(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-14
(45)【発行日】2023-07-25
(54)【発明の名称】水溶性フィルム、製造方法及び包装体
(51)【国際特許分類】
C08J 5/18 20060101AFI20230718BHJP
【FI】
C08J5/18 CEX
(21)【出願番号】P 2023532635
(86)(22)【出願日】2022-09-30
(86)【国際出願番号】 JP2022036859
【審査請求日】2023-05-29
(31)【優先権主張番号】P 2021163139
(32)【優先日】2021-10-01
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110001782
【氏名又は名称】弁理士法人ライトハウス国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】風藤 修
(72)【発明者】
【氏名】高藤 勝啓
【審査官】大村 博一
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/138441(WO,A1)
【文献】特開2017-052897(JP,A)
【文献】国際公開第2016/043009(WO,A1)
【文献】国際公開第2020/138444(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/124262(WO,A1)
【文献】国際公開第2021/145021(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/213347(WO,A1)
【文献】国際公開第2019/212723(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08J 5/00-5/02;5/12-5/22
B65D 65/00-65/46
B29C 41/00-41/52
B29C 55/00-55/30
C08K 3/00-13/08
C08L 1/00-101/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
重合度が100~3,000のポリビニルアルコールを含有し、ポリビニルアルコール100質量部に対して多価アルコール系可塑剤1~50質量部を含有する水溶性フィルムであって、
前記水溶性フィルムを、モノエタノールアミン8.6質量%、ドデシルベンゼンスルホン酸23.8質量%、プロピレングリコール9.5質量%、ラウリルアルコールエトキシレート-7エチレンオキサイド付加物23.8質量%、オレイン酸19.1質量%、ジエチレングリコール9.5質量%、及び、水5.7質量%を含むモデル洗剤を包装した包装体とした場合に、23℃、50%RHに包装体を保管した際の包装体の重量減少速度が、包装体のモデル洗剤と接触する前記水溶性フィルムの表面積当たり1.0~6.0g/(m
2・日)であり、
前記水溶性フィルムを前記モデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、23℃、50%RHにて引張試験を行った際の、100%延伸時の弾性率が9~35MPaであり、且つ
前記水溶性フィルムを前記モデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、5℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が100秒以内である、水溶性フィルム。
【請求項2】
前記ポリビニルアルコールが、カルボン酸変性またはスルホン酸変性ポリビニルアルコールであり、けん化度が85モル%以上のポリビニルアルコールである、請求項1に記載の水溶性フィルム。
【請求項3】
厚みが5~80μmである、請求項1または2に記載の水溶性フィルム。
【請求項4】
請求項1
または2に記載の水溶性フィルムを製造する方法であって、
ポリビニルアルコールを含有する製膜原液を、ダイからダイリップを通して支持体の上へ膜状に流涎して乾燥する水溶性フィルムの製造方法において、製膜原液が流涎される支持体の線速度をダイリップにおける製膜原液の線速度で除したドラフト比が2~60であり、乾燥後のフィルムの巻取速度を支持体の線速度で除したドロー比が、0.95~1.8である、水溶性フィルムの製造方法。
【請求項5】
前記水溶性フィルムを80~300℃の条件で熱処理する工程を含む、請求項4に記載の水溶性フィルムの製造方法。
【請求項6】
請求項1
または2に記載の水溶性フィルムが薬剤を収容した包装体。
【請求項7】
前記薬剤が農薬、洗剤または消毒薬である、請求項6に記載の包装体。
【請求項8】
前記薬剤が液体状である、請求項
6に記載の包装体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、各種薬剤の梱包などに好適に使用されるポリビニルアルコールを含む水溶性フィルム、及びその水溶性フィルムの製造方法とそれを用いた包装体に関する。
【背景技術】
【0002】
水溶性フィルムは、水に対する優れた溶解性を利用して、液体洗剤や農薬等の各種薬剤の包装や、種子を内包するシードテープ等、幅広い用途で使用されている。このような用途で使用される水溶性フィルムには、主にポリビニルアルコール(以下、PVAと称することがある。)が用いられている。そして、ポリビニルアルコールを含む水溶性フィルムに可塑剤等の各種添加剤を配合したり、水溶性フィルムの原料としてカルボキシル基を導入した変性ポリビニルアルコールを用いたりすることによって、水溶性フィルムの水溶性を高められることが知られている。
【0003】
近年、これらの用途の中でも、家庭用の洗濯洗剤などの薬剤を水溶性フィルムで包装して、包装体とする用途が広く普及しつつある。一般的に、このような包装体を製造する際には、水溶性フィルムに張力をかけた状態で薬剤を包装することで、包装体に発生する皺を抑制し外観を良好に見せることが多い。しかしながら、このような張力をかけた状態の包装体を長期間保管すると、経時的に包装体の張りが失われ外観が不良となるという問題があった。
【0004】
このような問題に対して、特許文献1には、PVA系樹脂及び可塑剤を含有してなる水溶性フィルムであって、所定の溶液中に浸漬させた時の面積変化率が特定の値を示す水溶性フィルムが提案されている。当該水溶性フィルムによれば、水溶性フィルムの水溶性を損なうことなく、液体洗剤などの液体を包装して包装体とした状態であっても経時での水溶性フィルムの張りを損なわない、良好な包装体を形成し得る水溶性フィルムを得ることができるとされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ところが近年、特許文献1に記載の水溶性フィルムを用いた包装体であっても、コンテナ等で時間をかけて海上輸送するような、長時間かつ高温環境で包装体を保管する場合においては、包装体中の薬剤が経時的に外部へ揮散して薬剤の量が減少することにより、包装体に皺が発生する場合があることが分ってきた。このような問題は、近年の環境問題に伴う包装用フィルムの薄膜化により、より顕著に表れやすい。
【0007】
包装体中の薬剤が経時的に外部へ揮散する現象は、包装体に使用される水溶性フィルムのバリア性能に起因する。すなわち、水溶性フィルムに含まれるPVAは一般の高分子に比べ良好なバリア性能を有し、特に酸素・水素等の気体や、オレフィン類等の親油性物質など、無極性の物質に対して非常に優れたバリア性を示すが、水、低級アルコールや低級脂肪酸などの分子量が比較的小さく極性が高い物質に対するバリア性はそれほど高くない。ここで、包装体に包装される家庭用の洗濯洗剤などの薬剤の主成分は界面活性剤であり、それらの中には分子量が比較的低く、極性が高い物質も多い。そのため、バリア性能に優れるPVAを含む水溶性フィルムで家庭用の洗濯洗剤などの薬剤を包装した包装体といえども、高温で長期間保管した場合、包装体中の薬剤が経時的に外部へ揮散する。
【0008】
PVAを含む水溶性フィルムのバリア性能は、包装される薬剤と水溶性フィルムとの親和性、及び水溶性フィルムにおけるPVA結晶、PVA非晶のようなPVAの結晶構造に強く影響されると推定される。一方、PVAを含む水溶性フィルムの寸法変化(面積変化率)は、包装される薬剤と水溶性フィルムとの親和性に加え、水溶性フィルムに存在する製膜プロセスからの残留応力に強く影響されると推定される。そのため、特許文献1に記載されているような面積変化率が特定の値を示す水溶性フィルムを使用した包装体であっても、水溶性フィルムのバリア性能が十分でなく、長時間かつ高温環境で包装体を保管した場合に包装体に皺が発生し、経時的に外観不良の問題が発生する場合があると推定される。
【0009】
PVAを含む水溶性フィルムのバリア性能と、包装される薬剤と水溶性フィルムとの親和性、及び水溶性フィルムにおけるPVA結晶、PVA非晶のようなPVAの結晶構造との関係は、以下のように推定される。まず、包装される薬剤の主成分であり水溶性フィルムを透過する成分でもある界面活性剤は、水溶性フィルム中のPVA結晶部分を透過することができないと考えられる。したがって、水溶性フィルム中のPVA結晶の量が多いほど水溶性フィルムのバリア性能は向上する傾向にある。一方で、界面活性剤は水溶性フィルム中のPVA非晶の部分を拡散することができるが、その拡散速度は、PVA非晶におけるPVAポリマーの分子運動性(PVAポリマー分子間の隙間の開きやすさ)、及び界面活性剤とPVAポリマー分子との親和性に依存すると考えられる。したがって、PVA非晶の部分の密度が低く、PVAポリマー分子間の相互作用が弱く、界面活性剤とPVAポリマー分子との親和性が高いほど、バリア性能は低下する傾向にある。
【0010】
本発明は、良好な水溶性を維持しつつ、洗濯洗剤などの薬剤を包装しても、高温・長時間の保管における経時的な外観不良発生の問題を生じにくい水溶性フィルム、その製造方法、及び当該水溶性フィルムを用いて薬剤を包装した包装体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは鋭意検討を重ねた結果、水溶性フィルムでモデル洗剤を包装した包装体の重量減少速度、モデル洗剤に浸漬した後の弾性率、及び、モデル洗剤に浸漬した後の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間を特定範囲とすることにより、前記課題が解決されることを見出した。そして、このような知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、
[1]重合度が100~3,000のPVAを含有し、PVA100質量部に対して多価アルコール系可塑剤1~50質量部を含有する水溶性フィルムであって、前記水溶性フィルムを、モノエタノールアミン8.6質量%、ドデシルベンゼンスルホン酸23.8質量%、プロピレングリコール9.5質量%、ラウリルアルコールエトキシレート-7エチレンオキサイド付加物23.8質量%、オレイン酸19.1質量%、ジエチレングリコール9.5質量%、及び、水5.7質量%を含むモデル洗剤を包装した包装体とした場合に、23℃、50%RHに包装体を保管した際の包装体の重量減少速度が、包装体のモデル洗剤と接触する前記水溶性フィルムの表面積当たり1.0~6.0g/(m2・日)であり、前記水溶性フィルムを前記モデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、23℃、50%RHにて引張試験を行った際の、100%延伸時の弾性率が9~35MPaであり、且つ前記水溶性フィルムを前記モデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、5℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が100秒以内である、水溶性フィルム;
に関する。
【0013】
さらに本発明は、
[2]前記PVAが、カルボン酸変性またはスルホン酸変性PVAであり、けん化度が90モル%以上のPVAである、前記[1]に記載の水溶性フィルム;
[3]厚みが5~80μmである、前記[1]または[2]に記載の水溶性フィルム;
[4]前記[1]から[3]のいずれかに記載の水溶性フィルムを製造する方法であって、PVAを含有する製膜原液を、ダイからダイリップを通して支持体の上へ膜状に流涎して乾燥する水溶性フィルムの製造方法において、製膜原液が流涎される支持体の線速度をダイリップにおける製膜原液の線速度で除したドラフト比が2~60であり、乾燥後のフィルムの巻取速度を支持体の線速度で除したドロー比が、0.95~1.8である、水溶性フィルムの製造方法;
[5]前記水溶性フィルムを80~300℃の条件で熱処理する工程を含む、前記[4]に記載の水溶性フィルムの製造方法;
[6]前記[1]から[3]のいずれかに記載の水溶性フィルムが薬剤を収容した包装体;
[7]前記薬剤が農薬、洗剤または消毒薬である、前記[6]に記載の包装体;
[8]前記薬剤が液体状である、前記[6]または[7]に記載の包装体;
に関する。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、良好な水溶性を維持しつつ、洗濯洗剤などの薬剤を包装しても、高温・長時間の保管における経時的な外観不良発生の問題を生じにくい水溶性フィルム、その製造方法、及び当該水溶性フィルムを用いて薬剤を包装した包装体が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、本発明について具体的に説明する。
【0016】
<モデル洗剤>
本発明において、家庭用洗濯洗剤を模したモデル洗剤としては、以下の組成のものを指す。
モノエタノールアミン 8.6質量%
ドデシルベンゼンスルホン酸 23.8質量%
プロピレングリコール 9.5質量%
ラウリルアルコールエトキシレート-7エチレンオキサイド付加物
23.8質量%
オレイン酸 19.1質量%
ジエチレングリコール 9.5質量%
水 5.7質量%
【0017】
<モデル洗剤包装体の重量減少速度>
本発明において、水溶性フィルムを、モデル洗剤を包装した包装体(以下、モデル洗剤包装体と称することがある。)とした場合に、23℃、50%RHに包装体を保管した際の包装体の重量減少速度は、以下の<1>~<8>の方法で測定する。
<1>水溶性フィルムより、7cm×7cmの試験片2枚を切り出す。
<2>切り出したフィルム2枚を重ね、その3辺をシール幅1cmでヒートシールして、1辺が開いたパウチを作成する。
<3>パウチを23℃、50%RHの部屋に16時間以上保管して、調湿する。
<4>空の状態のパウチの重量を測定する。
<5>調湿したパウチの中に約10gのモデル洗剤を入れ、中に空気を残さないようにしながら残る1辺をシール幅1cmでヒートシールして、未シール部分の面積が5cm×5cmの、モデル洗剤を内包するパウチを作成する。
<6>作成したパウチの質量を測定する。
<7>パウチを23℃、50%RHの部屋に保管して、パウチの質量を定期的に測定する。
<8>横軸を保管時間、縦軸をパウチ重量としたグラフにおいて、パウチ重量が一定速度で減少するまで保管を継続し、パウチ重量が直線的に減少するようになったら、その傾きとパウチの未シール部分の表面積(約50cm2=5cm×5cm×2)より、モデル洗剤の単位面積当たりの重量減少速度を求める。
【0018】
本発明において、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度は、1.0~6.0g/(m2・日)である。重量減少速度が6.0g/(m2・日)を越える場合、経時的な薬剤組成の変化や包装する薬剤量の減少などの問題を生じやすくなる。重量減少速度の上限は5.0g/(m2・日)以下であることが好ましく、4.0g/(m2・日)以下であることがより好ましく、3.5g/(m2・日)以下であることがさらに好ましく、3.0g/(m2・日)以下であることが特に好ましい。一方、重量減少速度が1.0g/(m2・日)未満である場合、フィルムの水溶性が不十分となるおそれがある。重量減少速度の下限は1.2g/(m2・日)以上であることが好ましく、1.4g/(m2・日)以上であることがより好ましく、1.6g/(m2・日)以上であることがさらに好ましく、1.8g/(m2・日)以上であることが特に好ましい。
【0019】
水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度は、包装されるモデル洗剤と水溶性フィルムとの親和性、及び水溶性フィルムにおけるPVA結晶、PVA非晶のようなPVAの結晶構造に強く影響されると推定される。したがって、水溶性フィルムの組成(例えば、PVAのけん化度や変性度、可塑剤の種類や含有量、添加剤)及び製膜条件(ドラフト比、乾燥条件、ドロー比など)を調整することにより、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度を制御することができる。
【0020】
<水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率>
本発明において、水溶性フィルムをモデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、23℃、50%RHにて引張試験を行った際の、100%延伸時の弾性率(以下、100%延伸時の弾性率と称することがある。)は、以下の<1>~<4>の方法で測定する。
<1>水溶性フィルムより、幅方向1.5cm×長さ方向15cmの試験片を切り出す。
<2>切り出した試験片を23℃、50%RHの部屋に16時間以上保管して、調湿する。
<3>調湿した試験片を、フィルムの質量の100倍以上のモデル洗剤中に、23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬する。
<4>試験片をモデル洗剤から取り出し、試験片の表面に付着するモデル洗剤をろ紙で手早くふき取った後、試験片を引張試験機にて以下の条件で引張試験を行い、チャック間隔が元の倍になった時点のチャートの傾きより、弾性率を求める。
装置: 株式会社島津製作所製AG-D型
チャック間隔: 100mm
チャック速度: 100mm/分
測定雰囲気: 23℃、50%RH
【0021】
本発明において、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率は9~35MPaである。100%延伸時の弾性率が35MPaを越える場合、水溶性が不十分になる場合がある。100%延伸時の弾性率の上限は、33MPa以下であることが好ましく、30MPa以下であることがより好ましく、28MPa以下であることがさらに好ましい。一方、100%延伸時の弾性率が9MPa未満の場合、薬剤を包装した包装体において、薬剤量の減少に伴うしわなどの外観不良を生じる場合がある。100%延伸時の弾性率の下限は11MPa以上であることが好ましく、18MPa以上であることがより好ましく、23MPa以上であることがさらに好ましい。
【0022】
水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率は、水溶性フィルムにおけるPVA結晶、PVA非晶のようなPVAの結晶構造に強く影響されると推定される。したがって、水溶性フィルムの組成(例えば、PVAのけん化度や変性度、可塑剤の種類や含有量、添加剤)及び製膜条件(ドラフト比、乾燥条件、ドロー比など)を調整することにより、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率を制御することができる。
【0023】
<水溶性フィルムの完溶時間>
本発明において、水溶性フィルムをモデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、5℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間(以下、完溶時間と称することがある。)は、以下の<1>~<6>の方法で測定する。
<1>水溶性フィルムを20℃、65%RHに調整した恒温恒湿器内に、16時間以上置いて調湿する。
<2>調湿した水溶性フィルムから、長さ40mm×幅35mmの長方形のサンプルを切り出した後、フィルムの質量の100倍以上のモデル洗剤中に、23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬する。
<3>500mLのビーカーに300mLの脱イオン水を入れ、回転数280rpmで長さ3cmのバーを備えたマグネティックスターラーで攪拌しつつ、水温を5±0.3℃に調整する。
<4>フィルムサンプルをモデル洗剤から取り出して、表面に付着するモデル洗剤をろ紙で手早くふき取った後、長さ35mm×幅23mmの長方形の窓(穴)が開口した50mm×50mmのプラスチック板2枚の間に、サンプルの長さ方向が窓の長さ方向に平行でかつサンプルが窓の幅方向ほぼ中央部に位置するように挟み込んで固定する。
<5>前記<4>においてプラスチック板に固定したサンプルを、マグネティックスターラーのバーに接触させないように注意しながら、ビーカー内の脱イオン水に浸漬する。
<6>脱イオン水に浸漬してから、脱イオン水中に浸漬したサンプルが完全に消失するまでの時間を測定する。
【0024】
なお、本発明において、「サンプルが完全に消失する」とは、目視で認識可能な水溶性フィルムの溶け残りが見えなくなることをいう。
【0025】
本発明において、水溶性フィルムの完溶時間は100秒以内である。完溶時間が100秒を超える場合、水溶性フィルムの水溶性が不十分となり、水溶性フィルムを液体洗剤や農薬等の各種薬剤の包装に使用することが困難な場合がある。完溶時間の上限は90秒以内であることが好ましく、75秒以内であることがより好ましく、60秒以内であることがさらに好ましい。一方、完溶時間の下限に特に制限はないが、完溶時間が短すぎると、水溶性フィルムが空気中の水分を吸湿して水溶性フィルム同士の間でブロッキングが生じたり、水溶性フィルムの強度が低下しやすくなったりする傾向がある。完溶時間の下限は5秒以上であることが好ましく、10秒以上であることがより好ましく、15秒以上であることがさらに好ましく、20秒以上であることが特に好ましい。
【0026】
水溶性フィルムの完溶時間は、PVAの水に対する親和性、及び水溶性フィルムにおけるPVA結晶、PVA非晶のようなPVAの結晶構造に強く影響されると推定される。したがって、水溶性フィルムの組成(例えば、PVAのけん化度や変性度、可塑剤の種類や含有量)及び製膜条件(ドラフト比、乾燥条件、ドロー比など)を調整することにより、水溶性フィルムの完溶時間を制御することができる。
【0027】
<水溶性フィルムの厚み>
本発明の水溶性フィルムの厚みの上限は80μm以下であることが好ましく、70μm以下であることがより好ましく、60μm以下であることがさらに好ましく、50μm以下であることが特に好ましい。水溶性フィルムの厚みが上記上限以下であることで、水溶性フィルムの水溶性を十分に確保しやすくなる。一方、水溶性フィルムの厚みは5μm以上であることが好ましく、10μm以上であることがより好ましく、15μm以上であることがさらに好ましく、20μm以上であることが特に好ましい。水溶性フィルムの厚みが上記下限以上であることで、水溶性フィルムをモデル洗剤の包装体としたときの穴あきを防ぎやすく、水溶性フィルムの重量減少速度が大きくなりすぎるのを防ぎやすくなる。なお、水溶性フィルムの厚みは、任意の10個所(例えば、水溶性フィルムの長さ方向に引いた直線上にある任意の10個所)の厚みを測定し、それらの平均値として求めることができる。
【0028】
<PVA>
本発明の水溶性フィルムはPVAを含有する。PVAとしては、ビニルエステルモノマーを重合して得られるビニルエステル重合体をけん化することにより製造されたものを使用することができる。ビニルエステルモノマーとしては、例えば、ギ酸ビニル、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル、バレリン酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル等を挙げることができ、これらの中でも酢酸ビニルが好ましい。
【0029】
ビニルエステル重合体は、単量体として1種または2種以上のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものが好ましく、単量体として1種のビニルエステルモノマーのみを用いて得られたものがより好ましいが、1種または2種以上のビニルエステルモノマーと、これと共重合可能な他のモノマーとの共重合体であってもよい。
【0030】
このようなビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、例えば、エチレン;プロピレン、1-ブテン、イソブテン等の炭素数3~30のオレフィン;アクリル酸またはその塩;アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルへキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシル等のアクリル酸エステル;メタクリル酸またはその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルへキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシル等のメタクリル酸エステル;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールアクリルアミドまたはその誘導体等のアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸またはその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミンまたはその塩、N-メチロールメタクリルアミドまたはその誘導体等のメタクリルアミド誘導体;N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニルピロリドン等のN-ビニルアミド;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテル等のビニルエーテル;アクリロニトリル、メタクリロニトリル等のシアン化ビニル;塩化ビニル、塩化ビニリデン、フッ化ビニル、フッ化ビニリデン等のハロゲン化ビニル;酢酸アリル、塩化アリル等のアリル化合物;マレイン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;イタコン酸またはその塩、エステルもしくは酸無水物;ビニルトリメトキシシラン等のビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどを挙げることができる。ビニルエステル重合体は、これらの他のモノマーのうちの1種または2種以上に由来する構造単位を有することができる。
【0031】
これらのビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーの内、重合、けん化後のポリマー側鎖にかさ高い官能基を生じるモノマーの場合、得られる水溶性フィルムにおいてPVAの結晶構造が乱れやすく、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎる傾向にあり好ましくない。また、長鎖のアルキル基を有する他のモノマーの場合、同じく長鎖のアルキル基を有するモデル洗剤の成分との親和性が高いため、同様に好ましくない。これらの観点からは、ビニルエステルモノマーと共重合可能な他のモノマーとしては、エチレン、プロピレン等の炭素数が少ないオレフィン類や、アクリル酸やメタクリル酸などのカルボン酸系モノマーや、スルホン酸系のモノマーが好ましい。
【0032】
本発明の水溶性フィルムに含まれるPVAは、酢酸ビニルとカルボン酸系モノマーを共重合して得られるカルボン酸-酢酸ビニル共重合体をけん化した、カルボン酸変性PVAであることが好ましい。カルボン酸変性PVAの変性度の上限は、10モル%以下であることが好ましく、8モル%以下であることがより好ましく、6モル%以下であることがさらに好ましい。一方、カルボン酸変性PVAの変性度の下限は、0.5モル%以上であることが好ましく、1モル%以上であることがより好ましく、2モル%以上であることがさらに好ましい。
【0033】
本発明の水溶性フィルムに含まれるPVAは、酢酸ビニルとスルホン酸系モノマーを共重合して得られるスルホン酸-酢酸ビニル共重合体をけん化した、スルホン酸変性PVAであることも好ましい。スルホン酸変性PVAの変性度の上限は、8モル%以下であることが好ましく、6モル%以下であることがより好ましく、4モル%以下であることがさらに好ましい。一方、スルホン酸変性PVAの変性度の下限は、0.3モル%以上であることが好ましく、0.7モル%以上であることがより好ましく、1モル%以上であることがさらに好ましい。
【0034】
ビニルエステル重合体に占める他のモノマーに由来する構造単位の割合の上限は、水溶性フィルムの水溶性や穴開きの抑制の観点から、ビニルエステル重合体を構成する全構造単位のモル数に基づいて、15モル%以下であることが好ましく、5モル%以下であることがより好ましい。
【0035】
本発明において、水溶性フィルムに含まれるPVAの重合度は100~3,000である。PVAの重合度が100未満の場合、水溶性フィルムの強度が不十分になる場合がある。PVAの重合度の下限は、200以上であることが好ましく、300以上であることがより好ましく、500以上であることがさらに好ましい。一方、PVAの重合度が3,000を超える場合、PVA及び水溶性フィルムの生産性や、水溶性フィルムの水溶性を確保するのが困難になる場合がある。PVAの重合度の上限は、2,500以下であることが好ましく、2,000以下であることがより好ましく、1,500以下であることがさらに好ましい。ここで重合度とは、JIS K6726-1994の記載に準じて測定される平均重合度(Po)を意味し、PVAを再けん化し、精製した後、30℃の水中で測定した極限粘度[η](デシリットル/g)から次式により求められる。
Po = ([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0036】
本発明において、水溶性フィルムに含まれるPVAのけん化度は80~99.5モル%であることが好ましい。ここでPVAのけん化度は、PVAが有する、けん化によってビニルアルコール単位に変換され得る構造単位(典型的にはビニルエステルモノマー単位)とビニルアルコール単位との合計モル数に対して当該ビニルアルコール単位のモル数が占める割合(モル%)をいう。PVAのけん化度は、JIS K6726-1994の記載に準じて測定することができる。
【0037】
PVAの中でも、無変性PVA及び疎水性のエチレン変性PVAの場合、けん化度が高いほど水溶性フィルム中のPVAの結晶構造を乱す要因となる酢酸基が少なくなるので、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が低下しやすくなるが、けん化度が高すぎると水溶性フィルムの水溶性が低下する場合がある。水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度と水溶性フィルムの水溶性を両立しやすくなることから、無変性PVA及びエチレン変性PVAのけん化度の上限は99.5モル%以下であることが好ましく、97モル%以下であることがより好ましく、95モル%以下であることがさらに好ましく、93モル%以下であることが特に好ましい。一方、無変性PVA及びエチレン変性PVAのけん化度の下限は80モル%以上であることが好ましく、83モル%以上であることがより好ましく、85モル%以上であることがさらに好ましく、87モル%以上であることが特に好ましい。無変性PVA及びエチレン変性PVAのけん化度が上記下限以上であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、及び水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率を制御しやすくなる。なお、無変性PVAとは、酢酸ビニルを単独重合して得られる酢酸ビニル単独重合体をけん化した、PVAである。また、エチレン変性PVAとは、酢酸ビニルとエチレン共重合して得られるエチレン-酢酸ビニル共重合体をけん化した、PVAである。
【0038】
PVAの中でも、カルボン酸変性PVA及びスルホン酸変性PVAの場合、導入されるカルボキシル基及びスルホン基が親水基であるため、けん化度が高くても水溶性フィルムの水溶性は良好となる。カルボン酸変性PVA及びスルホン酸変性PVAのけん化度の上限は99モル%以下であることが好ましく、97モル%以下であることがより好ましく、96モル%以下であることがさらに好ましい。一方、カルボン酸変性PVA及びスルホン酸変性PVAのけん化度の下限は85モル%以上であることが好ましく、90モル%以上であることがより好ましく、93モル%以上であることがさらに好ましい。カルボン酸変性PVA及びスルホン酸変性PVAのけん化度が上記下限以上であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、及び水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率を制御しやすくなる。
【0039】
本発明における水溶性フィルムは、PVAとして1種類のPVAを単独で用いてもよいし、重合度やけん化度あるいは変性度などが互いに異なる2種以上のPVAをブレンドして用いてもよい。
【0040】
本発明において、水溶性フィルムにおけるPVAの含有率の上限は特に制限されないが、PVAの含有率の下限は、50質量%以上であることが好ましく、80質量%以上であることがより好ましく、85質量%以上であることがさらに好ましい。
【0041】
<多価アルコール系可塑剤>
本発明において、水溶性フィルムはPVA100質量部に対して多価アルコール系可塑剤1~50質量部を含有する。多価アルコール系可塑剤の含有量が1質量部未満の場合、水溶性フィルムの水溶性が低下して完溶時間が長くなりすぎる傾向がある。多価アルコール系可塑剤の含有量は3質量部以上であることが好ましく、5質量部以上であることがより好ましい。一方で、多価アルコール系可塑剤の含有量が50質量部を超える場合、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりする場合がある。多価アルコール系可塑剤の含有量は40質量部以下であることが好ましく、30質量部以下であることがより好ましい。
【0042】
本発明において、水溶性フィルムに含まれる多価アルコール系可塑剤としては、例えば、エチレングリコール、グリセリン、ジグリセリン、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、トリメチロールプロパン、ソルビトールなどを挙げることができる。これらの多価アルコール系可塑剤は1種を単独で使用しても2種以上を併用してもよい。これらの多価アルコール系可塑剤の中でも、水溶性フィルム表面へのブリードアウトをしにくいなどの観点から、エチレングリコールまたはグリセリンが好ましく、グリセリンがより好ましい。なお、水溶性フィルムの製膜原液に多価アルコール系可塑剤を添加することで、得られる水溶性フィルムに多価アルコール系可塑剤を含有させることができる。また、水溶性フィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量の割合は、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量の割合に実質的に等しい。
【0043】
水溶性フィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量を調整することで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率及び完溶時間(以下、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度等と称することがある。)を制御することができる理由は以下の通り推定される。まず、上記の通り水溶性フィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量の割合は、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量の割合に実質的に等しいため、水溶性フィルムにおける多価アルコール系可塑剤の含有量を調整することは、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量を調整することに実質的に等しい。そして、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量を適当に調整すると、後述の製膜原液を支持体上に流延したPVA膜を乾燥する際にPVA分子の運動性が増大しやすくなるため、水溶性フィルムにおいてPVA結晶が生成されやすくなる。ここで前述の通り、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度等は、水溶性フィルムに含まれるPVA結晶の量に依存すると推定されるので、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量を調整することで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度等を制御することができると推定される。なお、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤の添加量が少なすぎる場合は、製膜原液を支持体上に流延したPVA膜を乾燥する際にPVA分子の運動性が低下することにより、水溶性フィルムにおいてPVA結晶が生成されにくくなる。また、水溶性フィルムの製膜原液における多価アルコール系可塑剤量が多すぎる場合も、PVA-多価アルコール系可塑剤間の相互作用が強まることにより、製膜原液を支持体上に流延したPVA膜を乾燥する際にPVA分子間の相互作用が減少し、水溶性フィルムにおいてPVA結晶が生成されにくくなる。
【0044】
<澱粉/水溶性高分子>
水溶性フィルムに機械的強度を付与し、あるいは水溶性フィルムの取り扱い性を維持することなどを目的として、本発明の水溶性フィルムに澱粉及び/またはPVA以外の水溶性高分子を含有させてもよい。
【0045】
澱粉としては、例えば、コーンスターチ、馬鈴薯澱粉、甘藷澱粉、小麦澱粉、コメ澱粉、タピオカ澱粉、サゴ澱粉等の天然澱粉類;エーテル化加工、エステル化加工、酸化加工等が施された加工澱粉類などを挙げることができ、加工澱粉類がより好ましい。
【0046】
水溶性フィルムにおける澱粉の含有量の上限は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。澱粉の含有量が上記上限以下であることで、水溶性フィルムの製造時において工程通過性が悪化するのを防ぎやすくなる。
【0047】
PVA以外の水溶性高分子としては、例えば、デキストリン、ゼラチン、にかわ、カゼイン、シェラック、アラビアゴム、ポリアクリル酸アミド、ポリアクリル酸ナトリウム、ポリビニルメチルエーテル、メチルビニルエーテルと無水マレイン酸の共重合体、酢酸ビニルとイタコン酸の共重合体、ポリビニルピロリドン、セルロース、アセチルセルロース、アセチルブチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、メチルセルロース、エチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、アルギン酸ナトリウムなどが挙げられる。
【0048】
水溶性フィルムにおけるPVA以外の水溶性高分子の含有量の上限は、PVA100質量部に対して、15質量部以下であることが好ましく、10質量部以下であることがより好ましい。水溶性高分子の含有量が上記上限以下であることで、水溶性フィルムの水溶性が損なわれるのを防ぎやすくなる。
【0049】
<界面活性剤>
本発明において水溶性フィルムは、その取り扱い性や、また水溶性フィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性の向上などの観点から界面活性剤を含むことが好ましい。界面活性剤の種類に特に制限はなく、例えば、アニオン系界面活性剤、ノニオン系界面活性剤などが挙げられる。
【0050】
アニオン系界面活性剤としては、例えば、ラウリン酸カリウム等のカルボン酸型;オクチルサルフェート等の硫酸エステル型;ドデシルベンゼンスルホネート等のスルホン酸型などが挙げられる。
【0051】
ノニオン系界面活性剤としては、例えば、ポリオキシエチレンラウリルエーテル、ポリオキシエチレンオレイルエーテル等のアルキルエーテル型;ポリオキシエチレンオクチルフェニルエーテル等のアルキルフェニルエーテル型;ポリオキシエチレンラウレート等のアルキルエステル型;ポリオキシエチレンラウリルアミノエーテル等のアルキルアミン型;ポリオキシエチレンラウリン酸アミド等のアルキルアミド型;ポリオキシエチレンポリオキシプロピレンエーテル等のポリプロピレングリコールエーテル型;ラウリン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ジエタノールアミド等のアルカノールアミド型;ポリオキシアルキレンアリルフェニルエーテル等のアリルフェニルエーテル型などが挙げられる。
【0052】
界面活性剤は1種を単独で使用しても、2種以上を併用してもよい。これらの界面活性剤の中でも、水溶性フィルムの製造時に発生する膜面異常をより低減できることなどから、ノニオン系界面活性剤が好ましく、特にアルカノールアミド型の界面活性剤がより好ましく、脂肪族カルボン酸(例えば、炭素数8~30の飽和または不飽和脂肪族カルボン酸など)のジアルカノールアミド(例えば、ジエタノールアミド等)が更に好ましい。
【0053】
水溶性フィルムにおける界面活性剤の含有量の上限は、PVA100質量部に対して10質量部以下であることが好ましく、1質量部以下であることがより好ましく、0.5質量部以下であることがさらに好ましく、0.3質量部以下であることが特に好ましい。界面活性剤の含有量が上記上限以下であることで、水溶性フィルムの表面に界面活性剤がブリードアウトしたり、界面活性剤の凝集によって水溶性フィルムの外観が悪化したりするのを防ぎやすくなる。一方、界面活性剤の含有量の下限は、PVA100質量部に対して0.01質量部以上であることが好ましく、0.02質量部以上であることがより好ましく、0.05質量部以上であることさらに好ましい。界面活性剤の含有量が上記下限以上であることで、水溶性フィルムを製造する際の製膜装置からの剥離性を良好にしやすくなる。また、水溶性フィルム同士の間でブロッキングが発生するのを防ぎやすくなる。
【0054】
<充填剤>
本発明の水溶性フィルムには、充填剤を含有させてもよい。充填剤を含有させることにより、水溶性フィルムの機械的強度や取り扱い性を改善することができると共に、モデル洗剤が充填剤を透過できないためフィルム中の透過に必要な経路長が長くなること(以下、邪魔板効果と称することがある。)によりバリア性の改善が期待できる。
【0055】
充填剤としては、例えば、カーボンブラック、金属粉、シリカ、アルミナ、炭酸カルシウム、二酸化チタン、タルク、マイカ、ベントナイト等の粘土鉱物などを挙げることができ、それらの中でもより大きな邪魔板効果が期待できるアスペクト比が大きなタルク、マイカ、ベントナイト等の粘土鉱物などが好ましい。
【0056】
水溶性フィルムにおける充填剤の含有量の上限は、PVA100質量部に対して40質量部以下であることが好ましく、20質量部以下であることがより好ましく、10質量部以下であることがさらに好ましい。充填剤の含有量が上記上限以下であることで、水溶性フィルムがもろくなったり、透明性等の外観が悪化したりするのを防ぎやすくなる。水溶性フィルムにおける充填剤の含有量の下限は、PVA100質量部に対して、0.1質量部以上であることが好ましく、0.5質量部以上であることがより好ましく、1質量部以上であることがさらに好ましい。
【0057】
<その他の成分>
本発明の水溶性フィルムは、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤以外に、水分、酸化防止剤、紫外線吸収剤、滑剤、架橋剤、着色剤、防腐剤、防黴剤、他の高分子化合物などの成分を、本発明の効果を妨げない範囲で含有してもよい。PVA、可塑剤、澱粉、PVA以外の水溶性高分子、界面活性剤の各質量の合計値が本発明の水溶性フィルムの全質量に占める割合は、60~100質量%の範囲内であることが好ましく、80~100質量%の範囲内であることがより好ましく、90~100質量%の範囲内であることがさらに好ましい。
【0058】
<水溶性フィルムの製造方法>
本発明において、水溶性フィルムの製造方法に特に制限はなく、PVAに溶媒、添加剤等を加えて均一化させた製膜原液を使用して、流延製膜法、湿式製膜法(貧溶媒中への吐出)、乾湿式製膜法、ゲル製膜法(製膜原液を一旦冷却ゲル化した後、溶媒を抽出除去し、水溶性フィルムを得る方法)、あるいはこれらの組み合わせにより製膜する方法や、押出機などを使用して製膜原液を得てこれをTダイなどから押出すことにより製膜する溶融押出製膜法やインフレーション成形法など、任意の方法により製膜することができる。これらの中でも、均質な水溶性フィルムを生産性よく得ることができることから、流延製膜法または溶融押出製膜法が好ましい。以下、水溶性フィルムの流延製膜法または溶融押出製膜法について説明する。
【0059】
水溶性フィルムを流延製膜法または溶融押出製膜法にて製造する場合、製膜原液が加熱されて溶媒が除去されることにより、固化してフィルム化する。固化したフィルムは支持体より剥離されて、必要に応じて乾燥ロール、乾燥炉などにより乾燥されて、さらに必要に応じて熱処理されて、巻き取られることにより、ロール状の長尺状の水溶性フィルムを得ることができる。
【0060】
製膜原液の揮発分率(製膜時などに揮発や蒸発によって除去される溶媒等の揮発性成分の濃度)の上限は、90質量%以下であることが好ましく、80質量%以下であることがより好ましい。製膜原液の揮発分濃率が上記上限以下であることで、製膜原液の粘度が低くなり、得られる水溶性フィルムの厚みの均一性が損なわれるのを防ぎやすくなる。一方、製膜原液の揮発分率の下限は、50質量%以上であることが好ましく、55質量%以上であることがより好ましい。製膜原液の揮発分率が上記下限以上であることで、製膜原液の粘度が高くなり、水溶性フィルムの製造が困難となるのを防ぎやすくなる。
【0061】
ここで、本明細書における「製膜原液の揮発分率」とは、下記の式により求めた揮発分率をいう。
製膜原液の揮発分率(質量%)={(Wa-Wb)/Wa}×100
(式中、Waは製膜原液の質量(g)を表し、WbはWa(g)の製膜原液を105℃の電熱乾燥機中で16時間乾燥した時の質量(g)を表す。)
【0062】
製膜原液の調整方法に特に制限はなく、例えば、PVAと可塑剤、界面活性剤などの添加剤を溶解タンク等で溶解させる方法や、一軸または二軸押出機を使用して含水状態のPVAを溶融混錬する際に、可塑剤、界面活性剤などと共に溶融混錬する方法などが挙げられる。これらの中でも、溶解タンク等で溶解させる方法または二軸押出機を使用する方法が好ましい。
【0063】
調整された製膜原液は、配管等を通してTダイ等へ送られ、ダイリップを通って支持体上へ膜状に吐出される。
【0064】
本発明の水溶性フィルムの製造方法であって、PVAを含有する製膜原液を、ダイからダイリップを通して支持体の上へ膜状に流涎して乾燥する水溶性フィルムの製造方法において、製膜原液が流涎される支持体の線速度をダイリップにおける製膜原液の線速度で除したドラフト比は、2~60であることが好ましい。ドラフト比の上限は、50以下であることがより好ましく、40以下であることがさらに好ましく、30以下であることが特に好ましい。ドラフト比が上記上限以下であることで、水溶性フィルムの厚みが不均一になったり、水溶性が低下したりするのを防ぎやすくなる。一方、ドラフト比の下限は5以上であることがより好ましく、8以上であることがさらに好ましく、10以上であることが特に好ましい。ドラフト比が上記下限以上であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりするのを防ぎやすくなる。なお、ダイリップにおける製膜原液の線速度は、製膜原液の体積流量をダイリップ開口部の面積(ダイリップの幅×リップ開度)で除することにより求めることができる。
【0065】
ドラフト比が水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率及び完溶時間に影響を与える理由は明確ではないが、ドラフト比が高くなると、製膜原液が支持体の上へ膜状に流延されて形成されたPVA膜がダイリップと支持体の間で引っ張られることにより、PVA膜中のPVA分子鎖の絡み合いが解きほぐされて、乾燥中にPVA結晶が生成されやすくなることが考えられる。
【0066】
本発明の水溶性フィルムの製造方法において、乾燥後のフィルムの巻取速度を製膜原液の支持体の線速度で除したドロー比の上限は、1.8以下であることが好ましく、1.75以下であることがより好ましく、1.70以下であることがさらに好ましい。ドロー比が上記上限以下であることで、PVA結晶が生成されすぎて、水溶性フィルムの水溶性が低下するのを防ぎやすくなる。一方、ドロー比の下限は0.95以上であることが好ましく、1.00以上であることがより好ましく、1.05以上であることがさらに好ましい。ドロー比が上記下限以上であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりするのを防ぎやすくなる。
【0067】
本発明の水溶性フィルムの製造方法におけるドロー比を調整することで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率及び完溶時間を制御することができる理由としては以下の通り推定される。すなわち、製膜原液が支持体の上へ膜状に流延されて形成されたPVA膜は、乾燥される過程でPVA膜の流れ方向(MD方向)に常に張力がかかった状態であり、製膜原液に含まれる溶媒の揮発に伴う体積収縮も相まって、乾燥中のPVA膜は実質的にMD方向へ延伸されているといえる。そして、PVA膜が水分を多く含む間に延伸されると、水溶性フィルムにおいてPVA分子の配向結晶化が生じやすく、PVA結晶が生成されやすくなる。ここで前述の通り、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度等は、水溶性フィルムに含まれるPVA結晶の量に依存すると推定されるので、本発明の水溶性フィルムの製造方法におけるドロー比を調整することで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度等を制御することができると推定される。
【0068】
製膜原液を流涎する支持体の表面温度の上限は、110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることが好ましく、95℃以下であることがより好ましい。支持体の表面温度が上記上限以下であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりするのを防ぎやすくなる。一方、支持体の表面温度の下限は50℃以上であることが好ましく、60℃以上であることがより好ましく、65℃以上であることがさらに好ましい。支持体の表面温度が上記下限以上であることで、製膜原液が支持体の上へ膜状に流延されて形成されたPVA膜がゆっくりと乾燥されることでPVA結晶が生成されすぎて、水溶性フィルムの水溶性が低下するのを防ぎやすくなる。また、PVA膜が乾燥される際に発泡等の膜面の異常が生じるのを防ぎやすくなる。
【0069】
支持体上でPVA膜を加熱、乾燥すると同時に、PVA膜の非接触面側の全領域に熱風を均一に吹き付けて、乾燥速度を調節してもよい。熱風の温度の上限は、105℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましい。熱風の温度が上記上限以下であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりするのを防ぎやすくなる。一方、熱風の温度の下限は、75℃以上であることが好ましく、85℃以上であることがより好ましい。熱風の温度が上記下限以上であることで、PVAの結晶が生成されすぎて、水溶性フィルムの水溶性が低下するのを防ぎやすくなる。また、熱風の速度の上限は、10m/秒以下であることが好ましく、7m/秒以下であることがより好ましい。熱風の速度の下限は、1m/秒以上であることが好ましく、3m/秒以上であることがより好ましい。
【0070】
製膜原液が支持体の上へ膜状に流延されて形成されたPVA膜は、支持体上で好ましくは揮発分率5~50質量%にまで乾燥された後、剥離され、必要に応じてさらに乾燥される。乾燥の方法に特に制限はなく、乾燥炉や乾燥ロールに接触させる方法が挙げられる。複数の乾燥ロールで乾燥させる場合は、PVA膜の一方の面と他方の面を交互に乾燥ロールに接触させることが、得られる水溶性フィルムの両方の面の物性を均一化させるために好ましい。乾燥ロールの数は、3個以上であることが好ましく、4個以上であることがより好ましく、5個以上であることがさらに好ましい。乾燥ロールの数は、30個以下であることが好ましい。
【0071】
乾燥炉、乾燥ロールの温度の上限は110℃以下であることが好ましく、100℃以下であることがより好ましく、90℃以下であることがより好ましく、85℃以下であることがさらに好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が上記上限以下であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなりすぎたり、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率が低くなりすぎたりするのを防ぎやすくなる。一方、乾燥炉、乾燥ロールの温度の下限は40℃以上であることが好ましく、45℃以上であることがより好ましく、50℃以上であることがさらに好ましい。乾燥炉、乾燥ロールの温度が上記下限以上であることで、水溶性フィルムの水溶性が損なわれるのを防ぎやすくなる。
【0072】
本発明の水溶性フィルムの製造方法において、水溶性フィルムを80~300℃の条件で熱処理する工程を含むこと好ましい。熱処理を行うことにより、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度、水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率及び完溶時間を調整することができる。熱処理の温度の上限は280℃以下であることがより好ましく、260℃以下であることがさらに好ましく、240℃以下であることが特に好ましい。熱処理の温度が上記上限以下であることで、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体の重量減少速度が大きくなったり、100%延伸時の弾性率が低下したりするのを防ぎ、包装体の経時的な皺が悪化するのを防ぎやすくなる。一方、熱処理の温度の下限は90℃以上であることがより好ましく、100℃以上であることがさらに好ましく、105℃以上であることが特に好ましい。熱処理の温度が上記下限以上であることで、水溶性フィルムの水溶性が損なわれるのを防ぎやすくなる。
【0073】
このようにして製造された水溶性フィルムは、必要に応じて、さらに、調湿処理、エンボス加工、フィルム両端部(耳部)のカットなどを行った後、円筒状のコアの上にロール状に巻き取られる。
【0074】
一連の処理によって最終的に得られる水溶性フィルムの揮発分率の上限は、5質量%以下であることが好ましく、4質量%以下であることがより好ましい。水溶性フィルムの揮発分率の下限は1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましい。
【0075】
<用途>
本発明の水溶性フィルムは、各種水溶性フィルムの用途に好適に使用することができる。このような水溶性フィルムとしては、例えば、薬剤包装用フィルム、液圧転写用ベースフィルム、刺繍用基材フィルム、人工大理石成形用離型フィルム、種子包装用フィルム、汚物収容袋用フィルムなどが挙げられる。これらの中でも、本発明の効果がより顕著に奏されることから、本発明の水溶性フィルムは薬剤包装用フィルムとして使用されるのが好ましい。
【0076】
本発明の水溶性フィルムを薬剤包装用フィルムとして使用する場合における薬剤の種類としては、農薬、洗剤(漂白剤を含む)、消毒薬などが挙げられる。薬剤の物性に特に制限はなく、酸性であっても、中性であっても、アルカリ性であってもよい。また、薬剤にはホウ素含有化合物が含まれていてもよい。薬剤の形態としては、粉末状、塊状、ゲル状及び液体状のいずれであってもよい。包装形態に特に制限はないが、薬剤を単位量ずつ包装(好ましくは密封包装)するユニット包装の形態が好ましい。本発明のフィルムを薬剤包装用フィルムとして使用して薬剤を包装することにより、本発明の包装体が得られる。
【実施例】
【0077】
以下に本発明を実施例などにより具体的に説明するが、本発明は、以下の実施例により何ら限定されるものではない。
【0078】
(1)モデル洗剤包装体の重量減少速度
前記の方法により、23℃、50%RHに保管した際のモデル洗剤包装体の重量減少速度を求めた。
【0079】
(2)水溶性フィルムの100%延伸時の弾性率
前記の方法により、水溶性フィルムをモデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、23℃、50%RHにて引張試験を行った際の、100%延伸時の弾性率を測定した。
【0080】
(3)水溶性フィルムの完溶時間
前記の方法により、水溶性フィルムをモデル洗剤に23℃、50%RHの環境下で24時間浸漬した後、5℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間を測定した。
【0081】
(4)50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価
以下の<1>~<5>の方法により、水溶性フィルムのモデル洗剤包装体を、高温・長時間保管した際の経時的な外観変化を評価した。
<1>水溶性フィルムより、7cm×7cmの試験片2枚を切り出す。
<2>切り出したフィルム2枚を重ね、その3辺をシール幅1cmでヒートシールして、1辺が開いたパウチを作成する。
<3>パウチに20cm3のモデル洗剤を入れ、パウチ表面に皺が入らずフィルムが張った状態になるようにシール幅を調整しつつ、残る1辺をヒートシールして、モデル洗剤包装体を作成する。
<4>上記のモデル洗剤包装体を30個作成し、50℃に設定した熱風乾燥の中に入れて2週間保管する。
<5>2週間後にモデル洗剤包装体を取り出し、23℃、50%RHの部屋に4時間放置した後、モデル洗剤包装体の外観を観察し、以下の基準で評価した。
A:表面に皺が認められるモデル洗剤包装体が1個以下
B:表面に皺が認められるモデル洗剤包装体が2~3個(全モデル洗剤包装体の1割以下)
C:表面に皺が認められるモデル洗剤包装体が4個以上
【0082】
<実施例1>
マレイン酸モノメチル(MMM)4モル%変性ポリ酢酸ビニルをけん化することにより得られたMMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)100質量部、多価アルコール系可塑剤としてグリセリン25質量部、界面活性剤としてラウリン酸ジエタノールアミド0.2質量部、及び水を二軸押出機に投入し、揮発分率60質量%の製膜原液を調整した。この製膜原液をTダイからダイリップを通してドラフト比11で表面温度90℃の金属ロール(支持体)上へ吐出、流涎し、支持体との非接触面全体に、100℃の熱風を5m/秒の速度で吹き付けて乾燥した。次いで支持体から剥離して、PVA膜の一方の面と他方の面とが各乾燥ロールに交互に接触するように、第2乾燥ロールから最終乾燥ロールまで乾燥した。第2乾燥ロールから最終乾燥ロールの表面温度はいずれも80℃であった。次いで、表面温度110℃の熱処理ロール2本に、PVA膜の一方の面と他方の面とを各熱処理ロールに交互に接触させて、熱処理した後、塩化ビニル製のロールコアに巻き取った。支持体から巻取りまでのドロー比は1.4であった。このようにして、水溶性フィルム(厚み40μm、長さ1200m、幅1m)を得た。
【0083】
得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0084】
<実施例2>
多価アルコール系可塑剤であるグリセリンの量をPVA100質量部に対して35質量部に、Tダイ-支持体間のドラフト比を31に、支持体の表面温度を80℃に、支持体との非接触面全体に吹き付ける熱風の温度を90℃に、熱処理ロールの表面温度を180℃に、支持体から巻取りまでのドロー比を1.8に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0085】
<実施例3~5>
実施例3では、MMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)を無変性PVA(けん化度88モル%、重合度1000)に、実施例4では、MMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)をMMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度88モル%、重合度1200)に、実施例5では、MMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)を2-アクリルアミド-2-メチルプロピルスルホン酸(AMPS)2モル%変性のスルホン酸変性PVA(けん化度99モル%、重合度1200)に、それぞれ変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0086】
<実施例6>
PVA100質量部に対して、二軸押出機に、充填剤としてベントナイト(クニミネ工業株式会社製、「クニピア-F」)を2質量部添加して、製膜原液の揮発分率を60質量%とした以外は実施例3と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0087】
<実施例7>
MMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)を無変性PVA(けん化度88モル%、重合度1000)に、多価アルコール系可塑剤であるグリセリンの量を前記無変性PVA100質量部に対して25質量部に変更した以外は実施例2と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0088】
<実施例8>
Tダイ-支持体間のドラフト比を3に、支持体の表面温度を105℃に、支持体との非接触面全体に吹き付ける熱風の温度を105℃に、熱処理ロールの表面温度を180℃に変更した以外は実施例3と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0089】
<比較例1、2>
比較例1では、Tダイ-支持体間のドラフト比を1.2に、支持体から巻取りまでのドロー比を0.8に、比較例2では、Tダイ-支持体間のドラフト比を65に、支持体から巻取りまでのドロー比を2.1に、それぞれ変更した以外は実施例3と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0090】
<比較例3>
MMM4モル%変性のカルボン酸変性PVA(けん化度96モル%、重合度1200)を無変性PVA(けん化度99モル%、重合度1000)に変更した以外は実施例1と同様にして、水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0091】
<比較例4>
Tダイ-支持体間のドラフト比を1.2に、熱処理ロールの表面温度を40℃に、支持体から巻取りまでのドロー比を0.8に変更した以外は、実施例1と同様にして水溶性フィルムを得た。得られた水溶性フィルムを用いて、モデル洗剤包装体の重量減少速度、100%延伸時の弾性率、及び完溶時間を測定した。さらに50℃、2週間保管後のモデル洗剤包装体の外観評価を行った。結果を表1に示す。
【0092】
【要約】
良好な水溶性を維持しつつ洗濯洗剤などの薬剤を包装しても、高温・長時間の保管における経時的な外観不良発生の問題を生じにくい水溶性フィルム、その製膜方法、及び当該水溶性フィルムを用いて薬剤を包装した包装体を提供する
重合度が100~3000のポリビニルアルコールを含有し、ポリビニルアルコール100質量部に対して多価アルコール系可塑剤1~50質量部を含有する水溶性フィルムであって、モデル洗剤を包装した包装体とした場合の包装体の重量減少速度が1.0~6.0g/(m2・日)であり、水溶性フィルムをモデル洗剤に24時間浸漬した後、引張試験を行った際の100%延伸時の弾性率が9~35MPaであり、且つ、水溶性フィルムをモデル洗剤に24時間浸漬した後、5℃の脱イオン水に浸漬した時の完溶時間が100秒以内である、水溶性フィルム。