(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】収差補正器及びマルチ電子ビーム照射装置
(51)【国際特許分類】
H01J 37/153 20060101AFI20230720BHJP
H01J 37/28 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
H01J37/153 B
H01J37/28 B
(21)【出願番号】P 2019111578
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-05-10
(73)【特許権者】
【識別番号】504162958
【氏名又は名称】株式会社ニューフレアテクノロジー
(74)【代理人】
【識別番号】100119035
【氏名又は名称】池上 徹真
(74)【代理人】
【識別番号】100141036
【氏名又は名称】須藤 章
(74)【代理人】
【識別番号】100178984
【氏名又は名称】高下 雅弘
(72)【発明者】
【氏名】井上 和彦
(72)【発明者】
【氏名】小笠原 宗博
【審査官】植木 隆和
(56)【参考文献】
【文献】特開2005-123264(JP,A)
【文献】特開2009-032691(JP,A)
【文献】特開2017-107849(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01J 37/305
H01L 21/027
G03F 7/20
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
マルチ電子ビームが通過する、第1の孔径の複数の第1の通過孔が形成され、前記複数の第1の通過孔の周囲上面に第1の通過孔毎に個別にそれぞれ4極以上の複数の電極が配置された下部電極基板と、
前記下部電極基板上に配置され、上面から裏面に向かう途中まで第2の孔径となり、前記途中から前記裏面まで、前記第1と第2の孔径よりも大きい第3の孔径になる、前記マルチ電子ビームが通過する複数の第2の通過孔が形成され、前記複数の第2の通過孔の内壁にシールド電極が配置された上部電極基板と、
を備え
、
前記上部電極基板のうち前記第3の孔径で前記複数の第2の通過孔が形成された部分における隣接する第2の通過孔同士間の距離を、前記下部電極基板と前記上部電極基板との間の隙間で割った値が閾値以上になるように形成されることを特徴とする収差補正器。
【請求項2】
前記下部電極基板は、基板本体と前記複数の電極との間に、絶縁層を有することを特徴とする請求項
1記載の収差補正器。
【請求項3】
前記閾値は、2~10であることを特徴とする請求項1記載の収差補正器。
【請求項4】
マルチ電子ビームが通過する、第1の孔径の複数の第1の通過孔が形成され、前記複数の第1の通過孔の周囲上面に第1の通過孔毎に個別にそれぞれ4極以上の複数の電極が配置された下部電極基板と、
前記下部電極基板上に配置され、上面から裏面に向かう途中まで第2の孔径となり、前記途中から前記裏面まで、前記第1と第2の孔径よりも大きい第3の孔径になる、前記マルチ電子ビームが通過する複数の第2の通過孔が形成され、前記複数の第2の通過孔の内壁にシールド電極が配置された上部電極基板と、
を備え
、
前記上部電極基板の厚さのうち、前記第3の孔径で前記複数の第2の通過孔が形成された部分の厚さが、前記下部電極基板と前記上部電極基板との間の隙間より大きくなるように前記下部電極基板と前記上部電極基板とが配置されることを特徴とする収差補正器。
【請求項5】
マルチ電子ビームが通過する、第1の孔径の複数の第1の通過孔が形成され、前記複数の第1の通過孔の周囲上面に第1の通過孔毎に個別にそれぞれ4極以上の複数の電極が配置された下部電極基板と、
前記下部電極基板上に配置され、上面から裏面に向かう途中まで第2の孔径となり、前記途中から前記裏面まで、前記第1と第2の孔径よりも大きい第3の孔径になる、前記マルチ電子ビームが通過する複数の第2の通過孔が形成され、前記複数の第2の通過孔の内壁にシールド電極が配置された上部電極基板と、
を有する収差補正器と、
前記収差補正器により非点と歪曲収差との少なくとも一方が補正されたマルチ電子ビームを試料に誘導する電子光学系と、
を備え
、
前記上部電極基板のうち前記第3の孔径で前記複数の第2の通過孔が形成された部分における隣接する第2の通過孔同士間の距離を、前記下部電極基板と前記上部電極基板との間の隙間で割った値が閾値以上になるように形成されることを特徴とするマルチ電子ビーム照射装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、収差補正器及びマルチ電子ビーム照射装置に関する。例えば、電子線によるマルチビームを照射する装置およびマルチ電子ビームの収差を補正する多極子レンズアレイに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、大規模集積回路(LSI)の高集積化及び大容量化に伴い、半導体素子に要求される回路線幅はますます狭くなってきている。そして、多大な製造コストのかかるLSIの製造にとって、歩留まりの向上は欠かせない。しかし、1ギガビット級のDRAM(ランダムアクセスメモリ)に代表されるように、LSIを構成するパターンは、サブミクロンからナノメータのオーダーになっている。近年、半導体ウェハ上に形成されるLSIパターン寸法の微細化に伴って、パターン欠陥として検出しなければならない寸法も極めて小さいものとなっている。よって、半導体ウェハ上に転写された超微細パターンの欠陥を検査するパターン検査装置の高精度化が必要とされている。
【0003】
検査手法としては、半導体ウェハやリソグラフィマスク等の基板上に形成されているパターンを撮像した測定画像と、設計データ、あるいは基板上の同一パターンを撮像した測定画像と比較することにより検査を行う方法が知られている。例えば、パターン検査方法として、同一基板上の異なる場所の同一パターンを撮像した測定画像データ同士を比較する「die to die(ダイ-ダイ)検査」や、パターン設計された設計データをベースに設計画像データ(参照画像)を生成して、それとパターンを撮像した測定データとなる測定画像とを比較する「die to database(ダイ-データベース)検査」がある。撮像された画像は測定データとして比較回路へ送られる。比較回路では、画像同士の位置合わせの後、測定データと参照データとを適切なアルゴリズムに従って比較し、一致しない場合には、パターン欠陥有りと判定する。
【0004】
上述したパターン検査装置には、レーザ光を検査対象基板に照射して、その透過像或いは反射像を撮像する装置の他、検査対象基板上を電子ビームで走査(スキャン)して、電子ビームの照射に伴い検査対象基板から放出される2次電子を検出して、パターン像を取得する検査装置の開発も進んでいる。電子ビームを用いた検査装置では、さらに、マルチビームを用いた装置の開発も進んでいる。マルチビームを用いた電子光学系では、軸外非点やディストーション(歪曲収差)といった収差が発生し得る。電子ビームを用いた検査装置では、検査を行うために、高精度な画像を取得する必要がある。かかる収差の補正は、マルチビームの各ビームを個別に軌道補正する必要がある。例えば、各ビーム独立の多極子レンズをアレイ状に配置することが挙げられる。かかる収差を補正するだけの偏向量を各電子ビームに与えるためには、多極子レンズの各電極自体の厚みが数10μm程度、例えば50μmは必要になってしまう。ビーム間ピッチが狭い中で、数10μmの厚さの電極では、収差補正制御が技術的に難しい。そのため、できるだけ電極を薄くすることが望まれる。
【0005】
ここで、各ビームを個別に軌道修正する多極子レンズをアレイ状に配置する構成ではないが、多極子で囲まれた空間をマルチビーム全体が通過することで軸外非点を補正する収差補正器が開示されている(例えば、特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
そこで、本発明の一態様は、多極子レンズの各電極自体の厚みを薄くすることが可能な、マルチ電子ビーム用の多極子レンズをアレイ配置する収差補正器、およびかかる収差補正器を搭載した検査装置を提供する。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の一態様の収差補正器は、
マルチ電子ビームが通過する、第1の孔径の複数の第1の通過孔が形成され、複数の第1の通過孔の周囲上面に第1の通過孔毎に個別にそれぞれ4極以上の複数の電極が配置された下部電極基板と、
下部電極基板上に配置され、上面から裏面に向かう途中まで第2の孔径となり、かかる途中から裏面まで、第1と第2の孔径よりも大きい第3の孔径になる、マルチ電子ビームが通過する複数の第2の通過孔が形成され、複数の第2の通過孔の内壁にシールド電極が配置された上部電極基板と、
を備えたことを特徴とする。
【0009】
また、上部電極基板のうち第3の孔径で複数の第2の通過孔が形成された部分における隣接する第2の通過孔同士間の距離を、下部電極基板と上部電極基板との間の隙間で割った値が閾値以上になるように形成されると好適である。
【0010】
また、下部電極基板は、基板本体と複数の電極との間に、絶縁層を有すると好適である。
【0011】
また、上部電極基板の厚さのうち、第3の孔径で複数の第2の通過孔が形成された部分の厚さが、下部電極基板と上部電極基板との間の隙間より大きくなるように下部電極基板と上部電極基板とが配置されると好適である。
【0012】
本発明の一態様のマルチ電子ビーム照射装置は、
マルチ電子ビームが通過する、第1の孔径の複数の第1の通過孔が形成され、複数の第1の通過孔の周囲上面に第1の通過孔毎に個別にそれぞれ4極以上の複数の電極が配置された下部電極基板と、
下部電極基板上に配置され、上面から裏面に向かう途中まで第2の孔径となり、途中から裏面まで、第1と第2の孔径よりも大きい第3の孔径になる、マルチ電子ビームが通過する複数の第2の通過孔が形成され、複数の第2の通過孔の内壁にシールド電極が配置された上部電極基板と、
を有する収差補正器と、
収差補正器により非点と歪曲収差との少なくとも一方が補正されたマルチ電子ビームを試料に誘導する電子光学系と、
を備え、
前記上部電極基板のうち前記第3の孔径で前記複数の第2の通過孔が形成された部分における隣接する第2の通過孔同士間の距離を、前記下部電極基板と前記上部電極基板との間の隙間で割った値が閾値以上になるように形成されることを特徴とする。
【発明の効果】
【0013】
本発明の一態様によれば、マルチ電子ビーム用のアレイ配置された多極子レンズの各電極自体の厚みを薄くすることができる。
【図面の簡単な説明】
【0014】
【
図1】実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。
【
図2】実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
【
図3】実施の形態1の比較例1となる収差補正器の断面構成の一例を示す図である。
【
図4】実施の形態1における収差補正器の各電極基板の構成の一例を示す上面図である。
【
図5】実施の形態1における収差補正器の多極子の配線の一例を示す上面図である。
【
図6】実施の形態1における収差補正器の構成の一例を示す断面図である。
【
図7】実施の形態1における収差補正器の1つのビーム用の電極間に生じる電場の一例の示す図である。
【
図8】実施の形態1における電場の減衰を説明するための図である。
【
図9】実施の形態1と比較例2とにおける偏向量と印加電位との関係の一例を示す図である。
【
図10】実施の形態1における歪曲収差(ディストーション)の一例を示す図である。
【
図11】実施の形態1における非点の一例を示す図である。
【
図12】実施の形態1における非点の他の一例を示す図である。
【
図13】実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
【
図14】実施の形態1におけるマルチビームのスキャン動作を説明するための図である。
【
図15】実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0015】
以下、実施の形態では、マルチ電子ビーム照射装置の一例として、マルチ電子ビーム検査装置について説明する。但し、マルチ電子ビーム照射装置は、検査装置に限るものではなく、描画装置等、例えば、電子光学系を用いてマルチ電子ビームを照射する装置であれば構わない。
【0016】
実施の形態1.
図1は、実施の形態1におけるパターン検査装置の構成を示す構成図である。
図1において、基板に形成されたパターンを検査する検査装置100は、マルチ電子ビーム検査装置の一例である。検査装置100は、画像取得機構150、及び制御系回路160を備えている。画像取得機構150は、電子ビームカラム102(電子鏡筒)及び検査室103を備えている。電子ビームカラム102内には、電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、収差補正器220、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、副偏向器209、ビームセパレーター214、偏向器218、電磁レンズ224、及びマルチ検出器222が配置されている。電子銃201、電磁レンズ202、成形アパーチャアレイ基板203、電磁レンズ205、収差補正器220、一括ブランキング偏向器212、制限アパーチャ基板213、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、主偏向器208、及び副偏向器209によって1次電子光学系を構成する。また、電磁レンズ207、ビームセパレーター214、偏向器218、及び電磁レンズ224によって2次電子光学系を構成する。
【0017】
検査室103内には、少なくともXY方向に移動可能なステージ105が配置される。ステージ105上には、検査対象となる基板101(試料)が配置される。基板101には、露光用マスク基板、及びシリコンウェハ等の半導体基板が含まれる。基板101が半導体基板である場合、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されている。基板101が露光用マスク基板である場合、露光用マスク基板には、チップパターンが形成されている。チップパターンは、複数の図形パターンによって構成される。かかる露光用マスク基板に形成されたチップパターンが半導体基板上に複数回露光転写されることで、半導体基板には複数のチップパターン(ウェハダイ)が形成されることになる。以下、基板101が半導体基板である場合を主として説明する。基板101は、例えば、パターン形成面を上側に向けてステージ105に配置される。また、ステージ105上には、検査室103の外部に配置されたレーザ測長システム122から照射されるレーザ測長用のレーザ光を反射するミラー216が配置されている。マルチ検出器222は、電子ビームカラム102の外部で検出回路106に接続される。検出回路106は、チップパターンメモリ123に接続される。
【0018】
制御系回路160では、検査装置100全体を制御する制御計算機110が、バス120を介して、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、修正補正回路121、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、磁気ディスク装置等の記憶装置109、モニタ117、メモリ118、及びプリンタ119に接続されている。また、偏向制御回路128は、DAC(デジタルアナログ変換)アンプ144,146,148に接続される。DACアンプ146は、主偏向器208に接続され、DACアンプ144は、副偏向器209に接続される。DACアンプ148は、偏向器218に接続される。
【0019】
また、チップパターンメモリ123は、比較回路108に接続されている。また、ステージ105は、ステージ制御回路114の制御の下に駆動機構142により駆動される。駆動機構142では、例えば、ステージ座標系におけるX方向、Y方向、θ方向に駆動する3軸(X-Y-θ)モータの様な駆動系が構成され、XYθ方向にステージ105が移動可能となっている。これらの、図示しないXモータ、Yモータ、θモータは、例えばステップモータを用いることができる。ステージ105は、XYθ各軸のモータによって水平方向及び回転方向に移動可能である。そして、ステージ105の移動位置はレーザ測長システム122により測定され、位置回路107に供給される。レーザ測長システム122は、ミラー216からの反射光を受光することによって、レーザ干渉法の原理でステージ105の位置を測長する。ステージ座標系は、例えば、マルチ1次電子ビーム20の光軸に直交する面に対して、X方向、Y方向、θ方向が設定される。
【0020】
電磁レンズ202、電磁レンズ205、電磁レンズ206、電磁レンズ207(対物レンズ)、電磁レンズ224、及びビームセパレーター214は、レンズ制御回路124により制御される。また、一括ブランキング偏向器212は、2極以上の電極により構成され、電極毎に図示しないDACアンプを介してブランキング制御回路126により制御される。収差補正器220は、後述するように2段以上の電極基板により構成され、収差補正回路121により制御される。副偏向器209は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ144を介して偏向制御回路128により制御される。主偏向器208は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ146を介して偏向制御回路128により制御される。偏向器218は、4極以上の電極により構成され、電極毎にDACアンプ148を介して偏向制御回路128により制御される。
【0021】
電子銃201には、図示しない高圧電源回路が接続され、電子銃201内の図示しないフィラメント(カソード)と引出電極(アノード)間への高圧電源回路からの加速電圧の印加と共に、別の引出電極(ウェネルト)の電圧の印加と所定の温度のカソードの加熱によって、カソードから放出された電子群が加速させられ、電子ビーム200となって放出される。
【0022】
ここで、
図1では、実施の形態1を説明する上で必要な構成を記載している。検査装置100にとって、通常、必要なその他の構成を備えていても構わない。
【0023】
図2は、実施の形態1における成形アパーチャアレイ基板の構成を示す概念図である。
図2において、成形アパーチャアレイ基板203には、2次元状の横(x方向)m
1列×縦(y方向)n
1段(m
1,n
1は2以上の整数)の穴(開口部)22がx,y方向に所定の配列ピッチで形成されている。
図2の例では、23×23の穴(開口部)22が形成されている場合を示している。各穴22は、共に同じ寸法形状の矩形で形成される。或いは、同じ外径の円形であっても構わない。これらの複数の穴22を電子ビーム200の一部がそれぞれ通過することで、マルチビーム20が形成されることになる。ここでは、横縦(x,y方向)が共に2列以上の穴22が配置された例を示したが、これに限るものではない。例えば、横縦(x,y方向)どちらか一方が複数列で他方は1列だけであっても構わない。また、穴22の配列の仕方は、
図2のように、横縦が格子状に配置される場合に限るものではない。例えば、縦方向(y方向)k段目の列と、k+1段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法aだけずれて配置されてもよい。同様に、縦方向(y方向)k+1段目の列と、k+2段目の列の穴同士が、横方向(x方向)に寸法bだけずれて配置されてもよい。
【0024】
次に、検査装置100における画像取得機構150の動作について説明する。
【0025】
電子銃201(放出源)から放出された電子ビーム200は、電磁レンズ202によって屈折させられ、成形アパーチャアレイ基板203全体を照明する。成形アパーチャアレイ基板203には、
図2に示すように、複数の穴22(開口部)が形成され、電子ビーム200は、すべての複数の穴22が含まれる領域を照明する。複数の穴22の位置に照射された電子ビーム200の各一部が、かかる成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22をそれぞれ通過することによって、マルチビーム20(マルチ1次電子ビーム)が形成される。
【0026】
形成されたマルチビーム20は、電磁レンズ205、及び電磁レンズ206によってそれぞれ屈折させられ、中間像およびクロスオーバーを繰り返しながら、マルチビーム20の各ビームのクロスオーバー位置に配置されたビームセパレーター214を通過して電磁レンズ207(対物レンズ)に進む。この間に、収差補正器220によって、非点及び/或いは歪曲収差(ディストーション)といった収差が補正される。
図1の例では、収差補正器220が電磁レンズ205の磁場中に配置される場合を示している。電磁レンズ205の磁場中に配置することにより、収差補正器220の制御電極に印加する電位を磁場外に配置する場合に比べて小さくできる。例えば、1/100程度に小さくできる。但し、これに限るものではない。収差補正器220は、成形アパーチャアレイ基板203とビームセパレーター214との間に配置されていればよい。
【0027】
マルチビーム20が電磁レンズ207(対物レンズ)に入射すると、電磁レンズ207は、マルチビーム20を基板101にフォーカスする。言い換えれば、電磁レンズ207(電子光学系の一例)は、収差補正器220によって非点及び歪曲収差の少なくとも一方が補正されマルチビーム20を基板101に誘導する。対物レンズ207により基板101(試料)面上に焦点が合わされ(合焦され)たマルチビーム20は、主偏向器208及び副偏向器209によって一括して偏向され、各ビームの基板101上のそれぞれの照射位置に照射される。なお、一括ブランキング偏向器212によって、マルチビーム20全体が一括して偏向された場合には、制限アパーチャ基板213の中心の穴から位置がはずれ、制限アパーチャ基板206によってマルチビーム20全体が遮蔽される。一方、一括ブランキング偏向器212によって偏向されなかったマルチビーム20は、
図1に示すように制限アパーチャ基板206の中心の穴を通過する。かかる一括ブランキング偏向器212のON/OFFによって、ブランキング制御が行われ、ビームのON/OFFが一括制御される。このように、制限アパーチャ基板206は、一括ブランキング偏向器212によってビームOFFの状態になるように偏向されたマルチビーム20を遮蔽する。そして、ビームONになってからビームOFFになるまでに形成された、制限アパーチャ基板206を通過したビーム群により、検査用(画像取得用)のマルチビーム20が形成される。
【0028】
基板101の所望する位置にマルチビーム20が照射されると、かかるマルチビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチビーム20(マルチ1次電子ビーム)の各ビームに対応する、反射電子を含む2次電子の束(マルチ2次電子ビーム300)が放出される。
【0029】
基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、電磁レンズ207を通って、ビームセパレーター214に進む。
【0030】
ここで、ビームセパレーター214はマルチビーム20の中心ビームが進む方向(軌道中心軸)に直交する面上において電界と磁界を直交する方向に発生させる。電界は電子の進行方向に関わりなく同じ方向に力を及ぼす。これに対して、磁界はフレミング左手の法則に従って力を及ぼす。そのため電子の侵入方向によって電子に作用する力の向きを変化させることができる。ビームセパレーター214に上側から侵入してくるマルチビーム20には、電界による力と磁界による力が打ち消し合い、マルチビーム20は下方に直進する。これに対して、ビームセパレーター214に下側から侵入してくるマルチ2次電子ビーム300には、電界による力と磁界による力がどちらも同じ方向に働き、マルチ2次電子ビーム300は斜め上方に曲げられ、マルチビーム20から分離する。
【0031】
斜め上方に曲げられ、マルチビーム20から分離したマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218によって、さらに曲げられ、電磁レンズ224によって、屈折させられながらマルチ検出器222に投影される。マルチ検出器222は、投影されたマルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ検出器222は、例えば図示しないダイオード型の2次元センサを有する。そして、マルチビーム20の各ビームに対応するダイオード型の2次元センサ位置において、マルチ2次電子ビーム300の各2次電子がダイオード型の2次元センサに衝突して、電子を発生し、2次電子画像データを画素毎に生成する。マルチ検出器222にて検出された強度信号は、検出回路106に出力される。
【0032】
図3は、実施の形態1の比較例1となる収差補正器の断面構成の一例を示す図である。
図3において、実施の形態1の比較例1となる収差補正器320は、上部電極基板310と下部電極基板314とで構成される。上部電極基板310は、基板本体312にマルチビームが通過する複数の通過孔311が形成され、基板本体312の露出面全体がシールド膜344で覆われている。下部電極基板314は、基板本体315にマルチビームが通過する上部電極基板310と同じ孔径サイズの複数の通過孔311が形成される。そして、基板本体315上には通過孔311を囲むように多極子となる複数の電極316が絶縁層340を介して配置される。また、基板本体315の通過孔内壁、底面、及び側面には、シールド膜342が形成される。非点やディストーション(歪曲収差)といった収差の補正は、マルチビームの各ビームを個別に軌道補正する必要がある。そのために、下部電極基板314には、通過孔311を囲むように多極子となる複数の電極316が配置される。通過孔311を挟んで対向する電極316間に形成される電場Eは、上部電極基板310によって上方へは広がらないため、対向する電極316間で平行に作用する。そのため、対向する電極316間に形成される電場Eは、電極316自体の厚みMによって決まってしまう。そのため、収差を補正するだけの偏向量を各電子ビームに与えるためには、多極子レンズの各電極316自体の厚みMが数10μm程度、例えば50μmは必要になってしまう。ビーム間ピッチPが狭くなるのに伴い、
図3に示すように、隣接するビーム用の電極同士間の隙間が狭くなる。隣接するビーム用の電極同士間の隙間が狭くなると隣接するビーム用の電極同士間でも電子の移動が生じてしまう。かかる場合に、隣接するビーム用の電極同士間での電子の移動量は電極316自体の厚みに応じて増えてしまう。その結果、各電場が隣接ビーム用の電位の影響を受けてしまう場合があり得る。よって、ビーム間ピッチPが狭い中で、数10μmの厚さの電極では、収差補正器としての十分な性能を発揮することが技術的に難しい。そのため、できるだけ電極を薄くすることが望まれる。そこで、実施の形態1では、電極の上部空間を利用することで、電極自体の厚みを薄くする。
【0033】
図4は、実施の形態1における収差補正器の各電極基板の構成の一例を示す上面図である。
図5は、実施の形態1における収差補正器の多極子の配線の一例を示す上面図である。
図6は、実施の形態1における収差補正器の構成の一例を示す断面図である。
収差補正器220は、所定の隙間を開けて配置される、2段以上の電極基板により構成される。
図4(a)、
図4(b)及び
図6の例では、隙間L2を開けて配置される、例えば、2段の電極基板となる上部電極基板10と下部電極基板14により構成される収差補正器220が示されている。言い換えれば、上部電極基板10が隙間L2を開けて下部電極基板14上に配置される。また、
図4(a)及び
図4(b)の例では、5×5本のマルチビーム20を用いる場合について示している。
図5及び
図6では、5×5本のマルチビーム20のうちの一部のビームが通過する領域を含む部分について示している。
【0034】
上部電極基板10では、基板本体12に、マルチビーム20が通過する、複数の通過孔11(第2の通過孔)が形成される。
図4(a)及び
図6に示すように、上部電極基板10では、ビーム間ピッチPのマルチビーム20が通過する位置に複数の通過孔11が形成される。各通過孔11は、基板本体12の上面(ビームの進行方向の上流側)から裏面に向かう途中まで孔径D3(第2の孔径)となり、途中から裏面まで、孔径D1(第3の孔径)とサイズが広がるように形成される。また、
図6に示すように、基板本体12の上面、側面、底面、及び複数の通過孔11内壁は、シールド電極44によって覆われる。少なくとも複数の通過孔11内壁にシールド電極44が配置される。
【0035】
下部電極基板14では、基板本体15に、マルチビーム20が通過する、孔径D2(第1の孔径)の複数の通過孔17(第1の通過孔)が形成される。
図4(b)及び
図6に示すように、下部電極基板14では、ビーム間ピッチPのマルチビーム20が通過する位置に複数の通過孔17が形成される。また、下部電極基板14では、複数の通過孔17の周囲上面に通過孔17毎に個別にそれぞれ4極以上の多極子となる複数の電極16(a~h)が配置される。
図4(a)、
図4(b)及び
図6の例では、8極の電極16(a~h)が配置される場合を示している。例えば、マルチビーム20の歪曲収差を補正する場合であれば、ビーム毎に、直交する方向(x,y方向)に2極ずつ対向して配置される4極の電極16で良い。例えば、マルチビーム20の非点を補正する場合であれば、ビーム毎に、直交する方向(x,y方向)に加えて中間位相となる45°及び135°方向に2極ずつ対向して配置される8極の電極16が配置されると好適である。なお、非点の方向がわかっている場合には、直交する方向(x,y方向)に2極ずつ対向して配置される4極の電極16でも構わない。また、下部電極基板14では、基板本体15とビーム毎の複数の電極16(a~h)との間に、絶縁層40が配置される。そして、
図5に示すように、絶縁層40上に各電極16(V1~V8)用の配線18が基板本体15の外周部へと延び、収差補正回路129へとコネクタ及びケーブル等を挟んで電気的に接続されることになる。また、基板本体15の側面、底面、及び複数の通過孔17内壁は、シールド電極42によって覆われる。ビーム毎の複数の電極16(a~h)とシールド電極42とは、絶縁層40によって分離される。
【0036】
上部電極基板10の基板本体12の材料及び、下部電極基板14の基板本体15の材料として、共に、例えば、シリコン(Si)を用いると好適である。基板本体12,15は、例えば、数100μm程度の膜厚のSi基板が好適である。例えば、200~500μm程度の膜厚のSi基板が好適である。また、下部電極基板14のビーム毎の複数の電極16(a~h)の材料として、例えば、アルミニウム(Al)、白金(Pt)、チタン(Ti)、或いはパラジウム(Pd)等の酸化されにくい金属を用いると好適である。各電極16(a~h)は、例えば、数μmの膜厚で形成される。例えば、1~10μmの膜厚で各電極16(a~h)が形成される。また、基板本体12の上面、側面、底面、及び複数の通過孔11内壁に形成されるシールド電極44と、基板本体15の側面、底面、及び複数の通過孔17内壁に形成されるシールド電極42は、共に、数μmの膜厚に形成される。例えば、1~10μmの膜厚のシールド電極42,44によって覆われる。シールド電極42,44の材料として、電極16と同様、例えば、Al、Pt、Ti、或いはPd等の酸化されにくい金属を用いると好適である。言い換えれば、Si材の基板本体12の上面、側面、底面、及び複数の通過孔11内壁は、シールド電極44となる例えばAl膜によってコーティングされる。同様に、Si材の基板本体15の側面、底面、及び複数の通過孔17内壁は、シールド電極42となる例えばAl膜によってコーティングされる。
【0037】
ここで、
図6に示すように、上部電極基板10の各通過孔11の孔径D1(第3の孔径)は、下部電極基板14の各通過孔17の孔径D2(第1の孔径)よりも大きく形成される。すなわち、D1>D2となる。そして、上部電極基板10の各通過孔11の上部である基板本体12の上面から裏面に向かう途中までの孔径D3(第2の孔径)は、上部電極基板10の各通過孔11の下部である途中から裏面までの孔径D1よりも小さく形成される。言い換えれば、上部電極基板10の各通過孔11の上部には、通過孔11内側へと延びるつば部分が形成される。なお、下部電極基板14の各通過孔17の孔径D2と上部電極基板10の各通過孔11の上部の孔径D3とは、同じサイズで構わない。例えば、対向する2つの電極16上が通過孔11として開けているように、対向する2つの電極16のx方向のサイズの合計分、D1が、D2,D3よりも大きくなるように形成すると好適である。例えば、D2,D3が数100μm程度に形成される場合、D1が、D2,D3よりも数10μm程度(例えば10~50μm)大きくなるように形成すると好適である。
【0038】
図7は、実施の形態1における収差補正器の1つのビーム用の電極間に生じる電場の一例の示す図である。1つのビーム用の複数の電極16のうち、対向する2つの電極の一方には+Vの電位が印加される。他方には符号が逆転した同電位の-Vの電位が印加される。また、シールド電極42,44には、グランド(GND)電位が印加される。言い換えれば、対向する2つの電極の一方にはGND電位よりも大きい+Vの電位が印加される。他方にはGND電位より小さい-Vの電位が印加される。そのため、+Vの電位が印加された一方の電極16から-Vの電位が印加された他方の電極16へ進む電場(電界)Eが形成される。GND電位を0Vとした場合、+Vとして、例えば、+5~+15Vの電位が印加される。-Vとして、例えば、-15V~-5の電位が印加される。
【0039】
ここで、上述した
図3に示した比較例1では、電極316上方が上部電極310によって塞がれているため、電界が上部電極310に吸収(或いは遮断)されてしまう。よって、対向する2つの電極316間の間の空間にしか電場Eを生じさせ得ない。そのため、進入してきた電子ビームが、対向する2つの電極316間まで到達しないと電界を作用させることができない。そのため、偏向支点が電極316の高さ方向(厚さ方向)の中心位置付近になってしまう。よって、厚さが大きい電極316が必要になってしまう。これに対して、実施の形態1における収差補正器220では、
図7に示すように、上部電極基板10の各通過孔11が下部電極基板14の各通過孔17よりも広く形成される。そのため、電極16上部が通過孔11によって空いている。そのため、対向する2つの電極16上の通過孔11内の空間にも電場Eを広げることができる。また、実施の形態1における収差補正器220では、上部電極基板10の各通過孔11の上部がつば部分によって孔径D1から孔径D3へと狭まっているため、電気力線の方向を曲げやすくできる。そのため、電場が上部電極基板10より上方へと発散せずに、対向する2つの電極16上の通過孔11内で電場Eを形成できる。よって、上部電極基板10の各通過孔11に進入してきた電子ビームに対して、各通過孔11を通過中に電界を作用させることができる。そのため、偏向支点を電極16上の通過孔11途中に設けることができる。その分、電極16自体の厚さを小さくできる。
【0040】
また、
図6に示す、上部電極基板10のうち孔径D1で複数の通過孔11が形成された部分における隣接する通過孔11同士間の距離dを、下部電極基板14と上部電極基板10との間の隙間L2で割った値(d/L2)が閾値Th以上になるように、収差補正器220は形成される。
【0041】
図8は、実施の形態1における電場の減衰を説明するための図である。
図8(a)では、電場の減衰を説明するモデルを示している。
図8(a)では、モデルとして、孔径L2で長さdの導波管内を電子が移動する場合を示している。
図8(b)では、縦軸に導波管を通過する電子の割合を示し、横軸に導波管の長さdを孔径L2で割ったアスペクト比を示す。導波管の長さdを孔径L2で割ったアスペクト比が大きくなるのに従い、導波管を通過する電子の割合が減衰していく、言い換えれば、電子が通りにくくなり、生じる電場が減衰することがわかる。かかるモデルを実施の形態1における収差補正器220に適用すると、上部電極基板10のうち孔径D1で複数の通過孔11が形成された部分における隣接する通過孔11同士間の距離dを、下部電極基板14と上部電極基板10との間の隙間L2で割った値(d/L2)が大きくなるのに伴って、隣接するビーム用の電極16側へと、電子が移動しにくくなる。そこで、d/L2≧Thに設定することで、各ビーム用に多極の電極16によって形成される電場が隣接ビーム用の電位の影響を受けないようにできる。例えば、閾値Thとして、指数関数で定義される減衰グラフが収束する、或いは収束に近い通過電子数が1%以下となる値に設定すると好適である。例えば、閾値Thとして、2~10程度が好適である。さらに言えば、3~7がより好適である。
【0042】
なお、実施の形態1における収差補正器220では、電極16の厚さを数μmと薄くできるので、
図6の例では、隙間L2を上部電極基板10の下面と、下部電極基板14の電極16上面との間の隙間で定義している。実際の隣接ビームの電極16間の空間には、電極16の厚さも含まれるので、閾値Th設定には、電極16の厚さ分を考慮して設定するとなお好適である。
【0043】
また、実施の形態1では、
図7に示したように、対向する2つの電極16上に電場Eを形成するので、電極16上を電子が移動できることが必要となる。よって、上部電極基板10の厚さのうち、孔径D1で複数の通過孔11が形成された部分の厚さL1は、少なくとも下部電極基板14と上部電極基板10との間の隙間L2より大きくなるように形成される。言い換えれば、L1>L2となるように、下部電極基板14と上部電極基板10とが配置される。また、電場が通過孔11の孔径D1の部分内で減衰し、孔径D3の部分まで広がらないことが望ましい。そのため、厚さL1は、L1>D1にすると好適である。
【0044】
以上のように、実施の形態1における収差補正器220では、D1>D2、L1>L2、及びd/L2≧Thの関係が成り立つ。さらに、L1>D1にすると好適である。
【0045】
図9は、実施の形態1と比較例2とにおける偏向量と印加電位との関係の一例を示す図である。
図9において、縦軸にビーム偏向量を示し、横軸に対向する2つの電極の一方に印加する電位を示す。
図9に示す比較例2では、実施の形態1の電極16と同じ厚さで形成され、電極16上部が上部電極基板によって塞がれた収差補正器を用いた場合を示している。言い換えれば、比較例2では、D1=D2で構成された場合を示している。
図9に示すように、電極16上部の空間にまで電場Eを広げた実施の形態1の方が、電極16間の空間だけで電場を形成する比較例2に比べて、同じ電位を印加した場合の偏向量を大きくできることがわかる。逆に言えば、電極16上部の空間に電場Eを広げることで、電極16自体の厚さを小さくできる。
【0046】
図10は、実施の形態1における歪曲収差(ディストーション)の一例を示す図である。
図10の例では、5×5本のマルチビーム20を用いた場合について示している。成形アパーチャアレイ基板203の複数の穴22がx,y方向に所定のピッチでマトリクス状に形成されていれば、理想的には、
図10(b)に示すように、基板101上に照射されるマルチビーム20の照射位置19も所定の縮小率でマトリクス状に配置されるはずである。しかし、電磁レンズ等の電子光学系を使用することで、
図10(a)に示す様にディストーション(歪曲収差)が発生してしまう。ディストーションの形は条件により、樽型またはピンクッション型と呼ばれる分布を取る。一般には磁気レンズのディストーションは半径方向に加えて回転方向のずれも生ずる。
図10(a)では回転成分が生じない条件での例を示している。マルチビーム20に生じるディストーションの向き及び位置ずれ量は、ある程度の傾向は存在するとしても、ビーム毎に異なってしまう。そのため、かかるディストーションを補正するためには、個別ビーム毎に補正する必要がある。実施の形態1における収差補正器220を用いて、ビーム毎にビーム軌道を補正することで、
図10(b)に示すように、基板101上に照射されるマルチビーム20の照射位置19を補正できる。
【0047】
図11は、実施の形態1における非点の一例を示す図である。
図10の例では、5×5本のマルチビーム20を用いた場合について示している。
図11(b)に示すように、理想的には、各ビームは、円形に照射される。しかし、電磁レンズ等の電子光学系を使用することで、
図11(a)に示すように、非点収差が生じてしまう場合がある。そのため、
図11(a)に示すように、基板101(試料)面上においてx,y方向の2次方向に焦点位置がずれ、焦点位置でビームがいわゆる楕円状になり、照射されるビームにボケが生じてしまう。マルチビーム20に生じる非点の向き及び位置ずれ量は、マルチビーム20の中心から放射状に延びるように楕円状になる傾向があるが、ビーム毎に異なってしまう。そのため、かかる非点を補正するためには、個別ビーム毎に補正する必要がある。そこで、実施の形態1における収差補正器220を用いて、ビーム毎にビーム軌道を補正することで、
図11(b)に示すように、非点を補正できる。
【0048】
図12は、実施の形態1における非点の他の一例を示す図である。マルチビーム20に生じる非点の向きは、
図11(a)に示したマルチビーム20の中心から放射状に延びる場合に限るものではない。
図12(a)に示すように、円周方向に延びる場合もあり得る。かかる場合でも同様に、実施の形態1における収差補正器220を用いて、ビーム毎にビーム軌道を補正することで、
図12(b)に示すように、非点を補正できる。
【0049】
また、実施の形態1における収差補正器220では、ディストーションと非点とを同時に補正できる。
【0050】
画像取得機構150は、かかる収差補正器220により非点と歪曲収差との少なくとも一方が補正されたマルチビーム20(マルチ1次電子ビーム)を用いて基板101上に形成されパターンの2次電子画像を取得する。具体的には、以下のように動作する。
【0051】
図13は、実施の形態1における半導体基板に形成される複数のチップ領域の一例を示す図である。
図13において、基板101が半導体基板(ウェハ)である場合、半導体基板(ウェハ)の検査領域330には、複数のチップ(ウェハダイ)332が2次元のアレイ状に形成されている。各チップ332には、露光用マスク基板に形成された1チップ分のマスクパターンが図示しない露光装置(ステッパ)によって例えば1/4に縮小されて転写されている。各チップ332内は、例えば、2次元状の横(x方向)m
2列×縦(y方向)n
2段(m
2,n
2は2以上の整数)個の複数のマスクダイ33に分割される。実施の形態1では、かかるマスクダイ33が単位検査領域となる。対象となるマスクダイ33へのビームの移動は、主偏向器208によるマルチビーム20全体での一括偏向によって行われる。
【0052】
図14は、実施の形態1におけるマルチビームのスキャン動作を説明するための図である。
図14の例では、5×5列のマルチビーム20の場合を示している。1回のマルチビーム20の照射で照射可能な照射領域34は、(基板101面上におけるマルチビーム20のx方向のビーム間ピッチにx方向のビーム数を乗じたx方向サイズ)×(基板101面上におけるマルチビーム20のy方向のビーム間ピッチにy方向のビーム数を乗じたy方向サイズ)で定義される。
図14の例では、照射領域34がマスクダイ33と同じサイズの場合を示している。但し、これに限るものではない。照射領域34がマスクダイ33よりも小さくても良い。或いは大きくても構わない。そして、マルチビーム20の各ビームは、自身のビームが位置するx方向のビーム間ピッチとy方向のビーム間ピッチとで囲まれるサブ照射領域29内を走査(スキャン動作)する。マルチビーム20を構成する各ビームは、互いに異なるいずれかのサブ照射領域29を担当することになる。そして、各ショット時に、各ビームは、担当サブ照射領域29内の同じ位置を照射することになる。サブ照射領域29内のビームの移動は、副偏向器209によるマルチビーム20全体での一括偏向によって行われる。かかる動作を繰り返し、1つのビームで1つのサブ照射領域29内のすべてを順に照射していく。
【0053】
基板101の所望する位置に、収差補正器220により収差が補正されたマルチビーム20が照射されたことに起因して基板101からマルチビーム20に対応する、反射電子を含むマルチ2次電子ビーム300が放出される。基板101から放出されたマルチ2次電子ビーム300は、ビームセパレーター214に進み、斜め上方に曲げられる。斜め上方に曲げられたマルチ2次電子ビーム300は、偏向器218で軌道を曲げられ、マルチ検出器222に投影される。このように、マルチ検出器222は、マルチビーム20が基板101面に照射されたことに起因して放出されるマルチ2次電子ビーム300を検出する。反射電子は光路の途中で発散しても構わない。
【0054】
以上のように、マルチビーム20全体では、マスクダイ33を照射領域34として走査(スキャン)することになるが、各ビームは、それぞれ対応する1つのサブ照射領域29を走査することになる。そして、1つのマスクダイ33の走査(スキャン)が終了すると、隣接する次のマスクダイ33が照射領域34になるように移動して、かかる隣接する次のマスクダイ33の走査(スキャン)を行う。かかる動作を繰り返し、各チップ332の走査を進めていく。マルチビーム20のショットにより、その都度、照射された位置から2次電子が放出され、マルチ検出器222にて検出される。
【0055】
以上のように、画像取得機構150は、マルチビーム20を用いて、図形パターンが形成された被検査基板101上を走査し、マルチビーム20が照射されたことに起因して被検査基板101から放出される、マルチ2次電子ビーム300を検出する。マルチ検出器222によって検出された各測定用画素36からの2次電子の検出データ(測定画像:2次電子画像:被検査画像)は、測定順に検出回路106に出力される。検出回路106内では、図示しないA/D変換器によって、アナログの検出データがデジタルデータに変換され、チップパターンメモリ123に格納される。このようにして、画像取得機構150は、基板101上に形成されたパターンの測定画像を取得する。そして、例えば、1つのチップ332分の検出データが蓄積された段階で、チップパターンデータとして、位置回路107からの各位置を示す情報と共に、比較回路108に転送される。
【0056】
参照画像作成工程として、参照回路112(参照画像作成部)は、被検査画像に対応する参照画像を作成する。参照回路112は、基板101にパターンを形成する基になった設計データ、或いは基板101に形成されたパターンの露光イメージデータに定義された設計パターンデータに基づいて、フレーム領域毎に、参照画像を作成する。フレーム領域として、例えばマスクダイ33を用いると好適である。具体的には、以下のように動作する。まず、記憶装置109から制御計算機110を通して設計パターンデータを読み出し、読み出された設計パターンデータに定義された各図形パターンを2値ないしは多値のイメージデータに変換する。
【0057】
ここで、設計パターンデータに定義される図形は、例えば長方形や三角形を基本図形としたもので、例えば、図形の基準位置における座標(x、y)、辺の長さ、長方形や三角形等の図形種を区別する識別子となる図形コードといった情報で各パターン図形の形、大きさ、位置等を定義した図形データが格納されている。
【0058】
かかる図形データとなる設計パターンデータが参照回路112に入力されると図形ごとのデータにまで展開し、その図形データの図形形状を示す図形コード、図形寸法などを解釈する。そして、所定の量子化寸法のグリッドを単位とするマス目内に配置されるパターンとして2値ないしは多値の設計パターン画像データに展開し、出力する。言い換えれば、設計データを読み込み、検査領域を所定の寸法を単位とするマス目として仮想分割してできたマス目毎に設計パターンにおける図形が占める占有率を演算し、nビットの占有率データを出力する。例えば、1つのマス目を1画素として設定すると好適である。そして、1画素に1/28(=1/256)の分解能を持たせるとすると、画素内に配置されている図形の領域分だけ1/256の小領域を割り付けて画素内の占有率を演算する。そして、8ビットの占有率データとして参照回路112に出力する。かかるマス目(検査画素)は、測定データの画素に合わせればよい。
【0059】
次に、参照回路112は、図形のイメージデータである設計パターンの設計画像データに適切なフィルタ処理を施す。測定画像としての光学画像データは、光学系によってフィルタが作用した状態、言い換えれば連続変化するアナログ状態にあるため、画像強度(濃淡値)がデジタル値の設計側のイメージデータである設計画像データにもフィルタ処理を施すことにより、測定データに合わせることができる。作成された参照画像の画像データは比較回路108に出力される。
【0060】
図15は、実施の形態1における比較回路内の構成の一例を示す構成図である。
図15において、比較回路108内には、磁気ディスク装置等の記憶装置52,56、位置合わせ部57、及び比較部58が配置される。位置合わせ部57、及び比較部58といった各「~部」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~部」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。位置合わせ部57、及び比較部58内に必要な入力データ或いは演算された結果はその都度図示しないメモリ、或いはメモリ118に記憶される。
【0061】
比較回路108内では、転送されたパターン画像データ(2次電子画像データ)が、記憶装置56に一時的に格納される。また、転送された参照画像データが、記憶装置52に一時的に格納される。
【0062】
位置合わせ工程として、位置合わせ部57は、被検査画像となるマスクダイ画像と、当該マスクダイ画像に対応する参照画像とを読み出し、画素36より小さいサブ画素単位で、両画像を位置合わせする。例えば、最小2乗法で位置合わせを行えばよい。
【0063】
比較工程として、比較部58は、マスクダイ画像(被検査画像)と参照画像とを比較する。比較部58は、所定の判定条件に従って画素36毎に両者を比較し、例えば形状欠陥といった欠陥の有無を判定する。例えば、画素36毎の階調値差が判定閾値Thよりも大きければ欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、記憶装置109、モニタ117、若しくはメモリ118に出力される、或いはプリンタ119より出力されればよい。
【0064】
なお、上述したダイ-データベース検査に限らず、ダイ-ダイ検査を行っても構わない。ダイ-ダイ検査を行う場合には、同じパターンが形成されたマスクダイ33の画像同士を比較すればよい。よって、ダイ(1)となるウェハダイ332の一部の領域のマスクダイ画像と、ダイ(2)となる別のウェハダイ332の対応する領域のマスクダイ画像と、を用いる。或いは、同じウェハダイ332の一部の領域のマスクダイ画像をダイ(1)のマスクダイ画像とし、同じパターンが形成された同じウェハダイ332の他の一部のマスクダイ画像をダイ(2)のマスクダイ画像として比較しても構わない。かかる場合には、同じパターンが形成されたマスクダイ33の画像同士の一方を参照画像として用いれば、上述したダイ-データベース検査と同様の手法で検査ができる。
【0065】
すなわち、位置合わせ工程として、位置合わせ部57は、ダイ(1)のマスクダイ画像と、ダイ(2)のマスクダイ画像と、とを読み出し、画素36より小さいサブ画素単位で、両画像を位置合わせする。例えば、最小2乗法で位置合わせを行えばよい。
【0066】
そして、比較工程として、比較部58は、ダイ(1)のマスクダイ画像と、ダイ(2)のマスクダイ画像とを比較する。比較部58は、所定の判定条件に従って画素36毎に両者を比較し、例えば形状欠陥といった欠陥の有無を判定する。例えば、画素36毎の階調値差が判定閾値Thよりも大きければ欠陥と判定する。そして、比較結果が出力される。比較結果は、図示しない記憶装置、モニタ、若しくはメモリに出力される、或いはプリンタより出力されればよい。
【0067】
以上のように、実施の形態1によれば、マルチ電子ビーム用のアレイ配置された多極子レンズの各電極16自体の厚みを薄くすることができる。また、隣接するビーム用の電極16との間での電子の移動を抑制でき、各電場が隣接ビーム用の電位の影響を受けてしまうことを抑制できる。よって、ビーム間ピッチPが狭い中でも、収差補正器220として十分な性能を発揮できる。
【0068】
以上の説明において、一連の「~回路」は、処理回路を含み、その処理回路には、電気回路、コンピュータ、プロセッサ、回路基板、量子回路、或いは、半導体装置等が含まれる。また、各「~回路」は、共通する処理回路(同じ処理回路)を用いてもよい。或いは、異なる処理回路(別々の処理回路)を用いても良い。プロセッサ等を実行させるプログラムは、磁気ディスク装置、磁気テープ装置、FD、或いはROM(リードオンリメモリ)等の記録媒体に記録されればよい。例えば、位置回路107、比較回路108、参照画像作成回路112、ステージ制御回路114、静電レンズ制御回路121、レンズ制御回路124、ブランキング制御回路126、偏向制御回路128、Z位置測定回路129、変動量演算回路130、及び画像処理回路132は、上述した少なくとも1つの処理回路で構成されても良い。
【0069】
以上、具体例を参照しつつ実施の形態について説明した。しかし、本発明は、これらの具体例に限定されるものではない。
図1の例では、1つの照射源となる電子銃201から照射された1本のビームから成形アパーチャアレイ基板203によりマルチ1次電子ビーム20を形成する場合を示しているが、これに限るものではない。複数の照射源からそれぞれ1次電子ビームを照射することによってマルチ1次電子ビーム20を形成する態様であっても構わない。
【0070】
また、装置構成や制御手法等、本発明の説明に直接必要しない部分等については記載を省略したが、必要とされる装置構成や制御手法を適宜選択して用いることができる。
【0071】
その他、本発明の要素を具備し、当業者が適宜設計変更しうる全ての収差補正器及びマルチ電子ビーム照射装置は、本発明の範囲に包含される。
【符号の説明】
【0072】
10,310 上部電極基板
11,311 通過孔
12,312 基板本体
14,314 下部電極基板
15,315 基板本体
16,316 電極
17,317 通過孔
18 配線
20 マルチビーム
23 穴
29 サブ照射領域
33 マスクダイ
34 照射領域
40,340 絶縁層
42,342 シールド電極
44,344 シールド電極
52,56 記憶装置
57 位置合わせ部
58 比較部
100 検査装置
101 基板
102 電子ビームカラム
103 検査室
105 ステージ
106 検出回路
107 位置回路
108 比較回路
109 記憶装置
110 制御計算機
112 参照画像作成回路
114 ステージ制御回路
117 モニタ
118 メモリ
119 プリンタ
120 バス
121 収差補正回路
122 レーザ測長システム
123 チップパターンメモリ
124 レンズ制御回路
126 ブランキング制御回路
128 偏向制御回路
142 駆動機構
144,146,148 DACアンプ
150 画像取得機構
160 制御系回路
201 電子銃
202 電磁レンズ
203 成形アパーチャアレイ基板
205 電磁レンズ
206 電磁レンズ
207 電磁レンズ
208 主偏向器
209 副偏向器
212 一括ブランキング偏向器
213 制限アパーチャ基板
214 ビームセパレーター
216 ミラー
218 偏向器
220 収差補正器
222 マルチ検出器
224 電磁レンズ
300 マルチ2次電子ビーム
330 検査領域
332 チップ