(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-13
(45)【発行日】2023-07-24
(54)【発明の名称】光ファイバ用ガラス母材の延伸方法
(51)【国際特許分類】
C03B 37/012 20060101AFI20230714BHJP
【FI】
C03B37/012 Z
(21)【出願番号】P 2020138370
(22)【出願日】2020-08-19
【審査請求日】2022-07-28
(73)【特許権者】
【識別番号】000002060
【氏名又は名称】信越化学工業株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108143
【氏名又は名称】嶋崎 英一郎
(72)【発明者】
【氏名】三田 怜
【審査官】須藤 英輝
(56)【参考文献】
【文献】特開2020-055722(JP,A)
【文献】特開2015-205798(JP,A)
【文献】特開2012-076989(JP,A)
【文献】特開2009-001471(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C03B 37/012
C03B 23/047
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数の延伸ステップを経て、光ファイバ用ガラス母材を最終目標径に延伸加工する光ファイバ用ガラス母材の延伸方法であって、最終延伸ステップの前段階の光ファイバ用ガラス母材が、
該最終延伸ステップの前段階の光ファイバ用ガラス母材の有効部を長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から、yを外径、xを長さとして、最小二乗法でy=ax+bの回帰直線を求めた際の、得られた傾きaの絶対値が0.005mm/mm以下であり、かつ、前記得られた外径測定の結果の、任意の地点での外径の曲率の絶対値の最大値が、0.003以下であるように延伸してなることを特徴とする光ファイバ用ガラス母材の延伸方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、光ファイバ用ガラス母材の延伸方法に関する。
【背景技術】
【0002】
光ファイバ用ガラス母材は、例えば、VAD法やOVD法などによって製造される。この方法は、ガラス原料の四塩化珪素などを酸素、水素ガスとともにバーナーに供給して火炎加水分解反応を起こさせ、生じたガラス微粒子を出発基材上に堆積させて多孔質ガラス母材を形成し、これを脱水、透明ガラス化を行うものである。こうして得られた光ファイバ用ガラス母材は略円筒形状となっており、これを線引機に対応した平均外径、外径変動、長さに加工した後、線引機によって線引きすることにより、光ファイバが得られる。
【0003】
加工前のガラス母材は略円筒形状となっているが、長手方向に外径変動が存在する。外径変動の大きな母材を線引きすると、線引機の母材挿入口のクリアランスが変化し、その影響を受けて線引機の炉内の気流が変わるため、得られる光ファイバの品質特性に悪影響を及ぼす。また、VAD法で製造された光ファイバ用ガラス母材を、略一定の外径に延伸して、OVD法の芯材として供し、更に大径の光ファイバ用ガラス母材を得る方法もある。
この場合、芯材に外径変動が存在すると、大径の光ファイバ用ガラス母材の長手方向の光学特性が不均一になり、これを線引きして得られる光ファイバの品質特性に悪影響を及ぼす。これらのことから、母材の仕上がり外径が長手方向にできる限り均一になるように延伸加工して、後工程に供することが望ましい。つまり、外径が太い箇所では縮径量を増やし、外径が小さい箇所では縮径量を少なくして、外径変動の小さい母材に仕上げる。
【0004】
上記のようなガラス母材の延伸加工には、ガラス旋盤や電気炉がよく用いられる。これらの装置は、一般的に、ガラス母材を加熱して軟化させる加熱源と、ガラス母材、もしくはガラス母材に接続されたダミー棒を把持するチャックと、加熱源もしくはチャックを移動させることで軟化したガラス母材を縮径させる機構とからなっている。
【0005】
しかしながら、加工前のガラス母材には、長手方向全体に大きな外径変動がある場合や、比較的短い区間で局所的な外径変動がある場合があり、このようなケースでは、加工後の仕上がり母材の外径変動も大きくなることが多かった。
特に、VAD法もしくはOVD法で製造したガラス微粒子堆積体は、基本的に直胴部と両端のテーパー部からなる。これを、一方のテーパー部を鉛直下側にして、加熱炉の中に進めていき、一端から順次焼結して透明なガラスにすることで、光ファイバ用ガラス母材を得る方法が一般的に行われている。この透明ガラス化の際、焼結されたガラスが下方から次第に上方に盛り上がっていくことで、特に焼結中下側のテーパー部と直胴部の境界付近で、局所的に曲率の絶対値が大きくなるという外径変動を生じたり、更に下側のテーパー部付近が太く、上側のテーパー部付近に向けて細くなっていくという外径の傾きが発生したりする。
【0006】
このような光ファイバ用ガラス母材を、延伸前の元形状のガラス母材とし、これを一定外径に延伸加工し、後工程に供している。特に、延伸前の元形状のガラス母材は、前述のように局所的な外径変動や長手方向への外径の傾きを有するため、それらを一律に一定外径に延伸加工しようとすると、延伸後でも局所的な外径変動や長手方向への外径の傾きが残ってしまう。これに対応するためには、外径変動が小さくなるまで繰り返し延伸ステップを行う必要がある。
【0007】
例えば、特許文献1では、必要に応じて延伸ステップを複数回繰り返すことにより、縮径量が大きかったり、局所外径変動を有している光ファイバ用ガラス母材を効率よく延伸する方法が開示されている。
しかし特許文献1に開示されている方法では、局所外径変動が大きな光ファイバ用ガラス母材に対しては、当該局所外径変動が小さくなるまで繰り返し延伸ステップを行う必要がある。これは加工時間と資材の無駄になるだけでなく、光ファイバ用ガラス母材表面のシリカが延伸を繰り返すことで蒸散していき、光学特性が本来設計していたものからずれる可能性があるため、好ましくない。このため、複数回の延伸ステップを繰り返す場合でも、各ステップにおいて、光ファイバ用ガラス母材の局所外径変動は小さいことが望ましい。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、局所的な外径変動や長手方向への外径の傾きを有する延伸加工前のガラス母材を、数少ない延伸ステップで最終目標径に延伸加工が容易で、不必要な延伸ステップの追加を必要としない光ファイバ用ガラス母材の延伸方法を提供することを目的としている。
【課題を解決するための手段】
【0010】
削除
【0011】
本発明の光ファイバ用ガラス母材の延伸方法は、複数の延伸ステップを経て、光ファイバ用ガラス母材を最終目標径に延伸加工する光ファイバ用ガラス母材の延伸方法であって、最終延伸ステップの前段階の光ファイバ用ガラス母材が、該最終延伸ステップの前段階の光ファイバ用ガラス母材の有効部を長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から、yを外径、xを長さとして、最小二乗法でy=ax+bの回帰直線を求めた際の、得られた傾きaの絶対値が0.005mm/mm以下であり、かつ、前記得られた外径測定の結果の、任意の地点での外径の曲率の絶対値の最大値が、0.003以下であるように延伸してなることを特徴としている。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、元形状のガラス母材が有する局所的な外径変動や長手方向への外径の傾きを残すように延伸したガラス母材では、延伸制御が簡便であるため、複数の延伸装置にわたって、局所的な径変動を残さない延伸が可能になる。そのため、不必要な延伸ステップの追加が必要なくなり、工程時間の短縮が可能となった。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【
図2】元形状の光ファイバ用ガラス母材を一度延伸して得られたガラス母材の外径測定結果の一例を示し、光ファイバ用ガラス母材の長手方向の外径及び曲率と、最小二乗法で求めた回帰直線を示す図である。
【
図3】
図2で用いた光ファイバ用ガラス母材の延伸前の元形状の光ファイバ用ガラス母材の外径測定結果を示したものであり、光ファイバ用ガラス母材の長手方向の外径及び曲率と、最小二乗法で求めた回帰直線を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
鋭意検討の結果、問題となっている光ファイバ用ガラス母材の局所外径変動は、延伸前の元形状のガラス母材の形状に由来することを見い出した。元形状のガラス母材が有する局所的な外径変動や長手方向への外径の傾きに対して、それらを一定外径に延伸しようとすると、緻密な延伸制御が必要になる。複数の延伸装置を使用する場合、加熱源の供給状態などによって、加熱状況に微妙な違いが生じるため、特定の延伸装置では、ある程度良好な外径が得られたとしても、他の延伸装置では、逆に局所的な外径変動が強調されることがあった。
【0015】
そこで、本発明においては、最終径に延伸する前のステップで、均一な外径に延伸しようとするのではなく、ガラス母材の有効部を長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から、yを外径、xを長さとして、最小二乗法でy=ax+bの回帰直線を求め、得られた傾きaの絶対値が0.005mm/mm以下になるように延伸すると、簡易な延伸制御で、局所的な外径変動を発生させることがなくなり、容易に最終延伸加工に供することが可能となる。これにより、最終目標径に延伸加工を行う際の制御が簡便となり、複数の延伸装置にわたって、局所的な径変動を残さない延伸が可能となる。
【0016】
以下、本発明について詳細に説明するが、下記の実施形態の中で説明されている特徴の組み合わせのすべてが課題を解決するための手段に必須であるとは限らず、特許請求の範囲において様々な態様が可能である。
【0017】
VAD法やOVD法などで作製された光ファイバ用ガラス母材は、一定の径の傾きと局所的な曲がりを有している。このような光ファイバ用ガラス母材は、例えば、
図1に示すようなガラス旋盤で延伸加工が行われる。
ガラス母材3の両端にダミー棒2を溶着し、このダミー棒2をチャック1で把持してガラス旋盤に取り付ける。ダミー棒2をチャック1で把持することによって、ガラス母材3の表面に傷を付けず、さらにガラス母材3の両端近くを加熱した際、チャック1に対する熱ダメージを軽減することができる。ダミー棒2は、外径変動の小さい円筒形状を有するガラス棒が好ましく、これにより、チャック1で把持してガラス母材3を回転させた際の軸ぶれを軽減することができる。こうしてセットした光ファイバ用ガラス母材を、バーナー5の火炎で加熱しながら、チャック1で引っ張ることで縮径される。
【0018】
光ファイバ用ガラス母材の縮径は、一般的に以下の手順で行われる。
先ず、ガラス母材の外径測定を行い、ガラス母材の長手方向の外径分布、すなわちガラス母材の長手方向の位置と各位置での外径を長手方向に細かい間隔で測定する。外径データは、ガラス旋盤の移動ステージに取り付けられた光学式の外径測定器4をガラス母材の長手方向に沿って移動させながら、外径を連続的に測定することによって、正確かつ効率的に得ることができる。このようにして得られた光ファイバ用ガラス母材の位置と外径データに基づき、バーナーを移動させながら、目標延伸径に合わせてテールの移動速度を制御することで、母材の縮径が行われる。
【0019】
延伸する前の、元形状のガラス母材と、延伸後のガラス母材の外径の差が大きい場合は、複数の延伸ステップを経て、最終径に加工することが一般的であるが、本発明においては、最終径に延伸する前のステップで、均一な外径に延伸しようとするのではなく、ガラス母材の有効部を長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から、yを外径、xを長さとして、最小二乗法でy=ax+bの回帰直線を求め、得られた傾きaの絶対値が0.005mm/mm以下になるように延伸すると、簡易な延伸制御で、局所的な外径変動を発生させることがなくなり、容易に最終延伸加工に供することが可能となる。
【0020】
具体的には、延伸前の元形状のガラス母材において、外径の細い箇所は比較的ゆっくりテールを引っ張ったり、太い箇所は比較的早くテールを引っ張ったり、さらには局所的な変動を均すために細かいテール速度の制御をしたり、といった細かい調整が簡便になるため、元形状のガラス母材の長手方向への外径の傾きや局所径変動をある程度均しつつ、外径変動が強調されていない、最終延伸前のガラス母材を得ることができる。このように調整したガラス母材を最終延伸に供することで、長手方向に均一な外径を有するガラス母材を容易に得ることができる。
【0021】
前記元形状のガラス母材の有効部を、長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から、yを外径、xを長さとして、最小二乗法でy=cx+dの回帰直線を求め、得られた傾きcの絶対値が、前記傾きaの絶対値の2倍以下であることが望ましい。
元形状のガラス母材の傾きを、延伸によってやや緩やかにすることは、その後の最終延伸によって長手方向に均一な外径を有するガラス母材とするのに極めて有効である。
なお、上記において延伸装置としてガラス旋盤を例にとって本発明を説明したが、それ以外の、例えば、電気加熱式延伸炉などを用いる場合においても有効である。
【0022】
図2は、元形状の光ファイバ用ガラス母材を一度延伸して得られたガラス母材の外径測定結果の一例を示したものであり、光ファイバ用ガラス母材の長手方向の外径及び曲率と、最小二乗法で求めた回帰直線を示している。
図3は、
図2で用いた光ファイバ用ガラス母材の延伸前の元形状の光ファイバ用ガラス母材の外径測定結果を示したものであり、光ファイバ用ガラス母材の長手方向の外径及び曲率と、最小二乗法で求めた回帰直線を示している。
これらの図において、実線が外径、破線が外径から長手方向に沿って算出した曲率、点線が外径から最小二乗法で導き出した線形である
なお、曲率は、ガラス母材の外径測定結果から、長手方向に外径の一次微分と二次微分を算出し、曲率=二次微分/{1+(一次微分の絶対値)
1.5}として算出したものである。
【0023】
図2に示す光ファイバ用ガラス母材の外径から最小二乗法で導き出した傾きの絶対値は0.002、曲率の絶対値は0.0028となる。曲率の絶対値が大きい箇所は、元形状の光ファイバ用ガラス母材の時点で局所的な外径変動が発生していた箇所である。延伸によってこのような光ファイバ用ガラス母材が得られている場合、傾き及び局所的な外径変動が元形状の光ファイバ用ガラス母材と比べてなだらかになっていることから、その後の均一な外径の光ファイバ用ガラス母材への最終延伸を行うに際して非常に有効である。
【実施例】
【0024】
VAD法で多孔質ガラス母材を堆積させたものを焼結して製造した、有効部の長さ600mm、両端のテーパー部の長さ150mm、及び有効部平均外径100mmの元形状の光ファイバ用ガラス母材に対して、最終延伸目標径50mmの条件で、第一延伸ステップ、次いで最終延伸ステップを行った。
なお、前記元形状の光ファイバ用ガラス母材の形状データは、有効部を長手方向に連続的に外径測定し、得られた外径測定の結果から取得したものである。平均外径は、外径の平均値から算出した。また、前記有効部は傾きを有しており、長手方向への径の傾きの絶対値は0.015mm/mmであった。
また、両端のテーパー部は、一端が不透明ガラス部を含むテーパー部であり、もう一端は透明ガラス部からなるテーパー部であった。不透明ガラス部を含むテーパー部は、ガラス母材の不透明部と透明部の境界で切断した。その後、ガラス旋盤にて、両端のチャックにダミーとなる外径60mmのガラス棒をセットし、当該ガラス母材の、前記切断端を片方のダミーガラス棒に、透明ガラス部からなるテーパー部をもう一方のダミーガラス棒に溶着することによって、ガラス母材のガラス旋盤へのセットを完了した。
前記ガラス旋盤にセットされたガラス母材を、複数の延伸ステップを経て、最終目標径50mmに延伸した。
【0025】
ガラス旋盤での延伸条件算出方法として、延伸前ガラス母材の外径をD1、延伸後ガラス母材の目標外径をD2、バーナー台移動速度をVB、テール移動速度をVTとしたとき、VB×D1
2=(VT+VB)×D2
2となることから、VBを一定としてVTを制御して延伸を行った。
【0026】
[比較例1]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が均一に55mmになるように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。
[比較例2]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が均一に55mmになるように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が均一に52mmになるように延伸し、第三延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。
[比較例3]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部が延伸後に絶対値で約0.007mm/mmの傾きを持つように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。なお、延伸後に傾きを持つような加工は、形状に応じて目標径を少しずつ変化させることで容易に実施することができた。
[比較例4]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が延伸後に絶対値で約0.002mm/mmの傾きを持つように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。
【0027】
[実施例1]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部が延伸後に絶対値で約0.004mm/mmの傾きを持つように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。
[実施例2]
第一延伸ステップでは、ガラス母材有効部が延伸後に絶対値で約0.005mm/mmの傾きを持つように延伸し、第二延伸ステップでは、ガラス母材有効部の外径が最終目標径の50mmになるように延伸を行った。
【0028】
上記比較例1~4、及び実施例1~2の条件で光ファイバ用ガラス母材の延伸を行い、その評価は下記のように行った。
先ず、最初に延伸した後に外径測定を行って得られる、有効部傾きの絶対値、曲率絶対値の最大値、及び延伸前のガラス母材の有効部傾きcと延伸後のガラス母材の有効部傾きaの比c/aの絶対値(以下、単に延伸前後の有効部傾きの比c/aと称する)、さらに最終目標径に延伸した後の、有効部内の外径測定を行って得られる径差を求めた。
各ガラス母材の外径測定結果から、長手方向に外径の一次微分と二次微分を算出し、曲率を下記の式から算出した。
曲率=二次微分/{1+(一次微分の絶対値)1.5}
なお、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が0.5mmより大きいと不合格(×)とし、0.5mm以下で合格(○)とし、0.2mm以下だと、後工程に供したところで良好な光学特性が得られやすいので更に良好な合格(◎)とした。
以上の結果を表1にまとめて示した。
【0029】
【0030】
比較例1は、第1延伸ステップ後の有効部傾きの絶対値は0.0008mm/mmと小さいが、曲率絶対値の最大値が0.0070と大きい。延伸前の局所的な外径変動を均しきれていないことが分かる。その後、第2延伸ステップを最終延伸ステップとして延伸したため、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が1.1mmと大きくなり、判定は不合格となった。
比較例2は、第1延伸ステップ後の有効部傾きの絶対値は0.0009mm/mmと小さいが、曲率絶対値の最大値が0.0063と大きい。延伸前の局所的な外径変動を均しきれていないことが分かる。だが、その後に第2延伸ステップを経た後に、第3延伸ステップを最終延伸ステップとして延伸したことで、有効部内の径差が0.3mmとなり、判定は合格となった。しかし、余分な延伸ステップを経たことで、処理時間が延び、延伸に必要な資材も増えてしまった。
比較例3は、第1延伸ステップ後の有効部傾きの絶対値は0.0072mm/mmと比較例1より大きいが、曲率絶対値の最大値が0.0015と比較例1より小さい。傾きを持った形状に延伸したことで、延伸前の局所的な外径変動をある程度均すことができた。しかし、前記有効部傾きの絶対値が大きすぎたために、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が0.6mmと大きくなり、判定は不合格となった。
比較例4は、第1延伸ステップ後の有効部傾きの絶対値は0.0024mm/mmと比較例1より大きいが、曲率絶対値の最大値は0.0034、有効部内の径差は0.7mmと比較例1より小さい。このように傾きを持った形状に延伸したことで、延伸前の局所的な外径変動をある程度均すことができた。しかし、曲率絶対値の最大値が大きすぎたために、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が0.7mmと大きくなり、判定は不合格となった。
【0031】
実施例1は、第1延伸ステップ後の有効部傾きの絶対値は0.0041mm/mmと比較例1より大きいが、曲率絶対値の最大値が0.0027と比較例1より小さい。このような傾きを持った形状に延伸したことで、延伸前の局所的な外径変動をある程度均すことができた。その結果、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が0.3mmと小さくなり、判定は合格となった。
実施例2は、最終延伸ステップ後の有効部内の径差が0.1mmと小さく、良好な合格となった。これは、曲率絶対値の最大値が0.0023と小さく、延伸前後の有効部傾きの比c/aの絶対値が1.96と適切な値を取ったことで、第1延伸ステップ後の曲率絶対値の最大値も0.0023と小さくなり、最終延伸ステップ後の有効部内の径差を0.1mmと小さくすることができたと考えられる。
上表の結果より、延伸前後の有効部傾きの比c/aの絶対値は2以下にすることが望ましいと言える。
【0032】
このような光ファイバ用ガラス母材を最終延伸ステップ前の母材として採用することにより、最終延伸ステップ後の有効部内の径差を小さくすることが可能になり、不必要な追加延伸ステップも不要となるため、時間短縮、省エネにも効果を発揮する。
なお、本発明は、上述した実施形態に限定されるものではなく、適宜変形、改良などが自在である。
【符号の説明】
【0033】
1:チャック
2:ダミー棒
3:ガラス母材
4:外径測定器
5:バーナー