(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサ
(51)【国際特許分類】
G01N 27/12 20060101AFI20230712BHJP
C01B 32/174 20170101ALI20230712BHJP
B82Y 15/00 20110101ALI20230712BHJP
B82Y 40/00 20110101ALI20230712BHJP
【FI】
G01N27/12 C
G01N27/12 B
G01N27/12 M
C01B32/174
B82Y15/00
B82Y40/00
(21)【出願番号】P 2019207996
(22)【出願日】2019-11-18
【審査請求日】2022-06-28
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成28年度国立研究開発法人科学技術振興機構(研究成果展開事業 研究成果最適展開支援プログラム 産業ニーズ対応タイプ)「セラミックスの高機能化と製造プロセス革新/ナノブロック高次秩序化による配向性ナノ構造体の開発と表面ドーピングによる高機能化委託研究」に係る産業技術力強化法第17条の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】301021533
【氏名又は名称】国立研究開発法人産業技術総合研究所
(74)【代理人】
【識別番号】100218062
【氏名又は名称】小野 悠樹
(74)【代理人】
【識別番号】100093230
【氏名又は名称】西澤 利夫
(72)【発明者】
【氏名】増田 佳丈
(72)【発明者】
【氏名】チェ ピルギュ
【審査官】小澤 理
(56)【参考文献】
【文献】特表2019-532272(JP,A)
【文献】特開2019-152511(JP,A)
【文献】特表2014-526433(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2005/0045477(US,A1)
【文献】米国特許出願公開第2009/0101501(US,A1)
【文献】国際公開第2018/216952(WO,A1)
【文献】特開平10-062373(JP,A)
【文献】国際公開第2019/142478(WO,A1)
【文献】Shujiang DING et al.,One-Dimensional Hierarchical Structures Composed of Novel Metal Oxide Nanosheets on a Carbon Nanotube Backbone and Their Lithium-Storage Properties,Advanced Functional Materials,2011年,Vol.21, No.21,p.4120-4125,https://doi.org/10.1002/adfm.201100781
【文献】Tina HOJATI et al.,Highly sensitive CO sensor based on ZnO/MWCNT nano sheet network grown via hydrothermal method,Materials Chemistry and Physics,2018年,Vol.207,p.50-57,https://doi.org/10.1016/j.matchemphys.2017.12.043
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 27/12
C01B 32/174
B82Y 15/00
B82Y 40/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複合構造体を用いたガス検出用センサであって、
前記複合構造体は、
カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC
60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、
前記カーボ
ン材料と接する、
酸化スズからなるナノシート片
と
を備え
、かつ、電極を有する基板と接しており、
アンモニア、ノナナール、エチレンを検知する、ガス検出用センサ。
【請求項2】
複合構造体を用いたガス検出用センサであって、
前記複合構造体は、
カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC
60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、
前記カーボ
ン材料と接する、
酸化スズからなる複数のナノシート片
と
が集合した集合体を備え
、かつ、電極を有する基板と接しており、
アンモニア、ノナナール、エチレンを検知する、ガス検出用センサ。
【請求項3】
前記複合構造体は、前記ナノシート片の面内サイズ/厚さが10~50であることを特徴とする請求項1
または2に記載の
ガス検出用センサ。
【請求項4】
前記カーボン材料がカーボンナノチューブであることを特徴とする請求項1から
3のいずれかに記載の
ガス検出用センサ。
【請求項5】
電極を有する基板に、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料を含有する第1の液体を塗布して、前記カーボン材料が集合した集合体を作製する第1の工程と、前記集合体が形成された前記電極を有する基板を、酸化物前駆体を含有する第2の液体に浸漬させて、前記集合体の表面に前記酸化物
前駆体に由来する酸化物からなるナノシート片を作製する第2の浸漬工程を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【請求項6】
前記酸化物前駆
体が、酸化スズ前駆
体であることを特徴とする請求項
5に記載の複合構造体の製造方法。
【請求項7】
アンモニア、ノナナール、エチレンを検知するガス検出用センサの製造方法であって、
カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料を、
酸化スズ前駆体を含有する液体と接触させて、前記カーボン材料の表面に
酸化スズからなるナノシート片
が作製
された複合構造体を得て、この複合構造体をガス検出用センサに用いる工程を含む、ガス検出用センサの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサに関し、特にアンモニアやノナナール、水素等の分子を検知するガスセンサや分子センサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサに関する。
【背景技術】
【0002】
センサや電子機器、モビリティ等をインターネットでつなぐ「IoT」や、1兆個のセンサネットワーク社会を目指す「トリリオン・センサ」への期待の高まりとともに、様々なガスやニオイの検知に対する要望が強まっている。その際、膨大な数のセンサを様々な機器や設備に搭載するため、センサの高性能化、低コスト化、小型化、低消費電力化等が求められている。様々な新規ナノ材料によるセンサ開発が進められる中、カーボンナノチューブを用いたガスセンサや分子センサへの期待が高まっている。
【0003】
カーボンナノチューブは高い導電性や高い比表面積等の特徴を有するものの、セラミックス半導体と比べると組成、結晶性、結晶面、粒子径、粒子形状、粒界等の多様性が低い。そのため、高感度化や応答特性向上、ガス選択性向上等の特性制御が困難であった。特に、カーボンナノチューブは熱や酸化に弱いため、高温処理を必要とするセラミックスによる表面修飾は困難であった。また、カーボンナノチューブは炭素のみで構成されることから、機能性官能基を持たないため、各種ナノ材料による表面修飾が困難であった。
【0004】
カーボンナノチューブとセラミックス等の粒子の混合物や、カーボンナノチューブ層へのセラミックス等の粒子層の塗布形成などにおいては、カーボンナノチューブとセラミックス等が触れて接触しているのみであり、カーボンナノチューブ表面にセラミックス等が結晶成長した複合構造体は報告されていない。
【0005】
カーボンナノチューブとセラミックス等からなる複合構造体形成において、100℃以上等の加熱処理を伴ったプロセスを用いた場合、カーボンナノチューブの構造や表面、結晶性、組成、電気的特性、センサ特性等への影響が起きる問題があった。
【0006】
従来、カーボンナノチューブへのセラミックス等の複合化や表面修飾において、カーボンナノチューブの表面露出割合を制御する技術がなかった。
【0007】
本出願人は、特許文献1において、酸化スズ含有ナノシートを用いた表面積が大きい特徴を有するガスセンサを提案した。このガスセンサは、基板と、基板に設けられた少なくとも一対の電極と、酸化スズ含有ナノシートを有する。酸化スズ含有ナノシートは、基板に対して空隙を介して配置されるブリッジ構造の内側部を備えている。また、酸化スズ含有ナノシートは、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる中央シート部と、中央シート部の少なくとも一部の両面に付着し、中央シート部の複数のナノシート片の集合密度よりも低い集合密度で、酸化スズからなる複数のナノシート片が集合してなる周辺部を備えている。
【0008】
特許文献1のガスセンサは、電気抵抗変化によってガスを検知する。しかしながら、このセンサはカーボンナノチューブを備えていなかった。そして、これまで、カーボンナノチューブと酸化スズ含有ナノシートとの複合構造体は報告されていなかった。
【0009】
そこで、カーボンナノチューブへ、セラミックスや半導体等を修飾する技術、カーボンナノチューブへ、酸化スズ含有ナノシート等を修飾する技術、また、カーボンナノチューブへ、セラミックスや半導体、酸化スズ含有ナノシート等を修飾する技術において表面の被覆率を制御する技術が求められていた。さらに、カーボンナノチューブへ、セラミックスや半導体、酸化スズ含有ナノシート等を修飾する技術において、100℃以下での処理にて行うことにより、カーボンナノチューブの酸化、劣化等を引き起こさない技術が求められていた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【文献】特願2018-246542(出願日:2018年12月28日)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、特に、アンモニアやノナナール、水素等の分子を検知するガスセンサや分子センサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
本発明によれば、上記目的を達成するため、下記の複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサが提供される。
【0013】
〔1〕カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、前記カーボンナノ材料と接する、酸化物からなるナノシート片を備えることを特徴とする複合構造体。
【0014】
〔2〕カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、前記カーボンナノチューブと接する、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体を備えることを特徴とする複合構造体。
【0015】
〔3〕上記第〔1〕または第〔2〕の発明において、電極を有する基板と接していることを特徴とする複合構造体。
【0016】
〔4〕上記第〔1〕から第〔3〕のいずれかの発明において、前記酸化物は、酸化スズからなることを特徴とする複合構造体。
【0017】
〔5〕上記第〔1〕から第〔4〕のいずれかの発明において、前記ナノシート片の面内サイズ/厚さが10~50であることを特徴とする複合構造体。
【0018】
〔6〕上記第〔1〕から第〔5〕のいずれかの発明において、前記カーボン材料がカーボンナノチューブであることを特徴とする複合構造体。
【0019】
〔7〕上記第〔1〕から第〔6〕のいずれかの複合構造体を用いることを特徴とするセンサ。
【0020】
〔8〕ガス検出用センサであることを特徴とする上記第〔7〕の発明のセンサ。
【0021】
〔9〕上記第〔8〕の発明において、アンモニア、ノナナール、水素、メタンまたはエチレンを検知することを特徴とするセンサ。
【0022】
〔10〕カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料を、酸化物前駆体を含有する液体と接触させて、前記カーボン材料の表面に前記酸化物からなるナノシート片を作製する工程を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【0023】
〔11〕電極を有する基板に、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料を含有する第1の液体を塗布して、前記カーボン材料が集合した集合体を作製する第1の工程と、前記集合体が形成された前記電極を有する基板を、酸化物前駆体を含有する第2の液体に浸漬させて、前記集合体の表面に前記酸化物からなるナノシート片を作製する第2の浸漬工程を有することを特徴とする複合構造体の製造方法。
【0024】
〔12〕上記第〔10〕または第〔11〕の発明において、前記酸化物前駆体を含有する液体が、酸化スズ前駆体を含有する溶液であることを特徴とする複合構造体の製造方法。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、上記技術的手段および技術的手法を採用したので、カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、その表面、あるいは内面、あるいはその両方の面に、酸化スズナノシート等の酸化物からなるナノシートが形成された複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサを提供することができる。
【0026】
また、本発明のある態様によれば、アンモニアやノナナール、水素等の分子に対し、高い応答性を有し、これらを検知するガスセンサや分子センサに適用して有用な複合構造体およびその製造方法ならびに該複合構造体を利用したセンサを提供することができる。
【0027】
さらに、本発明の他の態様においては、カーボンナノチューブと酸化スズナノシート等との複合構造体をセンサ感応部に用いたガスセンサであり、同カーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたセンサに比較して、大幅に向上したセンサ特性(実施例では1.16倍から15.29倍)を有するガスセンサを提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【
図1】(a)は本発明の実施形態に係るカーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体をセンサ感応部として用いたセンサの構造を示す模式図であり、(b)は本発明の実施形態に係る複合構造体においてカーボン材料としてカーボンナノチューブを用い、酸化物のナノシートとして酸化スズナノシートを用いた場合の複合構造体を示す模式図である。
【
図2】(a)は、カーボンナノチューブの集合体のみのCNT型センサAの表面の走査型電子顕微鏡像であり、(b)は酸化スズナノシート/CNTの複合型センサBの表面の走査型電子顕微鏡像であり、(c)は、酸化スズナノシート/CNTの複合型センサCの表面の走査型電子顕微鏡像である。
【
図3a】図中の点線(薄い灰色の線)は、アンモニアに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、アンモニアに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサB)の抵抗値を示す図である。
【
図3b】図中の点線(薄い灰色の線)は、ノナナールに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、ノナナールに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサB)の抵抗値を示す図である。
【
図3c】図中の点線(薄い灰色の線)は、水素に対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は水素に対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサB)の抵抗値を示す図である。
【
図3d】図中の点線(薄い灰色の線)は、メタンに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、メタンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサB)の抵抗値を示す図である。
【
図3e】図中の点線(薄い灰色の線)は、エチレンに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、エチレンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサB)の抵抗値を示す図である。
【
図4a】図中の点線(薄い灰色の線)は、アンモニアに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、アンモニアに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサC)の抵抗値を示す図である。
【
図4b】図中の点線(薄い灰色の線)は、ノナナールに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、ノナナールに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサC)の抵抗値を示す図である。
【
図4c】図中の点線(薄い灰色の線)は、水素に対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、水素に対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサC)の抵抗値を示す図である。
【
図4d】図中の点線(薄い灰色の線)は、メタンに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、メタンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサC)の抵抗値を示す図である。
【
図4e】図中の点線(薄い灰色の線)は、エチレンに対するカーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたCNT型センサの抵抗値を示す図であり、実線(黒色の線)は、エチレンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサC)の抵抗値を示す図である。
【
図5a】検知対象ガス導入開始から600秒後におけるセンサ抵抗値をもとに算出した、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、エチレンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサBおよびセンサC)の応答値を示す図である。
【
図5b】検知対象ガス導入開始から900秒後におけるセンサ抵抗値をもとに算出した、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、エチレンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサBおよびセンサC)の応答値を示す図である。
【
図5c】検知対象ガス導入開始から1800秒後におけるセンサ抵抗値をもとに算出した、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、エチレンに対する酸化スズナノシート/CNT複合型センサ(センサBおよびセンサC)の応答値を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0029】
以下、本発明を実施形態に基づき詳細に説明する。
【0030】
本発明の複合構造体は、カーボンナノチューブ、グラフェン、C60等の少なくとも一種であるカーボン材料と、前記カーボン材料と接する、酸化物からなるナノシートを備えている。
【0031】
本発明の複合構造体は、ガスセンサ、分子センサ、溶液センサ等のセンサ、電池材料、人工光合成材料等に用いることができ、特にガスセンサに好ましく用いることができる。本発明の複合構造体をガスセンサに用いた場合、例えば、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、エチレンなどのガスを高い応答性で検知することができる。
【0032】
本発明の複合構造体をセンサに用いる場合、基板上に該複合構造体を設けて構成される。この場合、基板としては、典型的にはSiO2を主成分とする石英ガラス基板が使用できるが、これに限定されず、用途に応じてこれまで基板として使用されてきた各種材料のものを使用することができる。基板の面内サイズ、厚さも用途に応じて適宜設定することができる。
【0033】
基板の表面には、電極、配線等が設けられるが、電極としては白金等の金属からなる電極が使用される。電極の形状としては、例えば、ガスセンサに用いる場合、くし形電極を使用することができる。
【0034】
本発明の複合構造体で用いる酸化物からなるナノシートの厚さは、例えば1~10nmであり、ナノシートの面内サイズは、例えば3~200nmとすることができる。また、ナノシートの面内サイズ/厚さ(アスペクト比)は、例えば1~50とすることができる。ここでの面内サイズとは、ナノシートの厚さ方向と垂直の方向である幅および長さ方向のサイズを指す。ナノシートの幅および長さの方向は、区別されず、同等である。
【0035】
本発明の複合構造体では、カーボン材料として、特にカーボンナノチューブを好ましく用いることができるが、その他、グラフェン、C60等の炭素からなる材料、あるいはこれらを組み合わせたものも用いることができる。カーボン材料としてカーボンナノチューブを用い、複合構造体をセンサに用いる場合、複数本のカーボンナノチューブが集合した集合体とすることができる。カーボンナノチューブは、単層カーボンナノチューブ、二層カーボンナノチューブ、三層以上の多層カーボンナノチューブ、あるいはこれらを混合したものとすることができる。
【0036】
カーボン材料としてカーボンナノチューブを用いる場合、集合体とすることが望ましいが、その本数あるいは形態は用途に応じて、用途等を考慮して適切に設定することができる。例えば、
図1(a)に示すように、複合構造体をセンサの感応部として用いる場合、シート状の複合構造体3を、白金電極2A、2Bを設けた絶縁体基板1上に配設する。
【0037】
また、本実施形態では、酸化物からなるナノシートとして、特に二酸化スズナノシートが好ましく用いられるが、これに代えて、一酸化スズ、酸化スズ、二酸化チタン、酸化亜鉛等の種々の金属酸化物、あるいはこれらを組み合わせたものを用いることもできる。
【0038】
例えば、カーボンナノチューブへの酸化スズナノシートの複合化においては、カーボンナノチューブの表面に被覆することも、カーボンナノチューブの内部に被覆することも、カーボンナノチューブの表面と内部の両方に被覆することもできる。
【0039】
この場合、本発明では、カーボンナノチューブの酸化、劣化等をもたらすことなく、カーボンナノチューブ表面、あるいはカーボンナノチューブ内面、あるいはその両方の面に酸化スズナノシートを結晶成長させることにより、酸化スズナノシート修飾型カーボンナノチューブとすることができる。
図1の(b)に、酸化スズナノシート5をカーボンナノチューブ4に複合化させた様子を模式的に示す。この例では、複数の酸化ナノシート5をカーボンナノチューブ4の表面に複合化させている。
【0040】
カーボンナノチューブへの酸化スズナノシートの複合化においては、カーボンナノチューブの表面または内部、あるいはその両方の面への被覆率は、用途や必要特性に応じて、変化させることができる。ここで、被覆率とは、カーボンナノチューブの表面または内部、あるいはその両方の面の面積をSCとし、酸化スズナノシートが被覆されたカーボンナノチューブの表面または内部、あるいはその両方の面の面積をSTとした際における、100×ST/SCとして定義される。
【0041】
カーボンナノチューブの特性を強く発揮させる場合には、被覆率(100×ST/SC)は、0%より大きく50%以下であることが望ましく、より好ましくは、0%より大きく20%が以下であることが望ましい。
【0042】
酸化スズの特性を強く発揮させる場合には、被覆率(100×ST/SC)は、約50~100%が望ましく、より好ましくは、約80~100%が望ましい。
【0043】
カーボンナノチューブと酸化スズの両方の特性を発揮させる場合には、被覆率(100×ST/SC)は、約20~80%が望ましく、より好ましくは、約30~70%が望ましい。
【0044】
カーボンナノチューブと酸化スズの両方の特性を半分程度ずつ発揮させる場合には、被覆率(100×ST/SC)は、約30~70%が望ましく、より好ましくは、約40~60%が望ましい。
【0045】
カーボンナノチューブへの酸化スズナノシートの複合化においては、カーボンナノチューブの表面または内面、あるいはその両方の面への被覆の際に、酸化スズナノシートの被覆膜厚を変えることができる。
【0046】
酸化スズナノシートのカーボンナノチューブの表面への被覆において、複数のナノシート片が集合した集合体を形成する際に、例えば、1回の作製にて、複数のナノシート片が集合した集合体の膜厚を0.001μmとする場合、その工程を10000回繰り返すことで、複数のナノシート片が集合した集合体の膜厚を10μmとすることができる。繰り返しの際には、溶液供給の自動装置などを用いて容易に実施することもできる。
【0047】
カーボンナノチューブの表面への被覆においては、例えば、カーボンナノチューブを塗布した基板に対して、別途作製した複数の酸化スズナノシート片が集合した集合体からなる粉体を塗布することができる。その場合、カーボンナノチューブを塗布した基板上のうちの塗布する面積(S(mm2))に対して、複数の酸化スズナノシート片が集合した集合体からなる粉体の体積(V=S×h(mm3))を、V=S×h(mm3)とすることで、複数の酸化スズナノシート片が集合した集合体の膜厚をh(mm)とすることができる。例えば、hを0.00001から1の範囲で変えることで、複数の酸化スズナノシート片が集合した集合体の膜厚を0.00001mmから1mmの範囲で変えることができる。
【0048】
本発明において、カーボンナノチューブの内部への被覆においては、被覆膜厚は、0nmより大きく、カーボンナノチューブの内径までの範囲で変えることができる。例えば、被覆率が10%の場合、不均一な島状などでの被覆形態となるため、被覆膜厚がカーボンナノチューブの内径となることもある。例として、カーボンナノチューブの内壁面から成長した一片の酸化スズナノシートが、カーボンナノチューブの内径の中心を越えて、対面する内壁まで到達する場合などがある。
【0049】
本発明において、実施例に記載されるような、カーボンナノチューブ分散液に対して、スズ含有溶液を加える手法では、カーボンナノチューブ内部に溶液が浸透することは起こりにくく、カーボンナノチューブの表面のみに被覆することができる。あるいは、末端の閉じたカーボンナノチューブを用いることで、カーボンナノチューブの表面のみに被覆することができる。一方、真空含浸法等を用いて、カーボンナノチューブ内部に溶液を浸透させることで、カーボンナノチューブの表面と内部の両方に被覆することもできる。真空含浸法に代えて、光照射法やプラズマ処理、コロナ処理等によって、カーボンナノチューブの内部を親水化する方法で、カーボンナノチューブ内部に水溶液やアルコール溶液などの親水性溶液を浸透させ、カーボンナノチューブの表面と内部の両方に被覆することもできる。または、カーボンナノチューブの表面および内部を、疎水性官能基を持つ分子で修飾して疎水性とし、カーボンナノチューブ内部に疎水性のスズ含有溶液などを浸透させ、カーボンナノチューブの表面と内部の両方に被覆することもできる。
【0050】
さらに、カーボンナノチューブの表面を疎水性とし、内部を親水性とし、親水性の溶液を用いることで、カーボンナノチューブの内部のみに被覆することもできる。表面と内部の疎水性、親水性を代えて、カーボンナノチューブの表面を親水性とし、内部を疎水性とし、疎水性の溶液を用いることで、カーボンナノチューブの内部のみに被覆することもできる。さらに、真空含浸法、光照射法、プラズマ処理、コロナ処理、表面の分子修飾法、内部の分子修飾法等において、あるいは、スズ含有溶液での処理において、処理時間、プラズマやコロナの強度等の処理条件を変化させることで、カーボンナノチューブの表面または内部、あるいはその両方の面への被覆率を変化させることができる。
【0051】
本発明において、酸化物からなるナノシート片の合成量を少量とし、例えば、ナノシート片同士が接合しない合成量とすることで、「〔1〕カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、前記カーボンナノ材料と接する、酸化物からなるナノシート片を備えることを特徴とする複合構造体」を作製することができる。一方、酸化物からなるナノシート片の合成量を増加させ、例えば、ナノシート片同士が接合して集合体を形成する合成量とすることで、「〔2〕カーボンナノチューブ、グラフェンおよびC60のうちの少なくとも一種であるカーボン材料と、前記カーボンナノチューブと接する、酸化物からなる複数のナノシート片が集合した集合体を備えることを特徴とする複合構造体」を作製することができる。
【0052】
次に、本実施形態の複合構造体の製造方法の例について述べる。
【0053】
本実施形態の複合構造体を製造する場合、例えばカーボンナノチューブ、グラフェン、C60等の少なくとも一種であるカーボン材料を、酸化物前駆体(例えば、酸化物が酸化スズの場合、フッ化スズ)を含有する液体と接触させて、前記カーボン材料の表面に前記酸化物からなるナノシート片を作製する工程を有する方法を用い、カーボン材料と酸化物のナノシートの複合構造体を製造することができる。カーボン材料と酸化物前駆体を含有する液体を接触させる時間は、所望の複合構造体を得るのに適切な時間に設定する。ここで、ナノシート片の作製とは、例えば、カーボンナノチューブの表面にナノシート片を作製する場合、該表面からナノシート片を結晶成長させて、カーボンナノチューブ表面を修飾することをいう。
【0054】
また、電極を有する基板に、カーボンナノチューブ、グラフェン、C60等の少なくとも一種であるカーボン材料を含有する第1の液体を塗布して、前記カーボン材料が集合した集合体を作製する第1の工程と、前記集合体が形成された前記電極を有する基板を、酸化物前駆体を含有する第2の液体に浸漬させて、前記集合体の表面に前記酸化物からなるナノシート片を作製する第2の浸漬工程を有する方法を用い、カーボン材料と酸化物のナノシートの複合構造体を製造することができる。この場合も、前記カーボン材料の集合体が形成された前記電極を有する基板を酸化物前駆体に浸漬させる時間も、所望の複合構造体を得るのに適切な時間に設定する。
【0055】
後述の実施例では、カーボンナノチューブと酸化スズ含有ナノシートの複合体をセンサ感応部に有するセンサの特性と、カーボンナノチューブの集合体のみを感応部に有するセンサの特性を比較するにあたり、カーボンナノチューブの集合体のみを感応部に有するセンサを別途作製したが、その他に、例えば、カーボンナノチューブと酸化スズ含有ナノシート等との複合構造体からなるセンサを基にして、このセンサから酸化スズ含有ナノシート等を除去することにより、同カーボンナノチューブの集合体のみからなるセンサを作製することができる。酸化スズ含有ナノシート等を除去する方法としては、例えば、ハロゲン化水素酸、硫酸、強塩基などがある。ハロゲン化水素酸は、フッ化水素(HF)、塩化水素(HCl)、臭化水素(HBr)、ヨウ化水素(HI)がある。強塩基としては、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)、水酸化カリウム(KOH)、水酸化ルビジウム(RbOH)、水酸化セシウム(CsOH)、水酸化テトラメチルアンモニウム(N(CH3)4OH)、水酸化テトラエチルアンモニウム(N(C2H5)4OH)などがある。
【0056】
また、本発明では、カーボン材料として、カーボンナノチューブを中心に述べたが、カーボンナノチューブ以外に、グラフェンやC60等を用いることができ、この場合、グラフェンやC60等の分散液を作製して、乾燥させフィルム状にすることができる。また、酸化スズ等の酸化物のナノシートは、酸化スズ等の酸化物を合成するための溶液または薬品(フッ化スズ等)を上記分散液に添加することにより複合構造体を作製することができる。グラフェンやC60等の粒子の集合体は、個々のグラフェンやC60等の粒子がランダムに集まった凝集状態の膜となる。
【実施例】
【0057】
以下、本発明を実施例および比較例に基づき詳細に説明する。
(比較例)
<センサA(カーボンナノチューブの集合体)の合成>
くし形の白金電極2A、2Bを具備する石英ガラス基板1上に、カーボンナノチューブの集合体のみからなるセンサ感応部を形成した。(符号は
図1参照)
粉体状のカーボンナノチューブ(商品名(TUBALL SWCNT 93%):OCSiAl社製)0.004gに蒸留水10mLを加えた後に3時間、超音波処理を施して分散させ、カーボンナノチューブ分散液を調整した。濃度は0.04質量%とした。
【0058】
くし形の白金電極2A、2B(幅5μmの白金電極が5μmごとの間隔で設けられている)を具備する厚さ1mmの石英ガラス基板1上に対して、真空紫外光を20分間露光して親水性とした後、上記で作製したカーボンナノチューブ分散液を10μL滴下し、常温にて乾燥させ、厚さ約500nmのカーボンナノチューブの集合体のみからなるセンサ感応部を有するセンサAを作製した。
【0059】
図2(a)に、カーボンナノチューブの集合体の走査型電子顕微鏡写真を示す。
<センサA(カーボンナノチューブの集合体)のセンサ特性>
次に、カーボンナノチューブの集合体のみをセンサ感応部に用いたセンサAの特性を示す。
【0060】
図3(a)~(e)に、アンモニアガス、ノナナールガス、水素ガス、メタンガスおよびエチレンガスに対するセンサ特性を点線(薄い灰色の線)で示す。横軸は時間(秒)、縦軸はセンサの抵抗値(面積抵抗値(Ω)、以下同じ)である。抵抗値は、多チャンネルデジタルマルチメータ ケースレー社製 型番2700により測定した。
【0061】
開始から1200秒までは、センサAは空気に接触している。1200秒から3000秒までの間は、センサAは、空気に対して、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを混合させたガスに接触している。それぞれのガスの濃度は、アンモニア50ppm、ノナナール0.85ppm、水素50ppm、メタン50ppm、エチレン50ppmである。センサの特性評価は、室温25℃にて実施した。
【0062】
Raは空気中での抵抗値である。Rgは、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを含む空気中での抵抗値である。応答の評価値として、応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100を用いた。
【0063】
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから600秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.027、ノナナール0.015、水素0.007、メタン0.009、エチレン0.007であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから900秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブの集合体のみを用いたセンサAの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.031、ノナナール0.016、水素0.009、メタン0.016、エチレン0.009であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから1800秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブの集合体を用いたセンサの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.039、ノナナール0.027、水素0.019、メタン0.026、エチレン0.011であった。(表1)
【0064】
【0065】
(実施例1)
<センサB(カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体)の合成>
くし形の白金電極2A、2Bを具備する石英ガラス基板1上に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体3からなるセンサ感応部を形成した。(符号は
図1参照)
粉体状のカーボンナノチューブ0.01gにエタノール10mLを加えた後、90分間、超音波処理にて分散させた。その後、蒸留水を10mL加え、90℃で3時間静置することでエタノールを蒸発させてカーボンナノチューブ分散液10mLを調整した。
【0066】
得られたカーボンナノチューブ分散液に対して、フッ化スズ(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.8706gを溶解した90℃の蒸留水190mLを加えた後、90℃にて6時間保持した。6時間の保持後、蒸留水を加えて、室温での自然沈降によりカーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体の沈殿物を得た。上澄みを除去し、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を得た。
【0067】
くし形の白金電極2A、2B(形状・寸法は比較例と同じ)を具備する石英ガラス基板1上に対して、真空紫外光を20分間露光して親水性とした後、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を含む蒸留水を10μL滴下し、常温にて乾燥させ、厚さ約500nm(100nm~1000nm)のカーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体からなセンサ感応部を有するセンサBを作製した。
【0068】
図2(b)に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。酸化スズナノシートは、平均厚さが1~5nm、面内サイズが3~25nmで、「面内サイズ/厚さ」のアスペクト比は1~10であった。これらの数値は走査型電子顕微鏡写真像より測定、算出した。
<センサB(カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体)のセンサ特性>
次に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサの特性を示す。
【0069】
図3(a)~(e)に、アンモニアガス、ノナナールガス、水素ガス、メタンガス、およびエチレンガスに対するセンサ特性を示す。横軸は時間(秒)、縦軸はセンサの抵抗値(Ω)である。
【0070】
開始から1200秒までは、センサBは空気に接触している。1200秒から3000秒までの間は、センサBは、空気に対して、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを混合させたガスに接触している。それぞれのガスの濃度は、アンモニア50ppm、ノナナール0.85ppm、水素50ppm、メタン50ppm、エチレン50ppmである。センサの特性評価は、室温25℃にて実施した。
【0071】
Raは空気中での抵抗値である。Rgは、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを含む空気中での抵抗値である。応答の評価値として、応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100を用いた。
【0072】
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから600秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.133、ノナナール0.048、水素0.021、メタン0.014、エチレン0.013であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから600秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例1の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア4.94倍、ノナナール3.20倍、水素3.00倍、メタン1.51倍、エチレン1.91倍であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから900秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.153、ノナナール0.053、水素0.029、メタン0.018、エチレン0.014であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから900秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例1の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア4.87倍、ノナナール3.35倍、水素3.06倍、メタン1.16倍、エチレン1.55倍であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから1800秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.184、ノナナール0.072、水素0.049、メタン0.037、エチレン0.021であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから1800秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例1の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサBの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア4.66倍、ノナナール2.69倍、水素2.63倍、メタン1.45倍、エチレン1.91倍であった。(表1)
(実施例2)
<センサC(カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体)の合成>
くし形の白金電極2A、2Bを具備する石英ガラス基板1上に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体3からなるセンサ感応部を形成した。(符号は
図1参照)
粉体状のカーボンナノチューブ0.01gにエタノール10mLを加えた後、超音波処理にて分散させた。その後、蒸留水を10mL加え、90℃で3時間静置することでエタノールを蒸発させて試料を10mLとした。
【0073】
得られたカーボンナノチューブ分散液に対して、フッ化スズ(富士フィルム和光純薬株式会社製)0.8706gを溶解した90℃の蒸留水190mLを加えた後、90℃にて24時間保持した。24時間の保持後、蒸留水を加えて、室温での自然沈降によりカーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体の沈殿物を得た。上澄みを除去し、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を得た。
【0074】
くし形の白金電極2A、2B(形状・寸法は比較例と同じ)を具備する石英ガラス基板1上に対して、真空紫外光を20分間露光して親水性とした後、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を含む蒸留水を10μL滴下し、常温にて乾燥させ、厚さ約100μmのカーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体からなるセンサ感応部を有するセンサCを作製した。
【0075】
図2(c)に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体の走査型電子顕微鏡写真を示す。酸化スズナノシートは、平均厚さが1~10nm、面内サイズが5~200nmで、「面内サイズ/厚さ」のアスペクト比は10~50であった。これらの数値は走査型電子顕微鏡像より測定、算出した。
<センサC(カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体)のセンサ特性>
次に、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体をセンサ感応部に用いたセンサCの特性を示す。
【0076】
図4(a)~(e)に、アンモニアガス、ノナナールガス、水素ガス、メタンガス、およびエチレンガスに対するセンサ特性を示す。横軸は時間(秒)、縦軸はセンサの抵抗値(Ω)である。
【0077】
開始から1200秒までは、センサCは空気に接触している。1200秒から3000秒までの間は、センサCは、空気に対して、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを混合させたガスに接触している。それぞれのガスの濃度は、アンモニア50ppm、ノナナール0.85ppm、水素50ppm、メタン50ppm、エチレン50ppmである。センサの特性評価は、室温25℃にて実施した。
【0078】
Raは空気中での抵抗値である。Rgは、アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンを含む空気中での抵抗値である。応答の評価値として、応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100を用いた。
【0079】
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから600秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサCの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.413、ノナナール0.154、水素0.068、メタン0.035、エチレン0.031であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから600秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例2の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサCの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア15.29倍、ノナナール10.22倍、水素9.93倍、メタン3.80倍、エチレン4.56倍であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから900秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.459、ノナナール0.159、水素0.088、メタン0.044、エチレン0.038であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから900秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例2の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサCの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア14.62倍、ノナナール10.06倍、水素9.47倍、メタン2.83倍、エチレン4.22倍であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから1800秒後のRgを用いて算出すると、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサCの各ガスに対する応答値は、アンモニア0.527、ノナナール0.178、水素0.133、メタン0.074、エチレン0.056であった。(表1)
アンモニア、ノナナール、水素、メタン、またはエチレンガスを流し始めてから1800秒後のRgを用いて算出した応答値「応答値:((Ra-Rg)/Ra)×100」について、比較例の、カーボンナノチューブのみの集合体を用いたセンサAの応答値に対する、実施例2の、カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体を用いたセンサCの応答値の比を算出すると、それぞれのガスについて、アンモニア13.38倍、ノナナール6.65倍、水素7.12倍、メタン2.86倍、エチレン4.98倍であった。(表1)
【産業上の利用可能性】
【0080】
本発明は、カーボンナノチューブ等のカーボン材料を用いたガスセンサにおいて、センサの応答値を増加させることができる。この応答性の増加により、例えば、低濃度のガスの検知が可能となる。また、ガスセンサは、ガスの吸着反応や酸化反応等によりセンシングが進行することから、センサ応答値の増加は、ガスの吸着反応や酸化反応等の増加を意味している。そのため、本発明により、ガスの吸着反応や酸化反応等を増加させることができ、例えば、ガス吸着による空気の浄化や、ガス分離、触媒等に利用することができる。
【符号の説明】
【0081】
1 絶縁体基板
2A、2B 白金電極
3 カーボンナノチューブと酸化スズナノシートの複合構造体
4 カーボンナノチューブ
5 酸化スズナノシート