(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物及び光学部品
(51)【国際特許分類】
C09J 183/05 20060101AFI20230711BHJP
C09J 11/04 20060101ALI20230711BHJP
C09J 171/00 20060101ALI20230711BHJP
C09J 11/06 20060101ALI20230711BHJP
C09J 183/07 20060101ALI20230711BHJP
【FI】
C09J183/05
C09J11/04
C09J171/00
C09J11/06
C09J183/07
(21)【出願番号】P 2021540708
(86)(22)【出願日】2020-08-04
(86)【国際出願番号】 JP2020029732
(87)【国際公開番号】W WO2021033529
(87)【国際公開日】2021-02-25
【審査請求日】2022-01-20
(31)【優先権主張番号】P 2019150793
(32)【優先日】2019-08-21
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】越川 英紀
【審査官】川嶋 宏毅
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-216679(JP,A)
【文献】特開2016-069615(JP,A)
【文献】特開2014-005328(JP,A)
【文献】特開2014-091778(JP,A)
【文献】特開2015-031858(JP,A)
【文献】特開2015-110730(JP,A)
【文献】国際公開第2012/133557(WO,A1)
【文献】特開2010-202857(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09J 11/04,11/06,
171/00,183/05,
183/07
C08L 71/00,83/05
C08K 5/5435,5/5415
C09K 3/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)
下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される、1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物:100質量部、
【化1】
(式(2)中、R
1
及びR
2
は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1
は互いに独立し、R
2
も互いに独立し、R
1
及びR
2
の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
3
は互いに独立して、水素原子、又は非置換若しくは置換の1価の炭化水素基であり、c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
【化2】
(式(3)中、R
1
及びR
2
は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1
は互いに独立し、R
2
も互いに独立し、R
1
及びR
2
の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
4
は互いに独立して、炭素数1~6のアルキレン基であり、R
5
は互いに独立して、水素原子又はフッ素置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基である。c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
(B)1分子中に、1価のパーフルオロアルキル基若しくは1価のパーフルオロオキシアルキル基を有するか、又は2価のパーフルオロアルキレン基若しくは2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有し、さらにケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)を2個以上有し、かつ分子中にエポキシ基及びケイ素原子に直結したアルコキシ基を有さない含フッ素オルガノ水素シロキサン、
(C)フッ化ナトリウム:0.1~120質量部、
(D)白金族金属系触媒:(A)成分に対して白金族金属原子の質量換算で0.1~2,000ppm
(E)1分子中に、ケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)と、1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基と、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基又はその両方とを有するオルガノポリシロキサン:0.1~20質量部
を含有する硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物であって、前記(B)成分の配合量が、該組成物中に含まれるアルケニル基1モルに対して、前記(B)成分中のケイ素原子に直結した水素原子が0.5~3モルとなる量であることを特徴とする硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
【請求項2】
前記(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物のアルケニル基含有量が、0.005~0.3モル/100gである請求項1に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
【請求項3】
前記(E)成分が、下記一般式(16)
【化3】
(式(16)中、tは1~6の整数であり、uは1~4の整数であり、vは1~4の整数であり、t+u+vは4~10の整数である。また、R
7は互いに独立して、非置換又は置換の炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Eは互いに独立して、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基であり、Gは互いに独立して、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基である。但し、-(SiO)(H)R
7-、-(SiO)(E)R
7-、及び-(SiO)(G)R
7-の結合の順番は限定されない。)
で表される環状オルガノポリシロキサンである請求項1
又は2に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
【請求項4】
JIS K7361-1に準じて測定される2mm厚の全光線透過率が80%以上である硬化物を与えるものである請求項1~
3のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
【請求項5】
請求項1~
4のいずれか1項に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物の硬化物を有する光学部品。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物、及び該組成物の硬化物を有する光学部品に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、含フッ素硬化性組成物として、1分子中に少なくとも2個のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状フルオロポリエーテル化合物、1分子中にケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有する含フッ素オルガノ水素シロキサン及び白金族金属化合物を含む組成物が提案され、該組成物から、耐熱性、耐薬品性、耐溶剤性、離型性、撥水性、撥油性、低温特性等のバランスが優れた硬化物が得られることが開示されている(特許文献1:特許第2990646号公報)。
【0003】
また、特許文献1に記載の組成物から得られる硬化物よりも耐酸性が向上した硬化物を与える組成物として、直鎖状フルオロポリエーテル化合物を変更した組成物が提案されている(特許文献2:特許第5246190号公報)。
【0004】
さらに、これらの組成物に、ヒドロシリル基(SiH基)とエポキシ基及び/又はトリアルコキシシリル基とを有するオルガノポリシロキサンを添加することにより、金属及びプラスチック基材に対する自己接着性を付与した組成物が提案されている(特許文献3:特許第3239717号公報及び特許文献4:特許第5459033号公報)。
【0005】
また、上記自己接着性を有する組成物に、環状無水カルボン酸残基を有するオルガノシロキサンを添加して、接着性を向上させた組成物が提案されている(特許文献5:特許第3562578号公報)。
【0006】
ところで、上記自己接着性を有する組成物で、かつ良好な光透過性を有する硬化物を与えるものを光学部品に用いることが提案されている。例えば、特許文献6:特許第5653877号公報では、光半導体素子を封止する材料として用いることが紹介されている。また、特許文献7:特許第5956391号公報では、光反射センサーを搭載した画像形成装置における定着部材の表層材として用いることが紹介されている。
【0007】
しかしながら、このような組成物の硬化物は、ゴム強度が不十分のため、外部からの衝撃により容易にクラックが発生するなどの不具合がしばしば生じた。そのため、ゴム強度の向上が望まれていた。
【0008】
この問題を解決するために、特許文献8:特許第5735457号公報では、平均粒子径が0.050~10μmの球状シリカ粒子を添加することが提案されている。しかし、この場合、耐衝撃性は改善するものの、その硬化物の光透過性が大きく低下する不都合が生じることがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特許第2990646号公報
【文献】特許第5246190号公報
【文献】特許第3239717号公報
【文献】特許第5459033号公報
【文献】特許第3562578号公報
【文献】特許第5653877号公報
【文献】特許第5956391号公報
【文献】特許第5735457号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記事情に鑑みなされたもので、良好な光透過性と良好な接着性を有し、かつゴム強度に優れる硬化物を与える硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物、及び該組成物の硬化物を有する光学部品を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、上記目的を達成するために鋭意研究を行った結果、後述する所定成分を含有する組成物に対して、光透過性をさほど損なわずにゴム強度を向上させる成分として、フッ化ナトリウムを用いることによって、良好な光透過性と良好な接着性を有し、かつゴム強度に優れる硬化物を与える硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物が得られることを見出し、本発明をなすに至った。
【0012】
従って、本発明は、下記の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物、及び該組成物の硬化物を有する光学部品を提供する。
[1]
(A)
下記一般式(2)及び/又は下記一般式(3)で表される、1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、かつ主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物:100質量部、
【化1】
(式(2)中、R
1
及びR
2
は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1
は互いに独立し、R
2
も互いに独立し、R
1
及びR
2
の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
3
は互いに独立して、水素原子、又は非置換若しくは置換の1価の炭化水素基であり、c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
【化2】
(式(3)中、R
1
及びR
2
は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1
は互いに独立し、R
2
も互いに独立し、R
1
及びR
2
の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
4
は互いに独立して、炭素数1~6のアルキレン基であり、R
5
は互いに独立して、水素原子又はフッ素置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基である。c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
(B)1分子中に、1価のパーフルオロアルキル基若しくは1価のパーフルオロオキシアルキル基を有するか、又は2価のパーフルオロアルキレン基若しくは2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有し、さらにケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)を2個以上有し、かつ分子中にエポキシ基及びケイ素原子に直結したアルコキシ基を有さない含フッ素オルガノ水素シロキサン、
(C)フッ化ナトリウム:0.1~120質量部、
(D)白金族金属系触媒:(A)成分に対して白金族金属原子の質量換算で0.1~2,000ppm
(E)1分子中に、ケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)と、1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基と、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基又はその両方とを有するオルガノポリシロキサン:0.1~20質量部
を含有する硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物であって、前記(B)成分の配合量が、該組成物中に含まれるアルケニル基1モルに対して、前記(B)成分中のケイ素原子に直結した水素原子が0.5~3モルとなる量であることを特徴とする硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
[2]
前記(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物のアルケニル基含有量が、0.005~0.3モル/100gである[1]に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
[
3]
前記(E)成分が、下記一般式(16)
【化3】
(式(16)中、tは1~6の整数であり、uは1~4の整数であり、vは1~4の整数であり、t+u+vは4~10の整数である。また、R
7は互いに独立して、非置換又は置換の炭素数1~20のアルキル基又は炭素数6~20のアリール基であり、Eは互いに独立して、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基であり、Gは互いに独立して、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基である。但し、-(SiO)(H)R
7-、-(SiO)(E)R
7-、及び-(SiO)(G)R
7-の結合の順番は限定されない。)
で表される環状オルガノポリシロキサンである[1]
又は[2]に記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
[
4]
JIS K7361-1に準じて測定される2mm厚の全光線透過率が80%以上である硬化物を与えるものである[1]~[
3]のいずれかに記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物。
[
5]
[1]~[
4]のいずれかに記載の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物の硬化物を有する光学部品。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、良好な光透過性と良好な接着性を有し、かつゴム強度に優れる硬化物を与える硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物、及び該組成物の硬化物を有する光学部品を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳細に説明する。
<硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物>
本発明の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物は、以下の(A)~(E)成分を含有してなるものである。
【0015】
[(A)成分]
(A)成分は、1分子中に2個以上のアルケニル基を有し、さらに主鎖中にパーフルオロポリエーテル構造を有する直鎖状ポリフルオロ化合物である。
【0016】
上記(A)成分に含まれるアルケニル基としては、炭素数2~8、特には炭素数2~6であり、かつ末端にCH2=CH-構造を有するもの(外部オレフィン)であることが好ましく、例えば、ビニル基、アリル基、プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、ヘキセニル基等が挙げられ、中でもビニル基やアリル基が特に好ましい。
【0017】
(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物のアルケニル基含有量は、0.005~0.3モル/100gが好ましく、さらに好ましくは0.007~0.2モル/100gである。該アルケニル基含有量が0.005モル/100g以上であれば、本発明の組成物の架橋度合いが十分となり、硬化不具合が生じるおそれがない。一方、該アルケニル基含有量が0.3モル/100g以下であれば、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物(フルオロポリエーテル系ゴム弾性体)の機械的特性が損なわれるおそれがない。
【0018】
(A)成分が有するパーフルオロポリエーテル構造は、
-CaF2aO-
(式中、aは1~6の整数である。)
で表される繰り返し単位を多数含むものであり、例えば下記一般式(1)で表されるもの等が挙げられる。
-(CaF2aO)b- (1)
(式(1)中、aは1~6の整数であり、bは4~302の整数、好ましくは8~202の整数である。)
【0019】
上記-CaF2aO-で表される繰り返し単位としては、例えば下記式
-CF2O-、
-CF2CF2O-、
-CF(CF3)O-、
-CF2CF2CF2O-、
-CF(CF3)CF2O-、
-CF2CF2CF2CF2O-、
-CF2CF2CF2CF2CF2CF2O-、
-C(CF3)2O-
で表される単位等が挙げられる。
【0020】
これらの中では、特に下記式
-CF2O-、
-CF2CF2O-、
-CF2CF2CF2O-、
-CF(CF3)CF2O-
で表される繰り返し単位が好適である。
【0021】
なお、(A)成分が有するパーフルオロポリエーテル構造は、上記繰り返し単位の1種で構成されてもよいし、2種以上の組み合わせで構成されてもよい。
【0022】
(A)成分の好ましい例としては、下記一般式(2)及び下記一般式(3)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物が挙げられる。
【化4】
(式(2)中、R
1及びR
2は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1は互いに独立し、R
2も互いに独立し、R
1及びR
2の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
3は互いに独立して、水素原子、又は非置換若しくは置換の1価の炭化水素基であり、c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
【化5】
(式(3)中、R
1及びR
2は、アルケニル基、又は非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基であり、R
1は互いに独立し、R
2も互いに独立し、R
1及びR
2の合計6個のうち2個以上はアルケニル基である。R
4は互いに独立して、炭素数1~6のアルキレン基であり、R
5は互いに独立して、水素原子又はフッ素置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基である。c及びdはそれぞれ1~150の整数であって、かつc+dの平均値は2~300であり、eは1~6の整数である。)
【0023】
ここで、R1及びR2に含まれるアルケニル基としては、上記(A)成分に含まれるアルケニル基として例示したものと同じものが挙げられ、該アルケニル基以外の非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基としては、炭素数1~12のものが好ましく、特に炭素数1~10のものが好ましく、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基等のアリール基;ベンジル基、フェニルエチル基等のアラルキル基などや、これらの基の水素原子の一部又は全部をフッ素等のハロゲン原子で置換した1価の炭化水素基などが挙げられる。R1及びR2としては、中でもビニル基、アリル基、メチル基及びエチル基が特に好ましい。
なお、R1は互いに独立し、R2も互いに独立し、R1及びR2の合計6個のうち2個以上(2~6個)はアルケニル基であるが、R1、R2のそれぞれ1個以上(即ち、R1、R2のそれぞれ1~3個)がアルケニル基、特にはビニル基又はアリル基であることが好ましい。
【0024】
R3に含まれる非置換若しくは置換の1価の炭化水素基としては、上述したR1及びR2の非置換若しくは置換の脂肪族不飽和結合を有さない1価の炭化水素基の例示と同様の基が挙げられる。R3としては、水素原子、メチル基、エチル基が好ましい。
【0025】
R4は炭素数1~6、好ましくは炭素数2~6のアルキレン基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基(トリメチレン基、メチルエチレン基)、ブチレン基(テトラメチレン基、メチルプロピレン基)、ヘキサメチレン基等が挙げられ、特にエチレン基及びプロピレン基が好ましい。
【0026】
R5は互いに独立して、水素原子又はフッ素置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基であり、フッ素置換されていてもよい炭素数1~4のアルキル基として、具体的には、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等のアルキル基、これらの基の水素原子の一部又は全部がフッ素原子で置換された基、例えばトリフルオロメチル基等が挙げられる。これらの中でも、水素原子が好ましい。
【0027】
また、c及びdはそれぞれ1~150の整数が好ましく、より好ましくは1~100の整数であって、かつc+dの平均値は2~300が好ましく、より好ましくは6~200である。また、eは1~6の整数が好ましく、より好ましくは1~4の整数である。
【0028】
上記一般式(2)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。なお、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。
【化6】
(式中、c1及びd1はそれぞれ1~150の整数である。)
【0029】
【化7】
(式中、c1及びd1はそれぞれ1~150の整数である。)
【0030】
【化8】
(式中、c1及びd1はそれぞれ1~150の整数である。)
【0031】
また、上記一般式(3)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、下記式で表されるものが挙げられる。
【化9】
(式中、c2及びd2はそれぞれ1~150の整数である。)
【0032】
【化10】
(式中、c2及びd2はそれぞれ1~150の整数である。)
【0033】
なお、本発明において、粘度は回転粘度計(例えば、BL型、BH型、BS型、コーンプレート型、レオメータ等)により測定することができるが、特に、上記一般式(2)又は(3)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の粘度(23℃)は、JIS K7117-1に規定された粘度測定で、500~100,000mPa・s、特に1,000~50,000mPa・sであるものが好ましい。該粘度が500mPa・s以上であれば、本発明の組成物の保存安定性が悪くなるおそれがなく、100,000mPa・s以下であれば、得られる組成物の伸展性が悪くなるおそれがない。
【0034】
また、主鎖のパーフルオロポリエーテル構造を構成するパーフルオロオキシアルキレン単位の繰り返し数などが反映される直鎖状ポリフルオロ化合物の重合度(又は分子量)は、例えば、フッ素系溶剤を展開溶媒としてゲルパーミエーションクロマトグラフィ(GPC)分析におけるポリスチレン換算の数平均重合度(又は数平均分子量)等として求めることができる。また、上記直鎖状ポリフルオロ化合物の数平均重合度(又は数平均分子量)は19F-NMRから算出することもできる。
【0035】
これらの直鎖状ポリフルオロ化合物は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することができる。即ち、上記一般式(2)又は(3)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の中で、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて使用することが可能であり、さらに上記一般式(2)及び(3)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物を組み合わせて使用することもできる。
【0036】
[(B)成分]
(B)成分は、1分子中に、1価のパーフルオロアルキル基若しくは1価のパーフルオロオキシアルキル基を有するか、又は2価のパーフルオロアルキレン基若しくは2価のパーフルオロオキシアルキレン基を有し、さらにケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)を2個以上有し、かつ分子中にエポキシ基及びケイ素原子に直結したアルコキシ基を有さない含フッ素オルガノ水素シロキサンであり、好ましくは1分子中に上記1価又は2価の含フッ素有機基を1個以上及びケイ素原子に直結した水素原子を2個以上有し、かつエポキシ基や、ケイ素原子に直結したアルコキシ基等のSiH基以外のその他の官能性基を有さない含フッ素オルガノ水素シロキサンであり、上記(A)成分の架橋剤として機能するものである。
但し、ここで「その他の官能性基」とは、パーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基とポリシロキサンを構成するケイ素原子とを連結する2価の連結基中に含有してもよいエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合、エステル結合などの2価の極性基(極性構造)等は除くものとする。
なお、(B)成分は分子中にエポキシ基及びケイ素原子に直結したアルコキシ基(アルコキシシリル基)を有さないものである点において、後述する接着付与剤としての(E)成分とは明確に区別されるものである。
【0037】
上記1価のパーフルオロアルキル基、1価のパーフルオロオキシアルキル基、2価のパーフルオロアルキレン基及び2価のパーフルオロオキシアルキレン基は、上記(A)成分との相溶性、分散性及び硬化後の均一性等の観点から導入される基である。
【0038】
この1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基としては、下記一般式(4)又は(5)で表される基が挙げられる。
C
fF
2f+1- (4)
(式(4)中、fは1~10の整数、好ましくは3~7の整数である。)
【化11】
(式(5)中、gは1~50の整数、好ましくは2~30の整数である。)
【0039】
また、上記2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基としては、下記一般式(6)~(8)で表される基が挙げられる。
-C
hF
2h- (6)
(式(6)中、hは1~20の整数、好ましくは2~10の整数である。)
【化12】
(式(7)中、i及びjはそれぞれ1以上の整数、好ましくは1~100の整数であり、i+jの平均値は2~200、好ましくは2~100である。)
-CF
2O-(CF
2CF
2O)
k(CF
2O)
l-CF
2- (8)
(式(8)中、k及びlはそれぞれ1~50の整数、好ましくは1~30の整数であり、k+lの平均値は2~100、好ましくは2~60である。各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよい。)
【0040】
また、これらのパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基とポリシロキサンを構成するケイ素原子とは2価の連結基により繋がれていることが好ましい。該2価の連結基としては、酸素原子、窒素原子又はケイ素原子を有してもよい、非置換若しくは置換の、炭素数2~13、特に炭素数2~8の2価の炭化水素基であることが好ましい。具体的には、アルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、あるいはこれらの基にエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合、エステル結合、及びジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造等を介在させたものが例示でき、例えば、
-CH2CH2-、
-CH2CH2CH2-、
-CH2CH2CH2OCH2-、
-CH2CH2CH2-NH-CO-、
-CH2CH2CH2-N(Ph)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH3)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH2CH3)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH(CH3)2)-CO-、
-CH2CH2CH2-O-CO-、
-CH2CH2-Si(CH3)2-Ph’-N(CH3)-CO-、
-CH2CH2CH2-Si(CH3)2-Ph’-N(CH3)-CO-
(但し、Phはフェニル基、Ph’はフェニレン基である。)
等の炭素数2~13のものが挙げられる。なお、上記の構造において、左側の結合手はポリシロキサンを構成するケイ素原子と、右側の結合手はパーフルオロアルキル基、パーフルオロオキシアルキル基、パーフルオロアルキレン基又はパーフルオロオキシアルキレン基と結合することが好ましい。
【0041】
また、この(B)成分の含フッ素オルガノ水素シロキサンにおける上記の1価又は2価の含フッ素有機基及びケイ素原子に直結した水素原子以外のケイ素原子に結合した1価の置換基は、非置換若しくは置換の炭素数1~20、好ましくは1~12のアルキル基又は炭素数6~20、好ましくは6~12のアリール基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基が好ましい。なお、エポキシ基及びアルコキシ基は有さない。
【0042】
(B)成分の含フッ素オルガノ水素シロキサンの構造としては、環状、鎖状、三次元網状及びそれらの組み合わせのいずれでもよい。この含フッ素オルガノ水素シロキサンのケイ素原子数は、特に制限されるものではないが、通常2~60、好ましくは3~30、より好ましくは4~30程度である。
また、(B)成分は、1分子中にSiH基を2個以上、好ましくは3個以上有するものであり、該SiH基の含有量は、0.0001~0.02モル/gが好ましく、さらに好ましくは0.0002~0.01モル/gである。
【0043】
上記(B)成分としては、例えば下記一般式(9)~(15)で表されるものが挙げられる。
【化13】
(式(9)中、Aは互いに独立して、上記の、酸素原子、窒素原子又はケイ素原子を有してもよい2価の炭化水素基を介してシロキサンを構成するケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基であり、1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基としては、上記一般式(4)又は(5)で表される基が挙げられる。R
6は互いに独立して、上記の、非置換若しくは置換の炭素数1~20、好ましくは1~12のアルキル基又は炭素数6~20、好ましくは6~12のアリール基である。また、mは2~6の整数、好ましくは3~6の整数であり、nは1~4の整数、好ましくは1~3の整数であり、m+nは4~10の整数、好ましくは4~9の整数である。但し、-(Si(H)(R
6)O)-と-(Si(A)(R
6)O)-の結合の順番は限定されない。)
【0044】
【化14】
(式(10)中、Aは互いに独立して、上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。またoは2~50の整数、好ましくは3~30の整数である。)
【0045】
【化15】
(式(11)中、Aは互いに独立して、上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。oは2~50の整数、好ましくは3~30の整数であり、pは1~40の整数、好ましくは1~20の整数であり、o+pは4~60の整数、好ましくは4~50の整数である。但し、-(Si(H)(R
6)O)-と-(Si(A)(R
6)O)-の結合の順番は限定されない。)
【0046】
【化16】
(式(12)中、Aは互いに独立して、上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。oは2~50の整数、好ましくは3~30の整数であり、qは1~40の整数、好ましくは1~20の整数であり、o+qは4~60の整数、好ましくは4~50の整数である。但し、-(Si(H)(R
6)O)-と-(Si(R
6)
2O)-の結合の順番は限定されない。)
【0047】
【化17】
(式(13)中、Aは互いに独立して、上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。oは2~50の整数、好ましくは3~30の整数であり、pは1~40の整数、好ましくは1~20の整数であり、qは1~40の整数、好ましくは1~20の整数であり、o+p+qは5~60の整数、好ましくは5~50の整数である。但し、-(Si(H)(R
6)O)-、-(Si(A)(R
6)O)-及び-(Si(R
6)
2O)-の結合の順番は限定されない。)
【0048】
【化18】
(式(14)中、Dは、酸素原子、アルキレン基、又は酸素原子若しくは窒素原子を有してもよい2価の炭化水素基を介して隣接するケイ素原子にそれぞれ結合した2価のパーフルオロアルキレン基若しくは2価のパーフルオロオキシアルキレン基であり、2価のパーフルオロアルキレン基又は2価のパーフルオロオキシアルキレン基としては、上記一般式(6)~(8)で表されるいずれかの基が挙げられる。また、Aは互いに独立して、上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。また、rは0~3の整数であり、sは0~3の整数であり、r+sは2~6の整数、好ましくは3~5の整数である。)
【0049】
【化19】
(式(15)中、Aは上記Aと同じであり、R
6は互いに独立して、上記R
6と同じである。)
【0050】
(B)成分として、具体的には下記の化合物が挙げられる。これらの化合物は、1種単独で用いても2種以上を併用してもよい。なお、下記式において、Meはメチル基、Phはフェニル基を示す。また、各シロキサン単位はランダムに結合されていてよい。
【0051】
【化20】
(式中、f’は1~10の整数である。)
【0052】
【化21】
(式中、g’は1~50の整数である。)
【0053】
【化22】
(式中、g’は1~50の整数である。)
【0054】
【化23】
(式中、f’は1~10の整数である。)
【0055】
【化24】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数である。)
【0056】
【化25】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数である。)
【0057】
【化26】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数である。)
【0058】
【化27】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数である。)
【0059】
【化28】
(式中、f’は1~10の整数であり、h’は1~20の整数である。)
【0060】
【化29】
(式中、g’は1~50の整数であり、h’は1~20の整数である。)
【0061】
【化30】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数である。)
【0062】
【化31】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数であり、i’及びj’はそれぞれ1~100の整数であり、i’+j’は2~200の整数である。)
【0063】
【化32】
(式中、f’は1~10の整数であり、g’は1~50の整数であり、k’及びl’はそれぞれ1~50の整数であり、k’+l’は2~100の整数である。k’、l’が付された括弧内に示される各繰り返し単位はランダムに結合されていてよい。)
【0064】
この(B)成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。また、上記(B)成分の配合量は、本発明の組成物中に含まれるアルケニル基1モルに対して、(B)成分中のケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)が0.5~3モルとなる量であり、好ましくは0.6~2モルとなる量(モル比)である。SiH基が0.5モルより少ないと、架橋度合いが不十分になり、一方3モルより多いと、保存安定性が損なわれたり、硬化後得られる硬化物の耐熱性が低下したりする。
【0065】
[(C)成分]
(C)成分は、フッ化ナトリウムであり、本発明の接着剤組成物を硬化して得られる硬化物に、光透過性(透明性)をさほど損なわずにゴム強度を向上させる機能を有する。
【0066】
フッ化ナトリウムとしては、市販品を用いることができる。フッ化ナトリウムの市販品の例としては、ステラケミファ社から発売されている「フッ化ナトリウム」等を挙げることができる。
【0067】
(C)成分の配合量は、上記(A)成分100質量部に対して、0.1~120質量部であり、好ましくは1~100質量部であり、より好ましくは20~80質量部である。0.1質量部より少ないと、ゴム強度を十分向上させることができず、一方、120質量部より多いと、本発明の組成物の流動性や硬化物の透明性が損なわれるおそれがある。
【0068】
[(D)成分]
(D)成分である白金族金属系触媒は、ヒドロシリル化反応触媒である。ヒドロシリル化反応触媒は、組成物中に含有されるアルケニル基、特には(A)成分中のアルケニル基と、組成物中に含有されるSiH基、特には(B)成分及び(E)成分中のSiH基との付加反応を促進する触媒である。このヒドロシリル化反応触媒は、一般に貴金属又はその化合物であり、高価格であることから、比較的入手し易い白金又は白金化合物がよく用いられる。
【0069】
白金化合物としては、例えば、塩化白金酸、塩化白金酸とエチレン等のオレフィンとの錯体、白金とアルコール又はビニルシロキサンとの錯体、及びシリカ、アルミナ、カーボン等に担持した金属白金等を挙げることができる。白金又は白金化合物以外の白金族金属系触媒として、ロジウム、ルテニウム、イリジウム、パラジウム系化合物も知られており、例えば、RhCl(PPh3)3、RhCl(CO)(PPh3)2、Ru3(CO)12、IrCl(CO)(PPh3)2、Pd(PPh3)4等を例示することができる。なお、前記式中、Phはフェニル基である。
【0070】
これらの触媒の使用にあたっては、それが固体触媒であるときには固体状で使用することも可能であるが、より均一な硬化物を得るためには塩化白金酸や錯体を、例えば、トルエンやエタノール等の適切な溶剤に溶解したものを(A)成分の直鎖状ポリフルオロ化合物に相溶させて使用することが好ましい。
【0071】
(D)成分の配合量は、ヒドロシリル化反応触媒としての有効量であり、通常、(A)成分の質量に対して0.1~2,000ppm、好ましくは0.1~500ppm、特に好ましくは0.5~200ppm(白金族金属原子の質量換算)であるが、希望する硬化速度に応じて適宜増減することができる。
【0072】
[(E)成分]
(E)成分は、1分子中に、ケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)と、1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基と、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基又はその両方とを有するオルガノポリシロキサンであり、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物に自己接着性を与える接着付与剤としての機能を有する。
【0073】
(E)成分のオルガノポリシロキサンの構造としては、環状、鎖状、三次元網状及びそれらの組み合わせのいずれでもよいが、好ましくは環状構造である。このオルガノポリシロキサンのケイ素原子数は、特に制限されるものではないが、通常2~60、好ましくは3~30、より好ましくは4~30程度である。
また、(E)成分は、1分子中にSiH基を1個以上有するものであり、該SiH基の含有量は、0.00001~0.02モル/gが好ましく、0.0001~0.01モル/gがより好ましい。
【0074】
上記1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基は、上記(A)成分との相溶性、分散性及び硬化後の均一性等の観点から導入される基である。この1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基としては、上述した一般式(4)又は(5)で表される基が挙げられる。
【0075】
また、上記1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基は、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基(連結基)を介してポリシロキサンを構成するケイ素原子に繋がれていることが好ましく、該2価の炭化水素基としては、アルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、あるいはこれらの基にエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合、エステル結合、及びジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造等を介在させたものであってもよく、例えば、
-CH2CH2-、
-CH2CH2CH2-、
-CH2CH2CH2OCH2-、
-CH2CH2CH2-NH-CO-、
-CH2CH2CH2-N(Ph)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH3)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH2CH3)-CO-、
-CH2CH2CH2-N(CH(CH3)2)-CO-、
-CH2CH2CH2-O-CO-、
-CH2CH2CH2-Si(CH3)2-O-Si(CH3)2-CH2CH2CH2-、
-CH2OCH2CH2CH2-Si(CH3)2-O-Si(CH3)2-CH2CH2-、
-CO-N(CH3)-Ph’-Si(CH3)2-CH2CH2-、
-CO-N(CH3)-Ph’-Si(CH3)2-CH2CH2-Si(CH3)2-O-Si(CH3)2-CH2CH2-、
-CO-NH-Ph’-[Si(CH3)2-CH2CH2]3-CH2-、
-CO-N(CH3)-Ph’-[Si(CH3)2-CH2CH2]3-
(但し、Phはフェニル基、Ph’はフェニレン基である。)
等の炭素数2~20のものが挙げられる。なお、上記の構造において、左側の結合手はポリシロキサンを構成するケイ素原子と、右側の結合手は1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基と結合することが好ましい。
【0076】
酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基としては、例えば、下記一般式(17)で表されるエポキシ基や、下記一般式(18)で表されるエポキシシクロヘキシル基等の脂環式エポキシ基が挙げられる。
【化33】
【化34】
(式中、R
8は酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基である。)
【0077】
上記一般式(17)、(18)において、R8は酸素原子が介在してもよい、好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5の2価の炭化水素基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基、シクロヘキシレン基等のシクロアルキレン基、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等のオキシアルキレン基、あるいはこれらの基にエーテル結合酸素原子、エステル結合等の構造を介在させた下記に示す基などが挙げられる。
-CH2CH2CH2OCH2-、
-CH2CH2CH2-O-CO-
【0078】
このような酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介したエポキシ基の具体例としては、下記に示すものが挙げられる。
【化35】
【化36】
【0079】
一方、上記酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したトリアルコキシシリル基としては、例えば、下記一般式(19)で表されるものが挙げられる。
-R9-Si(OR10)3 (19)
(式中、R9は酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基であり、R10はアルキル基である。)
【0080】
上記一般式(19)において、R9は好ましくは炭素数1~10、より好ましくは炭素数1~5の2価の炭化水素基であり、具体的には、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基、ヘキシレン基、シクロヘキシレン基、オクチレン基等のアルキレン基などが挙げられる。また、R10は好ましくは炭素数1~8、より好ましくは炭素数1~4のアルキル基であり、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基等が挙げられる。
【0081】
このような酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介したトリアルコキシシリル基の具体例としては、下記に示すものが挙げられる。
-(CH2)2-Si(OCH3)3、
-(CH2)3-Si(OCH3)3、
-(CH2)2-Si(OCH2CH3)3、
-(CH2)3-Si(OCH2CH3)3
【0082】
また、この(E)成分のオルガノポリシロキサンにおける、上記のケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)と、1価のパーフルオロアルキル基あるいは1価のパーフルオロオキシアルキル基と、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基あるいはトリアルコキシシリル基以外のケイ素原子に結合した1価の置換基は、非置換若しくは置換の炭素数1~20、好ましくは1~12のアルキル基又は炭素数6~20、好ましくは6~12のアリール基であり、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基、デシル基等のアルキル基;フェニル基、トリル基、ナフチル基等のアリール基、及びこれらの基の水素原子の一部又は全部が塩素原子等のハロゲン原子、シアノ基等で置換された、例えば、クロロメチル基、クロロプロピル基、シアノエチル基等が挙げられる。これらの中でも、メチル基、エチル基が好ましい。
【0083】
上記(E)成分のオルガノポリシロキサンとしては、下記一般式(16)で表される環状オルガノポリシロキサンが好ましい。
【化37】
(式(16)中、tは1~6の整数、好ましくは1~5の整数、より好ましくは1又は2であり、uは1~4の整数、好ましくは1~3の整数であり、vは1~4の整数、好ましくは1~3の整数であり、t+u+vは4~10の整数、好ましくは4~8の整数である。また、R
7は互いに独立して、非置換又は置換の炭素数1~20、好ましくは1~12のアルキル基又は炭素数6~20、好ましくは6~12のアリール基であり、Eは互いに独立して、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基であり、Gは互いに独立して、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基である。但し、-(SiO)(H)R
7-、-(SiO)(E)R
7-、及び-(SiO)(G)R
7-の結合の順番は限定されない。)
【0084】
上記一般式(16)において、R7は互いに独立して、非置換又は置換の炭素数1~20、好ましくは1~12のアルキル基又は炭素数6~20、好ましくは6~12のアリール基であり、上述したケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)と、1価のパーフルオロアルキル基あるいは1価のパーフルオロオキシアルキル基と、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基あるいはトリアルコキシシリル基以外のケイ素原子に結合した1価の置換基として例示した基と同様の基が挙げられ、メチル基、エチル基が好ましい。
【0085】
また、Eは互いに独立して、上記の、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合した1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基であり、この1価のパーフルオロアルキル基又は1価のパーフルオロオキシアルキル基としては、上述した一般式(4)又は(5)で表される基が挙げられ、ケイ素原子、酸素原子及び窒素原子を含んでもよい2価の炭化水素基としては、上述したアルキレン基、アリーレン基及びそれらの組み合わせ、あるいはこれらの基にエーテル結合酸素原子、アミド結合、カルボニル結合、エステル結合、及びジメチルシリレン基等のジオルガノシリレン基からなる群より選ばれる1種又は2種以上の構造として例示したものが挙げられる。
【0086】
また、Gは互いに独立して、酸素原子を含んでもよい2価の炭化水素基を介してケイ素原子に結合したエポキシ基若しくはトリアルコキシシリル基であり、上述した式(17)~(19)で表される基が挙げられる。
【0087】
このような(E)成分としては、例えば下記の化合物が挙げられる。なお、下記式において、Meはメチル基、Etはエチル基を示す。また、各シロキサン単位はランダムに結合されていてよい。
【0088】
【化38】
(式中、f”は1~10の整数である。)
【0089】
【化39】
(式中、g”は1~50の整数である。)
【0090】
【化40】
(式中、f”は1~10の整数である。)
【化41】
(式中、g”は1~50の整数である。)
【0091】
【化42】
(式中、f”は1~10の整数である。)
【0092】
【化43】
(式中、g”は1~50の整数である。)
【0093】
【化44】
(式中、f”は1~10の整数である。)
【0094】
【化45】
(式中、g”は1~50の整数である。)
【0095】
この(E)成分は、1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。また、(E)成分の使用量は、(A)成分100質量部に対して0.1~20質量部の範囲であり、好ましくは0.1~10質量部の範囲であり、より好ましくは0.5~8質量部の範囲である。0.1質量部未満の場合は、十分な接着性が得られず、20質量部を超えると、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の物理的強度が低下する。
【0096】
なお、本発明においては、本発明の組成物中に含まれるアルケニル基の合計(例えば、(A)成分及び後述する任意成分中に含まれるアルケニル基の合計)1モルに対して、本発明の組成物中に含まれるケイ素原子に直結した水素原子(SiH基)の合計(例えば、(B)成分及び(E)成分中に含まれるSiH基の合計)が、0.51~3.5モル、特に0.6~2.5モルとなる量(モル比)であることが好ましい。
【0097】
[その他の成分]
本発明の硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物には、その実用性を高めるために、上記の(A)~(E)成分以外にも、任意成分として、ヒドロシリル化付加反応制御剤((F)成分)、無機質充填剤、可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤、さらに、上記(E)成分の接着付与能力を向上させ、本発明の組成物を硬化して得られる硬化物の自己接着性発現を促進させる目的で、カルボン酸無水物などの接着促進剤等の各種配合剤を必要に応じて添加することができる。これら添加剤の配合量は、本発明の目的を損なわない範囲で任意である。
【0098】
ヒドロシリル化付加反応制御剤((F)成分)の例としては、1-エチニル-1-ヒドロキシシクロヘキサン、3-メチル-1-ブチン-3-オール、3,5-ジメチル-1-ヘキシン-3-オール、3-メチル-1-ペンテン-3-オール、フェニルブチノール等のアセチレン性アルコール;上記一般式(4)で表される1価のパーフルオロアルキル基、又は上記一般式(5)で表される1価のパーフルオロオキシアルキル基を有するクロロシランとアセチレン性アルコールとの反応物;3-メチル-3-ペンテン-1-イン、3,5-ジメチル-3-ヘキセン-1-イン;トリアリルイソシアヌレート;ポリビニルシロキサン;有機リン化合物等が挙げられ、その添加により硬化反応性と保存安定性を適度に保つことができる。
【0099】
無機質充填剤の例としては、煙霧質シリカ(ヒュームドシリカ又は乾式シリカ)、沈降性シリカ(湿式シリカ)、球状シリカ(溶融シリカ)、ゾルゲル法シリカ、シリカエアロゲル等のシリカ粉末、又は該シリカ粉末の表面を各種のオルガノクロロシラン、オルガノジシラザン、環状オルガノポリシラザン等で処理してなるシリカ粉末、さらに該表面処理シリカ粉末を、上記一般式(4)で表される1価のパーフルオロアルキル基、又は上記一般式(5)で表される1価のパーフルオロオキシアルキル基を有するオルガノシラン又はオルガノシロキサンで再処理してなるシリカ粉末等のシリカ系補強性充填剤、石英粉末、溶融石英粉末、珪藻土、炭酸カルシウム等の補強性又は準補強性充填剤、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、アルミン酸コバルト等の無機顔料、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック、酸化セリウム、水酸化セリウム、炭酸亜鉛、炭酸マグネシウム、炭酸マンガン等の耐熱向上剤、アルミナ、窒化硼素、炭化珪素、金属粉末等の熱伝導性付与剤、カーボンブラック、銀粉末、導電性亜鉛華等の導電性付与剤等が挙げられる。
【0100】
可塑剤、粘度調節剤、可撓性付与剤としては、下記一般式(20)、(21)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物、及び/又は下記一般式(22)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物を用いることができる。
【0101】
F-(CF2CF2CF2O)w-J (20)
(式(20)中、JはCxF2x+1-(xは1~3の整数)で表される基であり、wは1~500の整数であり、好ましくは2~300の整数である。)
【0102】
J-{(OCF(CF3)CF2)y-(OCF2CF2)z-(OCF2)α}-O-J (21)
(式(21)中、Jは上記と同じであり、y及びzはそれぞれ0~300の整数であり、好ましくは0~150の整数である。但し、yとzが共に0の場合を除く。また、αは1~300の整数であり、好ましくは1~150の整数である。各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよい。)
【0103】
Rf-(L)
β-CH=CH
2 (22)
[式(22)中、Rfは下記一般式(23)
F-[CF(CF
3)CF
2O]
γ-C
δF
2δ- (23)
(式(23)中、γは1~200の整数、好ましくは1~150の整数であり、δは1~3の整数である。)
で示される基であり、Lは-CH
2-、-OCH
2-、-CH
2OCH
2-又は-CO-NR
11-M-〔なお、これら各基は、左端がRfに、右端が炭素原子に結合される。また、R
11は水素原子、メチル基、フェニル基又はアリル基であり、Mは-CH
2-、下記構造式(24)で示される基又は下記構造式(25)で示される基である。
【化46】
(o位、m位又はp位で示されるジメチルフェニルシリレン基であり、左端が窒素原子に、右端が炭素原子に結合される。)
【化47】
(左端が窒素原子に、右端が炭素原子に結合される。)〕であり、βは0又は1である。]
【0104】
上記一般式(20)又は(21)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
F-(CF2CF2CF2O)w’-CF2CF3
(w’は1~200の整数である。)
CF3-{(OCF(CF3)CF2)y’-(OCF2)α’}-O-CF3
(y’は1~200の整数、α’は1~200の整数である。各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよい。)
CF3-{(OCF2CF2)z’-(OCF2)α’}-O-CF3
(z’は1~200の整数、α’は1~200の整数である。各繰り返し単位同士はランダムに結合されていてよい。)
【0105】
上記一般式(20)又は(21)で表される直鎖状ポリフルオロ化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0106】
上記一般式(22)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物の具体例としては、下記のものが挙げられる。
【化48】
(ここで、γ’は1~200の整数である。)
【0107】
上記一般式(22)で表されるポリフルオロモノアルケニル化合物は、1種単独で使用してもよいし、2種以上のものを併用してもよい。
【0108】
<硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物の製造方法>
本発明の接着剤組成物の製造方法は特に制限されず、上記(A)~(E)成分、任意成分である(F)成分、及びその他の任意成分を練り合わせることにより製造することができる。本発明においては、上記(A)成分と(C)成分とを予め混合することが好ましい。その際、必要に応じて、プラネタリーミキサー、ロスミキサー、ホバートミキサー等の混合装置、ニーダー、3本ロールミル等の混練装置を使用することができる。
【0109】
本発明の接着剤組成物の構成に関しては、上記(A)~(E)成分、任意成分である(F)成分、及びその他の任意成分全てを1つの組成物として取り扱う、いわゆる1液タイプとして構成してもよいし、あるいは、2液タイプとし、使用時に両者を混合するようにしてもよい。
【0110】
なお、本発明の接着剤組成物を使用するに当たり、その用途、目的に応じて該組成物を適当なフッ素系溶剤、例えば1,3-ビス(トリフルオロメチル)ベンゼン、フロリナート(3M社製)、パーフルオロブチルメチルエーテル、パーフルオロブチルエチルエーテル等に所望の濃度に溶解して使用してもよい。特に、薄膜コーティング用途においては溶剤を使用することが好ましい。
【0111】
<硬化性フルオロポリエーテル系接着剤組成物の硬化方法>
本発明の接着剤組成物を硬化して得られる2mm厚の硬化物の全光線透過率は、80%以上(80~100%)であることが好ましく、85~100%であることがより好ましい。該全光線透過率が80%未満の場合、光学部品に用いると光学的機能の不具合が発生するおそれがある。なお、該全光線透過率はJIS K7361-1に準じて測定される。また、上述した全光線透過率を80%以上とするためには、本発明の(A)~(E)成分を含有してなる特定組成の接着剤組成物において、特に、上記(A)成分のアルケニル基含有直鎖状ポリフルオロ化合物100質量部に対する(C)成分のフッ化ナトリウムの配合量を本発明で規定する特定の範囲内(即ち、0.1~120質量部、好ましくは1~100質量部、より好ましくは20~80質量部)とすることによって達成することができる。
【0112】
本発明の接着剤組成物は、常温にて放置するか、加熱することにより容易に硬化させることができる。この場合、通常室温(例えば5~35℃)~200℃、1分間~24時間の範囲で熱的に硬化させるのが好ましい。
【0113】
<光学部品>
本発明の接着剤組成物を硬化して得られる硬化物(フルオロポリエーテル系ゴム弾性体)は、耐熱性、耐油性、耐薬品性、耐溶剤性、低温特性、低透湿性等に優れ、さらに、良好な光透過性と各種基材に対する良好な接着性を有し、かつゴム強度に優れることから、特に光学部品に用いる接着材料として好適である。具体的には、導光板、バックライト、液晶表示素子、カラーフィルターやEL表示素子基板等のディスプレイ基板、表面保護フィルム、光拡散フィルム、位相差フィルム、透明導電性フィルム、反射防止フィルム、OHPフィルム、光ディスク、光ファイバー、レンズ等に使用する光学材料や整流用ダイオード、発光ダイオード、LSI、有機EL等の光半導体素子などの電気電子部品を保護する封止材、さらに、光反射センサーを搭載した画像形成装置における定着部材の表層材などが挙げられる。
なお、本発明の接着剤組成物は、特にアルミニウム等の金属やエポキシガラス樹脂等のプラスチック(有機樹脂)、さらにガラス等の無機物などの各種基材に対して良好な接着性を有するものである。
【実施例】
【0114】
以下、実施例及び比較例を示して本発明を具体的に説明するが、本発明は下記実施例に制限されるものではない。なお、下記の例において部は質量部を示し、Meはメチル基を示す。また、(A)成分の重合度は19F-NMRから算出した数平均重合度であり、(A)成分の粘度は23℃における測定値を示す(JIS K6249に準拠)。
【0115】
[実施例1~4、比較例1~4]
下記実施例及び比較例に用いられる(A)~(F)成分を下記に示す。なお、(A)成分のビニル基含有量は内部標準物質を用いて1H-NMRから算出したものである。
【0116】
(A)成分
(A-1):下記式(26)で示される直鎖状ポリフルオロ化合物(粘度4,010mPa・s、ビニル基含有量0.0301モル/100g)
【化49】
(但し、c1’及びd1’は1以上の整数であり、c1’+d1’の平均値は35である。)
(A-2):下記式(27)で示される直鎖状ポリフルオロ化合物(粘度11,000mPa・s、ビニル基含有量0.0119モル/100g)
【化50】
(但し、c2’及びd2’は1以上の整数であり、c2’+d2’の平均値は90である。)
【0117】
(B)成分
(B-1):下記式(28)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン(SiH基含有量0.00394モル/g)
【化51】
(B-2):下記式(29)で示される含フッ素オルガノ水素シロキサン(SiH基含有量0.000967モル/g)
【化52】
【0118】
(C)成分
(C-1):ステラケミファ社製フッ化ナトリウム
【0119】
(D)成分
(D-1):白金-ジビニルテトラメチルジシロキサン錯体のトルエン溶液(白金濃度0.5質量%)
【0120】
(E)成分
(E-1):下記式(30)で示されるオルガノポリシロキサン(SiH基含有量0.00101モル/g)
【化53】
(E-2):下記式(31)で示されるオルガノポリシロキサン(SiH基含有量0.00226モル/g)
【化54】
(E-3):下記式(32)で示されるオルガノポリシロキサン(SiH基含有量0.00116モル/g)
【化55】
【0121】
(F)成分
(F-1):1-エチニル-1-ヒドロキシシクロヘキサンの50質量%トルエン溶液
【0122】
実施例1~4及び比較例1~4において、各成分を表1に示す所定の量用いて、下記のように組成物を調製した。また、下記方法に従って、該組成物を成形硬化させて、硬化物を作製し、該硬化物のゴム物性及び全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0123】
実施例1~4の組成物の調製:
まず(A)成分及び(C)成分を、表1に示す所定の量にて、プラネタリーミキサーを用いて室温で1時間混練し、さらに-98.0kPaGの減圧下、150℃で1時間混練した。次に、混練物を室温まで冷却後、3本ロールミル処理を施した。該混練物に(D)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練した後、(F)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練した。最後に、(B)成分及び(E)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練し、組成物を得た。
【0124】
比較例1~3の組成物の調製:
まず(A)成分及び(D)成分を、表1に示す所定の量にて、プラネタリーミキサーを用いて室温で10分間混練した。次に、該混練物に(F)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練した後、最後に、(B)成分及び(E)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練し、組成物を得た。
【0125】
比較例4の組成物の調製:
まず(A)成分及び球状シリカ粒子(株式会社アドマテックス製「アドマファインSO-32R/75C」、平均粒子径1.6μm)を、表1に示す所定の量にて、プラネタリーミキサーを用いて室温で1時間混練し、さらに-98.0kPaGの減圧下、150℃で1時間混練した。次に、混練物を室温まで冷却後、3本ロールミル処理を施した。該混練物に(D)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練した後、(F)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練した。最後に、(B)成分及び(E)成分を表1に示す所定の量加えて、室温で10分間混練し、組成物を得た。
【0126】
実施例1~4及び比較例1~4の硬化物の作製:
上記組成物を150℃、10分のプレス架橋(一次架橋)及び150℃、50分のオーブン架橋(二次架橋)を行って硬化シート(85mm×105mm×2mm)を作製した。
【0127】
実施例1~4及び比較例1~4の硬化物のゴム物性:
上記硬化シートを用いて、硬さはJIS K6253-3、引張強さ及び切断時伸びはJIS K6251に準拠して測定した。結果を表1に示す。
【0128】
実施例1~4及び比較例1~4の硬化物の全光線透過率:
上記硬化シートを用いて、ヘーズメーターHGM-2(スガ試験機株式会社製)にて、JIS K7361-1に準じて全光線透過率を測定した。結果を表1に示す。
【0129】
実施例1~4及び比較例1~4の引張せん断接着強さ:
各種被着体(アルミニウム、エポキシガラス樹脂及びガラス)の100mm×25mmのテストパネル2枚を、それぞれの端部が10mmずつ重複するように、厚さ1mmの実施例及び比較例の組成物の層(長さ10mm×幅25mm×厚さ1mm)を挟んで重ね合わせ、150℃で1時間加熱することにより該組成物を硬化させ、接着試験片を作製した。次いで、この試験片について引張せん断接着試験(引張速度50mm/分)を行い、接着強度(せん断接着力)及び凝集破壊率を評価した。結果を表2に示す。
【0130】
【0131】
【表2】
せん断接着力の( )内は凝集破壊率(面積%)を示す。
【0132】
本発明の要件を満たす実施例1~4の組成物を硬化して得られた硬化物は、(C)成分を含まない比較例1~3の組成物を硬化して得られた硬化物よりも、硬さ、引張強さ及び切断時伸びが高く、一方、全光線透過率はさほど低下せず、80%以上であり、また、各種被着体に対して良好な接着性を示した。比較例4の組成物を硬化して得られた硬化物は、各種被着体に対して良好な接着性を示し、配合した球状シリカ粒子によって、硬さ、引張強さ及び切断時伸びは高いものの、全光線透過率が著しく低い値となった。
【0133】
以上の結果より、本発明の接着剤組成物は、良好な光透過性と良好な接着性を有し、かつゴム強度に優れる硬化物を与えることから、特に光学部品の材料として有用である。