(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】真空蒸着装置用の蒸着源
(51)【国際特許分類】
C23C 14/24 20060101AFI20230712BHJP
【FI】
C23C14/24 D
(21)【出願番号】P 2019105712
(22)【出願日】2019-06-05
【審査請求日】2022-05-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】山本 拓司
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
【審査官】宮崎 園子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第03/085157(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C23C 14/24
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバ内で被蒸着物に対して蒸着するための真空蒸着装置用の蒸着源において、
真空チャンバ内に存して昇華または気化した蒸着材料を被蒸着物に向けて放出する放出開口を有する放出手段と、真空チャンバ外に存して蒸着材料を放出手段に供給する供給手段とを備え、
供給手段は、固体の蒸着材料を収容する第1収容箱と、第1収容箱内を大気圧より高い圧力に加圧する加圧手段と、蒸着材料を加熱する第1加熱手段とを有し、第1収容箱内の加圧下で加熱して蒸着材料を昇華、気化または液化させて、放出手段と供給手段とを連通する供給管を介して放出手段に供給するように構成し、
前記蒸着材料が加熱時に液相を経て気相に転移するものであり、
前記放出手段は、固体の蒸着材料を収容可能な第2収容箱と、第2収容箱に連通し、前記放出開口を有する放出箱と、蒸着材料を加熱する第2加熱手段とを備え、
第
1収容箱内で液化させた蒸着材料が前記供給管を介して第
2収容箱に供給されるように構成したことを特徴とする真空蒸着装置用の蒸着源。
【請求項2】
前記第2収容箱内を所定圧力に調整する圧力調整弁を更に備えることを特徴とする請求項
1記載の真空蒸着装置用の蒸着源。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、真空蒸着装置用の蒸着源に関し、より詳しくは、真空チャンバを大気開放することなく蒸着材料の補充ができるようにしたものに関する。
【背景技術】
【0002】
この種の蒸着源を備えた真空蒸着装置は例えば特許文献1で知られている。このものでは、被蒸着物を矩形のガラス基板(以下、「基板」という)とし、また、この基板の蒸着源に対する相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板の幅方向をY軸方向として、蒸着源は、蒸着材料を収容する収容箱と、収容箱を囲うように設けられる加熱手段とを有し、収容箱の基板との対向面(上面)には、筒状の放出開口がY軸方向に間隔を存して列設されている(所謂ラインソース)。蒸着材料としては、液相を経て気相に転移する気化性の材料や、昇華性の材料が広く利用される。
【0003】
真空チャンバ内でガラス基板に対して所定の薄膜を蒸着する場合には、真空チャンバを大気雰囲気とした状態で、収容箱にその底面から所定の高さ位置まで蒸着材料を充填し、その後に、真空チャンバを所定圧力まで真空排気する。そして、真空雰囲気の真空チャンバ内で、収容箱に収容された蒸着材料を加熱手段により加熱して昇華または気化させ、この昇華または気化した蒸着材料を各放出ノズルから放出させ、所定の余弦則に従い各放出開口から放出させる蒸着材料を、蒸着源に対してX軸方向に相対移動する基板表面に付着、堆積させて所定の薄膜が蒸着される。
【0004】
ここで、収容箱に収容された蒸着材料を加熱により昇華または気化させると、これに伴って収容箱内の蒸着材料が減少するため、蒸着材料を補充する必要がある。上記従来例のものでは、真空チャンバを大気雰囲気とした状態でしか収容箱への蒸着材料の補充ができないため、蒸着材料の定期的な補充により著しく生産性が損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、以上の点に鑑み、蒸着が実施される真空チャンバを大気開放することなく蒸着材料の補充ができて生産性の良い真空蒸着装置用の蒸着源を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、真空チャンバ内で被蒸着物に対して蒸着するための本発明の真空蒸着装置用の蒸着源は、真空チャンバ内に存して昇華または気化した蒸着材料を被蒸着物に向けて放出する放出開口を有する放出手段と、真空チャンバ外に存して蒸着材料を放出手段に供給する供給手段とを備え、供給手段は、固体の蒸着材料を収容する第1収容箱と、第1収容箱内を大気圧より高い圧力に加圧する加圧手段と、蒸着材料を加熱する第1加熱手段とを有し、第1収容箱内の加圧下で加熱して蒸着材料を昇華、気化または液化させて、放出手段と供給手段とを連通する供給管を介して放出手段に供給するように構成したことを特徴とする。
【0008】
本発明によれば、真空チャンバ外にある供給手段の第1収容箱内に固体の蒸着材料を充填した後、蒸着材料が充填された第1収容箱内に窒素ガスや希ガスなどの不活性ガスを導入してその内部を所定圧力に加圧し、第1収容箱内の加圧下で第1加熱手段により加熱して例えば蒸着材料を昇華または気化させる。このとき、真空チャンバは、所定圧力まで真空排気された状態となっている。次に、例えば供給管に介設した開閉弁を開弁すると、真空チャンバ内にある供給手段と第1収容箱との間の圧力差によって第1収容箱内で昇華または気化した蒸着材料が放出手段に供給され、放出開口から所定の余弦則に従い、昇華または気化した蒸着材料が被蒸着物に向けて放出され、被蒸着物表面に所定の薄膜が蒸着される。
【0009】
ここで、第1収容箱に収容された蒸着材料は蒸着中に減少するが、第1収容箱への蒸着材料の補充に際しては、供給手段の第1収容箱が真空チャンバ外に設けられているため、真空チャンバを大気雰囲気に戻すといった操作を不要にでき、上記従来例のものと比較して生産性を飛躍的に向上させることができる。この場合、供給手段を少なくとも2個用意し、例えば切換弁を介して各供給手段の第1収容箱に対して供給管を並列接続しておけば、いずれかの第1収容箱に蒸着材料を補充する間でも、いずれか他の第1収容箱内で昇華または気化した蒸着材料が供給手段に供給できるため、より一層生産性を向上できてよい。
【0010】
ところで、複数の被蒸着物に対して順次蒸着するような場合に、一枚の被蒸着物に対して所定の薄膜を蒸着した後、次の被蒸着物が搬送されてくるまでの間等、被蒸着物に対する蒸着に寄与しないときまで、蒸着材料の加熱を停止することなく、昇華または気化した蒸着材料を各放出開口から放出させると(通常は、シャッタを設けて蒸着材料の飛散を防止している)、蒸着材料が無駄に消費される。それに対して、本願発明では、上記の如く、供給管に開閉弁を介設されているような場合には、これを閉弁するだけで、昇華または気化した蒸着材料の放出手段への供給が停止できるので、蒸着材料が無駄に消費されることを防止できる。更に、第1収容箱内の加圧下で蒸着材料を加熱するため、蒸着材料の加熱温度を下げることができ、蒸着材料が熱劣化し易い有機材料であるような場合に、有利である。
【0011】
本発明において、前記蒸着材料が加熱時に液相を経て気相に転移するものである場合、前記放出手段は、固体の蒸着材料を収容可能な第2収容箱と、第2収容箱に連通し、前記放出開口を有する放出箱と、蒸着材料を加熱する第2加熱手段とを備え、第1収容箱内で液化させた蒸着材料が前記供給管を介して第2収容箱に供給される構成を採用できる。
【0012】
以上によれば、真空チャンバ内にある第2収容箱内の蒸着材料を第2加熱手段により加熱して気化させ、この気化したものが放出箱に供給されて、その放出開口から所定の余弦則に従い、気化した蒸着材料が被蒸着物に向けて放出され、被蒸着物表面に所定の薄膜が蒸着される。そして、第2収容箱内の蒸着材料が減少してくると、真空チャンバ外にある第1収容箱内の加圧下で蒸着材料を加熱することで液化させ、この液化した蒸着材料が供給管を介して第2収容箱に補充される。
【0013】
ここで、第2収容箱内に例えば粉末状の蒸着材料をその底面から所定高さ位置まで充填し、第2収容箱を囲うように設けられる加熱手段により第2収容箱を加熱すると、主として第2収容箱の壁面から伝熱で蒸着材料が液化するが、このとき、充填された蒸着材料の上層部分からしか、気化した蒸着材料が収容箱の空間に放出されない。そして、第2収容箱内の蒸着材料が減少してくると、即ち、蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置が低くなると、充填された蒸着材料に対する第2収容箱の壁面からの伝熱面積が減少して蒸着材料に対する入熱量が低下する。このため、第2収容箱内での単位時間当たりの気化量が少なくなり、これでは、一定の蒸着レートで被蒸着物表面に所定の薄膜を形成することができない。このような場合、第2収容箱の加熱温度を高くして入熱量を増加させればよいが、第2収容箱内での蒸着材料の減少に伴って熱容量が小さくなることで、蒸着材料が受ける熱負荷が大きくなって蒸着材料が劣化する虞がある。
【0014】
それに対して、本発明では、第2収容箱内の蒸着材料の減少に応じて蒸着材料が第1収容箱から補充されるため、蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置を常時同等に保持することができ、しかも、液相状態の蒸着材料が供給される構成を採用したため、第2収容箱の加熱温度を制御するといったことなしに、第2収容箱内での単位時間当たりの気化量を常時同等に保持することができる。この場合、前記第2収容箱内を所定圧力に調整する圧力調整弁を更に備えることが好ましい。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】本発明の第1実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図。
【
図2】
図1に示す真空蒸着装置を正面側からみた部分断面図。
【
図3】本発明の第2実施形態の蒸着源を備える真空蒸着装置を説明する、一部を断面視とした部分斜視図。
【
図4】
図3に示す真空蒸着装置を正面側からみた部分断面図。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、図面を参照して、被蒸着物を矩形の輪郭を持つ所定厚さのガラス基板(以下、「基板Sw」という)とし、基板Swの片面に所定の薄膜を蒸着する場合を例に本発明の真空蒸着装置用の蒸着源DS
1,DS
2の実施形態を説明する。以下においては、「上」、「下」といった方向を指す用語は、
図1に示す蒸着源の姿勢を基準とする。
【0017】
図1及び
図2を参照して、Dm
1は、第1実施形態の蒸着源DS
1を備える真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dm
1は、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、特に図示して説明しないが、排気管を介して真空ポンプが接続され、真空チャンバ1内を所定圧力(真空度)に真空排気して保持できるようになっている。また、真空チャンバ1の上部には基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、蒸着面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動するようになっている。基板搬送装置2としては公知のものが利用できるため、これ以上の説明は省略する。また、以下においては、蒸着源DS
1に対する基板Swの相対移動方向をX軸方向、X軸方向に直交する基板Swの幅方向をY軸方向とする。
【0018】
基板搬送装置2によって搬送される基板Swと後述の蒸着源DS1との間には、板状のマスクプレート3が設けられている。本実施形態では、マスクプレート3は、基板Swと一体に取り付けられて基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送されるようになっている。なお、マスクプレート3は、真空チャンバ1に予め固定配置しておくこともできる。マスクプレート3には、板厚方向に貫通する複数の開口31が形成され、これら開口31がない位置にて蒸着材料の基板Swに対する付着範囲が制限されることで所定のパターンで基板Swに蒸着されるようになっている。マスクプレート3としては、インバー、アルミ、アルミナやステンレス等の金属製の他、ポリイミド等の樹脂製のものが用いられる。そして、真空チャンバ1の底面には、X軸方向に移動される基板Swに対向させて第1実施形態の蒸着源DS1が設けられている。
【0019】
蒸着源DS1は、真空チャンバ1内に存して昇華または気化した蒸着材料Mvを基板Swに向けて放出する放出手段4と、真空チャンバ1外に存して昇華または気化した蒸着材料Mvを放出手段4に供給する供給手段5と、放出手段4と供給手段5とを連通する供給管6とを備える。供給手段5は、その内部を気密に保持可能な外容器51と、外容器51内に設置される、上面を開口した内容器52とを備え、内容器52に固体の蒸着材料Msが収容されるようになっている。この場合、外容器51と内容器52とが本実施形態の第1収容箱を構成する。また、蒸着材料Msとしては、基板Sw表面に蒸着しようとする薄膜に応じて選択され、液相を経て気相に転移する気化性の材料や、昇華性の材料が利用される。
【0020】
外容器51内には、内容器52の壁面を囲うようにしてシースヒータ等の加熱手段53が設けられ、加熱により蒸着材料Msを昇華または気化できるようにしている。外容器51にはまた、窒素、アルゴンやヘリウムといった不活性ガスを導入する、開閉弁54を介設したガス管55が接続されている。そして、開閉弁54を開弁して、気密な外容器51内に不活性ガスを導入してその内部を所定圧力に加圧できるようにしている。この場合、加熱手段53が本実施形態の第1加熱手段を構成し、開閉弁54及びガス管55が本実施形態の加圧手段を構成する。外容器51を加圧するときの圧力は、例えば、蒸着材料Msの種類(具体的には、蒸着材料Msの昇華温度または気化温度や、蒸着材料Msを昇華または気化させるときの蒸着材料Msに対する熱負荷)に応じて適宜選択される。そして、外容器51に供給管6の一端が接続されている。供給管6には、開閉弁61が介設され、その他端が真空チャンバ1の壁面を貫通してその内部まで突出している。
【0021】
放出手段4は、供給管6の他端が接続される所定容積の放出箱41を備え、放出箱41は、外容器51から供給管6を介して供給される昇華または気化した蒸着材料Mvをその内部で一旦拡散させることができるようになっている。放出箱41の上面(基板Swとの対向面)41aにはまた、所定高さの筒体で構成される放出開口(噴射ノズル)42がY軸方向に所定の間隔で複数本(本実施形態では、6本)列設され、放出箱41内に供給された、昇華または気化した蒸着材料Mvを所定の余弦則に従い放出できるようになっている。
【0022】
上記真空蒸着装置Dm1により基板Swの下面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、真空チャンバ1外にある供給手段5の内容器52に固体の蒸着材料Msを充填した後、開閉弁54を開弁して外容器51内に不活性ガスを導入してその内部を所定圧力に加圧する。外容器51内が所定圧力に達すると、開閉弁54を一旦閉弁し、加熱手段53により蒸着材料Msを加熱する。すると、蒸着材料Msが昇華または気化し、外容器51内が、蒸着材料Mvの昇華雰囲気または気化雰囲気となる。このとき、真空チャンバ1は、図外の真空ポンプにより所定圧力まで真空排気され、これに伴って、放出開口42を通じて連通する放出箱41内もまた、所定圧力まで真空排気された状態となる。
【0023】
次に、供給管6に介設した開閉弁61を開弁すると、放出箱41と外容器51との圧力差によって、外容器51内で昇華または気化した蒸着材料Mvが放出箱41に供給されて、放出箱41内で一旦拡散された後、各放出開口42から所定の余弦則に従い放出される。これに併せて、基板搬送装置2によって一枚の基板SwがX軸方向に搬送される。これにより、放出箱41に対してX軸方向に相対移動する基板Swの下面に、各放出開口42から所定の余弦則に従い放出された蒸着材料Mvが付着、堆積して所定の薄膜が蒸着される。なお、一枚の基板Swに対する蒸着時間が長くなるような場合には、蒸着中、開閉弁54を適宜開弁して、外容器51の圧力を所定範囲内に維持されるようにしている。
【0024】
一枚の基板Swに対する蒸着が終了すると、供給管6に介設した開閉弁61が一旦開弁されて、外容器51内で昇華または気化した蒸着材料Mvの放出箱41への供給が一旦停止される。このとき、加熱手段53による蒸着材料Msの加熱は停止しないが、外容器51内が所定の範囲を超えて圧力が低下しているような場合には、開閉弁54を再度開弁して外容器51内に不活性ガスを導入し、その内部が所定圧力に再加圧される。この操作を繰り返して、複数枚の基板Swに対して蒸着が施される。
【0025】
ここで、内容器52に収容された固体の蒸着材料Msは蒸着に伴って減少していくが、上記第1実施形態によれば、その補充に際して、供給手段5が真空チャンバ1外に設けられているため、真空チャンバ1を大気雰囲気に戻すといった操作を不要にでき、上記従来例のものと比較して生産性を飛躍的に向上させることができる。この場合、特に図示して説明しないが、供給手段5を複数用意し、図外の切換弁を介して複数の外容器51を供給管6に並列接続しておけば、いずれか一の供給手段4の内容器52に蒸着材料Msを補充する間でも、いずれか他の供給手段5により、昇華または気化した蒸着材料Mvが供給手段4に供給できるため、より一層生産性を向上できてよい。また、一枚の基板Swに対して所定の薄膜を蒸着した後、次の基板Swが搬送されてくるまでの間等、蒸着に寄与しないときには、蒸着材料Mvの放出箱41への供給が一旦停止されるため、蒸着材料Msが無駄に消費されることもない。更に、供給手段5の加圧下で固体の蒸着材料Msを加熱するため、蒸着材料Msの加熱温度を下げることができ、蒸着材料Msが熱劣化し易い有機材料であるような場合、有利である。
【0026】
次に、
図3及び
図4を参照して、真空蒸着装置Dm
2は、蒸着材料Msが加熱時に液相を経て気相に転移するものである場合に利用できる第2実施形態の蒸着源DS
2を備える。なお、
図3及び
図4中、上記第1実施形態と同一の部材、要素については、同一の符号を用いるものとし、重複した説明は省略する。
【0027】
蒸着源DS2は、真空チャンバ1内に存して気化した蒸着材料Mvを基板Swに向けて放出する放出手段8と、真空チャンバ1外に存して液化した蒸着材料Mlを放出手段8に供給する供給手段7と、放出手段8と供給手段7とを連通する供給管6とを備える。供給手段7としては、上記第1実施形態の供給手段5と同等の構成を有するものが2個設けられている。各供給手段7は、外容器71と内容器72とを備え、内容器72の壁面を囲うようにして設けた加熱手段73により蒸着材料Msを液化させることができるようにしている。このとき、ガス管75に開設した開閉弁74を開弁して、気密な外容器71内に不活性ガスを導入してその内部を所定圧力に加圧できるようにしている。外容器71を加圧するときの圧力は、上記同様、蒸着材料Msの種類に応じて適宜選択される。そして、液化させた蒸着材料Mlを排出できるように各内容器72の壁面にその一端が夫々接続された供給管6は、外容器71を貫通して三方弁62に接続され、三方弁62からのびる供給管6の部分が真空チャンバ1の壁面を貫通してその内部まで突出している。
【0028】
放出手段8は、供給管6の他端が接続される所定容積の収容箱81と、その上方に設けられる放出箱82とを備え、収容箱81と放出箱82とが、開閉弁83aを介設した連通管83により接続されている。収容箱81には、固体の蒸着材料Msが所定の充填率で収容され、その壁面を囲うようにして収容箱81にはシースヒータ等の加熱手段84が設けられ、加熱により蒸着材料Emを気化できるようにしている。この場合、収容箱81が本実施形態の第2収容箱を構成し、加熱手段84が本実施形態の第2加熱手段を構成する。一方、放出箱82は、上記第1実施形態の放出箱41と同等の構成を有するものであり、その上面41aには放出開口42がY軸方向に所定の間隔で複数本(本実施形態では、6本)列設され、放出箱82内に供給された、気化した蒸着材料Mvを所定の余弦則に従い放出できるようになっている。
【0029】
上記真空蒸着装置Dm2により基板Swの下面に所定の薄膜を蒸着するのに際しては、真空チャンバ1の大気雰囲気中にて収容箱81に固体の蒸着材料Msをその底面から所定高さ位置まで充填した後、図外の真空ポンプにより所定圧力まで真空排気する。このとき、連通管83に介設した開閉弁83aは閉弁状態とされ、放出箱82の内部は、真空チャンバ1内の真空排気に伴って所定圧力まで減圧される。そして、加熱手段84により収容箱81を加熱すると、収容箱81内が蒸着材料Mvの気化雰囲気となる。
【0030】
次に、開閉弁83aを開弁すると、収容箱81と放出箱82との圧力差によって、収容箱81内で気化した蒸着材料Mvが放出箱82に供給されて、放出箱82内で一旦拡散された後、各放出開口42から所定の余弦則に従い放出される。これに併せて、基板搬送装置2によって一枚の基板SwがX軸方向に搬送される。これにより、放出箱82に対してX軸方向に相対移動する基板Swの下面に、各放出開口42から所定の余弦則に従い放出された蒸着材料Mvが付着、堆積して所定の薄膜が蒸着される。
【0031】
一枚の基板Swに対する蒸着が終了すると、開閉弁83aが一旦開弁されて、気化した蒸着材料Mvの放出箱82への供給が一旦停止される。このとき、加熱手段84による蒸着材料Msの加熱は停止しない。この操作を繰り返して、複数枚の基板Swに対して蒸着が施される。この場合、収容箱81に収容された固体の蒸着材料Msは、蒸着に伴って減少していく。このため、真空チャンバ1外にある供給手段7の内容器72に固体の蒸着材料Msを充填した後、開閉弁74を開弁して外容器71内に不活性ガスを導入してその内部を所定圧力に加圧する。
【0032】
外容器71内が所定圧力に達すると、開閉弁74を一旦閉弁し、この状態で加熱手段73により蒸着材料Msを加熱して蒸着材料Msを液化させる。そして、収容箱81内での蒸着材料Msの減少に応じて、三方弁62を制御して、液化された蒸着材料Mlを収容箱81に補充する。これにより、蒸着材料の上層部分の底面からの高さ位置を常時同等に保持することができ、しかも、液相状態の蒸着材料Mlが供給される構成を採用したため、収容箱81の加熱温度を制御するといったことなしに、収容箱81内での単位時間当たりの気化量を常時同等に保持することができる。なお、上記のようにして液化された蒸着材料Mlを収容箱81に補充する際、これと一緒に加圧に使用された不活性ガスも収容箱81に供給され、その内部が不必要に加圧される可能性があり、これでは、収容箱81内での単位時間当たりの気化量が変動する虞がある。このため、収容箱81を、配管91を介して圧力調整弁92に接続し、その内圧の変動を抑制して収容箱81内での単位時間当たりの気化量を常時同等に保持することができる。
【0033】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、被蒸着物をガラス基板とし、基板搬送装置2によりガラス基板を一定の速度で搬送しながら蒸着するものを例に説明したが、真空蒸着装置の構成は、上記のものに限定されるものではない。例えば、被蒸着物をシート状の基材とし、駆動ローラ(繰出ローラ)と巻取りローラとの間で一定の速度で基材を移動させながら基材の片面に蒸着するような装置にも本発明は適用できる。また、真空チャンバ1内に基板Swとマスクプレート3を一体として固定し、蒸着源に公知の構造を持つ駆動手段を付設して、基板Swに対して蒸着源を相対移動させながら蒸着することにも本発明は適用できる。即ち、基板Swと蒸着源DS1,DS2を相対的に移動させれば、基板Swと蒸着源DS1,DS2のいずれか、もしくは両方を移動させてもよい。更に、放出箱41,82に放出開口(噴射ノズル)42を一列で設けたものを例に説明したが、複数例設けることもできる。また、上記第2実施形態では、収容箱81と放出箱82とで放出手段8を構成したものを例に説明したが、単に上面開口した坩堝で構成することもできる。
【符号の説明】
【0034】
DS1,DS2…真空蒸着装置用の蒸着源、Dm1,Dm2…真空蒸着装置、Ms…固体の蒸着材料、Mv…昇華または気化した蒸着材料、Sw…基板(被蒸着物)、1…真空チャンバ、2…基板搬送手段(移動手段)、5…供給手段、51…外容器(第1収容箱)、52…内容器(第1収容箱)、53…加熱手段(第1加熱手段)、54…開閉弁(加圧手段)、55…ガス管(加圧手段)、6…供給管、8…放出手段、81…収容箱(第2収容箱)、82…放出箱、84…加熱手段(第2加熱手段)、92…圧力調整弁