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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】気体分離膜の製造方法
(51)【国際特許分類】
   B01D 53/22 20060101AFI20230712BHJP
   B01D 71/38 20060101ALI20230712BHJP
   B01D 71/70 20060101ALI20230712BHJP
   B01D 71/72 20060101ALI20230712BHJP
   B01D 71/02 20060101ALI20230712BHJP
   C08J 3/22 20060101ALI20230712BHJP
   C08L 83/04 20060101ALI20230712BHJP
   C08L 29/04 20060101ALI20230712BHJP
   C08L 73/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B01D53/22
B01D71/38
B01D71/70
B01D71/72
B01D71/02 500
C08J3/22
C08L83/04
C08L29/04
C08L73/00
【請求項の数】 8
(21)【出願番号】P 2020519902
(86)(22)【出願日】2019-05-15
(86)【国際出願番号】 JP2019019386
(87)【国際公開番号】W WO2019221200
(87)【国際公開日】2019-11-21
【審査請求日】2022-02-21
(31)【優先権主張番号】P 2018094902
(32)【優先日】2018-05-16
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】小高 一利
(72)【発明者】
【氏名】伊左治 忠之
(72)【発明者】
【氏名】堀内 雄史
【審査官】佐々木 典子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2018/038027(WO,A1)
【文献】特開2014-014807(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第104722215(CN,A)
【文献】国際公開第2017/056594(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01D 53/22、
61/00-71/82
C02F 1/44
C08J 3/22
C08L 29/04、73/00、83/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂中にナノ粒子が均一に分散している気体分離膜の製造方法であって、
下記(A)と(B)を含む気体分離膜の製造方法:
(A)ナノ粒子の量を全質量に対して1質量%~50質量%にして、前記ナノ粒子とマトリクス樹脂とを該マトリクス樹脂を溶解させる溶媒中で混合し、次いで、乾燥によって溶媒を除去してマスターバッチを製造する工程と、
(B)上記マスターバッチを溶剤に溶解させた後に基板に塗布し、溶剤を蒸発させて前記気体分離膜を得る工程。
【請求項2】
前記マトリクス樹脂が、マイクロポーラスポリマーである請求項1に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項3】
前記マイクロポーラスポリマーが、下記構造で表される高分子(PIM-1)である請求項2に記載の気体分離膜の製造方法。
【化1】
【請求項4】
前記マトリクス樹脂が、ジメチルシリコーンである請求項1に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項5】
前記マトリクス樹脂が、ポリビニルアルコールである請求項1に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項6】
前記ナノ粒子が無機微粒子である請求項1~請求項5の何れか一項に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項7】
前記ナノ粒子がシリカ微粒子である請求項1~請求項6の何れか一項に記載の気体分離膜の製造方法。
【請求項8】
前記シリカ微粒子が官能基によって修飾されたシリカ微粒子である請求項に記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、樹脂中に分散しにくい微粒子を、粒子表面への高分子の導入、ワニスの溶媒変更、分散剤の添加をすることなく、樹脂中で微粒子が均一に分散している気体分離膜の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ナノテクノロジー研究の一還として、平均粒子径が1nm位から数百nm位までのナノメートルオーダーの微粒子(ナノ粒子)に関する研究が盛んに行われている。素材をナノサイズ化したナノ粒子では、従来のバルク材料とは異なり、様々な機態・特性を発現・付与できることが知られており、幅広い産業分野での応用が期待されている。ナノ粒子は一次粒子としての製造は可能であるが、その微細さに由来して凝集性が強く、放置しておくとマイクロオーダーの粒子径を有する凝集体となってしまう。例えば、上述したような無機物ナノ粒子を有機成分中に添加した場合、耐熱性の向上や機械的強度の向上が期待できる一方で、無機物ナノ粒子はその凝集性の強さから、そのままでは有機溶媒中や高分子マトリクス中でマイクロオーダーの凝集体を形成し、結果として期待したような有機-無機複合材料の特性・性能を得られない可能性がある。このため、一次粒子としての分散性を維持するために、粒子表面に対して均一な化学修飾を行うことが提案されている(例えば、特許文献1参照)が、これだけでは分散性において十分といえる結果は得られていない。
【0003】
一方、無機成分と有機成分をナノレベル又は分子レベルで混ぜ合わせることによって、両者のメリットを相乗的に高めることのできる有機-無機複合材料が注目を集めている。この概念は、エネルギー・環境問題を解決する上でその有用性が注目されている高分子気体分離膜にも適応がなされており、高分子マトリクス中に無機物ナノ粒子を添加した有機-無機複合材料の作製によって、既存の方法では達成できなかった高い機械的強度や熱的安定性、気体透過特性の達成が望まれている。
【0004】
高分子膜の気体透過特性を利用して気体を分離する方法は、気体の相変化を伴わずに気体の分離・回収ができ、他の気体分離法に比べて操作が簡便で装置の小型化が可能であり、また連続的に気体分離を行うことができるため、環境負荷が少ないという特性を有している。このような省エネルギー型の高分子気体分離膜法は、近年、特に温室効果ガスの分離・回収や酸素富化空気の作製、天然ガスの精製技術として注目を集め、実用化が期待されているが、さらに気体分離性能および気体透過量の点での改善が必要とされる。
【0005】
前述したように、高分子膜に無機物ナノ粒子を含有させることにより気体透過特性を改善する試みもなされているが、前記ナノ粒子の凝集の問題は、有機-無機複合気体分離膜の作製においても同様に問題となっており、既存の有機-無機複合気体分離膜では、高分子マトリクス中で無機物ナノ粒子が凝集することにより、膜強度の低下や、高粒子含有率を達成できないことから、気体透過性を数倍程度までしか向上できないことが課題となっている。
【0006】
そこで、例えば、高分子膜に無機物ナノ粒子を含有させて気体分離膜特性を改善する方法として、シリカナノ粒子表面をアミノ基含有シランカップリング剤で処理して表面をシリル化し、さらにこのシリル化粒子をポリマーで処理することによりポリマーグラフトシリカ粒子を作製し、こうして得られたれポリマーグラフトシリカ粒子をポリマー中に分散させて樹脂膜とし、この膜の気体分離膜としての性能を調べた報告もなされている(非特許文献1参照)が、気体の透過量などにおいて十分といえる結果は得られていない。
【0007】
また、シリカナノ粒子表面に対して嵩高いハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子を結合させることにより、有機溶媒中や高分子マトリクス中での凝集がなく、均一分散性に優れ、気体の透過量が大きく改善された気体分離膜が提唱されている(例えば、特許文献2参照)が、樹脂への分散性や気体の透過量の改善の面などで十分な結果は得られていない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】特開2007-99607号公報
【文献】特開2010-222228号公報
【非特許文献】
【0009】
【文献】ポリマー(Polymer),47(2006),pp.7535-7547
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
上述したように、粒径の小さい微粉末である無機ナノ粒子は、通常、樹脂への分散が困難である。特に、樹脂とナノ粒子の良溶媒が異なる場合には、樹脂中へ高分散させることが困難となる。そして、樹脂中において、微粒子の分散性が不十分であると、得られる気体分離膜の特性が大きく損なわれる。例えば、製造した気体分離膜において、ナノクラック、膜反り、膜引きの発生がみられ、複合膜の脆弱化が発生する。
【0011】
また、微粒子の分散性を改善する方法として、表面修飾基を最適化する手法が挙げられるが、使用する樹脂との組み合わせによっては、十分な添加効果が発現しない可能性があり、適応できる樹脂も限定される。他方、界面活性剤などの添加によって分散性が改善される可能性もあるが、分散剤のブリードアウトや気体透過膜の気体透過性の低下などに繋がるため好ましくない。
【0012】
本発明は、このような事情に鑑み、高分子膜中に無機物ナノ粒子を均一に分散した状態で含有させることで気体分離膜特性を向上させる気体分離膜の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは、このような課題を解決するために鋭意検討を行った結果、シリカナノ粒子を、一旦、所定高分子化合物のマスターバッチを経由させることで、膜内でのシリカナノ粒子の分散性、成膜性などが顕著に改善された気体分離膜を製造できる気体分離膜の製造方法を見出し、本発明を完成するに至った。すなわち、所定高分子化合物、特にPIM-1、ジメチルシリコーン、ポリビニルアルコールに、微粒子、特にシリカナノ粒子の分散性が良好で、且つ良好な分散状態を保持することができる、という知見に基づき、本発明の完成に至った。
【0014】
すなわち本発明は、
(1)樹脂中に微粒子が均一に分散している気体分離膜の製造方法であって、
下記(A)と(B)を含む気体分離膜の製造方法:
(A)前記微粒子の量を全質量に対して1質量%~50質量%にして、前記微粒子とマトリクス樹脂とを混合してマスターバッチを製造する工程と、
(B)前記マスターバッチを溶剤に溶解させた後に基板に塗布し、溶剤を蒸発させる工程。
(2)前記マトリクス樹脂が、マイクロポーラスポリマーである(1)記載の気体分離膜の製造方法。
(3)前記マイクロポーラスポリマーが、下記構造で表される高分子(PIM-1)である(2)記載の気体分離膜の製造方法。
【0015】
【化1】
【0016】
(4)前記マトリクス樹脂が、ジメチルシリコーンである(1)記載の気体分離膜の製造方法。
(5)前記マトリクス樹脂が、ポリビニルアルコールである(1)記載の気体分離膜の製造方法。
(6)前記微粒子が無機微粒子である(1)~(5)の何れかに記載の気体分離膜の製造方法。
(7)前記微粒子がシリカ微粒子である(1)~(6)の何れかに記載の気体分離膜の製造方法。
(8)前記シリカ微粒子が官能基によって修飾されたシリカ微粒子である(1)~(7)の何れかに記載の気体分離膜の製造方法。
【発明の効果】
【0017】
本発明により、高分子膜中に微粒子を均一に分散した状態で含有させることが出来るようになり、高性能であり、成膜性に優れた気体分離膜を提供することが可能になった。
【図面の簡単な説明】
【0018】
図1】実施例1に係る膜の断面SEM写真である。
図2】実施例2に係る膜の断面SEM写真である。
図3】実施例3に係る膜の断面SEM写真である。
図4】実施例11に係る膜の断面SEM写真である。
図5】実施例15に係る膜の断面SEM写真である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、本発明を詳細に説明する。本発明において用いられる微粒子は、平均粒子径がナノオーダーのナノ粒子であり、特に材質は問わないが、好ましくは無機微粒子である。なお、ナノ粒子は、平均一次粒子径が1nm~1000nmのものをいい、特に、2nm~500nmのものをいう。なお、平均一次粒子径は、窒素吸着法(BET法)によるものとする。
【0020】
ここで、無機微粒子としては、シリカ、ジルコニア、セリア、金属酸化物等が挙げられるが、好ましくは、シリカ微粒子であり、より好ましくは、表面修飾シリカ微粒子である。
また、シリカ微粒子としては、球状ナノ粒子の他、異形シリカナノ粒子、例えば、細長い形状、数珠状又は金平糖状のシリカナノ粒子を用いることにより、気体の透過量が大きく改善された気体分離膜とすることができる。異形シリカナノ粒子としては、国際公開公報WO2018-038027号に記載のものを用いることができるが、(1)動的光散乱法による測定粒子径D1と窒素ガス吸着法による測定粒子径D2の比D1/D2が4以上であって、D1は40~500nmであり、そして透過型電子顕微鏡観察による5~40nmの範囲内の一様な太さを有する細長い形状のシリカナノ粒子、(2)窒素ガス吸着法による測定粒子径D2が10~80nmの球状コロイダルシリカ粒子とこの球状コロイダルシリカ粒子を接合するシリカからなり、動的光散乱法による測定粒子径D1と球状コロイダルシリカ粒子の窒素ガス吸着法による測定粒子径D2の比D1/D2が3以上であって、D1は40~500nmであり、前記球状コロイダルシリカ粒子が連結した数珠状のシリカナノ粒子、及び(3)窒素ガス吸着法により測定される比表面積をS2、画像解析法により測定される平均粒子径D3から換算した比表面積をS3として、表面粗度S2/S3の値が1.2~10の範囲にあり、平均粒子径D3が10~60nmの範囲である、コロイダルシリカ粒子の表面に複数の疣状突起を有する金平糖状のシリカナノ粒子、を挙げることができる。
なお、異形シリカナノ粒子は、表面修飾異形シリカナノ粒子であるのがより好ましい。
【0021】
表面修飾シリカとしては、親水性基が表面に導入されたものが好ましい。親水性基が表面に導入された表面修飾シリカは、親水性基を有するシラン化合物とシリカとを加熱条件下で処理することにより得ることができる。親水性基を有するシラン化合物としては、例えば、アミノプロピルトリエトキシシラン(APTES)を挙げることができる。
【0022】
また、表面修飾シリカとしては、シリカ表面にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加されたシリカナノ粒子を挙げることができる。以下にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子付加型の表面修飾シリカナノ粒子について製造方法を例示しながら説明する。
【0023】
シリカ表面にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加された表面修飾シリカを製造するには、先ず、第1溶媒に分散された状態のまま、ハイパーブランチ形成用モノマーまたはデンドリマー形成用モノマーと反応する官能基を有する反応性官能基含有化合物で処理されて、シリカの表面に反応性官能基が付加された反応性官能基修飾ナノシリカ粒子とする。好ましい反応性官能基含有化合物としては、シランカップリング剤であり、例えば、一般式(1)で表される、末端にアミノ基を含有する化合物である。
【0024】
【化2】
(式中、Rはメチル基又はエチル基を表し、R2は炭素数1~5のアルキレン基、アミド基、アミノアルキレン基を表す。)
【0025】
一般式(1)で表されるシランカップリング剤において、アミノ基は末端にあることが好ましいが、末端になくてもよい。
前記一般式(1)で表される化合物としては、例えば、3-アミノプロピルトリエトキシシラン、3-アミノプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。その他の、アミノ基を有するシランカップリング剤としては、例えば、3-ウレイドプロピルトリメトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリエトキシシラン、3-(2-アミノエチルアミノ)プロピルトリメトキシシランなどが代表的なものとして挙げられる。
【0026】
また、反応性官能基含有化合物としては、アミノ基以外にも、例えばイソシアネート基、メルカプト基、グリシジル基、ウレイド基、ハロゲン基などの他の基を有するものであってもよい。
アミノ基以外の官能基を有するシランカップリング剤としては、3-イソシアネートプロピルトリエトキシシラン、3-メルカプトプロピルメチルジメトキシシラン、3-メルカプトプロピルトリメトキシシラン、2-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3-グリシドキシプロピルメチルジエトキシシラン、3-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、3-ウレイドプロピルトリエトキシシラン、3-クロロプロピルトリメトキシシランなどが挙げられる。
【0027】
また、用いられる反応性官能基含有化合物は、前記一般式(1)のようなトリアルコキシシラン化合物でなくてもよく、例えば、ジアルコキシシラン化合物、モノアルコキシシラン化合物であってもよい。
シリカナノ粒子のシラノール基と反応する反応性官能基含有化合物の官能基は、アルコキシ基以外の基、例えば、イソシアネート基、メルカプト基、グリシジル基、ウレイド基、ハロゲン原子などであってもよい。
【0028】
シリカナノ粒子の反応性官能基含有化合物による処理においては、シリカナノ粒子は水又は炭素原子数1~4のアルコールに分散した液中に反応性官能基含有化合物を投入し、攪拌することにより行われる。
シリカナノ粒子表面への反応性官能基の付加は、上記のように1段階反応によってもよいし、必要に応じ2段階以上の反応で行われてもよい。2段階反応の具体例をカルボキシル基修飾シリカナノ粒子の調製で説明すると、例えば、上記のように、先ず、シリカナノ粒子をアミノアルキルトリアルコキシシランで処理して、アミノ基修飾シリカナノ粒子を調製し、次いで一般式(2)で表されるジカルボン酸化合物又はその酸無水物で処理することにより、シリカナノ粒子に付加された反応性官能基の末端がカルボキシル基であるシリカナノ粒子を調製することができる。
【0029】
【化3】
(式中、R3は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表す。)
【0030】
上記一般式(2)で表される化合物としては、例えば、マロン酸、アジピン酸、テレフタル酸などが挙げられる。ジカルボン酸化合物は、上記式で挙げられたものに限定されるものではない。
2段を超える反応でシリカナノ粒子表面への反応性官能基を付加する場合は、下記一般式(3)で表される末端にアミノ基を2つ有するモノマーを、前記式(1)、次いで前記式(2)で表される化合物で処理されたシリカナノ粒子に付加することにより、表面修飾基の末端がアミノ基であるシリカナノ粒子を調製し、前記の反応を繰り返すことにより行うことができる。
【0031】
【化4】
(式中、R4は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0032】
前記一般式(3)で表されるモノマーの例としては、エチレンジアミン、ポリオキシエチレンビスアミン(分子量2,000)、o,o’-ビス(2-アミノプロピル)ポリプロピレングリコール-ブロック-ポリエチレングリコール(分子量500)などが挙げられる。
【0033】
このようにして調製した反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液は、第2溶媒に置換して次の反応を行うことができる。
第2溶媒は、第1溶媒より疎水性の溶媒であり、テトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセロアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びγ-ブチロラクトン(GBL)のうち1種以上から選択される少なくとも一種であることが好ましく、混合溶媒でもよい。
【0034】
第2溶媒への置換方法は特に限定されず、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液を乾燥後に第2溶媒に分散させても良いし、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第1溶媒分散液を乾燥させずに溶媒置換して第2溶媒の分散液としても良い。
【0035】
このように溶媒置換した後、反応性官能基修飾シリカナノ粒子の第2溶媒分散液を用い、第2溶媒存在下で、反応性官能基修飾シリカナノ粒子に、多分岐構造のデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加される。すなわち、反応性官能基修飾シリカナノ粒子にデンドリマー形成用モノマー又はハイパーブランチ形成用モノマーを反応させて、前記反応性官能基にデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子が付加されたシリカナノ粒子を調製してデンドリマー高分子又はハイパーブランチ高分子付加シリカナノ粒子の第2溶媒分散液を得る。
【0036】
本発明で用いられるハイパーブランチ形成用モノマーとして、下記の一般式(4)で示されるカルボキシル基を1個、アミノ基を2個有する化合物を用いることが好ましく、アミノ基を3個以上有する化合物であってもよいし、R5は炭素原子数1~20のアルキレン基、芳香族基以外の基であってもよい。下記一般式(4)で表されるハイパーブランチ形成用モノマーの例としては、3,5-ジアミノ安息香酸、3,5-ジアミノ-4-メチル安息香酸などが挙げられる。
【0037】
【化5】
(式中、R5は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表す。)
【0038】
さらに、ハイパーブランチ形成用モノマーとして、下記の一般式(5)で表されるカルボキシル基を1個、ハロゲン原子を2個有する化合物を用いることもできる。
【0039】
【化6】
(式中、R6は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表し、X1およびX2はハロゲン原子を表す。)
【0040】
上記一般式(5)で表される化合物としては、例えば、3,5-ジブロモ-4-メチル安息香酸、3,5-ジブロモサリチル酸、3,5-ジブロモ-4-ヒドロキシ-安息香酸などが挙げられる。
また、ハイパーブランチ形成用モノマーは、上記1個のカルボキシル基と2個以上のアミノ基、又は1個のカルボキシル基と2個以上のハロゲン原子を含有する化合物に限られるものではなく、シリカナノ粒子に修飾された反応性官能基に応じて、ハイパーブランチ高分子が形成可能なモノマーが適宜用いられればよい。
【0041】
さらに、2段階反応でカルボキシル基による表面修飾が行われたシリカナノ粒子の場合には、下記の一般式(6)で表される1個のアミノ基と2個のカルボキシル基を有する化合物を用いて、ハイパーブランチ高分子を付加することができる。
【0042】
【化7】
(式中、R7は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表す。)
【0043】
上記一般式(6)で表される化合物としては、例えば、2-アミノテレフタル酸、4-アミノテレフタル酸、DL-2-アミノスベリン酸などが挙げられる。
【0044】
また、下記の一般式(7)に示すように、他のモノマー種として、アミノ基を1つ、ハロゲンを2つ以上有するモノマーもハイパーブランチ高分子形成用モノマーとして使用することができる。
【0045】
【化8】
(式中、R8は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表し、XおよびX2はハロゲン原子を表す。)
【0046】
上記一般式(7)で表される化合物としては、例えば、3,5-ジブロモ-4-メチルアニリン、2,4-ジブロモ-6-ニトロアニリンなどが挙げられる。
【0047】
上記2段階反応でカルボキシル基による表面修飾が行われたシリカナノ粒子を用いる場合においても、上記1段階で表面アミノ基修飾がなされたシリカナノ粒子を用いる場合と同様に、上記一般式(6)および(7)におけるカルボキシル基、ハロゲン原子は2個以上でもよいし、さらにカルボキシル基と反応するアミノ基以外の官能基を有する他のモノマーが用いられてもよい。
【0048】
これらの反応により形成されるハイパーブランチ高分子1本鎖の重量平均分子量は、例えば、200~2,000,000程度が好ましく、また分岐度としては、0.5~1程度が好ましい。
反応は、ハイパーブランチモノマーを、第2溶媒であるテトラヒドロフラン(THF)、N-メチルピロリドン(NMP)、ジメチルアセロアミド(DMAc)、ジメチルホルムアミド(DMF)及びγ-ブチロラクトン(GBL)のうち1種以上の溶媒に溶解させ、続いてカルボン酸活性化試薬のBenzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate(BOP)と求核試薬のトリエチルアミンを添加して攪拌し、この溶液にアミノ基修飾シリカナノ粒子を投入し、撹拌することにより行うことができる。前記BOPとトリエチルアミンの組み合わせ以外に、カルボン酸活性化試薬がトリフェニルホスフィンでもよく、求核試薬はピリジンを用いても良い。
【0049】
次にデンドリマー高分子が付加されたシリカナノ粒子について説明する。以下では、先ず、アミノ基修飾シリカナノ粒子へのデンドリマー付加を説明する。
本発明において、アミノ基修飾シリカナノ粒子に対してデンドリマー付加を行うに当たり、先ず、アミノ基修飾シリカナノ粒子に対し、例えば、下記の一般式(8)で表されるカルボキシル基を3個有するモノマー、又はカルボキシル基を4個以上有するモノマーを付加することが必要となる。使用されるモノマーの例としては、トリメシン酸やピロメリット酸などが挙げられる。
【0050】
【化9】
(式中、R9は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表す。)
【0051】
前記カルボキシル基を3個有するモノマー、又はカルボキシル基を4個以上有するモノマーの付加に続いて、下記の一般式(3)で表される末端にアミノ基を2つ有するモノマーを付加する。これらの付加を繰り返すことで、デンドリマー修飾シリカナノ粒子が調製される。
【0052】
【化10】
(式中、R4は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0053】
前記の2段階反応により官能基としてカルボキシル基により修飾されたシリカナノ粒子を用いた場合には、カルボキシル基修飾シリカナノ粒子を下記の一般式(9)で表されるアミノ基を3個有するモノマー、又はアミノ基を4個以上有するモノマーを用いて処理する。下記一般式(9)で表されるモノマーとしては、1,2,5-ペンタントリアミンや1,2,4,5-ベンゼンテトラアミンなどが挙げられる。
【0054】
【化11】
(式中、R10は炭素原子数1~20のアルキレン基又は芳香族基を表す。)
【0055】
次いで、この粒子に対して下記の一般式(10)で表される末端にカルボキシル基を2つ有するモノマーを付加する。前記モノマーの例としては、こはく酸、レブリン酸、o,o’-ビス[2-(スクシニルアミノ)エチル]ポリエチレングリコール(分子量2,000)などが挙げられる。
【0056】
【化12】
(式中、R11は炭素原子数1~20のアルキレン基、又は(C25-O-)pおよび/又は(C37-O-)qを表し、p、qは各々独立に1以上の整数である。)
【0057】
以下、これらの付加を繰り返すことで表面デンドリマー修飾シリカナノ粒子が調製される。なお、デンドリマー形成モノマーとしては、アミノ基、カルボキシル基以外の基を用いてもよい。
【0058】
こうして調製されたハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子が付加された表面修飾シリカナノ粒子は、マトリクス樹脂と混合され、最終的に製膜される。なお、ハイパーブランチ高分子又はデンドリマー高分子が付加されたシリカナノ粒子は、マトリクス樹脂と混合される前に乾燥されても良いし、他の第2溶媒又は第2溶媒以外の溶媒と、少なくとも部分的に溶媒置換してもよい。
【0059】
本発明において、マスターバッチを作成する際に使用するマトリックス樹脂としては、例えば、従来、気体分離膜を形成するために用いられている公知の樹脂を適宜用いればよい。具体的には、例えば、ポリイミド、ポリスルホン、ジメチルシリコーン、ポリビニルアルコール、ポリ置換アセチレン、ポリ-4-メチルペンテン、天然ゴム、マイクロポーラスポリマーなど種々のものが挙げられるが、これらに限定されるものではない。本発明においては、マイクロポーラスポリマー、ジメチルシリコーン、ポリビニルアルコールが好ましく、特に、マイクロポーラスポリマーが好ましい。
【0060】
ここで、マイクロポーラスポリマーは、マイクロポーラス有機材料の1つである固有微多孔性ポリマーであり、マイクロポーラス有機材料の1つのクラスであり、下記文献を参照できる。
(文献1)Budd, P. M. et al., Solution-Processed, Organophilic Membrane Derived from a Polymer of Intrinsic Microporosity. Adv. Mater. 16, 456-459 (2004).
(文献2)McKeown, N. B. et al., Polymers of intrinsic microporosity (PIMs): Bridging the void between microporous and polymeric materials. Chemistry - A European Journal 11, 2610-2620 (2005).
(文献3)Budd, P. M. et al., Gas separation membranes from polymers of intrinsic microporosity. J. Membr. Sci. 251, 263-269 (2005).
(文献4)McKeown, N. B. & Budd, P. M., Polymers of intrinsic microporosity (PIMs): Organic materials for membrane separations, heterogeneous catalysis and hydrogen storage. Chem. Soc. Rev.35, 675-683 (2006).
(文献5)Du, N. et al., Polymer nanosieve membranes for CO2-capture applications. Nat. Mater. 10, 372-375 (2011).
(文献6)Carta, M. et al., An Efficient Polymer Molecular Sieve for Membrane Gas Separations. Science 339, 303-307 (2013).
(文献7)特表2017-509744号公報
【0061】
固有微多孔性ポリマーの概念は、2002年にBudd及びMcKeownにより最初に考案された。国際出願WO2003000774 A1は、平坦なポルフィリンマクロサイクルの硬い3-次元ネットワークを含む有機マイクロポーラスネットワーク材料を記載し、その中で隣接するマクロサイクルのピロール残基がこれらの隣接するマクロサイクルを動かないようにする硬いリンカーで接続され、その結果ポルフィリン平面は非共平面配向になる。該発明の好ましい材料はフタロシアニンネットワークである。これらの有機マイクロポーラス材料は、ネットワークPIMsとして知られている。
【0062】
Budd及びMcKeownによる別の発明は、国際出願WO2005012397A2及びUS Patent No.7,690,514 B2であり、歪みポイントで硬いリンカーにより連結された第1の一般的な平面種を含み、リンカーにより連結される2つの隣接する第1平面は非共平面配向であり、但し、第1平面種はポルフィリンマクロサイクル以外ものであるマイクロポーラス有機マクロ分子を記載する。
このようなマイクロポーラスポリマーの中でも、下記構造で表されるPIM-1が特に好ましい。
【0063】
【化13】
【0064】
マトリックス樹脂としてPIM-1を使用する際の樹脂と微粒子の質量比は、例えば99/1~20/80であり、好ましくは、95/5~40/60であり、より好ましくは、90/10~50/50である。
【0065】
マスターバッチを製造する際の溶剤としては、高分子を溶解させるとともに、微粒子を分散させる際の溶剤との相溶性があれば、種類は問わないが、例えば、テトラヒドロフラン(THF)、クロロホルム、ジメチルアセトアミド(DMAc)、トルエン、炭素数が1乃至6の直鎖状アルコール、炭素数が1乃至6の分岐しているアルコール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、からなる単独又は2種類以上の混合溶媒が挙げられる。
マトリックス樹脂として、PIM-1を使用し、溶剤としてTHFを使用する場合の樹脂と溶剤の質量比は、例えば1/99~30/70であり、好ましくは、3/97~30/70であり、より好ましくは、5/95~20/80である。
マトリクス樹脂として他の樹脂を用いる場合においても、何れにしても、マスターバッチの全質量に対して、前記微粒子の量が1質量%~70質量%、好ましくは、1質量%~50質量%の範囲になるように設定する。
【0066】
気体分離膜の製造方法としては、マスターバッチを適当な溶剤、例えば、THF、クロロホルム、トルエン、炭素数が1乃至6の直鎖状アルコール、炭素数が1乃至6の分岐しているアルコール、ヘキサン、ヘプタン、オクタン、デカン、DMAc、NMP、DMFからなる単独又は2種類以上の混合溶媒に均一に分散させ、基板上に塗布した後に、溶剤を蒸発させる。塗布する基板としては、溶剤によって劣化が生じなければ、材質や表面の状態は問わないが、例えば表面に凹凸のないSiウエハーが挙げられる。
【0067】
塗布方法としては、基板上に均一にむらなく塗布できることが好ましく、例えば、ディップ塗布(浸漬法)、スピン塗布法、ブレード塗布法、噴霧塗布法等を挙げることができるが、ブレード塗布法が好ましく、特に、ドクターブレードを用いるのが好ましい。
【0068】
以下、実施例を挙げて本発明を具体的に説明するが、本発明はこれによって何ら限定されるものではない。
【実施例
【0069】
<表面修飾シリカST-G1の合成>
冷却管、温度計及び撹拌機を取り付けた1000mLの四つ口丸底フラスコに、シリカのイソプロパノール(IPA)分散液(IPA-ST、日産化学工業(株)製、シリカ濃度:30.5質量%、平均一次粒子径12nm)133.44g、超純水0.19g、IPA533.9gを量り取り、撹拌しながら還流になるまで昇温させた。その後、APTES(東京化成工業(株)製)2.35gを添加し、還流下で1時間撹拌した。得られた分散液を1-メチル-2-ピロリドン(NMP)へ溶媒置換した。
【0070】
冷却管、温度計及び撹かき混ぜ基を取り付けた1000mLの四つ口丸底フラスコに得られたNMPゾル440g(固形分37.4g)と1,3-ジアミノ安息香酸(DABA)(Aldrich製)4.85g、トリエチルアミン(TEA)(関東化学(株)製)3.30g、Benzotriazol-1-yloxytris(dimethylamino)phosphonium hexafluorophosphate(BOP)(東京化成工業(株)製)14.1g量り取り、室温下で5分間撹拌し、80℃へ昇温後、1時間反応させた。この反応液を10倍量のメタノールへ投入し、沈殿物のろ過・メタノール洗浄を行った。得られたろ過物を乾燥させずにNMPへ投入し、撹拌させた。その後、エバポレータによって残存するメタノール及び水を留去させ、表面修飾シリカST-G1_NMPゾルを得た。得られたNMPゾル中の粒子の固形分濃度は11.04質量%であった。
【0071】
<マスターバッチ作製1>
表面修飾シリカST-G1_NMPゾル9.058g(固形分濃度11.04質量%)にTHF19.00g及びNMP10.942gを加え、撹拌後、PIM-1(分子量分布:16、Mw:22.5万)1g添加し、室温で樹脂が溶解するまで強撹拌した。その後、超音波照射を約5分行った。得られた分散液を細孔サイズ5μmのフィルターろ過後、メタノール溶媒にて沈殿させた。その後、ろ過・メタノール洗浄し、110℃減圧乾燥させることで、50質量%マスターバッチ(MB)1を作製した。
【0072】
<実施例1>
総固形分濃度が10質量%、ST-G1濃度がPIM-1に対して50質量%になるように50質量%MB1を0.200g、THF1.8gへ添加し、強撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分行い、ワニスを作製した。SiウエハーにGAP 100μmのドクターブレードを用いて塗布後、THF雰囲気下で乾燥させ、複合膜を作製した。膜の断面SEMにより、粒子の分散性を観察した。断面SEMの結果を図1に示した。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表1に示した。
【0073】
〇ワニスの分散安定性の評価
・調製したワニスを約5分間静置後、粒子の沈降の有無を目視で評価
沈降物ほぼなし:〇
沈降物あり:×
【0074】
〇成膜性の評価
・膜の反り、膜引きがなく、成膜が可能:〇
・膜の反り、膜引きがあり、成膜が不可能:×
【0075】
〇分散性の評価
・膜内に沈降物がなく、粒子の凝集サイズが1μ未満 : 〇
・膜中に沈降物があり、粒子の凝集サイズが1μ以上 : ×
【0076】
<実施例2>
PIM―1に対するST-G1濃度が30質量%になるように、50質量%MB1とPIM-1の添加量を調整した以外、同様の手順を行った。断面SEMの結果を図2に示した。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表1に示した。
【0077】
<実施例3>
PIM-1に対するST-G1濃度が10質量%になるように、50質量%MB1とPIM-1の添加量を調整した以外、同様の手順を行った。断面SEMの結果を図3に示した。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表1に示した。
【0078】
<比較例1>
ST-G1_NMPゾルを110℃減圧乾燥後、乾燥粉末を乳鉢で粉砕した。得られた粉末とPIM-1の総固形分濃度を10質量%、PIM-1に対するST-G1濃度を10質量%になるようにTHFへ添加し、室温で撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分間行った。得られたワニスを用いて実施例1と同様の手順・評価を行った。
【0079】
【表1】
【0080】
図1図3、表1の結果より、シリカ微粒子を、PIM-1をマトリクス樹脂としたMB1にすることでワニスの安定性及び樹脂中でのST-G1の分散性が良好であり、膜反り、膜引きなどが生じず、成膜性も良好であった。
一方、MBにせずに乾燥粉末を使用した比較例1に関しては、ワニスの安定性が悪く、膜引きが生じ、ドクターブレードによる成膜が困難であった。
【0081】
<マスターバッチ作製2>
表面修飾シリカST-G1_メタノールゾル18.37g(固形分濃度4.45質量%)に信越化学社製ジメチルシリコーン(製品名:KS-707)9.14g添加し、ロータリーエバポレーターにて減圧乾燥を行った。その後、さらに60℃で真空乾燥させることで、15質量%マスターバッチ(MB)2を作製した。
【0082】
<実施例11>
総固形分濃度が10質量%、ST-G1濃度がジメチルシリコーンに対して15質量%になるように15質量%MB2を0.291g、ヘキサン2.9gへ添加し、強撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分行い、ワニスを作製した。スピンコーター(回転数500RPМ/25秒)にてガラス基板上にワニスを塗布後、150℃で乾燥させた複合膜を作製した。膜の断面SEMにより、粒子の分散性を観察した。断面SEMの結果を図4に示した。ワニスの分散安定性、成膜性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表2に示した。
【0083】
〇ワニスの分散安定性の評価
・調整したワニスを約40分間静置後、粒子の沈降の有無を目視で評価
沈降物ほぼなし:〇
沈降物あり:×
【0084】
〇成膜性の評価
・膜が平面上に均一に分散し、成膜が可能:〇
・膜が平面上に均一に分散せず、成膜が不可能:×
【0085】
〇分散性の評価
・膜内に沈降物がなく、粒子の凝集サイズが1μ未満 : 〇
・膜中に沈降物があり、粒子の凝集サイズが1μ以上 : ×
【0086】
<実施例12>
ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度が15質量%になるように、15質量%MB2を0.121g、ヘプタン0.995gに溶解し、同様の手順を行った。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は上記基準に従い実施し、結果を表2に示した。
【0087】
<実施例13>
ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度が15質量%になるように、15質量%MB2を0.116g、オクタン0.984gに溶解し、同様の手順を行った。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は上記基準に従い実施し、結果を表2に示した。
【0088】
<実施例14>
ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度が15質量%になるように、15質量%MB2を0.126g、デカン1.050gに溶解し、同様の手順を行った。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は上記基準に従い実施し、結果を表2に示した。
【0089】
<比較例11>
ST-G1_メタノールゾルを60℃減圧乾燥後、乾燥粉末を乳鉢で粉砕した。得られた粉末とジメチルシリコーンの総固形分濃度を10質量%、ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度を15質量%になるようにヘキサンへ添加し、室温で撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分間行った。得られたワニスを用いて実施例1と同様の手順・評価を行った。
【0090】
【表2】
【0091】
図4、表2の結果より、シリカ微粒子を、ジメチルシリコーンをマトリクス樹脂としたMB2にすることでワニスの安定性及び樹脂中でのST-G1の分散性が良好であり、膜反り、膜引きなどが生じず、成膜性も良好であった。
一方、MB2にせずに乾燥粉末を使用した比較例11に関しては、ワニスの安定性が悪く、膜引きが生じ、ドクターブレードによる成膜が困難であった。
【0092】
<マスターバッチ作製3>
表面修飾シリカST-G1_メタノールゾル28.4g(固形分濃度4.45質量%)にモメンティブ社製ジメチルシリコーン(製品名:YSR3022)29.3g添加し、ロータリーエバポレーターにて減圧乾燥を行い、その後、オクタンを加えさらに減圧乾燥させることで、15質量%マスターバッチ(MB)3を作製した。
【0093】
<実施例15>
総固形分濃度が10質量%、ST-G1濃度がジメチルシリコーンに対して15質量%になるように15質量%MB3を4.63g、オクタン2.9gへ添加、撹拌し、ワニスを作製した。スピンコーター(回転数500RPМ/25秒)にてガラス基板上にワニスを塗布後、150℃で乾燥させた複合膜を作製した。膜の断面SEMにより、粒子の分散性を観察した。断面SEMの結果を図5に示した。ワニスの分散安定性、成膜性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表3に示した。
【0094】
〇ワニスの分散安定性の評価
・調製したワニスを約40分間静置後、粒子の沈降の有無を目視で評価
沈降物ほぼなし:〇
沈降物あり:×
【0095】
〇成膜性の評価
・膜が平面上に均一に分散し、成膜が可能:〇
・膜が平面上に均一に分散せず、成膜が不可能:×
【0096】
〇分散性の評価
・膜内に沈降物がなく、粒子の凝集サイズが1μ未満 : 〇
・膜中に沈降物があり、粒子の凝集サイズが1μ以上 : ×
【0097】
<実施例16>
ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度が15質量%になるように、15質量%MB3を2.381g、ヘプタン3.900gに溶解し、同様の手順を行った。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は上記基準に従い実施し、結果を表3に示した。
【0098】
<比較例12>
ST-G1_メタノールゾルを65℃減圧乾燥後、乾燥粉末を乳鉢で粉砕した。得られた粉末とジメチルシリコーンの総固形分濃度を10質量%、ジメチルシリコーンに対するST-G1濃度を15質量%になるようにヘキサンへ添加し、室温で撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分間行った。得られたワニスを用いて実施例15と同様の手順・評価を行った。
【0099】
【表3】
【0100】
図5、表3の結果より、シリカ微粒子をジメチルシリコーンをマトリクス樹脂としたMBにすることでワニスの安定性及び樹脂中でのST-G1の分散性が良好であり、膜反り、膜引きなどが生じず、成膜性も良好であった。
一方、MB3にせずに乾燥粉末を使用した比較例12に関しては、ワニスの安定性が悪く、膜引きが生じ、ドクターブレードによる成膜が困難であった。
【0101】
<マスターバッチ作製4>
三菱化学社製ポリビニルアルコール(製品名:ゴーセネックスLL―940)を50質量%メタノール水で溶解し、固形分濃度9.12%の溶液を調製した。ポリビニルアルコール溶液15.98gに表面修飾シリカST-G1_メタノールゾル16.47g(固形分濃度3.78質量%)を添加し、ロータリーエバポレーターにて減圧乾燥を行い、30質量%マスターバッチ(MB)4を作製した。
【0102】
<実施例21>
総固形分濃度が6.41質量%、ST-G1濃度がポリビニルアルコールに対して30質量%になるように30質量%MB4を1.79g、グリセロール0.17gへ添加・撹拌し、ワニスを作製した。シャーレ上にワニスを添加し、80℃で乾燥させた複合膜を作製した。ワニスの分散安定性、成膜性の評価は以下の基準に従い実施し、結果を表4に示した。
【0103】
〇ワニスの分散安定性の評価
・調製したワニスを約30分間静置後、粒子の沈降の有無を目視で評価
沈降物ほぼなし:〇
沈降物あり:×
【0104】
〇成膜性の評価
・膜が平面上に均一に分散し、成膜が可能:〇
・膜が平面上に均一に分散せず、成膜が不可能:×
【0105】
<実施例22>
ポリビニルアルコールに対するST-G1濃度が15質量%になるように、30質量%MBを7.30g、50%メタノール水で溶解された同ポリビニルアルコール溶液で希釈し、15質量%マスターバッチ(MB)5を作製した。15質量%MBを3.21g、グリセロール0.24gへ添加・撹拌し、ワニスを作製した。次いで、同様の手順を行った。ワニスの分散安定性、成膜性と分散性の評価は上記基準に従い実施し、結果を表4に示した。
【0106】
<比較例21>
ST-G1_メタノールゾルを65℃減圧乾燥後、乾燥粉末を乳鉢で粉砕した。得られた粉末とポリビニルアルコールの総固形分濃度を10質量%、ポリビニルアルコールに対するST-G1濃度を15質量%になるように50質量%メタノール水へ添加し、室温で撹拌した。樹脂が溶解後、超音波照射を約5分間行った。得られたワニスを用いて実施例21と同様の手順・評価を行った。
【0107】
【表4】
【0108】
表4の結果より、シリカ微粒子をジメチルシリコーンをマトリクス樹脂としたMB4、5にすることでワニスの安定性及び樹脂中でのST-G1の分散性が良好であり、膜反り、膜引きなどが生じず、成膜性も良好であった。
一方、MB4、5にせずに乾燥粉末を使用した比較例21に関しては、ワニスの安定性が悪く、膜引きが生じ、ドクターブレードによる成膜が困難であった。
図1
図2
図3
図4
図5