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特許7310867超純水中のイオン成分の分析方法及び装置
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】超純水中のイオン成分の分析方法及び装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 33/18 20060101AFI20230711BHJP
   C02F 1/469 20230101ALI20230711BHJP
   B01D 61/44 20060101ALI20230711BHJP
   B01D 61/46 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
G01N33/18 C
C02F1/469
B01D61/44 500
B01D61/46 500
B01D61/44 510
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2021158070
(22)【出願日】2021-09-28
(65)【公開番号】P2023048642
(43)【公開日】2023-04-07
【審査請求日】2022-09-06
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)令和2年度、国立研究開発法人科学技術振興機構、研究成果展開事業、産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000001063
【氏名又は名称】栗田工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504159235
【氏名又は名称】国立大学法人 熊本大学
(74)【代理人】
【識別番号】100086911
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 剛
(74)【代理人】
【識別番号】100144967
【弁理士】
【氏名又は名称】重野 隆之
(72)【発明者】
【氏名】星 重行
(72)【発明者】
【氏名】加藤 俊正
(72)【発明者】
【氏名】福井 長雄
(72)【発明者】
【氏名】大平 慎一
(72)【発明者】
【氏名】戸田 敬
【審査官】高田 亜希
(56)【参考文献】
【文献】特開2021-084045(JP,A)
【文献】特開2007-313421(JP,A)
【文献】特開平05-220479(JP,A)
【文献】特開平10-232226(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 33/00 -33/46
G01N 35/00 -37/00
G01N 30/00 -30/96
C02F 1/469
B01D 61/44
B01D 61/46
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料超純水を濃縮して分析手段で分析する超純水中のイオン成分の分析方法において、
試料超純水を電気透析装置により濃縮することを特徴とする純水中のイオン成分の分析方法であって、
前記電気透析装置は、陽極と陰極との間に第1アニオン交換膜、透析膜及び第2アニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、第1生成室、第2生成室及び陰極室がこの順に配置されている第2電気透析装置であり、
第1生成室に試料超純水を通水し、
陽極室及び陰極室に硝酸水溶液を通水し、
透析処理によりNO イオンを、アニオン交換膜を透過させて超純水中に移動させることにより生成させた高純度硝酸水溶液を第2生成室に通水し、
該第2生成室からの濃縮水を前記分析手段で分析する
超純水中のイオン成分の分析方法。
【請求項2】
前記第2電気透析装置の第2生成室に通水する高純度硝酸水溶液は、硝酸塩水溶液を第1電気透析装置で透析処理することにより生成させたものである請求項1の超純水中のイオン成分の分析方法。
【請求項3】
前記第1電気透析装置は、陽極と陰極との間にバイポーラ交換膜及びアニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、硝酸生成室及び陰極室がこの順に配置されている電気透析装置であり、
陽極室及び硝酸生成室に超純水を通水し、
陰極室に前記硝酸塩水溶液を通水し、
硝酸生成室から前記高純度硝酸水溶液を取り出す、
請求項2の超純水中のイオン成分の分析方法。
【請求項4】
前記硝酸塩は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、又は硝酸リチウムである請求項2又は3の超純水中のイオン成分の分析方法。
【請求項5】
試料超純水を濃縮する電気透析装置と、
該電気透析装置で濃縮された濃縮水中のイオン濃度を測定する分析手段と
を有する純水中のイオン成分の分析装置であって、
前記電気透析装置は、陽極と陰極との間に第1アニオン交換膜、透析膜及び第2アニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、第1生成室、第2生成室及び陰極室がこの順に配置されている第2電気透析装置であり、
第1生成室に試料超純水を通水し、
陽極室及び陰極室に硝酸水溶液を通水し、
透析処理によりNO イオンを、アニオン交換膜を透過させて超純水中に移動させることにより生成させた高純度硝酸水溶液を第2生成室に通水し、
該第2生成室からの濃縮水を前記分析手段で分析する
超純水中のイオン成分の分析装置。
【請求項6】
前記第2電気透析装置の第2生成室に通水する前記高純度硝酸水溶液を生成させるための第1電気透析装置を有する、請求項5の超純水中のイオン成分の分析装置。
【請求項7】
前記第1電気透析装置は、陽極と陰極との間にバイポーラ交換膜及びアニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、硝酸生成室及び陰極室がこの順に配置されている電気透析装置であり
陽極室及び硝酸生成室に超純水を通水し、
陰極室に硝酸塩水溶液を通水し、
硝酸生成室から前記高純度硝酸水溶液を取り出す、
請求項6の超純水中のイオン成分の分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超純水中のイオン成分を分析する方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
超純水中の微量溶存イオンの分析には蒸発濃縮法が用いられることが多い。例えば、金属陽イオンは、石英製ロータリーエバポレータで超純水を濃縮し、電気加熱式原子吸光光度計や、誘導結合プラズマ質量分析計により検出される(JIS K0553)。しかし、この方法は、煩雑な操作を人の手によって行うことによる汚染や蒸発時に溶媒の気化と一緒に飛散するなどのリスクがある。
【0003】
特許文献1には、試料超純水をクリーンエア中に噴霧し、生じた液滴をクリーンホットエアで蒸発させ、蒸発残渣よりなる乾燥粒子をメンブレンフィルターで捕集し、分光分析する方法が記載されている。
【0004】
特許文献2には、超純水を、イオン交換基を有した多孔質膜に通水し、多孔質膜に捕捉された不純物を表面分析装置で分析する方法が記載されている。
【0005】
特許文献3の実施例には、超純水をイオン吸着膜に通水して超純水中の金属を吸着させた後、硝酸で溶離し、溶離液についてICP-MS測定する方法が記載されている。
【0006】
特許文献4には、超純水を濃縮カラムに通水して濃縮するプロセスを有した超純水中の極微量イオン分析方法が記載されている。
【0007】
しかし、これら特許文献1~4に記載の方法も、手間がかかったり、長時間を要したりする等の短所がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開平6-130007号公報
【文献】特開2001-153855号公報
【文献】特開2021-84045号公報
【文献】特開2002-168845号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、従来の薬液や操作由来の汚染によるブランク上昇および長時間を要する分析による水質診断の遅れなどの問題点をクリアして、汚染なくブランク低減化を実現し、高感度で且つオンタイムで濃縮、分析することができる純水中のイオン成分の分析方法及び装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の純水中のイオン成分の分析方法は、試料超純水を濃縮して分析手段で分析する超純水中のイオン成分の分析方法において、試料超純水を電気透析装置により濃縮することを特徴とする。
【0011】
本発明の純水中のイオン成分の分析装置は、試料超純水を濃縮する電気透析装置と、該電気透析装置で濃縮された濃縮水中のイオン濃度を測定する分析手段とを有する。
【0012】
本発明の一態様では、前記電気透析装置は、陽極と陰極との間に第1アニオン交換膜、透析膜及び第2アニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、第1生成室、第2生成室及び陰極室がこの順に配置されている第2電気透析装置であり、第1生成室に試料超純水を通水し、陽極室及び陰極室に硝酸水溶液を通水し、透析処理によりNO イオンを、アニオン交換膜を透過させて超純水中に移動させることにより生成させた高純度硝酸水溶液を第2生成室に通水し、該第2生成室からの濃縮水を前記分析手段で分析する。
【0013】
本発明の一態様では、前記第2電気透析装置の第2生成室に通水する高純度硝酸水溶液は、硝酸塩水溶液を第1電気透析装置で透析処理することにより生成させたものである。
【0014】
本発明の一態様では、前記第1電気透析装置は、陽極と陰極との間にバイポーラ交換膜及びアニオン交換膜がこの順に配置され、陽極から陰極に向って陽極室、硝酸生成室及び陰極室がこの順に配置されている電気透析装置であり、陽極室及び硝酸生成室に超純水を通水し、陰極室に硝酸塩水溶液を通水し、硝酸生成室から前記高純度硝酸水溶液を取り出す。
【0015】
本発明の一態様では、前記硝酸塩は、硝酸カリウム、硝酸ナトリウム、又は硝酸リチウムである。
【発明の効果】
【0016】
本発明では、超純水中の溶存イオンを電気透析装置で連続的に濃縮して測定器へと直接導入する。試料超純水と得られる濃縮液をクローズドなフロー系でハンドリングすることにより、測定環境からの汚染が防止される。
【0017】
本発明の一態様では、リアルタイムな濃縮を実現する電気透析装置(イオン抽出デバイス)にも、デバイスの構造、膜の選択、溶液チャネルの作り方などに改良を加えることにより、デバイス内での汚染による影響が排除される。
【0018】
本発明の一態様によると、試料超純水中の溶存イオンを連続的に濃縮し、測定器へ直接導入することにより、高感度な連続モニタリングも達成できる。濃縮プロセスすべてをフローデバイス内のクローズドな系で行うため、周辺環境からの汚染がない。また、無人かつ全自動でも動作するため、人的汚染もない。さらに、試料超純水中の微粒子は膜透過できずに抽出されないため、夾雑物の除去も濃縮と同時に達成され、感度も精度も向上できる。
【0019】
本発明の一態様では、イオンの抽出に用いる酸を任意の濃度で高純度に安定供給可能な第1電気透析装置(酸溶液ジェネレーター)を用いる。また、標準溶液の調製においても容器からの溶出レベルが異なることによる精度低下を防止するため、容器内にブランク試料水を入れ、減少量をその質量でモニタリングしながら、適宜、目的成分の標準溶液を添加していく。極低濃度を連続測定する際には、定期的にブランク試料を測定することが望ましいので、本発明の一態様では、測定後の試料溶液を再利用してブランク試料をインラインで精製、供給する。
【0020】
本発明によると、上述の通り、超純水中の金属イオン等の濃度を連続的に濃縮できるので、半導体工場などの現場オンライン分析が可能となる。また、本発明の一態様によると、ブランク水や薬液の高純度供給が可能である。ブランク低減及び省スペース化も可能である。
【0021】
本発明によると、早期の水質診断が可能となり、たとえば超純水メンテナンス後の立上り水質を素早く判断することにより、工場におけるコスト損失を防ぐことができる。さらに、将来、AI、IoTに伴う工場の全自動化、無人化に対応していくことが可能となる。
【0022】
また、従来では、現場で採取した試料溶液を清浄なクリーンルームに持ち帰ってから一連の操作を行っているが、本発明によると、現場で採取と同時にインラインで濃縮しフラクションごとに採取することが可能である。このようにすれば、輸送コストの低下、高い時間分解能での測定も実現できる。本発明は、溶存イオンに対してユニバーサルな手法であり、後段の測定器にインラインセンサーを設ければ、現場で従来よりもはるかに高い感度で連続モニタリングすることも可能である。本発明の一態様では、単に溶存イオンを濃縮するだけでなく、極低濃度でも精度よく測定するために、酸のインライン生成器、試料超純水からブランク水を調製する。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】実施の形態に係る純水中のイオン成分の分析方法及び装置の説明図である。
図2】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図1を参照して実施の形態に係る超純水中のイオン成分の分析方法及び装置について説明する。なお、本実施の形態では、超純水中の金属イオン濃度は10ng/L以下であるが、これに限定されない。
【0025】
この純水中のイオン成分の分析方法及び装置では、第1電気透析装置10及び第2電気透析装置20を用いる。
【0026】
第1電気透析装置10は、陽極11と陰極12との間にバイポーラ膜13及びアニオン交換膜14を配置し、陽極11とバイポーラ膜13との間に陽極室15を形成し、バイポーラ膜13とアニオン交換膜14との間に高純度硝酸水溶液の硝酸生成室16を形成し、アニオン交換膜14と陰極12との間に陰極室17を形成したものである。
【0027】
バイポーラ膜とは陽イオン交換膜と陰イオン交換膜とを貼り合わせた構造を有する複合膜である。バイポーラ膜は、水の電気分解に用いる隔膜として、或いは、酸とアルカリの中和生成物である塩の水溶液から酸とアルカリを再生する際の分離膜等として従来より広く使用されている。なお、バイポーラ膜13では、理論水電解電圧(0.83V)以上の電圧を印加することによって水解離が発生するので、電流は流れる。
【0028】
バイポーラ膜13を備えた第1電気透析装置10にあっては、陽極室15及び硝酸生成室16内のイオンは、それぞれバイポーラ膜13のカチオン交換膜とアニオン交換膜により膜透過が遮断されるため、バイポーラ膜13を透過することはない。
【0029】
陽極11と陰極12との間に電圧を印加した状態で陽極室15及び硝酸生成室16に超純水を供給し、陰極室17にKNO水溶液を供給すると、陰極室17内のNO イオンがアニオン交換膜14を透過して硝酸生成室16に移動する。陰極室17内のカチオンは、アニオン交換膜14を透過しないので、硝酸生成室16に移動しない。バイポーラ膜13の作用によって水が解離してHが生じる。このようにして、硝酸生成室16で高純度な硝酸水溶液が連続的に生成し、取出ライン18を介して取り出され、第2電気透析装置20の第2生成室28に送水される。なお、上記KNO水溶液の濃度は1mmol/L~10mmol/L程度であるが、これに限定されない。
【0030】
第2電気透析装置20は、陽極21と陰極22との間にアニオン交換膜23、透析膜24及びアニオン交換膜25をこの順に配置し、陽極21とアニオン交換膜23との間に陽極室26を形成し、アニオン交換膜23と透析膜24との間に脱イオン超純水生成用の第1生成室27を形成し、透析膜24とアニオン交換膜25との間に濃縮水生成用の第2生成室28を形成し、アニオン交換膜25と陰極22との間に陰極室29を形成したものである。なお、透析膜としては、十分に洗浄した再生セルロース製やセルロースエステル製のものなどを用いることができる。使用する透析膜の分画分子量は、6000~10,000が適するが、これに限定されない。
【0031】
陽極21と陰極22との間に電圧を印加した状態で陽極室26及び陰極室29にそれぞれ硝酸水溶液よりなる電極水を供給し、第1生成室27に試料水ライン30を介して試料超純水を供給し、第2生成室28に、第1電気透析装置10からの高純度HNO水溶液を供給する。なお、陽極室26及び陰極室29に供給する硝酸水溶液の濃度は10mmol/L~30mmol/L程度であるが、これに限定されない。
【0032】
これにより、第1生成室27内を流れる試料超純水中のカチオンが透析膜24を透過して第2生成室28に移動する。また、陰極室29内を流れる硝酸水溶液中のNO がアニオン交換膜25を透過して第2生成室28に移動する。これにより、第2生成室28からは、試料超純水中から移動してきたカチオンと、硝酸イオンとを含んだ濃縮水が流出する。第1生成室27への試料超純水の供給量、第2生成室28への高純度硝酸水溶液の供給量及び印加電圧を調整することにより、試料超純水よりもカチオン濃度が高くなった濃縮水が得られる。
【0033】
この濃縮水をライン31,32を介してICP-MS等の分析装置に供給して分析し、測定値を濃縮比で除算することにより、試料超純水中のカチオン濃度を高精度にて求めることができる。
【0034】
第1生成室27に供給された試料超純水中のアニオンは、アニオン交換膜23を通って陽極室26に移動し、カチオンは前述の通り透析膜24を通って第2生成室28に移動するので、第1生成室27からは高度に脱イオン処理された高純度の(試料超純水よりもイオン濃度が低い)脱イオン超純水が得られる。この脱イオン超純水は、ライン40を介して取り出され、ブランク水や電気透析装置の洗浄水等に用いることができる。
【0035】
なお、この実施の形態では、第2電気透析装置20は、4個の室26~29を備えた4室構造となっている。電気透析装置としてはアニオン交換膜23と透析膜24との間にさらに透析膜(第2透析膜)を配置し、透析膜24と第2透析膜との間に試料超純水を供給する5室構造のものがある。この5室構造の電気透析装置は、カチオンとアニオンを同時に分離、精製、濃縮する場合に用いられる。カチオンとアニオンのどちらかを評価対象とする場合は4室構造の電気透析装置を用いるのが望ましい。本システムにおいては超純水中のカチオンを分析対象としているため、4室構造の電気透析装置を用いる。
【0036】
前述の通り、試料超純水中のカチオンが透析膜24を透過し、第2生成室28へ移動する。第1及び第2生成室27,28の流量比及び電流値をコントロールすることにより濃縮倍率が決まる。陽極室26及び陰極室27にアイソレーター層としてHNO溶液が流れることにより、試料水および濃縮水への汚染物の混入や電極部に接触する膜の高温劣化を防ぎ、電圧、電流効率を向上させることができる。
【0037】
また、前述の通り、第1生成室27からは脱イオン超純水が得られるので、これを清浄なブランク水やパージ水、リンス水等として利用することができる。例えば、ライン41を介してブランク水として循環、再利用することにより、第2電気透析装置20の濃縮動作前のブランク水として利用したり、分析試料を濃縮、分析するときの各試料の濃縮前後のライン洗浄に利用することができる。
【0038】
本システムにおけるカチオン(金属イオン)の定量分析においては、第2電気透析装置20を用いた濃縮ブランク濃度(ブランク水を濃縮したときの金属ブランク濃度)とそれぞれの目的とする定量分析範囲の金属イオン濃度により検量関係を求めておく。オンサイトにおける汚染防止のため、予め用意した超純水へ金属標準液を添加し、徐々に添加量を増やすことにより濃度の異なる濃度既知水溶液を調製する。なお、金属標準液の添加に際しては、金属標準液が添加された超純水を重量測定して金属標準液の添加量を検知するのが好ましい。これにより、金属濃度ごとに標準液ボトルを用意することなく検量線作成および第2電気透析装置20の定常性能を確認することができる。検量線作成時などは、第2電気透析装置20へ供給して減少した分の超純水もしくは金属標準液の重量に対して、必要な金属標準原液を添加する。金属標準液ボトル、重量測定器などは局所クリーン環境内に常時設置し、たとえば小型のNガスボックスなどを用いることが望ましい。
【0039】
本システムを用いたカチオン(金属)分析方法の各工程および条件の好適例を以下に説明する。
【0040】
[(1) 立上げ工程]
第1生成室27へブランク水(脱イオン超純水)をライン41を介して供給し、第2生成室28へは第1電気透析装置10で生成させた高純度HNO水溶液をライン18を介して供給し、陽極室26及び陰極室29にHNO水溶液を各々供給し、装置全体を初期洗浄する。初期洗浄中、陽極21、陰極22間に適度に電圧を印加し、第2電気透析装置20内を洗浄する。第2生成室28の流出水は排水ライン33を介して排出する。ICP-MS導入ライン32は別途用意した高純度のHNO水溶液にてフラッシングしておく。
【0041】
[(2) 検量線作成工程]
第1生成室27にブランク水(脱イオン超純水)又は調製した金属標準液添加超純水を供給し、第2生成室28に第1電気透析装置10からの高純度HNO水溶液を供給する。陽極室26及び陰極室29にHNO水溶液を各々供給する。最初にブランク水にて電圧印加による濃縮ブランク値を求めた後、金属標準液添加超純水を用いて検量線を作成する。通水する金属標準液添加超純水の濃度を変更する時のインターバルでは、第1生成室27からのブランク水をライン41で第1生成室27に循環供給すると共に電圧印加し初期化洗浄を行う。その際、第2生成室28からの濃縮水は排水ライン33に排出する。検量線作成のための測定時には濃縮水をICP-MSに導入して分析を行う。
【0042】
[(3) 試料濃縮・分析工程]
第1生成室27に試料超純水を供給し、第2生成室28に第1電気透析装置10からの高純度HNO水溶液を供給する。陽極室26及び陰極室29にHNO水溶液を各々供給する。陽極21、陰極22間に電圧を印加し、第2生成室28からの濃縮水をICP-MSへライン31,33を介して導入しオンライン分析する。測定後、第1生成室27に対し、ライン41を介して、第1生成室27からのブランク水を循環させた後、再び試料超純水を供給して二回目のオンライン分析を行う。ブランク水循環中も陽極、陰極間に電圧を印加してもよく、試料超純水の測定インターバル間の濃縮ブランクをICP-MS分析してブランク濃度を確認してもよい。
【0043】
[(4) 立下げ工程]
第1生成室27にライン41を介してブランク水(脱イオン超純水)を供給し、第2生成室28へは第1電気透析装置10からの高純度HNO水溶液を供給する。陽極室26及び陰極室29にHNO水溶液を各々供給する。陽極、陰極間に電圧を印加し、第2電気透析装置20内を初期化洗浄する。洗浄排水は、排水ライン33を介して排出する。ICP-MS導入ライン31,32は別途用意した高純度のHNO水溶液にてフラッシングする。
【0044】
初期化洗浄後、第2生成室28に超純水を供給する。陽極室26及び陰極室29にも超純水を供給する。なお、このとき、第1電気透析装置10では通電を停止した状態として、室15,16,17に超純水を通水する。このようにすべての室を洗浄した後、各室への通水を停止し、水封状態にしておく。
【実施例
【0045】
以下の第1電気透析装置10、第2電気透析装置20及びICP-MSを用いて超純水中の金属イオン濃度測定を以下の条件で行った。
【0046】
[実験方法]
<第1電気透析装置>
電極面積:2cm
バイポーラ膜:株式会社アストム製ネオセプタ BP-1E
アニオン交換膜:AGCエンジニアリング株式会社製、型番DSVN
陽極・バイポーラ膜間隔:0.1mm
バイポーラ膜・アニオン交換膜間隔:0.13mm
アニオン交換膜・陰極間隔:0.13mm
各室の流入部から流出部までの距離:40mm
【0047】
<第2電気透析装置>
電極面積:2cm
透析膜:スペクトラポア社製セルロースエステル透析用チューブ(商品コード131276)
アニオン交換膜:AGCエンジニアリング株式会社製、型番DSVN
陽極・アニオン交換膜間隔:0.1mm
アニオン交換膜・透析膜間隔:0.13mm
透析膜・アニオン交換膜間隔:0.13mm
アニオン交換膜・陰極間隔:0.1mm
各室の流入部から流出部までの距離:40mm
【0048】
<分析装置>
ICP-MS:Thermo Scientific社製、iCAP-RQ 測定時/KEDモード
金属標準液:関東化学社製、ICP混合標準溶液H(20262-23)
【0049】
<装置立上げ/フラッシング時の通水及び操作条件>
<<第2電気透析装置、ICP-MS>>
試料水:超純水、5mL/min
第2生成室28の給水:HNO(1mM)、0.1mL/min
陽極及び陰極給水:HNO(10mM)、2mL/min
ICP-MS導入水:HNO(1mM)、0.1mL/min
・第1生成室27流出水を第1生成室27入口に循環
・第2生成室28流出濃縮水は廃棄
【0050】
<<第1電気透析装置>>
陽極室給水:超純水、2mL/min
陰極室給水:KNO(10mM)、2mL/min
硝酸生成室16給水:超純水、0.1mL/min
【0051】
<金属標準液を用いた濃縮・分析時の通水及び操作条件>
<<第2電気透析装置、ICP-MS>>
試料水:超純水、5mL/min
第2生成室28の給水:HNO(1mM)、0.1mL/min
陽極室及び陰極室給水:HNO(10mM)、2mL/min
ICP-MS導入水:HNO(1mM)、0.1mL/min
・第1生成室27流出水を第1生成室27入口に循環
・第2生成室28からの濃縮水は、分析時にICP-MSに導入
・印加電圧:50V(電流値/約2~5mA)
【0052】
<<第1電気透析装置>>
陽極室給水:超純水、2mL/min
陰極室給水:KNO(10mM)、2mL/min
硝酸生成室16給水:超純水、0.1mL/min
電流値:約0.23mA
【0053】
<分析対象元素>
Na、Mg、Al、K、Ca、Cr、Mn、Fe、Co、Rb、Sr、Ni、Cu、Zn、Cd、Pb、Cs、Ba、Bi
【0054】
<試料水中の金属濃度>
1~25ng/L
【0055】
[実験結果]
上記各金属1~25ng/Lの、50倍濃縮評価結果を図2に示す。図2の各グラフにおいて、縦軸はICP-MSの検出信号強度(cps)である。横軸は各金属イオンの濃度である。金属イオンの種類はグラフ中に記載した。図2の通り、各金属イオンの極低レベルの濃度が高精度で測定された。
【符号の説明】
【0056】
10 第1電気透析装置
11,21 陽極
12,22 陰極
13 バイポーラ膜
14,23,25 アニオン交換膜
15,26 陽極室
16 硝酸生成室
17,29 陰極室
20 第2電気透析装置
24 透析膜
27 第1生成室
28 第2生成室
図1
図2