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特許7311286アルミナ焼結体の製造方法およびアルミナ焼結体
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-10
(45)【発行日】2023-07-19
(54)【発明の名称】アルミナ焼結体の製造方法およびアルミナ焼結体
(51)【国際特許分類】
   C04B 35/115 20060101AFI20230711BHJP
   B23K 26/352 20140101ALI20230711BHJP
【FI】
C04B35/115
B23K26/352
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019058796
(22)【出願日】2019-03-26
(65)【公開番号】P2020158333
(43)【公開日】2020-10-01
【審査請求日】2022-01-18
(73)【特許権者】
【識別番号】000002093
【氏名又は名称】住友化学株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】000173522
【氏名又は名称】一般財団法人ファインセラミックスセンター
(74)【代理人】
【識別番号】100106518
【弁理士】
【氏名又は名称】松谷 道子
(74)【代理人】
【識別番号】100145403
【弁理士】
【氏名又は名称】山尾 憲人
(74)【代理人】
【識別番号】100206140
【弁理士】
【氏名又は名称】大釜 典子
(72)【発明者】
【氏名】奈須 義総
(72)【発明者】
【氏名】魚江 康輔
(72)【発明者】
【氏名】木村 禎一
(72)【発明者】
【氏名】末廣 智
【審査官】小川 武
(56)【参考文献】
【文献】中国特許出願公開第108996998(CN,A)
【文献】国際公開第2017/057551(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/135387(WO,A1)
【文献】特開2014-015362(JP,A)
【文献】特開2007-001828(JP,A)
【文献】THOMPSON et al.,conversion of polycrystalline alumina to single-crystal sappihire by localized codoping with silica,J. Am. Ceram. Soc.,2004年,Vol.87 No.10,p.1879-1882,doi:10.1111/j.1151-2916.2004.tb06334.x
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C04B 35/00-35/84
B23K 26/00-26/352
B28B 1/30
B29C 67/00
B33Y 10/00,70/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
粒径0.1μm以上1μm未満のアルミナ粒子5~70体積%と、粒径1μm以上100μm未満のアルミナ粒子30~95体積%と、を含むアルミナ粉末を成形して、アルミナ物品を得る工程と、
前記アルミナ物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、
前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、透明なアルミナ焼結部を形成する工程と、を含むアルミナ焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記アルミナ物品の総細孔容積が0.20mL/g以下であり、細孔径4μm以上の細孔の累積細孔容積が総細孔容積の10%未満である、請求項1に記載のアルミナ焼結体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、アルミナ焼結体の製造方法および当該方法で製造されたアルミナ焼結体に関し、特に、透明なアルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体の製造方法および当該方法で製造されたアルミナ焼結体に関する。
【背景技術】
【0002】
焼結用セラミックスの焼結方法として、未焼結のセラミックス物品の表面に、炭素粉末を含む層を形成し、次いで、炭素粉末含有層の表面にレーザを照射する方法が知られている(例えば、特許文献1)。未焼結のセラミックス物品は、焼結用セラミックス粒子の集合体から形成することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】国際公開第2017/135387号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
アルミナ単結晶は透光性を有するため、透明部材として利用されている。アルミナ単結晶の製造方法としては、ベルヌーイ法、チョクラルスキー法等が知られているが、それらの製造方法は、単結晶を得るのに長時間かかり、またチョクラルスキー法では大規模な施設が必要となる。そのため、透光部材を多品種かつ小ロットで製造するのには適していない。特許文献1に記載されたレーザ照射による焼結法を用いると、小規模施設において、短時間でアルミナ部材を製造することができるが、焼結法で得られたアルミナ部材(アルミナ焼結体)は不透明であり、透明なアルミナ焼結体を製造する方法は確立されていない。
【0005】
本発明は、透明部材として使用可能な透明アルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体の製造方法、およびその製造方法で得られたアルミナ焼結体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の態様1は、
粒径0.1μm以上1μm未満のアルミナ粒子と、粒径1μm以上100μm未満のアルミナ粒子と、を含むアルミナ粉末を成形して、アルミナ物品を得る工程と、
前記アルミナ物品の表面に炭素粉末含有層を形成して積層物を得る工程と、
前記積層物の前記炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して、透明なアルミナ焼結部を形成する工程と、を含むアルミナ焼結体の製造方法である。
【0007】
本発明の態様2は、
前記アルミナ物品の総細孔容積が0.20mL/g以下であり、細孔径4μm以上の細孔の累積細孔容積が総細孔容積の10%未満である、態様1に記載の焼結方法である。
【0008】
本発明の態様3は、
前記アルミナ粉末が、
粒径1μm以上100μm未満のアルミナ粒子を30~95体積%と、
粒径0.1μm以上1μm未満のアルミナ粒子を5~70体積%を含む、態様1または2に記載の焼結方法である。
【0009】
本発明の態様4は、
透明なアルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体であって、
当該アルミナ焼結部は、
可視光領域の透過率が50%以上であり、
単位面積あたりの単結晶状組織の数が0.2個/mm以上、25個/mm未満である、アルミナ焼結体である。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、透明部材として使用可能な透明アルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体の製造方法、およびその製造方法で得られたアルミナ焼結体が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1図1は、実施形態1に係るアルミナ粉末の一例を示す模式図である。
図2図2は、実施形態1に係るアルミナ粉末の別の例を示す模式図である。
図3図3は、アルミナ粒子の粒度分布曲線の一例である。
図4A-4D】図4A図4Dは、実施形態1に係るアルミナ焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図5A-5C】図5A図5Cは、実施形態2に係るアルミナ焼結体の製造方法を示す概略断面図である。
図6図6Aは、実施形態3に係るアルミナ焼結体の上面側からの模式図であり、図6Bは、図6Aのアルミナ焼結体に含まれる透明なアルミナ焼結部を拡大した模式図である。
図7図7は、実施例および比較例で作成したアルミナ粒子の粒度を、縦軸を頻度、横軸を粒径としてプロットした粒度分布曲線である。
図8図8は、実施例および比較例で作成したアルミナ粒子の粒度を、縦軸を体積基準の累積分布、横軸を粒径としてプロットした粒度分布曲線である。
図9図9は、実施例および比較例で作製したアルミナ物品試料についての細孔半径-累積細孔容積のグラフである。
図10図10は、実施例および比較例で作製したアルミナ焼結体の透過スペクトルである。
図11図11Aは、実施例1で作製したアルミナ焼結体の上面からの光学顕微鏡写真であり、図11Bは、図11Aの光学顕微鏡写真に単結晶状組織の粒界を記入した図である。透過スペクトルである。
図12図12Aは、実施例2で作製したアルミナ焼結体の上面からの光学顕微鏡写真であり、図12Bは、図12Aの光学顕微鏡写真に単結晶状組織の粒界を記入した図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
<実施形態1:アルミナ焼結体の製造方法>
本実施形態に係るアルミナ焼結体の製造方法は、アルミナ粉末から成形した成形体(アルミナ物品)をレーザ照射により焼結して、透明なアルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体を製造するものであり、以下の工程1~3を含む。
[工程1]異なる粒径の粒子を含むアルミナ粉末を成形して、アルミナ物品を作製する
[工程2]得られたアルミナ物品の表面に炭素粉末含有層を形成して、アルミナ物品および炭素粉末含有層が積層された積層物を作製する
[工程3]積層物の炭素粉末含有層の表面にレーザを照射して焼結し、透明なアルミナ焼結部を含むアルミナ焼結体を作製する
以下、図1図4を参照しながら、実施形態1に係る透明アルミナ焼結体の製造方法を説明する。
【0013】
[工程1]アルミナ物品21の作製
工程1では、異なる粒径の粒子を含むアルミナ粉末を成形して、成形体(アルミナ物品21)を作製する。アルミナ粉末としては、図1図2に示すように、粒径0.1μm以上1μm未満のアルミナ粒子(本明細書では「小粒径のアルミナ粒子11」と称する)と、粒径1μm以上100μm未満のアルミナ粒子(本明細書では「大粒径のアルミナ粒子12」と称する)とを含むものを使用する。
【0014】
(第1のアルミナ粉末100、第2のアルミナ粉末10について)
本実施の形態では、アルミナ物品に好適なアルミナ粉末は、大きく分けて2つ挙げられる。図1に示す第1のアルミナ粉末100は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とを拡散混合して得られたアルミナ粉末である。図2に示す第2のアルミナ粉末10は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とをジェットミル混合して得られたアルミナ粉末である。第2のアルミナ粉末10は、大粒径のアルミナ粒子12の表面に小粒径のアルミナ粒子11が結合したアルミナ複合粒子13から主として構成されている。
以下に、第1のアルミナ粉末100と、第2のアルミナ粉末10について順次説明する。
【0015】
図1に示す第1のアルミナ粉末100は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12を、例えば混合機(ダブルコーンブレンダー)等により拡散混合して得られる。第1のアルミナ粉末100では、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12は、互いに分離しているか、または互いに接触しているものの結合状態にはなっていないと推測される。
【0016】
図2に示す第2のアルミナ粉末10は、粒径の異なる2種類のアルミナ粒子をジェットミルで粉砕しながら混合(これを「ジェットミル混合」と称する)して製造する。ジェットミル混合を行うと、小粒径のアルミナ粒子11が、大粒径のアルミナ粒子12の表面に十分な強さで結合した複合粒子(本明細書では「アルミナ複合粒子13」と称する)が形成される。つまり、第2のアルミナ粉末10は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とを含むアルミナ複合粒子13が複数集まった集合体である。
第2のアルミナ粉末10の調製方法の詳細については後述する。
【0017】
本明細書において「十分な強さで結合」とは、通常の操作(例えば、加圧成形用の金型への充填等)では、大粒径のアルミナ粒子から小粒径のアルミナ粒子は脱落しないことを意図している。なお、アルミナ複合粒子13を水溶液中に分散させて、超音波の強度40Wで、5分以上の超音波振動を付与すると、多くのアルミナ複合粒子13では、小粒径のアルミナ粒子11が大粒径のアルミナ粒子12の表面から脱落する。
本明細書において、第2のアルミナ粉末10に含まれる小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12の粒径、含有量等についての記載は、超音波振動によってアルミナ複合体13を小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12に分離した後の、それぞれの粒径、含有量等について述べている。
【0018】
小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とを含むアルミナ粉末(第1のアルミナ粉末100および第2のアルミナ粉末10)は、加圧成形での成形性が良好で、レーザ照射による焼結での焼結性(本明細書では、それぞれ「成形性」、「焼結性」と称する)非常に良好で、かつ焼結後には緻密で透明な焼結部を形成できる、というという顕著な特徴を有する。好ましくは、アルミナ複合粒子13を含む第2のアルミナ粉末10を用いる。第2のアルミナ粉末10は、成形性、焼結性に優れ、透明度が特に高い焼結部を形成できる。なお、小粒径のアルミナ粒子11のみから成るアルミナ粉末の場合、成形性および焼結性は良好なものの、焼結部は不透明になる。一方、大粒径のアルミナ粒子12のみから成るアルミナ粉末の場合、成形性が極めて悪く、アルミナ物品を成形できない。
【0019】
小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12について粒径を測定したときに、小粒径のアルミナ粒子11は粒径0.1μm以上1μm未満であり、大粒径のアルミナ粒子12は粒径1μm以上100μm未満であることが好ましい。小粒径のアルミナ粒子11の粒径は、0.3μm以上0.8μm未満であることがより好ましく、0.4μm以上0.7μm未満であることが特に好ましい。大粒径のアルミナ粒子12の粒径は、3μm以上50μm未満であることがより好ましく、10μm以上25μm未満であることが特に好ましい。
【0020】
第1のアルミナ粉末100および第2のアルミナ粉末10には、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12のそれぞれが、適切な量で含まれていることが望ましい。本発明者らは、レーザ焼結によりアルミナ焼結体40を製造する場合、大粒径のアルミナ粒子12の存在により、アルミナ焼結部41の透過率が向上すると考えており、アルミナ粉末が大粒径のアルミナ粒子11を含むことにより、透明なアルミナ焼結部41を有するアルミナ焼結体40が形成可能になったと推測している。一方、大粒径のアルミナ粒子12は成形性が悪いため、大粒径のアルミナ粒子12のみではアルミナ物品21を作製することができない。大粒径のアルミナ粒子12に小粒径のアルミナ粒子11を加えることにより、成形性が向上し、アルミナ物品21を作製可能になる。すなわち、大粒径のアルミナ粒子12は、透明なアルミナ焼結部41を形成可能にする機能を有し、小粒径のアルミナ粒子11は、アルミナ粉末の成形性を向上する機能を有する。
それらの機能をより効果的に発揮するためには、小粒径のアルミナ粒子11の含有量が5~70体積%、大粒径のアルミナ粒子12の含有量が30~95体積%であることが好ましい。小粒径のアルミナ粒子11の含有量は、8~60体積%であることがより好ましく、10~50体積%であることが特に好ましい。大粒径のアルミナ粒子12の含有量は、40~92体積%であることがより好ましく、50~90体積%であることが特に好ましい。
【0021】
なお、第1のアルミナ粉末100は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12のみから成ってもよく、それらに加えて、他のアルミナ粒子(例えば、粒径100μm以上のアルミナ粒子、および/または粒径0.1μm未満のアルミナ粒子)を、本発明の効果を損なわない範囲で、含んでもよい。
また、第2のアルミナ粉末10は、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12のみを含むアルミナ複合粒子13のみから成ってもよく、当該アルミナ複合粒子13に加えて、小粒径のアルミナ粒子11および/または大粒径のアルミナ粒子12(互いに結合せずに単独の状態のままの粒子)を含んでもよい。さらに、アルミナ複合粒子13と、小粒径のアルミナ粒子11および/または大粒径のアルミナ粒子12とに加えて、他のアルミナ粒子(例えば、粒径100μm以上のアルミナ粒子、および/または粒径0.1μm未満のアルミナ粒子)を、本発明の効果を損なわない範囲で、含んでもよい。
【0022】
第1のアルミナ粉末100の場合、第1のアルミナ粉末100に含まれる小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12の粒径および含有量は、第1のアルミナ粉末100を溶液中に分散させて、粒径をレーザ回折分散法で測定する。
一方、第2のアルミナ粉末10の場合、第2のアルミナ粉末10に含まれる小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12の粒径および含有量は、上記超音波振動により小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とを分離した後、レーザ回折分散法により測定する。まず、第2のアルミナ粉末10を水溶液中に分散させて、振動強度40Wで5分以上、超音波振動を付与する。これにより、アルミナ複合粒子13のほぼ全てを大粒径のアルミナ粒子12と小粒径のアルミナ粒子11に分離することができる。その後、溶液中に分散した状態の大粒径のアルミナ粒子12および小粒径のアルミナ粒子11について、粒径をレーザ回折分散法で測定する。
【0023】
得られた測定結果から、縦軸を頻度、横軸を粒径としてプロットした粒度分布曲線(例えば、図3)を作成する。この粒度分布曲線において、1μm未満の範囲にあるピーク位置を、小粒径のアルミナ粒子11の粒径、1μm以上の範囲にあるピーク位置を、大粒径のアルミナ粒子12の粒径とする。
【0024】
小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12の含有量は、別の粒度分布曲線から求めることができる。
上述したレーザ回折分散法で得られた粒径の測定結果から、縦軸を体積基準の累積分布、横軸を粒径としてプロットした粒度分布曲線(例えば、図3)を作成する。この粒度分布曲線において、(粒径1μmの累積分布値)-(粒径0.1μmの累積分布値)を小粒径の含有量とし、(粒径100μmの累積分布値)-(粒径1μmの累積分布値)を大粒径の含有量とする。
【0025】
(第2のアルミナ粉末10の調製について)
図2に示す第2のアルミナ粉末10の調製方法について詳述する。
第2のアルミナ粉末10は、比表面積が1.5m/g以上15m/g未満の第1のアルミナ粒子と、比表面積が0.01m/g以上1.5m/g未満の第2のアルミナ粒子とを、解砕しながら混合する工程を含む方法により製造することができる。このような方法として、第1のアルミナ粒子と第2のアルミナ粒子とをジェットミルにより混合する工程(混合工程)を含む方法が挙げられる。
以下に、混合工程の一例を説明する。
【0026】
・アルミナ粒子の準備
比表面積が1.5m/g以上の第1のアルミナ粒子と、比表面積が1.5m/g未満の第2のアルミナ粒子を準備する。第1のアルミナ粒子は、比表面積が1.5m/g以上15m/g未満が好ましく、2m/g以上10m/g未満がより好ましい。第2のアルミナ粒子は、比表面積が0.01m/g以上1.5m/g未満が好ましく、0.03m/g以上1.0m/g未満がより好ましい。
【0027】
・予備混合
準備した第1のアルミナ粒子および第2のアルミナ粒子を袋に投入して封止し、袋を振ることにより、第1のアルミナ粒子と第2のアルミナ粒子とを予備混合して、混合物を得る。予備混合を行うと、第1のアルミナ粒子の一部が、第2のアルミナ粒子の表面に弱い力で付着する。袋に投入する第1のアルミナ粒子と第2のアルミナ粒子の配合比は、質量比で、20:80~80:20であることが好ましく、30:70~70:30であることがより好ましい。
【0028】
・ジェットミル混合
予備混合で得られた混合物をジェットミル混合することにより、第2のアルミナ粉末10が得られる。
ジェットミルで混合すると、混合中に、第1のアルミナ粒子と第2のアルミナ粒子が衝突する。そのときに、第1のアルミナ粒子は解砕されて、第2のアルミナ粉末10における「小粒径のアルミナ粒子11」となり、第2のアルミナ粒子は解砕されて、第2のアルミナ粉末10における「大粒径のアルミナ粒子12」となる。また、小粒径のアルミナ粒子11は、大粒径のアルミナ粒子12の表面に強く結合するようになる。
【0029】
なお、アルミナ粒子としては、第1のアルミナ粒子および第2のアルミナ粒子の他に、他のアルミナ粒子(例えば、粒径100μm以上のアルミナ粒子、および/または粒径0.1μm未満のアルミナ粒子)を含んでもよい。他のアルミナ粒子(これを「第3のアルミナ粒子」と称する)は、第1のアルミナ粒子および第2のアルミナ粒子と共にジェットミルで混合することが好ましい。例えば、「・アルミナ粒子の準備」において、第1のアルミナ粒子および第2のアルミナ粒子だけでなく、第3のアルミナ粒子も準備し、「・予備混合」において、第3のアルミナ粒子を、第1のアルミナ粒子および第2のアルミナ粒子と共に袋に入れて予備混合して、第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子および第3のアルミナ粒子の混合物を得る。そして、「・ジェットミル混合」では、得られた混合物をジェットミルで混合することにより、第2のアルミナ粉末10を得ることができる。
【0030】
(アルミナ物品21の成形)
第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ粉末10を成形して、アルミナ物品21を得る。例えば、図4Aのように、成形用の金型60に第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ粉末10を投入し、加圧治具61を矢印F方向に加圧して、加圧成形する。これにより、図4Bに示すように、所定の形状のアルミナ物品21が得られる。
【0031】
アルミナ物品21は、総細孔容積が0.20mL/g以下であり、細孔径4μm以上の細孔の累積細孔容積が総細孔容積の10%未満であるのが好ましい。そのような特性を有するアルミナ物品21では、レーザ照射により焼結すると、より緻密な透明アルミナ焼結部を形成することができる。
このようなアルミナ物品21は、第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ10を圧力10MPa~30MPaで加圧成形することにより得ることができる。
【0032】
アルミナ物品21の細孔径1μm以上の細孔の累積細孔容積が、総細孔容積の10%未満であるのが特に好ましく、極めて緻密な透明アルミナ焼結部を形成できる。このようなアルミナ物品21は、ジェットミル混合で作製した第2のアルミナ粉末10を用いることにより作製することができる。
【0033】
細孔容積および細孔半径は、水銀圧入法(JIS R 1655:2003)により測定する。
水銀にかける圧力を増加させながら細孔に侵入する水銀の累積侵入量を測定する。得られた測定結果について、圧力を細孔半径に、累積侵入量を累積細孔容積にそれぞれ換算する。そして、換算値を用いて、細孔半径が100μmから0.0018μmまでの範囲について、累積細孔容積をプロットしてグラフを作成する。このグラフから、総細孔容積および所定の細孔半径における累積細孔容積等を読み取る。
【0034】
ここで「細孔半径0.0018μm以上の細孔の総細孔容積」(単に「総細孔容積」と称することもある)とは、細孔半径0.0018μm以上の細孔の容積の合計のことであり、グラフ上では、細孔半径0.0018μmにおける累積細孔容積に相当する。
【0035】
「細孔半径4μm以上の細孔の累積細孔容積」(単に「4μm以上の累積細孔容積」と称することもある)とは、細孔半径4μm以上の細孔の容積の合計のことであり、グラフ上では、細孔半径4μmにおける累積細孔容積に相当する。「総細孔容積に対する、細孔半径4μm以上の細孔の累積細孔容積の割合」(単に「4μm以上の細孔の割合」と称することもある)は、以下の式(1)から算出する。

4μm以上の細孔の割合=(4μm以上の累積細孔容積)÷(総細孔容積)×100(%)・・・(1)
【0036】
同様に、「総細孔容積に対する、細孔半径1μm以上の細孔の累積細孔容積の割合」(単に「1μm以上の細孔の割合」と称することもある)は、以下の式(2)から算出する。

1μm以上の細孔の割合=(1μm以上の累積細孔容積)÷(総細孔容積)×100(%)・・・(2)
【0037】
[工程2]積層物20の作製
工程2では、アルミナ物品21の表面21aに炭素粉末含有層22を形成する。これにより、アルミナ物品21および炭素粉末含有層22が積層された積層物20が得られる。炭素粉末含有層22に含まれる炭素粉末が、次の[工程3]において照射するレーザを吸収して発熱することにより、炭素粉末含有層22の下側にあるアルミナ物品21が焼結される。
【0038】
炭素粉末含有層22の形成方法としては、例えば、炭素粉末のみ、又は、炭素粉末と、バインダーとを含有する組成物、又は、炭素粉末と、有機溶剤とを含有する組成物を用いて、スプレー等による散布法、スクリーン印刷等の印刷法、ドクターブレード法、スピンコート法、カーテンコーター法等の塗布法等が挙げられる。炭素粉末含有層22は、図4Cに示すように、アルミナ物品21の表面21aの全面に形成してもよく、または表面21aの所定位置にのみ部分的に形成してもよい。
【0039】
炭素粉末含有層22に含まれる炭素粉末の含有割合は、レーザの吸収能を高める観点から、好ましくは50質量%以上、より好ましくは80質量%以上である。炭素粉末含有層22の厚さは、レーザの吸収能を高める観点から、好ましくは5nm~30μm、より好ましくは100nm~10μmである。
【0040】
[工程3]アルミナ焼結体40の作製
工程3では、積層物20の炭素粉末含有層22の表面22aにレーザを照射して、透明なアルミナ焼結部41を含むアルミナ焼結体40を作製する。本明細書においては、「アルミナ焼結体40」とは、透明なアルミナ焼結部41を少なくとも一部に含むものを意味する。よって、アルミナ焼結体40は、一部に不透明な非焼結部42を含んでもよく、さらには、一部に不透明なアルミナ焼結部(図示せず)を含んでもよい。アルミナ焼結体40は、透明なアルミナ焼結部41のみからなることが好ましい。
【0041】
図4Cに示すように、レーザ装置30からのレーザ31を炭素粉末含有層22の表面22aの所定の位置に照射すると、レーザが照射された照射位置31Eでは、炭素粉末含有層22中の炭素粉末がレーザのエネルギーを吸収する。これにより、照射位置31Eに存在する炭素粉末含有層22は、発熱すると同時に瞬時に消失する。そして、炭素粉末含有層22の下側にあるアルミナ物品21は、照射位置31Eの直下の領域(これを「直下領域31R」と称する)内に存在する部分31Pが、800℃以上(推定温度)に予熱される。アルミナ物品21の部分21P(部分21Pの表面上にあった炭素粉末含有層22は既に消失しているので、部分21Pの表面は露出している)に、更にレーザが照射されることで温度上昇が進行する。その結果、部分21P内にあるアルミナ粉末が焼結され、アルミナ焼結部41が形成される(図4D)。これにより、アルミナ物品21の所望の位置(部分21P)にのみ、局所的にアルミナ焼結部41を形成できる。
【0042】
なお、アルミナ物品21は、照射位置31Eの直下領域31Rの範囲外にある部分では焼結されないため、焼結されなかった部分は非焼結部42となる。非焼結部42は、必要に応じて除去してもよく、さらに追加のレーザ照射を行って非焼結部42を焼結して、アルミナ焼結部41を拡大してもよい。
【0043】
実施形態1では、小粒径のアルミナ粒子11および大粒径のアルミナ粒子12を含むアルミナ粉末(第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ粉末10)を用いてアルミナ物品21を成形しているため、レーザ照射すると、アルミナ粒子12を含む第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ粉末10が緻密に焼結して、透明なアルミナ焼結部41を形成できる。なお、非焼結部42は不透明である。なお、本明細書において「透明」とは、可視光の透過率が50%以上であることをいい、「半透明」とは、可視光の透過率が10%以上50%未満であることをいい、「不透明」とは、可視光の透過率が10%未満のことをという。本明細書において、「可視光」とは、可視光領域に波長を有する光のことであり、「可視光領域」とは、波長360~830nmの波長域のことを意味する。
本発明で形成される透明なアルミナ焼結部41は、レーザの照射方向に依存して内部構造(主に結晶粒の粒界方位)に異方性を有する。その内部構造の異方性に起因して、可視光の透過率に異方性が生じることがある。その場合は、最も高い透過率を示す方向における可視光の透過率に基づいて、「透明」、「半透明」、「不透明」を判断する。
【0044】
レーザ31は、図4Cに示すように炭素粉末含有層22の表面22aの一部(所定位置)にのみ照射してもよいが、炭素粉末含有層22の表面22aの全面に照射してもよい。レーザ31を表面22aの全面に照射する方法としては、スポット径の大きいレーザ31を使用して同時に全面照射する方法(一斉照射)と、スポット径の小さいレーザ31の照射位置を相対的に移動させることにより表面22aの全面に照射する方法(走査照射)がある。走査照射としては、例えば、積層物20を固定した状態でレーザをスキャンさせる方法、光拡散レンズを介してレーザの光路を変化させながら照射する方法、又は、レーザの光路を固定して、積層物20を移動させながらレーザを照射する方法が挙げられる。
【0045】
使用するレーザの種類は特に限定されないが、レーザの吸収能を高める観点から、炭素粉末による吸収率の高い波長域(500nm~11μm)のレーザを用いることが好ましい。例えば、Nd:YAGレーザ、Nd:YVOレーザ、Nd:YLFレーザ、チタンサファイアレーザー、炭酸ガスレーザー等を用いることができる。
【0046】
レーザの照射条件は、焼結面積、焼結深さ等により、適宜、選択される。レーザ出力は、焼結を適切に進行させる観点から、好ましくは50~2000W/cm 、より好ましくは100~500W/cm である。また、照射時間は、好ましくは1秒間~60分間、より好ましくは5秒間~30分間である。
【0047】
炭素粉末含有層22にレーザを照射する際の雰囲気は、特に限定されないが、例えば、大気、窒素、アルゴン、ヘリウム等とすることができる。また、レーザを照射する前に、アルミナ物品21および/または炭素粉末含有層22を予熱してもよい。予熱温度は、好ましくは300℃以上、より好ましくは400℃以上であり、予熱温度の上限は、通常、焼結用セラミックスの融点より200℃以上低い温度である。予熱は、例えば、赤外線ランプ、ハロゲンランプ、抵抗加熱、高周波誘導加熱、マイクロ波加熱等で行うことができる。
【0048】
積層物20における炭素粉末含有層14の全面にレーザ照射を行った場合には、炭素粉末含有層14におけるレーザ照射部の下地側の全面を焼結部16とすることができるので、上記物品12に対して大面積の焼結を行う場合、積層物10を固定した状態でレーザをスキャンさせながら若しくは光拡散レンズを介して光路を変化させながら照射する方法、又は、積層物10を移動させながら、光路を固定したレーザを照射する方法を適用することができる。
【0049】
<実施形態2:透明アルミナ焼結体40の製造方法>
図5A図5Cは、実施形態2に係る透明アルミナ焼結体40の製造方法を説明するための概略断面図である。実施形態2では、アルミナ物品21を、基材23の上に形成している点で実施形態1と異なるが、その他の点については、実施形態1と同様である。以下、実施形態1と異なる点を中心に説明する。
【0050】
[工程1]アルミナ物品21の作製
図5Aに示すように、基材23上で、異なる粒径の粒子を含む第1のアルミナ粉末100または第2のアルミナ粉末10を成形して、基材23上に成形体(アルミナ物品21)を作製する。
基材23は、金属、合金及びセラミックスから選ばれた少なくとも1種からなることが好ましい。基材23上にアルミナ物品21を形成する方法としては、溶射法、電子ビーム物理蒸着法、レーザ化学蒸着法、コールドスプレー法、焼結用セラミックス粒子、分散媒及び必要に応じて用いられる高分子バインダーを含むスラリーを塗布した後、乾燥を行い、更に脱脂する方法等の、従来、公知の方法で形成することができる。基材23およびアルミナ物品21は、接合されていてよいし、接合されずに、アルミナ物品21が基材23の上に載置されていてもよい。
【0051】
[工程2]積層物20の作製
図5Bに示すように、アルミナ物品21の表面21aに炭素粉末含有層22を形成する。これにより、基材23、アルミナ物品21および炭素粉末含有層22が積層された積層物200が得られる。
【0052】
[工程3]アルミナ焼結体40の作製
図5Cに示すように、積層物200の炭素粉末含有層22の表面22aにレーザを照射して、アルミナ物品21中に透明なアルミナ焼結部41を形成する。これにより、基材23上に、透明なアルミナ焼結部41と非焼結部42とを含むアルミナ焼結体40が形成される。
【0053】
<実施形態3:アルミナ焼結体40>
実施形態3は、実施形態1および2に記載した方法により、アルミナ物品21をレーザ照射で焼結させて得られたアルミナ焼結体40に関する。
図6Aは、実施形態3に係るアルミナ焼結体40を説明するための上面側からの模式図である。アルミナ焼結体40は、透明なアルミナ焼結部41を含む。さらに、アルミナ焼結体40は、不透明な非焼結部42を含んでいてもよい。図6Aに示すアルミナ焼結体40は、アルミナ焼結部41と、その周囲を取り囲む非焼結部42とを含んでいる。
図6Aにおける「上面」とは、焼結時にレーザが照射された面に相当する。つまり、実施形態1(図4C)および実施形態2(図5B)におけるアルミナ物品21の表面21aが、焼結後に、アルミナ焼結体40の上面40aとなる。図6Aでは、アルミナ焼結体40の上面40aは、透明なアルミナ焼結部41の表面41aと、非焼結部42の表面42aを含んでいる。
【0054】
図6Bは、図6Aに示したアルミナ焼結体40のうち、アルミナ焼結部41の部分を拡大した模式図である。アルミナ焼結部41は透明であり、上面41aから観察すると、複数の単結晶状組織410から構成されていることが視認できる。「単結晶状組織410」とは、粒界410bによって周囲を囲まれた結晶粒子のことである。1つの単結晶状組織410内(つまり、1つの結晶粒子内)では、結晶方位は揃っている。各単結晶状組織410は、小さい単結晶と見なすことがきる。
【0055】
個々の単結晶状組織410は透明度が高い。その結果、実施形態3のアルミナ焼結体40では、アルミナ焼結部41は、透明(可視光の透過率が50%以上)になる。そのため、アルミナ焼結部41は透明な窓材として、または他の部材の表面にアルミナ焼結部41を形成することにより透明な被覆材として、利用し得る。
アルミナ焼結部41の透過率の測定方法については後述する。なお、図5Cに示すように、アルミナ焼結体40を基材23上で製造した場合、透明なアルミナ焼結部41の透過率の測定は、基材23を除去した後に行う。
【0056】
アルミナ焼結部41に含まれる粒界410bは、光を散乱させる効果がある。そのため、粒界410bの数が少ないほど、アルミナ焼結部41の可視光領域の透過率が高くなる。実施の形態3のアルミナ焼結体40では、アルミナ焼結部41を上面41aから観察したときに、アルミナ焼結部41中に含まれる単結晶状組織410の単位面積当たりの数が、0.2個/mm以上、25個/mm未満である。粒界410bは、単結晶状組織410を囲むものであるため、単位面積当たりの単結晶状組織410の数が少なくなると、単位面積当たりの粒界の数も少なくなる。そのため、単結晶状組織410の数を25個/mm未満に制限することにより、アルミナ焼結部41の透過率を向上することができる。
【0057】
但し、レーザ焼結で製造したアルミナ焼結体40の場合、アルミナ焼結部41内の界面を完全になくすことはできない。レーザ焼結で得られたアルミナ焼結体40の場合、現実的な観点から、アルミナ焼結部41中に含まれる単結晶状組織410の単位面積当たりの数は、0.2個/mm以上とする。そのため、チョクラルスキー法等で製造された単結晶アルミナのように粒界410bを殆ど含まない透明アルミナに比べると、アルミナ焼結部41の透過率は、通常は低い。
【0058】
アルミナ焼結部41中に含まれる単結晶状組織410の単位面積当たりの数は、次のようにして求める。
光学顕微鏡写真において、アルミナ焼結部41の任意の位置に、一辺3mmの正方形の領域を規定し、その領域内にある単結晶状組織410の数(N)を数える。数(N)を、正方形の面積(9mm)で割ることにより、単位面積当たりの単結晶状組織410の数(個/mm)を算出する。
なお、正方形の領域を規定する場合には、当該領域内に非焼結部42が含まれないように規定する必要がある。また、原則として、一辺3mmの正方形の領域で数Nを数えるが、アルミナ焼結部41の面積が小さく、一辺3mmの正方形の領域を規定できない場合には、例外的に、一辺2mmの正方形の領域、3mm×2mmの長方形の領域等のように、領域の面積を狭くしてもできる。
【0059】
なお、粒界410bは、レーザの照射方向に沿って並ぶ傾向がある。つまり、図4C図5Bに図示するように、アルミナ物品21の表面21aから垂直下向き(図4C図5Bでは、アルミナ物品21の厚さ方向)にレーザ照射すると、粒界410bの多くも、アルミナ焼結部41の内部を、上面41aから垂直下向き(アルミナ焼結部41の厚さ方向)に沿って生じやすい。そのため、アルミナ焼結部41の透過率は、製造時にレーザを照射した方向と同じ方向で測定すると、高い透過率を示す傾向がある。そのため、後述するように、焼結部41の透過率を測定する際には、粒界410bの向きに十分に留意する必要がある。
また、粒界410bの方向から、焼結時のレーザ照射方向を推定することができる。粒界410bの方向は、アルミナ焼結部41の上面観察、断面観察、または破面観察によって確認することができる。
【0060】
次に、アルミナ焼結部41の透過率について説明する。
アルミナ焼結部41の透過率は、波長可変の吸光分光装置などを用いて測定することができる。例えば、紫外線~赤外線までの波長範囲における固体の吸光度を測定可能な紫外可視吸光分光装置などが好適である。
一般的に、透過率は測定波長によって変動する。さらに、実施形態3のアルミナ焼結体40の場合、同じ波長であっても、以下の理由によって、アルミナ焼結部41に入射する光の方向によっても透過率が変動し得る。
アルミナ焼結部41の透過率測定において、測定用の光の通過経路上に粒界410bがあると、光を散乱するため、透過率が低下する。一方、測定用の光の通過経路上に存在する粒界410bの数が少ないと、粒界410bによる光の散乱が起こらず、透過率が上昇する。上述したように、レーザ焼結で製造したアルミナ焼結体40の場合、アルミナ焼結部41中の粒界410bは、レーザ照射方向に揃う傾向がある。このように、アルミナ焼結部41は、粒界410bの存在方向に異方性があるため、透過率にも異方性があると考えられる。
【0061】
本明細書において、可視光領域の透過率が50%以上とは、最も高い透過率(最大透過率)を示す測定方向から透過率を測定したときに、可視光領域(360~830nmの波長域)の全てにおいて、透過率が50%以上であることを意味する。そのため、透過率(最大透過率)50%以上のアルミナ焼結部41を用いて、異なる測定方向から透過率を測定すると、その測定方向における透過率は最大透過率より低く(例えば50%未満)になる可能性がある。
【0062】
実施形態3のアルミナ焼結体40は、アルミナ焼結部41が透明であるため、透光性部材としての用途が期待される。
また、アルミナ焼結部41は、レーザ焼結特有の粒界410bを有しているので、透過率に異方性を生じる可能性がある。そのため、特定方向からの視認性は高く、それ以外の方向からの視認性が低くできる可能性があり、液晶画面等の保護フィルムとしての用途が期待される。
さらに、アルミナ焼結体40を別部材の表面に形成した場合、アルミナ焼結体40と別部材との熱膨張率差によって、アルミナ焼結体40に引張応力または圧縮応力がかかる可能性がある。また、アルミナ焼結体40単体であっても、急加熱または急冷されたときに、アルミナ焼結体40内部に引張応力または圧縮応力がかかる可能性がある。このような場合でも、アルミナ焼結部41内に存在する粒界410bがそれらの応力を緩和して、アルミナ焼結体40の破損を抑制できることが期待される。
【実施例
【0063】
(1)アルミナ粉末試料の製造
以下に、実施例1、2および比較例1で使用したアルミナ粉末試料の作製条件、アルミナ粉末試料を加圧成形して作製したアルミナ物品の成形条件、アルミナ物品のレーザ焼結における焼結条件を説明する。表1には、実施例1~2、比較例1のアルミナ粉末試料の作製に使用した第1のアルミナ粒子、第2のアルミナ粒子および第3のアルミナ粒子の配合率を記載した。なお、表1の各アルミナ粒子の欄において、「-」は、そのアルミナ粒子を配合しなかったことを意味する。
【0064】
(実施例1)
アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた高純度水酸化アルミニウムに、平均粒径が0.25μmのα-アルミナ粒子を混合し、塩化水素雰囲気で焼成することで、比表面積が4.8m/gの第1のアルミナ粒子を得た。アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた高純度水酸化アルミニウムを塩化水素雰囲気で焼成することで、比表面積が0.2m/gの第2のアルミナ粒子を得た。第1のアルミナ粒子と第2のアルミナ粒子を質量比30:70の割合で配合してビニル袋に投入し、ビニル袋を封止した後に上下に強く振って拡散混合させた。その後に、ジェットミル粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製水平型ジェットミル粉砕機 PJM-280SP)で粉砕しながら混合することで実施例1のアルミナ粉末試料を作製した。
【0065】
アルミナ粉末試料を300mg取り分け、ペレット成型用の金型(内径10mmの円筒形)に装填し、1軸プレス機にて10MPaで30秒加圧し、焼結用のアルミナペレット(アルミナ物品試料)を得た。アルミナ物品試料の表面に、日本船舶工具有限会社製エアゾール乾性黒鉛皮膜形成潤滑剤「DGFスプレー」(商品名)の吹き付けを約1秒間行った。その後、これを、30秒間放置して、厚さが約5μmの炭素粉末含有層を備える積層物試料を得た。
【0066】
次に、積層物試料の炭素粉末含有層の表面に、波長1064nm、出力500Wのレーザを1分間照射した。このとき、炭素粉末含有層の表面上におけるビーム径を10mmとし、アルミナ物品試料(直径10mm)の全体がレーザ焼結できるように、レーザの位置を調節した。これにより、アルミナ物品試料の全体が焼結されて、非焼結部を含まない(つまり、全体がアルミナ焼結部から成る)アルミナ焼結体試料を得た。
【0067】
(実施例2)
アルミニウムアルコキシドの加水分解法により得られた高純度水酸化アルミニウムに、平均粒径が0.25μmのα-アルミナ種粒子を混合し、塩化水素雰囲気で焼成することで、比表面積が0.5m/gの第3のアルミナ粒子を得た。実施例1における第1のアルミナ粒子のかわりに第3のアルミナ粒子を用いた以外は、前記実施例1と同様にして実施例2を得た。
【0068】
(比較例1)
第1のアルミナ粒子のみを、ジェットミル粉砕機(日本ニューマチック工業株式会社製水平型ジェットミル粉砕機 PJM-380SP)で粉砕して、アルミナ粉末試料を作製した以外は、前記実施例1と同様にして比較例1を得た。
【0069】
【表1】
【0070】
(2)アルミナ粉末試料の粒度分布測定
実施例1、2および比較例1のアルミナ粉末試料について、粒度分布を測定した。
粒度分布測定は、レーザ粒度分布測定装置〔マイクロトラック・ベル(株)製「マイクロトラックMT3300EXII」〕を用いて行った。測定するアルミナ粉末を0.2質量%のヘキサメタ燐酸ソーダ水溶液(以下「分散液」とも称する)に少量添加し、装置内蔵の超音波に40Wで5分間かけて、アルミナ粒子を分散させた。なお、アルミナの屈折率は1.76とした。
【0071】
実施例1および2のアルミナ粉末試料は、アルミナ複合粒子13(小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12が結合した粒子)を含んでいた。アルミナ複合粒子13は、分散液を添加しても分離しなかったが、超音波分散を行うことによって、小粒径のアルミナ粒子11と大粒径のアルミナ粒子12とに分離した。
比較例1のアルミナ粉末試料は、小粒径のアルミナ粒子11のみから成っていた。それらの粒子は互いに接触しているのみなので、分散液を添加すると、容易に分離した。
【0072】
図7は、レーザ回折法により得られた、縦軸を頻度、横軸を粒径とした粒度分布曲線である。図7の粒度分布曲線において、1μm未満の範囲にあるピーク位置を小粒子のアルミナ粒子11の粒径(ピーク粒径)、1μm以上の範囲にあるピーク位置を大粒子のアルミナ粒子12の粒径(ピーク粒径)とした。また、図8に示す粒度分布曲線は、レーザ回折法により得られた、縦軸を体積基準の累積分布、横軸を粒径とした粒度分布曲線である。図8の粒度分布曲線において、(粒径1μmの累積分布値)-(粒径0.1μmの累積分布値)を小粒径のアルミナ粒子11の含有量(体積%)とし、(粒径100μmの累積分布値)-(粒径1μmの累積分布値)を大粒径のアルミナ粒子12の含有量(体積%)とした。
【0073】
表2に、実施例1、2および比較例1の各アルミナ粉末試料について、小粒径のアルミナ粒子11のピーク粒径および含有量と、大粒径のアルミナ粒子12のピーク粒径および含有量を表2に記載した。
図7の粒度分布曲線から分かるように、比較例1のグラフは、1μm以上の範囲にピークが存在しなかった。そのため、表2の大粒径のアルミナ粒子12の「ピーク粒径」の欄では、ピークが確認されなかったことを表すために、「-」と表記した。
なお、図7の粒度分布曲線から分かるように、比較例1の小粒子のアルミナ粒子11のピークの裾野は、粒径1μmを超えて延在していた。つまり、比較例1のアルミナ粉末は、図7の粒度分布曲線では粒径1μm以上の範囲にピークが確認されなかったが、粒径1μm以上のアルミナ粒子は存在していた。そのため、表2では、比較例1は、大粒径のアルミナ粒子12の「ピーク粒径」は存在しない(「-」と表記)のに、大粒径のアルミナ粒子12(つまり、粒径1μm以上のアルミナ粒子)の含有量はゼロではなかった。
【0074】
【表2】
【0075】
(3)アルミナ物品試料の細孔分布測定
実施例1、2および比較例1の各アルミナ粉末試料を4g取り分け、そこに0.04gの水(アルミナ粉末試料の1質量%に相当)を添加して、ビニル袋に投入し、ビニル袋を封止した後に上下に強く振って拡散混合させた。得られた混合物を、ペレット成型用の金型(内径20mmの円筒形)に装填し、1軸プレス機にて0MPaで30秒加圧する。これによりアルミナ粉末ペレット(直径20mm、厚さ4~6mm)が得られた。このアルミナ粉末ペレットを120℃で4時間乾燥して、測定用のアルミナ物品試料を得た。アルミナ物品試料を120℃で4時間乾燥した後、オートポアIV9520(micromeritics社製)を用いて、水銀圧入法(JIS R 1655:2003)により測定した。細孔半径が100μmから0.0018μmまでの範囲で測定を行った。測定結果に基づいて、横軸を細孔半径、縦軸を累積細孔容積としたグラフをプロットした(図9参照)。

【0076】
細孔半径4μmにおける累積細孔容積(細孔半径4μm以上の細孔の累積細孔容積)を、「4μm以上の累積細孔容積(A)」とした。
0.0018μmにおける累積細孔容積(細孔半径0.0018μm以上の細孔の総細孔容積)を、「総細孔容積(B)」とした。
「4μm以上の細孔の割合(A/B×100)」(細孔半径4μm以上の細孔の割合)は、以下の式(1)から算出した。

4μm以上の細孔の割合=(4μm以上の累積細孔容積)÷(総細孔容積)×100(%)・・・(1)
【0077】
実施例1、2および比較例1の各アルミナ粉末試料から成形されたアルミナ物品試料について、4μm以上の累積細孔容積(A)、総細孔容積(B)、および4μm以上の細孔の割合(A/B×100)の測定結果を表3に記載した。
【0078】
【表3】
【0079】
(4)アルミナ焼結部の透過スペクトル測定
実施例1、2および比較例1で得られたアルミナ焼結体試料のアルミナ焼結部に対して、紫外可視吸光分光装置(Perkin-Elmer Lambda 950)を用いて透過スペクトルを測定した。なお、透過率測定の測定方向(光の透過方向)が、焼結時のレーザ照射方向と一致するように、アルミナ焼結体試料を測定装置内にセットした。また、ビームのサイズは2mm×4mm程度とし、試料の厚みは0.8mmとした。
360nm~830nmの可視光領域における透過率の範囲を表4に示した。表4の「評価」では、可視光領域における透過率の最小値が50%未満を「不可」、50%以上を「良」、70%以上を「優」とした。
【0080】
【表4】
【0081】
(5)アルミナ焼結部の単結晶状組織
実施例1および実施例2で作製したアルミナ焼結体試料の上面からの光学顕微鏡写真を撮影し、単位面積当たりの単結晶状組織の数を計測した。
図11Aは、実施例1で作製したアルミナ焼結体試料の光学顕微鏡写真である。アルミナ焼結体の全体が透明なアルミナ焼結部となっていた。図11Bに示すように、アルミナ焼結部の任意の位置に、一辺3mmの正方形の領域を規定し、その領域内において粒界を手動で描画した。なお、粒界は、光学顕微鏡写真(例えば、倍率5~200倍)を肉眼で視認することで、容易に特定可能である。当該正方形の領域内にある単結晶状組織の数(N)を数えた。そして、数(N)を、正方形の面積(9mm)で割って、単位面積当たりの単結晶状組織の数(個/mm)を算出した。
【0082】
実施例2で作製したアルミナ焼結体試料についても、同様の測定を行った。図12Aは、実施例2で作製したアルミナ焼結体の光学顕微鏡写真であり、図12Bは、図12Aの光学顕微鏡写真において、一辺3mmの正方形の領域内における粒界を描画したものである。実施例2のアルミナ焼結体試料について、正方形の領域内にある単結晶状組織の数(N)を数え、単位面積当たりの単結晶状組織の数(個/mm)を算出した。
【0083】
実施例1および2について、単結晶状組織の数(N)および単位面積当たりの単結晶状組織の数(個/mm)を表5に記載した。
【0084】
【表5】
【0085】
実施例1、2および比較例1について、以下に考察する。
実施例1、2は、小粒径のアルミナ粒子11と、大粒径のアルミナ粒子12と、を含むアルミナ粉末を用いた。そのため、得られたアルミナ焼結体のアルミナ焼結部では、360nm~830nmの可視光領域における透過率は50%以上となった。このことから、実施例1、2では、透明なアルミナ焼結部が形成されたことが分かる。
特に、実施例1では、アルミナ粉末に含まれる大粒径のアルミナ粉末12の粒径が18μmと大きかったであったので、可視光領域における透過率が70%以上となり、特に透明なアルミナ焼結部が形成された。
【0086】
また、実施例1、2のアルミナ焼結体のアルミナ焼結部は、単位面積当たりの単結晶状組織の数が少なかった。
【0087】
比較例1は、小粒径のアルミナ粒子11のみを含むアルミナ粉末を用いた。そのため、得られたアルミナ焼結体のアルミナ焼結部では、可視光領域における透過率は極めて低く、不透明なアルミナ焼結部が形成された。
【符号の説明】
【0088】
10、100 アルミナ粉末
11 小粒径のアルミナ粒子
12 大粒径のアルミナ粒子
13 アルミナ複合粒子
20、200 積層物
21 アルミナ物品
22 炭素粉末含有層、
23 基材
30 レーザ照射手段
31 レーザ
31E 照射位置
31R 照射位置の直下領域
40 アルミナ焼結体
41 アルミナ焼結部
410 単結晶状組織
410b 粒界
42 非焼結部
60 金型
61 加圧治具
図1
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図3
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図5
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図12