IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 日立金属株式会社の特許一覧

(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】水処理用セラミックフィルタユニット
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/28 20230101AFI20230711BHJP
【FI】
C02F1/28 F
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020525631
(86)(22)【出願日】2019-06-12
(86)【国際出願番号】 JP2019023336
(87)【国際公開番号】W WO2019240191
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2022-05-16
(31)【優先権主張番号】P 2018111708
(32)【優先日】2018-06-12
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(74)【代理人】
【識別番号】100080012
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 橘馬
(74)【代理人】
【識別番号】100168206
【弁理士】
【氏名又は名称】高石 健二
(72)【発明者】
【氏名】片山 義男
(72)【発明者】
【氏名】中野 敬子
(72)【発明者】
【氏名】石澤 俊崇
【審査官】山崎 直也
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-198742(JP,A)
【文献】国際公開第2015/199017(WO,A1)
【文献】特開昭55-114324(JP,A)
【文献】国際公開第2018/198915(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/28
B01J 20/00-20/28
20/30-20/34
B01D 39/00-41/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
多孔質セラミックからなる複数の隔壁で仕切られた一方向に延びる複数の流路からなり、前記複数の流路は、第1端のみが目封止された第1の流路と、第2端のみが目封止された第2の流路とを含む柱状のフィルタと、
前記フィルタの前記第1端側の第1の端面の第1の外縁部の全周にわたって配置された弾性体からなる第1のシール部材、及び前記フィルタの前記第2端側の第2の端面の第2の外縁部の全周にわたって配置された弾性体からなる第2のシール部材と、
前記第2の流路に外部から水を供給するための供給口を備え、前記第1の外縁部に配置された前記第1のシール部材に当接する第1のフランジ部を有する供給部、前記第1の流路から流出する水を外部に排出するための排出口を備え、前記第2の外縁部に配置された前記第2のシール部材に当接する第2のフランジ部を有する排出部、並びに前記供給部及び前記排出部を接続するとともに、前記フィルタの外側面を覆うフィルタ収容部とから一体的に構成されるハウジングと
を有する水処理用フィルタユニットであって、
前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部の幅は、それぞれ前記第1の端面及び前記第2の端面に開口する前記流路のうちの少なくとも最外周部に存在する流路を覆うに足りる範囲の長さであり、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材はそれぞれ前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部を覆っており、
前記フィルタは、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とを介して、それぞれ前記第1のフランジ部と前記第2のフランジ部とにより固定されており、
前記フィルタの外側面と前記ハウジングとの間隙の最大値が前記流路の等価直径以下(ただし、前記等価直径は、前記フィルタの軸方向に直交する断面における任意の10本以上の流路について断面積及び周長を求め、それらの平均値をそれぞれ平均流路断面積及び平均濡れ縁長さとしたとき、前記平均流路断面積の4倍の値を前記平均濡れ縁長さで除した値である。)であることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項2】
請求項1に記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記第1の流路と前記第2の流路とは互いに隣接するように構成されていることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項3】
請求項1又は2に記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記フィルタが固定されたときの前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材の厚さは、前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材において負荷がかからない状態の厚さの75%以上であることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項4】
請求項1~3のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記フィルタが固定されたときの前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材の幅は、前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部における前記流路のピッチの1.5~4.0倍であることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項5】
請求項1~4のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材を構成する前記弾性体は、JIS K6253に準拠するタイプAのデュロメータで測定される硬度がA30~A80であることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項6】
請求項5に記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材を構成する前記弾性体は、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、及びシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも1つの材料からなることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項7】
請求項1~6のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記フィルタは、前記外側面に前記隔壁で仕切られていない部分を有する流路を有することを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項8】
請求項1~7のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記ハウジングを構成する前記供給部、前記排出部及び前記フィルタ収容部の各部材のうち、少なくとも1つの部材は他の部材とは異なる材料から構成されていることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記ハウジングの前記供給部及び前記排出部のうちのいずれか一方は、前記フィルタ収容部と不可分に構成されていることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【請求項10】
請求項1~9のいずれかに記載の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、
前記ハウジングはアルカリ性水溶液に耐性を有する材料から構成されていることを特徴とする水処理用セラミックフィルタユニット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、汚染物質を吸着除去するために用いられる水処理用セラミックフィルタユニットに関する。
【背景技術】
【0002】
水の浄化の高度処理においては、逆浸透膜を利用した水処理設備が実用化されている。水処理設備の運転に伴い、逆浸透膜の表面には汚染物質が次第に吸着して透過水量が減少していくため、定期的に洗浄液を逆浸透膜の表面に流すことにより汚染物質を除去している。また、洗浄液によっても逆浸透膜が徐々に劣化するため、逆浸透膜モジュールも定期的に交換する必要がある。この逆浸透膜モジュールの定期的な交換は、水処理設備の運転を長時間止めて行う必要があるため、水処理設備の稼働率が低下する問題がある。また逆浸透膜モジュールは再生利用ができないために、毎回新品の逆浸透膜モジュールに交換する必要がある。このため消耗品としての逆浸透膜の費用、その廃棄物処理の費用等は、水処理における単位水量当たりのランニングコストを上げる原因にもなっている。
【0003】
そこで、逆浸透膜モジュールの交換寿命を延ばすために、逆浸透膜の性能を劣化させる原因となる汚染物質のうち逆浸透膜の目詰まりの原因となる有機物等の汚染物質を、逆浸透膜モジュールの上流に設けた吸着部材に吸着させてあらかじめ除去するような前処理が提案されている。
【0004】
例えば、特開2012-91151号は、外壁と、前記外壁の内側に設けられた複数の流路と、前記複数の流路を隔てるセラミックからなる隔壁とを備え、前記隔壁は、隣り合う前記流路を連通する連通孔を有し、被処理水中の有機物を吸着する吸着部材(セラミックフィルタ)をハウジングに収容した吸着モジュール(水処理用フィルタユニット)を開示している。
【0005】
一方、フィルタがハウジングに収容された形態の水処理用フィルタユニットとして、特開2002-224505号は、円筒状のフィルタと、フィルタを囲繞するように配設されたフィルタケース(ハウジング)と、フィルタの外縁部を含む領域及び対応するフィルタケース(ハウジング)の内縁部を含む領域に介在し、かつフィルタの中心軸を含む面で切断したときの断面形状がL字状であるシール部材を有する構造を開示している。
【0006】
シール部材を用いてフィルタがハウジングに保持される他の形態として、例えば特開2000-210517号は、側面全体をシール部材にて被覆したセラミックフィルタの少なくとも1つの側面を金属製の外枠(ハウジング)で接触するように保持する構造を開示している。
【0007】
水処理設備の稼働率を上げるために、前処理に用いる水処理用フィルタユニットは、ハウジングに収容されるフィルタの交換に時間を要しない簡単な構造であることが望ましい。また、フィルタに捕捉される汚染物質の吸着率を向上させるためには、処理される水が滞留しにくく、満遍なくフィルタを通過するような構造であることが望ましい。
【0008】
これらの観点で上記の先行技術を検討する。特開2012-91151号で開示される水処理用フィルタモジュールのフィルタの外側面はセラミックで形成された外壁で構成されている。外壁は緻密構造であるが透水性を有するものであり、通常は外壁が含有する水の表面張力のためにフィルタの外側面からの漏水は生じ難い。しかし、運転条件やフィルタの経年変化によりフィルタ内部の水圧が大きくなると、外部との差圧により水が外壁を透過して漏水することがある。漏れた水は流動せずにフィルタの外側面とハウジングとの間隙に滞留するので水質が悪化することがある。この場合はフィルタでは除去されない有害な溶質が外壁内を拡散してフィルタ内部に浸入し、フィルタ内部を流動する水を汚染してしまう虞がある。つまり、処理される水が満遍なくフィルタを通過できない、加えて水処理用フィルタモジュールとしての性能を長期に渡って維持できない虞がある。
【0009】
特開2002-224505号で開示される、断面がL字状のシール部材では、フィルタとハウジングとの間隙の両端にシール部材が挟まって存在するので間隙が大きい。このため、フィルタからこの間隙に水が漏れ出したときに溜まる水量が多くなる。またシール部材が間隙の両端で間隙内の水をシールするので、間隙内の水の滞留時間も長期となりやすいため水質が悪化しやすい。したがって処理される水が満遍なくフィルタを通過できないことと、水処理用フィルタユニットとしての性能を長期に渡って維持できない虞がある。
【0010】
特開2000-210517号で開示される、側面全体がシール部材で被覆されたフィルタの少なくとも1つの側面を金属製の外枠(ハウジング)で接触するように保持する構造では、フィルタの側面から漏れた水が広範囲に渡ってシール部材に接触することになる。この構造ではシール部材とフィルタとのわずかな隙間に滞留する水は特に汚染されやすいので水質悪化の虞がある。このため水処理用フィルタユニットとしての性能を長期に渡って維持できない虞がある。また、シート状のシール部材をフィルタに巻きつける操作又は筒状のシール部材にフィルタを嵌めこむ操作など、フィルタの側面全体をシール部材で覆う工程が水処理用セラミックフィルタユニットの製造工程内又は製造工程外において必要であるため、特開2012-91151号及び特開2002-224505号に開示の水処理用セラミックフィルタユニットに比べて、フィルタを交換する工数が大きくなる虞がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、水処理設備の稼働率を上げるために、ハウジングに収容されるフィルタの交換が簡単で、フィルタに捕捉される汚染物質の吸着率が高い水処理用セラミックフィルタユニットを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明者らは鋭意研究の結果、フィルタを両端面の外縁部で固定するフランジ部が設けられたハウジングを用いて、フィルタの外縁部にシール部材を介在させてフィルタを固定して収容し、さらに、収容されたフィルタとハウジングとの間隙を所定の値以下とすることにより上記の目的を達成できることを見出し、本発明に想到した。
【0013】
すなわち、本発明の水処理用セラミックフィルタユニットは、
多孔質セラミックからなる複数の隔壁で仕切られた一方向に延びる複数の流路からなり、前記複数の流路は、第1端のみが目封止された第1の流路と、第2端のみが目封止された第2の流路とを含む柱状のフィルタと、
前記フィルタの前記第1端側の第1の端面の第1の外縁部の全周にわたって配置された弾性体からなる第1のシール部材、及び前記フィルタの前記第2端側の第2の端面の第2の外縁部の全周にわたって配置された弾性体からなる第2のシール部材と、
前記第2の流路に外部から水を供給するための供給口を備え、前記第1の外縁部に配置された前記第1のシール部材に当接する第1のフランジ部を有する供給部、前記第1の流路から流出する水を外部に排出するための排出口を備え、前記第2の外縁部に配置された前記第2のシール部材に当接する第2のフランジ部を有する排出部、並びに前記供給部及び前記排出部を接続するとともに、前記フィルタの外側面を覆うフィルタ収容部から一体的に構成されるハウジングと
を有する水処理用フィルタユニットであって、
前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部の幅は、それぞれ前記第1の端面及び前記第2の端面に開口する前記流路のうちの少なくとも最外周部に存在する流路を覆うに足りる範囲の長さであり、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材はそれぞれ前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部を覆っており、
前記フィルタは、前記第1のシール部材と前記第2のシール部材とを介して、それぞれ前記第1のフランジ部と前記第2のフランジ部とにより固定されており、
前記フィルタの外側面と前記ハウジングとの間隙の最大値が前記流路の等価直径以下(ただし、前記等価直径は、前記フィルタの軸方向に直交する断面における任意の10本以上の流路について断面積及び周長を求め、それらの平均値をそれぞれ平均流路断面積及び平均濡れ縁長さとしたとき、前記平均流路断面積の4倍の値を前記平均濡れ縁長さで除した値である。)であることを特徴とする。
【0014】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記第1の流路と前記第2の流路とは互いに隣接するように構成されているのが好ましい。この構成により、処理される水に含まれる汚染物質をより効率よく除去することができる。
【0015】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記フィルタが固定されたときの前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材の厚さは、前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材において負荷がかからない状態の厚さの75%以上であるのが好ましい。この構成により前記シール部材の弾性が長期に渡って維持されるので、本発明のセラミックフィルタユニットの性能をより長期に維持することができる。
【0016】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記フィルタが固定されたときの前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材の幅は、前記第1の外縁部及び前記第2の外縁部における前記流路のピッチの1.5~4.0倍であるのが好ましい。この構成により、前記フィルタの両端面の外縁部と前記ハウジングとの水密性が確保されることと、汚染物質の除去に寄与する前記複数の流路を最大限に確保することを両立でき、フィルタの吸着率を高めることができる。
【0017】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材を構成する前記弾性体は、JIS K6253に準拠するタイプAのデュロメータで測定される硬度がA30~A80であるのが好ましい。この構成により、前記シール部材による水密性が確保されることに加えて、本発明の水処理用セラミックフィルタユニットが製造されるときに前記フィルタが破損し難くなる。
【0018】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記第1のシール部材及び前記第2のシール部材を構成する前記弾性体は、ニトリルゴム、エチレンプロピレンゴム、及びシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも1つの材料からなるのが好ましい。この構成により、フィルタの洗浄に用いられる酸性又はアルカリ性の水、あるいは海水等に対する耐久性を高めることができる。
【0019】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記フィルタは、前記外側面に前記隔壁で仕切られていない部分を有する流路を有するのが好ましい。この構成により、前記フィルタの前記外側面から漏れた水が前記フィルタの内部に戻りやすくなり、前記外側面と前記ハウジングとの間隙に滞留する水の汚染を抑制することができる。
【0020】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記ハウジングを構成する前記供給部、前記排出部及び前記フィルタ収容部の各部材うち、少なくとも1つの部材は他の部材とは異なる材料から構成されているのが好ましい。この構成により、使用する環境の温度域に対し、前記フィルタの熱膨張特性と前記ハウジングを構成する各部材間の異なる熱膨張特性とを勘案した寸法設計の自由度が高まるため、本発明の水処理用セラミックフィルタユニットをより長い期間に渡って性能を維持可能なものとすることができる。
【0021】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記ハウジングの前記供給部及び前記排出部のうちのいずれか一方は、前記フィルタ収容部と不可分に構成されているのが好ましい。この構成により、前記ハウジングを構成する部材の数が少なくなって前記ハウジングを組み立てる工数が減少するとともに、収容される前記フィルタの交換も容易になる。
【0022】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットにおいて、前記ハウジングはアルカリ性水溶液に耐性を有する材料から構成されているのが好ましい。この構成により、前記ハウジングが腐食しにくくなるので本発明の水処理用セラミックフィルタユニットの使用可能期間を長くすることができる。
【発明の効果】
【0023】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニットは、ハウジングに収容されるフィルタの交換が簡単で、フィルタに捕捉される汚染物質の吸着率が高く、吸着性能を長い期間に渡って維持できるため、水処理設備の稼働率を高めることに寄与する。
【図面の簡単な説明】
【0024】
図1(a)】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットの一例を模式的に示す中心軸を含む断面図である。
図1(b)】図1(a)のA-A断面図である。
図1(c)】図1(a)のX部分の拡大図である。
図1(d)】図1(a)のY部分の拡大図である。
図2(a)】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットを構成するフィルタの一例を模式的に示す中心軸を含む断面図である。
図2(b)】図2(a)のB-B断面図である。
図3(a)】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットに使用するハニカム構造体の一例を模式的に示す中心軸を含む断面図である。
図3(b)】図3(a)のハニカム構造体を軸方向から見た模式図である。
図3(c)】図3(b)のZ部分の拡大図である。
図4】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットを構成するハウジングの一例を示す分解図である。
図5】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットの他の一例を示す模式断面図である。
図6】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットを構成するハウジングの他の一例を示す分解図である。
図7】本発明の水処理用セラミックフィルタユニットを用いた水処理設備を模式的に示すフロー図である。
図8】比較例1の水処理用セラミックフィルタユニットを示す模式図である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
[1] 水処理設備
まず本発明の水処理用セラミックフィルタユニットが適用される水処理設備について図7を参照しつつ説明する。
【0026】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100は、例えば、図7にフロー図で示すような水処理設備400に使用する。水処理設備400は、本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100と、水処理用セラミックフィルタユニット100で処理された水を貯留する貯水タンク401と、貯水タンク401の水を給水する給水ポンプ402と、給水ポンプ402から送られた水から被分離物質を除去する逆浸透膜404を備えた逆浸透膜モジュール403とを備えている。本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100は、下流側に備える逆浸透膜モジュール403中の逆浸透膜404の表面に吸着する有機物等を上流側において選択的に効率よく吸着除去する前処理工程として機能するものである。
【0027】
ごみ等をスクリーンにかけて取り除く処理、凝集剤を添加して砂などの細かい懸濁物を沈降除去する処理、及び微生物を用いて有機物を分解する処理等の処理が施された一次処理水には、依然として塩類や溶解有機物等の汚染物質(以下、溶存有機物等ともいう。)が含まれている。本発明の水処理用セラミックィルタユニット100に供給された一次処理水は、内部に収容された多孔質セラミックハニカム構造体からなるフィルタ101を通過することによってこれらの溶存有機物等が吸着除去されて排出され、貯水タンク401に一時的に貯留される。貯水タンク401内に一定量貯留された一次処理水は給水ポンプ402により圧送されて、逆浸透膜404を通過することによって、溶存有機物等が除去された透過水と、溶存有機物等が濃縮された濃縮水とに分離される。このように本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100は、一次処理水中の溶存有機物等をあらかじめ吸着除去して逆浸透膜404の汚染の進行を抑制し、逆浸透膜404の交換寿命を延ばす効果を奏する。
【0028】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100は、海水淡水化、半導体等の精密電子機器製造に用いる純水製造、上水の高度処理、下水・排水の再生処理(微生物処理を併用しないものなどを含む)等の逆浸透膜を用いた水処理設備に幅広く適用可能である。
【0029】
[2] 水処理用セラミックフィルタユニット
次に、本発明の水処理用セラミックフィルタユニットの構成を説明する。
図1(a)は本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100を示す中心軸を含む断面図であり、図1(b)は図1(a)のA-A断面図であり、図1(c)及び図1(d)はそれぞれ図1(a)のX部分及びY部分の拡大図である。なお、図1(b)において、フィルタ収容部111のフランジ部に設けられたボルト穴及びボルト123は省略し、図1(c)及び図1(d)においては、フィルタ101とフィルタ収容部111のみを抜き出してそれ以外の部分を省略して示した。
【0030】
本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100は、
多孔質セラミックからなる複数の隔壁102で仕切られた一方向に延びる複数の流路103からなり、複数の流路103は、一方端101aが目封止部104bで目封止された第1の流路103bと、他方端101bのみが目封止部104aで目封止された第2の流路103aとを含む柱状のフィルタ101と、
フィルタ101の一方端101a側の端面(以下、第1の端面105aともいう。)の外縁部(以下、第1の外縁部106aともいう。図1(d)を参照。)に沿って配置された弾性体からなる第1のシール部材120a及びフィルタ101の他方端101b側の端面(以下、第2の端面105bともいう。)の外縁部(以下、第2の外縁部106bともいう。図1(c)を参照。)に沿って配置された弾性体からなる第2のシール部材120bと、
第2の流路103aに外部から水を供給するための供給口112aを備え、第1の外縁部106aに配置された第1のシール部材120aに当接する第1のフランジ部112bを有する供給部112、第1の流路103bから流出する水を外部に排出するための排出口113aを備え、第2の外縁部106bに配置された第2のシール部材120bに当接する第2のフランジ部113bを有する排出部113、並びに供給部112及び排出部113を接続するとともに、フィルタ101の外側面108を覆うフィルタ収容部111から一体的に構成されるハウジング110とを有し、
フィルタ101は、第1の外縁部106aに配置された第1のシール部材120aと第2の外縁部106bに配置された第2のシール部材120bとを介して、それぞれ供給部112の第1のフランジ部112bと排出部113の第2のフランジ部113bとによって固定されており、
フィルタ101の外側面108とハウジング110との間隙115の最大値が流路103の等価直径以下であることを特徴とする。ただし、等価直径は、フィルタ101の軸方向に直交する断面における任意の10本以上の流路103について断面積及び周長を求め、それらの平均値をそれぞれ平均流路断面積及び平均濡れ縁長さとしたとき、平均流路断面積の4倍の値を平均濡れ縁長さで除した値である。
【0031】
ここで外縁部とは、フィルタ101の端面の外周に沿い、フィルタ101の中心軸に向かって一定の長さの幅を有する部分をいい、第1の外縁部106a及び第2の外縁部106bの幅は、第1の端面105a及び第2の端面105bに開口する流路103のうちの少なくとも最外周部に存在する流路103を覆うに足りる範囲の長さである(図1(c)及び図1(d)を参照)。
【0032】
(1) フィルタ
水処理用セラミックフィルタユニット100(図1(a)を参照)の供給口112aより外部から供給された水は、フィルタ101を通過する際に溶存有機物等が除去されて、排出口113aより外部に排出される。フィルタ101を水が通過するとき、水中に含まれる溶存有機物等が多孔質セラミックの隔壁102の内部に形成された細孔からなる連通孔(不図示)の表面で吸着されて除去される。
【0033】
従って、水中の溶存有機物等を効率よく吸着、除去するためには、供給された水が流入する第2の流路103aと、隔壁102の内部で溶存有機物等が除去された水が流出する第1の流路103bとが互いに隣接するように構成されているのが好ましい。
【0034】
(a) ハニカム構造体
フィルタ101を構成するハニカム構造体11は、図3(a)及び図3(b)に示すように、柱状の形態をなし、多孔質セラミックからなる複数の隔壁102で仕切られた複数の流路103を有する。すなわち、ハニカム構造体11は、軸方向(流路方向)に延びる複数の流路103が、軸方向視(図3(b)を参照)でハニカム状に形成された構造を有する。図3(a)及び図3(b)で示すハニカム構造体11は円柱状であるが、柱状であればこれに限定されない。
【0035】
隔壁102を構成する基材は、アルミナ、シリカ、コーディエライト、チタニア、ムライト、ジルコニア、スピネル、炭化珪素、窒化珪素、チタン酸アルミニウム、リチウムアルミニウムシリケート等を主成分とするセラミックからなるのが好ましい。特に基材としては、アルミナ又はコーディエライトが好ましく、中でもコーディエライトが最も好ましい。コーディエライトとしては、主結晶相がコーディエライトであればよく、スピネル、ムライト、サフィリン等の他の結晶相、さらにガラス成分を含有しても良い。
【0036】
互いに隣接する流路103間を隔てる隔壁102の内部に形成された多数の細孔が連通してなる連通孔(不図示)の表面において、処理される水に含まれる溶存有機物等が吸着されて水が浄化される。隔壁102に形成される細孔のメジアン細孔径は、1~50μmであるのが好ましく、5~30μmであるのがより好ましく、10~20μmであるのが最も好ましい。ここで、メジアン細孔径は、隔壁の細孔径と累積細孔容積との関係を示す曲線において、全細孔容積の50%に相当する細孔容積での細孔径である。
【0037】
隔壁102の気孔率は25~70%であるのが好ましい。隔壁102の気孔率が25%以上であって、後述の吸着材を担持する場合は、連通孔を塞がずに担持することが容易となる。隔壁102の気孔率が70%以下であれば、隔壁102の機械的強度が水圧やハウジングへの装入作業に伴う衝撃力に対しても破損しないものとなる。
【0038】
限定されないが、ハニカム構造体11は隔壁102が軸方向視で格子状に設けられているのが好ましい。図3(a)~図3(c)は、隔壁102が格子状であり流路103が軸方向視で正方形をなすハニカム構造体11を示す。図3(c)において、隔壁102の厚さdは0.1~2 mmであるのが好ましく、厚さdと隔壁102によって形成される流路103の幅wとの比d/wは、式:0.25≦d/w≦1.25を満たすのが好ましい。隔壁102の厚さが0.1 mm以上及び/又は0.25≦d/wである場合には、隔壁102の機械的強度が水圧やハウジングへの装入作業に伴う衝撃力に対して破損しないものとなるので好ましい。また、連通孔の長さも十分に確保されるため、十分な吸着性能を得られるだけの金属酸化物粒子を担持可能となる。隔壁102の厚さdが2 mm以下及び/又はd/w≦1.25の場合には、水を透過させるために必要な送水の圧力を小さくすることができるために、エネルギー効率の高い水処理が可能となるので好ましい。
【0039】
流路103の軸方向視の断面形状は、図3(b)及び図3(c)に示すような正方形に限られず、他の四角形(長方形等)、三角形、六角形、それらの組合せ等の形状であっても良いが、一辺の長さwが1~8 mmの正方形であるのが好ましい。流路103の一辺の長さwが1 mm以上であると、溶存有機物等以外の異物である汚濁粒子がフィルタの第2の流路の開口部を塞ぎ難いので、処理能力が低下しにくく長期の使用が可能となる。一方、流路103の一辺が8 mm以下の場合、隔壁102の厚さdを薄くして通水抵抗を小さくした場合でも、水圧やハウジングへの装入作業に伴う衝撃力に対して破損しない程度にフィルタの強度を確保することができる。
【0040】
隔壁102には吸着性能を向上するための吸着材を担持しても良い。吸着材には、上記したセラミック(金属酸化物)、ナイロン、アラミド、ポリアミド、セルロース、ポリエチレン等の樹脂材料が挙げられるが、吸着には選択性があるので、除去しようとする物質に応じた材料を選択すれば良い。金属酸化物の粒子としては、αアルミナ、γアルミナ、酸化亜鉛、酸化銅等の粒子が挙げられる。担持される吸着材の厚さは、水圧の低下が問題とならない程度の厚さにするのが良く、具体的には、隔壁のメジアン細孔径の1/10以下の平均厚さとするのが好ましい。ここで、平均厚さは、吸着材の担持量(重量)と吸着材の比重から求めた体積を、水銀ポロシメータ等で測定したハニカム構造体11の比表面積で割ることで求められる。
【0041】
(b) 目封止部
フィルタは複数の流路103を有するハニカム構造体11の両端部に必要な目封止が施されて構成される。図2(a)及び図2(b)は、図3(a)及び図3(b)で示したハニカム構造体11の複数の流路103のうち、所定の流路端部に目封止部104a,104bを形成してなるフィルタ101を示す。フィルタ101において、目封止部104bによって一方端101aのみが目封止された第1の流路103bと、目封止部104aによって他方端101bのみが目封止された第2の流路103aとが、隔壁102を介して互いに隣接するように配置されている。処理される水は、一方端101aが目封止部104bで閉塞されている第1の流路103bには直接に流入しないで、一方端101aが開口する第2の流路103aに流入する。しかし第2の流路103aは他方端101bが目封止部104aで閉塞されているため、処理される水は隔壁102の連通孔を必ず通過して、他方端101bが開口する第1の流路103bに移動する構造であるため、この形態は水中の溶存有機物等を効率よく吸着、除去できて好ましい。
【0042】
目封止部104a,104bは、ハニカム構造体11(隔壁102の基材)と同一の材料、有機材料、その他の無機材料などの、処理される水に溶解しない材料で形成することができる。ハニカム構造体11と同一の材料で形成する場合は、セラミック材料からなるスラリーを流路103の所定の端部に注入し焼成することによって形成できる。有機材料としては、ポリイミド、ポリアミド、ポリイミドアミド、ポリウレタン、アクリル、エポキシ、ポリプロピレン、テトラフルオロエチレン等の材料が挙げられ、その他の無機材料としては、隔壁102を構成するセラミック以外のセラミック(アルミナ、シリカ、マグネシア、チタニア、ジルコニア、ジルコン、コージェライト、スピネル、チタン酸アルミニウム、リチウムアルミニウムシリケート等)、ガラス等が挙げられる。目封止部104a,104bの作製には公知の方法を用いることができる。
【0043】
目封止部104a及び104bの気孔率は、0~40%であるのが好ましく、隔壁102の気孔率より小さいのが好ましい。目封止部104a,104bの軸方向長さは、隔壁102の厚さより厚いのが望ましい。目封止部104a、104bに使用する材料の気孔率が40%超又は隔壁102の気孔率より大きい場合、処理される水が隔壁102だけでなく目封止部104a,104bを通過してしまうため、隔壁102に形成された細孔(連通孔)の表面に吸着されない溶存有機物等がフィルタ101から排出されるので好ましくない。
【0044】
(2) ハウジング
ハウジング110は、図1(a)及び図1(b)に示すように、フィルタ101の外側面108を覆って収容する筒状のフィルタ収容部111と、フィルタ101の第2の流路103aに外部から水を供給するための供給口112aを備える供給部112と、フィルタ101の第1の流路103bから排出される水を外部に排出するための排出口113aを備える排出部113とを有し、これらの部材が一体的に構成されているものである。ここでいう「一体的に構成」とは、供給口112aから供給された水が排出口113aを除く部位からは外部に流出しない程度の水密性を有する構成、という意味であって、図4に示すようにハウジング110の各構成部材は互いに分離可能であってもよい。図1(a)及び図4に示すハウジング110の例は、フィルタ収容部111に対し、供給部112と排出部113は分離可能な構成であるが、いずれもO-リング等のパッキング部材121を介してボルト123とナット124によりフィルタ収容部111に締結されることにより、ハウジング110として一体的に構成される形態である。なお、締結方法はこれに限定されず、例えばクランプによる方法などでもよい。
【0045】
供給部112と排出部113のうちのいずれか一方は、フィルタ収容部111と不可分に構成されていてもよい。例えば図5及び図6に示す形態のハウジング110'は、フィルタ収容部111'と排出部113'とが一体不可分に構成され、供給部112のみがフィルタ収容部111'にパッキング部材121を介してボルト123とナット124で締結される形態である。この形態とすることにより、ハウジング110'を構成する部材の数が少なくなってハウジング110'を組み立てる工数が減少するとともに、収容されるフィルタ101の交換も容易になるので好ましい。
【0046】
図1(a)及び図5に示すハウジング110(110’)は、SUS304、SUS316等の金属材料や、硬質の塩化ビニル(PVC)、ポリエチレン(PE)等の樹脂のような海水及びアルカリ性水溶液に耐性を有する材料から構成されているのが好ましい。この構成により、ハウジング110(110’)が腐食しにくくなるので本発明の水処理用セラミックフィルタユニットの使用可能期間を長くすることができる。
【0047】
フィルタ収容部111(111')、供給部112、及び排出部113(113')の各部材は同一の材料で構成されていてもよいし、これらのうちの少なくとも1つの部材は他の部材とは異なる材料から構成されてもよい。異なる材料で構成されることにより、使用する環境の温度範囲に対し、フィルタ101の熱膨張特性とハウジング110(110')を構成する各部材の異なる熱膨張特性とを勘案した寸法設計の自由度が高まるため、本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100(100')をより長い期間に渡って性能を維持可能なものとすることができる。
【0048】
(a)フィルタ収容部
図2(a)及び図2(b)に示すフィルタ101の軸方向に直交する断面において、任意の10本以上の流路103について断面積及び周長(流路103を囲む全ての内辺の長さの合計)を求め、それらの平均値をそれぞれ平均流路断面積Af及び平均濡れ縁長さWpとしたとき、流路103の等価直径Deは、平均流路断面積Afの4倍の値を平均濡れ縁長さWpで除した値(4Af/Wp)である。このとき、フィルタ101の外側面108とハウジング110(フィルタ収容部111)との間隙115(図1(b)を参照)の最大値がフィルタ101の流路103の等価直径De以下となるようにフィルタ収容部111を構成する。つまり図1(b)に示すように、円柱状のフィルタ101に外接する円筒の直径をDf、フィルタ収容部111の内径をDhとするとき、DhとDfとの差(Dh-Df)が等価直径Deの2倍以下となるようにフィルタ収容部111の内径Dhを構成するのが好ましい。フィルタ101の外側面108とフィルタ収容部111の内側面とがなす間隙115をこのような関係とすることにより、処理される水が間隙115に漏れ出たとしても、間隙115に滞留する時間を少なく抑えることができ、処理される水が満遍なくフィルタ101を通過することが可能となる。なお、平均流路断面積Af及び平均濡れ縁長さWpは、フィルタ101を構成する全流路(ただし、後述する不完全な流路は除く。)について断面積及び周長を測定して求めてもよいが、流路数が多いフィルタでは任意に選ばれた少なくとも10本の流路について測定すればよい。流路103の断面形状が一辺wの正方形である場合はAf=w2及びWp=4wなので、等価直径Deはwに一致する(De=w)。間隙115の最大値は0.1 mm以上であるのが好ましい。
【0049】
(b)供給部及び排出部
図1(a)において、供給部112はフィルタ101の第1の外縁部106a(図1(d)を参照)に配置された第1のシール部材120aに当接する第1のフランジ部112bを有しており、排出部113はフィルタ101の第2の外縁部106b(図1(c)を参照)に配置された第2のシール部材120bに当接する第2のフランジ部113bを有する。第1のフランジ部112bと第2のフランジ部113bは、次に説明する第1及び第2のシール部材120a,120bをフィルタ101との間に介在させることによってフィルタ101を固定するのに寄与する。
【0050】
(3)シール部材
図1(a)~図1(d)に示すように、フィルタ101は、第1の外縁部106aに配置された第1のシール部材120aと、第2の外縁部106bに配置された第2のシール部材120bとを介して、それぞれ供給部112の第1のフランジ部112bと排出部113の第2のフランジ部113bとにより固定されている。第1のシール部材120aは、供給口112aから供給された水が間隙115に直接に流入するのを防止する機能を有し、一方、第2のシール部材120bは、間隙115に漏れ出た水がフィルタ101に戻ることなく排出口113aから直接に流出するのを防止する機能を有する。これにより、供給口112aから供給される水のほぼ全量が満遍なくフィルタ101を通過できる効果を奏する。第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bはいずれも弾性体からなり、フィルタ101をハウジング110内に装入する際に緩衝材としての機能を果たしてフィルタ101の破損を防止する効果と、ハウジング110内に装入された状態においては適度な反発力を有してフィルタ101をハウジング110に確実に固定する効果を奏する。
【0051】
第1のシール部材120aはフィルタ101の第1の外縁部106aを覆い、第2のシール部材120bはフィルタ101の第2の外縁部106bを覆う形状(例えば、フィルタ101が円柱状である場合には、略円環状である。)であって、両者はフィルタ101の軸方向(流路103の方向)にのみ圧縮されるようにフィルタ101とハウジング110との間に介在し、間隙115には存在しないような構成としている。この構成によりフィルタ101の外側面108に対しては直接的な負荷がかかることなくフィルタ101を固定することができ、水処理用セラミックフィルタユニット100の耐久性を向上させることができる。
【0052】
第1及び第2のシール部材120a,120bは、フィルタ101の固定性と、間隙115に対するシール性とを良好にするために、軸方向の厚さ(以下、単に、厚さともいう。)に対して径方向の幅(以下、単に、幅ともいう。)が大きい扁平な断面形状を有するのが好ましく、軸方向視における外側の輪郭はフィルタ101の軸方向視の輪郭に対して同等、又はやや大きい寸法にするのが好ましい。
【0053】
好ましい厚さの値はフィルタ101の全長等によって異なるが、フィルタ101がハウジング110内に収容されて固定されたときの第1の及び第2のシール部材120a,120bの厚さは、第1の及び第2のシール部材120a,120bに負荷がかからない状態のときの厚さの75%以上とするのが好ましい。換言すると、ハウジング110とフィルタ101との間に介在して軸方向に負荷がかかった状態における、負荷がかからない状態に対する厚さの減少率(以下、つぶし率ともいう。)が25%以下になるように第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bの厚さ、硬度等を設定するのが好ましい。つぶし率が25%を超えるとシール部材120a,120bは弾性を失って永久ひずみを生じやすくなり、フィルタ101を固定する力と間隙115に対するシール性とが損なわれる虞がある。
【0054】
次に、フィルタ101がハウジング110内に収容されて固定されたときの第1の及び第2のシール部材120a,120bの幅について説明する。
例えば、ハニカム構造体11の外側面108に外壁を設けないフィルタ101を使用する場合、フィルタ101の外側面108には、外側面108の側の隔壁102の少なくとも一部が欠損する流路、すなわち外側面108に隔壁102で仕切られていない部分を有する流路(以下、不完全な流路107ともいう。図1(b)、図2(b)、図3(b)及び図3(c)を参照。)が存在する。このような不完全な流路107は、通常一方端101a及び他方端101bのいずれも目封止されていないため、処理される水が不完全な流路107に流入すると隔壁102を通過しないまま排出されてしまう虞がある。処理される水が満遍なくフィルタ101の隔壁102を通過するようにするためには、第1の及び第2の外縁部106a,106bの最外周に存在するこれらの不完全な流路107も第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bにより完全に覆う必要がある。従って、第1の及び第2のシール部材120a,120bの幅は、第1の及び第2の外縁部106a,106bにおける流路103の最大開口長よりも大きい値であることが必要である。ここで、流路103の最大開口長とは、例えば、流路103の端面の形状が正方形の場合はその対角線の長さである。このため、第1の及び第2のシール部材120a,120bの幅は流路の開口長よりも大きくなるようにするのが好ましい。また、第1の及び第2のシール部材120a,120bとハウジング110との偏心により複数の流路103を過多に塞ぐことのないように、第1の及び第2の外縁部106a,106bにおける互いに隣接する流路103のピッチの1.5~4.0倍にするのが好ましい。ここで、ピッチとは第1の及び第2の外縁部106a,106bにおける互いに隣接する流路103の隔壁102の厚さdと等価直径Deの和である。例えば流路103が一辺wの正方形の場合は等価直径Deはwに等しいので、ピッチは隔壁102の厚さdと流路の幅wの和d+wとなる。
【0055】
第1の及び第2のシール部材120a,120bは弾性体からなり、その硬度はJIS K6253に準拠するタイプAのデュロメータで測定することができる。硬度が小さすぎると、ハウジング110とフィルタ101との間に挟まれたときの反発力を十分に得ることができず、処理される水の一部がフィルタ101を通過することなく、間隙115を経て排出口113aより外部へ直接に流出しやすくなるので好ましくない。一方、硬度が大きすぎると、フィルタ101との接触部位の凹凸に対してならい難くなる。このためフィルタ101の特定の部位に力が集中することにより隔壁102の一部が欠けて、欠けたセラミックの小片が混入した水が、排出口113aから外部に流出する虞があるので好ましくない。第1の及び第2のシール部材120a,120bを構成する弾性体の硬度の適正範囲は、フィルタ101の強度やフィルタ101における接触部位の凹凸の状態によって異なるが、上記したタイプAのデュロメータで測定される硬度がA30~A80であるのが好ましく、A50~A70であるのがより好ましい。
【0056】
第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bを構成する弾性体は、海水、水酸化ナトリウム溶液及び塩酸等に対する耐薬品性を考慮して、ニトリルゴム(NBR)、エチレンプロピレンゴム(EPDM)、及びシリコーンゴムからなる群から選ばれた少なくとも1つの材料からなるのが好ましい。第1のシール部材120aと第2のシール部材120bとは互いに異なる材料から構成されていてもよい。
【実施例
【0057】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明はそれらに限定されるものではない。
【0058】
実施例1
カオリン、タルク、シリカ、水酸化アルミニウム及びアルミナの粉末を混合して、化学組成が50質量%のSiO2、36質量%のAl2O3及び14質量%のMgOとなるコーディエライト化原料粉末を得た。このコーディエライト化原料粉末に、成形助剤としてメチルセルロース及びヒドロキシプロピルメチルセルロース、造孔剤として熱膨張性マイクロカプセルを添加し、適切な量のイオン交換水を注入して、十分な混練を行い、ハニカム構造に押出成形可能な坏土を調製した。
【0059】
得られた坏土を押出してハニカム構造の成形体を作製し、乾燥後、軸方向及び径方向の長さを調整するために切削加工し、さらに1400℃で24時間焼成することにより、図3(a)~図3(c)に示すような、外側面108に隔壁102の少なくとも一部が欠損する不完全な流路107が存在する円柱状のハニカム構造体11を得た。
【0060】
得られたハニカム構造体11の流路103の一方端101a及び他方端101bが交互に目封止されるように、コーディエライト化原料からなる目封止材スラリーを充填した後、目封止材スラリーの乾燥及び焼成を行って、図2(a)及び図2(b)に示すような、外径Dfが127 mm、全長が152.4 mm、隔壁102の厚さが0.76 mm、流路103のピッチが2.75 mm、及び等価直径Deが1.99 mmである多孔質セラミックからなる円柱状のフィルタ101を得た。
【0061】
得られたフィルタ101を、第1のシール材120a及び第2のシール材120bを介して図6に示すようなハウジング110'に収容して固定して、図5に示すような本発明の水処理用セラミックフィルタユニット100'を以下のように作製した。
【0062】
フィルタ収容部111'、供給部112、及び排出部113'はいずれもSUS304からなり、フィルタ収容部111'は外径137 mm、内径129 mm、及び長さ160 mmであって、排出部113'と一体不可分に構成されたものであり、第2のフランジ部113bはフィルタ収容部111'の内側面から10 mmの幅を有するものを使用した。供給部112はフィルタ収容部111'と分離可能であって、ボルト123とナット124によりパッキング部材121を介してフィルタ収容部111'に締結される構造のものを用いた。フィルタ収容部111'に締結されたときの第1のフランジ部112bの幅は、フィルタ収容部111'の内側面から10 mmであった。
【0063】
第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bはいずれもニトリルゴム製(硬度A70)の円環状であり、負荷がかからない状態における外径は128 mm、内径は108 mm及び厚さは5 mmであった。
【0064】
フィルタ収容部111'と一体不可分の排出部113'の第2のフランジ部113bに第2のシール部材120bを配置してから、フィルタ収容部111'にフィルタ101を装入した。次いで、フィルタ101の第1の外縁部106aを覆うように第1のシール部材120aを配置し、さらに第1のフランジ部112bが第1のシール部材120aを覆うように供給部112を配置した後、パッキング部材(O-リング)121を介して軸方向に挟持しつつ、供給部112及び排出部113'をフィルタ収容部111'にボルト123とナット124により締結し、水処理用セラミックフィルタユニット100'を得た。この水処理用セラミックフィルタユニット100'は、フィルタ101の外側面108とハウジング110’(フィルタ収容部111')との間隙115の最大値が1.0 mmであった。
【0065】
ハウジング110'に固定された第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bの、負荷がかからない状態からの厚さの減少値(以下、つぶし代という。)は25℃において1.20 mmであった。負荷がかからない状態の厚さは5 mmであったので、ハウジング110'に固定されたときの第1及び第2のシール部材120a,120bの厚さはいずれも3.80 mmと測定された。つまりフィルタ101を固定した状態での第1及び第2のシール部材120a,120bは、負荷がかからない状態に対して76%の厚さ(つぶし率は24%)であった。なお、使用環境の温度範囲である10~40℃においても、フィルタ101及びハウジング110'の寸法の変化は0.1 mm以下とわずかであり、つぶし率はほとんど変化がなかった。
【0066】
比較例1
比較例1のフィルタは、目封止部を形成後のハニカム構造体の外周に、コーディエライト粒子とコロイダルシリカを含有するコーティング剤をコーティングした後、乾燥及び焼成して外壁を設けた以外は、実施例1と同様な方法で作製したものであり、外径127 mm、全長152.4 mm、隔壁厚さ0.76 mm及びピッチ2.75 mmの多孔質セラミックからなるフィルタであった。
【0067】
得られたフィルタを用いて、図8に示すような比較例1の水処理用セラミックフィルタユニット200を作製した。比較例1の水処理用セラミックフィルタユニット200は、比較例1のフィルタ201と、フィルタ201の両端面を把持部材(不図示)を介して支持するフィルタ支持体210(ステンレス鋼製のメッシュ)と、フィルタ201及びフィルタ支持体210を収容するSUS304製のハウジング211とから構成されたものである。この水処理用セラミックフィルタユニット200は、フィルタ201の外側面とハウジング211との間隙の最大値が2.0 mmであった。
【0068】
(1)模擬汚濁水の濾過試験
汚染物質の捕捉性能を比較するために、実施例1及び比較例1の水処理用セラミックフィルタユニットを用いて模擬汚濁水の濾過試験を行った。ここで模擬汚濁水とは、模擬的な汚濁粒子として粒度#1000(平均粒子径約15μm)のSiC粒子を水1リットルあたり100 mg添加して作製したものである。実施例1及び比較例1の水処理用セラミックフィルタユニットにそれぞれ毎分35リットルの模擬汚濁水を循環させることにより繰り返し通水し、通水開始から30分後、60分後、及び360分後において、実施例1及び比較例1の水処理用セラミックフィルタユニットにおける供給口側及び排出口側の水をサンプリングし、それらのSiC濃度を測定した。結果を表1に示す。
【0069】
【表1】
【0070】
表1において、実施例1では既に60分後には供給口側及び排出口側のいずれの水もSiC濃度が0 mg/Lとなったのに対し、比較例1では360分を経過してもなお、供給口側の水のSiC濃度が17 mg/L、排出口側の水のSiC濃度は18 mg/Lであった。実施例1の水処理用セラミックフィルタユニット100’は汚濁粒子の捕捉性能が高いことがわかった。実施例1の水処理用セラミックフィルタユニット100'は、第1のシール部材120aと第2のシール部材120bにより模擬汚濁水が満遍なくフィルタ101内を通過するため捕捉効率が高いと考えられる。一方比較例1の水処理用セラミックフィルタユニット200では、フィルタの外壁とハウジングの内壁との間に模擬汚濁水が侵入しやすく、フィルタを通過しない、つまりフィルタに捕捉されないで通過する水が相当量あるため捕捉効率が悪かったと考えられる。
【0071】
実施例2
実施例1と同様にして作製したフィルタ(外径125 mm、全長152.4 mm、隔壁厚さ0.76 mm、セルピッチ2.75 mm及び等価直径1.99 mm)を、構成材料がポリエチレン製である以外は実施例1と同様のハウジング(フィルタ収容部が外径140 mm、内径126 mm、及び長さ161.6 mm)に、ニトリルゴム製(硬度A70)の第1のシール部材120a及び第2のシール部材120b(いずれも負荷がかからないときの外径126 mm、内径106 mm、厚さ5 mm)を介して固定した水処理用セラミックフィルタユニットを作製した。上記いずれの寸法も25℃のときの値である。水処理用セラミックフィルタユニットとして25℃において固定されたときに第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bのつぶし代はいずれも0.4 mm(つぶし率8%)、すなわちいずれの厚さも負荷がかからない状態の厚さの92%であった。使用環境温度範囲の10℃~40℃において、フィルタ101の寸法はほとんど変化しないが、ポリエチレン製のハウジング110'の軸方向長さは、25℃における値を基準にしてプラス側に0.32 mm、マイナス側に0.32 mmの範囲で変化したので、第1及び第2のシール部材120a,120bのつぶし代はこれに伴い、その半分であるプラス側に0.16 mm、マイナス側に0.16 mm変化したことになる。つまり、10℃においては、つぶし代はいずれも0.56 mm(つぶし率11%)、すなわち第1及び第2のシール部材120a,120bの厚さは負荷がかからない状態の厚さの89%であった。40℃においては、いずれもつぶし代は0.24 mm(つぶし率5%)、すなわち第1及び第2のシール部材120a,120bの厚さは負荷がかからない状態の厚さの95%であった。
【0072】
比較例2
実施例1と同様にして作製したフィルタ(外径125 mm、全長152.4 mm、隔壁厚さ0.76 mm、ピッチ2.75 mm及び等価直径1.99 mm)を、実施例2と同様のハウジング(フィルタ収容部が外径140 mm、内径126 mm、及び長さが161.6 mm)に、第1のシール部材120a及び第2のシール部材120bに替えて、断面が円形のO-リングを介して固定して比較例2の水処理用セラミックフィルタユニットを作製した。O-リングは、ニトリルゴム製(硬度A70)で、規格サイズのP-115(外径126 mm、内径114.6 mm、線径5.7 mm)のものを用いた。比較例2の水処理用セラミックフィルタユニットでは、O-リングのつぶし代を規格値である1.1 mmになるようにフィルタ収容部の長さを161.6 mmとしたものである。
【0073】
(2)使用温度範囲での被処理水のフィルタ通過の確認
実施例2及び比較例2の水処理用セラミックフィルタユニットを、10℃、25℃及び40℃の環境で使用したときの第1及び第2のシール部材120a,120b及びO-リングの接触面幅を表2に示す。ここで、接触面幅とは、平行した2枚の板の間にシール部材120a,120b及びO-リングを挟持してつぶしたときに、第1及び第2のシール部材120a,120b及びO-リングが1枚の板と接触している部分の径方向の幅である。実施例2で使用した第1及び第2のシール部材120a,120bは接触面幅がほとんど変わらないのに対し、比較例2で使用したO-リングは温度によって接触面幅が変化した。また、規格品のO-リングを用いた比較例2の水処理用セラミックフィルタユニットは、供給口より供給された水の一部がフィルタを通過せずに排出口から排出されてしまうことがわかった。これはO-リングの接触面幅が流路のピッチの1.5倍である4.1 mmよりも小さいため、フィルタの外側部に存在する目封止されていない一部の流路の両端部が覆われていなかったためである。
【0074】
【表2】
図1(a)】
図1(b)】
図1(c)】
図1(d)】
図2(a)】
図2(b)】
図3(a)】
図3(b)】
図3(c)】
図4
図5
図6
図7
図8