(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
C07F 7/12 20060101AFI20230711BHJP
C08G 65/336 20060101ALI20230711BHJP
C07B 61/00 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
C07F7/12 X CSP
C08G65/336
C07B61/00 300
(21)【出願番号】P 2020131626
(22)【出願日】2020-08-03
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】川上 雅人
【審査官】谷尾 忍
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2019/088126(WO,A1)
【文献】特開平04-338397(JP,A)
【文献】特開2006-335936(JP,A)
【文献】特開平10-079117(JP,A)
【文献】国際公開第2020/148799(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07F 7/12
C08G 65/336
C07B 61/00
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(1)で表される両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物。
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して非置換の炭素数
2~10の
直鎖状アルケニレン基または分岐状アルケニレン基を表し、R
2は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、Rfは、パーフルオロポリエーテル基を表し、nは、それぞれ独立して0~8の整数である。)
【請求項2】
前記R
1が、それぞれ独立して下記式(4)または(5)で表される基である請求項1記載の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物。
【化2】
【請求項3】
前記Rfが、下記一般式(6)~(9)のいずれかで表される2価の基である請求項1または2記載の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物。
【化3】
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して、1~50の整数であり、cは、1~150の整数である。)
【請求項4】
下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
3は、それぞれ独立して非置換の炭素数2~10の末端不飽和結合を有する
アルキニル基を表し、Rfは、前記と同じ意味を表す。)
で表される両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物と、下記一般式(3)
【化5】
(式中、R
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、pは、0~8の整数である。)
で表されるシラノール基含有ハイドロジェンシラン化合物を、白金触媒存在下で反応させる請求項1~3のいずれか1項記載の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
パーフルオロポリエーテル基は、フッ素原子を多量に含む構成単位である。
このパーフルオロポリエーテル基を有する化合物(以下、「パーフルオロポリエーテル化合物」という。)や、これを含む組成物から得られる被膜や物品は、パーフルオロポリエーテル基に含まれる多量のフッ素原子の効果により、その表面自由エネルギーが非常に小さくなることから、撥水撥油性、潤滑性、離型性、防汚性等を示す。この性質を利用し、パーフルオロポリエーテル化合物は、撥水撥油処理剤、潤滑剤、防油剤、化粧品、保護膜等、幅広い分野で利用されている。
【0003】
主鎖の末端に官能基を有するパーフルオロポリエーテル化合物は、反応性モノマーとの共重合や、反応性樹脂との反応により、パーフルオロポリエーテル骨格を有するポリマーに導くことができる。これにより、ポリマー自体が有する特性に加えて、パーフルオロポリエーテル基に由来する上記特性を付与することができる。このようなパーフルオロポリエーテル化合物として、(メタ)アクリレート、アミン、アルコール、イソシアネート、エポキシ、チオール、ビニル、ハロゲン原子等の官能基を有するパーフルオロポリエーテル化合物がこれまで種々開発されている。
例えば、特許文献1では、原料である末端C-OH構造を有するパーフルオロポリエーテル化合物と、反応性基を有するシランカップリング剤とのエステル交換反応を行い、C-O-Si結合によりパーフルオロポリエーテル化合物とシランカップリング剤を連結し、シランカップリング剤由来の官能基を有するパーフルオロポリエーテル化合物を製造している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかし、特許文献1のパーフルオロポリエーテル化合物中のC-O-Si結合は、水分やアルコールの存在下において、C-OHとRO-Si(Rは、水素原子または炭化水素基)に分解されてしまうことから、耐久性に課題がある。
【0006】
本発明は上記事情に鑑みなされたものであり、反応性ケイ素化合物と反応した場合に、耐久性に優れた化合物を与え得る両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物およびその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決するため鋭意検討した結果、両末端にシラノール基を有し、かつ主鎖にパーフルオロポリエーテル基を含有する両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物が、ケイ素系化合物と組み合わせることにより容易に官能基を導入することができるため、有用合成中間体として使用できること、特に反応性ケイ素化合物と組み合わせることにより、Si-O-Si結合(シロキサン結合)を介して、パーフルオロポリエーテル化合物と反応性ケイ素化合物を結び付けられるため、従来の化合物よりも優れた耐久性を発揮することを見出し、本発明を完成した。
【0008】
すなわち、本発明は、
1. 下記一般式(1)で表される両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物、
【化1】
(式中、R
1は、それぞれ独立して非置換の炭素数1~10の2価炭化水素基を表し、R
2は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、Rfは、パーフルオロポリエーテル基を表し、nは、それぞれ独立して0~8の整数である。)
2. 前記R
1が、それぞれ独立して下記式(4)または(5)で表される基である1の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物、
【化2】
3. 前記Rfが、下記一般式(6)~(9)のいずれかで表される2価の基である1または2の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物、
【化3】
(式中、aおよびbは、それぞれ独立して、1~50の整数であり、cは、1~150の整数である。)
4. 下記一般式(2)
【化4】
(式中、R
3は、それぞれ独立して非置換の炭素数2~10の末端不飽和結合を有する1価炭化水素基を表し、Rfは、前記と同じ意味を表す。)
で表される両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物と、下記一般式(3)
【化5】
(式中、R
4は、それぞれ独立して置換または非置換の炭素数1~10の1価炭化水素基を表し、pは、0~8の整数である。)
で表されるシラノール基含有ハイドロジェンシラン化合物を、白金触媒存在下で反応させる1~3のいずれかの両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物の製造方法
を提供する。
【発明の効果】
【0009】
本発明の両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物は、合成中間体として利用可能である。とりわけ、反応性ケイ素化合物と反応した場合に、アルコールや水に対する耐久性の高い化合物を得ることができる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
【
図1】実施例1で得られた両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物1の
1H-NMRスペクトルである。
【
図2】実施例1で得られた両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物1のIRスペクトルである。
【
図3】実施例2で得られた両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物2を含む反応液の
1H-NMRスペクトルである。
【
図4】実施例2で得られた両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物2含む反応液のIRスペクトルである。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、本発明について具体的に説明する。
本発明に係る両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物(以下、「化合物(1)」という。)は、下記一般式(1)で表される。
【0012】
【0013】
一般式(1)において、Rfは、パーフルオロポリエーテル基を表す(以下、同様)。
パーフルオロポリエーテル基は、特に限定されるものではなく、例えば、下記一般式(6)~(9)のいずれかで表される2価の基が挙げられる。
【0014】
【0015】
一般式(6)~(8)において、aおよびbは、それぞれ独立して、1~50の整数であるが、好ましくは15~40の整数である。
aとbの和は、2≦a+b≦100であるが、好ましくは2≦a+b≦80、より好ましくは10≦a+b≦80、より一層好ましくは30≦a+b≦80、さらに好ましくは15≦a+b≦50である。
一般式(9)において、cは、1~150の整数であるが、好ましくは1~100、より好ましくは5~80の整数である。
【0016】
一般式(1)において、R1は、それぞれ独立して非置換の炭素数1~10、好ましくは1~6、より好ましくは1~3の2価炭化水素基を表す。
R1の2価炭化水素基の具体例としては、メチレン、エチレン、トリメチレン、テトラメチレン、ヘキサメチレン、オクタメチレン、デシレン基等の直鎖状アルキレン基;メチルエチレン、メチルトリメチレン等の分岐状アルキレン基;シクロヘキシレン、メチレンシクロヘキシレンメチレン等の環状アルキレン基;プロペニレン、ブテニレン、ヘキセニレン、オクテニレン等の直鎖状アルケニレン基;イソプロペニレン、イソブテニレン基等の分岐状アルケニレン基;フェニレン等のアリーレン基;メチレンフェニレン、メチレンフェニレンメチレン等のアラルキレン基等が挙げられる。
これらの中でも、原料の調達容易性の観点から、直鎖状アルキレン基、直鎖状アルケニレン基または分岐状アルケニレン基が好ましい。
【0017】
R1の2価炭化水素基としては、特に下記式(4)または(5)で表される基がより好ましく、化合物(1)は、これらの置換基を組み合わせた混合物であってもよい。
【0018】
【0019】
上記R2は、それぞれ独立して、置換または非置換の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6、より好ましくは1~3の1価炭化水素基を表す。
R2の1価炭化水素基の具体例としては、メチル、エチル、n-プロピル、n-ブチル、n-ペンチル、n-ヘキシル、n-へプチル、n-オクチル、デシル基等の直鎖状のアルキル基;イソプロピル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、ネオペンチル、テキシル、2-エチルヘキシル基等の分岐鎖状のアルキル基;シクロペンチル、シクロヘキシル基等の環状アルキル基;ビニル、アリル、プロペニル、ブテニル、ペンテニル基等のアルケニル基;フェニル、トリル基等のアリール基;ベンジル、フェネチル基等のアラルキル基が挙げられる。
【0020】
また、R2の1価炭化水素基は、水素原子の一部または全部がフッ素原子で置換されていてもよい。フッ素原子で置換された1価炭化水素基の具体例としては、(3,3,3-トリフルオロ)プロピル基、(3,3,4,4,5,5,6,6,6)ノナフルオロヘキシル基、(3,3,4,4,5,5,6,6,7,7,8,8,8)-トリデカフルオロオクチル基等のフルオロアルキル基が挙げられる。
【0021】
一般式(1)において、nは、それぞれ独立して0~8、好ましくは1~7、より好ましくは1~3の整数である。
【0022】
R1の2価炭化水素基が、式(4)または(5)で表される置換基を組み合わせた混合物である場合の両者の混合比率は、末端付加と内部付加の比率で表すことができる。具体的には、化合物(1)中のR1の末端の炭素にケイ素が結合した化合物を末端付加とし、R1の末端よりも1つ以上内側の炭素にケイ素が結合した化合物を内部付加として、それぞれの割合を1H-NMRにより求めることができる。
なお、末端付加と内部付加の比率は、生成物の安定性の観点から、好ましくは10:1~1:1、より好ましくは5:1~2:1である。
【0023】
化合物(1)の具体例としては、以下の化合物等が挙げられる。
【0024】
【化9】
(式中、Meは、メチル基を意味する。以下、同様。)
【0025】
【0026】
次に、化合物(1)の製造方法について説明する。
本発明の化合物(1)は、例えば、下記一般式(2)で表される両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物(以下、「化合物(2)」という。)と、下記一般式(3)で表されるシラノール基含有ハイドロジェンシラン化合物(以下、「化合物(3)」という。)を白金触媒存在下で反応させることにより得られる。
【0027】
【化11】
(式中、Rfは、上記と同じ意味を表す。)
【0028】
一般式(2)において、R3は、それぞれ独立して炭素数2~10、好ましくは3~8の末端不飽和結合を有する1価炭化水素基を表す。
R3の1価炭化水素基の具体例としては、ビニル、アリル(プロペニル)、ブテニル、ペンテニル、ヘキセニル、オクテニル、デセニル基等のアルケニル基;フェニレンビニル基;エチニル、プロパルギル等のアルキニル基等が挙げられる。
特に、反応の転換率を高くできる点から、炭素数4~8のアルケニル基、炭素数3~8のアルキニル基が好ましい。
【0029】
化合物(2)の具体例としては、以下の化合物等が挙げられる。
【0030】
【0031】
化合物(2)は、両末端アルコール変性パーフルオロポリエーテルをWilliamsonエーテル化することにより得られる。例えば、両末端アルコール変性パーフルオロポリエーテル化合物と、アルカリ金属またはアルカリ土類金属の水酸化物や、水素化物を反応させて、金属アルコラートを調製した後、ハロゲン化炭化水素化合物と反応させることにより得られる。
【0032】
一般式(3)において、R4は、それぞれ独立して、置換または非置換の、炭素数1~10、好ましくは炭素数1~6の1価炭化水素基を表す。この1価炭化水素基としては、R2と同様の置換基が挙げられる。
pは、0~8の整数であるが、好ましくは1~7、より好ましくは1~5、より一層好ましくは1~3の整数である。
【0033】
化合物(3)の具体例としては、ヒドロキシジメチルシラン、1-ヒドロキシ-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン、1-ヒドロキシ-1,1,3,3,5,5-ヘキサメチルトリシロキサン、1-ヒドロキシ-1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン、1-ヒドロキシ-1,1,3,3,5,5,7,7,9,9,11,11,13,13-テトラデカメチルヘプタシロキサン等が挙げられる。
【0034】
化合物(2)と化合物(3)の配合比は特に限定されないが、化合物(2)が有する不飽和基1モルに対して、化合物(3)が、好ましくは1~2モル、より好ましくは1~1.2モル、より一層好ましくは1~1.05モルである。
【0035】
また、化合物(2)と化合物(3)の反応では、触媒として白金化合物を用いる。
この白金化合物の具体例としては、塩化白金酸、塩化白金酸のアルコール溶液、白金-1,3-ジビニル-1,1,3,3-テトラメチルジシロキサン錯体のトルエンまたはキシレン溶液、テトラキストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビストリフェニルホスフィン白金、ジクロロビスアセトニトリル白金、ジクロロビスベンゾニトリル白金、ジクロロシクロオクタジエン白金、白金-活性炭等が挙げられる。
白金化合物の使用量は特に限定されないが、生産性の点から、上記化合物(2)中に含まれる不飽和結合1モルに対して、好ましくは0.000001~0.2モル、より好ましくは0.00001~0.1モルである。
【0036】
上記反応の反応温度は特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは0~200℃、より好ましくは20~150℃である。
また、反応時間も特に限定されないが、生成物の安定性の観点から、好ましくは1~40時間、より好ましくは1~20時間である。
なお、上記反応は、触媒の失活を防ぐために窒素、アルゴン等の不活性ガス雰囲気下で行うことが好ましい。
【0037】
上記反応は、無溶媒でも進行するが、溶媒を用いることもできる。
溶媒の具体例としては、ペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ヘプタン、オクタン、ノナン、デカン、イソオクタン、イソドデカン等の炭素数5~20の脂肪族炭化水素系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の炭素数6~10の芳香族炭化水素系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサン、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶媒;アセトニトリル、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチルピロリドン等の非プロトン性極性溶媒;ヘキサメチルジシロキサン、オクタメチルトリシロキサン、デカメチルテトラシロキサン、トリス(トリメチルシロキシ)メチルシラン、オクタメチルシクロテトラシロキサン、デカメチルシクロペンタシロキサン等のシリコーン系溶媒;ヘキサフルオロベンゼン、トリフルオロメチルベンゼン、ヘキサフルオロメタキシレン、ノナフルオロブチルメチルエーテル、ノナフルオブチルエチルエーテル、トリデカフルオロヘキシルメチルエーテル等のフッ素系溶媒等が挙げられ、これらの溶媒は1種を単独で用いても、2種以上を混合して用いてもよい。
特に化合物(2)と化合物(3)の相溶性を解消する点で、フッ素系溶媒が好ましい。
【0038】
上記反応で得られる化合物(1)の単離や精製は、減圧ストリップや各種クロマトグラフィー、活性炭等の吸着剤を用いた処理、ろ過等の通常の有機合成における精製方法から適宜選択して用いることができる。特に、反応で使用した白金化合物の除去あるいは低減、生成物の色相を改善する点で、吸着剤を用いる処理が好ましい。吸着剤を用いた処理の後は、ろ過により吸着剤を取り除くことが好ましい。
以上のようにして、化合物(1)を製造することができる。
【0039】
なお、化合物(1)のシラノール導入率は特に限定されないが、他の化合物や溶媒との相溶性が高くなることから、好ましくは50~100%、より好ましくは70~100%、より一層好ましくは85~100%である。
ここで、シラノール導入率とは、以下に示す式により算出される。
シラノール導入率(%)=化合物(1)の存在比/(化合物(1)の存在比+化合物(2)の存在比)×100
このシラノール導入率の算出方法は、例えば、1H-NMRを測定し、ピークの積分比から求めることができる。
【0040】
以上の方法で製造した化合物(1)は反応性に富むシラノール基を有するため、さまざまな変換反応により、誘導体化を行うことができる。
例えば、クロロシラン化合物(Cl-Si)との脱HCl縮合、アルコキシシラン化合物、アルコキシシラン化合物の部分加水分解物(RO-Si,Rは炭化水素基)との脱アルコール縮合、シラノール化合物(HO-Si)との脱水縮合、シラザン化合物(N-Si)との脱アンモニア、脱アミン縮合等が挙げられる。
【実施例】
【0041】
以下、合成例、実施例および応用例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記の実施例に制限されるものではない。
【0042】
[合成例1]両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物1の合成
【化13】
【0043】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、両末端アルコール変性パーフルオロポリエーテル186.4g(OH当量0.2000モル、Solvay製 Fomblin D2、48質量%水酸化ナトリウム水溶液83.5g(1.00モル)、水50gを仕込み、室温で1時間撹拌した。得られた反応液を60℃に加温し、アリルブロミド73.0g(0.613モル)を20分間かけて滴下した後、同じ温度で6時間撹拌した。反応液を冷却し、水200gとメタキシレンヘキサフルオリド(以下、「MXHF」という。)100gを加え、室温で1時間撹拌した。この時点で反応液は2層に分離していた。下層を5質量%酢酸水溶液200gで洗浄した。得られた下層から溶媒を除去し、183gの両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物1を得た。
【0044】
[合成例2]両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物2の合成
【化14】
【0045】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、両末端アルコール変性パーフルオロポリエーテル394.3g(OH当量0.4231モル,Solvay製Fomblin D2)、48質量%水酸化ナトリウム水溶液176.2g(2.114モル)、水106gを仕込み、60℃で1時間撹拌した。得られた反応液に、プロパルギルブロミド151.3g(1.269モル)を同じ温度で30分間かけて滴下し、さらに同じ温度で6時間撹拌した。反応液を冷却し、水432gとMXHF216gを加え、室温で1時間撹拌した。この時点で反応液は2層に分離していた。下層を5質量%塩酸430gで洗浄した。得られた下層から溶媒を除去し、372gの両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル化合物2を得た。
【0046】
[
参考例1]両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物1の合成
【化15】
【0047】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、合成例1で得られた両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル1 19.7g(不飽和結合0.01モル相当)、MXHF9.7g、白金-1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の3質量%トルエン溶液0.010g(白金換算で0.0000015モル)を仕込み、60℃に加温した。内温が安定した後、1-ヒドロキシ-1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン3.1g(0.0102モル)とMXHF3.1gの混合物を1時間かけて滴下し、同じ温度で2時間撹拌した。この時点で反応液の1H-NMR,IRを測定した。1H-NMRでは、5.0~6.0ppm付近の二重結合由来のピークが減少し、0.5~1.6ppm付近に反応の進行により生じたメチレン基由来のピークが観測され、積分比からシラノール導入率を求めると82%であった。
以上のことから、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物1の生成を確認し、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル変性化合物1を含むMXHF溶液24.6gを得た。
【0048】
[実施例
1]両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物2の合成
【化16】
【0049】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、合成例2で得られた両末端不飽和結合含有パーフルオロポリエーテル2 97.0g(不飽和結合0.1モル相当)、MXHF97.0g、白金-1,3-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体の3質量%トルエン溶液0.13g(白金換算で0.000020モル)を仕込み、80℃に加温した。内温が安定した後、1-ヒドロキシ-1,1,3,3,5,5,7,7-オクタメチルテトラシロキサン30.5g(0.102モル)とMXHF30.5gの混合物を8時間かけて滴下し、同じ温度で1時間撹拌した。この時点で反応液の1H-NMR,IRを測定した。1H-NMRでは、2.1ppm付近の末端アルキン由来のピークが消失し、5.5~6.2ppmに生じた二重結合のピークが観測され、積分比からシラノール導入率を求めると、100%であった。また、IRでもアルキン由来ピーク(3320cm-1)が消失した。
以上のことから、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物2の生成を確認し、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル変性化合物2を含むMXHF溶液252gを得た。なお、末端付加と内部付加の比率は3.2:1であった。
【0050】
[応用例1]両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物2の中間体としての利用
【0051】
【化17】
(式中、Etは、エチル基を意味する。)
【0052】
撹拌機、温度計、還流冷却器を備えた四つ口ガラスフラスコの内部を窒素で置換し、実施例1で得られた両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル2を含むMXHF溶液28.4gを仕込み、3-アミノプロピルメチルジエトキシシラン2.10g(0.0110モル)を加えて室温にて30分間撹拌した。得られた反応液を150℃に加熱し、MXHF,エタノールを抜き出した。さらに、減圧下で残存したMXHF,エタノール,3-アミノプロピルメチルジエトキシシランを除去し、アミノ化パーフルオロポリエーテル化合物1 15.2gを得た。
【0053】
得られたアミノ化パーフルオロポリエーテル化合物1 0.5g、エタノール5.0g、内部標準物質として4-メチルテトラヒドロピラン0.5gを混合し、室温で24時間撹拌した。反応液のGC分析を行ったところ、分解物である3-アミノプロピルメチルジエトキシシランは確認されず、エタノールと4-メチルテトラヒドロピランのピークのみが観測された。
この結果から、両末端シラノール変性パーフルオロポリエーテル化合物を原料として得られた誘導体は、多量のアルコール存在下でも分解されないことがわかる。したがって、誘導化物を用いてポリマーを調製、あるいは樹脂へ添加した場合にも、高い耐アルコール性を示すことが予想される。