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特許7316212バラスト水処理剤、ならびにそれを用いたバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法
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  • 特許-バラスト水処理剤、ならびにそれを用いたバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】バラスト水処理剤、ならびにそれを用いたバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/50 20230101AFI20230720BHJP
   B63B 13/00 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
C02F1/50 532H
C02F1/50 532C
C02F1/50 532D
C02F1/50 540D
C02F1/50 550L
C02F1/50 550C
C02F1/50 510A
C02F1/50 520F
C02F1/50 520B
C02F1/50 531M
B63B13/00 Z
【請求項の数】 9
(21)【出願番号】P 2019238177
(22)【出願日】2019-12-27
(65)【公開番号】P2021104502
(43)【公開日】2021-07-26
【審査請求日】2022-07-12
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】100115381
【弁理士】
【氏名又は名称】小谷 昌崇
(74)【代理人】
【識別番号】100162765
【弁理士】
【氏名又は名称】宇佐美 綾
(72)【発明者】
【氏名】田島 康宏
【審査官】相田 元
(56)【参考文献】
【文献】国際公開第2017/073513(WO,A1)
【文献】特開2001-010684(JP,A)
【文献】特開平08-118559(JP,A)
【文献】特開平07-329983(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F 1/50
C02F 1/00
B01F 21/00
B63B 13/00
B63J 4/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
バラスト水の漲水時、漲水直後、漲水後、排水直前、排水時、排水直後および排水後のうちのいずれかのタイミングにおいてバラストタンク内に投入するためのバラスト水処理剤であり、かつ、塩素系殺滅剤と、前記塩素系殺滅剤を包装する水溶性繊維絡合体からなる包装体とを含む、バラスト水処理剤。
【請求項2】
前記塩素系殺滅剤は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含む、請求項1に記載のバラスト水処理剤。
【請求項3】
前記水溶性繊維絡合体は、ポリビニルアルコールを原料とする繊維からなる、請求項1または2に記載のバラスト水処理剤。
【請求項4】
前記水溶性繊維絡合体の厚さは10μm以上1000μm以下である、請求項1~3のいずれか1項に記載のバラスト水処理剤。
【請求項5】
前記塩素系殺滅剤は、平均粒子径が0.1mm以上5mm以下の粒子状である、請求項1~4のいずれか1項に記載のバラスト水処理剤。
【請求項6】
処理剤投入機器を備えるバラスト水処理システムであって、
バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する水量測定部と、
前記水量測定部により測定された前記バラスト水の水量に基づいて、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値となる請求項1~5のいずれか1項に記載のバラスト水処理剤の投入個数を判定し、判定された個数の前記バラスト水処理剤を前記バラストタンク内に投入するように前記処理剤投入機器を制御可能とする処理剤投入機器制御部とを備える、バラスト水処理システム。
【請求項7】
前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定する濃度測定部をさらに備え、
前記処理剤投入機器制御部は、前記濃度測定部により測定された前記塩素濃度にさらに基づいて、前記バラスト水処理剤の投入個数を判定する、請求項6に記載のバラスト水処理システム。
【請求項8】
バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する工程と、
測定された前記バラスト水の水量に基づいて、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値となる請求項1~5のいずれか1項に記載のバラスト水処理剤の投入個数を判定する工程と、
判定された個数の前記バラスト水処理剤を前記バラストタンク内に投入する工程とを含む、バラスト水処理方法。
【請求項9】
前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定する工程をさらに含み、
前記判定する工程では、測定された前記塩素濃度にさらに基づいて、前記バラスト水処理剤の投入個数を判定する、請求項8に記載のバラスト水処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、バラスト水処理剤、ならびにそれを用いたバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、貨物船等の船舶を積荷が搭載されていない状態で安定化させるために、船舶内に配置されたバラストタンクに海水または淡水をバラスト水として充填する対策が知られている。ここで、バラスト水として利用される海水または淡水には、微生物や菌類等が多数存在している。このような微生物や菌類等は、海洋生態系に悪影響を及ぼすことが国際的に懸念されていたため、2004年に国際海事機構(IMO)は、バラスト水管理条約を採択した。この条約では、船舶から排水するバラスト水に含まれる生物数上限を規定しており、この規定を満たすためには、バラスト水を殺滅処理する必要がある。
【0003】
海水または淡水中の生物の殺滅方法としては、化学薬剤を投入する方法や紫外線を照射する方法等がある。1つの具体的な方法として、バラストタンクに繋がる配管と薬剤タンクからの配管とが接続されており、当該薬剤タンクからの配管を通じて殺滅剤を海水または淡水に導入することにより殺滅処理を行う方法が挙げられる。
【0004】
あるいは、別の具体的な方法として、殺菌剤として固体状のトリクロロイソシアヌル酸を必要に応じてプラスティック等の薬品容器に入れ、バラストタンク内のバラスト水に浸漬させるバラスト水処理方法がある(特許文献1参照)。この方法によると、徐々にバラスト水の塩素濃度を高め、殺菌効果を長期間持続させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2016-198698号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
バラスト水の殺菌処理は、種々のタイミングにおける様々な目的で行われる。例えば、バラスト水漲水直後に投入して塩素濃度基準値まで高める目的、航海中に断続的に投入して塩素濃度基準値を保つ目的、バラスト水排水直前に投入して塩素濃度を極めて短時間で高めて微生物または菌類等を殺滅する目的等が挙げられる。作業者(例えば船員等)は、このようなバラスト水の殺菌処理を行う際、これらの各々の使用目的に応じて、バラスト水中の塩素濃度を所望の上昇速度で目的の塩素濃度まで高まるよう適宜調整しながら処理を行う必要がある。
【0007】
しかしながら、作業者は停泊中において多くの作業を行う必要がある。そのため、通常のバラスト水の殺菌処理システム等を用いて、バラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度を適宜微調整しながら当該システム等の運転のみに集中することは難しい。さらには、殺菌剤を用いて調整されるバラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度は、通常の家庭等の日常生活の殺菌用途において塩素系薬剤を用いる場合の塩素濃度よりも顕著に高い。また、バラスト水処理用の殺菌剤は、通常の日常生活で使用される塩素系殺菌剤と比較して、殺菌性能が強い場合が多い。これらの事情から、バラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度を調整するために、作業者が容易に殺菌剤を微調整しながら取り扱うことは難しい。
【0008】
従って、バラスト水の殺菌処理において、種々のタイミングにおける様々な目的においても、バラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度を作業者が容易に調整することができれば好適である。
【0009】
そこで、本発明は、バラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度を容易に調整できるバラスト水処理剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明者は、上記課題を解決すべく鋭意検討を行った結果、本発明に到達した。すなわち本発明は、以下の好適な態様を包含する。
【0011】
本発明の一局面に係るバラスト水処理剤は、塩素系殺滅剤と、前記塩素系殺滅剤を包装する水溶性繊維絡合体からなる包装体とを含む。
【0012】
前述のバラスト水処理剤では、前記塩素系殺滅剤は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含むと好ましい。
【0013】
前述のバラスト水処理剤では、前記水溶性繊維絡合体は、ポリビニルアルコールを原料とする繊維からなるとより好ましい。
【0014】
前述のバラスト水処理剤では、前記水溶性繊維絡合体の厚さは10μm以上1000μm以下であるとさらに好ましい。
【0015】
また、前述のバラスト水処理剤では、前記塩素系殺滅剤は、平均粒子径が0.1mm以上5mm以下の粒子状であると好ましい。
【0016】
本発明の別の局面に係るバラスト水処理システムは、処理剤投入機器を備えるバラスト水処理システムであって、バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する水量測定部と、前記水量測定部により測定された前記バラスト水の水量に基づいて、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値となる前述のバラスト水処理剤の投入個数を判定し、判定された個数の前記バラスト水処理剤を前記バラストタンク内に投入するように前記処理剤投入機器を制御可能とする処理剤投入機器制御部とを備える。
【0017】
前述のバラスト水処理システムでは、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定する濃度測定部をさらに備え、前記処理剤投入機器制御部は、前記濃度測定部により測定された前記塩素濃度にさらに基づいて、前記バラスト水処理剤の投入個数を判定すると好ましい。
【0018】
本発明のさらに別の局面に係るバラスト水処理方法は、バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する工程と、測定された前記バラスト水の水量に基づいて、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値となる前述のバラスト水処理剤の投入個数を判定する工程と、判定された個数の前記バラスト水処理剤を前記バラストタンク内に投入する工程とを含む。
【0019】
前述のバラスト水処理方法では、前記バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定する工程をさらに含み、前記判定する工程では、測定された前記塩素濃度にさらに基づいて、前記バラスト水処理剤の投入個数を判定すると好ましい。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、バラストタンク内のバラスト水中の塩素濃度を容易に調整できるバラスト水処理剤を提供することができる。さらに、このようなバラスト水処理剤を用いるバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法によると、作業者の安全を確保しながら、バラスト水中の塩素濃度を作業者が所望する上昇速度で目的の塩素濃度まで高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
図1】本発明の実施形態に係るバラスト水処理剤の構成を示す断面図である。
図2】本発明の実施形態に係るバラスト水処理システムの構成を示すブロック図である。
図3】本発明の実施形態に係るバラスト水処理システムを説明するためのフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、本発明の実施形態について、詳細に説明する。なお、本発明の範囲はここで説明する実施形態に限定されるものではなく、本発明の趣旨を損なわない範囲で種々の変更をすることができる。
【0023】
<バラスト水処理剤>
図1の断面図に示すように、本実施形態におけるバラスト水処理剤1は、塩素系殺滅剤2(図1では顆粒状)と、当該塩素系殺滅剤2を包装する水溶性繊維絡合体からなる包装体3とを含む。
【0024】
バラスト水処理剤1は、バラストタンク内のバラスト水中に投入され、水溶性繊維絡合体からなる包装体3が溶解することによって、包装されていた塩素系殺滅剤2がバラスト水中に溶けだす。その結果、バラスト水の塩素濃度が高まり、バラスト水に存在する微生物または菌類等を殺滅させることができる。なお、バラスト水中の塩素濃度は、蒸散、分離および溶存有機物との反応等により時間経過と共に減少するため、それを考慮した上で、バラスト水処理剤1はバラストタンク内のバラスト水中に投入される。
【0025】
バラストタンク内のバラスト水処理の活性物質である塩素濃度(mg/L)は、総残留オキシダント(TRO:Total Resdual Oxidant)濃度(mg/L)として換算して測定することができる。TRO濃度は、DPD試薬を用いた計測器等によって測定することができる。
【0026】
以下、各構成要素について詳細に説明する。
【0027】
[塩素系殺滅剤]
本実施形態のバラスト水処理剤に含まれる塩素系殺滅剤は、分子中に塩素を含有する物質であり、バラスト水の微生物または菌類等、特に海水または淡水に生存する微生物または菌類等に対して、殺菌、除菌または滅菌の作用を有するものであれば、特に限定されない。具体的には、塩素系殺滅剤は、常温常湿環境下では固体であり、水に溶けることにより水中の塩素濃度を高める薬剤である。なお、本明細書において、常温常湿環境下とは、温度25℃かつ湿度50%RH環境下のことをいう。
【0028】
塩素系殺滅剤は、例えば、水中で殺菌性を有する次亜塩素酸(HOCl)等を発生させる化合物を用いることができる。次亜塩素酸等を発生させる化合物としては、塩素化イソシアヌル酸塩、次亜塩素酸カルシウム等が挙げられる。前者としては、具体的には、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム、トリクロロイソシアヌル酸等が挙げられる。
【0029】
これらのうち、好ましくはジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが使用される。ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは、常温常湿環境下で固体の化合物である。ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが好ましい理由は、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは水への溶解速度が速いため、バラスト水中の塩素濃度を短時間で上昇させることができるためである。換言すれば、作業者がバラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を高める必要があると判断した場合に、本実施形態のバラスト水処理剤を必要個数投入することによって、バラスト水中の塩素濃度を素早く高めることができる。特に、攪拌装置を備えないバラストタンク内においても、短時間で所望の塩素濃度に達することができる。さらに、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムは、水に溶解させたときに沈殿物が発生し難く、かつ40℃程度の高温下でも安定しており保管性に優れているという利点も有している。
【0030】
あるいは、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの性質とは逆である、水への溶解速度が遅いトリクロロイソシアヌル酸等の塩素系殺滅剤を用いることによって、長時間にわたり殺滅効果を持続させてもよい。
【0031】
塩素系殺滅剤の形状は、後述する水溶性繊維絡合体に包装可能なものであれば特に限定されず、所望する塩素濃度の上昇速度、後述する包装体の大きさ、厚さおよび形状等に応じて適宜決定すればよい。例えば、顆粒状、錠剤形状、または粉体状でもよい。これらの形状のうち、取り扱いの簡便性の観点から、直径が0.1mm以上100mm以下の顆粒または錠剤が好ましい。また、これらの形状のうち、例えば、短時間でバラスト水の塩素濃度を上昇させたい場合またはバラストタンク内のバラスト水の管理温度が高い場合(すなわち、バラスト水の塩素濃度が低下し、微生物または菌類等が再び増殖し始める傾向が高い場合)、顆粒状を用いることが好ましい。あるいは、比較的長時間殺滅効果を持続させたい場合またはバラスト水の管理濃度が低い場合、錠剤状を用いることが好ましい。
【0032】
塩素系殺滅剤が顆粒状の粒子である場合、当該塩素系殺滅剤の粒子の平均粒子径が0.1mm以上5mm以下であると好ましい。ここで、平均粒子径とは、定規を用いて10個の粒子の直径を測定した平均値をいう。塩素系殺滅剤の平均粒子径は、より好ましくは0.15mm以上、さらに好ましくは0.17mm以上、よりさらに好ましくは0.2mm以上である。また、当該平均粒子径は、より好ましくは4mm以下、さらに好ましくは3mm以下、よりさらに好ましくは2mm以下である。塩素系殺滅剤の平均粒子径を0.1mm以上にすることによって、殺滅効果をある程度持続させることができる。塩素系殺滅剤の平均粒子径を5mm以下にすることによって、より短時間で塩素濃度を高めることができる。
【0033】
本実施形態におけるバラスト水処理剤1個当たりに含まれる塩素系殺滅剤の質量は、特に限定されない。具体的には、前述した塩素系殺滅剤の種類、後述する包装体の大きさ、バラストタンクの大きさ、バラスト水の水量、所望する塩素濃度の上昇率等に応じて適宜設定すればよい。具体的には、バラスト水処理剤1個当たりに含まれる塩素系殺滅剤の質量は、数gから数百g程度に設定することができる。例えば、100gの塩素系殺滅剤をバラストタンク内のバラスト水に投入する場合、100gの塩素系殺滅剤を含むバラスト水処理剤を1個投入することによって達成することができる。あるいは、例えば、10gの塩素系殺滅剤を含むバラスト水処理剤を10個投入することによっても達成することができる。このように、本実施形態におけるバラスト水処理剤1個当たりに含まれる塩素系殺滅剤の質量は、任意に調整することができ、投入個数も任意に設定することができる。
【0034】
具体例を挙げると、塩素系殺滅剤として前述したジクロロイソシアヌル酸ナトリウムが使用される場合、バラストタンク内のバラスト水を処理するために必要とされる質量は、バラスト水の水量および予め設定された塩素濃度基準値(後述するバラスト水処理システムおよびバラスト水処理方法に係る実施形態参照)に応じて決定される。ここで、バラスト水の塩素濃度は、例えば、TRO濃度10mg/Lのバラスト水を100トン処理する場合、必要とされるジクロロイソシアヌル酸ナトリウム(有効塩素濃度が55%の場合)の質量は、以下の式により1.82kgと算出される。
【0035】
10(mg/L)×100(m)/0.55=1.82(kg)
より詳細な1例を挙げると、バラストタンク内に20トンのバラスト水を漲水し、予め設定された塩素濃度基準値がTRO濃度10mg~20mg/Lである場合、必要なジクロロイソシアヌル酸ナトリウム量は前述した計算式に基づくと364g~727gとなる。100gのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含むバラスト水処理剤を用いる場合、4個~7個を投入する必要がある。50gのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムを含むバラスト水処理剤を用いる場合、8個~14個を投入する必要がある。
【0036】
[水溶性繊維絡合体からなる包装体]
本実施形態におけるバラスト水処理剤は、前述の塩素系殺滅剤が水溶性繊維絡合体からなる包装体に包装されている。
【0037】
水溶性繊維絡合体は、特に限定されず、水に溶解する性質を有する物質を原料とする繊維から形成されていればよい。具体的には、水溶性繊維絡合体は、例えば、水溶性不織布、水溶性編織布またはそれらの両方を含むものが挙げられる。なお、当該水溶性繊維絡合体は、最終的にバラストタンク内において沈殿せずに完全溶解する繊維絡合体が好ましいが、大部分が溶解して内部の塩素系殺滅剤が溶出する繊維絡合体でもよい。
【0038】
水溶性繊維絡合体は、例えば、ポリビニルアルコール、澱粉、セルロース、ポリアクリル酸、ポリアクリルアミド、ポリオキシエチレン等を原料とする繊維からなる繊維絡合体を使用することができる。これらの原料となる繊維は、1種のみを使用してもよいし、2種以上を組み合わせて使用してもよい。さらに、これらのうち、耐久性、耐塩素性、コスト面および水溶性等の性質の調整のし易さの観点から、ポリビニルアルコールを原料とする繊維からなる水溶性繊維絡合体が好ましい。
【0039】
ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位(-CH-CH(OH)-)を主の構造単位として有する重合体である。本明細書において、ポリビニルアルコールは、ビニルアルコール単位の他、ビニルエステル単位やその他の単位を有していてもよい。
【0040】
ポリビニルアルコールは、ビニルエステルを重合して得られるポリビニルエステルをけん化することにより得ることができる。ビニルエステルとしては、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、酪酸ビニル、ピバリン酸ビニル、バーサティック酸ビニル、ラウリン酸ビニル、ステアリン酸ビニル、安息香酸ビニル、酢酸イソプロペニル等が挙げられる。これらのビニルエステルは2種以上を使用して重合させてもよい。これらのうち、製造容易性、入手容易性およびコスト面の観点から、酢酸ビニルが好ましい。より好ましくは、ビニルエステルとして酢酸ビニル1種のみを用いて重合される。
【0041】
ポリビニルエステルは、最終的に製造されるポリビニルアルコールの水溶性の効果を損なわない限り、ビニルエステルと共重合可能な他の単量体を含んでいても構わない。このような他の単量体としては、例えばエチレン、プロピレン、1-ブテン、イソブテン等のオレフィン、2-アクリルアミド-2-メチルプロパンスルホン酸などの(メタ)アクリルアミドアルキルスルホン酸またはその塩、マレイン酸、イタコン酸、(メタ)アクリル酸等の不飽和カルボン酸またはそのエステルもしくはその塩等を挙げることができる。すなわち、ポリビニルエステルは、これらの単量体の1種または2種以上に由来する構造単位を有していてもよい。
【0042】
ポリビニルアルコールは、そのヒドロキシ基の一部が架橋されていてもよいし、架橋されていなくてもよい。また、ポリビニルアルコールは、そのヒドロキシ基の一部がアセトアルデヒド、ブチルアルデヒド等のアルデヒド化合物等と反応してアセタール構造を形成していてもよい。
【0043】
ポリビニルアルコールは、けん化度(典型的には、ビニルエステル単位とビニルアルコール単位との合計モル数に対するビニルアルコール単位のモル数の割合(モル%))を調製することによって、水への溶解性を調整することができる。けん化度の範囲は、好ましくは60モル%以上98モル%以下である。けん化度は、より好ましくは65モル%以上、さらに好ましくは70モル%以上、よりさらに好ましくは75モル%以上、78モル%以上または80モル%以上である。また、けん化度は、より好ましくは95モル%以下、さらに好ましくは93モル%以下、よりさらに好ましくは90モル%以下、88モル%未満または85モル%以下である。けん化度をこのような範囲に調整することによって、船が航海する海域における10℃~20℃程度の広い水温範囲の海水(バラスト水)への溶解性に優れるため好ましい。なお、ポリビニルアルコールのけん化度はJIS-K-6726:1994の記載に準じて測定することができる。
【0044】
ポリビニルアルコールの4%水溶液20℃での粘度は、好ましくは1mPa・s以上、より好ましくは2mPa・s以上、さらに好ましくは3mPa・s以上、よりさらに好ましくは4mPa・s以上である。ポリビニルアルコールの粘度をより大きくすることによって、ポリビニルアルコールを原料とする繊維の成形不良を抑制することができる。また、ポリビニルアルコールの4%水溶液20℃での粘度は、好ましくは20mPa・s以下、より好ましくは15mPa・s以下、さらに好ましくは10mPa・s以下、よりさらに好ましくは8mPa・s以下である。ポリビニルアルコールの粘度をより小さくすることによって、ポリビニルアルコールを原料とする繊維の柔軟性等を向上させることができる。なお、ポリビニルアルコールの粘度は、JIS K6726:1994の記載に準じて測定することができる。
【0045】
さらに、ポリビニルアルコールの重合度は、好ましくは300以上、より好ましくは500以上、さらに好ましくは1000以上である。ポリビニルアルコールの重合度が300以上であることにより、ポリビニルアルコールを原料とする繊維の柔軟性等を向上させることができる。また、ポリビニルアルコールの重合度は、好ましくは5000以下、より好ましくは3000以下、さらに好ましくは2500以下である。ポリビニルアルコールの重合度が5000以下であることにより、ポリビニルアルコールの製造コストの上昇やポリビニルアルコールを原料とする繊維の成形不良を抑制することができる。なお、ポリビニルアルコールの重合度は、JIS K6726:1994に記載のポリビニルアルコールの平均重合度に準じて測定することができる。
【0046】
上述したように、水溶性繊維絡合体の繊維の原料となるポリビニルアルコール等のけん化度ならびに粘度および平均重合度を調整することによって、水溶性繊維絡合体のバラスト水への溶解性および当該繊維絡合体の成形性の自由度を適宜調整することができる。特に、ポリビニルアルコールを繊維の原料として使用する場合は、このような調整が容易かつ安価で可能であるため好ましい。
【0047】
水溶性繊維絡合体は、原料となる水溶性物質の繊維を用いて当業者に公知の任意の方法を適用して製造することができる。
【0048】
例えば、まず、原料となる水溶性物質から、溶融紡糸法、湿式紡糸法、乾式紡糸法等の方法によって当該水溶性物質の繊維を製造する。繊維を製造する際、必要に応じて延伸されてもよいし、さらに必要に応じて捲縮付与装置等で捲縮を与え巻き取られてもよい。なお、繊維の繊度は、成形方法や後述する水溶性繊維絡合体の厚さ等に応じて適宜所望の値に設定すればよい。さらに、水溶性繊維絡合体は、原料となる水溶性物質の繊維以外にも適宜添加剤を配合してもよい。添加剤としては、例えば、可塑剤、フィラー、滑剤等が挙げられる。
【0049】
水溶性不織布を製造する方法としては、特に限定されないが、当業者に公知の任意の方法を用いて製造することができる。例えば、上述したように製造された水溶性の繊維を用いて、スパンボンド法、メルトブローン法等を適用することによって、または所定の長さに切断した当該繊維をカード法、エアレイ法等の乾式法によってウェブ化する方法等を適用することによって水溶性不織布を製造することができる。水溶性編織布を製造する方法としては、特に限定されないが、当業者に公知の任意の編織方法を用いて製造することができる。水溶性不織布または水溶性編織布の目付(g/cm)(または密度)を適宜調整することによって、水溶性繊維絡合体の強度等を調整することができる。なお、異なる種類の繊維からなる水溶性不織布を加熱等で接着して重ねたり、異なる種類の原料からなる繊維を編織して1個の水溶性繊維絡合体としてもよい。あるいは、水溶性不織布と水溶性編織布とを各々任意の枚数において重ねることによって1個の水溶性繊維絡合体として構成しても構わない。また、このような水溶性繊維絡合体製造時において、必要に応じて着色剤、香料、増量剤、消泡剤、剥離剤、紫外線吸収剤、無機粉体、界面活性剤、防腐剤、防黴剤、水への親和性を向上させたり均一に分散させるための界面活性剤や分散剤等の通常使用される添加剤を適宜加えてもよい。あるいは、強度の向上等の目的のために、水溶性繊維絡合体と類似した原料からなる水溶性フィルム等をさらに重ねて1個の水溶性繊維絡合体の形態としてもよい。
【0050】
このようにして製造される水溶性繊維絡合体の好ましい厚さ(表面に凹凸を有する場合はその平均厚さ)は、原料とされる水溶性物質の繊維の種類および繊度(dtex)ならびに繊維絡合体の目付(g/cm)(または密度)、内部に包装される塩素系殺滅剤の種類および形状、所望する当該繊維絡合体の溶解速度および当該繊維絡合体を用いて成形される包装体の形状等によって異なるため、適宜調整すればよい。より詳細には、水溶性繊維絡合体の厚さは、塩素系殺滅剤に当該水溶性繊維絡合体を介した状態で人が直接手で触れた場合でも、繊維絡合体の内側の塩素系殺滅剤によって人の皮膚等に炎症等の危険が及ぶことがない厚さであればよい。なお、本明細書において、水溶性繊維絡合体の厚さとは、水溶性繊維絡合体が多数重ねられている場合はその合計の厚さを意味する。
【0051】
水溶性繊維絡合体の厚さは、例えば、好ましくは5μm以上、より好ましくは10μm以上、さらに好ましくは20μm以上、よりさらに好ましくは30μm以上、40μm以上、50μm以上、60μm以上または70μm以上である。水溶性繊維絡合体の厚さをより厚くすることによって、塩素系殺滅剤をより安全に包装することができる。また、例えば、水溶性繊維絡合体の厚さは、特に限定されないが、好ましくは2000μm以下、より好ましくは1500μm以下、さらに好ましくは1300μm以下、よりさらに好ましくは1000μm以下、800μm以下、500μm以下または100μm以下である。水溶性繊維絡合体の厚さをより薄くすることによって、短時間で繊維絡合体が溶けるようにすることができ、その結果、バラスト水処理剤を投入した後より短時間でバラスト水の塩素濃度を高めることができる。特に、水溶性繊維絡合体の厚さをできる限り薄くし、かつ塩素系殺滅剤として前述したジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等の水への溶解速度が速い化合物を使用することによって、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度の上昇速度を相乗的に速くすることができる。このようなバラスト水処理剤は、排水する直前のタイミングのバラスト水に投入することによって効率的にバラスト水中の微生物または菌類等を殺滅することができる。
【0052】
包装体は、このような水溶性繊維絡合体からなる。本明細書において、前述の水溶性繊維絡合体の厚さと包装体の厚さとは一致する。包装体の形状は、塩素系殺滅剤を適切に包装可能であれば特に限定されない。例えば、包装体の形状は、巾着等の袋状、内部に塩素系殺滅剤を入れるための空洞を有する球状等を挙げることができる。このような包装体の作製方法は、特に限定されないが、例えば前述した水溶性繊維絡合体を折り返し重ねて繊維絡合体の端部を適宜袋状になるよう融着等することによって作製することができる。包装体の大きさは、塩素系殺滅剤を適切に包装可能である大きさであれば特に限定されない。なお、塩素系殺滅剤は、最終的に包装の開口部等が閉じられてバラスト水処理剤が製造される前の任意の時点において、包装体の内部に充填されていればよい。
【0053】
本実施形態におけるバラスト水処理剤をバラストタンク内のバラスト水中へ投入する際、その投入個数または合計の投入量は、バラスト水管理条約で定められた試験に合格する範囲内で投入すればよい。具体的に、当該投入個数または合計の投入量は、その内部に含まれる塩素系殺滅剤の殺滅性能や耐腐食性等に応じて、適宜上限および下限を定めることができる。例えば、TRO濃度は、好ましくは2mg/L以上、より好ましくは3mg/L以上、さらに好ましくは5mg/L以上である。また、例えば、TRO濃度は、バラストタンク等の材質の腐食を抑制するとの観点から、好ましくは30mg/L以下、より好ましくは20mg/L以下、さらに好ましくは10mg/L以下である。このようにバラストタンク内のバラスト水における一般的な塩素濃度基準値は、比較的高くなっており、大量の塩素系殺滅剤を必要とする。これに対し、本実施形態におけるバラスト水処理剤を適用することによって、前述したように、1個分の質量を減少させてより軽量化したバラスト処理剤を多数個投入することも可能になるため、作業者の負担をより軽減させることができる。
【0054】
上述してきたように、本実施形態におけるバラスト水処理剤は、十分な密封性、耐久性、耐酸化性等が確保されており、内部の塩素系殺滅剤の性質が十分な期間にわたり損われることがなく、1個ずつ包装されている。そのため、当該バラスト水処理剤は、取り扱いに優れており、バラストタンクの大きさ等の要素の差異に関係なく簡便に使用することができる。具体的には、当該バラスト水処理剤をバラストタンク内のバラスト水に投入するだけで、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を容易に高めることができる。さらに、塩素系殺滅剤の種類および形状、ならびに、水溶性繊維絡合体の繊維の種類と繊度(dtex)、水溶性繊維絡合体の目付(g/cm)(または密度)および水溶性繊維絡合体の厚さ(包装体の厚さ)について様々な組み合わせを選択することができるため、様々なタイミング(例えば漲水時または排水時)に適した所望する塩素濃度の上昇率および上昇速度に調整することができる。また、当該バラスト水処理剤は、その包装体が自然破損して、当該包装体から塩素系殺滅剤が漏出することを抑制することができる。そのため、作業者が塩素系殺滅剤の粉塵や塩素ガス等の危険なガスを吸引するリスクを減らすことができ、かつ作業者が手で直接触れて取り扱うことも可能であり、その結果、安全かつ簡便にバラスト水の塩素濃度を所望する濃度に調整することができる。特に、バラスト水処理用の塩素系殺滅剤は、通常の塩素系薬剤よりも殺菌性能が強く、従来までは作業者が容易に取り扱うことは困難であった。そのため、本実施形態におけるバラスト水処理剤を用いることによって、作業者が所望するタイミングで容易に素早くバラストタンク内へ塩素系殺滅剤を投入し、塩素濃度を高めることができる。
【0055】
<バラスト水処理システム>
本実施形態におけるバラスト水処理システム4の構成を、以下、図2および図3を参照して説明する。
【0056】
本実施形態におけるバラスト水処理システム4は、処理剤投入機器5によって前述の実施形態におけるバラスト水処理剤を投入することにより、バラストタンク内のバラスト水を適切に殺滅処理するためのシステムである。
【0057】
図2に示すように、バラスト水処理システム4は、処理剤投入機器5と、水量測定部6と、濃度測定部7と、処理剤投入機器制御部8とから構成されている。さらに、処理剤投入機器制御部8は、受信部8Aと、判定部8B、記憶部8Cおよび制御部8Dを備えている。
【0058】
水量測定部6は、バラストタンク内のバラスト水の水量を測定するためのセンサであり、例えば船のバラストタンク内に取り付けられている。まず、水量測定部6によってバラスト水の水量が測定され(S1)、測定された水量は、処理剤投入機器制御部8の受信部8Aに送信される。
【0059】
濃度測定部7は、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定するためのセンサであり、例えば船のバラストタンク内に取り付けられている。次いで、濃度測定部7によってバラスト水の塩素濃度が測定され(S2)、測定された塩素濃度は、処理剤投入機器制御部8の受信部8Aに送信される。
【0060】
受信部8Aに送信されたバラスト水の水量および塩素濃度は判定部8Bに送られる。判定部8Bでは、まず、塩素濃度が、記憶部8Cに格納されている予め設定された塩素濃度基準値以上となっているか否かが判定される(S3)。当該予め設定された塩素濃度基準値は、例えば前述の実施形態において述べた好ましいTRO濃度を設定すればよい。
【0061】
予め設定された塩素濃度基準値以上となっていれば、制御部8Dに信号が送信されることはなく、濃度測定部7によるバラスト水の塩素濃度測定が続く(S3でNOの場合)。
【0062】
一方、予め設定された塩素濃度基準値未満となっている場合(S3でYESの場合)、判定部8Bは、塩素濃度および水量に基づき、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が当該塩素濃度基準値となるバラスト水処理剤の投入個数を判定(算出)する(S4)。この判定は、記憶部8Cにバラスト水処理剤1個当たりが含む塩素系殺滅剤の質量が格納されており、当該質量に基づき投入個数が判定される。
【0063】
その後、判定(算出)された個数が制御部8Dに送信され、バラスト水処理剤をバラストタンク内に投入するように処理剤投入機器5が制御される(S5)。なお、処理剤投入機器5はバラスト水処理剤が投入可能な機器ならどのような機器でもよく、例えばバラストタンクの上方において開口部が配置されており、バラスト水処理剤をバラスト水の中へ例えば1個ずつ投入可能とする簡単な投入装置等でよい。
【0064】
このように、本実施形態におけるバラスト水処理システム4によると、バラストタンクの大きさ、バラスト水の水量等の様々な要素に関係なく、簡便な設備のみでバラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を予め設定された塩素濃度基準値以上の値に保つことができる。また、本実施形態におけるバラスト水処理システムによると、設置スペースをわずかしか必要としないため、既存の船舶または設置スペースを確保し難い船舶にも組み込むことができる。
【0065】
なお、バラスト水処理システム4の判定部8Bは、塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値以上となっているか否かを判定するのではなく、予め設定された塩素濃度基準値となっているか否か、または予め設定された所定の範囲内の塩素濃度となっているか否かを判定してもよい。
【0066】
さらに、バラスト水処理システム4に、塩素系殺滅剤の質量が異なる2種以上のバラスト水処理剤が適用され、予め設定された塩素濃度基準値になるべく近づくように投入個数が各々の種類のバラスト水処理剤において判定されてもよい。
【0067】
また、例えばバラストタンク内のバラスト水漲水直後等では、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度を測定する濃度測定部7は省略されてもよい。
【0068】
さらに、本実施形態におけるバラスト水処理システムは、濾過した後のバラスト水に適用することも可能である。
【0069】
また、処理剤投入機器5によって投入されたバラスト水処理剤の個数を記憶部8Cによって航海記録として記憶させておいてもよい。
【0070】
なお、本明細書において、「バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する水量測定部」および「水量測定部により測定されたバラスト水の水量」とは、バラストタンク内のバラスト水の排水直後であれば、「バラストタンク内に投入されるバラスト水の水量を入力する水量入力部」および「水量入力部に入力されたバラスト水の水量」、または、「バラストタンク内に投入されるバラスト水の水量を測定する水量測定部」および「水量測定部により測定されたバラスト水の水量」という意味も含む。
【0071】
<バラスト水処理方法>
本実施形態におけるバラスト水処理方法について、以下説明する。
【0072】
まず、バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する。水量の測定は、例えば、船のバラストタンク内に取り付けられた水量測定センサ等で測定すればよい。
【0073】
次いで、測定されたバラスト水の水量に基づいて、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が予め設定された塩素濃度基準値となるバラスト水処理剤の投入個数を判定する。当該予め設定された塩素濃度基準値は、例えば前述の実施形態において述べた好ましいTRO濃度とすればよい。
【0074】
予め設定された塩素濃度基準値以上となっていれば、好ましくは断続的にバラスト水の塩素濃度測定を続ければよい。一方で、当該塩素濃度基準値未満となっている場合、塩素濃度および水量に基づき、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度が当該塩素濃度基準値となるバラスト水処理剤の投入個数を判定(算出)する。この判定は、バラスト水処理剤1個当たりが含む塩素系殺滅剤の質量に基づき投入個数をCPUまたは作業者自身が判定(算出)すればよい。
【0075】
その後、判定(算出)された個数のバラスト水処理剤をバラストタンク内に投入する。当該バラスト水処理剤は、前述の実施形態において述べた通り、作業者が直接手を触れて取り扱うことが可能である。そのため、投入方法は特に限定されず、作業者が当該バラスト水処理剤をバラストタンク内に直接投入してもよい。
【0076】
なお、本実施形態におけるバラスト水処理方法においても、前述の実施形態におけるバラスト水処理システムと同様に、予め設定された塩素濃度基準値は適宜変形してよく、塩素系殺滅剤の質量が異なる2種以上のバラスト水処理剤を用いてもよく、バラストタンク内のバラスト水の塩素濃度測定工程は省略してもよく、さらに濾過した後のバラスト水に適用してもよい。
【0077】
なお、本明細書において、「バラストタンク内のバラスト水の水量を測定する工程」および「測定されたバラスト水の水量」とは、バラストタンク内のバラスト水の排水直後であれば、「バラストタンク内に投入するバラスト水の水量を予め決定する工程」および「予め決定されたバラスト水の水量」という意味も含む。
【0078】
このように、本実施形態におけるバラスト水処理方法によると、バラストタンクの大きさ、バラスト水の水量等の様々な要素に関係なく、最も簡便な手法では、バラスト水処理剤をバラストタンク内に必要個数のみ作業者の手で直接投入することができる。
【実施例
【0079】
以下に、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、本発明は実施例により何ら限定されるものではない。
【0080】
<実施例1>
バラストタンクを模擬した容積1mのプラスティックタンク内に、700Lの濾過された河川水を注ぎ入れた。当該濾過された水(バラスト水)の水温は16℃であった。この中に、指標生物として植物プランクトンの1種であるテトラセルミス(最小径10μm~15μm程度)をバラスト水1cm当たり1000個体となるように投入した。
【0081】
次に、バラスト水処理剤のサンプルを作製した。粒径が200μm~2000μmのジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの顆粒(Occidental Chemical Corporation社製、「ACL56」(商品名))20gを計量し、袋状の水溶性不織布の中に投入して、投入後に投入口を熱で融着することによって包装体とした。水溶性不織布は、ポリビニルアルコール(けん化度88モル%、4%水溶液20℃での粘度が5mPa・s)を原料として得られた紡糸原糸を、160℃の熱風炉中で2倍に延伸し、ポリビニルアルコール繊維(単糸繊度2.0dtex)を得た。得られた繊維を、捲縮、カットし、ステープルとして、カードをかけてウェッブとし、目付35g/cm、平均厚さが50μmの不織布の形態とした。
【0082】
このように作製したバラスト水処理剤のサンプルを、前述したプラスティックタンク内に入れた。この際に、バラスト水処理剤のサンプルからは、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムの顆粒による粉塵の発生もなく、塩素臭もなかった。その後、バラスト水処理剤のサンプルを投入してから、10分後、20分後および30分後において、プラスティックタンク内のバラスト水を採取した。
【0083】
このような方法で採取した各経過時間のバラスト水のTRO濃度(mg/L)をDPD方式のHACH製クロリメーターIIによって測定した。また、各経過時間におけるバラスト水処理剤のサンプルの水溶性不織布の状態を目視によって観察した。さらに、30分経過後に採取したバラスト水におけるテトラセルミスの生存個体数(ind/cm)を20倍顕微鏡下で目視判定(動いているものを生存個体と判定)によって測定した。
【0084】
これらの測定結果を以下の表1に示す。
【0085】
【表1】
【0086】
上記表1から分かるように、バラスト水にバラスト水処理剤のサンプルを投入後、時間経過に伴いバラスト水のTRO濃度(mg/L)が上昇していた。また、当該バラスト水処理剤のサンプルの水溶性不織布は、20分程度でほぼ溶解しており、30分後には目視では見えない程溶解した状態となっていた。さらに、投入から30分経過後には、バラスト水中の植物プランクトン(テトラセルミス)が全滅していることが確認された。これは、水溶性不織布の溶解の結果、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウムがバラスト水に溶け出して塩素が生じたことにより、TRO濃度(mg/L)が上昇し、それに伴いバラスト水中の微生物または菌類等の殺滅作用が高まったことによると考えられる。
【符号の説明】
【0087】
1 バラスト水処理剤
2 塩素系殺滅剤(顆粒状)
3 包装体
4 バラスト水処理システム
5 処理剤投入機器
6 水量測定部
7 濃度測定部
8 処理剤投入機器制御部
8A 受信部
8B 判定部
8C 記憶部
8D 制御部
図1
図2
図3