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特許7315115記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物
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  • 特許-記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物
(51)【国際特許分類】
   A23L 33/10 20160101AFI20230719BHJP
   A61P 25/28 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 38/16 20060101ALI20230719BHJP
   A61K 35/748 20150101ALI20230719BHJP
   A61K 31/4025 20060101ALI20230719BHJP
   A23L 5/46 20160101ALN20230719BHJP
【FI】
A23L33/10
A61P25/28
A61K38/16
A61K35/748
A61K31/4025
A23L5/46
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2022576731
(86)(22)【出願日】2022-01-20
(86)【国際出願番号】 JP2022001882
(87)【国際公開番号】W WO2022158504
(87)【国際公開日】2022-07-28
【審査請求日】2022-12-22
(31)【優先権主張番号】P 2021009348
(32)【優先日】2021-01-25
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】000002886
【氏名又は名称】DIC株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100149445
【弁理士】
【氏名又は名称】大野 孝幸
(74)【代理人】
【識別番号】100163290
【弁理士】
【氏名又は名称】岩本 明洋
(74)【代理人】
【識別番号】100214673
【弁理士】
【氏名又は名称】菅谷 英史
(74)【代理人】
【識別番号】100186646
【弁理士】
【氏名又は名称】丹羽 雅裕
(72)【発明者】
【氏名】今井 康行
(72)【発明者】
【氏名】小関 友莉乃
【審査官】澤田 浩平
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2020/180025(WO,A1)
【文献】韓国登録特許第10-2101988(KR,B1)
【文献】特開2004-204034(JP,A)
【文献】特開昭55-077890(JP,A)
【文献】HWANG, Juen-Haur et al.,Spirulina Prevents Memory Dysfunction, Reduces Oxidative Stress Damage and Augments Antioxidant Activity in Senescence-Accelerated Mice,Journal of Nutritional Science and Vitaminology,2011年,57(2),pp.186-191
【文献】GHANBARI, A. et al.,Spirulina microalgae improves memory deficit induced by scopolamine in male pup rats: Role of oxidative stress,South African Journal of Botany,2019年,127,pp.220-225
【文献】WANG, P. et al.,Amelioration of cognitive deficits by Spirulina platensis in L-methionine-induced rat model of vascular dementia,Pharmacognosy Magazine,2020年,16(68),pp.133-141
【文献】LIU, Yanqin et al.,C-Phycocyanin from Spirulina Inhibits α-Synuclein and Amyloid-β Fibril Formation but Not Amorphous Aggregation,J. Nat. Prod.,2019年,82(1),pp.66-73
【文献】LI, Zhengyu et al.,Effect of C-phycocyanin on HDAC3 and miRNA-335 in Alzheimer’s disease,Translational Neuroscience,2020年,11,pp.161-172
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L,A61K,A61P
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII),
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS/FSTA(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
フィコシアニン酵素分解物を有効成分として含有し、
前記フィコシアニン酵素分解物における酵素がプロテアーゼである、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物。
【請求項2】
前記フィコシアニンが藍藻類由来のフィコシアニンである、請求項1に記載の組成物。
【請求項3】
前記藍藻類がスピルリナ属の藍藻類である、請求項2に記載の組成物。
【請求項4】
食品組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項5】
健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品である、請求項4に記載の組成物。
【請求項6】
医薬組成物である、請求項1~3のいずれか一項に記載の組成物。
【請求項7】
認知症又はアルツハイマー病用の医薬組成物である、請求項6に記載の組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、超高齢化社会に伴い、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させること又は低下を抑制させることに関心が高まっている。高齢者においては、脳の老化等により記憶学習能力及び/又は認知機能の低下が生じることが知られている。記憶学習能力及び/又は認知機能が低下すると、物忘れなどの記憶障害、言語能力の低下、注意力・集中力の低下及び学習能力の低下等の症状が生じ、日常生活に支障をきたす。このため、日常的に継続して経口摂取することができる、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下を抑制するための食品及び/又は医薬品の開発が求められている。
【0003】
現在、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下を抑制するための食品としては、例えば、ビタミンC、EPA、DHA及び米ぬか等を含有する食品が挙げられる。しかしながら、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制に対して十分な効果を発揮する食品は未だ少ない。また、認知機能障害であるアルツハイマー病治療用の医薬品として多数の医薬品が研究されているものの、現在のアルツハイマー病治療薬の大部分は神経賦活作用が主要であり、対処療法に過ぎないため、その効果は限定的であると考えられている。
【0004】
ところで、近年の健康志向の高まりから、栄養バランスに優れ、一般的な食品より栄養価が高い食品として、スピルリナが注目されている。スピルリナ(Spirulina)は、豊富なタンパク質、糖類、各種ビタミン、ミネラル、植物性色素を含むシアノバクテリア種である。スピルリナは、多種類の栄養素をバランスよく摂取するための食品、サプリメントとしての利用の他に、スピルリナ自体や、スピルリナ由来の物質に多くの機能性があることが期待されており、スピルリナの利用法に関する研究が活発に行われている。
【0005】
例えば、スピルリナ由来のフィコシアニンに膵リパーゼ等のリパーゼの活性を阻害する作用があるとして、フィコシアニンを有効成分とするリパーゼ活性阻害剤が報告されている(特許文献1参照)。
また、スピルリナ由来のフィコシアニンが大豆蛋白質よりも高い血清脂質改善作用を有するとして、フィコシアニンを有効成分とする血清脂質低下剤が報告されている(特許文献2参照)。
さらに、スピルリナ(スピルリナ抽出物)を経口投与すると、ナチュラル・キラー(NK)細胞の活性化が誘導されることが報告されている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2004-359638号公報
【文献】特開2003-137805号公報
【非特許文献】
【0007】
【文献】Hirahashi T,et al.“Activation of the human innate immune system by spirulina: Augmentation of interferon gamma production and NK cytotoxicity by oral administration of spirulina.”International Immunopharmacology 2(2002)423-434.
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、スピルリナ自体やスピルリナ由来の物質に、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を示すことはこれまでに知られていなかった。
【0009】
本発明は、日常的に継続して経口摂取することができる、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、スピルリナ自体やスピルリナ由来の物質に、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を示すことを見出し、本発明を完成するに至った。
【0011】
すなわち、本発明は、以下の態様を包含するものである。
[1]スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物。
[2]上記スピルリナ酵素分解物及び上記フィコシアニン酵素分解物における酵素がプロテアーゼである、[1]に記載の組成物。
[3]上記フィコシアニンが藍藻類由来のフィコシアニンである、[1]又は[2]に記載の組成物。
[4]上記藍藻類がスピルリナ属の藍藻類である、[3]に記載の組成物。
[5]上記有効成分がフィコシアニン又はフィコシアニン酵素分解物である、[1]~[4]のいずれかに記載の組成物。
[6]食品組成物である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[7]健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、又は病者用食品である、[6]に記載の組成物。
[8]医薬組成物である、[1]~[5]のいずれかに記載の組成物。
[9]認知症又はアルツハイマー病用の医薬組成物である、[8]に記載の組成物。
【0012】
本発明によれば、日常的に継続して経口摂取することができる、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0013】
図1】試験1において、自発的交替行動試験における自発的交替行動変化率を示す図である。
図2】試験1において、アミロイドβ25-35による遺伝子発現亢進を緩和した遺伝子における、Sham群に対する、遺伝子発現量の割合を示す図である。
図3】試験1において、アミロイドβ25-35による遺伝子発現抑制を緩和した遺伝子における、Sham群に対する、遺伝子発現量の割合を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本実施形態に係る組成物について詳細に説明するが、以下に記載する構成要件の説明は、本発明の一実施態様としての一例であり、これらの内容に特定されるものではない。
【0015】
本実施形態に係る組成物は、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物に関する。
【0016】
ここで、記憶学習機能の向上とは、例えば、一過的な記憶学習機能の向上や、中長期的な記憶の定着を促進、脳の発育を促進させること等を含む。記憶学習機能の低下抑制とは、例えば、加齢に伴って生じる記憶力や学習能力の低下を予防、抑制すること等を含む。
また、認知機能の向上とは、記憶、学習、理解、判断、論理などの知的機能、すなわち認知能力を現状より高めること等を含む。認知機能の低下抑制とは、例えば、加齢に伴って生じる認知能力の低下を予防、抑制すること等を含む。
以下、本実施形態に係る組成物の有効成分について説明した後、組成物の用途及び形態等について説明する。
【0017】
<スピルリナ>
スピルリナは、本実施形態に係る組成物における有効成分の一種であり、記記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有する。
スピルリナは、藍藻類ネンジュモ目ユレモ科スピルリナ属に属する微細なラセン藻であり、豊富なタンパク質、糖類、各種ビタミン、ミネラル、植物性色素を含む。
【0018】
スピルリナとしては、例えば、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・マキシマ(Spirulina maxima)、スピルリナ・ゲイトレリ(Spirulina geitleri)、スピルリナ・サイアミーゼ(Spirulina siamese)、スピルリナ・メイヤー(Spirulina major)、スピルリナ・サブサルサ(Spirulina subsalasa)、スピルリナ・プリンセプス(Spirulina princeps)、スピルリナ・ラキシシマ(Spirulina laxissima)、スピルリナ・クルタ(Spirulina curta)、スピルリナ・スピルリノイデス(Spirulina spirulinoides)等が挙げられる。これらの中でも、特に人工的に培養出来るため入手容易で好ましいスピルリナとして、スピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)、スピルリナ・ゲイトレリ(Spirulina geitleri)、スピルリナ・サイアミーゼ(Spirulina siamese)等が挙げられる。なお、スピルリナ(Spirulina)はアルスロスピラ(Arthrospira)とも称される。
【0019】
本実施形態に係る組成物に用いられるスピルリナは、液体培地中で培養した状態の藻体(湿藻体)をそのまま用いてもよいが、湿藻体のスピルリナを水やエタノール等の溶媒で抽出した抽出液、又はその抽出液を濃縮させたり乾燥させて得られる抽出物である、スピルリナエキスを用いるのが好ましい。
【0020】
<<スピルリナエキス>>
スピルリナエキスを製造する際に用いる抽出液としては、本発明の効果が得られる範囲で特に限定されるものではないが、例えば、熱水を用いることができる。本実施形態では、藻体のスピルリナを熱水抽出することにより得られる抽出液、或いはその抽出液を濃縮させたり乾燥させて得られる抽出物が好ましく用いることができる。
スピルリナエキスを得る方法としては、特に制限されず、常法に従って得ることができるが、例えば、上記非特許文献1や特開平8-9940号公報等に記載の抽出液の製造方法等を挙げることができる。具体的には、下記に記載の製造方法を挙げることができる。
【0021】
<<スピルリナエキスの製造方法>>
スピルリナエキスは、スピルリナ藻体を100℃を超える温度で熱水抽出し、当該抽出液のpHを特定の酸性条件下に調整し、その後、不溶性画分を除去することにより、スピルリナ抽出液を得ることで、製造することができる。
スピルリナエキスを液体状態で使用する場合には、上記のようにして得られたスピルリナ抽出液をそのまま使用することができる。また、上記スピルリナ抽出液を濃縮させたり乾燥させ粉末として使用することもできる。本実施形態に係る組成物に用いられるスピルリナエキスとしては、スピルリナ抽出液であっても、スピルリナ抽出液を濃縮或いは乾燥させて製造されたものであってもよい。
【0022】
スピルリナエキスを製造するためのスピルリナは、市販のものを用いてもよいし、自ら培養したものを用いてもよい。また、生の状態のスピルリナを使用してもよいし、生の状態のスピルリナを乾燥させたものでもよい。
スピルリナを培養する際の培養方法としては、藍藻の培養に用いられている通常の方法に従って行うことができる。例えば、屋外において塩基性条件下でスピルリナを培養し、増殖させることができる。
培養して得られたスピルリナ(以下、スピルリナ藻体ともいう)はそのまま用いることもできるし、培養したスピルリナをろ布やろ紙で回収し、水で洗浄後、水に懸濁し懸濁液としてもよい。更に、培養液や懸濁液を濃縮した湿藻体としてもよいし、その湿藻体を凍結乾燥やスプレー乾燥(噴霧乾燥)等により乾燥した乾燥藻体としてもよいし、その乾燥藻体を粉末化してもよい。
熱水抽出に用いるスピルリナ藻体は、湿藻体、凍結乾燥藻体、スプレー乾燥藻体、破砕藻体等いずれでもよい。例えば、破砕藻体を得るには、藻体を通常の方法、例えば工業的にはフレンチ・プレスの様な高圧押し出し法等による破砕処理が挙げられる。
【0023】
次に熱水抽出操作について説明する。例えば上記のように加工したスピルリナ藻体を、あらかじめ加圧容器内にて抽出溶媒中、例えば蒸留水中に懸濁させておく。懸濁濃度は特に制限されないが、抽出効率や回収時のコスト等を考慮すれば、溶媒に対して1~20質量%が好ましい。抽出溶媒は水道水でもよいが、抽出液を食品素材として適用する点を考慮すると蒸留水が好ましい。抽出温度としては、通常100℃を超える温度であり、105℃~140℃が好ましく、110~130℃がより好ましい。抽出の際の圧力としては1.0~2.5気圧が好ましい。また抽出時撹拌操作を行っても行わなくてもよいが、熱効率上撹拌操作は行う方が好ましい。抽出時間は長いほど抽出量は増大するが、効率を考えると通常抽出時間は0.5~4時間であるのが好ましい。
【0024】
次に、上記抽出操作後の藻体残渣懸濁液(pH=6.8~7.0程度)から藻体残渣や熱変性による凝集タンパク質を除去する。除去する操作としては、例えば、当該懸濁液の遠心分離や濾過等の操作を行えばよく、この操作により上清を得る。ただし、上清には未だ多量のタンパク質が溶存しているため、溶存タンパク質をさらに除去するのが好ましい。溶存タンパク質をさらに除去するには、当該懸濁液に酸を加えて抽出液のpHをタンパク質の等電点以下の酸性条件とするのがよい。これにより、タンパク質を凝集させ、凝集したタンパク質を遠心分離や濾過等により分離してスピルリナエキスを得ることができる。或いは初めに藻体残渣等を除去することなく、抽出操作後の藻体残渣懸濁液のpHを上記のようにタンパク質の等電点以下に調整した後、藻体残渣や凝集タンパク質を同様に遠心分離や濾過等により分離してもよい。凝集されたタンパク質を除去することにより、高収量の多糖類を含むスピルリナエキスを得ることができる。
【0025】
タンパク質の等電点以下の酸性条件としては、pH4.5以下が好ましく、pH3.75~4.25がタンパク質の凝集、沈殿生成が最大となるためより好ましく、pH4.0がさらに好ましい。
pH調整の際に加える酸としては、硫酸や塩酸でもよいが、現実的な作業工程や食品素材として用いることを考慮すれば、無機酸よりもクエン酸やリンゴ酸等の有機酸を使用することが好ましい。
【0026】
<フィコシアニン>
フィコシアニンは、本実施形態に係る組成物における有効成分の一種であり、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有する。
フィコシアニンは、色素タンパク質であり、発色団としてフィコシアノビリンを有する。フィコシアニンは、フィコシアノビリンとタンパクとが結合した構造を備えている。
【0027】
本実施形態に係る組成物に用いられるフィコシアニンとしては、例えば、藍藻類由来のフィコシアニン、紅藻類由来のフィコシアニン、クリプト藻由来のフィコシアニン等の藻類由来のフィコシアニン等が挙げられる。これらの中でも、大量に採取できることから藍藻類由来のフィコシアニンが好ましい。
【0028】
藍藻類としては、例えば、スピルリナ(Spirulina)属、アルスロスピラ(Arthrospira)属、アファニゾメノン(Aphanizomenon)属、フィッシェレラ(Fisherella)属、アナベナ(Anabaena)属、ネンジュモ(Nostoc)属、シネコキスチス(Synechocystis)属、シネココッカス(Synechococcus)属、トリポスリクス(Tolypothrix)属、スイゼンジノリ(Aphanothece)属、マスティゴクラディス(Mastigoclaus)属、プルロカプサ(Pleurocapsa)属等の藍藻類が挙げられる。これらの中でも、工業的規模で生産され、その安全性が確認されている、スピルリナ属及びアルスロスピラ属の藍藻類が好ましく、スピルリナ属の藍藻類がより好ましい。
また、フィコシアニン調製の原料としては、生の藍藻類を用いてもよく、乾燥処理した藍藻類を用いてもよい。藍藻類の乾燥品としては、生の藍藻類を常法に従い乾燥品としてもよく、市販の乾燥品を用いてもよい。
【0029】
フィコシアニンとしては、例えば、C-フィコシアニン、R-フィコシアニン、アロフィコシアニン等が挙げられる。品質、安全性、あるいは入手容易性等の観点からは、フィコシアニンとして、C-フィコシアニンを含有することが好ましい。従って、本実施形態に係る組成物の好ましい実施態様としては、C-フィコシアニンを有効成分として含有する組成物が挙げられる。さらに本実施形態に係る組成物の好ましい実施態様としては、C-フィコシアニンとアロフィコシアニンとを含有する組成物が挙げられる。例えば、スピルリナ属の藍藻類から抽出することにより得られるC-フィコシアニンとアロフィコシアニンからなるフィコシアニンの混合物を組成物に含有させることができる。
【0030】
フィコシアニンは、例えば、藍藻類を水やリン酸緩衝液、クエン酸緩衝液等の緩衝液中に懸濁し、藍藻類中のフィコシアニンを抽出することにより得ることができる。
フィコシアニンを抽出する方法としては、特に制限は無く、常法に従って抽出することができる。
抽出方法の好ましい実施態様としては、例えば、特開2006-230272号公報に記載の抽出方法等を挙げることができる。具体的には、下記抽出方法(i)で記載する抽出方法が挙げられる。下記抽出方法(i)により、高純度であざやかな色調のフィコシアニンを得ることができる。
【0031】
<<フィコシアニンの抽出方法(i)>>
抽出方法(i)は、
藍藻類中のフィコシアニンを水懸濁液中に抽出させた抽出液を得る第一工程と、
該抽出液中でカルシウム塩とリン酸塩とを反応させてリン酸カルシウムを生成させると共に該リン酸カルシウムにフィコシアニンの夾雑物を吸着させ吸着物を得る第二工程と、
該抽出液から藍藻類の残渣及び吸着物を除去する第三工程と、を有する。
【0032】
さらに上記抽出方法(i)が下記抽出方法(ii)であると、より好ましい。
<<フィコシアニンの抽出方法(ii)>>
抽出方法(ii)は、
藍藻類中のフィコシアニンを水懸濁液中に抽出させた抽出液を得る第一工程と、
該抽出液中でカルシウム塩とリン酸塩とを反応させてリン酸カルシウムを生成させると共に該リン酸カルシウムにフィコシアニンの夾雑物を吸着させ吸着物を得る第二工程と、
該抽出液から藍藻類の残渣及び吸着物を除去する第三工程と、
第三工程より前に、抽出液にキレート剤を含有させる工程と、を有する。
【0033】
上記フィコシアニンの抽出方法(i)又は(ii)を用いることにより、品質のよいフィコシアニンを藍藻類から抽出することができる。
特にスピルリナ属の藍藻類に対して、上記抽出方法(i)又は(ii)を用いることにより、C-フィコシアニンとアロフィコシアニンとの混合比が良好な品質のよいフィコシアニンを抽出することができる。
なお、上記抽出方法において、抽出条件を適宜選択することにより、C-フィコシアニンとアロフィコシアニンとの混合比を所望の範囲とするよう調整するとよい。
【0034】
フィコシアニンの種類は、すべてC-フィコシアニンであってもよい。あるいは、アロフィコシアニンを含有し、C-フィコシアニンとアロフィコシアニンとの混合物を組成物に含有させてもよい。
C-フィコシアニンとアロフィコシアニンとの混合比は、例えば、質量比で3~9.5:0.5~7が好ましく、6~9.5:0.5~4がより好ましく、7~8:2~3がさらに好ましい。
【0035】
<スピルリナ酵素分解物>
スピルリナ酵素分解物は、本実施形態に係る組成物における有効成分の一種であり、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有する。
スピルリナ酵素分解物は、酵素を作用させ、上述したスピルリナのタンパク質、糖類等を分解させることにより得られる酵素分解物である。
【0036】
酵素分解に用いる酵素としては、特に制限されず、例えば、グルカナーゼ、キチナーゼ、プロテアーゼ、ペクチナーゼ、リパーゼ、セルラーゼ、キシラナーゼ、マンナナーゼ、ヘミセルラーゼ、ヌクレアーゼ等を用いることができる。これらの中でも、スピルリナの分解が好適に行われる観点から、酵素分解に用いる酵素としては、プロテアーゼが好ましい。上記酵素は、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
なお、酵素分解に用いる酵素の由来は、特に制限されず、例えば、Aspergillus niger、Aspergillus melleus、Aspergillus oryzae、Rhizopus niveus、Bacillus subtilis、Arthrobacter sp.、Trichoderma viride等を用いることができる。
【0037】
プロテアーゼとしては、特に制限されず、市販のプロテアーゼ製剤を用いることができる。プロテアーゼ製剤としては、例えば、スミチームLP、スミチームFL-G、スミチームCP、スミチームFP-G、スミチームMP(新日本化学工業株式会社)、ブロメラインF、プロテアーゼP「アマノ」3SD、パパインW-40、サモアーゼPC10F、サモアーゼC100、サモアーゼC160、プロチンSD-NY10(プロチンSD-PC10F)(天野エンザイム株式会社)等を用いることができる。
【0038】
スピルリナ酵素分解物のタンパク質の分子量分布としては、分子量500未満の成分の割合が20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。スピルリナ酵素分解物のタンパク質の分子量分布が上記下限値以上であれば、スピルリナ酵素分解物が生体内への吸収性に優れる。
分子量分布の値は、ゲル濾過カラムを用いて試料を液体クロマトグラフィー分析することにより得ることができる。
【0039】
酵素分解の処理方法は、特に制限されず、常法に従って処理することができる。酵素分解の反応条件においても特に制限されず、酵素の種類、活性度合及び添加量等に合わせて、至適温度、至適pH及び反応時間等の反応条件を適宜調整すればよい。酵素分解処理により得られたスピルリナ酵素分解物は、必要に応じて、遠心分離、ろ過、脱塩、濃縮、乾燥、溶媒抽出、希釈及び添加剤の添加等の操作により、目的とする形態及び性状に調整することができる。
【0040】
下記に本実施形態に係る組成物におけるスピルリナ酵素分解物の調製方法の一例を示す。
スピルリナ水溶液を20~70℃で加熱する。水溶液を用いる酵素の至適pHに調整した後、スピルリナ中のタンパク質に対して、0.01質量%以上、好ましくは0.1~10質量%の酵素を加えて1~24時間攪拌する。攪拌後、加熱や冷却により失活・酵素分解を停止させた後、遠心分離する。遠心分離後、得られた上清を凍結乾燥させてスピルリナ酵素分解物を得る。
【0041】
<フィコシアニン酵素分解物>
フィコシアニン酵素分解物は、本実施形態に係る組成物における有効成分の一種であり、記憶学習機能を向上する作用、記憶学習機能の低下を抑制する作用、認知機能を向上する作用及び認知機能の低下を抑制する作用を有する。
フィコシアニン酵素分解物は、酵素を作用させ、上述したフィコシアニンを分解させることにより得られる酵素分解物である。
【0042】
酵素分解に用いる酵素としては、特に制限されず、上述したスピルリナ酵素分解物で説明した酵素を用いることができため、説明は省略する。なお、酵素分解に用いる酵素としては、上述したスピルリナ酵素分解物と同様に、プロテアーゼを用いるのが好ましい。
【0043】
フィコシアニン酵素分解物の分子量分布としては、分子量500未満の成分の割合が20質量%以上であるのが好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。フィコシアニン酵素分解物の分子量分布が上記下限値以上であれば、フィコシアニン酵素分解物が生体内への吸収性に優れる。
分子量分布の値は、ゲル濾過カラムを用いて試料を液体クロマトグラフィー分析することにより得ることができる。
【0044】
酵素分解に用いられるプロテアーゼ及び酵素分解処理方法としては、特に制限されず、上述したスピルリナ酵素分解物で説明したものと同様であるため、説明は省略する。
【0045】
下記に本実施形態に係る組成物におけるフィコシアニン酵素分解物の調製方法の一例を示す。
フィコシアニン水溶液を20~70℃で加熱する。水溶液を用いる酵素の至適pHに調整した後、フィコシアニンに対して、0.01質量%以上、好ましくは0.1~10質量%の酵素を加えて1~24時間攪拌する。攪拌後、加熱や冷却により失活・酵素分解を停止させた後、遠心分離する。遠心分離後、得られた上清を凍結乾燥させてフィコシアニン酵素分解物を得る。
【0046】
<記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物>
後述する実施例に示すように、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物の有効成分は、自発的交替行動試験における自発的交替行動変化率を増加させた。上記有効成分の中でも、特にフィコシアニン酵素分解物は、対象群と比較して自発的交替行動変化率を顕著に増加させたため特に好ましい。また、上記有効成分は、記憶学習機能及び/又は認知機能に関与すると想定される遺伝子の発現亢進又は発現抑制を緩和することが認められた。記憶学習機能及び/又は認知機能に関与すると想定される遺伝子としては、例えば、Mpc2(Brp44, mitochondrial pyruvate carrier 2)、Abat(4-aminobutyrate aminotransferase)、Cct4(chaperonin containing Tcp1, subunit 4 (delta)、Map9(Mtap9, microtubule-associated protein 9)、Prnp(prion protein)、Mgat3(mannoside acetylglucosaminyltransferase 3)及びVegfd(Figf, vascular endothelial growth factor D)等が挙げられる。
すなわち、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物の有効成分は、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有する。
従って、本実施形態に係る組成物は、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制のための組成物として用いることができる。
【0047】
(食品組成物)
本実施形態に係る組成物は、食品の分野において、一般の食品の他、目的となる作用を有効に発揮できる有効な量の有効成分を食品素材として各種食品に配合することにより、当該作用を有する食品組成物として提供することができる。本実施形態に係る組成物は、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、病者用食品、食品添加剤、飼料及び飼料添加剤等の食品組成物に好適に用いることができる。食品組成物の形態としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形状、液状、ゲル状等であり得る。
【0048】
なお、機能性表示食品とは、事業者の責任において、科学的根拠に基づいた機能性を表示した食品であり、販売前に安全性及び機能性の根拠に関する情報などが消費者庁長官へ届け出られた食品である。本実施形態に係る食品組成物には、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を目的とした食品組成物として、「認知機能の一部である記憶力(言葉・物のイメージ・位置情報を思い出す力)を維持する機能がある」、「認知機能の一部である記憶力(言葉や見た物の思い出す力)を高める機能がある」、「中高年の方の加齢に伴い低下する、認知機能の一部である記憶力、注意力、判断力、空間認識力を維持する」、「加齢に伴う記憶力の低下が気になる方に適した機能(記憶の保持・検索・再生に役立つ)がある」、「認知機能の一部である、数・ことば・図形・状況などの情報の記憶をサポートする機能がある」等の表示が付されていてもよい。
【0049】
食品組成物としては、例えば、清涼飲料水、炭酸飲料、果汁入り飲料、野菜汁入り飲料、果汁及び野菜汁入り飲料、牛乳等の畜乳、豆乳、乳飲料、ドリンクタイプのヨーグルト、ドリンクタイプやスティックタイプのゼリー、コーヒー、ココア、茶飲料、栄養ドリンク、エナジー飲料、スポーツドリンク、ミネラルウォーター、ニア・ウォーター、ノンアルコールのビールテイスト飲料等の非アルコール飲料;飯類、麺類、パン類及びパスタ類等炭水化物含有飲食品;チーズ類、ハードタイプ又はソフトタイプのヨーグルト、畜乳その他の油脂原料による生クリーム、アイスクリーム等の乳製品;クッキー、ケーキ、チョコレート等の洋菓子類、饅頭や羊羹等の和菓子類、ラムネ等のタブレット菓子(清涼菓子)、キャンディー類、ガム類、ゼリーやプリン等の冷菓や氷菓、スナック菓子等の各種菓子類;ウイスキー、バーボン、スピリッツ、リキュール、ワイン、果実酒、日本酒、中国酒、焼酎、ビール、アルコール度数1% 以下のノンアルコールビール、発泡酒、その他雑酒、酎ハイ等のアルコール飲料;卵を用いた加工品、魚介類や畜肉(レバー等の臓物を含む)の加工品(珍味を含む)、味噌汁等のスープ類等の加工食品、みそ、しょうゆ、ふりかけ、その他シーズニング調味料等の調味料及び濃厚流動食等の流動食等が挙げられる。
また、食品組成物が、例えば、健康食品、機能性食品、栄養補助食品、サプリメント、保健機能食品、特定保健用食品、栄養機能性食品、機能性表示食品、病者用食品、食品添加剤、飼料及び飼料添加剤等の場合は、錠剤(チュアブル錠等を含む)、カプセル、トローチ、シロップ、ゼリー、顆粒、粉末等であってもよい。
【0050】
本実施形態に係る食品組成物には、上記有効成分に加えて、通常食品組成物に用いることができる成分を、1種又は2種以上自由に選択して配合してもよい。例えば、各種調味料、保存剤、乳化剤、安定剤、香料、着色剤、防腐剤及びpH調整剤等の、食品分野で通常使用し得る全ての添加剤を含有させることができる。
【0051】
(医薬組成物)
本実施形態に係る組成物は、医薬品の分野において、目的となる作用を有効に発揮できる有効な量の有効成分と共に、薬学的に許容される担体や添加剤等を配合することにより、当該作用を有する医薬組成物として提供することができる。本実施形態に係る組成物は、記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制により治療、予防又は改善し得る疾患及び症状の治療、予防又は改善に用いることができる。記憶学習機能及び/又は認知機能の向上・低下抑制により治療、予防又は改善し得る疾患及び症状としては、例えば、記憶障害(記憶を思い出すことができない、新たなことを覚えることができないという症状)、見当識障害(時間・場所・人物の失見当)、認知機能障害(計算能力の低下・判断力低下・失語・失認・失行・実行機能障害)等が挙げられる。より具体的には、本実施形態に係る組成物は、例えば、認知症用の医薬組成物及びアルツハイマー病用の医薬組成物等として好適に用いることができる。なお、医薬組成物としては、医薬品であっても医薬部外品であってもよい。
医薬組成物の形態としては、特に制限されず、目的に応じて適宜選択することができ、例えば、固形状、液状、ゲル状等であり得る。
【0052】
医薬組成物は、薬学的に許容される通常の担体、結合剤、安定化剤、賦形剤、希釈剤、pH緩衝剤、崩壊剤、可溶化剤、溶解補助剤、等張化剤などの添加剤等を含有させることができる。医薬組成物は、経口用であってもよく非経口用であってもよいが、経口用であることがより好ましい。経口用としては、通常用いられる投与形態、例えば、錠剤、粉末、顆粒、カプセル剤、シロップ剤、懸濁液等の剤型とすることができる。非経口用としては、通常用いられる投与形態、例えば、溶液、乳剤、懸濁液等の剤型を注射(皮下注射、静脈内注射、筋肉内注射等)、又はスプレー剤の剤型で鼻孔内投与などが挙げられる。
【0053】
下記に食品組成物及び/又は医薬組成物の形態が錠剤の場合の一例を示す。
食品組成物及び/又は医薬組成物の形態が、例えば、錠剤(タブレットともいう)である場合、有効成分を、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、保存剤、酸化防止剤、等張化剤、緩衝剤、コーティング剤、矯味剤、溶解補助剤、基剤、分散剤、安定化剤、着色剤等の添加剤と適宜組み合わせて、常法に従って調製することができる。
【0054】
賦形剤としては、でんぷん及びその誘導体(デキストリン、カルボキシメチルスターチ等)、セルロース及びその誘導体(メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、糖類(乳糖、白糖、ブドウ糖、トレハロース等)等、クエン酸又は同塩類、リンゴ酸又は同塩類、エチレンジアミン四酢酸又は同塩類が挙げられる。
【0055】
結合剤としては、でんぷん及びその誘導体(アルファー化デンプン、デキストリン等)、セルロース及びその誘導体(エチルセルロース、カルボキシメチルセルロースナトリウム、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、アラビアゴム、トラガント、ゼラチン、糖類(ブドウ糖、白糖等)、エタノール等が挙げられる。
【0056】
崩壊剤としては、でんぷん及びその誘導体(カルボキシメチルスターチ、ヒドロキシプロピルスターチ等)、セルロース及びその誘導体(カルボキシメチルセルロースナトリウム、結晶セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース等)、炭酸塩(炭酸カルシウム、炭酸水素カルシウム等)、トラガント、ゼラチン、寒天等が挙げられる。
【0057】
滑沢剤としては、ステアリン酸、ステアリン酸カルシウム、ステアリン酸マグネシウム、タルク、酸化チタン、リン酸水素カルシウム、乾燥水酸化アルミニウムゲル、ショ糖脂肪酸エステル、食用油脂等が挙げられる。
【0058】
保存剤としては、パラオキシ安息香酸エステル類、亜硫酸塩類(亜硫酸ナトリウム、ピロ亜硫酸ナトリウム等)、リン酸塩類(リン酸ナトリウム、ポリリン酸カルシウム、ポリリン酸ナトリウム、メタリン酸ナトリウム等)、デヒドロ酢酸、デヒドロ酢酸ナトリウム、ソルビン酸グリセリン、糖類等が挙げられる。
【0059】
酸化防止剤としては、亜硫酸塩類(亜硫酸ナトリウム、亜硫酸水素ナトリウム等)、エリソルビン酸、L-アスコルビン酸、システイン、チオグリセロール、ブチルヒドロキシアニゾール、ジブチルヒドロキシトルエン、没食子酸プロピル、アスコルビン酸パルミテート、dl-α-トコフェロール等が挙げられる。
【0060】
等張化剤としては、塩化ナトリウム、硝酸ナトリウム、硝酸カリウム、デキストリン、グリセリン、ブドウ糖等が挙げられる。
緩衝剤としては、炭酸ナトリウム、塩酸、ホウ酸、リン酸塩(リン酸水素ナトリウム等)等が挙げられる。
【0061】
コーティング剤としては、セルロース誘導体(ヒドロキシプロピルセルロース、酢酸フタル酸セルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースフタレート等)、セラック、ポリビニルピロリドン、ポリビニルピリジン類(ポリ-2-ビニルピリジン、ポリ-2-ビニル-5-エチルピリジン等)、ポリビニルアセチルジエチルアミノアセテート、ポリビニルアルコールフタレート、メタアクリレート・メタアクリル酸共重合体等が挙げられる。
矯味剤としては、糖類(ブドウ糖、白糖、乳糖等)、サッカリンナトリウム、糖アルコール類等が挙げられる。
【0062】
溶解補助剤としては、エチレンジアミン、ニコチン酸アミド、サッカリンナトリウム、クエン酸、クエン酸塩類、安息香酸ナトリウム、ポリビニルピロリドン、ポリソルベート類、ソルビタン脂肪酸エステル類、グリセリン、ポリプレングリコール、ベンジルアルコール等が挙げられる。
【0063】
基剤としては、脂肪類(豚脂等)、植物油(オリーブ油、ゴマ油等)、動物油、ラノリン酸、ワセリン、パラフィン、樹脂、ベントナイト、グリセリン、グリコール油、等が挙げられる。
【0064】
分散剤として、アラビアゴム、トラガント、セルロース誘導体(メチルセルロース等)、アルギン酸ナトリウム、ポリソルベート類、ソルビタン脂肪酸エステル類等が挙げられる。
安定化剤としては、亜硫酸塩類(亜硫酸水素ナトリウム等)、窒素、二酸化炭素等が挙げられる。
【0065】
本実施形態に係る食品組成物及び/又は医薬組成物における有効成分の総含有量(組成物中に含まれる全ての有効成分の含有量を合算した含有量)は、食品や医薬品の種類、成分、及び形態等の条件により異なり、本発明の効果が得られる範囲で特に制限されるものではなく、適宜選択することができる。
【0066】
また特に、本実施形態に係る食品組成物及び/又は医薬組成物の形態が錠剤である場合、錠剤における有効成分の総含有量としては、本発明の効果が得られる範囲で特に制限されるものではないが、食品組成物及び/又は医薬組成物の全質量中、有効成分の乾燥重量換算で、20質量%以上であると好ましく、50質量%以上であるとより好ましい。また、上記総含有量としては、100質量%以下であればよく、99質量%以下であると好ましい。
【0067】
本発明において、有効成分の総摂取量は、特に限定されず、食品や医薬品の種類、成分等により適宜選択されるが、例えば、成人1人に対して1日当たり、有効成分の乾燥重量換算で0.01g以上が好ましく、0.03g以上がより好ましく、また、10g以下が好ましく、4g以下がより好ましい。
【実施例
【0068】
以下に実施例を挙げて本発明を更に詳述するが、本発明の範囲はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0069】
[試験例1]
アミロイドβ25-35誘発記憶障害モデルマウスを用いて、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物が、記憶学習機能及び/又は認知機能に与える影響を検討した。
【0070】
<被験物質>
被験物質として、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物を用いた。
【0071】
<<スピルリナ>>
屋外の培養池において、塩基性条件下(pH11)でスピルリナ・プラテンシス(Spirulina platensis)を増殖した。次に、増殖したスピルリナ・プラテンシスの噴霧乾燥した藻体粉末50gを、オートクレーブで500mLの蒸留水に懸濁し、圧力を調節することにより、120℃の抽出温度で1時間抽出した。
抽出液をクエン酸にてpHを4.0に調整した。これを、遠心分離にて藻体残渣及びタンパク質(不溶性画分)を除去してスピルリナ熱水抽出液であるスピルリナエキスを得た。得られたスピルリナエキスを噴霧乾燥後、破砕して、粉末状のスピルリナを得た。
【0072】
<<フィコシアニン>>
1%塩化カルシウム(無水)溶液1300Lに屋外培養槽で生産したスピルリナ乾燥藻体(噴霧乾燥品)65kgを加え、15分間の攪拌により均一懸濁液とした後、20℃15時間、静置条件下で藍藻類中のフィコシアニンを溶液中に抽出し抽出液を得た。
この抽出液にリン酸二水素ナトリウム32kgを添加し、0.5時間攪拌した後、20℃、静置下で2.5時間反応させ、リン酸カルシウムを生成させると共に該リン酸カルシウムにフィコシアニンの夾雑物を吸着させて吸着物を得た。この後抽出液を遠心分離機に導き、重力加速度が10,000Gで、15分間の遠心分離を行い、藍藻類の残渣及び吸着物を抽出液から除去した。得られたフィコシアニンの抽出液は、分画分子量10,000の分離膜を使用した限外濾過により低分子成分及び塩類を除去した後、トレハロース、クエン酸三ナトリウムを加えて混合し、噴霧乾燥を行い、フィコシアニン色素乾燥物15kgを得た。これを、フィコシアニンとした。なお、フィコシアニンの色素粉末100質量%中、フィコシアニン含量は約30質量%(C-フィコシアニン約22質量%、アロフィコシアニン約8質量%であった。
【0073】
<<スピルリナ酵素分解物>>
上記スピルリナ100gを1400mLの蒸留水に溶解させた後、50~52℃に加熱した。次いで、1Nの水酸化ナトリウム溶液を添加し、水溶液のpHを7.0に調整した。スピルリナ中のタンパク質に対して、2質量%のプロチン(SD-NY10、天野エンザイム株式会社製)を水溶液に添加した後、50~52℃で6時間攪拌し、スピルリナを酵素分解させた。反応後の溶液を室温まで冷却した後、遠心分離機に導き、重力加速度が10,000Gで、15分間の遠心分離を行った。上清を採取した後、凍結乾燥させて、スピルリナのプロテアーゼ分解物である、スピルリナ酵素分解物62gを得た。
【0074】
<<フィコシアニン酵素分解物>>
上記フィコシアニン17gを1400mLの蒸留水に溶解させた後、50~52℃に加熱した。次いで、1Nの塩酸を添加し、水溶液のpHを7.0に調整した。フィコシアニンに対して、2質量%のプロチン(SD-NY10、天野エンザイム株式会社製)を水溶液に添加した後、50~52℃で6時間攪拌し、フィコシアニンを酵素分解させた。反応後の溶液を室温まで冷却した後、遠心分離機に導き、重力加速度が10,000Gで、15分間の遠心分離を行った。上清を採取した後、凍結乾燥させて、フィコシアニンのプロテアーゼ分解物である、フィコシアニン酵素分解物16gを得た。
【0075】
<アミロイドβ25-35誘発記憶障害モデルマウスの作製>
Slc:ddY雄マウス(日本エスエルシー株式会社)を使用した。アミロイドβ25-35誘発記憶障害モデルマウスの作製は下記の通りに行った。
Amyloidβ-Protein25-35(アミロイドβ25-35、0.51μmol、株式会社ペプチド研究所製)0.54mgに注射用水250μLを加えて溶解した。この溶液を37℃で4日間インキュベートしたものをアミロイドβ25-35投与液とした。自発的交替行動試験実施の7日前に、アミロイドβ25-35投与液を脳室内投与し(投与用量10nmol/mouse)、アミロイドβ25-35誘発記憶障害モデルマウスを作製した。
なお、アミロイドβ25-35誘発記憶障害モデルマウスでは、アミロイドβ25-35の凝集・沈着を起因とする炎症応答、細胞死を伴う認知機能障害を模倣することができることが知られている。
【0076】
<試験系>
実験群、被験物質、脳室内投与物質及び例数を下記の表1に示す。被験物質の投与回数及び投与期間としては、自発的交替行動試験実施の22日前から1日1回の頻度で22日間経口投与した(被験物質の投与液量:10mL/kg)。なお、A1群をSham群(アミロイドβ25-35脳室内投与無し通常マウス群)、A2群を媒体群ともいう。
【0077】
【表1】
【0078】
<自発的交替行動試験>
自発的交替行動試験として、自発的交替行動を評価するY字迷路試験を実施した。マウスは、直前に選択したルートとは異なるルートを選択する性質を有する。このため、幅、長さ等が等価の3本のアームを持つY字迷路にマウスを入れた場合、通常は直前に進入したアームとは異なるアームに進入する。自発的交替行動試験であるY字迷路試験は、マウスのこの性質を利用し、短期記憶の評価に利用する試験である。
<<自発的交替行動試験の装置>>
実験装置には,1本のアームの長さが40cm、壁の高さが12cm、床の幅が3cm、上部の幅が10cmで3本のarmがそれぞれ120度の角度で接続されたY字迷路を使用した。
【0079】
<<自発的交替行動変化率の測定方法>>
被験物質又は媒体の最終投与の60分後にマウスをY字迷路のいずれかのアームの先端に置き、8分間にわたって迷路内を自由に探索させ、マウスが移動したアームの位置を選択した順に記録した。マウスが測定時間内に各アームに移動した回数をカウントし、これを総進入数とした。この中で連続して異なる三つのアームを選択した組み合わせ(例えば進入したアームがABCBACACBの場合は重複も含めて4とする)を調べ、この数を自発的交替行動数とした。自発的交替行動数を総進入数から2を引いた数で割り、それに100を掛けて求めた値を自発的交替行動変化率とし、これを自発的交替行動の指標とした。自発的交替行動変化率が高いほど、短期記憶が保持されていることを示す。なお、総進入数が8以下の動物については得られる自発的交替行動変化率が正確な自発的交替行動を反映していないと判断し、これらの動物成績は試験から除外することとした。
【0080】
<DNAマイクロアレイ>
自発的交替行動の測定終了後にマウスを断頭し、全脳を摘出した。摘出した脳から海馬を採取し,湿重量(mg)を測定した後、RNAlater処理を行い冷凍(-70℃以下)保管した。なお、海馬は認知機能の記憶に関与し、アルツハイマー病で病変が認められる部位のひとつであることが知られている。
A1、A2、A5群及びA6群それぞれの海馬からRNAを抽出し、DNAマイクロアレイに用いた。DNAマイクロアレイは下記の通りに行った。
【0081】
RNAサンプルを各群ごとにプールして、Low Input Quick Amp Labeling Kit (Agilent)を用いてcDNAの合成、Cy3ラベル化cRNA合成と精製を行った。得られたラベル化cRNAの濃度、Cy3インコーポレーションを、260nm、280nm、550nm及び320nmでの吸光度より算出し、基準値(Cy3-CTP incorporation > 6 pmol/μg)を満たしていることを確認した。次いで、Gene Expression Hybridization Kit (Agilent)を用い、それぞれのラベル化cRNAをフラグメンテーションし、Whole Mouse Genome Microarray Ver2.0(Agilent)にアプライ、65℃で17時間ハイブリダイゼーションした。次いで、Gene Expression Wash Buffer 1及び2(Agilent)を用い,アレイスライドを洗浄した。マイクロアレイスキャナーでスキャンしたアレイ画像を、アレイ解析ソフトウェアGenePix Pro (Molecular Devices)で数値化した。蛍光強度値をノーマライズし、A1群に対して他の各群の割合を算出した。
【0082】
<自発的交替行動試験の結果>
自発的交替行動試験の結果を表2及び図1に示す。表2は総進入数、自発的交替行動数及び自発的交替行動変化率の結果を示す表である。図1は、自発的交替行動変化率の結果を示す図である。
【0083】
【表2】
【0084】
表2及び図1に示すように、A2群である媒体群(アミロイドβ25-35脳室内投与有り)の自発的交替行動変化率は、A1群であるSham群(アミロイドβ25-35脳室内投与無し)と比較して、アミロイドβ25-35の脳室内投与により有意な減少が認められた。
【0085】
表2及び図1に示すように、被験物質を投与した全ての群(A3~A6群)の自発的交替行動変化率は、A1群である媒体群(アミロイドβ25-35脳室内投与無し)と比較して高かった。特に、フィコシアニン酵素分解物を投与したA5群の自発的交替行動変化率は、A1群である媒体群(アミロイドβ25-35脳室内投与無し)と比較して有意に高かった。
従って、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物、フィコシアニン酵素分解物は、短期記憶を増強させる効果を有し、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有することが認められた。
有効成分の中でも、特にフィコシアニン酵素分解物は、媒体群と比較して自発的交替行動変化率が顕著に高かったことから、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用が特に優れることが認められた。
【0086】
<DNAマイクロアレイ結果>
DNAマイクロアレイの結果を図2及び図3に示す。
【0087】
図2は、アミロイドβ25-35による遺伝子発現亢進を緩和した遺伝子における、Sham群に対する、遺伝子発現量の割合を示す図である。
図2に示すように、アミロイドβ25-35脳室内投与による遺伝子の異常な発現亢進をフィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物が緩和していることが認められた。
図2に示すMpc2及びAbat遺伝子はアルツハイマー病との関連性が指摘されている(Rossi, A., Rigotto, G., Valente, G., Giorgio, V., Basso, E., Filadi, R., Pizzo, P. (2020). Defective Mitochondrial Pyruvate Flux Affects Cell Bioenergetics in Alzheimer's Disease-Related Models. Cell reports, 30, 2332-2348、及びCiminelli, B. M., Menduti, G., Benussi, L., Ghidoni, R., Binetti, G., Squitti, R., et al. (2020). Polymorphic Genetic Markers of the GABA Catabolism Pathway in Alzheimer's Disease. Journal of Alzheimer's disease : JAD, 77, 301-31)。Mpc2はミトコンドリアTCA回路におけるピルビン酸キャリアとしてATP産生に必要であり、ミトコンドリア機能維持、延いては細胞機能維持に重要な役割を果たすことが知られている。Abatはミトコンドリアでのサルベージ機能(核酸再利用)にも関わるが、GABA(γ-アミノ酪酸,抑制性神経伝達物質)分解酵素であり、脳内GABA量の制御に不可欠である。フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物が、これら遺伝子の異常発現を緩和していることは、アミロイドβ25-35脳室内によるミトコンドリア機能異常を正常化の方向へ戻し、GABA量恒常性に寄与し、アルツハイマー病の病態を緩和する可能性を示唆している。従って、フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物は、上記Mpc2及びAbatの発現亢進を緩和していることから、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有することが認められた。また、本結果から、スピルリナ及びスピルリナ酵素分解物においても、同様に、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を発揮するものと推察された。
【0088】
図3は、アミロイドβ25-35による遺伝子発現抑制を緩和した遺伝子における、Sham群に対する、遺伝子発現量の割合を示す図である。
図3に示すように、アミロイドβ25-35脳室内投与による遺伝子の異常な発現抑制をフィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物が緩和していることが認められた。
図3に示すCct4及びMap9は、微小管構造維持に必要な遺伝子であると知られている。図3に示すように、Cct4及びMap9は、遺伝子の発現抑制が緩和され、むしろ発現亢進傾向にあった。アルツハイマー病では、微小管構造の破綻を特徴とすることから、フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物は微小管構造維持に寄与し、病態を緩和している可能性があると考えられる。
【0089】
また、図3に示すように、プリオン蛋白質をコードするPrnpにおいても、遺伝子の発現抑制が緩和され、むしろ発現亢進傾向にあった。異常プリオンはクロイツフェルト・ヤコブ病のようなプリオン病を起こし、またアルツハイマー病にも関与する。一方,正常なプリオンは、オートファジー機能に関与して神経細胞保護に必要である。
【0090】
さらに、図3に示すアルツハイマー病治療におけるターゲット遺伝子として注目されているMgat3の発現抑制がフィコシアニンにより緩和されていた。Mgat3はアルツハイマー病患者で発現亢進されており、Mgat3が生合成する特異的な糖蛋白質のバイセクティングGlcNAcによるBACE1の修飾が、BACE1による異常アミロイドβ生成に大きく関与することが知られている。
【0091】
また、図3に示すVegfdの発現抑制がフィコシアニン酵素分解物により緩和されていた。Vegfdは神経細胞障害における樹状突起形態・機能回復に必要であり、虚血性脳卒中モデルマウスにおいてVegfd類似化合物の経鼻投与が脳障害を改善するという報告がある(Mauceri, D., Buchthal, B., Hemstedt, T. J., Weiss, U., Klein, C. D., Bading, H. (2020). Nasally delivered VEGFD mimetics mitigate stroke-induced dendrite loss and brain damage. Proceedings of the National Academy of Sciences of the United States of America, 117, 8616-8623)。フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物はVegfd遺伝子発現を正常に戻すことにより、神経細胞樹状突起維持をはじめとする神経細胞保護に効果を有する可能性があると考えられる。
【0092】
フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物は、上記Cct4、Map9、Prnp、Mgat3及びVegfdの発現抑制を緩和していることが認められた。従って、フィコシアニン及びフィコシアニン酵素分解物は、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を有することが認められた。また、本結果から、スピルリナ及びスピルリナ酵素分解物においても、同様に、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を発揮するものと推察された。
【0093】
以上の自発的交替行動試験結果及びDNAマイクロアレイ結果から、スピルリナ、フィコシアニン、スピルリナ酵素分解物及びフィコシアニン酵素分解物からなる群から選択される少なくとも1種を有効成分として含有する組成物は、記憶学習機能及び/又は認知機能を向上させる作用、記憶学習機能及び/又は認知機能の低下を抑制させる作用を示す組成物であることが認められた。
図1
図2
図3