(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】食肉加工食品の製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230712BHJP
A23L 13/60 20160101ALI20230712BHJP
A23L 35/00 20160101ALI20230712BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/60 Z
A23L35/00
(21)【出願番号】P 2019060104
(22)【出願日】2019-03-27
【審査請求日】2021-12-15
(73)【特許権者】
【識別番号】000227009
【氏名又は名称】日清オイリオグループ株式会社
(72)【発明者】
【氏名】疋田 久史
(72)【発明者】
【氏名】小澤 朋子
(72)【発明者】
【氏名】渡辺 和子
(72)【発明者】
【氏名】地引 由美子
【審査官】安孫子 由美
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-020600(JP,A)
【文献】特開2015-080459(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第102113684(CN,A)
【文献】日本油化学会誌,1996年,45(1),29-36
【文献】日本調理科学会誌,2007年,40(6),420-426
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23D
A23L
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
挽肉加工食品の原料中に、
中鎖脂肪酸トリグリセリドを
7~
16質量%配合し、80~150℃で5~30分間
、蒸し器又は過熱水蒸気オーブンを用いて加熱調理する工程を含む、
挽肉加工食品の製造方法。
【請求項2】
前記
挽肉加工食品が咀嚼困難者用である、請求項1に記載の
挽肉加工食品の製造方法。
【請求項3】
前記
挽肉加工食品がハンバーグ、ミートボール、及びシュウマイから選ばれる1種以上である、請求項1又は2に記載の
挽肉加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを配合する食肉加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高齢になるにつれ、噛む力や飲みこむ力が低下し食が細くなり、必要な蛋白質やエネルギーを摂ることができず、最終的には活力やからだの機能、活動の低下につながることがある。このような状態を予防・是正するために、少量で必要な栄養素が摂取できる、高齢者向けレシピが多く開発され、利用されている。
高齢者向けレシピは、エネルギー価の高い油脂を添加することがよく行われるが、レシピによっては、油脂と馴染の悪い食材が多く含まれると、添加した油脂が分離したり、漏出(ドリップ)を起こすことがあった。
例えば、ハンバーグ等の食肉加工食品について、油脂添加によりエネルギー価を高めた高齢者向けレシピでは、通常の温度で加熱調理すると、表面の肉の蛋白質が凝固することで、油脂のドリップが抑えられるが、表面が固く、一方で内部が柔らかいため、固さのバラツキが大きくなり、高齢者にとって咀嚼し辛い物性であった。また、加熱調理の温度を下げて調理すると、添加した油脂が漏出して、レシピの総エネルギーが低下する問題があった。
【0003】
これまで、高齢者向けの食肉加工食品のレシピとして、食肉を、水、食塩及び増粘多糖類とともにペースト状になるまで細切し、成型、加熱調理された、低咀嚼機能者の咀嚼の負担を軽減し、かつ栄養的にも優れた加熱食肉製品(特許文献1)が報告されている。また、食肉、大豆蛋白、ペプチド混合物及び水を含み、加熱調理された、軟らかい食感を有する調理肉加工食品(特許文献2)が報告されている。
しかし、油脂を多く含みエネルギー価が高く、高齢者でも食べやすい食肉加工食品については、検討されていなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001-197870号公報
【文献】特開2005-287326号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、上記従来技術の課題点を鑑みてなされたものであり、本発明の目的は、油脂を多く含むにもかかわらず、加熱調理時の油脂のドリップが抑制され、高齢者でも咀嚼しやすい食肉加工食品の製造方法、および該製造方法により製造された食肉加工食品を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、上記課題に鑑み鋭意研究を重ねた結果、食肉加工食品の製造において、食肉加工食品の原料中に中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを特定量配合し、特定の条件で加熱調理することで、加熱調理時の油脂のドリップが抑制され、高齢者でも咀嚼しやすい食肉加工食品を完成させるに至った。具体的には、本発明は以下のようなものを提供する。
【0007】
(1)食肉加工食品の原料中に、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを3~20質量%配合し、80~150℃で5~30分間加熱調理する工程を含む、食肉加工食品の製造方法。
(2)前記中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールが中鎖脂肪酸トリグリセリドである、(1)に記載の食肉加工食品の製造方法。
(3)前記食肉加工食品が咀嚼困難者用である、(1)又は(2)に記載の食肉加工食品の製造方法。
(4)前記食肉加工食品がハンバーグ、ミートボール、及びシュウマイから選ばれる1種以上である、(1)~(3)のいずれか1つに記載の食肉加工食品の製造方法。
(5)
請求項1~4のいずれか1項に記載の食肉加工食品の製造方法により製造された、食肉加工食品。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、油脂を多く含むにもかかわらず、加熱調理時の油脂のドリップが抑制され、高齢者でも咀嚼しやすい食肉加工食品の製造方法、および該製造方法により製造された食肉加工食品が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施形態について具体的に説明する。
【0010】
[食肉加工食品]
本発明における食肉加工食品とは、肉類(畜肉、鳥肉、魚肉、海老肉等)を主原料として、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを配合し、野菜類、卵類、澱粉類、豆類(豆腐を含む)、調味料、香辛料、水等を混合したものを加熱調理して得られる食品である。また、本発明の食肉加工食品は、加熱調理前の原料の混合物(生地、パテ等)中に、肉類(畜肉、鳥肉、魚肉、海老肉等)を好ましくは30~75質量%、より好ましくは35~70質量%、さらに好ましくは40~60質量%含有する。
本発明の食肉加工食品は、好ましくは挽肉加工食品であり、具体的にはソーセージ、ハンバーグ、ミートボール、つくね、ミートパティー、魚肉ダンゴ、海老しんじょ、シュウマイ、餃子等が挙げられるが、より好ましくは、ハンバーグ、ミートボール、及びシュウマイから選ばれる1種以上である。
【0011】
本発明における食肉加工食品は、表面が固くなり過ぎず、咀嚼機能の低い者(高齢者や要介護者)にも喫食が容易となる固さであることが好ましい。より具体的には、本発明の食肉加工食品は、表面の固さが50,000N/m2以下であることが好ましい。前記の固さは、直線運動により物質の圧縮応力を測定することが可能なテクスチャーアナライザー(レオメーター等)を用いて、直径20mmの円柱状のプランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値を測定することにより行えばよい。また、本発明の食肉加工食品の製造方法は、咀嚼が困難な人(高齢者や要介護者)向けに、テクスチャーが最適化された、咀嚼困難者用食品の製造方法であってもよい。
【0012】
[中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロール]
本発明における食肉加工食品は、中鎖脂肪酸を構成脂肪酸として含むトリアシルグリセロール(中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロール、以下、MTGともいう)を含有する。ここで中鎖脂肪酸とは、炭素数が6~12である脂肪酸を指す。中鎖脂肪酸は、特に、エネルギー効率と風味の面から、炭素数が8であるn-オクタン酸及び炭素数が10であるn-デカン酸から選ばれる1種以上が好ましい。MTGとしては、例えば、構成脂肪酸が全て中鎖脂肪酸である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MCTともいう)や、構成脂肪酸が中鎖脂肪酸と炭素数が14以上である長鎖脂肪酸とからなる中長鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(以下、MLCTともいう)が挙げられる。
【0013】
本発明における中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールが長鎖脂肪酸を含む場合、中鎖脂肪酸をM、長鎖脂肪酸をLとすると、MLCTは、MLL、LML、LLM、MML、MLM、LMMの構造を有する。また、中鎖脂肪酸トリアシルグリセロールの構造は、MMMである。中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールの分析及び計算方法は、当技術分野に周知の方法を用いることができ、詳しくは、R.J.VANDER WALの総説(Jarnal of American Oil Chemists' Society 40, 242-247 (1963))などを参照できる。
【0014】
上記MCTは、ヤシ油やパーム核油由来の炭素数6~12の中鎖脂肪酸とグリセロールとを原料として、エステル化反応させることにより得ることができる。エステル化反応の条件は、特に限定されない。エステル化反応は、無触媒且つ無溶剤にて減圧下で実施してもよい。また、エステル化反応は、触媒や溶剤を用いて実施してもよい。
【0015】
上記MLCTは、ヤシ油、パーム核油のような天然油脂に含まれるMLCTを利用してもよいし、MCTと炭素数が14以上である長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂とのエステル交換油脂などを利用してもよい。ここで、長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂は、炭素数が14以上である脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂であれば特に限定されない。長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂は、例えば、大豆油、菜種油、コーン油、ゴマ油、シソ油、亜麻仁油、落花生油、紅花油、ひまわり油、綿実油、ブドウ種子油、マカデミアナッツ油、ヘーゼルナッツ油、かぼちゃ種子油、クルミ油、椿油、茶実油、エゴマ油、ボラージ油、オリーブ油、米糠油、パーム油、豚脂、牛脂などが挙げられる。また、MCTと長鎖脂肪酸を構成脂肪酸とする油脂とをエステル交換する方法は、特に限定されない。エステル交換方法としては、ナトリウムメトキシドを触媒とした化学的エステル交換や、リパーゼ製剤を触媒とした酵素的エステル交換など、通常行われる方法が適用できる。
【0016】
上記MTGの構成脂肪酸を確認、定量する方法としては、例えば、MTGの構成脂肪酸をメチルエステル化し、ガスクロマトグラフィーにより定量分析する方法(例えば、AOCS Ce1f-96)が挙げられる。上記MTGのトリアシルグリセロール組成を確認、定量する方法としては、例えば、ガスクロマトグラフィー法(JAOCS,vol70,11,1111-1114(1993))が挙げられる。
【0017】
本発明における食肉加工食品は、加熱調理前の原料の混合物(生地、パテ等)中に、上記MTGを3~20質量%含有する。また、前記原料中のMTGの含有量は、好ましくは5~18質量%、より好ましくは7~16質量%、最も好ましくは10~15質量%である。また、本発明の食肉加工食品は、加熱調理前の原料の混合物中の肉類(畜肉、鳥肉、魚肉、海老肉等)1質量部に対して、MTGを好ましくは0.05~0.5質量部、より好ましくは0.08~0.4質量部、最も好ましくは0.1~0.25質量部含有する。MTGの含有量が上記の範囲にあると、本発明における食肉加工食品は、エネルギー価が高く、且つ、加熱調理時の油脂のドリップが抑制される。
【0018】
[食肉加工食品の製造方法]
本発明の食肉加工食品の製造方法とは、肉類(畜肉、鳥肉、魚肉、海老肉等)を主原料として、特定量の中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールを配合し、野菜類、澱粉類、調味料、香辛料、水等の副原料を混合した後、前記原料の混合物(生地、パテ等)を成形し、一定の温度帯で一定時間加熱調理する製造方法である。
本発明の食肉加工食品の製造方法は、原料中の中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロールの配合量と、加熱調理条件が所望の範囲であれば、特に限定されず、通常の食肉加工食品の製造方法と同様の方法を用いることができる。
【0019】
[加熱調理の条件]
本発明の食肉加工食品の製造方法は、80~150℃で5~30分間加熱調理する工程を含む。前記加熱調理の方法は、加熱条件(温度・時間)が所望の条件となるような方法であれば特に限定されないが、フライパン、グリル、オーブン、蒸し器等を用いることができる。なお、熱伝達特性に優れる過熱水蒸気オーブン(スチームコンベクションオーブン、スチームオーブン等)が比較的低温で食肉加工食品の中心まで加熱することができるため好ましい。
本発明における加熱調理の温度は、好ましくは90~145℃、より好ましくは95~140℃、最も好ましくは100~130℃である。また、前記加熱調理の時間は、好ましくは7~25分間、より好ましくは10~20分間である。加熱調理の条件が前記の範囲にあると、加熱調理時の油脂のドリップが抑制され、咀嚼が困難な人でも食べやすい固さの食肉加工食品を得ることができる。なお、本発明における加熱調理の温度は、180℃より高い温度を含まない。
【0020】
本発明の食肉加工食品の製造方法は、例えば、ハンバーグ又はミートボールの場合、合い挽き肉、みじん切り玉ねぎ、溶き卵、中鎖脂肪酸含有トリアシルグリセロール、塩、片栗粉等を混合したパテ(生地)を、スチームコンベクションオーブンで120~150℃、及び10~20分間加熱して製造する。
【実施例】
【0021】
次に、実施例および比較例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに何ら限定されない。
【0022】
〔ハンバーグの製造〕
表1に示す配合に従い、実施例1、比較例1、及び比較例2のハンバーグを製造した。すなわち、原材料をしっかり混合し、パテ(生地)を調製した。調製したパテを、スチームコンベクションオーブンで、表1に示す条件で加熱することによりハンバーグを得た。
なお、表中のMCTは、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn-オクタン酸(炭素数8)とn-デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が75:25である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:ODO)を使用した。
【0023】
〔ハンバーグの評価〕
ハンバーグ製造における加熱調理後の油脂のドリップの程度、及び得られたハンバーグの食感を、実施担当者4名が総合的に評価し、コメントした。結果を表1に示す。
また、ハンバーグの固さを、(株)山電製レオメーター(RE-33005)等を用いて、直径20mmの円柱状のプランジャーを10mm/secの速度でサンプル厚みの70%まで押し込んだ際の荷重値を測定した。5個の試料につき1回ずつ測定し、得られた5つのデータのうち、最大値と最小値を除いた3つのデータの平均値を求め測定値とした。測定結果を表1に示す。
【0024】
【0025】
上記の結果より、油脂の添加によりエネルギー価を増やしたハンバーグは、高温の加熱調理では表面が固くなり、咀嚼が困難な人にとって食べにくい食感であった(比較例2)。また、油脂に菜種油を使用し、比較例2よりも低温で加熱調理したハンバーグは、加熱調理後に油脂のドリップが多く、ハンバーグのエネルギー価を増やすことができなかった(比較例1)。
【0026】
〔ミートボールの製造〕
表2に示す配合に従い、実施例2、比較例3、及び比較例4のミートボールを製造した。すなわち、原材料をしっかり混合し、パテ(生地)を調製した。調製したパテを一口大に丸め、スチームコンベクションオーブンで、表2に示す条件で加熱することによりミートボールを得た。
なお、表中のMCTは、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn-オクタン酸(炭素数8)とn-デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が75:25である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:ODO)を使用した。
【0027】
〔ミートボールの評価〕
ミートボール製造における加熱調理後の油脂のドリップの程度、及び得られたミートボールの食感を、実施担当者4名が総合的に評価し、コメントした。結果を表2に示す。
【0028】
【0029】
上記の結果より、油脂の添加によりエネルギー価を増やしたミートボールは、高温の加熱調理では表面が固くなり、咀嚼が困難な人にとって食べにくい食感であった(比較例4)。また、油脂に菜種油を使用し、比較例4よりも低温で加熱調理したミートボールは、加熱調理後に油脂のドリップが多く、ミートボールのエネルギー価を増やすことができなかった(比較例3)。
【0030】
〔シュウマイの製造〕
表3に示す配合に従い、実施例3、及び比較例5のシュウマイを製造した。すなわち、原材料をしっかり混合し、パテ(生地)を調製した。調製したパテをシュウマイの皮で包み、蒸し器で、表3に示す条件で加熱することによりシュウマイを得た。
なお、表中のMCTは、トリアシルグリセロールを構成する脂肪酸がn-オクタン酸(炭素数8)とn-デカン酸(炭素数10)であり、その質量比が75:25である中鎖脂肪酸トリアシルグリセロール(日清オイリオグループ株式会社製、商品名:ODO)を使用した。
【0031】
〔シュウマイの評価〕
シュウマイ製造における加熱調理後の油脂のドリップの程度(シュウマイを半分に切断し、漏出した液を目視で確認)、及び得られたシュウマイの食感を、実施担当者4名が総合的に評価し、コメントした。結果を表3に示す。
【0032】
【0033】
上記の結果より、油脂に菜種油を使用して得られたシュウマイは、加熱調理後に油脂のドリップが多く、シュウマイのエネルギー価を増やすことができなかった(比較例5)。