(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】作物の撮影装置および作物の撮影方法
(51)【国際特許分類】
A01G 7/00 20060101AFI20230720BHJP
【FI】
A01G7/00 603
(21)【出願番号】P 2020008993
(22)【出願日】2020-01-23
【審査請求日】2022-10-28
(73)【特許権者】
【識別番号】501203344
【氏名又は名称】国立研究開発法人農業・食品産業技術総合研究機構
(74)【代理人】
【識別番号】100096884
【氏名又は名称】末成 幹生
(72)【発明者】
【氏名】イ ウンソク
(72)【発明者】
【氏名】徳田 献一
(72)【発明者】
【氏名】高地 伸夫
(72)【発明者】
【氏名】エムディー ハーベス イスラム
【審査官】星野 浩一
(56)【参考文献】
【文献】韓国登録特許第10-1959728(KR,B1)
【文献】特開2015-202056(JP,A)
【文献】特開2015-133971(JP,A)
【文献】特開2016-154510(JP,A)
【文献】特開2001-086865(JP,A)
【文献】特開2013-150584(JP,A)
【文献】特開2011-072204(JP,A)
【文献】特開2016-099282(JP,A)
【文献】特開2018-117539(JP,A)
【文献】特開2019-150015(JP,A)
【文献】特開2017-042133(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 7/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
作物の茎または枝に固定される固定部と、
前記固定部に回転が可能な状態で固定されたカメラと、
前記固定部を前記作物の成長をガイドするガイド部材に束縛させる束縛部と
を備える作物の撮影装置。
【請求項2】
前記カメラが前記作物の成長に従って、前記ガイド部材に沿って移動する請求項1に記載の作物の撮影装置。
【請求項3】
前記カメラを前記固定部に対して回転させる駆動部を備える請求項1または2に記載の作物の撮影装置。
【請求項4】
前記カメラが撮影した画像に基づき、前記カメラを前記作物の特定の部分に向ける制御を前記駆動部に対して行う制御部を備える請求項1~3のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項5】
前記カメラによる前記作物の特定の部分の撮影を、前記カメラの位置を変更して複数回行う制御を行う制御部を備える請求項3または4に記載の作物の撮影装置。
【請求項6】
異なる複数の前記カメラの位置から前記作物の特定の部分の撮影を行うことで、前記作物の前記特定の部分のステレオ写真画像を得る請求項5に記載の作物の撮影装置。
【請求項7】
前記カメラが撮影した画像からバイトマークを検出する画像処理部を備える請求項1~6のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項8】
前記カメラが撮影した画像から特定の色彩を検出する画像処理部を備える請求項1~7にいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項9】
前記カメラが波長フィルタを備える請求項1~8にいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項10】
前記固定部から離れる方向で、且つ、互いに逆方向に延在する第1の腕部および第2の腕部と、
前記第1の腕部に回転可能な状態で固定され、カメラを保持する第1の長手形状部材と、
前記第2の腕部に回転可能な状態で固定され、前記カメラの動作制御を行う回路を備えた回路基板を保持する第2の長手形状部材と
を備える請求項1~9のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項11】
前記カメラが撮影した画像の解析結果に基づく報知を行う報知手段を備える請求項1~10のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項12】
前記報知手段が発光デバイスである請求項11に記載の作物の撮影装置。
【請求項13】
温度センサおよび/または湿度センサを備える請求項1~12のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項14】
コード化ターゲットを備える請求項1~13のいずれか一項に記載の作物の撮影装置。
【請求項15】
作物の茎または枝にカメラを固定すると共に前記カメラを前記作物の成長方向をガイドするガイド部材に束縛させた状態で前記作物の特定の部分の撮影を行い、
前記作物の前記茎または枝の成長と共に前記カメラが前記ガイド部材に沿って移動する作物の撮影方法。
【請求項16】
前記作物が野菜または果物であり、
前記作物の前記特定の部分は前記野菜の実または前記果物の実の部分である請求項15に記載の作物の撮影方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、野菜や果実といった作物をカメラで撮影する技術に関する。
【背景技術】
【0002】
作物を撮影し、画像解析により生育状態等の情報を取得する技術が知られている(例えば、特許文献1を参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
上記の技術では、一般に温室の天井や壁面、あるいは三脚等に固定したカメラにより、継続して撮影を行う方法が採用される。例えば、トマトの場合、花芽の部分を継続的に撮影し、最終的に実の成長過程が撮影される。しかしながら、成長が進むに従って、茎や枝が伸びるので、被写体がカメラの撮影範囲から外れる場合がある。また、葉が茂ってゆき、被写体が葉に隠れる場合がある。
【0005】
このような背景において、本発明は、成長する作物の花芽や実を継続して確実に撮影できる技術の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、作物の茎または枝に固定される固定部と、前記固定部に回転が可能な状態で固定されたカメラと、前記固定部を前記作物の成長をガイドするガイド部材に束縛させる束縛部とを備える作物の撮影装置である。
【0007】
本発明において、前記カメラが前記作物の成長に従って、前記ガイド部材に沿って移動する態様は好ましい。本発明において、前記カメラを前記固定部に対して回転させる駆動部を備える態様は好ましい。本発明において、前記カメラが撮影した画像に基づき、前記カメラを前記作物の特定の部分に向ける制御を前記駆動部に対して行う制御部を備える態様は好ましい。
【0008】
本発明において、カメラによる作物の特定の部分の撮影を、カメラの位置を変更して複数回行う制御を行う制御部を備える態様は好ましい。本発明において、異なる複数のカメラの位置から作物の特定の部分の撮影を行うことで、前記作物の前記特定の部分のステレオ写真画像を得る態様は好ましい。
【0009】
本発明において、カメラが撮影した画像からバイトマークを検出する画像処理部を備える態様は好ましい。本発明において、カメラが撮影した画像から特定の色彩を検出する画像処理部を備える態様は好ましい。本発明において、カメラが波長フィルタを備える態様は好ましい。
【0010】
本発明において、固定部から離れる方向で、且つ、互いに逆方向に延在する第1の腕部および第2の腕部と、前記第1の腕部に回転可能な状態で固定され、カメラを保持する第1の長手形状部材と、前記第2の腕部に回転可能な状態で固定され、前記カメラの動作制御を行う回路を備えた回路基板を保持する第2の長手形状部材とを備える態様は好ましい。
【0011】
本発明において、カメラが撮影した画像の解析結果に基づく報知を行う報知手段を備える態様は好ましい。ここで、報知手段が発光デバイスである態様は好ましい。本発明において、温度センサおよび/または湿度センサを備える態様は好ましい。本発明において、コード化ターゲットを備える態様は好ましい。
【0012】
本発明は、作物の茎または枝にカメラを固定すると共に前記カメラを前記作物の成長方向をガイドするガイド部材に束縛させた状態で前記作物の特定の部分の撮影を行い、前記作物の前記茎または枝の成長と共に前記カメラが前記ガイド部材に沿って移動する作物の撮影方法として把握することもできる。
【0013】
上記方法の発明において、前記作物が野菜または果物であり、前記作物の前記特定の部分は前記野菜の実または前記果物の実の部分である態様は好ましい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、成長する作物の花芽や実を継続して確実に撮影できる技術が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【
図1】発明を利用したクリップカメラの正面図である。
【
図2】発明を利用したクリップカメラをトマトの苗に取り付けた状態を示す模式図である。
【
図4】発明を利用したクリップカメラの正面図である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
1.第1の実施形態
(概要)
作物の茎や枝に固定可能なクリップと、カメラを複合化した撮影装置(以下、クリップカメラ)を用意する。クリップカメラは、クリップ部分を作物の茎や枝に固定することで、カメラを当該作物の茎や枝の部分に固定することができる。また、クリップカメラには、作物の成長をガイドするガイド部材である誘引ワイヤを通す孔が設けられており、そこに誘引ワイヤを通すことで、クリップカメラは誘引ワイヤに束縛される。
【0017】
作物に固定されたクリップカメラは、作物の成長に従って茎および誘引ワイヤに沿って移動する。花芽や実の近くにカメラを位置させることで、葉が茂っても花芽や実を確実に撮影することができる。また、茎や枝が成長し、花芽や実の位置が動いても、カメラも花芽や実に追従して移動するので、確実に花芽や実の撮影が行える。また、茎の成長方向を制御するために、誘引ワイヤの方向を変えても、当該カメラが誘引ワイヤに束縛されているので、当該カメラがその動きに追従し、花芽や実が当該カメラの視野から外れる問題が抑制される。
【0018】
(クリップカメラ)
図1には、クリップカメラ100を正面から見た状態が示されている。クリップカメラ100は、クリップ110、カメラ150、回路基板138が一体化された構造を有している。カメラ150と回路基板138は、クリップ110に対して、回転させる(動かす)ことが可能とされている。
【0019】
クリップ110は、作物の茎や枝に固定することが可能な機能を持ち、市販されている園芸用クリップと同様な構造を有している。クリップ110は、可動部120と可動部130を備える。可動部120と可動部130は、軸部140により、相対的に回転が可能な状態で結合されている。
【0020】
可動部120は、摘み部121、腕部122、湾曲部123を備える。湾曲部123は、半円環形状を有している。可動部130は、可動部120を左右で反転させた略形状を有し、摘み部131、腕部132、湾曲部133を備える。湾曲部133は、半円環形状を有している。
【0021】
湾曲部123と133によって、円環境に閉じた形状の把持部141が構成されている。把持部141によって、作物の茎や枝を掴む(挟む)ことで、クリップ110(クリップカメラ100)が作物に固定される。
【0022】
摘み部121と131を指で挟み、両者の離間距離を狭めると、軸部140を回転中心として、可動部120と130が相対的に回転し、湾曲部123と湾曲部133が離れる。この結果、湾曲部123と133によって、円環境に閉じた形状の把持部141が開く。
【0023】
湾曲部123と133には、ピンチリング(C型のリングばね)142によって、その距離を狭めようとする付勢力(弾性力)が作用している。そのため、摘み部121と131を指で摘み、把持部141を開いた状態とし、その後に指を離すと、ピンチリング142の弾性力により、湾曲部123と湾曲部133が近づき、把持部141が閉じようとする。この原理により、把持部141により作物の茎や枝を挟んで掴んだ状態が得られる。こうして、クリップ110(クリップカメラ100)を当該茎や枝に固定することができる。
【0024】
可動部120における湾曲部123の根元部分には、誘引ワイヤ(例えば、
図2の符号201)を通す孔124が設けられている。可動部120には、孔124につながる切欠き部125が形成されている。切欠き部125を介して、誘引ワイヤを孔124通すことができる。
【0025】
可動部130の彎曲部133の根元部分には、誘引ワイヤを通す孔134が設けられている。孔124と同様に、孔134に誘引ワイヤを誘導するための図示しない切欠き部が可動部130に形成されている。
【0026】
孔124および孔134に誘引ワイヤを通した状態で把持部141を閉じると、
図1の視点から見て、切欠き部125が湾曲部133の根本部分と重なり、更に可動部130に形成された孔134に繋がる図示しない切欠き部が湾曲部123の根本部分と重なることで、誘引ワイヤが孔124および孔134から外れなくなる。
【0027】
また、孔124,134に誘引ワイヤを通した状態において、把持部141を開くと、切欠き部125、および可動部130に形成された孔134に繋がる切欠き部を介して、誘引ワイヤを孔124および孔134から外すことができる。
【0028】
なお、誘引ワイヤは、クリップ110が誘引ワイヤに対して、誘引ワイヤの延長方向に沿って移動可能となるように、緩く嵌った状態で孔124と134に係合する。このため、クリップカメラ100は、誘引ワイヤに沿って動かすことができる。
【0029】
クリップ110は、可動部120と一体となった腕部122を有する。腕部122の先端には、軸部126を介して、長手形状の部材であるカメラ保持用腕部127が腕部122に対して回転自在な状態で連結されている。カメラ保持用腕部127の先端には、ボールジョイント128を介してカメラ150が向きを自在に変更可能な状態で連結されている。
【0030】
また、クリップ110は、可動部130と一体となった腕部132を有する。腕部132には、軸部136を介して、長手形状の部材である回路基板保持用腕部137が腕部132に対して回転自在な状態で連結されている。回路基板保持用腕部137の先端には、回路基板138が一体的に設けられている。
【0031】
回路基板138には、カメラ150との間で通信および電源の供給を行うケーブル151を接続するため第1のコネクタ152、外部との間で通信および電源の供給を受けるケーブル153を接続するため第2のコネクタ154、更にカメラ150の撮影動作の制御およびカメラ150が撮影した画像を記憶および処理する集積回路155が配置されている。
【0032】
カメラ150は、通常の可視光帯域の画像を撮影する市販のカメラユニットである。カメラ150として特定波長の画像撮影する形態のものや赤外線カメラを用いることもできる。
【0033】
回路基板138には、報知手段である発光素子(LEDランプ)156が配置されている。発光素子156は、例えばカメラ150により観察している対象物の成長状態や異常等が検出された場合に発光し、その旨をユーザに報知する。
【0034】
回路基板138には、センサ157が配置されている。センサ157としては、温度センサ、湿度センサ、光センサ、特定の物質を検出するセンサ(例えば、特定の匂いを検出する匂いセンサ)の一または複数を挙げることができる。センサ138の検出データは、集積回路155のメモリ領域に記憶、あるいはケーブル153を介して、外部に出力される。
【0035】
クリップカメラ100は、把持部141で茎や枝を掴んだ状態において、カメラ保持用腕部127の腕部122に対する回転角度位置、および回路基板保持用腕部137の腕部132に対する回転角度位置を調整することで、重量バランスを調整することができる。これにより、クリップカメラ100を安定した状態で作物に取り付けることができる。
【0036】
(クリップカメラの利用方法)
ここでは、温室栽培されるトマトの実を画像で観察する場合を説明する。なお、対象となる作物はトマトに限定されず、茄子、キュウリ等の野菜、ぶどうやイチゴ等の果物であってもよい。
【0037】
図2には、トマトの苗木200が示されている。
図2は温室の中であり、この温室は、上方から床(地面)に向って誘引ワイヤ201が垂らされている。トマトの苗木200は、誘引ワイヤ201により、鉛直上方に成長が誘引(誘導)される。
【0038】
誘引ワイヤ201は、園芸用に市販されているものが利用される。誘引ワイヤ201として、例えば、被覆された針金等の金属線、布糸、麻ひも、ビニールひも、各種ロープ等を利用することができる。
【0039】
また、温室の天井部分には、ケーブル153を接続可能で、クリップカメラ100への電源供給、クリップカメラ100からのデータの受け付け、クリップカメラ100への制御信号の供給を行うための回線設備が設けられている。この回路設備は、例えば各種の有線LAN回線の規格を利用することができる。
【0040】
まず、観察の対象とする部分を特定する。この場合、観察の対象とするトマトの実202の部分(または実が成長すると予想される部分)を観察対象部分として特定する。次に、上記観察対象部分をカメラ150が撮影できるように、当該トマトの苗木の茎の部分を定め、そこにクリップカメラ100を装着する。クリップカメラ100のトマトの苗木の茎の部分への装着は、把持部141によって茎を掴むことで行なわれる。また、適切な撮影画像が得られるように、カメラ150の向きの調整が行なわれる。例えば、トマトの実が成長すると予想されるトラス(房)の部分をカメラ150が捉えるように、クリップカメラ100のトマトの苗木200への装着およびカメラ150の向きの調整が行なわれる。
【0041】
また、孔124および134に誘引ワイヤ201を通す。孔124および134に誘引ワイヤ201を通すことで、クリップカメラ100の移動が誘引ワイヤ201の延在方向に規制される。
【0042】
また、把持部141で茎や枝を掴んだ状態において、カメラ保持用腕部127の腕部122に対する回転角度位置、および回路基板保持用腕部137の腕部132に対する回転角度位置を調整し、クリップカメラ100が安定した状態でトマトの苗木200に固定されるように、クリップカメラ100の重量バランスを調整する。
【0043】
ここで、クリップカメラ100の把持部141はトマトの苗木200の茎203を掴んでおり、これによりクリップカメラ100は、茎203に固定されている。この状態において、苗木200が成長すると、その成長に従って、クリップカメラ100は移動する。この際、この移動は、トマトの実202の移動に追従し、且つ、誘引ワイヤ201の延在方向に沿ったものとなる。このため、トマトの苗木200が成長してもカメラ150とトマトの実202の位置関係が変化し難く、継続してカメラ150によるトマトの実202の撮影が可能となる。
【0044】
(優位性)
茎が成長し、トマトの実202の位置が上方に移動しても、クリップカメラ100は茎に固定されているので、クリップカメラ100はトマトの実202と一緒に上方に移動する。このため、長期間にわたる画像撮影が可能となる。
【0045】
また、トマトの実202に近接した位置からの撮影となるので、成長する葉の影響を避けることができ、また背景のピントがぼけるので、画像解析が行い易い画像が得られる。
【0046】
また、茎の成長の方向を制御することを目的に、誘引ワイヤ201の方向を例えば、斜め方向に傾ける場合があるが、そのような場合に、誘引ワイヤ201に沿ってクリップカメラ100が動くので、撮影対象となるトマトの実202がカメラ150の撮影範囲から外れる問題が緩和される。
【0047】
また、腕部122と132は、把持部141から離れる方向で、且つ、互いに逆方向に延在し、カメラ保持用腕部127が腕部122の先端に回転可能な状態で固定され、回路基板保持用腕部137が腕部132の先端に回転可能な状態で固定されている。
【0048】
この構造によれば、カメラ保持用腕部127と回路基板保持用腕部137を回転させることで、重量バランスを調整することができる。また、カメラ150の位置の調整が容易に行える。
【0049】
2.第2の実施形態
この例では、第1の実施形態において、カメラ150の基部(ボールジョイント128の部分)および軸部126の部分に、カメラ150の向きを調整する駆動部を組み込む。ここで、駆動部はカメラ150の向き、およびカメラ保持用腕部127を腕部122に対して回転させるモータを備える。この場合、上記駆動部を制御する制御部を用意する。この制御部は、集積回路155またはケーブル153の接続先の制御用PC等を利用して構成する。
【0050】
図3は、本実施形態を実現するためのブロック図である。
図3には、駆動部300と制御部310、画像解析部320、発光素子156が示されている。駆動部300は、カメラ150の向きの変更およびカメラ保持用腕部127を腕部122に対して回転させるためのモータ、ギア機構、モータの駆動回路を含んでいる。駆動部300は、軸部126およびカメラ保持用腕部127の先端の部分に設けられている。駆動部300の作用により、カメラ150を任意の要求する方向に向けることができる。
【0051】
制御部310は、後述する画像解析部320の画像解析の結果に基づき、カメラ150の向きの変更を指示する制御信号を生成し、それを駆動部300に送る。画像解析部320は、カメラ150が写した画像を解析する。画像解析部320は、集積回路155またはケーブル153の接続先の制御用PC等を利用して構成される。
【0052】
以下、画像解析部320で行なわれる処理について説明する。画像解析部320は、カメラ150が写した画像のデータを受け付ける。画像解析部320は、受け付けた画像データの中から、画像認識ソフトウェアを利用して、トマトの実の画像を抽出し、更に画面中におけるその位置を算出する。
【0053】
画面中には、予め定めたターゲット補足範囲が定められている。画像解析部320は、上記のターゲット補足範囲から当該トマトの実の画像が外れた場合に、その旨を制御部310に送る。画面中における対象画像の位置とカメラ150の光軸の向きの関係は予め取得されている。この事前データに基づき、当該ターゲット補足範囲内にトマトの実の画像が入るように、カメラ150の光軸の変更を指示する制御信号が制御部310で生成され、それが駆動部300に送られる。
【0054】
発光素子156は、ユーザへの報知手段の一例であり、上記の動作時およびその後の一定時間点滅し、カメラ150の駆動制御の有無をユーザ(例えば、当該作物の生産者)に報知する。報知手段として、無線信号を発する信号発生手段を利用することもできる。
【0055】
上記の動作により、何らかの理由により、トマトの実の画像が画面から外れそうになっても、カメラ150の光軸の向きの制御が行なわれ、カメラ150が観察対象であるトマトの実を捉えることができる。
【0056】
3.第3の実施形態
カメラ150による画像観察により、バイトマーク(蜂による噛み跡)を検出する技術に本発明を利用することができる。この場合、定期的に花の部分の撮影を行い、画像からバイトマークを検出する。バイトマークを検出することで、受粉のタイミングが検出できる。また、バイトマークの濃さ(色彩)を判定することで、花粉の量や受粉の程度を知ることができる。バイトマークの画像認識に係る処理は、集積回路155またはケーブル153の接続先の演算装置(例えば、データ処理用PC)で行なわれる。
【0057】
以下、処理の一例を説明する。この例では、
図2の符号202の部分が、まだ花の状態である段階で、カメラ150により、当該トマトの花の部分を撮影する。そして、撮影した画像に対して、特定の色彩を強調する色画像処理を行う。ここでは、トマトの花の雄蕊に付いたバイトマークの画像からの検出に適した色画像処理の内容を予め調べておく。具体的には、当該バイトマークの色を強調する色を予め調べておき、その色が強調される色画像処理を行う。
【0058】
バイトマークを検出したら、その旨がケーブル153を介して、回線に送られ、例えばデータサーバに記憶される。なお、バイトマークの検出情報をユーザの端末に送信してもよい。また、バイトマークを検出したら、発光素子156を点滅させる。この点滅をユーザが視認することで、バイトマークの付いた個体をユーザが把握することができる。
【0059】
時間差をおいて撮影を複数回(2回以上)行う形態も有効である。これは、時間によって太陽光の当たり具合に違いがあり、色彩の感じが変わる問題を緩和するためである。
【0060】
また、カメラ150の位置および向きを変更し、つまり撮影の視点を変更し、複数回の撮像を行い、その際に得られた複数の画像を対象にバイトマークの検出を行ってもよい。撮影の視点を変えることで、第1の視点から見えなかったバイトマークが第2の視点からは見える可能性が生じ、バイトマークを見逃す確率が減少する。
【0061】
カメラ150の位置および向きの制御、および撮影タイミングの制御は、集積回路155またはケーブル153の接続先の演算装置(例えば、データ処理用PC)で行なわれる。カメラ150の位置および向きの変更は、カメラ保持用腕部127の腕部122に対する回転、およびカメラ保持用腕部127に対するカメラ150の回転によって行われる。
【0062】
4.第4の実施形態
第3の実施形態と同様の原理に基づき、トマトの色合いの判定を行うことも可能である。この場合、
図2の状態において、トマトの実202を定期的に撮影する。この場合、時間軸上で得られる複数の画像に基づき、実の色が青(緑)から赤に変色するタイミングを判定する。この色の判定は、集積回路155またはケーブル153の接続先の演算装置(例えば、データ処理用PC)で行なわれる。
【0063】
本実施形態において、視点(カメラ位置)を変更しての撮影を行う形態は有効である。実の色が変わる判定では、閾値を用いて色の判定を行う処理が行なわれるが、その結果は、光の当たり具合の影響を受ける。撮影の視点を変えた画像を用いることで、この影響による誤差を低減できる。視点の変更に係る処理および制御は、集積回路155またはケーブル153の接続先の演算装置(例えば、データ処理用PC)で行なわれる。
【0064】
色に検出に係る処理の対象としては、トマトに限定されず、成長時に変色する野菜や果物(例えば、リンゴ、ぶどう、イチゴ、柑橘類)を挙げることができる。また、この色が変わる判定情報を利用して収穫時期の予想を行う処理も可能である。
【0065】
5.第5の実施形態
第3の実施形態や第4の実施形態において特定の波長帯域の光を透過する波長フィルタを介して、カメラ150による撮影を行ってもよい。波長フィルタを用いることで、特定の色情報を効率よく検出することができる。この場合、カメラ150のレンズ部分に波長フィルタを装着したものを用いる。
【0066】
6.第6の実施形態
カメラ150の位置を変更し、2つ以上の視点から同一の被写体を撮影することで、ステレオ写真画像を得ることができる。例えば、
図2のトマトの実202を異なる2つ以上の視点(カメラ位置)から撮影することで、トマトの実202のステレオ写真画像を得ることができる。そして、このステレオ写真画像に基づき、被写体であるトマトの実202の三次元情報(例えば、三次元モデル)を得ることができる。
【0067】
ステレオ写真画像の撮影では、各画像の撮影時におけるカメラの外部標定要素(位置と姿勢)の情報が必要となる。この例の場合、カメラ150の駆動部が回転角を検出するエンコーダを備え、その検出値を用いてステレオ写真画像を構成する2以上の画像に係るカメラ150の外部標定要素を算出する。また、ステレオ写真画像を得るための動作制御は、集積回路155で行なわれる。
【0068】
ステレオ写真画像を得ることで、例えば雄蕊におけるバイトマークの位置を三次元的に把握できるデータが得られる。
【0069】
7.第7の実施形態
以下、カメラ150によりトマトの実202を撮影し、その撮影画像を解析することで、トマトの実202の収穫時期を判定し、その判定結果を発光素子156の発光によりユーザに報知する場合の例を説明する。
【0070】
図3に制御ブロック図を示す。この例では、カメラ150によりトマトの実202を撮影し、画像解析部320において画像解析により、トマトの実202の赤の色合いを評価し、収穫に適した状態か否かを判定する。具体的には、赤のスペクトルを画像解析から検出し、そのピーク強度と鋭さを予め定めた閾値を利用して判定し、収穫に適した状態か否かを判定する。
【0071】
収穫時期と判定されると、発光素子156を点滅表示させる駆動信号が制御部310から発光素子156に送られ、発光素子156が点滅発光(連続パルス発光)する。この発光素子156の点滅発光を視認することで、ユーザ(農作業者や生産者)は、トマトの実202の収穫時期を認識することができる。
【0072】
上記の判定の条件にセンサ157が検出した温度や湿度の情報を加えてもよい。また、判定の結果をケーブル153や無線により外部に出力する形態も可能である。
【0073】
8.第8の実施形態
クリップカメラ100にコード化ターゲットを配置する形態も可能である。
図1には、コード化ターゲットとして細かい矩形模様の組み合わせでコードを構成した場合のコード化ターゲット139が示されている。コード化ターゲットとしては、バーコード、2次元バーコード、文字表示、画像として識別可能な図形や色の組み合わせを用いたものを挙げることができる。
【0074】
例えばトマトの栽培の場合、農場では、トマトの苗は多数あり、また一つの苗に複数のトラス(房)が形成される。よって、トラス毎や実毎に個別に各種の観察や計測を行う場合、観察対象(計測対象)を個別に識別する必要がある。この識別のために、クリップカメラ100にコード化ターゲットを取り付ける(あるいはコード化ターゲットの表示を備えさせる)。
【0075】
9.第9の実施形態
図4には、回路基板138上にカメラ150の電源となるバッテリー161を備え、カメラ150が無線通信装置である無線LAN装置162を備えた構成が示されている。この場合、ケーブル151を介して、バッテリー161からカメラ150に電源電力が供給され、カメラ150が撮影した画像のデータは、無線LAN装置162を介して、外部(例えば、無線LANを介して通信が可能なサーバやコンピュータ)に送信される。
【0076】
また、回路基板138上には、バッテリー161からの電力の供給の有無を制御するタイマー回路163が配置されている。タイマー回路163は、市販のタイマー用のICを利用している。タイマー回路163により、バッテリー161は、例えば1日に1回、2時間に1回、4時間に1回、昼間は2時間に1回で夜は4時間に1回といった予め定めた間隔でカメラ150、集積回路155、発光素子156およびセンサ157に電源電力を供給する。タイマー機能を用いることで、バッテリー161の消費を抑えることができ、カメラ150等のより長時間にわたる動作が可能となる。
【0077】
10.第10の実施形態
図1の構成において、カメラ150として撮影機能以外の各種の演算や信号の処理が可能な集積回路を備えたもの(例えば、AI機能を有するカメラ)を用いることも可能である。この場合、カメラ150は、各種の画像処理やカメラ155の向きの制御に係る処理が可能な集積回路を備える。この場合、集積回路155を備えない構成も可能である。
【0078】
また、画像に係る処理、およびカメラ150の向きの調整に係る演算が、カメラ150が備える集積回路で行なわれ、カメラ150を動かすモータの駆動信号の生成が集積回路155で行なわれる形態も可能である。
【0079】
この場合、
図3の画像解析部320と制御部310がカメラ150に含まれ、駆動部300の機能が集積回路155で実現される。
【0080】
11.第11の実施形態
図1の構成において、
図3の画像解析部320の処理が外部のサーバやコンピュータで行なわれ、
図3の制御部310、駆動部300の処理が集積回路155で行なわれる形態も可能である。
【0081】
(その他)
電源としてバッテリーや太陽電池を用いてもよい。また、回路基板138と外部との通信手段として無線を用いてもよい。無線は、各種の無線通信規格を用いることができる。クリップカメラ100を枝に固定する形態も可能である。
【0082】
作物の成長をガイドするガイド部材としては、例示した誘引ワイヤの他に、ネット(例えば、格子状のネット)、棒状の部材(例えば、木材、竹、金属製の棒)、電源電力や電気信号を伝送するケーブル等を利用することもできる。誘引ワイヤ(ガイド部材)の延在方向は、上下方向に限定されず、斜め方向や水平方向であってよい。
【0083】
(むすび)
本明細書には、作物の茎203または枝に固定される固定部である把持部141と、前記把持部141に回転が可能な状態で固定されたカメラ150と、前記把持部141を前記作物の成長方向を誘引する誘引ワイヤ201に束縛させる束縛部である孔124,134とを備えるクリップカメラ100が開示されている。
【0084】
クリップカメラ100において、カメラ150は、作物の成長に従って、誘引ワイヤ201に沿って移動する。ここで、カメラ150を把持部141に対してモータ等で回転させる駆動部300を備える構成も可能である。また、カメラ150が撮影した画像に基づき、カメラ150を作物の特定の部分(例えば、実であるトマトの実202)に向ける制御を駆動部300に対して行う制御部310を備える構成も可能である。
【0085】
また、本明細書には、作物であるトマトの苗木200の茎203または枝にカメラ150を固定すると共に前記カメラ150を前記作物の成長方向を誘引する誘引ワイヤ201に束縛させた状態で前記作物の特定の部分(例えば、トマトの実202)の撮影を行い、前記作物の前記茎203または枝の成長と共に前記カメラ150が前記誘引ワイヤ201に沿って移動する作物の撮影方法が開示されている。
【符号の説明】
【0086】
100…クリップカメラ、110…クリップ、120…可動部、121…掴み部、122…腕部、123…湾曲部、124…孔、125…切欠き部、126…軸部、127…カメラ保持用腕部、128…ボールジョイント、130…可動部、131…掴み部、132…腕部、133…湾曲部、134…孔、136…軸部、137…回路基板保持用腕部、138…回路基板、139…コード化ターゲット、140…軸部、141…把持部、142…ピンチリング(C型のリングばね)、150…カメラ、151…ケーブル、152…コネクタ、153…ケーブル、154…コネクタ、155…集積回路、156…発光素子、157…センサ、161…バッテリー、162…無線LAN装置、200…トマトの苗木、201…誘引ワイヤ、202…トマトの実、203…茎。