(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】液晶表示素子
(51)【国際特許分類】
G02F 1/1334 20060101AFI20230711BHJP
C09K 19/38 20060101ALI20230711BHJP
C09K 19/54 20060101ALI20230711BHJP
G02F 1/13 20060101ALN20230711BHJP
【FI】
G02F1/1334
C09K19/38
C09K19/54 Z
G02F1/13 500
(21)【出願番号】P 2020507806
(86)(22)【出願日】2019-03-18
(86)【国際出願番号】 JP2019011260
(87)【国際公開番号】W WO2019181883
(87)【国際公開日】2019-09-26
【審査請求日】2021-11-26
(31)【優先権主張番号】P 2018052662
(32)【優先日】2018-03-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110000095
【氏名又は名称】弁理士法人T.S.パートナーズ
(74)【代理人】
【識別番号】100082887
【氏名又は名称】小川 利春
(74)【代理人】
【識別番号】100181331
【氏名又は名称】金 鎭文
(74)【代理人】
【識別番号】100183597
【氏名又は名称】比企野 健
(74)【代理人】
【識別番号】100161997
【氏名又は名称】横井 大一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100090918
【氏名又は名称】泉名 謙治
(72)【発明者】
【氏名】保坂 和義
(72)【発明者】
【氏名】片山 雅章
【審査官】岩村 貴
(56)【参考文献】
【文献】特開平05-188355(JP,A)
【文献】特開平09-316032(JP,A)
【文献】特開2001-004986(JP,A)
【文献】韓国公開特許第10-2013-0024870(KR,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G02F 1/1334
G02F 1/13
C09K 19/38
C09K 19/54
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電極を備えた一対の基板の間に配置した液晶及び重合性化合物を含む液晶組成物に対し、紫外線を照射して硬化させた液晶層を有する、電圧無印加時に散乱状態となり、電圧印加時には透明状態となる液晶表示素子であって、
前記液晶が、正の誘電異方性を有し、かつ、
前記液晶組成物が、下記式[1a-1]~
式[1a-8]からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物を含むことを特徴とする液晶表示素子。
【化1】
(X
aは、-O-又は-COO-を示す。X
bは、炭素数1~12のアルキル基を示す。p1は、1~10の整数を示す。p2は、2の整数を示す。)
【化2】
(X
cは、単結合、-COO-又は-OCO-を示す。X
dは、炭素数1~12のアルキル基又はアルコキシ基を示す。p3は、1~10の整数を示す。p4は、2の整数を示す。)
【請求項2】
前記式[1a-1]~
式[1a-8]からなる群から選ばれる少なくとも1種の化合物の含有量が、液晶100質量部に対して、0.5~20質量部である請求項1に記載の液晶表示素子。
【請求項3】
前記液晶表示素子の基板が、ガラス基板又はプラスチック基板である請求項1又は2に記載の液晶表示素子。
【請求項4】
前記液晶表示素子が、調光窓又は光シャッター素子である請求項1~3のいずれか一項に記載の液晶表示素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電圧印加時に透過状態となる透過散乱型の液晶表示素子に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子としては、TN(Twisted Nematic)モードが実用化されている。このモードでは、液晶の旋光特性を利用して、光のスイッチングを行うために、偏光板を用いる必要がある。偏光板を用いると光の利用効率が低くなる。
偏光板を用いない液晶表示素子として、液晶の透過状態(透明状態ともいう。)と散乱状態との間でスイッチングを行う素子がある。一般的には、高分子分散型液晶(PDLC(Polymer Dispersed Liquid Crystal)ともいう。)や高分子ネットワーク型液晶(PNLC(Polymer Network Liquid Crystal)ともいう。)を用いたものが知られている。
【0003】
これらの液晶表示素子では、電極を備えた一対の基板の間に、紫外線により重合する重合性化合物を含む液晶組成物を配置し、紫外線の照射により液晶組成物の硬化を行い、液晶と重合性化合物の硬化物(例えば、ポリマーネットワーク)との複合体を形成する。そして、この液晶表示素子では、電圧の印加により、液晶の散乱状態と透過状態が制御される。
【0004】
PDLCやPNLCを用いた液晶表示素子は、電圧無印加時に、液晶がランダムな方向を向いているため、白濁(散乱)状態となり、電圧印加時には、液晶が電界方向に配列し、光を透過して透過状態となる(ノーマル型素子ともいう。)。この場合、電圧無印加時の液晶はランダムであるため、液晶を一方方向に配向させる液晶配向膜や配向処理の必要がない。そのため、この液晶表示素子では、電極と液晶層(前記の液晶と重合性化合物の硬化物との複合体)とが直に接した状態となる(特許文献1、2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】日本特許第3552328号公報
【文献】日本特許第4630954号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
液晶組成物中の重合性化合物は、ポリマーネットワークを形成させ、所望とする光学特性を得る役割と、液晶層と電極との密着性を高める役割がある。しかしながら、これらを実現するためには、密なポリマーネットワークを形成させる必要があるため、電圧印加に対する液晶分子の駆動が阻害される。そのため。本素子は、TNモードなどの液晶表示素子に比べて駆動電圧が高くなってしまう。
以上の点から、本発明は、良好な光学特性を発現し、液晶表示素子の駆動電圧が低くなる液晶表示素子を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、前記の目的を達成するため鋭意研究を進めた結果、以下の要旨を有する本発明を完成するに至った。
即ち、本発明は、電極を備えた一対の基板の間に配置した液晶及び重合性化合物を含む液晶組成物に対し、紫外線を照射して硬化させた液晶層を有する、電圧無印加時に散乱状態となり、電圧印加時には透明状態となる液晶表示素子であって、前記液晶が、正の誘電異方性を有し、かつ前記液晶組成物が、下記式[1]で表される化合物を含むことを特徴とする液晶表示素子にある。
【化1】
(X
1は下記式[1-a]~式[1-j]を示す。X
2は単結合、-O-、-NH-、-N(CH
3)-、-CH
2O-、-CONH-、-NHCO-、-CON(CH
3)-、-N(CH
3)CO-、-COO-又は-OCO-を示す。X
3は単結合又は-(CH
2)
a-(aは1~15の整数である)を示す。X
4は単結合、-O-、-OCH
2-、-COO-又は-OCO-を示す。X
5はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる2価の環状基、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の2価の有機基を示し、前記環状基上の任意の水素原子は、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。X
6は単結合、-O-、-CH
2-、-OCH
2-、-CH
2O-、-COO-又は-OCO-を示す。X
7はベンゼン環、シクロヘキサン環及び複素環からなる群から選ばれる環状基を示し、これらの環状基上の任意の水素原子が、炭素数1~3のアルキル基、炭素数1~3のアルコキシ基、炭素数1~3のフッ素含有アルキル基、炭素数1~3のフッ素含有アルコキシ基又はフッ素原子で置換されていてもよい。X
8は炭素数1~18のアルキル基、炭素数2~18のアルケニル基、炭素数1~18のフッ素含有アルキル基、炭素数1~18のアルコキシ基又は炭素数1~18のフッ素含有アルコキシ基を示す。Xmは0~4の整数を示す。)
【化2】
(X
Aは水素原子又はベンゼン環を示す。)
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、光学特性が良好で、液晶表示素子の駆動電圧が低くなる液晶表示素子が得られる。そのため、本発明の素子は、ノーマル型素子として表示を目的とする液晶ディスプレイや、光の透過と遮断を制御する調光窓や光シャッター素子などに用いられる。
本発明により何故に上記の優れた特性を有する液晶表示素子が得られるメカニズムは、必ずしも明らかではないが、ほぼ次のように推定される。
【0009】
本発明に使用される液晶組成物は、正の誘電異方性を有する液晶、重合性化合物及び前記式[1]で表される化合物(特定化合物ともいう。)を含有する。特定化合物は、ベンゼン環やシクロヘキサン環といった剛直構造の部位と、式[1]中のX1で示される紫外線により重合反応する部位とを有する。そのため、かかる特定化合物を液晶組成物中に含めると、特定化合物の剛直構造の部位が、液晶の垂直配向性を高め、電圧印加に伴う液晶の駆動を促進させ、液晶表示素子の駆動電圧を低くできる。また、式[1]中のX1の部位が重合性化合物と反応することで、ポリマーネットワークを密な状態に保つことができる。
以上の点から、本発明における液晶組成物を用いた液晶表示素子は、光学特性が良好で、液晶表示素子の駆動電圧が低くなるノーマル型素子となる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
<液晶組成物>
本発明における液晶組成物は、液晶、重合性化合物及び前記式[1]で表される特定化合物を含有する。
液晶には、ネマチック液晶、スメクチック液晶又はコレステリック液晶を用いることができる。なかでも、本発明においては、正の誘電異方性を有するのが好ましい。また、低電圧駆動及び散乱特性の点からは、誘電率の異方性が大きく、屈折率の異方性が大きいものが好ましい。また、液晶には、前記の相転移温度、誘電率異方性及び屈折率異方性の各物性値に応じて、2種類以上の液晶を混合して用いることができる。
【0011】
液晶表示素子をTFT(Thin Film Transistor)などの能動素子として駆動させるためには、液晶の電気抵抗が高くて電圧保持率(VHRともいう。)が高いことが求められる。そのため、液晶には、電気抵抗が高くて紫外線などの活性エネルギー線によりVHRが低下しないフッ素系や塩素系の液晶を用いることが好ましい。
【0012】
更に、液晶表示素子は、液晶組成物中に二色性染料を溶解させてゲストホスト型の素子とすることもできる。この場合には、電圧無印加時は吸収(散乱)で、電圧印加時に透明となる素子が得られる。また、この液晶表示素子では、液晶のダイレクターの方向(配向の方向)は、電圧印加の有無により90度変化する。そのため、この液晶表示素子は、二色性染料の吸光特性の違いを利用することで、ランダム配向と垂直配向でスイッチングを行う従来のゲストホスト型の素子に比べて、高いコントラストが得られる。また、二色性染料を溶解させたゲストホスト型の素子では、液晶が水平方向に配向した場合に有色になり、散乱状態においてのみ不透明となる。そのため、電圧を印加するにつれ、電圧無印加時の有色不透明から有色透明、無色透明の状態に切り替わる素子を得ることもできる。
【0013】
液晶組成物中の重合性化合物は、液晶表示素子作製時の紫外線の照射により、重合反応して硬化性樹脂を形成するためのものである。そのため、予め、重合性化合物を重合反応させたポリマーを液晶組成物に導入しても良い。ただし、ポリマーとした場合でも、紫外線の照射により重合反応する部位を有する必要がある。重合性化合物は、液晶組成物の取り扱い、即ち、液晶組成物の高粘度化の抑制や液晶への溶解性の点から、重合性化合物を含む液晶組成物を用いることが好ましい。
重合性化合物は、液晶に溶解すれば、特に限定されないが、重合性化合物を液晶に溶解した際に、液晶組成物の一部又は全体が液晶相を示す温度が存在することが必要となる。液晶組成物の一部が液晶相を示す場合であっても、液晶表示素子を肉眼で確認して、素子内全体が、ほぼ一様な散乱特性と透明性が得られていれば良い。
【0014】
重合性化合物は、紫外線により重合する化合物であれば良く、その際、どのような反応形式で重合が進み、硬化性樹脂を形成させても良い。具体的な反応形式としては、ラジカル重合、カチオン重合、アニオン重合又は重付加反応が挙げられる。
なかでも、重合性化合物の反応形式は、液晶表示素子の光学特性の点から、ラジカル重合が好ましい。その際、重合性化合物としては、下記のラジカル型の重合性化合物、又はそのオリゴマーを用いることができる。また、前記の通り、これらの重合性化合物を重合反応させたポリマーを用いることもできる。
ラジカル型の重合性化合物又はそのオリゴマーの具体例は、国際公開第2015/146987(2015.10.1公開)の69頁~71頁に記載されるラジカル型の重合性化合物が挙げられる。
【0015】
ラジカル型の重合性化合物又はそのオリゴマーの使用割合は、液晶表示素子の液晶層と電極との密着性の点から、液晶組成物中の液晶100質量部に対して、70~150質量部が好ましく、80~110質量部がより好ましい。また、ラジカル型の重合性化合物は、各特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
前記硬化性樹脂の形成を促進させるため、液晶組成物中には、重合性化合物のラジカル重合を促進させる目的で、紫外線により、ラジカルを発生するラジカル開始剤(重合開始剤ともいう)を導入することが好ましい。
具体的には、国際公開第2015/146987の71頁~72頁に記載されるラジカル開始剤が挙げられる。
【0016】
ラジカル開始剤の使用割合は、液晶表示素子の液晶層と電極との密着性の点から、液晶組成物中の液晶100質量部に対して、0.01~20質量部が好ましく、0.05~10質量部がより好ましい。また、ラジカル開始剤は、各特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
特定化合物は、前記式[1]で表される化合物である。
【0017】
式[1]中、X1~X8及びXmは、上記に定義した通りであるが、なかでもそれぞれ、下記のものが好ましい。
X1は前記式[1-a]、式[1-b]、式[1-c]、式[1-d]、式[1-e]又は式[1-f]が好ましく、式[1-a]、式[1-b]、式[1-c]又は式[1-e]がより好ましく、式[1-a]又は式[1-b]が最も好ましい。
X2は単結合、-O-、-CH2O-、-CONH-、-COO-又は-OCO-が好ましく、単結合、-O-、-COO-又は-OCO-がより好ましい。
【0018】
X3は単結合又は-(CH2)a-(aは1~10の整数である)が好ましく、-(CH2)a-(aは1~10の整数である)がより好ましい。
X4は単結合、-O-又は-COO-が好ましく、-O-がより好ましい。
X5はベンゼン環又はシクロヘキサン環、又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の2価の有機基が好ましく、ベンゼン環又はステロイド骨格を有する炭素数17~51の2価の有機基がより好ましい。
X6は単結合、-O-、-COO-又は-OCO-が好ましく、単結合、-COO-又は-OCO-がより好ましい。
【0019】
X7はベンゼン環又はシクロヘキサン環が好ましい。
X8は炭素数1~18のアルキル基若しくはアルコキシ基、又は炭素数2~18のアルケニル基が好ましく、炭素数1~12のアルキル基又はアルコキシ基がより好ましい。Xmは0~2の整数が好ましい。
【0020】
式[1]における好ましいX
1~X
8及びXmの組み合わせは、下記の表1~9に示される。
【表1】
【0021】
【0022】
【0023】
【0024】
【0025】
【0026】
【0027】
【0028】
【0029】
なかでも、(1-3a)~(1-8a)、(1-11a)~(1-24a)、(1-27a)~(1-36a)、(1-39a)、(1-40a)、(1-43a)~(1-48a)、(1-51a)~(1-64a)、(1-67a)~(1-76a)、(1-79a)、(1-80a)、(1-83a)~(1-88a)、(1-91a)~(1-104a)、(1-107a)~(1-116a)、(1-119a)、(1-120a)、(1-123a)、(1-124a)、(1-129a)、(1-130a)、(1-133a)、(1-134a)、(1-137a)、(1-138a)、(1-141a)、(1-142a)、(1-145a)、(1-146a)又は(1-149a)~(1-172a)の組み合わせが好ましい。
【0030】
より好ましいのは、(1-3a)~(1-8a)、(1-11a)、(1-12a)、(1-15a)~(1-18a)、(1-21a)、(1-22a)、(1-27a)~(1-30a)、(1-33a)、(1-34a)、(1-39a)、(1-40a)、(1-43a)~(1-48a)、(1-51a)、(1-52a)、(1-55a)~(1-58a)、(1-61a)、(1-62a)、(1-67a)~(1-70a)、(1-73a)、(1-74a)、(1-79a)、(1-80a)、(1-83a)~(1-88a)、(1-91a)、(1-92a)、(1-95a)~(1-98a)、(1-101a)、(1-102a)、(1-107a)~(1-110a)、(1-113a)、(1-114a)、(1-119a)、(1-120a)、(1-123a)、(1-124a)、(1-129a)、(1-130a)、(1-133a)、(1-134a)、(1-137a)、(1-138a)、(1-141a)、(1-142a)、(1-145a)、(1-146a)又は(1-149a)~(1-172a)の組み合わせである。
【0031】
最も好ましいのは、(1-3a)~(1-8a)、(1-15a)~(1-18a)、(1-29a)、(1-30a)、(1-43a)~(1-48a)、(1-55a)~(1-58a)、(1-69a)、(1-70a)、(1-83a)~(1-88a)、(1-95a)~(1-98a)、(1-109a)、(1-110a)、(1-123a)、(1-124a)、(1-133a)、(1-134a)、(1-141a)、(1-142a)、(1-149a)~(1-152a)又は(1-161a)~(1-172a)の組み合わせである。
【0032】
より具体的な特定化合物としては、下記式[1a-1]~式[1a-11]からなる群から選ばれる化合物が挙げられ、これらを用いることが好ましい。
【化3】
(X
aは、-O-又は-COO-を示す。X
bは、炭素数1~12のアルキル基を示す。p1は、1~10の整数を示す。p2は、1又は2の整数を示す。)
【0033】
【化4】
(X
cは、単結合、-COO-又は-OCO-を示す。X
dは、炭素数1~12のアルキル基又はアルコキシ基を示す。p3は、1~10の整数を示す。p4は、1又は2の整数を示す。)
【0034】
【化5】
(X
eは、-O-又は-COO-を示す。X
fは、ステロイド骨格を有する炭素数17~51の2価の有機基を示す。X
gは、炭素数1~12のアルキル基又は炭素数2~18のアルケニル基を示す。p5は、1~10の整数を示す。)
【0035】
特定化合物の含有割合は、液晶表示素子の液晶層と電極との密着性の点から、液晶組成物中の液晶100質量部に対して、0.1~30質量部が好ましく、0.5~20質量部がより好ましく、1~10質量部が最も好ましい。また、特定化合物は、各特性に応じて、1種類又は2種類以上を混合して使用することもできる。
【0036】
液晶組成物の調製方法としては、単独又は複数種の重合性化合物と特定化合物を混合したものを液晶に加える方法や、予め、液晶に特定化合物を加えたものを調製し、それに単独又は複数種の重合性化合物を加える方法が挙げられる。
複数種の重合性化合物を用いる場合、それらを混合する際に重合性化合物の溶解性に応じて、加熱することもできる。その際の温度は100℃未満が好ましい。また、重合性化合物と特定化合物とを混合する場合、及び液晶と特定化合物とを混合する場合も同様である。
【0037】
<液晶表示素子の作製方法>
液晶表示素子に用いる基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板の他、アクリル基板、ポリカーボネート基板、PET(ポリエチレンテレフタレート)基板などのプラスチック基板、更には、それらのフィルムを用いることができる。特に、調光窓などに用いる場合には、プラスチック基板やフィルムが好ましい。また、プロセスの簡素化の観点からは、液晶駆動のためのITO電極、IZO(Indium Zinc Oxide)電極、IGZO(Indium Gallium Zinc Oxide)電極、有機導電膜などが形成された基板を用いることが好ましい。また、反射型の液晶表示素子とする場合には、片側の基板のみにならば、シリコンウエハやアルミニウムなどの金属や誘電体多層膜が形成された基板を使用できる。
【0038】
液晶表示素子に用いる液晶組成物は、前記の通りの液晶組成物であるが、そのなかに、液晶表示素子の電極間隙(ギャップともいう。)を制御するためのスペーサーを導入することもできる。
液晶組成物の注入方法は、特に限定されないが、例えば、次の方法が挙げられる。即ち、基板にガラス基板を用いる場合、一対の基板を用意し、片側の基板の4片を、一部分を除いてシール剤を塗布し、その後、電極面が内側になるようにして、もう片側の基板を貼り合わせた空セルを作製する。そして、シール剤が塗布されていない場所から液晶組成物を減圧注入して、液晶組成物注入セルを得る方法が挙げられる。更に、基板にプラスチック基板やフィルムを用いる場合には、一対の基板を用意し、片側の基板の上にODF(One Drop Filling)法やインクジェット法などで、液晶組成物を滴下し、その後、もう片側の基板を貼り合わせて、液晶組成物注入セルを得る方法が挙げられる。本発明の液晶表示素子では、液晶層と電極との密着性が高いため、基板の4片にシール剤を塗布しなくても良い。
【0039】
液晶表示素子のギャップは、前記のスペーサーなどで制御できる。その方法は、前記の通りに、液晶組成物中に目的とする大きさのスペーサーを導入する方法や、目的とする大きさのカラムスペーサーを有する基板を用いる方法などが挙げられる。また、基板にプラスチックやフィルム基板を用いて、基板の貼り合わせをラミネートで行う場合は、スペーサーを導入せずに、ギャップを制御することもできる。
液晶表示素子のギャップの大きさは、1~100μmが好ましく、1~50μmがより好ましく、2~30μmが特に好ましい。ギャップが小さすぎると、液晶表示素子のコントラストが低下し、大きすぎると、素子の駆動電圧が高くなる。
【0040】
液晶表示素子は、液晶組成物の硬化を行い、液晶層を形成させて得られる。この液晶組成物の硬化は、前記の液晶組成物注入セルに、紫外線を照射して行う。その際に用いる紫外線照射装置の光源としては、例えば、メタルハライドランプ又は高圧水銀ランプが挙げられる。その際、紫外線の波長は、250~400nmが好ましく、310~370nmがより好ましい。また、紫外線を照射した後に、加熱処理を行っても良い。その際の温度としては、20~120℃が好ましく、30~100℃がより好ましい。
【実施例】
【0041】
以下に実施例を挙げ、本発明をさらに詳しく説明するが、これらに限定されるものではない。以下で用いる略語は下記の通りである。
<特定化合物>
【化6】
【0042】
<重合性化合物>
R1:IBXA(大阪有機化学工業社製)
R2:2-ヒドロキシエチルメタクリレート
R3:KAYARAD FM-400(日本化薬社製)
R4:EBECRYL 230(ダイセル・オルネクス社製)
R5:カレンズMT PE1(昭和電工社製)
<光ラジカル開始剤>
P1:IRGACURE 184(BASF社製)
<液晶>
L1:MLC-3018(メルク社製)
【0043】
<液晶組成物(1)の作製>
R1(1.20g)、R2(0.30g)、R3(1.20g)、R4(0.90g)及びR5(0.30g)を混合し、60℃で2時間撹拌して、重合性化合物の溶液を作製した。その一方で、S1(0.20g)及びL1(5.80g)を混合し、25℃で2時間撹拌して特定化合物を含む液晶を作製した。その後、作製した重合性化合物の溶液、特定化合物を含む液晶、及びP1(0.10g)を混合し、25℃で6時間撹拌して、液晶組成物(1)を得た。
【0044】
<液晶組成物(2)の作製>
R1(1.20g)、R2(0.30g)、R3(1.20g)、R4(0.90g)及びR5(0.30g)を混合し、60℃で2時間撹拌して、重合性化合物の溶液を作製した。その一方で、S1(0.80g)及びL1(5.20g)を混合し、25℃で2時間撹拌して特定化合物を含む液晶を作製した。その後、作製した重合性化合物の溶液、特定化合物を含む液晶、及びP1(0.10g)を混合し、25℃で6時間撹拌して、液晶組成物(2)を得た。
【0045】
<液晶組成物(3)の作製>
R1(1.20g)、R2(0.30g)、R3(1.20g)、R4(0.90g)及びR5(0.30g)を混合し、60℃で2時間撹拌して、重合性化合物の溶液を作製した。その一方で、S2(0.40g)及びL1(5.60g)を混合し、25℃で2時間撹拌して特定化合物を含む液晶を作製した。その後、作製した重合性化合物の溶液、特定化合物を含む液晶、及びP1(0.10g)を混合し、25℃で6時間撹拌して、液晶組成物(3)を得た。
【0046】
<液晶組成物(4)の作製>
R1(1.20g)、R2(0.30g)、R3(1.20g)、R4(0.90g)及びR5(0.30g)を混合し、60℃で2時間撹拌して、重合性化合物の溶液を作製した。その一方で、S1(0.20g)、S2(0.10g)及びL1(5.70g)を混合し、25℃で2時間撹拌して特定化合物を含む液晶を作製した。その後、作製した重合性化合物の溶液、特定化合物を含む液晶、及びP1(0.10g)を混合し、25℃で6時間撹拌して、液晶組成物(4)を得た。
【0047】
<液晶組成物(5)の作製>
R1(1.20g)、R2(0.30g)、R3(1.20g)、R4(0.90g)及びR5(0.30g)を混合し、60℃で2時間撹拌して、重合性化合物の溶液を作製した。その後、作製した重合性化合物の溶液、L1(6.00g)及びP1(0.10g)を混合し、25℃で6時間撹拌して、液晶組成物(5)を得た。
【0048】
「液晶表示素子の作製(ガラス基板)」
純水及びIPA(イソプロピルアルコール)で洗浄したITO電極付きガラス基板(縦:100mm、横:100mm、厚さ:0.7mm)を2枚用意し、その一方の基板のITO面に、粒子径が15μmのスペーサー(商品名:ミクロパール、積水化学社製)を塗布した。その後、その基盤のスペーサーを塗布した面に、ODF(One Drop Filling)法にて前記の液晶組成物(1)~(5)を滴下し、次いで、他方の基板のITO面が向き合うように貼り合わせを行い、処理前の液晶表示素子を得た。
この処理前の液晶表示素子に、照度20mW/cm2のメタルハライドランプを用いて、350nm以下の波長をカットし、照射時間60秒で紫外線照射を行った。これにより、液晶表示素子(ガラス基板)を得た。
【0049】
「液晶表示素子の作製(プラスチック基板)」
純水で洗浄したITO電極付きPET基板(縦:150mm、横:150mm、厚さ:0.1mm)を2枚用意し、その一方の基板のITO面に、前記20μmのスペーサーを塗布した。その後、その基板のスペーサーを塗布したITO面に、ODF法にて前記の液晶組成物(1)~(5)を滴下し、次いで、他方の基板のITO面が向き合うように貼り合わせを行い、処理前の液晶表示素子を得た。なお、ODF法にて、液晶組成物の滴下及び貼り合わせを行う際には、ITO電極付きPET基板の支持基板としてガラス基板を用いた。その後、紫外線を照射する前に、その支持基板を外した。
この処理前の液晶表示素子に、前記の「液晶表示素子の作製(ガラス基板)」と同様の手法で紫外線を照射し、液晶表示素子(プラスチック基板)を得た。
【0050】
「光学特性(散乱特性と透明性)の評価」
本評価は、液晶表示素子(ガラス基板及びプラスチック基板)の電圧無印加状態(0V)及び電圧印加状態(交流駆動:10V~50V)のHaze(曇り度)を測定することで行った。その際、Hazeは、JIS K 7136に準拠し、ヘーズメータ(HZ-V3,スガ試験機社製)で測定した。なお、本評価では、電圧無印加状態のHazeが高いほど散乱特性に優れ、電圧印加状態でのHazeが低いほど透明性に優れるとした。 Hazeの結果を、表10にまとめて示す。
【0051】
<実施例1~8及び比較例1、2>
下記の表10に示されるように、前記の液晶組成物(1)~(5)を用いて、前記の手法で液晶表示素子の作製及び光学特性(散乱特性と透明性)の評価を行った。
その際、実施例1、実施例3、実施例5、実施例7及び比較例1は、ガラス基板を用いて液晶表示素子の作製と各評価を行い、実施例2、実施例4、実施例6、実施例8及び比較例2では、プラスチック基板を用いた。
【0052】
【0053】
上記表10からわかるように、実施例の液晶表示素子は、比較例に比べて、電圧印加状態でのHazeが低く、且つ、より低い電圧でHazeが低い。即ち、実施例では、良好な光学特性(透明性)を発現し、且つ、液晶表示素子の駆動電圧が低くなる。
具体的には、同一の条件での比較である、実施例1と比較例1との比較、及び実施例2と比較例2との比較から明らかである。これらの結果は、液晶表示素子の基板にプラスチック基板を用いても同様であった。
【産業上の利用可能性】
【0054】
また、本発明の液晶表示素子は、電圧無印加時に散乱状態となり、電圧印加時には透明状態になるノーマル型素子に、好適に用いることができる。そして、本素子は、表示を目的とする液晶ディスプレイ、更には、光の遮断と透過とを制御する調光窓や光シャッター素子などに用いることができ、このノーマル型素子の基板には、プラスチック基板を用いることができる。
なお、2018年3月20日に出願された日本特許出願2018-052662号の明細書、特許請求の範囲、図面、及び要約書の全内容をここに引用し、本発明の明細書の開示として、取り入れるものである。