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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ジアミン及びそれを用いた重合体
(51)【国際特許分類】
   C07D 207/416 20060101AFI20230720BHJP
   C07D 295/00 20060101ALI20230720BHJP
   C08G 73/10 20060101ALI20230720BHJP
   G02F 1/1337 20060101ALN20230720BHJP
【FI】
C07D207/416 CSP
C07D295/00
C08G73/10
G02F1/1337 525
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2022024290
(22)【出願日】2022-02-18
(62)【分割の表示】P 2019512584の分割
【原出願日】2018-04-13
(65)【公開番号】P2022084599
(43)【公開日】2022-06-07
【審査請求日】2022-03-02
(31)【優先権主張番号】P 2017080825
(32)【優先日】2017-04-14
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100101236
【弁理士】
【氏名又は名称】栗原 浩之
(74)【代理人】
【識別番号】100166914
【弁理士】
【氏名又は名称】山▲崎▼ 雄一郎
(72)【発明者】
【氏名】北 浩
(72)【発明者】
【氏名】結城 達也
【審査官】鳥居 福代
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第00/006543(WO,A1)
【文献】国際公開第2010/050523(WO,A1)
【文献】特許第7108241(JP,B2)
【文献】European Journal of Medicinal Chemistry,2011年,Vol.46, No.5,pp.1604-1615
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C07D 207/416
C07D 295/116
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される構造を有する、ジアミン。
【化1】
は水素原子、炭素数1~5の直鎖又は分岐してもよいアルキル基又はアリール基を表し、同じマレイミド環上に2つあるRは互いに同一でも、異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数3~6のアルキレンを形成してもよく、W下記式[W2-1]~式[W2-152]で表される2価の有機基を表し、Wは単結合又はカルボニルを表し、Lは炭素数1~20の直鎖状アルキレン基、炭素数3~20の分岐状アルキレン基、炭素数3~20の環状アルキレン基、フェニレン基及び複素環基から選ばれる二価の基、又は当該二価の基が複数結合してなる基を表し、フェニレン基及び複素環基はそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロゲン基及びシアノ基から選ばれる同一又は相異なる1又は複数の置換基で置換されていてもよく、当該二価の基同士の結合は、単結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合及びカルボニルから選ばれる少なくとも一種であり、当該二価の基が複数となる場合は、二価の基同士は同一でも異なっていてもよく、上記結合が複数となる場合は、結合同士は同一でも異なっていてもよく、Rは水素原子、炭素数1~3の直鎖アルキル基、又は熱により脱離反応を生じ水素原子に置き換わる保護基を表し、前記保護基は、1,1-ジメチル-2-クロロエトキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエトキシカルボニル基、及びtert-ブトキシカルボニル基から選択され、2つあるRが互いに異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数1~6のアルキレンを形成していてもよく、2つあるRの両方又はいずれか一方がLに結合していてもよい。
【化2】
【化3】
【化4】
【化5】
【化6】
【化7】
【化8】
【化9】
【化10】
【化11】
【化12】
【化13】
【化14】
【化15】
【化16】
【化17】
【化18】
【化19】
【請求項2】
前記Wが単結合を表す、請求項1に記載のジアミン。
【請求項3】
前記WがW-7、W -20、W -21、W -23~W-26、W-39~W-43、W-51~W-71から選ばれる、請求項1又は2に記載のジアミン。
【化20】
【化21】
【請求項4】
請求項1~3のいずれか一項のジアミンを用いてなる、重合体。
【請求項5】
下記式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項4に記載の重合体。
【化22】
はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基を表し、Yは式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
【請求項6】
前記式(3)中、Xの構造が下記構造中から選ばれる少なくとも1種を表す、請求項5に記載の重合体。
【化23】
【請求項7】
下記式(4)で表される構造単位をさらに含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種である、請求項5に記載の重合体。
【化24】
式(4)において、Xはテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基を表し、Yは式(1)の構造を主鎖方向に含まないジアミンに由来する2価の有機基を表し、R14は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【請求項8】
前記Yが下記式(11)で表される、請求項7に記載の重合体。
【化25】
式(11)中、R32は単結合又は2価の有機基を表し、R33は-(CH-で表される構造を表し、rは2~10の整数を表し、また、任意の-CH-はそれぞれ隣り合わない条件でエーテル、エステル、アミド、ウレア、カルバメート結合に置き換えられてもよい。R34は単結合又は2価の有機基を表す。ベンゼン環上の任意の水素原子は1価の有機基で置き換えられてもよい。
【請求項9】
前記式(3)で表される構造単位が、全構造単位に対して10モル%以上である、請求項5又は6に記載の重合体。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液晶配向膜に使用する重合体の原料として有用である新規なジアミン化合物(本発明では、単にジアミンともいう)及びそれを用いて得られるポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミドなどの重合体に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶表示素子は、従来からパーソナルコンピュータや携帯電話、テレビジョン受像機等の表示部として幅広く用いられており、その駆動方式としては、TN方式、VA方式等の縦電界方式や、IPS方式、フリンジフィールドスィッチング(Fringe Field Switching:以下、FFSという)方式等の横電界方式が知られている。
【0003】
一般に、基板の片側のみに電極を形成させ、基板と平行方向に電界を印加する横電界方式では、上下基板に形成された電極に電圧を印加して液晶を駆動させる縦電界方式と比べ、広い視野角特性を有し、高品位な表示が可能な液晶表示素子が得られやすい。液晶を一定方向に配向させるための手法としては、例えば、基板上にポリイミドなどの高分子膜を形成し、この表面を布で擦る、いわゆるラビング処理を行う方法がある。
【0004】
従来からの課題としては、電圧保持率の改善や、アクティブマトリクス構造由来で印加される直流電圧成分による電荷の蓄積の改善が挙げられる。液晶表示素子内に電荷が蓄積されると、液晶配向の乱れや残像等の発生により、表示に悪影響を与え、液晶表示素子の表示品位を著しく低下させる。あるいは、電荷が蓄積された状態で駆動した場合、駆動直後において、液晶分子の制御が正常に行われずにフリッカ(ちらつき)等を生じてしまう。
【0005】
また、液晶表示素子の表示品位を向上させるために液晶配向膜に要求される特性として、イオン密度が挙げられる。イオン密度が高いと、液晶にかかる電圧が低下し、結果として輝度が低下して正常な諧調表示に支障をきたすことがある。また、例え初期のイオン密度が低くても、高温加速試験後のイオン密度が高くなってしまうような場合もある。このような、残留電荷やイオン性不純物に伴う長期信頼性の低下や残像の発生は、液晶の表示品位を低下させることになる。
【0006】
ポリイミド系の液晶配向膜においては、上記のような要求にこたえるために、種々の提案がなされてきている。例えば、直流電圧によって発生する残像が消えるまでの時間を短くすることを目的の一つとした液晶配向膜として、ポリアミド酸やイミド基含有ポリアミド酸に加えて、特定構造の3級アミンを含有する液晶配向剤を使用したもの(例えば、特許文献1参照)や、ピリジン骨格などを有する特定ジアミン化合物を原料に使用した可溶性ポリイミドを含有する液晶配向剤を使用したもの(例えば、特許文献2参照)が提案されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開平9-316200号公報
【文献】特開平10-104633号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
液晶を配向させる方法としてラビング処理は工業的に広く用いられているが、用いる液晶配向膜によってはラビング方向と液晶の配向方向が一致しない、いわゆるツイスト角が発現するという現象が起こりうる。すなわち、横電界素子においては電圧を印加していない状態で黒表示を示すが、本現象により電圧を印加していない状態でも輝度が上がってしまい、その結果表示コントラストが低下してしまうという問題があった。
【0009】
本発明者は、液晶表示素子中のイオン密度を低く抑えるとともに蓄積した電荷を速く緩和させることが可能であり、特に横電界駆動方式において問題となる、ラビング方向と液晶の配向方向のずれを抑制することができる液晶配向膜、及びそのような液晶配向膜が得られる液晶配向剤、並びにそのような液晶配向膜を含んでなる液晶表示素子等を提供した。本発明は、先に発明した液晶配向剤に用いた新規ジアミン及びそれを用いた重合体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討を行った結果、液晶配向剤に含まれる重合体中に特定構造を導入することで種々の特性が同時に改善されることを見出し、本発明を完成した。本発明は、かかる知見に基づくものであり、下記を要旨とするものである。
【0011】
1. 下記式(1)で表される構造を有する、ジアミン。
【0012】
【化1】
は水素原子、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐してもよいアルキル基又はアリール基を表し、同じマレイミド環上に2つあるRは互いに同一でも、異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数3~6のアルキレンを形成してもよく、Wは2価の有機基を表し、Wは単結合又はカルボニルを表し、Lは炭素数1~20の直鎖状アルキレン基、炭素数3~20の分岐状アルキレン基、炭素数3~20の環状アルキレン基、フェニレン基及び複素環基から選ばれる二価の基、又は当該二価の基が複数結合してなる基を表し、フェニレン基及び複素環基はそれぞれ独立にアルキル基、アルコキシ基、ハロアルキル基、ハロアルコキシ基、ハロゲン基及びシアノ基から選ばれる同一又は相異なる1又は複数の置換基で置換されていてもよく、当該二価の基同士の結合は、単結合、エステル結合、アミド結合、ウレア結合、エーテル結合、チオエーテル結合、アミノ結合及びカルボニルから選ばれる少なくとも一種であり、当該二価の基が複数となる場合は、二価の基同士は同一でも異なっていてもよく、上記結合が複数となる場合は、結合同士は同一でも異なっていてもよく、Rは水素原子又は一価の有機基を表し、2つあるRが互いに異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数1~6のアルキレンを形成していてもよく、2つあるRの両方又はいずれか一方がLに結合していてもよい。
【0013】
2. 前記Wが単結合を表す、1.に記載のジアミン。
【0014】
3. 前記WがW-7、W-20~W-26、W-39~W-43、W-51~W-71から選ばれる、1.又は2.に記載のジアミン。
【化2】
【化3】
【0015】
4. 1.~3.のいずれかのジアミンを用いてなる重合体。
【0016】
5. 下記式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種である、4.に記載の重合体。
【0017】
【化4】
はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基を表し、Yは式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表す。
【0018】
6. 前記式(3)中、Xの構造が下記構造中から選ばれる少なくとも1種を表す、5.に記載の重合体。
【0019】
【化5】
【0020】
7. 下記式(4)で表される構造単位をさらに含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種である、5.に記載の重合体。
【0021】
【化6】
式(4)において、Xはテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基を表し、Yは式(1)の構造を主鎖方向に含まないジアミンに由来する2価の有機基を表し、R14は、それぞれ独立に水素原子又は炭素数1~5のアルキル基を表し、R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0022】
8. 前記Yが下記式(11)で表される、7.に記載の重合体。
【0023】
【化7】
式(11)中、R32は単結合又は2価の有機基を表し、R33は-(CH-で表される構造を表し、rは2~10の整数を表し、また、任意の-CH-はそれぞれ隣り合わない条件でエーテル、エステル、アミド、ウレア、カルバメート結合に置き換えられてもよい。R34は単結合又は2価の有機基を表す。ベンゼン環上の任意の水素原子は1価の有機基で置き換えられてもよい。
【0024】
9. 前記式(3)で表される構造単位が、全構造単位に対して10モル%以上である、5.又は6.に記載の重合体。
【発明の効果】
【0025】
本発明のジアミンを用いた重合体を含有する、液晶配向剤を用いることにより、液晶表示素子中のイオン密度を低く抑えるとともに蓄積した電荷を速く緩和させることが可能であり、特に横電界駆動方式において問題となる、ラビング方向と液晶の配向方向のずれを抑制することができる液晶配向膜が得られる。本願発明によりなぜに上記の課題を解決できるかについては定かではないが、概ね次のように考えられる。本発明のジアミンを用いた重合体に含有される上記式(1)の構造は、窒素原子を有する。これにより、例えば液晶配向膜中において、イオン性不純物を補足する能力を備えるとともに、電荷の移動を促進させることができ、蓄積電荷の緩和を促進させることができる。
【発明を実施するための形態】
【0026】
本発明の液晶配向剤は、上記式(1)で表される構造(以下、特定構造とも言う)を有するジアミンから得られる重合体(以下、特定重合体とも言う)を含有する液晶配向剤である。以下、各条件につき詳述する。
【0027】
<特定構造を有するジアミン>
上記式(1)中、Rは水素原子、炭素数1~5の直鎖若しくは分岐してもよいアルキル基又はアリール基を表し、同じマレイミド環上に2つあるRは互いに同一でも、異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数3~6のアルキレンを形成してもよく、Wは2価の有機基を表し、Lは単結合又は炭素数1~20のアルキレンを表し、Rは水素原子又は一価の有機基を表し、2つあるRが互いに異なっていてもよく、2つあるRが一緒になって炭素数1~6のアルキレンを形成していてもよく、2つあるRの両方又はいずれか一方がLに結合していてもよい。
【0028】
としては、好ましくは水素原子、メチル基、エチル基、iso-プロピル基、フェニル基であり、より好ましくは水素原子、メチル基、フェニル基である。また、2つあるRが一緒になって形成する炭素数3~6のアルキレンとしては、好ましくは-(CH-、-(CH-、-(CH-であり、より好ましくは-(CH-である。
【0029】
の定義における炭素数1~20のアルキレンとしては、直鎖であっても分岐であってもよく、-(CH2-(但し、nは1~20)で表される直鎖のアルキレンや、1-メチルメタン-1,1-ジイル、1-エチルメタン-1,1-ジイル、1-プロピルメタン-1,1-ジイル、1-メチルエタン-1,2-ジイル、1-エチルエタン-1,2-ジイル、1-プロピルエタン-1,2-ジイル、1-メチルプロパン-1,3-ジイル、1-エチルプロパン-1,3-ジイル、1-プロピルプロパン-1,3-ジイル、2-メチルプロパン-1,3-ジイル、2-エチルプロパン-1,3-ジイル、2-プロピルプロパン-1,3-ジイル、1-メチルブタン-1,4-ジイル、1-エチルブタン-1,4-ジイル、1-プロピルブタン-1,4-ジイル、2-メチルブタン-1,4-ジイル、2-エチルブタン-1,4-ジイル、2-プロピルブタン-1,4-ジイル、1-メチルペンタン-1,5-ジイル、1-エチルペンタン-1,5-ジイル、1-プロピルペンタン-1,5-ジイル、2-メチルペンタン-1,5-ジイル、2-エチルペンタン-1,5-ジイル、2-プロピルペンタン-1,5-ジイル、3-メチルペンタン-1,5-ジイル、3-エチルペンタン-1,5-ジイル、3-プロピルペンタン-1,5-ジイル、1-メチルへキサン-1,6-ジイル、1-エチルへキサン-1,6-ジイル、2-メチルへキサン-1,6-ジイル、2-エチルへキサン-1,6-ジイル、3-メチルへキサン-1,6-ジイル、3-エチルへキサン-1,6-ジイル、1-メチルヘプタン-1,7-ジイル、2-メチルヘプタン-1,7-ジイル、3-メチルヘプタン-1,7-ジイル、4-メチルヘプタン-1,7-ジイル、1-フェニルメタン-1,1-ジイル、1-フェニルエタン-1,2-ジイル、1-フェニルプロパン-1,3-ジイル等の分岐アルキレンが挙げられる。これら直鎖又は分岐のアルキレンは、酸素原子又は硫黄原子が互いに隣り合わない条件で、酸素原子又は硫黄原子により1~5回中断されていてもよい。
【0030】
の定義における炭素数3~20の分岐状アルキレン基としては、例えば、i-プロピレン基、i-ブチレン基、s-ブチレン基、t-ブチレン基、1-メチル-n-ブチレン基、2-メチル-n-ブチレン基、3-メチル-n-ブチレン基、1,1-ジメチル-n-プロピレン基、1,2-ジメチル-n-プロピレン基、2,2-ジメチル-n-プロピレン基、1-エチル-n-プロピレン基、1-メチル-n-ペンチレン基、2-メチル-n-ペンチレン基、3-メチル-n-ペンチレン基、4-メチル-n-ペンチレン基、1,1-ジメチル-n-ブチレン基、1,2-ジメチル-n-ブチレン基、1,3-ジメチル-n-ブチレン基、2,2-ジメチル-n-ブチレン基、2,3-ジメチル-n-ブチレン基、3,3-ジメチル-n-ブチレン基、1-エチル-n-ブチレン基、2-エチル-n-ブチレン基、1,1,2-トリメチル-n-プロピレン基、1,2,2-トリメチル-n-プロピレン基、1-エチル-1-メチル-n-プロピレン基及び1-エチル-2-メチル-n-プロピレン基等の他、炭素数が20までの範囲で且つ任意の箇所で分岐しているアルキレン基等が挙げられる。
【0031】
の定義における炭素数3~20の環状アルキレン基としては、例えば、シクロプロピレン基、シクロブチレン基、シクロペンチレン基、シクロヘキシレン基、シクロヘプチレン基及びシクロオクチレン基等の単環式アルキレン基、並びにノルボルニレン基、トリシクロデシレン基、テトラシクロドデシレン基及びアダマンチレン基等の多環式アルキレン基が挙げられる。
【0032】
の定義におけるベンゼン環が置換基で置換されていてもよい場合の置換基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、イソブチル基等のアルキル基;トリフルオロメチル基等のハロアルキル基;メトキシ基、エトキシ基等のアルコキシ基;ヨウ素、臭素、塩素、フッ素等のハロゲン原子;シアノ基等が挙げられる。
【0033】
Rとしては、好ましくは、水素原子又は炭素数1~3の直鎖アルキル基であり、より好ましくは水素原子、又はメチル基である。また、Rは熱により脱離反応を生じ水素原子に置き換わる保護基であってもよく、液晶配向剤の保存安定性の点から、室温において脱離せず、好ましくは、80℃以上の熱で脱離する保護基であり、より好ましくは100℃以上での熱で脱離する保護基である。この例としては1,1-ジメチル-2-クロロエトキシカルボニル基、1,1-ジメチル-2-シアノエトキシカルボニル基、tert-ブトキシカルボニル基が挙げられ、好ましくはtert-ブトキシカルボニル基である。
【0034】
また、2つあるRが一緒になって形成する炭素数3~6のアルキレンとしては、好ましくは-CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-、-(CH-であり、より好ましくは-(CH-又は-(CH-である。2価の有機基Wとしては、下記式[W-1]~式[W-152]で表される通りである。
【0035】
【化8】
【0036】
【化9】
【0037】
【化10】
【0038】
【化11】
【0039】
【化12】
【0040】
【化13】
【0041】
【化14】
【0042】
【化15】
【0043】
【化16】
【0044】
【化17】
【0045】
【化18】
【0046】
【化19】
【0047】
【化20】
【0048】
【化21】
【0049】
【化22】
【0050】
【化23】
【0051】
【化24】
【0052】
【化25】
【0053】
中でも、イオン密度抑制と液晶配向安定性の両立という観点で、W-7、W-20、W-21、W-23、W-26、W-39、W-51、W-52、W-53、W-54、W-55、W-59、W-60、W-61、W-64、W-65、W-67、W-68、W-69、W-70、W-71が好ましい。
【0054】
<特定ジアミンの製造方法>
以下に、前述したジアミンを得る方法について説明する。本発明の式(1)で表される特定ジアミンのうち、Wが単結合であるジアミンを合成する方法は特に限定されないが、例えば、下記式(A)で表されるニトロマレイミド化合物と、下記式(B1)で表されるジアミノ化合物とを反応させて下記式(C1)で表されるアミノニトロ化合物を得て、これを還元する方法を挙げることができる。
【0055】
【化26】
R、R、L、W1及びWの定義は、上記式(1)と同様である。
【0056】
式(B1)で表される化合物の使用量は、式(A)で表される化合物の1モルに対して、0.1モル~1モルであるのが好ましく、0.4モル~0.5モルであるのがさらに好ましい。式(A)で表される化合物を過剰量とすることにより、反応を円滑に進行させ、なおかつ副生物を抑制することができる。
【0057】
本反応は、好ましくは溶媒中で行われる。溶媒は、各原料と反応しない溶媒であれば、制限なく使用することができる。例えば、非プロトン性極性有機溶媒(DMF、DMSO、DMAc、NMPなど);エーテル類(EtO、i-PrO、TBME、CPME、THF、ジオキサンなど);脂肪族炭化水素類(ペンタン、へキサン、ヘプタン、石油エーテルなど);芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、テトラリンなど);ハロゲン系炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタンなど);低級脂肪酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等);ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等);などが使用できる。これらの溶媒は、反応の起こり易さなどを考慮して適宜選択することができ、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。必要に応じて、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて溶媒を乾燥し、非水溶媒として用いることもできる。
【0058】
溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、ビスマレイミド化合物に対し、0.1~100質量倍である。好ましくは0.5質量倍~30質量倍であり、さらに好ましくは1質量倍~10質量倍である。反応温度は特に限定されないが、-100℃から使用する溶媒の沸点までの範囲、好ましくは、-50~150℃である。反応時間は、通常0.05時間~350時間、好ましくは0.5時間~100時間である。
【0059】
本反応は必要に応じて、無機塩基や有機塩基の存在下において、反応することができる。反応に使用する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウムなどの無機塩基;tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどの塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、キノリン、コリジンなどのアミンを使用できる。なかでも、トリエチルアミン、ピリジン、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが好ましい。塩基の使用量としては特に限定されないが、ビスマレイミド化合物に対し、0.1質量部~100質量部である。好ましくは0~30質量倍であり、さらに好ましくは0~10質量倍である。
【0060】
化合物(B1)の一つの態様は、Lが2価の有機基であり、Rが水素原子であり、W1が単結合である、下記式(B1-1)で表される化合物である。
【0061】
【化27】
【0062】
式(B1-1)中のRは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、好ましくは、水素原子又は炭素数1~3の直鎖アルキル基である。式(B1-1)の化合物のLは、上記W-1~W-152から選ばれる構造が挙げられる。好ましくは、下記構造から選ばれるが、これに限定するものではない。
【0063】
【化28】
【0064】
化合物(B1)の一つの態様は、Lが2価の有機基であり、W1が単結合であり、R同士が一緒になってアルキレン基を形成しているか、2つのRがともにLに結合している、下記式(B1-2)で表される化合物である。
【0065】
【化29】
【0066】
式(B1-2)の化合物としては、好ましくは、下記の構造式から選ばれる。
【0067】
【化30】
【0068】
化合物(B1)の一つの態様は、Lが2価の有機基であり、W1が単結合であり、Rの一方がLに結合して環を形成している、下記式(B1-3) で表される化合物である。
【0069】
【化31】
【0070】
式(B1-3)中のRは、それぞれ独立に、水素原子又は1価の有機基であり、好ましくは、水素原子又は炭素数1~3の直鎖アルキル基である。式(B1-3)の化合物としては、好ましくは、下記の化合物が挙げられる。
【0071】
【化32】
【0072】
次に、上記式(C1)で表される化合物を還元して式(1)で表される特定ジアミンを製造する際の条件を以下に述べる。上記式(C1)で表される化合物の還元の方法としては、Fe、Sn、Znやこれらの塩とプロトンの共存下で行う還元反応がある。Fe、Sn、Znやこれらの塩の使用量は、好ましくは、上記式(1)で表わされる化合物に対して1当量~100当量であり、特に好ましくは3当量~50当量である。
【0073】
反応溶媒としては、反応条件下において、目的とする反応を妨げない溶媒であればいずれも使用できる。例えば、水;メチルアルコール、エチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどのアルコール溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性有機溶媒;ジエチルエーテル、ジイソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;ペンタン、へキサン、ヘプタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタンなどのハロゲン系炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどの低級脂肪酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなどのニトリルが使用できる。これらの溶媒は、反応の起こり易さなどを考慮して適宜選択することができ、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。また場合によっては、上記溶媒は、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて水を含有しない溶媒として用いることもできる。溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、上記式(C1)で表わされる化合物に対して0.1質量倍~100質量倍である。好ましくは0.5質量倍~50質量倍であり、さらに好ましくは3質量倍~30質量倍である。
【0074】
さらに、反応をより効果的に進行させるため、加圧下で反応を実施することもできる。この場合、ベンゼン核の還元を避けるため、好ましくは20気圧(kgf)程度の加圧範囲、より好ましくは10気圧までの範囲で反応を実施する。さらに、塩酸、硫酸、蟻酸、酢酸などの酸、及びそれらの塩を共存させてもよい。これらの使用量は特に限定されないが、上記式(C1)で表わされる化合物に対して、0~10質量倍である。好ましくは0質量倍~5質量倍であり、さらに好ましくは0質量倍~3質量倍である。反応温度は、好ましくは、-100 ℃以上から使用する反応溶媒の沸点の温度までの温度範囲を選ぶことができるが、より好ましくは、-50℃~150℃、特に好ましくは0℃~100℃である。反応時間は、0.1時間~1000時間、より好ましくは1時間~200時間である。また、上記式(C1)で表わされる化合物の還元の方法としては、触媒として、パラジウム-活性炭や白金-活性炭などを利用する水素添加反応、蟻酸を水素源とする還元反応、ヒドラジンを水素源とする反応などがある。また、これらの反応を組み合わせて実施することもできる。
【0075】
還元反応に用いられる触媒は、市販品として入手できる活性炭担持金属が好ましく、例えば、パラジウム-活性炭、白金-活性炭、ロジウム-活性炭などが挙げられる。また、水酸化パラジウム、酸化白金、ラネーニッケルなど必ずしも活性炭担持型の金属触媒でなくてもよい。一般的に広く使用されているパラジウム-活性炭や白金―活性炭が、良好な結果が得られるので好ましい。
【0076】
これら触媒の使用量は、いわゆる触媒量でよく、好ましくは、上記式(C1)で表わされる化合物に対して20モル%以下であり、特に好ましくは10モル%以下である。
【0077】
反応溶媒としては、反応条件下において、目的とする反応を妨げない溶媒であればいずれも使用できる。例えば、メチルアルコール、エチルアルコール、tert-ブチルアルコールなどのアルコール溶媒;ジメチルホルムアミド、ジメチルスルホキシド、ジメチルアセトアミド、N-メチルピロリドンなどの非プロトン性極性有機溶媒;ジエチルエーテル、イソプロピルエーテル、tert-ブチルメチルエーテル、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、ジオキサンなどのエーテル;ペンタン、へキサン、ヘプタン、石油エーテルなどの脂肪族炭化水素;ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、テトラリンなどの芳香族炭化水素、クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタンなどのハロゲン系炭化水素;酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチルなどの低級脂肪酸エステル;アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリルなどのニトリルが使用できる。これらの溶媒は、反応の起こり易さなどを考慮して適宜選択することができ、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。また場合によっては、上記溶媒は、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて水を含有しない溶媒として用いることもできる。溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、上記式(C1)で表わされる化合物に対して、0.1質量倍~100質量倍である。好ましくは0.5質量倍~50質量倍であり、さらに好ましくは3質量倍~30質量倍である。反応温度は特に限定されないが、-100℃から使用する溶媒の沸点までの範囲、好ましくは、-50℃~150℃である。反応時間は、通常0.05時間~350時間、好ましくは0.5時間~100時間である。
【0078】
還元反応をより効果的に進行させるため、活性炭の共存下で反応を実施することもある。この時、使用する活性炭の量は特に限定されないが、ジニトロ化合物C1に対して1質量%~30質量%の範囲が好ましく、10質量%~20質量%がより好ましい。同様な理由により、加圧下で反応を実施する場合もある。この場合、ベンゼン核の還元を避けるため、20気圧までの加圧範囲で行う。好ましくは10気圧までの範囲で反応を実施する。上記に例示の還元反応のうち、上記式(C1)で表わされる化合物の構造と還元反応の反応性を考慮すると、水素添加反応の使用が好ましい。
【0079】
Rとして1価の有機基を導入したい場合は、上記式(C1)で表されるジニトロ化合物においてRが水素原子である化合物を、アミン類と反応が可能な化合物と反応させればよい。そのような化合物としては、例えば、酸ハライド、酸無水物、イソシアネート類、エポキシ類、オキセタン類、ハロゲン化アリール類、ハロゲン化アルキル類が挙げられ、また、アルコールの水酸基をOMs、OTf、OTs等の脱離基に置換したアルコール類などが利用できる。
【0080】
NH基に1価の有機基を導入する方法には、特に制限はないが、適当な塩基存在下で酸ハライドを反応させる方法が挙げられる。酸ハライドの例としては、アセチルクロリド、プロピオン酸クロリド、クロロギ酸メチル、クロロギ酸エチル、クロロギ酸n-プロピル、クロロギ酸i-プロピル、クロロギ酸n-ブチル、クロロギ酸i-ブチル、クロロギ酸t-ブチル、クロロギ酸ベンジル、及び、クロロギ酸-9-フルオレニルが挙げられる。塩基の例としては前述の塩基を用いることができる。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0081】
NH基に酸無水物を反応させて1価の有機基を導入してもよく、酸無水物の例としては、無水酢酸、無水プロピオン酸、二炭酸ジメチル、二炭酸ジエチル、二炭酸ジターシャリーブチル、二炭酸ジベンジルなどが挙げられる。反応を促進させるために触媒を入れてもよく、ピリジン、コリジン、N,N-ジメチル-4-アミノピリジンなどを使用してもよい。触媒量は上記式(C1)で表されるジニトロ化合物においてRが水素原子である化合物の1モルに対し、0.0001モル~1モルである。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0082】
NH基にイソシアネート類を反応させて1価の有機基を導入してもよく、イソシアネート類の例としては、メチルイソシアネート、エチルイソシアネート、n-プロピルイソシアネート、フェニルイソシアネートなどが挙げられる。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0083】
NH基にエポキシ化合物類やオキセタン化合物類を反応させて1価の有機基を導入してもよく、エポキシ類やオキセタン類の例としては、エチレンオキシド、プロピレンオキシド、1,2-ブチレンオキシド、トリメチレンオキシドなどが挙げられる。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0084】
NH基へ金属触媒と配位子と塩基存在下、ハロゲン化アリール類を反応させて1価の有機基を導入してもよく、ハロゲン化アリールの例としては、ヨードベンゼン、ブロモベンゼン、クロロベンゼン等が挙げられる。金属触媒の例としては、酢酸パラジウム、塩化パラジウム、塩化パラジウム-アセトニトリル錯体、パラジウム-活性炭、ビス(ジベンジリデンアセトン)パラジウム、トリス(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム、ビス(アセトニトリル)ジクロロパラジウム、ビス(ベンゾニトリル)ジクロロパラジウム、CuCl、CuBr、CuI、CuCN等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。配位子の例としては、トリフェニルホスフィン、トリ-o-トリルホスフィン、ジフェニルメチルホスフィン、フェニルジメチルホスフィン、1,2-ビス(ジフェニルホスフィノ)エタン、1,3-ビス(ジフェニルホスフィノ)プロパン、1,4-ビス(ジフェニルホスフィノ)ブタン、1,1’-ビス(ジフェニルホスフィノ)フェロセン、トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト、トリフェニルホスファイト、トリ-tert-ブチルホスフィン等が挙げられるが、これらに限定されるものではない。塩基の例としては前述の塩基を用いることができる。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0085】
NH基へ適当な塩基存在下でアルコールの水酸基をOMs、OTf、OTs等の脱離基に置換したアルコール類を反応させて1価の有機基を導入してもよく、アルコール類の例としては、メタノール、エタノール、1-プロパノールなどが挙げられ、これらのアルコール類と、メタンスルホニルクロリド、トリフルオロメタンスルホニルクロリド、パラトルエンスルホン酸クロリド等とを反応させることで、OMs、OTf、OTs等の脱離基に置換されたアルコールを得ることができる。塩基の例としては前述の塩基を用いることができる。反応溶媒、反応温度は、前記の記載に準ずる。
【0086】
NH基に適当な塩基存在下、ハロゲン化アルキルを反応させて1価の有機基を導入してもよく、ハロゲン化アルキル類の例としては、ヨウ化メチル、ヨウ化エチル、ヨウ化n-プロピル、臭化メチル、臭化エチル、臭化n-プロピルなどが挙げられる。塩基の例としては前述の塩基に加え、カリウム-tert-ブトキシド、ナトリウム-tert-ブトキシド等の金属アルコキシド類を用いることができる。反応溶媒、反応温度及び反応時間等の反応条件は、前記の記載に準ずる。
【0087】
上記のアミン類と反応が可能な化合物の使用量は、上記式(C)で表されるジニトロ化合物においてRが水素原子である化合物1.0モル当量に対して、1.0モル当量~3.0モル当量程度とすることができる。好ましくは2.0モル当量~2.5モル当量の範囲がよい。また、上記のアミン類と反応が可能な化合物は単独又は組み合わせて使用する事ができる。なお、式(1)で表されるジアミン化合物に、不斉点に由来する異性体が存在する場合、本願においては、各異性体及びその混合物のいずれも式(1)で表されるジアミンに含まれるものとする。また、式(1)の同じマレイミド環における2つのRが互いに異なっている場合、式(1)で表されるジアミン化合物にはRの置換位置が異なるが、本願においては異性体も、それらの混合物も全て式(1)で表されるジアミンに含まれるものとする。
【0088】
[式(A)の製法]
式(A)の化合物を合成する方法に特に制限はないが、例えば、下記式(D)で表される市販のニトロアミンに、無水マレイン酸誘導体を反応させる方法が挙げられる。
【0089】
【化33】
【0090】
無水マレイン酸誘導体の使用量は、式(D)で表されるニトロアミン化合物の1モルに対して、1モル~1.5モルであるのが好ましく、1モル~1.2モルであるのがさらに好ましい。無水マレイン酸を過剰量とすることにより、反応を円滑に進行させ、なおかつ副生物を抑制することができる。本反応は、好ましくは溶媒中で行われる。好ましい溶媒や反応条件は、上記化合物(1)の製造条件と同様である。また、本発明の式(1)で表される特定ジアミンのうち、Wが単結合であるジアミンを合成する方法としては、下記式(E)で表されるアミノマレイミド化合物と、上記式(B1-1)で表されるジアミノ化合物とを反応させる方法も挙げることができる。
【0091】
【化34】
【0092】
R、R、L及びWの定義は、上記式(1)と同様である。式(B1-1)で表される化合物の使用量は、式(E)で表される化合物の1モルに対して、0.1モル~1モルであるのが好ましく、0.4モル~0.5モルであるのがさらに好ましい。式(E)で表される化合物を過剰量とすることにより、反応を円滑に進行させ、なおかつ副生物を抑制することができる。
【0093】
本反応は、好ましくは溶媒中で行われる。溶媒は、各原料と反応しない溶媒であれば、制限なく使用することができる。例えば、非プロトン性極性有機溶媒(DMF、DMSO、DMAc、NMPなど);エーテル類(EtO、i-PrO、TBME、CPME、THF、ジオキサンなど);脂肪族炭化水素類(ペンタン、へキサン、ヘプタン、石油エーテルなど);芳香族炭化水素類(ベンゼン、トルエン、キシレン、メシチレン、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、ニトロベンゼン、テトラリンなど);ハロゲン系炭化水素類(クロロホルム、ジクロロメタン、四塩化炭素、ジクロロエタンなど);低級脂肪酸エステル類(酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸ブチル、プロピオン酸メチル等);ニトリル類(アセトニトリル、プロピオニトリル、ブチロニトリル等);などが使用できる。これらの溶媒は、反応の起こり易さなどを考慮して適宜選択することができ、1種単独で又は2種以上混合して用いることができる。必要に応じて、適当な脱水剤や乾燥剤を用いて溶媒を乾燥し、非水溶媒として用いることもできる。溶媒の使用量(反応濃度)は特に限定されないが、ビスマレイミド化合物に対し、0.1質量倍~100質量倍である。好ましくは0.5質量倍~30質量倍であり、さらに好ましくは1質量倍~10質量倍である。反応温度は特に限定されないが、-100℃から使用する溶媒の沸点までの範囲、好ましくは、-50℃~150℃である。反応時間は、通常0.05時間~350時間、好ましくは0.5時間~100時間である。
【0094】
本反応は必要に応じて、無機塩基や有機塩基の存在下において、反応することができる。
反応に使用する塩基としては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、水酸化リチウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム、燐酸カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸リチウム、炭酸セシウムなどの無機塩基;tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどの塩基;トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリイソプロピルアミン、トリブチルアミン、ジイソプロピルエチルアミン、ピリジン、キノリン、コリジンなどのアミンを使用できる。なかでも、トリエチルアミン、ピリジン、tert-ブトキシナトリウム、tert-ブトキシカリウム、水素化ナトリウム、水素化カリウムなどが好ましい。塩基の使用量としては特に限定されないが、ビスマレイミド化合物に対し、0.1質量倍~100質量倍である。好ましくは0~30質量倍であり、さらに好ましくは0~10質量倍である。
【0095】
[式(E)の製法]
式(E)の化合物を合成する方法に特に制限はないが、例えば、下記式(F)で表されるジアミンに、特開2003-321531又はWO2004012735などに記載されている条件下で、無水マレイン酸誘導体を反応させる方法が挙げられる。
【0096】
【化35】
【0097】
無水マレイン酸誘導体の使用量は、式(F)で表されるジアミン化合物の1モルに対して、0.01モル~1モルであるのが好ましく、0.1モル~1.0モルであるのがさらに好ましい。ジアミン(F)を過剰量とすることにより、反応を円滑に進行させ、なおかつ副生物を抑制することができる。本反応は、好ましくは溶媒中で行われる。好ましい溶媒や反応条件は、上記化合物(1)の製造条件と同様である。また、下記式(A)で表されるジアミンを金属接触還元する方法も挙げられる。
【0098】
【化36】
【0099】
本反応は、上記化合物(C1)を還元して式(1)で表される特定ジアミンを製造する方法に準ずる。還元反応のうち、上記式(A)で表される化合物の構造と還元反応の反応性を考慮すると、Fe、Sn、Znやこれらの塩とプロトンの共存下で行う還元反応が好ましい。
【0100】
本発明の式(1)で表される特定ジアミンのうち、Wがカルボニルであるジアミンを合成する方法は特に限定されないが、例えば、上記式(A)で表されるニトロマレイミド化合物に、下記式(B2)で表されるアミンを反応させて下記式(G)で表される化合物を得た後、これを下記式(H)で表されるジカルボン酸と反応させて下記式(C2)で表されるジニトロ化合物を得て、これを還元する方法を挙げることができる。
【0101】
【化37】
R、R、L及びWの定義は、上記式(1)と同様である。
【0102】
また、式(H)及び式(C2)中の好ましいLは、上記式(B1-1)における好ましいLと同じである。式(B2)で表される化合物と式(A)で表される化合物との反応条件は、上記式(B1)で表される化合物と式(A)で表される化合物との反応条件に準ずる。
【0103】
上記式(G)で表される化合物と上記式(H)においてZがOHである化合物とを、必要ならば該反応に対して不活性な溶媒を用い、必要ならば塩基の存在下、縮合剤を用いて反応させることにより、一般式(C2)で表される化合物を得ることができる。
反応基質の量は、式(G)で表される化合物1当量に対して0.4当量~0.8当量の一般式(H)においてZがOHである化合物を用いることができる。
【0104】
縮合剤は、通常のアミド合成に使用されるものであれば特に制限はないが、例えば向山試薬(2-クロロ-N-メチルピリジニウム アイオダイド)、DCC(1,3-ジシクロヘキシルカルボジイミド)、WSC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩)、CDI(カルボニルジイミダゾール)、ジメチルプロピニルスルホニウム ブロマイド、プロパルギルトリフェニルホスホニウム ブロマイド、DEPC(シアノ燐酸ジエチル)等を、上記式(H)においてZがOHである化合物に対して1当量~4当量用いることができる。
【0105】
溶媒を用いる場合、用いられる溶媒としては反応の進行を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン等のアミン類、ピリジン、ピコリン等のピリジン類、アセトニトリル及びジメチルスルホキシド等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、これらのうちの2種以上を混合して用いてもよい。
【0106】
塩基の添加は必ずしも必要ではないが、塩基を用いる場合、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属重炭酸塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、イミダゾール、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン等の有機塩基等を上記式(H)においてZがOHである化合物に対して1当量~4当量用いることができる。
【0107】
反応温度は-60℃から反応混合物の還流温度までの任意の温度を設定することができ、反応時間は、反応基質の濃度、反応温度によって変化するが、通常5分から100時間の範囲で任意に設定できる。
【0108】
一般的には、例えば上記式(G)で表される化合物1当量に対して0.4当量~0.8当量の上記式(H)においてZがOHである化合物及び1当量~4当量のWSC(1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)-カルボジイミド塩酸塩)、CDI(カルボニルジイミダゾール)等の縮合剤を用い、必要ならば1~4当量の炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン等の塩基存在下にて、無溶媒か又はジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等の溶媒を用い、0℃からこれらの溶媒の還流温度の範囲で、10分から24時間反応を行なうのが好ましい。
【0109】
また、上記式(H)においてZがOHである化合物から文献記載の公知の方法、例えば、塩化チオニル、五塩化リン又はオキザリルクロライド等のクロル化剤と反応させる方法、塩化ピバロイル又はクロルギ酸イソブチル等の有機酸ハロゲン化物と、必要ならば塩基の存在下、反応させる方法、或いは、カルボニルジイミダゾール又はスルホニルジイミダゾール等と反応させる方法等を用いて合成することのできる上記式(H)においてZがClである化合物と上記式(G)で表される化合物とを、必要ならば該反応に対して不活性な溶媒を用い、必要ならば塩基の存在下、反応させることにより、一般式(C2)で表される化合物を合成することもできる。反応基質の量は、式(G)で表される化合物1当量に対して0.4当量~0.8当量の一般式(H)においてZがClである化合物を用いることができる。
【0110】
溶媒を用いる場合、用いられる溶媒としては反応の進行を阻害しないものであれば特に制限はないが、例えばベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素類、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素類、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素類、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン等の芳香族ハロゲン化炭化水素類、ジクロロメタン、クロロホルム、四塩化炭素、1,2-ジクロロエタン、1,1,1-トリクロロエタン、トリクロロエチレン、テトラクロロエチレン等の脂肪族ハロゲン化炭化水素類、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン等のエーテル類、酢酸エチル、プロピオン酸エチル等のエステル類、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン等のアミド類、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン等のアミン類、ピリジン、ピコリン等のピリジン類、アセトニトリル及び水等が挙げられる。これらの溶媒は単独で用いても、これらのうちの2種以上を混合して用いてもよい。
【0111】
塩基の添加は必ずしも必要ではないが、塩基を用いる場合、例えば水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等のアルカリ金属水酸化物、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム等のアルカリ金属炭酸塩、炭酸水素ナトリウム、炭酸水素カリウム等のアルカリ金属重炭酸塩、トリエチルアミン、トリブチルアミン、N,N-ジメチルアニリン、ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン、イミダゾール、1,8-ジアザビシクロ[5,4,0]-7-ウンデセン等の有機塩基等を、上記式(H)においてZがClである化合物に対して1当量~4当量用いることができる。反応温度は-60℃から反応混合物の還流温度までの任意の温度を設定することができ、反応時間は、反応基質の濃度、反応温度によって変化するが、通常5分から100時間の範囲で任意に設定できる。
【0112】
一般的には、例えば式(G)で表される化合物1当量に対して0.4当量~0.8当量の一般式(H)においてZがClである化合物を、必要ならば1当量~2当量の炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン、4-(ジメチルアミノ)ピリジン等の塩基存在下にて、無溶媒又はジクロロメタン、クロロホルム、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,4-ジオキサン、酢酸エチル、アセトニトリル等の溶媒を用い、0℃からこれらの溶媒の還流温度の範囲で、10分から48時間反応を行なうのが好ましい。また、式(C2)で表されるジニトロ化合物を還元して式(1)で表されるジアミンを得る際の反応条件は、前記と同じ条件である。
【0113】
上記各反応により得られた各段階における目的物は、蒸留、再結晶、又はシリカゲルなどのカラムクロマトグラフィーなどで精製してもよいし、精製せずに、反応液のまま次の段階に供することもできる。
【0114】
<重合体>
本発明の重合体は、上記ジアミンを用いて得られる重合体である。具体例としては、ポリアミック酸、ポリアミック酸エステル、ポリイミド、ポリウレア、ポリアミドなどが挙げられるが、液晶配向剤としての使用の観点から、下記式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種であるとより好ましい。
【0115】
【化38】
【0116】
上記式(3)において、Xはテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Yは式(1)の構造を含むジアミンに由来する2価の有機基であり、Rは水素原子又は炭素数1~5のアルキル基である。Rは、加熱によるイミド化のしやすさの点から、水素原子、メチル基又はエチル基が好ましい。
【0117】
<テトラカルボン酸二無水物>
はテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、その構造は特に限定されるものではない。また、ポリイミド前駆体中のXは、重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶の配向性、電圧保持率、蓄積電荷など、必要とされる特性の程度に応じて適宜選択され、同一重合体中に1種であってもよく、2種以上が混在していてもよい。
の具体例をあえて示すならば、国際公開公報2015/119168の13頁~14頁に掲載される、式(X-1)~(X-46)の構造などが挙げられる。以下に、好ましいXの構造を示すが、本発明はこれらに限定されるものではない。
【0118】
【化39】
【0119】
上記の構造のうち、(A-1)、(A-2)はラビング耐性の更なる向上という観点から特に好ましく、(A-4)は蓄積電荷の緩和速度の更なる向上という観点から特に好ましく、(A-15)~(A-17)などは、液晶配向性と蓄積電荷の緩和速度の更なる向上という観点から特に好ましい。
【0120】
<重合体(その他の構造単位)>
式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体は、本発明の効果を損なわない範囲において、下記式(4)で表される構造単位、及びそのイミド化物であるポリイミドから選ばれる少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0121】
【化40】
【0122】
式(4)において、Xはテトラカルボン酸誘導体に由来する4価の有機基であり、Yは式(1)の構造を主鎖方向に含まないジアミンに由来する2価の有機基であり、R14は、前記式(3)のRの定義と同じであり、R15はそれぞれ独立に水素原子又は炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0123】
の具体例としては、好ましい例も含めて式(3)のXで例示したものと同じ構造を挙げることができる。また、ポリイミド前駆体中のYは式(1)の構造を主鎖方向に含まないジアミンに由来する二価の有機基であり、その構造は特に限定されない。また、Yは重合体の溶媒への溶解性や液晶配向剤の塗布性、液晶配向膜とした場合における液晶の配向性、電圧保持率、蓄積電荷など、必要とされる特性の程度に応じて適宜選択され、同一重合体中に1種であってもよく、2種以上が混在していてもよい。
【0124】
の具体例をあえて示すならば、上記式[W-1]~式[W-152]で表される基が挙げられる。また、国際公開公報2015/119168の4頁に掲載される式(2)の構造、及び、8頁~12頁に掲載される、式(Y-1)~(Y-97)、(Y-101)~(Y-118)の構造;国際公開公報2013/008906の6頁に掲載される式(2)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2015/122413の8頁に掲載される式(1)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2015/060360の8頁に掲載される式(3)の構造;日本国公開特許公報2012-173514の8頁に記載される式(1)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基;国際公開公報2010/050523の9頁に掲載される式(A)~(F)からアミノ基を2つ除いた二価の有機基、などが挙げられる。
【0125】
好ましいYの構造としては、下記式(11)の構造が挙げられる。
【0126】
【化41】
【0127】
式(11)中、R32は単結合又は2価の有機基であり、単結合が好ましい。R33は-(CH-で表される構造である。rは2~10の整数であり、3~7が好ましい。また、任意の-CH-はそれぞれ隣り合わない条件でエーテル、エステル、アミド、ウレア、カルバメート結合に置き換えられてもよい。R34は単結合又は2価の有機基である。ベンゼン環上の任意の水素原子は1価の有機基で置き換えられてもよく、フッ素原子又はメチル基が好ましい。式(11)で表される構造としては、具体的には以下のような構造が挙げられるが、これらに限定されない。
【0128】
【化42】
【0129】
【化43】
【0130】
【化44】
【0131】
【化45】
【0132】
【化46】
【0133】
式(3)で表される構造単位を含むポリイミド前駆体が、式(4)で表される構造単位を同時に含む場合、蓄積した電荷を速く緩和させるとともに、ラビング方向と液晶の配向方向のずれを制御するという観点から、式(3)で表される構造単位は、式(3)と式(4)の合計に対して1モル%~80モル%であることが好ましく、より好ましくは5モル%~60モル%であり、特に好ましくは10モル%~40モル%である。また、好ましいYの構造としては、アミノ基、イミノ基、及び含窒素複素環からなる群から選ばれる少なくとも1種を有する構造が挙げられる。
【0134】
このようなYの構造としては、アミノ基、イミノ基、及び含窒素複素環からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有しているか、窒素原子上に熱脱離性基が置換したアミノ基、イミノ基及び含窒素複素環から選ばれる少なくとも1種の構造を有していれば、その構造は特に限定されるものではない。あえて、その具体例を挙げるとするならば、下記式(YD-1)~(YD-5)で表されるアミノ基、イミノ基、及び含窒素複素環からなる群から選ばれる少なくとも1種の構造を有する2価の有機基が挙げられる。
【0135】
【化47】
【0136】
式(YD-1)において、Aは炭素数3~15の窒素原子含有複素環であり、Zは、水素原子、又は置換基を有してよい炭素数1~20の炭化水素基である。式(YD-2)において、Vは、炭素数1~10の炭化水素基であり、Aは窒素原子含有複素環を有する炭素数3~15の1価の有機基、又は炭素数1~6の脂肪族基で置換されたジ置換アミノ基である。式(YD-3)において、Vは炭素数6~15で、且つベンゼン環を1~2個有する2価の有機基であり、Vは炭素数2~5のアルキレン又はビフェニレンであり、Zは水素原子、炭素数1~5のアルキル基、ベンゼン環、又は熱脱離性基であり、aは0~1の整数である。式(YD-4)において、Aは炭素数3~15の窒素原子含有複素環である。式(YD-5)において、Aは炭素数3~15の窒素原子含有複素環であり、Vは炭素数2~5のアルキレンである。)
【0137】
式(YD-1)、(YD-2)、(YD-4)、及び(YD-5)のA、A、A、及びAの炭素数3~15の窒素原子含有複素環としては、公知の構造であれば、特に限定されるものではない。中でも、ピロリジン、ピロール、イミダゾール、ピラゾール、オキサゾール、チアゾール、ピペリジン、ピペラジン、ピリジン、ピラジン、インドール、ベンゾイミダゾール、キノリン、イソキノリンが挙げられ、ピペラジン、ピペリジン、インドール、ベンゾイミダゾール、イミダゾール、カルバゾール、及びピリジンがより好ましい。また、熱脱離性基は、室温では脱離せず、配向膜を焼成した際に脱離して水素原子に置き換わる置換基であればよく、具体的には、tert-ブトキシカルボニル基及び9-フルオレニルメトキシカルボニル基が挙げられる。
【0138】
このようなYの具体例としては、下記式(YD-6)~(YD-52)で表される窒素原子を有する2価の有機基が挙げられ、交流駆動による電荷蓄積を抑制できるためから、式(YD-14)~式(YD-21)がより好ましく、(YD-14)及び(YD-18)が特に好ましい。
【0139】
【化48】
式(YD-14)及び(YD-21)中、jは0~3の整数である。
【0140】
【化49】
式(YD-24)、(YD-25)、(YD-28)及び(YD-29)中、jは0~3の整数である。
【0141】
【化50】
【0142】
【化51】
【0143】
【化52】
【0144】
【化53】
(式(YD-50)中、m、nはそれぞれ1~11の整数であり、m+nは2~12の整数である。)
【0145】
<ポリアミック酸の製造方法>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸は、以下に示す方法により合成することができる。具体的には、テトラカルボン酸二無水物とジアミンとを有機溶媒の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~70℃において、30分~24時間、好ましくは1時間~12時間反応させることによって合成できる。上記の反応に用いる有機溶媒は、モノマー及び重合体の溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトンなどが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。
【0146】
重合体の濃度は、重合体の析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという観点から、1質量%~30質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。上記のようにして得られたポリアミック酸は、反応溶液をよく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させて回収することができる。また、析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥することで精製されたポリアミック酸の粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、2-プロパノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられ、水、メタノール、エタノール、2-プロパノールなどが好ましい。
【0147】
<ポリイミドの製造方法>
本発明に用いられるポリイミドは、前記ポリアミック酸をイミド化することにより製造することができる。ポリアミック酸からポリイミドを製造する場合、ジアミン成分とテトラカルボン酸二無水物との反応で得られた前記ポリアミック酸の溶液に触媒を添加する化学的イミド化が簡便である。化学的イミド化は、比較的低温でイミド化反応が進行し、イミド化の課程で重合体の分子量低下が起こりにくいので好ましい。化学的イミド化は、イミド化させたい重合体を、有機溶媒中において塩基性触媒と酸無水物の存在下で攪拌することにより行うことができる。有機溶媒としては前述した重合反応時に用いる溶媒を使用することができる。塩基性触媒としてはピリジン、トリエチルアミン、トリメチルアミン、トリブチルアミン、トリオクチルアミン等を挙げることができる。中でもピリジンは反応を進行させるのに適度な塩基性を持つので好ましい。また、酸無水物としては無水酢酸、無水トリメリット酸、無水ピロメリット酸等を挙げることができ、中でも無水酢酸を用いると反応終了後の精製が容易となるので好ましい。
【0148】
イミド化反応を行うときの温度は、-20℃~140℃、好ましくは0℃~100℃であり、反応時間は1時間~100時間で行うことができる。塩基性触媒の量はポリアミック酸基の0.5倍モル~30倍モル、好ましくは2倍モル~20倍モルであり、酸無水物の量はポリアミック酸基の1倍モル~50倍モル、好ましくは3倍モル~30倍モルである。得られる重合体のイミド化率は、触媒量、温度、反応時間を調節することで制御することができる。ポリアミック酸のイミド化反応後の溶液には、添加した触媒等が残存しているので、以下に述べる手段により、得られたイミド化重合体を回収し、有機溶媒で再溶解して、本発明の液晶配向剤とすることが好ましい。
【0149】
上記のようにして得られるポリイミドの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、重合体を析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製された重合体の粉末を得ることができる。前記貧溶媒は、特に限定されないが、メタノール、2-プロパノール、アセトン、ヘキサン、ブチルセルソルブ、ヘプタン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、エタノール、トルエン、ベンゼン等が挙げられ、メタノール、エタノール、2-プロパノール、アセトンなどが好ましい。
【0150】
<ポリイミド前駆体-ポリアミック酸エステルの製造>
本発明に用いられるポリイミド前駆体であるポリアミック酸エステルは、以下に示す(1)、(2)又は(3)の製法で製造することができる。
【0151】
(1)ポリアミック酸から製造する場合
ポリアミック酸エステルは、前記のように製造されたポリアミック酸をエステル化することによって製造できる。具体的には、ポリアミック酸とエステル化剤を有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1時間~4時間反応させることによって製造することができる。エステル化剤としては、精製によって容易に除去できるものが好ましく、N,N-ジメチルホルムアミドジメチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジエチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジプロピルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジネオペンチルブチルアセタール、N,N-ジメチルホルムアミドジ-t-ブチルアセタール、1-メチル-3-p-トリルトリアゼン、1-エチル-3-p-トリルトリアゼン、1-プロピル-3-p-トリルトリアゼン、4-(4,6-ジメトキシ-1,3,5-トリアジンー2-イル)-4-メチルモルホリニウムクロリドなどが挙げられる。エステル化剤の添加量は、ポリアミック酸の繰り返し単位1モルに対して、2モル当量~6モル当量が好ましい。
【0152】
有機溶剤としては、例えば、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、γ-ブチロラクトン、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、ジメチルスルホキシド又は1,3-ジメチル-イミダゾリジノンが挙げられる。また、ポリイミド前駆体の溶媒溶解性が高い場合は、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノン、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、又は後述する式[D-1]~式[D-3]で表される溶媒を用いることができる。これら溶媒は単独で使用しても、混合して使用してもよい。さらに、ポリイミド前駆体を溶解させない溶媒であっても、生成したポリイミド前駆体が析出しない範囲で、前記溶媒に混合して使用してもよい。また、溶媒中の水分は重合反応を阻害し、さらには生成したポリイミド前駆体を加水分解させる原因となるので、溶媒は脱水乾燥させたものを用いることが好ましい。
【0153】
上記の反応に用いる溶媒は、ポリマーの溶解性からN,N-ジメチルホルムアミド、N-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時の濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1質量%~30質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。
【0154】
(2)テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとの反応により製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンから製造することができる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドとジアミンとを塩基と有機溶剤の存在下で-20℃~150℃、好ましくは0℃~50℃において、30分~24時間、好ましくは1時間~4時間反応させることによって製造することができる。前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミン、4-ジメチルアミノピリジンなどが使用できるが、反応が穏和に進行するためにピリジンが好ましい。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドに対して、2倍モル~4倍モルであることが好ましい。
【0155】
上記の反応に用いる溶媒は、モノマー及びポリマーの溶解性からN-メチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンが好ましく、これらは1種又は2種以上を混合して用いてもよい。製造時のポリマー濃度は、ポリマーの析出が起こりにくく、かつ高分子量体が得やすいという点から、1質量%~30質量%が好ましく、5質量%~20質量%がより好ましい。また、テトラカルボン酸ジエステルジクロリドの加水分解を防ぐため、ポリアミック酸エステルの製造に用いる溶媒はできるだけ脱水されていることが好ましく、窒素雰囲気中で、外気の混入を防ぐのが好ましい。
【0156】
(3)テトラカルボン酸ジエステルとジアミンから製造する場合
ポリアミック酸エステルは、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを重縮合することにより製造することができる。具体的には、テトラカルボン酸ジエステルとジアミンを縮合剤、塩基、及び有機溶剤の存在下で0℃~150℃、好ましくは0℃~100℃において、30分~24時間、好ましくは3時間~15時間反応させることによって製造することができる。
【0157】
前記縮合剤には、トリフェニルホスファイト、ジシクロヘキシルカルボジイミド、1-エチル-3-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩、N,N’-カルボニルジイミダゾール、ジメトキシ-1,3,5-トリアジニルメチルモルホリニウム、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウム テトラフルオロボラート、O-(ベンゾトリアゾール-1-イル)-N,N,N’,N’-テトラメチルウロニウムヘキサフルオロホスファート、(2,3-ジヒドロ-2-チオキソ-3-ベンゾオキサゾリル)ホスホン酸ジフェニルなどが使用できる。縮合剤の添加量は、テトラカルボン酸ジエステルに対して2倍モル~3倍モルが好ましい。
【0158】
前記塩基には、ピリジン、トリエチルアミンなどの3級アミンが使用できる。塩基の添加量は、除去が容易な量で、かつ高分子量体が得やすいという点から、ジアミン成分に対して2倍モル~4倍モルが好ましい。また、上記反応において、ルイス酸を添加剤として加えることで反応が効率的に進行する。ルイス酸としては、塩化リチウム、臭化リチウムなどのハロゲン化リチウムが好ましい。ルイス酸の添加量はジアミン成分に対して0~1.0倍モルが好ましい。上記3つのポリアミック酸エステルの製造方法の中でも、高分子量のポリアミック酸エステルが得られるため、上記(1)又は上記(2)の製法が特に好ましい。上記のようにして得られるポリアミック酸エステルの溶液は、よく撹拌させながら貧溶媒に注入することで、ポリマーを析出させることができる。析出を数回行い、貧溶媒で洗浄後、常温あるいは加熱乾燥して精製されたポリアミック酸エステルの粉末を得ることができる。貧溶媒は、特に限定されないが、水、メタノール、エタノール、ヘキサン、ブチルセロソルブ、アセトン、トルエン等が挙げられる。
【0159】
本発明の重合体を製造するには、上記の製造方法において、ジアミンとして式(1)で表されるジアミンを用いればよい。本発明の液晶配向剤含まれる重合体であるポリイミド前駆体やポリイミドの分子量は、当該重合体を含有した液晶配向剤から液晶配向膜が得られた場合に、その塗膜(液晶配向膜)の強度、塗膜形成時の作業性、及び塗膜の均一性を考慮して、GPC(Gel Permeation Chromatography)法で測定した重量平均分子量が2,000~500,000であることが好ましく、5,000~300,000であることがより好ましく、10,000~100,000であることが更に好ましい。
【0160】
<液晶配向剤>
本発明の液晶配向剤は、式(1)で表される構造を有するジアミンから得られる重合体(特定重合体)を含有するものであるが、本発明に記載の効果を奏する限度において、異なる構造の特定重合体を2種以上含有していてもよい。また、特定重合体に加えて、その他の重合体、すなわち式(1)で表される2価の基を有さない重合体を含有していてもよい。その他の重合体の種類としては、ポリアミック酸、ポリイミド、ポリアミック酸エステル、ポリエステル、ポリアミド、ポリウレア、ポリオルガノシロキサン、セルロース誘導体、ポリアセタール、ポリスチレン又はその誘導体、ポリ(スチレン-フェニルマレイミド)誘導体、ポリ(メタ)アクリレートなどを挙げることができる。本発明の液晶配向剤がその他の重合体を含有する場合、全重合体成分に対する特定重合体の割合は5質量%以上であることが好ましく、その一例として5質量%~95質量%が挙げられる。
【0161】
液晶配向剤は、液晶配向膜を作製するために用いられるものであり、均一な薄膜を形成させるという観点から、一般的には塗布液の形態をとる。本発明の液晶配向剤においても前記した重合体成分と、この重合体成分を溶解させる有機溶媒とを含有する塗布液であることが好ましい。その際、液晶配向剤中の重合体の濃度は、形成させようとする塗膜の厚みの設定によって適宜変更することができる。均一で欠陥のない塗膜を形成させるという点からは、1質量%以上であることが好ましく、溶液の保存安定性の点からは、10質量%以下とすることが好ましい。特に好ましい重合体の濃度は、2質量%~8質量%である。
【0162】
液晶配向剤に含有される有機溶媒は、重合体成分が均一に溶解するものであれば特に限定されない。その具体例を挙げるならば、N,N-ジメチルホルムアミド、N,N-ジメチルアセトアミド、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、ジメチルスルホキシド、γ-ブチロラクトン、1,3-ジメチル-イミダゾリジノン、メチルエチルケトン、シクロヘキサノン、シクロペンタノンなどを挙げることができる。なかでも、N-メチル-2-ピロリドン、N-エチル-2-ピロリドン、又はγ-ブチロラクトンを用いることが好ましい。
【0163】
また、液晶配向剤に含有される有機溶媒は、上記のような溶媒に加えて液晶配向剤を塗布する際の塗布性や塗膜の表面平滑性を向上させる溶媒を併用した混合溶媒を使用することが一般的であり、本発明の液晶配向剤においてもこのような混合溶媒は好適に用いられる。併用する有機溶媒の具体例を下記に挙げるが、これらの例に限定されるものではない。例えば、エタノール、イソプロピルアルコール、1-ブタノール、2-ブタノール、イソブチルアルコール、tert-ブチルアルコール、1-ペンタノール、2-ペンタノール、3-ペンタノール、2-メチル-1-ブタノール、イソペンチルアルコール、tert-ペンチルアルコール、3-メチル-2-ブタノール、ネオペンチルアルコール、1-ヘキサノール、2-メチル-1-ペンタノール、2-メチル-2-ペンタノール、2-エチル-1-ブタノール、1-ヘプタノール、2-ヘプタノール、3-ヘプタノール、1-オクタノール、2-オクタノール、2-エチル-1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1-メチルシクロヘキサノール、2-メチルシクロヘキサノール、3-メチルシクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、1,2-ブタンジオール、1,3-ブタンジオール、1,4-ブタンジオール、2,3-ブタンジオール、1,5-ペンタンジオール、2-メチル-2,4-ペンタンジオール、2-エチル-1,3-ヘキサンジオール、ジプロピルエーテル、ジブチルエーテル、ジヘキシルエーテル、ジオキサン、エチレングリコールジメチルエーテル、エチレングリコールジエチルエーテル、エチレングリコールジブチルエーテル、1,2-ブトキシエタン、ジエチレングリコールジメチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、ジエチレングリコールメチルエチルエーテル、ジエチレングリコールジブチルエーテル、2-ペンタノン、3-ペンタノン、2-ヘキサノン、2-ヘプタノン、4-ヘプタノン、3-エトキシブチルアセタート、1-メチルペンチルアセタート、2-エチルブチルアセタート、2-エチルヘキシルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、2-(メトキシメトキシ)エタノール、エチレングリコールモノブチルエーテル、エチレングリコールモノイソアミルエーテル、エチレングリコールモノヘキシルエーテル、2-(ヘキシルオキシ)エタノール、フルフリルアルコール、ジエチレングリコール、プロピレングリコール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、1-(ブトキシエトキシ)プロパノール、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセタート、ジプロピレングリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルエーテル、ジプロピレングリコールジメチルエーテル、トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、エチレングリコールモノメチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、エチレングリコールモノアセタート、エチレングリコールジアセタート、ジエチレングリコールモノエチルエーテルアセタート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート、2-(2-エトキシエトキシ)エチルアセタート、ジエチレングリコールアセタート、トリエチレングリコール、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノエチルエーテル、乳酸メチル、乳酸エチル、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸n-ブチル、酢酸プロピレングリコールモノエチルエーテル、ピルビン酸メチル、ピルビン酸エチル、3-メトキシプロピオン酸メチル、3-エトキシプロピオン酸メチルエチル、3-メトキシプロピオン酸エチル、3-エトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸、3-メトキシプロピオン酸プロピル、3-メトキシプロピオン酸ブチル、乳酸メチルエステル、乳酸エチルエステル、乳酸n-プロピルエステル、乳酸n-ブチルエステル、乳酸イソアミルエステル、下記式[D-1]~[D-3]で表される溶媒などを挙げることができる。
【0164】
【化54】
【0165】
式[D-1]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表し、式[D-2]中、Dは炭素数1~3のアルキル基を表し、式[D-3]中、Dは炭素数1~4のアルキル基を表す。
【0166】
なかでも、1-ヘキサノール、シクロヘキサノール、1,2-エタンジオール、1,2-プロパンジオール、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールジエチルエーテル、4-ヒドロキシ-4-メチル-2-ペンタノン、エチレングリコールモノブチルエーテル又はジプロピレングリコールジメチルエーテルを用いることが好ましい。
【0167】
このような溶媒の種類及び含有量は、液晶配向剤の塗布装置、塗布条件、塗布環境などに応じて適宜選択される。
【0168】
本発明の液晶配向剤は、本発明の効果を損なわない範囲において、重合体成分及び有機溶媒以外の成分を追加的に含有してもよい。このような追加成分としては、液晶配向膜と基板との密着性や液晶配向膜とシール材との密着性を高めるための密着助剤、液晶配向膜の強度を高めるための架橋剤、液晶配向膜の誘電率や電気抵抗を調整するための誘電体や導電物質などが挙げられる。これら追加成分の具体例としては、液晶配向剤に関する公知の文献に種々開示されているとおりであるが、あえてその一例を示すなら、国際公開公報2015/060357号パンフレットの53頁[0105]~55頁[0116]に開示されている成分などが挙げられる。
【0169】
<液晶配向膜>
本発明の液晶配向膜は、前記液晶配向剤から得られるものである。液晶配向剤から液晶配向膜を得る方法の一例を挙げるなら、塗布液形態の液晶配向剤を基板に塗布し、乾燥し、焼成して得られた膜に対してラビング処理法又は光配向処理法で配向処理を施す方法が挙げられる。液晶配向剤を塗布する基板としては、透明性の高い基板であれば特に限定されず、ガラス基板、窒化珪素基板とともに、アクリル基板やポリカーボネート基板などのプラスチック基板等を用いることもできる。その際、液晶を駆動させるためのITO電極などが形成された基板を用いると、プロセスの簡素化の点から好ましい。また、反射型の液晶表示素子では、片側の基板のみにならば、シリコンウエハーなどの不透明な物でも使用でき、この場合の電極にはアルミニウムなどの光を反射する材料も使用できる。
【0170】
液晶配向剤の塗布方法は、特に限定されないが、工業的には、スクリーン印刷、オフセット印刷、フレキソ印刷、インクジェット法などが一般的である。その他の塗布方法としては、ディップ法、ロールコータ法、スリットコータ法、スピンナー法、スプレー法などがあり、目的に応じてこれらを用いてもよい。液晶配向剤を基板上に塗布した後は、ホットプレート、熱循環型オーブン、IR(赤外線)型オーブンなどの加熱手段により、溶媒を蒸発させ、焼成する。液晶配向剤を塗布した後の乾燥、焼成工程は、任意の温度と時間を選択することができる。通常は、含有される溶媒を十分に除去するために、50℃~120℃で1分~10分焼成し、その後、150℃~300℃で、5分~120分焼成する条件が挙げられる。焼成後の液晶配向膜の厚みは、特に限定されないが、薄すぎると液晶表示素子の信頼性が低下する場合があるので、5nm~300nmであることが好ましく、10nm~200nmがより好ましい。本発明の液晶配向膜は、IPS方式やFFS方式などの横電界方式の液晶表示素子の液晶配向膜として好適であり、特に、FFS方式の液晶表示素子の液晶配向膜として有用である。
【0171】
<液晶表示素子>
本発明の液晶表示素子は、上記液晶配向剤から得られる液晶配向膜付きの基板を得た後、既知の方法で液晶セルを作製し、該液晶セルを使用して素子としたものである。液晶セルの作製方法の一例として、パッシブマトリクス構造の液晶表示素子を例にとり説明する。なお、画像表示を構成する各画素部分にTFT(Thin Film Transistor)などのスイッチング素子が設けられたアクティブマトリクス構造の液晶表示素子であってもよい。具体的には、透明なガラス製の基板を準備し、一方の基板の上にコモン電極を、他方の基板の上にセグメント電極を設ける。これらの電極は、例えばITO電極とすることができ、所望の画像表示ができるようパターニングされている。次いで、各基板の上に、コモン電極とセグメント電極を被覆するようにして絶縁膜を設ける。絶縁膜は、例えば、ゾル-ゲル法によって形成されたSiO-TiOからなる膜とすることができる。次に、前記のような条件で、各基板の上に液晶配向膜を形成する。
【0172】
次いで、液晶配向膜を形成した2枚の基板のうちの一方の基板上の所定の場所に例えば紫外線硬化性のシール材を配置し、さらに液晶配向膜面上の所定の数カ所に液晶を配置した後、液晶配向膜が対向するように他方の基板を貼り合わせて圧着することにより液晶を液晶配向膜前面に押し広げた後、基板の全面に紫外線を照射してシール材を硬化することで液晶セルを得る。また、基板の上に液晶配向膜を形成した後の工程として、一方の基板上の所定の場所にシール材を配置する際に、外部から液晶を充填可能な開口部を設けておき、液晶を配置しないで基板を貼り合わせた後、シール材に設けた開口部を通じて液晶セル内に液晶材料を注入し、次いで、この開口部を接着剤で封止して液晶セルを得る。液晶材料の注入には、真空注入法でもよいし、大気中で毛細管現象を利用した方法でもよい。
【0173】
上記のいずれの方法においても、液晶セル内に液晶材料が充填される空間を確保する為に、一方の基板上に柱状の突起を設けるか、一方の基板上にスペーサーを散布するか、シール材にスペーサーを混入するか、又はこれらを組み合わせるなどの手段を取ることが好ましい。
【0174】
上記の液晶材料としては、ネマチック液晶及びスメクチック液晶を挙げることができ、その中でもネマチック液晶が好ましく、ポジ型液晶材料やネガ型液晶材料のいずれを用いてもよい。次に、偏光板の設置を行う。具体的には、2枚の基板の液晶層とは反対側の面に一対の偏光板を貼り付けることが好ましい。
【0175】
なお、本発明の液晶配向膜及び液晶表示素子は、本発明の液晶配向剤を用いている限り上記の記載に限定されるものでは無く、その他の公知の手法で作成されたものであってもよい。液晶配向剤から液晶表示素子を得るまでの工程は、例えば特開2015-135393(日本国特許公開公報)の17頁[0074]~19頁[0081]などの他、数多くの文献でも開示されている。
【実施例
【0176】
以下に実施例を挙げ、本発明を更に詳しく説明するが、本発明はこれらに限定されるものではない。
本実施例及び比較例で使用した化合物の略号、及び特性評価の方法は、以下のとおりである。
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
BCS:ブチルセロソルブ
GBL:γ―ブチルラクトン
NMP:N-メチル-2-ピロリドン
DA-1-1:下記式DA-1-1で表される化合物
DA-2:下記式DA-2で表される化合物
DA-3:下記式DA-3で表される化合物
CA-1:下記式CA-1で表される化合物
CA-2:下記式CA-2で表される化合物
【0177】
【化55】
【0178】
実施例1A
(DA-1-1)の合成
【0179】
【化56】
【0180】
フラスコ内に、N-(4-ニトロフェニル)マレイミド15.00g(68.8mmol)とテロラヒドロフラン(以下、THF)300gを加えた後、氷冷した。その混合物中へ、N、N’-ジメチル―1、3-プロパンジアミン3.37g(33.0mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻した後、室温にて1日間、撹拌した。反応が終了したことを確認後、反応混合物中へ酢酸エチル200gを加えて、撹拌した。得られた結晶をろ過後、50℃で乾燥したところ、目的とするニトロ体中間体(DA-1-1-1)11.1gを得た(得率62%)。
1H-NMR(D6-DMSO、δppm):8.37(d、4H)、7.62(d、4H)、4.15-4.21(m、1H)、2.93-3.03(m、2H)、2.80-2.89(m、2H)、2.53-2.70(m、4H)、2.32(s、6H)、1.57-1.67(m、2H)
【0181】
窒素置換したフラスコ内に、DA-1-1-1 11.1g(20.6mmol)、5%Pd-C 1g(STDタイプ、wet品、エヌ・イー ケムキャット(株)製)及びN、N-ジメチルホルムアミド(以下、DMF)300gを入れた後、フラスコ内を水素置換した。この反応混合物を、水素圧常圧の条件下、室温にて3日間撹拌した。反応が終了したことを確認後、ろ過により反応混合物からPd-Cを取り除き、ろ液を、減圧下、留去した。得られた残留物中に、クロロホルムを加え、撹拌した。不溶解物をろ過により取り除き、得られたろ液を、減圧下、留去したところ、目的とするDA-1-1を粘性液体として、8.93g(得率90%)得た。
1H-NMR(D6-DMSO、δppm):6.79(d、4H)、6.55(d、4H)、5.274(brs、4H)、3.99-4.04(m、2H)、2.79-2.89(m、2H)、2.44-2.71(m、6H)、3.23(s、6H)、1.51-1.61(m、2H)
【0182】
実施例2A
(DA-1-2)の合成
【0183】
【化57】
【0184】
フラスコ内に、N-(4-アミノフェニル)マレイミド0.1246g(0.662mmol)とTHF3gを加えた後、氷冷した。その混合物中へ、ピペラジン 0.0285g(0.331mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻した後、室温にて3日間、撹拌した。反応が終了したことを確認後、析出した結晶をろ過後、ジイソプロピルエーテル(以下、IPA)で結晶を洗浄した。得られた結晶を、50℃で乾燥したところ、目的とするDA-1-2 0.067gを得た(得率47%)。
1H-NMR(D6-DMSO、δppm):6.82(d、4H)、6.59(d、4H)、5.30(brs、4H)、3.92-3.98(m、2H)、2.70-2.95(m、8H)、2.40-55(m、2H)
【0185】
実施例3A
(DA-1-3)の合成
【0186】
【化58】
【0187】
フラスコ内に、N-(4-アミノフェニル)マレイミド2.90g(15.4mmol)とテロラヒドロフラン(以下、THF)30gを加えた後、氷冷した。その混合物中へ、4-(アミノメチル)ベンジルアミン1.00g(7.34mmol)を加えた。その後、徐々に室温に戻した後、室温にて3時間、撹拌した。反応が終了したことを確認後、再度、反応混合物を冷却し、析出した結晶をろ過した。得られた結晶を、減圧下、45℃で乾燥したところ、目的とする化合物(DA-1-3)を黄色結晶として1.59gを得た(得率42%)。
1H-NMR(D6-DMSO、δppm):7.32(s、4H)、6.84(d、4H)、6.59(d、4H)、5.31(brs、4H)、3.82-3.95(m、4H)、3.74-3.82(m、2H)、2.91-3.01(m、2H)、2.94(brs、2H)、2.53-2.56(m、1H)、2.48-2.51(m、1H)
【0188】
[粘度測定]
ポリアミック酸溶液の粘度は、E型粘度計TVE-22H(東機産業社製)を用い、サンプル量1.1mL、コーンロータTE-1(1°34’、R24)で測定した。
【0189】
[実施例1]
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50ml四つ口フラスコにDA-1-1(3.34g,7mmol)を加えた後、NMP31.5gを加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1(1.43g,6.58mmol)を加え, NMPを3.5g加えた後、さらに50℃条件下にて12時間攪拌することでポリアミド酸溶液(PAA-1)を得た。このポリアミド酸溶液の25℃における粘度は270mPa・sであった。
【0190】
[実施例2]
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50ml四つ口フラスコにDA-1-1(3.34g,7mmol)を加えた後、NMP31.1gを加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1(0.61g,2.8mmol),CA-2(0.75g、3.9mmol)を加え、NMPを3.5g加えた後、さらに50℃条件下にて12時間攪拌することでポリアミド酸溶液(PAA-2)を得た。このポリアミド酸溶液の25℃における粘度は280mPa・sであった。
【0191】
[比較例1]
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの100ml四つ口フラスコにDA-2(5.73g,20mmol)を加え、NMP65.1gを加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1(4.14g,19mmol)を加えた後、NMPを7.2g加えた後、さらに室温条件下にて18時間攪拌することでポリアミド酸溶液(PAA-3)を得た。このポリアミド酸溶液の25℃における粘度は500mPa・sであった。
【0192】
[比較例2]
撹拌装置付き及び窒素導入管付きの50ml四つ口フラスコにDA-3(1.98g,10mmol)を加えた後、NMP26.0gを加え、窒素を送りながら撹拌し溶解させた。このジアミン溶液を撹拌しながらCA-1(0.87g,4.0mmol),CA-2(1.08g、5.5mmol)を加え、NMPを2.9g加えた後、さらに50℃条件下にて12時間攪拌することでポリアミド酸溶液(PAA-4)を得た。このポリアミド酸溶液の25℃における粘度は300mPa・sであった。
【0193】
[実施例3]
実施例1で得られたポリアミック酸溶液(PAA-1)を7.5g分取し、攪拌しながらNMPを5.6g、BCSを6.0g、3-アミノプロピルトリエトキシシランを1重量%含むNMP溶液を0.9g加え、更に室温で2時間撹拌し液晶配向剤(Q-1)を得た。
【0194】
[実施例4]
実施例2で得られたポリアミック酸溶液(PAA-2)を7.5g分取し、攪拌しながらNMPを5.6g、BCSを6.0g、3-アミノプロピルトリエトキシシランを1重量%含むNMP溶液を0.9g加え、更に室温で2時間撹拌し液晶配向剤(Q-2)を得た。
【0195】
[比較例3]
比較例1で得られたポリアミック酸溶液(PAA-3)を7.5g分取し、攪拌しながらNMPを5.6g、BCSを6.0g、3-アミノプロピルトリエトキシシランを1重量%含むNMP溶液を0.9g加え、更に室温で2時間撹拌し液晶配向剤(Q-3)を得た。
【0196】
[比較例4]
比較例2で得られたポリアミック酸溶液(PAA-4)を7.5g分取し、攪拌しながらNMPを5.6g、BCSを6.0g、3-アミノプロピルトリエトキシシランを1重量%含むNMP溶液を0.9g加え、更に室温で2時間撹拌し液晶配向剤(Q-4)を得た。
【0197】
[イオン密度測定用液晶セルの作製]
液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、電極付き基板(横30mm×縦40mmの大きさで、厚さが1.1mmのガラス基板。電極は幅10mm×長さ40mmの矩形で、厚さ35nmのITO電極)に、スピンコート塗布にて塗布した。50℃のホットプレート上で5分間乾燥させた後、230℃のIR式オーブンで20分間焼成を行い、膜厚100nmの塗膜を形成させて液晶配向膜付き基板を得た。この液晶配向膜をレーヨン布(吉川化工製YA-20R)でラビング(ローラー直径:120mm、ローラー回転数:1000rpm、移動速度:20mm/sec、押し込み長:0.4mm)した後、純水中にて1分間超音波照射をして洗浄を行い、エアブローにて水滴を除去した後、80℃で15分間乾燥して液晶配向膜付き基板を得た。
【0198】
上記の液晶配向膜付き基板を2枚用意し、その1枚の液晶配向膜面上に4μmのスペーサーを散布した後、その上からシール材を印刷し、もう1枚の基板をラビング方向が逆方向、かつ膜面が向き合うようにして張り合わせた後、シール材を硬化させて空セルを作製した。この空セルに減圧注入法によって、MLC-3019(メルク株式会社製)を注入し、注入口を封止して液晶セルを得た。その後、得られた液晶セルを120℃で1時間加熱し、23℃で一晩放置し、イオン密度測定用液晶セルを得た。
【0199】
[イオン密度測定]
上記[イオン密度測定用液晶セルの作製]に記載の方法で作製した液晶セルについて、イオン密度の測定を行った。イオン密度測定においては、液晶セルに電圧±10V、周波数0.01Hzの三角波を印加した時のイオン密度を測定した。測定温度は60℃で行った。測定装置は、東陽テクニカ社製6256型液晶物性評価装置を用いた。イオン密度の測定はセル作製後及び、作製セルを60℃、90%の高温高湿条件下で120時間エージングした後にて実施した。
【0200】
[液晶表示素子の作製]
初めに電極付きの基板を準備した。基板は、30mm×35mmの大きさで、厚さが0.7mmのガラス基板である。基板上には第1層目として対向電極を構成する、ベタ状のパターンを備えたIZO電極が形成されている。第1層目の対向電極の上には第2層目として、CVD法により成膜されたSiN(窒化珪素)膜が形成されている。第2層目のSiN膜の膜厚は500nmであり、層間絶縁膜として機能する。第2層目のSiN膜の上には、第3層目としてIZO膜をパターニングして形成された櫛歯状の画素電極が配置され、第1画素及び第2画素の2つの画素を形成している。各画素のサイズは、縦約10mmで横約5mmである。このとき、第1層目の対向電極と第3層目の画素電極とは、第2層目のSiN膜の作用により電気的に絶縁されている。
【0201】
第3層目の画素電極は、特開2014-77845号公報に記載の図と同様、中央部分が屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成された櫛歯状の形状を有する。各電極要素の短手方向の幅は3μmであり、電極要素間の間隔は6μmである。各画素を形成する画素電極が、中央部分の屈曲したくの字形状の電極要素を複数配列して構成されているため、各画素の形状は長方形状ではなく、電極要素と同様に中央部分で屈曲する、太字のくの字に似た形状を備える。そして、各画素は、その中央の屈曲部分を境にして上下に分割され、屈曲部分の上側の第1領域と下側の第2領域を有する。
【0202】
各画素の第1領域と第2領域とを比較すると、それらを構成する画素電極の電極要素の形成方向が異なるものとなっている。すなわち、後述する液晶配向膜のラビング方向を基準とした場合、画素の第1領域では画素電極の電極要素が+10°の角度(時計回り)をなすように形成され、画素の第2領域では画素電極の電極要素が-10°の角度(時計回り)をなすように形成されている。すなわち、各画素の第1領域と第2領域とでは、画素電極と対向電極との間の電圧印加によって誘起される液晶の、基板面内での回転動作(インプレーン・スイッチング)の方向が互いに逆方向となるように構成されている。
【0203】
次に、得られた液晶配向剤を1.0μmのフィルターで濾過した後、準備された上記電極付き基板と対向基板として裏面にITO膜が成膜されており、かつ高さ4μmの柱状のスペーサーを有するガラス基板のそれぞれにスピンコートした。次いで、80℃のホットプレート上で5分間乾燥後、230℃で20分間焼成して膜厚60nmの塗膜として、各基板上にポリイミド膜を得た。このポリイミド膜上を、所定のラビング方向で、レーヨン布によりラビング(ロール径120mm、回転数500rpm、移動速度30mm/sec、押し込み量0.3mm)した後、純水中にて1分間超音波照射を行い、80℃で10分間乾燥した。
【0204】
その後、上記液晶配向膜付きの2種類の基板を用いて、それぞれのラビング方向が逆平行になるように組み合わせ、液晶注入口を残して周囲をシールし、セルギャップが3.8μmの空セルを作製した。この空セルに液晶(MLC-3019、メルク社製)を常温で真空注入したのち、注入口を封止してアンチパラレル配向の液晶セルとした。得られた液晶セルは、FFSモード液晶表示素子を構成する。その後、得られた液晶セルを120℃で1時間加熱し、一晩放置してから各評価に使用した。
【0205】
[液晶配向の安定性評価]
この液晶セルを用い、60℃の恒温環境下、周波数30Hzで10VPPの交流電圧を168時間印加した。その後、液晶セルの画素電極と対向電極との間を短絡させた状態にし、そのまま室温に一日放置した。放置の後、液晶セルを偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、電圧無印加の状態でバックライトを点灯させておき、透過光の輝度が最も小さくなるように液晶セルの配置角度を調整した。そして、第1画素の第2領域が最も暗くなる角度から第1領域が最も暗くなる角度まで液晶セルを回転させたときの回転角度を角度Δとして算出した。第2画素でも同様に、第2領域と第1領域とを比較し、同様の角度Δを算出した。そして、第1画素と第2画素の角度Δ値の平均値を液晶セルの角度Δとして算出した。この液晶セルの角度Δの値が0.15°以下のものを良好、0.15°より高いものを不良として評価した。
【0206】
[蓄積電荷の緩和特性]
上記液晶セルを、偏光軸が直交するように配置された2枚の偏光板の間に設置し、画素電極と対向電極とを短絡して同電位にした状態で、2枚の偏光板の下からLEDバックライトを照射しておき、2枚の偏光板の上で測定するLEDバックライト透過光の輝度が最小となるように、液晶セルの角度を調節した。次に、この液晶セルに周波数30Hzの矩形波を印加しながら、23℃の温度下でのV-T特性(電圧-透過率特性)を測定し、相対透過率が23%となる交流電圧を算出した。この交流電圧は電圧に対する輝度の変化が大きい領域に相当するため、蓄積電荷を輝度を介して評価するのに都合がよい。
【0207】
次に、相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波を5分間印加した後、+1.0Vの直流電圧を重畳し30分間駆動させた。その後、直流電圧を切り、再び相対透過率が23%となる交流電圧で、なおかつ周波数30Hzの矩形波のみを30分間印加した。蓄積した電荷の緩和が速いほど、直流電圧を重畳したときの液晶セルへの電荷蓄積も速いことから、蓄積電荷の緩和特性は、直流電圧を重畳した直後の相対透過率が30%以上の状態から23%に低下するまでに要した時間で評価した。この時間が短いほど蓄積電荷の緩和特性が良好である。
【0208】
<実施例5~6及び比較例5~6>
実施例3~4で得られた液晶配向剤Q-1~Q-2及び比較例3~4で得られた液晶配向剤Q3~Q4を用いて、イオン密度測定、液晶配向の安定性評価及び蓄積電荷の緩和特性の評価を行った。結果を表1に示す。
【0209】
【表1】
【産業上の利用可能性】
【0210】
本発明の液晶配向膜は、特にラビング処理を必要とするIPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子において、液晶表示素子中のイオン密度を低く抑えるとともに、蓄積した電荷を速く緩和させることが可能であり、更にはラビング方向と液晶の配向方向のずれを抑制することができるため、残像特性やコントラストに優れた表示性能を得ることができる。よって、IPS駆動方式やFFS駆動方式の液晶表示素子、多機能携帯電話(スマートフォン)、タブレット型パーソナルコンピュータ、液晶テレビジョンなどに用いられる液晶配向膜として特に有用である。