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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B1)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-19
(45)【発行日】2023-07-27
(54)【発明の名称】車載用トランス及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
   H01F 30/10 20060101AFI20230720BHJP
   H01F 27/32 20060101ALI20230720BHJP
   H01F 27/24 20060101ALI20230720BHJP
   C08K 3/20 20060101ALI20230720BHJP
   C08L 81/02 20060101ALI20230720BHJP
   C08L 25/04 20060101ALI20230720BHJP
【FI】
H01F30/10 J
H01F27/32 170
H01F27/24 Q
C08K3/20
C08L81/02
C08L25/04
【請求項の数】 14
(21)【出願番号】P 2023522925
(86)(22)【出願日】2022-10-27
(86)【国際出願番号】 JP2022040161
【審査請求日】2023-04-13
(31)【優先権主張番号】P 2021176810
(32)【優先日】2021-10-28
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【早期審査対象出願】
(73)【特許権者】
【識別番号】390006323
【氏名又は名称】ポリプラスチックス株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002077
【氏名又は名称】園田・小林弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】立堀 良祐
【審査官】井上 健一
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-167510(JP,A)
【文献】国際公開第2013/046682(WO,A1)
【文献】特開2001-288363(JP,A)
【文献】特開2020-105502(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 30/10
H01F 27/32
H01F 27/24
C08K 3/20
C08L 81/02
C08L 25/04
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも一つの樹脂成形体を含む車載用トランスであり、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%であ
前記樹脂成形体が、スチレン系重合体及びスチレン系共重合体からなる群から選択される1以上をさらに含む、車載用トランス。
【請求項2】
少なくとも一つの樹脂成形体を含む車載用トランスであり、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%であり、
水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされておらず、
前記樹脂成形体が、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上をさらに含み、
前記樹脂成形体中の、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の総含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して9~150質量部である、車載用トランス。
【請求項3】
少なくとも一つの樹脂成形体を含む車載用トランスであり、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%であり、
前記水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされておらず、かつ平均粒子径が0.8μm以下である、車載用トランス。
【請求項4】
前記水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされていない、請求項1に記載の車載用トランス。
【請求項5】
前記水酸化マグネシウムの平均粒子径が1.0μm以下である、請求項1、2又は4に記載の車載用トランス。
【請求項6】
前記樹脂成形体が、無機充填剤(但し、水酸化マグネシウムを除く)をさらに含む、請求項1からのいずれか一項に記載の車載用トランス。
【請求項7】
前記樹脂成形体中の無機充填剤の含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して10~200質量部である、請求項に記載の車載用トランス。
【請求項8】
前記樹脂成形体が、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上をさらに含む、請求項に記載の車載用トランス。
【請求項9】
前記樹脂成形体中の、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の総含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して9~150質量部である、請求項に記載の車載用トランス。
【請求項10】
前記オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上が、いずれも反応性官能基を有さない、請求項2、8又はに記載の車載用トランス。
【請求項11】
前記オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、及びスチレン系共重合体からなる群から選択される1以上が、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)及び/又はエチレンオクテン共重合体を含む、請求項2、、又は9に記載の車載用トランス。
【請求項12】
車載用トランスが、2つのコイル及び磁性コアを有し、
少なくとも一つの樹脂成形体が、2つのコイル及び/又は磁性コアの少なくとも一部の表面を覆うように形成されている、請求項1からのいずれか一項に記載の車載用トランス。
【請求項13】
請求項1から4のいずれか一項に記載の車載トランスの製造方法であり、
樹脂成形体を得る工程を有し、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物を用いて得られ、
前記樹脂組成物中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である、車載トランスの製造方法。
【請求項14】
請求項1に記載の車載トランスの製造方法であり、
樹脂成形体を得る工程を有し、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物を用いて得られ、
前記樹脂組成物中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%であり、
前記水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされていない、車載トランスの製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、車載用トランス及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
トランスは、充電器などに用いられる部品の一つであり、例えば2つのコイルと磁性コア(鉄心など)とで構成されている。コイルや磁性コアを絶縁する部材として、樹脂成形体が用いられている。車載用充電器等に用いられる車載用トランスは、非常に小型であり、また、高い電圧が掛かることがあるため、トラッキングが発生しやすい。そのため、車載用トランスを構成する樹脂成形体には高い耐トラッキング性が求められる。
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、耐熱性、機械的物性、耐化学薬品性、寸法安定性、難燃性に優れていることから、電気・電子機器部品材料、自動車部品材料、化学機器部品材料等に広く使用されている。しかしながら、ポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリアミド樹脂等の他のエンジニアリングプラスチックに比べ、耐トラッキング性が大きく劣るという欠点を有している。
ポリアリーレンスルフィド樹脂の耐トラッキング性を高める技術として、ポリアリーレンスルフィド樹脂に水酸化マグネシウムを添加する技術がある(例えば、特許文献1)。
【0003】
【文献】特開2001-288363号公報
【発明の概要】
【0004】
水酸化マグネシウムの添加量が多いほど耐トラッキング性が高まることが期待されるが、水酸化マグネシウムは分散性が悪いため、添加量に対してCTI(比較トラッキング指数)が上がりにくい。一方、水酸化マグネシウムの添加量を多くすると、流動性が悪くなり、成形が困難となる。
【0005】
本発明は、耐トラッキング性に優れる車載用トランス及びその製造方法を提供することを課題とする。
【0006】
本発明者の研究により、水酸化マグネシウムの含有量とポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率との両方を調整した樹脂成形体を用いることで、耐トラッキング性に優れる車載用トランスを実現できることが見出された。
【0007】
本発明は以下の態様を有する。
[1]少なくとも一つの樹脂成形体を含む車載用トランスであり、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である、車載用トランス。
[2]前記水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされていない、[1]に記載の車載用トランス。
[3]前記水酸化マグネシウムの平均粒子径が1.0μm以下である、[1]又は[2]に記載の車載用トランス。
[4]前記樹脂成形体が、無機充填剤(但し、水酸化マグネシウムを除く)をさらに含む、[1]から[3]のいずれかに記載の車載用トランス。
[5]前記樹脂成形体中の無機充填剤の含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して10~200質量部である、[4]に記載の車載用トランス。
[6]前記樹脂成形体が、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上をさらに含む、[1]から[5]のいずれかに記載の車載用トランス。
[7]前記樹脂成形体中の、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の総含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して9~150質量部である、[6]に記載の車載用トランス。
[8]前記オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上が、いずれも反応性官能基を有さない、[6]又は[7]に記載の車載用トランス。
[9]前記オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、及びスチレン系共重合体からなる群から選択される1以上が、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)及び/又はエチレンオクテン共重合体を含む、[8]に記載の車載用トランス。
[10]車載用トランスが、2つのコイル及び磁性コアを有し、
少なくとも一つの樹脂成形体が、2つのコイル及び/又は磁性コアの少なくとも一部の表面を覆うように形成されている、[1]から[9]のいずれかに記載の車載用トランス。
[11]樹脂成形体を得る工程を有し、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物を用いて得られ、
前記樹脂組成物中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である、車載トランスの製造方法。
[12]前記水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされていない、[11]に記載の製造方法。
【0008】
本発明によれば、耐トラッキング性に優れる車載用トランス及びその製造方法を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の一実施形態について詳細に説明する。本発明は、以下の実施形態に限定されるものではなく、本発明の効果を阻害しない範囲で適宜変更を加えて実施することができる。
【0010】
[車載用トランス]
本実施形態に係る車載用トランスは、少なくとも一つの樹脂成形体を含む。
(樹脂成形体)
樹脂成形体は、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である。このように酸化マグネシウムの含有量とポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率との両方を調整した樹脂成形体を用いることで、耐トラッキング性に優れる車載用トランスを実現できる。
【0011】
(ポリアリーレンスルフィド樹脂)
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、以下の一般式(I)で示される繰り返し単位を有する樹脂である。
-(Ar-S)- ・・・(I)
(但し、Arは、アリーレン基を示す。)
【0012】
アリーレン基は、特に限定されないが、例えば、p-フェニレン基、m-フェニレン基、o-フェニレン基、置換フェニレン基、p,p’-ジフェニレンスルフォン基、p,p’-ビフェニレン基、p,p’-ジフェニレンエーテル基、p,p’-ジフェニレンカルボニル基、ナフタレン基等を挙げることができる。ポリアリーレンスルフィド樹脂は、上記一般式(I)で示される繰り返し単位の中で、同一の繰り返し単位を用いたホモポリマーの他、異種の繰り返し単位を含むコポリマーとすることができる。
【0013】
ホモポリマーとしては、アリーレン基としてp-フェニレン基を有する、p-フェニレンスルフィド基を繰り返し単位とするものが好ましい。p-フェニレンスルフィド基を繰り返し単位とするホモポリマーは、極めて高い耐熱性を持ち、広範な温度領域で高強度、高剛性、さらに高い寸法安定性を示すからである。このようなホモポリマーを用いることで非常に優れた物性を備える成形体を得ることができる。
【0014】
コポリマーとしては、上記のアリーレン基を含むアリーレンスルフィド基の中で異なる2種以上のアリーレンスルフィド基の組み合わせが使用できる。これらの中では、p-フェニレンスルフィド基とm-フェニレンスルフィド基とを含む組み合わせが、耐熱性、成形性、機械的特性等の高い物性を備える成形体を得るという観点から好ましい。p-フェニレンスルフィド基を70mol%以上含むポリマーがより好ましく、80mol%以上含むポリマーがさらに好ましい。なお、フェニレンスルフィド基を有するポリアリーレンスルフィド樹脂は、ポリフェニレンスルフィド樹脂(PPS樹脂)である。
【0015】
ポリアリーレンスルフィド樹脂は、一般にその製造方法により、実質的に線状で分岐や架橋構造を有しない分子構造のものと、分岐や架橋を有する構造のものが知られているが、本実施形態においてはその何れのタイプのものについても有効である。
【0016】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の溶融粘度は、本発明の効果を損ねない範囲であれば特に限定されないが、310℃及びせん断速度1200sec-1で測定した溶融粘度が、混合系の場合も含め600Pa・s以下が好ましく、中でも5~300Pa・sの範囲にあるものは、機械的物性と流動性のバランスが優れており、特に好ましい。
【0017】
ポリアリーレンスルフィド樹脂の製造方法は、特に限定されず、従来公知の製造方法によって製造することができる。例えば、低分子量のポリアリーレンスルフィド樹脂を合成後、公知の重合助剤の存在下で、高温下で重合して高分子量化することで製造することができる。
【0018】
樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率は、15~50%であり、好ましくは15~45%であり、より好ましくは15~43%であり、さらに好ましくは20~41%である。樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率を15~50%にすることにより、水酸化マグネシウムを所定量添加することによる耐トラッキング性の向上効果を十分に発現させることができる。また、樹脂成形体を構成する樹脂組成物の流動性が低下することを防ぐことができる。
体積分率は、各原料の比重から計算により求めることができる。すなわち、各原料について質量(g)を比重(g/cm)で除した値(体積(cm))を算出し、その総計に対するポリアリーレンスルフィド樹脂の体積の割合をポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率とする。
【0019】
一実施形態において、樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率は、25.5~49.5%とすることができる。
一実施形態において、樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率は、25.5~41.5%とすることができる。
【0020】
体積分率の調整方法は、樹脂成形体の製造に用いる樹脂組成物中の各成分の比重及び含有量を考慮しつつポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量を調整することにより行うことができる。
一実施形態において、樹脂組成物中のポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量は、10~50質量%とすることができ、15~50質量%とすることができ、15~45質量%とすることもできるが、これに限定されない。
【0021】
(水酸化マグネシウム)
水酸化マグネシウムとしては、化学式Mg(OH)で示される無機物を80質量%以上含む純度の高い水酸化マグネシウムが好ましい。耐トラッキング性をより高める観点から、好ましくは、Mg(OH)で示される無機物を80質量%以上含み、かつCaO含量が5質量%以下、塩素含量が1質量%以下の水酸化マグネシウムであり、より好ましくは、Mg(OH)を95質量%以上含み、かつCaO含量が1質量%以下、塩素含量が0.5質量%以下の水酸化マグネシウムであり、さらに好ましくは、Mg(OH)を98質量%以上含み、かつCaO含量が0.1質量%以下、塩素含量が0.1質量%以下の高純度水酸化マグネシウムである。
【0022】
水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法で測定された平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、好ましくは1.5μm以下であり、より好ましくは1μm以下であり、さらに好ましくは0.8μm以下である。水酸化マグネシウムの平均粒子径が小さいほど耐トラッキング性に優れることが分かった。平均粒子径の下限値は、限定されず、0.01μm以上、又は0.1μm以上とすることができる。
一実施形態において、水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法で測定された平均粒子径は、0.5~1.2μmとすることができる。一実施形態において、水酸化マグネシウムのレーザー回折散乱法で測定された平均粒子径は、0.5~0.7μmとすることができる。
【0023】
水酸化マグネシウムは、フィード性や洗浄性(フィーダーを洗浄することの容易性)に劣るため、樹脂組成物とする場合のハンドリング性(つまり、押出によるペレット化の容易性)に劣ることがある。本発明者の研究により、表面処理がされていない水酸化マグネシウムを使用することで、ハンドリング性よく車載用トランス用の樹脂成形体を成形することができることが分かった。加えて、表面処理されておらずかつ平均粒子径がより小さい(好ましくは1μm以下、より好ましくは0.8μm以下)の水酸化マグネシウムを用いることで、後述する(共)重合体の含有量が少ない場合でも、600V以上の比較トラッキング指数を実現することができることが分かった。
【0024】
一実施形態において、水酸化マグネシウムは、表面処理剤による表面処理がなされていないことが好ましい。表面処理剤による表面処理がなされていない水酸化マグネシウムとしては、カタログ又は安全データシート(SDS)の記載から表面処理剤による表面処理がされていないものを選択して用いることができる。水酸化マグネシウムが表面処理剤による表面処理がなされていないことは、例えば、水酸化マグネシウムを熱分解ガスクロマトグラフィー質量分析法により、パイロライザー・ガスクロマト(GC)/質量分析(MS)装置を用いて測定した際に、有機物に由来するピークが存在しないことにより確認することができる。
表面処理剤としては、シラン系カップリング剤、リン酸エステル類等が挙げられる。シラン系カップリング剤としては、例えば、ビニルメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリクロロシラン等のビニルシラン化合物、γ-グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、γ-グリシドキシプロピルトリエトキシシラン、β-(3,4-エポキシシクロヘキシル)エチルメトキシシラン等のエポキシシラン化合物、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルメチルジメトキシシラン、γ-(2-アミノエチル)アミノプロピルトリメトキシシラン、γ-アミノプロピルトリメトキシシラン等のアミノシラン化合物、γ-メタクリロキシプロピルメチルメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリメトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルメチルジエトキシシラン、γ-メタクリロキシプロピルトリエトキシシラン等のアクリルシラン化合物等が挙げられる。リン酸エステルとしては、炭素原子数10~30のアルキル基又はアルカンジイル基を有するリン酸エステル(リン酸モノエステル、リン酸ジエステル及びリン酸トリエステル)等が挙げられる。リン酸エステルとしては、以下の式:
(式中、Rは炭素数10~30のアルキル基又はアルカンジイル基を示し、Mは周期表第1A族原子又はH を示し、nは1又は2を示す)
で示されるものが挙げられる。
【0025】
一実施形態において、水酸化マグネシウムは、表面に炭素原子数1~30の、アルキル基及びアルカンジイル基を有していないことが好ましい。一実施形態において、樹脂成形体を構成する樹脂組成物は、シラン系カップリング剤及びリン酸エステルの総含有量が全樹脂組成物中1質量%未満であることが好ましく、0.1質量%未満であることがより好ましい。
一実施形態において、樹脂成形体は、シラン系カップリング剤及びリン酸エステルの反応残基を含まないことが好ましい。
【0026】
水酸化マグネシウムの含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、好ましくは110~300質量部であり、より好ましくは120~230質量部である。水酸化マグネシウムの含有量をポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部にすることにより、耐トラッキング性の向上効果を十分に発現させることができる。また、樹脂成形体を構成する樹脂組成物の流動性が低下することを防ぐことができる。
【0027】
(無機充填剤)
本実施形態に係る車載用トランスは、必要に応じて、水酸化マグネシウム以外の1以上の無機充填剤(以下、単に「無機充填剤」ともいう)を含有することができる。水酸化マグネシウム以外の無機充填剤を含有することにより、機械的強度、耐高低温衝撃性、耐熱性等をより向上させることができる。
【0028】
無機充填剤としては、繊維状無機充填剤、板状無機充填剤、及び粉粒状無機充填剤等が挙げられる。
繊維状無機充填剤としては、ガラス繊維、シリカ繊維、シリカ-アルミナ繊維、ジルコニア繊維、窒化硼素繊維、窒化珪素繊維、硼素繊維、チタン酸カリ繊維、ウォラストナイト等が挙げられる。繊維状無機充填剤の平均繊維径は、耐トラッキング性及び機械物性をより高める観点から、好ましくは9μm以上17μm以下であり、より好ましくは9μm以上15μm以下である。繊維状無機充填剤の平均繊維長は、特に限定されないが、成形体の機械的物性、成形加工性等を考慮し、初期形状における平均繊維長(カット長)が0.01~3mmであることが好ましく、0.05~3mmであることがより好ましく、0.1~3mmであることが更に好ましく、0.5~3mmであることが特に好ましい。繊維状無機充填剤は、樹脂組成物の比重を軽くする等の目的で、中空の繊維を使用することも可能である。
なお、「平均繊維径」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて50本の繊維片の断面における最長の直線距離を測定し、その算術平均値とする。「平均繊維長」は、走査型電子顕微鏡及び画像処理ソフトを用いて、50本の繊維片の長さを測定し、その算術平均値とする。
【0029】
板状無機充填剤としては、例えば、ガラスフレーク、マイカ、カオリン、クレイ、アルミナ(板状)等が挙げられる。
板状無機充填剤の平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、初期形状(溶融混練前の形状)において、10μm以上1000μm以下であることが好ましく、30μm以上800μm以下であることがより好ましい。平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
【0030】
粉粒状無機充填剤としては、例えば、シリカ、石英粉末、ガラスビーズ、ガラス粉、ケイ酸カルシウム、ケイ酸アルミニウム、珪藻土等のケイ酸塩、酸化鉄、酸化チタン、酸化亜鉛、アルミナ(粒状)等の金属酸化物、炭酸カルシウム、炭酸マグネシウム等の金属炭酸塩、硫酸カルシウム、硫酸バリウム等の金属硫酸塩、その他炭化ケイ素、窒化ケイ素、窒化ホウ素、等を挙げることができる。
【0031】
粉粒状無機充填剤の平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、初期形状(溶融混練前の形状)において、0.1μm以上50μm以下であることが好ましく、1μm以上40μm以下であることがより好ましい。平均粒子径(体積基準累積50%径D50)は、レーザー回折散乱法で測定することができる。
無機充填剤は、上記した各種無機充填剤から選ばれる1以上を含むことができる。
【0032】
無機充填剤は、表面処理されていてもよく、表面処理されていなくてもよい。表面処理されている場合は、一般的に知られているエポキシ系化合物、イソシアネート系化合物、シラン系化合物、チタネート系化合物、脂肪酸等の各種表面処理剤により表面処理されていてよい。例えば、ガラス繊維の場合は、表面処理することにより、ポリアリーレンスルフィド樹脂との密着性を向上させることができる。表面処理剤は、材料調製の前に予め無機充填剤に適用して表面処理又は収束処理を施しておくか、または材料調製の際に同時に添加してもよい。
【0033】
無機充填剤の含有量は、機械的強度、耐高低温衝撃性をより高める観点から、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは10~200質量部であり、より好ましくは30~200質量部であり、さらに好ましくは50~120質量部である。
【0034】
水酸化マグネシウムと、水酸化マグネシウム以外の1以上の無機充填剤とを併用した場合、水酸化マグネシウムと、水酸化マグネシウム以外の無機充填剤総量との好ましい含有質量比率(水酸化マグネシウム/水酸化マグネシウム以外の無機充填剤総量)は、0.5以上が好ましく、1.0以上がより好ましく、1.5以上が特に好ましい。
【0035】
((共)重合体)
本実施形態に係る車載用トランスは、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体(以下、単に「(共)重合体」ともいう。)をさらに含むことが好ましい。
【0036】
オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体を含むことで、耐トラッキング性をより高めることができることが分かった。オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
【0037】
オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体としては、α-オレフィンの単独重合体及び共重合体が挙げられる。α-オレフィンとしては、例えば、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-ヘプテン、1-オクテン、4-メチル-1-ペンテン、4-メチル-1-ヘキセン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。耐トラッキング性をより高める観点から、炭素原子数2~10の直鎖状α-オレフィンの、単独重合体及び/又は共重合体を含むことが好ましい。炭素原子数2~10の直鎖状α-オレフィンとしては、エチレン、プロピレン、1-ブテン、1-ペンテン、1-ヘキセン、1-オクテン、1-ノネン、1-デセン等が挙げられる。オレフィン系重合体及びオレフィン系共重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
中でも、オレフィン系共重合体としては、炭素原子数2~5の直鎖状α-オレフィンと炭素原子数6~10の直鎖状α-オレフィンとの共重合体を含むことが好ましく、エチレンと炭素原子数6~10の直鎖状α-オレフィンとの共重合体を含むことがより好ましく、エチレンと1-オクテンとの共重合体を含むことがさらに好ましい。一実施形態において、オレフィン系共重合体は、エチレン5~95質量%とα-オレフィン5~95質量%からなる共重合体であってもよい。
【0038】
スチレン系重合体及びスチレン系共重合体としては、スチレン、ビニルナフタレン等のスチレン系単量体の単独重合体及び共重合体、並びに、スチレン系単量体と他のビニル系単量体との共重合体等が挙げられる。他のビニル系単量体としては、上記したα-オレフィン等が挙げられる。スチレン系重合体及びスチレン系共重合体は、2種類以上を併用することも可能である。
中でも、スチレン系重合体としては、ポリスチレンを含むことが好ましく、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)を含むことがより好ましい。
【0039】
フッ素系樹脂としては、ポリテトラフルオロエチレン、ポリクロロトリフルオロエチレン、ポリフッ化ビニリデン、ポリフッ化ビニル、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、テトラフルオロエチレン-パーフルオロアルキルビニルエ-テル共重合体、テトラフルオロエチレン-エチレン共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン-フッ化ビニリデン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-エチレン共重合体、クロロトリフルオロエチレン-フッ化ビニリデン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ素化エチレン-プロピレン共重合体等が挙げられる。また本発明の効果を損なわない範囲で、上記フッ素系樹脂と共重合可能なモノマーや、末端封鎖剤を併用して重合して得られた共重合体を用いることもできる。フッ素系樹脂は2種類以上を併用することも可能である。
【0040】
一実施形態において、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上は、1以上の反応性置換基を有していてもよい。
別の実施形態において、樹脂成形体を構成する樹脂組成物の流動性をより高める観点から、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上が、いずれも反応性官能基を有さないことが好ましい。
【0041】
反応性官能基としては、例えば、アミノ基、カルボキシル基、水酸基、酸無水物基、エポキシ基、グリシジル基、イソシアネート基、イソチオシアネート基、アセトキシ基、シラノール基、アルコキシシラン基、アルキニル基、オキサゾリン基、チオール基、スルホン酸基等が挙げられる。
【0042】
一実施形態において、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体は、シンジオタクチックポリスチレン(SPS)及び/又はエチレンオクテン共重合体を含むことが好ましい。
【0043】
オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体の含有量は、耐トラッキング性をより高める観点から、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、好ましくは9~150質量部であり、より好ましくは10~100質量部であり、さらに好ましくは15~80質量部である。
【0044】
一実施形態において、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上の(共)重合体の含有量は、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して、17~77質量部とすることができる。
【0045】
(その他の添加剤)
本実施形態に係る車載用トランスは、必要に応じて、一般に熱可塑性樹脂に添加される公知の物質、例えば、難燃剤、染料や顔料等の着色剤、酸化防止剤や紫外線吸収剤等の安定剤、潤滑剤、離型剤、結晶化促進剤、結晶核剤等を含有していてもよい。
【0046】
本実施形態に係る車載用トランスは、本発明の効果を阻害しない範囲で、必要に応じて、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び(共)重合体以外の、他の熱可塑性樹脂を含有していてもよい。他の熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート等の芳香族ジカルボン酸とジオール或いはオキシカルボン酸等からなる芳香族ポリエステル、ポリアミド、ポリカーボネート、ABS、ポリフェニレンオキサイド、ポリアルキルアクリレート、ポリサルホン、ポリエーテルサルホン、ポリエーテルイミド、ポリエーテルケトン、フッ素樹脂等を挙げることができる。これらの熱可塑性樹脂は、2種以上混合して使用することもできる。他の熱可塑性樹脂成分の含有量は、例えば、樹脂成形体を構成する全樹脂組成物中20質量%以下、15質量%以下、又は10質量%以下にすることができる。
【0047】
(樹脂組成物)
樹脂成形体を構成するための樹脂組成物は、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
ポリアリーレンスルフィド樹脂の含有量が、樹脂成形体における体積分率が15~50%となる量である。
樹脂組成物は、無機充填剤(但し、水酸化マグネシウムを除く)をさらに含むことができる。樹脂組成物は、オレフィン系重合体、オレフィン系共重合体、スチレン系重合体、スチレン系共重合体、及びフッ素系樹脂からなる群から選択される1以上をさらに含むことができる。各成分の詳細については上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
【0048】
樹脂組成物の調製は、一般に合成樹脂組成物の調製に用いられる設備と方法により調製することができる。一般的には必要な成分を混合し、1軸又は2軸の押出機を使用して溶融混練し、押出して成形用ペレットとすることができる。また、溶融混練時の樹脂温度は、水酸化マグネシウムの熱分解を防止するために350℃以下が好ましい。
【0049】
(樹脂成形体の製造方法)
樹脂成形体は、上記により調整された成形用ペレットを、射出成形、押出成形、真空成形、圧縮成形等、一般に公知の熱可塑性樹脂の成形法を用いて成形することで製造することができる。車載用トランスの製造が容易となる観点から、最も好ましいのはインサート成形による射出成形である。
【0050】
(車載用トランス)
車載用トランスは、2つのコイル(一次コイル及び二次コイル)及び磁性コアを有し、少なくとも一つの樹脂成形体が、2つのコイル及び/又は磁性コアの少なくとも一部の表面を覆うように形成されていることが好ましい。少なくとも一つの樹脂成形体は、2つのコイルの絶縁被膜として形成されていてもよく、2つのコイル及び/又は磁性コアの外装材として形成されていてもよい。
車載用トランスの形状及び寸法は、求められる性能に応じて適宜選択することができる。
車載トランスの製造方法は、限定されず、公知の方法を採用することができる。例えば、樹脂組成物を、コイル及び/又は磁性コアが配置された所定の金型中に射出成形することで製造することができる。
【0051】
本実施形態に係る車載用トランスは、上記した樹脂成形体を有しているので、耐トラッキング性に優れている。よって、例えば、自動車に搭載される充電器等の変圧器として好ましく用いることができる。
【0052】
一実施形態において、車載用トランスは、IEC-60112:2003第4版に準拠する測定において、好ましくは400V以上、より好ましくは500V以上、さらに好ましくは550V以上、よりさらに好ましくは600V以上の比較トラッキング指数を示す。なお、比較トラッキング指数は、詳しくは、IEC(International electrotechnical commission)60112:2003第4版に規定される測定方法により求められる。具体的には、0.1質量%の塩化アンモニウム水溶液と白金電極を用いて測定される。より詳細には、この塩化アンモニウム水溶液を規定の滴下数(50滴)滴下し、試験片(n=5)の全てが破壊しない電圧を求め、これを比較トラッキング指数とする。
【0053】
[車載用トランスの製造方法]
本実施形態に係る車載トランスの製造方法は、樹脂成形体を得る工程を有し、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含む樹脂組成物を用いて得られ、
前記樹脂組成物中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である。
一実施形態において、水酸化マグネシウムが、表面処理剤による表面処理がなされていないことが好ましい。樹脂成形体及び樹脂組成物についての詳細は、上記のとおりであるからここでは記載を省略する。
一実施形態において、車載トランスの製造方法は、2つのコイル及び磁性コアを準備する工程を有することが好ましい。
【実施例
【0054】
以下に実施例を示して本発明を更に具体的に説明するが、これらの実施例により本発明の解釈が限定されるものではない。
【0055】
[材料]
実施例及び比較例で用いた材料は、以下のとおりである。
ポリアリーレンスルフィド樹脂(PPS樹脂):株式会社クレハ製、フォートロン(登録商標)KPS、溶融粘度20Pa・s(せん断速度1200sec-1、310℃)
水酸化マグネシウム-1:神島化学工業株式会社製、平均粒子径(D50)1.1μm、表面処理あり(ビニルシラン処理0.3%)
水酸化マグネシウム-2:神島化学工業株式会社製、平均粒子径(D50)0.6μm、表面処理あり(ビニルシラン0.3%)
水酸化マグネシウム-3:神島化学工業株式会社製、平均粒子径(D50)1.1μm、表面処理なし
水酸化マグネシウム-4:神島化学工業株式会社製、平均粒子径(D50)0.6μm、表面処理なし
シンジオタクチックポリスチレン(SPS):出光興産株式会社製、130ZC
ガラス繊維:日本電気硝子株式会社製、ECS03T-747、平均繊維径13μm、平均繊維長3mm
【0056】
[実施例1~8、比較例1~5]
上記材料を用いて、表1に示す組成及び含有割合でドライブレンドした。これをシリンダー温度320℃の二軸押出機に投入して溶融混練することで、樹脂組成物ペレットを得た。
得られた樹脂ペレットを用いて、射出成形により、シリンダー温度320℃、金型温度150℃で、15mm×15mm×厚さ3mmの平板試験片を作製した。
【0057】
(体積分率)
各成分の比重として以下の値を使い、試験片中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率を算出した。結果を表1に示した。
<比重>
PPS樹脂:1.35
水酸化マグネシウム:2.36
SPS:1.05
ガラス繊維:2.55
【0058】
(評価)
上記平板試験片及び白金電極を用いて、IEC-60112:2003第4版に準拠して、0.1質量%塩化アンモニウム水溶液を滴下しながら電圧を加え、試験片にトラッキングが生じる印加電圧(V:ボルト)を測定した。なお、測定には、日立化成工業株式会社製耐トラッキング性試験機「HAT-500-3」を用いた。結果を表1に示した。CTIが400V以上の場合に、耐トラッキング性に優れている。
【0059】
【表1】
【0060】
表1に示すように、実施例1~8の樹脂成形体は、IEC-60112:2003第4版に準拠する測定において、好ましくは400V以上の比較トラッキング指数を示し、耐トラッキング性に優れている。
実施例1と実施例3との比較、及び実施例4と実施例2との比較が示すように、表面処理されていない水酸化マグネシウムを用いることで耐トラッキング性をより高めることができる。また、実施例1,3に示すように、平均粒子径がより小さい水酸化マグネシウムを用いることで耐トラッキング性をより高めることができる。
実施例5~8に示すように、水酸化マグネシウムに加えてさらに所定の(共)重合体を含むことで、耐トラッキング性をより高めることができる。
実施例8に示すように、表面処理されておらずかつ平均粒子径が小さい水酸化マグネシウムを用いることで、(共)重合体の含有量を少なくしても600V以上の比較トラッキング指数を実現することができる。
これに対して、比較例1,2に示すように、水酸化マグネシウムの含有量がPPS樹脂100質量部に対して100質量部未満であると耐トラッキング性に劣る結果となる。
比較例3に示すように、水酸化マグネシウムの含有量がPPS樹脂100質量部に対して100質量部以上である場合でも、PPS樹脂の体積分率が50%超であると耐トラッキング性を高める効果が十分ではない。
比較例4,5に示すように、所定の(共)重合体を含む場合であっても、水酸化マグネシウムの含有量がPPS樹脂100質量部に対して100質量部未満であると耐トラッキング性に劣る結果となる。
【産業上の利用可能性】
【0061】
本開示に係る車載用トランスは、耐トラッキング性に優れるため、例えば車載用充電器等に用いられるトランスとして産業上の利用可能性を有している。
【要約】
耐トラッキング性に優れる車載用トランス及びその製造方法を提供する。
少なくとも一つの樹脂成形体を含む車載用トランスであり、
前記樹脂成形体が、ポリアリーレンスルフィド樹脂及び水酸化マグネシウムを含み、
前記樹脂成形体中の水酸化マグネシウムの含有量が、ポリアリーレンスルフィド樹脂100質量部に対して100~430質量部であり、
前記樹脂成形体中のポリアリーレンスルフィド樹脂の体積分率が15~50%である、車載用トランスとする。