(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】真空処理装置
(51)【国際特許分類】
F04B 37/08 20060101AFI20230712BHJP
B01J 3/00 20060101ALI20230712BHJP
B01J 3/02 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
F04B37/08
B01J3/00 M
B01J3/00 N
B01J3/02 M
B01J3/02 P
(21)【出願番号】P 2019168094
(22)【出願日】2019-09-17
【審査請求日】2022-07-07
(73)【特許権者】
【識別番号】000231464
【氏名又は名称】株式会社アルバック
(74)【代理人】
【識別番号】110000305
【氏名又は名称】弁理士法人青莪
(72)【発明者】
【氏名】山本 晃平
(72)【発明者】
【氏名】北沢 僚也
【審査官】岸 智章
(56)【参考文献】
【文献】米国特許第06327863(US,B1)
【文献】特開平08-068380(JP,A)
【文献】特開2000-106358(JP,A)
【文献】特開2000-357686(JP,A)
【文献】特開2013-060853(JP,A)
【文献】特開2010-144233(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F04B 37/08
B01J 3/00
B01J 3/02
C23C 16/44
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
真空チャンバと、
当該真空チャンバ内を高真空状態に真空排気するオイルフリー真空ポンプと
、オイルフリー真空ポンプのハウジングにコンダクタンスバルブを介設した排気管により接続されて真空チャンバ内を大気圧から低真空状態に真空排気する低真空用ポンプとを備え、
真空雰囲気の真空チャンバ内で成膜材料を飛散させて、真空チャンバ内に配置される被成膜物に対して
成膜処理を施す真空処理装置
であって、
オイルフリー真空ポンプのハウジング内に存する部品にも成膜材料が付着するものにおいて、
オイルフリー真空ポンプのハウジング内に所定のガスを導入するガス導入手段と、ハウジング内に導入されたガスを排出する排出手段とを備え、
ガス導入手段が、ハウジング内に超臨界状態となったガスまたは臨界圧力以上の圧力までガスを導入するように構成され
て、超臨界状態のガスに成膜材料を溶解させて超臨界流体と共に排出手段を介してハウジングから排出されるようにし、
前記排出手段に連通する回収容器を更に備え、回収容器と低真空用ポンプとが他の排気管を介して接続されて、ハウジング内に超臨界状態となったガスまたは臨界圧力以上の圧力までガスを導入するのに先立って、コンダクタンスバルブの閉じると共に、低真空用ポンプにより当該回収容器内が大気圧より低い低真空状態に真空排気され、
低真空状態の回収容器に、排出手段を介して成膜材料が溶解した超臨界流体が噴射されるように構成したことを特徴とする真空処理装置。
【請求項2】
請求項
1記載の真空処理装置であって、真空チャンバにオイルフリー真空ポンプが複数設けられているものにおいて、
各オイルフリー真空ポンプのハウジングが開閉バルブを介して取り付けられていることを特徴とする真空処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、密閉容器内の真空排気に利用されるオイルフリー真空ポンプ及びオイルフリー真空ポンプを備える真空処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
オイルフリー真空ポンプは、真空チャンバ内で被処理物に対する成膜処理やエッチング処理といった各種の真空処理を施す際に、コンタミネーションを防止しつつ真空チャンバ内を真空排気するために広く利用され(例えば、特許文献1参照)、クライオポンプ、ターボ分子ポンプ、ドライポンプやメカニカルブースターポンプといったものが挙げられる。オイルフリー真空ポンプにより真空チャンバ内で真空排気しながら、その内部で真空処理を施すと、例えば成膜源から飛散した成膜材料やエッチング時の反応生成物(以下、これらを「付着物」という)がオイルフリー真空ポンプのハウジング内まで到達することがある。例えばクライオポンプを例に説明すると、ハウジング内に設けられる、気体を凝縮または吸着する極低温面に付着物が付着すると、実行排気速度の低下を招来するといった不具合が生じる。
【0003】
実行排気速度が低下すると、一定の真空環境で真空処理できないことから、クライオポンプのクリーニング(所謂オーバーホール)が必要となる。このような場合、真空チャンバからクライオポンプを取り外して分解し、洗浄液や薬液などを利用して付着物を除去することになる。然し、これでは、クライオポンプを取り外し、クライオポンプを再度取り付けて真空チャンバ内を所定圧力まで真空排気するまでの間、真空処理を施すことができず、生産性が著しく損なわれるという問題がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【0005】
本発明は、以上の点に鑑み、付着物を簡単に除去できる構成を持つオイルフリー真空ポンプ及び、生産性の低下を可及的に抑制できるようにした真空処理装置を提供することをその課題とする。
【発明の概要】
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、密閉容器内の真空排気に利用される本発明のオイルフリー真空ポンプは、オイルフリー真空ポンプのハウジング内に所定のガスを導入するガス導入手段と、ハウジング内に導入されたガスを排出する排出手段とを備え、ガス導入手段が、ハウジング内に、超臨界状態となったガスまたは臨界圧力以上の圧力までガスを導入するように構成されることを特徴とする。
【0007】
また、上記課題を解決するために、真空チャンバと、当該真空チャンバ内を高真空状態に真空排気するオイルフリー真空ポンプと、オイルフリー真空ポンプのハウジングにコンダクタンスバルブを介設した排気管により接続されて真空チャンバ内を大気圧から低真空状態に真空排気する低真空用ポンプとを備え、真空雰囲気の真空チャンバ内で成膜材料を飛散させて、真空チャンバ内に配置される被成膜物に対して成膜処理を施す本発明の真空処理装置は、オイルフリー真空ポンプのハウジング内に存する部品にも成膜材料が付着するものにおいて、オイルフリー真空ポンプのハウジング内に所定のガスを導入するガス導入手段と、ハウジング内に導入されたガスを排出する排出手段とを備え、ガス導入手段が、ハウジング内に超臨界状態となったガスまたは臨界圧力以上の圧力までガスを導入するように構成されて、超臨界状態のガスに成膜材料を溶解させて超臨界流体と共に排出手段を介してハウジングから排出されるようにし、前記排出手段に連通する回収容器を更に備え、回収容器と低真空用ポンプとが他の排気管を介して接続されて、ハウジング内に超臨界状態となったガスまたは臨界圧力以上の圧力までガスを導入するのに先立って、コンダクタンスバルブの閉じると共に、低真空用ポンプにより当該回収容器内が大気圧より低い低真空状態に真空排気され、低真空状態の回収容器に、排出手段を介して成膜材料が溶解した超臨界流体が噴射されるように構成したことを特徴とする。
【0008】
以上によれば、オイルフリー真空ポンプのハウジング内に導入された超臨界状態のガスまたはハウジング内で超臨界状態となったガス(超臨界流体)に、ハウジング内に付着した付着物が溶解し、超臨界流体と共に溶解した付着物が排出手段によりハウジング内から排出されることで、付着物が除去される。これにより、真空チャンバからオイルフリー真空ポンプを取り外して分解洗浄を行わなくても、オイルフリー真空ポンプのハウジング内に付着した付着物を簡単に除去することができる。また、オイルフリー真空ポンプを脱着せずに付着物を除去できるため、真空処理装置の生産性の低下を可及的に抑制することができる。
【0009】
また、本発明の真空処理装置は、真空チャンバにオイルフリー真空ポンプが複数設けられ、各オイルフリー真空ポンプのハウジングが開閉バルブを介して取り付けられていることが好ましい。これによれば、複数設けられたオイルフリー真空ポンプのうち、ハウジング内に所定のガスが導入される真空ポンプ(即ち、付着物が除去される真空ポンプ)と真空チャンバとの間に介設された開閉バルブを閉じることで、他のオイルフリー真空ポンプにより真空チャンバ内の真空排気を継続できるため、真空処理装置での真空処理を停止させる必要がなく、有利である。
【0010】
また、本発明によれば、付着物が溶解した超臨界流体の圧力を臨界圧力以下に変化させて、超臨界流体を気体に状態変化させることで、超臨界流体に溶解していた付着物が回収容器内で析出するため、付着物を効率よく回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
【
図1】本実施形態の真空処理装置の構成を説明する模式断面図。
【
図2】本実施形態のオイルフリー真空ポンプの構成を説明する模式断面図。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して、被成膜物を矩形のガラス基板(以下、「基板Sw」)とし、オイルフリー真空ポンプとしてクライオポンプを備える真空蒸着装置を例に、本発明の真空処理装置の実施形態について説明する。以下においては、蒸着源3から基板Swに向かう方向を上とし、「上」、「下」といった方向を示す用語は、
図1を基準とする。
【0013】
図1を参照して、Dmは、本実施形態の真空蒸着装置である。真空蒸着装置Dmは、真空チャンバ1を備え、真空チャンバ1には、ゲートバルブV1,V2を介して真空排気手段Pが接続されている。真空排気手段Pは、大気圧から低真空状態に真空引きするドライポンプやロータリーポンプ等の低真空用ポンプP1と、低真空状態から高真空状態(1×10
-1Pa以下の圧力)に真空引きする2個のクライオポンプCp1,Cp2とで構成され、真空チャンバ1内を所定圧力に真空排気できるようになっている。
【0014】
真空チャンバ1の上部には、基板搬送装置2が設けられている。基板搬送装置2は、成膜面としての下面を開放した状態で基板Swを保持するキャリア21を有し、図外の駆動装置によってキャリア21、ひいては基板Swを真空チャンバ1内の一方向に所定速度で移動できるようになっている。基板搬送装置2としては公知ものが利用できる。
【0015】
真空チャンバ1の下部には、一方向に移動される基板Swに対向させて蒸着源3が設けられている。蒸着源3は、基板Swに成膜しようとする薄膜に応じて適宜選択される蒸着物質Vmを収容する収容箱31を有し、この収容箱31の基板Swとの対向面には、昇華させた蒸着物質Vmの噴出ノズル32が設けられている。収容箱31には蒸着物質Vmを加熱する加熱手段33が付設され、収容箱31を加熱してその内部の蒸着物質Vmを昇華させることで、各噴出ノズル32から昇華した蒸着物質が噴出される。
【0016】
また、基板搬送装置2によって搬送される基板Swと蒸着源3との間には、箔状のマスクプレートMpが設けられている。本実施形態では、マスクプレートMpは、基板Swと一体に取り付けられ、基板Swと共に基板搬送装置2によって搬送されるようになっている。マスクプレートMpには、板厚方向に貫通し、矩形の輪郭を保つ複数の開口Moが形成されている。これにより、蒸着源3からの蒸着物質Vmの基板Swに対する付着範囲が制限され、所定のパターンで基板Swに成膜することができる。マスクプレートMpとしては公知のものが利用できる。
【0017】
図2も参照して、本実施形態のクライオポンプCp1,Cp2は、真空チャンバ1にゲートバルブV1,V2を介して装着される筒型のハウジング4に内蔵される冷凍機5を備える。冷凍機5は、冷却部としての1段コールドヘッド51と2段コールドヘッド52とを備え、1段コールドヘッド51にはハウジング4の内側に沿った筒型のシールド51aが取り付けられると共に、2段コールドヘッド52にはクライオパネル(極低温面)52aが取り付けられ、シールド51aの開口部には1段コールドヘッド51と同温度に冷却されるバッフル51bが設けられている。なお、冷凍機5としては公知のものを利用することができる。
【0018】
ハウジング4には、排気管41を介して、ドライポンプやロータリーポンプ等の低真空用ポンプP1が接続され、排気管41には、コンダクタンスバルブCvが介設されている。また、ハウジング4の周囲には、加熱手段6が設けられ、ハウジング4内を所定の温度(例えば40℃以上)に加熱できるようになっている。加熱手段6としては、シースヒータやランプヒータ等の公知のものが利用できる。
【0019】
真空蒸着装置Dmは、マイクロコンピュータやシーケンサ等を備えた図示省略の制御手段を有し、基板搬送装置2、加熱手段33,6、コンダクタンスバルブCv、ゲートバルブV1,V2の開閉、低真空用ポンプP1及びクライオポンプCp1,Cp2の稼働が統括制御されている。以下に、上記真空蒸着装置Dmを用いた成膜方法を具体的に説明する。
【0020】
大気雰囲気中の真空チャンバ1内にて、収容箱31に蒸着物質Vmを所定の充填率で充填した後、低真空用ポンプP1及びクライオポンプCp1,Cp2により真空チャンバ1を真空排気する。真空チャンバ1内が所定圧力(例えば1×10-5Pa)に達すると、加熱手段33により収容箱31を加熱して、その内部の蒸着物質Vmを昇華させる。これにより、昇華した蒸着物質Vmは所定の余弦則に従い各噴出ノズル32から真空チャンバ1内の空間に放出され、基板搬送装置2によって搬送される基板Sw表面にマスクプレートMp越しに有機膜が成膜(蒸着)される。
【0021】
ところで、クライオポンプCp1,Cp2により真空チャンバ1内を真空排気しながら、基板Swに対する真空蒸着処理を施すと、蒸着源3から昇華した蒸着物質Vm(付着物)がクライオポンプCp1,Cp2のハウジング4内に設けられるクライオパネル52a等に付着すると、実行排気速度が低下する。このような場合、真空チャンバ1からクライオポンプCp1,Cp2を取り外して分解洗浄することで、付着した蒸着物質Vmが除去されるが、これでは、真空蒸着装置Dmの生産性が著しく損なわれる。
【0022】
そこで、本実施形態では、クライオポンプCp1,Cp2のハウジング4内に炭酸ガスを導入するガス導入手段7と、ハウジング4内に導入された炭酸ガスを排出する排出手段としての排出管8とを設けた。ガス導入手段7は、ハウジング4内のガス導入部71に接続されるガス管72を有し、ガス管72にはマスフローコントローラ73が介設されて、ハウジング4内の圧力が臨界圧力以上(例えば7MPa)まで炭酸ガスを導入できるように構成される。そして、加熱手段6により、ハウジング4内に導入された炭酸ガスを臨界温度以上(例えば、40℃以上)に加熱することで、導入された二酸化炭素は超臨界状態となる。なお、本実施形態では、ガス導入手段7により、ハウシング4内の圧力が二酸化炭素の臨界圧力以上となるまで、炭酸ガスを導入するものを例に説明するが、ハウジング4内に予め超臨界状態となった二酸化炭素を導入するようにガス導入手段7を構成することもできる。
【0023】
以上の実施形態によれば、各クライオポンプCp1,Cp2のハウジング4内の超臨界状態となった二酸化炭素(超臨界流体Sf)に、ハウジング4内に付着した蒸着物質Vmが溶解し、超臨界流体Sfと共に溶解した蒸着物質Vmが排出管8によりハウジング4内から排出されることで、付着した蒸着物質Vmが除去される。このため、真空チャンバ1からクライオポンプCp1,Cp2の脱着を行わずに、クライオポンプCp1,Cp2のハウジング4内に付着した蒸着物質Vmを簡単に除去することができる。また、クライオポンプCp1,Cp2を脱着せずに付着した蒸着物質Vmを除去できるため、真空蒸着装置Dmの生産性の低下を可及的に抑制することができる。
【0024】
また、本実施形態では、真空チャンバ1に2個のクライオポンプCp1,Cp2が設けられ、各クライオポンプCp1,Cp2のハウジング4がゲートバルブV1,V2を介して取り付けられている。このため、例えば、一方のクライオポンプCp1と真空チャンバ1との間に介設されたゲートバルブV1を閉じることで、一方のクライオポンプCp1のハウジング4内に炭酸ガスを導入して、付着した蒸着物質Vmを除去している間も、他方のクライオポンプCp2により真空チャンバ1内の真空排気を継続できるため、真空蒸着装置Dmでの真空蒸着処理を停止させる必要がない。
【0025】
また、本実施形態では、排出管8の他端8aは、開閉弁V3を介して回収容器としての分離チャンバ9に接続されている。分離チャンバ9には、可変手段としての低真空用ポンプP1からの排気管91が接続され、大気圧より低い所定圧力までその内部を排気できるようにしている。また、分離チャンバ9内には、上面を開放した容器92が設けられている。この場合、排出管8の他端8aは、分離チャンバ9の内部まで突出させ、この突出した先端部8aが容器92に向けて蒸着物質Vmが溶解した超臨界流体Sfを噴射できるようになっている。そして、蒸着物質Vmが溶解した超臨界流体Sfの圧力を臨界圧力以下まで減圧することで、超臨界流体Sfは気化し、超臨界流体に溶解していた蒸着物質Vmは容器92内に析出して残るため、蒸着物質Vmを効率よく回収することができる。なお、本実施形態では、可変手段として低真空用ポンプP1を用いるものを例に説明するが、圧力を臨界圧力以下に減圧できる減圧装置や温度を臨界温度以下まで冷却できる冷却装置を分離チャンバ9自体に設けて、可変手段を構成することもできる。
【0026】
以上、本発明の実施形態について説明したが、本発明の技術思想の範囲を逸脱しない限り、種々の変形が可能である。上記実施形態では、オイルフリー真空ポンプとしてクライオポンプCp1,Cp2を用いるものを例に説明したが、メカニカルブースターポンプ、ターボ分子ポンプやドライポンプ等の接ガス部に油を用いない真空ポンプであれば本発明を適用することができる。また、上記実施形態では、所定のガスとして炭酸ガスを用いるものを例に説明したがエタンガスやエチレンガス等のガスを用いてもよい。
【符号の説明】
【0027】
Dm…真空蒸着装置(真空処理装置)、Cp1,Cp2…クライオポンプ(オイルフリー真空ポンプ)、1…真空チャンバ(密閉容器)、4…ハウジング、7…ガス導入手段、8…排出管(排出手段)、Sw…基板(被成膜物)、V1,V2…ゲートバルブ(開閉バルブ)、9…分離チャンバ(回収容器)、P1…低真空用ポンプ(可変手段)。