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特許7312983エチレン-ビニルアルコール樹脂組成物、及びそれを用いた成形体並びに多層構造体
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  • 特許-エチレン-ビニルアルコール樹脂組成物、及びそれを用いた成形体並びに多層構造体 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】エチレン-ビニルアルコール樹脂組成物、及びそれを用いた成形体並びに多層構造体
(51)【国際特許分類】
   C08L 29/04 20060101AFI20230714BHJP
   C08K 5/053 20060101ALI20230714BHJP
   C08K 5/20 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
C08L29/04 S
C08K5/053
C08K5/20
【請求項の数】 6
(21)【出願番号】P 2019102519
(22)【出願日】2019-05-31
(65)【公開番号】P2020196790
(43)【公開日】2020-12-10
【審査請求日】2022-05-09
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第2項適用 1.集会(学会)での発表による公開 学会名:2019年日本レオロジー学会第46年会、発表日:令和1年5月8日 2.刊行物(学会予稿集)への発表による公開 学会名:2019年日本レオロジー学会第46年会、刊行物名:2019年日本レオロジー学会第46年会講演予稿集,第17-18頁、発行日:令和1年5月8日 3.電気通信回線を通じた公開(学会予稿集のウェブサイトへの掲載)学会名:第68回高分子学会年次大会、掲載アドレス(URL):https://member.spsj.or.jp/convention/spsj2019/index.php?id=2Pd052&place_num=1、掲載日:令和1年5月14日 4.集会(学会)での発表による公開 学会名:日本ゴム協会2019年年次大会、発表日:令和1年5月23日 5.刊行物(講演要旨集)への発表による公開 学会名:日本ゴム協会2019年年次大会、刊行物名:日本ゴム協会2019年年次大会研究発表講演要旨集,第87頁、発行日:令和1年5月23日 6.集会(学会)での発表による公開 学会名:2019年第68回高分子学会年次大会、発表日:令和1年5月30日
(73)【特許権者】
【識別番号】506158197
【氏名又は名称】公立大学法人 滋賀県立大学
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100107641
【弁理士】
【氏名又は名称】鎌田 耕一
(74)【代理人】
【識別番号】100174779
【弁理士】
【氏名又は名称】田村 康晃
(72)【発明者】
【氏名】徳満 勝久
(72)【発明者】
【氏名】清水 裕司
【審査官】前田 直樹
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-218656(JP,A)
【文献】特開2016-108531(JP,A)
【文献】特開2020-041084(JP,A)
【文献】国際公開第2015/163437(WO,A1)
【文献】特開2004-182589(JP,A)
【文献】特開2014-001372(JP,A)
【文献】国際公開第2017/170259(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08L 29/04
C08K 5/053
C08K 5/20
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)および添加剤(B)を含み、添加剤(B)が下記一般式(1)で示される添加剤(B1)または下記一般式(2)で示される添加剤(B2)であり、添加剤(B)の含有率が0.01~20質量%である、エチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【化1】
[式中、R1は、それぞれ独立してヒドロキシル基、または炭素数1~3のヒドロキシアルコキシ基であり、R2水素原子である。]
【化2】
[式中、R3とR4は、それぞれ独立してヒドロキシル基を1つ有する炭素数12~20のアルキル基である。]
【請求項2】
前記添加剤(B)の融点が100℃以上200℃以下である、請求項1に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項3】
前記添加剤(B2)がメタキシレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドである、請求項1または2に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項4】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)のエチレン単位含有率が20~60モル%である、請求項1~3のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物。
【請求項5】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物からなる成形体。
【請求項6】
請求項1~4のいずれか1項に記載のエチレン-ビニルアルコール共重合体樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構造体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、添加剤がブリードアウトすることなく、流動性が良好な樹脂組成物、及びそれを用いた成形体並びに多層構造体に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレン-ビニルアルコール共重合体(以下「EVOH」と略記する場合がある)は、ビニルアルコール単位由来の優れたガスバリア性、耐有機溶剤性と、エチレン単位由来の溶融成形性、耐水性とを併せ持つ結晶性ポリマーであり、広範な用途に適用されている。
【0003】
特許文献1には、エチレン-ビニルアルコール共重合体に特定の水酸基含有化合物からなる添加剤を有する樹脂組成物が、ブリードアウトが生じることなく、酸素バリア性が高く、ガラス転移温度が低く、かつ、柔軟性の高い樹脂成形体を実現できると記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】WO2015/163437号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、特許文献1に記載の発明で用いられる添加剤は、1,1,1-トリメチロールプロパンなどであり、これらの添加剤はEVOHの流動性を向上(融点の低下)に寄与するが、それと同時に引張弾性率や降伏強度等が低下する課題があった。
【0006】
本発明の目的は、ブリードアウトが生じることがなく、引張弾性率及び降伏強度の低下を抑制し、かつ樹脂の流動性が向上したEVOH樹脂組成物の提供である。
【課題を解決するための手段】
【0007】
すなわち、本発明は
[1]エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)(以下「EVOH(A)」と略記する場合がある)および添加剤(B)を含み、添加剤(B)が下記一般式(1)で示される添加剤(B1)(以下「添加剤(B1)」と略記する場合がある)または下記一般式(2)で示される添加剤(B2)(以下「添加剤(B2)」と略記する場合がある」)を含み、添加剤(B)の含有率が0.01~20質量%である、EVOH樹脂組成物。
【化1】
[式中、R1は、それぞれ独立してヒドロキシル基、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基、及び炭素数1~3のヒドロキシアルコキシ基からなる群より選択される基であり、R2は、それぞれ独立して水素原子、炭素数1~3のアルキル基、及び炭素数1~3のアルコキシ基からなる群より選択される基である。]
【化2】
[式中、R3とR4は、それぞれ独立してヒドロキシル基を1つ以上有する炭素数1~20のアルキル基である。];
[2]添加剤(B)の融点が100℃以上200℃以下である、[1]のEVOH樹脂組成物;
[3]添加剤(B2)がメタキシレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドである、[1]または[2]のEVOH樹脂組成物;
[4]EVOH(A)のエチレン単位含有率が20~60モル%である、[1]~[3]のいずれかのEVOH樹脂組成物;
[5][1]~[4]のいずれかのEVOH樹脂組成物からなる成形体;
[6][1]~[4]のいずれかのEVOH樹脂組成物からなる層を少なくとも1層含む多層構造体;
を提供することで達成される。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、ブリードアウトが生じることがなく、引張弾性率及び降伏強度の低下を抑制し、かつ樹脂の流動性が向上したEVOH樹脂組成物、及びそれを用いた成形体並びに多層構造体を提供できる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
図1】比較例1、実施例2および実施例4で得られた溶融ブレンド品についての溶融状態におけるレオロジー特性の評価結果である。
図2】比較例1、実施例1および実施例2で得られた試料フィルムについての動的粘弾性の測定結果である。
図3】比較例1、実施例3および実施例4で得られた試料フィルムについての動的粘弾性の測定結果である。
図4】比較例1および実施例1~4で得られた試料フィルムについての自由体積の測定結果である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明のEVOH樹脂組成物は、EVOH(A)および添加剤(B)を含み、添加剤(B)は添加剤(B1)または添加剤(B2)であって、添加剤(B)の含有率が0.01~20質量%である。
【0011】
(EVOH(A))
本発明の樹脂組成物はEVOH(A)を含むため、良好なガスバリア性を示すものである。EVOH(A)は、通常、エチレン-ビニルエステル共重合体をケン化することで得ることができる。エチレン-ビニルエステル共重合体の製造およびケン化は、公知の方法により行うことができる。ビニルエステルとしては酢酸ビニルが代表的であるが、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、カプリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、ピバリン酸ビニルおよびバーサティック酸ビニル等のその他の脂肪酸ビニルエステルであってもよい。
【0012】
EVOH(A)のエチレン単位含有率は20モル%以上が好ましく、25モル%以上がより好ましく、33モル%以上がさらに好ましい。また、前記EVOH(A)のエチレン単位含有率は60モル%以下が好ましく、55モル%以下がより好ましく、50モル%以下がさらに好ましい。エチレン単位含有率が20モル%以上であると、溶融成形性が良好となる傾向にある。一方、エチレン単位含有率が60モル%以下であると、バリア性が高まる傾向にある。EVOH(A)のエチレン単位含有率は、核磁気共鳴(NMR)法により求めることができる。
【0013】
EVOH(A)のビニルエステル成分のケン化度は80モル%以上が好ましく、90モル%以上がより好ましく、99モル%以上がさらに好ましい。ケン化度を90モル%以上とすることで、成形品のガスバリア性を高めること等ができる。またEVOH(A)のケン化度は100モル%以下であっても、99.99モル%以下であってもよい。EVOH(A)のケン化度は、1H-NMR測定を行い、ビニルエステル構造に含まれる水素原子のピーク面積と、ビニルアルコール構造に含まれる水素原子のピーク面積とを測定して算出できる。
【0014】
また、EVOH(A)は、本発明の目的が阻害されない範囲で、エチレンとビニルエステル及びそのケン化物以外の他の単量体由来の単位を有していてもよい。EVOH(A)が前記他の単量体単位を有する場合、EVOH(A)の全構造単位に対する前記他の単量体単位の含有量は30モル%以下が好ましく、20モル%以下がより好ましく、10モル%以下がさらに好ましく、5モル%以下が特に好ましい。また、EVOH(A)が上記他の単量体由来の単位を有する場合、その下限値は0.05モル%であってもよいし0.10モル%であってもよい。前記他の単量体としては、例えば、プロピレン、ブチレン、ペンテン、ヘキセン等のアルケン;3-アシロキシ-1-プロペン、3-アシロキシ-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-1-ブテン、3-アシロキシ-4-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-3-メチル-1-ブテン、3,4-ジアシロキシ-2-メチル-1-ブテン、4-アシロキシ-1-ペンテン、5-アシロキシ-1-ペンテン、4,5-ジアシロキシ-1-ペンテン、4-アシロキシ-1-ヘキセン、5-アシロキシ-1-ヘキセン、6-アシロキシ-1-ヘキセン、5,6-ジアシロキシ-1-ヘキセン、1,3-ジアセトキシ-2-メチレンプロパン等のエステル基を有するアルケン又はそのケン化物;アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸、イタコン酸等の不飽和酸又はその無水物、塩、又はモノ若しくはジアルキルエステル等;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のニトリル;アクリルアミド、メタクリルアミド等のアミド;ビニルスルホン酸、アリルスルホン酸、メタアリルスルホン酸等のオレフィンスルホン酸又はその塩;ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリ(β-メトキシ-エトキシ)シラン、γ-メタクリルオキシプロピルメトキシシラン等ビニルシラン化合物;アルキルビニルエーテル類、ビニルケトン、N-ビニルピロリドン、塩化ビニル、塩化ビニリデン等が挙げられる。
【0015】
EVOH(A)は、ウレタン化、アセタール化、シアノエチル化、オキシアルキレン化等の手法で後変性されたEVOH(A)であってもよい。
【0016】
EVOH(A)のJIS K 7210:2014に準拠して測定した、190℃、2160g荷重におけるメルトフローレート(MFR)は5g/10min以上が好ましく、10g/10min以上がより好ましい。一方、EVOH(A)のMFRは100g/10min以下が好ましく、40g/10min以下がより好ましい。上記範囲にMFRがあると溶融成形性に優れる傾向となる。
【0017】
EVOH(A)は、1種を単独で用いることもできるし、2種以上を混合して用いることもできる。
【0018】
(添加剤(B))
本発明のEVOH樹脂組成物は添加剤(B)を有することで、引張弾性率及び降伏強度の低下を抑制しつつ、樹脂組成物の流動性を向上できる。また、添加剤(B)を用いることで、樹脂組成物から添加剤(B)がブリードアウトすることを抑制できる。
【0019】
添加剤(B)は、添加剤(B1)または添加剤(B2)である。添加剤(B1)は下記一般式(1)で示される化合物である。
【化3】
【0020】
一般式(1)中のR1は、それぞれ独立してヒドロキシル基(-OH)、炭素数1~3のヒドロキシアルキル基(-Cn2nOH:n=1~3)、及び炭素数1~3のヒドロキシアルコキシ基(-OCn2nOH:n=1~3)からなる群より選択される基であり、R2は、それぞれ独立して水素原子(-H)、炭素数1~3のアルキル基(-Cn2n+1:n=1~3)、及び炭素数1~3のアルコキシ基(-OCn2n+1:n=1~3)からなる群より選択される基である。
【0021】
中でもR1は、ヒドロキシル基(-OH)、及び炭素数1~3のヒドロキシアルコキシ基(-OCn2nOH:n=1~3)から選択される基であり、R2は、水素原子(-H)であることが好ましい。
【0022】
添加剤(B2)は下記一般式(2)で示される化合物である。
【化4】
【0023】
一般式(2)中のR3とR4は、それぞれ独立してヒドロキシル基を1つ以上有する炭素数1~20のアルキル基である。ヒドロキシル基の数は1~8個が好ましく、1~5個がより好ましく、1~3個がさらに好ましく、1個が特に好ましい。
【0024】
3とR4は、ヒドロキシル基を1つ以上有する炭素数10~20のアルキル基であることが好ましく、ヒドロキシル基を1つ以上有する炭素数12~20のアルキル基であることがより好ましい。
【0025】
中でも添加剤(B2)はメタキシレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドであることが、本発明のEVOH樹脂組成物の降伏強度及び引張弾性率を低下させず、流動性を向上できる点で好ましい。
【0026】
添加剤(B)のブリードアウトを抑制する観点から、添加剤(B)の融点は100℃以上が好ましく、120℃以上がより好ましい。また、添加剤(B)の融点は本発明のEVOH樹脂組成物の流動性を向上させる観点から200℃以下が好ましく、170℃以下がより好ましい。添加剤(B)の融点はJIS K0064:1992に準拠して測定できる。
【0027】
本発明の樹脂組成物における添加剤(B)の含有率は0.01~20質量%である。添加剤(B)の含有率が0.01質量%未満であると、流動性が十分に向上しない。また、添加剤(B)の含有率が20質量%超であると、樹脂組成物のガスバリア性が低下したり、引張破断伸度の低下が顕著となる傾向となる。流動性を十分に向上させる観点から、添加剤(B)の含有率は3質量%以上が好ましく、7質量%以上がより好ましい。また、良好なガスバリア性を維持し、引張破断伸度の低下を抑制する観点から、添加剤(B)の含有率は17質量%以下が好ましく、12質量%以下がより好ましい。
【0028】
本発明の樹脂組成物のJIS K 7210:2014に準拠して測定した、190℃、2160g荷重におけるMFRは5g/10min以上が好ましく、10g/10min以上がより好ましい。190℃、2160g荷重におけるMFRが10g/10min以上であると流動性が良好になり、得られる成形体の外観が良好となる傾向になる。また、本発明の樹脂組成物のJIS K 7210:2014に準拠して測定した、190℃、2160g荷重におけるMFRは50g/10min以下であってもよく、40g/10min以下であってもよく、30g/10min以下であってもよい。本発明の樹脂組成物は、添加剤(B)を含有することで、EVOH(A)のMFRに比べて、樹脂組成物のMFRは向上し、流動性が良好である。
【0029】
(その他の成分)
本発明の樹脂組成物は、本発明の効果を阻害しない範囲であれば、例えば、カルボン酸化合物、リン酸化合物、ホウ素化合物、金属塩、安定剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、滑剤、着色剤、充填剤、乾燥剤、各種繊維などの補強剤などのその他の成分を含有してもよい。
【0030】
本発明の樹脂組成物がカルボン酸化合物を含むと、溶融成形時の着色を防止できる傾向となる。本発明の樹脂組成物に含まれるカルボン酸は、モノカルボン酸でも多価カルボン酸でもよく、これらの組み合わせであってもよい。本発明の樹脂組成物に含まれるカルボン酸はイオンであってもよく、かかるカルボン酸イオンは金属イオンと塩を形成していてもよい。カルボン酸及びカルボン酸イオンの含有量は1~400ppmが好ましい。
【0031】
本発明の樹脂組成物がリン酸化合物を含むと、溶融成形時の着色を防止できる傾向となる。本発明の樹脂組成物に含まれるリン酸化合物は特に限定されず、リン酸、亜リン酸等の各種の酸やその塩等を用いることができる。リン酸塩としては第1リン酸塩、第2リン酸塩、第3リン酸塩のいずれの形で含まれていてもよいが、第1リン酸塩が好ましい。そのカチオン種も特に限定されるものではないが、アルカリ金属塩が好ましい。これらの中でもリン酸2水素ナトリウム及びリン酸2水素カリウムが好ましい。本発明の樹脂組成物がリン酸化合物を含む場合、リン酸化合物の含有量はリン酸根換算で1~500ppmが好ましい。リン酸化合物の含有量が1ppm以上であると、溶融成形時の耐着色性が良好となる傾向にある。一方、リン酸化合物の含有量が500ppm以下であると溶融成形性が良好となる傾向にある。
【0032】
本発明の樹脂組成物がホウ素化合物を含むと、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となる。本発明の樹脂組成物に含まれるホウ素化合物としては特に限定されず、ホウ酸類、ホウ酸エステル、ホウ酸塩、水素化ホウ素類等が挙げられる。具体的には、ホウ酸類としては、オルトホウ酸、メタホウ酸、四ホウ酸などが挙げられ、ホウ酸エステルとしてはホウ酸トリエチル、ホウ酸トリメチルなどが挙げられ、ホウ酸塩としては前記の各種ホウ酸類のアルカリ金属塩、アルカリ土類金属塩、ホウ砂などが挙げられる。これらの化合物のうちでもオルトホウ酸(以下、単にホウ酸と表示する場合がある)が好ましい。本発明の樹脂組成物がホウ素化合物を含む場合、ホウ素化合物の含有量はホウ素元素換算で20~2000ppmが好ましい。ホウ素化合物の含有量が20ppm以上であると、加熱溶融時のトルク変動を抑制できる傾向となる。一方、ホウ素化合物の含有量が2000ppm以下であると、成形性を良好に保てる傾向にある。
【0033】
本発明の樹脂組成物がアルカリ金属塩を含むと、本発明の樹脂組成物からなる層を有する多層構造体において、本発明の樹脂組成物からなる層と他の樹脂層との層間接着性が良好になる傾向となる。アルカリ金属塩のカチオン種は特に限定されないが、ナトリウム塩またはカリウム塩が好適である。アルカリ金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加できる。本発明の樹脂組成物がアルカリ金属塩を含む場合、アルカリ金属塩の含有量は金属元素換算で10~500ppmであることが好ましい。アルカリ金属塩の含有量が10ppm以上であると層間接着性が良好となる傾向となる。一方、アルカリ金属塩の含有量が500ppm以下であると溶融安定性に優れる傾向となる。
【0034】
本発明の樹脂組成物がアルカリ土類金属塩を含むと、成形体を繰り返し溶融成形した際の劣化抑制やゲル等の劣化物の発生を抑制できる傾向となる。アルカリ土類金属塩のカチオン種は特に限定されないが、マグネシウム塩またはカルシウム塩が好適である。アルカリ土類金属塩のアニオン種も特に限定されない。カルボン酸塩、炭酸塩、炭酸水素塩、リン酸塩、リン酸水素塩、ホウ酸塩、水酸化物等として添加できる。本発明の樹脂組成物がアルカリ土類金属塩を含む場合、アルカリ土類金属塩の含有量は10~500ppmが好ましい。
【0035】
溶融安定性等を改善するための安定剤としては、ハイドロタルサイト化合物、ヒンダードフェノール系化合物、ヒンダードアミン系熱安定剤、高級脂肪族カルボン酸の金属塩(例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム等)等が挙げられ、本発明の樹脂組成物が安定剤を含む場合、その含有量は0.001~1質量%であってもよい。
【0036】
酸化防止剤としては、2,5-ジ-t-ブチル-ハイドロキノン、2,6-ジ-t-ブチル-p-クレゾール、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)、2,2’-メチレン-ビス-(4-メチル-6-t-ブチルフェノール)、オクタデシル-3-(3’,5’-ジ-t-ブチル-4’-ヒドロキシフェニル)プロピオネート、4,4’-チオビス-(6-t-ブチルフェノール)等が挙げられる。
【0037】
紫外線吸収剤としては、エチレン-2-シアノ-3,3’-ジフェニルアクリレート、2-(2’-ヒドロキシ-5’-メチルフェニル)ベンゾトリアゾール、2-(2’-ヒドロキシ-3’-t-ブチル-5’-メチルフェニル)5-クロロベンゾトリアゾール、2-ヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン、2,2’-ジヒドロキシ-4-メトキシベンゾフェノン等が挙げられる。
【0038】
本発明の樹脂組成物が前記その他の成分を含む場合、本発明の樹脂組成物におけるEVOH(A)及び添加剤(B)の割合は95質量%以上が好ましく、97質量%以上がより好ましく、99質量%以上がさらに好ましい。
【0039】
本発明の樹脂組成物の製造方法は特に限定されないが、例えばEVOH(A)及び添加剤(B)を溶融条件下で混合または混練することで製造できる。溶融条件下における混合または混練は、例えばニーダールーダー、押出機、ミキシングロール、バンバリーミキサー等の既知の混合装置または混練装置を使用して行うことができる。混合または混練の時の温度は使用するEVOH(A)の融点などに応じて適宜調節すればよいが、通常160℃以上300℃以下の温度範囲内の温度を採用すればよい。
【0040】
また、本発明の樹脂組成物の融点は、溶融成形が容易になるという理由から、120℃以上が好ましく、150℃以上がより好ましい。また、本発明の樹脂組成物の融点は220℃以下が好ましく、190℃以下がより好ましい。
【0041】
<成形体>
本発明の樹脂組成物からなる成形体は、本発明の樹脂組成物が熱可塑性を有するため、一般の熱可塑性重合体に対して用いられている通常の成形加工方法や成形加工装置を用いて成形加工できる。成形加工法としては、例えば、射出成形、押出成形、プレス成形、ブロー成形、カレンダー成形、真空成形、コンプレッションモールディング成形等の任意の方法を採用できる。このような方法で製造される樹脂組成物を含む成形体の形状としては、型物、パイプ、シート、フィルム、円板、リング、袋状物、びん状物、紐状物、繊維状物等の多種多様の形状のものが包含され、フィルム状が好ましい。前記成形体は、前記樹脂組成物のみを実質的に含有していてもよい。
【0042】
本発明の成形体は、例えば単層のフィルム状の構造体として用いることができる。前記成形体の好適な用途は、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、ガソリンタンク材、タイヤ用チューブ材、化粧品用包装材、医薬用包装材、歯磨き粉用包装材、及び靴用クッション材である。
【0043】
<多層構造体>
本発明の多層構造体は、前記樹脂組成物を含む層を有する。前記樹脂組成物を含む層は前記樹脂組成物のみを実質的に含有する層であってもよい。本発明の多層構造体は、前記樹脂組成物を含む層を有することによって、耐湿性、機械的特性等を向上させることが可能である。前記多層構造体を構成する層の層数としては、2層以上であれば特に限定されないが、例えば、2層以上10層以下が好ましく、3層以上5層以下がより好ましい。
【0044】
本発明の多層構造体は、例えば、前記樹脂組成物を含む少なくとも1つの層(前記樹脂組成物層)と他の素材から構成される少なくとも1つの層とを有する。他の素材は、要求される特性、予定される用途等に応じて適宜好適なものを選択でき、例えば、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン、直鎖状低密度ポリエチレン、エチレン-プロピレン共重合体、ポリプロピレン等のポリオレフィン;エチレン-酢酸ビニル共重合体、エチレン-アクリル酸エステル共重合体、ポリスチレン、塩化ビニル樹脂、塩化ビニリデン樹脂等の熱可塑性重合体;アイオノマー等が挙げられる。
【0045】
本発明の多層構造体においては、前記樹脂組成物層と他の素材から構成される層との間に接着層又は接着剤を介在させてもよい。接着層又は接着剤を介在させることによって、その両側の2層を強固に接合一体化させることができる。接着層及び接着剤としては、ジエン系重合体の酸無水物変性物、ポリオレフィンの酸無水物変性物、高分子ポリオールとポリイソシアネート化合物との混合物等が挙げられる。但し、他の素材から構成される層がポリオレフィン層である場合には、接着層又は接着剤を介在しなくても層間接着性に優れるため、接着層又は接着剤を介在させなくてもよい。なお、前記多層構造体の多層構造形成のために、共押出、共射出、押出コーティング等の公知の方法を使用することもできる。
【0046】
本発明の多層構造体はガスバリア性と機械物性とがバランスよく優れるため、これらの性質が要求される日用品、包装材、機械部品等として使用できる。前記多層構造体の特長が特に効果的に発揮される用途の例としては、飲食品用包装材、容器用パッキング材、医療用輸液バッグ材、ガソリンタンク材、タイヤ用チューブ材、化粧品用包装材、医薬用包装材、歯磨き粉用包装材、靴用クッション材、容器、バッグインボックス用内袋材、有機液体貯蔵用タンク材、有機液体輸送用パイプ材、暖房用温水パイプ材(床暖房用温水パイプ材等)、樹脂製壁紙等が挙げられる。
【実施例
【0047】
以下、実施例により本発明をさらに説明するが、本発明はこれにより何ら限定されるものではない。
【0048】
[実施例1]
エチレン-ビニルアルコール共重合体(A)としてエチレン単位含量率44モル%、ケン化度99.9モル%、190℃におけるMFR12g/10minのEVOHを95質量部、添加剤(B1)として大阪ガスケミカル株式会社製オグソールMF-11(B1-1)を5部ドライブレンドし、ラボプラストミル(株式会社東洋精機製作所製『50M』二軸異方向)を用いて200℃で20rpmにて3分混練後、50rpmにて7分混練し、ハサミでカットすることにより5mm角の溶融ブレンド品を得た。
【0049】
[メルトフローレート(MFR)]
上記で得られた溶融ブレンド品について、メルトインデクサ(宝工業製L244)を用い、JIS K 7210:2014に準拠し温度190℃、荷重2160gの条件下で、試料の流出速度(g/10分)を測定しMFRを求めた。
【0050】
[樹脂組成物の融点(Tm)]
上記で得られた溶融ブレンド品について、JIS K7121:2012に準じて、30℃から210℃まで10℃/分の速度にて昇温した後10℃/分で50℃まで冷却して再度50℃から210℃まで10℃/分の昇温速度にて測定を実施した(島津製作所社製示差走査熱量計(DSC)「DSC-60A」)。2ndランのチャートから前記JISにしたがって融解ピーク温度(Tpm)を求め、これを樹脂組成物の融点とした。
【0051】
[フィルム作製]
上記で得られた溶融ブレンド品3gを10cm×10cmのアルミ枠内に入れ、熱プレス機(株式会社井本製作所製、型式:MH-10)を用いて200℃で10MPaの圧力で加圧することにより、厚さ300μmフィルム(以下、試料フィルムという。)を得た。
【0052】
[降伏強度、破断伸度、引張弾性率]
試料フィルムをダンベル型に切り取り、試験片とした。試料片のサイズは全長60mm、中央部長さ10mm、中央部幅4mm、厚み300μmであった。精密万能試験機(商品名:オートグラフEZ-Test、JIS B 7721:2009の0.5級及びISO 7500-1(2004)のクラス0.5に対応、株式会社島津製作所製)により、チャック間距離10mm、引張速度20mm/分の条件で、試験片について定速引張試験を行い、降伏強度、破断伸度、引張弾性率を測定した。
【0053】
[長周期、ラメラ厚、非晶厚]
試料フィルムを下記条件にて小角X線散乱装置(大型放射光施設(Spring-8)のBL40B2)を用いて、長周期、ラメラ厚、及び非晶厚を測定した。
標準試料:ベヘン酸銀
波長:1Å
露光時間:5s
【0054】
[ブリードアウト]
試料フィルムを40℃/100%RHの条件下に7日間保管し、目視によりブリードアウトを確認し、以下のように判定した。
A:ブリードアウトが発生していない。
B:ブリードアウトが発生した。
得られた測定結果を表1に示す。
【0055】
(実施例2~4、比較例1)
表1に記載される通り、添加剤の添加量、種類を変更した点以外は、実施例1と同様の方法で溶融ブレンド品(樹脂組成物)、試料フィルムを作製し評価した。結果を表1に示す。表中、添加剤(B2-1)は、メタキシレンビス-12-ヒドロキシステアリン酸アミドを表す。
【0056】
なお、実施例2、4及び比較例1の溶融ブレンド品については、下記の方法に従い、粘弾性、動的粘弾性、自由体積の測定を行い、評価結果を図1図4に示した。
[粘弾性]
得られた溶融ブレンド品の低剪断領域の溶融粘度は回転式レオメーター(AntonPaar製MCR302)を用いて下記条件で測定した。
雰囲気:窒素
測定温度:200℃
ひずみ:1.0%
[動的粘弾性]
得られた試料フィルムの動的粘度性は動的粘弾性測定装置(株式会社ユービーエム社製RHEOGEL-E4000)を用いて下記条件で測定した。
チャック間:2cm
周波数:8Hz
昇温速度:3℃/min
[自由体積]
得られた試料フィルムの自由体積は陽電子消滅寿命測定装置を用いて下記条件で測定した。
温度:23℃、真空下
陽電子源:22Na
解析ソフト:PALS Fits
【0057】
【表1】
【0058】
実施例と比較例の比較から特定の添加剤を用いることで、ブリードアウトが発生せず、引張弾性率や降伏強度の物性の低下を抑制し、効果的に流動性が向上していることがわかる。結晶化速度、長周期、低周波領域の粘弾測定から、添加剤(B1)を含む組成物は結晶化過程を遅延させるが、水素結合によるネートワーク構造は維持する特徴を有する。添加剤(B2)を含む組成物は結晶化を促進するが、溶融状態での水素結合を切断する特徴を有すると考えられる。
【産業上の利用可能性】
【0059】
本発明の用途に限定されず、例えば、食品用、医薬用、工業薬品用、農薬用等、幅広い分野に適用できる。
図1
図2
図3
図4