(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】重合性組成物、インクジェット用インク、耐熱性可溶部材、支持部付き立体構造物、および立体造形物の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/46 20060101AFI20230719BHJP
B29C 64/40 20170101ALI20230719BHJP
B29C 64/112 20170101ALI20230719BHJP
B33Y 80/00 20150101ALI20230719BHJP
B29C 64/314 20170101ALI20230719BHJP
C08F 220/10 20060101ALI20230719BHJP
C08F 220/54 20060101ALI20230719BHJP
C08F 226/00 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
C08F2/46
B29C64/40
B29C64/112
B33Y80/00
B29C64/314
C08F220/10
C08F220/54
C08F226/00
(21)【出願番号】P 2020525573
(86)(22)【出願日】2019-06-11
(86)【国際出願番号】 JP2019023011
(87)【国際公開番号】W WO2019240106
(87)【国際公開日】2019-12-19
【審査請求日】2021-12-28
(31)【優先権主張番号】P 2018113291
(32)【優先日】2018-06-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】311002067
【氏名又は名称】JNC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100135183
【氏名又は名称】大窪 克之
(72)【発明者】
【氏名】杉原 克幸
(72)【発明者】
【氏名】伊丹 節男
【審査官】佐藤 貴浩
(56)【参考文献】
【文献】特開2015-123684(JP,A)
【文献】国際公開第2017/146423(WO,A1)
【文献】特開平03-203915(JP,A)
【文献】特開2002-086574(JP,A)
【文献】特開2004-122580(JP,A)
【文献】特開2017-222049(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 2/00- 2/60
C08F220/00-220/70
C08F226/00-226/12
B29C 64/00- 64/40
B33Y 80/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
耐熱性可溶部材を形成するための重合性組成物であって、
単官能型アクリル酸エステル化合物および単官能型アクリルアミド化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物からなる単官能型アクリル系化合物と、
単官能型N-ビニル化合物と、
電離放射線の照射によりラジカルを発生する重合開始剤と、
を含有する
重合性組成物であって、
前記単官能型アクリル系化合物は、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、ポリオキシエチレンモノアクリレート、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミド及び(メタ)アクリロイルモルフォリンからなる群から選ばれる1種以上からなり、
前記単官能型N-ビニル化合物はN-ビニル-2-ピロリドンを含まず、
前記重合性組成物の電離放射線硬化物からなる耐熱性可溶部材は、大気中において150℃で2時間加熱された後でも水系溶解液に可溶であることを特徴とする重合性組成物。
【請求項2】
前記単官能型N-ビニル化合物が単官能型N-ビニルアミド化合物である、請求項1に記載の重合性組成物。
【請求項3】
前記単官能型N-ビニルアミド化合物がN-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-ε-カプロラクタムから選ばれる1種または2種以上の化合物からなる、請求項2に記載の重合性組成物。
【請求項4】
60℃における粘度が15mPa・s以下である、請求項1から請求項3のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項5】
前記重合性組成物全体に対して30質量%以下の揮発性溶剤を含有する、請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の重合性組成物。
【請求項6】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載される重合性組成物からなるインクジェット用インク。
【請求項7】
請求項1から請求項5のいずれか一項に記載される重合性組成物の電離放射線硬化物からなる
耐熱性可溶部材。
【請求項8】
前記水系溶解液は水-アルコール混合液である、請求項7に記載の耐熱性可溶部材。
【請求項9】
前記水系溶解液はpHが8以下である、請求項7または請求項8に記載の耐熱性可溶部材。
【請求項10】
立体造形物を与える本体部と、前記本体部を支える支持部と、を備え、
前記支持部は、請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の耐熱性可溶部材からなること
を特徴とする支持部付き立体構造物。
【請求項11】
立体造形物の製造方法であって、
前記立体造形物を与える本体部を形成するための第1液状組成物および前記本体部を支える支持部を形成するための第2液状組成物を用いて、前記本体部が前記支持部により支持された状態にある支持部付き立体構造物を積層造形法により形成する造形工程と、
前記支持部付き立体構造物の前記支持部を水系溶解液にて溶解除去して前記立体造形物を得る除去工程と、を備え、
前記第2液状組成物は、請求項1から請求項5のいずれか一項に記載される重合性組成物からなり、前記支持部は、請求項7から請求項9のいずれか一項に記載の耐熱性可溶部材からなること
を特徴とする立体造形物の製造方法。
【請求項12】
前記造形工程の後、前記除去工程の開始前に、前記支持部付き立体構造物を加熱して前記本体部の物性を変化させる加熱工程をさらに備える、請求項11に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合性組成物、上記の重合性組成物からなるインクジェット用インク、上記の重合性組成物の電離放射線硬化物からなる耐熱性可溶部材、上記の耐熱性可溶部材を支持部として備える支持部付き立体構造物、および上記の重合性組成物を用いる立体造形物の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、立体構造物の製造方法として、積層造形法と呼ばれる製品の三次元CADデータをスライスした、薄板を重ねたような元データを作成し、ラジカル重合性化合物やカチオン重合性化合物を用いた光硬化性樹脂組成物からなる薄膜に光を照射し硬化させる工程を複数回繰り返すことにより、所望の形状の立体構造物を製造する光学的立体造形法が提案されている。かかる光学的立体造形法により立体構造物を製造する装置としてより安価なものが市場に出回るようになり、例えば試作品の製造などの工業的用途だけでなく、一般家庭でも利用が可能であるというような用途の拡大が期待されている。例えば、このような積層造形法では特定のラジカル重合性化合物を用いることで、造形物の寸法精度や、生産性を向上させることができる(特許文献1)。
【0003】
ここで、光学的立体造形法を用いて最終的に製造される立体構造物(立体造形物)の形状が複雑であると、光学的立体造形法により作製された構造体(本体部)の段階では自重を支えることが困難な状態を経る場合がある。このような場合には、本体部の形状を維持する観点から、本体部を支える支持部を、本体部とともに光学的立体造形法により作成することがある。こうして得られた本体部と支持部とからなる支持部付き立体構造物は、最終工程として支持部付き立体構造物から支持部を除去することにより、光造形物を得ることができる。このような製造方法において支持部を形成可能な組成物として、硬化後に水系溶解液に溶解性が良好な光硬化性液状樹脂組成物が例えば特許文献2に開示されている。
【0004】
一方、光学的立体造形法を含む製造方法により製造された立体造形物をワーキングモデルとして用いるためには、使用条件に耐え得る十分な機械的強度や耐熱性を有していることが要求される。この目的で、光学的立体造形法により作成された構造体(本体部)に加熱や光照射などのポストキュアーを行う場合があり(例えば特許文献3)、加熱によるポストキュアーであるポストベークの実施を前提とする感光性樹脂組成物も提案されている(例えば特許文献4)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2008-189782号公報
【文献】特開2010-155889号公報
【文献】特開2013-023574号公報
【文献】特開2013-194205号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
特許文献4に示されるようなポストベークを前提とする組成物を用いて本体部を形成する場合であっても、特許文献2に記載されるような支持体を光学的立体造形法により形成することが必要なことがある。この際に、光学的立体造形法により形成された支持部付き立体構造物からポストベークを行う前に支持部を除去してしまうと、本体部が自重に耐えられず破損してしまう可能性がある。したがって、ポストベークを前提とする組成物から形成された本体部を備える支持部付き立体構造物を光学的立体造形法により形成した場合には、支持部もポストベークされることになる。このポストベークは支持部の溶解性に影響を与える可能性があるが、この点についての十分な検討はなされていない。
【0007】
このように、重合性組成物に電離放射線を照射して得られた電離放射線硬化物の温度を高める処理(熱処理)が行われた場合であっても、その熱処理後の電離放射線硬化物について水系の溶解液に対する適切な溶解性が求められることがある。この熱処理は、電離放射線硬化物を積極的に加熱する目的でなく行われる場合がある。そのような場合の具体例として、電離放射線硬化物が形成された基板の他の部分に設けられた部材(はんだなど)を加熱する目的で基板全体を加熱する場合が挙げられる。また、電離放射線硬化物が形成された基板に対してドライプロセスによる製膜が行われると、堆積させる材料(金属など)が高温で電離放射線硬化物に接するために電離放射線硬化物の温度が高まる場合が、別の例として挙げられる。なお、本明細書において、「電離放射線」とは、γ線、X線、紫外線、可視光などの電磁波、および電子、さらには陽子やイオンなど、重合開始剤に照射されたり衝突したりすることによりラジカルを発生させることができるエネルギー源の総称を意味する。
【0008】
本発明は、かかる現状を鑑み、ポストベークのような熱処理を経ても水系溶解液への溶解性を適切に維持する硬化物(耐熱性可溶部材)を形成可能な重合性組成物を提供することを目的とする。本発明は、上記の重合性組成物からなるインクジェット用インク、上記の重合性組成物の硬化物からなる耐熱性可溶部材、上記の耐熱性可溶部材からなる支持部を備える支持部付き立体構造物、および上記の重合性組成物を用いる立体造形物の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、提供される本発明は次のとおりである。
[1]耐熱性可溶部材を形成するための重合性組成物であって、単官能型アクリル酸エステル化合物および単官能型アクリルアミド化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物からなる単官能型アクリル系化合物と、単官能型N-ビニル化合物と、電離放射線の照射によりラジカルを発生する重合開始剤と、を含有することを特徴とする重合性組成物。
[2]前記単官能型N-ビニル化合物が単官能型N-ビニルアミド化合物である、上記[1]に記載の重合性組成物。
[3]前記単官能型N-ビニルアミド化合物がN-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-ε-カプロラクタムから選ばれる1種または2種以上の化合物からなる、上記[2]に記載の重合性組成物。
[4]60℃における粘度が15mPa・s以下である、上記[1]から上記[3]のいずれかに記載の重合性組成物。
[5]前記重合性組成物全体に対して30質量%以下の揮発性溶剤を含有する、上記[1]から上記[4]のいずれかに記載の重合性組成物。
[6]上記[1]から上記[5]のいずれかに記載される重合性組成物からなるインクジェット用インク。
[7]上記[1]から上記[5]のいずれかに記載される重合性組成物の電離放射線硬化物からなる耐熱性可溶部材であって、大気中において150℃で2時間加熱された後でも水系溶解液に可溶である耐熱性可溶部材。
[8]前記水系溶解液は水-アルコール混合液である、上記[7]に記載の耐熱性可溶部材。上記のアルコールは、水に対する混和性を有しているアルコールであることが好ましく、炭素数が4以下のアルコールであることがより好ましい。
[9]前記水系溶解液はpHが8以下である、上記[7]または上記[8]に記載の耐熱性可溶部材。
[10]立体造形物を与える本体部と、前記本体部を支える支持部と、を備え、前記支持部は、上記[7]から上記[9]のいずれかに記載の耐熱性可溶部材からなることを特徴とする支持部付き立体構造物。
[11]立体造形物の製造方法であって、前記立体造形物を与える本体部を形成するための第1液状組成物および前記本体部を支える支持部を形成するための第2液状組成物を用いて、前記本体部が前記支持部により支持された状態にある支持部付き立体構造物を積層造形法により形成する造形工程と、前記支持部付き立体構造物の前記支持部を水系溶解液にて溶解除去して前記立体造形物を得る除去工程と、を備え、前記第2液状組成物は、上記[1]から上記[5]のいずれかに記載される重合性組成物からなり、前記支持部は、上記[7]から上記[9]のいずれかに記載の耐熱性可溶部材からなること
を特徴とする立体造形物の製造方法。
[12]前記造形工程の後、前記除去工程の開始前に、前記支持部付き立体構造物を加熱して前記本体部の物性を変化させる加熱工程をさらに備える、上記[11]に記載の立体造形物の製造方法。
【発明の効果】
【0010】
本発明によれば、加熱工程を経ても水系溶解液への溶解性を適切に維持する硬化物(耐熱性可溶部材)を形成可能な重合性組成物が提供される。また、本発明によれば、上記の重合性組成物からなるインクジェット用インク、上記の重合性組成物の電離放射線硬化物からなる耐熱性可溶部材、上記の耐熱性可溶部材からなる支持部を備える支持部付き立体構造物、および立体造形物の製造方法が提供される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
以下、本発明の実施形態に係る重合性組成物、インクジェット用インク、耐熱性可溶部材、支持部付き立体構造物、および立体造形物の製造方法について説明する。
【0012】
本発明の一実施形態に係る重合性組成物は耐熱性可溶部材を形成するためのものであって、単官能型アクリル酸エステル化合物および単官能型アクリルアミド化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物からなる単官能型アクリル系化合物と、単官能型N-ビニル化合物と、電離放射線の照射によりラジカルを発生する重合開始剤と、を含有する。
【0013】
単官能型アクリル系化合物は、単官能型アクリル酸エステル化合物および単官能型アクリルアミド化合物からなる群から選ばれる1種または2種以上の化合物からなる。単官能型アクリル酸エステル化合物は、(メタ)アクリル酸エステルまたは(メタ)アクリル酸エステルに基づく部分構造を有し、エチレン性二重結合を分子内に1つ有する化合物である。なお、本明細書中、「アクリル酸」および「メタアクリル酸」の一方または両方を示すために、「(メタ)アクリル酸」のように表記することがある。(メタ)アクリル酸に関連する用語、例えば、「(メタ)アクリレート」、「(メタ)アクリロキシ」も同様の意味を有する。
【0014】
重合性組成物に電離放射線が照射されてなる電離放射線硬化物の水系溶解液への溶解性を確保する観点から、単官能型アクリル酸エステル化合物は、ヒドロキシル基(-OH)を有することが好ましい。そのようなヒドロキシル基(-OH)含有単官能型アクリル酸エステル化合物の具体例として、2-ヒドロキシエチル(メタ)アクリレート、2-ヒドロキシプロピル(メタ)アクリレート、4-ヒドロキシブチル(メタ)アクリレート、1,4-シクロヘキサンジメタノールモノ(メタ)アクリレート、N-ヒドロキシエチル(メタ)アクリルアミド、およびポリオキシエチレンモノアクリレートが挙げられる。これらの中でも、比較的揮発しにくく、それゆえ重合性組成物の組成安定性を確保しやすい観点から、4-ヒドロキシブチルアクリレートおよび1,4-シクロヘキサンジメタノールモノアクリレートが好ましく、得られる電離放射線硬化物の水系溶解液に対する溶解のし易さの観点から4-ヒドロキシブチルアクリレートが特に好ましい。
【0015】
単官能型アクリルアミド化合物の具体例として、N-イソプロピルアクリルアミド、N,N-ジメチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジメチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチル(メタ)アクリルアミド、N,N-ジエチルアミノエチル(メタ)アクリルアミド、およびN,N-ジメチルアミノプロピル(メタ)アクリルアミドならびに(メタ)アクリロイルモルフォリンが挙げられる。これらの中でも、比較的揮発しにくく、それゆえ重合性組成物の組成安定性を確保しやすい観点から、(メタ)アクリロイルモルフォリンが好ましい。
【0016】
単官能型N-ビニル化合物は、エチレン性不飽和基がアミノ基に結合した構造を有する化合物であって、アミノ基はカルボニル基とアミド結合を構成していてもよい。本明細書において、このようなエチレン性不飽和基が結合したアミノ基がアミド結合を構成している単官能型化合物を「単官能型N-ビニルアミド化合物」ともいう。単官能型N-ビニルアミド化合物は単官能型N-ビニル化合物の好ましい一例である。単官能型N-ビニルアミド化合物の具体例として、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-ε-カプロラクタムなどが挙げられ、単官能型N-ビニルアミド化合物以外の単官能型N-ビニル化合物の具体例として、1-ビニルイミダゾールおよび9-ビニルカルバゾールが挙げられる。これらの化合物の中でも、得られる電離放射線硬化物の水系溶解液に対する溶解のし易さの観点から、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミド、N-ビニル-ε-カプロラクタムおよび1-ビニルイミダゾールが好ましく、製品の輸送上の制限の観点から、N-ビニルホルムアミド、N-ビニルアセトアミドおよびN-ビニル-ε-カプロラクタムが特に好ましい。
【0017】
重合開始剤は、電離放射線の照射によりラジカルを生成可能であって、上記の単官能型アクリル系化合物および単官能型N-ビニル化合物の重合反応を開始することができる限り、種類は限定されない。重合開始剤の含有量も単官能型アクリル系化合物および単官能型N-ビニル化合物の種類および含有量ならびに重合開始剤の種類に応じて適宜設定される。限定されない例示をすれば、硬化剤の含有量は、重合性組成物の全体量に対して、0.1~10重量部が好ましく、0.1~5重量部がより好ましく、0.1~4重量部が特に好ましい。
【0018】
重合開始剤の具体例として、ベンゾフェノン、ミヒラーズケトン、4,4’-ビス(ジエチルアミノ)ベンゾフェノン、キサントン、チオキサントン、イソプロピルキサントン、2,4-ジエチルチオキサントン、2-エチルアントラキノン、アセトフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチルプロピオフェノン、2-ヒドロキシ-2-メチル-4’-イソプロピルプロピオフェノン、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、イソプロピルベンゾインエーテル、イソブチルベンゾインエーテル、2,2-ジエトキシアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-2-フェニルアセトフェノン、2,2-ジメトキシ-1,2-ジフェニルエタン-1-オン、カンファーキノン、ベンズアントロン、2-ヒロドキシ-1-[4-[4-(2-ヒドロキシ-2-メチル-プロピオニル)-ベンジル]フェニル]-2-メチル-プロパン-1-オン、1-[4-(2-ヒドロキシエトキシ)-フェニル]-2-ヒドロキシ-2-メチル-1-プロパン-1-オン、2-ヒドロキシ-2-メチル-1-フェニル-プロパン-1-オン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルフォリノ-1-プロパノン、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-(2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ)-エチルエステル、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-エチルエステル、オキシ-フェニル-アセチックアシッド2-(2-オキソ-2-フェニル-アセトキシ-エトキシ)-エチルエステルとオキシ-フェニル-アセチックアシッド2-(2-ヒドロキシ-エトキシ)-エチルエステルとの混合物、フェニルグリオキシリックアシッドメチルエステル、4-ジメチルアミノ安息香酸エチル、4-ジメチルアミノ安息香酸イソアミル、4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4,4’-トリ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’,4,4’-テトラ(t-ヘキシルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,3’-ジ(メトキシカルボニル)-4,4’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、3,4’-ジ(メトキシカルボニル)-4,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、4,4’-ジ(メトキシカルボニル)-3,3’-ジ(t-ブチルペルオキシカルボニル)ベンゾフェノン、2-(4’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(3’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’,4’-ジメトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(2’-メトキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、2-(4’-ペンチルオキシスチリル)-4,6-ビス(トリクロロメチル)-s-トリアジン、4-[p-N,N-ジ(エトキシカルボニルメチル)]-2,6-ジ(トリクロロメチル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(2’-クロロフェニル)-s-トリアジン、1,3-ビス(トリクロロメチル)-5-(4’-メトキシフェニル)-s-トリアジン、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズオキサゾール、2-(p-ジメチルアミノスチリル)ベンズチアゾール、2-メルカプトベンゾチアゾール、3,3’-カルボニルビス(7-ジエチルアミノクマリン)、2-(o-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2-クロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラキス(4-エトキシカルボニルフェニル)-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4-ジブロモフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、2,2’-ビス(2,4,6-トリクロロフェニル)-4,4’,5,5’-テトラフェニル-1,2’-ビイミダゾール、3-(2-メチル-2-ジメチルアミノプロピオニル)カルバゾール、3,6-ビス(2-メチル-2-モルフォリノプロピオニル)-9-n-ドデシルカルバゾール、1-ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、ビス(η5-2,4-シクロペンタジエン-1-イル)-ビス(2,6-ジフルオロ-3-(1H-ピロール-1-イル)-フェニル)チタニウム、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)フェニルフォスフィンオキサイドおよび2,4,6-トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイドを挙げることができる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することも有効である。中でも、2-ベンジル-2-ジメチルアミノ-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-ジメチルアミノ-2-(4-メチルベンジル)-1-(4-モルフォリノフェニル)-1-ブタノン、2-メチル-1-[4-(メチルチオ)フェニル]-2-モルホリノ-1-プロパノン、ビス(2,4,6-トリメチルベンゾイル)-フェニルフォスフィンオキサイド、2,4,6-トリメチルベンゾイル-ジフェニル-フォスフィンオキサイドはUV-LED光源に対する感度が高く、光硬化性の観点から好ましい。
【0019】
本実施形態に係る重合性組成物は、電離放射線硬化物の形成工程を簡素にする観点から揮発性溶剤を実質的に含有しなくてもよいが、重合性組成物の粘度を調整する観点などから揮発性溶剤を含有していてもよい。揮発性溶剤は使用の際に他の組成物と混合されて重合性組成物を構成してもよい。重合性組成物が揮発性溶剤を含有する場合において、揮発性溶剤は、重合性組成物が未硬化の状態で揮発を開始してもよく、電離放射線の照射の前、途中、および/または後に適宜加熱することによって少なくとも電離放射線硬化物が形成された段階では揮発していることが好ましい。重合性組成物がある程度硬化した状態でも未揮発の溶剤が過度に残留していると、最終的な硬化物(電離放射線硬化物)がポーラスな構造を有し、機械的強度が低下する場合がある。したがって、揮発性溶剤の含有量は、重合性組成物全体に対して30質量%以下であることが好ましい。
【0020】
揮発性溶剤の具体例として、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジフェニルエーテル、ジメトキシベンゼン、アセトン、メタノール、エタノール、イソプロパノール、ブチルアルコール、t-ブチルアルコール、ベンジルアルコール、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、アセトニトリル、プロピオニトリル、ベンゾニトリル、エチレンカーボネーツ、プロピレンカーボネート、酢酸エチル、酢酸イソブチル、酢酸ブチル、プロピオン酸ブチル、乳酸エチル、オキシ酢酸メチル、オキシ酢酸エチル、オキシ酢酸ブチル、メトキシ酢酸メチル、メトキシ酢酸エチル、メトキシ酢酸ブチル、エトキシ酢酸メチル、エトキシ酢酸エチル、3-オキシプロピオン酸メチル、3-オキシプロピオン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸メチル、2-オキシプロピオン酸エチル、2-オキシプロピオン酸プロピル、2-メトキシプロピオン酸メチル、2-メトキシプロピオン酸エチル、2-メトキシプロピオン酸プロピル、2-エトキシプロピオン酸メチル、2-エトキシプロピオン酸エチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-オキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、2-メトキシ-2-メチルプロピオン酸メチル、2-エトキシ-2-メチルプロピオン酸エチル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、ピルビン酸プロピル、アセト酢酸メチル、アセト酢酸エチル、2-オキソブタン酸メチル、2-オキソブタン酸エチル、2-ヒドロキシイソ酪酸メチル、ジオキサン、エチレングリコール、エチレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、トリプロピレングリコール、1,4-ブタンジオール、エチレングリコールモノイソプロピルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノプロピルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、ジエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、ジエチレングリコールエチルメチルエーテル、テトラエチレングリコールジメチルエーテル、トルエン、キシレン、アニソール、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルアセトアミド、N,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドンおよびジメチルイミダゾリジノンなどが挙げられる。これらの化合物は単独で使用してもよく、2つ以上を混合して使用することも有効である。
【0021】
本実施形態に係る重合性組成物は、上記の成分以外をその他の添加剤として含んでもよい。その他の添加剤の具体例として、界面活性剤、重合禁止剤、可塑剤、酸化防止剤、紫外線吸収剤、帯電防止剤、難燃剤、難燃助剤、充填剤、顔料、染料などが挙げられるが、本発明の趣旨を逸脱しない範囲内において、その他の成分と均一に混合することが可能であり、適切に硬化可能であれば特に限定されない。具体例として、シリカ粒子などの透光性粒子からなる充填剤が挙げられる。こうした充填剤は、重合性組成物の硬化を妨げることなく、電離放射線硬化物の機械強度を高めることができる。
【0022】
本実施形態に係る重合性組成物は、使用に際して、塗布、滴下などによって基材上に供給されることにより、重合組成物は膜状の形状あるいは所定のパターンを基材上で有することになる。こうした基材上への重合組成物の供給しやすさを高める観点から、本実施形態に係る重合性組成物の25℃における粘度は100mPa・s以下であることが好ましい場合がある。特に、重合組成物の基材上への供給がインクジェットプリンタによって行われる場合には、上記の粘度範囲を満たすことが好ましい。さらに、本実施形態に係る樹脂組成物からなるインクジェット用インクは、吐出温度(例えば60℃)における粘度が15mPa・s以下であることが好ましく、10mPa・s以下であることが特に好ましい。
【0023】
本実施形態に係る重合性組成物は電離放射線を照射されることによって、硬化し、電離放射線硬化物となる。かかる電離放射線硬化物は、大気中において150℃で2時間加熱された後でも水系溶解液に可溶である。水系溶解液は、水を含有する溶解液であり、水から構成されていてもよいが、極性溶媒との混合溶媒であることが好ましく、アルコールのようなプロトン性極性溶媒と水との混合液であることがより好ましい。混合液の均一性を高める観点などから、アルコールは、水への溶解度が高い、すなわち水に対する混和性を有することが好ましい。水系溶解液における水の含有量は、水系溶解液に含有される水以外の成分の種類や、電離放射線硬化物の組成によって適宜設定される。水系溶解液が水とアルコールとの混合液である水-アルコール混合液からなる場合であって、水-アルコール混合液に含まれるアルコールが、エタノールやイソプロパノールのような炭素数4以下の物質からなる場合には、アルコールの含有量は、25体積%以上90体積%以下であることが好ましいことがあり、50体積%以上85体積%以下であることがより好ましいことがあり、70体積%以上80体積%以下であることが特に好ましいことがある。
【0024】
水系溶解液は、アルコール以外の有機溶媒を含有してもよい。そのような有機溶媒として、N-メチルピロリドン、アセトン、アセトニトリル、ジメチルスルホキシドなどの非プロトン性の有機溶媒が例示される。環境負荷を低減させる観点から、水系溶解液におけるアルコール以外の有機溶媒の含有量は、水系溶解液全体の20体積%以下で含有することが好ましい。
【0025】
水系溶解液はアルカリフリー、すなわち非アルカリであることが好ましい場合がある。水系溶解液をアルカリ性にするために水系溶解液が水酸化ナトリウムなどの無機アルカリ性物質やテトラメチルアンモニウムヒドロキシドなどの有機アルカリ性物質を含有する場合には、水系溶解液の取り扱い性が低下することもある。なお、一般的なアルカリ系の溶解液はpHが9以上であるから、本明細書においてアルカリフリーな水系溶解液とはpHが9未満であることを意味する。アルカリフリーであることをより確実にする観点から、水系溶解液のpHは8以下であることが好ましく、7.5以下であることがより好ましい。
【0026】
本実施形態に係る電離放射線硬化物は、加熱されても形状変化しにくい。具体例を挙げれば、本実施形態に係る電離放射線硬化物がガラス基板上に形成された厚さ13~18μmの膜形状を有する場合に、大気中において150℃で2時間加熱されても、(熱処理後の厚さ)/(熱処理後の厚さ)により定義される残膜率が80%以上であり、好ましい一例では85%以上であり、より好ましい一例では90%以上である。したがって、電離放射線硬化物からなる可溶性部材が加熱された場合であっても、可溶性部材の形状が変化しにくい。
【0027】
以下、本実施形態に係る重合性組成物を用いて立体造形物を製造する方法について説明する。本実施形態に係る重合性組成物に電離放射線を照射して得られる電離放射線硬化物は、上記のとおり、150℃程度に2時間加熱された場合であっても、水系溶解液に対する溶解性を適切に維持することができるため、耐熱性可溶部材として用いることができる。したがって、重合性組成物を用いて立体的な構造物を形成する立体造形を行う際に、製造過程にある構造物を支える支持部として、本実施形態に係る電離放射線硬化物からなる耐熱性可溶部材は好適である。
【0028】
具体的には、立体構造物の製造方法は次の造形工程と除去工程とを備え、必要に応じ加熱工程をさらに備える。
【0029】
まず、造形工程では、立体造形によって最終的に得られる立体造形物を与える本体部を形成するための第1液状組成物およびこの本体部を支える支持部を形成するための第2液状組成物を用いて、本体部が支持部により支持された状態にある支持部付き立体構造物を積層造形法により形成する。
【0030】
第1液状組成物は、積層造形法において一般的に使用される、エチレン性不飽和結合を複数有する多官能型重合性物質と、硬化のために用いられる電離放射線(例えばLEDランプからの光)に対して適切な感度を有した重合開始剤とを含有する。第1液状組成物は、必要に応じて、充填剤(シリカや二酸化チタンなどの無機粒子が具体例として挙げられる。)を含有していてもよいし、塗料や顔料などを含有して着色されていてもよい。第2液状組成物は、前述の本実施形態に係る重合性組成物からなる。
【0031】
第1液状組成物のパターンおよび第2液状組成物のパターンはいずれもインクジェットプリンタで形成することが、製造プロセスの簡略化の観点から好ましい。第1液状組成物のパターンおよび第2液状組成物のパターンに対して電離放射線を照射することにより、第1液状組成物のパターンは本体部となる硬化物となり、第2液状組成物のパターンは支持部となる硬化物(耐熱性可溶部材)となる。
【0032】
こうして積層造形法によって本体部およびこれを支える支持部とからなる支持部付き立体構造物が得られたら、支持部付き立体構造物を加熱して、本体部の物性を変化させる加熱工程を行う。この場合の物性の具体例として、具体的には曲げ剛性などの機械特性が挙げられる。上記のように、本体部を形成するための第1液状組成物は重合性物質を有するため、電離放射線の照射により得られた硬化物を加熱することによって重合の程度をさらに進ませて、上記の機械特性を高めることができる。このように加熱により本体部の機械特性が向上した結果、支持部による支持を必要としない程度まで本体部の剛性が高くなってもよい。このような本体部のポストキュアーを例えばバッチ処理で行うことにより、積層造形法のための作業時間を短縮することができ、立体造形物の生産性が高まる場合もある。
【0033】
最後に、支持部付き立体構造物の支持部を水系溶解液にて溶解除去して本体部に基づく立体造形物を得る除去工程を行う。除去工程では、支持部付き立体構造物に対して、上記の水系溶解液を接触させる(具体的には、水系溶解液が入った容器に支持部付き立体構造物を浸漬させたり、支持部付き立体構造物に対して水系溶解液を吹き付けたりすればよい。)ことにより、支持部のみが選択的に溶解して、本体部に基づく立体構造物が立体造形物として得られる。
【0034】
本発明について上記実施形態を参照しつつ説明したが、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、改良の目的または本発明の思想の範囲内において改良または変更が可能である。例えば、本体部が開口を有する中空部を有している場合に、その中空部の少なくとも一部を充填するように本発明に係る重合性組成物の電離放射線硬化物(耐熱性可溶部材)が位置して、中空部を構成する壁部の破損を保護するように使用されれば、その耐熱性可溶部材は本発明の一実施形態に係る支持部である。
【0035】
あるいは、本実施形態に係る耐熱性可溶部材を保護材や仮固定材として用いてもよい。例えば、他の部材との衝突により割れ、欠けなどの欠損部が生じることが懸念される部材の表面に本実施形態に係る耐熱性可溶部材を保護材として設けることにより、その部材を欠損から保護することができる。また別の例として、外力が付与されたときに容易に変位して部材中の他の部位に衝突することが懸念される部位(具体例として舌状体やダイヤフラムが挙げられる。)を有する部材に対して、その部位の変位が抑制されるように本実施形態に係る耐熱性可溶部材を用いてその部位を仮固定することにより、その部材が輸送などの外力が付与された状態に置かれても破損しにくくなる。こうして保護・仮固定された部材は、保護や仮固定が不要となったら、本実施形態に係る耐熱性可溶部材を溶解除去することにより、本来の機能を適切に果たすことが可能となる。
【実施例】
【0036】
以下、実施例等により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明の範囲はこれらの実施例等に限定されるものではない。
【0037】
(実施例1)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルホルムアミド(NVF)を3.55質量部と、重合開始剤としてIRGACURE 379EG(BASF社製、以下、「IRG379」と略す。)を1.27質量部と、界面活性剤としてBYK342(ビックケミー・ジャパン社製)を0.0053質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。樹脂組成物において、単官能型アクリル系化合物と単官能型N-ビニル化合物とは当モル(モル比が1:1)であった。以下の他の実施例および比較例においても、樹脂組成物に含有されるエチレン性不飽和結合を有する2種類の化合物は、それぞれの化合物のエチレン性不飽和結合の数が互いに等しくなるように(官能基数として当モルになるように)、樹脂組成物における各化合物の含有量を設定した。樹脂組成物において、重合開始剤は、単官能型アクリル系化合物と単官能型N-ビニル化合物との合計質量部の12%に相当する量であり、界面活性剤は、単官能型アクリル系化合物と単官能型N-ビニル化合物との合計質量部の500ppmに相当する量であった。以下の他の実施例および比較例においても、重合開始剤の含有量および界面活性剤の含有量は、上記の合計質量部の関係をそれぞれ満たすように設定された。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は10.4mPa・sであり、30℃では8.8mPa・sであった。したがって、実施例1に係る樹脂組成物は、30℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0038】
(実施例2)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニル-ε-カプロラクタム(NVC)を6.96質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.68質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0070質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は10.8mPa・sであり、30℃では9.0mPa・sであった。したがって、実施例2に係る樹脂組成物は、30℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0039】
(実施例3)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルアセトアミド(NVAc)を4.26質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.36質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0057質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は6.8mPa・sであった。したがって、実施例3に係る樹脂組成物は、25℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0040】
(実施例4)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルイミダゾール(NVIM)を4.71質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.41質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0059質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は7.5mPa・sであった。したがって、実施例4に係る樹脂組成物は、25℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0041】
(実施例5)
単官能型アクリル系化合物として4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)を7.21質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルホルムアミド(NVF)を3.55質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.29質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0054質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は9.0mPa・sであった。したがって、実施例5に係る樹脂組成物は、25℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0042】
(実施例6)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてジエチルアクリルアミド(DEAA)を6.36質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルホルムアミド(NVF)を3.55質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.19質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0050質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は3.7mPa・sであった。したがって、実施例6に係る樹脂組成物は、25℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適であった。
【0043】
(比較例1)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、単官能型アクリル系化合物として4-ヒドロキシブチルアクリレート(4HBA)を7.21質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.71質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0071質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は12.8mPa・sであり、40℃では7.9mPa・sであった。したがって、比較例1に係る樹脂組成物は、40℃以上であれば、インクジェット用のインクとして特に好適である。
【0044】
(比較例2)
単官能型アクリル系化合物の一種である単官能型アクリルアミド化合物としてアクリロイルモルフォリン(ACMO)を7.06質量部と、二官能型アクリル系化合物としてポリエチレングリコール#400ジアクリレート(9EG-A)を6.53質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.21質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0071質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。官能基の数が等しくなるように、樹脂組成物における単官能型アクリル系化合物と二官能型アクリル系化合物とのモル比を1:0.5とした。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は52.8mPa・sであり、60℃では14.9mPa・sであった。したがって、比較例2に係る樹脂組成物は、60℃以上であれば、インクジェット用のインクとして好適である。
【0045】
(比較例3)
二官能型アクリル系化合物としてポリエチレングリコール#400ジアクリレート(9EG-A)を6.53質量部と、単官能型N-ビニル化合物としてN-ビニルホルムアミド(NVF)を1.78質量部と、重合開始剤としてIRG379を1.00質量部と、界面活性剤としてBYK342を0.0042質量部とを含有する樹脂組成物を調製した。官能基の数が等しくなるように、樹脂組成物における二官能型アクリル系化合物と単官能型N-ビニル化合物とのモル比を0.5:1とした。得られた樹脂組成物の25℃における粘度は52.8mPa・sであり、60℃では14.6mPa・sであった。したがって、比較例3に係る樹脂組成物は、60℃以上であれば、インクジェット用のインクとして好適である。
【0046】
(評価例1)光硬化性の評価
実施例1~6および比較例1~3に係る樹脂組成物のそれぞれをガラス基板上にスピンコートで10秒間塗布して塗膜を得た。
得られた樹脂組成物の塗膜を、以下の条件で硬化させて電離放射線硬化物を得た。
UV照射装置:あすみ技研社製「ASM1503NM-UV-LED」
ランプ波長:365nm
露光量:500mJ/cm2、1000mJ/cm2、1500mJ/cm2、2000mJ/cm2
照度:700mW/cm2
UV光の測定には、UVA(315~400nm)を測定するUVモニター(Opsytec社製「UV-Pad」)を用いた。
実施例1~6および比較例1~3に係る樹脂組成物を塗布および露光を実施して、ガラス基板上に電離放射線硬化物の膜を形成した。その後、硬化膜表面を触指し、完全にタックレス状態になる露光量を調べた。結果を表1に示す。
【0047】
【0048】
表1に示されるように、実施例1から6および比較例2および3では、タックレス露光量が1500mJ/cm2以下であり、中でも特に、実施例1、3、4および6ならびに比較例2および3は500mJ/cm2であり特に良好であった。これに対し、比較例1では、露光量を2000mJ/cm2としてもタックレス状態に至らず、樹脂組成物の硬化が完了しなかった。
【0049】
(評価例2)熱処理後の残膜率の評価
実施例1から6ならびに比較例2および3に係る樹脂組成物のそれぞれを評価例1と同じ条件で塗布し硬化させて電離放射線硬化物の膜を得た。光硬化条件として、露光量は評価例1で確認したタックレス露光量にて露光を行った。その後、得られた電離放射線硬化物の膜に対して、次の条件でさらに熱処理を行った。なお、比較例1は露光量を2000mJ/cm2としてもタックレス状態に至らなかったため、評価対象外とし、追加の熱処理を行わなかった。
クリーンオーブン:ヤマト科学社製「DT610」
温度:150℃
加熱時間:2時間
熱処理前後で電離放射線硬化物の膜厚(単位:μm)を測定し、(熱処理後の厚さ)/熱処理後の厚さ)により定義される残末率(単位:%)を算出した。熱処理前後の膜厚および残膜率を表2に示す。
【0050】
【0051】
表2に示されるように、実施例1から6ならびに比較例2および3では、残膜率が80%以上であり、中でも特に、実施例1および5ならびに比較例2および3は残膜率が90%以上であり特に良好であった。
【0052】
(評価例3)溶解性の評価
実施例1から6ならびに比較例2および3に係る樹脂組成物のそれぞれを評価例2と同じ条件で塗布し硬化させて電離放射線硬化物を得た。また、その後、得られた電離放射線硬化物に対して、評価例2と同じ条件で熱処理を行った。なお、なお、比較例1は露光量を2000mJ/cm2としてもタックレス状態に至らなかったため、評価対象外とし、溶解性の評価を行わなかった。
続いて、溶解液として水とエタノール(EtOH)との混合液(混合比:水/EtOH=25/75)を用意し、25℃の溶解液に熱処理後の電離放射線硬化物を浸漬させて、電離放射線硬化物の溶解状態を観察した。評価基準は次のとおりである。
A:5分間以内に溶解した
B:5分間経過後15分間までの期間に溶解した
C:15分間経過しても溶解しなかった
【0053】
【0054】
実施例1から6に係る電離放射線硬化物では、熱処理後の電離放射線硬化物が5分間以内に溶解し、良好であった。これに対し、比較例2および3に係る電離放射線硬化物では、熱処理後の電離放射線硬化物が浸漬後15分間経過しても溶解しなかった。