(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤
(51)【国際特許分類】
A61K 36/734 20060101AFI20230720BHJP
A61K 8/9789 20170101ALI20230720BHJP
A61P 43/00 20060101ALI20230720BHJP
A61P 17/14 20060101ALI20230720BHJP
A61Q 7/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
A61K36/734
A61K8/9789
A61P43/00 111
A61P17/14
A61Q7/00
(21)【出願番号】P 2018142921
(22)【出願日】2018-07-30
【審査請求日】2021-07-08
(73)【特許権者】
【識別番号】591082421
【氏名又は名称】丸善製薬株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100108833
【氏名又は名称】早川 裕司
(74)【代理人】
【識別番号】100162156
【氏名又は名称】村雨 圭介
(74)【代理人】
【識別番号】100201606
【氏名又は名称】田岡 洋
(72)【発明者】
【氏名】屋敷 圭子
(72)【発明者】
【氏名】田邊 瑞穂
【審査官】横田 倫子
(56)【参考文献】
【文献】特開2004-067634(JP,A)
【文献】特開平10-265347(JP,A)
【文献】特開平02-218604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A61K 36/00
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
CAplus/MEDLINE/EMBASE/BIOSIS(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
サンザシ
(Crataegus cuneata)を極性溶媒で抽出して得られた抽出物を有効成分とする
線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤であって、
前記極性溶媒は、水、炭素数1~5の低級脂肪族アルコール、炭素数3~4の低級脂肪族ケトンおよび炭素数2~5の多価アルコールからなる群より選択される1種の溶媒または2種以上の混合溶媒である
ことを特徴とする線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、天然物由来成分を有効成分とする線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)発現抑制剤に関するものである。
【背景技術】
【0002】
線維芽細胞増殖因子(FGF)は、線維芽細胞に対する増殖活性を有するだけではなく、様々な細胞に対する細胞増殖・分化活性を有する形態形成因子、組織障害のときに働く組織修復因子、生体の恒常性を維持するための代謝調節因子等として重要な役割を果たしている多機能性分泌因子である。FGFには、20種類以上のファミリーが存在することが知られており、このうち、線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)は、ヘアサイクル(毛周期)への関与が知られている。
【0003】
毛髪は、成長期、退行期および休止期からなる周期的なヘアサイクル(毛周期)に従って成長および脱落を繰り返している。成長期が短いと、毛髪は十分に成長せず、細く短いまま脱落してしまう。さらに、一度成長期が短くなると、次の成長期も短くなり、毛髪はますます細く短くなってしまうと考えられている。
ここで、前述したFGF-5は、毛乳頭に作用して、毛周期における成長期から退行期へ移行させる作用を有していることが知られている(非特許文献1参照)。
【0004】
そのため、FGF-5の機能を抑制することができれば、毛周期における成長期から退行期への移行を阻害して毛髪の成長期を延長し、薄毛の予防、脱毛の予防・改善をすることができ、育毛・養毛用途に有用であると考えられている。
FGF-5の機能を抑制する成分として、例えば、ワレモコウエキス(非特許文献2参照)、フィチン酸(特許文献1参照)等が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【非特許文献】
【0006】
【文献】Cell,1994年,vo.78,no.6,pp.1017-1025
【文献】西日本皮膚,2007年,69巻,1号,81-86頁
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は、安全性に優れた天然物由来成分の中から、線維芽細胞増殖因子-5の発現を抑制する作用を有するものを見出し、それを有効成分とする線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明に係る線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤は、サンザシからの抽出物を有効成分とすることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、サンザシからの抽出物を有効成分とすることにより、作用効果に優れ、かつ安全性の高い線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0010】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
本実施形態の線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)発現抑制剤は、サンザシからの抽出物を有効成分とするものである。
【0011】
また、本実施形態において「抽出物」には、サンザシを抽出原料として得られる抽出液、当該抽出液の希釈液若しくは濃縮液、当該抽出液を乾燥して得られる乾燥物、又はこれらの粗精製物若しくは精製物のいずれもが含まれる。
【0012】
本実施形態において使用する抽出原料は、サンザシ(学名:Crataegus cuneata)である。
サンザシ(Crataegus cuneata)は、バラ科サンザシ属の落葉低木であり、中国中南部の地域から容易に入手可能である。サンザシの茎の高さは、30cm~90cmであり、8月~9月に紫色又は白色の花が咲く。サンザシの薬用部位は果実であり、健胃消化薬として広く用いられている。抽出原料として使用し得るサンザシの構成部位としては、例えば、葉部、枝部、幹部、樹皮部、花部、果実部またはこれらの部位の混合物等が挙げられるが、これらの中でも、果実部、葉部が好ましい。
【0013】
上記サンザシからの抽出物は、抽出原料を乾燥した後、そのまままたは粗砕機を用いて粉砕し、抽出溶媒による抽出に供することにより得ることができる。乾燥は天日で行ってもよいし、通常使用される乾燥機を用いて行ってもよい。また、ヘキサン等の非極性溶媒によって脱脂等の前処理を施してから抽出原料として使用してもよい。脱脂等の前処理を行うことにより、上記抽出原料の極性溶媒による抽出処理を効率よく行うことができる。
【0014】
抽出溶媒としては、極性溶媒を使用することが好ましく、例えば、水、親水性有機溶媒等が挙げられ、これらを単独で又は2種以上を組み合わせて、室温又は溶媒の沸点以下の温度で使用することが好ましい。
【0015】
抽出溶媒として使用し得る水としては、純水、水道水、井戸水、鉱泉水、鉱水、温泉水、湧水、淡水等のほか、これらに各種処理を施したものが含まれる。水に施す処理としては、例えば、精製、加熱、殺菌、濾過、イオン交換、浸透圧調整、緩衝化等が含まれる。したがって、本実施形態において抽出溶媒として使用し得る水には、精製水、熱水、イオン交換水、生理食塩水、リン酸緩衝液、リン酸緩衝生理食塩水等も含まれる。
【0016】
抽出溶媒として使用し得る親水性有機溶媒としては、メタノール、エタノール、プロピルアルコール、イソプロピルアルコール等の炭素数1~5の低級脂肪族アルコール;アセトン、メチルエチルケトン等の低級脂肪族ケトン;1,3-ブチレングリコール、プロピレングリコール、グリセリン等の炭素数2~5の多価アルコール等が挙げられる。
【0017】
2種以上の極性溶媒の混合液を抽出溶媒として使用する場合、その混合比は適宜調整することができる。例えば、水と低級脂肪族アルコールとの混合液を抽出溶媒として使用する場合には、水と低級脂肪族アルコールとの混合比が9:1~1:9(容量比)であることが好ましく、7:3~2:8(容量比)であることがさらに好ましい。また、水と低級脂肪族ケトンとの混合液を使用する場合には、水と低級脂肪族ケトンとの混合比が9:1~2:8(容量比)であることが好ましく、水と多価アルコールとの混合液を使用する場合には、水と多価アルコールとの混合比が8:2~1:9(容量比)であることが好ましい。
【0018】
抽出処理は、抽出原料に含まれる可溶性成分を抽出溶媒に溶出させ得る限り特に限定はされず、常法に従って行うことができる。例えば、抽出原料の5~15倍量(質量比)の抽出溶媒に、抽出原料を浸漬し、常温または還流加熱下で可溶性成分を抽出させた後、濾過して抽出残渣を除去することにより抽出液を得ることができる。得られた抽出液から溶媒を留去するとペースト状の濃縮物が得られ、この濃縮物をさらに乾燥すると乾燥物が得られる。
【0019】
以上のようにして得られるサンザシからの抽出物(以下、単に「サンザシ抽出物」ということがある。)は、優れた線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)発現抑制作用を有しているため、線維芽細胞増殖因子-5発現抑制剤(以下「FGF-5発現抑制剤」と省略することがある。)の有効成分として用いることができる。本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、医薬品、医薬部外品、化粧品等の幅広い用途に使用することができる。
【0020】
本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、サンザシ抽出物のみからなるものでもよいし、サンザシ抽出物を製剤化したものでもよい。
【0021】
本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、デキストリン、シクロデキストリン等の薬学的に許容し得るキャリアーその他任意の助剤を用いて、常法に従い、粉末状、顆粒状、錠剤状、液状等の任意の剤形に製剤化することができる。この際、助剤としては、例えば、賦形剤、結合剤、崩壊剤、滑沢剤、安定剤、矯味・矯臭剤等を用いることができる。FGF-5発現抑制剤は、他の組成物(例えば、皮膚化粧料等)に配合して使用することができるほか、錠剤、カプセル剤等として使用することができる。
【0022】
本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤を製剤化した場合、サンザシ抽出物の含有量は、特に限定されるものではなく、目的に応じて適宜設定することができる。
【0023】
なお、本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、必要に応じて、FGF-5発現抑制作用を有する他の天然抽出物等を、サンザシ抽出物とともに配合して有効成分として用いることができる。
【0024】
本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤の患者に対する投与方法としては、経皮投与、経口投与等が挙げられるが、疾患の種類に応じて、その予防または治療等に好適な方法を適宜選択すればよい。また、本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤の投与量も、疾患の種類、重症度、患者の個人差、投与方法、投与期間等によって適宜増減すればよい。
【0025】
本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、有効成分であるサンザシ抽出物が有する作用を通じて、FGF-5の発現を抑制することができる。これにより、毛周期において成長期から退行期へと移行するのを防ぎ、成長期を延長させることができ、薄毛や脱毛を予防、治療または改善し、育毛・養毛のために用いることができる。ただし、本発明のFGF-5発現抑制剤は、これらの用途以外にも、FGF-5発現抑制作用を発揮することに意義のあるすべての用途に用いることができる。
【0026】
本実施形態のFGF-5発現抑制剤は、優れたFGF-5発現抑制作用を有するため、例えば、毛髪用皮膚外用剤や飲食品に配合するのに好適である。この場合に、サンザシ抽出物をそのまま配合してもよいし、サンザシ抽出物から製剤化したFGF-5発現抑制剤を配合してもよい。
【0027】
ここで、毛髪用皮膚外用剤としては、その区分に制限はなく、毛髪のある頭皮等に経皮的に使用される頭髪化粧料、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものであり、具体的には、例えば、ヘアートニック、ヘアーローション、ヘアークリーム、整髪剤、シャンプー、リンス、トリートメント等が挙げられる。
【0028】
飲食品とは、人の健康に危害を加えるおそれが少なく、通常の社会生活において、経口又は消化管投与により摂取されるものをいい、行政区分上の食品、医薬品、医薬部外品等の区分に制限されるものではない。したがって、本実施形態における「飲食品」は、経口的に摂取される一般食品、健康食品(機能性飲食品)、保健機能食品(特定保健用食品,栄養機能食品)、医薬部外品、医薬品等を幅広く含むものである。本実施形態に係る飲食品は、当該飲食品またはその包装に、サンザシ抽出物が有する好ましい作用を表示することのできる飲食品であることが好ましく、保健機能食品(特定保健用食品,機能性表示食品、栄養機能食品)、医薬部外品および医薬品であることが特に好ましい。
【0029】
また、本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、優れたFGF-5発現抑制作用を有するので、これらの作用機構に関する研究のための試薬としても好適に利用することができる。
【0030】
なお、本実施形態に係るFGF-5発現抑制剤は、ヒトに対して好適に適用されるものであるが、それぞれの作用効果が奏される限り、ヒト以外の動物(例えば,マウス,ラット,イヌ,ネコ,ウシ,ブタ,サル等)に対して適用することもできる。
【実施例】
【0031】
以下、試験例を示し、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の各例に何ら制限されるものではない。なお、本試験例においては、被験試料としてサンザシ抽出物(丸善製薬社製,試料1)を使用した。
【0032】
〔試験例1〕線維芽細胞増殖因子-5(FGF-5)mRNA発現抑制作用試験
サンザシ抽出物(試料1)について、以下のようにしてFGF-5 mRNA発現抑制作用を試験した。
【0033】
ヒト正常毛乳頭細胞(HFDPC,男性頭頂部由来)を60mmシャーレに1.25×104 cells/mLの細胞密度で播種し、ヒト正常毛乳頭細胞用培地(PCGM)を用い、コンフルエントになるまで培養した。
【0034】
その後、培地を除去し、無血清DMEM培地に溶解させた被験試料(試料1,試料濃度は下記表1を参照)含有培地3mLを各シャーレに添加して6時間培養した。培養終了後、培地を除去し、ISOGEN II(ニッポンジーン社製,Cat.No.311-07361)にて総RNAを抽出し、それぞれのRNA量を分光光度計にて測定し、200ng/μLになるように総RNAを調製した。
【0035】
この総RNAを鋳型とし、FGF-5、および内部標準であるGAPDHのmRNAの発現量を測定した。検出はリアルタイムPCR装置Smart Cycler(Cepheid社製)を用いて、TaKaRa SYBR PrimeScriptTM RT-PCR Kit(Perfect Real Time)(タカラバイオ社製,code No. RR063A)によるリアルタイム2Step RT-PCR反応により行った。FGF-5 mRNAの発現量は、GAPDH mRNAの発現量で補正し算出した。得られた値から、下記式により、FGF-5 mRNA発現抑制率(%)を算出した。
【0036】
FGF-5 mRNA発現抑制率(%)={1-(A/B)}×100
A:被験試料添加時の補正値
B:被験試料無添加時の補正値
結果を表1に示す。
【0037】
【0038】
表1に示すように、サンザシ抽出物(試料1)は、優れたFGF-5発現抑制作用を有することが確認された。
【産業上の利用可能性】
【0039】
本発明に係るFGF-5発現抑制剤は、薄毛や脱毛の予防、治療または改善、育毛・養毛用途などに大きく貢献できる。