(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】シリコン試料中の酸素濃度測定方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/66 20060101AFI20230711BHJP
G01N 21/3563 20140101ALN20230711BHJP
【FI】
H01L21/66 N
G01N21/3563
(21)【出願番号】P 2020103044
(22)【出願日】2020-06-15
【審査請求日】2022-06-17
(73)【特許権者】
【識別番号】000190149
【氏名又は名称】信越半導体株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100102532
【氏名又は名称】好宮 幹夫
(74)【代理人】
【識別番号】100194881
【氏名又は名称】小林 俊弘
(72)【発明者】
【氏名】藤井 康太
【審査官】平野 崇
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-009793(JP,A)
【文献】特開昭58-206135(JP,A)
【文献】国際公開第2017/002619(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/66
G01N 21/3563
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シリコン試料中の酸素濃度を評価する方法であって、
前記シリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して前記シリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度に基づいて前記シリコン試料中の酸素濃度を評価することを特徴とするシリコン試料中の酸素濃度評価方法。
【請求項2】
前記シリコン試料として、ショットキーダイオード構造のシリコン試料を用いることを特徴とする請求項1に記載のシリコン試料中の酸素濃度評価方法。
【請求項3】
前記シリコン試料としてp型シリコン試料を用い、前記p型シリコン試料中の空孔を含む不純物準位の電子トラップ準位密度を前記光DLTS法により測定することを特徴とする請求項1又は請求項2に記載のシリコン試料中の酸素濃度評価方法。
【請求項4】
前記空孔を含む不純物準位の電子トラップ準位密度は、伝導帯の下端の準位をEcとして、Ec-0.17eVの電子トラップ準位密度であることを特徴とする請求項3に記載のシリコン試料中の酸素濃度評価方法。
【請求項5】
酸素濃度が既知のシリコン試料を予め用意し、前記酸素濃度が既知のシリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して前記酸素濃度が既知のシリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、測定した前記準位密度と前記酸素濃度が既知のシリコン試料中の前記酸素濃度との相関関係を求め、前記相関関係に基づいてシリコン試料中の酸素濃度を評価することを特徴とする請求項1から請求項4のいずれか一項に記載のシリコン試料の酸素濃度評価方法。
【請求項6】
前記酸素濃度が既知のシリコン試料の酸素濃度は、SIMS法もしくはFT-IR法で求めた酸素濃度であることを特徴とする請求項5に記載のシリコン試料中の酸素濃度評価方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリコン試料中の酸素濃度測定方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パワーデバイス、CIS(CMOSイメージセンサー)用基板として用いられるシリコンウェーハでは、高ライフタイム化の要求があり、ライフタイム低下を避けるために低酸素化が求められている。例えば、パワーデバイスでは、チョクラルスキー(CZ)法より低酸素化が可能なフローティングゾーン(FZ)法により製造されたFZシリコンウェーハがよく用いられている。また、CIS用基板では、CZ法により育成されたCZシリコンウェーハ上に、低酸素であるエピタキシャル層を堆積させたエピタキシャルウェーハがよく用いられている。このような低酸素ウェーハの酸素濃度を正確に測定することは非常に重要である。
【0003】
従来の酸素濃度測定方法として、FT-IR法(フーリエ変換赤外分光法)とSIMS法(二次イオン質量分析法)があるが、これらの方法は、酸素濃度が一定の値を下回ると検出感度が悪くなる。その検出下限値は、FT-IR法では0.07(ppma-JEITA)、SIMS法では0.02(ppma)である。
【0004】
ここで、シリコンウェーハ中の不純物濃度を高感度に測定する方法として、DLTS法(過渡容量分光法)がある。例えば、特許文献1にはシリコンウェーハに電子線照射で形成した伝導帯の下端の準位をEcとして、Ec-0.42eVの準位密度をDLTS法にて検出し、この準位密度を指標とした炭素濃度測定方法が開示されている。
【0005】
次にDLTS法について述べる。DLTS法では、例えばショットキー接合を形成する金属電極をシリコン試料表面に形成し、裏面にはオーミック接合を持つ金属電極を形成する。そして、2つの電極間に逆バイアスを印加し、空乏層を拡大させた後、例えば順方向のパルスを与え、空乏層内の不純物準位にキャリアを注入し、不純物準位からのキャリアの放出過程を静電容量変化として評価する。不純物が形成するエネルギー準位に応じた温度で静電容量変化がピークを形成するため、そのピーク位置の静電容量変化から不純物準位密度を算出できる。このように電圧操作により空乏層中にキャリアを注入する方法が、最も一般的な手法である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【非特許文献】
【0007】
【文献】滝川ら、電子通信学会論文誌C 64(1), P.32-38, 1981
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
前述したように、シリコンウェーハ中の酸素濃度測定方法として、FT-IR法とSIMS法があるが、その検出下限値は、FT-IR法では0.07(ppma-JEITA)、SIMS法では0.02(ppma)であり、低酸素濃度で検出感度が悪いという問題があった。
【0009】
上述のように、特許文献1には、Ec-0.42eVの準位密度をDLTS法にて検出し、この準位密度を指標とした炭素濃度測定方法が開示されているが、酸素濃度を測定する方法については開示されていない。
【0010】
また、ショットキーダイオード構造の電圧操作DLTS法は、その原理上、多数キャリア(n型の場合は電子、p型の場合は正孔)の放出過程しか捉えることができず、n型シリコン試料の場合は電子が捕獲される電子トラップ準位、p型シリコン試料の場合は正孔が捕獲される正孔トラップ準位しか評価することはできない。したがって、ショットキーダイオード構造の電圧操作DLTS法では、n型シリコン試料中の電子トラップ準位は検出できるが、p型シリコン試料中の電子トラップ準位を検出することは出来ない。
【0011】
p型シリコン試料にショットキー接合ではなく、pn接合を形成すると、pn接合でもショットキー接合と同様の整流性を得ることができ、また、少数キャリアである電子の放出過程を捉えることができるが、pn接合を形成するには、例えばイオン注入工程やその後の回復熱処理工程が必要であるため、金属を蒸着するだけのショットキー接合形成工程よりも、煩雑でスループットが大変悪い。さらに、イオン注入工程では意図しない不純物準位が形成される、もしくはその後の熱処理工程で目的の空孔を含む不純物準位密度も変化してしまうため、ショットキー接合に代えてpn接合を形成することは、微量の酸素濃度を評価するのには適さない。
【0012】
以上のように、p型シリコン試料中の電子(少数キャリア)トラップ準位を電圧操作DLTS法にて評価するには、pn接合を形成する必要があるが、pn接合工程はショットキー接合形成工程よりも、スループットが大変悪く、さらに意図しない不純物準位も形成されるため、pn接合構造の電圧操作DLTS法であっても問題があった。
【0013】
本発明は、上記問題を解決するためになされたものであり、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度で評価する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
本発明は、上記目的を達成するためになされたものであり、シリコン試料中の酸素濃度を評価する方法であって、前記シリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して前記シリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度に基づいて前記シリコン試料中の酸素濃度を評価するシリコン試料中の酸素濃度評価方法を提供する。
【0015】
このように、光DLTS法でシリコン試料中の酸素濃度を反映する空孔を含む不純物準位密度を測定し、指標とすることで、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度に評価できる。
【0016】
このとき、前記シリコン試料として、ショットキーダイオード構造のシリコン試料を用いることが好ましい。
【0017】
ショットキーダイオードはシリコン試料上に金属を蒸着するだけで形成でき、簡便である。
【0018】
このとき、前記シリコン試料としてp型シリコン試料を用い、前記p型シリコン試料中の空孔を含む不純物準位の電子トラップ準位密度を、前記光DLTS法により測定することが好ましい。
【0019】
このように、多数キャリアが正孔であるp型シリコン試料を用いる場合、p型シリコン試料中の酸素濃度を反映する準位である電子トラップ準位を光DLTS法により測定すれば、p型シリコン試料中の酸素濃度をより高感度で評価することができる。
【0020】
このとき、前記空孔を含む不純物準位の電子トラップ準位密度は、伝導帯の下端の準位をEcとして、Ec-0.17eVの電子トラップ準位密度であることが好ましい。
【0021】
このような準位は空孔酸素複合体に関連する準位であり、この準位密度を指標とすることで、シリコン試料中の酸素濃度をより精度よく評価することができる。
【0022】
このとき、酸素濃度が既知のシリコン試料を予め用意し、前記酸素濃度が既知のシリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して前記酸素濃度が既知のシリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、測定した前記準位密度と前記酸素濃度が既知のシリコン試料中の前記酸素濃度との相関関係を求め、前記相関関係に基づいてシリコン試料中の酸素濃度を評価することが好ましい。
【0023】
光DLTS法にて測定した準位密度と酸素濃度が既知のシリコン試料中の酸素濃度との相関関係を求めることで、シリコン試料中の酸素の絶対濃度を算出することができる。
【0024】
このとき、前記酸素濃度が既知のシリコン試料の酸素濃度は、SIMS法もしくはFT-IR法で求めた酸素濃度であることが好ましい。
【0025】
SIMS法もしくはFT-IR法は、シリコン試料中の酸素濃度が検出下限値以上であれば、精度よく酸素濃度を測定することができるため、相関関係を求めるのに適している。
【発明の効果】
【0026】
以上のように、本発明に係るシリコン試料中の酸素濃度評価方法によれば、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度で評価することができる。また、従来の電圧操作DLTS法では検出できないp型シリコン試料中の微量の酸素濃度を、高感度に測定することができる。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【
図1】本発明に係るシリコン試料中の酸素濃度評価方法の一例を示すフローチャートである。
【
図2】電子線照射処理を施したp型シリコン試料の電圧操作DLTSスペクトルと光DLTSスペクトルを示すグラフである。
【
図3】電子線照射処理を施したn型シリコン試料の電圧操作DLTSスペクトルと電子線照射処理を施したp型シリコン試料の光DLTSスペクトルを示すグラフである。
【
図4】電子線照射処理を施したp型シリコン試料中の電子トラップ準位E1とE2の酸素濃度依存性を示すグラフである。
【
図5】電子線照射処理を施したp型シリコン試料中の正孔トラップ準位H1とH2の酸素濃度依存性を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0028】
以下、本発明を詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0029】
上述のように、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度で評価する方法が求められていた。
【0030】
また、本発明者は、シリコン試料中の酸素濃度と相関がある電子トラップ準位を、多数キャリアが正孔であるp型シリコン試料中から検出し、これを酸素濃度の指標にできないか鋭意検討した。より具体的には、ショットキー接合で少数キャリアトラップ準位を評価できる光DLTS法を用いて、電子線などの粒子線照射で形成された、p型シリコン試料中の酸素濃度と相関がある空孔を含む電子(少数キャリア)トラップ準位を光DLTS法で検出できないか、鋭意検討した。
【0031】
本発明者は、上記課題について鋭意検討を重ねた結果、光DLTS法にて測定されるシリコンの禁制帯幅内の不純物準位の中で、シリコン試料中の酸素濃度が高いほど、準位密度が高くなる電子トラップ準位を検出できることを新たに見出し、本発明を完成した。すなわち、シリコン試料中の酸素濃度を評価する方法であって、前記シリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して前記シリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、前記空孔を含む不純物準位の準位密度に基づいて前記シリコン試料中の酸素濃度を評価するシリコン試料中の酸素濃度評価方法により、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度に評価できることを見出し、本発明を完成した。
【0032】
以下、図面を参照して説明する。
【0033】
まず、光DLTS法について説明する。光DLTS法は、ショットキー接合に対し電圧操作ではなく光を照射させ、空乏層内に多数、少数の両キャリア(電子正孔対)を注入し、その放出過程を捉えることで多数、少数のキャリアトラップ準位を評価する方法である(非特許文献1)。この手法であれば、pn接合不要で少数キャリアトラップ準位を評価できる。
【0034】
図1は、本発明に係るシリコン試料中の酸素濃度評価方法の一例を示すフローチャートである。
【0035】
はじめに、
図1のS1のように、酸素濃度を評価したいシリコン試料を用意する。例えば、CZ法やFZ法により引き上げられたシリコン単結晶インゴットから切り出されたシリコン試料で、形状に制限はなく、数cmのシリコンチップでも構わない。具体的には、ポリッシュドウェーハやエピタキシャルウェーハ、アニールウェーハ等が挙げられる。
【0036】
また、用意するシリコン試料は、p型シリコン試料であることが好ましい。多数キャリアが正孔であるp型シリコン試料を用いる場合、p型シリコン試料中の酸素濃度を反映する準位である電子トラップ準位を光DLTS法により測定すれば、p型シリコン試料中の酸素濃度をより高感度で評価することができる。以下、シリコン試料としてp型シリコン試料を例に説明するが、本発明においてはこれに限定されない。
【0037】
次に
図1のS2のように、p型シリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームの粒子線を照射する。シリコン試料にイオン注入や電子線照射処理を施すと、格子位置のシリコンが弾き出され、空孔と格子間シリコンが生成し、その中でも特に空孔を含む不純物準位が形成されることが一般的に知られている。これらの不純物準位密度は、照射されるシリコン試料中の不純物濃度(例えば酸素や炭素などの濃度)に強く依存することも知られており、これによりシリコン試料中に酸素濃度と相関がある空孔を含む不純物準位を形成させることができる。
【0038】
電子線照射量は、例えば、5.0×1013~5.0×1015/cm2の範囲、イオンビームのドーズ量は、例えば、1.0×1011~1.0×1013(atoms/cm2)の範囲とすることができる。電子線照射量、イオンビームドーズ量ともにこの範囲内にすることで、照射量、ドーズ量が少な過ぎて目的の不純物準位が形成されない等の問題をより有効に防ぐことができる。また、照射量、ドーズ量が多過ぎて結晶格子が乱れることで結晶性が低下し、目的の不純物準位が検出できなくなることをより有効に防ぐことができる。なお、酸素のイオンビームでは、照射される酸素イオンが不純物準位の形成に影響を与えてしまい、評価する酸素濃度に影響が生じるため、酸素以外のイオンビームを用いることとする。
【0039】
次に
図1のS3のように、p型シリコン試料にショットキーダイオード構造を形成する。具体的には、p型シリコン試料の表面に例えばAlを蒸着することでショットキー特性を得ることができる。このショットキー特性には整流性があり、順方向バイアスを印加すると電流が流れ、逆方向バイアスを印加すると、電流が流れず空乏層が拡大する。DLTS法ではこの空乏層内の不純物準位にキャリアを注入し、その放出過程をモニターすることで不純物準位を評価できる。
【0040】
ショットキーダイオード構造はシリコン試料上に金属を蒸着するだけで形成でき、簡便である。ショットキーダイオード構造であれば、煩雑でスループットが大変悪い工程を必要としない。さらに、イオン注入のように意図しない不純物準位が形成されたり、熱処理のように酸素濃度を反映する空孔を含む不純物準位密度が変化したりするような工程を含まないため、微量の酸素濃度を測定するのに適している。
【0041】
次に
図1のS4のように、光DLTS法を用いて空孔を含む不純物準位を測定する。
【0042】
ここで、測定対象をショットキーダイオード構造のp型シリコン試料とすることができること、及び、本発明において、一般的な電圧操作DLTS法ではなく、光DLTS法を用いた理由を、両手法の検出できる不純物準位の範囲を踏まえて説明する。
【0043】
ショットキーダイオードは、pn接合とは異なり、金属と半導体(p型シリコン)の接合で形成され、多数キャリア(p型シリコンでは正孔)のみで動作する。電圧操作DLTS法は、ショットキー接合部に逆バイアスを印加し空乏層を広げた後、順方向のパルスを印加し、空乏層内の不純物準位に多数キャリアのみを注入し、再度逆バイアスを印加した際の不純物準位からの多数キャリアの放出過程を静電容量変化としてモニターすることで、不純物準位を評価する。したがって、電圧操作DLTS法で扱えるキャリアは多数キャリアのみで、少数キャリア(p型シリコンでは電子)は扱えない。つまり、ショットキーダイオード構造の電圧操作DLTS法では、多数キャリアの不純物準位しか検出できず、即ちp型シリコン試料の場合は正孔トラップ準位しか検出できない。このように、ショットキーダイオード構造のp型シリコン試料に電圧操作DLTS法を適用しても、電子(少数キャリア)トラップ準位を評価できない。
【0044】
対して、本発明で用いた光DLTS法とは、逆方向バイアスを印加し拡大した空乏層内に、例えばシリコンの禁制帯幅以上のエネルギーを持つ光を照射し、電子正孔対を形成(注入)させ、電子と正孔の両方の放出過程をモニターし、不純物準位を評価する方法である。例えばショットキーダイオード構造のp型シリコン試料においても、少数キャリアである電子の放出過程を捉えることができるため、電子トラップ準位の評価ができる。なお、このとき照射する光として、シリコンの禁制帯幅以上のエネルギーを持つ光を用いても、禁制帯幅以下のエネルギーを持つ光を用いてもよい。
【0045】
図2は、一例として、p型シリコン試料に加速電圧2(MV)、照射量1.0×10
15/cm
2で電子線照射処理を施した後の、電圧操作DLTSスペクトル及び光DLTSスペクトルを示すグラフである。グラフは多数キャリアトラップ準位を正、少数キャリアトラップ準位を負で示している。通常の電圧操作DLTS法では、正の正孔トラップ準位H1とH2のみが検出されている。対して、光DLTS法では通常の電圧操作DLTS法で検出されているH2の正孔トラップ準位の他に、負の電子トラップ準位E1とE2が検出されている。
【0046】
続いて、
図3には、上述した電子線照射処理を施したp型シリコン試料の光DLTSスペクトルと、同じ条件で電子線照射処理を施したn型シリコン試料の電圧操作DLTSスペクトルを示す。n型の多数キャリア(電子)トラップ準位E1とE2と、p型の少数キャリア(電子)トラップ準位E1とE2のピーク位置が同等であり、このことは光DLTS法の測定の妥当性を示している。このように、光DLTS法では、多数キャリアトラップ準位の他に少数キャリアトラップ準位を検出できる。
【0047】
続いて、これら不純物準位の酸素濃度依存性について説明する。一例として、
図4には、酸素濃度が異なるp型シリコン試料に加速電圧2(MV)、照射量1.0×10
15/cm
2で電子線照射処理を施した後、光DLTS法で得られたE1とE2の酸素濃度依存性を示す。なお、伝導帯の下端の準位をEcとして、E1はEc-0.17eVで酸素空孔複合体に、E2はEc-0.23eVで空孔空孔複合体に関連する準位である。E1、E2どちらも酸素濃度と正の相関を示しており、E1、E2どちらも酸素濃度評価の指標となることが分かる。その中でもE1の方がE2よりも相関係数が良好であることから、E1を指標することがより好ましい。E1の方がE2より酸素濃度との相関性が良いのは、E1(Ec-0.17eV)は空孔酸素複合体であり、シリコン試料中の酸素濃度と最も相関がある準位密度だからである。
【0048】
比較として、
図5には、
図4と同じ水準のp型シリコン試料を電圧操作DLTS法で評価し、H1とH2の準位密度の酸素濃度依存性を示す。H1とH2のどちらも酸素濃度と相関がないことが分かる。したがって、p型シリコン試料中の正孔トラップ準位は酸素濃度の指標に用いることができず、p型シリコン試料中の酸素濃度を評価するには、光DLTS法で酸素濃度と相関がある電子トラップ準位E1もしくはE2を検出する必要がある。
【0049】
最後に
図1のS5のように、p型シリコン試料中の空孔を含む不純物準位E1もしくはE2を指標として、酸素濃度を評価する。E1、E2どちらとも準位密度が低いほど、低酸素濃度であると判断できる。したがって、後述する検量線を用いなくとも、複数水準のサンプル間の酸素濃度の高低の関係を評価することができる。
【0050】
また、光DLTS法により測定した準位密度と、酸素濃度が既知のシリコン試料中の酸素濃度との相関関係を求めることで、複数水準のシリコン試料間の酸素濃度の高低の関係を評価するだけでなく、シリコン試料中の酸素の絶対濃度を算出することができる。具体的には、例えば、酸素濃度が既知のシリコン試料を予め用意し、酸素濃度が既知のシリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して酸素濃度が既知のシリコン試料中に空孔を含む不純物準位を形成し、空孔を含む不純物準位の準位密度を光DLTS法にて測定し、測定した準位密度と酸素濃度が既知のシリコン試料中の酸素濃度との相関関係を求め、相関関係に基づいてシリコン試料中の酸素濃度を評価することができる。上記の酸素濃度が既知のシリコン試料の酸素濃度は、SIMS法もしくはFT-IR法で求めた酸素濃度であることが好ましい。SIMS法やFT-IR法は、シリコン試料中の酸素濃度を精度よく測定することができるため、相関関係を求めるのに適している。
【0051】
従来法のFT-IR法やSIMS法と比較する場合には、例えば、光DLTS法により測定したE1及び/又はE2の準位密度と、SIMS法もしくはFT-IR法で得られた酸素濃度から、
図4のような検量線を作成することが好ましい。この検量線を用いることで、光DLTS法により測定した準位密度をSIMS法やFT-IR法で得られる酸素濃度に換算することができる。SIMS法やFT-IR法は検出下限値以上であれば、精度よく酸素濃度を測定することができるため、検量線を作成するのに適している。また、上述したように酸素濃度との相関性はE1の方が良好であることから、E1を指標とすることがより好ましい。
【0052】
光DLTS法で検出される不純物準位密度では、従来法のFT-IR法やSIMS法の酸素濃度と直接比較することはできないが、このように相関関係を求め、検量線を作成することで、換算して絶対濃度を算出し、比較することができる。
【0053】
以上のように、シリコン試料に電子線又は酸素以外のイオンビームを照射して空孔を含む不純物準位を形成し、光DLTS法により測定した不純物準位の準位密度を用いることで、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である酸素濃度を、簡便かつ高感度に評価することができる。特に、多数キャリアが正孔であるp型シリコン試料を測定する場合であっても、酸素濃度と相関がある少数キャリア(電子)トラップ準位密度を指標とすることで、酸素濃度を高感度に評価することができる。
【実施例】
【0054】
以下、実施例を挙げて本発明について具体的に説明するが、これは本発明を限定するものではない。
【0055】
(実施例)
FZ法で引き上げた酸素濃度が異なるp型シリコン試料1、2、3と、CZ法で引き上げたp型シリコン試料4の計4水準を用意した。次に試料に加速電圧2(MV)、照射量1.0×10
15/cm
2の電子線照射を行った。次いで、フッ酸にて表面の酸化膜を除去し、表面にはショットキー電極としてアルミニウムを蒸着し、裏面にはオーミック電極としてガリウムを刷り込み、ショットキーダイオード構造を形成した。次に、光DLTS法にて、E1(Ec-0.17eV)とE2(Ec-0.23eV)の準位密度を評価した。また、予め作成しておいた
図4の検量線を用いて、準位密度を酸素濃度に換算した。
【0056】
表1は、実施例の光DLTS法で得られたE1(Ec-0.17eV)及びE2(Ec-0.23eV)の準位密度と換算した酸素濃度、及び後述する比較例1の従来法のSIMS法の酸素濃度、比較例2の電圧操作DLTS法で得られた結果を示す表である。
【0057】
【0058】
実施例の結果、表1に示すように、E1とE2の準位密度はどちらも(低)試料1<試料2<試料3<試料4(高)となり、換算した酸素濃度も同じ高低の関係となった。準位密度として、E1とE2のいずれを採用した場合であっても、シリコン試料中の酸素濃度の高低を正確に評価できることがわかる。また、このとき、上述のように第1の指標としてE1(Ec-0.17eV)の準位密度を用いて換算すると、試料1が0.012ppma、試料2が0.027ppma、試料3は0.26ppma、試料4は13.7ppmaと求まった。
【0059】
(比較例1)
続いて、実施例の結果を検証するため、実施例と同水準のシリコン試料の酸素濃度を、SIMS法にて測定した。その結果、表1のようになり、酸素濃度は、(低)試料1<試料2<試料3<試料4(高)となった。
【0060】
実施例と比較例1とを比較すると、試料2、3、4では、実施例と比較例1の酸素濃度が同等であることから、本発明の妥当性が示された。また、試料1は検出下限値0.02ppma以下であったが、上述の実施例では0.012ppmaと求まっていることから、従来法のSIMS法では検出できない微量の酸素濃度を、本発明の手法で評価可能であることが示された。
【0061】
(比較例2)
さらに、実施例の光DLTS法の優位性を検証するため、実施例と同水準のシリコン試料について、電圧操作DLTS法にて多数キャリアである正孔トラップ準位のみを評価した。その結果、
図2で示したH1とH2のみが検出され、酸素濃度と相関がある不純物準位は検出されず、酸素濃度評価ができなかった。
【0062】
以上より、本発明に係るシリコン試料中の酸素濃度評価方法によれば、シリコン試料中の酸素濃度、特にはFT-IR法やSIMS法における検出下限値以下である微量の酸素濃度を、簡便かつ高感度で評価することができることが示された。また、従来の電圧操作DLTS法では検出できないp型シリコン試料中の微量の酸素濃度を、高感度に評価、算出することができることが示された。
【0063】
なお、本発明は、上記実施形態に限定されるものではない。上記実施形態は例示であり、本発明の特許請求の範囲に記載された技術的思想と実質的に同一な構成を有し、同様な作用効果を奏するものは、いかなるものであっても本発明の技術的範囲に包含される。