(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】ポリビニルアルコール組成物及びその用途、並びにビニル系樹脂の製造方法
(51)【国際特許分類】
C08F 2/20 20060101AFI20230720BHJP
C08F 2/38 20060101ALI20230720BHJP
C08F 290/12 20060101ALI20230720BHJP
C08L 29/04 20060101ALI20230720BHJP
C08F 14/06 20060101ALI20230720BHJP
C09K 23/52 20220101ALI20230720BHJP
【FI】
C08F2/20
C08F2/38
C08F290/12
C08L29/04 S
C08F14/06
C09K23/52
(21)【出願番号】P 2020513429
(86)(22)【出願日】2019-04-10
(86)【国際出願番号】 JP2019015612
(87)【国際公開番号】W WO2019198754
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-01-07
(31)【優先権主張番号】P 2018076449
(32)【優先日】2018-04-11
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(74)【代理人】
【識別番号】110002206
【氏名又は名称】弁理士法人せとうち国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】福原 忠仁
【審査官】中村 英司
(56)【参考文献】
【文献】特開2007-321099(JP,A)
【文献】国際公開第2007/119735(WO,A1)
【文献】特開昭60-013803(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08F 290/00- 290/14
C08F 2/00- 2/60
C08F 14/00- 14/28
C08L 29/00- 29/14
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
変性ポリビニルアルコール(A)と不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含有する組成物(D)
を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤であって;
変性ポリビニルアルコール(A)は、粘度平均重合度が400以上3500以下であり、けん化度が68モル%以上99.9モル%以下であり、アクリロイル基又はメタクリロイル基を側鎖に0.01モル%以上1.50モル%以下有し、
不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、
組成物(D)における変性ポリビニルアルコール(A)/不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の質量比が82/18~99.9/0.1であることを特徴とする組成物(D)
を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項2】
変性ポリビニルアルコール(A)が側鎖にメタクリロイル基を有する、請求項1に記載の組成物(D)
を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項3】
不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が、メタクリル酸又はメタクリル酸ナトリウムである、請求項1又は2に記載の組成物(D)
を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項4】
共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1);アルコキシフェノール(C2);及び環状ニトロキシルラジカル(C3);からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(C)をさらに含む、請求項1~3のいずれかに記載の組成物(D)
を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤。
【請求項5】
変性ポリビニルアルコール(A)と不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含有する組成物(D)の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法であって;
変性ポリビニルアルコール(A)は、粘度平均重合度が400以上3500以下であり、けん化度が68モル%以上99.9モル%以下であり、アクリロイル基又はメタクリロイル基を側鎖に0.01モル%以上1.50モル%以下有し、
不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、
組成物(D)における変性ポリビニルアルコール(A)/不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の質量比が82/18~99.9/0.1であることを特徴とする組成物(D)の存在下で、ビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、変性ポリビニルアルコール(A)と不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含有する組成物(D)に関する。また本発明は、組成物(D)を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤、及びビニル系樹脂の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ポリビニルアルコール(以下、「PVA」と略記することがある)は従来、ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤、コーティング剤、接着剤、偏光フィルム、水溶性フィルム、医薬品、化粧品など様々な製品や用途に用いられている。また、PVAに二重結合等の反応性基が存在することで各種性能が向上すること、あるいは特殊な効果を奏することが知られている。
【0003】
二重結合は反応性が高いため、PVAを長期保存していると二重結合が反応してゲル化するおそれがある。そのため、製造直後のPVAを用いた場合と比べて各種性能が劣ることや、PVA水溶液として使用する際にゲルが配管等に詰まり、生産性を悪化させる場合がある。また、PVAが二重結合を有すると水への溶解性が低下するため、水溶性が要求される用途に適用できないこともある。
【0004】
PVAの保存安定性及び水溶性が要求される用途として、ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤が挙げられる。二重結合を有するPVAを、ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いることにより、ビニル化合物の重合反応が安定するとされている(特許文献1及び2)。
【0005】
特許文献1には、オレフィン系不飽和二重結合を有するモノアルデヒドによりポリビニルアルコール系重合体をアセタール化して得られる、側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体を含有する懸濁重合用分散安定剤が記載されている。
【0006】
特許文献2には、不飽和二重結合を有するカルボン酸又はその塩によりポリビニルアルコール系重合体をエステル化して得られる、側鎖に二重結合を有するポリビニルアルコール系重合体からなる分散安定剤が記載されている。
【0007】
しかしながら、これらの分散安定剤を用いてビニル化合物の懸濁重合を行った場合、重合安定性の点で満足すべき効果が得られなかった。また、分散安定剤の保存安定性も十分とはいえなかった。なお、本明細書において重合安定性とは、懸濁重合時にビニル化合物からなる液滴の分散性が良好であるため、結果として、粗粒化が抑制され径が均一なビニル系樹脂の粒子が得られることを意味する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【文献】国際公開2015/182567号
【文献】国際公開2007/119735号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は上記課題を解決するためになされたものであり、水溶性及び保存安定性に優れたポリビニルアルコールを含有する組成物を提供することを目的とする。また、ビニル化合物を懸濁重合するに際して、非常に高い重合安定性を示す懸濁重合用分散安定剤を提供するとともに、平均粒子径が小さく、粗大粒子の生成が少なく、フィッシュアイが抑制されたビニル系樹脂を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記課題は、変性ポリビニルアルコール(A)と不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含有する組成物(D)であって;変性ポリビニルアルコール(A)は、粘度平均重合度が400以上3500以下であり、けん化度が68モル%以上99.9モル%以下であり、アクリロイル基又はメタクリロイル基を側鎖に0.01モル%以上1.50モル%以下有し、不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種であり、組成物(D)における変性ポリビニルアルコール(A)/不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の質量比が82/18~99.9/0.1であることを特徴とする組成物(D)を提供することによって解決される。
【0011】
変性ポリビニルアルコール(A)が側鎖にメタクリロイル基を有する組成物(D)も本発明の好適な実施態様である。
【0012】
不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が、メタクリル酸又はメタクリル酸ナトリウムである組成物(D)も本発明の好適な実施態様である。
【0013】
共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1);アルコキシフェノール(C2);及び環状ニトロキシルラジカル(C3);からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(C)をさらに含む組成物(D)も本発明の好適な実施態様である。
【0014】
組成物(D)を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤も本発明の好適な実施態様である。
【0015】
組成物(D)の存在下でビニル化合物の懸濁重合を行う工程を含む、ビニル系樹脂の製造方法も本発明の好適な実施態様である。
【発明の効果】
【0016】
本発明の組成物(D)は、水溶性及び保存安定性に優れる。また、組成物(D)を含む懸濁重合用分散安定剤を用いると、ビニル化合物を懸濁重合するに際して、非常に高い重合安定性を示すとともに、平均粒子径が小さく、粗大粒子の生成が少なく、フィッシュアイが抑制されたビニル系樹脂を提供できる。
【発明を実施するための形態】
【0017】
(組成物(D))
本発明の組成物(D)は、粘度平均重合度とけん化度が特定範囲にあり、かつアクリロイル基又はメタクリロイル基を側鎖に有する変性ポリビニルアルコール(A)(以下、「変性PVA(A)」と記載することがある)と不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)とを特定量含むことを特徴とする。
【0018】
組成物(D)における変性PVA(A)/不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の質量比は82/18~99.9/0.1である。後述する実施例と比較例との対比から明らかなように、前記質量比が82/18未満の場合、保存安定性が良好ではなく、組成物(D)をビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた場合に、塩化ビニル重合体の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多くなる。したがって、前記質量比が82/18~99.9/0.1であることが重要である。前記質量比は、90/10~99.8/0.2が好ましく、92/8~99.7/0.3がより好ましい。
【0019】
(組成物(D)の製造方法)
本発明における組成物(D)は、変性PVA(A)と、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種の不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含む。組成物(D)の製造方法は特に限定されず、(i)不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の存在下で、ポリビニルアルコール(E)と、エステル化剤として不飽和カルボン酸又はその誘導体とを反応させる方法、(ii)ポリビニルアルコール(E)と、エステル化剤として不飽和カルボン酸又はその誘導体とを反応させた後に不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を添加する方法が挙げられる。ポリビニルアルコール(E)とエステル化剤とを反応させる際には、反応を促進させるために加熱することが好ましい。加熱温度は、80~180℃であることが好ましい。加熱時間は加熱温度との関係で適宜設定されるが、通常、10分~24時間である。ここで、ポリビニルアルコール(E)は、二重結合を側鎖に有さないPVAのことである(以下、「PVA(E)」と記載することがある)。
【0020】
PVA(E)と、エステル化剤として不飽和カルボン酸又はその誘導体とを反応させる方法としては、不飽和カルボン酸又はその誘導体を溶媒に溶解させた溶液を得てから当該溶液にPVA(E)の粉末を加えて膨潤させた後、当該溶媒を除去することにより混合粉末を得て、得られた混合粉末を加熱する方法が好ましい。膨潤状態での反応や、溶解状態での反応では反応の進行が悪かったり、副反応が起こる等の問題が生じる場合がある。このように、エステル化剤として不飽和カルボン酸又はその誘導体の存在下に固体中で反応させることによって、望ましくない架橋反応の進行を抑制しつつ、エステル化反応を進行させることができる。この反応方法により、変性PVA(A)を得ることができ、不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)と合わせて組成物(D)からなる粉末を得ることができる。エステル化剤を溶解させる溶媒としては、メタノール、エタノール、プロパノール等のアルコールや水、酢酸メチルなどが用いられる。溶媒の除去は加熱又は減圧することにより行うことができる。
【0021】
上記反応方法において、加熱する前の混合粉末における、エステル化剤の含有量は、PVA(E)100質量部に対して0.01質量部以上が好ましく、0.1質量部以上がより好ましく、0.5質量部以上が特に好ましい。一方、加熱する前の混合粉末における、エステル化剤の含有量は、PVA(E)100質量部に対して40質量部以下が好ましく、20質量部以下がより好ましく、10質量部以下がさらに好ましく、7質量部以下が特に好ましい。
【0022】
組成物(D)の形態は特に限定されないが、水への溶解速度の観点から、粉末であることが好ましい。このときの粉末の粒子径は、通常、50~2000μmである。粉末の粒子径はJIS-K6726(1994年)の方法にて求められた平均粒子径である。
【0023】
(変性PVA(A))
変性PVA(A)はPVA(E)にエステル化剤を反応させて合成するが、PVA(E)は、ビニルエステル系単量体を塊状重合法、溶液重合法、懸濁重合法、乳化重合法、分散重合法等の従来公知の方法により製造できる。工業的観点から好ましい重合方法は、溶液重合法、乳化重合法及び分散重合法である。重合操作にあたっては、回分法、半回分法及び連続法のいずれの重合方式も採用できる。
【0024】
重合に用いるビニルエステル系単量体としては、例えば、酢酸ビニル、ギ酸ビニル、プロピオン酸ビニル、カプリル酸ビニル、バーサチック酸ビニルなどを挙げることができ、中でも酢酸ビニルが工業的観点から好ましい。
【0025】
ビニルエステル系単量体の重合に際して、本発明の趣旨を損なわない範囲であればビニルエステル系単量体を他の単量体と共重合させても差し支えない。使用しうる単量体としては、例えば、エチレン、プロピレン、n-ブテン、イソブチレンなどのα-オレフィン;アクリル酸及びその塩、アクリル酸メチル、アクリル酸エチル、アクリル酸n-プロピル、アクリル酸i-プロピル、アクリル酸n-ブチル、アクリル酸i-ブチル、アクリル酸t-ブチル、アクリル酸2-エチルヘキシル、アクリル酸ドデシル、アクリル酸オクタデシルなどのアクリル酸エステル類;メタクリル酸及びその塩;メタクリル酸メチル、メタクリル酸エチル、メタクリル酸n-プロピル、メタクリル酸i-プロピル、メタクリル酸n-ブチル、メタクリル酸i-ブチル、メタクリル酸t-ブチル、メタクリル酸2-エチルヘキシル、メタクリル酸ドデシル、メタクリル酸オクタデシルなどのメタクリル酸エステル類;アクリルアミド、N-メチルアクリルアミド、N-エチルアクリルアミド、N,N-ジメチルアクリルアミド、ジアセトンアクリルアミド、アクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、アクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールアクリルアミド及びその誘導体などのアクリルアミド誘導体;メタクリルアミド、N-メチルメタクリルアミド、N-エチルメタクリルアミド、メタクリルアミドプロパンスルホン酸及びその塩、メタクリルアミドプロピルジメチルアミン及びその塩又はその4級塩、N-メチロールメタクリルアミド及びその誘導体などのメタクリルアミド誘導体;メチルビニルエーテル、エチルビニルエーテル、n-プロピルビニルエーテル、i-プロピルビニルエーテル、n-ブチルビニルエーテル、i-ブチルビニルエーテル、t-ブチルビニルエーテル、ドデシルビニルエーテル、ステアリルビニルエーテルなどのビニルエーテル類;アクリロニトリル、メタクリロニトリルなどのニトリル類;塩化ビニル、フッ化ビニルなどのハロゲン化ビニル類;塩化ビニリデン、フッ化ビニリデンなどのハロゲン化ビニリデン類;酢酸アリル、塩化アリルなどのアリル化合物;マレイン酸、イタコン酸、フマル酸などの不飽和ジカルボン酸及びその塩又はそのエステル;ビニルトリメトキシシランなどのビニルシリル化合物;酢酸イソプロペニルなどが挙げられる。このような他の単量体の共重合量は、通常、10モル%以下である。
【0026】
また、ビニルエステル系単量体の重合に際して、得られるポリビニルエステルの重合度を調節することなどを目的として、連鎖移動剤を共存させても差し支えない。連鎖移動剤としては、アセトアルデヒド、プロピオンアルデヒド、ブチルアルデヒド、ベンズアルデヒドなどのアルデヒド類;アセトン、メチルエチルケトン、ヘキサノン、シクロヘキサノンなどのケトン類;2-ヒドロキシエタンチオール、ドデシルメルカプタンなどのメルカプタン類;トリクロロエチレン、パークロロエチレンなどのハロゲン化炭化水素類が挙げられ、中でもアルデヒド類及びケトン類が好適に用いられる。連鎖移動剤の添加量は、添加する連鎖移動剤の連鎖移動定数及び目的とするポリビニルエステルの重合度に応じて決定されるが、一般にビニルエステル系単量体に対して0.1~10質量%が望ましい。
【0027】
ポリビニルエステルのけん化反応には、従来公知の水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、ナトリウムメトキシドなどの塩基性触媒、又はp-トルエンスルホン酸などの酸性触媒を用いた、加アルコール分解ないし加水分解反応が適用できる。けん化反応に用いられる溶媒としては、メタノール、エタノールなどのアルコール類;酢酸メチル、酢酸エチルなどのエステル類;アセトン、メチルエチルケトンなどのケトン類;ベンゼン、トルエンなどの芳香族炭化水素などが挙げられ、これらは単独で、又は2種以上を併用できる。中でも、メタノール又はメタノールと酢酸メチルとの混合溶液を溶媒として用い、塩基性触媒である水酸化ナトリウムの存在下にけん化反応を行うのが簡便であり好ましい。
【0028】
変性PVA(A)が、アクリロイル基又はメタクリロイル基を側鎖に0.01モル%以上1.50モル%以下有することが重要である。アクリロイル基又はメタクリロイル基による変性量(以下、「導入変性基量」と略記することがある)は、アクリロイル基又はメタクリロイル基中の二重結合の含有量により求めることができる。前記二重結合は炭素-炭素二重結合を意味する。導入変性基量が0.01モル%未満の変性PVA(A)を含む懸濁重合用分散安定剤を用いてビニル化合物を懸濁重合した場合、重合安定性が低下し粗大粒子が多く生成したり、フィッシュアイの多いビニル系樹脂が得られる。導入変性基量は、0.03モル%以上が好ましい。また、導入変性基量が1.50モル%を超える場合、保存安定性が良好ではなく、さらに組成物(D)をビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた場合に、得られるビニル系樹脂の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多くなる。導入変性基量は、1.3モル%以下が好ましく、1モル%以下がより好ましい。
【0029】
変性PVA(A)の側鎖に有する二重結合は、アクリロイル基又はメタクリロイル基であることが重要であり、中でもメタクリロイル基が好ましい。二重結合を有するその他の官能基では水溶液の安定性が低下したり、ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた際の性能が低下する。
【0030】
変性PVA(A)の導入変性基量、すなわち二重結合の含有量は公知の方法で測定できる。具体的には1H-NMRによる測定が簡便である。変性PVA(A)の導入変性基量を測定する場合は、変性PVA(A)が溶解しない溶液で洗浄した後に測定する方法が挙げられるが、変性PVA(A)を一度、濃度1~20質量%程度の水溶液とした後、変性PVA(A)が溶解しない溶液中に水溶液を滴下し、変性PVA(A)を析出させることで洗浄する再沈殿法が簡便で好ましい。
【0031】
PVA(E)のエステル化に用いられる不飽和カルボン酸又はその誘導体としては、アクリル酸又はその塩、メタクリル酸又はその塩、無水メタクリル酸、無水アクリル酸、アクリル酸アルキルエステル、メタクリル酸アルキルエステルが挙げられる。不飽和カルボン酸又はその誘導体は単独で、又は二種以上を併用できる。
【0032】
これらの中でも、変性PVA(A)とした際の各種用途性能の点から、不飽和カルボン酸又はその誘導体が、無水アクリル酸、無水メタクリル酸であることが好ましく、入手性の観点から無水メタクリル酸がより好ましい。
【0033】
変性PVA(A)の粘度平均重合度は、400以上である。生産性の面から500以上が好ましい。ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いる場合には、変性PVA(A)の粘度平均重合度は600以上がより好ましい。一方、変性PVA(A)の粘度平均重合度は、3500以下であり、2500以下が好ましい。ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いる場合には、変性PVA(A)の粘度平均重合度は2000以下がより好ましく、1500以下がさらに好ましく、1000以下が特に好ましい。粘度平均重合度はJIS-K6726(1994年)に準じて測定して得られる値である。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0034】
変性PVA(A)のけん化度は、68モル%以上である。けん化度が68モル%未満の場合、変性PVA(A)の水への溶解性が低下する。また、組成物(D)をビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた場合に、塩化ビニル重合体の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多くなる。一方、変性PVA(A)のけん化度は、通常、99.9モル%以下である。けん化度が99.9モル%を超える変性PVA(A)は製造が困難である。ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いる場合には、変性PVA(A)のけん化度は、97モル%以下が好ましく、90モル%以下がより好ましく、85モル%以下がさらに好ましく、77モル%以下が特に好ましい。けん化度はJIS-K6726(1994年)に準じて測定して得られる値である。
【0035】
(不飽和モノカルボン酸又はその塩(B))
本発明の組成物(D)は、アクリル酸、メタクリル酸、アクリル酸ナトリウム及びメタクリル酸ナトリウムからなる群より選択される少なくとも1種の不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)を含有することが重要である。その他の不飽和モノカルボン酸又はその塩では、組成物(D)の水溶性が低下したり、水溶液の安定性が低下し、また、組成物(D)をビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた場合に、得られるビニル系樹脂の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多くなる。不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)は、メタクリル酸又はメタクリル酸ナトリウムであることが好適である。
【0036】
(化合物(C))
本発明の組成物(D)は、共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1);アルコキシフェノール(C2);及び環状ニトロキシルラジカル(C3);からなる群より選択される少なくとも1種である化合物(C)をさらに含むことが好ましい。
【0037】
共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1)について、ここで定義される共役二重結合とは、炭素-炭素二重結合による共役、炭素-へテロ原子二重結合による共役、芳香族化合物による共役を含む。共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1)の一例としては、カテコール、t-ブチルヒドロキノン、2,6-ジt-ブチルヒドロキノン、ピロガロール、1,3,5-トリヒドロキシベンゼン、ヘキサヒドロキシベンゼン;没食子酸又はこれらの塩;没食子酸メチル、没食子酸エチル、没食子酸プロピル、没食子酸オクチル、没食子酸ドデシル等の没食子酸アルキルエステル;エピカテキン、エピガロカテキン、エピガロカテキン-3-ガラート等のカテキン;アスコルビン酸又はこれらの塩;ベンゾキノン;デヒドロアスコルビン酸等を用いることができる。中でも共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物が好ましく、フェノール系水酸基を2つ以上有する化合物がより好ましい。
【0038】
本発明におけるアルコキシフェノール(C2)とは、ベンゼン環の水素原子の少なくとも1個がアルコキシ基で置換され、かつ少なくとも1個が水酸基で置換された化合物のことをいう。他の水素原子は、メチル基、エチル基などのアルキル基やハロゲン基で置換されていてもよく、その数や結合位置も限定されない。アルコキシ基の炭素数は、通常、10以下であり、8以下が好ましく、6以下がより好ましく、4以下がさらに好ましく、2以下が特に好ましい。アルコキシ基の炭素鎖は直鎖状であっても分岐鎖状であってもかまわないが、入手性の点から直鎖状が好ましい。アルコキシ基としては、メトキシ基、エトキシ基、プロポキシ基、ブトキシ基などが挙げられ、中でもメトキシ基が好ましい。
【0039】
本発明で用いられるアルコキシフェノール(C2)は、ベンゼン環の水素原子の1個がアルコキシ基で置換され、かつ1個が水酸基で置換された化合物が好ましい。このとき、アルコキシ基の結合位置は特に限定されないが、入手性の点から、オルト位又はパラ位が好ましく、パラ位がより好ましい。
【0040】
本発明で好適に用いられるアルコキシフェノール(C2)としては、メトキシフェノール、エトキシフェノール、プロポキシフェノール、ブトキシフェノールなどが挙げられる。中でも、入手性の点から、メトキシフェノールが好ましい。
【0041】
本発明における環状ニトロキシルラジカル(C3)とは、炭素原子とヘテロ原子から形成された複素環を有し、ニトロキシルラジカル(=N-O・)の窒素原子が、その環の一部を形成する化合物のことをいう。当該環を構成するヘテロ原子としては、窒素原子の他に、酸素原子、リン原子、硫黄原子などが挙げられる。環を形成する原子の数は、通常、5個又は6個である。環を形成する原子には、アルキル基、水酸基、カルボキシル基、スルホ基、ハロゲン基などの置換基が結合していてもかまわない。置換基の個数や置換基の結合位置も特に限定されず、同一又は異なる原子に複数の置換基が結合していてもかまわない。入手性の観点から、上記環状ニトロキシルラジカルが、2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシル(TEMPO)又はその誘導体が好ましい。TEMPO誘導体としては、4-ヒドロキシ-2,2,6,6-テトラメチルピペリジン1-オキシルが好適に用いられる。
【0042】
入手性の観点から、化合物(C)としては共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1);又はアルコキシフェノール(C2)が好ましく、共役二重結合を有し、かつ該共役二重結合を構成する炭素原子に結合した水酸基を2つ以上有する化合物、若しくはその塩又はその酸化物(C1)がより好ましい。
【0043】
(用途)
本発明の組成物(D)は種々の用途に使用される。以下にその例を挙げるがこれに限定されるものではない。
(1)分散剤用途:塗料、接着剤等の有機・無機顔料の分散安定剤、塩化ビニル、塩化ビニリデン、スチレン、(メタ)アクリレート、酢酸ビニル等の各種ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤及び分散助剤
(2)被覆剤用途:紙のコーティング剤、サイズ剤、繊維加工剤、皮革仕上剤、塗料、防曇剤、金属腐食防止剤、亜鉛メッキ用光沢剤、帯電防止剤
(3)接着剤用途:接着剤、粘着剤、再湿接着剤、各種バインダー、セメントやモルタル用添加剤
(4)乳化剤用途:乳化重合用乳化剤、ビチュメン等の後乳化剤
(5)凝集剤用途:水中懸濁物及び溶存物の凝集剤、金属凝集剤
(6)紙加工用途:紙力増強剤、耐油・耐溶剤付与剤、平滑性向上剤、表面光沢改良助剤、目止剤、バリア剤、耐光性付与剤、耐水化剤、染料・顕色剤分散剤、接着力改良剤、バインダー
(7)農業用途:農薬用バインダー、農薬用展着剤、農業用被覆剤、土壌改良剤、エロージョン防止剤、農薬用分散剤
(8)医療・化粧品用途:造粒バインダー、コーティング剤、乳化剤、貼付剤、結合剤、フィルム製剤基材、皮膜形成剤
(9)粘度調整剤用途:増粘剤、レオロジー調整剤
(10)フィルム用途:水溶性フィルム、偏光フィルム、バリアフィルム、繊維製品包装用フィルム、種子養生シート、植生シート、シードテープ、吸湿性フィルム
(11)成形物用途:繊維、パイプ、チューブ、防漏膜、ケミカルレース用水溶性繊維、スポンジ
(12)ゲル用途:医薬用ゲル、工業用ゲル
(13)後反応用途:低分子有機化合物、高分子有機化合物、無機化合物との後反応用途
中でも、本発明の組成物(D)は後述の通り、(1)分散剤用途に好適に用いられる。
【0044】
(ビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤)
中でも本発明の組成物(D)の好適な用途は、当該組成物(D)を含有するビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤である。本発明の組成物(D)は水溶液安定性に優れ、ビニル化合物の懸濁重合における分散安定剤として用いると、重合反応が安定し粗大粒子の形成が少なくなる。また、得られるビニル系樹脂のフィッシュアイを抑制できる。
【0045】
上記懸濁重合用分散安定剤は、本発明の趣旨を損なわない範囲で、各種添加剤を含有してもよい。上記添加剤としては、例えば、アルデヒド類、ハロゲン化炭化水素類、メルカプタン類などの重合調節剤;フェノール化合物、イオウ化合物、N-オキサイド化合物などの重合禁止剤;pH調整剤;架橋剤;防腐剤;防黴剤;ブロッキング防止剤;消泡剤;相溶化剤等が挙げられる。懸濁重合用分散安定剤における各種添加剤の含有量は、組成物(D)の合計量に対して10質量%以下が好ましく、5質量%以下がより好ましい。
【0046】
(ビニル系樹脂の製造方法)
本発明の好適な実施態様は、本発明の組成物(D)の存在下で、ビニル化合物を懸濁重合するビニル系樹脂の製造方法である。また、本発明の好適な実施態様は、本発明の組成物(D)の存在下で、粘度平均重合度が1500以上3500以下であり、けん化度が78モル%以上92モル%未満のポリビニルアルコール(F)を併用して、ビニル化合物を懸濁重合するビニル系樹脂の製造方法である。上記範囲の重合度およびけん化度を有するポリビニルアルコール(F)は重合安定性が高い点で好ましい。なお、ポリビニルアルコール(F)の製造方法は、上記PVA(E)の製造方法に準じて適宜調整できる。ポリビニルアルコール(F)の使用量は、組成物(D)の合計量に対して10~1000質量%が好ましい。
【0047】
本発明のビニル系樹脂の製造方法で用いられるビニル化合物としては、塩化ビニル等のハロゲン化ビニル;酢酸ビニル、プロピオン酸ビニル等のビニルエステル;アクリル酸、メタクリル酸、これらのエステル及び塩;マレイン酸、フマル酸、これらのエステル及び無水物;スチレン、アクリロニトリル、塩化ビニリデン、ビニルエーテル等が挙げられる。中でも、塩化ビニル単独、又は塩化ビニル及び塩化ビニルと共重合できる単量体の併用が好ましい。塩化ビニルと共重合できる単量体としては、酢酸ビニル、プロピオン酸ビニルなどのビニルエステル;(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチルなどの(メタ)アクリル酸エステル;エチレン、プロピレンなどのα-オレフィン;無水マレイン酸、イタコン酸などの不飽和ジカルボン酸類;アクリロニトリル;スチレン;塩化ビニリデン;ビニルエーテル等が挙げられる。
【0048】
ビニル化合物の懸濁重合には、従来から塩化ビニルの重合に使用される油溶性又は水溶性の重合開始剤を用いることができる。油溶性の重合開始剤としては、例えばジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ-2-エチルヘキシルパーオキシジカーボネート、ジエトキシエチルパーオキシジカーボネート等のパーカーボネート化合物;t-ブチルパーオキシネオデカネート、t-ブチルパーオキシピバレート、t-ヘキシルパーオキシピバレート、α-クミルパーオキシネオデカネート等のパーエステル化合物;アセチルシクロヘキシルスルホニルパーオキサイド、2,4,4-トリメチルペンチル-2-パーオキシフェノキシアセテート、3,5,5-トリメチルヘキサノイルパーオキサイド、ラウロイルパーオキサイド等の過酸化物;アゾビス-2,4-ジメチルバレロニトリル、アゾビス(4-2,4-ジメチルバレロニトリル)等のアゾ化合物等が挙げられる。水溶性の重合開始剤としては、例えば過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム、過酸化水素、クメンハイドロパーオキサイド等が挙げられる。これらの重合開始剤は単独で、又は2種類以上を併用できる。
【0049】
ビニル化合物の懸濁重合に際し、重合温度には特に制限はなく、20℃程度でも90℃を超えてもよい。また、重合反応系の除熱効率を高めるために、リフラックスコンデンサー付の重合器を用いることもできる。
【0050】
ビニル化合物の懸濁重合に際して、組成物(D)の他に、ビニル化合物を水性媒体中で懸濁重合する際に通常使用されるメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシプロピルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロースなどの水溶性セルロースエーテル;ゼラチンなどの水溶性ポリマー;ソルビタンモノラウレート、ソルビタントリオレート、グリセリントリステアレート、エチレンオキシドプロピレンオキシドブロックコポリマーなどの油溶性乳化剤;ポリオキシエチレンソルビタンモノラウレート、ポリオキシエチレングリセリンオレート、ラウリン酸ナトリウムなどの水溶性乳化剤等を併用してもよい。その添加量については特に制限は無いが、ビニル化合物100質量部あたり0.01質量部以上1.0質量部以下が好ましい。
【実施例】
【0051】
以下、本発明を実施例によりさらに詳細に説明する。以下の実施例及び比較例において、特に断りがない場合、「部」及び「%」はそれぞれ質量部及び質量%を示す。
【0052】
[PVAの粘度平均重合度]
PVAの粘度平均重合度はJIS-K6726(1994年)に準じて測定した。具体的には、けん化度が99.5モル%未満の場合には、けん化度99.5モル%以上になるまでけん化したPVAについて、水中、30℃で測定した極限粘度[η](リットル/g)を用いて下記式により粘度平均重合度(P)を求めた。なお、変性PVA(A)のけん化度は、得られた組成物(D)からなる粉末を再沈精製して単離された変性PVA(A)について測定した値である。
P=([η]×104/8.29)(1/0.62)
【0053】
[PVAのけん化度]
PVAのけん化度は、JIS-K6726(1994年)に記載の方法により求めた。なお、変性PVA(A)のけん化度は、得られた組成物(D)からなる粉末を再沈精製して単離された変性PVA(A)について測定した値である。
【0054】
[変性PVA(A)の導入変性基量]
組成物(D)の10%水溶液を調製した。この水溶液を、500gの酢酸メチル/水=95/5の溶液中に5g滴下し変性PVA(A)を析出させ、回収し乾燥させた。単離された変性PVA(A)について、1H-NMRを用いて変性PVA(A)中に導入された二重結合の量を測定し、導入変性基量を求めた。なお、当該二重結合の量は変性PVA(A)中の全モノマー単位に対する二重結合のモル数である。
【0055】
[組成物(D)の水溶液における水不溶解分]
組成物(D)の4%水溶液を100g作成したのち200メッシュの金網で全量ろ過し(ろ過前の金網の質量をa[g]とする)、金網ごと105℃で3時間乾燥した(乾燥後の金網と金網上に残存した物質の合計質量をb[g]とする)。下記式を用いて水不溶解分(ppm)を求めた。
水不溶解分(ppm)=1000000×(b-a)/4
【0056】
組成物1の製造
エステル化剤として無水メタクリル酸5.5部と、化合物(C)としてt-ブチルヒドロキノン0.3部とを、酢酸メチルにエステル化剤の濃度が40%となるように溶解した溶液を調製し、PVA(E)として、粘度平均重合度800、けん化度72モル%のPVA100部を加え、20℃の温度下、真空乾燥を行って溶媒を除去した。次いで120℃の温度下、6時間熱処理を行ったのち、不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)としてメタクリル酸1.5部を加えることで、メタクリロイル基が導入された変性PVA(A)、不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)及び化合物(C)を含有する粉末状の組成物1を得た。なお、上記不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の使用量は、変性PVA(A)100部に対する量である。上記変性PVA(A)は、6.0~6.5ppm付近に導入された二重結合のピークが確認され、導入変性基量は全モノマー単位に対して0.21モル%であった。また、上記変性PVA(A)の粘度平均重合度は800、けん化度は72モル%であった。組成物1における変性PVA(A)/不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)の質量比は98.5/1.5であった。
【0057】
組成物2~13の製造
PVA(E)、エステル化剤、化合物(C)、不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)のそれぞれの種類と量、熱処理条件を表1及び2に示す通りに変更した以外は組成物1の製造と同様にして組成物2~13を製造した。条件と結果を表1及び2に示す。
【0058】
【0059】
実施例1
得られた組成物1を製造後に20℃で5日置いたあと4%水溶液を調製し、前述の方法で水不溶解分(以下、「水不溶解分(P)」と呼ぶことがある)を測定したところ5ppmであった。また、製造後50℃で6ヶ月放置してから同様に水不溶解分(以下、「水不溶解分(Q)」と呼ぶことがある)を測定すると5ppmであった。水不溶解分の増加割合(Q/P)は、水不溶解分(Q)/水不溶解分(P)=1.0であった。
また、製造後50℃で6カ月放置した組成物1を懸濁重合用分散安定剤として脱イオン水に溶解させてオートクレーブに100部仕込んだ。水溶液における組成物1の濃度は、塩化ビニルの仕込み量に対して400ppmであった。次いで、脱イオン水の合計が1200部となるように脱イオン水を追加して仕込んだ。次いで、クミルパーオキシネオデカノエートの70%トルエン溶液0.65部及びt-ブチルパーオキシネオドデカネートの70%トルエン溶液1.05部をオートクレーブに仕込み、オートクレーブ内に圧力0.2MPaとなるように窒素を導入した。その後、窒素のパージを行う操作を計5回行い、オートクレーブ内を十分に窒素置換して酸素を除いた後、塩化ビニル940部を仕込んだ。オートクレーブ内の内容物を57℃に昇温して撹拌下で塩化ビニルの懸濁重合を開始した。重合開始時におけるオートクレーブ内の圧力は0.80MPaであった。重合を開始してから約3.5時間経過後、オートクレーブ内の圧力が0.70MPaとなった時点で重合を停止し、未反応の塩化ビニルを除去した後、重合反応物を取り出し、65℃にて16時間乾燥を行い、塩化ビニル重合体粒子を得た。
【0060】
(塩化ビニル重合体粒子の評価)
得られた塩化ビニル重合体粒子について、(1)平均粒子径、(2)粒度分布及び(3)フィッシュアイを以下の方法にしたがって評価した。評価結果を表2に示す。
【0061】
(1)平均粒子径
タイラーメッシュ基準の金網を使用して、JIS-Z8815(1994年)に記載の乾式篩法により粒度分布を測定した。その結果からRosin-Rammlerプロットを用いて平均粒子径を算出した。
【0062】
(2)粒度分布
JIS標準篩い42メッシュオンの含有量を質量%で表示した。
A:0.5%未満
B:0.5%以上1%未満
C:1%以上
【0063】
JIS標準篩い60メッシュオンの含有量を質量%で表示した。
A:5%未満
B:5%以上10%未満
C:10%以上
【0064】
なお、42メッシュオンの含有量及び60メッシュオンの含有量はともに、値が小さいほど粗大粒子が少なくて粒度分布がシャープであり、重合安定性に優れていることを示している。
【0065】
(3)フィッシュアイ
得られた塩化ビニル重合体粒子100部、DOP(ジオクチルフタレート)50部、三塩基性硫酸鉛5部及びステアリン酸亜鉛1部を150℃で7分間ロール練りして0.1mm厚のシートを作製し1000cm2当たりのフィッシュアイの数を測定した。
【0066】
実施例2~5
得られた組成物2~5を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。水不溶解分(P)と水不溶解分(Q)ともに1000ppm以下であり、水不溶解分の増加割合(Q/P)も5以下であり、水溶液の安定性が高かった。結果を表2に示す。
また、組成物(D)を表2に示す通りに変更し、実施例2についてはさらに変性PVA(A)以外のPVAを併用した以外は実施例1と同様にして塩化ビニルの懸濁重合を行った。条件及び得られた塩化ビニル重合体粒子の評価結果を表2に示す。
【0067】
比較例1
得られた組成物6を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。組成物6中に不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が含まれておらず、製造後50℃で6ヶ月放置後の水不溶解分(Q)、及び水不溶解分の増加割合(Q/P)が非常に高く、水溶液の安定性が低かった。また、組成物6をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0068】
比較例2
得られた組成物7を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。組成物7中に含まれる不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)がオレイン酸であるため、水溶液が白濁しており、水溶性が低かった。また、組成物7をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0069】
比較例3
得られた組成物8を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。水不溶解分量、及び水不溶解分の増加割合(Q/P)の値は悪くなかった。しかし、組成物8中に含まれる変性PVA(A)の重合度が低すぎるため、組成物8をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0070】
比較例4
得られた組成物9を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。組成物9中に含まれる変性PVA(A)のけん化度が低すぎるため、水に不溶であった。また、組成物9をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。なお、組成物9は水に不溶であったため、粉末状の組成物9をそのままビニル化合物の懸濁重合に用いた。条件と結果を表2に示す。
【0071】
比較例5
得られた組成物10を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。水不溶解分量、及び水不溶解分の増加割合(Q/P)の値は悪くなかった。しかし、組成物10中に変性PVA(A)が含まれていないため、組成物10をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0072】
比較例6
得られた組成物11を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。水不溶解分量、及び水不溶解分の増加割合(Q/P)の値は悪くなかった。しかし、組成物11中に含まれる変性PVA(A)の側鎖がマレイニル基であるため、組成物11をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0073】
比較例7
得られた組成物12を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。組成物12中に含まれる不飽和モノカルボン酸又はその塩(B)が多すぎるため、水不溶解分(Q)、及び水不溶解分の増加割合(Q/P)が高かった。また、組成物12をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0074】
比較例8
得られた組成物13を用い、実施例1と同様にして水不溶解分を測定した。組成物13中に含まれる変性PVA(A)の変性量が多すぎるため、水不溶解分が多かった。また、組成物13をビニル化合物の懸濁重合に用いた場合、塩化ビニル重合体粒子の粒子径が大きく、粒度分布が広く、フィッシュアイが多かった。条件と結果を表2に示す。
【0075】
【0076】
実施例において示されているように、本発明の組成物(D)は、水溶性及び保存安定性に優れ、特にビニル化合物の懸濁重合用分散安定剤として用いた際には製造後長期間が経過した後でも重合安定性に優れ、平均粒子径が小さく、粗大粒子の生成も少なく、フィッシュアイが抑制されたビニル系樹脂の提供が可能である。したがって、本発明の工業的な有用性はきわめて高い。