様の測定を行った。
以上の結果を表1~4に記載する。
【0057】
(まとめ)
以上の結果より、本発明を用いることで可視光領域の透過性に優れ、近赤外線領域においては高い吸収を発揮する近赤外線遮蔽微粒子および近赤外線遮蔽微粒子分散液を作製することが可能であることが確認出来た。
【0058】
【表1】
【表2】
【表3】
【表4】