(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】金属酸化薄膜の形成方法
(51)【国際特許分類】
H01L 21/316 20060101AFI20230718BHJP
H01L 21/31 20060101ALI20230718BHJP
C23C 16/40 20060101ALI20230718BHJP
C23C 16/42 20060101ALI20230718BHJP
【FI】
H01L21/316 X
H01L21/31 B
C23C16/40
C23C16/42
(21)【出願番号】P 2019189198
(22)【出願日】2019-10-16
【審査請求日】2022-09-01
(73)【特許権者】
【識別番号】320011650
【氏名又は名称】大陽日酸株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110001634
【氏名又は名称】弁理士法人志賀国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】土渕 岳
(72)【発明者】
【氏名】村田 逸人
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 克昌
【審査官】高柳 匡克
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-100530(JP,A)
【文献】特開2009-152640(JP,A)
【文献】特開平10-107028(JP,A)
【文献】特開2011-054742(JP,A)
【文献】特開2013-236073(JP,A)
【文献】特表2022-516238(JP,A)
【文献】特公平07-093296(JP,B2)
【文献】米国特許出願公開第2003/0114018(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/316
H01L 21/31
C23C 16/40
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板を処理室内に設置し、前記処理室内の基板を加熱して、前記基板の表面温度を150℃以上500℃以下の範囲内のいずれかの温度に制御しながら、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上の金属前駆体化合物を供給する工程と、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上の酸素含有化合物を供給する工程と、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上のヒドロキシ基供給源を供給する工程と、を含
み、
前記金属前駆体化合物を供給する工程と、前記酸素含有化合物を供給する工程と、前記ヒドロキシ基供給源を供給する工程と、はこの順序で行われ、
前記ヒドロキシ基供給源が過酸化水素又は無水過酸化水素を含み、
前記酸素含有化合物は、前記ヒドロキシ基供給源を供給する工程で供給される過酸化水素又は無水過酸化水素を含まず、
前記ヒドロキシ基供給源の共存ガスが、酸素である、成膜サイクルを、前記基板上の金属酸化薄膜が所要の膜厚となるまで繰り返す、金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項2】
前記成膜サイクルが、各工程間のそれぞれに、不活性ガスによって前記処理室内の気相置換を行う工程を含む、請求項
1に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項3】
前記不活性ガスとして、ヘリウム、窒素、及びアルゴンからなる群から選択されるいずれか1種又は2種以上の混合ガスを用いる、請求項
2に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項4】
前記処理室内の圧力が、13Pa以上13332Pa以下である、請求項1乃至
3のいずれか一項に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項5】
前記基板が、シリコン基板、ガラス基板、ポリイミド樹脂基板、又はエポキシ樹脂基板である、請求項1乃至
4のいずれか一項に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項6】
前記金属前駆体化合物として、(EtO)
4Si、(tBuNH)
2
SiH
2、(iPr
2N)SiH
3、(Me
2N)
4Si、(Me
2N)
3SiH、(Me
2N)
2SiH
2、(Me
2N)SiH
3
、(Et
2N)
4Si、(Et
2N)
3SiH、(Et
2N)
2SiH
2、(Et
2N)SiH
3、(Me
2N)
4Ti、TiCl
4、(C
5H
5)Zr(Me
2N)
3、(MeEtN)
4Zr、HfCl
4、(MeEtN)
4Hf、(Me
2N)
4Hf、Me
3Alからなる群から選択される1種以上を供給する、請求項1乃至
5のいずれか一項に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【請求項7】
前記酸素含有化合物として、酸素、酸素プラズマ、水蒸気、水蒸気プラズマ、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素、オゾン、亜酸化窒素からなる群から選択される1種以上を供給する、請求項1乃至
6のいずれか一項に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属酸化薄膜の形成方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製作においては、シリコン酸化(SiO)膜やチタニウム酸化(TiO)膜のような化学的に不活性な薄い不動態層が必須である。例えば、シリコン酸化膜は、トランジスタを形成する際、ゲート絶縁膜やサイドウォールスペーサ等に用いられる。
【0003】
また、近年では、半導体デバイスの微細化や高集積化が進み、集積回路の水平寸法、垂直寸法が縮小し続ける中で、オングストロームオーダーでの膜厚の制御技術や、良好なカバレッジ(被覆)特性を有する薄膜の形成技術が求められている。
【0004】
これらの要求による金属酸化薄膜の製造は、原料ガスである金属前駆体化合物(プリカーサー)と反応ガスである酸素含有化合物とをそれぞれ交互に処理室へ供給することで行われる。すなわち、基板表面に吸着した前駆体が、熱エネルギーによって、酸素含有化合物と化学反応を生じて薄膜を形成する方法である。なお、このように原料ガスと反応ガスを交互に供給して薄膜を形成する方法は、原子層堆積法(ALD:Atomic Layer Deposition)と呼ばれる。
【0005】
また、ALD法には、反応ガスをプラズマ活性化させて状態で供給する、プラズマ援用方式(PEALD:Plasma Enhanced Atomic Layer Deposition)がある。このプラズマ援用方式では、薄膜を形成する際に成膜温度を低くできるメリットがあるが、下地基板へのダメージの影響が避けられない等のデメリットも存在する。なお、ALD法によるカバレッジ特性は、化学気相成長法(CVD:Chemical Vapor Deposition)よりも良好であることが知られている。
【0006】
例えば、シリコン酸化膜のCVD方法としては、シリコン前駆体としてモノシラン(SiH4)やテトラエトキシシラン(TEOS)、酸素含有化合物としてオゾン(O3)や酸素プラズマ(Oラジカル)を用いて、250~800℃の堆積温度で形成できる。しかしながら、堆積温度が低下するに伴い、ステップカバレッジ(段差被覆性)および成膜速度が悪化することが知られている。
【0007】
なかでも、樹脂等の基板上に対してシリコン酸化膜に代表される金属酸化薄膜の堆積を行う場合、基板の耐熱温度が低いことに加え、基板と堆積層との密着性が良好でないことに起因して、段差被覆性および成膜速度の低下が顕著となる。そのため、基板にダメージを与えることなく、速い成膜速度で良質な金属酸化薄膜を形成できるプロセスの開発が求められている。
【0008】
そこで、特許文献1には、速い成膜速度で良質なシリコン酸化膜を形成するために、基板温度を550℃以上に加熱する、ALD法による堆積方法が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
しかしながら、特許文献1に記載のシリコン酸化膜の形成方法では、基板温度を高くする必要があるため、サーマルバジェット(熱履歴)の増加や熱応力に起因してデバイス構造を破壊してしまうおそれがある。
また、特許文献1には、550~750℃において、次のALDサイクルにおける反応点を形成することを目的として、水蒸気又はヒドロキシ基(-OH基)の供給源を供給する工程が記載されている。しかしながら、ヒドロキシ基供給源として過酸化水素を用いた場合、500℃を超える温度領域では自己分解が進行するため、特許文献1の温度領域ではヒドロキシ(OH)末端の形成効果を発揮できないという課題がある。また、基板温度が550℃以上となる場合、一般な樹脂材質からなる基板は自身の形状を維持できない。
【0011】
本発明は、上記事情に鑑みてなされたものであって、段差被覆率及び成膜速度に優れ、良質な金属酸化薄膜を形成可能な、金属酸化薄膜の形成方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記課題を解決するため、本発明は以下の構成を備える。
[1] 基板を処理室内に設置し、前記処理室内の基板を加熱して、前記基板の表面温度を150℃以上500℃以下の範囲内のいずれかの温度に制御しながら、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上の金属前駆体化合物を供給する工程と、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上の酸素含有化合物を供給する工程と、
前記処理室内の前記基板に対して、1以上のヒドロキシ基供給源を供給する工程と、を含む成膜サイクルを、前記基板上の金属酸化薄膜が所要の膜厚となるまで繰り返す、金属酸化薄膜の形成方法。
[2] 前記酸素含有化合物と前記ヒドロキシ基供給源とが異なる、前項[1]に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[3] 前記成膜サイクルに含まれる各工程を、同時に行う、前項[1]又は[2]に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[4] 前記成膜サイクルに含まれる各工程を、この順序で行う、前項[1]又は[2]に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[5] 前記成膜サイクルが、各工程間のそれぞれに、不活性ガスによって前記処理室内の気相置換を行う工程を含む、前項[4]に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[6] 前記不活性ガスとして、ヘリウム、窒素、及びアルゴンからなる群から選択されるいずれか1種又は2種以上の混合ガスを用いる、前項[5]に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[7] 前記処理室内の圧力が、13Pa以上13332Pa以下である、前項[1]乃至[6]のいずれかに記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[8] 前記基板が、シリコン基板、ガラス基板、ポリイミド樹脂基板、又はエポキシ樹脂基板である、前項[1]乃至[7]のいずれかに記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[9] 前記金属前駆体化合物として、(EtO)4Si、(tBuNH)SiH2、(iPr2N)SiH3(Me2N)4Si、(Me2N)3SiH、(Me2N)2SiH2、(Me2N)SiH3、(Et2N)4Si、(Et2N)3SiH、(Et2N)2SiH2、(Et2N)SiH3、(Me2N)4Ti、TiCl4、(C5H5)Zr(Me2N)3、(MeEtN)4Zr、HfCl4、(MeEtN)4Hf、(Me2N)4Hf、Me3Alからなる群から選択される1種以上を供給する、前項[1]乃至[8]のいずれかに記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[10] 前記酸素含有化合物として、酸素、酸素プラズマ、水蒸気、水蒸気プラズマ、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素、オゾン、亜酸化窒素からなる群から選択される1種以上を供給する、前項[1]乃至[9]のいずれかに記載の金属酸化薄膜の形成方法。
[11] 前記ヒドロキシ基供給源として、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素からなる群から選択される1種以上を供給する、前項[1]乃至[10]のいずれか一項に記載の金属酸化薄膜の形成方法。
【発明の効果】
【0013】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、段差被覆率及び成膜速度に優れ、良質な金属酸化薄膜を形成できる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】本発明の一実施形態である金属酸化薄膜の形成方法に適用可能な成膜装置の構成の一例を示す系統図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明を適用した一実施形態である金属酸化薄膜の形成方法の構成について、それに用いる成膜装置と併せて、図面を用いて詳細に説明する。なお、以下の説明で用いる図面は、特徴をわかりやすくするために、便宜上特徴となる部分を拡大して示している場合があり、各構成要素の寸法比率などが実際と同じであるとは限らない。
【0016】
<金属酸化薄膜の形成方法>
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、基板を処理室内に設置し、処理室内の基板を加熱して、基板の表面温度を150℃以上500℃以下の範囲内のいずれかの温度に制御しながら、以下の(1)~(3)の工程を含む成膜サイクルを、基板上の金属酸化薄膜が所要の膜厚となるまで繰り返す、金属酸化薄膜の形成方法である。
(1)処理室内の基板に対して、1以上の金属前駆体化合物を供給する工程
(2)処理室内の基板に対して、1以上の酸素含有化合物を供給する工程
(3)処理室内の基板に対して、1以上のヒドロキシ基供給源を供給する工程
【0017】
本発明の成膜対象となる金属酸化薄膜を構成する金属としては、シリコン(Si)、チタン(Ti)、ジルコニア(Zr)、ハフニウム(Hf)及びアルミニウム(Al)等が挙げられる。
シリコン(Si)の酸化膜としては、SiO2が挙げられる。
チタン(Ti)の酸化膜としては、TiO、Ti2O3、TiO2が挙げられる。
ジルコニア(Zr)の酸化膜としては、ZrO2が挙げられる。
ハフニウム(Hf)の酸化膜としては、HfO2が挙げられる。
アルミニウム(Al)の酸化膜としては、Al2O3が挙げられる。
【0018】
金属酸化薄膜の膜厚は、特に限定されるものではなく、金属酸化膜の用途等に応じて適宜選択することが好ましい。金属酸化薄膜の膜厚としては、1nm以上10000nm以下が好ましく、2nm以上1000nm以下であることがより好ましく、5nm以上100nm以下であることがさらに好ましい。
【0019】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法に適用可能な基板としては、シリコン基板、ガラス基板、ポリイミド樹脂基板、およびエポキシ樹脂基板が挙げられる。
基板の耐熱温度としては、50℃以上が好ましく、100℃以上がより好ましく、200℃以上がさらに好ましい。基板の耐熱温度が200℃以上であれば、成膜時の熱による基板の変形を抑制できる。
【0020】
処理室内の圧力は、13Pa(0.1Torr)以上13332Pa(100Torr)以下であることが好ましく、13Pa以上6666Pa以下であることがより好ましく、13Pa以上3333Pa以下であることがさらに好ましい。処理室内の圧力が上記範囲内であれば、基板表面への前駆体吸着の自己停止機構が発現しやすい。
【0021】
処理室内の基板の表面温度は、150℃以上500℃以下であることが好ましく、160℃以上450℃以下であることがより好ましく、170℃以上400℃以下であることがさらに好ましい。基板の表面温度を150℃以上とすると、ヒドロキシ(OH)末端の形成効果が得られる。一方、基板の表面温度を500℃以下とすると、(3)ヒドロキシ基供給源の供給工程において、ヒドロキシ基供給源として供給する過酸化水素の自己分解がほとんど進行しないため、優れたヒドロキシ(OH)末端の形成効果を発揮させることができる。
なお、基板表面のOH濃度が高いほど、前駆体の飽和吸着量が多くなるため、成膜速度および膜密度を向上させることが可能となる。
【0022】
成膜サイクルの(1)工程では、処理室内の基板に対して、1以上の金属前駆体化合物を気体(ガス)として供給する。
金属前駆体化合物は、150℃以上500℃以下の温度で成膜可能な化合物であれば、特に限定されない。金属前駆体化合物としては、(EtO)4Si、(tBuNH)SiH2、(iPr2N)SiH3(Me2N)4Si、(Me2N)3SiH、(Me2N)2SiH2、(Me2N)SiH3、(Et2N)4Si、(Et2N)3SiH、(Et2N)2SiH2、(Et2N)SiH3、(Me2N)4Ti、TiCl4、(C5H5)Zr(Me2N)3、(MeEtN)4Zr、HfCl4、(MeEtN)4Hf、(Me2N)4Hf、Me3Al等が挙げられる。
処理室内への金属前駆体化合物の供給は、これらの群から選択される、いずれか1種を供給してもよいし、2種以上を同時あるいは別々に供給してもよい。
【0023】
成膜サイクルの(2)工程では、処理室内の基板に対して、1以上の酸素含有化合物を気体(ガス)として供給する。
酸素含有化合物としては、酸素、酸素プラズマ、水蒸気、水蒸気プラズマ、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素、オゾン、亜酸化窒素等が挙げられる。
処理室内への酸素含有化合物の供給は、これらの群から選択される、いずれか1種を供給してもよいし、2種以上を同時あるいは別々に供給してもよい。
【0024】
成膜サイクルの(3)工程では、処理室内の基板に対して、1以上のヒドロキシ基供給源を気体(ガス)として供給する。
ヒドロキシ基供給源としては、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素等が挙げられる。
処理室内へのヒドロキシ基供給源の供給は、これらの群から選択される、いずれか1種を供給してもよいし、2種以上を同時あるいは別々に供給してもよい。
【0025】
なお、成膜サイクルの(2)工程における酸素含有化合物と、(3)工程におけるヒドロキシ基供給源となる化合物とは、異なるものを用いる。
例えば、(2)工程における酸素含有化合物として、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素のうち、いずれかを用いる場合には、(3)工程におけるヒドロキシ基供給源となる化合物として、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素のうち、酸素含有化合物として用いる化合物以外のものを用いる。
(2)工程における酸素含有化合物と(3)工程におけるヒドロキシ基供給源となる化合物とを異なる化合物とすることで、前駆体の吸着量の増大と、前駆体に対する最適な酸化源の選択との両立が可能になるという効果が得られる。
【0026】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、上記(1)~(3)の工程を同時に行うCVD法に適用してもよいし、上記(1)~(3)の工程をこの順序で行うALD法に適用してもよい。
【0027】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法をALD法に適用した場合、上記(1)~(3)の工程を含む成膜サイクルが、(1)工程と(2)工程の間、及び(2)工程と(3)工程の間のそれぞれに、(4)不活性ガスによって処理室内の気相置換を行う工程、を含んでいてもよい。
不活性ガスとしては、ヘリウム、窒素、及びアルゴン等が挙げられる。処理室内への不活性ガスの供給は、これらの群から選択される、いずれか1種を供給してもよいし、2種以上を同時あるいは別々に供給してもよい。
【0028】
なお、成膜サイクルでは、上記(1)~(4)の工程において、処理室内へのガスの供給量は、流量調整等によって適宜制御することが好ましい。
また、成膜サイクルの繰り返し回数は、特に限定されるものではなく、成膜速度と金属酸化薄膜の膜厚とに応じて適宜選択することが好ましい。
【0029】
<金属酸化薄膜の成膜装置>
次に、本発明の金属酸化薄膜の形成方法に適用可能な成膜装置の構成について、
図1を参照しながら説明する。
【0030】
図1は、本発明の金属酸化薄膜の形成方法に適用可能な成膜装置1の一例を示す系統図である。
図1に示すように、成膜装置1は、基板Cが設置される処理室2と、処理室2に連通されるガス導入経路L1及びガス排出経路L2と、を備える。成膜装置1は、ガス導入経路L1によって原料ガス、反応ガス及び不活性ガスを処理室2内に供給し、ガス排出経路L2によって処理室2内の気相を排出できる。
【0031】
ガス導入経路L1には、流量調節機能を有する開閉バルブが設けられている。また、ガス導入経路L1は、上流側において、過酸化水素(H2O2)の供給経路L3、酸素(O2)の供給経路L4、窒素(N2)の供給経路L5、オゾン(O3)の供給経路L6、及び金属前駆体化合物(金属プリカーサー)の供給経路L7に、それぞれ分岐する。なお、供給経路L3~L6には、質量流量計(MFC;MassFlowController)及び流量調節機能を有する開閉バルブがそれぞれ設けられており、各ガスの供給量を制御可能とされている。
【0032】
金属前駆体化合物が常温(20℃)で液体である場合、供給経路L7には気化器4を有する。また、供給経路L7は、金属前駆体化合物が貯留された容器3の液相から抽出された液体を気化器4に供給する経路L8と、熱交換器5を有し、キャリアガスとして窒素(N2)を気化器4に供給する経路L9とに分岐する。なお、容器3には、金属前駆体化合物の圧送ガスとしてヘリウム(He)ガスを供給する経路L10が接続されている。これにより、金属前駆体化合物を気化させたガスをキャリアガスとともに供給量を制御して、処理室2内の基板Cに供給できる。
【0033】
なお、金属前駆体化合物を供給する態様は、上述した態様に限定されない。例えば、気化器4を用いずに容器3の気相部から金属前駆体化合物の蒸気を直接処理室2内へ供給する態様であってもよい。その際、キャリアガスとともに供給する態様であってもよい。
また、キャリアガスによって容器3内をバブリングし、キャリアガスとともに金属前駆体化合物の蒸気を処理室2内へ供給する態様であってもよい。
また、金属前駆体化合物の容器3を適宜加熱し、蒸気圧を高くして供給する態様であってもよい。
【0034】
金属前駆体化合物を供給する際に用いるキャリアガスとしては、例えば、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの希ガス、水素(H2)が挙げられる。
【0035】
また、酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する態様は、上述した態様に限定されない。例えば、酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物が液体である場合、それらを貯留する容器内の気相部から、酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物の蒸気を直接処理室2内へ供給する態様であってもよい。その際、キャリアガスとともに供給する態様であってもよい。
また、透過膜を用いて分離した酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物の蒸気をキャリアガスとともに処理室2内へ供給する態様であってもよい。
また、キャリアガスによって容器内をバブリングし、キャリアガスとともに酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物の蒸気を処理室2内へ供給する態様であってもよい。
また、酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物の容器を適宜加熱し、蒸気圧を高くして供給する態様であってもよい。
【0036】
酸素含有化合物あるいはヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する際に用いるキャリアガスとしては、例えば、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの希ガス、水素(H2)が挙げられる。
【0037】
ガス排出経路L2には、PIA(絶対圧力計)、APC(自動圧力制御バルブ)、流量調節機能を有する開閉バルブ、及び真空ポンプが設けられている。ガス排出経路L2により、処理室2内の気相を排気あるいは置換することができる。
【0038】
なお、本発明の金属酸化薄膜の形成方法に適用可能な成膜装置1の構成は、上記形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、成膜装置1は、リモートプラズマソースを備える構成であってもよい。これにより、PECVD法及びPEALD法に適用できる。
【0039】
<金属酸化薄膜の評価方法>
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、成膜速度に優れる。
成膜速度は、得られた金属酸化膜の膜厚から、1サイクルあたりの成膜量であるGPC(Growth per cycle)を算出することで評価できる。ここで、金属酸化膜の膜厚は、例えば、市販の分光エリプソメトリー(SOPRA製分光エリプソメーター:「GES5E」等)を用いた測定値を用いることができる。
なお、本発明の金属酸化薄膜の形成方法では、GPCの値が0.5Å/cycle以上であることが好ましく、1.0Å/cycle以上であることがより好ましい。
【0040】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法によって得られる金属酸化膜の薄膜は、段差被覆率(ステップカバレッジ)に優れる。
段差被覆率は、電子顕微鏡(日立ハイテクノロジーズ製STEM:「NX2000」等)を用いた断面観察によって、深さ15μmのトレンチ(溝)構造を形成した基板のトレンチ上部の膜厚(上部膜厚)およびトレンチ底部の膜厚(底部膜厚)を測定し、以下の式(A)によって得られるトレンチ被覆率によって評価できる。
トレンチ被覆率(ステップカバレッジ)=(底部膜厚)/(上部膜厚) ・・・(A)
なお、上記式(A)によって得られるトレンチ被覆率の値が1に近いほど、段差被覆率(ステップカバレッジ)が良好である。本発明の金属酸化薄膜の形成方法では、トレンチ被覆率の値が0.8以上であることが好ましく、0.9以上であることがより好ましい。
【0041】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、良質な金属酸化膜の薄膜が得られる。すなわち、得られた金属酸化膜は、膜質が優れる。
金属酸化膜の膜質は、膜の緻密性によって評価できる。ここで、膜の緻密性は、例えば、市販の分光エリプソメトリー(SOPRA製分光エリプソメーター:「GES5E」等)を用いた薄膜の屈折率の測定値によって判断できる。
【0042】
例えば、金属酸化膜がシリコン酸化膜の場合、薄膜の屈折率が1.40~1.46の範囲内であるとき、一般的に良質なシリコン酸化膜であると評価できる。一方、薄膜の屈折率が1.40未満であるとき、シリコン酸化膜は空孔の多い粗な膜構造であると評価できる。
【0043】
<ALD法による金属酸化薄膜の形成方法>
次に、本発明の金属酸化薄膜の形成方法をALD法に適用した場合について、説明する。
【0044】
ALD法による金属酸化薄膜の形成方法は、以下の工程で実施される。
処理室内の基板の表面温度を所定の温度に制御した後、処理室内の基板に対して金属前駆体化合物を供給する工程と、処理室内を不活性ガスでパージする工程と、処理室内の基板に対して酸素含有化合物を供給し、基板に吸着した金属前駆体化合物を酸化させる工程と、を少なくとも含むサイクルを1サイクルとし、このサイクルを金属酸化薄膜が所要の膜厚となるまで繰り返す。
【0045】
一般に、低温での金属酸化薄膜の形成プロセスでは、良好な段差被覆率(ステップカバレッジ)が得られにくいことが知られている。これは、熱エネルギーが小さい状態で反応を進行させるため、酸素含有化合物の供給後の、堆積膜の表面の結合状態が一様になりにくく、次のサイクルにおける前駆体の吸着状態もまた一様になりにくくなるためである。
【0046】
例えば、シリコン酸化膜の形成プロセスでは、前駆体化合物(プリカーサー)のもつ固着官能基が、基板の最表面に形成された「Si-OH」や「Si-O-Si」に自己制御機構を作用させつつ、化学吸着することで新たな原子層が形成される起点ができる。
【0047】
本発明を適用したALD法では、低温成膜での段差被覆率の改善を目的として、酸素含有化合物の供給を停止した後、プリカーサー吸着面におけるヒドロキシ基(OH基)の形成および親水化の促進を目的として、処理室内の基板に対して、ヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程と、ヒドロキシ基供給源となる化合物の供給を停止する工程と、を複数ステップにて実施する。これにより、基板の最表面にプリカーサーの持つ固着官能基の吸着点を多数かつ均一に形成し、段差被覆率および成膜レート(成膜速度)の向上を達成する。
【0048】
以下、ALD法による金属酸化薄膜の形成方法の一例として、シリコン酸化膜の具体的な形成方法について詳細に説明する。
先ず、処理室内に搬送された基板を所定温度に加熱する。
【0049】
(第1の工程)
第1の工程では、処理室内の基板に対して、真空下でシリコン前駆体化合物を供給する。これにより、基板表面とシリコン前駆体化合物との化学吸着反応が生じる。
【0050】
シリコンプリカーサーの共存ガスは、特に限定されないが、例えば、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの希ガス、水素(H2)を用いることができる。
【0051】
(第2の工程)
第2の工程では、上述した化学吸着反応後にシリコン前駆体化合物の供給を停止し、処理室内に残留する未反応のシリコン前駆体化合物を除去するためにパージする。
なお、パージガスとしては、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスが挙げられる。
【0052】
(第3の工程)
第3の工程では、処理室内の基板に対して、酸素含有化合物を供給する。これにより、第1の工程において基板表面に吸着したシリコン前駆体化合物を酸化させる。
【0053】
ここで、酸素含有化合物としては、酸素、酸素プラズマ、水蒸気、水蒸気プラズマ、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素、オゾン、亜酸化窒素が挙げられる。これらの中から少なくとも1つを選択して供給する。
【0054】
酸素含有化合物の共存ガスは、特に限定されないが、例えば、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの不活性ガス、水素(H2)、プロピレン、エチレン、ブタン、アセチレン等の炭化水素ガス、酸素(O2)等を用いることができる。
【0055】
(第4の工程)
第4の工程では、上述したシリコン前駆体化合物の酸化反応後に酸素含有化合物の供給を停止し、基板の最表面におけるシラノール基の形成および親水化の促進を目的として、処理室内の基板に対して、ヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する。
【0056】
ここで、ヒドロキシ基供給源となる化合物としては、過酸化水素、過酸化水素プラズマ、無水過酸化水素が挙げられる。これらの中から少なくとも1つを選択して供給する。なお、ヒドロキシ基供給源となる化合物は、上述した酸素含有化合物とは異なる化合物を選択する。
【0057】
なお、ヒドロキシ基供給源となる化合物として、過酸化水素もしくは無水過酸化水素を用いる場合、処理室内の基板の表面温度は、500℃以下に制御することが好ましい。これは、強力な親水化効果を有する過酸化水素は、500℃を超える温度領域においては、以下の式(B)に示される自己分解反応が進行しやすいためである。
2H2O2→2H2O+O2 ・・・(B)
【0058】
ヒドロキシ基供給源となる化合物の共存ガスは、特に限定されないが、例えば、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)などの希ガス、水素(H2)、プロピレン、エチレン、ブタン、アセチレン等の炭化水素ガス、酸素(O2)を用いることができる。
【0059】
なお、ヒドロキシ基供給源となる化合物として、過酸化水素もしくは無水過酸化水素を用いる場合、共存ガスとして酸素(O2)を用いることが好ましい。共存ガスとして酸素を使用することで、過酸化水素の自己分解反応の進行を抑制することができる。
【0060】
(第5の工程)
第5の工程では、上述した基板の最表面の親水化後にヒドロキシ基供給源となる化合物の供給を停止し、処理室内に残留するヒドロキシ基供給源となる化合物を除去するためにパージする。
なお、パージガスとしては、ヘリウム(He)、窒素(N2)、アルゴン(Ar)等の不活性ガスが挙げられる。
【0061】
以上の第1の工程~第5の工程を1サイクルとして、複数回(例えば、300サイクル)繰り返す。これにより、基板上に所望の膜厚のシリコン酸化膜を形成できる。
【0062】
以上説明したように、本発明の金属酸化薄膜の形成方法によれば、段差被覆率及び成膜速度に優れ、良質な金属酸化薄膜を形成できる。
【0063】
また、本発明の金属酸化薄膜の形成方法を適用したALD法によれば、150℃以上500℃以下の温度で成膜可能な金属前駆体化合物を用いるため、基板表面の温度を500℃以下とすることができる。これにより、ヒドロキシ基供給源となる化合物として過酸化水素を供給して、金属前駆体化合物が吸着した表面にOH末端を形成して親水化させる工程(親水化工程)の際、過酸化水素の分解を抑制できるため、基板の最表面に前駆体化合物(プリカーサー)の吸着点を多数かつ均一に形成することができる。したがって、段差被覆率(ステップカバレッジ)および成膜速度(成膜レート)に優れ、良質な金属酸化薄膜を形成することができる。
【0064】
なお、本発明の技術範囲は上記実施の形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の変更を加えることが可能である。例えば、上述したALD法によるシリコン酸化膜の形成方法では、シリコン前駆体化合物、酸素含有化合物及びヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程において、それぞれ1種類の化合物を供給する構成を一例として説明したが、これに限定されない。具体的には、金属前駆体化合物、酸素含有化合物及びヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程のうち、いずれか1つ又は2以上の工程において、それぞれ2種以上の化合物を混合した状態で供給してもよい。
【0065】
また、上述したALD法によるシリコン酸化膜の形成方法では、シリコン前駆体化合物、酸素含有化合物及びヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程において、それぞれ1種類の化合物を1ステップ(1工程)で供給する構成を一例として説明したが、これに限定されない。例えば、2種類以上の金属前駆体化合物を供給する際、2以上の多段ステップによって供給してもよい。酸素含有化合物およびヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する際も同様に、2以上の多段ステップによって供給してもよい。
【0066】
シリコン前駆体化合物、酸素含有化合物及びヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程の総数を4ステップ以上とする構成について、以下に例示する。
【0067】
[例1]
(第1の工程)シリコン前駆体化合物を供給する工程
(第2の工程)第1の工程で残留したシリコン前駆体を除去する工程
(第3の工程)酸素含有化合物を供給する工程
(第4の工程)ヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程
(第5の工程)第4の工程とは異なるヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程
(第6の工程)第5の工程で残留したヒドロキシ基供給源となる化合物を除去する工程
【0068】
[例2]
(第1の工程)シリコン前駆体化合物を供給する工程
(第2の工程)第1の工程で残留したシリコン前駆体化合物を除去する工程
(第3の工程)酸素含有化合物を供給する工程
(第4の工程)ヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程
(第5の工程)第4の工程で残留したヒドロキシ基供給源となる化合物を除去する工程
(第6の工程)ハフニウム前駆体化合物を供給する工程
(第7の工程)第6の工程で残留したハフニウム前駆体化合物を除去する工程
(第8の工程)酸素含有化合物を供給する工程
(第9の工程)ヒドロキシ基供給源となる化合物を供給する工程
(第10の工程)第9の工程で残留したヒドロキシ基供給源となる化合物を除去する工程
【実施例】
【0069】
以下、実施例を参照して、本発明の効果を説明する。以下、実施例、比較例の成膜条件および評価結果を表1に示す。なお、本発明は、以下の実施例によって限定されるものではない。
【0070】
[成膜例1:シリコン酸化膜の原子層堆積]
図1に示す成膜装置1を用い、深さ15μmのトレンチ(溝)構造を形成した基板上に、ALD法によってシリコン酸化膜を成膜した。
シリコン酸化膜の評価は、分光エリプソメトリーと断面観察によって行った。分光エリプソメトリーでは、膜厚と屈折率とを測定し、得られた膜厚から、1サイクルあたりの成膜量としてGPC(Growth per cycle)を算出した。また、トレンチ構造部分の断面観察により、トレンチ上部及び底部の膜厚をそれぞれ測定して、段差被覆率(ステップカバレッジ)を評価した。
【0071】
<比較例1-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):250℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のO3を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.65(Å/cycle)
・屈折率:1.42
・ステップカバレッジ:0.81
【0072】
<比較例1-2>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):250℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:水蒸気(H2O)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:H2Oを処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のH2Oを除去する。
(評価結果)
・GPC:0.64(Å/cycle)
・屈折率:1.42
・ステップカバレッジ:0.81
【0073】
ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として水蒸気を用いた場合、OH基供給源の供給工程のない比較例1-1と比較して、GPCおよびステップカバレッジは変化しなかった。したがって、水蒸気による親水化工程は、成膜速度および段差被覆率の向上に対する効果が薄いことが示された。
【0074】
<比較例1-3>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):550℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のO3を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.91(Å/cycle)
・屈折率:1.43
・ステップカバレッジ:0.82
【0075】
<比較例1-4>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):550℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のH2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.90(Å/cycle)
・屈折率:1.43
・ステップカバレッジ:0.82
【0076】
基板の表面温度が550℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として過酸化水素を供給した場合、ヒドロキシ基(OH基)供給源の供給工程のない比較例1-3と比較して、GPCおよびステップカバレッジは変化しなかった。したがって、基板温度550℃の加熱条件では、過酸化水素の自己分解性により、親水化工程の成膜速度および段差被覆率の向上に対する効果が薄いことが示された。
【0077】
<実施例1-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):250℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のH2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.71(Å/cycle)
・屈折率:1.42
・ステップカバレッジ:0.89
【0078】
基板の表面温度が250℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として過酸化水素を供給した場合、ヒドロキシ基(OH基)供給源の供給工程のない比較例1-1と比較して、GPCおよびステップカバレッジが向上した。したがって、基板温度250℃の加熱条件では、親水化工程による成膜速度および段差被覆率の向上に対して効果的であることが示された。
【0079】
<実施例1-2>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):250℃
・金属前駆体化合物:トリスジメチルアミノシラン(3DMAS)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:無水過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:3DMASを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の3DMASを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、3DMASが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:無水H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の無水H2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.74(Å/cycle)
・屈折率:1.43
・ステップカバレッジ:0.93
【0080】
基板の表面温度が250℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として無水過酸化水素を供給した場合、ヒドロキシ基(OH基)供給源の供給工程のない比較例1-1、及び過酸化水素を用いた実施例1-1と比較して、GPCおよびステップカバレッジが向上した。したがって、基板温度250℃の加熱条件では、無水過酸化水素は過酸化水素よりも成膜速度および段差被覆率の向上に対して効果的であることが示された。
【0081】
[成膜例2:チタニウム酸化膜の原子層堆積]
図1に示す成膜装置1を用い、深さ15μmのトレンチ(溝)構造を形成した基板上に、ALD法によってチタニウム酸化膜を成膜した。
チタニウム酸化膜の評価は、分光エリプソメトリーと断面観察によって行った。分光エリプソメトリーでは、膜厚と屈折率とを測定し、得られた膜厚から、1サイクルあたりの成膜量としてGPC(Growth per cycle)を算出した。また、トレンチ構造部分の断面観察により、トレンチ上部及び底部の膜厚をそれぞれ測定して、段差被覆率(ステップカバレッジ)を評価した。
【0082】
<比較例2-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):180℃
・金属前駆体化合物:テトラキスジメチルアミノチタニウム(TDMAT)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TDMATを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTDMATを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、TDMATが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のO3を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.95(Å/cycle)
・屈折率:2.49
・ステップカバレッジ:0.93
【0083】
<比較例2-2>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:ポリイミド基板
・成膜温度(基板の表面温度):180℃
・金属前駆体化合物:テトラキスジメチルアミノチタニウム(TDMAT)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TDMATを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTDMATを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、TDMATが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のO3を除去する。
[評価結果]
・GPC:0.77(Å/cycle)
・屈折率:2.47
・ステップカバレッジ:0.82
【0084】
<実施例2-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):180℃
・金属前駆体化合物:テトラキスジメチルアミノチタニウム(TDMAT)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:無水過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TDMATを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTDMATを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、TDMATが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:無水H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の無水H2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:1.02(Å/cycle)
・屈折率:2.49
・ステップカバレッジ:0.95
【0085】
基板の表面温度が180℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として無水過酸化水素を供給した場合、ヒドロキシ基(OH基)供給源の供給工程のない比較例2-1と比較して、GPCおよびステップカバレッジが向上した。したがって、チタニウム酸化膜の形成プロセスにおいて、基板温度180℃の加熱条件では、無水過酸化水素による親水化工程が、成膜速度および段差被覆率の向上に対して効果的であることが示された。
【0086】
<実施例2-2>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:ポリイミド基板
・成膜温度(基板の表面温度):180℃
・金属前駆体化合物:テトラキスジメチルアミノチタニウム(TDMAT)
・酸素含有化合物:オゾン(O3)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:無水過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TDMATを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTDMATを除去する。
第3の工程:O3を処理室内に供給し、TDMATが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:無水H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の無水H2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:0.94(Å/cycle)
・屈折率:2.49
・ステップカバレッジ:0.92
【0087】
基板の表面温度が180℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として無水過酸化水素を用いた場合、ヒドロキシ基(OH基)供給源の供給工程のない比較例2-2と比較して、GPCおよびステップカバレッジが向上した。したがって、チタニウム酸化膜の形成プロセスにおいて、基板温度180℃の加熱条件では、無水過酸化水素による親水化工程が、成膜速度および段差被覆率の向上に対して効果的であることが示された。
【0088】
[成膜例3:アルミニウム酸化膜の原子層堆積]
図1に示す成膜装置1にリモートプラズマソースが設置された成膜装置を用い、深さ15μmのトレンチ(溝)構造を形成した基板上に、PEALD法によってアルミニウム酸化膜を成膜した。
アルミニウム酸化膜の評価は、分光エリプソメトリーと断面観察によって行った。分光エリプソメトリーでは、膜厚と屈折率とを測定し、得られた膜厚から、1サイクルあたりの成膜量としてGPC(Growth per cycle)を算出した。また、トレンチ構造部分の断面観察により、トレンチ上部及び底部の膜厚をそれぞれ測定して、段差被覆率(ステップカバレッジ)を評価した。
【0089】
<比較例3-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):200℃
・金属前駆体化合物:トリメチルアルミニウム(TMA)
・酸素含有化合物:酸素プラズマ(O2プラズマ)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TMAを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTMAを除去する。
第3の工程:O2プラズマを処理室内に供給し、TMAが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のO2プラズマを除去する。
(評価結果)
・GPC:1.07(Å/cycle)
・屈折率:1.66
・ステップカバレッジ:0.85
【0090】
<比較例3-2>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):200℃
・金属前駆体化合物:トリメチルアルミニウム(TMA)
・酸素含有化合物:水蒸気(H2O)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:なし
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TMAを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTMAを除去する。
第3の工程:H2Oを処理室内に供給し、TMAが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のH2Oを除去する。
(評価結果)
・GPC:0.93(Å/cycle)
・屈折率:1.65
・ステップカバレッジ:0.91
【0091】
基板の表面温度が200℃の条件において、酸素含有化合物として水蒸気を用いた場合、酸素含有化合物として酸素プラズマを用いた比較例3-1と比較してGPCが低下したが、ステップカバレッジは向上した。
【0092】
<実施例3-1>
成膜条件、成膜サイクル及び評価結果の詳細は、以下の通りである。
(成膜条件)
・基板:シリコン基板
・成膜温度(基板の表面温度):200℃
・金属前駆体化合物:トリメチルアルミニウム(TMA)
・酸素含有化合物:水蒸気(H2O)
・ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物:無水過酸化水素(H2O2)
・以下の成膜サイクルの繰り返し回数:300回
(成膜サイクル)
第1の工程:TMAを処理室内に供給し、基板表面に対し5秒間吸着させる。
第2の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応のTMAを除去する。
第3の工程:H2Oを処理室内に供給し、TMAが吸着した基板表面に対し10秒間酸化させる。
第4の工程:無水H2O2を処理室内に供給し、基板表面に対し10秒間親水化処理を行なう。
第5の工程:10秒間N2によるパージを行い、未反応の無水H2O2を除去する。
(評価結果)
・GPC:1.03(Å/cycle)
・屈折率:1.66
・ステップカバレッジ:0.93
【0093】
基板の表面温度が200℃の条件において、ヒドロキシ基(OH基)供給源となる化合物として無水過酸化水素を用いた場合、比較例3-1及び比較例3-2と比較して、GPCおよびステップカバレッジが向上した。したがって、アルミニウム酸化膜の形成プロセスにおいて、基板温度200℃の加熱条件では、無水過酸化水素による親水化工程が、成膜速度および段差被覆率の向上に対して効果的であることが示された。
なお、実施例1-1、実施例1-2、実施例2-1、実施例2-2、実施例3-1は、参考例である。
【0094】
【産業上の利用可能性】
【0095】
本発明の金属酸化薄膜の形成方法は、基板の表面温度が150℃~500℃に制御された、原子層堆積(ALD:Atomic Layer Deposition)法を利用した金属酸化膜の薄膜を形成する方法に産業上の利用可能性を有する。
【符号の説明】
【0096】
1・・・成膜装置
2・・・処理室
3・・・容器
4・・・気化器
5・・・熱交換器
C・・・基板
L1~L10・・・経路