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特許7314802電気化学素子用添加剤、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、電気化学素子用電極、および電気化学素子
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】電気化学素子用添加剤、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、電気化学素子用電極、および電気化学素子
(51)【国際特許分類】
   H01M 4/62 20060101AFI20230719BHJP
   H01M 4/13 20100101ALI20230719BHJP
   H01G 11/06 20130101ALI20230719BHJP
   H01G 11/18 20130101ALI20230719BHJP
   H01G 11/14 20130101ALI20230719BHJP
   H01G 11/38 20130101ALI20230719BHJP
   H01G 11/16 20130101ALI20230719BHJP
【FI】
H01M4/62 Z
H01M4/13
H01G11/06
H01G11/18
H01G11/14
H01G11/38
H01G11/16
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2019568961
(86)(22)【出願日】2019-01-10
(86)【国際出願番号】 JP2019000570
(87)【国際公開番号】W WO2019150909
(87)【国際公開日】2019-08-08
【審査請求日】2021-12-06
(31)【優先権主張番号】P 2018013968
(32)【優先日】2018-01-30
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000229117
【氏名又は名称】日本ゼオン株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100147485
【弁理士】
【氏名又は名称】杉村 憲司
(74)【代理人】
【識別番号】230118913
【弁護士】
【氏名又は名称】杉村 光嗣
(74)【代理人】
【識別番号】100150360
【弁理士】
【氏名又は名称】寺嶋 勇太
(74)【代理人】
【識別番号】100175477
【弁理士】
【氏名又は名称】高橋 林太郎
(72)【発明者】
【氏名】園部 健矢
(72)【発明者】
【氏名】一色 康博
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-146590(JP,A)
【文献】特開2001-319658(JP,A)
【文献】特開2017-130274(JP,A)
【文献】特開2016-100161(JP,A)
【文献】特開2015-088431(JP,A)
【文献】特開2015-069898(JP,A)
【文献】国際公開第2015/133423(WO,A1)
【文献】国際公開第2015/133424(WO,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 4/62
H01M 4/13
H01G 11/06
H01G 11/18
H01G 11/14
H01G 11/38
H01G 11/16
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気化学素子に用いられる電気化学素子用添加剤であって、
体積膨張倍率が2倍以上となる温度が150℃超400℃未満であり、
(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量が、100質量ppm未満であり、
(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量が、100質量ppm未満であり、
(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、5質量ppm未満であり、
アゾ化合物およびメラミン化合物の少なくともいずれかを含む、電気化学素子用添加剤。
【請求項2】
平均粒径D50が、50nm超2μm未満である、請求項1に記載の電気化学素子用添加剤。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気化学素子用添加剤および結着材を含む、電気化学素子用バインダー組成物。
【請求項4】
前記結着材が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、およびスルホン酸基から選択される少なくとも1種の官能基を有する、請求項に記載の電気化学素子用バインダー組成物。
【請求項5】
請求項またはに記載の電気化学素子用バインダー組成物と、電極活物質とを含む、電気化学素子用スラリー組成物。
【請求項6】
請求項に記載の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される電気化学素子用電極合材層を備える、電気化学素子用電極。
【請求項7】
請求項に記載の電気化学素子用電極を備える、電気化学素子。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、電気化学素子用添加剤、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、電気化学素子用電極、および電気化学素子に関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子は、小型で軽量、且つ、エネルギー密度が高く、更に繰り返し充放電が可能という特性があり、幅広い用途に使用されている。そして電気化学素子は、一般に、複数の電極と、これら電極を隔離して内部短絡を防止するセパレータとを備えている。
【0003】
そして、電気化学素子の内部短絡を防止して安全性を確保すべく、セパレータを改良する試みが従来からなされている。例えば、特許文献1では、所定の複数のセパレータ層を有する電気化学素子用セパレータを用いることで、電気化学素子の安全性を高めることができるとの報告がされている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2016-181324号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで近年、電気化学素子には、その用途の多様化等により、電極間の短絡に起因する異常発熱や発火などの熱暴走を抑制して、より高度な安全性を確保する新たな技術が求められている。
【0006】
そこで、本発明は、上述した課題を有利に解決する手段を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決することを目的として鋭意検討を行った。そして、本発明者は、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤を用いれば、当該電気化学素子用添加剤を用いて作製した電気化学素子の安全性を高度に確保することができることを見出し、本発明を完成させた。
【0008】
即ち、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用添加剤は、電気化学素子に用いられる電気化学素子用添加剤であって、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が150℃超400℃未満であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量が100質量ppm未満であり、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量が100質量ppm未満であり、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が5質量ppm未満である、特徴とする。このように、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤を用いれば、当該電気化学素子用添加剤を用いて作製した電気化学素子の安全性を高度に確保することができる。
なお、本発明において、「体積膨張倍率が2倍以上となる温度」、「周期表の第2族に属する各元素の含有量」、「周期表の第17族に属する各元素の含有量」および「Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量」は、本明細書の実施例に記載の測定方法を用いて測定することができる。
【0009】
ここで、本発明の電気化学素子用添加剤は、平均粒径D50が、50nm超2μm未満であることが好ましい。電気化学素子用添加剤の平均粒径D50が、50nm超2μm未満であれば、電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
【0010】
ここで、本発明の電気化学素子用添加剤は、アゾ化合物およびメラミン化合物の少なくともいずれかを含むことが好ましい。アゾ化合物およびメラミン化合物の少なくともいずれかを含めば、電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
【0011】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、上述した何れかの電気化学素子用添加剤および結着材を含む、ことを特徴とする。このように、上述した何れかの電気化学素子用添加剤および結着材を含めば、当該電気化学素子用バインダー組成物を用いて作製した電気化学素子の安全性を高度に確保することができる。
【0012】
ここで、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、前記結着材が、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、およびスルホン酸基から選択される少なくとも1種の官能基を有することが好ましい。このように、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、およびスルホン酸基から選択される少なくとも1種の官能基を有する結着材を用いれば、電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【0013】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、上述した電気化学素子用バインダー組成物と、電極活物質とを含む、ことを特徴とする。このように、電気化学素子用スラリー組成物が、上述した電気化学素子用バインダー組成物と、電極活物質とを含めば、電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
【0014】
また、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子用電極は、上述した何れかの電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される、ことを特徴とする。このように、電気化学素子用電極が、上述した何れかの電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成されれば、電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用スラリー組成物を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【0015】
そして、この発明は、上記課題を有利に解決することを目的とするものであり、本発明の電気化学素子は、上述した電気化学素子用電極を備える、ことを特徴とする。このように、電気化学素子が上述した電気化学素子用電極を備えれば、電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用スラリー組成物を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【発明の効果】
【0016】
本発明によれば、電気化学素子の高度な安全性を確保し得る、電気化学素子用添加剤、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、および電気化学素子用電極を提供することができる。
また、本発明によれば、安全性が高度に確保された電気化学素子を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態について詳細に説明する。
ここで、本発明の電気化学素子用添加剤は、電気化学素子用バインダー組成物を調製する際の材料として用いられる。そして、本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、本発明の電気化学素子用添加剤を含むものである。また、本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、本発明の電気化学素子用バインダー組成物を含むものである。また、本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成されるものである。また、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用電極を備えるものである。
【0018】
(電気化学素子用添加剤)
本発明の電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)としては、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である限り、特に制限はなく、例えば、アゾ化合物、メラミン化合物、膨張黒鉛(電気化学素子に通常使用される活物質および導電材を除く)、ニトロソ化合物、ヒドラジン化合物、などが挙げられる。なお、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる点で、アゾ化合物、メラミン化合物、が好ましい。
なお、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)は、後述する結着材の官能基と相互作用して、結着材と結合する。
【0019】
<体積膨張倍率が2倍以上となる温度>
電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率が2倍以上となる温度は、大気下において、150℃超400℃未満である限り、特に制限はないが、180℃以上である
ことが好ましく、200℃以上であることがより好ましく、397℃以下であることが好ましく、395℃以下であることがより好ましい。電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率が2倍以上となる温度が上述の範囲内であれば、電気化学素子用添加剤を用いて製造する際の副反応を抑制することが可能となり、得られる電気化学的素子の内部短絡時のジュール発熱を抑制することができる。
【0020】
<温度150℃超400℃未満のときの体積膨張倍率>
電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の温度150℃超400℃未満のときの体積膨張倍率は、2倍以上である限り、特に制限はなく、5倍以上であることが好ましく、10倍以上であることがより好ましく、20倍以上であることが特に好ましく、100倍以下であることが好ましく、50倍以下であることがより好ましく、30倍以下であることが特に好ましい。温度150℃超400℃未満のときの体積膨張倍率が上述の範囲内であれば、電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極を備える電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制し、かつ急激な体積変化による素子の破裂を抑制することができる。
【0021】
<(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量>
(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量は、100質量ppm未満である限り、特に制限はないが、60質量ppm以下であることが好ましく、50質量ppm未満であることがより好ましく、30質量ppm未満であることがさらに好ましく、10質量ppm未満であることが特に好ましく、全て1質量ppm以下であることが最も好ましい。(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量が上述の範囲内であれば、電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用スラリー組成物のスラリー安定性を向上させ、前記電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
なお、「周期表の第2族に属する各元素」とは、Be、Mg、Ca、Sr、BaおよびRaの各元素を示す。
【0022】
<(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量>
(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量は、100質量ppm未満である限り、特に制限はないが、50質量ppm未満であることが好ましく、30質量ppm未満であることがより好ましく、全て1質量ppm以下であることが最も好ましい。(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量が上述の範囲内であれば、電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
なお、「周期表の第17族に属する各元素」とは、F、Cl、Br、I、AtおよびTsの各元素を示す。
【0023】
<(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量>
(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量は、5質量ppm未満である限り、特に制限はないが、3質量ppm未満であることが好ましく、2質量ppm未満であることがより好ましい。(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が上述の範囲内であれば、電気化学素子における副反応を抑制し、電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極を備える電気化学素子のレート特性および高温保持特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
【0024】
<その他の成分>
上記記載の電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)は、ゴム、樹脂の発泡成形等に用いられる場合があるが、該用途においては、ゴム、樹脂への分散性を向上させるため、または、製法上の微細化のために、分散剤、粉砕助剤、可塑剤等のその他の成分を添加乃至配合することが知られている。その他の成分としては、例えば、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸アルミニウム、微粒子シリカ、微粒炭酸カルシウム、微粒タルク等を挙げることができる。
本発明において、上記その他の成分を添加乃至配合することにより、電気化学素子として化学的安定性を損なう場合があり、例えば、レート特性を損なうことが懸念される。また、電極を作製する際のスラリーの安定性を損なう場合、これらにより内部短絡が発生する懸念がある。そのため、本発明では該その他の成分の総含有量は、本発明の電気化学素子用添加剤に対して、好ましくは5質量%以下であり、さらに好ましくは1質量%以下であり、さらにより好ましくは0.5質量%以下であり、最も好ましくは0.1質量%以下である。該含有量は、ICP質量発光分析法、抽出法による有機物定量分析法など一般的な定量分析手段によって測定することができる。
【0025】
<アゾ化合物>
アゾ化合物としては、特に制限はなく、例えば、アゾジカルボンアミド(ADCA)、ジニトロソペンタメチレントロラミン(DPT)、ヒドラジンカルボンアミド(HDCA)、などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、電気化学的安定性の観点で、アゾジカルボンアミド(ADCA)が好ましい。
【0026】
<メラミン化合物>
メラミン化合物としては、メラミンおよびメラミンの誘導体、並びにそれらの塩が挙げられる。
そして、メラミンおよびメラミンの誘導体としては、例えば以下の式(I)で表される化合物が挙げられる。
【0027】
【化1】
【0028】
式(I)中、各Aは、それぞれ独立して、ヒドロキシル基または-NR(RおよびRは、それぞれ独立して、水素原子、炭化水素基、またはヒドロキシル基含有炭化水素基を表す。また、式(I)中にRが複数存在する場合は、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよく、Rが複数存在する場合は、複数存在するRは同一であっても異なっていてもよい。)を表す。
ここで、RおよびRの炭化水素基およびヒドロキシル基含有炭化水素基は、炭素原子と炭素原子の間に1つ又は2つ以上の酸素原子(-O-)が介在していてもよい(但し、2つ以上の酸素原子が介在する場合、それらは互いに隣接しないものとする)。そして、RおよびRの炭化水素基およびヒドロキシル基含有炭化水素基の炭素原子数は、特に限定されないが、1以上5以下であることが好ましい。
【0029】
また、メラミンおよびメラミンの誘導体の塩としては、特に限定されないが、硫酸塩、シアヌル酸塩などが挙げられる。
【0030】
メラミン化合物は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、電気化学素子用電極合材層の接着性および電気化学素子のレート特性を向上させる観点から、メラミン(体積膨張倍率が2倍以上となる温度:200℃)、アンメリン(体積膨張倍率が2倍以上となる温度:420℃)、アンメリド(体積膨張倍率が2倍以上となる温度:450℃)、並びにこれらのシアヌル酸との塩が好ましく、メラミン、およびメラミンのシアヌル酸との塩(メラミンシアヌレート(体積膨張倍率が2倍以上となる温度:393℃))がより好ましい。
【0031】
電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の平均粒径D50は、50nm超であることが好ましく、100nm以上であることがより好ましく、120nm以上であることが特に好ましく、2μm未満であることが好ましく、1.9μm以下であることがより好ましく、1.8μm以下であることがさらに好ましく、1.6μm以下であることがさらにより好ましく、1.5μm以下であることがさらにより好ましく、1.2μm以下であることが特に好ましく、1.1μm以下であることが最も好ましい。電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の平均粒径D50が上述の範囲内であれば、電気化学素子用添加剤を用いて製造された電極の剥離ピール強度を向上させ、前記電極を備える電気化学素子のレート特性を向上させ、前記電気化学素子の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制することができる。
【0032】
ここで、後述する電気化学素子用バインダー組成物中の全固形分に占める電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、1質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが特に好ましく、50質量%以下であることが好ましく、40質量%以下であることがより好ましい。電気化学素子用バインダー組成物中の、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の含有割合が上述の範囲内であれば、電気化学素子の高度な安全性を十分に確保しつつ、電気化学素子用電極合材層と集電体との接着性、および電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【0033】
<電気化学素子用添加剤の調製方法>
本発明の電気化学素子用添加剤を調製する方法としては、例えば、膨張性粒子(発泡剤)の市販品(工業品)を粉砕乃至精製することにより得られる。
【0034】
<<粉砕>>
粉砕法としては、一般的な粒子乃至粉末の粉砕方法であれば、特に限定されるものではなく、例えば、湿式粉砕法、乾式粉砕法、などが挙げられる。より具体的には、湿式砕法ではビーズミルを用いることができる。斯かる粉砕により、上記平均粒径D50が所定範囲内の電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)を得ることができる。
【0035】
<<精製>>
精製方法としては、特に限定されるものではなく、水と混合して、濾過および洗浄を繰り返す方法や、可溶な溶媒に溶解させ、その後、再結晶または沈殿させて生成する方法、などが挙げられる。斯かる精製により、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)を得ることができる。
【0036】
(電気化学素子用バインダー組成物)
本発明の電気化学素子用バインダー組成物は、本発明の電気化学素子用添加剤および結着材を含み、任意に、その他の成分、などをさらに含む。
【0037】
<結着材>
結着材は、本発明の電気化学素子用バインダー組成物を用いて形成される電気化学素子用電極合材層と集電体との接着性を確保すると共に、電気化学素子用電極合材層から電気化学素子用添加剤および導電材等の成分が脱離することを抑制し得る成分である。また、該結着成分は、該添加剤の表面と相互作用を形成し、表面劣化抑制、分散性を付与する機能を有する。また、いわいる増粘剤としての機能を有していてもよい。
【0038】
<<結着材の官能基>>
結着材としての重合体に含まれる官能基としては、特に制限はなく、例えば、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、エポキシ基、オキサゾリン基、イソシアネート基、スルホン酸基(以下、これらの官能基を纏めて「特定官能基」と称する場合がある。)、などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
これらの中でも、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の表面保護および分散性確保の観点で、カルボキシル基、ヒドロキシル基、シアノ基、アミノ基、スルホン酸基、が好ましい。
【0039】
結着材としての重合体に上述した特定官能基を導入する方法は特に限定されず、上述した特定官能基を含有する単量体(特定官能基含有単量体)を用いて重合体を調製し、特定官能基含有単量体単位を含む重合体を得てもよいし、任意の重合体を末端変性することにより、上述した特定官能基を末端に有する重合体を得てもよいが、前者が好ましい。すなわち、結着材としての重合体は、特定官能基含有単量体単位として、カルボキシル基含有単量体単位、ヒドロキシル基含有単量体単位、シアノ基含有単量体単位、アミノ基含有単量体単位、エポキシ基含有単量体単位、オキサゾリン基含有単量体単位、イソシアネート基含有単量体単位、およびスルホン酸基含有単量体単位の少なくとも何れかを含み、カルボキシル基含有単量体単位、ヒドロキシル基含有単量体単位、シアノ基含有単量体単位、アミノ基含有単量体単位、スルホン酸基含有単量体単位の少なくとも何れかを含むことが好ましい。
【0040】
[カルボキシル基含有単量体単位]
ここで、カルボキシル基含有単量体単位を形成しうるカルボキシル基含有単量体としては、モノカルボン酸およびその誘導体や、ジカルボン酸およびその酸無水物並びにそれらの誘導体などが挙げられる。
モノカルボン酸としては、アクリル酸、メタクリル酸、クロトン酸などが挙げられる。
モノカルボン酸誘導体としては、2-エチルアクリル酸、イソクロトン酸、α-アセトキシアクリル酸、β-trans-アリールオキシアクリル酸、α-クロロ-β-E-メトキシアクリル酸などが挙げられる。
ジカルボン酸としては、マレイン酸、フマル酸、イタコン酸などが挙げられる。
ジカルボン酸誘導体としては、メチルマレイン酸、ジメチルマレイン酸、フェニルマレイン酸、クロロマレイン酸、ジクロロマレイン酸、フルオロマレイン酸や、マレイン酸ノニル、マレイン酸デシル、マレイン酸ドデシル、マレイン酸オクタデシル、マレイン酸フルオロアルキルなどのマレイン酸モノエステルが挙げられる。
ジカルボン酸の酸無水物としては、無水マレイン酸、アクリル酸無水物、メチル無水マレイン酸、ジメチル無水マレイン酸などが挙げられる。
また、カルボン酸基含有単量体としては、加水分解によりカルボキシル基を生成する酸無水物も使用できる。中でも、カルボン酸基含有単量体としては、アクリル酸およびメタクリル酸が好ましい。なお、カルボン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0041】
[ヒドロキシル基含有単量体単位]
ヒドロキシル基含有単量体単位を形成しうるヒドロキシル基含有単量体としては、(メタ)アリルアルコール、3-ブテン-1-オール、5-ヘキセン-1-オールなどのエチレン性不飽和アルコール;アクリル酸-2-ヒドロキシエチル、アクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、メタクリル酸-2-ヒドロキシエチル、メタクリル酸-2-ヒドロキシプロピル、マレイン酸ジ-2-ヒドロキシエチル、マレイン酸ジ-4-ヒドロキシブチル、イタコン酸ジ-2-ヒドロキシプロピルなどのエチレン性不飽和カルボン酸のアルカノールエステル類;一般式:CH=CR-COO-(C2qO)-H(式中、pは2~9の整数、qは2~4の整数、Rは水素原子またはメチル基を表す)で表されるポリアルキレングリコールと(メタ)アクリル酸とのエステル類;2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシフタレート、2-ヒドロキシエチル-2’-(メタ)アクリロイルオキシサクシネートなどのジカルボン酸のジヒドロキシエステルのモノ(メタ)アクリル酸エステル類;2-ヒドロキシエチルビニルエーテル、2-ヒドロキシプロピルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-3-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-4-ヒドロキシブチルエーテル、(メタ)アリル-6-ヒドロキシヘキシルエーテルなどのアルキレングリコールのモノ(メタ)アリルエーテル類;ジエチレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル、ジプロピレングリコールモノ(メタ)アリルエーテルなどのポリオキシアルキレングリコールモノ(メタ)アリルエーテル類;グリセリンモノ(メタ)アリルエーテル、(メタ)アリル-2-クロロ-3-ヒドロキシプロピルエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシ-3-クロロプロピルエーテルなどの、(ポリ)アルキレングリコールのハロゲンおよびヒドロキシ置換体のモノ(メタ)アリルエーテル;オイゲノール、イソオイゲノールなどの多価フェノールのモノ(メタ)アリルエーテルおよびそのハロゲン置換体;(メタ)アリル-2-ヒドロキシエチルチオエーテル、(メタ)アリル-2-ヒドロキシプロピルチオエーテルなどのアルキレングリコールの(メタ)アリルチオエーテル類;N-ヒドロキシメチルアクリルアミド(N-メチロールアクリルアミド)、N-ヒドロキシメチルメタクリルアミド、N-ヒドロキシエチルアクリルアミド、N-ヒドロキシエチルメタクリルアミドなどのヒドロキシル基を有するアミド類などが挙げられる。なお、ヒドロキシル基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アリル」とは、アリルおよび/またはメタリルを意味し、「(メタ)アクリロイル」とは、アクリロイルおよび/またはメタクリロイルを意味する。
【0042】
[シアノ基含有単量体単位]
シアノ基含有単量体単位を形成しうるシアノ基含有単量体としては、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体が挙げられる。具体的には、α,β-エチレン性不飽和ニトリル単量体としては、シアノ基を有するα,β-エチレン性不飽和化合物であれば特に限定されないが、例えば、アクリロニトリル;α-クロロアクリロニトリル、α-ブロモアクリロニトリルなどのα-ハロゲノアクリロニトリル;メタクリロニトリル、α-エチルアクリロニトリルなどのα-アルキルアクリロニトリル;などが挙げられる。なお、シアノ基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0043】
[アミノ基含有単量体単位]
アミノ基含有単量体単位を形成しうるアミノ基含有単量体としては、ジメチルアミノエチル(メタ)アクリレート、ジエチルアミノエチル(メタ)アクリレート、アミノエチルビニルエーテル、ジメチルアミノエチルビニルエーテルなどが挙げられる。なお、アミノ基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
なお、本発明において、「(メタ)アクリレート」とは、アクリレートおよび/またはメタクリレートを意味する。
【0044】
[エポキシ基含有単量体単位]
エポキシ基含有単量体単位を形成しうるエポキシ基含有単量体としては、炭素-炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体が挙げられる。
炭素-炭素二重結合およびエポキシ基を含有する単量体としては、例えば、ビニルグリシジルエーテル、アリルグリシジルエーテル、ブテニルグリシジルエーテル、o-アリルフェニルグリシジルエーテルなどの不飽和グリシジルエーテル;ブタジエンモノエポキシド、クロロプレンモノエポキシド、4,5-エポキシ-2-ペンテン、3,4-エポキシ-1-ビニルシクロヘキセン、1,2-エポキシ-5,9-シクロドデカジエンなどのジエンまたはポリエンのモノエポキシド;3,4-エポキシ-1-ブテン、1,2-エポキシ-5-ヘキセン、1,2-エポキシ-9-デセンなどのアルケニルエポキシド;グリシジルアクリレート、グリシジルメタクリレート、グリシジルクロトネート、グリシジル-4-ヘプテノエート、グリシジルソルベート、グリシジルリノレート、グリシジル-4-メチル-3-ペンテノエート、3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、4-メチル-3-シクロヘキセンカルボン酸のグリシジルエステル、などの、不飽和カルボン酸のグリシジルエステル類;が挙げられる。なお、エポキシ基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0045】
[オキサゾリン基含有単量体単位]
オキサゾリン基含有単量体単位を形成しうるオキサゾリン基含有単量体としては、2-ビニル-2-オキサゾリン、2-ビニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-ビニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-4-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-メチル-2-オキサゾリン、2-イソプロペニル-5-エチル-2-オキサゾリンなどが挙げられる。なお、オキサゾリン基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0046】
[イソシアネート基含有単量体単位]
イソシアネート基含有単量体単位を形成しうるイソシアネート基含有単量体としては、2-イソシアナトエチルメタクリレート、2-イソシアナトエチルアクリラート、メタクリル酸2-(0-[1’-メチルプロピリデンアミノ]カルボキシアミノ)エチル、2-[(3,5-ジメチルピラゾリル)カルボニルアミノ]エチルメタクリレート、1,1-(ビスアクリロイルオキシメチル)エチルイソシアネート、などが挙げられる。なお、イソシアネート基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0047】
[スルホン酸基含有単量体単位]
スルホン酸基含有単量体単位を形成しうるスルホン酸基含有単量体としては、ビニルスルホン酸、メチルビニルスルホン酸、(メタ)アリルスルホン酸、スチレンスルホン酸、(メタ)アクリル酸-2-スルホン酸エチル、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸、3-アリロキシ-2-ヒドロキシプロパンスルホン酸などが挙げられる。なお、スルホン酸基含有単量体は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0048】
結着材としての重合体に含有される全単量体単位の量を100質量%とした場合の重合体における特定官能基含有単量体単位の含有割合は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましい。結着材としての重合体中の特定官能基含有単量体単位の含有割合が上述の範囲内であれば、集電体との接着性、および電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【0049】
[結着材の調製方法]
結着材としての重合体の調製方法は特に限定されない。結着材としての重合体は、例えば、上述した単量体を含む単量体組成物を水系溶媒中で重合することにより製造される。なお、単量体組成物中の各単量体の含有割合は、重合体中の所望の単量体単位(繰り返し単位)の含有割合に準じて定めることができる。
【0050】
なお、重合様式は、特に制限なく、溶液重合法、懸濁重合法、塊状重合法、乳化重合法などのいずれの方法も用いることができる。また、重合反応としては、イオン重合、ラジカル重合、リビングラジカル重合、各種縮合重合、付加重合などいずれの反応も用いることができる。そして、重合に際しては、必要に応じて既知の乳化剤や重合開始剤を使用することができる。
【0051】
<<結着材の種類>>
ここで、結着材としては、電気化学素子内において使用可能なものであれば特に限定されない。例えば、結着材としては、結着性を発現しうる単量体を含む単量体組成物を重合して得られる重合体(合成高分子、例えば、付加重合して得られる付加重合体)を用いることができる。このような重合体としては、例えば、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を含む重合体;スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);ポリアクリロニトリル(PAN)共重合体;ポリフッ化ビニリデン(PVDF);ポリビニルピロリドン;スチレン-2-エチルヘキシルアクリレート共重合体;ポリブチラール;などが挙げられる。これらは、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。そしてこれらの中でも、結着材の電気化学的安定性および電気化学素子における電極等製造上の観点から、好ましくは、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を含む重合体;スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);ポリアクリロニトリル(PAN)共重合体;ポリフッ化ビニリデン(PVDF)であり、さらに好ましくは、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を含む重合体;スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);ポリアクリロニトリル(PAN)共重合体;であり、最も好ましくは、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位を含む重合体;スチレン-アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物を含む);アクリロニトリル-ブタジエン共重合体(ブタジエンユニットは水素化物であってもよい);ポリアクリロニトリル(PAN)共重合体;である。
なお、本発明において、「単量体単位を含む」とは、「その単量体を用いて得た重合体中に単量体由来の繰り返し単位が含まれている」ことを意味する。
【0052】
[結着材の含有割合]
ここで、電気化学素子用バインダー組成物中の全固形分に占める結着材の割合は、0.1質量%以上であることが好ましく、2質量%以上であることがより好ましく、10質量%以上であることが更に好ましく、20質量%以上であることが特に好ましく、80質量%以下であることが好ましく、75質量%以下であることがより好ましく、70質量%以下であることが特に好ましい。電気化学素子用バインダー組成物中の結着材の含有割合が0.1質量%以上であれば、集電体との接着性を高めることができ、80質量%以下であれば、電気化学素子のレート特性を向上させることができる。
【0053】
<<その他の成分>>
電気化学素子用バインダー組成物に任意に含まれるその他の成分としては、特に限定されない。電気化学素子用バインダー組成物は、例えば、分散剤などを含んでいてもよい。分散剤は、導電材の分散性向上のために配合される成分である。分散剤としては、例えば、ポリビニルピロリドンおよびポリビニルブチラールなどのノニオン系分散剤や、カルボキシメチルセルロースなどが挙げられる。
また、電気化学素子用バインダー組成物は、電気化学素子の安全性向上の観点から、リン系化合物やシリコーン系化合物などの難燃剤を含有してもよい。なお、上述した難燃剤の含有量は、例えば、結着材100質量部当たり30質量部以下、または15質量部以下とすることができる。
これらのその他の成分は、1種類を単独で使用してもよいし、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。
【0054】
(電気化学素子用スラリー組成物)
本発明の電気化学素子用スラリー組成物は、上述した本発明の電気化学素子用バインダー組成物を含み、任意に、電極活物質、導電材、溶媒、などをさらに含む。
【0055】
<電極活物質>
ここで、電極活物質は、電気化学素子の電極において電子の受け渡しをする物質である。そして、例えば電気化学素子がリチウムイオン二次電池の場合には、電極活物質としては、通常は、リチウムを吸蔵および放出し得る物質を用いる。
なお、以下では、一例として電気化学素子電極用スラリー組成物がリチウムイオン二次電池電極用スラリー組成物である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。
【0056】
<<正極活物質>>
リチウムイオン二次電池用の正極活物質としては、特に限定されることなく、リチウム含有コバルト酸化物(LiCoO)、マンガン酸リチウム(LiMn)、リチウム含有ニッケル酸化物(LiNiO)、LiNi0.5Mn0.3Co0.2等のCo-Ni-Mnのリチウム含有複合酸化物(Li(CoMnNi)O)、Ni-Mn-Alのリチウム含有複合酸化物、Ni-Co-Alのリチウム含有複合酸化物、オリビン型リン酸鉄リチウム(LiFePO)、オリビン型リン酸マンガンリチウム(LiMnPO)、LiMnO-LiNiO系固溶体、Li1+xMn2-x(0<X<2)で表されるリチウム過剰のスピネル化合物、Li[Ni0.17Li0.2Co0.07Mn0.56]O、LiNi0.5Mn1.5等の既知の正極活物質が挙げられる。
なお、正極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている正極活物質と同様とすることができる。
【0057】
<<負極活物質>>
また、リチウムイオン二次電池用の負極活物質としては、例えば、炭素系負極活物質、金属系負極活物質、およびこれらを組み合わせた負極活物質などが挙げられる。
なお、負極活物質の配合量や粒子径は、特に限定されることなく、従来使用されている負極活物質と同様とすることができる。
【0058】
[炭素系負極活物質]
ここで、炭素系負極活物質とは、リチウムを挿入(「ドープ」ともいう。)可能な、炭素を主骨格とする活物質をいい、炭素系負極活物質としては、例えば炭素質材料と黒鉛質材料とが挙げられる。
【0059】
[[炭素質材料]]
そして、炭素質材料としては、例えば、易黒鉛性炭素や、ガラス状炭素に代表される非晶質構造に近い構造を持つ難黒鉛性炭素などが挙げられる。
ここで、易黒鉛性炭素としては、例えば、石油または石炭から得られるタールピッチを原料とした炭素材料が挙げられる。具体例を挙げると、コークス、メソカーボンマイクロビーズ(MCMB)、メソフェーズピッチ系炭素繊維、熱分解気相成長炭素繊維などが挙げられる。
また、難黒鉛性炭素としては、例えば、フェノール樹脂焼成体、ポリアクリロニトリル系炭素繊維、擬等方性炭素、フルフリルアルコール樹脂焼成体(PFA)、ハードカーボンなどが挙げられる。
【0060】
[[黒鉛質材料]]
更に、黒鉛質材料としては、例えば、天然黒鉛、人造黒鉛などが挙げられる。
ここで、人造黒鉛としては、例えば、易黒鉛性炭素を含んだ炭素を主に2800℃以上で熱処理した人造黒鉛、MCMBを2000℃以上で熱処理した黒鉛化MCMB、メソフェーズピッチ系炭素繊維を2000℃以上で熱処理した黒鉛化メソフェーズピッチ系炭素繊維などが挙げられる。
【0061】
[金属系負極活物質]
また、金属系負極活物質とは、金属を含む活物質であり、通常は、リチウムの挿入が可能な元素を構造に含み、リチウムが挿入された場合の単位質量当たりの理論電気容量が500mAh/g以上である活物質をいう。金属系活物質としては、例えば、リチウム金属、リチウム合金を形成し得る単体金属(例えば、Ag、Al、Ba、Bi、Cu、Ga、Ge、In、Ni、P、Pb、Sb、Si、Sn、Sr、Zn、Tiなど)およびその合金、並びに、それらの酸化物、硫化物、窒化物、ケイ化物、炭化物、燐化物などが用いられる。これらの中でも、金属系負極活物質としては、ケイ素を含む活物質(シリコン系負極活物質)が好ましい。シリコン系負極活物質を用いることにより、リチウムイオン二次電池を高容量化することができるからである。
【0062】
[[シリコン系負極活物質]]
シリコン系負極活物質としては、例えば、ケイ素(Si)、ケイ素を含む合金、SiO、SiOx、Si含有材料を導電性カーボンで被覆または複合化してなるSi含有材料と導電性カーボンとの複合化物などが挙げられる。なお、これらのシリコン系負極活物質は、1種類を単独で用いてもよいし、2種類上を組み合わせて用いてもよい。
【0063】
<導電材>
導電材は、電気化学素子用電極合材層中で導電パスを形成し、集電体と電気化学素子用電極合材層の間の導通を確保し得る成分である。
【0064】
導電材としては、特に限定されることなく、導電性炭素材料、および、各種金属のファイバー又は箔などを用いることができるが、導電性炭素材料が好ましい。導電性炭素材料としては、カーボンブラック(例えば、アセチレンブラック、ケッチェンブラック(登録商標)、ファーネスブラックなど)、単層または多層カーボンナノチューブ(多層カーボンナノチューブにはカップスタック型が含まれる)、カーボンナノホーン、気相成長炭素繊維、ポリマー繊維を焼成後に破砕して得られるミルドカーボン繊維、単層または多層グラフェン、ポリマー繊維からなる不織布を焼成して得られるカーボン不織布シートなどが挙げられる。なお、導電材は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0065】
ここで、電気化学素子用スラリー組成物中の全固形分に占める導電材の割合は、0.3質量%以上であることが好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましく、1.0質量%以上であることが特に好ましく、10質量%以下であることが好ましく、5質量%以下であることがより好ましく、3質量%以下であることが更に好ましい。電気化学素子用スラリー組成物中の導電材の含有割合が0.3質量%以上であれば、集電体と電気化学素子用電極合材層の間の導通を十分に確保して電気化学素子のレート特性を高めることができ、10質量%以下であれば、集電体と電気化学素子用電極合材層との接着性を確保することができる。
【0066】
<溶媒>
なお、電気化学素子用スラリー組成物に用いる溶媒としては、特に限定されず、水および有機溶媒の何れも使用することができる。有機溶媒としては、例えば、アセトニトリル、N-メチル-2-ピロリドン、テトラヒドロフラン、アセトン、アセチルピリジン、シクロペンタノン、ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、メチルホルムアミド、メチルエチルケトン、フルフラール、エチレンジアミン、ジメチルベンゼン(キシレン)、メチルベンゼン(トルエン)、シクロペンチルメチルエーテル、およびイソプロピルアルコールなどを用いることができる。
なお、これらの溶媒は、一種単独で、或いは複数種を任意の混合比率で混合して用いることができる。
【0067】
(電気化学素子用電極)
本発明の電気化学素子用電極は、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタなどの電気化学素子の電極として使用することができる。
本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される。具体的には、本発明の電気化学素子用電極は、任意に、電気化学素子用電極合材層以外のその他の層(例えば、集電体)を備えていてもよい。
【0068】
そして、本発明の電気化学素子用電極は、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤が含まれているため、本発明の電気化学素子用電極を備える電気化学素子に、高度な安全性を付与することができる。このように、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用電極合材層を備える電極を用いることで、電気化学素子の高度な安全性を確保可能である理由は、以下の通りであると推察される。まず、電気化学素子内部への異物混入、電極製造不良、および電気化学素子設計ミス等の原因より、電気化学素子内部で短絡が生じると、短絡部分に電流が流れることでジュール熱が発生する。このジュール熱によりセパレータが溶解して短絡部分の面積が拡大すると、更に昇温した電気化学素子内部では、電解液の分解等により、異常発熱および発火を誘発する可燃性ガスが発生すると考えられている。ここで、本発明の電気化学素子用電極は、電気化学素子用電極合材層に上記電気化学素子用添加剤が含まれるため、ジュール熱により高温化した電気化学素子内部で、電気化学素子用添加剤が発泡して不燃性ガスが生じる。この不燃性ガスの発生および該添加剤の体積が膨張することにより、電極構造が破壊され、そして導電パスが切断されてジュール熱の発生が抑制されると共に、可燃性ガスが希釈されて延焼を遅延させることができると推察される。
【0069】
<集電体>
集電体としては、電気導電性を有し、かつ、電気化学的に耐久性のある材料を、電気化学素子の種類に応じて選択して用いることができる。例えば、リチウムイオン二次電池用電極の集電体としては、鉄、銅、アルミニウム、ニッケル、ステンレス鋼、チタン、タンタル、金、白金などからなる集電体を用い得る。中でも、負極に用いる集電体としては銅箔が特に好ましい。また、正極に用いる集電体としては、アルミニウム箔が特に好ましい。なお、前記の材料は、1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を任意の比率で組み合わせて用いてもよい。
【0070】
<電気化学素子用電極の製造方法>
例えば、本発明の電気化学素子用電極は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を集電体上に塗布し、塗布した電気化学素子用スラリー組成物を乾燥して電気化学素子用電極合材層を形成する工程(電気化学素子用電極合材層形成工程)を経て製造される。
【0071】
<<電気化学素子用電極合材層形成工程>>
電気化学素子用スラリー組成物を集電体の上に塗布する方法としては、特に制限は無く、例えば、ドクターブレード法、リバースロール法、ダイレクトロール法、グラビア法、エクストルージョン法、ハケ塗り法などの方法が挙げられる。
また、集電体上に塗布された電気化学素子用スラリー組成物を乾燥する方法としては、特に限定されず公知の方法を用いることができる。乾燥法としては、例えば、温風、熱風、低湿風による乾燥、真空乾燥、赤外線や電子線などの照射による乾燥が挙げられる。なお、電気化学素子用スラリー組成物中に含まれる発泡剤の分解を抑制する観点からは、乾燥温度は、例えば、80℃以上120℃以下とすることが好ましい。
【0072】
(電気化学素子)
本発明の電気化学素子は、特に限定されることなく、例えば、リチウムイオン二次電池、電気二重層キャパシタ、およびリチウムイオンキャパシタであり、好ましくはリチウムイオン二次電池である。そして、本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される電気化学素子用電極合材層を備える電極を備えることを特徴とする。本発明の電気化学素子は、本発明の電気化学素子用スラリー組成物を用いて形成される電気化学素子用電極合材層を備える電極を備えているので、熱暴走が抑制され、高度な安全性を保持する。
ここで、以下では、一例として電気化学素子がリチウムイオン二次電池である場合について説明するが、本発明は下記の一例に限定されるものではない。本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池は、通常、電極(正極および負極)、電解液、並びにセパレータを備え、正極および負極、セパレーターの少なくとも一つに、本発明の電気化学素子用添加剤を含む電気化学素子用電極合材層を備える。
【0073】
<電極>
ここで、本発明の電気化学素子としてのリチウムイオン二次電池に使用し得る、上述した電気化学素子用電極以外の電極としては、特に限定されることなく、既知の電極を用いることができる。具体的には、上述した電気化学素子用電極以外の電極としては、既知の製造方法を用いて集電体上に電極合材層を形成してなる電極を用いることができる。
【0074】
<<電極合材層>>
電極合材層としては、特に限定されることなく、例えば、電極活物質と、電極合材層用結着材を含む電極合材層を、電気化学素子の種類に応じて選択して用いることができる。例えば、リチウム二次電池用電極の電極合材層中の電極活物質(正極活物質、負極活物質)および電極合材層用結着材(正極合材層用結着材、負極合材層用結着材)には、例えば、特開2013-145763号公報などに記載された既知のものを用いることができる。
【0075】
<セパレータ>
セパレータとしては、特に限定されることなく、例えば特開2012-204303号公報に記載のものを用いることができる。これらの中でも、セパレータ全体の膜厚を薄くすることができ、これにより、リチウムイオン二次電池内の電極活物質の比率を高くして体積あたりの容量を高くすることができるという点より、ポリオレフィン系(ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリブテン、ポリ塩化ビニル)の樹脂からなる微多孔膜が好ましい。
【0076】
<電解液>
電解液としては、通常、有機溶媒に支持電解質を溶解した有機電解液が用いられる。支持電解質としては、例えば、リチウムイオン二次電池においてはリチウム塩が用いられる。リチウム塩としては、例えば、LiPF、LiAsF、LiBF、LiSbF、LiAlCl、LiClO、CFSOLi、CSOLi、CFCOOLi、(CFCO)NLi、(CFSONLi、(CSO)NLiなどが挙げられる。なかでも、溶媒に溶けやすく高い解離度を示すので、LiPF、LiClO、CFSOLiが好ましい。なお、電解質は1種類を単独で用いてもよく、2種類以上を組み合わせて用いてもよい。通常は、解離度の高い支持電解質を用いるほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、支持電解質の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
【0077】
電解液に使用する有機溶媒としては、支持電解質を溶解できるものであれば特に限定されないが、例えばリチウムイオン二次電池においては、ジメチルカーボネート(DMC)、エチレンカーボネート(EC)、ジエチルカーボネート(DEC)、プロピレンカーボネート(PC)、ブチレンカーボネート(BC)、エチルメチルカーボネート(EMC)、ビニレンカーボネート(VC)等のカーボネート類;γ-ブチロラクトン、ギ酸メチル等のエステル類;1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン等のエーテル類;スルホラン、ジメチルスルホキシド等の含硫黄化合物類;などが好適に用いられる。また、これらの溶媒の混合液を用いてもよい。中でも、誘電率が高く、安定な電位領域が広いので、カーボネート類が好ましい。通常、用いる溶媒の粘度が低いほどリチウムイオン伝導度が高くなる傾向があるので、溶媒の種類によりリチウムイオン伝導度を調節することができる。
なお、電解液中の電解質の濃度は適宜調整することができる。また、電解液には、既知の添加剤を添加してもよい。
【0078】
<リチウムイオン二次電池の製造方法>
本発明に従うリチウムイオン二次電池は、例えば、正極と負極とをセパレータを介して重ね合わせ、これを必要に応じて、巻く、折るなどして電池容器に入れ、電池容器に電解液を注入して封口することで製造することができる。なお、正極および負極の少なくとも何れかを、本発明の電気化学素子用電極とする。また、電池容器には、必要に応じてエキスパンドメタルや、ヒューズ、PTC素子などの過電流防止素子、リード板などを入れ、電池内部の圧力上昇、過充放電の防止をしてもよい。電池の形状は、例えば、コイン型、ボタン型、シート型、円筒型、角形、扁平型など、何れであってもよい。
【実施例
【0079】
以下、本発明について実施例に基づき具体的に説明するが、本発明はこれら実施例に限定されるものではない。なお、以下の説明において、量を表す「%」、「ppm」および「部」は、特に断らない限り、質量基準である。
また、複数種類の単量体を共重合して製造される重合体において、ある単量体を重合して形成される単量体単位の前記重合体における割合は、別に断らない限り、通常は、その重合体の重合に用いる全単量体に占める当該ある単量体の比率(仕込み比)と一致する。
そして、実施例および比較例において、「電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率が2倍以上となる温度の測定」、「温度150℃超400℃未満のときの体積膨張倍率(倍)の測定」、「電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第2族に属する各元素の含有量の測定」、「電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第17族に属する各元素の含有量の測定」、「電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)におけるCr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の測定」、「電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の平均粒径D50の測定」、「二次電池の内部短絡発生時のジュール発熱試験」、「二次電池のレート特性」、「スラリー組成物のスラリー安定性」、「電極の剥離ピール強度」、および、「二次電池の高温保存特性(容量維持率)」は、下記の方法で測定および評価した。
【0080】
<電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率が2倍以上となる温度の測定>
(1)大気下において、加熱式プレートにて膨張性粒子を加熱し(20℃/min.)、光学顕微鏡にて、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率が2倍となる温度を記録した。ここで、「体積膨張倍率が2倍となること」は、「粒子を真円と仮定し、直径が+67%となること」とした。(2)なお、ADCA,MC,NaHCOについては、ガスの発生をその体積変化に含むものとし、「体積膨張倍率が2倍となること」は、「TGA熱量分析によって、その重量減(=ガス発生量)が10%を超えること」とした。測定結果を表1に示す。
【0081】
<温度150℃超400℃未満のときの体積膨張倍率(倍)の測定>
大気下において、加熱式プレートにて膨張性粒子を加熱し(20℃/min.)、光学顕微鏡にて、温度150℃超400℃未満のときの電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の体積膨張倍率(倍)を記録した。測定結果を表1に示す。
【0082】
<電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第2族に属する各元素の含有量の測定>
ICP質量分析装置(Agilent Technologies製Agilent8800)によって、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第2族に属する各元素の含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、電気化学素子用添加剤として、アゾジカルボンアミド(ADCA)を用いた実施例1および比較例1では、カルシウムが、周期表の第2族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、メラミンシアヌレート塩(MC)を用いた実施例2~6および実施例8では、カルシウムが、周期表の第2族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、膨張黒鉛を用いた実施例7では、カルシウムが、周期表の第2族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。さらに、電気化学素子用添加剤として、炭酸水素ナトリウムを用いた比較例2では、カルシウムが、周期表の第2族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。
【0083】
<電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第17族に属する各元素の含有量の測定>
ICP質量分析装置(Agilent Technologies製Agilent8800)によって、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)における周期表の第17族に属する各元素の含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、電気化学素子用添加剤として、アゾジカルボンアミド(ADCA)を用いた実施例1および比較例1では、塩素が、周期表の第17族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、メラミンシアヌレート塩(MC)を用いた実施例2~6および実施例8では、塩素が、周期表の第17族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、膨張黒鉛を用いた実施例7では、塩素が、周期表の第17族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。さらに、電気化学素子用添加剤として、炭酸水素ナトリウムを用いた比較例2では、塩素が、周期表の第17族に属する各元素の含有量の最大のものとして検出される。
【0084】
<電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)におけるCr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の測定>
ICP質量分析装置(Agilent Technologies製Agilent8800)によって、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)におけるCr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量を測定した。測定結果を表1に示す。
なお、電気化学素子用添加剤として、アゾジカルボンアミド(ADCA)を用いた実施例1および比較例1では、Feが、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、メラミンシアヌレート塩(MC)を用いた実施例2~6および実施例8では、Feが、周期表のCr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の最大のものとして検出される。また、電気化学素子用添加剤として、膨張黒鉛を用いた実施例7では、Feが、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の最大のものとして検出される。さらに、電気化学素子用添加剤として、炭酸水素ナトリウムを用いた比較例2では、Feが、Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量の最大のものとして検出される。
【0085】
<電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の平均粒径D50の測定>
レーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所製SALD)を用いて、電気化学素子用添加剤(膨張性粒子)の平均粒径D50を測定した。測定結果を表1に示す。
【0086】
<二次電池の内部短絡発生時のジュール発熱試験(内部短絡試験)>
耐熱セパレーター(基材=ポリプロピレン、耐熱層厚み4μm、1mm四方の穴をあけたもの)を正極、負極ではさみ(それぞれタグ付き)、該部材をアルミパウチで封止してセルを作製した。該セルの耐熱セパレーターの穴開き部分に対して、直径8mm円筒(SUS)にて10Nの力をかけて強制内部短絡部分を作製した。該セルに対して、加圧外部電源から10Vを印加し、その際の電流、電圧をモニターした。電流、電圧から抵抗を算出し、電圧10Vを印加した直後から抵抗が100倍となった時点の時間を計測した。そして、以下の基準により評価した。評価結果を表1に示す。
<<評価基準>>
A:5秒間未満
B:5秒間以上10秒間未満
C:10秒間以上15秒間未満
D:15秒間以上
【0087】
<二次電池のレート特性>
実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で、5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流にてセル電圧3.00VまでCC放電を行った。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。
次に、温度25℃の環境下、セル電圧4.20-3.00V間で、0.2Cの定電流充放電を実施し、このときの放電容量をC0と定義した。その後、同様に0.2Cの定電流にてCC-CV充電し、温度25℃の環境下において、2.0Cの定電流にて3.0Vまで放電を実施し、このときの放電容量をC1と定義した。そして、レート特性として、ΔC=(C1/C0)×100(%)で示される容量変化率を求め、以下の基準により評価した。評価結果を表1に示す。この容量変化率ΔCの値は大きいほど、放電容量が高く、そして内部抵抗が低く、レート特性が高いことを示す。
<<評価基準>>
A:容量変化率ΔCが75%以上
B:容量変化率ΔCが73%以上75%未満
C:容量変化率ΔCが70%以上73%未満
D:容量変化率ΔCが70%未満
【0088】
<スラリー組成物のスラリー安定性>
作製した電極用スラリーをプラスチック製容器(直径3cm、高さ5cmの円形)に入れ密封し、25±2度の室温に静置し、活物質の沈降、またはゲル化(スラリーの流動性なし)を目視および触診にて観察した。そして、以下の基準により評価した。評価結果を表1に示す。
<<評価基準>>
A:7日後に沈降またはゲル化なし
B:5日後に沈降またはゲル化あり
C:3日後に沈降またはゲル化あり
D:1日後に沈降またはゲル化あり
【0089】
<電極の剥離ピール強度>
実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池用正極を、長さ100mm、幅10mmの長方形に切り出して試験片とし、電気化学素子用電極合材層を有する面を下にして、試験片の電気化学素子用電極合材層側の表面をセロハンテープ(JIS Z1522に準拠するもの)を介して試験台(SUS製基板)に貼り付けた。その後、集電体の一端を垂直方向に引張り速度100mm/分で引っ張って剥がしたときの応力(N/m)を測定した(なお、セロハンテープは試験台に固定されている)。上記と同様の測定を3回行い、その平均値を求めてこれを電極の剥離ピール強度とし、以下の基準により評価した。評価結果を表1に示す。電極の剥離ピール強度の値が大きいほど、電気化学素子用電極合材層と集電体の密着性に優れることを示す。
<<評価基準>>
A:剥離ピール強度が15N/m以上
B:剥離ピール強度が10N/m以上15N/m未満
C:剥離ピール強度が5N/m以上10N/m未満
D:剥離ピール強度が5N/m未満
【0090】
<二次電池の高温保存特性(容量維持率)>
実施例および比較例で作製したリチウムイオン二次電池を、電解液注液後、温度25℃で5時間静置した。次に、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.65Vまで充電し、その後、温度60℃で12時間エージング処理を行った。そして、温度25℃、0.2Cの定電流法にて、セル電圧3.00Vまで放電した。その後、0.2Cの定電流法にて、CC-CV充電(上限セル電圧4.20V)を行い、0.2Cの定電流法にて3.00VまでCC放電した。この0.2Cにおける充放電を3回繰り返し実施した。該最後に得られた放電容量をX1とした。
その後、セル電圧を4.20Vまで25℃にて充電し、そのまま温度60℃の環境下にて、2週間放置した。その後、25℃にて、0.2Cの定電流法にてセル電圧3.00Vまで放電した。該放電容量をX2とした。
該放電容量X1および放電容量X2を用いて、ΔC=(X2/X1)×100(%)で示される容量変化率を求め、以下の基準により評価した。この容量変化率ΔCの値が大きいほど、高温保存特性(容量維持率)に優れていることを示す。
<<評価基準>>
A:ΔCが85%以上
B:ΔCが83%以上85%未満
C:ΔCが80%以上83%未満
D:ΔCが80%未満
【0091】
(調製例1:ポリマーA(シアノ基含有結着材)の調製)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、乳化剤としてのアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、シアノ基含有単量体としてのアクリロニトリル34.0部、メタクリル酸2.2部、連鎖移動剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.45部をこの順で入れ、内部を窒素置換した。その後、アルキレン構造単位を重合体中に導入するための共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン63.8部を圧入し、重合開始剤としての過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、アクリロニトリルと1,3-ブタジエンとの共重合体を得た。なお、重合転化率は85%であった。
得られた共重合体に対してイオン交換水を添加し、全固形分濃度を12質量%に調整した溶液を得た。得られた溶液400mL(全固形分48g)を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、パラジウム(Pd)に対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第一段階の水素化反応)を行った。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素化反応(第二段階の水素化反応)を行った。
その後、内容物を常温に戻し、系内を窒素雰囲気とした後、エバポレータを用いて固形分濃度が40%となるまで濃縮して、重合体の水分散液を得た。
得られた重合体の水分散液をメタノール中に滴下して凝固させた後、凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥し、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を含むポリマーAを得た。
【0092】
(調製例2:ポリマーB(シアノ基含有結着材)の調製)
撹拌機付きのオートクレーブに、イオン交換水240部、アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウム2.5部、アクリロニトリル20部、スチレン10部、メタクリル酸5部をこの順で入れ、ボトル内部を窒素置換した。その後、1,3-ブタジエン65部を圧入し、過硫酸アンモニウム0.25部を添加して、反応温度40℃で重合反応させた。そして、ニトリル基を有する重合単位、芳香族ビニル重合単位、親水性基を有する重合単位及び共役ジエンモノマーを形成し得る重合単位を含んでなる重合体を得た。重合転化率は85%、ヨウ素価は280mg/100mgであった。
前記重合体に対して水を用いて全固形分濃度を12質量%に調整した400mL(全固形分48g)の溶液を、容積1Lの撹拌機付きオートクレーブに投入し、窒素ガスを10分間流して溶液中の溶存酸素を除去した後、水素添加反応用触媒としての酢酸パラジウム75mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加したイオン交換水180mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第一段階の水素添加反応」という)させた。このとき、重合体のヨウ素価は45mg/100mgであった。
次いで、オートクレーブを大気圧にまで戻し、更に水素添加反応用触媒として、酢酸パラジウム25mgを、Pdに対して4倍モルの硝酸を添加した水60mLに溶解して、添加した。系内を水素ガスで2回置換した後、3MPaまで水素ガスで加圧した状態でオートクレーブの内容物を50℃に加温し、6時間水素添加反応(「第二段階の水素添加反応」という)させた。
得られた重合体の水分散液をメタノール中に滴下して凝固させた後、凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥し、シアノ基含有単量体単位(アクリロニトリル単位)およびアルキレン構造単位(1,3-ブタジエン水素化物単位)を有するポリマーBを得た。
【0093】
(調製例3:ポリマーE(シアノ基含有結着材)の調製)
メカニカルスターラーおよびコンデンサを装着した反応器Aに、窒素雰囲気下、イオン交換水85部、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム0.2部を入れた後、撹拌しながら55℃に加熱し、過硫酸カリウム0.3部を5.0%水溶液として反応器Aに添加した。次いで、メカニカルスターラーを装着した上記とは別の容器Bに、窒素雰囲気下、シアノ基含有単量体としてアクリロニトリル94.0部、塩基性基含有単量体としてアクリルアミド1.0部、酸性基含有単量体としてアクリル酸2.0部、および(メタ)アクリル酸エステル単量体単位としてn-ブチルアクリレート3.0部、並びに、ドデシルベンゼンンスルホン酸ナトリウム0.6部、ターシャリードデシルメルカプタン0.035部、ポリオキシエチレンラウリルエーテル0.4部、およびイオン交換水80部を添加し、これを攪拌乳化させて単量体混合液を調製した。そして、この単量体混合液を攪拌乳化させた状態にて、5時間かけて一定の速度で反応器Aに添加し、重合転化率が95%になるまで反応させ、アクリロニトリル単位を主として(94質量%)含むポリアクリロニトリル(PAN)共重合体の水分散液を得た。得られた重合体の水分散液をメタノール中に滴下して凝固させた後、凝固物を温度60℃で12時間真空乾燥し、ポリマーEを得た。また、得られたPAN共重合体の水分散液の一部に、NMPを適量添加して混合物を得た。その後、90℃にて減圧蒸留を実施して混合物から水及び過剰なNMPを除去し、PAN共重合体のNMP溶液(固形分濃度が8%)を得た。該NMP溶液の10s-1における粘度は5750mPa・sであった。
【0094】
(調製例4:電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)の調製)
アゾジカルボンアミド200gを、蒸留水1Lへ投入し、スリーワンモーター(新東科学社BL300)を用いて室温にて、2h混合撹拌した。その後、金網メッシュで濾過分離、洗浄した。該操作を2回繰り返した。
さらに、該洗浄物をエタノール1Lを用いて同様に2回洗浄し、精製した。
精製したアゾジカルボンアミド175g、NMP236gを秤量し、スリーワンモーター(新東科学社BL300)を用いてプレ分散液を作製した。
作製したプレ分散液500gを、ビーズミル(アシザワファインテック社製 LMZ-015)を用いて、ビーズ径0.3mm、ビーズ充填率80%、周速12m/secで、10分間処理して、電気化学素子用添加剤Aを用いた。
【0095】
(調製例5:電気化学素子用添加剤B(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品X)の調製)
調整例4において、アゾジカルボンアミドをメラミンシアヌレート塩に変更したこと以外は、調整例4と同様の操作を行い、電気化学素子用添加剤B(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品X)を調製した。
【0096】
(調製例6:電気化学素子用添加剤C(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品Y)の調製)
調整例5において、ビーズ径0.3mmをビーズ径0.2mmに変更した以外は、調整例5と同様の操作を行い、電気化学素子用添加剤C(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品Y)を調製した。
【0097】
(実施例1)
<電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製>
プラネタリーミキサーに、正極活物質としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)96部;導電材としてのアセチレンブラック(電気化学工業製、商品名「HS-100」)1部;バインダー組成物としての、結着材(バインダー)としての上記調製例1に従って調製した「ポリマーA(シアノ基含有結着材)」0.5部(固形分換算)、結着材(増粘剤)としての「ポリマーC(特定官能基を有さないポリマーとしてのポリフッ化ビニリデン(PVDF)、クレハ化学製、商品名「L#7208」)」1.5部(固形分換算)、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」1部(固形分換算);を添加し、混合し、さらに、有機溶媒(分散媒)としてのN-メチル-2-ピロリドン(NMP)を徐々に加えて、温度25±3℃、回転数25rpmにて撹拌混合して、B型粘度計、60rpm(ローターM4)にて、25±3℃、粘度を3,600mPa・sとして、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)を得た。得られた電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)について、上記方法に従って、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)のスラリー安定性」を評価した。結果を表1に示す。
【0098】
<正極の製造>
上記に従って得られた電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)を、コンマコーターで、集電体である厚さ20μmのアルミニウム箔の上に、塗布量が20±0.5mg/cmとなるように塗布した。
さらに、200mm/分の速度で、温度90℃のオーブン内を2分間、さらに温度120℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、アルミニウム箔上の電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)を乾燥させ、集電体上に電気化学素子用電極合材層が形成された正極原反を得た。
その後、作製した正極原反の電気化学素子用電極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧14t(トン)の条件でロールプレスし、電気化学素子用電極合材層密度が3.20g/cmの正極を得た。得られた正極について、上記方法に従って、「電極の剥離ピール強度」を評価した。結果を表1に示す。
【0099】
<負極用バインダー組成物の調製>
撹拌機付き5MPa耐圧容器に、芳香族ビニル単量体としてのスチレン65部、脂肪族共役ジエン単量体としての1,3-ブタジエン35部、カルボン酸基含有単量体としてのイタコン酸2部、ヒドロキシル基含有単量体としてのアクリル酸-2-ヒドロキシエチル1部、分子量調整剤としてのt-ドデシルメルカプタン0.3部、乳化剤としてのドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム5部、溶媒としてのイオン交換水150部、および、重合開始剤としての過硫酸カリウム1部を投入し、十分に撹拌した後、温度55℃に加温して重合を開始した。単量体消費量が95.0%になった時点で冷却し、反応を停止した。こうして得られた重合体を含んだ水分散体に、5%水酸化ナトリウム水溶液を添加して、pHを8に調整した。その後、加熱減圧蒸留によって未反応単量体の除去を行った。さらにその後、温度30℃以下まで冷却することにより、負極用バインダーを含む水分散液(負極用バインダー組成物)を得た。
【0100】
<負極用スラリー組成物の調製>
プラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部、天然黒鉛(理論容量:360mAh/g)48.75部と、増粘剤としてカルボキシメチルセルロースを固形分相当で1部とを投入した。さらに、イオン交換水にて固形分濃度が60%となるように希釈し、その後、回転速度45rpmで60分間混練した。その後、上述で得られた負極合材層用バインダー組成物を固形分相当で1.5部投入し、回転速度40rpmで40分間混練した。そして、粘度が3000±500mPa・s(B型粘度計、25℃、60rpmで測定)となるようにイオン交換水を加えることにより、負極用スラリー組成物を調製した。
【0101】
<負極の製造>
上記負極用スラリー組成物を、コンマコーターで、集電体である厚さ15μmの銅箔の表面に、塗付量が11±0.5mg/cmとなるように塗布した。その後、負極合材層用スラリー組成物が塗布された銅箔を、400mm/分の速度で、温度80℃のオーブン内を2分間、さらに温度110℃のオーブン内を2分間かけて搬送することにより、銅箔上のスラリー組成物を乾燥させ、集電体上に負極合材層が形成された負極原反を得た。
その後、作製した負極原反の負極合材層側を温度25±3℃の環境下、線圧11t(トン)の条件でロールプレスし、負極合材層密度が1.60g/cmの負極を得た。
【0102】
<二次電池用セパレータの準備>
単層のポリプロピレン製セパレータ(セルガード製、商品名「#2500」)を準備した。
【0103】
<リチウムイオン二次電池の作製>
上記の正極および負極、並びに、セパレータを用いて、単層ラミネートセル(初期設計放電容量30mAh相当)を作製し、アルミ包材内に配置した。その後、電解液として濃度1.0MのLiPF溶液(溶媒:エチレンカーボネート(EC)/ジエチルカーボネート(DEC)=5/5(体積比)の混合溶媒、添加剤:ビニレンカーボネート2体積%(溶媒比)含有)を充填した。さらに、アルミ包材の開口を密封するために、温度150℃のヒートシールをしてアルミ包材を閉口し、リチウムイオン二次電池を製造した。得られた電気化学素子(リチウムイオン二次電池)について、上記方法に従って、「二次電池の内部短絡発生時のジュール発熱試験」、「二次電池のレート特性」および「二次電池の高温保存特性(容量維持率)」を評価した。結果を表1に示す。
【0104】
(実施例2)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、上記調製例5に従って調製した「電気化学素子用添加剤B(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品X)」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0105】
(実施例3)
実施例2において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例1に従って調製した「ポリマーA(シアノ基含有結着材)」を用いる代わりに、上記調製例2に従って調製した「ポリマーB(シアノ基含有結着材)」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例2と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0106】
(実施例4)
実施例2において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例1に従って調製した「ポリマーA(シアノ基含有結着材)」を用いる代わりに、「ポリマーD(特定官能基を有さないポリマーとしてのポリビニルピロリドン、和光純薬工業株式会社製、商品名「K90」)」を用いたこと以外は、実施例2と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例2と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0107】
(実施例5)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、上記調製例6に従って調製した「電気化学素子用添加剤C(メラミンシアヌレート塩(MC)粉砕精製品Y)」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0108】
(実施例6)
実施例5において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例1に従って調製した「ポリマーA(シアノ基含有結着材)」0.5部(固形分換算)、並びに、「ポリマーC(特定官能基を有さないポリマーとしてのPVDF、クレハ製、商品名「L#7208」)」1.5部(固形分換算)を用いる代わりに、上記調製例2に従って調製した「ポリマーB(シアノ基含有結着材)」0.5部(固形分換算)、並びに、上記調製例3に従って調製した「ポリマーE(シアノ基含有結着材)」1.5部(固形分換算)を用いたこと以外は、実施例5と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例5と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0109】
(実施例7)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、「電気化学素子用添加剤D(膨張黒鉛)」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0110】
(実施例8)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、「メラミンシアヌレート塩(MC)(日産化学製、商品名「MC-6000」)」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0111】
(比較例1)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、「アゾジカルボンアミド(ADCA)(永和化成工業製、商品名「ビニホールAC#3C-K2」)」を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0112】
(比較例2)
実施例1において、電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製の際に、上記調製例4に従って調製した「電気化学素子用添加剤A(アゾジカルボンアミド(ADCA)粉砕精製品)」を用いる代わりに、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)(和光純薬製、試薬)を用いたこと以外は、実施例1と同様にして、「電気化学素子用スラリー組成物(二次電池正極用スラリー組成物)の調製」、「正極の製造」、「負極用バインダー組成物の調製」、「負極用スラリー組成物の調製」、「負極の製造」、「二次電池用セパレータの準備」、および「リチウムイオン二次電池の作製」を行った。そして、実施例1と同様にして評価を行なった。結果を表1に示す。
【0113】
なお、以下に示す表1中、
「ADCA」は、アゾジカルボンアミドを示し、
「MC」は、メラミンシアヌレートを示し、
「NaHCO」は、炭酸水素ナトリウムを示し、
「NMC」は、正極活物質としてのCo-Ni-Mnのリチウム複合酸化物系の活物質NMC532(LiNi0.5Mn0.3Co0.2)を示す。
【0114】
【表1】
【0115】
なお、表1中、例えば、「最大10ppm」は、各元素の含有量の最大値が10ppmであることを示し、また、「全て1ppm以下(検出限界以下)」は、各元素の全てが1ppm以下(検出限界以下)であることを示す。
【0116】
表1より、体積膨張倍率が2倍以上となる温度が所定範囲内であり、(A)周期表の第2族に属する各元素の含有量、(B)周期表の第17族に属する各元素の含有量、並びに、(C)Cr、Mn、Fe、Co、Ni、CuおよびZnの各元素の含有量が、それぞれ、所定値未満である電気化学素子用添加剤を用いた実施例1~8では、当該電気化学素子用添加剤を用いていない比較例1~2に比して、電気化学素子(リチウムイオン二次電池)電気化学素子の高度な安全性を確保し得る(二次電池の内部短絡発生時のジュール発熱を抑制し、且つ、高温保存特性(容量維持率)を向上させ得る)ことが分かる。
【産業上の利用可能性】
【0117】
本発明によれば、電気化学素子の高度な安全性を確保し得る、電気化学素子用添加剤、電気化学素子用バインダー組成物、電気化学素子用スラリー組成物、および電気化学素子用電極を提供することができる。
また、本発明によれば、安全性が高度に確保された電気化学素子を提供することができる。