IP Force 特許公報掲載プロジェクト 2022.1.31 β版

知財求人 - 知財ポータルサイト「IP Force」

▶ 国立大学法人広島大学の特許一覧

<>
  • 特許-高分子ゲル及び金属回収方法 図1
  • 特許-高分子ゲル及び金属回収方法 図2
  • 特許-高分子ゲル及び金属回収方法 図3
< >
(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】高分子ゲル及び金属回収方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/26 20060101AFI20230718BHJP
   C22B 3/24 20060101ALI20230718BHJP
   C22B 3/44 20060101ALI20230718BHJP
   C02F 1/58 20230101ALI20230718BHJP
   C02F 1/62 20230101ALI20230718BHJP
   C02F 1/28 20230101ALI20230718BHJP
   C08F 20/02 20060101ALI20230718BHJP
   C08F 8/44 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
B01J20/26 E
C22B3/24 101
C22B3/44 101Z
C02F1/58 Z
C02F1/62 C
C02F1/62 Z
C02F1/28 A
C02F1/28 B
C08F20/02
C08F8/44
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2018239156
(22)【出願日】2018-12-21
(65)【公開番号】P2019118909
(43)【公開日】2019-07-22
【審査請求日】2021-09-28
(31)【優先権主張番号】P 2017250978
(32)【優先日】2017-12-27
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】504136568
【氏名又は名称】国立大学法人広島大学
(74)【代理人】
【識別番号】100095407
【弁理士】
【氏名又は名称】木村 満
(74)【代理人】
【識別番号】100138955
【弁理士】
【氏名又は名称】末次 渉
(72)【発明者】
【氏名】後藤 健彦
【審査官】壷内 信吾
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-097349(JP,A)
【文献】中国特許出願公開第107189009(CN,A)
【文献】特開2010-253454(JP,A)
【文献】特開2017-036503(JP,A)
【文献】国際公開第2017/205722(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00-20/28,20/30-20/34
C02F 1/58-1/64
C02F 1/28
C08C 19/00-19/44
C08F 6/00-246/00,301/00
C22B 1/00-61/00
JSTPlus/JST7580/JSTChina(JDreamIII)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
末端のアミノ基とアクリルアミド基又はメタクリルアミド基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー又はメタクリルアミドモノマーが重合し、末端のアミノ基に硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している高分子ゲルであって、
金属の陽イオンを含有する液体に介在した際に、前記高分子ゲルのネットワーク空間内にて前記金属の金属硫化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は金属硫酸塩が生成する、
ことを特徴とする高分子ゲル。
【請求項2】
末端のアミノ基とアクリルアミド基又はメタクリルアミド基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー又はメタクリルアミドモノマーが重合し、末端のアミノ基に塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している高分子ゲルであって、
金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体に介在した際に、前記塩化物イオン、前記硫化水素イオン、前記硫化物イオン、前記重炭酸イオン、前記炭酸イオン、前記リン酸一水素イオン、前記リン酸二水素イオン、前記リン酸イオン、前記シュウ酸水素イオン、前記シュウ酸イオン、前記亜硫酸イオン又は前記硫酸イオンが前記アミノ基から脱離するとともに、前記アミノ基に前記オキソ酸陰イオンが付加する、
ことを特徴とする高分子ゲル。
【請求項3】
前記アルキレン鎖の炭素数が3以上である、
ことを特徴とする請求項1に記載の高分子ゲル。
【請求項4】
金属の陽イオンを含有する液体に請求項1に記載の高分子ゲルを介在させ、
前記高分子ゲルのネットワーク空間内にて前記金属の金属硫化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は金属硫酸塩を生成させ、
前記液体から前記高分子ゲルを分離して前記金属を回収する、
ことを特徴とする金属回収方法。
【請求項5】
金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体に請求項2に記載の高分子ゲルを介在させ、
末端のアミノ基に付加している塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンの脱離に伴って、前記アミノ基に前記オキソ酸陰イオンを付加させ、
前記液体から前記高分子ゲルを分離して前記金属を回収する、
ことを特徴とする金属回収方法。
【請求項6】
乾燥状態の前記高分子ゲルを用いる、
ことを特徴とする請求項4又は5に記載の金属回収方法。
【請求項7】
前記高分子ゲルを入れた網体を前記液体に入れ、
前記液体から前記網体を取り出すことで前記液体から前記高分子ゲルを分離する、
ことを特徴とする請求項4乃至6のいずれか一項に記載の金属回収方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、高分子ゲル及び金属回収方法に関する。
【背景技術】
【0002】
希少金属資源の不足が問題となっており、廃水等からこれらを回収する技術が求められている。例えば、自動車や電子機器類の生産には、貴金属が大量に使用されており、貴金属を破砕した廃棄物等からの貴金属の分離、回収が望まれている。
【0003】
また、機械、金属関係等の工場から排出される廃液にも、重金属などの陽イオンが含まれており、これらの分離、回収は資源リサイクルのみならず、環境浄化の観点からも欠かせない技術である。
【0004】
これまで、これらの廃液等の液体に含まれる金属を分離、回収するべく、一般的に凝集沈殿法が利用されてきた。凝集沈殿法では、多量のアルカリを添加して廃水をアルカリ性にし、水に難溶な金属水酸化物を生成させ、これを高分子凝集剤等で凝集させて沈降分離する。凝集沈殿法は、多量の高濃度の金属含有溶液を簡便に処理することには適している一方、低濃度の金属含有液体の処理には適していない。
【0005】
また、凝集沈殿法のほか、高分子ゲルを用いて金属を回収する手法も提案されている(特許文献1、2)。特許文献1ではアミノ基にプロトンが付加している高分子ゲルを用い、高分子ゲル内にて金属の水酸化物を生成させて回収させている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2017-36503号公報
【文献】特開2016-141613号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
特許文献1、2の方法は、水酸化物を生成させて回収するものゆえ、水酸化物を形成し難い金属に対しては難があるなど、汎用性に劣る。
【0008】
本発明は上記事項に鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、種々の金属の回収が可能で汎用性を有する高分子ゲル及び金属回収方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の第1の観点に係る高分子ゲルは、
末端のアミノ基とアクリルアミド基又はメタクリルアミド基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー又はメタクリルアミドモノマーが重合し、末端のアミノ基に硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している高分子ゲルであって、
金属の陽イオンを含有する液体に介在した際に、前記高分子ゲルのネットワーク空間内にて前記金属の金属硫化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は金属硫酸塩が生成する、
ことを特徴とする。
【0010】
本発明の第2の観点に係る高分子ゲルは、
末端のアミノ基とアクリルアミド基又はメタクリルアミド基との間に炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー又はメタクリルアミドモノマーが重合し、末端のアミノ基に塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している高分子ゲルであって、
金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体に介在した際に、前記塩化物イオン、前記硫化水素イオン、前記硫化物イオン、前記重炭酸イオン、前記炭酸イオン、前記リン酸一水素イオン、前記リン酸二水素イオン、前記リン酸イオン、前記シュウ酸水素イオン、前記シュウ酸イオン、前記亜硫酸イオン又は前記硫酸イオンが前記アミノ基から脱離するとともに、前記アミノ基に前記オキソ酸陰イオンが付加する、
ことを特徴とする。
【0011】
また、前記アルキレン鎖の炭素数が3以上であることが好ましい。
【0012】
本発明の第3の観点に係る金属回収方法は、
金属の陽イオンを含有する液体に本発明の第1の観点に係る高分子ゲルを介在させ、
前記高分子ゲルのネットワーク空間内にて前記金属の金属硫化物、金属炭酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は金属硫酸塩を生成させ、
前記液体から前記高分子ゲルを分離して前記金属を回収する、
ことを特徴とする。
【0013】
本発明の第4の観点に係る金属回収方法は、
金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体に本発明の第2の観点に係る高分子ゲルを介在させ、
末端のアミノ基に付加している塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンの脱離に伴って、前記アミノ基に前記オキソ酸陰イオンを付加させ、
前記液体から前記高分子ゲルを分離して前記金属を回収する、
ことを特徴とする。
【0014】
また、乾燥状態の前記高分子ゲルを用いてもよい。
【0015】
また、前記高分子ゲルを入れた網体を前記液体に入れ、
前記液体から前記網体を取り出すことで前記液体から前記高分子ゲルを分離してもよい。
【発明の効果】
【0016】
本発明に係る高分子ゲルは、種々の金属の回収が可能で汎用性を有する。
【図面の簡単な説明】
【0017】
図1】実施例7における単体溶液及び混合溶液からの各種金属の回収量を示すグラフである。
図2】実施例8における混合溶液からの各種金属イオンの回収量を示すグラフである。
図3】実施例8における混合溶液からの各種金属イオンの回収率を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本実施の形態に係る高分子ゲルは、主として、金属の陽イオンを含有する液体、及び/
/又は、金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体から金属を回収するために用いられる。高分子ゲルは、末端のアミノ基とアクリルアミド基、メタクリルアミド基、アクリレート基又はメタクリレート基との間に、炭素数が2以上のアルキレン鎖を有するアクリルアミドモノマー、メタクリルアミドモノマー、アクリレートモノマー又はメタクリレートモノマー(以下、主モノマー)が重合し、末端のアミノ基に塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している。
【0019】
上記の主モノマーとして、例えば、式1~4で表される化合物が挙げられる。式1~式4中のnは2以上の整数を表す。
【0020】
【化1】
【0021】
式1、式2で表される主モノマーを用いて、塩化物イオンが付加している高分子ゲルを得る場合、詳細に後述するが、式1、2で表される主モノマーを重合して得られる高分子ゲルを、塩化物イオンを含有する溶液、例えば、塩化ナトリウム水溶液に浸漬させるとよい。
【0022】
また、式3、式4で表される主モノマーを用いる場合、式3、式4で表される主モノマーのアミノ基には塩化物イオンが付加しているため、これらの主モノマーを用いて重合するだけで、塩化物イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0023】
以下、式1、式2で表される主モノマーを用いて、塩化物イオンが付加している高分子ゲルの合成について、式1で表される主モノマーを例にとり具体的に説明するが、式2で表される主モノマーを用いた場合も同様に合成できる。まず、式1で表される主モノマーを重合する。ここで得られる高分子ゲルは、末端に3級アミノ基を持ち、水の存在下では、水を吸収して膨潤する。そして、下式5に示すように、水分子の解離により生じる水素イオンがアミノ基に引き付けられ、アミノ基がプロトン化される。一方の水酸化物イオンは、イオン化した高分子鎖のアミノ基とのイオン性相互作用により、高分子ゲルの外部に拡散しない。
【0024】
【化2】
【0025】
なお、上記の高分子ゲルにおけるアミノ基のプロトン化は、アミノ基の窒素原子の孤立電子対がプロトン(H)に共有されることによって起こる。この孤立電子対はsp混成軌道に入っており、窒素の原子核からの引力がsp軌道、sp混成軌道より弱いので、カルボニル基が近くにあるとHはカルボニル基に流れ込みやすい。そのため、アルキレン鎖(-(CH-)の長さが短い場合(炭素数が0,1の場合)、Hがカルボニル基に流れ込み、アミノ基のプロトン化が生じにくくなる。アルキレン鎖の炭素数が2以上で、且つ、溶液が酸性でHが豊富に介在する場合では、Hがアミノ基の窒素に作用しなくなりアミノ基のプロトン化が可能になる。更に、アルキレン鎖の炭素数が3以上であれば、水などの中性溶液においてもアミノ基のプロトン化が生じる。
【0026】
続いて、アミノ基がプロトン化され水酸化物イオンが付加している高分子ゲルを塩化ナトリウム水溶液等の塩化物イオンを含有する液体に介在させる。すると、高分子ゲル内部の水酸化物イオンが塩化物イオンに置換されて外部に放出され、代わりに塩化物イオンが高分子ゲル内に留まることになる。このようにして、塩化物イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0027】
硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している高分子ゲルは、上述したアミノ基がプロトン化した高分子ゲル、又は、アミノ基に塩化物イオンが付加している高分子ゲルを、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンを含有する溶液に浸漬させることで得られる。
【0028】
例えば、上述したアミノ基がプロトン化した高分子ゲル、又は、アミノ基に塩化物イオンが付加している高分子ゲルを硫化ナトリウム水溶液等の硫化物イオンを含有する溶液に浸漬させることで、高分子ゲル中の水酸化物イオン又は塩化物イオンが硫化物イオンに置換され、硫化物イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0029】
また、上述したアミノ基がプロトン化した高分子ゲル、又は、アミノ基に塩化物イオンが付加している高分子ゲルを炭酸ナトリウム水溶液等の炭酸イオンを含有する溶液に浸漬させることで、高分子ゲル中の水酸化物イオン又は塩化物イオンが炭酸イオンに置換され、炭酸イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0030】
また、上述したアミノ基がプロトン化した高分子ゲル、又は、アミノ基に塩化物イオンが付加している高分子ゲルを硫酸ナトリウム水溶液等の硫酸イオンを含有する溶液に浸漬させることで、高分子ゲル中の水酸化物イオン又は塩化物イオンが硫酸イオンに置換され、硫酸イオンが付加している高分子ゲルが得られる。
【0031】
上記では、塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンを含有する液体に高分子ゲルを浸漬させて、それぞれのイオンが付加した高分子ゲルを得る方法について説明したが、高分子ゲルを水に浸漬させ、対象成分を含有するガスを吹き込む方法で行ってもよい。例えば、高分子ゲルが介在する水に塩化水素ガスを吹き込むことにより、塩化物イオンが付加した高分子ゲルが得られる。また、炭酸ガスを吹き込むことにより、炭酸イオンが付加した高分子ゲルが得られる。また、硫化水素ガスを吹き込むことにより、硫化水素イオンが付加した高分子ゲルが得られる。また、亜硫酸ガスを吹き込むことにより、硫酸イオンが付加した高分子ゲルが得られる。
【0032】
上記の式1~式4で表される主モノマーを重合し、上述した各種陰イオンが付加している高分子ゲルの例として、高分子主鎖中に、式11~式14で表される骨格を備える高分子ゲルが挙げられる。式中、Anは塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンを表す。また、nは2以上の整数、mは正の実数を表す。なお、高分子ゲルは、架橋剤を用いられて重合されていてもよく、例えば、ランダム共重合体、交互共重合体、ブロック共重合体などの共重合体であってもよい。
【0033】
【化3】
【0034】
(金属回収方法)
続いて、上記の高分子ゲルを用いた金属回収方法について説明する。金属回収方法では、金属の陽イオンを含有する溶液に、塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが付加している上記の高分子ゲルを介在させる。溶液中の金属の陽イオンが高分子ゲル内に浸入し、高分子ゲルに付加している各種陰イオンと反応する。これにより、高分子ゲルのネットワーク内にて、高分子ゲルに付加している陰イオン及び溶液に含有している金属の陽イオンに応じ、金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は金属炭酸塩が生成する。
【0035】
例えば、炭酸イオンが付加している高分子ゲルを、リチウムイオンを含有する液体中に介在させる。すると、高分子ゲルに付加している炭酸イオンと、高分子ゲル内部に浸入したリチウムイオンとが反応し、高分子ゲルの内部にて炭酸リチウムが生成する。
【0036】
金属を含有する液体に他の各種陰イオンが付加している高分子ゲルを用いた場合においても、同様に、溶液に含有している金属の陽イオンと高分子ゲルに付加している陰イオンとの反応により、金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は、金属炭酸塩が生成する。そして、生成した金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は、金属炭酸塩は、高分子ゲルのネットワーク空間内に留まり、外部へは放出されない。
【0037】
そして、内部に金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩、金属シュウ酸塩又は、金属炭酸塩が生成した高分子ゲルを液体から分離することにより、液体から金属を分離、回収することができる。更に、分離した高分子ゲルを加熱し、高分子ゲルを消失させることにより、金属炭酸塩、金属塩化物、金属硫化物、金属硫酸塩、金属リン酸塩や金属シュウ酸塩、或いは、これらが加熱されて化学変化した酸化物として回収することもできる。
【0038】
なお、従来の金属硫化物を生成させて沈殿分離させる硫化物法(例えば、特開2013-111573号公報など)では、毒性ガスである硫化水素ガスが生成するために、硫化水素センサーが不可欠であるのに対して、本実施の形態に係る硫化物イオンまたは硫化水素イオンが付加している高分子ゲルを用いて金属硫化物を生成させる方法では、硫化物イオンまたは硫化水素イオンが高分子ゲル内にあること、そして、反応が高分子ゲル内で起こることから、硫化水素の発生を避けることができるという利点がある。
【0039】
また、金属回収方法では、高分子ゲルを液体に介在させられればその手法は問わず、例えば、網状の袋体などに高分子ゲルを入れ、これを液体に浸漬させる手法が挙げられる。その後、液体から袋体を取り出すことで、液体から高分子ゲルを容易に分離することができ、金属の回収、分離が容易に行える。
【0040】
また、乾燥状態の高分子ゲルを利用してもよい。上述のように得られた高分子ゲルは、乾燥しても高分子ゲル内に付加している炭酸イオン等は保持される。乾燥状態の高分子ゲルを用いることで、高分子ゲルの保管時や運搬時の重量、容積を減少させることができ、使い勝手が向上する。
【0041】
金属を含有する液体として、自動車や電子機器類などを破砕した廃棄物等を含有する廃水や、機械、金属関連の工場から排出される廃水、鉱山から流出する坑廃水など、種々の液体が挙げられる。
【0042】
なお、液体に含有している金属種の反応性はそれぞれ異なることから、その金属の回収に適した高分子ゲルを適宜選択して用いることが好ましい。例えば、塩化物を生成しやすい金属(例えば、銀、鉛、水銀など)を回収する場合には、塩化物イオンが負荷している高分子ゲルを用いるとよい。また、硫化物を生成しやすい金属(例えば、銅、カドミウム、錫など)を回収する場合には、硫化物イオンが付加している高分子ゲルを用いるとよい。また、硫酸塩を生成しやすい金属(例えば、鉛、カルシウム、ストロンチウム、バリウムなど)を回収する場合には、硫酸イオンまたは硫化水素イオンが付加している高分子ゲルを用いるとよい。また、炭酸塩を生成しやすい金属(例えば、カルシウム、ストロンチウム、バリウム、リチウムなど)を回収する場合には、炭酸イオンまたは重炭酸イオンが付加している高分子ゲルを用いるとよい。
【0043】
また、複数種の金属を含有する液体においては、それらの金属を纏めて回収する場合には、複数種の高分子ゲルを用いてもよい。また、複数種の金属を含有する液体から、上記の高分子ゲルの金属回収の選択性を利用して、特定の金属を順に選択的に回収していくことも可能である。例えば、銀、銅、カルシウム、リチウムを含有する液体から、それぞれの金属を順に選択的に回収する場合を例にすると、まず、塩化物イオンが付加している高分子ゲルを液体に介在させ、高分子ゲル中に塩化銀を生成させて分離し、銀を回収する。次いで、硫化物イオンが付加している高分子ゲルを液体に介在させ、高分子ゲル中に硫化銅を生成させて分離し、銅を回収する。次いで、硫酸イオンが付加している高分子ゲルを液体に介在させ、高分子ゲル中に硫酸カルシウムを生成させて分離し、カルシウムを回収する。次いで、炭酸イオンが付加している高分子ゲルを液体に介在させ、高分子ゲル中に炭酸リチウムを生成させて分離し、リチウムを回収する。
【0044】
このように各種陰イオンが付加している高分子ゲルを順に用いることで、塩化物であれば生成する金属、塩化物を生成し難いが硫化物であれば生成する金属、塩化物や硫化物を生成し難いが硫酸塩であれば生成する金属、塩化物や硫化物、硫酸塩を生成し難いが炭酸塩であれば生成可能な金属を、それぞれ選択的に分離、回収することが可能である。
【0045】
また、金属のオキソ酸陰イオンを含有する液体に、上記の高分子ゲルを介在させることで、その金属を回収することも可能である。金属のオキソ酸陰イオンは、例えば、タングステン酸イオン(WO 2-)、ヒ素酸イオン(As )、セレン酸イオン(SeO )など、金属が結合するオキソ酸塩からプロトンが脱離した形態の陰イオンである。高分子ゲルでは、溶液中にてオキソ酸陰イオンになり得る金属を回収することができる。
【0046】
上記のオキソ酸陰イオンを含有する液体に高分子ゲルを介在させると、高分子ゲルの末端のアミノ基に付加している塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンが脱離するとともに、そのアミノ基にオキソ酸陰イオンが付加することになる。
【0047】
例として、アミノ基に炭酸イオンが付加している高分子ゲルを、タングステン酸イオン(WO 2-)を含有する液体に介在させると、下式21に示しているように、アミノ基から炭酸イオンが脱離し、そのアミノ基にタングステン酸イオンが付加する。そして、タングステン酸イオンが付加した高分子ゲルを、上記同様に液体から分離して金属を回収することができる。
【0048】
【化4】
【0049】
なお、高分子ゲルの末端のアミノ基に対する陰イオンの脱離、付加(吸着)の進行に関しては、ホフマイスター系列により優劣が定まり、塩化物イオン、硫化水素イオン、硫化物イオン、重炭酸イオン、炭酸イオン、リン酸一水素イオン、リン酸二水素イオン、リン酸イオン、シュウ酸水素イオン、シュウ酸イオン、亜硫酸イオン又は硫酸イオンよりもアミノ基に吸着しやすい金属のオキソ酸陰イオンが介在すれば、上記の反応が進み、その金属の回収が可能になる。
【0050】
また、金属の陽イオンと金属のオキソ酸陰イオンの同時回収も可能である。上記のように、同一の高分子ゲルであっても、金属の陽イオンとの反応機構と、金属のオキソ酸陰イオンとの反応機構は異なっていることから、それぞれのイオンが介在すると、それぞれの反応機構が生じ得るためである。
【0051】
例えば、下式22に示すように、コバルトイオン(Co2+)、及び、タングステン酸イオン(WO 2-)を含有する液体に、炭酸イオンが付加している高分子ゲルを介在させると、炭酸イオンが脱離することによってアミノ基がプロトン化し、そのプロトン化したアミノ基にタングステン酸イオンが吸着する。一方、アミノ基から脱離した炭酸イオンはコバルトイオンと結合し、炭酸コバルトを形成する。このようにして、コバルト及びタングステンの双方を同時に回収することができる。
【0052】
【化5】
【0053】
このように、金属の陽イオンは塩の形成反応、金属のオキソ酸陰イオンはプロトン化したアミノ基への吸着反応という別々の反応機構をとり、それぞれの反応機構が互いに阻害しないことから、陽イオンとして存在している金属、及び、オキソ酸陰イオンとして存在している金属の同時回収が実現できる。
【実施例
【0054】
(各種高分子ゲルの調製)
メスフラスコ内に、主モノマーとして(3-アクリルアミドプロピル)トリメチルアンモニウムクロリド(AAPTAC)、架橋剤としてN,N’-メチレンビスアクリルアミド(MBAA)、重合促進剤としてテトラメチルエチレンジアミン(TEMED)及び水を加えた。
【0055】
また、別のメスフラスコ内に開始剤として過硫酸アンモニウム(APS)を加えた水溶液を調製した。
【0056】
両水溶液をそれぞれ1時間室温で窒素曝気した後、窒素雰囲気下で素早く混合し、内径6mmのポリプロピレン管に注入して、パラフィルムで密閉した。
【0057】
このポリプロピレン管を7℃の恒温水槽で4時間保持し、重合を行った。得られた高分子ゲルをポリプロピレン管から取り出し、長さ3mmに切断した。この高分子ゲルは、アミノ基に塩化物イオンが付加した高分子ゲルであり、以下、これを塩化物イオン付加AAPTACゲルと記す。
【0058】
なお、合成に用いたAAPTAC、MBAA、TEMED、APSは、それぞれ1000mol/L、50mol/L、10mol/L、1mol/Lである。
【0059】
また、主モノマーをN,N’-ジメチルアミノプロピルアクリルアミド(DMPAA)に代える以外、上記と同様の手法により、高分子ゲルを調製した後、蒸留水に浸漬させ、アミノ基に水酸化物イオンが付加している高分子ゲルを得た。以下、これを水酸化物イオン付加DMAPAAゲルと記す。
【0060】
0.1gの塩化物イオン付加AAPTACゲルを炭酸ナトリウム水溶液(0.1mol/L)に25℃で12時間浸漬した。その後、取り出して、イオン交換水で表面の炭酸ナトリウム水溶液を洗い流し、アミノ基に炭酸イオンが付加している高分子ゲルを得た。以下、これを炭酸イオン付加AAPTACゲルと記す。
【0061】
また、水酸化物イオン付加DMAPAAゲルを用いて、上記と同様の手法により、アミノ基に炭酸イオンが付加している高分子ゲルを得た。以下、これを炭酸イオン付加DMAPAAゲルと記す。
【0062】
塩化物イオン付加AAPTACゲル0.1gを0.1mol/Lの硫化ナトリウム水溶液に25℃で12時間浸漬した後、取り出して、イオン交換水で表面の硫化ナトリウム水溶液を洗い流し、アミノ基に硫化物イオンが付加している高分子ゲルを得た。以下、これを硫化物イオン付加AAPTACゲルと記す。
【0063】
塩化物イオン付加AAPTACゲル0.1gを0.1mol/Lの硫酸ナトリウム水溶液に25℃で12時間浸漬した。その後、取り出し、イオン交換水で表面の硫酸ナトリウム水溶液を洗い流し、アミノ基に硫酸イオンが付加している高分子ゲルを得た。以下、これを硫酸イオン付加AAPTACゲルと記す。
【0064】
上記で作製した各高分子ゲルを用い、各種金属の回収実験を行った。
【0065】
(実施例1:リチウムの回収実験)
炭酸イオン付加AAPTACゲル、炭酸イオン付加DMAPAAゲル、塩化物イオン付加AAPTACゲル及び水酸化物イオン付加DMAPAAゲルをそれぞれ、25℃、50mLの塩化リチウム水溶液(1000mg/L)に96時間浸漬し、各高分子ゲル内に炭酸リチウムを生成させた。
【0066】
そして、浸漬後の溶液(塩化リチウム水溶液)のリチウムイオン濃度を測定した。また、各高分子ゲルの乾燥重量1gあたりのリチウム回収量を求めた。その結果を表1に示す。
【0067】
表1を見ると、塩化物イオン付加AAPTACゲル及び水酸化物イオン付加DMAPAAゲルでは、ほとんどリチウムを回収することはできなかった。一方、炭酸イオンが付加している炭酸イオン付加AAPTACゲル、及び、炭酸イオン付加DMAPAAゲルでは、いずれもリチウムを回収できている。
【0068】
【表1】
【0069】
(実施例2:銅の回収実験)
硫化物イオン付加AAPTACゲルを25℃、1000mg/Lの塩化銅水溶液50mLに96時間浸漬し、硫化物イオン付加AAPTACゲル内に硫化銅を生成させた。
【0070】
そして、浸漬後の溶液(塩化銅水溶液)の銅イオン濃度を測定した。また、硫化物イオン付加AAPTACゲルの乾燥重量1gあたりの銅回収量を求めた。その結果を表2に示す。
【0071】
【表2】
【0072】
(実施例3:カルシウムの回収実験)
炭酸イオン付加AAPTACゲルを25℃、1000mg/Lの塩化カルシウム水溶液50mLに24時間浸漬し、炭酸イオン付加AAPTACゲル内に炭酸カルシウムを生成させた。
【0073】
そして、浸漬後の溶液(塩化カルシウム水溶液)のカルシウムイオン濃度を測定した。また、炭酸イオン付加AAPTACゲルの乾燥重量1gあたりのカルシウム回収量を求めた。その結果を表3に示す。
【0074】
【表3】
【0075】
(実施例4:カルシウムの回収実験)
硫酸イオン付加AAPTACゲルを25℃、1000mg/Lの塩化カルシウム水溶液50mLに24時間浸漬し、硫酸イオン付加AAPTACゲル内に硫酸カルシウムを生成させた。
【0076】
また、水酸化物イオン付加DMAPAAゲルを用い、上記と同様に行った。
【0077】
そして、浸漬後の溶液(塩化カルシウム水溶液)のカルシウムイオン濃度を測定した。また、硫酸イオン付加AAPTACゲル、及び、水酸化物イオン付加DMAPAAゲルそれぞれの乾燥重量1gあたりのカルシウム回収量を求めた。その結果を表4に示す。
【0078】
水酸化物イオン付加DMAPAAゲルでは、浸漬後の溶液中のカルシウムイオン濃度は1000mg/Lのままであり、全く回収できなかった。一方、硫酸イオン付加AAPTACゲルでは、カルシウムイオン濃度が低下しており、カルシウムを回収することができた。
【0079】
【表4】
【0080】
(実施例5:鉛の回収実験)
硫酸イオン付加AAPTACゲルを25℃、1000mg/Lの塩化鉛水溶液50mLに24時間浸漬し、硫酸イオン付加AAPTACゲル内に硫酸鉛を生成させた。
【0081】
そして、浸漬後の溶液(塩化鉛水溶液)の鉛イオン濃度を測定した。また、硫酸イオン付加AAPTACゲルの乾燥重量1gあたりの鉛回収量を求めた。その結果を表5に示す。
【0082】
【表5】
【0083】
(実施例6:鉛の回収実験)
塩化物イオン付加AAPTACゲルを25℃、1000mg/Lの硝酸鉛水溶液50mLに24時間浸漬し、塩化物イオン付加AAPTACゲル内に塩化鉛を生成させた。
【0084】
そして、浸漬後の溶液(硝酸鉛水溶液)の鉛イオン濃度を測定した。また、塩化物イオン付加AAPTACゲルの乾燥重量1gあたりの鉛回収量を求めた。その結果を表6に示す。
【0085】
【表6】
【0086】
これらの実験から、液体に含有する金属の回収に適した陰イオンが付加している高分子ゲルを用いることで、それぞれの金属を回収可能であることがわかる。
【0087】
(実施例7:オキソ酸陰イオンの回収実験)
塩化コバルト、硝酸ネオジム、タングステン酸ナトリウムを、それぞれ水に溶解した単体溶液を調製した。調製した各単体溶液の濃度は、100mg/Lである。
【0088】
それぞれの単体溶液(20mL)に、炭酸イオン付加DMAPAAゲル(0.08g)を48時間浸漬させた。そして、炭酸イオン付加DMAPAAゲルの浸漬前後の金属塩濃度を液体クロマトグラフで測定し、その濃度差から金属回収量を求めた。
【0089】
塩化コバルト(100mg/L)とタングステン酸ナトリウム(100mg/L)を水に溶解させた混合溶液を調製した。
また、硝酸ネオジム(100mg/L)及びタングステン酸ナトリウム(100mg/L)を水に溶解させた混合溶液を調製した。
【0090】
それぞれの調製した混合溶液(20mL)に、炭酸イオン付加DMAPAAゲル(0.08g)を48時間浸漬させた。そして、上記と同様の手法にて、金属回収量を求めた。
【0091】
単体溶液からの金属回収量、及び、混合溶液からの金属回収量の結果を図1にまとめて示している。まず、単種の高分子ゲル(炭酸イオン付加DMAPAAゲル)を使用するだけで、陽イオンであるコバルトイオン又はネオジムイオンと、オキソ酸陰イオンであるWO の両方のイオンをともに回収可能であることがわかる。また、回収率はそれぞれ、コバルト(Co2+)が56%、ネオジム(Nd3+)が100%、タングステン(WO )が100%であった。
【0092】
また、混合溶液から陽イオンとオキソ酸陰イオンの双方(コバルトイオンとタングステン酸イオン、又は、ネオジムイオンとタングステン酸イオン)を回収可能であった。そして、いずれの金属についても、混合溶液からの回収量と単体溶液からの回収量はほぼ同じであった。これは、混合溶液でも陽イオンの回収量が陰イオンであるタングステン酸の回収に影響されないことを示している。陰イオンは高分子ゲルのプロトン化したアミノ基への吸着であり、一方、陽イオンは炭酸イオンとの反応による炭酸塩の形成であって、別々の機構で互いに阻害しないためである。
【0093】
(実施例8:高分子ゲルの繰り返し使用による金属回収の検証)
水に硝酸ネオジム(100mg/L)、及び、タングステン酸ナトリウム(100mg/L)を溶解して調製した混合溶液(20ml)に、炭酸イオン付加DMAPAAゲル(0.08g)を48時間浸漬した。
その後、炭酸イオン付加DMAPAAゲルを混合溶液から取り出し、炭酸水素ナトリウム水溶液(0.01mol/L)に6時間浸漬した。
炭酸水素ナトリウム溶液から炭酸イオン付加DMAPAAゲルを取り出し、再度、新たな硝酸ネオジム(100mg/L)、及び、タングステン酸ナトリウム(100mg/L)の混合溶液(20mL)に浸漬し、ネオジムイオン、タングステンイオンを回収した。
【0094】
このような混合溶液への浸漬(adsorption)、及び、炭酸水素ナトリウム溶液への浸漬(desorption)を3回繰り返した。そして、それぞれの操作(adsorption、desorption)毎に、イオンクロマトグラフを用いて各溶液の濃度変化を測定することにより、炭酸イオン付加DMAPAAゲル内に回収された金属イオンの量を求めた。
【0095】
炭酸イオン付加DMAPAAゲル内に回収されたネオジムイオン、タングステン酸イオンの量を図2に示している。ネオジム、タングステン共に炭酸イオン付加DMAPAAゲルに繰り返し回収されている。炭酸イオン付加DMAPAAゲルのアミノ基の量が約6mmol/gであることから、炭酸イオン付加DMAPAAゲルに付加している炭酸イオン(2価)の量は3mmol/gである。そうすると、炭酸イオン(2価)と等モル量反応するネオジムイオン(2価)、及び、炭酸イオン(2価)と等モル量で交換するタングステン酸イオン(2価)は、共に最大3mmol/gまで回収可能であり、最大回収量に達するまでは、繰り返し使用可能であることを表している。
【0096】
次に、図3に各回の混合溶液からのネオジムイオン、タングステン酸イオンの回収率の変化を示す。炭酸イオン付加DMAPAAゲルを複数回使用しても、ネオジムイオンが98%以上、タングステン酸イオンが95%以上の回収率で毎回回収できていることが示された。
【0097】
以上より、炭酸イオン付加DMAPAAゲルはコバルトイオン、タングステン酸イオンの回収に用いると陰イオン及び陽イオンを両方同時に回収でき、且つ、炭酸イオン付加DMAPAAゲルに付加している炭酸イオンの量に応じて複数回回収可能であることが明らかになった。
【産業上の利用可能性】
【0098】
機械、金属関係等の工場から排出される廃水等、金属を含有する液体から金属を回収する際に利用可能である。
図1
図2
図3