(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】3-ヒドロキシイソ酪酸エステルおよびメタクリル酸エステルの製造方法
(51)【国際特許分類】
C12N 15/54 20060101AFI20230718BHJP
C12N 15/29 20060101ALI20230718BHJP
C12P 7/62 20220101ALI20230718BHJP
C12P 7/04 20060101ALI20230718BHJP
C12N 9/10 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
C12N15/54 ZNA
C12N15/29
C12P7/62
C12P7/04
C12N9/10
(21)【出願番号】P 2020503642
(86)(22)【出願日】2019-03-01
(86)【国際出願番号】 JP2019008098
(87)【国際公開番号】W WO2019168154
(87)【国際公開日】2019-09-06
【審査請求日】2021-10-19
(31)【優先権主張番号】P 2018037048
(32)【優先日】2018-03-02
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】515157758
【氏名又は名称】公立大学法人 富山県立大学
(74)【代理人】
【識別番号】100149076
【氏名又は名称】梅田 慎介
(74)【代理人】
【識別番号】100119183
【氏名又は名称】松任谷 優子
(74)【代理人】
【識別番号】100173185
【氏名又は名称】森田 裕
(74)【代理人】
【識別番号】100162503
【氏名又は名称】今野 智介
(74)【代理人】
【識別番号】100144794
【氏名又は名称】大木 信人
(72)【発明者】
【氏名】大木 健二
(72)【発明者】
【氏名】湯 不二夫
(72)【発明者】
【氏名】村尾 耕三
(72)【発明者】
【氏名】浅野 泰久
(72)【発明者】
【氏名】元島 史尋
【審査官】松田 芳子
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-116141(JP,A)
【文献】国際公開第2014/038214(WO,A1)
【文献】国際公開第2018/043546(WO,A1)
【文献】'benzyl alcohol O-benzoyltransferase-like isoform X1 [Durio zibethinus]', GenPept [online], 2017年10月25日, Accession No.XP_022742021.1, [2022年9月9日検索], インターネット<https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/1269982265>
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/09
C12P 7/00
C12P 1/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
GenBank/EMBL/DDBJ/GeneSeq
SwissProt/GeneSeq
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する工程を含み、
前記アルコールアシルトランスフェラーゼが、
以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
(1)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列。
(2)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列。
(3)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【請求項2】
前記アルコールアシルトランスフェラーゼを発現する遺伝子組み換え微生物を用いる、請求項
1に記載の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
【請求項3】
3-ヒドロキシイソブチリル-CoAが、前記微生物の生体内でメタクリリル-CoAから合成されるものである、請求項
2に記載の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
【請求項4】
アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する工程と、
3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの脱水反応によりメタクリル酸エステルを生成する工程と、を含み、
前記アルコールアシルトランスフェラーゼが、
以下の(1)~(3)のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる、メタクリル酸エステルの製造方法。
(1)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列。
(2)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列。
(3)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列に対して95%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルおよびメタクリル酸エステルの製造方法に関する。より詳しくは、アルコールアシルトランスフェラーゼの触媒反応を利用して3-ヒドロキシイソブチリル-CoAから3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する方法等に関する。
【背景技術】
【0002】
メタクリル酸エステルは、主にアクリル樹脂の原料として使われており、塗料、接着剤および樹脂改質剤などの分野のコモノマーとしても多くの需要がある。メタクリル酸エステルは、例えば3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを化学的手法により脱水することで生成できる。
【0003】
アルコールアシルトランスフェラーゼは、フルーティーフレーバー合成酵素として知られている。特許文献1,2には、アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、メタクリリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、メタクリル酸エステルを生成する反応が開示されている。これらの反応は、鎖式炭化水素で構成されたCoA化合物を出発物質としている。
CoA化合物の鎖式炭化水素に水酸基が導入された場合、CoA化合物の物理化学的性質が変化すると予想されるが、アルコールアシルトランスフェラーゼが水酸化された鎖式炭化水素で構成されたCoA化合物についてもそのエステル化を触媒し得るかどうかは明らかでなかった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】国際公開2014/038214号
【文献】国際公開2015/133146号
【文献】特開平7-17909号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、生体触媒を用いた3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法を提供することを主な目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題解決のため、本発明は、以下の[1]~[19]を提供する。
[1] アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する工程を含む、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[2] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼが植物由来である、[1]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[3] 前記植物が、アオイ目、バラ目またはナス目に属するものである、[2]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[4] 前記植物が、アオイ科、バラ科、またはナス科に属するものである、[2]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[5] 前記植物が、ドリアン属、リンゴ属、またはナス属に属するものである、[2]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[6] 前記植物が、ドリアン、リンゴ、またはトマトである、[2]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[7] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼが、以下の(1)~(4)のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる、[1]~[6]のいずれかの3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法、
(1)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列。
(2)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列。
(3)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
(4)配列番号2、配列番号6、または配列番号8の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列。
[8] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼを発現する遺伝子組み換え微生物を用いる、[1]~[7]のいずれかの3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
[9] 3-ヒドロキシイソブチリル-CoAが、前記微生物の生体内でメタクリリル-CoAから合成されるものである、[8]の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法。
【0007】
[10] アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する工程と、
3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの脱水反応によりメタクリル酸エステルを生成する工程と、を含むメタクリル酸エステルの製造方法。
[11] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼが植物由来である、[10]のメタクリル酸エステルの製造方法。
[12] 前記植物が、アオイ目、バラ目またはナス目に属するものである、[11]のメタクリル酸エステルの製造方法。
[13] 前記植物が、アオイ科、バラ科、またはナス科に属するものである、[11]のメタクリル酸エステルの製造方法。
[14] 前記植物が、ドリアン属、リンゴ属、またはナス属に属するものである、[11]のメタクリル酸エステルの製造方法。
[15] 前記植物が、ドリアン、リンゴ、またはトマトである、[11]のメタクリル酸エステルの製造方法。
[16] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼが、以下の(1)~(4)のいずれかのアミノ酸配列を含んでなる、[10]~[15]のいずれかのメタクリル酸エステルの製造方法、
(1)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列。
(2)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列。
(3)配列番号1、配列番号5、または配列番号7のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列。
(4)配列番号2、配列番号6、または配列番号8の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列。
[17] 前記アルコールアシルトランスフェラーゼを発現する遺伝子組み換え微生物を用いる、[10]~[16]のいずれかのメタクリル酸エステルの製造方法。
[18] 3-ヒドロキシイソブチリル-CoAが、前記微生物の生体内でメタクリリル-CoAから合成されるものである、[17]のメタクリル酸エステルの製造方法。
【0008】
[19] 以下の(1)~(4)のいずれかのタンパク質。
(1)配列番号1のアミノ酸配列を含んでなるタンパク質。
(2)配列番号1のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列を含んでなり、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(3)配列番号1のアミノ酸配列、または配列番号1のアミノ酸配列に対して80%以上の配列同一性を有するアミノ酸配列を含んでなり、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
(4)配列番号2の塩基配列、または配列番号2の塩基配列の相補鎖にストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列を含んでなり、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を有するタンパク質。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、生体触媒を用いた3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明を実施するための好適な形態について説明する。なお、以下に説明する実施形態は、本発明の代表的な実施形態の一例を示したものであり、これにより本発明の範囲が狭く解釈されることはない。
【0011】
[3-ヒドロキシイソ酪酸エステルおよびメタクリル酸エステルの製造方法]
本発明に係る3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの製造方法は、以下の「工程A」を含む。また、本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、工程Aに加えて以下の「工程B」を含む。
工程A:アルコールアシルトランスフェラーゼの存在下、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAにアルコールまたはフェノール類を作用させて、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する工程。
工程B:3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの脱水反応によりメタクリル酸エステルを生成する工程。
工程Aおよび工程Bを以下に示す。
【0012】
【0013】
本発明において、「メタクリル酸エステル」とは、式1で示される化合物である。式1において、Rは直鎖あるいは分岐の炭素数1~20の炭化水素基を表す。炭化水素基は、飽和または不飽和の非環式であってもよく、飽和または不飽和の環式であってもよい。好ましくは直鎖あるいは分岐鎖の炭素数1~10の無置換のアルキル基、アラルキル基またはアリール基である。特に好ましくはメチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、tert-ペンチル基、n-ヘキシル基、イソヘキシル基、2-ヘキシル基、ジメチルブチル基、エチルブチル基、ヘプチル基、オクチル基、2-エチルヘキシル基の炭素数1~8のアルキル基、ベンジル基またはフェニル基である。
【0014】
CH2=C(CH3)COO-R (式1)
【0015】
[アルコール・フェノール類]
工程Aで用いられる「アルコール」または「フェノール類」は、以下の式2で示される化合物である。アルコールまたはフェノール類の構造は、メタクリル酸エステルに対応することから、その構造は、前記式1のRと同じ定義であり、直鎖あるいは分岐の炭素数1~20の炭化水素基を表す。炭化水素基は、飽和または不飽和の非環式であってもよく、飽和または不飽和の環式であってもよい。好ましくは直鎖あるいは分岐の炭素数1~10の無置換のアルコール、アラルキルアルコールまたはフェノール類であり、より好ましくはメタノール、エタノール、n-プロパノール、イソプロパノール、n-ブタノール、イソブタノール、sec-ブタノール、tert-ブタノール、n-ペンチルアルコール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、n-ヘキシルアルコール、イソヘキシルアルコール、2-ヘキシルアルコール、ジメチルブチルアルコール、エチルブチルアルコール、ヘプチルアルコール、オクチルアルコール、2-エチルヘキシルアルコールの炭素数1~8のアルキルアルコール、ベンジルアルコールまたはフェノールである。特に好ましくは、メタノール、エタノール、n-ブタノール、イソブタノール、n-ヘキシルアルコールである。
【0016】
R-OH (式2)
【0017】
[アルコールアシルトランスフェラーゼ]
アルコールアシルトランスフェラーゼ(以下「AAT」とも称する)は、アシル-CoAのアシル基をアルコールまたはフェノール類に転移させてエステルを生成する反応を触媒する活性を有する。AATは、種々の果物におけるエステルの生成に関与していると言われている。AATはショウガ目(バナナ)、バラ目(イチゴ、リンゴ、ナシ、モモ)、ウリ目(メロン)、ツツジ目(キウイ)、シソ目(オリーブ)、ナス目(トマト)、ムクロジ目(レモン、マンゴー)等の植物に存在することが知られている。
【0018】
工程Aで用いられるAATは、特に3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのアシル基をアルコールまたはフェノール類に転移させて3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成する反応を触媒する活性(以下、単に「触媒活性」あるいは「AAT活性」とも称する)を有する。
【0019】
工程Aで用いられるAATは、上記触媒活性を有する限り、その由来は限定されない。AATは、植物由来であることが好ましい。例えば、ショウガ目(Zingiberales)、バラ目(Rosales)、ツツジ目(Ericales)、ウリ目(Cucurbitales)、アブラナ目(Brassicales)、クスノキ目(Laurales)、イネ目(Poales)、ヤシ目(Arecales)、クサスギカズラ目(Asparagales)、ユキノシタ目(Saxifragales)、ナデシコ目(Caryophyllales)、ブドウ目(Vitales)、キントラノオ目(Malpighiales)、カタバミ目(Oxalidales)、マメ目(Fabales)、ムクロジ目(Sapindales)、アオイ目(Malvales)、フトモモ目(Myrtales)、キンポウゲ目(Ranunculales)、ナス目(Solanales)、シソ目(Lamiales)、リンドウ目(Gentianales)、モクレン目(Magnoliales)およびキク目(Asterales)の各目に属する植物由来のAATを好適に用いることができる。これらのうち、アオイ目、バラ目及びナス目に属する植物由来のAATがより好ましい。
なお、本発明において、植物の分類はAPG植物分類体系第3版(Botanical Journal of the Linnean Society, 2009, 161, 105121)に従うものとする。
【0020】
AATは以下の方法により、前記植物から容易に取得することが可能である。すなわち、まず、植物組織の適当な部位を必要に応じて裁断する。裁断した部位に3-ヒドロキシイソブチリル-CoAとアルコールまたはフェノール類を含む溶液を添加して振とうし、一定時間反応させる。反応液中の3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの有無をGC(ガスクロマトグラフィー)により確認することにより触媒活性を確認する。具体的には、例えば、葉、花、蕾、果肉あるいは果皮を裁断し、0.01~10mMの3-ヒドロキシイソブチリル-CoAおよび2~50倍モル量のn-ブタノールを含む溶液を添加し、30℃で1~10時間振とうする。反応終了後、GCにより3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルの有無を確認することにより、本発明に利用可能なAATを取得できる。
【0021】
ショウガ目に属するものとしてはバショウ科(Musaceae)およびショウガ科(Zingiberaceae);
バラ目に属するものとしてはバラ科(Rosaceae)およびクワ科(Moraceae);
ツツジ目に属するものとしてはツツジ科(Ericaceae)、マタタビ科(Actinidiaceae)、カキノキ科(Ebenaceae)およびツバキ科(Theaceae);
ウリ目に属するものとしてはウリ科(Cucurbitaceae);
アブラナ目に属するものとしてはパパイア科(Caricaceae)およびアブラナ科(Brassicaceae);
クスノキ目に属するものとしてはクスノキ科(Lauraceae);
イネ目に属するものとしてはパイナップル科(Bromeliaceae)およびイネ科(Poaceae);
ヤシ目に属するものとしてはヤシ科(Arecaceae);
クサスギカズラ目に属するものとしてはラン科(Orchidaceae)およびアヤメ科(Iridaceae);
ユキノシタ目に属するものとしてはスグリ科(Grossulariaceae);
ナデシコ目に属するものとしてはナデシコ科(Caryophyllaceae);
ブドウ目に属するものとしてはブドウ科(Vitaceae);
キントラノオ目に属するものとしてはキントラノオ科(Malpighiaceae)、トケイソウ科(Passifloraceae)、トウダイグサ科(Euphorbiaceae)およびヤナギ科(Salicaceae);
カタバミ目に属するものとしてはカタバミ科(Oxalidaceae);
マメ目に属するものとしてはマメ科(Fabaceae);
ムクロジ目に属するものとしてはウルシ科(Anacardiaceae)、ビーベルステイニア科(Biebersteiniaceae)、カンラン科(Burseraceae)、キルキア科(Kirkiaceae)、センダン科(Meliaceae)、ソウダノキ科(Nitrariaceae)、ミカン科(Rutaceae)、ムクロジ科(Sapindaceae)およびニガキ科(Simaroubaceae);
アオイ目に属するものとしてはベニノキ科(Bixaceae)、ハンニチバナ科(Cistaceae)、キティヌス科(Cytinaceae)、フタバガキ科(Dipterocarpaceae)、アオイ科(Malvaceae)、ナンヨウザクラ科(Muntingiaceae)、ネウラダ科(Neuradaceae)、サルコラエナ科(Sarcolaenaceae)、スファエロセパルム科(Sphaerosepalaceae)およびジンチョウゲ科(Thymelaeaceae);
フトモモ目に属するものとしてはミソハギ科(Lythraceae)、アカバナ科(Onagraceae)およびフトモモ科(Myrtaceae);
キンポウゲ目に属するものとしてはキンポウゲ科(Ranunculaceae)およびケシ科(Papaveraceae);
ナス目に属するものとしてはナス科(Solanaceae);
シソ目に属するものとしてはキツネノマゴ科(Acanthaceae)、ノウゼンカズラ科(Bignoniaceae)、ビブリス科(Byblidaceae)、キンチャクソウ科(Calceolariaceae)、カールマニア科(Carlemanniaceae)、イワタバコ科(Gesneriaceae)、シソ科(Lamiaceae)、アゼナ科(Linderniaceae)、タヌキモ科(Lentibulariaceae)、ツノゴマ科(Martyniaceae)、モクセイ科(Oleaceae)、ハマウツボ科(Orobanchaceae)、キリ科(Paulowniaceae)、ゴマ科(Pedaliaceae)、ハエドクソウ科(Phrymaceae)、オオバコ科(Plantaginaceae)、プロコスペルマ科(Plocospermataceae、シュレーゲリア科(Schlegeliaceae)、ゴマノハグサ科(Scrophulariaceae)、スティルベ科(Stilbaceae)、テトラコンドラ科(Tetrachondraceae)、トマンデルシア科(Thomandersiaceae)およびクマツヅラ科(Verbenaceae);
リンドウ目に属するものとしてはキョウチクトウ科(Apocynaceae);
モクレン目に属するものとしてはバンレイシ科(Annonaceae)、デゲネリア科(Degeneriaceae)、エウポマティア科(Eupomatiaceae)、ヒマンタンドラ科(Himantandraceae)、モクレン科(Magnoliaceae)およびニクズク科(Myristicacea);
キク目に属するものとしてはアルセウオスミア科(Alseuosmiaceae)、アルゴフィルム科(Argophyllaceae)、キク科(Asteraceae)、カリケラ科(Calyceraceae)、キキョウ科(Campanulaceae))、クサトベラ科(Goodeniaceae)、ミツガシワ科(Menyanthaceae)、ユガミウチワ科(Pentaphragmataceae)、フェリネ科(Phellinaceae)、ロウッセア科(Rousseaceae)およびスティリディウム科(Stylidiaceae)の植物が好ましい。上記植物の近縁種も利用することができる。
これらのうち、アオイ科、バラ科、又はナス科に属する植物がより好ましい。
【0022】
バショウ科に属するものとしてはバショウ(Musa)属;
ショウガ科(Zingiberaceae)に属するものとしてはショウガ属(Zingiber);
バラ科に属するものとしてはオランダイチゴ(Fragaria)属、リンゴ(Malus)属、サクラ(Prunus)属、ナシ(Pyrus)属、ビワ(Eriobotrya)属、ボケ(Chaenomeles)属、キイチゴ(Rubus)属およびバラ(Rosa)属;
クワ科(Moraceae)に属するものとしてはイチジク(Ficus)属;
ツツジ科に属するものとしてはスノキ(Vaccinium)属;
マタタビ科に属するものとしてはマタタビ(Actinidia)属;
カキノキ科に属するものとしてはカキノキ(Diospyros)属;
ツバキ科に属するものとしてはツバキ(Camellia)属;
ウリ科に属するものとしてはキュウリ(Cucumis)属およびスイカ(Citrullus)属;
パパイア科に属するものとしてはパパイア(Carica)属およびヴァスコンセレア(Vasconcellea)属;
アブラナ科に属するものとしてはシロイヌナズナ(Arabidopsis)属;
クスノキ科に属するものとしてはワニナシ(Persea)属;
パイナップル科に属するものとしてはアナナス属(Ananas);
イネ科に属するものとしてはイネ(Oryza)属、コムギ(Triticum)属、オオムギ(Hordeum)属、トウモロコシ(Zea)属、モロコシ(Sorghum)属およびヤマカモジグサ(Brachypodium)属;
ヤシ科に属するものとしてはココヤシ(Cocos)属;
ラン科に属するものとしてはバンダ(Vanda)属;
アヤメ科に属するものとしてはアヤメ(Iris)属;
スグリ科に属するものとしてはスグリ(Ribes)属;
ナデシコ科に属するものとしてはカスミソウ属(Gypsophila);
ブドウ科に属するものとしてはブドウ属(Vitis)、ノブドウ属(Ampelopsis)、ヤブガラシ属(Cayratia)、セイシカズラ属(Cissus)、キフォステンマ属(Cyphostemma)、ウドノキ属(Leea)、ツタ属(Parthenocissus)およびミツバカズラ属(Tetrastigma);
キントラノオ科に属するものとしてはヒイラギトラノオ(Malpighia)属;
トケイソウ科に属するものとしてはトケイソウ(Passiflora)属;
トウダイグサ科に属するものとしてはトウゴマ(Ricinus)属;
ヤナギ科に属するものとしてはヤマナラシ(Populus)属;
カタバミ科に属するものとしてはゴレンシ(Averrhoa)属;
マメ科に属するものとしてはウマゴヤシ(Medicago)属、ハウチワマメ(Lupinus)属、ダイズ(Glycine)属およびチョウマメ(Clitoria)属;
ウルシ科に属するものとしてはマンゴー(Mangifera)属;
ミカン科に属するものとしてはミカン属(Citrus)、アエグレ属(Aegle)、サンショウ属(Zanthoxylum)、ゲッキツ属(Murraya)、ヘンルーダ属(Ruta)、コクサギ属(Orixa)、ミヤマシキミ属(Skimmia)、ゴシュユ属(Euodia)、キハダ属(Phellodendron)、ボロニア属(Boronia)、アクロニキア属(Acronychia)、ワンピ属(Clausena)、コレア属(Correa)、ハナシンボウギ属(Glycosmis)およびアワダン属(Melicope);
ムクロジ科に属するものとしてはレイシ(Litchi)属;
アオイ科に属するものとしてはドリアン属(Durio)、カカオ属(Theobroma)、イチビ属(Abutilon)、トロロアオイ属(Abelmoschus)、ワタ属(Gossypium)、ヤノネボンテンカ属(Pavonia)、フヨウ属(Hibiscus)、キンゴジカ属(Sida)およびアオイ属(Malva);
ミソハギ科に属するものとしてはザクロ(Punica)属、アカバナ科に属するものとしてはサンジソウ(Clarkia)属;
フトモモ科に属するものとしてはバンジロウ(Psidium)属;
キンポウゲ科に属するものとしてはルイヨウショウマ(Actaea)属、ケシ科に属するものとしてはケシ(Papaver)属;
ナス科に属するものとしてはナス(Solanum)属、トウガラシ(Capsicum)属、タバコ(Nicotiana)属およびツクバネアサガオ(Petunia)属;
モクセイ科に属するものとしてはモクセイ属(Osmanthus)およびオリーブ属(Olea)、ソケイ属(Jasminum)、レンギョウ属(Forsythia)、ハシドイ属(Syringa)、ヒトツバタゴ属(Chionanthus)トネリコ属(Fraxinus)およびイボタノキ属(Ligustrum);
シソ科に属するものとしてはアキギリ(Salvia)属;
クマツヅラ科に属するものとしてはグランデュラリア(Glandularia)属;
キョウチクトウ科に属するものとしてはラウオルフィア(Rauvolfia)属およびニチニチソウ(Catharanthus)属;
モクレン科に属するものとしてはモクレン属(Magnolia);
キク科に属するものとしてはカミツレ属(Chamaemelum)、ノコギリソウ属(Achillea)、ムラサキバレンギク属(Echinacea)、シカギク属(Matricaria)、ヨモギギク属(Tanacetum)、タンポポ属(Taraxacum)、ヨモギ属(Artemisia)、フキ属(Petasites)、ムギワラギク属(Helichrysum)、ワタスギギク属(Santolina)、チョウセンアザミ属(Cynara)、オオアザミ属(Silybum)、キンセンカ属(Calendula)、キクニガナ属(Cichorium)、ベニバナ属(Carthamus)およびキク属(Chrysanthemum)の植物が好ましい。
これらのうち、ドリアン属、リンゴ属、またはナス属に属する植物がより好ましい。
【0023】
バショウ属に属するものとしてはバナナ(Musaxparadisiaca)、バショウ(Musabasjoo)、ヒメバショウ(Musacoccinea)およびマレーヤマバショウ(Musaacuminata);
ショウガ属に属するものとしてはショウガ(Zingiberofficinale);
オランダイチゴ属に属するものとしてはイチゴ(Fragariaxananassa)、バージニアイチゴ(Fragariavirginiana)、チリイチゴ(Fragariachiloensis)およびエゾノヘビイチゴ(Fragariavesca);
リンゴ属に属するものとしてはリンゴ(Maluspumila、Malusdomestica、Malusbaccata)、ハナカイドウ(Malushalliana)、カイドウズミ(Malusfloribunda)およびイヌリンゴ(Malusprunifolia);
サクラ属に属するものとしてはウメ(Prunusmume)、セイヨウミザクラ(Prunusavium)、モモ(Prunuspersica)、アンズ(Prunusarmeniaca)、アーモンド(Prunusdulcis)、スモモ(Prunussalicina)およびセイヨウスモモ(Prunusdomestica);
ナシ属に属するものとしてはセイヨウナシ(Pyruscommunis)、ナシ(Pyruspyrifolia)、マメナシ(Pyruscalleryana)およびヤセイセイヨウナシ(Pyruspyraster);
ビワ属に属するものとしてはビワ(Eriobotryajaponica);
ボケ属に属するものとしてはカリン(Chaenomelessinensis);
キイチゴ属に属するものとしてはラズベリー(Rubusidaeus)およびブラックラズベリー(Rubusfruticosus);
バラ属に属するものとしてはハマナス(Rosarugosa);
イチジク属に属するものとしてはイチジク(Ficuscarica);
スノキ属に属するものとしてはブリーベリー(Vacciniumcorymbosum、Vacciniumangustifolium)、ビルベリー(Vacciniummyrtillus)、コケモモ(Vacciniumvitis-idaea)およびツルコケモモ(Vacciniumoxycoccos);
マタタビ属に属するものとしてはキウイ(Actinidiachinensis、Actinidiadeliciosa)、サルナシ(Actinidiaarguta)、シマサルナシ(Actinidiarufa)およびマタタビ(Actinidiapolygama);
カキノキ属に属するものとしてはカキ(Diospyroskaki);
ツバキ属に属するものとしてはチャノキ(Camelliasinensis);
キュウリ属に属するものとしてはキュウリ(Cucumissativus)、メロン(Cucumismelo)、ニシインドコキュウリ(Cucumisanguria)およびツノニガウリ(Cucumismetulifer);
スイカ属に属するものとしてはスイカ(Citrulluslanatus);
パパイア属に属するものとしてはパパイア(Caricapapaya);
ヴァスコンセレア属に属するものとしてはマウンテンパパイア(Vasconcelleacundinamarcensis);
シロイヌナズナ属に属するものとしてはシロイヌナズナ(Arabidopsisthaliana)およびミヤマハタザオ(Arabidopsislyrata);
ワニナシ属に属するものとしてはアボカド(Perseaamericana);
アナナス属に属するものとしてはパイナップル(Ananascomosus);
イネ属に属するものとしてはイネ(Oryzasativa);
コムギ属に属するものとしてはコムギ(Triticumaestivum);
オオムギ属に属するものとしてはオオムギ(Hordeumvulgare);
トウモロコシ属に属するものとしてはトウモロコシ(Zeamays);
モロコシ属に属するものとしてはモロコシ(Sorghumbicolor);
ヤマカモジグサ属に属するものとしてはセイヨウヤマカモジ(Brachypodiumdistachyon);
ココヤシ属に属するものとしてはココナッツ(Cocosnucifera);
バンダ属に属するものとしてはバンダ(Vandahybridcultivar);
アヤメ属に属するものとしてはオランダアヤメ(Irisxhollandica);
スグリ属に属するものとしてはクロスグリ(カシス)(Ribesnigrum);
カスミソウ属に属するものとしてはカスミソウ(Gypsophilapaniculata、Gypsophilaelegans);
ブドウ属に属するものとしてはブドウ(Vitisvinifera、Vitislabrusca)、サマーグレープ(Vitisaestivalis)、ヤマブドウ(Vitiscoignetiae)およびエビヅル(Vitisficifolia);
ヒイラギトラノオ属に属するものとしてはアセロラ(Malpighiaglabra);
トケイソウ属に属するものとしてはパッションフルーツ(Passifloraedulis);
トウゴマ属に属するものとしてはトウゴマ(Ricinuscommunis);
ヤマナラシ属に属するものとしてはコットンウッド(Populustrichocarpa);
ゴレンシ属に属するものとしてはスターフルーツ(Averrhoacarambola);
ウマゴヤシ属に属するものとしてはタルウマゴヤシ(Medicagotruncatula);
ハウチワマメ属に属するものとしてはルピナス(シロバナハウチワマメ)(Lupinusalbus);
ダイズ属に属するものとしてはダイズ(Glycinemax);
チョウマメ属に属するものとしてはチョウマメ(Clitoriaternatea);
マンゴー属に属するものとしてはマンゴー(Mangiferaindica);
ドリアン属に属するものとしてはドリアン(Duriozibethinus、Duriotestudinarius、Duriokutejensis、Duriooxleyanus、Duriograveolens、Duriodulcis);
ミカン属に属するものとしてはレモン(Citruslimon)、スダチ(Citrussudachi)、カボス(Citrussphaerocarpa)、グレープフルーツ(Citrusxparadisi)、ユズ(Citrusjunos)ライム(Citrusaurantifolia)、ウンシュウミカン(Citrusunshiu)およびオレンジ(Citrussinensis);
アエグレ属に属するものとしてはアエグレ・マルメロス(Aeglemarmelos);
レイシ属に属するものとしてはライチ(Litchichinensis);
カカオ属に属するものとしてはカカオ(Theobromacacao);
ザクロ属に属するものとしてはザクロ(Punicagranatum);
サンジソウ属に属するものとしてはフェアリーファンズ(fairyfans)(Clarkiabreweri)およびレッドリボンズ(Redribbons)(Clarkiaconcinna);
バンジロウ属に属するものとしてはグァバ(Psidiumguajava);
ルイヨウショウマ属に属するものとしてはアメリカショウマ(Actaearacemosa);
ケシ属に属するものとしてはケシ(Papaversomniferum)、オニゲシ(Papaverorientale)およびハカマオニゲシ(Papaverbracteatum);
ナス属に属するものとしてはトマト(Solanumlycopersicum);
トウガラシ属に属するものとしてはピーマン(Capsicumannuum)およびハバネロ(Capsicumchinense);
タバコ属に属するものとしてはタバコ(Nicotianatabacum、Nicotianaattenuata);
ツクバネアサガオ属に属するものとしてはペチュニア(Petuniaxhybrida);
モクセイ属に属するものとしてはモクセイ(ギンモクセイ、キンモクセイ、ウスギモクセイ、シロモクセイ)(Osmanthusfragrans)、ヒイラギ(Osmanthusheterophyllus)、リュウキュウモクセイ(Osmanthusmarginatus)、ヒイラギモクセイ(Osmanthus×fortunei)およびシマモクセイ(Osmanthusinsularis);
オリーブ属に属するものとしてはオリーブ(Oleaeuropaea);
アキギリ属に属するものとしてはサルビア(Salviasplendens);
グランデュラリア属に属するものとしてはビジョザクラ(Glandulariaxhybrida);
ラウオルフィア属に属するものとしてはインドジャボク(Rauvolfiaserpentina);
ニチニチソウ属に属するものとしてはニチニチソウ(Catharanthusroseus);
モクレン属に属するものとしてはカラタネオガタマ(Magnoliafigo)、オガタマノキ(Magnoliacompressa)、キンコウボク(Magnoliachampaca)、モクレン(Magnolialiliiflora)、コブシ(Magnoliakobus)、ホオノキ(MagnoliaobovataおよびMagnolialaevifolia);
カミツレ属に属するものとしてはローマンカモミール(ChamaemelumnobileおよびChamaemelumfuscatum)が好ましい。
これらのうち、ドリアン、リンゴ、またはトマトがより好ましい。
【0024】
ドリアンAATは、配列番号1のアミノ酸配列を含んでなる。配列番号1のアミノ酸配列に対応する塩基配列を配列番号2に示す。また、リンゴAATは、配列番号3のアミノ酸配列もしくは配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるものとできる。配列番号3のアミノ酸配列を含んでなるリンゴAATは野生型であり、配列番号7のアミノ酸配列を含んでなるAATは野生型AATの48位、167位、270位、274位及び447位のシステインが全てアラニンに置換され、150位のシステインがアルギニンに置換され、かつA64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4重変異を有する変異型AATである(特願2017-538070号参照)。配列番号3のアミノ酸配列及び配列番号7のアミノ酸配列に対応する塩基配列をそれぞれ配列番号4及び配列番号8に示す。
トマトAATは、配列番号5のアミノ酸配列を含んでなるものとできる。配列番号5のアミノ酸配列を含んでなるトマトAATは、トマト(野生種)野生型AATの2番目のアミノ酸がアラニンからリジンに置換されたトマト(野生種)A2K型AATである。配列番号5のアミノ酸配列に対応する塩基配列を配列番号6に示す。
AATは、配列番号1,3,5、または7のアミノ酸配列を含んでなるものであることが好ましく、配列番号1,5,または7のアミノ酸配列を含んでなるものであることがより好ましい。
【0025】
AATには、例えば、配列番号1,3,5,または7のアミノ酸配列において、好ましくは配列番号1,5,または7のアミノ酸配列において、1若しくは数個のアミノ酸が欠失、挿入、置換および/または付加されたアミノ酸配列からなるタンパク質を用いることもできる。ここで、同タンパク質は、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を維持しているものである。
ここで、「数個」とは、1~40個、好ましくは1~20個、より好ましくは1~10個、特に好ましくは5個以下をいう。アミノ酸配列に欠失等を導入するには、Kunkel法やGapped duplex法等の公知手法により、部位特異的突然変異誘発法を利用した変異導入用キット、例えばQuikChangeTM Site-Directed Mutagenesis Kit(ストラタジーン社)、GeneTailorTM Site-Directed Mutagenesis System(インビトロジェン社)、TaKaRa Site-Directed Mutagenesis System(Mutan-K、Mutan-Super Express Km等:タカラバイオ社)等を用いることができる。あるいは、欠失等を含む配列を有する遺伝子全体を人工合成してもよい。
【0026】
また、AATには、例えば配列番号1,3,5,または7のアミノ酸配列に対して、好ましくは配列番号1,5,または7のアミノ酸配列に対して、80%以上、好ましくは90%以上、より好ましくは95%以上、さらに好ましくは99.5%以上、特に好ましくは99.9%以上の同一性の配列同一性を有するアミノ酸配列からなるタンパク質を用いることもできる。ここで、同タンパク質は、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を維持しているものである。
ここで、「配列同一性」とは、比較すべき2つのアミノ酸配列の残基ができるだけ多く一致するように両配列を整列させ、一致した残基数を、全残基数で除したものを百分率で表したものである。上記整列の際には、必要に応じ、比較する2つの配列の一方または双方に適宜ギャップを挿入する。このような配列の整列化は、例えばBLAST、FASTA、CLUSTALW等の周知のプログラムを用いて行なうことができる。ギャップが挿入される場合、上記全残基数は、1つのギャップを1つの残基として数えた残基数となる。このようにして数えた全残基数が比較する2つの配列間で異なる場合には、長い方の配列の全残基数で一致した残基数を除して同一性(%)を算出する。
【0027】
さらに、AATには、例えば配列番号2,4、6,または8の塩基配列の相補鎖に、好ましくは配列番号2,6,または8の塩基配列の相補鎖に、ストリンジェントな条件下でハイブリダイズするDNAにコードされるアミノ酸配列からなるタンパク質を用いることもできる。ここで、同タンパク質は、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのエステル化を触媒するアルコールアシルトランスフェラーゼ活性を維持しているものである。
ストリンジェントな条件としては、例えば、DNAを固定したナイロン膜を、6×SSC(1×SSCは塩化ナトリウム8.76g、クエン酸ナトリウム4.41gを1リットルの水に溶かしたもの)、1%SDS、100μg/mlサケ精子DNA、0.1%ウシ血清アルブミン、0.1%ポリビニルピロリドン、0.1%フィコールを含む溶液中で65℃にて20時間プローブとともに保温してハイブリダイゼーションを行う条件を挙げることができるが、これに限定されるわけではない。当業者であれば、このようなバッファーの塩濃度、温度等の条件に加えて、その他のプローブ濃度、プローブの長さ、反応時間等の諸条件を加味し、ハイブリダイゼーションの条件を設定することができる。ハイブリダイゼーション後の洗浄条件として、例えば、「2×SSC、0.1%SDS、42℃」、「1×SSC、0.1%SDS、37℃」、よりストリンジェントな条件としては、例えば、「1×SSC、0.1%SDS、65℃」、「0.5×SSC、0.1%SDS、50℃」等の条件を挙げることができる。
ハイブリダイゼーション法の詳細な手順については、Molecular Cloning, A Laboratory Manual 2nd ed.(Cold Spring Harbor Laboratory Press (1989)))、Current Protocols in Molecular Biology(John Wiley & Sons(1987-1997))等を参照することができる。
【0028】
AATを反応に供するに際しては、前記触媒活性を示す限りその使用形態は特に限定されず、AATが含まれる生体組織またはその処理物をそのまま用いることも可能である。このような生体組織として植物体全体、植物器官(例えば果実、葉、花弁、茎、種子等)、植物組織(例えば果実表皮、果肉等)を用いることが出来る。生体組織の処理物としては、生体組織から抽出したAATの粗酵素液または精製酵素等が挙げられる。
【0029】
AATを精製する方法としては特に制限されないが、好ましくは以下の方法により精製され得る。上記植物のAAT活性を有する組織を破砕後、トリス-HCl緩衝液、リン酸緩衝液等の緩衝液に懸濁する。この粗酵素液について、酵素の精製に常用される(1)沈澱による分画、(2)各種クロマトグラフィー、(3)透析、限外濾過等による低分子物質の除去方法などを単独でまたは適宜組み合わせて適用する。
【0030】
AATの精製方法として好ましい態様は次のとおりである。生体組織を液体窒素等により凍結してすりつぶした後、5倍量のDTT(ジチオスレイトール)およびグリセロール等を含むトリス-HCl緩衝液で抽出する。続いて、粗酵素抽出液をイオン交換クロマトグラフィーに供し、その非吸着部分を回収することで酵素抽出液を取得する。いくつかの粗酵素抽出液の調製方法について検討した結果、この方法によれば、植物に含有するポリフェノールの影響を排除し、安定に且つ効率的に取得できることが判明した。得られた酵素抽出液をイオン交換クロマトグラフィー、ゲルろ過カラム等を用いることで酵素タンパク質を効率よく精製することができる。
【0031】
[AAT発現遺伝子組み換え微生物]
AATを反応に供するに際しては、AAT遺伝子を単離し、一般的な宿主ベクター系に導入し、該ベクター系で形質転換した微生物を利用することも可能である。宿主としては、細菌では大腸菌、Rhodococcus属、Pseudomonas属、Corynebacterium属、Bacillus属、Streptococcus属、Streptomyces属などが挙げられ、酵母ではSaccharomyces属、Candida属、Shizosaccharomyces属、Pichia属、糸状菌ではAspergillus属などが挙げられる。これらの中で、特に大腸菌を用いることが簡便であり、効率もよく好ましい。
【0032】
公知のAAT遺伝子の単離は、データベースに公開された遺伝子情報を利用して、PCR等の汎用の分子生物学的手法を用いて行うことができる。また、AAT遺伝子の塩基配列を通常の方法で全合成することも可能である。一方、遺伝子情報が未知のAAT、精製したタンパク質のアミノ酸配列に基づいて分子生物学的手法により推定される遺伝子の配列情報を利用することで、公知のAAT遺伝子と同様に単離できる。公知または新規のAATが、本発明の触媒活性を有するかどうかについては、前述の方法で確認することができる。
【0033】
組換え微生物を培養して得られる培養液をそのまま用いるか、または、該培養液から遠心分離等の集菌操作によって得られる菌体またはその処理物等を用いることができる。菌体処理物としては、アセトンおよびトルエン等で処理した菌体、凍結乾燥菌体、菌体破砕物、菌体を破砕した無細胞抽出物、並びにこれらから酵素を抽出した粗酵素または精製酵素等が挙げられる。
【0034】
3-ヒドロキシイソブチリル-CoAは、微生物の生体内でメタクリリル-CoAから合成されるものであってよい。
アルコールアシルトランスフェラーゼは、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAのみならずメタクリリル-CoAに対しても反応性を有し、メタクリリル-CoAからメタクリル酸エステルを生成させる。アルコールアシルトランスフェラーゼが、メタクリリル-CoAに対して高い反応性を有すると、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAから3-ヒドロキシイソ酪酸エステルへの反応に機能するアルコールアシルトランスフェラーゼの量が減少する。この結果、目的とする3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの生成効率が低下することとなる。
したがって、3-ヒドロキシイソブチリル-CoAから3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを効率よく生成させるため、アルコールアシルトランスフェラーゼには、メタクリリル-CoAに対する活性と3-ヒドロキシイソブチリル-CoAに対する活性の比(対3-ヒドロキシイソブチリル-CoA活性/対メタクリリル-CoA活性)がより高いものを用いることが好ましい。このようなアルコールアシルトランスフェラーゼとして、ドリアンのアルコールアシルトランスフェラーゼが好適に採用できる(実施例4参照)。
【0035】
3-ヒドロキシイソ酪酸エステルおよびその原料となる3-ヒドロキシイソブチリル-CoAは、メタクリル酸エステルおよびその原料となり得るメタクリル酸およびメタクリリル-CoAとは異なり反応性の高いアルファ位の二重結合をもたないため毒性が低い。また、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルは、メタクリル酸に比して高い水溶性を有する。毒性が低く水溶性が高い3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを原料とした本発明に係るメタクリル酸エステルの製造方法は、特に微生物を利用した反応系において有利な効果を発揮する。
【0036】
工程Aでは、溶媒に3-ヒドロキシイソブチリルCoAおよびアルコールまたはフェノール類を添加して溶解または懸濁させる。そして、この溶液または懸濁液に、AATを接触させ、温度等の条件を制御しながら3-ヒドロキシイソブチリルCoAとアルコールまたはフェノール類とを反応させる。前記反応により、3-ヒドロキシイソブチリルCoAの3-ヒドロキシイソブチリル基をアルコールまたはフェノール類に転移させて3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを生成させる。
【0037】
溶媒には、通常、緩衝液等の水性溶媒が用いられる。
菌体を用いる場合、反応を円滑に進行させるために、浸透圧調整剤等によりモル浸透圧濃度および/またはイオン強度を制御してもよい。浸透圧調整剤としては、菌体内細胞液の浸透圧に対して等張または高張になるように調節する目的で加えられる水溶性物質であればよく、例えば、塩または糖類であり、好ましくは塩である。塩は、好ましくは金属塩、より好ましくはアルカリ金属塩、より好ましくはハロゲン化アルカリ金属であり、例えば、塩化ナトリウムや塩化カリウムが挙げられる。糖類は、好ましくは単糖類またはオリゴ糖類、より好ましくは単糖類または二糖類であり、例えば、グルコース、スクロース、マンニトール等が挙げられる。浸透圧調整剤は1mM以上の濃度で添加することが好ましく、使用する菌体内細胞液と比して等張または高張になるように調節することが特に好ましい。
【0038】
また、生成した3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを分離する目的で、あらかじめ、有機溶媒を添加し、2相系で反応させることも可能である。有機溶媒としては、例えば直鎖状、分岐状または環状の、飽和または不飽和脂肪族炭化水素、飽和または不飽和芳香族炭化水素等を単独でまたは2種以上を混合して用いることができる。具体的には、例えば、炭化水素系溶媒(例えばペンタン、ヘキサン、シクロヘキサン、ベンゼン、トルエン、キシレンなど)、ハロゲン化炭化水素系溶媒(例えば塩化メチレン、クロロホルムなど)、エーテル系溶媒(例えばジエチルエーテル、ジプロピルエーテル、ジイソプロピルエーテル、ジブチルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、ジメトキシエタンなど)、エステル系溶媒(例えばギ酸メチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル)などが挙げられる。これらの有機溶媒を添加しておくことで、3-ヒドロキシイソ酪酸エステルが有機相に移行し、効率的に反応が進行する場合がある。
【0039】
3-ヒドロキシイソブチリルCoAおよびアルコールまたはフェノール類並びにAATのモル比および濃度は、特に制限されず、適宜調整され得る。例えば、3-ヒドロキシイソブチリルCoAおよびアルコールまたはフェノール類並びにAATが、100pM~10mM:10μM~1M:1pM~10mMであることが好ましい。反応温度または反応時間等の各種条件も、特定限定されず、適宜決定され得る。反応温度および反応時間は、通常5~80℃で20分~1週間とされ、好ましくは、10~70℃で20分~120時間であり、同温度帯で20分~60時間がより好ましく、20分~40時間がさらに好ましい。反応液のpHも、特に限定されないが、例えばpH4~10の範囲、好ましくはpH5.0~9.0である。
【0040】
[3-ヒドロキシイソ酪酸エステルの脱水反応]
工程Bでは、従来公知の化学的手法によって3-ヒドロキシイソ酪酸エステルを脱水し、メタクリル酸エステルを生成させる。
化学的手法として、例えば、特許文献3に記載の方法を採用できる。具体的には、シリカ、シリカ-アルミナ、ゼオライトおよび固体リン酸等の固体触媒を用いた、常圧、温度200~500℃での気相反応によって脱水できる。また、硫酸およびリン酸等を用いた液相反応により脱水することもできる。
【0041】
生成したメタクリル酸エステルは、高速液体クロマトグラフィーおよびLC-MSなどの通常の方法を用いて検出し、定量できる。また、培養容器または反応容器の気相部(ヘッドスペース部)に揮発したメタクリル酸エステルは、ガスクロマトグラフィーなどの通常の方法を用いて検出し、定量できる。
【0042】
反応液からのメタクリル酸エステルの単離は、ろ過、遠心分離、真空濃縮、イオン交換または吸着クロマトグラフィー、溶媒抽出、蒸留および結晶化などの周知の操作を必要に応じて適宜組み合わせて行うことができる。得られたメタクリル酸エステルは、アクリル樹脂の原料や、塗料、接着剤および樹脂改質剤などのコモノマーとして利用できる。
【実施例】
【0043】
[実施例1:ドリアンAATの活性測定]
1.ドリアンAATの精製
ドリアン(Durio zibethinus)の果実を液体窒素中で粉末状にすりつぶし、緩衝液(200mM Tris-HCl(pH8.0), 5mM 2-メルカプトエタノール)に懸濁し、ガーゼを用いて濾過した。濾液を遠心分離して上清を分離した。上清にヘキサンを加え混和した後、遠心分離により油層と水層を分離し、水層を粗酵素液として得た。後述する方法により、粗酵素液のAAT活性を測定した。
【0044】
粗酵素液に硫安を添加し、添加濃度30%~60%の画分を緩衝液A(20mM Tris-HCl(pH8.0),5mM 2-メルカプトエタノール)に対して透析した(透析画分1)。
透析画分1をQ-セファロースカラムに供し、緩衝液Aで十分洗浄した後、塩化ナトリウムの濃度を上昇させて溶出を行った。溶出液を回収し緩衝液B(20mM Tris-HCl(pH8.0), 5mM 2-メルカプトエタノール, 30%飽和硫安)に対して透析した(透析画分2)。
次に、透析画分2をResource PHEカラムに供し、緩衝液Bで十分洗浄した後、硫安濃度を減少させて溶出を行った。溶出液を回収し緩衝液Aに対して透析した(透析画分3)。
さらに、透析画分3をMonoQ 10/100カラムに供し、緩衝液Aで十分洗浄した後、塩化ナトリウムの濃度を上昇させて溶出を行った。溶出液を回収し緩衝液C(50mM Tris-HCl(pH8.0), 5mM 2-メルカプトエタノール, 150 mM 塩化ナトリウム)に対して透析した(透析画分4)。
最後に、透析画分4を緩衝液Cで平衡化したSuperdex 200カラムに供した。溶出液を回収し、精製酵素液とした。精製酵素をSDS-PAGEに供したところ、53kDaの単一バンドが確認された。
【0045】
2.AAT活性の測定方法
以下に記載する方法により、粗酵素液、透析画分1~4および精製酵素液のAAT活性を測定した。
反応液(100mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)、40mM n-ブタノール、0.50mM メタクリリル-CoA)を100μl調製した。粗酵素液、透析画分1~4または精製酵素液を添加して密閉し、30℃で30分間反応させた。反応後、内部標準として10mM 2-ヘキサノンを10μl加え、100μlオクタンを用いて溶媒抽出した。遠心分離による分液8μlをガスクロマトグラフィー(GC)にインジェクションし、酵素反応により生成したメタクリル酸ブチル量を測定した。メタクリル酸エステル量は、内部標準法による検量線を作成して算出した。
【0046】
GC分析条件
カラム:DB-WAX(内径0.25mm×60m、0.5μm、Agilent Technologies)
カラム温度:100℃・5min、その後40℃/minで昇温し、200℃・2min
キャリアガス:ヘリウム
検出:FID
Inject温度:230℃
Detect温度:250℃
【0047】
各精製段階における酵素組成物の収量と活性を「表1」に示す。硫安画分と4回のカラム分離により、活性において2334倍に精製された、195mU/mgのAATが得られた。
【0048】
【0049】
[実施例2:ドリアンAAT遺伝子の同定]
ドリアンの種皮、子房室および種子から市販のキット(PureLink Plant RNA Reagent、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてトータルRNAを抽出した。トータルRNAから市販のキット(SMART RACE cDNA Amplification Kit、タカラバイオ社もしくはGeneRacer Kit、サーモフィッシャーサイエンティフィック社)を用いてcDNAを合成した。
【0050】
植物由来のAATに保存されている塩基配列に基づいてプライマーペアを設計し、cDNAからDNA断片の増幅を行った。得られた増幅断片(700bp)の塩基配列を決定した。
【0051】
上記増幅断片の塩基配列に基づいてプライマーを設計し、cDNAを用いた5'RACEおよび3'RACEを行った。得られた増幅断片(約1.1kbpおよび約1.0kbp)の塩基配列を決定し、配列番号2のドリアンAAT遺伝子配列を得た。
【0052】
[実施例3:ドリアンAAT遺伝子発現組み換え大腸菌の作成および組み換えドリアンAATの精製]
1.AAT発現ベクター(pET21-NHisMBPTEV-optDzibAAT)の作成
His-tag配列、MBP(Maltose Binding Protein)配列およびTEVプロテアーゼ切断配列を含むDNA断片をベクターpET21a(ノバジェン社)に組み込んで、ベクターpET21-NHisMBPTEVを得た。
【0053】
配列番号2のドリアンAAT遺伝子配列のコドンを大腸菌に対して最適化して、配列番号9のコドン最適化AAT遺伝子配列(付加配列としてTEVプロテアーゼ切断配列及び制限酵素認識配列を含む)を委託合成し、ベクターpET21-NHisMBPTEVに組み込んで、発現ベクターpET21-NHisMBPTEV-optDzibAATを得た。
発現ベクターpET21-NHisMBPTEV-optDzibAATを大腸菌NiCo21(DE3)(ニューイングランドバイオラボ社)に導入し、組換え体NiCo21(DE3)/pET21-NHisMBPTEV-optDzibAATを得た。
【0054】
2.組み換えドリアンAATの精製
大腸菌組換え体NiCo21(DE3)/pET21-NHisMBPTEV-optDzibAATを、アンピシリンを含む2×YT液体培地200mLに植菌し、37℃にて16時間前培養を行った。培養液を100mL取り、20Lの同培地に添加し、37℃にて培養した。濁度(OD)が1.2になるまで振盪培養した後、IPTG(終濃度0.5mM)を添加し、培養温度を20℃に下げ、さらに16時間振盪培養した。得られた培養液から遠心分離により菌体を回収し、緩衝液D(20 mM Tris-HCl(pH8.0), 300mM NaCl, 10mMイミダゾール, 0.2mM Tris(2-carboxyethyl)phosphine Hydrochloride)に懸濁
した。菌体懸濁液を氷冷しながら超音波破砕機を用いて30分間破砕した後、遠心分離を行って細胞抽出液として上清を得た。
細胞抽出液をNi-NTAカラムに供し、緩衝液Dで十分洗浄した後、イミダゾール濃度を上昇させて溶出を行った。280nmの吸光がある画分を回収し、SDS-PAGEに供し、MBPとAATが融合した目的タンパク質と一致する分子量のバンドを回収し、緩衝液Dに対して4℃で16時間透析した(透析画分1)。
次に、透析画分1に500UのTEVプロテアーゼ(ProTEV Plus、プロメガ社)を添加し、4℃で48時間放置しHisタグ-MBPを切断した。透析画分1をNi-NTAカラムに供し切断されたHisタグ-MBPを吸着させ、AATを含む通過画分に25%飽和硫安になるように80%飽和硫安溶液を加え、アミロースカラム(ニューイングランドバイオラボ社)に供して通過画分を得た。通過画分をTOYOPEARL Butyl-600カラム(東ソー社)に供し、25%飽和硫安を含む緩衝液E(20mM Tris-HCl(pH7.5), 1 mM EDTA, 1mM DTT)で十分洗浄した後、硫安濃度を減少させて溶出を行った。280nmの吸光がある画分を回収し、SDS-PAGEに供し、AATと一致する分子量のバンドを回収し、緩衝液Eに対して4℃で16時間透析した(透析画分2)。
最後に、透析画分3をSP Sepharoseカラム(GEヘルスケア社)に供し、緩衝液Eで十分洗浄した後、塩化ナトリウムの濃度を上昇させて溶出を行った。得られた溶出液を回収して精製酵素液とした。
【0055】
実施例1記載の方法により、細胞抽出液、透析画分1、2および精製酵素液のAAT活性を測定した。各精製段階における酵素組成物の収量と活性を「表2」に示す。3回のカラム分離により、活性において1195倍に精製された、16.4U/mgのAATが得られた。
【0056】
【0057】
[実施例4:AATによる3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルの生成]
反応液(100mM リン酸ナトリウムバッファー(pH7.0)、40mM n-ブタノール、0.5mM 3-ヒドロキシイソブチリル-CoA)を100μl調製した。実施例3で得られた精製酵素液を添加して密閉し、30℃で30分間反応させた。反応後、内部標準として10mM 2-ヘキサノンを10μl加え、100μlオクタンを用いて溶媒抽出した。遠心分離による分液8μlをガスクロマトグラフィー(GC)にインジェクションし、酵素反応により生成した3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルを測定した。3-ヒドロキシイソ酪酸エステル量は、内部標準法による検量線を作成して算出した。
GC分析条件
カラム:DB-WAX(内径0.25mm×60m、0.5μm、Agilent Technologies)
カラム温度:100℃・5min、その後40℃/minで昇温し、240℃・2min
キャリアガス:ヘリウム
検出:FID
Inject温度:300℃
Detect温度:300℃
【0058】
精製酵素として1 μg/mlドリアンAATを加え、反応後の溶液をGC分析した。ドリアンAATを加えた反応溶液から0.13 mM 3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルが検出された。比活性度は6.1 (U/mg)であった。
ドリアンAATの3-ヒドロキシイソブチリル-CoAに対する活性とメタクリリル-CoAに対する活性との比(対3-ヒドロキシイソブチリル-CoA活性/対メタクリリル-CoA活性)は37%(6.1/16.4)であった。この値は、後述するリンゴAAT及びトマトAATの値と比べて顕著に高く、ドリアンAATがイソブチリル-CoAに対して高い反応性を有していることが明らかとなった。
【0059】
[実施例5:各植物AATによる3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルの生成]
1.リンゴAAT遺伝子発現組み換え大腸菌及びトマトAAT遺伝子発現組み換え大腸菌
野生型リンゴAAT(配列番号3)の48位、167位、270位、274位及び447位のシステインが全てアラニンに置換され、150位のシステインがアルギニンに置換され、かつA64V、K117Q、V248A及びQ363Kの4重変異を有する変異型AAT(配列番号7)遺伝子を含むプラスミドpAAT154を文献(特願2017-538070号)記載の方法により作成した。
また、トマト(野生種)野生型AATの2番目のアミノ酸がアラニンからリジンに置換されたトマト(野生種)A2K型AAT(配列番号5)遺伝子を含むプラスミドpAAT032を委託合成した(Genscript社、以下同じ)。
【0060】
リンゴAAT発現ベクターpAAT154及びトマトAAT発現ベクターpAAT032を大腸菌JM109株に導入し、組換え体を得た。
【0061】
2.AATを含む細胞抽出液の調製
アンピシリンを含むLB(1%バクトトリプトン、0.5%バクトイーストエキス、1%NaCl)培地に大腸菌形質転換体を植菌し、37℃にて7時間前培養を行った。
培養液を200μl取り、100mlの同培地(1mMIPTG含有)に加え、37℃にて15時間振盪培養した。
培養液から菌体を回収し、50mMリン酸-ナトリウム緩衝液(pH7.0)で洗浄した後、同緩衝液に懸濁した。
【0062】
得られた菌体懸濁液をOD630が20となるように調整した。
超音波処理により細胞を破砕し、遠心分離により菌体及び膜画分を除いた。その後、Nalgene Rapid-flow Bottle Top Filter(孔径0.2μm、サーモフィッシャーサイエンティフィック社製)を用いて濾過し、細胞抽出液を調製した。
【0063】
3.AATを含む細胞抽出液の濃縮
得られた細胞抽出液を14,400gの遠心力にて30分遠心分離し上清を分離した。上清を分画分子量1,000,000の限外濾過膜Vivaspin(Sartorius社製)に供し、通過画分を得、それを分画分子量30,000の限外濾過膜Amicon Ultra(メルク社製)に供し1/10から1/20の液量になるまで濃縮した。
【0064】
4.濃縮処理したAATを含む細胞抽出液のAAT活性測定
3-ヒドロキシイソブチリル-CoA 0.5mMとn-ブタノール 40mMを含む反応液180μlに20μlの細胞抽出液を添加し、3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルの生成反応を開始した。反応は、2ml容量のバイアル中で行った。バイアルを30℃でインキュベートして、15~35時間反応を進行させた。反応終了後、バイアル中の反応液に0.8mlの酢酸エチルを添加し混和し、静置後の酢酸エチル層を分取し、GC分析に供した。
【0065】
GC分析条件
装置:GC-2010(島津製作所)
カラム:DB-1 30m×0.25mmID 0.25μm
カラム流量:He 1.0mL/min
昇温条件:50℃、その後10℃/minで150℃まで昇温し、さらに20℃/minで300℃まで昇温
検出:FID
Inject温度:220℃
Detect温度:300℃
スプリット比:1/20
GC注入量:1.0μL
【0066】
また、メタクリリル-CoA 0.5mMとn-ブタノール 40mMを含む反応液900μlに100μlの細胞抽出液を添加し、メタクリル酸ブチルの生成反応を開始した。反応は、10ml容量のサンプル瓶(GC用)中で行った。サンプル瓶を30℃でインキュベートして、1~5時間反応を進行させた。反応終了後、サンプル瓶中の反応液に1mlのアセトニトリルを添加し混和した。その後、シリンジフィルターDISMIC(穴径0.45μm、ADVANTEC社製)を用いて濾過後、HPLC分析に供した。
【0067】
HPLC分析条件:
装置:Waters 2695
カラム:Shiseido CAPCELL PAK C18 UG120 5μm
移動相:65%MeOH、0.2%リン酸
流量:0.25ml/min
カラム温度:35℃
検出:UV210nm
注入量:10μL
【0068】
リンゴAAT又はトマトAAT又はドリアンAATを含む細胞抽出液を加えた反応液から3-ヒドロキシイソ酪酸ブチルが検出された。
3-ヒドロキシイソ酪酸ブチル及びメタクリル酸ブチルの生成量から、リンゴAAT及びトマトAATの3-ヒドロキシイソブチリル-CoA(3HIBA-CoA)及びメタクリリル-CoA(MAA-CoA)に対する活性を評価した(表3参照)。
【0069】
【配列表フリーテキスト】
【0070】
配列番号1:ドリアンAATのアミノ酸配列
配列番号2:ドリアンAAT遺伝子の塩基配列
配列番号3:リンゴAATのアミノ酸配列
配列番号4:コドン最適化リンゴAAT遺伝子配列
配列番号5:トマトA2K型AATのアミノ酸配列
配列番号6:コドン最適化トマトA2K型AAT遺伝子配列
配列番号7:変異型リンゴAATのアミノ酸配列
配列番号8:コドン最適化変異型リンゴAAT遺伝子配列
配列番号9:コドン最適化ドリアンAAT遺伝子配列(付加配列としてTEVプロテアーゼ切断配列及び制限酵素認識配列を含む)
【配列表】