(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】金属粉末の製造方法及び銀被覆金属粉末の製造方法
(51)【国際特許分類】
B22F 9/08 20060101AFI20230714BHJP
B22F 1/00 20220101ALI20230714BHJP
B22F 1/14 20220101ALI20230714BHJP
C22C 9/06 20060101ALI20230714BHJP
H01B 1/00 20060101ALI20230714BHJP
H01B 1/22 20060101ALI20230714BHJP
H01B 5/00 20060101ALI20230714BHJP
H01B 13/00 20060101ALI20230714BHJP
【FI】
B22F9/08 A
B22F1/00 L
B22F1/14
C22C9/06
H01B1/00 C
H01B1/22 A
H01B5/00 C
H01B13/00 501Z
(21)【出願番号】P 2019103612
(22)【出願日】2019-06-03
【審査請求日】2022-04-04
(73)【特許権者】
【識別番号】506334182
【氏名又は名称】DOWAエレクトロニクス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100091362
【氏名又は名称】阿仁屋 節雄
(74)【代理人】
【識別番号】100161034
【氏名又は名称】奥山 知洋
(72)【発明者】
【氏名】小川 翔
(72)【発明者】
【氏名】井上 健一
(72)【発明者】
【氏名】増田 恭三
(72)【発明者】
【氏名】江原 厚志
(72)【発明者】
【氏名】道明 良幸
【審査官】松村 駿一
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-104820(JP,A)
【文献】特開2004-099992(JP,A)
【文献】特開2005-240092(JP,A)
【文献】特開2013-122077(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B22F 9/08
B22F 1/00
B22F 1/14
C22C 9/06
H01B 1/00
H01B 1/22
H01B 5/00
H01B 13/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
銅、銅及びニッケルの合金、又は、銅、ニッケル及び亜鉛の合金を加熱溶解して金属溶湯を調製
し、加熱した溶湯に還元剤を添加する溶湯調製工程と、
前記金属溶湯を落下させ、落下する金属溶湯の流れに水を圧力50~70MPaで吹き付けて金属溶湯を粉砕・凝固させて、金属の粉末を含む水スラリーを得るアトマイズ工程と、
アトマイズ工程で得られた水スラリーを固液分離して前記金属の粉末を回収する固液分離工程と、
前記金属の粉末を
乾燥させた後、ローター式風力分級装置により、ローター周速19~35m/s、供給気体の風速150~250m/sの条件で分級して、粗大粒子が除去された金属粉末を回収する分級工程と
を有する、金属粉末の製造方法。
【請求項2】
前記金属溶湯が銅及びニッケルの合金の溶湯である、請求項
1に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤はカーボン粉である、請求項1又は2に記載の金属粉末の製造方法。
【請求項4】
請求項
1~3のいずれかに記載の金属粉末の製造方法で得られた金属粉末を、銀からなる層で被覆する、銀被覆金属粉末の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、薄く平滑な導電膜を形成しうる導電性ペースト用のフィラーとして有用な銀被覆合金粉末、及びその製造原料として有用な合金粉末等に関する。
【背景技術】
【0002】
銀粉及び銅粉は、それらを含む導電性ペーストから形成される導電膜の導電性(以下単に「銀粉の導電性」のように言うことがある)に大変優れており、導電膜を形成するための導電性ペースト用のフィラーとして広く使用されている。銀粉は導電性に特に優れ、また耐酸化性に優れているといった利点を有する半面、マイグレーションを起こしやすい、コストが高いといった不利点を有している。一方銅粉は、コストが低く、マイグレーションを起こしにくいといった利点を有する反面、耐酸化性が低いといった不利点を有している。
【0003】
このような銀粉のメリット(優れた導電性や耐酸化性など)と銅粉のメリット(低コストなど)との双方を享受することを目的として、銅粒子をコア粒子として、これを銀層で被覆した銀被覆銅粉末が開発されている(例えば特許文献1)。
【0004】
このような銀被覆銅粉末について、さらに所定の用途に適した特性を付与するため、コア粒子を所定の合金粒子とする試みがなされている。例えば、特許文献2及び3は、はんだ付け性に優れた(半田によく濡れること)金属粉末として、銀被覆銅-ニッケル合金粉末を開示している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2006-161081号公報
【文献】特開2015-156083号公報
【文献】特開2018-104820号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上紹介した銀粉や銅粉、銀被覆銅粉末や銀被覆銅-ニッケル合金粉末は溶剤及び/又は樹脂中に分散させて導電性ペーストとされる。これを基板上に塗布して塗膜を形成し、塗膜を加熱して、塗膜中の樹脂を硬化させる(溶剤の少なくとも一部が揮散する)、ないし塗膜中の金属粉末を焼結させる(溶剤と樹脂ともに、少なくとも一部が揮散する)ことで導電膜が作成される。この導電膜の上には、さらに何らかの機能を有する機能層や素子が配置されるので、導電膜が平滑であることが重要である。更に近年の電子部品の小型化のニーズを考慮すると、導電膜が薄いことも重要である。
【0007】
本発明は、平滑で薄い導電膜を形成しうる導電性ペースト用のフィラーとして有用な銀被覆銅-ニッケル合金粉末及びその原料として有用な合金粉末を提供することを課題とする。
【0008】
また、金属粉末を溶剤や樹脂に分散させて導電性ペーストとするにあたり、金属粉末の粒子径が非常に小さいと、溶剤や樹脂の種類・量の調整による導電性ペーストの粘度の調整が困難となる場合がある。粘度はペーストの印刷特性において重要である。更に金属粉末の粒子径が一定以上小さくなると、金属粉末を充填したときの粉末粒子同士の空隙が小さくなり、導電性ペーストの塗膜を加熱し、金属粉末を焼結させて形成した導電膜(焼結体)中の空隙が非常に小さくなる傾向がある。導電膜中の適度な空隙は応力緩和機能を発揮して、導電膜の信頼性を高めることが知られている。
【0009】
以上の導電性ペーストとするにあたっての粘度調整の容易さや、導電膜の空隙による信頼性の観点からは、金属粉末が一定以上の粒子径を有していることが望ましい。そこで本発明は、望ましくは、粒子径が所定以上の、平滑で薄い導電膜を形成しうる導電性ペースト用のフィラーとして有用な銀被覆銅-ニッケル合金粉末及びその原料として有用な合金粉末、並びにそれらの製造に適用しうる金属粉末の製造方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
銀被覆銅-ニッケル合金粉末を含めて金属粉末は一般に粒度分布を有しており、大きさが同じ粒子の集合なのではなく、これにばらつきのある粒子の集合である。導電膜の平滑性と厚みには、このような粒度分布を持つ金属粉末の構成粒子のうち、大きさの大きいものが、強く影響する。導電性ペーストで形成された塗膜について、硬化と焼結のいずれの場合であっても、導電膜の厚みは基本的に構成粒子の大きさ以上となり、また平滑性については金属粉末の粒子形状が導電膜の表面に一定程度残ることが多いからである。
【0011】
ところが、特許文献2には、銀被覆銅-ニッケル合金粉末の粒子径について何ら記載がない。また特許文献3には、D90(レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した、体積基準の累積90%粒子径)が記載されているが、導電膜の平滑性と厚みに強く影響するのは、粉末の粒度分布においてより粒子径の大きい領域の粒子である。本発明者は鋭意検討した結果、レーザー回折式粒度分布測定装置で測定した体積基準の累積99%粒子径(D99)を17.5m以下に制御した銀被覆銅-ニッケル合金粉末が、平滑で薄い導電膜を形成しうる導電性ペースト用のフィラーとして使用できることを見出し、本発明を完成するにいたった。
【0012】
また本発明者は、銀被覆銅-ニッケル合金粉末の累積99%粒子径(D99)を17.5m以下に制御しつつ、更に累積50%粒子径(D50)を一定以上、具体的には4.5~8.0μmに制御する方法を検討した。その結果、前記銀被覆銅-ニッケル合金粉末の銀被覆の原料である銅-ニッケル合金粉末を水アトマイズ法により製造するにあたって、溶湯を粉砕する際のアトマイズ水の圧力を特定の範囲とし、且つ得られた粉末を特定の条件で風力分級することにより(そして得られた銅-ニッケル合金粉末を銀被覆することにより)、銀被覆銅-ニッケル合金粉末の累積99%粒子径(D99)及び累積50%粒子径(D50)を前記の範囲に制御することができることを見出した。
【0013】
すなわち本発明は、以下の通りである。
[1]銅及びニッケルからなる合金コア粒子の表面に銀からなる被覆層を有する銀被覆合金粉末であって、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積99%粒子径(D99)が17.5μm以下である、銀被覆合金粉末。
【0014】
[2]前記銀被覆合金粉末の、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が4.5~8.0μmである、[1]に記載の銀被覆合金粉末。
【0015】
[3]前記合金コア粒子における銅及びニッケルの合計100質量%に対して、銅の割合が20~98質量%であり、ニッケルの割合が2~80質量%である、[1]又は[2]に記載の銀被覆合金粉末。
【0016】
[4]前記銀被覆合金粉末の、累積99%粒子径(D99)からレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積10%粒子径(D10)を差し引いた値を、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)で除した値((D99-D10)/D50)が、1.20~2.60である、[1]~[3]のいずれかに記載の銀被覆合金粉末。
【0017】
[5]前記銀被覆合金粉末における銀の質量割合が、1~40質量%である、[1]~[4]のいずれかに記載の銀被覆合金粉末。
【0018】
[6]前記銀被覆合金粉末の前記累積99%粒子径(D99)が7.5μm以上である、[1]~[5]のいずれかに記載の銀被覆合金粉末。
【0019】
[7]銅及びニッケルからなる合金粉末であって、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積99%粒子径(D99)が16.5μm以下である、合金粉末。
【0020】
[8]前記合金粉末における銅及びニッケルの合計100質量%に対して、銅の割合が20~98質量%であり、ニッケルの割合が2~80質量%である、[7]に記載の合金粉末。
【0021】
[9]前記合金粉末の、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)が4.3~7.8μmである、[7]又は[8]に記載の合金粉末。
【0022】
[10]金属を加熱溶解して金属溶湯を調製する溶湯調製工程と、前記金属溶湯を落下させ、落下する金属溶湯の流れに水を圧力50~70MPaで吹き付けて金属溶湯を粉砕・凝固させて、金属の粉末を含む水スラリーを得るアトマイズ工程と、アトマイズ工程で得られた水スラリーを固液分離して前記金属の粉末を回収する固液分離工程と、前記金属の粉末をローター式風力分級装置により、ローター周速19~35m/s、供給気体の風速150~250m/sの条件で分級して、粗大粒子が除去された金属粉末を回収する分級工程とを有する、金属粉末の製造方法。
【0023】
[11]前記金属溶湯が銅溶湯、銅及びニッケルの合金の溶湯、又は銅、ニッケル及び亜鉛の合金の溶湯である、[10]に記載の金属粉末の製造方法。
【0024】
[12]前記金属溶湯が銅及びニッケルの合金の溶湯である、[10]又は[11]に記載の金属粉末の製造方法。
【0025】
[13][10]~[12]のいずれかに記載の金属粉末の製造方法で得られた金属粉末を、銀からなる層で被覆する、銀被覆金属粉末の製造方法。
【0026】
[14][1]~[6]のいずれかに記載の銀被覆合金粉末と、溶剤及び/又は樹脂とを含む導電性ペースト。
【0027】
[15]前記導電性ペースト中の銀被覆合金粉末の含有量が、50~98質量%である、[14]に記載の導電性ペースト。
【0028】
[16][1]~[6]のいずれかに記載の銀被覆合金粉末と、溶剤及び/又は樹脂とを混合する工程を有する、導電性ペーストの製造方法。
【発明の効果】
【0029】
本発明によれば、平滑で薄い導電膜を形成しうる導電性ペースト用のフィラーとして有用な銀被覆銅-ニッケル合金粉末及びその原料として有用な合金粉末が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0030】
【
図1】実施例1の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図2】実施例2の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図3】実施例3の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図4】実施例4の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図5】実施例5の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図6】実施例6の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図7】実施例7の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図8】実施例8の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図9】実施例9の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図10】比較例1の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図11】比較例2の銀被覆合金粉末を電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を示す図である。
【
図12】実施例1~9及び比較例1~2の全ての銀被覆合金粉末の粒度分布をまとめて示す図である。(a)は粒子径0.5~50μmの範囲の粒度分布を示し、(b)は粒子径10~30μmの範囲の粒度分布を示す((a)の部分的拡大図である))。
【
図13】実施例1~9の銀被覆合金粉末の粒度分布を個別に示す図である。
【
図14】比較例1~2の銀被覆合金粉末の粒度分布を個別に示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0031】
以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。なお、本明細書において「A~B」はA以上かつB以下の数値を指す。
【0032】
[銀被覆合金粉末]
<銀被覆合金粉末の構成>
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態は、銅及びニッケルからなる合金コア粒子の表面に銀からなる被覆層(以下、「銀被覆層」という)を有している。銀被覆層は銀被覆合金粉末(を含む導電性ペースト)から形成される導電膜に対して、優れた導電性や半田濡れ性を付与する。また、合金コア粒子は銅を含むために耐酸化性に劣るので、銀被覆層により合金コア粒子の耐酸化性が高まっている。銀被覆層は、必ずしも合金コア粒子の表面全体を覆っている必要はなく、合金コア粒子の一部が露出していてもよい。上記合金コア粒子において、銅は銀被覆合金粉末の優れた導電性に寄与する。ニッケルは銀被覆合金粉末に優れた半田食われ耐性(溶融した半田に導電膜が溶け出してしまうことで起こると考えられている半田食われが生じにくい性質)を付与する。
【0033】
このような銀被覆合金粉末における銀の含有量(質量割合)は、良好な導電性及び半田濡れ性の観点から、好ましくは1~40質量%であり、より好ましくは8~30質量%である。なお、銀被覆合金粉末の製造コスト等の観点からは、銀の含有量は2~12質量%であることが好ましい。また、合金コア粒子について、銅及びニッケルの合計100質量%に対して、銅の割合は、良好な導電性の観点から、好ましくは20~98質量%であり、より好ましくは45~95質量%である。前記合計100質量%に対して、ニッケルの割合は、良好な半田食われ耐性の観点から、好ましくは2~80質量%であり、より好ましくは5~55質量%である。
【0034】
銀被覆合金粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積99%粒子径(D99)は、17.5μm以下である。このように銀被覆合金粉末の粒度分布において最も大きい領域の粒子の大きさを所定サイズ以下に制御することで、当該粉末を含有する導電性ペーストを使用して、平滑で薄い導電膜を形成することができる。導電膜の厚みは基本的に銀被覆合金粉末の粒子の大きさより小さくはならず、また粉末の粒子形状に起因する導電膜の凹凸が一定程度に抑えられるからである。なお、製造コストが過度に高くなるのを防止し、銀被覆合金粉末の凝集を防止する観点から、銀被覆合金粉末の累積99%粒子径(D99)は7.5μm以上であることが好ましい。これらの観点と、平滑で薄い導電膜の形成を可能とする観点から、D99は7.8~16.0μmであることがより好ましく、8.0~14.0μmであることがさらに好ましい。
【0035】
また、銀被覆合金粉末のレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積50%粒子径(D50)は、好ましくは4.5~8.0μmである。このように累積50%粒子径(D50)を一定以上の大きさとすることで、銀被覆合金粉末を溶剤や樹脂に分散して導電性ペーストとする際に、溶剤や樹脂の種類・量の調整による粘度の調整が容易となる。更に累積50%粒子径(D50)が一定以上の大きさのため、導電性ペーストを基板に塗布して形成した塗膜を加熱して銀被覆合金粉末を焼結させて導電膜を形成したとき、その導電膜中に適度な空隙が存在する。この適度な空隙の存在により、導電膜は応力緩和能力に優れ、その結果として導電膜の信頼性が優れる。また、累積50%粒子径(D50)を8.0μm以下に制御することで、平滑で薄い導電膜の形成が容易となる。これらの観点から、銀被覆合金粉末の累積50%粒子径(D50)は、より好ましくは4.5~7.0μmであり、特に好ましくは4.5~6.0μmである。
【0036】
銀被覆合金粉末の粒度分布について、これが広いと、粉末の密な充填が起こりやすく、前記の導電膜中の適度な空隙の形成に悪影響する場合がある。そのため、銀被覆合金粉末の粒度分布はシャープであることが望ましい。具体的には、銀被覆合金粉末の、累積99%粒子径(D99)からレーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積10%粒子径(D10)を差し引いた値を、累積50%粒子径(D50)で除した値((D99-D10)/D50)が、1.20~2.60であることが好ましい。(D99-D10)/D50は、より好ましくは1.30~2.50である。
【0037】
銀被覆合金粉末の形状に特に制限はなく、球状や略球状でもよいし、粒状でもよいし、薄片状(フレーク状)でもよいし、不定形でもよい。フレーク状の銀被覆合金粉末は、当該粉末の製造条件を適宜調整することで製造できるし、また、球状の銀被覆合金粉末をボールミルなどで機械的に塑性変形させて扁平化することにより製造することもできる。
【0038】
銀被覆合金粉末のBET1点法により測定した比表面積BET(m2/g)は、良好な導電性を発揮する観点から、好ましくは0.08~1.2m2/gであり、より好ましくは0.15~1.0m2/gであり、特に好ましくは0.20~0.90m2/gである。
【0039】
銀被覆合金粉末のTAP密度は、粉末の充填密度を適度に高めて良好な導電性を発揮する観点から、好ましくは3.0~7.5g/cm3であり、より好ましくは3.5~7.0g/cm3であり、さらに好ましくは4.0~6.5g/cm3である。
【0040】
銀被覆合金粉末における合金コア粒子はその製造原料や製造工程に使用される装置・物質の影響などで、あるいは所定の機能を発揮させるために意図的に添加されることで、微量の不純物を含み得る。不純物の例としては、鉄、ナトリウム、カリウム、カルシウム、パラジウム、マグネシウム、酸素、炭素、窒素、リン、ケイ素、塩素が挙げられる。酸素と炭素を除いた不純物の銀被覆合金粉末における含有量は、合計で通常0.2質量%以下である(通常10ppm以上である)。
【0041】
不純物の中でも酸素は銀被覆合金粉末の導電性に悪影響を与えるものと考えられる。この点から、銀被覆合金粉末の酸素量は好ましくは0.05~1.00質量%であり、より好ましくは0.05~0.80質量%である。
【0042】
また、炭素は導電性ペーストから形成された導電膜の硬化/焼結の際に二酸化炭素などのガスの発生源となり、ガス発生により導電膜とそれが接する層(基板など)の密着性が悪化する場合があるので、銀被覆合金粉末における炭素量は少ないことが好ましい。具体的には、炭素量は好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である(通常0.001質量%以上である)。また、下記で述べるとおり銀被覆合金粉末は各種の表面処理剤で表面処理されていてもよい。その場合の銀被覆合金粉末の炭素量は、洗浄や加熱により表面処理剤を除去してから測定するものとする。
【0043】
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態には、後述する導電性ペースト中での分散性を向上させることで導電性ペーストの印刷特性を高め、また耐酸化性を付与して、導電性の経時変化を低下させるために、表面処理剤による表面処理が施されていてもよい。表面処理剤としては、脂肪酸及びトリアゾール化合物が好ましい。この脂肪酸として、酪酸、吉草酸、カプロン酸、エナント酸、カプリル酸、ペラルゴン酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、ペンタデシル酸、パルミチン酸、パルミトレイン酸、マルガリン酸、ステアリン酸、オレイン酸、バクセン酸、リノール酸、リノレン酸、アラキジン酸、エイコサジエン酸、エイコサトリエン酸、エイコサテトラエン酸、アラキドン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸、ネルボン酸、セロチン酸、モンタン酸、メリシン酸などを使用することができる。上記トリアゾール化合物の例としては、ベンゾトリアゾールが挙げられる。
【0044】
表面処理剤の添加量は、(表面処理されていない)銀被覆合金粉末100質量部に対して、0.1~7質量部であるのが好ましく、0.3~6質量部であるのがさらに好ましく、0.3~5質量部であるのが最も好ましい。
【0045】
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態の、Lab表色系におけるa*値は、合金コア粒子の表面をどの程度銀被覆層が被覆しているか(合金コア粒子の露出の程度)の尺度となり得るものである。前記銀被覆合金粉末のa*値は、―1.0~2.5であることが好ましく、0.0~1.5であることがより好ましい。なお本明細書においてa*値は、測定試料として銀被覆合金粉末5gを秤量して直径30mmの丸セルに入れ、10回タッピングして表面を平らにし、色差計を使用して、SCE(正反射光除去)モードで測定することで求めるものとする。
【0046】
[合金粉末]
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態は、所定の銅-ニッケル合金粉末を銀からなる層で被覆することで製造できる。一般にTAP密度などの粉末の物性は、銀被覆の前後では大きく変わらず、それゆえ以上説明した銀被覆合金粉末と同様の物性を備えた銅-ニッケル合金粉末は、前記銀被覆合金粉末の製造原料として有用である。なお粒子径については、銀被覆により若干大きくなる傾向がある。
【0047】
すなわち、本発明の合金粉末の実施の形態(前記銅-ニッケル合金粉末)は、銅及びニッケルからなる合金粉末であって、レーザー回折式粒度分布測定装置により測定した体積基準の累積99%粒子径(D99)が16.5μm以下である。合金粉末における銅及びニッケルの合計100質量%に対して、銅の割合は好ましくは20~98質量%であり、より好ましくは45~95質量%である。前記合計100質量%に対して、ニッケルの割合は好ましくは2~80質量%であり、より好ましくは5~55質量%である。合金粉末の累積99%粒子径(D99)は、7.3μm以上であることが好ましい。また、累積99%粒子径(D99)は7.6~16.0μmであることがより好ましく、7.8~13.8μmであることがさらに好ましい。合金粉末の累積50%粒子径(D50)は、好ましくは4.3~7.8μmであり、より好ましくは4.3~6.8μmであり、特に好ましくは4.3~5.8μmである。合金粉末の、累積99%粒子径(D99)から累積10%粒子径(D10)を差し引いた値を、累積50%粒子径(D50)で除した値((D99-D10)/D50)が、1.20~2.60であることが好ましく、1.30~2.50であることがより好ましい。合金粉末の形状に特に制限はなく、球状や略球状でもよいし、粒状でもよいし、薄片状(フレーク状)でもよいし、不定形でもよい。合金粉末のBET1点法により測定した比表面積BET(m2/g)は、好ましくは0.08~1.2m2/gであり、より好ましくは0.15~1.0m2/gであり、特に好ましくは0.20~0.90m2/gである。合金粉末のTAP密度は、好ましくは3.0~7.5g/cm3であり、より好ましくは3.5~7.0g/cm3であり、さらに好ましくは4.0~6.5g/cm3である。合金粉末は、鉄、ナトリウム、カリウム、カルシウム、パラジウム、マグネシウム、酸素、炭素、窒素、リン、ケイ素、塩素などの不純物を含み得る。酸素と炭素を除いた不純物の合金粉末における含有量は、合計で通常0.2質量%以下である(通常10ppm以上である)。合金粉末の酸素量は好ましくは0.05~1.00質量%であり、より好ましくは0.05~0.8質量%である。合金粉末の炭素量は好ましくは0.3質量%以下であり、さらに好ましくは0.1質量%以下である(通常0.001質量%以上である)。
【0048】
[銀被覆合金粉末の製造方法1]
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態は、公知の方法により、銅及びニッケルからなる合金コア粒子の表面に銀からなる被覆層を有する、任意の粒度分布の銀被覆合金粉末を製造し、その累積99%粒子径(D99)が17.5μm以下になるように公知の分級手段で分級することで、製造できる。あるいは、銀被覆の原料となる、任意の粒度分布の銅-ニッケル合金粉末を公知の手段で製造し、この合金粉末の累積99%粒子径(D99)が16.5μm以下になるように公知の分級手段で分級し、得られた合金粉末を銀被覆することによっても、前記銀被覆合金粉末を製造できる。
【0049】
[銀被覆合金粉末の製造方法2]
上述した通り、累積99%粒子径(D99)が17.5μm以下であり、累積50%粒子径(D50)が4.5~8.0μmである銀被覆合金粉末は、平滑で薄い導電膜の形成が可能であり、しかも、導電性ペーストとする際の粘度の調整が容易であり、また導電性ペーストから形成された導電膜中には適度な空隙が形成されて良好な信頼性を示す。以下、このような銀被覆合金粉末を製造する方法について説明する。
【0050】
<金属粉末の製造方法>
前記の銀被覆合金粉末を製造するためには、その製造原料である銅-ニッケル合金粉末として、累積99%粒子径(D99)が16.5μm以下であり、累積50%粒子径(D50)が4.3~7.8μmであるものを製造することが重要である。これを公知の手段で銀被覆することで、前記の銀被覆合金粉末を製造する。
【0051】
本発明者は前記の銅-ニッケル合金粉末の製造方法を創作したが、この製造方法は、広く同様な粒度分布を有する各種の金属粉末の製造に適用可能である。累積99%粒子径(D99)と累積50%粒子径(D50)が前記の範囲に制御された各種金属粉末は、平滑で薄く信頼性の高い導電膜を形成するための導電性ペースト用のフィラーなどとして有用である。導電性ペースト用のフィラー用途に好適な金属としては、元素周期表第2族から第15族の元素のうちの1種以上が挙げられ、好ましくはAu、Ag、Cu、Pd、Ni、Co、Al、Si、P、B、Ti、Cr、Fe、Zn、In、Sn、Te、Bi、Mg、Mnのうちの1種以上である。
【0052】
以下、累積99%粒子径(D99)と累積50%粒子径(D50)が前記の範囲に制御された金属粉末の製造方法について説明する。本発明の金属粉末の製造方法の実施の形態は、溶湯調製工程と、アトマイズ工程と、固液分離工程と、分級工程とを有する。以下、各工程について説明する。
【0053】
(溶湯調製工程)
まず、金属を加熱溶解して金属溶湯を調製する。前記加熱の温度(溶湯の温度)は、金属単体の溶湯とするのであれば、その金属の融点以上の温度(好ましくは金属の融点より20~600℃高い温度であり、より好ましくは金属の融点より50~550℃高い温度)である。一方複数種類の金属を原料に加熱溶解して合金の溶湯を調製する場合には、その合金の融点以上の温度である。なお、金属粉末の生産性の観点からは、溶湯調製の際の加熱温度は、好ましくは合金となる金属のうち最も融点の高いものの融点より20~600℃高い温度であり、より好ましくは融点が最も高い金属の融点より50~550℃高い温度である。
【0054】
金属粉末を導電性ペースト用途に用いる場合、前記溶湯は好ましくは、銅溶湯、銅及びニッケルの合金の溶湯、銅、ニッケル及び亜鉛の合金の溶湯であり、本発明の銀被覆合金粉末の製造原料となる合金粉末を製造するためには、銅及びニッケルの合金の溶湯とする。なお、合金溶湯とする場合には、溶湯中の各構成金属の仕込み量を調整することによって、得られる合金粉末中の各構成金属の割合を調整することができる。
【0055】
溶湯調製工程では、溶湯への酸素の混入を抑制する観点から、非酸化性ガス(He、ArやN2などの不活性ガス、H2やCOなどの還元性ガス)雰囲気下で溶湯を調製してもよい。また、溶湯には所定の目的で種々の微量添加元素を添加してもよい。
【0056】
(アトマイズ工程)
アトマイズ工程では、溶湯調製工程で調製された金属溶湯を落下させ、落下する金属溶湯の流れに水(以下、アトマイズ水ともいう)を所定の圧力で吹き付けて、金属溶湯を粉砕・凝固させて、金属の粉末を含む水スラリーを得る。本発明の金属粉末の製造方法の実施の形態では、得られる金属粉末の累積50%粒子径(D50)が4.3~7.8μmとなるようにするため、アトマイズ水の圧力を50~70MPaとする。これより水圧が高いと、より微細な金属粉末が得られ、これを、累積99%粒子径(D99)が16.5μm以下になるように分級すると累積50%粒子径(D50)が4.3μm未満となってしまう。反対にアトマイズ水の圧力が50MPa未満であると、累積50%粒子径(D50)が7.8μm以下の金属粉末を製造することが困難である。このように粒子径を適切な範囲に制御する観点から、アトマイズ水の圧力は好ましくは52~69MPaであり、より好ましくは56~68MPaである。
【0057】
アトマイズ工程は大気中や、アルゴン、窒素、一酸化炭素、水素などの非酸化性雰囲気中において実施することができる。非酸化性雰囲気中で本工程を実施すると、酸化を受けやすい金属の酸化を防止することができると考えられる。
【0058】
(固液分離工程)
アトマイズ工程で得られた水スラリーを固液分離して、金属の粉末を回収する。回収した粉末は乾燥してもよいし、乾燥の前に水洗してもよい。また、乾燥した後に解砕して粒度を調整してもよい。
【0059】
(分級工程)
固液分離工程で回収し、必要に応じて乾燥等を行った金属の粉末を、ローター式風力分級装置により、ローター周速19~35m/s、供給気体の風速150~250m/sの条件で分級して、粗大粒子が除去された金属粉末を回収する。風速とはローターに吸引される箇所での風速とする。
【0060】
ローター式風力分級装置は、その中でローターが回転し、かつローターの回転により発生する遠心力と反対方向の抗力が生じるように気体(金属粉末と反応性を有しないものであり、代表的には空気である)が供給されているチャンバーに粉末を投入し、遠心力が大きく働く粗大粒子と気体抗力が大きく働く微細粒子とを分ける装置である。
【0061】
アトマイズ工程において、特定の圧力でアトマイズ水を金属溶湯に吹き付けて大きめの金属の粉末を得ておき、そして本分級工程においてそこから粗大粒子をふるい分け除去することによって、前記微細粒子としての、累積99%粒子径(D99)と累積50%粒子径(D50)が上記範囲に制御された金属粉末を得ることができる。
【0062】
粗大粒子を適切に除去する観点からは、ローターの周速を20~32m/sに設定し、供給気体の風速を160~230m/sに設定することが好ましい。なおローターは一般的に中心軸に羽根がついた構造であり、ローターの周速は、羽根の中心軸から最も離れた個所の速度である。
【0063】
<銀被覆合金粉末の製造(銀による被覆)>
本発明の金属粉末の製造方法の実施の形態により、累積99%粒子径(D99)と累積50%粒子径(D50)が所定の範囲に制御された銅-ニッケル合金粉末(銅及びニッケルからなる合金粉末)を製造し、これを銀からなる層(銀被覆層)で被覆する。これにより、累積99%粒子径(D99)と累積50%粒子径(D50)が所定の範囲に制御された(すなわち(D99)が17.5μm以下であり(D50)が4.5~8.0μmである)銀被覆合金粉末を製造することができる。
【0064】
この銀被覆層を形成する方法として、合金粉末の構成金属と銀の置換反応を利用した置換法や、還元剤を用いる還元法により、合金粉末の表面に銀または銀化合物を析出させる方法を使用することができる。上記置換法では、例えば、溶媒中に合金粉末と銀または銀化合物を含む溶液を攪拌することで、合金粉末の粒子表面に銀または銀化合物を析出させる方法を採用できる。さらに、溶媒中に合金粉末および有機物(例えば後述のキレート化剤)を含む溶液1と、溶媒中に銀または銀化合物および有機物(例えば後述のキレート化剤)を含む溶液2とを混合して攪拌することで、合金粉末の粒子表面に銀または銀化合物を析出させる方法を採用できる。
【0065】
置換法や還元法に使用する溶媒としては、水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒を使用することができる。水と有機溶媒を混合した溶媒を使用する場合には、室温(20~30℃)において液体になる有機溶媒を使用する必要があるが、水と有機溶媒の混合比率は、使用する有機溶媒により適宜調整することができる。また、溶媒として使用する水は、不純物が混入するおそれがなければ、蒸留水、イオン交換水、工業用水などを使用することができる。
【0066】
銀被覆層の原料として、銀イオンを溶液中に存在させる必要があるため、水や多くの有機溶媒に対して高い溶解度を有する硝酸銀を使用するのが好ましい。また、銀被覆反応をできるだけ均一に行うために、固体の硝酸銀ではなく、硝酸銀を溶媒(水、有機溶媒またはこれらを混合した溶媒)に溶解した硝酸銀溶液を使用するのが好ましい。なお、使用する硝酸銀溶液の量、硝酸銀溶液中の硝酸銀の濃度および有機溶媒の量は、目的とする銀被覆層の量に応じて決定することができる。
【0067】
銀被覆層をより均一に形成するために、溶液中にキレート化剤を添加してもよい。キレート化剤としては、銀イオンと合金粉末との置換反応により副生成する銅イオンなどが再析出しないように、銅イオンなどに対して錯安定度定数が高いキレート化剤を使用するのが好ましい。特に、銀被覆合金粉末の合金コア粒子は主構成要素として銅を含んでいるので、銅との錯安定度定数に留意してキレート化剤を選択するのが好ましい。具体的には、キレート化剤として、エチレンジアミン四酢酸(EDTA)、イミノジ酢酸、ジエチレントリアミン、トリエチレンジアミンおよびこれらの塩からなる群から選ばれた少なくとも一種のキレート化剤を使用することができる。
【0068】
銀被覆反応を安定かつ安全に行うために、溶液中にpH緩衝剤を添加してもよい。このpH緩衝剤として、炭酸アンモニウム、炭酸水素アンモニウム、アンモニア水、炭酸水素ナトリウムなどを使用することができる。
【0069】
銀被覆反応の際には、銀塩を添加する前に溶液中に合金粉末を入れて攪拌し、合金粉末が溶液中に十分に分散している状態で、銀塩を含む溶液を添加するのが好ましい。この銀被覆反応の際の反応温度は、反応液が凝固または蒸発する温度でなければよいが、好ましくは15~80℃、さらに好ましくは20~75℃、最も好ましくは20~70℃の範囲で設定する。また、反応時間は、銀または銀化合物の被覆量や反応温度によって異なるが、1分~5時間の範囲で設定することができる。
【0070】
以上説明した銀被覆は、銅-ニッケル合金粉末に限らず、本発明の金属粉末の製造方法により製造されたその他の金属粉末に対しても、銀被覆金属粉末の製造方法として好適に適用することができる。
【0071】
<表面処理>
本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態(上記の銀被覆合金粉末の製造方法1や2により製造されたもの)には、前述のとおり耐酸化性を向上させるなどのために、表面処理を施してもよい。表面処理は銀被覆合金粉末と表面処理剤とを混合して行ってもよいし、銀被覆合金粉末のスラリーに表面処理剤を添加、混合して行ってもよい。
【0072】
[導電性ペースト]
次に、本発明の導電性ペーストの実施の形態について説明する。当該導電性ペーストは上記銀被覆合金粉末と、溶剤及び/又は樹脂とを含む。導電性ペーストに使用可能な溶剤としては各種の有機溶剤が挙げられる。樹脂の例としては熱可塑性樹脂及び硬化性樹脂が挙げられる。導電性ペーストが、加熱により樹脂を硬化させる樹脂硬化タイプの場合には、導電性ペーストは硬化性樹脂(熱硬化性樹脂と光硬化性樹脂がある)を必須成分として含む。
【0073】
本発明の導電性ペーストの実施の形態においては、本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態に該当する、粒径や形状その他の点で種類の異なる2種以上の銀被覆合金粉末を組み合わせて使用してもよい。導電性ペーストにおける銀被覆合金粉末の含有量は、適切な導電性等の特性を有する導電膜を形成可能とする観点から、好ましくは50~98質量%であり、より好ましくは70~97質量%である。
【0074】
溶剤及び/又は樹脂の、導電性ペースト中の含有割合は、合計で、好ましくは0.5~49質量%であり、より好ましくは1~29質量%である。
【0075】
本発明の導電性ペーストの実施の形態には、求められる特性に応じて、本発明の効果を損なわない範囲で、銅粉、銀粉、アルミニウム粉、ニッケル粉、亜鉛粉、錫粉、ビスマス粉及びリン粉などの、本発明の銀被覆合金粉末の実施の形態以外の金属粉末を添加してもよい。導電性ペースト中の上記金属粉末の含有量は、好ましくは1~48質量%であり、より好ましくは1~28質量%である。また、上記金属粉末は、1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0076】
導電性ペースト中における、銀被覆合金粉末と金属粉末の合計含有量は、適切な導電性等の特性を発揮する観点から、好ましくは51~99質量%であり、より好ましくは71~98質量%である。
【0077】
本発明の導電性ペーストの実施の形態には、当該ペーストを加熱により硬化させる場合、硬化させるため又は硬化を促進するため、熱重合開始剤を添加してもよい。また、硬化を促進するため、ポリアミン、酸無水物、三ハロゲン化ホウ素化合物、イミダゾール化合物などの硬化剤を添加してもよい。これらは1種単独で使用しても、2種以上を組み合わせて使用してもよい。
【0078】
また、本発明の導電性ペーストの実施の形態を光重合させる場合には、導電性ペースト中に光重合開始剤を含有させる。光重合開始剤としては、通常、光ラジカル発生剤や光カチオン重合開始剤が用いられる。これらの光重合開始剤は1種単独で用いても、2種以上を併用してもよい。
【0079】
本発明の導電性ペーストの実施の形態には、必要に応じて、界面活性剤、分散剤、安定化剤、可塑剤や、金属酸化物粉末などの添加剤を添加してもよい。
【0080】
以上説明した導電性ペーストの調製方法は特に制限されるものではなく、銀被覆合金粉末と、溶剤及び/又は樹脂とを公知の方法で混合すればよい。より具体的な方法としては、導電性ペーストの各構成要素を計量して所定の容器に入れ、混練脱泡機、らいかい機、万能攪拌機、ニーダーなどを用いて予備混練した後、3本ロールで本混練することによって導電性ペーストを調製することができる。また、必要に応じて、その後、有機溶剤(例えばテキサノール(2,2,4-トリメチル-1,3-ペンタンジオール2-メチルプロパノアート)、ターピネオール、カルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート)、エチレングリコール、ジブチルアセテート又はジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート)を導電性ペーストに添加して、粘度調整を行ってもよい。
【0081】
本発明の導電性ペーストの実施の形態のE型粘度計により25℃で31s-1にて測定した粘度は、導電性ペーストの印刷性等の観点から、80~200Pa・sであることが好ましい。
【実施例】
【0082】
以下、本発明を実施例及び比較例によって、より詳細に説明するが、本発明はこれらにより何ら限定されるものではない。
【0083】
[実施例1]
<合金粉末の製造>
大気雰囲気下、タンディッシュ炉中で銅36kgとニッケル4kgを1300℃に加熱した溶湯に還元剤としてカーボン粉を添加し、その溶湯をタンディッシュ炉下部から落下させながら、水アトマイズ装置により大気中で高圧水(水圧:56.7MPa、水量:160L/分、pH:10)を吹付けて粉砕・凝固させ、得られた合金粉末をろ過し、水洗し、乾燥し、解砕して、合金粉末(銅-ニッケル合金粉末)を得た。
【0084】
上記で得た合金粉末に対して、ローター式風力分級装置(クラッシール_N-01型(株式会社セイシン企業製))により、ローター周速20.9μm、供給空気の風速170m/sの条件で風力分級を行い、粗大粒子を除去した合金粉末を得た。
【0085】
<銀被覆反応>
EDTA-2Na二水和物0.17kgと炭酸アンモニウム0.17kgを純水1.9kgに溶解した溶液(溶液1)と、EDTA-2Na二水和物0.37kgと炭酸アンモニウム0.18kgを純水1.5kgに溶解した溶液に、硝酸銀0.06kgを純水0.19kgに溶解した溶液を加えて得られた溶液(溶液2)を用意した。
【0086】
次に、窒素雰囲気下において、被覆する合金コア粒子の粉末として、得られた上記合金粉末0.35kgを溶液1に加えて、攪拌しながら25℃まで昇温させた。この合金粉末が分散した溶液に溶液2を加えて1時間攪拌した後、ろ過し、水洗し、乾燥して、銀により被覆された合金粉末を得た。
【0087】
[特性評価]
上記実施例1で得られた合金粉末について、粒度分布、比表面積BET、TAP密度、酸素量、炭素量を求めた。また実施例1で得られた銀被覆合金粉末について、粒度分布、比表面積BET、TAP密度、酸素量、炭素量、当該粉末全体における銀の質量割合、銀被覆合金粉末における銅とニッケルの合計に対する各金属元素の質量割合、銀被覆合金粉末の色差を求めた。より詳細には、以下のようにして各特性の測定を行った。
【0088】
[粒度分布]
レーザー回折式粒度分布測定装置(SYMPATEC社製のへロス粒度分布測定装置(HELOS&RODOS(気流式の分散モジュール)))を使用して、分散圧5barで、合金粉末及び銀被覆合金粉末の体積基準の粒度分布を求めた。
【0089】
[比表面積BET]
合金粉末及び銀被覆合金粉末の比表面積BETは、BET比表面積測定器(株式会社マウンテック製のMacsorb)を使用して、測定器内に105℃で20分間窒素ガスを流して脱気した後、窒素とヘリウムの混合ガス(N2:30体積%、He:70体積%)を流しながら、BET1点法により測定した。
【0090】
[TAP密度]
合金粉末及び銀被覆合金粉末のTAP密度(TAP)は、特開2007-263860号公報に記載された方法と同様に、それぞれの粉末を内径6mm×高さ11.9mmの有底円筒形のダイに容積の80%まで充填して粉末層を形成し、この粉末層の上面に0.160N/m2の圧力を均一に加え、この圧力で粉末がこれ以上密に充填されなくなるまで前記粉末層を圧縮した後、粉末層の高さを測定し、この粉末層の高さの測定値と、充填された粉末の重量とから、粉末の密度を求め、これをそれぞれの粉末のTAP密度とした。
【0091】
[酸素量]
合金粉末及び銀被覆合金粉末の酸素量は、酸素・窒素・水素分析装置(株式会社堀場製作所製のEMGA-920)により測定した。
【0092】
[炭素量]
合金粉末及び銀被覆合金粉末中の炭素量は、炭素・硫黄分析装置(株式会社堀場製作所製のEMIA-22V)により測定した。
【0093】
[銀の質量割合]
銀被覆合金粉末を硝酸で溶解した後、塩酸を添加して生成した塩化銀(AgCl)の沈殿を乾燥し、重量を測定することにより求めた。
【0094】
[銅とニッケルの合計に対する各金属元素の質量割合]
銀被覆合金粉末(約2.5g)を塩化ビニル製リング(内径3.2cm×厚さ4mm)内に敷き詰めた後、錠剤型成型圧縮機(株式会社前川試験製作所製の型番BRE-50)により、100kNの荷重をかけて銀被覆合金粉末のペレットを作製し、このペレットをサンプルホルダー(開口径3.0cm)に入れて蛍光X線分析装置(株式会社リガク製のRIX2000)内の測定位置にセットし、測定雰囲気を減圧下(8.0Pa)とし、X線出力を50kV、50mAとした条件で測定した結果から、装置に付属のソフトウェアで自動計算することによって求めた。
【0095】
[色差]
測定試料として銀被覆合金粉末5gを秤量して直径30mmの丸セルに入れ、10回タッピングして表面を平らにし、色差計(日本電色工業株式会社製のSpectro Color Meter SQ2000)によってSCEモードにて測定した。
【0096】
[実施例2~9及び比較例1~2]
合金粉末の製造において、アトマイズ水の圧力及び風力分級条件を下記表2に示すように変更した以外は、実施例1と同様にして合金粉末及び銀被覆合金粉末を製造した。得られた合金粉末について、実施例1と同様にして粒度分布、比表面積BET、TAP密度、酸素量、炭素量を求めた。得られた銀被覆合金粉末について、実施例1と同様にして粒度分布、比表面積BET、TAP密度、酸素量、炭素量、当該粉末全体における銀の質量割合、銀被覆合金粉末における銅とニッケルの合計に対する各金属元素の質量割合、銀被覆合金粉末の色差を求めた。
【0097】
以上の、合金粉末の製法条件及び特性評価結果を下記表1に、銀被覆合金粉末の特性評価結果を下記表2に示す。また、実施例1~9及び比較例1~2の銀被覆合金粉末について、電界放出型走査電子顕微鏡(SEM)によって倍率1000倍で観察した結果を
図1~11に示す。更に、これらの銀被覆合金粉末の粒度分布を
図12~14に示す。
図12は実施例1~9及び比較例1~2の全ての銀被覆合金粉末の粒度分布をまとめて示したものであり、
図13及び14は、それぞれ実施例1~9及び比較例1~2の銀被覆合金粉末の個別の粒度分布を示す。
【0098】
【0099】