(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】延伸多孔積層フィルム
(51)【国際特許分類】
B32B 27/32 20060101AFI20230719BHJP
B32B 5/22 20060101ALI20230719BHJP
A61F 13/514 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
B32B27/32 E
B32B27/32 103
B32B5/22
A61F13/514 100
A61F13/514 211
A61F13/514 320
(21)【出願番号】P 2019042337
(22)【出願日】2019-03-08
【審査請求日】2022-02-28
(31)【優先権主張番号】P 2019025229
(32)【優先日】2019-02-15
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000006035
【氏名又は名称】三菱ケミカル株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100207756
【氏名又は名称】田口 昌浩
(72)【発明者】
【氏名】牟田 隆敏
(72)【発明者】
【氏名】桑名 祐里
【審査官】増永 淳司
(56)【参考文献】
【文献】特開2006-321151(JP,A)
【文献】特開2018-126936(JP,A)
【文献】特開2007-238822(JP,A)
【文献】特開2001-191403(JP,A)
【文献】特開2003-012842(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B32B 27/32
B32B 5/22
A61F 13/514
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
密度が0.910g/cm
3以上のポリオレフィン系樹脂(y)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Y)からなる(I)層と、
密度が0.850g/cm
3以上0.910g/cm
3未満の
エチレン・α-オレフィン共重合体を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Z)からなる(II)層の少なくとも2層を有し、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率(ただし、(II)層を2層以上有する場合はその合計厚さの厚さ比率とする。)が35%以上99%以下であることを特徴とする延伸多孔積層フィルム。
【請求項2】
140℃以上200℃以下に結晶融解ピーク(Pm1)を有し、該結晶融解ピーク(Pm1)から算出される結晶融解エンタルピー(ΔHm1)が1J/g~10J/gであることを特徴とする請求項1に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項3】
30℃以上140℃未満に結晶融解ピーク(Pm2)を有し、該結晶融解ピーク(Pm2)から算出される結晶融解エンタルピー(ΔHm2)が1J/g~43J/gであることを特徴とする請求項1~2のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項4】
空孔率が15%~80%であることを特徴とする請求項1~3のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項5】
透湿度が1000g/(m
2・24h)~15000g/(m
2・24h)であることを特徴とする請求項1~
4のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項6】
前記樹脂組成物(Y)中に、可塑剤を0.1質量%~8.0質量%含む請求項1~
5のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項7】
前記樹脂組成物(Z)中に、可塑剤を0.1質量%~8.0質量%含む請求項1~
6のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項8】
前記樹脂組成物(Z)が、さらにポリプロピレン系樹脂を含む、請求項1~7のいずれか1項に記載の延伸多孔積層フィルム。
【請求項9】
請求項1~8のいずれかに記載の延伸多孔積層フィルムを備えた衛生用品。
【請求項10】
請求項1~8のいずれかに記載の延伸多孔積層フィルムを備えた衣服。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制し、通気性、透湿性、強度、フィルムの搬送性、および耐熱性にも優れた延伸多孔積層フィルムに関する。より詳細には、紙おむつ、女性用生理用品などの衛生用品;作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服などの衣服;その他マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップといった通気性、透湿性を求められる用途に好適に利用することができる使用感の優れた延伸多孔積層フィルムに関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ポリオレフィン系樹脂などの熱可塑性樹脂と無機充填材を含有する樹脂組成物を延伸することにより、熱可塑性樹脂と無機充填材との間で界面剥離を発生させ、多数のボイド(微多孔)を形成した多孔フィルムが知られている。特に、ポリオレフィン系樹脂と無機充填材を含有する樹脂組成物からなる延伸多孔フィルムは内部の微多孔が連通孔を形成しているため、高い透気度・透湿度を有しながらも液体の透過を抑制した透湿防水フィルムとして利用されており、特に、紙おむつや女性用生理用品などの衛生材料、作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服などの衣服、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップなどの通気性や、透湿性を求められる用途に幅広く使用されている。
【0003】
これらの用途に用いられる多孔フィルムは、直接、人の肌に触れる用途に用いられることが多いため、装着した状態での活動において、フィルムがガサガサ、ゴワゴワといった不快な音や感触を有することは使用感を妨げる要因となる。そのため、多孔フィルムには、風合いや柔軟性がよく肌触りが良いことと共に、不快音の抑制が求められる。
【0004】
これらの課題に対し、例えば、エチレン・α-オレフィン共重合体65~90重量%、熱可塑性エラストマー35~10重量%の合計量100重量部に対して50~300重量部の無機充填材を含む多孔性フィルム(特許文献1)や、炭素数が4~8個のα-オレフィンコモノマーを12重量%以上含有する結晶性低密度ポリエチレン20~100重量部とポリエチレン80~0重量部とからなる樹脂成分100重量部に対して、無機充填材50~400重量部を含む透湿フィルム(特許文献2)が開示されている。
【0005】
また、ポリエチレン系樹脂30~70質量部とオレフィン系エラストマー70~30質量部の合計量100質量部に対して50~300質量部の無機充填材、1~30質量部の可塑剤を含有する通気性フィルム(特許文献3)や、ポリエチレン樹脂40~90質量部、プロピレン単独重合体5~30質量部、プロピレン・エチレン共重合エラストマー5~30質量部を含む100質量部の樹脂成分と該樹脂成分に対して無機充填剤100~200質量部、可塑剤1~20質量部を含む透湿性フィルム(特許文献4)、ポリエチレン樹脂組成物と無機充填材とスチレン系エラストマーを含む透湿性フィルム(特許文献5)、さらには、直鎖状低密度ポリエチレン30~85質量部、高圧重合法低密度ポリエチレン5~20質量部、メタロセン系エチレン・α-オレフィン共重合体10~50質量部を含む樹脂成分と、樹脂成分100質量部に対し100~200質量部の無機充填剤と1~20質量部の可塑剤を含有する透湿性フィルム(特許文献6)がそれぞれ開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開平7-228719号公報
【文献】特開2000-1557号公報
【文献】特開2017-31292号公報
【文献】特開2015-229720号公報
【文献】国際公開第2014/088065号パンフレット
【文献】国際公開第2015/186808号パンフレット
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかしながら、特許文献1、2では、融点が60~100℃のエチレン・α-オレフィン共重合体や炭素数が4~8個のα-オレフィンコモノマーを12重量%以上含有する結晶性低密度ポリエチレンが主成分となるフィルムであるため、柔軟性には富むが、他部材を貼り合わせる工程などで生じる高温条件下においては、融解するおそれがあり、寸法安定性や耐熱性などが不十分となる。
具体的には、紙おむつ等の衛生材料は、多孔フィルムと不織布とをホットメルトラミネーションにて貼り合わされて製造されるのが一般的であるが、その際、ホットメルト接着剤は100~200℃に加熱、溶融されて多孔フィルムに噴霧されるため、多孔フィルムの耐熱性が不十分な場合、フィルムが破れ、生産性を著しく阻害する。そのため、多孔フィルムが十分な耐熱性を有することは、非常に重要となる。さらには、印刷、スリット、他部材との貼り合わせなどの、張力を掛けながら搬送されて加工する工程において、フィルムを安定して搬送させる搬送性に課題が残る。
【0008】
また、特許文献3~6では、ポリエチレン系樹脂と無機充填材を含有する組成物中に、オレフィン系エラストマー、プロピレン・エチレン共重合エラストマー、スチレン系エラストマー、メタロセン系エチレン・α-オレフィン共重合体などの軟質樹脂を含有することにより、柔軟性や伸縮性を有し、風合いや触感に優れたフィルムが得られる。
一方で、これらの多孔フィルムが使用される用途では、更なる使用感の向上が求められているため、柔軟性や風合いなどの触感の更なる改良や、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生の抑制などが必要となる。しかしながら、特許文献3~6では、これらの不快音の抑制などの要求物性について何ら検討されていない。
【0009】
本発明は上記課題に鑑みてなされたものであり、柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制し、かつ、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度を有し、かつ、耐熱性を兼ね備えた、延伸多孔積層フィルムを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、鋭意検討した結果、上記従来技術の課題を解決し得る延伸多孔積層フィルムを得ることに成功し、本発明を完成するに至った。すなわち、本発明の目的は、以下の延伸多孔積層フィルム(以下、「本発明の延伸多孔積層フィルム」ともいう。)により達成される。
【0011】
すなわち、本発明の課題は、密度が0.910g/cm3以上のポリオレフィン系樹脂(y)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Y)からなる(I)層と、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満のポリオレフィン系樹脂(z)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Z)からなる(II)層の少なくとも2層を有し、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率(ただし、(II)層を2層以上有する場合はその合計厚さの厚さ比率とする。)が35%以上99%以下であることを特徴とする延伸多孔積層フィルムによって解決される。
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制し、かつ、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度を有し、かつ、ホットメルト接着剤塗布時に求められる耐熱性を兼ね備えた、延伸多孔積層フィルムを得ることができるため、通気性や透湿性を求められる用途に好適に利用することができる。
【発明を実施するための形態】
【0013】
以下、本発明の実施形態の一例としての本発明の延伸多孔積層フィルムについて説明する。ただし、本発明の範囲が以下に説明する実施形態に限定されるものではない。ここで、延伸多孔積層フィルムとは、少なくとも一軸方向に延伸された多孔質の積層フィルムである。
【0014】
なお、本明細書において、「主成分」とは、構成する組成物において最も多い質量比率を占める成分であることをいい、45質量%以上が好ましく、50質量%以上がより好ましく、55質量%以上がさらに好ましい。また、「X~Y」(X、Yは任意の数字)と記載した場合、特にことわらない限り「X以上Y以下」の意と共に、「好ましくはXより大きい」及び「好ましくはYより小さい」の意を包含するものである。
【0015】
(延伸多孔積層フィルム)
本発明の延伸多孔積層フィルムは、後述する(I)層と、後述する(II)層の少なくとも2層を有する延伸多孔積層フィルムである。
【0016】
((I)層)
本発明の延伸多孔積層フィルムにおいて、(I)層は、密度が0.910g/cm3以上のポリオレフィン系樹脂(y)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Y)からなることが重要である。
【0017】
(無機充填材(A))
前記無機充填材(A)としては、例えば、炭酸カルシウム、硫酸カルシウム、炭酸バリウム、硫酸バリウム、酸化チタン、タルク、クレイ、カオリナイト、モンモリロナイトなどの微粒子や鉱物が挙げられるが、微多孔質化の発現、汎用性の高さ、低価格および銘柄の豊富さなどの利点から、炭酸カルシウム、硫酸バリウムが好適に用いることができる。
【0018】
無機充填材(A)の平均粒子径は0.1~10μmが好ましく、より好ましくは0.3~5μm、さらに好ましくは0.5~3μmである。平均粒子径が0.1μm以上であれば、無機充填材(A)の分散不良や二次凝集が抑制され、前記樹脂組成物(Y)、及び後述する樹脂組成物(Z)中に均一に分散することができるため好ましい。一方で、平均粒子径が10μm以下であれば、フィルムの薄膜化の際に大きなボイドの発生を抑制することができ、フィルムに十分な強度と耐水性を確保することができる。また、樹脂との分散性・混合性を向上させる目的で、あらかじめ脂肪酸、脂肪酸エステルなどを無機充填材にコーティングし、無機充填材表面を樹脂となじみ易くしておくことが好ましく、本発明に用いられる無機充填材(A)においても、表面処理された無機充填材を用いることができる。
【0019】
(ポリオレフィン系樹脂(y))
ポリオレフィン系樹脂(y)は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂であり、密度が0.910g/cm3以上であることが重要である。主たるモノマー成分とは、樹脂中で50モル%以上100モル%以下を占めるモノマー成分のことをいう。オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどのα-オレフィンや、ジエン、イソプレン、ブチレン、ブタジエンなどが挙げられ、これらの単独重合体でもよく、2種以上を共重合した多元共重合体であってもよい。また、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルアルコール、エチレングリコール、無水マレイン酸、スチレン、環状オレフィンが共重合されたものでもよい。
【0020】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂(y)は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂であり、密度が0.910g/cm3以上であれば、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。前記ポリオレフィン系樹脂(y)が2種類以上で構成される場合、その合計が前記ポリオレフィン系樹脂(y)の質量となる。
【0021】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(y)の密度は0.910g/cm3以上であり、0.910g/cm3以上0.960g/cm3以下であることが好ましく、0.910g/cm3以上0.950g/cm3以下であることがより好ましく、0.910g/cm3以上0.940g/cm3以下であることがさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂(y)の密度が0.910g/cm3以上であることにより、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度を付与することができるため重要となる。また、ポリオレフィン系樹脂(y)の密度が0.910g/cm3以上であることにより、延伸多孔積層フィルムの通気性、透湿性、寸法安定性、耐液漏れ性、隠ぺい性、外観などを満足させることが可能となる。また、ポリオレフィン系樹脂(y)の密度が0.910g/cm3以上0.960g/cm3以下であると、上述の引張強度を付与できるとともに、フィルムの溶融成形性が向上するため好ましい。
ここで、密度はピクノメーター法(JIS K7112 B法)により測定した密度である。また、後述する樹脂の密度についても同様に測定したときの値である。
【0022】
前記ポリオレフィン系樹脂(y)は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂であり、密度が0.910g/cm3以上であれば、特に制限されるものではないが、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度の付与や、フィルムの通気性、透湿性の観点から、ポリエチレン系樹脂やポリプロピレン系樹脂が好ましく用いることができる。
【0023】
前記ポリエチレン系樹脂は、エチレンを主たるモノマー成分とした樹脂である。主たるモノマー成分とは、樹脂中で50モル%以上100モル%以下を占めるモノマー成分のことをいう。よって、ポリエチレン系樹脂は、エチレン単独重合体でもよく、エチレンを主たるモノマー成分とし、かつ、他のモノマーを含有する共重合体であってもよい。共重合体の例を挙げると、エチレン・プロピレン共重合体、エチレン・(1-ブテン)共重合体、エチレン・(1-ヘキセン)共重合体、エチレン・(4-メチル-1-ペンテン)共重合体、エチレン・(1-オクテン)共重合体などのエチレン・(α-オレフィン)共重合体や、また、エチレン・酢酸ビニル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、エチレン・(メタ)アクリル酸グリシジル、エチレン・ビニルアルコール共重合体、エチレン・エチレングリコール共重合体、エチレン・無水マレイン酸共重合体、エチレン・スチレン共重合体、エチレン・ジエン共重合体、エチレン・環状オレフィン共重合体などが挙げられる。また、エチレン・プロピレン・(1-ブテン)共重合体など、上述のモノマー成分を2種以上含有する多元共重合体であってもよい。この中でも、寸法安定性や、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度の付与の観点から、エチレン単独重合体や、エチレン・(α-オレフィン)共重合体が好ましい。
【0024】
前記ポリエチレン系樹脂は線状であってもよく、分岐状であってもよい。ポリエチレン系樹脂の製造方法は特に限定されるものではなく、公知のオレフィン重合用触媒を用いた公知の重合方法、例えばチーグラー・ナッタ型触媒に代表されるマルチサイト触媒や、メタロセン系触媒に代表されるシングルサイト触媒を用いた重合方法等が挙げられる。
【0025】
前記ポリエチレン系樹脂は、融点が110~135℃であることが好ましく、110~130℃であることがより好ましい。前記ポリエチレン系樹脂の融点が110~135℃であれば、延伸多孔積層フィルムの引張強度や寸法安定性を向上できるため好ましい。
ここで、融点は示差走査熱量計(DSC)を用いて、樹脂約10mgを加熱速度10℃/分で-40℃~200℃まで昇温し、200℃で1分間保持した後、冷却速度10℃/分で-40℃まで降温し、再度、加熱速度10℃/分で200℃まで昇温したときに測定されたサーモグラムから求めた結晶融解ピーク温度(Tm)(℃)である。また、後述する樹脂の融点についても同様に測定したときの値である。
【0026】
前記ポリエチレン系樹脂は、メルトフローレート(MFR)が、0.1~20g/10分であることが好ましく、0.5~10g/10分であることがより好ましい。MFRを0.1g/10分以上とすることで、延伸多孔積層フィルムの成形性を十分に保持することができるため好ましい。また、20g/10分以下とすることで延伸多孔積層フィルムの強度を十分に保持できるため好ましい。
ここで、MFRはJIS K7219に準拠して測定される値であり、その測定条件は190℃、2.16kg荷重である。
【0027】
また、前記ポリプロピレン系樹脂は、プロピレンを主たるモノマー成分とした樹脂である。主たるモノマー成分とは、樹脂中で50モル%以上100モル%以下を占めるモノマー成分のことをいう。よって、ポリプロピレン系樹脂は、プロピレン単独重合体でもよく、プロピレンを主たるモノマー成分とし、かつ、他のモノマーを含有する共重合体であってもよい。共重合体の例を挙げると、プロピレン・エチレン共重合体、プロピレン・(1-ブテン)共重合体、プロピレン・(1-ヘキセン)共重合体、プロピレン・(4-メチル-1-ペンテン)共重合体、プロピレン・(1-オクテン)共重合体などのプロピレン・(α-オレフィン)共重合体や、また、プロピレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン・(メタ)アクリル酸共重合体、プロピレン・(メタ)アクリル酸エステル共重合体、プロピレン・(メタ)アクリル酸グリシジル、プロピレン・ビニルアルコール共重合体、プロピレン・エチレングリコール共重合体、プロピレン・無水マレイン酸共重合体、プロピレン・スチレン共重合体、プロピレン・ジエン共重合体、プロピレン・環状オレフィン共重合体などが挙げられる。また、プロピレン・エチレン・(1-ブテン)共重合体など、上述のモノマー成分を2種以上含有する多元共重合体であってもよい。
この中でも、耐熱性や、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度の付与の観点から、プロピレン単独重合体や、プロピレン・(α-オレフィン)共重合体が好ましい。
【0028】
(樹脂組成物(Y))
本発明において、前記樹脂組成物(Y)は、密度が0.910g/cm3以上のポリオレフィン系樹脂(y)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物であることが重要である。
また、前記樹脂組成物(Y)は、前記ポリオレフィン系樹脂(y)を27質量%~52質量%、前記無機充填材(A)を48質量%~73質量%含むことが好ましく、前記ポリオレフィン系樹脂(y)を29質量%~50質量%、前記無機充填材(A)を50質量%~71質量%含むことがより好ましく、前記ポリオレフィン系樹脂(y)を31質量%~48質量%、前記無機充填材(A)を52質量%~69質量%含むことがさらに好ましい。
【0029】
前記樹脂組成物(Y)において、前記無機充填材(A)が46質量%未満である場合、延伸に伴う多孔の形成が不十分となり連通孔を形成しづらくなり、十分な透気特性や透湿特性を発現しにくくなる。また、前記無機充填材(A)が75質量%を超える場合、樹脂組成物の成形が困難となり、生産性に課題を有しやすくなる。
一方、前記樹脂組成物(Y)において、前記ポリオレフィン系樹脂(y)が25質量%未満である場合、寸法安定性やフィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度が著しく低下しやすくなる。また、前記ポリオレフィン系樹脂(y)が54質量%を超える場合、延伸に伴う多孔の形成が不十分となり連通孔を形成しづらくなり、十分な透気特性や透湿特性を発現しにくくなる。
【0030】
本発明において、前記樹脂組成物(Y)には、分岐状低密度ポリエチレンが含まれることが好ましい。前記樹脂組成物(Y)に分岐状低密度ポリエチレンが含まれる場合、前記樹脂組成物(Y)の溶融張力が上昇し、成形加工性が向上するため好ましい。
なお、前記樹脂組成物(Y)に好ましく含まれることができる分岐状低密度ポリエチレンは、密度が0.910g/cm3以上であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(y)に該当し、密度が0.910g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(y)には該当しない。
前記分岐状低密度ポリエチレンが前記ポリオレフィン系樹脂(y)には該当しない場合、前記樹脂組成物(Y)における前記分岐状低密度ポリエチレンの含有量は1質量%~8質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0031】
また、本発明において、前記樹脂組成物(Y)には、ポリプロピレン系樹脂が含まれることが好ましい。前記樹脂組成物(Y)にポリプロピレン系樹脂が含まれる場合、前記樹脂組成物(Y)の耐熱性が向上し、ホットメルト耐性を付与できるため好ましい。また、前記ポリプロピレン系樹脂の融点は140℃~170℃であることが好ましい。また、前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は10~50g/10minであることが好ましい。ここで、ポリプロピレン系樹脂のMFRはJIS K7210条件Mに準拠して測定される値であり、その測定条件は230℃、2.16kg荷重である。
なお、前記樹脂組成物(Y)に好ましく含まれることができるポリプロピレン系樹脂は、密度が0.910g/cm3以上であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(y)に該当し、密度が0.910g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(y)には該当しない。
前記ポリプロピレン系樹脂が前記ポリオレフィン系樹脂(y)には該当しない場合、前記樹脂組成物(Y)における前記ポリプロピレン系樹脂の含有量は1質量%~8質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0032】
また、本発明において、前記樹脂組成物(Y)には、可塑剤を0.1質量%~8.0質量%含むことが好ましい。可塑剤が0.1質量%以上含まれていれば、延伸多孔積層フィルムの加工性や延伸性が向上しやすく好ましい。また、延伸多孔積層フィルムの耐水性や耐液漏れ性が向上するため好ましい。また、可塑剤が8.0質量%以下であれば、可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、延伸多孔積層フィルムをロール状に巻き取った際のブロッキングや、印刷時の印刷不良を抑制できる。
【0033】
可塑剤としては、特に限定されないが、具体的には下記エステル系可塑剤が挙げられる。極性構造を有するもの、例えば、1価カルボン酸エステル系可塑剤(ブタン酸、イソブタン酸、へキサン酸、2-エチルへキサン酸、へプタン酸、オクチル酸、2-エチルヘキサン酸、ラウリル酸などの1価カルボン酸と、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、テトラエチレングリコール、ポリエチレングリコール、グリセリンなどの多価アルコールとの縮合反応により得られる化合物が挙げられる。具体的な化合物を例示すると、トリエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールジイソブタノエート、トリエチレングリコール-ヘキサノエート、トリエチレングリコールジ2-エチルブタノエート、トリエチレングリコールジラウレート、エチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート、ジエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジ2-エチルヘキサノエート、テトラエチレングリコールジヘプタノエート、PEG#400ジ2-エチルヘキサノエート、トリエチレングリコールモノ2-エチルヘキサノエート、グリセリントリ2-エチルヘキサノエート、ペンタエリスリトールテトラスレアレート、ジペンタエリスリトールヘキサオクタノエート、ジグリセリンテトラステアレート、ジグリセリンジステアレートなど)、多価カルボン酸エステル系可塑剤(アジピン酸、コハク酸、アゼライン酸、セバシン酸、フタル酸、イソフタル酸、テレフタル酸、トリメリット酸などの多価カルボン酸と、メタノール、エタノール、ブタノール、ヘキサノール、2-エチルブタノール、ヘプタノール、オクタノール、2-エチルヘキサノール、デカノール、ドデカノール、ブトキシエタノール、ブトキシエトキシエタノール、ベンジルアルコールなどの炭素数1~12の1価アルコールとの縮合反応により得られる化合物が挙げられる。具体的な化合物を例示すると、アジピン酸ジヘキシル、アジピン酸ジ2-エチルヘキシル、アジピン酸ジヘプチル、アジピン酸ジオクチル、アジピン酸ジ2-エチルヘキシル、アジピン酸ジ(ブトキシエチル)、アジピン酸ジ(ブトキシエトキシエチル)、アジピン酸モノ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ジブチル、フタル酸ジヘキシル、フタル酸ジ(2-エチルブチル)、フタル酸ジオクチル、フタル酸ジ(2-エチルヘキシル)、フタル酸ベンジルブチル、フタル酸ジドデシル、トリメット酸トリオクチルなど)、ヒドロキシカルボン酸エステル系可塑剤(ヒドロキシカルボン酸の1価アルコールエステル;リシノール酸メチル、リシノール酸エチル、リシノール酸ブチル、6-ヒドロキシヘキサン酸メチル、6-ヒドロキシヘキサン酸エチル、6-ヒドロキシヘキサン酸ブチル、ヒドロキシカルボン酸の多価アルコールエステル;エチレングリコールジ(6-ヒドロキシヘキサン酸)エステル、ジエチレングリコールジ(6-ヒドロキシヘキサン酸)エステル、トリエチレングリコールジ(6-ヒドロキシヘキサン酸)エステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(6-ヒドロキシヘキサン酸)エステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(2-ヒドロキシ酪酸)エステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(3-ヒドロキシ酪酸)エステル、3-メチル-1,5-ペンタンジオールジ(4-ヒドロキシ酪酸)エステル、トリエチレングリコールジ(2-ヒドロキシ酪酸)エステル、グリセリントリ(リシノール酸)エステル、L-酒石酸ジ(1-(2-エチルヘキシル))、ひまし油類など)、ポリエステル系可塑剤などの適当なものを使用することができる。
ひまし油類としては、通常のひまし油、精製ひまし油、硬化ひまし油および脱水ひまし油などが挙げられる。また、硬化ひまし油としては、12-ヒドロキシオクタデカン酸とグリセリンからなるトリグリセライドを主成分とする硬化ひまし油などが挙げられる。
【0034】
また、前記樹脂組成物(Y)には、前記原料の他、使用目的に応じて、その他樹脂原料や、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂、相溶化剤、加工助剤、溶融粘度改良剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、核剤、架橋剤、滑材、アンチブロッキング剤、スリップ剤、防曇剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤および顔料などを適宜添加してもよい。
【0035】
((II)層)
本発明の延伸多孔積層フィルムにおいて、(II)層は、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満のポリオレフィン系樹脂(z)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Z)からなることが重要である。
【0036】
前記樹脂組成物(Z)に含まれる無機充填材(A)として、好ましく用いることができるものは、前述した樹脂組成物(Y)に含まれる無機充填材(A)と同様である。ただし、前記樹脂組成物(Y)に含まれる無機充填材(A)と、前記樹脂組成物(Z)に含まれる無機充填材(A)は、種類、粒径、含有量、表面処理の有無や処理剤の種類等が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0037】
(ポリオレフィン系樹脂(z))
ポリオレフィン系樹脂(z)は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂であり、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満であることが重要である。主たるモノマー成分とは、樹脂中で50モル%以上100モル%以下を占めるモノマー成分のことをいう。オレフィンモノマーとしては、エチレン、プロピレン、また、1-ブテン、1-ヘキセン、4-メチル-1-ペンテン、1-オクテンなどのα-オレフィンや、ジエン、イソプレン、ブチレン、ブタジエンなどが挙げられ、これらの単独重合体でもよく、2種以上を共重合した多元共重合体であってもよい。また、酢酸ビニル、(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸エステル、(メタ)アクリル酸グリシジル、ビニルアルコール、エチレングリコール、無水マレイン酸、スチレン、環状オレフィンが共重合されたものでもよい。中でも、柔軟性と風合いの付与や不快音の抑制の観点から、エチレン単独重合体、分岐状低密度ポリエチレン、プロピレン単独重合体、エチレン・(α-オレフィン共重合体)、プロピレン・(α-オレフィン共重合体)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、スチレン・エチレン・プロピレン共重合体、スチレン・エチレン・ブチレン共重合体が好ましく、エチレン・(α-オレフィン共重合体)、プロピレン・(α-オレフィン共重合体)、エチレン・酢酸ビニル共重合体、プロピレン単独重合体がより好ましい。
【0038】
本発明において、ポリオレフィン系樹脂(z)は、オレフィンモノマーを主たるモノマー成分とした樹脂であり、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満であれば、1種類であってもよく、2種類以上であってもよい。前記ポリオレフィン系樹脂(z)が2種類以上で構成される場合、その合計が前記ポリオレフィン系樹脂(z)の質量となる。
【0039】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(z)の密度は0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満であり、0.855g/cm3以上0.910g/cm3未満であることが好ましく、0.860g/cm3以上0.910g/cm3未満であることがより好ましい。ポリオレフィン系樹脂(z)の密度が0.850g/cm3以上であることにより、延伸多孔積層フィルムの柔軟性を有しつつ、適度な強度を付与できるため重要となる。また、ポリオレフィン系樹脂(z)の密度が0.910g/cm3未満であることにより、延伸多孔積層フィルムの柔軟性や風合いを良化させ、触感の満足度を向上できる。また、延伸多孔積層フィルムが擦れる際に生じる不快音を抑制できるため重要となる。
【0040】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(z)は、メルトフローレート(MFR)が、0.1~20g/10分であることが好ましく、0.5~10g/10分であることがより好ましい。MFRを0.1g/10分以上とすることで、延伸多孔積層フィルムの成形性を十分に保持することができるため好ましい。また、20g/10分以下とすることで延伸多孔積層フィルムの強度を十分に保持できるため好ましい。
【0041】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(z)の動的粘弾性測定から算出される貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の比であるtanδ(=E’’/E’)のピークは、-50~50℃の範囲にあることが好ましい。前記ポリオレフィン系樹脂(z)のtanδのピークが-50~50℃の範囲にある場合、ガサガサ、ゴワゴワといった不快な音の抑制に寄与するため好ましい。
【0042】
また、前記ポリオレフィン系樹脂(z)の動的粘弾性測定から算出される貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の比であるtanδ(=E’’/E’)のピーク値は、0.100以上であることが好ましく、0.200以上であることがより好ましく、0.300以上であることがさらに好ましい。前記前記ポリオレフィン系樹脂(z)のtanδのピーク値が0.100以上である場合、ガサガサ、ゴワゴワといった不快な音の抑制に寄与するため好ましい。
【0043】
(樹脂組成物(Z))
本発明において、前記樹脂組成物(Z)は、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満のポリオレフィン系樹脂(z)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物であることが重要である。
また、前記樹脂組成物(Z)は、前記ポリオレフィン系樹脂(z)を27質量%~52質量%、前記無機充填材(A)を48質量%~73質量%含むことが好ましく、前記ポリオレフィン系樹脂(z)を29質量%~50質量%、前記無機充填材(A)を50質量%~71質量%含むことがより好ましく、前記ポリオレフィン系樹脂(z)を31質量%~48質量%、前記無機充填材(A)を52質量%~69質量%含むことがさらに好ましい。
【0044】
前記樹脂組成物(Z)において、前記無機充填材(A)が46質量%未満である場合、延伸に伴う多孔の形成が不十分となり連通孔を形成しづらくなり、十分な透気特性や透湿特性を発現しにくくなる。また、前記無機充填材(A)が75質量%を超える場合、樹脂組成物の成形が困難となり、生産性に課題を有しやすくなる。
一方、前記樹脂組成物(Z)において、前記ポリオレフィン系樹脂(z)が25質量%未満である場合、延伸多孔積層フィルムの柔軟性や風合いが劣るとともに、延伸多孔積層フィルムが擦れる際に不快な音が発生するため好ましくない。また、前記ポリオレフィン系樹脂(z)が54質量%を超える場合、延伸に伴う多孔の形成が不十分となり連通孔を形成しづらくなり、十分な透気特性や透湿特性を発現しにくくなる。
【0045】
本発明において、前記樹脂組成物(Z)には、分岐状低密度ポリエチレンが含まれることが好ましい。前記樹脂組成物(Z)に分岐状低密度ポリエチレンが含まれる場合、前記樹脂組成物(Z)の溶融張力が上昇し、成形加工性が向上するため好ましい。
なお、前記樹脂組成物(Z)に好ましく含まれることができる分岐状低密度ポリエチレンは、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(z)に該当し、密度が0.910g/cm3以上、または、0.850g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(z)には該当しない。
前記分岐状低密度ポリエチレンが前記ポリオレフィン系樹脂(z)には該当しない場合、前記樹脂組成物(Z)における前記分岐状低密度ポリエチレンの含有量は1質量%~8質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0046】
また、本発明において、前記樹脂組成物(Z)には、ポリプロピレン系樹脂が含まれることが好ましい。前記樹脂組成物(Z)にポリプロピレン系樹脂が含まれる場合、前記樹脂組成物(Z)の耐熱性が向上し、ホットメルト耐性を付与できるため好ましい。また、前記ポリプロピレン系樹脂の融点は140℃~170℃であることが好ましい。また、前記ポリプロピレン系樹脂のメルトフローレート(MFR)は10~50g/10minであることが好ましい。ここで、ポリプロピレン系樹脂のMFRはJIS K7210条件Mに準拠して測定される値であり、その測定条件は230℃、2.16kg荷重である。
なお、前記樹脂組成物(Z)に好ましく含まれることができるポリプロピレン系樹脂は、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(z)に該当し、密度が0.910g/cm3以上、または、0.850g/cm3未満であれば、前記ポリオレフィン系樹脂(z)には該当しない。
前記ポリプロピレン系樹脂が前記ポリオレフィン系樹脂(z)には該当しない場合、前記樹脂組成物(Z)における前記ポリプロピレン系樹脂の含有量は1質量%~8質量%であることが好ましく、1質量%~5質量%であることがより好ましい。
【0047】
また、本発明において、前記樹脂組成物(Z)には、可塑剤を0.1質量%~8.0質量%含むことが好ましい。可塑剤が0.1質量%以上含まれていれば、延伸多孔積層フィルムの加工性や延伸性が向上しやすく好ましい。また、延伸多孔積層フィルムの耐水性や耐液漏れ性が向上するため好ましい。また、可塑剤が8.0質量%以下であれば、可塑剤のブリードアウトを抑制することができ、延伸多孔積層フィルムをロール状に巻き取った際のブロッキングや、印刷時の印刷不良を抑制できる。
【0048】
前記樹脂組成物(Z)に好ましく含まれることができる可塑剤としては、前述した樹脂組成物(Y)に好ましく含まれることができる可塑剤と同様である。ただし、前記樹脂組成物(Y)に含まれる可塑剤と、前記樹脂組成物(Z)に含まれる可塑剤は、種類、含有量等が同じでもよく、異なっていてもよい。
【0049】
また、前記樹脂組成物(Z)には、前記原料の他、使用目的に応じて、その他樹脂原料や、耳などのトリミングロス等から発生するリサイクル樹脂、相溶化剤、加工助剤、溶融粘度改良剤、酸化防止剤、老化防止剤、熱安定剤、光安定剤、耐候性安定剤、紫外線吸収剤、中和剤、核剤、架橋剤、滑材、アンチブロッキング剤、スリップ剤、防曇剤、抗菌剤、消臭剤、難燃剤、帯電防止剤、着色剤および顔料などを適宜添加してもよい。
【0050】
本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記(I)層と、前記(II)層の少なくとも2層を有し、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率(ただし、(II)層を2層以上有する場合はその合計厚さの厚さ比率とする。)が35%以上99%以下であることが、本発明において、最も重要である。
【0051】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおいて、前記(I)層は、延伸多孔積層フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度を付与するために重要な役割を果たす。
本発明の延伸多孔積層フィルムは、高い透気度・透湿度を有しながらも液体の透過を抑制した透湿防水フィルムとして利用することができる。該透湿防水フィルムは、紙おむつや女性用生理用品などの衛生材料、作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服などの衣服、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップなどの用途に用いる場合、透湿防水フィルムを巻物状にしたフィルムロールを、印刷機や、スリット機などに設置し、該フィルムロールよりフィルムを繰り出し、張力を掛けながら印刷や、スリットが行われる。また、上述の用途の製造においても、該フィルムロールは、フィルムを繰り出し、張力を掛けながら、不織布などの他部材との貼り合わせや、上記用途の使用形状への裁断が行われる。このような搬送工程において、フィルムの引張強度が低いと、搬送に伴う張力により、フィルムが過剰に伸びたり、裁断時にフィルムが過剰に収縮したりするなどのトラブルを生じる恐れがある。
本発明の延伸多孔積層フィルムは、密度が0.910g/cm3以上のポリオレフィン系樹脂(y)を25質量%~54質量%、無機充填材(A)を46質量%~75質量%含む樹脂組成物(Y)からなる(I)層を有することから、延伸多孔積層フィルムに張力が掛かる際の適度な引張強度を付与することが可能となる。
一方、上述の透湿防水フィルムが、仮に、前記(I)層のみからなる単層フィルムである場合、フィルムの搬送性は十分であるが、後述するように、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制することが困難となる。
【0052】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムにおいて、前記(II)層は、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制するために重要な役割を果たす。
音は物体が動いたり、擦れたりする際に生じる空気の振動波である。音の抑制には、音の振動源や媒体での減衰が効果的であると考えられる。樹脂のような粘弾性体においては、振動のエネルギーを、熱エネルギーに損失させることで吸音効果が得られる。この吸音効果を発現するために必要な要素が、貯蔵弾性率(E’)と損失弾性率(E’’)の比であるtanδ(=E’’/E’)と考えられる。そのため、本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する樹脂のtanδのピーク値の大きさは、音の吸音率(振動減衰率)の大きさに密接に関連しているため、ピーク値が大きい方が好ましい。また、本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する樹脂のtanδのピーク位置は音の発生雰囲気温度での減衰に関連すると共に、温度-時間換算側則の観点から、周波数に対する減衰にも関連する。そのため、様々な周波数を有する不快音を吸音、または発生させないためには、tanδのピーク幅は広い方が好ましい。
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける(II)層は、前述の樹脂組成物(Z)からなり、樹脂組成物(Z)には、密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満のポリオレフィン系樹脂(z)が25質量%~54質量%含まれる。密度が0.850g/cm3以上0.910g/cm3未満のポリオレフィン系樹脂(z)を用いることにより、上述した樹脂のtanδを大きくすることができる。そのため、本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記(II)層を有することにより、フィルムを擦りあわせた際の不快な音の発生を抑制することが可能となる。
【0053】
従って、フィルムの安定的な搬送性の付与と、擦れ時に生じる不快な音の抑制を両立するため、本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記(I)層と、前記(II)層の少なくとも2層を有することが重要であり、上述の相反する特性を両立させるために、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率が35%以上99%以下とすることが、本発明において最も重要となる。
すなわち、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率が35%未満となる場合、延伸多孔積層フィルムの不快な音の発生を抑制が困難となる。また、全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率が99%を超える場合、フィルムの安定的な搬送に必要な十分な引張強度が維持できない。
全厚さに対する前記(II)層の厚さ比率(ただし、(II)層を2層以上有する場合はその合計厚さの厚さ比率とする。)は、36%以上95%以下であることが好ましく、37%以上90%以下であることがより好ましく、38%以上85%以下であることがさらに好ましい。
【0054】
本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記(I)層と、前記(II)層の少なくとも2層を有するフィルムであれば、層構成は特に限定されるものではない。
【0055】
本発明において好適な積層構成は例示するならば、(I)層/(II)層からなる2層構成、他の(III)層をさらに積層させた、(I)層/(II)層/(III)層、(I)層/(III)層/(II)層、(III)層/(I)層/(II)層からなる3種3層構成や、(I)層/(II)層/(I)層、(II)層/(I)層/(II)層からなる2種3層構成などの構成を採用することができ、層数や(I)層、(II)層以外のその他の層((III)層、(IV)層、(V)層など)の種類に制限はない。
また、各層は、共押出によって積層としてもよいし、別工程で得たフィルムをプレスやラミネートなどにより積層してもよい。また、上述したその他の層としては、布、不織布、紙、金属などを積層してもよい。
【0056】
本発明において好適な積層構成は、(I)層/(II)層/(I)層からなる2種3層構成や、(II)層/(I)層/(II)層からなる2種3層構成である。このような層構成を採用することにより、フィルムのカールすることや、層間剥離の抑制することができるため、好ましい。
【0057】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムは、140℃以上200℃以下に結晶融解ピーク(Pm1)を有することが好ましい。また、前記結晶融解ピーク(Pm1)は150℃以上190℃以下に有することが好ましく、160℃以上180℃以下に有することがより好ましい。140℃以上に結晶融解ピーク(Pm1)を有することにより、延伸多孔積層フィルムを他部材と接着、ラミネートするに当たり、十分な耐熱性を付与することができるため好ましい。また、200℃以下に結晶融解ピーク(Pm1)を有することにより、延伸多孔積層フィルムの成形において、押出温度を極端に上げる必要がないため、樹脂の劣化物などが発生しにくく、生産性が向上するため好ましい。
前記結晶融解ピーク(Pm1)を有するには、前記樹脂組成物(Y)及び/又は前記樹脂組成物(Z)に、融点が140℃以上200℃以下の熱可塑性樹脂を含有することによって、上記範囲に結晶融解ピーク(Pm1)を有するように調整することができる。
【0058】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記結晶融解ピーク(Pm1)から算出される結晶融解エンタルピー(ΔHm1)が1J/g~10J/gであることが好ましい。前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)は、1J/g~8J/gであることがより好ましく、2J/g~6J/gであることがさらに好ましい。前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)が1J/g以上であることにより、延伸多孔積層フィルムに耐熱性を付与するための、十分な結晶成分を有するために好ましい。また、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)が10J/g以下であることにより、後述する理由により、不快音の発生を抑制できる。
前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)は、前記樹脂組成物(Y)及び/又は前記樹脂組成物(Z)に含まれる、融点が140℃以上200℃以下の熱可塑性樹脂の混合比率を調整することによって、結晶融解エンタルピー(ΔHm1)を上記範囲に調整することができる。
【0059】
本発明の延伸多孔積層フィルムは、30℃以上140℃未満に結晶融解ピーク(Pm2)をさらに有することが好ましい。また、前記結晶融解ピーク(Pm2)から算出される結晶融解エンタルピー(ΔHm2)が1J/g~43J/gであることが好ましい。前記結晶融解エンタルピー(ΔHm2)は1J/g~41J/gであることがより好ましく、1J/g~39J/gであることがさらに好ましい。前記結晶融解エンタルピー(ΔHm2)が1J/g以上となることにより、延伸多孔積層フィルムの耐熱性や寸法安定性が確保できる。また、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm2)が43J/g以下となることにより、後述する理由により、不快音の発生を抑制できる。
前記結晶融解ピーク(Pm2)を有するには、前記樹脂組成物(Y)及び/又は前記樹脂組成物(Z)に、融点が30℃以上140℃未満の熱可塑性樹脂を含有し、混合比率を調整することによって、結晶融解ピーク(Pm2)、及び、結晶融解エンタルピー(ΔHm2)を上記範囲に調整することができる。
【0060】
延伸多孔フィルムを擦りあわせる際に生じる不快音を抑制する手法としては、上述したフィルムを構成する樹脂での減衰効果と共に、音源からの音の発生抑制が効果的と考える。音の発生は弾性体の振動であり、振動を起こすもの(=音源)がなければ音は発生しない。
本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する前記(I)層、前記(II)層に含まれる熱可塑性樹脂に着目すると、熱可塑性樹脂は、弾性的性質と粘性的性質の両方を有する粘弾性体である。すなわち、熱可塑性樹脂の弾性的性質の割合を減少することで、フィルムを擦り合わせるという外力を与えた時に、その外力に反発して振動する弾性成分が少なくなり、音の発生が抑制される。弾性的性質と粘性的性質の割合を示す指標が上述のtanδであるが、この弾性的性質の割合をマクロ視点とミクロ視点から減少させることが、不快音の低減に効果的と考えている。マクロ視点の弾性的性質とは、上述した本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する樹脂組成物の動的粘弾性測定から算出される貯蔵弾性率(E’)であり、ミクロ視点の弾性的性質とは、後述する樹脂の結晶成分である。
【0061】
ミクロ視点の弾性的性質として、樹脂の結晶成分を考える。熱可塑性樹脂は結晶の観点で非晶性樹脂と結晶性樹脂に分類される。非晶性樹脂は分子鎖が比較的かさ高い構造を有するため、分子鎖が規則正しく折り畳むことができず結晶部分を有さない熱可塑性樹脂である。一方、結晶性樹脂は、分子鎖が規則正しく折り畳まれ、密度の高い結晶部分を内部に有する熱可塑性樹脂である。ただし、結晶性樹脂であっても分子鎖が100%結晶化した結晶性樹脂というものは存在せず、分子鎖がランダムに配列した非晶部と分子鎖が規則正しく折り畳まれた結晶部の両方を有する。
結晶性樹脂の非晶部は、ガラス転移温度以上の温度域ではミクロブラウン運動が可能であり、モビリティーの高い状態にある。一方、結晶性樹脂の結晶部は、ガラス転移温度以上、融点以下の温度域では分子鎖が結晶として拘束されており、非常に弾性率が高い部位となる。そのため、結晶性樹脂の結晶化度が低い場合、弾性率が高い結晶部が少なくなるため、外力を与えた時に反発して振動する成分が少なく発生する音も小さくなると考えられる。
従って、結晶融解エンタルピーは、本発明の延伸多孔積層フィルムにおける結晶成分割合の指標となり、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)は、1J/g~10J/gであることが好ましい。また、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm2)は1J/g~43J/gであることが好ましい。
【0062】
本発明の延伸多孔積層フィルムの結晶融解ピーク(Pm)、及び、そのピーク温度(Tm)は、示差走査型熱量計(DSC)で、本発明の延伸多孔積層フィルムを-40℃から高温保持温度まで加熱速度10℃/分で昇温後、1分間保持し、次に高温保持温度から-40℃まで冷却速度10℃/分で降温後、1分間保持し、更に-40℃から上記高温保持温度まで加熱速度10℃/分で再昇温させた際に出現する結晶融解ピーク(Pm)、及び、そのピークを示す温度(Tm)である。
また、結晶融解エンタルピー(ΔHm)は、再昇温させた際に出現する上記結晶融解ピーク(Pm)のピーク面積から結晶融解エンタルピー(ΔHm)を算出する。このとき、上記高温保持温度は、用いる熱可塑性樹脂の最も高い結晶融解ピーク温度(Tm)に対し、Tm+20℃以上、かつ、Tm+150℃以下の範囲において、任意に選択できる。
なお、本発明における結晶融解エンタルピー(ΔHm)は、上記再昇温過程において、半結晶性樹脂にみられるような冷結晶化が生じる場合においても、再昇温過程で生じる結晶融解ピークから算出されたΔHmを適用する。すなわち、再昇温過程において生じる冷結晶化における発熱ピーク面積から算出される結晶化エンタルピー(ΔHc)を、再昇温過程で得られるΔHmからの差し引くことは行わない。
【0063】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムにおける結晶融解ピーク(Pm1)は、140℃以上200℃以下に有することが好ましいが、140℃以上200℃以下に少なくとも1つの結晶融解ピークを有していればよく、2つ以上であってもよい。また、140℃以上200℃以下に結晶融解ピークが2つ以上ある場合、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm1)は2つ以上の結晶融解ピークから算出される結晶融解エンタルピーの合計値となる。
【0064】
また、前記結晶融解ピーク(Pm2)に関しても、30℃以上140℃未満に少なくとも1つの結晶融解ピークを有していることが好ましいが、2つ以上であってもよい。また、30℃以上140℃未満に結晶融解ピークが2つ以上ある場合、前記結晶融解エンタルピー(ΔHm2)は2つ以上の結晶融解ピークから算出される結晶融解エンタルピーの合計値となる。
【0065】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムは、結晶融解開始温度が結晶融解ピーク温度(Tm)より30℃以上低い温度から少しずつ融解し、ブロードなピークを示すことが多い。そのため、示差走査型熱量測定(DSC)を-40℃から昇温することにより、ベースラインを明確にし、より正確な結晶融解エンタルピー(ΔHm)を算出することができる。
【0066】
さらに、本発明の延伸多孔積層フィルムの空孔率は15%~80%であることが好ましい。空孔率は20%~80%であることがより好ましく、25%~80%であることがさらに好ましい。
空孔率が15%以上の場合、後述するように、延伸多孔積層フィルムの空隙中を伝播する音のエネルギー損失機会が多くなり、不快音を十分に抑制することができる。また、空孔率が80%以下の場合、実用的に使用できる程度のフィルム強度を確保することができ、さらに、防水性が十分となり接する液状物の漏れを引き起こしにくいものとなる。
【0067】
音が物体に入射音として衝突する場合、前記入射音は、エネルギー保存則の関係から、物体を透過する透過音、物体を反射する反射音、並びに物体に吸収される吸収音の3つの音として分解される。すなわち、入射音が物体に衝突した際、物体に吸収される吸収音の割合が大きければ、その物体は吸音率の高い物体と考えられる。
本発明の延伸多孔積層フィルムは、樹脂組成物の内部に連通した空隙を有するフィルムである。すなわち、本発明の延伸多孔積層フィルムにおいて音が伝播する場合、フィルムとして固体部を形成している樹脂組成物を振動して伝播する音と、フィルム内部に形成された連通した空隙を伝播する音との2つの伝わり方を示す。そのため、音の抑制には、樹脂組成物を振動して伝播する音の抑制、及び、連通した空隙を伝播する音の抑制を考慮しなければならない。樹脂組成物を振動して伝播する音を抑制する因子は、上述した本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する樹脂のtanδであり、連通した空隙を伝播する音を抑制する因子は、本発明の延伸多孔積層フィルムの空孔率である。
【0068】
すなわち、空孔率が増加することで、空気中を伝播する音と物体との衝突回数が増加するために、フィルム内部に形成された連通した空隙を伝播する音抑制の効果が得られるものと考えられる。従って、フィルムの空隙中を伝播する音のエネルギー損失機会が多くするために延伸多孔積層フィルムの空孔率が15%以上であることが好ましい。
【0069】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける空孔率は、延伸多孔積層フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、延伸多孔積層フィルムの比重(W1)の測定を行う。次に、本発明の延伸多孔積層フィルムの未延伸フィルムの比重(W0)の測定を行う。未延伸フィルムの比重(W0)の測定においては、本発明の延伸多孔積層フィルムの未延伸フィルムを、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、比重測定を行うことができる。また、未延伸シートの採取が困難な場合は、本発明の延伸多孔積層フィルムを融点以上に加熱することにより延伸多孔積層フィルムを融解し空孔を消失した後、プレスサンプルを作製し、該プレスサンプルより、縦方向(MD):50mm、横方向(TD):50mmの大きさに切り出し、比重測定を行うことができる。
前記延伸多孔積層フィルムの比重(W1)、及び、未延伸フィルムの比重(W0)の測定は、無作為に3点測定し、その算術平均値を用いた。得られた前記延伸多孔積層フィルムの比重(W1)、及び、未延伸フィルムの比重(W0)から、以下の式より空孔率を算出した。
空孔率(%)=[1-(W1/W0)]×100
【0070】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける坪量は10g/m2~50g/m2が好ましく、より好ましくは12g/m2~40g/m2である。坪量が10g/m2以上であることにより、引張強度、引き裂き強度などの機械強度を十分確保しやすい。また、坪量が50g/m2以下であることにより、十分な軽量感を得られやすい。
ここで、坪量は、サンプル(縦方向(MD):250mm、横方向(TD):200mm)の質量(g)を電子天秤で測定し、その数値を20倍した値を坪量とする。
【0071】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける透気度は1秒/100mL~5000秒/100mLであることが好ましく、10秒/100mL~4000秒/100mLであることがより好ましく、100秒/100mL~3000秒/100mLであることがさらに好ましい。透気度が1秒/100mL以上であることによって、耐水性及び耐透液性を十分確保しやすい。また透気度が5000秒/100mL以下であることによって、十分な連通孔を有することを示唆している。
ここで、透気度はJIS P8117:2009(ガーレー試験機法)に規定される方法に準じて測定される100mLの空気が紙片を通過する秒数であり、例えば透気度測定装置(旭精工製王研式透気度測定機EGO1-55型)を用いて測定することができる。本発明においては、サンプルを無作為に10点測定し、その算術平均値を透気度とする。
【0072】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける透湿度は1000g/(m2・24h)~15000g/(m2・24h)が好ましく、より好ましくは、1500g/(m2・24h)~12000g/(m2・24h)である。透湿度が15000g/(m2・24h)以下であることによって、耐水性を有することを示唆している。また、透湿度が1000g/(m2・24h)以上であることによって、空孔が十分な連通性を有することが示唆される。
ここで、透湿度はJIS Z0208(防湿包装材料の透湿度試験方法(カップ法))の諸条件に準拠する。吸湿剤として塩化カルシウムを15g用い、温度40℃、相対湿度90%の恒温恒湿環境下で測定した。サンプルは無作為に2点測定し、その算術平均値を求めた。
【0073】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける延伸方向の引張破断強度は7N/25mm以上が好ましく、10N/25mm以上がより好ましい。前記引張破断強度が7N/25mm以上であることによって、実用上十分な機械強度を確保することができる。また、上限については特に限定しないが、延伸性を鑑みると35N/25mm以下であることが好ましい。
ここで、延伸方向の引張破断強度はJIS K7127に準拠して、延伸方向100mm×延伸方向と垂直方向25mmに切り出したサンプルを作製し、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離50mmの条件で3連式引張試験機を用いて破断した際の引張破断強度である。本発明においては、3回測定を行い算出した引張破断強度の算術平均値とした。
【0074】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける延伸方向の5%伸度時の引張強度は2.0N/25mm以上が好ましく、2.2N/25mm以上がより好ましい。前記5%伸度時の引張強度が2.0N/25mm以上であることによって、実用上十分な機械強度を確保することができる。また、上限については特に限定しないが、延伸性を鑑みると10N/25mm以下であることが好ましい。
延伸方向の5%伸度時の引張強度は2.0N/25mm以上である場合、本発明の延伸多孔積層フィルムを、印刷、スリット、他部材との貼り合わせなどの、張力を掛けながら搬送されて加工する工程において、フィルムが過剰に伸びたり、裁断時にフィルムが過剰に収縮したりするなどのトラブルを抑制できるため好ましい。
ここで、延伸方向の5%伸度時の引張強度はJIS K7127に準拠して、延伸方向100mm×延伸方向と垂直方向25mmに切り出したサンプルを作製し、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離50mmの条件で3連式引張試験機を用いて引張試験を行った際の5%伸度時の引張強度である。本発明においては、3回測定を行い算出した5%伸度時の引張強度の算術平均値とした。
【0075】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける延伸方向の引張破断伸びは、40%~400%であることが好ましく、80%~300%であることがより好ましい。引張破断伸びが40%以上であると、本発明の延伸多孔積層フィルムを紙おむつ、及び、生理処理用品などの透湿防水用バックシートなどの衛生用品に用いる場合、肌触りが良く、優れたはき心地が得られる。また、引張破断伸びが400%以下であると、適度な剛性と抗張力を有し機械特性に優れ、印刷、スリット、並びに巻取加工時にフィルムの伸び及びひずみが小さく、生産ラインにおける優れた機械適性が得られる。
ここで、延伸方向の引張破断伸びは、JIS K7127に準拠して、延伸方向100mm×延伸方向と垂直方向25mmに切り出したサンプルを作製し、23℃、相対湿度50%の環境下で、引張速度200m/min、チャック間距離50mmの条件で3連式引張試験機を用いて破断した際の引張破断伸びである。本発明においては、3回測定を行い算出した引張破断伸びの算術平均値とする。
【0076】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける全光線透過率は18%~60%であることが好ましい。全光線透過率が18%以上であることにより、本発明の延伸多孔積層フィルムを紙おむつなどの透湿防水用バックシートなどの衛生用品に用いる場合、排尿したことを知らせるインジケータ薬剤を塗布しても認識できる。また、全光線透過率が60%以下であることにより、フィルムが白く、隠ぺい性に富んでいる。
ここで、全光線透過率は、JIS K7361に準拠したヘイズメータを用い、無作為に5点測定し、その算術平均値を求めたものである。
【0077】
本発明の延伸多孔積層フィルムにおける破膜耐熱温度は、120℃以上が好ましく、140℃以上がより好ましく、160℃以上がさらに好ましい。破膜耐熱温度が120℃以上であると、本発明の延伸多孔積層フィルムを他部材と接着、ラミネートするに当たり、ホットメルト接着剤等の熱によりフィルムが破膜することなく、延伸多孔積層フィルムに必要な耐熱性が付与されていると判断できる。
ここで破膜耐熱温度は、サンプル(100mm×100mm)を、その中心をΦ50mmの円状に打ち抜いたステンレス鋼板(100mm×100mm×2mm(厚さ))2枚で挟み、クリップで四辺を固定し、槽内温度120℃の対流オーブンに2分間静置して加熱した後、ステンレス鋼板の円状打ち抜き箇所のサンプルが溶融し、穴が開いていないか、その様子を目視判断し、破れや穴開きがないものを破膜耐熱温度120℃以上とする。また、槽内温度を140℃、160℃と変更し、同様の評価を行った際に、破れや穴開きがないものを、それぞれ、破膜耐熱温度を140℃以上、160℃以上とする。
【0078】
(延伸多孔積層フィルムの製造方法)
本発明の延伸多孔積層フィルムの製造方法は、特に制限されるものではなく、従来公知の方法によって製造することができるが、少なくとも一軸方向に延伸されることが重要である。ここで、「フィルム」とは、厚いシートから薄いフィルムまでを包括した意を有する。フィルムとしては、平面状、チューブ状のいずれであってもよいが、生産性(原反シートの幅方向に製品として数丁取りが可能)や内面に印刷が可能という観点から、平面状が好ましい。平面状のフィルムの製造方法としては、例えば、押出機を用いて前記樹脂組成物を溶融し、ダイからフィルム状に押出し、冷却ロールや空冷、水冷にて冷却固化して得られるフィルム(未延伸フィルム)を、少なくとも一軸方向に延伸した後、巻取機にて巻き取ることによりフィルムを得る方法が例示できる。
【0079】
また、前記未延伸フィルムを得る方法としては、本発明の延伸多孔積層フィルムを構成する樹脂組成物(Y)、及び樹脂組成物(Z)をそれぞれ混合した後、それぞれ溶融混練させることが好ましい。具体的には、タンブラーミキサー、ミキシングロール、バンバリーミキサー、リボンブレンダ―、スーパーミキサーなどの混合機で適当な時間混合した後、異方向二軸押出機、同方向二軸押出機などの押出機を使用し、組成物の均一な分散分配を促す。得られた樹脂組成物は、2台以上の押出機の先端に積層Tダイや積層丸ダイなどの口金を接続し、積層フィルム状に成型することができる。
また、混練機の先端にストランドダイを接続し、ストランドカット、ダイカットなどの方法により一旦ペレット化した後、(場合によっては追加する組成物とともに)得られたペレットを、それぞれの単軸押出機などに導入し、押出機の先端に積層Tダイや積層丸ダイなどの口金を接続し、積層フィルム状に成形することもできる。積層フィルム状に成形するにあたり、インフレーション成形、チューブラー成形、Tダイ成形などのフィルム成形方法が好ましい。押出温度は、180~260℃程度が好ましく、より好ましくは190~250℃である。押出温度やせん断の状態を最適化することにより、材料の分散状態を制御することも、上述したフィルムの種々の物理的特性、機械的特性を所望の値にするのに有効である。
【0080】
本発明の延伸多孔積層フィルムは、前記未延伸フィルムを延伸することによって製造することができる。例えば、押出機を用いて樹脂を溶融し、Tダイや丸ダイから押出し、冷却ロールで冷却固化し、縦方向(フィルムの流れ方向、MD)へのロール延伸や、横方向(フィルムの流れ方向に対して垂直方向、TD)へのテンター延伸等により、少なくとも一軸方向に延伸される。また、縦方向に延伸した後、横方向に延伸してもよく、横方向に延伸した後、縦方向に延伸してもよい。また、同じ方向に2回以上延伸してもよい。さらには、縦方向に延伸した後、横方向に延伸し、さらに縦方向に延伸してもよい。また、同時二軸延伸機により縦方向、横方向に同時に延伸されてもよい。また、チューブラー成形により内圧によってチューブ状の未延伸フィルムを放射状に延伸されてもよい。さらには、インフレーション成形により得られたチューブ状の未延伸フィルムを折り畳んだ状態で延伸した後、折り畳まれたチューブ状の延伸多孔フィルムの耳を裁断し、2枚に分けてそれぞれ巻取を行ってもよく、折り畳んだ未延伸フィルムの耳を切断し、2枚の未延伸フィルムに分けた後、それぞれ延伸し、それぞれ巻取を行ってもよい。
【0081】
本発明においては、少なくとも縦方向に1回延伸を行うことが好ましく、また、延伸ムラや通気性との兼ね合いにより、縦方向に2回以上延伸を行ってもよい。延伸温度は0℃~90℃が好ましく、20℃~70℃がより好ましい。また延伸倍率は、合計1.5倍~6.0倍が好ましく、2.0倍~5.0倍がより好ましい。延伸倍率が合計1.5倍以上とすることで、均一に延伸されて優れた外観を有する延伸多孔積層フィルムが得られる。一方、延伸倍率が合計6.0倍以下とすることで、フィルムの破断を抑制できる。
【0082】
必要に応じて、諸物性の改良等を目的として、延伸後に50℃以上120℃以下の温度で熱処理や弛緩処理を行うことができる。ロール延伸により延伸を行う場合、延伸工程と巻取工程の間で、延伸後のフィルムを加熱したロール(アニールロール)に接触させることで熱処理を行うことができる。また、アニールロールにより加熱しながら、次に接触するロールの速度をアニールロール速度よりも遅くすることで、弛緩処理を行うことができる。また、これらの熱処理や弛緩処理は、未延伸フィルムの延伸を延伸し、延伸多孔積層フィルムを巻き取った後、別工程にて行うこともできる。熱処理や弛緩処理の温度が低すぎるとフィルムの収縮率が低減されにくく、また温度が高すぎるとロールに巻き付いたり、形成された微多孔が閉塞したりするおそれがある。そのため、50℃以上120℃以下の温度で熱処理や弛緩処理を行うことが好ましい。これらの熱処理、弛緩処理は複数回分割して実施されてもよい。
【0083】
また、本発明の延伸多孔積層フィルムは、必要に応じて、スリット、コロナ処理、印刷、粘着剤の塗布、コーティング、蒸着等の表面処理や表面加工などを施すことができる。
【0084】
4.用途
本発明の延伸多孔積層フィルムは、表裏を貫通する微細な多数形成され、優れた通気性を有している。従って、紙おむつ、女性用生理用品などの衛生用品;作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服などの衣服;さらには、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップなどの通気性や透湿性を求められる用途に好適に利用することができる。
【実施例】
【0085】
以下、実施例により本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。なお、実施例に示す測定値及び評価は次のように行った。実施例では、フィルムの流れ方向を縦方向(又は、MD)、その垂直方向を横方向(又は、TD)と記載する。
【0086】
(1)坪量
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの坪量を算出した。
【0087】
(2)空孔率
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの空孔率を算出した。
【0088】
(3)透気度
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの透気度を算出した。透気度測定装置として、旭精工(株)社製 王研式透気度測定機EGO1-55型を用いた。
【0089】
(4)透湿度
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの透湿度を算出した。
【0090】
(5)延伸方向の引張破断強度
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの延伸方向(本実施例、比較例ではMD)の引張破断強度を算出した。
(6)延伸方向の5%伸度時の引張強度
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの延伸方向(本実施例、比較例ではMD)の5%伸度時の引張強度を算出した。なお、延伸方向の5%伸度時の引張強度は、フィルムの搬送性を示す重要な指標となるため、下記判断基準に従い、評価した。
○:延伸方向の5%伸度時の引張強度が、2.0N/25mm以上である。
×:延伸方向の5%伸度時の引張強度が、2.0N/25mm未満である。
【0091】
(7)延伸方向の引張破断伸び
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム、及び延伸多孔フィルムの延伸方向(本実施例、比較例ではMD)の引張破断伸びを算出した。
【0092】
(8)全光線透過率
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム、及び延伸多孔フィルムの全光線透過率を算出した。
【0093】
(9)結晶融解ピーク(Pm)、結晶融解エンタルピー(ΔHm)
下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムを、示差走査型熱量計(DSC)を用いて、-40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で昇温後、1分間保持し、次に200℃から-40℃まで冷却速度10℃/分で降温後、1分間保持し、更に-40℃から200℃まで加熱速度10℃/分で再昇温させたことで、再昇温過程における結晶融解ピーク(Pm)、及び再昇温過程における前記結晶融解ピーク(Pm)のピーク面積から、延伸多孔積層フィルム及び延伸多孔フィルムの結晶融解エンタルピー(ΔHm)を算出した。
このとき、140℃以上200℃以下に結晶融解ピーク(Pm1)の有無を確認した。また、前記Pm1より、ピーク温度(Tm1)、結晶融解エンタルピー(ΔHm1)を算出した。
同様に、30℃以上140℃未満に結晶融解ピーク(Pm2)の有無を確認した。また、前記Pm2より、ピーク温度(Tm2)、結晶融解エンタルピー(ΔHm2)を算出した。
【0094】
(10)破膜耐熱温度
上述の方法に従い、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム、及び延伸多孔フィルムの破膜耐熱温度を評価した。評価は、対流オーブンの槽内温度を120℃、140℃、160℃とし、槽内に2分間静置して加熱した後の状態を目視評価にて、下記判断基準に従い、評価した。
○:ステンレス鋼板の円状打ち抜き箇所のサンプルに破れや穴開きがない。
×:ステンレス鋼板の円状打ち抜き箇所のサンプルが溶融し、穴が開いている。
【0095】
(11)不快音測定(時間平均サウンドレベル)
不快音測定は、測定場所を幅3m程度、長さ4m程度、高さ3m程度の個室内(外部の騒音の影響が少ない環境下)にて、リオン株式会社製、精密騒音計NL-52を用いて、周波数重み付け特性はA特性とし、時間重み付け特性はF特性として行った。
まず、下記に示す実施例、比較例において得られた延伸多孔積層フィルム、及び延伸多孔フィルムを、縦方向(MD)400mm、横方向(TD)200mmに切り出し、縦方向中央で1度折り畳み、2つ折りに重ねあわせた。その後、重ねあわせたフィルムのTD両端部を挟持し、挟持したTD両端部間距離が100mmとなるように調整した。
さらに、挟持されたフィルムと精密騒音計のマイク(集音部)との距離を100mmとなるように調整した後、挟持されたフィルムのMD、及び、TDと垂直方向(厚み方向)に、挟持した端部を1秒間に3往復振動させることでフィルムを擦りあわせ、測定時間10秒間における時間平均サウンドレベル(LAeq)を測定し、下記判断基準に従い評価した。
尚、フィルムを振動させない状態(無動作状態)での測定時間10秒間における時間平均サウンドレベル(LAeq)は24dBであった。
○:時間平均サウンドレベル(LAeq)が24dB以上45dB未満
×:時間平均サウンドレベル(LAeq)が45dB以上
【0096】
(12)総合評価
上記(1)~(11)に示す評価を鑑み、下記基準にて総合評価を行った。
A:柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制した、通気性や透湿性を求められる用途に適したフィルムであり、かつ、十分な引張強度を兼ね備えたフィルムである。
B:柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制した、通気性や透湿性を求められる用途に適したフィルムであるが、引張強度が不十分である。
C:通気性と透湿性に優れたフィルムであるが、柔軟性や風合いといった触感を感じられず、かつ、不快な音の発生を感じるフィルムである。
【0097】
各実施例、比較例で使用した原材料は下記の通りである。
<無機充填材(A)>
・A-1:重質炭酸カルシウム「ライトンBS-0」(備北粉化工業(株)社製、平均粒子径1.1μm、ステアリン酸表面処理品)。
<ポリオレフィン系樹脂(y)>
・B-1:直鎖状低密度ポリエチレン「ノバテックLL UF230」(日本ポリエチレン(株)社製、密度0.921g/cm3、MFR1.0g/10分、融点121℃)。
・B-2:直鎖状低密度ポリエチレン「ノバテックLL UF961」(日本ポリエチレン(株)社製、密度0.935g/cm3、MFR5.0g/10分、融点126℃)。
・B-3:分岐状低密度ポリエチレン「ノバテックLD LF441」(日本ポリエチレン(株)社製、密度0.918g/cm3、MFR2.3g/10分、融点113℃)。
<ポリオレフィン系樹脂(z)>
・C-1:メタロセン系エチレン・(α-オレフィン)共重合体「カーネル KF360T」(日本ポリエチレン(株)社製、密度0.898g/cm3、MFR3.5g/10分、融点90℃)。
・C-2:エチレン・(1-ブテン)共重合体「タフマー A1050S」(三井化学(株)社製、密度0.862g/cm3、MFR1.2g/10分、融点45℃)。
・C-3:ポリプロピレン「ノバテックPP SA03」(日本ポリプロ(株)社製、密度0.900g/cm3、MFR30g/10分、融点165℃)。
<可塑剤>
・D-1:硬化ひまし油「HCO-P3」(ケイエフ・トレーディング(株)社製)。
<酸化防止剤>
・E-1:酸化防止剤「Irganox B225」(BASFジャパン(株)社製)。
【0098】
<実施例1>
(I)層を構成する樹脂組成物(Y)として、「A-1」、「B-1」、「B-2」、「B-3」、「C-3」、「D-1」、「E-1」を表1に示す組成比率にて計量した後、ヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合、分散させて、同方向二軸押出機を用いて、設定温度190℃にて溶融混練した後、同方向二軸押出機の先端に接続したストランドダイにてストランドを押出し、水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにて、樹脂組成物(Y-1)のペレットを採取した。この時、樹脂組成物(Y-1)に含まれる無機充填材(A)は57質量%、ポリオレフィン樹脂(y)は36質量%であった。
次に、(II)層を構成する樹脂組成物(Z)として、「A-1」、「C-1」、「C-2」、「C-3」、「B-3」、「D-1」、「E-1」を表1に示す組成比率にて計量した後、ヘンシェルミキサーに投入し、5分間混合、分散させて、同方向二軸押出機を用いて、設定温度180℃にて溶融混練した後、同方向二軸押出機の先端に接続したストランドダイにてストランドを押出し、水槽にて冷却固化した後、ペレタイザーにて、樹脂組成物(Z-1)のペレットを採取した。この時、樹脂組成物(Z-1)に含まれる無機充填材(A)は60質量%、ポリオレフィン樹脂(z)は33質量%であった。
2台の単軸押出機、および2種3層マルチマニホールド口金を用いた積層共押出が可能な設備において、(II)層/(I)層/(II)層の構成となるように、(I)層を形成する単軸押出機に、前記樹脂組成物(Y-1)を導入し、(II)層を形成する単軸押出機に、前記樹脂組成物(Z-1)を導入し、各押出機設定温度180℃で溶融混合後、全厚さに対する(II)層/(I)層/(II)層の積層比が、33%/34%/33%として共押出し、50℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて厚さ32μmの未延伸積層フィルムを得た。
その後、得られた未延伸積層フィルムを、60℃に設定したロール(S)と60℃に設定したロール(T)、及び、60℃に設定したロール(U)間において、(S)-(T)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)、(T)-(U)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)を掛けてMDに合計3.24倍の延伸を行った。次いで、90℃に設定したロール(V)にて熱処理・弛緩処理を行うことで、延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0099】
<実施例2>
延伸多孔積層フィルムの共押出において、全厚さに対する(II)層/(I)層/(II)層の積層比を、20%/60%/20%に変更した以外は、実施例1と同様の手法により延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0100】
<比較例1>
延伸多孔積層フィルムの共押出において、全厚さに対する(II)層/(I)層/(II)層の積層比を、10%/80%/10%に変更した以外は、実施例1と同様の手法により延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0101】
<実施例3>
2台の単軸押出機、および2種3層マルチマニホールド口金を用いた積層共押出が可能な設備において、(I)層/(II)層/(I)層の構成となるように、(I)層を形成する単軸押出機に、実施例1で用いた樹脂組成物(Y-1)を導入し、(II)層を形成する単軸押出機に、実施例1で用いた樹脂組成物(Z-1)を導入し、各押出機設定温度180℃で溶融混合後、全厚さに対する(I)層/(II)層/(I)層の積層比が、20%/60%/20%として共押出し、50℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて厚さ32μmの未延伸積層フィルムを得た。
その後、得られた未延伸積層フィルムを、60℃に設定したロール(S)と60℃に設定したロール(T)、及び、60℃に設定したロール(U)間において、(S)-(T)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)、(T)-(U)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)を掛けてMDに合計3.24倍延伸を行った。次いで、90℃に設定したロール(V)にて熱処理・弛緩処理を行うことで、延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0102】
<実施例4>
延伸多孔積層フィルムの共押出において、全厚さに対する(I)層/(II)層/(I)層の積層比を、10%/80%/10%に変更した以外は、実施例3と同様の手法により延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0103】
<比較例2>
延伸多孔積層フィルムの共押出において、全厚さに対する(I)層/(II)層/(I)層の積層比を、33%/34%/33%に変更した以外は、実施例3と同様の手法により延伸多孔積層フィルムを得た。得られた延伸多孔積層フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0104】
<比較例3>
2台の単軸押出機、および2種3層マルチマニホールド口金を用いた積層共押出が可能な設備において、2台の単軸押出機の両方に、実施例1で用いた樹脂組成物(Y-1)を導入し、各押出機設定温度180℃で溶融混合後、50℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて(I)層単層からなる厚さ32μmの未延伸フィルムを得た。
その後、得られた未延伸フィルムを、60℃に設定したロール(S)と60℃に設定したロール(T)、及び、60℃に設定したロール(U)間において、(S)-(T)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)、(T)-(U)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)を掛けてMDに合計3.24倍延伸を行った。次いで、90℃に設定したロール(V)にて熱処理・弛緩処理を行うことで、延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0105】
<参考例1>
2台の単軸押出機、および2種3層マルチマニホールド口金を用いた積層共押出が可能な設備において、2台の単軸押出機の両方に、実施例1で用いた樹脂組成物(Z-1)を導入し、各押出機設定温度180℃で溶融混合後、50℃に設定したキャスティングロールにて引き取り、冷却固化させて(II)層単層からなる厚さ32μmの未延伸フィルムを得た。
その後、得られた未延伸フィルムを、60℃に設定したロール(S)と60℃に設定したロール(T)、及び、60℃に設定したロール(U)間において、(S)-(T)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)、(T)-(U)ドロー比80%(延伸倍率1.8倍)を掛けてMDに合計3.24倍延伸を行った。次いで、90℃に設定したロール(V)にて熱処理・弛緩処理を行うことで、延伸多孔フィルムを得た。得られた延伸多孔フィルムは各種評価を行い、結果を表2に纏めた。
【0106】
【0107】
【0108】
実施例1~4で得られた延伸多孔積層フィルムは、透気特性や透湿特性に優れると共に、好適な引張破断強度、引張破断伸度、全光線透過率を有するフィルムであった。特に、5%伸長時の引張強度において、フィルムを安定的に搬送するための十分な引張強度を有することが確認された。また、実施例1~4で得られる延伸多孔積層フィルムをこすり合わせた際の時間平均サウンドレベル(LAeq)は低い値を示し、不快な音を感じることはなかった。さらに、破膜耐熱試験において、120℃、140℃、さらには、160℃においても破膜することがなかった。
一方、比較例1、2で得られた延伸多孔積層フィルムは、本発明の規定する全厚さに対する(II)層の厚さ比率を満たしていないため、不快音の抑制には不十分であり、時間平均サウンドレベル(LAeq)が高い値を示した。また、比較例3で得られた延伸多孔フィルムは、本発明の規定する樹脂組成物(Z)からなる(II)層を有しないため、不快音の抑制には不十分であり、時間平均サウンドレベル(LAeq)が高い値を示した。
また、参考例1で得られた延伸多孔フィルムは、フィルムをこすり合わせた際の時間平均サウンドレベル(LAeq)は低い値を示し、不快な音を感じることはなかったが、引張強度が不十分であった。本発明では、新たな課題であるフィルムの搬送性を解決したものであり、すなわち、延伸多孔積層フィルムが擦れ時に生じる不快音の抑制と、フィルムの安定的な搬送を両立するためには、本発明が規定する範囲を満たすことが重要であることが分かる。
【0109】
以上、現時点において、最も実践的であり、かつ、好ましいと思われる実施形態に関連して本発明を説明したが、本発明は、本願明細書中に開示された実施形態に限定されるものではなく、請求の範囲および明細書全体から読み取れる発明の要旨、或いは思想に反しない範囲で適宜変更可能であり、そのような変更を伴う延伸多孔積層フィルムもまた本発明の技術的範囲に包含されるものとして理解されなければならない。
【産業上の利用可能性】
【0110】
本発明の延伸多孔積層フィルムは、柔軟性と風合いといった優れた触感を有するとともに、フィルムの擦れ時に生じる不快な音の発生を抑制し、かつ、フィルムの安定的な搬送を可能にするための引張強度を有し、かつ、ホットメルト接着剤塗布時に求められる耐熱性を兼ね備えている。前記延伸多孔積層フィルムを備えた、紙おむつ、女性用生理用品などの衛生用品;作業服、ジャンパー、ジャケット、医療用衣服、化学防護服などの衣服;さらには、マスク、カバー、ドレープ、シーツ、ラップなどの通気性や透湿性を求められる用途に好適に利用することができる。