(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-11
(45)【発行日】2023-07-20
(54)【発明の名称】艶消し面を有する樹脂成形品及び樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法
(51)【国際特許分類】
B29C 59/16 20060101AFI20230712BHJP
C08J 7/00 20060101ALI20230712BHJP
【FI】
B29C59/16
C08J7/00 302
C08J7/00 CER
C08J7/00 CEZ
(21)【出願番号】P 2021550626
(86)(22)【出願日】2020-09-18
(86)【国際出願番号】 JP2020035483
(87)【国際公開番号】W WO2021065573
(87)【国際公開日】2021-04-08
【審査請求日】2022-03-28
(31)【優先権主張番号】P 2019180140
(32)【優先日】2019-09-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100083806
【氏名又は名称】三好 秀和
(72)【発明者】
【氏名】藤田 容史
(72)【発明者】
【氏名】草谷 光晴
【審査官】福井 弘子
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/002648(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/220960(WO,A1)
【文献】国際公開第2017/021307(WO,A1)
【文献】特開2009-066880(JP,A)
【文献】特開平06-206291(JP,A)
【文献】特開2016-117270(JP,A)
【文献】特開2015-074400(JP,A)
【文献】特開平08-127060(JP,A)
【文献】特開平06-055900(JP,A)
【文献】特開2006-316103(JP,A)
【文献】国際公開第2020/100930(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B29C 53/00-53/84
B29C 57/00-59/18
C08J 7/00-7/02
C08J 7/12-7/18
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
レーザー光吸収剤を含む熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、60°光沢度が1.5%以下であ
り、かつ、明度L
*
値が30以下である艶消し面を少なくとも一部に有し、
前記艶消し面が、レーザー光照射により形成された複数の溝を有する凹凸面、又はレーザー光照射により表層部全域が除去された平坦面であり、ラマン分光分析により確認される炭化層を有する、艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂組成物が、暗色着色剤をさらに含む、請求項1に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項3】
前記熱可塑性樹脂組成物中における前記レーザー光吸収剤の含有量が3質量%未満である、請求項1又は2に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項4】
前記艶消し面が、複数の溝を有する凹凸面である場合において、前記溝の深さをD、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5である、請求項1~
3のいずれか1項に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項5】
前記艶消し面において、前記溝の深さDが150μm以上である、請求項
4に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項6】
前記艶消し面において、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅Wが400μm以下である、請求項
4又は
5に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【請求項7】
熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品の少なくとも一部の領域にレーザー光を照射して複数の溝を生じさせて艶消し面を形成する工程を含み、
前記艶消し面の明度L
*
値が30以下であり、前記工程において、前記溝の深さをD、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5となるように複数の溝を生じさせる、樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【請求項8】
前記溝の深さDが150μm以上となるようにレーザー光を照射する、請求項7に記載の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【請求項9】
前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅Wが400μm以下となるようにレーザー光を照射する、請求項
7又は
8に記載の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、艶消し面を有する樹脂成形品及び樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光学レンズ、カメラ等の光学機器には、外部からの光を遮断する遮光部材が用いられる。そのような遮光部材には、光の反射を抑えるため艶消し塗料や遮光塗料等により低光沢処理を施すことが一般的である。遮光部材には、例えば、JIS-Z-8741に規定される測定方法によって測定される60°光沢度を2%以下としたものを使用することが提案されている(特許文献1参照)。
【0003】
樹脂成形品に対する低光沢処理の方法としては、艶消し塗料や遮光塗料等を用いる(特許文献2参照)、金型に細かなシボ加工を施してこれを樹脂成形品表面に転写する(特許文献3、4参照)、表面にブラスト処理を施す(特許文献5参照)等が知られている。
【0004】
艶消し塗料や遮光塗料を塗装する場合、膜厚にムラが生じることや、塗膜が薄くなると十分に光沢を下げることができず、表面で光が反射し、光学機器内でゴーストと呼ばれる不具合が発生する等、性能や精度が低下することがある。また、使用する樹脂によっては塗膜との密着性が十分に得られなかったり、環境温度の変化が大きいと塗膜が剥がれたりすることがあり、適用可能な材料に制約が生じていた。その他、細かい部品や複雑な形状の場合、均一に塗装することが困難なことがある。
【0005】
一方、金型にシボ加工を施す場合、細かいシボに対し樹脂の流動性不足により、成形時に樹脂がシボに入り込まず十分に転写させることができず、適用可能な材料に制約が生じることがある。また、量産の過程で、金型の摩耗によりシボがなくなってしまい、その都度金型メンテナンスが必要になったりする等、生産性に欠けることがあった。
【0006】
さらに、サンドブラストやウエットブラスト、ウエットエッチングにより成形品表面を粗化し光沢を下げる場合、製品内の場所によって、あるいは複数の製品間において、粗化状態を均一に制御して製造することが難しい。そのため、特に精密な部品では処理により成形品自体(特に細径部や薄肉部等の微小構造部)が欠損してしまうことがあった。
【0007】
その他、光学機器の反射光を低減する部品は黒色等の暗色であることが要求され、少なくとも明度L*値は30以下であることが要求される(特許文献6参照)。
【0008】
一方、樹脂成形品にレーザー光を照射して溝を形成する技術として、特許文献7に記載の技術が知られている。特許文献7には、樹脂成形品に、無機充填剤が露出する複数の溝をレーザー光照射により形成し、他の樹脂成形品との接合において、形成した溝によるアンカー効果により接合強度を高めることが記載されている。特許文献7に記載の技術は、レーザー光の照射により形成した溝に、他の樹脂成形品を入り込ませて接合させるための技術である。従って、最終的には溝を形成した面が外部に露出することは想定されておらず、当然ながらその光沢を問題とすることはないため、艶消しをするために溝を形成するというものではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開2008-251877号公報
【文献】特開2017-3897号公報
【文献】特開平9-33287号公報
【文献】特開平7-120882号公報
【文献】特開2011-59237号公報
【文献】特開2018-53063号公報
【文献】特許第5632567号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上のように、樹脂成形品に対する低光沢処理の方法としては種々の提案がなされているものの、上記のような問題があり、改善の余地があった。
【0011】
本発明は、上記従来の問題点に鑑みなされたものであり、その課題は、材質や形状の制約が少なく、製造が容易で、低光沢であり、かつ、剥離することがない艶消し面を有する樹脂成形品、及びそのような艶消し面を樹脂成形品に形成する方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
前記課題を解決する本発明の一態様は以下の通りである。
(1)熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、60°光沢度が1.5%以下である艶消し面を少なくとも一部に有し、
前記艶消し面が、レーザー光照射により形成された複数の溝を有する凹凸面、又はレーザー光照射により表層部全域が除去された平坦面である、艶消し面を有する樹脂成形品。
【0013】
(2)前記熱可塑性樹脂組成物が、レーザー光吸収剤を含む、前記(1)に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0014】
(3)前記熱可塑性樹脂組成物が、暗色着色剤を含む、前記(1)又は(2)に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0015】
(4)前記熱可塑性樹脂組成物中における前記レーザー光吸収剤の含有量が3質量%未満である、前記(2)又は(3)に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0016】
(5)前記艶消し面の明度L*値が30以下である、前記(1)~(4)のいずれかに記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0017】
(6)前記艶消し面が、複数の溝を有する凹凸面である場合において、前記溝の深さをD、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5である、前記(1)~(5)のいずれかに記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0018】
(7)前記艶消し面において、前記溝の深さDが150μm以上である、前記(6)に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0019】
(8)前記艶消し面において、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅Wが400μm以下である、前記(6)又は(7)に記載の艶消し面を有する樹脂成形品。
【0020】
(9)熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品の少なくとも一部の領域にレーザー光を照射して複数の溝を生じさせて艶消し面を形成する工程を含み、前記工程において、前記溝の深さをD、前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5となるように複数の溝を生じさせる、樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【0021】
(10)前記溝の深さDが150μm以上となるようにレーザー光を照射する、前記(9)に記載の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【0022】
(11)前記溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅Wが400μm以下となるようにレーザー光を照射する、前記(9)又は(10)に記載の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法。
【発明の効果】
【0023】
本発明によれば、材質や形状の制約が少なく、製造が容易で、低光沢であり、かつ、剥離することがない艶消し面を有する樹脂成形品、及びそのような艶消し面を樹脂成形品に形成する方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【
図1】本実施形態の艶消し面を有する樹脂成形品の艶消し面を模式的に示す断面図である。
【
図2】実施例・比較例で得られた樹脂成形品において、「溝の深さをD/溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅W」の値に対する60°光沢度の関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0025】
<艶消し面を有する樹脂成形品>
本実施形態の艶消し面を有する樹脂成形品(以下、単に「樹脂成形品」とも呼ぶ。)は、熱可塑性樹脂組成物を成形してなり、60°光沢度が1.5%以下である艶消し面を少なくとも一部に有する。そして、艶消し面が、レーザー光照射により形成された複数の溝を有する凹凸面、又はレーザー光照射により表層部全域が除去された平坦面であることを特徴としている。
なお、前記「複数の溝」とは、艶消し面において、艶消し効果を発揮し得る程度の数の溝をいい、溝の数は、溝の幅や深さを考慮して適宜設定すればよい。また、前記「平坦面」とは、微視的に見て凹凸がない面を意味するのではなく、前記凹凸面のような凹凸がない状態の面を意味する。
【0026】
本実施形態において、艶消し面はレーザー光照射により形成され、60°光沢度が1.5%以下としたものである。つまり、艶消し面は、レーザー光照射により形成された、複数の溝を有する凹凸面である。あるいは、艶消し面は、レーザー光照射により表層部全域が除去された平坦面である。これらの凹凸面又は平坦面は、レーザー光の照射により樹脂が分解、昇華されて形成されるものであり、短時間で容易に形成することができ、かつ、塗膜等により形成した艶消し面のように剥離することはない。また、樹脂成形品において、艶消し面を形成しようとする領域にレーザー光を均一に照射することにより、ムラがなく均一な低光沢性を有する艶消し面を形成することができる。
以下に先ず、熱可塑性樹脂組成物について説明する。
【0027】
[熱可塑性樹脂組成物]
本実施形態において、熱可塑性樹脂組成物には、少なくとも熱可塑性樹脂を含み、必要に応じて他の成分を含む。熱可塑性樹脂としては、ポリアセタール、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンテレフタレート、ポリアリーレンサルファイド、液晶ポリマー、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリプロピレン、ABS樹脂、AS樹脂、PS樹脂等が挙げられる。
【0028】
本実施形態においては、レーザー光照射による樹脂の分解、昇華により溝を形成又は表層部を除去するため、熱可塑性樹脂自体のレーザー光の吸収率が低い(透過率が高い)と、樹脂が効率よく除去されず、溝の形成が困難となる可能性がある。その場合、熱可塑性樹脂組成物にはレーザー光の照射により発熱するレーザー光吸収剤を含むことが好ましい。レーザー光吸収剤としては、例えば、カーボンブラック、グラファイト、チタンブラック、酸化クロム、ポリメチン骨格を伸ばしたシアニン色素,アルミニウムや亜鉛を中心に持つフタロシアニン色素,各種ナフタロシアニン化合物,平面四配位構造を有するニッケルジチオレン錯体,スクアリウム色素,キノン系化合物,ジインモニウム化合物,アゾ化合物等が挙げられる。
【0029】
本実施形態の樹脂成形品が遮光部材として使用される場合、黒色系の色を呈することが好ましく、そのため、艶消し面を有する樹脂成形品は、明度L*が30以下であることが好ましい。そのような樹脂成形品を得るためには、熱可塑性樹脂組成物に添加するレーザー光吸収剤としては、例えば、黒色等の暗色系のレーザー光吸収剤を用いることが好ましい。
【0030】
一方、暗色系ではない(例えば透明、淡黄色等の)レーザー光吸収剤を用いる場合、艶消し面を有する樹脂成形品の明度L*を30以下にするためには、レーザー光吸収剤以外に暗色着色剤を併用することにより、黒色系の色を呈する樹脂成形品とすることができる。そのような暗色着色剤としては、例えば、アゾ顔料、キノフタロン顔料、イソインドリン顔料、イソインドリノン顔料、ジブロモアンサンスロン顔料、ジケトピロロピロール顔料、アンスラキノン顔料、キナクリドン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、フタロシアニン顔料、ジオキサジン顔料、等が挙げられる。なお、当該暗色着色剤には、上述のレーザー光吸収剤は含まないものとする。
【0031】
本実施形態において、樹脂成形品の物性を確保する観点から、熱可塑性樹脂組成物中のレーザー光吸収剤の含有量は3質量%未満であることが好ましく、0.2~1.0質量%であることがより好ましい。特に、一般的に遮光部材としての樹脂成形品は、絶縁性の部材として用いられるため、レーザー光吸収剤としてケッチェンブラックやアセチレンブラック等のカーボンブラックを使用する場合、含有量が多量であると、導電性が生じて電気系統に悪影響が出るおそれがある。その観点から上記含有量範囲であることに意義がある。
【0032】
本実施形態においては、本発明の効果を害さない範囲で、上記各成分の他、一般に熱可塑性樹脂及び熱硬化性樹脂に添加される公知の添加剤、即ち、ガラス繊維等の強化材、バリ抑制剤、離型剤、潤滑剤、可塑剤、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、結晶核剤、各種酸化防止剤、熱安定剤、耐候性安定剤、腐食防止剤等を配合してもよい。
【0033】
次いで、本実施形態において、艶消し面が複数の溝を有する凹凸面の場合における、溝の深さ(D)及び溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅(W)と、艶消し面の60°光沢度(以下、単に「光沢度」と呼ぶことがある。)及び明度との関係について説明する。
図1は、本実施形態の樹脂成形品の艶消し面の断面を模式的に示している。
図1に示すように、艶消し面10には互いに平行な線状の溝12が複数あり、Dが溝の深さであり、Wが溝の隣り合う溝部間に形成される凸部14の幅である。なお、溝は、直線状の溝でもよいし、曲線状の溝でもよい。また、矩形状や円形等の溝であってもよいし、不定形の溝であってもよい。矩形状、円形状、不定形の溝の場合、処理部を横切る任意の断面において、断面曲線の平均線の上側(レーザー光照射時における光源側)を凸部、下側を凹部とみなす。そして、平均線の高さにおける凸部の幅をWとし、当該凸部の頂点から隣り合う凹部の底部までの高さを溝の深さDとする。ここで、形状の異なる複数の凸部と凹部が存在する場合、個々の凸部の幅を、W1,W2,W3,・・・として、その平均値を当該凹凸面における凸部の幅Wとする。同様に個々の凸部と隣り合う凹部がなす溝の深さを、D1,D2,D3,・・・として、その平均値を当該凹凸面の溝の深さDとする。なお、ここでいう平均線とは、平均線を基準とした凸部の高さと、平均線を基準とした凹部の深さを、個々の凸部と凹部について測定し、その平均値が等しくなる位置に引いた線を指す。ただし、凹凸が多数存在し、すべての平均値を求めるのが困難な場合は、いわゆる十点平均粗さにおける平均線に準じて、少なくとも10個の凹凸の高さ及び深さの平均値からこれを求めればよい。
【0034】
図1に示すように線状の溝を形成した場合、溝の深さ(D)が深いほど艶消し面の光沢度が低下する傾向にあり、また、凸部の幅(W)が狭いほど艶消し面の光沢度が低下する傾向にある。従って、凸部の幅(W)に対する溝の深さ(D)の比の値(D/W)が大きいほど艶消し面の光沢度が低下する。そして、光学機器の遮光部材に要求される光沢度は0.5~1.5程度であり、その程度の光沢度とするには上記比の値(D/W)の値が0.2~3.5であることが好ましく、0.5~2.0であることがより好ましく0.8~1.5が更に好ましい。
【0035】
一方、上記比の値(D/W)の値が0.2~3.5であっても、凸部の幅(W)が一定以上となると光沢度を低下させることが困難となる場合があると考えられる。そのため、凸部の幅(W)は400μm以下であることが好ましく、50~350μmであることがより好ましく、100~200μmであることが特に好ましい。同様に、溝の深さ(D)は150μm以上であり、200μm以上であることがより好ましい。当該溝の深さ(D)の上限としては、樹脂成形品の強度を確保する観点から、肉厚の1/2以下とすることが好ましい。
【0036】
一方、光学機器の遮光部材に使用する場合、艶消し面の明度L*値は30以下であることが好ましい。そして、そのような暗色の樹脂成形品の場合、レーザー光が照射されなかった領域は当然に黒色であることから、レーザー光の照射を受けていない凸部の明度L*は低い。逆に、レーザー光の照射により形成された溝の明度L*については一概には言えない。例えば、レーザー光の照射により黒色のレーザー光吸収剤が昇華し、熱可塑性樹脂本来の色が露出することとなるが、線状溝の深さ(D)が浅いとその色により明度L*が高くなる。ところが、溝の深さ(D)が深くなるほどにレーザー光の照射をすると熱可塑性樹脂が炭化することで明度L*が低下すると考えられる。従って、艶消し部の明度L*については、凸部の幅(W)にはほとんど依存しないが、溝の深さ(D)には依存することとなる。すなわち、溝の深さ(D)が深いほど明度L*は低下する。そして、光学機器の遮光部材に要求される明度L*は20~30程度であり、30以下が好ましく、25以下がより好ましく、20以下が更に好ましく、15以下が特に好ましい。その程度の明度L*とするには、溝の深さ(D)は150μm以上が好ましく、200μm以上がより好ましく、250μm以上が更に好ましく、300μm以上が特に好ましい。
【0037】
本実施形態において、複数の溝により形成される形状(パターン)としては、格子状、縞状、等高線状、同心円状、及びそれらの組合せ等が挙げられ、中でも、光沢度を低くすることができる観点から格子状が好ましい。
【0038】
本実施形態の樹脂成形品は、艶消し面は低光沢度であり、明度L*を小さくした場合、光学機器の遮光部材として好適に使用することができる。光学機器としては、光学レンズ、カメラの他、自動車の車室内に設置されるヘッドアップディスプレイ、車載カメラ メーター等が挙げられる。
【0039】
以上の本実施形態の樹脂成形品の艶消し面は、以下に説明する、本実施形態の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法により形成することができる。
【0040】
<樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法>
本実施形態の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法は、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品の少なくとも一部の領域にレーザー光を照射して複数の溝を生じさせて艶消し面を形成する工程を含む。そして、当該工程において、溝の深さをD、溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5となるように複数の溝を生じさせることを特徴としている。
【0041】
本実施形態の樹脂成形品に対する艶消し面の形成方法において、熱可塑性樹脂組成物からなる樹脂成形品は、既述の通りであるため、ここでは説明を省略する。
【0042】
本実施形態においては、樹脂成形品の少なくとも一部の領域にレーザー光を照射して複数の溝を生じさせて艶消し面を形成するに際し、溝の深さをD、溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅をWとしたとき、D/Wの値が0.2~3.5となるように凹凸面を形成する。当該比の値(D/W)を調節するには、溝の深さ(D)と、凸部の幅(W)とを適宜調節すればよい。溝の深さ(D)を設定するには、照射するレーザー光のパワー、照射時間(スキャン速度)、照射回数を適宜調節すればよい。例えば、より深い溝を形成する場合には、レーザー光のパワー、照射時間(スキャン速度)、及び照射回数の少なくともいずれかを増大すればよい。また、凸部の幅(W)を設定するには、レーザー光の照射径や走査間隔(ピッチ)の設定により、隣り合う溝の間隔を適宜調節すればよい。
【0043】
本実施形態の樹脂成形品において説明した通り、溝の深さDが150μm以上となるようにレーザー光を照射することが好ましく、200μm以上となるようにレーザー光を照射することがより好ましい。
同様に、溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅Wが400μm以下となるようにレーザー光を照射することが好ましく、50~350μmとなるようにレーザー光を照射することがより好ましい。
【0044】
なお、レーザー光照射により表層部全域が除去された平坦面は、比の値(D/W)が無限大の場合である。すなわち、当該平坦面は、艶消し面とすべき領域の全域にレーザー光を照射して表層部全域を除去することにより形成することができる。そして、表層部の厚さは、溝(W)に相当するため、除去する表層部の厚さは、150μm以上とすることが好ましい。
【0045】
本実施形態において使用するレーザー光としては、レーザー光吸収剤を発熱させ得るものであればよく、一般的にはYAGレーザーやYVO4レーザー等の固体レーザー、炭酸ガスレーザー、半導体レーザー、ファイバーレーザー等が用いられる。
【0046】
本実施形態においては、溝を形成するために、線を描くようにレーザー光を走査することから、市販のレーザーマーキング装置を用いることができる。この場合、レーザー光が照射されたレーザー光吸収剤が発熱することにより、その周囲の熱可塑性樹脂を昇華、分解して溝が形成される程度にレーザー光出力、走査速度、レーザー径等を調整することが好ましい。
【0047】
本実施形態において、溝がレーザー光の照射により形成されたものであるかどうかは、凹部表面のラマン分光分析によって、樹脂の炭化層が存在することが確認できれば、レーザー光照射によって形成されたものであると判断することができる。
【0048】
本実施形態において、熱可塑性樹脂組成物中にガラス繊維等の充填剤を含む場合、溝内に露出する充填剤は、レーザー光の照射により昇華(分解)等させて除去することが好ましい。そのような充填剤が残存すると樹脂が消失した部分に含まれる充填剤が溝表面に付着していたり、溝面に露出していたりすると、充填剤の種類によっては艶消し面の光沢度が上がってしまったり、露出した充填剤が脱落してレンズに付着することにより、製品としての性能が低下してしまったりする等の悪影響が生じるためである。
【0049】
以上のように、本実施形態の方法では、樹脂成形品に対してレーザー光を照射することで艶消し面を形成することができ、艶消し塗料による塗装の場合のような塗膜が剥離することがない。また、樹脂成形品に対してレーザー光を照射するため、シボ加工のように金型のメンテナンスが必要となることもない。さらに、レーザー光を均一に照射することで艶消し面の光沢度を容易に均一にすることができる。
【実施例】
【0050】
以下に、実施例により本実施形態をさらに具体的に説明するが、本実施形態は以下の実施例に限定されるものではない。
【0051】
[実施例1]
カーボンブラック(レーザー光吸収剤)を0.5質量%含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用い、射出成形により、100mm×100mm×3mm形状の樹脂成形品を得た。得られた成形品に対し、以下の条件によりレーザー光を照射して艶消し面を形成した。
(レーザー光照射条件)
レーザー照射装置:(株)キーエンス製、レーザーマーカ、MD-X1520(波長:1064nm)
処理パターン:格子状
レーザー径:80μm
レーザー出力:12.5(W)
走査速度:400(mm/sec)
周波数:10kHz
1本の線状の溝に対する照射回数:1回
【0052】
形成した溝の深さ(D)と、凸部の幅(W)とを、Keyence製マイクロスコープ
VW-9000により測定した。測定結果を表1に示す。
【0053】
<評価>
次いで、形成した艶消し面の60°光沢度と、明度L*値とを以下のようにして測定した。
(1)60°光沢度の測定
日本電色工業(株)製、ハンディグロスメータPG-II(60°)を用いてJIS-Z-8741に準拠し測定した。測定結果を表1に示す。
(2)明度L*値の測定
スガ試験機製SM-P型カラーコンピューターを用いて測定した。測定結果を表1に示す。
【0054】
【0055】
[実施例2~5]
レーザー光の照射回数を表1に示す回数に変更したこと、及び隣り合う溝の幅を異ならせて凸部の幅を表1に示す幅としたこと以外は実施例1と同様にして艶消し面を形成し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0056】
[実施例6~11]
カーボンブラック(レーザー光吸収剤)を0.5質量%と、ガラス繊維30質量%とを含むポリブチレンテレフタレート樹脂組成物を用い、射出成形により、100mm×100mm×3mm形状の成形品を得た。得られた成形品に対し、実施例1と同様にしてレーザー光を照射して艶消し面を形成した。ただし、レーザー光の走査速度は200mm/secとした。そして、実施例1と同様にして艶消し面の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0057】
[実施例12~15]
カーボンブラック(レーザー光吸収剤)を0.5質量%と、ガラス繊維40質量%とを含むポリフェニレンサルファイド樹脂組成物を用い、射出成形により、100mm×100mm×3mm形状の成形品を得た。得られた成形品に対し、実施例1と同様にしてレーザー光を照射して艶消し面を形成した。ただし、レーザー光の出力は22.5W、レーザー光の走査速度は200mm/secとした。そして、実施例1と同様にして艶消し面の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0058】
[実施例16~19]
レーザー光の照射回数を表1に示す回数に変更したこと、及び艶消し面とする領域の表層部全域にレーザー光を照射し、表層部を除去して平坦面としたこと以外は、実施例12と同様にして艶消し面を形成した。そして、実施例1と同様にして艶消し面の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0059】
[比較例1~3]
各比較例において、レーザー光照射を行わなかった(艶消し面を形成しなかった)こと以外は、それぞれ実施例1~3と同様にして樹脂成形品を得た。そして、実施例1と同様にして樹脂成形品の表面の評価を行った。評価結果を表1に示す。
【0060】
[比較例4~10]
レーザー光の照射回数を表1に示す回数に変更したこと、及び隣り合う溝の幅を異ならせて凸部の幅を表1に示す幅としたこと以外は実施例1と同様にして艶消し面を形成し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0061】
[比較例11~14]
レーザー光の照射回数を表1に示す回数に変更したこと、及び隣り合う溝の幅を異ならせて凸部の幅を表1に示す幅としたこと以外は実施例6と同様にして艶消し面を形成し、実施例1と同様にして評価した。評価結果を表1に示す。
【0062】
一方、各実施例(実施例16~19を除く)・比較例における、凸部の幅(W)に対する溝の深さ(D)の比の値(D/W)に対する光沢度の関係を
図2のグラフに示す。
図2より、当該比の値(D/W)が0.2以上であると光沢度が低くなることが分かる。
【0063】
表1より、実施例1~19においてはいずれも、レーザー光の照射により溝を形成又は表層部全域を除去した例であり、光沢度が1.5%以下の艶消し面が形成されていることが分かる。また、実施例2を除き、艶消し面の明度L*値が30以下であった。実施例2は、レーザー光照射により、カーボンブラックが昇華し、樹脂本来の色が露出したと考えられる。そして、実施例2よりもレーザー光の照射回数が多い実施例3等はカーボンブラックが炭化したことで明度L*値が低下したと推察される。つまり、溝の深さを深くするには、レーザー光のエネルギーを与えねばならず、その結果としてカーボンブラックが炭化すると考えられる。
一方、比較例1~3は、レーザー光の照射を行っておらず、すなわち艶消し面を形成していないことから、当然ながら光沢度が高い結果となった。
また、比較例4~6は、溝の隣り合う溝部間に形成される凸部の幅(W)に対する、溝の深さ(D)の比の値(D/W)が0.2未満であり、光沢度が高い結果となった。