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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】ハイドロゲル構造体およびその製造方法
(51)【国際特許分類】
   C08L 101/00 20060101AFI20230712BHJP
   C08F 26/02 20060101ALI20230712BHJP
   C08F 20/10 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
C08L101/00
C08F26/02
C08F20/10
【請求項の数】 10
(21)【出願番号】P 2020522640
(86)(22)【出願日】2019-05-31
(86)【国際出願番号】 JP2019021838
(87)【国際公開番号】W WO2019230968
(87)【国際公開日】2019-12-05
【審査請求日】2022-02-09
(31)【優先権主張番号】P 2018106455
(32)【優先日】2018-06-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】504143441
【氏名又は名称】国立大学法人 奈良先端科学技術大学院大学
(74)【代理人】
【識別番号】100114292
【弁理士】
【氏名又は名称】来間 清志
(74)【代理人】
【識別番号】100205659
【弁理士】
【氏名又は名称】齋藤 拓也
(72)【発明者】
【氏名】網代 広治
(72)【発明者】
【氏名】川谷 諒
(72)【発明者】
【氏名】中井 祐賀子
(72)【発明者】
【氏名】福嶋 將行
(72)【発明者】
【氏名】味村 裕
(72)【発明者】
【氏名】加藤 禎宏
【審査官】蛭田 敦
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-150458(JP,A)
【文献】特開昭53-091086(JP,A)
【文献】特開昭53-145877(JP,A)
【文献】特開昭59-125712(JP,A)
【文献】特開平03-223304(JP,A)
【文献】特開2004-029417(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 1/00 ~ 101/14
C08K 3/00 ~ 13/08
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1ポリマー、および前記第1ポリマーと絡み合う第2ポリマーを含有するハイドロゲル構造体であって、
前記第1ポリマーが、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、
前記第2ポリマーが、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体であり、
前記第1モノマーは、Q値が0.001以上0.180以下の範囲内、およびe値が-8.60以上-0.76以下の範囲内であり、
前記第2モノマーは、Q値が0.230以上16.000以下の範囲内、およびe値が0.30以上3.70以下の範囲内であることを特徴とするハイドロゲル構造体。
【請求項2】
前記第1モノマーは、Q値が0.020以上0.170以下の範囲内、およびe値が-1.70以上-0.80以下の範囲内であり、
前記第2モノマーは、Q値が0.320以上1.000以下の範囲内、およびe値が0.50以上0.90以下の範囲内である請求項1に記載のハイドロゲル構造体。
【請求項3】
第1ポリマー、および前記第1ポリマーと絡み合う第2ポリマーを含有するハイドロゲル構造体であって、
前記第1ポリマーが、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、
前記第2ポリマーが、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体であり、
前記第1モノマーが、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-アリルステアルアミド、N,N-メチルビニルトルエンスルホン酸アミド、プロピオン酸ビニル、1-ビニルイミダゾール、酪酸ビニル、酢酸ビニル、けい皮酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルイソシアネート、ビニルエチルエーテル、およびビニルオクタデシルエーテルの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物であり、前記第2モノマーが、エチルアクリレート、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、2-エチルヘキシルアクリレート、α-クロロアクリル酸メチル、アクリルアミド、α-アセトキシアクリル酸エチル、α-シアノアクリル酸メチル、2-クロロエチルアクリレート、メタクリロニトリル、メタクリル酸、ヘキサフルオロブタジエン、イタコン酸ジメチルおよびα-ブロモアクリル酸の群から選択される1つまたは2つ以上の化合物であるハイドロゲル構造体。
【請求項4】
前記第1網目構造体と前記第2網目構造体との間に、前記第1網目構造体と前記第2網目構造体とを化学的または物理的に結合させる架橋部が存在する請求項1~のいずれか1項に記載のハイドロゲル構造体。
【請求項5】
前記架橋部が、前記第1モノマーから水素原子の1つを除いた第1官能基、および前記第2モノマーから水素原子の1つを除いた第2官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなる請求項に記載のハイドロゲル構造体。
【請求項6】
前記架橋部が、第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなり、前記第3官能基が下記式(1-1)または式(1-2)で表される構造であり、前記第4官能基が下記式(2)で表される構造である請求項に記載のハイドロゲル構造体。
【化1】
【化2】
【化3】
(式(1-1)中、R1は、炭素数1~5のアルキル基または水素を示し、R2は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(1-2)中、R5は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。)
【請求項7】
請求項1~のいずれか1項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法であって、
前記第1モノマーと、前記第2モノマーと、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーを重合および架橋させる重合開始剤とを含む溶液を調製する調製工程と、
前記溶液を加熱してゲル化する加熱工程と
を有することを特徴とするハイドロゲル構造体の製造方法。
【請求項8】
前記調製工程で調製する前記溶液は、前記第1モノマーから水素原子の1つを除いた第1官能基、および前記第2モノマーから水素原子の1つを除いた第2官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤をさらに含む請求項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
【請求項9】
前記調製工程で調製する前記溶液は、第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤をさらに含み、前記第3官能基が下記式(1-1)または式(1-2)で表される構造であり、前記第4官能基が下記式(2)で表される構造である請求項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
【化4】
【化5】
【化6】
(式(1-1)中、R1は、炭素数1~5のアルキル基または水素を示し、R2は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(1-2)中、R5は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。)
【請求項10】
前記調製工程および前記加熱工程をワンポットで行う請求項のいずれか1項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ハイドロゲル構造体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ハイドロゲルは、複数のモノマーの重合および架橋によって形成される3次元ネットワーク構造を有し、その3次元ネットワーク構造の内部に水などの溶媒を含むものである。そして、モノマーや溶媒の種類に応じて、ハイドロゲルは様々な特性を示す。
【0003】
一般的に、ハイドロゲルは、優れた圧縮強度を有するものの、引張強度が低い。そのため、ハイドロゲルについて、引張強度などの機械的な強度を向上させることが求められている。
【0004】
例えば、特許文献1には、第1のモノマー成分を重合し架橋することにより第1の網目構造を形成させる工程と、第1の網目構造中に第2のモノマー成分を導入した後、第2のモノマー成分を重合することにより、第1の網目構造中にポリマーを形成させ、更に架橋することにより、第1の網目構造中に第2の網目構造を形成させる工程とを含む、相互侵入網目構造ハイドロゲルの製造方法が記載されている。特許文献1に記載のハイドロゲルでは、第1のモノマー成分および第2のモノマー成分がそれぞれ網目構造体を形成し、それらの網目構造体が互いに侵入している。
【0005】
また、特許文献2には、架橋ポリマーで構成される網目構造に非架橋ポリマーが侵入し物理的に絡み付いたセミ相互侵入網目構造を有するゲルの製造方法が記載されている。特許文献2に記載のゲルでは、一方のポリマーが網目構造体を形成し、他方のポリマーが網目構造体に侵入している。
【0006】
このように、特許文献1および2に開示されるハイドロゲル構造体は、網目構造体に他の網目構造体またはポリマーが侵入した構造(以下、「相互侵入網目構造」ともいう。)を有するため、ゲルの機械的強度が増加する。
【0007】
しかしながら、このような相互侵入網目構造を有するハイドロゲル構造体を製造する場合、使用するモノマー、重合開始剤、架橋剤などの反応性を十分に考慮していなかった。そのため、一方の網目構造体を合成した後に他方の網目構造体を侵入させて合成する、または網目構造体を合成した後にポリマーを網目構造体に侵入させるなど、先の作業を完了してから次の作業を行う必要があった。
【0008】
具体的には、はじめの網目構造体を合成した後、未反応のモノマーを除去するために、何度も溶媒を交換したり、次の工程で用いる溶媒で網目構造体を浸漬させたりする作業を行っていた。さらに、この作業を行っているときにもゲル化が進行するため、ハイドロゲル構造体の最終生成物を設計通りの形状や大きさに製造することは困難であった。
【0009】
このような観点から、上記のような煩雑な作業を行わずにハイドロゲル構造体を製造できる簡便な方法が求められている。しかしながら、任意に選択したモノマーを用いて一度に合成を行うと、機械的強度の低いハイドロゲル構造体が形成されることがある。このようなハイドロゲル構造体は機械的に脆いので、簡便な製造方法を用いた場合であっても、機械的強度の高いハイドロゲル構造体を製造できることが望まれている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特許第4381297号公報
【文献】特許第5059407号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明の目的は、機械的特性に優れるハイドロゲル構造体、および、かかるハイドロゲル構造体を簡便に製造できるハイドロゲル構造体の製造方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明の要旨構成は、以下のとおりである。
[1]第1ポリマー、および前記第1ポリマーと絡み合う第2ポリマーを含有するハイドロゲル構造体であって、前記第1ポリマーが、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、前記第2ポリマーが、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体であり、前記第1モノマーは、Q値が0.001以上0.199以下の範囲内、およびe値が-8.60以上0以下の範囲内であり、前記第2モノマーは、Q値が0.200以上16.000以下の範囲内、およびe値が0.01以上3.70以下の範囲内であることを特徴とするハイドロゲル構造体。
[2]前記第1モノマーは、Q値が0.020以上0.170以下の範囲内、およびe値が-1.70以上-0.80以下の範囲内であり、前記第2モノマーは、Q値が0.320以上1.000以下の範囲内、およびe値が0.50以上0.90以下の範囲内である上記[1]に記載のハイドロゲル構造体。
[3]第1ポリマー、および前記第1ポリマーと絡み合う第2ポリマーを含有するハイドロゲル構造体であって、前記第1ポリマーが、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、前記第2ポリマーが、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体であり、前記第1モノマーが、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム、N-メチル-N-ビニルアセトアミド、N-アリルステアルアミド、N,N-メチルビニルトルエンスルホン酸アミド、プロピオン酸ビニル、1-ビニルイミダゾール、酪酸ビニル、酢酸ビニル、けい皮酸ビニル、安息香酸ビニル、ビニルイソシアネート、ビニルエチルエーテル、およびビニルオクタデシルエーテルの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物であるハイドロゲル構造体。
[4]前記第2モノマーが、エチルアクリレート、アクリル酸ブチル、アクリル酸メチル、2-エチルヘキシルアクリレート、α-クロロアクリル酸メチル、アクリルアミド、α-アセトキシアクリル酸エチル、α-シアノアクリル酸メチル、2-クロロエチルアクリレート、メタクリロニトリル、メタクリル酸、ヘキサフルオロブタジエン、イタコン酸ジメチルおよびα-ブロモアクリル酸の群から選択される1つまたは2つ以上の化合物である上記[3]に記載のハイドロゲル構造体。
[5]前記第1網目構造体と前記第2網目構造体との間に、前記第1網目構造体と前記第2網目構造体とを化学的または物理的に結合させる架橋部が存在する上記[1]~[4]のいずれか1項に記載のハイドロゲル構造体。
[6]前記架橋部が、前記第1モノマーから水素原子の1つを除いた第1官能基、および前記第2モノマーから水素原子の1つを除いた第2官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなる上記[5]に記載のハイドロゲル構造体。
[7]前記架橋部が、第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなり、前記第3官能基が下記式(1-1)または式(1-2)で表される構造であり、前記第4官能基が下記式(2)で表される構造である上記[5]に記載のハイドロゲル構造体。
【化1】
【化2】
【化3】
(式(1-1)中、R1は、炭素数1~5のアルキル基または水素を示し、R2は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(1-2)中、R5は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。)
[8]上記[1]~[7]いずれか1項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法であって、前記第1モノマーと、前記第2モノマーと、前記第1モノマーおよび前記第2モノマーを重合および架橋させる重合開始剤とを含む溶液を調製する調製工程と、前記溶液を加熱してゲル化する加熱工程とを有することを特徴とするハイドロゲル構造体の製造方法。
[9]前記調製工程で調製する前記溶液は、前記第1モノマーから水素原子の1つを除いた第1官能基、および前記第2モノマーから水素原子の1つを除いた第2官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤をさらに含む上記[8]に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
[10]前記調製工程で調製する前記溶液は、第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤をさらに含み、前記第3官能基が下記式(1-1)または式(1-2)で表される構造であり、前記第4官能基が下記式(2)で表される構造である上記[8]に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
【化4】
【化5】
【化6】
(式(1-1)中、R1は、炭素数1~5のアルキル基または水素を示し、R2は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(1-2)中、R5は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。)
[11]前記調製工程および前記加熱工程をワンポットで行う[8]~[10]のいずれか1項に記載のハイドロゲル構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明によれば、機械的特性に優れるハイドロゲル構造体、および、かかるハイドロゲル構造体を簡便に製造できるハイドロゲル構造体の製造方法の提供が可能になる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
図1】本発明に従う一の実施形態のハイドロゲル構造体を示す概略図である。
図2】ハイドロゲル構造体を製造するのに用いる反応溶液を窒素バブリングしている状態を示す図である。
図3】窒素バブリングした後の反応溶液を入れた容器の概略を示す斜視図である。
図4】ハイドロゲル構造体から抜き型を用いてくり抜いて作製した引張試験用の試験片の概略を示す平面図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0016】
本発明者らは、鋭意研究を重ねた結果、ハイドロゲル構造体に用いるモノマーや重合開始剤などの原料の反応性を考慮し、各原料の物性について所定の関係を満たすように選択した原料を用いる場合、簡便な製造方法でも、優れた機械的特性、特に高破断強度および高破を有するハイドロゲル構造体が得られることを見出し、かかる知見に基づき本発明を完成させるに至った。
【0017】
本実施形態のハイドロゲル構造体は、第1ポリマー、および前記第1ポリマーと絡み合う第2ポリマーを含有し、前記第1ポリマーが、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、前記第2ポリマーが、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体であり、前記第1モノマーは、Q値が0.001以上0.199以下の範囲内、およびe値が-8.60以上0以下の範囲内であり、前記第2モノマーは、Q値が0.200以上16.000以下の範囲内、およびe値が0.01以上3.70以下の範囲内である。
【0018】
図1は、本実施形態のハイドロゲル構造体の一例を示す概略図である。なお、図1では、ハイドロゲル構造体を構成する、第1ポリマー1と第2ポリマー2と架橋部3とを視覚的に容易に区別できるようにするため、説明の便宜上、第1ポリマー1を白抜き線、第2ポリマー2を黒塗り線、そして、架橋部3を白抜き線にハッチングしたもので示している。
【0019】
図1に示すように、ハイドロゲル構造体10は、第1ポリマー1および第2ポリマー2を含有する。第1ポリマー1と第2ポリマー2とは、互いに絡み合い、複数部分で部分的に結合している。第1ポリマー1が、第1モノマーを重合および架橋させてなる第1網目構造体であり、第2ポリマー2が、第2モノマーを重合および架橋させてなる第2網目構造体である。
【0020】
第1モノマーは、Q値が0.001以上0.199以下の範囲内であり、e値が-8.60以上0以下の範囲内である。また、第2モノマーは、Q値が0.200以上16.000以下の範囲内であり、e値が0.01以上3.70以下の範囲内である。第1モノマーおよび第2モノマーのQ値とe値とが上記の範囲内であると、第1ポリマー1と第2ポリマー2とが互いに部分的に結合するため、ハイドロゲル構造体10における破断強度や破断歪みなどの機械的特性を向上させることができる。一方で、第1モノマー1および第2モノマー2のQ値とe値とが上記の範囲外であると、第1ポリマー1と第2ポリマー2とは結合しないので、得られるハイドロゲル構造体の機械的特性を十分に向上させることはできない。
【0021】
また、第1モノマーは、好ましくはQ値が0.020以上0.180以下およびe値が-1.80以上-0.70以下、より好ましくはQ値が0.020以上0.170以下およびe値が-1.70以上-0.80以下の範囲内である。また、第2モノマーは、好ましくはQ値が0.230以上3.070以下およびe値が0.30以上1.28以下、より好ましくはQ値が0.320以上1.000以下およびe値が0.50以上0.90以下の範囲内である。第1モノマーおよび第2モノマーのQ値とe値とが上記の範囲内であると、上記の効果がさらに向上する。
【0022】
ここで、モノマーのQ値とは、ラジカル重合性モノマーの2重結合とその置換基との共役の程度を表す指標である。また、モノマーのe値とは、ラジカル重合性モノマーの2重結合の電子密度の指標である。スチレンを基準(Q値=1.0、e値=-0.8)として、様々なモノマーについてのQ値およびe値が実験的に求められている。
【0023】
代表的なモノマーのQ値およびe値は、J.Brandrup,E.H.Immergut,E.A.Grulke著「ポリマーハンドブック 第3刷(Polymer Handbook Fourth Edition)」(John Wiley & Sons Inc.、1998)などに記載され、これらの値を参照してもよいし、以下の方法によって算出してもよい。
【0024】
モノマーM1のQ1値およびe1値を算出する方法として、まず、Q1値およびe1値が不明のモノマーM1と、Q2値およびe2値が既知のモノマーM2とを各種モル比F(=[M1]/[M2])で重合する。このとき、ガスクロマトグラフィーなどの測定方法から、重合初期における各モノマーの消費量の比f(=d[M1]/d[M2])を算出する。ここで、Fおよびfは,下記式(A)の関係を満たすため、F{(f-1)/f}を,{F(2/f)}に対してプロットして直線近似することによって得られるグラフについて、その傾きがr1であり、縦軸切片が-r2である。
【0025】
F{(f-1)/f}=r1{F(2/f)}-r2 式(A)
【0026】
そして、T. AlfreyおよびC.C.Priceによって提案された下記式(B)および式(C)に対して、上記の方法で求めたr1、r2、およびモノマーM2のQ2値およびe2値を代入することによって、モノマーM1のQ1値およびe1値を算出することができる。
【0027】
r1=(Q1/Q2)exp[-e1(e1-e2)] 式(B)
r2=(Q2/Q1)exp[-e2(e2-e1)] 式(C)
【0028】
上記のQ値およびe値を満たす第1モノマーとしては、例えば、N-ビニルホルムアミド(NVF)(Q=0.08~0.14,e=-1.7~-1.6)、N-ビニルアセトアミド(NVA)(Q=0.16,e=-1.57)、N-ビニルピロリドン、N-ビニルカプロラクタム(NVCAP)(Q=0.14,e=-1.18)、N-メチル-N-ビニルアセトアミド(MNVA)、N-アリルステアルアミド、N,N-メチルビニルトルエンスルホン酸アミド、プロピオン酸ビニル、1-ビニルイミダゾール、酪酸ビニル、酢酸ビニル(VACe)(Q=0.026,e=-0.88)、けい皮酸ビニル(VCinn)(Q=0.18,e=-0.76)、安息香酸ビニル、ビニルイソシアネート、ビニルエチルエーテル、およびビニルオクタデシルエーテルの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物である。上記のQ値およびe値の観点から、第1モノマーは、好ましくはNVF、NVA、VACe、N-ビニルピロリドン、NVCAP、MNVA、安息香酸ビニル、およびビニルイソシアネートの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物であり、より好ましくはNVF、NVA、VACe、NVCAP、およびMNVAの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物である。第1モノマーは、1種のモノマーを単独で用いてもよいし、2種以上のモノマーを併用してもよい。また、NVFのQ値およびe値は、ビニルカプロラクタム(炭素7個)とビニルピロリドン(炭素5個)のQ値およびe値の相対的な値に基づいて推定した値である。
【0029】
上記のQ値およびe値を満たす第2モノマーとしては、アクリレート系モノマーが挙げられ、例えば、エチルアクリレート(EAc)(Q=0.41,e=0.55)、アクリル酸ブチル(BAc)(Q=0.38,e=0.85)、アクリル酸メチル(MAc)(Q=0.45,e=0.64)、2-エチルヘキシルアクリレート、α-クロロアクリル酸メチル、アクリルアミド、α-アセトキシアクリル酸エチル(Q=0.52,e=0.77)、α-シアノアクリル酸メチル、2-クロロエチルアクリレート、メタクリロニトリル(Q=0.86,e=0.68)、メタクリル酸(Q=0.98,e=0.62)、ヘキサフルオロブタジエン(Q=0.82,e=0.58)、イタコン酸ジメチル(Q=0.73,e=0.57)およびα-ブロモアクリル酸の群から選択される1つまたは2つ以上の化合物である。上記のQ値およびe値の観点から、第2モノマーは、好ましくはEAc、BAc、MAc、α-クロロアクリル酸メチル、アクリルアミド、α-アセトキシアクリル酸エチル、および2-クロロエチルアクリレートの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物であり、より好ましくはEAc、BAc、MAc、およびα-アセトキシアクリル酸エチルの群から選択される1つまたは2つ以上の化合物である。第2モノマーは、1種のモノマーを単独で用いてもよいし、2種以上のモノマーを併用してもよい。
【0030】
ここで、第1網目構造体の重合度および第2網目構造体の重合度が増加するにつれて、ハイドロゲル構造体10の機械的特性は向上する。また、第1網目構造体の架橋度および第2網目構造体の架橋度が増加するにつれて、第1網目構造体の網目密度および第2網目構造体の網目密度が高くなるので、ハイドロゲル構造体10の機械的強度は増加する一方、ハイドロゲル構造体10の膨潤度は低下する。そのため、ハイドロゲル構造体10に求められる特性に応じて、第1網目構造体および第2網目構造体の重合度や架橋度は適宜選択される。
【0031】
また、第1網目構造体と第2網目構造体との間には、第1網目構造体と第2網目構造体とを化学的または物理的に結合させる架橋部3が存在してもよい。後述する架橋剤を用いてハイドロゲル構造体10を製造する場合、複数の架橋部3がハイドロゲル構造体10中に形成され、複数の架橋部3が第1網目構造体と第2網目構造体との間に介在する。この場合、第1網目構造体と第2網目構造体とは、上記の複数の結合部分に加えて、これら複数の架橋部3を介して、互いに結合する。ここで、化学的な結合とは、炭素-炭素結合、エーテル結合、エステル結合、アミド結合などの共有結合やイオン結合、水素結合などの分子間力による相互作用等であり、物理的な結合とは、似た組成の分子構造、化合物などの集合体や分子鎖同士の絡み合いなどである。
【0032】
架橋部3が増加するにつれて、第1網目構造体と第2網目構造体との結合部分が多くなるので、ハイドロゲル構造体10の機械的特性は向上する一方、ハイドロゲル構造体10の膨潤度は低下する。そのため、ハイドロゲル構造体10に求められる特性に応じて、ハイドロゲル構造体10に含まれる架橋部3の数が適宜選択される。例えば、ハイドロゲル構造体10中の架橋部3の数は、ハイドロゲル構造体10に含まれる架橋部3の質量モル濃度で間接的に算出できる。
【0033】
架橋部3は、第1モノマーから水素原子の1つを除いた第1官能基、および第2モノマーから水素原子の1つを除いた第2官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなる、または後述する第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を複数有する架橋剤により形成されてなる。第1官能基、第2官能基、第3官能基、第4官能基は、それぞれシス型とトランス型とがある。特に、架橋部3は、第1モノマーや第2モノマーとそれぞれ反応速度が同じくらいである架橋剤によって形成されることが好ましく、そのため、架橋剤の構造が、第1モノマーおよび第2モノマーのそれぞれが結合している構造と似ているものを選択することが好ましい。
【0034】
架橋剤としては、例えば、重合性置換基である第1官能基および第2官能基の少なくとも一方の官能基を2つ有する鎖状のモノマー、または重合性置換基である第3官能基および第4官能基の少なくとも一方の官能基を2つ有する鎖状のモノマーである。このような鎖状のモノマーは、その両末端にこれら重合性置換基を1つずつ有する。架橋剤の種類は、第1ポリマー、第2ポリマー、および重合開始剤の種類に応じて、適宜選択される。
【0035】
以下では、両末端に第3官能基を1つずつ有する架橋剤をAA架橋剤、両末端に第4官能基を1つずつ有する架橋剤をBB架橋剤、一方の末端に第3官能基を1つ有すると共に他方の末端に第4官能基を1つ有する架橋剤をAB架橋剤という。これらの架橋剤うち、架橋部3を容易に形成できる観点から、架橋剤はAB架橋剤であることが好ましい。
【0036】
第3官能基は、例えばビニル基に結合している構造が第1モノマーに結合している構造と似ているものとして、より具体的には下記式(1-1)または式(1-2)で表される構造である。
【0037】
【化7】
【0038】
【化8】
【0039】
(式(1-1)中、R1は、炭素数1~5のアルキル基または水素を示し、R2は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(1-2)中、R5は、メチレン基を示し、*は、結合手を示す。式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。)
【0040】
また、第4官能基は、例えばビニル基に結合している構造が第2モノマーに結合している構造と似ているものとして、より具体的には下記式(2)で表される構造である。
【0041】
【化9】
【0042】
式(2)中、R3は、メチレン基を示し、R4は、炭素数1~2のアルキル基または水素を示し、*は、結合手を示す。
【0043】
式(1―1)、式(1-2)および式(2)の*は、例えば鎖状の有機化合物基の両末端にそれぞれ結合している。鎖状の有機化合物基は、直鎖状の炭化水素基でもよいし、一部が分岐している鎖状の炭化水素基でもよい。また、有機化合物基は、ヒドロキシ基やエーテル結合などの官能基を有してもよい。
【0044】
例えば、第1モノマーが下記式(3)で表されるN-ビニルホルムアミドである場合には、AA架橋剤の具体的な構造式は下記式(4-1)で表され、第1モノマーが酢酸ビニルである場合には、AA架橋剤の具体的な構造式は下記式(4-2)で表される。これらの構造式ではいずれも、2つの第3官能基はいずれもシス型でもよいし、一方の第3官能基がトランス型で他方の第3官能基がシス型でもよい。後述の式(6)および式(7)についても同様である。
【0045】
【化10】
【0046】
【化11】
【0047】
【化12】
【0048】
また、第2モノマーが下記式(5)で表されるエチルアクリレートである場合、BB架橋剤の具体的な構造式は下記式(6)で表される。
【0049】
【化13】
【0050】
【化14】
【0051】
また、第1モノマーが上記式(3)で表されるN-ビニルホルムアミドであり、第2モノマーが上記式(5)で表されるエチルアクリレートである場合、AB架橋剤の具体的な構造式は下記式(7)で表される。
【0052】
【化15】
【0053】
上記したハイドロゲル構造体10において、第1網目構造体と第2網目構造体とが互いに結合しているかどうかについて、ハイドロゲル構造体10の加水分解後のOH検出測定により確認することができる。この測定方法の一例は、次の通りである。
【0054】
まず、予め水で膨潤したハイドロゲル構造体10を、1mol/Lの塩酸に72時間浸漬させた後、イオン交換水中でハイドロゲル構造体を洗浄する。この後、12時間毎にイオン交換水を3回入れ替え、洗浄を繰り返す。続いて、洗浄後に乾燥させたハイドロゲル構造体の10mgを400μLの水に加え、サンプル溶液を作製する。そして、第一級アルコールを定量するアルコール測定アッセイ(比色)(STA-620、セルバイオラボ社製)をサンプル溶液に添加し、サンプル溶液の色の違いを確認する。サンプル溶液の色の変化によって、第1網目構造体と第2網目構造体とが互いに結合していることが確認できることについては、次の通りである。
【0055】
ハイドロゲル構造体10中のエステル結合を選択的に加水分解することで、BB架橋剤由来のエステル結合によって架橋している第2網目構造体が、カルボキシル基を有する鎖状高分子と、低分子化合物の第一級アルコールとに分解する。この低分子化合物は、洗浄中にハイドロゲル構造体から取り除かれる。一方で、第1網目構造体は、AA架橋剤により、架橋構造を維持している。また、この架橋構造は、AB架橋剤の加水分解によって、第2網目構造体に由来する鎖状高分子と、第一級ヒドロキシ基を有する第1網目構造体とに分解する。第2網目構造体に由来する鎖状高分子は、低分子化合物ではないため、洗浄後もハイドロゲル構造体中に残留する。そして、この第1網目構造体の有する第一級ヒドロキシ基由来の構造が、疑似的な第一級アルコールとして、上記アルコール測定アッセイ(比色)により確認することができる。一方で、第1網目構造体と第2網目構造体とが互いに結合していないハイドロゲル構造体では、上記の測定方法においてサンプル溶液にアルコール測定アッセイを添加しても、サンプル溶液の色は変化しない、またはハイドロゲル構造体10の測定方法に比べて色の変化が小さい。
【0056】
また、ハイドロゲル構造体10は、水や有機溶媒などの溶媒を含む。ハイドロゲル構造体10中の溶媒は、例えば、第1網目構造体の網目内、第2網目構造体の網目内、第1網目構造体と第2網目構造体との間などに取り込まれている。ハイドロゲル構造体10に含まれる溶媒の量や種類は、ハイドロゲル構造体10の用途、第1モノマー、第2モノマー、重合開始剤、架橋剤などハイドロゲル構造体の原料の種類に応じて、適宜選択される。また、溶媒は、1種の溶媒を単独で用いてもよいし、2種以上の溶媒を併用してもよい。
【0057】
なお、ハイドロゲル構造体10中には、上述した破断強度や破断歪みなどの機械的特性の向上効果を低下させない範囲で、第1モノマー、第2モノマー、重合開始剤、および架橋剤などの化合物由来の未反応物質が含まれてもよい。
【0058】
実施形態のハイドロゲル構造体10は、様々な分野で使用することができる。一例として、保水材に用いることができる。また、生体適合性の高い高強度ゲル材料として、医用材料に応用できる。例えば、高機能性バイオマテリアルや低摩擦材料として、ハイドロゲル構造体の持つ光透過性を活用した人工血管、ハイドロゲル構造体の低摩擦表面を活用した人工関節軟骨、抗血栓性材料、人工臓器、人工関節などの表面に好適に用いることができる。また、クッション材など生活品や工業用材料に利用できる。例えば、オムツ、衛生用品、徐放材、土木材料、建築材料、通信材料、土壌改質材、コンタクトレンズ、眼内レンズ、ホローファイバー、燃料電池用材料、バッテリー隔膜(セパレータ)、耐衝撃材料、およびクッションに好適に用いることができる。また、フィルム状、シート状、チューブ状などの摩擦低減部材として多方面に応用できる。例えば、内視鏡やカテーテルなどの医療器具の外表面に好適に用いることができる。フィルム状、シート状、チューブ状などの形状を有するハイドロゲル構造体を内視鏡やカテーテルなどの医療器具の外表面に装着した場合、当該医療器具を患者の体内に挿入する際の医療器具と体内との摩擦抵抗が低減されるので、手術や検査の際の患者の苦痛を大幅に低減することが可能である。
【0059】
次に、実施形態のハイドロゲル構造体10の製造方法について説明する。
【0060】
実施形態のハイドロゲル構造体10の製造方法は、調製工程S10と加熱工程S20とを有する。
【0061】
調製工程S10では、第1モノマーと、第2モノマーと、第1モノマーおよび第2モノマーを重合および架橋させる重合開始剤とを含む溶液を調製する。
【0062】
なお、調製工程S10で調製する溶液としては、第1モノマーおよび第2モノマーのうち、一方のモノマーと、重合開始剤とを含む溶液と同様の構成を有する溶液を購入した後、当該溶液に含まれていない他方のモノマーを当該溶液に添加して混合することによって調製してもよい。また、第1モノマーおよび第2モノマーを含まずに重合開始剤を含む溶液と同様の構成を有する溶液を購入した後、第1モノマーおよび第2モノマーを当該溶液に添加して混合することによって調製してもよい。また、上記のいずれかの溶液を購入せずに、溶液を調製してもよい。以下では、上記のいずれかの溶液を購入せずに溶液を調製する調製工程S10について説明する。
【0063】
ハイドロゲル構造体10の製造方法に用いる第1モノマーは、Q値が0.001以上0.199以下およびe値が-8.60以上0以下の範囲内である。また、第2モノマーは、Q値が0.200以上16.000以下およびe値が0.01以上3.70以下の範囲内である。
【0064】
実施形態のハイドロゲル構造体の製造方法では、原料である第1モノマーおよび第2モノマーの反応性、特に第1モノマーと第2モノマーの反応速度の差を利用し、これらモノマーのQ値およびe値が上記の範囲内であると、上述のように各作業の完了を待たずに、簡便かつ短時間に、機械的特性に優れたハイドロゲル構造体を製造できることを見出した。
【0065】
すなわち、第1モノマーのQ値およびe値と第2モノマーのQ値およびe値とが上記の範囲内であると、第1モノマーおよび第2モノマーの重合反応と架橋反応、架橋剤をさらに用いる場合にはこれら反応と架橋部3の形成反応に伴う複数の作業を同時に行うことができるため、合成時のハイドロゲル構造体の形状変化が小さくなり、従来の製造方法に比べて簡便かつ短時間に、ハイドロゲル構造体の最終生成物を設計通りの形状や大きさに容易に製造することができる。
【0066】
一方、第1モノマーのQ値およびe値と第2モノマーのQ値およびe値とが上記の範囲外であると、従来のハイドロゲル構造体の製造方法のように、先の作業を完了してから次の作業を行う必要がある。そのため、実施形態のハイドロゲル構造体10の製造方法に比べて、作業が煩雑かつ長時間になる。さらには、製造されるハイドロゲル構造体について、破断強度や破断歪みなどの機械的特性が低下すると共に、設計通りの形状や大きさに製造することは容易ではない。
【0067】
また、第1モノマーは、好ましくはQ値が0.020以上0.180以下およびe値が-1.80以上-0.70以下、より好ましくはQ値が0.020以上0.170以下およびe値が-1.70以上-0.80以下の範囲内である。また、第2モノマーは、好ましくはQ値が0.230以上3.070以下およびe値が0.30以上1.28以下、より好ましくはQ値が0.320以上1.000以下およびe値が0.50以上0.90以下の範囲内である。第1モノマーおよび第2モノマーのQ値とe値とが上記の範囲内であると、上記の効果がさらに向上する。
【0068】
また、ハイドロゲル構造体の製造方法に用いる重合開始剤は、第1モノマーおよび第2モノマーを重合および架橋させ、第1網目構造体と第2網目構造体とを互いに結合させる。使用される重合開始剤は、第1モノマーおよび第2モノマーの種類に応じて、適宜選択される。
【0069】
例えば第1モノマーがNVF、第2モノマーがEAcである場合、重合開始剤としては、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)などが挙げられる。
【0070】
また、調製工程S10で調製する溶液の原料として用いられる溶媒は、第1モノマーおよび第2モノマーに対して相溶性を有する。使用される溶媒は、第1モノマーおよび第2モノマーの種類に応じて、適宜選択される。具体的には、アセトニトリル、エタノール、メタノール、プロパノール、アセトン、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。例えば第1モノマーがNVF、第2モノマーがEAcである場合、溶媒としては、ジメチルスルホキシド(DMSO)、水、N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)などが挙げられる。
【0071】
調製工程S10で調製する溶液は、上記の第1モノマーと第2モノマーと重合開始剤とを溶媒に添加および混合して溶解させることによって作製される。第1モノマーと第2モノマーと重合開始剤とを溶媒に添加する時機としては、特に限定されるものではなく、手順が簡便であることから、第1モノマーと第2モノマーと重合開始剤とを一度に添加することが好ましい。
【0072】
溶液中の第1モノマーの含有量は、0.01mol/L以上10.00mol/L以下、好ましくは0.05mol/L以上1.00mol/L以下の範囲内である。溶液中の第1モノマーの含有量が上記の範囲内であると、後述する加熱工程S20において、より短時間で十分な反応性を示すことができる。特に、溶液中の第1モノマーの含有量が0.05mol/L以上であると、ラジカルの衝突確率が高まり、溶液の反応性がさらに向上し、第1モノマーの含有量が1.00mol/L以下であると、溶媒中での第1モノマーおよび第1ポリマーの運動性が十分に確保される。
【0073】
溶液中の第2モノマーの含有量は、0.01mol/L以上10.00mol/L以下、好ましくは0.05mol/L以上1.00mol/L以下の範囲内である。溶液中の第2モノマーの含有量が上記の範囲内であると、加熱工程S20において、より短時間で十分な反応性を示すことができる。特に、溶液中の第2モノマーの含有量が0.05mol/L以上であると、ラジカルの衝突確率が高まり、溶液の反応性がさらに向上し、第2モノマーの含有量が1.00mol/L以下であると、溶媒中での第2ポリマーの運動性が十分に確保される。
【0074】
溶液に含まれる、第1モノマーのビニル基のモル数(m1)と第2モノマーのビニル基のモル数(m2)との合計モル数(m1+m2)に対する、重合開始剤のモル数(m)の比{m/(m1+m2)}は、0.0001以上0.1000以下、好ましくは0.0050以上0.0300以下の範囲内である。溶液中の重合開始剤の含有量が第1モノマーおよび第2モノマーの全ビニル基のモル数に対して上記の範囲内であると、溶液中に残存している酸素ラジカルなどによる重合開始剤の失活を防ぎ、十分な重合度を得られるため、機械的特性に優れるハイドロゲル構造体を得ることができる。特に、上記の比が0.0050以上であると、重合開始剤の失活により重合反応が十分進行しない事態を避けられることができ、上記の比が0.0300以下であると、第1モノマーおよび第2モノマー同士が一定以上の長さに成長することができる。
【0075】
なお、上記では、予め所定の化合物を含む溶液を購入せずに溶液を調製する調製工程について説明したが、予め所定の化合物を含む溶液を用いる場合には、当該溶液に対して残りの化合物を添加することによって、調製工程で調製する溶液を得ることができる。例えば、予め第1モノマーと重合開始剤とを含む溶液を用いる場合には、当該溶液に対して第2モノマーを添加することによって、調製工程S10で調製する溶液(反応溶液)を得ることができる。
【0076】
調製工程S10の後に行われる加熱工程S20では、調製工程S10で調製された溶液を加熱してゲル化する。
【0077】
加熱工程S20では、調製工程S10で得られた溶液を加熱すると、溶液のゲル化が起こり、上記した実施形態のハイドロゲル構造体を得ることができる。
【0078】
加熱工程S20における溶液の加熱温度は、40℃以上120℃以下、好ましくは45℃以上100℃以下の範囲内である。溶液の加熱温度が40℃以上であると、重合開始剤のラジカル発生速度が大きくなる。また、溶液の加熱温度が120℃以下であると、溶液の蒸発を抑制することができる。
【0079】
加熱工程S20における溶液の加熱時間は、4時間以上48時間以下、好ましくは6時間以上12時間以下の範囲内である。溶液の加熱時間が4時間以上であると、溶液を十分にゲル化することができる。また、溶液の加熱時間が48時間以下であると、ゲル化の過剰な進行を回避することができる。
【0080】
また、調製工程S10で調製する溶液は、上記の第1モノマー、第2モノマー、および重合開始剤に加えて、上記の架橋剤をさらに含むことが好ましい。溶液が架橋剤を含む場合、得られるハイドロゲル構造体において、架橋部3の増加や第1ポリマーおよび第2ポリマーの架橋度の増加のため、機械的特性がさらに向上する。
【0081】
なお、溶液が架橋剤を含む場合、調製工程S10における架橋剤を溶液に添加する時機は、特に限定されるものではなく、例えば第1ポリマーと同じ時機であってもよく、加熱工程S20の加熱条件は、架橋剤を含まない溶液を加熱する条件と同様にすることができる。
【0082】
溶液中の架橋剤の含有量は、0.0001mol/L以上0.5000mol/L以下、好ましくは0.0005mol/L以上0.1000mol/L以下の範囲内である。溶液中の架橋剤の含有量が上記の範囲内であると、ハイドロゲル構造体中で適度な大きさの網目構造を形成し、ハイドロゲル構造体は優れた機械的強度を有する。特に、溶液中の架橋剤の含有量が0.0005mol/L以上0.1000mol/L以下であると、ハイドロゲル構造体において、優れた機械的強度を有すると共に、網目サイズが小さくなりすぎてハイドロゲル構造体内に溶媒を含有できなくなることを回避できる。
【0083】
また、溶液は、第1モノマー、第2モノマー、重合開始剤、架橋剤に加えて、他の添加剤をさらに含んでもよい。溶液が添加剤を含む場合、溶液中の添加剤の含有量は、上記の効果を低下させない範囲であれば、特に限定されるものではない。
【0084】
また、調製工程S10および加熱工程S20をワンポットで行うことが好ましい。調製工程S10および加熱工程S20をワンポットで行うと、1つの容器内で複数の工程を行ってハイドロゲル構造体を製造することができるため、ハイドロゲル構造体の製造方法がより簡便になる。一方、第1モノマーおよび第2モノマーのQ値およびe値が上記の範囲外であると、従来の製造方法のように、容器を替えながら、先の作業を完了してから次の作業を行う必要があるので、ワンポットで上記実施形態のハイドロゲル構造体を製造することが困難である。
【0085】
以上説明した実施形態によれば、Q値およびe値が所定の関係を満たす第1モノマーおよび第2モノマーを用いて合成を行うと、各工程の終了を待たずに、複数の工程を連続して行うことができるため、簡便かつ容易に、ハイドロゲル構造体を所望の形状や大きさに製造することができる。また、このような製造方法で得られるハイドロゲル構造体は、機械的特性に優れる。
【0086】
以上、実施形態について説明したが、本発明は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の概念および特許請求の範囲に含まれるあらゆる態様を含み、本発明の範囲内で種々に改変することができる。
【実施例
【0087】
次に、実施例および比較例について説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。
【0088】
(実施例1)
まず、N-ヒドロキシプロピルN-ビニルホルムアミドを製造した。まず、反応容器中に3.1gの水素化ナトリウムを用意し、テトラヒドロフラン(THF)で洗浄した。続いて、窒素雰囲気下にて、130mLのN,N-ジメチルホルムアミド(DMF)を反応容器中に加えた後、9.2gのN-ビニルホルムアミドを0℃にて反応容器中に滴下した。続いて、反応容器中の反応溶液を4時間室温にて撹拌させた後、0℃にて18gの3-ブロモ-1-プロパノールを反応容器中に滴下した。続いて、反応容器中の反応溶液を再度室温にて7時間撹拌させた後、反応溶液中に水を加えて反応を停止した。反応溶液をヘキサンおよび酢酸エチルにより抽出、洗浄した後、有機相を硫酸マグネシウムにより乾燥させた。さらにシリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製し、液体にて11.3gのN-ヒドロキシプロピルN-ビニルホルムアミドを得た(収率68%)。N-ヒドロキシプロピルN-ビニルホルムアミドの合成は、下記反応式(1)で表される。
【0089】
【化16】
【0090】
次に、上記式(7)で表される架橋剤(AB架橋剤)を製造した。まず、反応容器中に、1.3gのN-ヒドロキシプロピルN-ビニルホルムアミドと、20mLのトリエチルアミンと、溶媒として90mLのTHFとを用意した。さらに、11.8gの塩化アクリルを0℃にてシリンジにより反応容器中に加えた。反応溶液を1.5時間撹拌させ、過剰量の水を反応容器中に加えて反応を停止した。その後、酢酸エチルにより抽出、洗浄を行った後、有機相を硫酸マグネシウムにより乾燥させた。次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、式(7)で表される架橋剤を白色固体にて12.3g(収率77%)得た。式(7)で表される架橋剤の合成は、下記反応式(2)で表される。
【0091】
【化17】
【0092】
次に、上記式(4-1)で表される架橋剤(AA架橋剤)を製造した。まず、反応容器中に1.35gの水素化ナトリウムを用意し、THFで洗浄した。続いて、窒素雰囲気下にて、15mLのDMFを反応容器中に加えた後、2.88gのN-ビニルアセトアミド(NVA)を0℃にて反応容器中に滴下した。続いて、反応容器中の反応溶液を50℃に加熱し、6時間撹拌させた後、0℃にて3.37gのビス(4-クロロブチル)エーテルを反応容器中に滴下した。続いて、反応容器中の反応溶液を再度50℃に加熱し、10時間撹拌させた後、反応溶液中に水を加えて反応を停止した。その後、ヘキサンと酢酸エチルにより抽出、洗浄を行い、有機相を硫酸マグネシウムにより乾燥させた。次に、シリカゲルカラムクロマトグラフィーにより精製することにより、式(4-1)で表される架橋剤を液体にて3.65g(収率73%)得た。式(4-1)で表される架橋剤の合成は、下記反応式(3)で表される。
【0093】
【化18】
【0094】
また、上記式(6)で表される架橋剤(BB架橋剤)については、トリエチレングリコールジメタクリラート(T0948、東京化成社製)を用意した。
【0095】
次に、上記で製造および用意した原料を用いて、実施例1のハイドロゲル構造体を製造した。まず、溶媒として5mLのジメチルスルホキシド(DMSO)、および、第1モノマーとしてN-ビニルホルムアミド(NVF)(Q=0.08~0.14,e=-1.7~-1.6)、第2モノマーとしてエチルアクリレート(EAc)(Q=0.41,e=0.55)、重合開始剤としてアゾビスイソブチロニトリル(AIBN)、AA架橋剤として式(4-1)で表される架橋剤、BB架橋剤として式(6)で表される架橋剤、AB架橋剤として式(7)で表される架橋剤を、反応溶液中の含有量がそれぞれ表1に示す含有量になるように、20mLスクリュー管に投入し撹拌した。その後、図2に示すように、シリンジ21,22を刺したセプタム23をスクリュー管24に装着し、反応溶液25に対して1分間窒素(N)バブリングを矢印に示すように行い、スクリュー管24内の酸素を追い出した。
【0096】
次に、図3に示すように、2枚のガラス板31と、4枚のシリコンシート32とを組み合わせて容器30を形成し、この形成した容器30に、開口寸法が1mmの開口部30aに、シリンジで、窒素(N)バブリングした反応溶液25を流し入れ、反応溶液25の残りはスクリュー管24に戻した。ここで、図3に示す容器30は、2枚の矩形状のガラス板31を互いに平行に1mmの間隔で維持されるように、それらのガラス板の周囲部分(ただし開口部30aを除く4辺部分)で、シリコンシート32を挟み込むように構成したものである。続いて、60℃に設定した恒温槽内に、図3に示すように開口部30aを上側となるようにして、反応溶液25が入った容器30と、残りの反応溶液25が入ったスクリュー管24をセットし、それぞれの反応溶液を8時間反応させた。その後、容器30中の反応溶液と、スクリュー管24中の反応溶液とがゲル化していることを目視で確認し、ハイドロゲル構造体を水で十分に洗浄し、実施例1のハイドロゲル構造体を製造した。
【0097】
(実施例2)
第1モノマーとして、N-ビニルホルムアミド(NVF)の代わりに、VACe(Q=0.026,e=-0.88)を用いるとともに、AA架橋剤として、式(4-2)で表されるアジピン酸ジビニル(A1188、東京化成社製)を用いたことを除いて、実施例1と同様の原料および製造方法によって、実施例2のハイドロゲル構造体を製造した。
【0098】
(実施例3)
第1モノマーとして、N-ビニルホルムアミド(NVF)の代わりに、VACe(Q=0.026,e=-0.88)を用い、第2モノマーとして、エチルアクリレート(EAc)の代わりに、アクリル酸メチル(MAc)(Q=0.45,e=0.64)を用いるとともに、AA架橋剤として、式(4-2)で表されるアジピン酸ジビニル(A1188、東京化成社製)を用いたことを除いて、実施例1と同様の原料および製造方法によって、実施例3のハイドロゲル構造体を製造した。
【0099】
(実施例4)
第1モノマーとして、N-ビニルホルムアミド(NVF)の代わりに、N-ビニルアセトアミド(NVA)(Q=0.16,e=-1.57)を用い、第2モノマーとして、エチルアクリレート(EAc)の代わりに、アクリル酸メチル(MAc)(Q=0.45,e=0.64)を用いたことを除いて、実施例1と同様の原料および製造方法によって、実施例4のハイドロゲル構造体を製造した。
【0100】
(比較例1)
第1モノマーとして、NVFを用い、第2モノマーは用いない代わりに、けい皮酸ビニル(VCinn)(Q=0.18,e=0.76)、BB架橋剤は用いない代わりに、その他の架橋剤として式(4-2)を用いたことを除いて、実施例1と同様の原料および製造方法によって、比較例1のハイドロゲル構造体を製造した。
【0101】
(比較例2)
第1モノマーとして、N-ビニルホルムアミド(NVF)の代わりに、N-ビニルアセトアミド(NVA)を用い、第2モノマーは用いず、重合開始剤として、アゾビスイソブチロニトリル(AIBN)の代わりに、2,2’アゾビス(2-メチルプロピオンアミジン)ジハイドロクロリド(V-50)を用い、架橋剤として、AA架橋剤、BB架橋剤およびAB架橋剤を用いず、N,N-5-オキサノナメチレンビス-ビス-N-ビニルアセトアミド(5ON-bisNVA)を用い、さらに、恒温槽の温度を60℃ではなく37℃としたことを除いて、実施例1と同様の原料および製造方法によって、比較例2のハイドロゲル構造体を製造した。
【0102】
表1に、実施例1~4ならびに比較例1および2で用いた反応溶液に含有する各成分の種類および含有量を表1に示す。
【0103】
【表1】
【0104】
<機械的特性の評価>
まず、機械的特性の評価を行うため、製造した各ハイドロゲル構造体から抜き型を用いてくり抜いて、図4に示すように、寸法a(チャック部の位置間距離):25mm、寸法b:6mm、寸法c:1mm、そして、厚さ1mmのシートの引張試験用の試験片を作製した。作製したハイドロゲル構造体の試験片をEZ-SX(島津製作所製)を用いて力学試験を行った。試験片の力学試験を行う際の引張速度は、最大伸びが0.5以下のものは2mm/分、0.5~2.0のものは5mm/分、2.0~5.0のものは20mm/分、5.0以上のものは40mm/分で設定した。破断歪みは下記式(11)により算出した。Lは、引張試験で破断した時点での標点間距離(mm)であり、L0は引張試験を行う前の試験片の原標点距離(mm)である。破断強度(MPa)および破断歪みの結果を表2に示す。
【0105】
(L-L0)/L0 式(11)
【0106】
<膨潤度試験>
膨潤度は下記式(12)より算出した。Wsは、膨潤後のハイドロゲル構造体の重量であり、Wdは、乾燥時のハイドロゲル構造体の重量である。膨潤度の結果を表2に示す。
【0107】
(Ws-Wd)/Wd 式(12)
【0108】
なお、製造した各供試材(ハイドロゲル構造体)は、3つの試験片を作製し、これら試験片について特性試験を実施して得られた3つのデータの平均値(n=3)を表2に示した。また、表2において、各値の右側に示した括弧内の数値は、標準偏差値(n=3)である。
【0109】
【表2】
【0110】
次に、実施例および比較例で作製したハイドロゲル構造体について、第1網目構造体と第2網目構造体とが互いに結合しているかどうかを確認した。ここでは、破断歪みの最も高い実施例1と破断強度の最も低い比較例2とを比較した。
【0111】
まず、作製したハイドロゲル構造体を水で膨潤させた。続いて、膨潤したハイドロゲル構造体を、1mol/Lの塩酸に72時間浸漬させた後、1Lのイオン交換水中でハイドロゲル構造体を洗浄した。この後、12時間毎にイオン交換水を3回入れ替え、洗浄を繰り返した。続いて、洗浄後に乾燥させたハイドロゲル構造体の10mgを400μLの水に加え、サンプル溶液を作製した。そして、第一級アルコールを定量するアルコール測定アッセイ(比色)(STA-620、セルバイオラボ社製)をサンプル溶液に添加して、サンプル溶液の色の違いを確認した。
【0112】
実施例1で作製したハイドロゲル構造体では、サンプル溶液の色が変化したため、第1網目構造体と第2網目構造体とが互いに結合していることがわかった。
【0113】
比較例2で作製したハイドロゲル構造体では、サンプル溶液の色が変化しなかった。比較例2では、第2モノマーを用いなかったため、第2網目構造体が形成されなかった。
【0114】
また、表2に示す機械的特性の評価結果から、実施例1~4のハイドロゲル構造体は、いずれも比較例1および2のハイドロゲル構造体に比べて、破断歪みが大きく、一定の破断強度も維持しており、機械的特性に優れていることがわかる。
【符号の説明】
【0115】
1 第1ポリマー
2 第2ポリマー
3 架橋部
10 ハイドロゲル構造体

図1
図2
図3
図4