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特許7315744基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-18
(45)【発行日】2023-07-26
(54)【発明の名称】基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラム
(51)【国際特許分類】
   H01L 21/318 20060101AFI20230719BHJP
   H01L 21/31 20060101ALI20230719BHJP
   C23C 16/455 20060101ALI20230719BHJP
   C23C 16/42 20060101ALI20230719BHJP
【FI】
H01L21/318 B
H01L21/31 C
C23C16/455
C23C16/42
【請求項の数】 23
(21)【出願番号】P 2022039581
(22)【出願日】2022-03-14
【審査請求日】2022-09-26
(73)【特許権者】
【識別番号】318009126
【氏名又は名称】株式会社KOKUSAI ELECTRIC
(74)【代理人】
【識別番号】110001519
【氏名又は名称】弁理士法人太陽国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】中谷 公彦
(72)【発明者】
【氏名】橋本 良知
【審査官】船越 亮
(56)【参考文献】
【文献】特開2018-137435(JP,A)
【文献】特開2021-158165(JP,A)
【文献】特開2021-106242(JP,A)
【文献】特開2020-155607(JP,A)
【文献】特開2020-155452(JP,A)
【文献】特開2003-017564(JP,A)
【文献】特開2012-222028(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01L 21/318
H01L 21/31
C23C 16/455
C23C 16/42
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する工程と、
(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する工程と、
(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する工程と、
を有する基板処理方法。
【請求項2】
(b)では前記第1成膜剤として、第1原料と、第1反応体と、を用い、(c)では前記第2成膜剤として、前記第1原料とは分子構造が異なる第2原料と、第2反応体と、を用いる請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項3】
前記第2原料の熱分解温度は、前記第1原料の熱分解温度よりも低い請求項2に記載の基板処理方法。
【請求項4】
同一条件下においては、前記第2原料の反応性は、前記第1原料の反応性よりも高い請求項2または3に記載の基板処理方法。
【請求項5】
前記第1膜および前記第2膜のそれぞれは原子Xを含み、
前記第1原料は、1分子中に1つの前記原子Xを含み、前記第2原料は、1分子中に2つ以上の前記原子Xを含む請求項2~4のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項6】
前記第1膜および前記第2膜のそれぞれは原子Xを含み、
前記第1原料は、前記原子X同士の化学結合非含有であり、前記第2原料は、前記原子X同士の化学結合を含有する請求項2~5のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項7】
前記第2原料は、前記第1原料よりも、前記インヒビター層との反応性が高い原料である請求項2~6のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項8】
(b)では前記第1成膜剤として、第1原料と、第1反応体と、を用い、(c)では前記第2成膜剤として、前記第1原料と分子構造が同一である第2原料と、第2反応体と、を用いる請求項1に記載の基板処理方法。
【請求項9】
前記第1反応体と前記第2反応体とは分子構造が同一である請求項2~8のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項10】
(c)における前記第2成膜剤と前記インヒビター層との反応性が、(b)における前記第1成膜剤と前記インヒビター層との反応性よりも高くなるように、(b)および(c)における処理条件を制御する請求項1~9のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項11】
(b)では、前記基板に対して、第1温度下で、前記第1成膜剤を供給し、(c)では、前記基板に対して、前記第1温度よりも高い第2温度下で、前記第2成膜剤を供給する請求項1~10のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項12】
(b)では、前記基板に対して、プラズマ状態に励起されていない前記第1成膜剤を供給し、(c)では、前記基板に対して、少なくともその一部がプラズマ状態に励起された前記第2成膜剤を供給する請求項1~11のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項13】
前記第2膜の酸化耐性は、前記第1膜の酸化耐性よりも高い請求項1~12のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項14】
(b)では前記第1成膜剤として、前記第1原料と、前記第1反応体と、を前記基板に対して交互に供給し、(c)では前記第2成膜剤として、前記第2原料と、前記第2反応体と、を前記基板に対して交互に供給する請求項2~13のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項15】
前記第1膜と前記第2膜とはいずれも窒化膜である請求項1~14のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項16】
前記第2膜の厚さを前記第1膜の厚さ以下とする請求項1~15のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項17】
前記第2膜の厚さを0.3nm以上5nm以下とする請求項1~16のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項18】
(c)では、前記第2表面上に形成された前記第1膜上への前記第2膜の形成と並行して、前記第1表面に形成された前記インヒビター層の少なくとも一部の無効化および除去のうち少なくともいずれかを行う請求項1~17のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項19】
(a)、(b)、および(c)を、同一処理室内に前記基板を搬入した状態で行い、
(a)、(b)、および(c)を行った後の前記基板を前記処理室内から前記処理室外へ搬出する工程を、さらに有する請求項1~18のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項20】
(a)、(b)、および(c)を、前記基板を大気に曝露させることなく行い、
(a)、(b)、および(c)を行った後の前記基板を大気に曝露させる請求項1~19のいずれか1項に記載の基板処理方法。
【請求項21】
(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する工程と、
(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する工程と、
(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する工程と、
を有する半導体装置の製造方法。
【請求項22】
基板が処理される処理室と、
前記処理室内の基板に対して改質剤を供給する改質剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して第1成膜剤を供給する第1成膜剤供給系と、
前記処理室内の基板に対して第2成膜剤を供給する第2成膜剤供給系と、
前記第1成膜剤の少なくとも一部と前記第2成膜剤の少なくとも一部とにエネルギーを与えるエネルギー付与部と、
前記処理室内において、(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する前記改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する処理と、(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた前記第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する処理と、(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた前記第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する処理と、を行わせるように、前記改質剤供給系、前記第1成膜剤供給系、前記第2成膜剤供給系、および前記エネルギー付与部を制御することが可能なよう構成される制御部と、
を有する基板処理装置。
【請求項23】
(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する手順と、
(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する手順と、
(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する手順と、
をコンピュータによって基板処理装置に実行させるプログラム。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本開示は、基板処理方法、半導体装置の製造方法、基板処理装置、およびプログラムに関する。
【背景技術】
【0002】
半導体装置の製造工程の一工程として、基板の表面に存在する材質が異なる複数種類の表面のうち特定の表面上に選択的に膜を成長させて形成する処理(以下、この処理を選択成長または選択成膜ともいう)が行われることがある(例えば特許文献1,2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開2020-155452号公報
【文献】特開2020-155607号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、選択成長により、基板の表面に存在する複数種類の表面のうち特定の表面上に選択的に形成した膜は、大気曝露により酸化されることがある。
【0005】
本開示の目的は、選択成長により形成した膜の大気曝露による酸化を抑制することが可能な技術を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の一態様によれば、
(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する工程と、
(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する工程と、
(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する工程と、
を行う技術が提供される。
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、選択成長により形成した膜の大気曝露による酸化を抑制することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
図1図1は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を縦断面図で示す図である。
図2図2は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置の縦型処理炉の概略構成図であり、処理炉202部分を図1のA-A線断面図で示す図である。
図3図3は、本開示の一態様で好適に用いられる基板処理装置のコントローラ121の概略構成図であり、コントローラ121の制御系をブロック図で示す図である。
図4図4は、本開示の一態様における処理シーケンスを示す図である。
図5図5(a)は、第1表面と第2表面とを有するウエハの表面部分を示す断面模式図である。図5(b)は、図5(a)の状態から改質ステップを行うことで、第1表面に選択的にインヒビター層が形成された後のウエハの表面部分を示す断面模式図である。図5(c)は、図5(b)の状態から第1膜形成ステップを行うことで、第2表面上に選択的に第1膜が形成された後のウエハの表面部分を示す断面模式図である。図5(d)は、図5(c)の状態から第2膜形成ステップを行うことで、第2表面上に形成された第1膜上に第2膜が形成され、第1膜上に形成された第2膜よりも薄い第2膜が第1表面上に形成された後のウエハの表面部分を示す断面模式図である。
図6図6は、実施例、比較例、および参考例における評価結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0009】
<本開示の一態様>
以下、本開示の一態様について、主に、図1図4図5(a)~図5(d)を参照しつつ説明する。なお、以下の説明において用いられる図面は、いずれも模式的なものであり、図面に示される、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は、現実のものとは必ずしも一致していない。また、複数の図面の相互間においても、各要素の寸法の関係、各要素の比率等は必ずしも一致していない。
【0010】
(1)基板処理装置の構成
図1に示すように、処理炉202は温度調整器(加熱部)としてのヒータ207を有する。ヒータ207は円筒形状であり、保持板に支持されることにより垂直に据え付けられている。ヒータ207は、ガスにエネルギーを与えるエネルギー付与部として機能し、ガスを熱で活性化(励起)させる場合は、活性化機構(励起部)としても機能する。
【0011】
ヒータ207の内側には、ヒータ207と同心円状に反応管203が配設されている。反応管203は、例えば石英(SiO)または炭化シリコン(SiC)等の耐熱性材料により構成され、上端が閉塞し下端が開口した円筒形状に形成されている。反応管203の下方には、反応管203と同心円状に、マニホールド209が配設されている。マニホールド209は、例えばステンレス鋼(SUS)等の金属材料により構成され、上端および下端が開口した円筒形状に形成されている。マニホールド209の上端部は、反応管203の下端部に係合しており、反応管203を支持するように構成されている。マニホールド209と反応管203との間には、シール部材としてのOリング220aが設けられている。反応管203はヒータ207と同様に垂直に据え付けられている。主に、反応管203とマニホールド209とにより処理容器(反応容器)が構成される。処理容器の筒中空部には処理室201が形成される。処理室201は、基板としてのウエハ200を収容可能に構成されている。この処理室201内でウエハ200に対する処理が行われる。
【0012】
処理室201内には、第1~第3供給部としてのノズル249a~249cが、マニホールド209の側壁を貫通するようにそれぞれ設けられている。ノズル249a~249cを、それぞれ第1~第3ノズルとも称する。ノズル249a~249cは、例えば石英またはSiC等の耐熱性材料により構成されている。ノズル249a~249cには、ガス供給管232a~232cがそれぞれ接続されている。ノズル249a~249cはそれぞれ異なるノズルであり、ノズル249a,249cのそれぞれは、ノズル249bに隣接して設けられている。
【0013】
ガス供給管232a~232cには、ガス流の上流側から順に、流量制御器(流量制御部)であるマスフローコントローラ(MFC)241a~241cおよび開閉弁であるバルブ243a~243cがそれぞれ設けられている。ガス供給管232aのバルブ243aよりも下流側には、ガス供給管232d,232fがそれぞれ接続されている。ガス供給管232bのバルブ243bよりも下流側には、ガス供給管232e,232gがそれぞれ接続されている。ガス供給管232cのバルブ243cよりも下流側には、ガス供給管232hが接続されている。ガス供給管232cのガス供給管232hとの接続部よりも下流側には、ガスをプラズマ状態に励起させるプラズマ励起部(プラズマ発生部、プラズマ発生器)であるリモートプラズマユニット(RPU)270が設けられている。ガス供給管232d~232hには、ガス流の上流側から順に、MFC241d~241hおよびバルブ243d~243hがそれぞれ設けられている。ガス供給管232a~232hは、例えば、SUS等の金属材料により構成されている。
【0014】
図2に示すように、ノズル249a~249cは、反応管203の内壁とウエハ200との間における平面視において円環状の空間に、反応管203の内壁の下部より上部に沿って、ウエハ200の配列方向上方に向かって立ち上がるようにそれぞれ設けられている。すなわち、ノズル249a~249cは、ウエハ200が配列されるウエハ配列領域の側方の、ウエハ配列領域を水平に取り囲む領域に、ウエハ配列領域に沿うようにそれぞれ設けられている。平面視において、ノズル249bは、処理室201内に搬入されるウエハ200の中心を挟んで後述する排気口231aと一直線上に対向するように配置されている。ノズル249a,249cは、ノズル249bと排気口231aの中心とを通る直線Lを、反応管203の内壁(ウエハ200の外周部)に沿って両側から挟み込むように配置されている。直線Lは、ノズル249bとウエハ200の中心とを通る直線でもある。すなわち、ノズル249cは、直線Lを挟んでノズル249aと反対側に設けられているということもできる。ノズル249a,249cは、直線Lを対称軸として線対称に配置されている。ノズル249a~249cの側面には、ガスを供給するガス供給孔250a~250cがそれぞれ設けられている。ガス供給孔250a~250cは、それぞれが、平面視において排気口231aと対向(対面)するように開口しており、ウエハ200に向けてガスを供給することが可能となっている。ガス供給孔250a~250cは、反応管203の下部から上部にわたって複数設けられている。
【0015】
ガス供給管232aからは、改質剤が、MFC241a、バルブ243a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。
【0016】
ガス供給管232bからは、第1原料が、MFC241b、バルブ243b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。第1原料は、第1成膜剤の1つとして用いられる。
【0017】
ガス供給管232cからは、第1反応体および第2反応体が、MFC241c、バルブ243c、ノズル249cを介して処理室201内へ供給される。第1反応体は、第1成膜剤の1つとして用いられる。第2反応体は、第2成膜剤の1つとして用いられる。
【0018】
ガス供給管232dからは、第2原料が、MFC241d、バルブ243d、ガス供給管232a、ノズル249aを介して処理室201内へ供給される。第2原料は、第2成膜剤の1つとして用いられる。
【0019】
ガス供給管232eからは、洗浄剤が、MFC241e、バルブ243e、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給される。
【0020】
ガス供給管232f~232hからは、不活性ガスが、それぞれMFC241f~241h、バルブ243f~243h、ガス供給管232a~232c、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ供給される。不活性ガスは、パージガス、キャリアガス、希釈ガス等として作用する。
【0021】
主に、ガス供給管232a、MFC241a、バルブ243aにより、改質剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232b、MFC241b、バルブ243bにより、第1原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232c、MFC241c、バルブ243cにより、第1反応体供給系、第2反応体供給系が構成される。主に、ガス供給管232d、MFC241d、バルブ243dにより、第2原料供給系が構成される。主に、ガス供給管232e、MFC241e、バルブ243eにより、洗浄剤供給系が構成される。主に、ガス供給管232f~232h、MFC241f~241h、バルブ243f~243hにより、不活性ガス供給系が構成される。第1原料供給系、第1反応体供給系のそれぞれ或いは全てを第1成膜剤供給系とも称する。第2原料供給系、第2反応体供給系のそれぞれ或いは全てを第2成膜剤供給系とも称する。
【0022】
上述の各種供給系のうち、いずれか、或いは、全ての供給系は、バルブ243a~243hやMFC241a~241h等が集積されてなる集積型供給システム248として構成されていてもよい。集積型供給システム248は、ガス供給管232a~232hのそれぞれに対して接続され、ガス供給管232a~232h内への各種物質(各種ガス)の供給動作、すなわち、バルブ243a~243hの開閉動作やMFC241a~241hによる流量調整動作等が、後述するコントローラ121によって制御されるように構成されている。集積型供給システム248は、一体型、或いは、分割型の集積ユニットとして構成されており、ガス供給管232a~232h等に対して集積ユニット単位で着脱を行うことができ、集積型供給システム248のメンテナンス、交換、増設等を、集積ユニット単位で行うことが可能なように構成されている。
【0023】
反応管203の側壁下方には、処理室201内の雰囲気を排気する排気口231aが設けられている。図2に示すように、排気口231aは、平面視において、ウエハ200を挟んでノズル249a~249c(ガス供給孔250a~250c)と対向(対面)する位置に設けられている。排気口231aは、反応管203の側壁の下部より上部に沿って、すなわち、ウエハ配列領域に沿って設けられていてもよい。排気口231aには排気管231が接続されている。排気管231には、処理室201内の圧力を検出する圧力検出器(圧力検出部)としての圧力センサ245および圧力調整器(圧力調整部)としてのAPC(Auto Pressure Controller)バルブ244を介して、真空排気装置としての真空ポンプ246が接続されている。APCバルブ244は、真空ポンプ246を作動させた状態で弁を開閉することで、処理室201内の真空排気および真空排気停止を行うことができ、さらに、真空ポンプ246を作動させた状態で、圧力センサ245により検出された圧力情報に基づいて弁開度を調節することで、処理室201内の圧力を調整することができるように構成されている。主に、排気管231、APCバルブ244、圧力センサ245により、排気系が構成される。真空ポンプ246を排気系に含めてもよい。
【0024】
マニホールド209の下方には、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシールキャップ219が設けられている。シールキャップ219は、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シールキャップ219の上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220bが設けられている。シールキャップ219の下方には、後述するボート217を回転させる回転機構267が設置されている。回転機構267の回転軸255は、シールキャップ219を貫通してボート217に接続されている。回転機構267は、ボート217を回転させることでウエハ200を回転させるように構成されている。シールキャップ219は、反応管203の外部に設置された昇降機構としてのボートエレベータ115によって垂直方向に昇降されるように構成されている。ボートエレベータ115は、シールキャップ219を昇降させることで、ウエハ200を処理室201内外に搬入および搬出(搬送)する搬送装置(搬送機構)として構成されている。
【0025】
マニホールド209の下方には、シールキャップ219を降下させボート217を処理室201内から搬出した状態で、マニホールド209の下端開口を気密に閉塞可能な炉口蓋体としてのシャッタ219sが設けられている。シャッタ219sは、例えばSUS等の金属材料により構成され、円盤状に形成されている。シャッタ219sの上面には、マニホールド209の下端と当接するシール部材としてのOリング220cが設けられている。シャッタ219sの開閉動作(昇降動作や回動動作等)は、シャッタ開閉機構115sにより制御される。
【0026】
基板支持具としてのボート217は、複数枚、例えば25~200枚のウエハ200を、水平姿勢で、かつ、互いに中心を揃えた状態で垂直方向に整列させて多段に支持するように、すなわち、間隔を空けて配列させるように構成されている。ボート217は、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される。ボート217の下部には、例えば石英やSiC等の耐熱性材料により構成される断熱板218が多段に支持されている。
【0027】
反応管203内には、温度検出器としての温度センサ263が設置されている。温度センサ263により検出された温度情報に基づきヒータ207への通電具合を調整することで、処理室201内の温度が所望の温度分布となる。温度センサ263は、反応管203の内壁に沿って設けられている。
【0028】
図3に示すように、制御部(制御手段)であるコントローラ121は、CPU(Central Processing Unit)121a、RAM(Random Access Memory)121b、記憶装置121c、I/Oポート121dを備えたコンピュータとして構成されている。RAM121b、記憶装置121c、I/Oポート121dは、内部バス121eを介して、CPU121aとデータ交換可能なように構成されている。コントローラ121には、例えばタッチパネル等として構成された入出力装置122が接続されている。また、コントローラ121には、外部記憶装置123を接続することが可能となっている。
【0029】
記憶装置121cは、例えばフラッシュメモリ、HDD(Hard Disk Drive)、SSD(Solid State Drive)等で構成されている。記憶装置121c内には、基板処理装置の動作を制御する制御プログラムや、後述する基板処理の手順や条件等が記載されたプロセスレシピ等が、読み出し可能に格納されている。プロセスレシピは、後述する基板処理における各手順をコントローラ121によって、基板処理装置に実行させ、所定の結果を得ることができるように組み合わされたものであり、プログラムとして機能する。以下、プロセスレシピや制御プログラム等を総称して、単に、プログラムともいう。また、プロセスレシピを、単に、レシピともいう。本明細書においてプログラムという言葉を用いた場合は、レシピ単体のみを含む場合、制御プログラム単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。RAM121bは、CPU121aによって読み出されたプログラムやデータ等が一時的に保持されるメモリ領域(ワークエリア)として構成されている。
【0030】
I/Oポート121dは、上述のMFC241a~241h、バルブ243a~243h、圧力センサ245、APCバルブ244、真空ポンプ246、温度センサ263、ヒータ207、回転機構267、ボートエレベータ115、シャッタ開閉機構115s等に接続されている。
【0031】
CPU121aは、記憶装置121cから制御プログラムを読み出して実行すると共に、入出力装置122からの操作コマンドの入力等に応じて記憶装置121cからレシピを読み出すことが可能なように構成されている。CPU121aは、読み出したレシピの内容に沿うように、MFC241a~241hによる各種物質(各種ガス)の流量調整動作、バルブ243a~243hの開閉動作、APCバルブ244の開閉動作および圧力センサ245に基づくAPCバルブ244による圧力調整動作、真空ポンプ246の起動および停止、温度センサ263に基づくヒータ207の温度調整動作、回転機構267によるボート217の回転および回転速度調節動作、ボートエレベータ115によるボート217の昇降動作、シャッタ開閉機構115sによるシャッタ219sの開閉動作等を制御することが可能なように構成されている。
【0032】
コントローラ121は、外部記憶装置123に格納された上述のプログラムを、コンピュータにインストールすることにより構成することができる。外部記憶装置123は、例えば、HDD等の磁気ディスク、CD等の光ディスク、MO等の光磁気ディスク、USBメモリやSSD等の半導体メモリ等を含む。記憶装置121cや外部記憶装置123は、コンピュータ読み取り可能な記録媒体として構成されている。以下、これらを総称して、単に、記録媒体ともいう。本明細書において記録媒体という言葉を用いた場合は、記憶装置121c単体のみを含む場合、外部記憶装置123単体のみを含む場合、または、それらの両方を含む場合がある。なお、コンピュータへのプログラムの提供は、外部記憶装置123を用いず、インターネットや専用回線等の通信手段を用いて行ってもよい。
【0033】
(2)基板処理工程
上述の基板処理装置を用い、半導体装置の製造工程の一工程として、基板を処理する方法、すなわち、基板としてのウエハ200が有する第1表面および第2表面のうち、第2表面上に選択的に第1膜と第2膜とを積層するための処理シーケンスの例について、主に、図4図5(a)~図5(d)を用いて説明する。以下の説明において、基板処理装置を構成する各部の動作はコントローラ121により制御される。
【0034】
なお、ウエハ200の表面は第1下地と第2下地とを有しており、第1下地の表面により第1表面が構成され、第2下地の表面により第2表面が構成される。以下では、便宜上、代表的な例として、第1下地が酸化膜(酸素含有膜)としてのシリコン酸化膜(SiO膜、以下、SiO膜とも称する)であり、第2下地が非酸化膜(酸素非含有膜)としてのシリコン窒化膜(Si膜、以下、SiN膜とも称する)である場合について説明する。すなわち、以下では、第1表面が第1下地としてのSiO膜の表面により構成され、第2表面が第2下地としてのSiN膜の表面により構成される場合について説明する。第1下地、第2下地を、それぞれ、第1下地膜、第2下地膜とも称する。
【0035】
本態様における処理シーケンスでは、
(a)第1表面と第2表面とを有する基板としてのウエハ200に対して、第1表面と反応する改質剤を供給することにより、第1表面にインヒビター層を形成するステップ(改質ステップ)と、
(b)第1表面に前記インヒビター層が形成されたウエハ200に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、第2表面上に第1膜を形成するステップ(第1膜形成ステップ)と、
(c)第2表面上に第1膜が形成されたウエハ200に対して、少なくともその一部に第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、第2表面上に形成された第1膜上に第2膜を形成するステップ(第2膜形成ステップ)と、
を行う。
【0036】
なお、以下の例では、第1成膜剤として、第1原料と第1反応体とを用いる場合について説明する。この場合、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤とは、第1原料および第1反応体のうち少なくともいずれか1つに第1エネルギーが与えられたものであることを意味する。この場合、第1原料および第1反応体のうち少なくともいずれか1つが第1エネルギーにより励起されることもある。また、以下の例では、第2成膜剤として、第2原料と第2反応体とを用いる場合について説明する。この場合、少なくともその一部に第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤とは、第2原料および第2反応体のうち少なくともいずれか1つに第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられたものであることを意味する。この場合、第2原料および第2反応体のうち少なくともいずれか1つが第2エネルギーにより励起されることもある。
【0037】
また、以下の例では、第1膜形成ステップにおいて、第1成膜剤として、第1原料と、第1反応体と、をウエハ200に対して交互に供給し、第2膜形成ステップにおいて、第2成膜剤として、第2原料と、第2反応体と、をウエハ200に対して交互に供給する場合について説明する。具体的には、図4に示すように、第1膜形成ステップにおいて、ウエハ200に対して第1原料を供給するステップと、ウエハ200に対して第1反応体を供給するステップと、を交互に行い、第2膜形成ステップにおいて、ウエハ200に対して第2原料を供給するステップと、ウエハ200に対して第2反応体を供給するステップと、を交互に行う場合について説明する。
【0038】
すなわち、図4に示す処理シーケンスは、
(a)第1表面と第2表面とを有するウエハ200に対して、第1表面と反応する改質剤を供給することにより、第1表面にインヒビター層を形成する改質ステップと、
(b)ウエハ200に対して第1原料を供給するステップ(第1原料供給ステップ)と、ウエハ200に対して第1反応体を供給するステップ(第1反応体供給ステップ)と、を含むサイクルを所定回数(m回、mは1以上の整数)行うことで、第2表面上に第1膜を形成する第1膜形成ステップと、
(c)ウエハ200に対して第2原料を供給するステップ(第2原料供給ステップ)と、ウエハ200に対して第2反応体を供給するステップ(第2反応体供給ステップ)と、を含むサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことで、第2表面上に形成された第1膜上に第2膜を形成する第2膜形成ステップと、
を行う例を示している。
【0039】
また、以下の例では、図4に示すように、第2膜形成ステップにおける処理温度(以下、第2温度とも称する)を、第1膜形成ステップにおける処理温度(以下、第1温度とも称する)よりも高くする場合について説明する。この場合のように処理温度を制御することで、第2膜形成ステップでは、第1原料および第1反応体に与えられた第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが第2原料および第2反応体に与えられることとなる。この場合、第1原料および第1反応体を第1温度で加熱することにより、第1原料および第1反応体に第1エネルギーが与えられ、第2原料および第2反応体を第2温度で加熱することにより、第2原料および第2反応体に第2エネルギーが与えられることとなる。
【0040】
本明細書では、上述の処理シーケンスを、便宜上、以下のように示すこともある。以下の変形例や他の態様等の説明においても、同様の表記を用いる。
【0041】
改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n
【0042】
なお、以下に示す処理シーケンスのように、改質ステップを行う前に、ウエハ200に対して洗浄剤を供給することで、ウエハ200の表面上に形成された自然酸化膜を除去する洗浄ステップを、さらに行うようにしてもよい。また、以下に示す処理シーケンスのように、第2膜形成ステップを行った後に、ウエハ200を熱処理する熱処理ステップを、さらに行うようにしてもよい。また、図4や以下に示す処理シーケンスのように、洗浄ステップおよび熱処理ステップの両方を行うようにしてもよい。
【0043】
洗浄剤→改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n
改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n→熱処理
洗浄剤→改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n→熱処理
【0044】
本明細書において用いる「ウエハ」という用語は、ウエハそのものを意味する場合や、ウエハとその表面上に形成された所定の層や膜との積層体を意味する場合がある。本明細書において用いる「ウエハの表面」という言葉は、ウエハそのものの表面を意味する場合や、ウエハ上に形成された所定の層等の表面を意味する場合がある。本明細書において「ウエハ上に所定の層を形成する」と記載した場合は、ウエハそのものの表面上に所定の層を直接形成することを意味する場合や、ウエハ上に形成されている層等の上に所定の層を形成することを意味する場合がある。本明細書において「基板」という言葉を用いた場合も、「ウエハ」という言葉を用いた場合と同義である。
【0045】
本明細書において用いる「剤」という用語は、ガス状物質および液体状物質のうち少なくともいずれかを含む。液体状物質はミスト状物質を含む。すなわち、改質剤、第1成膜剤(第1原料、第1反応体)、および第2成膜剤(第2原料、第2反応体)のそれぞれは、ガス状物質を含んでいてもよく、ミスト状物質等の液体状物質を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。
【0046】
本明細書において用いる「層」という用語は、連続層および不連続層のうち少なくともいずれかを含む。例えば、インヒビター層は、成膜阻害作用を生じさせることが可能であれば、連続層を含んでいてもよく、不連続層を含んでいてもよく、それらの両方を含んでいてもよい。
【0047】
(ウエハチャージおよびボートロード)
複数枚のウエハ200がボート217に装填(ウエハチャージ)されると、シャッタ開閉機構115sによりシャッタ219sが移動させられて、マニホールド209の下端開口が開放される(シャッタオープン)。その後、図1に示すように、複数枚のウエハ200を支持したボート217は、ボートエレベータ115によって持ち上げられて処理室201内へ搬入(ボートロード)される。この状態で、シールキャップ219は、Oリング220bを介してマニホールド209の下端をシールした状態となる。このようにして、ウエハ200は、処理室201内に準備されることとなる。
【0048】
なお、ボート217に装填されるウエハ200は、図5(a)に示すように、第1表面と第2表面とを有する。第1表面は第1下地の表面であり、第2表面は第2下地の表面である。上述のように、ここでは、例えば、第1表面が第1下地としてのSiO膜の表面であり、第2表面が第2下地としてのSiN膜の表面である場合について説明する。
【0049】
(圧力調整および温度調整)
ボートロードが終了した後、処理室201内、すなわち、ウエハ200が存在する空間が所望の圧力(真空度)となるように、真空ポンプ246によって真空排気(減圧排気)される。この際、処理室201内の圧力は圧力センサ245で測定され、この測定された圧力情報に基づきAPCバルブ244がフィードバック制御される。また、処理室201内のウエハ200が所望の処理温度となるように、ヒータ207によって加熱される。この際、処理室201内が所望の温度分布となるように、温度センサ263が検出した温度情報に基づきヒータ207への通電具合がフィードバック制御される。また、回転機構267によるウエハ200の回転を開始する。処理室201内の排気、ウエハ200の加熱および回転は、いずれも、少なくともウエハ200に対する処理が終了するまでの間は継続して行われる。
【0050】
(洗浄ステップ)
その後、ウエハ200に対して洗浄剤を供給する。
【0051】
具体的には、バルブ243eを開き、ガス供給管232e内へ洗浄剤を流す。洗浄剤は、MFC241eにより流量調整され、ガス供給管232b、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して洗浄剤が供給される(洗浄剤供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0052】
後述する処理条件下でウエハ200に対して洗浄剤を供給することにより、ウエハ200の第2表面上に形成された自然酸化膜を除去(エッチング)し、第2表面を露出させることができる。このとき、ウエハ200が有する第1下地の表面および第2下地の表面、すなわち、第1表面および第2表面は、図5(a)に示すように、露出した状態となる。第1下地がSiO膜であり、第2下地がSiN膜である場合、第1表面および第2表面が露出した状態においては、第1表面は、その全域にわたりOH終端された状態となり、第2表面の多くの領域はOH終端されていない状態となる。すなわち、第1表面は、その全域にわたりOH基により終端された状態となり、第2表面の多くの領域はOH基により終端されていない状態となる。
【0053】
洗浄ステップにて洗浄剤を供給する際における処理条件としては、
処理温度:50~200℃、好ましくは70~150℃
処理圧力:10~2000Pa、好ましくは100~1500Pa
処理時間:10~60分、好ましくは30~60分
洗浄剤供給流量:0.05~1slm、好ましくは0.1~0.5slm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):1~10slm、好ましくは2~10slm
が例示される。
【0054】
なお、本明細書における「50~200℃」のような数値範囲の表記は、下限値および上限値がその範囲に含まれることを意味する。よって、例えば、「50~200℃」とは「50℃以上200℃以下」を意味する。他の数値範囲についても同様である。また、本明細書における処理温度とはウエハ200の温度または処理室201内の温度のことを意味し、処理圧力とは処理室201内の圧力のことを意味する。また、処理時間とは、その処理を継続する時間を意味する。また、供給流量に0slmが含まれる場合、0slmとは、その物質(ガス)を供給しないケースを意味する。これらは、以下の説明においても同様である。
【0055】
第2表面から自然酸化膜を除去し、第2表面を露出させた後、バルブ243eを閉じ、処理室201内への洗浄剤の供給を停止する。そして、処理室201内を真空排気し、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cを介して処理室201内へ不活性ガスを供給する。ノズル249a~249cより供給される不活性ガスは、パージガスとして作用し、これにより、処理室201内がパージされる(パージ)。
【0056】
洗浄ステップにてパージを行う際における処理条件としては、
処理圧力:1~30Pa
処理時間:1~120秒、好ましくは1~60秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0.5~20slm
が例示される。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、洗浄剤を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0057】
洗浄剤としては、例えば、フッ素(F)含有ガスを用いることができる。F含有ガスとしては、例えば、三フッ化塩素(ClF)ガス、フッ化塩素(ClF)ガス、フッ化窒素(NF)ガス、フッ化水素(HF)ガス、フッ素(F)ガス等を用いることができる。また、洗浄剤としては、各種洗浄液を用いることもできる。例えば、洗浄剤として、HF水溶液を用い、DHF洗浄を行うようにすることもできる。また例えば、洗浄剤として、アンモニア水と過酸化水素水と純水を含む洗浄液を用い、SC-1洗浄(APM洗浄)を行うようにすることもできる。また例えば、洗浄剤として、塩酸と過酸化水素水と純水を含む洗浄液を用い、SC-2洗浄(HPM洗浄)を行うようにすることもできる。また例えば、洗浄剤として、硫酸と過酸化水素水を含む洗浄液を用い、SPM洗浄を行うようにすることもできる。すなわち、洗浄剤は、ガス状物質であってもよく、液体状物質であってもよい。また、洗浄剤は、ミスト状物質等の液体状物質であってもよい。洗浄剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0058】
不活性ガスとしては、窒素(N)ガスや、アルゴン(Ar)ガス、ヘリウム(He)ガス、ネオン(Ne)ガス、キセノン(Xe)ガス等の希ガスを用いることができる。不活性ガスとしては、これらのうち1以上を用いることができる。この点は、後述する各ステップにおいても同様である。
【0059】
なお、事前に、ウエハ200の表面上に形成された自然酸化膜を除去し、その状態が維持されたウエハ200を用いる場合は、洗浄ステップを省略することができる。その場合、圧力調整および温度調整後に、後述する改質ステップを行うこととなる。
【0060】
(改質ステップ)
洗浄ステップを行った後、ウエハ200に対して、第1表面と反応する改質剤を供給する。
【0061】
具体的には、バルブ243aを開き、ガス供給管232a内へ改質剤を流す。改質剤は、MFC241aにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して改質剤が供給される(改質剤供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0062】
後述する処理条件下でウエハ200に対して、第1表面と反応する改質剤を供給することにより、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部であるインヒビター分子をウエハ200の第1表面に化学吸着させて、図5(b)に示すように、第1表面にインヒビター層を形成することができる。すなわち、本ステップでは、ウエハ200に対して第1表面と反応する改質剤を供給することにより、改質剤に含まれるインヒビター分子を第1表面に吸着させて第1表面にインヒビター層を形成することができる。言い換えれば、本ステップでは、第1表面にインヒビター層を形成するよう第1表面を改質することができる。これにより、第1下地の最表面である第1表面を、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部であるインヒビター分子により終端させることが可能となる。インヒビター分子を成膜阻害分子(吸着阻害分子、反応阻害分子)とも称する。また、インヒビター層を成膜阻害層(吸着阻害層、反応阻害層)とも称する。
【0063】
本ステップで形成されるインヒビター層は、改質剤由来の残基である、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を含む。インヒビター層は、後述する第1膜形成ステップにおいて、第1表面への第1原料(第1成膜剤)の吸着を防ぎ、第1表面での成膜反応の進行を阻害(抑制)する。
【0064】
改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部、すなわち、インヒビター分子としては、例えば、トリメチルシリル基(-SiMe)やトリエチルシリル基(-SiEt)等のトリアルキルシリル基を例示することができる。トリアルキルシリル基は、炭化水素基の1種であるアルキル基を含む。これらの場合、トリメチルシリル基やトリエチルシリル基のSiが、ウエハ200の第1表面における吸着サイトに吸着する。第1表面がSiO膜の表面である場合、第1表面は吸着サイトとしてOH終端(OH基)を含み、トリメチルシリル基やトリエチルシリル基のSiは、第1表面におけるOH終端(OH基)のOと結合し、第1表面が、メチル基やエチル基などのアルキル基により終端されることとなる。第1表面を終端した、メチル基(トリメチルシリル基)やエチル基(トリエチルシリル基)等のアルキル基(アルキルシリル基)に代表される炭化水素基は、インヒビター層を構成し、後述する成膜ステップにおいて、第1表面への原料(成膜剤)の吸着を防ぎ、第1表面での成膜反応の進行を阻害(抑制)することができる。
【0065】
なお、第1表面における吸着サイトに吸着したインヒビター分子がトリメチルシリル基(-SiMe)やトリエチルシリル基(-SiEt)等のトリアルキルシリル基である場合、インヒビター分子はアルキル基(アルキルシリル基)を含み、インヒビター層はアルキル基(アルキルシリル基)終端を含むこととなる。インヒビター層がアルキル基(アルキルシリル基)終端などの炭化水素基終端を含む例の場合、高い成膜阻害効果が得られることとなる。なお、アルキル基(アルキルシリル基)終端、炭化水素基終端を、それぞれ、アルキル(アルキルシリル)終端、炭化水素終端とも称する。
【0066】
なお、本ステップでは、ウエハ200の第2表面の一部に、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が吸着することもあるが、その吸着量は僅かであり、ウエハ200の第1表面への吸着量の方が圧倒的に多くなる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を処理室201内において改質剤が気相分解しない条件としているためである。また、第1表面が、その全域にわたりOH終端されているのに対し、第2表面の多くの領域がOH終端されていないためである。本ステップでは、処理室201内において改質剤が気相分解しないことから、第1表面および第2表面には、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が多重堆積することはなく、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部は、第1表面および第2表面のうち、第1表面に選択的に吸着し、これにより第1表面が、選択的に、改質剤を構成する分子の分子構造の少なくとも一部により終端されることとなる。
【0067】
改質ステップにて改質剤を供給する際における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~500℃、好ましくは室温~250℃
処理圧力:5~2000Pa、好ましくは10~1000Pa
改質剤供給流量:0.001~3slm、好ましくは0.001~0.5slm
改質剤供給時間 :1秒~120分、好ましくは30秒~60分
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0068】
ウエハ200の第1表面に選択的にインヒビター層を形成した後、バルブ243aを閉じ、処理室201内への改質剤の供給を停止する。そして、洗浄ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、改質剤を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0069】
改質剤としては、例えば、シリコン(Si)にアミノ基が直接結合した構造を有する化合物や、シリコン(Si)にアミノ基とアルキル基とが直接結合した構造を有する化合物を用いることができる。
【0070】
改質剤としては、例えば、(ジメチルアミノ)トリメチルシラン((CHNSi(CH、略称:DMATMS)、(ジエチルアミノ)トリエチルシラン((CNSi(C、略称:DEATES)、(ジメチルアミノ)トリエチルシラン((CHNSi(C、略称:DMATES)、(ジエチルアミノ)トリメチルシラン((CNSi(CH、略称:DEATMS)、(ジプロピルアミノ)トリメチルシラン((CNSi(CH、略称:DPATMS)、(ジブチルアミノ)トリメチルシラン((CNSi(CH、略称:DBATMS)、(トリメチルシリル)アミン((CHSiNH、略称:TMSA)、(トリエチルシリル)アミン((CSiNH、略称:TESA)、(ジメチルアミノ)シラン((CHNSiH、略称:DMAS)、(ジエチルアミノ)シラン((CNSiH、略称:DEAS)、(ジプロピルアミノ)シラン((CNSiH、略称:DPAS)、(ジブチルアミノ)シラン((CNSiH、略称:DBAS)等を用いることができる。改質剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0071】
また、改質剤としては、例えば、ビス(ジメチルアミノ)ジメチルシラン([(CHN]Si(CH、略称:BDMADMS)、ビス(ジエチルアミノ)ジエチルシラン([(CN]Si(C、略称:BDEADES)、ビス(ジメチルアミノ)ジエチルシラン([(CHN]Si(C、略称:BDMADES)、ビス(ジエチルアミノ)ジメチルシラン([(CN]Si(CH、略称:BDEADMS)、ビス(ジメチルアミノ)シラン([(CHN]SiH、略称:BDMAS)、ビス(ジエチルアミノ)シラン([(CN]SiH、略称:BDEAS)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)エタン([(CHN(CHSi]、略称:BDMADMSE)、ビス(ジプロピルアミノ)シラン([(CN]SiH、略称:BDPAS)、ビス(ジブチルアミノ)シラン([(CN]SiH、略称:BDBAS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジメチルシラン([(CN]Si(CH、略称:BDPADMS)、ビス(ジプロピルアミノ)ジエチルシラン([(CN]Si(C、略称:BDPADES)、(ジメチルシリル)ジアミン((CHSi(NH、略称:DMSDA)、(ジエチルシリル)ジアミン((CSi(NH、略称:DESDA)、(ジプロピルシリル)ジアミン((CSi(NH、略称:DESDA)、ビス(ジメチルアミノジメチルシリル)メタン([(CHN(CHSi]CH、略称:BDMADMSM)、ビス(ジメチルアミノ)テトラメチルジシラン([(CHN](CHSi、略称:BDMATMDS)等を用いることもできる。改質剤としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0072】
(第1膜形成ステップ)
改質ステップを行った後、ウエハ200に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給し、ウエハ200の第2表面上に第1膜を形成する。すなわち、ウエハ200に対して、第2表面と反応するよう、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給し、第2表面上に選択的に(優先的に)膜を形成する。具体的には、次の第1原料供給ステップ、第1反応体供給ステップを順次実行する。なお、以下の例では、第1原料および第1反応体のそれぞれを、第1温度下で供給する。すなわち、以下の例では、第1原料および第1反応体のそれぞれが第1温度で加熱されることで、第1原料および第1反応体のそれぞれに、第1エネルギーが与えられることとなる。この場合、第1原料および第1反応体のうち少なくともいずれか1つが第1エネルギーにより励起(熱励起)されることもある。なお、以下の例では、第1温度を、後述する第2温度よりも低い温度とする。第1原料供給ステップ、第1反応体供給ステップでは、ヒータ207の出力を調整し、処理温度、すなわち、第1温度を、改質ステップにおける処理温度以上とした状態、好ましくは、図4に示すように、改質ステップにおける処理温度よりも高くした状態を維持する。
【0073】
[第1原料供給ステップ]
本ステップでは、改質ステップを行った後のウエハ200、すなわち、第1表面に選択的にインヒビター層が形成された後のウエハ200に対して、第1温度下で、第1成膜剤として、第1原料(第1原料ガス)を供給する。
【0074】
具体的には、バルブ243bを開き、ガス供給管232b内へ第1原料を流す。第1原料は、MFC241bにより流量調整され、ノズル249bを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して第1原料が供給される(第1原料供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0075】
後述する処理条件下でウエハ200に対して第1原料を供給することにより、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部の、第1表面への化学吸着を抑制しつつ、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を、第2表面に選択的に化学吸着させることが可能となる。これにより、第2表面に選択的に第1層が形成される。第1層は、第1原料の残基である、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を含む。すなわち、第1層は、第1原料を構成する原子の少なくとも一部を含む。
【0076】
本ステップでは、第1層の形成を、後述するような低い温度条件下で、すなわち、第1温度下で進行させることができる。このように、第1層の形成を、第1温度下で行うことにより、第1表面に形成されたインヒビター層を構成する分子や原子を、第1表面から消滅(脱離)させることなく維持することが可能となる。
【0077】
また、第1層の形成を、後述するような低い温度条件下で、すなわち、第1温度下で行うことにより、処理室201内において第1原料が熱分解(気相分解)、すなわち、自己分解しないようにすることができる。これにより、第1表面および第2表面に、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が多重堆積することを抑制することができ、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を、第1表面および第2表面のうち、第2表面に選択的に吸着させることが可能となる。
【0078】
なお、本ステップでは、ウエハ200の第1表面の一部に、第1原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が吸着することもあるが、その吸着量は僅かであり、ウエハ200の第2表面への吸着量の方が圧倒的に多くなる。このような選択的(優先的)な吸着が可能となるのは、本ステップにおける処理条件を、後述するような低い温度条件、すなわち、第1温度であって、処理室201内において原料が気相分解しない条件としているためである。また、第1表面の全域にわたりインヒビター層が形成されているのに対し、第2表面の多くの領域にインヒビター層が形成されていないためである。
【0079】
第1原料供給ステップにて第1原料を供給する際における処理条件としては、
処理温度(第1温度):350~600℃、好ましくは400~550℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは10~1333Pa
第1原料供給流量:0.001~2slm、好ましくは0.01~1slm
第1原料供給時間:1~180秒、好ましくは10~120秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0080】
ウエハ200の第2表面に第1層を選択的に形成した後、バルブ243bを閉じ、処理室201内への第1原料の供給を停止する。そして、洗浄ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、第1原料を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0081】
第1原料としては、例えば、第1膜形成ステップにて原子Xを含む第1膜を形成する場合、1分子中に1つ以上の原子Xを含むガス(物質)を用いることができる。また、第1原料としては、原子X同士の化学結合非含有であるガス(物質)を用いることができる。原子Xは、Si、ゲルマニウム(Ge)、チタン(Ti)、タンタル(Ta)、タングステン(W)、アルミニウム(Al)等を含む。第1原料としては、例えば、1分子中に1つ以上のSiを含むSi含有ガス(Si含有物質)を用いることが好ましく、1分子中に1つのSiを含むSi含有ガス(Si含有物質)を用いることがより好ましい。また、第1原料としては、例えば、Si同士の化学結合非含有、すなわち、Si-Si結合非含有であるSi含有ガス(Si含有物質)を用いることが好ましい。
【0082】
第1原料としては、例えば、Si及びハロゲン含有ガス(Si及びハロゲン含有物質)を用いることができる。ハロゲンは、塩素(Cl)、フッ素(F)、臭素(Br)、ヨウ素(I)等を含む。Si及びハロゲン含有ガスは、ハロゲンを、Siとハロゲンとの化学結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、Si-Cl結合を有するシラン系ガス、すなわち、クロロシラン系ガスを用いることができる。Si及びハロゲン含有ガスは、さらに、炭素(C)を含んでいてもよく、その場合、CをSi-C結合の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、Si、Cl、およびアルキレン基を含み、Si-C結合を有するシラン系ガス、すなわち、アルキレンクロロシラン系ガスを用いることができる。アルキレン基は、メチレン基、エチレン基、プロピレン基、ブチレン基等を含む。また、Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、Si、Cl、およびアルキル基を含み、Si-C結合を有するシラン系ガス、すなわち、アルキルクロロシラン系ガスを用いることができる。アルキル基は、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基等を含む。Si及びハロゲン含有ガスは、さらに、Oを含んでいてもよく、その場合、OをSi-O結合の形で、例えば、シロキサン結合(Si-O-Si結合)の形で含むことが好ましい。Si及びハロゲン含有ガスとしては、例えば、Si、Cl、およびシロキサン結合を有するシラン系ガス、すなわち、クロロシロキサン系ガスを用いることができる。これらのガスは、いずれも、ClをSi-Cl結合の形で含むことが好ましい。
【0083】
第1原料としては、例えば、ビス(トリクロロシリル)メタン((SiClCH、略称:BTCSM)、1,2-ビス(トリクロロシリル)エタン((SiCl、略称:BTCSE)、1,1,2,2-テトラクロロ-1,2-ジメチルジシラン((CHSiCl、略称:TCDMDS)、1,2-ジクロロ-1,1,2,2-テトラメチルジシラン((CHSiCl、略称:DCTMDS)、1,1,3,3-テトラクロロ-1,3-ジシラシクロブタン(CClSi、略称:TCDSCB)等を用いることができる。また、第1原料としては、例えば、モノクロロシラン(SiHCl、略称:MCS)、ジクロロシラン(SiHCl、略称:DCS)、トリクロロシラン(SiHCl、略称:TCS)、テトラクロロシラン(SiCl、略称:4CS)、ヘキサクロロジシラン(SiCl、略称:HCDS)、オクタクロロトリシラン(SiCl、略称:OCTS)等を用いることができる。また、第1原料としては、例えば、ヘキサクロロジシロキサン(ClSi-O-SiCl、略称:HCDSO)、オクタクロロトリシロキサン(ClSi-O-SiCl-O-SiCl、略称:OCTSO)等を用いることができる。第1原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0084】
また、第1原料としては、テトラフルオロシラン(SiF)、ジフルオロシラン(SiH)等のフルオロシラン系ガスや、テトラブロモシラン(SiBr)、ジブロモシラン(SiHBr)等のブロモシラン系ガスや、テトラヨードシラン(SiI)、ジヨードシラン(SiH)等のヨードシラン系ガスを用いることができる。第1原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0085】
[第1反応体供給ステップ]
第1原料供給ステップが終了した後、ウエハ200、すなわち、第2表面上に選択的に第1層を形成した後のウエハ200に対して、第1温度下で、第1成膜剤として、第1反応体(第1反応ガス)を供給する。ここでは、第1反応体(第1反応ガス)として、窒素(N)含有ガス(N含有物質)を用いる例について説明する。
【0086】
具体的には、バルブ243cを開き、ガス供給管232c内へ第1反応体を流す。第1反応体は、MFC241cにより流量調整され、ノズル249cを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して第1反応体が供給される(第1反応体供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0087】
後述する処理条件下でウエハ200に対して第1反応体を供給することにより、第1原料供給ステップにてウエハ200の第2表面上に形成された第1層の少なくとも一部を窒化させることが可能となる。これにより、第2表面上に、第1層が窒化されてなる第2層が形成されることとなる。
【0088】
本ステップでは、第2層の形成を、後述するような低い温度条件下で、すなわち、第1温度下で進行させることが可能となる。このように、第2層の形成を、後述するような低い温度条件下で、すなわち、第1温度下で行うことにより、第1表面に形成されたインヒビター層を構成する分子や原子を、第1表面から消滅(脱離)させることなく維持することが可能となる。
【0089】
第1反応体供給ステップにて第1反応体を供給する際における処理条件としては、
処理温度(第1温度):350~600℃、好ましくは400~550℃
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~1333Pa
第1反応体供給流量:0.01~10slm
第1反応体供給時間:1~120秒、好ましくは5~80秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0090】
ウエハ200の第2表面上に形成された第1層を窒化させて第2層へ変化(変換)させた後、バルブ243cを閉じ、処理室201内への第1反応体の供給を停止する。そして、洗浄ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、第1反応体を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0091】
第1反応体としては、例えば、N含有ガス(N含有物質)を用いることができる。N含有ガス(N含有物質)としては、例えば、N及び水素(H)含有ガス、C及びN含有ガスを用いることができる。N及びH含有ガスとしては、例えば、N-H結合を含む窒化水素系ガスを用いることができる。C及びN含有ガスとしては、アミン系ガス、有機ヒドラジン系ガスを用いることができる。
【0092】
第1反応体としては、例えば、アンモニア(NH)、ヒドラジン(N)、ジアゼン(N)、N等を用いることができる。また、第1反応体としては、例えば、モノエチルアミン(CNH、略称:MEA)、ジエチルアミン((CNH、略称:DEA)、トリエチルアミン((CN、略称:TEA)、モノメチルアミン(CHNH、略称:MMA)、ジメチルアミン((CHNH、略称:DMA)、トリメチルアミン((CHN、略称:TMA)等を用いることができる。また、第1反応体としては、モノメチルヒドラジン((CH)HN、略称:MMH)、ジメチルヒドラジン((CH、略称:DMH)、トリメチルヒドラジン((CH(CH)H、略称:TMH)等を用いることができる。第1反応体としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0093】
[所定回数実施]
上述の第1原料供給ステップ、第1反応体供給ステップを非同時に、すなわち、同期させることなく交互に行うサイクルを所定回数(m回、mは1以上の整数)行うことにより、図5(c)に示すように、ウエハ200の第1表面および第2表面のうち、第2表面上に選択的に(優先的に)第1膜を形成することができる。例えば、上述の第1原料および第1反応体を用いる場合、第2表面上に第1膜としてSiN膜またはシリコン炭窒化膜(SiCN膜)を選択的に成長させることができる。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成される第2層の厚さを所望の第1膜の膜厚よりも薄くし、第2層を積層することで形成される第1膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0094】
上述のように、上述のサイクルを所定回数行うことで、ウエハ200の第2表面上に選択的に第1膜を成長させることができる。このとき、ウエハ200の第1表面には、インヒビター層が形成されていることから、第1表面上への第1膜の成長を抑制することができる。すなわち、上述のサイクルを所定回数行うことで、第1表面上への第1膜の成長を抑制しつつ、第2表面上への第1膜の成長を促進させることができる。
【0095】
なお、上述のように、第1原料供給ステップ、第1反応体供給ステップを実施する際、第1表面に形成されたインヒビター層は、上述のように第1表面に維持されることから、第1表面上への第1膜の成長を抑制することができる。ただし、何らかの要因により、第1表面へのインヒビター層の形成が不十分となる場合等においては、第1表面上への第1膜の形成、成長が、ごく僅かに生じる場合もある。ただし、この場合であっても、第1表面上に形成される第1膜の厚さは、第2表面上に形成される第1膜の厚さに比べて、遥かに薄くなる。本明細書において、「選択成長における選択性が高い」とは、第1表面上に第1膜が全く形成されず、第2表面上のみに第1膜が形成される場合だけではなく、第1表面上に、ごく薄い第1膜が形成されるものの、第2表面上にはそれよりも遥かに厚い第1膜が形成される場合をも含むものとする。
【0096】
また、第1原料供給ステップ、第1反応体供給ステップを実施する第1膜形成ステップにおいて、第1膜形成ステップにおける第1成膜剤(第1原料、第1反応体)とインヒビター層との反応性が、第2膜形成ステップにおける第2成膜剤(第2原料、第2反応体)とインヒビター層との反応性よりも低くなるように、処理条件を制御することが好ましい。これにより、第1膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去(脱離)を抑制することが可能となり、第2表面上に第1膜を高い選択性をもって形成することが可能となる。
【0097】
(第2膜形成ステップ)
第1膜形成ステップを行った後、ウエハ200に対して、少なくともその一部に第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給し、ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上に第2膜を形成する。すなわち、ウエハ200に対して、第2表面上に形成された第1膜と反応するよう、少なくともその一部に第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給し、第1膜上に選択的に(優先的に)膜を形成する。具体的には、次の第2原料供給ステップ、第2反応体供給ステップを順次実行する。なお、以下の例では、第2原料および第2反応体のそれぞれを、第1温度よりも高い第2温度下で供給する。すなわち、以下の例では、第2原料および第2反応体のそれぞれが第1温度よりも高い第2温度で加熱されることで、第2原料および第2反応体のそれぞれに、第2エネルギーが与えられることとなる。この場合、第2原料および第2反応体のうち少なくともいずれか1つが第2エネルギーにより励起(熱励起)されることもある。第2原料供給ステップ、第2反応体供給ステップでは、ヒータ207の出力を調整し、処理温度、すなわち、第2温度を、図4に示すように、第1原料供給ステップ、第2反応体供給ステップにおける処理温度、すなわち、第1温度よりも高くした状態を維持する。
【0098】
[第2原料供給ステップ]
本ステップでは、第1膜形成ステップを行った後のウエハ200、すなわち、第2表面上に選択的に第1膜が形成された後のウエハ200に対して、第2温度下で、第2成膜剤として、第2原料(第2原料ガス)を供給する。ここでは、第2原料として、第1原料とは分子構造が異なる原料を用いる例について説明する。
【0099】
具体的には、バルブ243dを開き、ガス供給管232a内へ第2原料を流す。第2原料は、MFC241dにより流量調整され、ノズル249aを介して処理室201内へ供給され、排気口231aより排気される。このとき、ウエハ200の側方から、ウエハ200に対して第2原料が供給される(第2原料供給)。このとき、バルブ243f~243hを開き、ノズル249a~249cのそれぞれを介して処理室201内へ不活性ガスを供給するようにしてもよい。
【0100】
後述する処理条件下でウエハ200に対して第2原料を供給することにより、第2原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を、第2表面上に形成された第1膜上に選択的に化学吸着させることが可能となる。これにより、第2表面上に形成された第1膜上に選択的に第3層が形成される。第3層は、第2原料の残基である、第2原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部を含む。すなわち、第3層は、第2原料を構成する原子の少なくとも一部を含む。
【0101】
本ステップでは、第3層の形成を、後述するような比較的高い温度条件下で、すなわち、第2温度下で進行させることができる。このように、第3層の形成を、第2温度下で行うことにより、第2原料が効率的に熱分解(気相分解)することで、不純物が少なく、密度が高い第3層を形成することが可能となる。
【0102】
また、第3層の形成を、後述するような比較的高い温度条件で、すなわち、第2温度下で行うことにより、第1表面に残存するインヒビター層の少なくとも一部を無効化および/または除去(脱離)させることが可能となる。すなわち、第1表面に残存するインヒビター層の少なくとも一部の無効化および除去のうち少なくともいずれかを行うことが可能となる。なお、インヒビター層の無効化とは、インヒビター層を構成する分子の分子構造や原子の配列構造等を変化させ、第1表面への第2成膜剤の吸着や、第1表面と第2成膜剤との反応を可能とすることを意味する。このため、本ステップでは、ウエハ200の第1表面の一部に、第2原料を構成する分子の分子構造の少なくとも一部が吸着することもある。しかしながら、その場合であっても、その吸着量は僅かとなり、ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上への吸着量の方が圧倒的に多くなる。これは、第2温度下では、インヒビター層の少なくとも一部の無効化および/または除去が、急激に進行することはなく、ゆっくりと徐々に進行するためである。
【0103】
第2原料供給ステップにて第2原料を供給する際における処理条件としては、
処理温度(第2温度):450~800℃、好ましくは600~700℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは10~1333Pa
第2原料供給流量:0.001~2slm、好ましくは0.01~1slm
第2原料供給時間:1~180秒、好ましくは10~120秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0104】
ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上に第3層を選択的に形成した後、バルブ243dを閉じ、処理室201内への第2原料の供給を停止する。そして、洗浄ステップにおけるパージと同様の処理手順、処理条件により、処理室201内に残留するガス状物質等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、第2原料を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0105】
第2原料としては、例えば、第1原料とは分子構造が異なる化合物を用いることができる。なお、第2原料の熱分解温度は、第1原料の熱分解温度よりも低いことが好ましい。また、同一条件下においては、第2原料の反応性は、第1原料の反応性よりも高いことが好ましい。このような第2原料を用いることで、密度が高い第3層を効率的に形成することが可能となる。また、第2原料としては、第1原料よりも、上述の改質ステップで形成されたインヒビター層との反応性が高い原料を用いることが好ましい。このような第2原料を用いることで、インヒビター層の無効化および/または除去を、効率的かつ効果的に行うことが可能となる。
【0106】
また、第2原料としては、例えば、第2膜形成ステップで原子Xを含む第2膜を形成する場合、1分子中に1つ以上の原子Xを含むガス(物質)を用いることができる。また、第2原料としては、原子X同士の化学結合を含有するガス(物質)を用いることができる。原子Xは、上述の第1原料における原子Xと同様である。第2原料としては、例えば、1分子中に1つ以上のSiを含むSi含有ガス(Si含有物質)を用いることが好ましく、1分子中に2つ以上のSiを含むSi含有ガス(Si含有物質)を用いることがより好ましい。また、第2原料としては、例えば、Si同士の化学結合、すなわち、Si-Si結合を含有するSi含有ガス(Si含有物質)を用いることが好ましい。
【0107】
第2原料としては、例えば、上述の第1原料供給ステップで例示した各種第1原料と同様のSi及びハロゲン含有ガス(Si及びハロゲン含有物質)を用いることができる。ただし、第2原料としては、第1原料とは分子構造が異なるSi及びハロゲン含有ガス(Si及びハロゲン含有物質)を選択することが好ましい。
【0108】
また、第2原料としては、例えば、テトラキス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CH、略称:4DMAS)、トリス(ジメチルアミノ)シラン(Si[N(CHH、略称:3DMAS)、ビス(ジエチルアミノ)シラン(Si[N(C、略称:BDEAS)、ビス(ターシャリーブチルアミノ)シラン(SiH[NH(C)]、略称:BTBAS)、(ジイソブチルアミノ)シラン(SiH[N(C]、略称:DIBAS)、(ジイソプロピルアミノ)シラン(SiH[N(C]、略称:DIPAS)等のアミノシラン系ガスを用いることもできる。第2原料としては、これらのうち1以上を用いることができる。
【0109】
[第2反応体供給ステップ]
第2原料供給ステップが終了した後、ウエハ200、すなわち、第2表面上に形成された第1膜上に選択的に第3層を形成した後のウエハ200に対して、第2温度下で、第2成膜剤として、第2反応体(第2反応ガス)を供給する。ここでは、第2反応体(第2反応ガス)として、N含有ガス(N含有物質)を用いる例について説明する。本ステップは、上述の第1反応体供給ステップと同様の処理手順、下記の処理条件にて行うことができる。本ステップにより、第2原料供給ステップにて第1膜上に形成された第3層の少なくとも一部を窒化させることが可能となる。これにより、第2表面上に形成された第1膜上に、第3層が窒化されてなる第4層が形成されることとなる。
【0110】
本ステップでは、第4層の形成を、後述するような比較的高い温度条件下で、すなわち、第2温度下で進行させることができる。このように第2温度下で第3層を窒化させることにより、不純物の除去や、欠陥の修復を行うことができ、第3層を、不純物や欠陥が少なく密度がさらに高い第4層へ変化させることが可能となる。また、本ステップでは、第4層の形成を、後述するような比較的高い温度条件下で、すなわち、第2温度下で進行させることから、第1表面に残存するインヒビター層の少なくとも一部の無効化および/または除去を行うことが可能となる。ただし、第2原料供給ステップと同様、本ステップにおいても、第2温度下では、インヒビター層の少なくとも一部の無効化および/または除去は、急激に進行することはなく、ゆっくりと徐々に進行することとなる。
【0111】
第2反応体供給ステップにて第2反応体を供給する際における処理条件としては、
処理温度(第2温度):450~800℃、好ましくは600~700℃
処理圧力:1~4000Pa、好ましくは1~1333Pa
第2反応体供給流量:0.01~10slm
第2反応体供給時間:1~120秒、好ましくは5~80秒
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0112】
ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上に形成された第3層を窒化させて第4層へ変化(変換)させた後、洗浄ステップにおけるパージと同様の処理手順により、処理室201内に残留するガス等を処理室201内から排除する(パージ)。なお、本ステップにてパージを行う際における処理温度は、第2反応体を供給する際における処理温度と同様の温度とすることが好ましい。
【0113】
第2反応体としては、例えば、上述の第1反応体供給ステップで例示した各種第1反応体と同様のN含有ガス(N含有物質)を用いることができる。第1反応体と第2反応体とは、分子構造が異なっていてもよいし、同一であってもよい。第1反応体と第2反応体との分子構造が同一である場合、使用する物質の種類を低減させることが可能となる。これにより、処理シーケンスを簡素化させることができ、基板処理装置における供給系を簡素化させることができ、装置コストを低減させることも可能となる。
【0114】
[所定回数実施]
上述の第2原料供給ステップ、第2反応体供給ステップを非同時に、すなわち、同期させることなく交互に行うサイクルを所定回数(n回、nは1以上の整数)行うことにより、図5(d)に示すように、ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上に選択的に第2膜を形成することができる。例えば、上述の第2原料および第2反応体を用いる場合、第1膜上に第2膜としてSiN膜またはSiCN膜を選択的に成長させることができる。なお、第2膜は、第1膜の表面全体を覆うように設けられることとなる。すなわち、第1膜上に第2膜が形成されることで、第1膜の表面は、第2膜により覆われることで、その表面は露出しないこととなる。上述のサイクルは、複数回繰り返すことが好ましい。すなわち、1サイクルあたりに形成される第4層の厚さを所望の第2膜の膜厚よりも薄くし、第4層を積層することで形成される第2膜の膜厚が所望の膜厚になるまで、上述のサイクルを複数回繰り返すことが好ましい。
【0115】
上述のように、上述のサイクルを所定回数行うことで、ウエハ200の第2表面上に形成された第1膜上への第2膜の形成と並行して、ウエハ200の第1表面に残存するインヒビター層の少なくとも一部の無効化および/または除去を行うことができる。これにより、第2膜形成ステップを行った後において、インヒビター層の無効化および/または除去を行う工程を省略することが可能となる。もしくは、そのような工程を行う場合であっても、そのような工程における負荷を低減させることが可能となる。なお、上述のサイクルを所定回数行うことで、インヒビター層の無効化および/または除去(脱離)が行われた第1表面上には、第1膜上に形成された第2膜よりも薄い第2膜が形成されることがある。図5(d)は、インヒビター層が脱離することで露出した第1表面上に、第1膜上に形成された第2膜よりも薄い第2膜が形成された例を示している。
【0116】
また、第2原料供給ステップ、第2反応体供給ステップを実施する第2膜形成ステップにおいて、第2膜形成ステップにおける第2成膜剤(第2原料、第2反応体)とインヒビター層との反応性が、第1膜形成ステップにおける第1成膜剤(第1原料、第1反応体)とインヒビター層との反応性よりも高くなるように、処理条件を制御することが好ましい。これにより、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的かつ効果的に行うことが可能となる。
【0117】
第2膜形成ステップにより第1膜上に形成された第2膜は、上述のように、その形成過程において、不純物が除去され、欠陥も修復されることから、膜密度が高くなる。このため、第2膜の酸化耐性は第1膜の酸化耐性よりも高くなる。このような酸化耐性の高い第2膜が第1膜上に形成されることにより、第2膜が酸化ブロック層(酸化バリア層)となり、第1膜の大気曝露による酸化を抑制することができる。また、第2膜の酸化耐性を高くすることができることにより、第2膜そのものの大気曝露による酸化を抑制することもできる。これらにより、第2表面に選択的に形成された第1膜と第2膜との積層膜(積層体)の大気曝露による酸化を抑制することが可能となる。そして、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化に起因する加工耐性の低下や電気特性の低下を抑制することも可能となる。なお、第2膜形成ステップを行う際、第1膜も第2温度で加熱されることから、第1膜に含まれる不純物の一部が除去され、欠陥の一部が修復され、第1膜の膜密度が高くなることもある。ただし、その場合であっても、第2膜の方が、第1膜よりも、不純物濃度は低くなり、膜密度は高くなり、酸化耐性は高くなる。
【0118】
第2膜形成ステップにより形成される第2膜の厚さは、第1膜の厚さ以下とすることが望ましい。第2膜の厚さを第1膜の厚さ以下とすることで、第2膜形成ステップにおいて、インヒビター層の無効化および/または除去が行われた後の第1表面上に第2膜が厚く形成されることを抑制することが可能となる。なお、第2膜の厚さを第1膜の厚さよりも薄くすることで、この効果がより十分に得られるようになる。
【0119】
また、第2膜形成ステップにより形成される第2膜の厚さは、0.3nm以上5nm以下、好ましくは0.5nm以上4nm以下とすることが望ましい。第2膜の厚さを0.3nm未満とすると、第2膜の酸化耐性が不十分となることがあり、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化に起因する加工耐性の低下や電気特性の低下を十分に抑制することができなくなることがある。これに対して、第2膜の厚さを0.3nm以上とすることにより、第2膜の酸化耐性を十分に確保することが可能となり、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化に起因する加工耐性の低下や電気特性の低下を十分に抑制することが可能となる。第2膜の厚さを0.5nm以上とすることにより、この効果をより高めることが可能となる。
【0120】
また、第2膜の厚さを5nmよりも厚くすると、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去が行われた後の第1表面上に第2膜が厚く形成されることがある。これに対して、第2膜の厚さを5nm以下とすることにより、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去が行われた後の第1表面上に第2膜が厚く形成されることを抑制することができる。第2膜の厚さを4nm以下とすることにより、この効果をより高めることが可能となる。
【0121】
これらのことから、第2膜形成ステップでは、0.3nm以上5nm以下、好ましくは0.5nm以上4nm以下の厚さの第2膜を形成することが望ましい。
【0122】
なお、上述の第2原料供給ステップ、第2反応体供給ステップのそれぞれにおける処理条件や、上述のサイクルの繰り返し数(m回)を制御することで、第2表面上に形成された第1膜上への所望の膜厚の第2膜の形成の完了と同時に、第1表面に形成されたインヒビター層の脱離、除去を完了させることもできる。すなわち、第2表面上に形成された第1膜上への第2膜の形成処理の終点と、第1表面に形成されたインヒビター層の脱離、除去処理の終点と、を合わせることができる。これにより、第2膜形成ステップを行った後において、第1表面に残存するインヒビター層を除去するためのエッチング処理を省略することが可能となる。
【0123】
また、図5(d)に示すように、第1表面上に薄い第2膜が形成された場合、第2膜形成ステップを行った後に、第1表面上に形成された第2膜をエッチング処理により除去するようにしてもよい。第1表面上に形成された第2膜をエッチング処理にて除去する際には、第1膜上に形成された第2膜も合わせてエッチングされるが、そのエッチング量は僅かであり、第1膜上に形成された第2膜の大部分を残すことができる。そのため、第1膜上に形成された第2膜の酸化耐性を損なうことはない。これは、第1膜上に形成された第2膜の方が、第1表面上に形成された第2膜よりも遥かに厚いためである。なお、第1表面上に形成された第2膜の除去は必須ではなく、このようなエッチング処理を省略することもできる。
【0124】
(熱処理ステップ)
第2膜形成ステップを行った後、ウエハ200に対して熱処理を行う。このとき、処理室201内の温度、すなわち、第2膜形成ステップを行った後のウエハ200の温度を、第2温度以上とするように、ヒータ207の出力を調整する。好ましくは、図4に示すように、第2膜形成ステップを行った後のウエハ200の温度を、第2温度よりも高くするように、ヒータ207の出力を調整する。
【0125】
ウエハ200に対して熱処理(アニール処理)を行うことで、第1膜および第2膜のそれぞれに残留する不純物の除去や、欠陥の修復を行うことができ、第1膜および第2膜のそれぞれの密度を、熱処理前よりも高くすることができる。結果として、第1膜および第2膜のそれぞれを、熱処理前よりも硬質化させることができる。これにより、第1膜および第2膜のそれぞれの膜の酸化耐性や、膜の加工耐性、すなわち、エッチング耐性を向上させることができる。なお、第1膜および第2膜に対し、不純物の除去や、欠陥の修復や、膜の硬質化等が不要である場合には、アニール処理、すなわち、熱処理ステップを省略することもできる。
【0126】
なお、第2膜形成ステップにおけるインヒビター層の無効化および/または除去が十分に行われず、第2膜形成ステップを行った後のウエハ200の第1表面にインヒビター層が残存している場合には、本ステップを行うことで、残存しているインヒビター層を熱処理により無効化および/または除去することもできる。これにより、第1表面に残存するインヒビター層を脱離させ、除去することも可能となる。つまり、本ステップによれば、第1表面に残存するインヒビター層を除去し、第1表面を露出させることも可能となる。
【0127】
なお、本ステップを、処理室201内へ不活性ガスを供給した状態で行うようにしてもよく、酸素(O)ガス等の酸化剤(酸化ガス)や、アンモニア(NH)ガス等の窒化剤(窒化ガス)や、水素(H)ガス等の還元剤(還元ガス)等の反応性物質を供給した状態で行うようにしてもよい。この場合の不活性ガスや、酸化剤(酸化ガス)や、窒化剤(窒化ガス)や、還元剤(還元ガス)等の反応性物質をアシスト物質とも称する。
【0128】
熱処理ステップにて熱処理を行う際における処理条件としては、
処理温度:200~1000℃、好ましくは400~700℃
処理圧力:1~120000Pa
処理時間:1~18000秒
アシスト物質供給流量:0~50slm
が例示される。
【0129】
(アフターパージおよび大気圧復帰)
熱処理ステップが完了した後、ノズル249a~249cのそれぞれからパージガスとしての不活性ガスを処理室201内へ供給し、排気口231aより排気する。これにより、処理室201内がパージされ、処理室201内に残留するガスや反応副生成物等が処理室201内から除去される(アフターパージ)。その後、処理室201内の雰囲気が不活性ガスに置換され(不活性ガス置換)、処理室201内の圧力が常圧に復帰される(大気圧復帰)。
【0130】
(ボートアンロードおよびウエハディスチャージ)
その後、ボートエレベータ115によりシールキャップ219が下降され、マニホールド209の下端が開口される。そして、処理済のウエハ200が、ボート217に支持された状態でマニホールド209の下端から反応管203の外部に搬出(ボートアンロード)される。ボートアンロードの後は、シャッタ219sが移動させられ、マニホールド209の下端開口がOリング220cを介してシャッタ219sによりシールされる(シャッタクローズ)。処理済のウエハ200は、反応管203の外部に搬出された後、ボート217より取り出される(ウエハディスチャージ)。
【0131】
上述のように、洗浄ステップ、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップ、熱処理ステップは、同一処理室内にて(in-situにて)行うことが好ましい。これにより、洗浄ステップによりウエハ200の表面を清浄化した後(自然酸化膜を除去した後)、ウエハ200を大気に曝すことなく、すなわち、ウエハ200の表面を清浄な状態に保持したまま、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップ、熱処理ステップを行うことができ、選択成長を適正に行うことが可能となる。すなわち、これらのステップを、同一処理室内にて行うことで、高い選択性をもって選択成長を行うことが可能となる。なお、上述のように洗浄ステップを省略できる場合は、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップ、熱処理ステップを、同一処理室内にて行うことが好ましい。さらに、上述のように熱処理ステップを省略できる場合は、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップを、同一処理室内にて行うことが好ましい。
【0132】
また、上述のように、少なくとも、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップを、同一処理室内にて行う際には、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップを行った後のウエハ200を処理室内から処理室外へ搬出する搬出ステップが行われる。搬出ステップにより、処理室外に搬出されたウエハ200は、大気曝露される場合があるが、その場合であっても、ウエハ200上に形成された第1膜上には、第1膜よりも酸化耐性の高い第2膜が形成されていることにより、第1膜の大気曝露による酸化を抑制することができる。また、第2膜の酸化耐性を高くすることができることにより、第2膜そのものの大気曝露による酸化を抑制することもできる。これらにより、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化を抑制することができるようになる。そしてこれにより、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化に起因する加工耐性の低下や電気特性の低下を抑制することが可能となる。
【0133】
(3)本態様による効果
本態様によれば、以下に示す1つ又は複数の効果が得られる。
【0134】
第2膜形成ステップにおいて、第1膜形成ステップにおいて第1成膜剤に与えられた第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を用いることで、第2表面上に形成された第1膜上に、第1膜よりも酸化耐性の高い第2膜を形成することができる。第1膜上に、第1膜よりも酸化耐性の高い第2膜が形成されることにより、第1膜の大気曝露による酸化を抑制することができる。また、第2膜の酸化耐性を高くすることができることにより、第2膜そのものの大気曝露による酸化を抑制することもできる。これらにより、第1膜と第2膜との積層膜(積層体)の大気曝露による酸化を抑制することができるようになる。そしてこれにより、第1膜と第2膜との積層膜の大気曝露による酸化に起因する加工耐性の低下や電気特性の低下を抑制することが可能となる。
【0135】
第1膜形成ステップにおいて、第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を用いることで、第1膜を形成する際には、インヒビター層の無効化および/または除去(脱離)を抑制することが可能となり、第2表面上に第1膜を高い選択性をもって形成することが可能となる。また、第2膜形成ステップにおいて、第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を用いることで、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を行うことが可能となる。これにより、第2膜形成ステップを行った後において、インヒビター層の無効化および/または除去を行う工程を省略することが可能となる。もしくは、そのような工程を行う場合であっても、そのような工程における負荷を低減させることが可能となる。
【0136】
第1膜形成ステップでは、第1成膜剤として、第1原料と第1反応体とを用い、第2膜形成ステップでは、第2成膜剤として、第1原料とは分子構造が異なる第2原料と第2反応体とを用いることが好ましい。第2原料の分子構造が第1原料の分子構造と異なることで、上述の効果を効率的かつ効果的に得ることが可能となる。第2原料の熱分解温度は、第1原料の熱分解温度よりも低いことが好ましく、また、同一条件下においては、第2原料の反応性は、第1原料の反応性よりも高いことが好ましい。これらにより、上述の効果をより効率的かつ効果的に得ることが可能となる。
【0137】
第1膜および第2膜のそれぞれが原子Xを含む場合、第1原料は1分子中に1つの原子Xを含み、第2原料は1分子中に2つ以上の原子Xを含むことが好ましい。また、第1膜および第2膜のそれぞれが原子Xを含む場合、第1原料は、原子X同士の化学結合非含有であり、第2原料は、原子X同士の化学結合を含有することが好ましい。これらにより、上述の効果をより効率的かつ効果的に得ることが可能となる。
【0138】
第2原料として、第1原料よりも、インヒビター層との反応性が高い原料を用いることで、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的または効果的に行うことが可能となる。言い換えれば、第1原料として、第2原料よりも、インヒビター層との反応性が低い原料を用いることで、第1膜を形成する際には、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的または効果的に抑制することが可能となる。
【0139】
第2膜形成ステップにおける第2成膜剤とインヒビター層との反応性が、第1膜形成ステップにおける第1成膜剤とインヒビター層との反応性よりも高くなるように、第1膜形成ステップおよび第2膜形成ステップにおける処理条件を制御することが好ましい。これにより、第1膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的かつ効果的に抑制することが可能となり、第2表面上に第1膜を高い選択性をもって形成することが可能となる。また、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的かつ効果的に行うことが可能となる。
【0140】
第1膜形成ステップでは、第1成膜剤として、第1原料と、第1反応体と、をウエハ200に対して交互に供給し、第2膜形成ステップでは、第2成膜剤として、第2原料と、第2反応体と、をウエハ200に対して交互に供給することが好ましい。これにより、第1膜および第2膜の膜厚制御性を高めることができる。また、ステップカバレッジ特性を向上させることも可能となる。
【0141】
第1膜と第2膜とを、成分が同一である膜とすることが好ましい。例えば、上述のように、第1膜と第2膜とを、いずれも、窒化膜とすることが好ましい。すなわち、第2表面上に第1膜を形成し、第1膜上に第1膜と成分が同一である第2膜を形成することが好ましい。例えば、上述のように、第2表面上に窒化膜である第1膜を形成し、第1膜上に、同じく窒化膜である第2膜を形成することが好ましい。これにより、上述の効果がより顕著に得られることとなる。
【0142】
(4)変形例
本態様における処理シーケンスは、以下に示す変形例のように変更することができる。これらの変形例は、任意に組み合わせることができる。特に説明がない限り、各変形例の各ステップにおける処理手順、処理条件は、上述の処理シーケンスの各ステップにおける処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【0143】
(変形例1)
第1膜形成ステップおよび第2膜形成ステップを、以下に示す処理シーケンスのように変更してもよい。すなわち、第1膜形成ステップでは、ウエハ200に対して、プラズマ状態に励起されていない(プラズマ非励起状態の)第1成膜剤を供給し、第2膜形成ステップでは、ウエハ200に対して、少なくともその一部がプラズマ状態に励起された(プラズマ励起状態の)第2成膜剤を供給するようにしてもよい。このようにすることで、本変形例における第2膜形成ステップでは、第1成膜剤の少なくとも一部に与えられた第1エネルギーよりも高い第2エネルギーを第2成膜剤の少なくとも一部に与えることが可能となる。なお、以下の処理シーケンスにおける「第2反応体」との表記は、プラズマ状態に励起された第2反応体を意味する。
【0144】
改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n
改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n→熱処理
洗浄剤→改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n
洗浄剤→改質剤→(第1原料→第1反応体)×m→(第2原料→第2反応体)×n→熱処理
【0145】
本変形例における第1膜形成ステップの処理手順、処理条件は、上述の処理シーケンスにおける第1膜形成ステップの処理手順、処理条件と同様とすることができる。また、本変形例における第2膜形成ステップの処理手順、処理条件は、第2反応体をプラズマ状態に励起させること以外は、上述の処理シーケンスにおける第2膜形成ステップの処理手順、処理条件と同様とすることができる。ただし、本変形例では、プラズマエネルギーを用いることにより、第2膜形成ステップの処理温度を第1膜形成ステップの処理温度と同様とすることができる。なお、第2反応体をプラズマ状態に励起させるためには、例えば、ガス供給管232cのガス供給管232hとの接続部よりも下流側に設けられた上述のRPU270を用いるようにすればよい。RPU270は高周波(RF)電力を印加することにより、RPU270の内部でガスをプラズマ化させて励起させること、すなわち、ガスをプラズマ状態に励起させることができるように構成されている。これにより、RPU270を用いることで、ガス供給管232cから供給される第2反応体がプラズマ状態に励起され、プラズマ状態に励起させた第2反応体が、処理室201内へと供給されることとなる。第2反応体をプラズマ状態に励起させる場合、例えば、RF電力を1~1500Wとすることができる。
【0146】
本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。また、本変形例においては、第2膜形成ステップにおける第2成膜剤とインヒビター層との反応性が、第1膜形成ステップにおける第1成膜剤とインヒビター層との反応性よりも高くなるようにすることができる。これにより、第1膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的かつ効果的に抑制することが可能となり、第2表面上に第1膜を高い選択性をもって形成することが可能となる。また、第2膜を形成する際に、インヒビター層の無効化および/または除去を効率的かつ効果的に行うことが可能となる。さらに、本変形例の場合、第1膜形成ステップにおける処理温度と第2膜形成ステップにおける処理温度とを同じにすることができる。これにより、第1膜形成ステップと第2膜形成ステップとの間で処理温度の変更を行う必要がなく、処理時間を短縮させることも可能となる。
【0147】
(変形例2)
第2原料供給ステップでは、第1原料と分子構造が同一である第2原料を用いるようにしてもよい。すなわち、第1原料供給ステップと第2原料供給ステップとで、分子構造が同一である原料を用いるようにしてもよい。第1原料と第2原料との分子構造を同一とすると、使用する物質の種類を低減させることが可能となる。これにより、処理シーケンスを簡素化させることができ、基板処理装置における供給系を簡素化させることができ、装置コストを低減させることも可能となる。また、本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0148】
(変形例3)
インヒビター分子は、フッ化炭素基、フッ化シリル基のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。すなわち、第1表面に形成されるインヒビター層は、フッ化炭素終端、フッ化シリル終端のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。
【0149】
インヒビター分子がフッ化炭素基を含む場合は、改質剤として、例えば、上述の、Siにアミノ基とアルキル基とが直接結合した構造を有する化合物と、上述のF含有ガスと、を用い、これらのガスを順次もしくは同時にウエハ200に対して供給することができる。なお、インヒビター分子がフッ化炭素基を含む場合、改質剤として、例えば、上述のSiにアミノ基とアルキル基とが直接結合した構造を有する化合物のうち、アルキル基が有するHの一部もしくは全部をFに置換したガスを用いるようにしてもよい。これらのうち少なくともいずれかにより、第1表面に形成されるインヒビター層は、フッ化炭素終端を含むこととなる。
【0150】
また、インヒビター分子がフッ化シリル基を含む場合は、改質剤として、例えば、上述のアミノシラン系ガスと、上述のF含有ガスと、を用い、これらのガスを順次もしくは同時にウエハ200に対して供給することができる。これにより、第1表面に形成されるインヒビター層は、フッ化シリル終端を含むこととなる。
【0151】
本変形例にて、Siにアミノ基とアルキル基とが直接結合した構造を有する化合物またはアミノシラン系ガスを供給する際における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~600℃、好ましくは室温~450℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは1~1000Pa
上記化合物又はガス供給時間:1秒~60分
上記化合物又はガス供給流量:0.001~2slm、好ましくは0.001~0.5slm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0152】
本変形例にて、F含有ガスを供給する際における処理条件としては、
処理温度:室温(25℃)~550℃、好ましくは室温~450℃
処理圧力:1~2000Pa、好ましくは1~1000Pa
F含有ガス供給時間:1秒~60分
F含有ガス供給流量:0.001~2slm、好ましくは0.001~0.5slm
不活性ガス供給流量(ガス供給管毎):0~20slm
が例示される。
【0153】
なお、これらのいずれの場合も、インヒビター層の最表面はFとなることから、これらをF終端と称することもできる。第1表面を終端したフッ化炭素基やフッ化シリル基は、成膜ステップにおいて、第1表面への第1成膜剤、特に第1原料の吸着を防ぎ、第1表面上での成膜反応の進行を阻害(抑制)することができる。本変形例においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0154】
(変形例4)
クラスタ装置を用い、ウエハ200を大気に曝露させることなく、洗浄ステップ、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップ、熱処理ステップのうち少なくともいずれかを行うようにしてもよい。例えば、クラスタ装置を用い、ウエハ200を大気に曝露させることなく、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップを連続的に行うようにしてもよい。また、例えば、クラスタ装置を用い、ウエハ200を大気に曝露させることなく、改質ステップ、第1膜形成ステップ、第2膜形成ステップ、熱処理ステップを連続的に行うようにしてもよい。これらの場合、各ステップは、各ステップを行うための処理室内にてそれぞれ行われることとなる。これらの場合であっても、各ステップを行うことで、第2表面上に第1膜と第2膜との積層膜が形成された後のウエハ200は、クラスタ装置から搬出された後に、大気に曝露されることがある。しかしながら、これらの場合であっても、第1膜上に第1膜よりも酸化耐性の高い第2膜が形成されることにより、第1膜と第2膜との積層膜の酸化を抑制することができ、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0155】
<本開示の他の態様>
以上、本開示の態様を具体的に説明した。しかしながら、本開示は上述の態様に限定されるものではなく、その要旨を逸脱しない範囲で種々変更可能である。
【0156】
例えば、ウエハ200は、第1表面(第1下地)として、酸素含有膜および金属含有膜のうち少なくともいずれかを含んでいてもよく、第2表面(第2下地)として、酸素非含有膜および金属非含有膜のうち少なくともいずれかを含んでいてもよい。また例えば、ウエハ200は、第1表面(第1下地)として材質の異なる複数種類の領域を有していてもよく、第2表面(第2下地)として材質の異なる複数種類の領域を有していてもよい。第1表面および第2表面を構成する領域(下地)としては、上述のSiO膜、SiN膜の他、シリコン酸炭窒化膜(SiOCN膜)、シリコン酸炭化膜(SiOC膜)、シリコン酸窒化膜(SiON膜)、シリコン炭窒化膜(SiCN膜)、シリコン炭化膜(SiC膜)、シリコン硼炭窒化膜(SiBCN膜)、シリコン硼窒化膜(SiBN膜)、シリコン硼炭化膜(SiBC膜)、シリコン膜(Si膜)、ゲルマニウム膜(Ge膜)、シリコンゲルマニウム膜(SiGe膜)等の半導体元素を含む膜、チタン窒化膜(TiN膜)、タンタル窒化膜(TaN膜)、タングステン膜(W膜)、モリブデン膜(Mo膜)、ルテニウム膜(Ru膜)、コバルト膜(Co膜)、ニッケル膜(Ni膜)、銅膜(Cu膜)等の金属元素を含む膜、アモルファスカーボン膜(a-C膜)の他、単結晶Si(Siウエハ)等であってもよい。インヒビター層が形成され得る領域(下地)であれば、いずれの領域(下地)も第1表面として用いることができる。一方で、インヒビター層が形成され難い領域(下地)であれば、いずれの領域(下地)も第2表面として用いることができる。本態様においても、上述の態様と同様の効果が得られる。
【0157】
また例えば、第1膜および第2膜としては、SiN膜、SiCN膜の他、N含有膜である、例えば、SiON膜、SiOCN膜、SiBCN膜、SiBN膜、ゲルマニウム窒化膜(GeN膜)、ゲルマニウム酸窒化膜(GeON膜)等の半導体元素を含む膜や、TiN膜、TaN膜、タングステン窒化膜(WN膜)、アルミニウム窒化膜(AlN膜)、タングステン酸窒化膜(WON膜)等の金属元素を含む膜を形成するようにしてもよい。これらの膜を形成する場合においても上述の態様と同様の効果が得られる。なお、第1膜上に第1膜よりも酸化耐性の高い第2膜を形成する限りにおいては、第1膜と第2膜とを、少なくとも一部の成分が異なる膜、すなわち、化学組成が異なる膜、つまり、異なる材質の膜とすることもできる。この場合、第1膜の材質と、第2膜の材質と、の組合せ次第で、上述の効果を、より高めることができる場合もある。
【0158】
各処理に用いられるレシピは、処理内容に応じて個別に用意し、電気通信回線や外部記憶装置123を介して記憶装置121c内に格納しておくことが好ましい。そして、各処理を開始する際、CPU121aが、記憶装置121c内に格納された複数のレシピの中から、処理内容に応じて適正なレシピを適宜選択することが好ましい。これにより、1台の基板処理装置で様々な膜種、組成比、膜質、膜厚の膜を、再現性よく形成することができるようになる。また、オペレータの負担を低減でき、操作ミスを回避しつつ、各処理を迅速に開始できるようになる。
【0159】
上述のレシピは、新たに作成する場合に限らず、例えば、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを変更することで用意するようにしてもよい。レシピを変更する場合は、変更後のレシピを、電気通信回線や当該レシピを記録した記録媒体を介して、基板処理装置にインストールするようにしてもよい。また、既存の基板処理装置が備える入出力装置122を操作し、基板処理装置に既にインストールされていた既存のレシピを直接変更するようにしてもよい。
【0160】
上述の態様では、一度に複数枚の基板を処理するバッチ式の基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、例えば、一度に1枚または数枚の基板を処理する枚葉式の基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。また、上述の態様では、ホットウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する例について説明した。本開示は上述の態様に限定されず、コールドウォール型の処理炉を有する基板処理装置を用いて膜を形成する場合にも、好適に適用することができる。
【0161】
これらの基板処理装置を用いる場合においても、上述の態様や変形例と同様な処理手順、処理条件にて各処理を行うことができ、上述の態様や変形例と同様の効果が得られる。
【0162】
上述の態様や変形例は、適宜組み合わせて用いることができる。このときの処理手順、処理条件は、例えば、上述の態様や変形例の処理手順、処理条件と同様とすることができる。
【実施例
【0163】
<実施例1>
上述の態様と同様の第1表面と第2表面とを有するウエハに対し、上述の態様と同様の処理シーケンスを行い、第2表面上に、第1膜であるSiN膜と、第2膜であるSiN膜(膜厚0.3~0.5nm)と、を積層して、実施例1の評価サンプル1を作製した。評価サンプル1を作製する際の各ステップにおける処理条件は、上述の態様の各ステップにおける処理条件の範囲内の所定の条件とした。なお、評価サンプル1を作製する際、第1原料として上述の態様で例示したSi-Si結合非含有であるクロロシラン系ガスを用い、第2原料として上述の態様で例示したSi-Si結合を含有するクロロシラン系ガスを用い、第1反応体および第2反応体として上述の態様で例示したN-H結合を含有する窒化水素系ガスを用いた。
【0164】
<実施例2>
上述の態様と同様の第1表面と第2表面とを有するウエハに対し、上述の態様と同様の処理シーケンスを行い、第2表面上に、第1膜であるSiN膜と、第2膜であるSiN膜(膜厚3~5nm)と、を積層して、実施例2の評価サンプル2を作製した。評価サンプル2を作製する際の各ステップにおける処理条件は、第2膜形成ステップにおけるサイクル数以外は、実施例1の各ステップにおける処理条件と同様とした。なお、評価サンプル2を作製する際の第1原料、第2原料、第1反応体、および第2反応体は、いずれも、評価サンプル1を作製する際のそれらと同じとした。
【0165】
<比較例>
上述の態様と同様の第1表面と第2表面とを有するウエハに対し、上述の態様の処理シーケンスにおける第2膜形成ステップ以外の各ステップを行い、第2表面上に、第1膜であるSiN膜のみを形成して、比較例の評価サンプル3を作製した。評価サンプル3を作製する際の各ステップにおける処理条件は、第1膜形成ステップにおけるサイクル数以外は、実施例1の各ステップにおける処理条件と同様とした。また、評価サンプル3を作製する際の第1原料および第1反応体は、いずれも、評価サンプル1を作製する際の第1原料および第1反応体と同じとした。
【0166】
<参考例>
ウエハに対し、上述の態様の処理シーケンスにおける第2膜形成ステップのみを行い、ウエハ上に、第2膜であるSiN膜のみを形成して、参考例の評価サンプル4を作製した。評価サンプル4を作製する際の各ステップにおける処理条件は、第2膜形成ステップにおけるサイクル数以外は、実施例1の第2膜形成ステップにおける各ステップにおける処理条件と同様とした。また、評価サンプル4を作製する際の第2原料および第2反応体は、いずれも、評価サンプル1を作製する際の第2原料および第2反応体と同じとした。
【0167】
作製した各評価サンプルを大気中に保存し、大気曝露の経過時間に伴うSiN膜中の酸素(O)濃度の変化(O濃度の経時変化とも称する)を求めた。SiN膜中のO濃度は、X線光電子分光法(X-ray Photoelectron Spectroscopy、XPS)を用いて測定した。その結果を図6に示す。図6の横軸は大気曝露の経過時間(day)を示しており、縦軸はSiN膜中のO濃度(at%)を示している。
【0168】
図6から明らかなように、評価サンプル1,2のそれぞれのO濃度は、評価サンプル3のO濃度よりも遥かに低いことが分かる。また、評価サンプル1,2のそれぞれのO濃度の経時変化量は、評価サンプル3のO濃度の経時変化量よりも遥かに小さいことが分かる。これらのことから、実施例1,2における評価サンプル1,2のSiN膜の方が、比較例における評価サンプル3のSiN膜よりも高い酸化耐性を有していることを確認することができた。また、図6から明らかなように、評価サンプル1,2のそれぞれのO濃度は、評価サンプル4のO濃度と同等であることが分かる。また、評価サンプル1,2のそれぞれのO濃度の経時変化量は、評価サンプル4のO濃度の経時変化量と同等であることが分かる。これらのことから、実施例1,2における評価サンプル1,2のSiN膜は、参考例における評価サンプル4のSiN膜と同等の高い酸化耐性を有していることを確認することができた。
【0169】
また、これらの結果から、実施例1,2のように上述の態様の処理シーケンスを行うことにより、比較的高温で形成した、参考例の評価サンプル4のSiN膜と同等の酸化耐性を有する、第1膜と第2膜との積層膜(SiN膜)が形成されることを確認することができた。
【符号の説明】
【0170】
200 ウエハ(基板)
【要約】
【課題】選択成長により形成した膜の大気曝露による酸化を抑制することが可能な技術を提供する。
【解決手段】(a)第1表面と第2表面とを有する基板に対して、前記第1表面と反応する改質剤を供給することにより、前記第1表面にインヒビター層を形成する工程と、(b)前記第1表面に前記インヒビター層が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に第1エネルギーが与えられた第1成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に第1膜を形成する工程と、(c)前記第2表面上に前記第1膜が形成された前記基板に対して、少なくともその一部に前記第1エネルギーよりも高い第2エネルギーが与えられた第2成膜剤を供給することにより、前記第2表面上に形成された前記第1膜上に第2膜を形成する工程と、を行う。
【選択図】図4
図1
図2
図3
図4
図5
図6