(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】RNA検出方法
(51)【国際特許分類】
C12Q 1/686 20180101AFI20230718BHJP
C12Q 1/48 20060101ALI20230718BHJP
C12N 15/09 20060101ALN20230718BHJP
【FI】
C12Q1/686 Z ZNA
C12Q1/48 Z
C12N15/09 Z
(21)【出願番号】P 2017085299
(22)【出願日】2017-04-24
【審査請求日】2020-03-05
【審判番号】
【審判請求日】2021-11-15
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)国等の委託事業に係る研究の成果に係る特許出願(平成24年度独立行政法人科学技術振興機構 事業「戦略的創造研究推進事業」の委託、産業技術力強化法第19条の適用を受ける特許出願)
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】110001427
【氏名又は名称】弁理士法人前田特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】高橋 宏和
(72)【発明者】
【氏名】岡村 好子
(72)【発明者】
【氏名】中島田 豊
(72)【発明者】
【氏名】秋 庸裕
(72)【発明者】
【氏名】松村 幸彦
(72)【発明者】
【氏名】大川内 雅彦
【合議体】
【審判長】上條 肇
【審判官】牧野 晃久
【審判官】高堀 栄二
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-080871(JP,A)
【文献】国際公開第2016/152936(WO,A1)
【文献】国際公開第01/77383(WO,A2)
【文献】特表2002-509703(JP,A)
【文献】Chemical Science,2017年3月7日,Vol.8,p.3668-3675
【文献】RNA,2016年,Vol.23,p.250-256
【文献】Analytical Sciences,2014年,Vol.30,p.59-64
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C12N 15/00- 15/90
C12Q 1/00- 3/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAPlus/MEDLINE/BIOSIS/EMBASE/WPIDS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
標的RNAと、前記標的RNAの3’末端を含まない内部配列に相補的なパドロック型のDNAプローブとをハイブリダイズするハイブリダイズ工程と、
前記標的RNAとハイブリダイズされた前記DNAプローブをDNA結合酵素により環状化する環状化工程と、
前記DNAプローブを環状化した後、ハイブリダイズされている前記標的RNAに、RNaseHを用いてニックを形成するニック形成工程と、
ニックが形成された前記標的RNAをプライマーとし、環状化した前記DNAプローブを鋳型として、ローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNAの増幅を行う増幅工程と、を備
え、
前記各工程は、5mM以上、50mM以下のカリウム塩の存在下で行う、RNA検出方法。
【請求項2】
前記標的RNAは、直鎖状RNAである、請求項1に記載のRNA検出方法。
【請求項3】
前記DNAプローブは、その配列の全部又は一部が、前記標的RNAに相補性を有している、請求項1又は2に記載のRNA検出方法。
【請求項4】
前記ハイブリダイズ工程において、前記標的RNAは、その配列の一部が前記DNAプローブとハイブリダイズされる、請求項1~3のいずれか1項に記載のRNA検出方法。
【請求項5】
前記増幅工程は、鎖置換活性を有するDNA合成酵素により行われる、請求項1~4のいずれか1項に記載のRNA検出方法。
【請求項6】
前記ニック形成工程及び前記増幅工程が一定温度で行われる、請求項1~5のいずれか1項に記載のRNA検出方法。
【請求項7】
前記増幅工程において増幅された一本鎖DNAに結合する色素を用いて検出を行う検出工程をさらに備えている、請求項1~6のいずれか1項に記載のRNA検出方法。
【請求項8】
前記DNAプローブは、グアニン4重鎖を形成させる配列を有し、
前記色素は、グアニン4重鎖に特異的な検出用色素である、請求項7に記載のRNA検出方法。
【請求項9】
前記検出工程は、前記増幅工程と並行して行われる、請求項7又は8に記載のRNA検出方法。
【請求項10】
前記カリウム塩は、グルタミン酸カリウムである、請求項1~9のいずれか1項に記載のRNA検出方法。
【請求項11】
標的RNAの3’末端を含まない内部配列と相補的な配列を有するパドロック型のDNAプローブと、
前記標的RNAとハイブリダイズした前記DNAプローブを環状化するDNA結合酵素と、
前記DNAプローブが環状化された状態で、前記標的RNAにニックを形成するRNaseHと、
ニックを形成した前記標的RNAをプライマーとし、前記DNAプローブを鋳型としてローリングサークル型DNA増幅を行う、鎖置換型DNA合成酵素と
、
各反応を行うための5mM以上、50mM以下のカリウム塩を含む反応溶媒とを含む、RNA検出キット。
【請求項12】
一本鎖DNAを特異的に検出する色素をさらに含む、請求項
11に記載のキット。
【請求項13】
前記カリウム塩は、グルタミン酸カリウムである請求項11又は12に記載のRNA検出キット。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示はRNA検出方法及びRNA検出用キットに関する。
【背景技術】
【0002】
標的RNAを検出する方法として、RNA-プライムローリングサークル型増幅(RNA-primed rolling circle amplification、RPRCA)法が注目されている。RPRCA法は、標的RNAを、その3’側配列と相補的な配列を有する環状の一本鎖DNAプローブとハイブリダイズし、標的RNAの3’末端をDNA合成の開始点として、DNAプローブと相補性を有する一本鎖DNAをローリングサークル増幅(rolling circle amplification、RCA)法により、連続的に合成する。合成された一本鎖DNAを検出することにより、逆転写(reverse transcription、RT)反応を行うことなく、標的RNAを検出することができる(例えば、特許文献1を参照。)。
【0003】
RPRCA法は従来のRNA検出法とは異なり、RT反応を必要とせず、標的RNAに混在しやすいDNAの影響をほとんど受けないという利点を有している。また、RT反応を介さないため検出に必要な時間を大幅に短縮できる。さらに、増幅前後で検出に重要な核酸の3’末端の数が変化しないことから、既存のDNA増幅法に比べ、キャリーオーバーコンタミネーションによる偽陽性の発生が低くなると期待される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】米国特許出願公開第2009/0181390号明細書
【文献】特開2012-080871号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、従来のRPRCA法は、検出用プローブとして環状の一本鎖DNAを用いる。この場合、標的RNAの3’末端配列しか、DNAプローブの認識配列とすることができない。従って、3’末端配列が明確になっていないRNAは、検出用プローブを構築することができず、検出対象とすることができない。また、3’末端配列がポリA配列となっている真核生物のmRNAも検出対象とすることができない。
【0006】
標的RNA上の任意の配列をDNAプローブの認識配列として設定するために、環状プローブにハイブリダイズした標的RNAに対し、リボヌクレアーゼH(RNaseH)を用いてニックを形成することも検討されている(例えば、特許文献2を参照。)。しかし、この場合、認識配列以外の部分にハイブリダイズしたRNAにおいてもRNaseHによるニックが形成される。環状化DNAプローブを使用しているため、この場合にもRCA反応が進んでしまい、生体由来のRNAでは非特異的にDNA増幅が確認されるという問題が生じる。
【0007】
本開示の課題は、標的RNA上の任意配列をプローブの認識配列として設定することができると共に、特異性が高いRNA検出方法を実現できるようにすることである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本開示のRNA検出方法の一態様は、標的RNAと、標的RNAの内部配列に相補的なパドロック型のDNAプローブとをハイブリダイズするハイブリダイズ工程と、標的RNAとハイブリダイズされたDNAプローブをDNA結合酵素により環状化する環状化工程と、DNAプローブを環状化した後、ハイブリダイズされている標的RNAに、RNaseHを用いてニックを形成するニック形成工程と、ニックが形成された標的RNAをプライマーとし、環状化したDNAプローブを鋳型として、ローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNAの増幅を行う増幅工程と、を備えている。
【0009】
RNA検出方法の一態様において、標的RNAは、直鎖状RNAとすることができる。
【0010】
RNA検出方法の一態様に追いて、DNAプローブは、その配列の全部又は一部が、標的RNAに相補性を有していてもよい。
【0011】
RNA検出方法の一態様において、ハイブリダイズ工程では、標的RNAはその配列の一部がDNAプローブとハイブリダイズされるようにできる。
【0012】
RNA検出方法の一態様において、増幅工程は、鎖置換活性を有するDNA合成酵素により行うことができる。
【0013】
RNA検出方法の一態様において、ニック形成工程及び増幅工程は一定温度で行うことができる。
【0014】
RNA検出方法の一態様は、増幅工程において増幅された一本鎖DNAに結合する色素を用いて検出を行う検出工程をさらに備えていてもよい。
【0015】
この場合において、DNAプローブはグアニン4重鎖を形成させる配列を有し、色素は、グアニン4重鎖に特異的な検出用色素とすることができる。
【0016】
RNA検出方法の一態様において、検出工程は、増幅工程と並行して行うことができる。
【0017】
本開示のRNA検出キットの一態様は、標的RNAの内部配列と相補的な配列を有するパドロック型のDNAプローブと、標的RNAとハイブリダイズしたDNAプローブを環状化するDNA結合酵素と、DNAプローブが環状化された状態で、標的RNAにニックを形成するRNaseHと、ニックを形成した標的RNAをプライマーとし、DNAプローブを鋳型としてローリングサークル型DNA増幅を行う、鎖置換型DNA合成酵素とを含む。
【0018】
RNA検出キットの一態様は、一本鎖DNAを特異的に検出する色素をさらに含んでいてもよい。
【発明の効果】
【0019】
本開示のRNA検出方法によれば、標的RNA上の任意配列をプローブの認識配列として設定することができると共に、特異性を向上できる。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【
図1】一実施形態に係るRNA検出法の各ステップを示す概略図である。
【
図2】DNAプローブの環状化条件の検討結果を示す電気泳動像である。
【
図3】環状化効率の検討結果を示す電気泳動像である。
【
図4】ニック形成及び増幅条件の検討結果を示す電気泳動像である。
【
図5】ニック形成及び増幅条件の検討結果を示す電気泳動像である。
【
図6】リアルタイム検出の検討結果を示すグラフである。
【
図7】全RNA抽出試料による測定結果を示す電気泳動像である。
【
図8】全RNA抽出試料によるリアルタイム検出の測定結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0021】
本実施形態のRNA検出方法は、
図1に示すように、標的RNA101と、標的RNA101の内部配列に相補的なパドロック型のDNAプローブ102とをハイブリダイズするハイブリダイズ工程S1と、標的RNA101とハイブリダイズされたDNAプローブ102をDNA結合酵素(DNAリガーゼ)103により環状化する環状化工程S2と、DNAプローブ102を環状化した後、ハイブリダイズされている標的RNA101に、リボヌクレアーゼH(RNaseH)104を用いてニックを形成するニック形成工程S3と、ニックが形成された標的RNAをプライマー101Aとし、環状化されたDNAプローブ102を鋳型として、DNA合成酵素(DNAポリメラーゼ)105を用いたローリングサークル型DNA増幅法により一本鎖DNA106の増幅を行う増幅工程S4とを備えている。
【0022】
本実施形態において、標的RNAは、特に制限がない。このため、RNAを含むあらゆる試料を用いて、RNA検出を行うことができる、具体的には、ウイルス、原核生物、及び真核生物の個体そのもの、又はその一部を試料とすることができる。例えば、人を含む脊椎動物においては、糞便、尿、又は汗のような排泄物、血液、精液、唾液、胃液、又は胆汁のような体液等を試料とすることができる。さらに、外科的に生体から取り出した組織、又は体毛のように生体から脱落した組織を試料することもできる。脊椎胴部に限らず、細菌、カビ、酵母、植物、及び昆虫等の生物に由来する種々の試料が対象となる。また、先に挙げた試料をさらに分画してその一部を取り出して試料とすることができる。
【0023】
本実施形態において、標的RNAは、その3’末端にポリA鎖を有するものであってもよい。また、一本鎖、二本鎖のいずれも好適に使用できる。二本鎖RNAを標的とする場合は、二本鎖RNAを一本鎖に変性する前処理工程を行った後に本実施形態のRNA検出方法を行うことができる。二本鎖RNAを変性させるには、例えば、約95℃で保持する方法等、当業者に公知の方法を用いることができる。
【0024】
パドロック型のDNAプローブは、例えばDNA合成機によって合成されたオリゴヌクレオチドを使用することができる。DNAプローブは、標的RNAの内部配列に相補的な配列を有し、標的RNAとハイブリダイズ可能であれば、どのようなものを用いることもできる。本開示において、標的RNAの内部配列とは、標的RNAの3’末端を含まない配列である。DNAプローブの配列は、全体が標的RNAと相補性を有していても、一部のみが標的RNAと相補性を有していてもよい。DNAプローブの大きさは、特に限定されないが、好ましくは30bp~20kb程度であり、より好ましくは50bp~2000bp程度である。
【0025】
パドロック型のDNAプローブと、標的RNAとのハイブリダイズは、標的RNA及びプローブDNAの組み合わせを考慮して、適宜最適な条件を設定すればよい。
【0026】
標的RNAとハイブリダイズされたDNAプローブ(RNA-splinted padlock probe)の環状化は、DNA結合酵素(DNAリガーゼ)を用いて行うことができる。具体的には、T4DNA ligase又はSplintR ligaseを用いて行うことができる。特にSplintR ligaseは、系中のアデノシン三リン酸(ATP)濃度の影響を受けにくいため、好ましい。SplintR ligaseを用いる場合には、系中のATP濃度は特に限定されないが、好ましくは10μm以上、より好ましくは20μm以上、好ましくは4mM以下、より好ましくは2mM以下とする。T4DNA ligaseを用いる場合には、系中のATP濃度を1μM以上、好ましくは5μM以上、100μM以下、好ましくは50μM以下、より好ましくは10μMとする。
【0027】
DNAプローブを環状化した後、標的RNAにおけるハイブリダイズしている部分に、RNaseHを用いてニックを形成する。これにより、標的RNAにおけるDNAプローブとハイブリダイズしている部分に3’末端が形成される。ハイブリダイズしている標的RNAにニックを形成する観点から、RNaseHの濃度は好ましくは0.003ユニット(U)以上、より好ましくは0.03U以上とする、ハイブリダイズした標的RNAの完全な分解が生じないようにする観点から、好ましくは3U以下、より好ましくは0.3U以下とする。
【0028】
ニック部分(3’末端)からローリングサークル(RCA)型DNA増幅法により一本鎖DNAの増幅(伸長)を行う。ローリングサークル型DNA増幅法は、ハイブリダイズした後にニックを形成した標的RNAをプライマーとし、環状化されたDNAプローブを鋳型として一本鎖DNAの伸長を行う。一本鎖DNAの伸長において、DNAの鎖置換(strand displacement)活性を有する鎖置換型DNA合成酵素を用いることが好ましい。「鎖置換活性」とは、DNAを複製していく過程において伸長方向に二本鎖のDNAが既に形成されている場合、相補鎖を5’側から引き剥がして鋳型を一本鎖にしながら、一本鎖となった鋳型に対して新たな相補鎖を合成してゆく活性を意味する。鎖置換型DNA合成酵素を用いることにより、鋳型である環状化されたDNAプローブの相補鎖が直列に繰り返し連結された高分子量の一本鎖DNAが得られる。
【0029】
鎖置換型DNA合成酵素は、特に限定されないが、例えば、phi29 DNA polymerase(New England BioLabs社他)、Klenow fragment(タカラバイオ社他)、Bst DNA polymerase (New England BioLabs社他)、BcaBEST DNA polymerase(タカラバイオ社)、PyroPhageTM 3173 DNA polymerase(Lucigen社)等を用いることができる。中でもphi29 DNA polymeraseは、常温で反応が行えると共に、DNA合成速度が高いため好ましい。
【0030】
一本鎖DNAの増幅において使用される鎖置換型DNA合成酵素の量(濃度)は、使用する酵素の種類によって至適化することが好ましい。例えば、phi29 DNA polymeraseの場合、好ましくは終濃度約0.025ng/μL~1μg/μL、より好ましくは終濃度約5ng/μL~20ng/μLとすることができる。
【0031】
一本鎖DNAの増幅は、酵素の至適温度とプライマー鎖長に基づく変性温度(プライマーが鋳型DNAに結合(アニール)/解離する温度帯)に基づいて通常の手順により反応温度を設定することができる。例えば、反応温度は一定の常温とすることができる。本開示における「常温」とは、25℃~65℃を意味する。具体的に、鎖置換型DNA合成酵素としてphi29 DNA polymeraseを使用する場合は、反応温度を好ましくは25℃~42℃とする。また、耐熱性酵素を使用して行う場合は、反応温度を好ましくは55℃~65℃とする。耐熱性酵素を使用する場合は、環状DNAプローブ鎖における標的RNAと相補的な部分の長さは約30オリゴヌクレオチド以上であることが好ましい。
【0032】
本実施形態のRNA検出方法においては、一本鎖DNAの増幅を一定温度で行うことができるため、サーマルサイクラーを用いる必要がない。
【0033】
一本鎖DNAの増幅において、緩衝成分、マグネシウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びデオキシヌクレオシド三リン酸(dNTP)を含有する反応液を使用することができる。緩衝成分は、特に限定はないが、例えば、トリス塩酸又はトリス酢酸が好適に使用できる。マグネシウム塩としては、特に限定はないが、例えば、塩化マグネシウム、硫酸マグネシウム又は酢酸マグネシウムが好適に使用できる。塩化マグネシウムの場合その濃度は、好ましくは約5mM~20mM、より好ましくは約10mMである。また、カリウム塩としては、特に限定はないが、例えば、塩化カリウム、グルタミン酸カリウム(K-glutamate)又は酢酸カリウムが好適に使用できる。塩化カリウムの場合その濃度は、好ましくは約5mM~50mM、より好ましくは約20mMである。また、アンモニウム塩としては、特に限定はないが、例えば、硫酸アンモニウム又は酢酸アンモニウムが好適に使用できる。その濃度は、好ましくは約5mM~60mM、より好ましくは約40mMである。DNA増幅の基質となるdNTP混合物(dATP、dCTP、dGTP、dTTP)の濃度は、好ましくは約0.5mM~2mM、より好ましくは約1mMである。この他、反応液中には伸長反応の安定化を目的とした添加物を添加してもよい。例えば、ジチオトレイトール(DTT)を好ましくは約0.5mM~5mM、より好ましくは約1mM加えることができる。さらに、長時間反応に際し、副産物として生成される、DNA合成反応の阻害剤であるピロリン酸を除去するためにピロフォスファターゼ(Pyrophosphatase)を加えることによって合成効率を上げることもできる。Pyrophosphataseは約0.02U/反応、添加することが好ましい。
【0034】
一本鎖DNAの増幅を行った後、増幅した一本鎖DNAの検出を行う。増幅した一本鎖DNAの検出には既知の方法を用いることができるが、例えば、増幅されたDNAに結合する標識を添加し、その標識を検知する方法を用いることができる。このような標識として例えば、一本鎖の核酸に特異的に結合する染色試薬(例えば、SYBR GreenII、Invitrogen社)を用いることができる。
【0035】
また、標識を増幅の反応系中に加えれば、増幅工程と並行してリアルタイムで検出を行うことができる。例えば、SYBR GreenIIを、増幅の際に反応系中に終濃度で約1倍となるように加えれば、リアルタイム検出を行うことができる。
【0036】
また、増幅された一本鎖DNAがグアニン4重鎖を形成するようにし、グアニン4重鎖に特異的に結合する色素を、終濃度で約1倍となるように加えることによってもリアルタイム検出を行うことができる。グアニン4重鎖に特異的に結合する色素として、チオフラビンT又はその類自体を用いることができる。
【0037】
これに限らず、増幅された一本鎖DNAに結合する標識を用いることができる。また、一本鎖DNAが部分的に二本鎖を形成するため、一般的な二本鎖DNA検出に利用されるエチジウムブロマイド等を標識として用いることもできる。
【0038】
この他、配列に特異的に結合する標識として、蛍光標識又は放射線標識等されたDNA断片、メチル化等の修飾を含むRNA断片、及びペプチド核酸(PNA)断片、並びにDNA配列に特異的に結合する抗体又は金属ナノ粒子等を用いることができる。標識の標的となる特異的なDNA、RNA及びPNA配列は、標的RNAの配列に相補的な配列であってもよいが、例えば、DNAプローブに標識の標的となる配列の相補的な配列を組み込んでおくことも可能である。また、配列に非特異的に結合する標識を用いることもできる。
【0039】
標識の検出方法は、蛍光や放射線等、標識の種類に応じて適宜選択すればよい。また、抗体を標識に用いた場合は、二次抗体やカップリング反応を用いて検知することができる。金属ナノ粒子を用いた場合には、粒子間相互作用の変化に伴う物性変化を計測することにより検出することができる。さらに、クロマトグラフィーや電気泳動などを用いて検知することも可能である。この場合、標識せずに増幅した一本鎖DNAを検出することも可能である。
【0040】
本実施形態のRNA検出方法では、DNAプローブの環状化を標的RNAとハイブリダイズした後でDNA結合酵素により行っている。このため、DNAプローブの認識配列以外の部分にRNAがハイブリダイズした場合には、DNAプローブの環状化が生じず、ローリングサークル型のDNA増幅は行われない。従って、あらかじめ環状化されたDNAプローブを用いる場合と比べて、特異性を大きく向上させることができる。
【0041】
本実施形態のRNA検出方法に用いる反応試薬及び組成物は、RNA検出キットとすることができる。本実施形態のRNA検出キットは、標的RNAと相補的な配列を含むパドロック型のDNAプローブ、標的RNAとハイブリダイズしたパドロック型のDNAプローブを環状化するDNA結合酵素、DNAプローブを環状化した後、ハイブリダイズした標的RNAにニックを形成するRNaseH、ニックを形成した標的RNAをプライマーとし、環状化したDNAプローブを鋳型として、一本鎖DNAの増幅を行う鎖置換型DNA合成酵素を含む。DNA結合酵素は、T4DNA ligase又はSplintR ligaseが好ましい。鎖置換型DNA合成酵素は、phi29 DNA polymeraseが好ましい。この他、一本鎖DNAの増幅に用いる反応液及び増幅した一本鎖DNAの検出に用いる検出試薬等を含むことができる。反応液は、例えば緩衝成分、マグネシウム塩、カリウム塩、アンモニウム塩、及びdNTP等の少なくとも1つを含有することができる。検出試薬は、例えば一本鎖の核酸に特異的に結合する色素等とすることができる。
【0042】
本実施形態のRNA検出方法において、DNAプローブの環状化を行った後、ニック形成を行う前に、未反応のオリゴヌクレオチドを除去するオリゴヌクレオチド除去工程を行うことができる。未反応のオリゴヌクレオチドを除去することにより、感度をより向上させることができる。オリゴヌクレオチドの除去は、エクソヌクレアーゼを用いて行うことができる。
【0043】
以下に、実施例を用いて本開示のRNA検出方法についてさらに詳細に説明する。以下の実施例は例示であり、本発明をこれに限定するものではない。
【実施例】
【0044】
<基本操作>
-ハイブリダイゼーション-
あらかじめリン酸化したプローブと、標的RNAを含む試料とを混合した後、95℃で2分間インキュベーションした後、30℃まで徐々に温度を下げ、30℃で10分間インキュベーションした。混合液の最終量は10μLとした。混合液は、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate及び0.5mMのEDTAを含むバッファとした。
【0045】
-ハイブリダイゼーション産物の環状化-
10μLのハイブリダイゼーション産物に、所定濃度のATP及びDNAリガーゼを含む環状化反応液10μLを混合した。環状化反応液は、20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate、20mMのMg-acetate及び20mMのDTTを含むバッファとした。環状化反応液と混合した後、37℃で1時間インキュベーションし環状化を行った。その後、65℃で10分間加熱することで酵素を失活させた。次に、Exonucleaseを用いて未反応のオリゴヌクレオチドを除去し、80℃で15分間加熱することにより酵素を失活させた。Exonucleaseは20mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate及び10mMのMg-acetateを含むバッファ中で作用させた。
【0046】
-CircLigaseを用いたプローブの環状化-
指標となる環状化DNAは、以下のようにして形成した。最終量が20μLとなるように1×CircLigase reaction buffer(Epicentre社)と100pmolのプローブ、0.05mMのATP、2.5mMのMnCl2、100UのCircLigase ssDNA ligaseを混合した。その後、60℃で1時間インキュベーションし、80℃で20分間加熱することで酵素を失活させた。
【0047】
未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、ハイブリダイゼーション産物の環状化と同様にして行った。
【0048】
-ニック形成及び増幅-
プローブを環状化した試料に、所定量のRNaseH及び鎖置換型DNA合成酵素を含む反応液を混合した。反応液は、30mMのトリス酢酸(pH7.5)、50mMのK-glutamate、30mMの酢酸マグネシウム、80mMの硫酸アンモニウム、20mMのdNTP及び10mのMDTTを含むバッファとした。その後、30℃で所定時間インキュベーションし、65℃で10分間加熱することで酵素を失活させた。
【0049】
-GFP mRNAのインビトロ転写-
緑色蛍光タンパク質(GFP)mRNAのインビトロ転写は、Hiscrib T7 High Yield RNA Synthesis KitT7 Kit(New England Biolabs社)を用いて行った。1μgのpET-AcGFPをNotIで消化して得られた直鎖状の鋳型DNAを転写反応液に添加し、37℃で2時間インキュベートした。DNase処理により鋳型DNAを除去した後、転写したmRNAをNucleoSpin RNA Clean-nup XS(タカラバイオ)を用いて精製し、濃度測定はQuant-iT RNA BR Assay Kit(Invitrogen)とQubit fluorometer(Invitrogen)を用いて行った。転写したGFPmRNAは用時まで-80℃で保存した。
【0050】
<環状化条件の検討>
プローブの環状化条件を以下のようにして検討した。標的RNAには、配列表配列番号1に示される合成オリゴRNA1を用いた。RNA1の配列は以下の通りである。
RNA1:5’-rGrCrGrArUrCrArCrArUrGrArUrCrUrArCrurUrCrGrGrCrUrUrCrGrUrGrA-3’,30 mer
パドロックプローブには、配列表配列番号2に示されるプローブDNA1を用いた。DNA1の配列は以下の通りである。DNA1:5’Pho-AGATCATGTGATCGCgaattcgccagggttttcccagtcacgactTCACGAAGCCGAAGT-3’,60 mer。
なお、大文字部分がRNA1と相同性を持つ。
【0051】
まず、RNA1とDNA1とのハイブリダイゼーションを先に述べた方法により行った。ハイブリダイゼーション反応溶液中におけるRNA1の濃度は25pmolとし、DNA1の濃度は100pmolとした。
【0052】
次に、先に述べた方法により、プローブDNA1の環状化を行った。所定濃度のATP及び種々のDNAリガーゼを含む反応溶液10μLを混合した。ATP濃度は、1mM、400μM、又は10μMとした。DNAリガーゼは、200UのT4DNA ligase、又は12.5UのSplintR ligase(New England Biolabs社)とした。また、5UのT4RNA ligase2についても検討した。
【0053】
未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、10UのExonuclease I(New England Biolabs社)、50UのExonuclease III(New England Biolabs社)を用いた。環状化後にExonucleaseを含む反応液10μLを混合し、30℃で15分間インキュベーションした。その後、80°Cで15分間加熱することにより酵素を失活させた。
【0054】
環状化されたプローブの精製は、フェノールクロロホルム抽出後に、High Pure PCR Cleanup Micro Kit(ロシュ・ライフサイエンス社)を用いて行った。精製には産物30μLを使用し、20μLで溶出した。
【0055】
精製産物は変性のためにホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、10%(w/v)の変性ポリアクリルアミド電気泳動(変性PAGE、29:1[w/w]、acrylamide/bisacrylamide; 7 M urea, 1×TBE buffer)を行い、ミリQ水により1000倍希釈したUltra Power DNA/RNAセーフダイ(Gellex社)を用いて後染めを行い、ブルーライトを照射することにより産物を分析した。
【0056】
T4DNA ligaseを用いた場合、DNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブは、ATP濃度にかかわらず環状化される。しかし、
図2に示すように、今回RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブは、ATP濃度が10μMの場合のみ環状化した。また、環状化効率は、DNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブの場合と比べて低かった。SplintR ligaseを用いた場合、RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブも、ATP濃度にかかわらず環状化した。RNAとハイブリダイズしたパドロック型プローブの環状化効率は、T4DNA ligaseを用いた場合の効率と比べて明らかに高かった。一方、T4RNA ligase2を用いた場合は、いずれの条件においても、パドロック型プローブの環状化を確認できなかった。
【0057】
<環状化効率の検討>
次に、SplintR ligaseを用いた場合の、パドロック型プローブの環状化効率を検討した。標的RNAとしてインビトロ転写したGFPmRNAを用いた。パドロック型のDNAプローブとして表1に示すプローブP1~P5(それぞれ配列表配列番号3~7に示す。)を用いた。プローブP1~P5は、1mMのATPを添加した1×T4 Polynucleotide Kinase Buffer(タカラバイオ株式会社)と10UのT4 Polynucleotide Kinase(タカラバイオ株式会社)を使用してあらかじめリン酸化した。
【0058】
【0059】
なお、大文字部分が、GFPmRNAと相同性を有する部分である。また、左腕及び右腕のTmは、プローブ濃度が5μM、Naイオン濃度が50mM、ターゲットがRNAであるとしてOligoanalyzer 3.1により計算した値である。
【0060】
まず、GFPmRNAとプローブとのハイブリダイゼーションを先に述べたようにして行った。GFPmRNAの濃度は25pmol、プローブの濃度は100pmolとした。
【0061】
次に、先に述べたようにしてプローブの環状化を行った。SplintR ligaseの濃度は12.5Uとした。未反応のオリゴヌクレオチドの除去は、50UのExonuclease I(New England Biolabs社)、50UのExonuclease III(New England Biolabs社)、10μgのリボヌクレアーゼA溶液(ナカライテスク社)を用いて行った。
【0062】
環状化されたプローブの精製は、フェノールクロロホルム抽出後に、High Pure PCR Cleanup Micro Kit(ロシュ・ライフサイエンス社)を用いて行った。精製には産物30μLを使用し、20μLで溶出した。
【0063】
精製産物は変性のためにホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、10%(w/v)の変性PAGE(29:1[w/w]、acrylamide/bisacrylamide; 7 M urea, 1×TBE buffer)を行い、ミリQ水により1000倍希釈したUltra Power DNA/RNAセーフダイ(Gellex社)を用いて後染めを行い、ブルーライトを照射することにより産物を分析した。
【0064】
図3に示すように、P1~P5のすべてのプローブにおいてCircLigase ssDNA ligase(Epicentre社)により環状化した場合と同様の位置にバンドが認められ、SplintR ligaseによりすべてのプローブが環状化されていることが確認できた。プローブによってバンドの濃さにわずかに違いがあるため、プローブがハイブリする位置によって環状化効率に多少の差があると考えられるが、末端塩基の影響は小さいことが示された。
【0065】
以上のことから、配列の一部しか判明していない標的RNAにおいても、パドロック型のDNAプローブを作成し、ハイブリダイズした状態で環状化できることが明らかとなった。
【0066】
<ニック形成及び増幅条件の検討>
DNAプローブを環状化した後のニック形成及び増幅の条件を検討した。試料として、10fmolのインビトロ転写GFPmRNAを用い、プローブの濃度は250fmolとした。先に述べたようにして、GFPmRNAとリン酸化したプローブとをハイブリダイズし、プローブの環状化を行った。DNA結合酵素には、12.5UのSplintR ligaseを用いた。
【0067】
次に、ニック形成及び一本鎖DNAの増幅を行った。RNaseHの濃度は、0、0.0003U、0.0006U、0.003U、0.006U、0.03U、0.06U、0.3U及び50Uとした。鎖置換型DNA合成酵素は、100ngのphi29DNApolymeraseとした。20μLのライゲーション産物を用い、反応液の量は20μLとした。
【0068】
得られた産物にUltraPowerDNA/RNAセーフダイを添加し、1%アガロースゲル電気泳動(1×TAE buffer)を行い、ブルーライトを照射することによりバンドを確認した。すべての反応と電気泳動は再現性を確認するために3回以上行った。
【0069】
標的RNAにニックが形成されると、Phi29DNApolymeraseによりDNAが伸長し、長鎖の一本鎖DNAが形成される。形成された一本鎖DNAは、電気泳動においてゲルのウェルの中にたまり、Ultra Power DNA/RNAセーフダイによる染色によりウェルの中が光って見えるようになる。
図4には、プローブをP3とした場合の結果を示している。
図4に示すように、RNaseHを添加していない場合には、非常に薄いバンドが認められた。これは、転写が完全ではないRNA産物か、RNAが分解されたことによる結果と考えられる。RNaseHの濃度が高くなるに従い、バンドの蛍光強度が増大した。これは、ニック形成が行われ、一本鎖DNAの増幅が進むことを示している。しかし、RNaseHの濃度を0.03U以上としてもほぼ一定となった。さらにRNaseHを高くし、50Uとした場合(図示せず)には、バンドが確認できなかった。これは、高濃度のRNaseHにより、標的RNAが分解されたことによる。
【0070】
図5には、各プローブにおける、RNaseHの濃度を0.006Uとした場合の結果を示している。
図5に示すように、いずれのプローブを用いた場合においても、DNAの増幅が行われた。従って、ターゲットに対してプローブがハイブリダイズする位置に依存することなく、RNAの検出を行うことができる。
【0071】
<リアルタイム検出の検討>
蛍光標識を用いたリアルタイム検出を行った。ニック形成及び増幅を、終濃度1×になるようにSYBR GreenII(インビトロジェン社)を反応液に加えた条件で、96穴プレート中において行った。標的RNAは、インビトロ転写したGFPmRNAとし、濃度を1fmol、5fmol、10fmol、50fmol、100fmolとした。リアルタイム検出のために、ThermalCyclerDice(登録商標)RealTimeSystemII(タカラバイオ株式会社)を用い、励起波長482nm、蛍光波長536nmで10分ごとに測定しながら30℃で2時間インキュベーションを行った。その他の条件は、先に述べた方法と同様にした。再現性確認のために、1回のリアルタイム検出において、各反応を複製数3で行った。
【0072】
図6には、プローブをP4とした場合の蛍光強度の時間依存性を、標的RNAの濃度ごとに示している。1molを6.0×10
23コピーとすると、この場合の検出感度は5fmol(3.0×10
9コピー)~1fmol(6.0×10
8コピー)であった。同様に、P1の場合は10fmol(6.0×10
9コピー)~5fmol(3.0×10
9コピー)、P2の場合は5fmol(3.0×10
9コピー)~1fmol(6.0×10
8コピー)、P3の場合は5fmol(3.0×10
9コピー)~1fmol(6.0×10
8コピー)、P5の場合は10fmol(6.0×10
9コピー)~5fmol(3.0×10
9コピー)であった。
【0073】
<全RNA抽出試料による測定>
GFPmRNAの発現を誘導した大腸菌及び誘導していない大腸菌から全RNA抽出を行って作成した試料について、GFPmRNAの検出を行った。
【0074】
GFPmRNAの発現は以下のようにして誘導した。まず、pET-AcGFPを用いて大腸菌株BL21(DE3)を形質転換し、50μg/mLのアンピシリンを添加したLB寒天培地(1%tryptone、0.5%yeastextract、1.0%NaCl、1.5%agar)により37℃で16時間培養した。その後、寒天培地上のシングルコロニーを50μg/mLのアンピシリンを含む3mLのLB培地に植菌し28℃、120rpmで8時間培養した。GFPmRNAの誘導は、50μg/mのLampicillinを含む30mLの転写誘導培地(0.05%のグルコース及び2%のラクトースを含むLB培地)に、前培養液を1000倍希釈となるように植菌し、28℃、120rpmで13時間培養して行った。培養液は、LB培地にてOD660=1に希釈し、遠心分離(1500g、15min、4℃)により集菌した。培養液の濁度の測定は比色計(ANA-18A+型、東京光電社製)により測定した。
【0075】
なお、GFPmRNAの発現を誘導していない大腸菌は、転写誘導培地を、転写非誘導培地(2%のグルコースを含むLB培地)とすることにより得た。
【0076】
全RNAの抽出は、CicaGeneus(登録商標)RNAPrepKit(ForTissue、関東化学)を用いてDNase処理を含んだ推奨プロトコルに従って抽出した。RNAの濃度測定はQuant-iTRNABRAssayKitとQubitfluorometerを用いて行った。抽出試料中にゲノムDNAが混入しているかどうかの確認は、以下のようにして行った。抽出試料にホルムアミドを加え、65℃で10分間加熱した後、1.5%アガロースゲル電気泳動(1×TAEbuffer)を行い、UltraPowerDNA/RNAセーフダイを用いて染色後、ブルーライトを照射して蛍光の有無を確認した。全RNA抽出試料は使用するまで-80℃にて保存した。
【0077】
全RNA抽出試料について、プローブとのハイブリダイゼーション、プローブの環状化、ニック形成及び増幅を行った。全RNA量が2ng、10ng、20ng、40ng及び80ngとなるように試料を用いた。ニック形成におけるRNaseHの濃度は0.006Uとし、増幅の反応時間は4時間とした。最終産物の確認は、1%アガロースゲル電気泳動(1×TAE buffer)を行い、プル-ライトを照射することにより行った。すべての反応と電気泳動は再現性を確認するために3回以上行った。
【0078】
図7に示すように、ネガティブコントロール及びGFP誘導を行っていない大腸菌から抽出した試料については、いずれのプローブを用いた場合にも増幅は認められず、優れた特異性を示した。一方、GFP誘導を行った大腸菌から抽出した試料については、いずれのプローブを用いた場合にも、全RNA濃度が80ngの場合には、増幅が確認された。また、プローブとしてP1~P4を用いた場合には、全RNA濃度が40ng以下の場合にも、増幅が確認された。
【0079】
図8には、全RNA抽出物について、リアルタイム検出を行った場合の結果を示している。GFP誘導を行った大腸菌からの全RNA抽出物を試料とした以外は、先に述べたリアルタイム検出と同様の条件で測定をした。試料中の全RNA量が10ng以上の場合には、増幅が認めら、全RNA量が20ng以上の場合には明確な増幅が認められた。
【産業上の利用可能性】
【0080】
本開示のRNA検出方法は、標的RNA上の任意配列をプローブの認識配列として設定することができると共に、特異性が高いRNA検出方法を実現できる。
【符号の説明】
【0081】
101 標的RNA
101A プライマー
102 DNAプローブ
103 DNA結合酵素
104 リボヌクレアーゼH
105 DNA合成酵素
106 一本鎖DNA
【配列表】