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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】試料処理装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/22 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
G01N1/22 V
【請求項の数】 3
(21)【出願番号】P 2019116921
(22)【出願日】2019-06-25
(65)【公開番号】P2021004728
(43)【公開日】2021-01-14
【審査請求日】2022-06-24
(73)【特許権者】
【識別番号】504137912
【氏名又は名称】国立大学法人 東京大学
(73)【特許権者】
【識別番号】502228247
【氏名又は名称】株式会社アールデック
(74)【代理人】
【識別番号】110000017
【氏名又は名称】弁理士法人アイテック国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】▲辻▼ 佳子
(72)【発明者】
【氏名】中山 健二
【審査官】佐々木 崇
(56)【参考文献】
【文献】実開昭57-205046(JP,U)
【文献】特開平10-062366(JP,A)
【文献】実開昭63-087554(JP,U)
【文献】特開2005-030874(JP,A)
【文献】特開2003-222579(JP,A)
【文献】特開平03-071057(JP,A)
【文献】特開平09-318508(JP,A)
【文献】特開昭50-021791(JP,A)
【文献】特開昭59-138956(JP,A)
【文献】特開2005-353604(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00- 1/44
25/00-25/72
31/00-31/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料容器に封入された試料を処理するための試料処理装置であって、
有底筒状で前記試料容器を収容する有底筒状容器と、前記有底筒状容器の開口を覆う開閉可能な容器蓋と、を有し、前記試料容器を収容可能であると共に開閉可能なチャンバーと、
不活性ガスを前記チャンバー内へ導入する不活性ガス導入部と、
空気を前記チャンバー内へ導入する空気導入部と、
前記チャンバー内のガスを排出するガス排出部と、
前記チャンバーに収容されている前記試料容器を破砕する破砕装置と、
前記チャンバー内の温度を検出する温度センサと、
前記チャンバー内の圧力を検出する圧力センサと、
前記チャンバー内のガスをサンプリングするガスサンプリング部と、
前記チャンバーの前記容器蓋を開けた状態で、前記有底筒状容器を傾倒させる傾倒機構と、
を備える試料処理装置。
【請求項2】
試料容器に封入された試料を処理するための試料処理装置であって、
有底筒状で前記試料容器を収容する有底筒状容器と、前記有底筒状容器の開口を覆う開閉可能な容器蓋と、を有し、前記試料容器を収容可能であると共に開閉可能なチャンバーと、
不活性ガスを前記チャンバー内へ導入する不活性ガス導入部と、
空気を前記チャンバー内へ導入する空気導入部と、
前記チャンバー内のガスを排出するガス排出部と、
前記チャンバーに収容されている前記試料容器を破砕する破砕装置と、
前記チャンバー内の温度を検出する温度センサと、
前記チャンバー内の圧力を検出する圧力センサと、
前記チャンバー内のガスをサンプリングするガスサンプリング部と、
を備え、
前記有底筒状容器は、有底筒状の外側容器と、有底筒状で前記外側容器の内側に取り外し可能に配置される内側容器と、を有する
試料処理装置。
【請求項3】
請求項1または2記載の試料処理装置であって、
前記チャンバーを加熱する加熱装置
を備える試料処理装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、試料処理装置に関し、詳しくは、試料容器に封入された試料を処理するための試料処理装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の試料処理装置としては、チャンバー(焼却炉)と、ガス導入部(燃焼用空気供給手段)と、を備えるものが提案されている(例えば、特許文献1参照)。チャンバーは、開閉可能で試料が封入された試料容器が収容される。ガス導入部は、チャンバー内に燃焼用の空気を導入する。このチャンバーでは、チャンバーに連通するサイクロン集塵機を備えている。そして、試料が封入された試料容器をチャンバーに収容し、チャンバー内に燃焼用空気を導入しながら試料容器内の試料を燃焼させる。このとき、燃焼時に発生する塵埃をサイクロン集塵機で捕集する。これにより、燃焼時に発生する塵埃が大気へ放出されることを抑制している。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平7-12320号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上述の試料処理装置では、未知の成分を含む試料を処理する場合には、安全な処理ができない場合がある。例えば、試料に空気との接触や衝撃で爆発的に燃焼する成分が含まれているときには、処理中に試料が爆発的に燃焼して、安全に処理できないことがある。また、処理中に人や環境に有害な成分を含む物質が発生することもある。この場合、処理後に試料処理装置を開けると、人や環境に有害な成分を含む物質が大気へ放出されてしまう。
【0005】
本発明の試料処理装置は、未知の成分を含む試料をより安全に処理することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明の試料処理装置は、上述の主目的を達成するために以下の手段を採った。
【0007】
本発明の試料処理装置は、
試料容器に封入された試料を処理するための試料処理装置であって、
前記試料容器を収容可能であると共に開閉可能なチャンバーと、
不活性ガスを前記チャンバー内へ導入する不活性ガス導入部と、
空気を前記チャンバー内へ導入する空気導入部と、
前記チャンバー内のガスを排出するガス排出部と、
前記チャンバー内に収容されている前記試料容器を破砕する破砕装置と、
前記チャンバー内の温度を検出する温度センサと、
前記チャンバー内の圧力を検出する圧力センサと、
前記チャンバー内のガスをサンプリングするガスサンプリング部と、
を備えることを要旨とする。
【0008】
この本発明の試料処理装置では、試料容器をチャンバーに収容した状態で、不活性ガス導入部によりチャンバー内に不活性ガスを導入した状態で、破砕装置により試料容器を破砕する。これにより、試料容器を粉砕して開封する際に、試料が爆発的に燃焼することを抑制することができ、チャンバー内に不活性ガスを導入しない場合に比して、試料容器をより安全に開封することができる。そして、ガス排出部でチャンバー内のガスを排出しながら空気導入部により空気を導入して、チャンバー内の不活性ガスを空気と置換させる。これにより、試料を爆発的な燃焼よりも制御可能な酸化反応で試料を処理することができ、試料に未知の成分が含まれる場合であっても、より安全に試料を処理できる。そして、温度センサにより検出されたチャンバー内の温度や圧力センサにより検出されたチャンバー内の圧力がチャンバーを開けて差し支えない温度や圧力の範囲内であることを確認したり、ガスサンプリング部でチャンバー内のガスをサンプリングし、サンプリングしたガスが大気へ放出しても差し支えない成分のみを含むことを確認した上で、チャンバーを開放する。これにより、チャンバーをより安全に開放することができる。この結果、未知の成分を含む試料をより安全に処理することができる。「破砕装置」としては、試料容器を上または下から潰して破砕する装置や試料容器に孔を穿つ装置、棒材の先端に羽根状の部材を取り付けて羽根状の部材を回転させながら試料容器に接触させて試料容器を破砕する装置などを含んでいてもよい。
【0009】
こうした本発明の試料処理装置であって、前記チャンバーを加熱する加熱装置を備えていてもよい。こうすれば、チャンバーを加熱しながらチャンバー内の不活性ガスを空気と置換させることによって、あるいは、チャンバー内の不活性ガスを空気と置換させた後チャンバーを加熱することによって、試料の酸化を促進させることができる。
【0010】
また、本発明の試料処理装置において、前記チャンバーは、有底筒状で前記試料容器を収容する有底筒状容器と、前記有底筒状容器の開口を覆う開閉可能な容器蓋と、を有し、前記容器蓋を開けた状態で、前記有底筒状容器を傾倒させる傾倒機構を備えていてもよい。こうすれば、有底筒状容器を傾倒させることにより、有底筒状容器内に残された試料の酸化物や試料容器の破砕物を回収することができる。
【0011】
さらに、本発明の試料処理装置において、前記チャンバーは、有底筒状で前記試料容器を収容する有底筒状容器と、前記有底筒状容器の開口を覆う開閉可能な容器蓋と、を有し、前記有底筒状容器は、有底筒状の外側容器と、有底筒状で前記外側容器の内側に取り外し可能に配置される内側容器と、を有していてもよい。こうすれば、内側容器を外側容器から取り外すことにより、破砕した試料容器を回収することができる。
【図面の簡単な説明】
【0012】
図1】本発明の一実施例としての試料処理装置20の構成の概略を示す構成図である。
図2】試料処理装置20の外観および一部の断面の概略を示す部分断面図である。
図3】試料処理装置20を図2における上から観た様子の概略を示す平面図である。
図4】容器蓋222を図2における上から観た様子の概略を示す平面図である。
図5】ヒータ32の温度とチャンバー内温度Tcとチャンバー内圧力Pcの時間変化の一例を示す説明図である。
図6】チャンバー22の有底筒状容器220が傾倒する様子の一例を示す説明図である。
図7】変形例の試料処理装置20Bの構成を説明するための説明図である。
図8】変形例の試料処理装置20Cの構成を説明するための説明図である。
図9】変形例の試料処理装置20Dの構成を説明するための説明図である。
図10】変形例の試料処理装置20Eの構成を説明するための説明図である。
【発明を実施するための形態】
【0013】
次に、本発明を実施するための形態を実施例を用いて説明する。
【実施例
【0014】
図1は、本発明の一実施例としての試料処理装置20の構成の概略を示す構成図である。図1中、太線矢印は、ガスの流れる方向の一例を示している。図2は、試料処理装置20の外観および一部の断面の概略を示す部分断面図である。図3は、試料処理装置20を図2における上から観た様子の概略を示す平面図である。図3中、二点鎖線は、チャンバー22の有底筒状容器220が傾倒している様子の一例を示している。図4は、容器蓋222を図2における上から観た様子の概略を示す平面図である。
【0015】
試料処理装置20は、試料容器10に封入された試料Sを処理するために用いられ、チャンバー22と、ガス導入管24と、ガス排出管26,27と、破砕装置28と、傾倒機構30と、ヒータ32と、温度センサ34と、圧力センサ36と、ガスサンプリング管38と、を備える。試料処理装置20は、台座部500と台座部500の上に取り付けられた囲い部502とを有する架台50に取り付けられている。
【0016】
チャンバー22は、密閉した状態で内部に大気より高い圧力(例えば、1.2MPaなど)で気体(ガス)や液体を貯留することが可能な圧力容器として形成されている。チャンバー22は、有底筒状の有底筒状容器220と、有底筒状容器220の開口を覆う開閉可能な容器蓋222と、を備える。有底筒状容器220は、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により形成されており、締結具としての複数のボルト224とシール部材としてのOリング226とにより容器蓋222に固定される環状のフランジ部220aを備える。容器蓋222は、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により形成されている。有底筒状容器220、容器蓋222は、チャンバー22が圧力容器となるようにチャンバー22の容積やチャンバー22内の圧力に応じた肉厚に形成されている。
【0017】
ガス導入管24は、容器蓋222を貫通する貫通孔に挿入されている。ガス導入管24は、不活性ガスと空気とを切り替えて供給するガス供給装置(図示せず)に接続されている。試料容器10に封入された試料Sが制御できない酸化反応により爆発現象を発生させることを妨げるという観点から、不活性ガスとしては、窒素ガスやアルゴンガス、クリプトンガスなどを挙げることができる。ガス導入管24には、手動で開閉可能なバルブ240が取り付けられている。作業者が手動でバルブ240を開弁させると、不活性ガスや空気がガス導入管24からチャンバー22内へ導入される。なお、バルブ240は、実施例では、手動で開閉しているが、図示しない制御装置からの電子信号や図示しない油圧装置からの油圧により開弁するよう構成してもよい。
【0018】
ガス排出管26は、容器蓋222を貫通する貫通孔に挿入されている。ガス排出管26は、図示しない排ガス洗浄装置(スクラバー)に接続されている。ガス排出管26には、手動で開閉可能なバルブ260が取り付けられている。作業者が手動でバルブ260を開弁させると、チャンバー22内のガスが排ガス洗浄装置へ排出される。排ガス洗浄装置は、ガス排出管26を介してチャンバー22内から排出されるガス(排ガス)に中和処理など各種処理を施して排ガスを大気に放出しても差し支えない状態にしてから、大気に放出する。なお、バルブ260は、実施例では、手動で開閉しているが、図示しない制御装置からの電子信号や図示しない油圧装置からの油圧により開弁するよう構成してもよい。
【0019】
ガス排出管27は、容器蓋222を貫通する貫通孔に挿入されている。ガス排出管27は、図示しない排ガス洗浄装置(スクラバー)に接続されている。ガス排出管27には、バルブ270が取り付けられている。バルブ270は、チャンバー22内の圧力がチャンバー22の設計圧力以下であるときには閉弁し、チャンバー22内の圧力がチャンバー22の設計圧力を超えたときには開弁する安全弁として構成されている。こうしたバルブ270を設けることにより、チャンバー22内の圧力が過度に上昇することを抑制し、チャンバー22の保護を図っている。
【0020】
破砕装置28は、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により円筒状に形成され下端が架台50の囲い部502の上部に取り付けられた第1円筒部材280と、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により円柱状に形成され第1円筒部材280内を摺動可能な第1支持部材282と、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により円筒状に形成され下端がチャンバー22の容器蓋222の上端面に取り付けられた第2円筒部材284と、ステンレス(例えば、SUS316)等の金属により形成され第1支持部材282の下端にボルト285により締結され容器蓋222,第2円筒部材284を摺動可能に貫通する第2支持部材286と、第2支持部材286の下端に固定されステンレス(例えば、SUS316)等の金属により外径が有底筒状容器220の内径より若干小さい円板状に形成された円板部材288と、第1支持部材282を鉛直方向または鉛直方向から若干ずれた方向(以下、「略鉛直方向」という)へ移動させる駆動機構290と、を備える。破砕装置28では、チャンバー22の容器蓋222を閉じてチャンバー22を密閉した状態で駆動機構290により第1支持部材282を略鉛直下方向へ移動させると、第2支持部材286が下向きに移動し、円板部材288がチャンバー22内で下向きに移動する。有底筒状容器220の底面に試料容器10が載置されているときには、円板部材288で試料容器10を上から潰して破砕することができる。チャンバー22の容器蓋222を閉じてチャンバー22を密閉した状態で駆動機構290により第1支持部材282を略鉛直上方向へ移動させると、第2支持部材286,円板部材288が略鉛直上方向へ移動し、円板部材288の上端面が容器蓋222の下端面に当接する。更に、駆動機構290により第1支持部材282を略鉛直上方向へ移動させると、円板部材288が容器蓋222を持ち上げて、チャンバー22の容器蓋222を開いた状態とする。
【0021】
傾倒機構30は、操作レバー302の回転に伴って回転する回転部材304と、回転部材304に取り付けられた2つの固定部材306と、チャンバー22の有底筒状容器220の外底面に取り付けられた2つの固定部材308と、2つの固定部材306,308を締結する2つのボルト310と、を備える。駆動機構290により円板部材288を略鉛直上方向へ移動させて円板部材288で容器蓋222を持ち上げてチャンバー22を開けた状態で、操作レバー302を図2において紙面における手前方向へ回動させると、回転部材304と共に2つの固定部材306と2つの固定部材308とが回転し、有底筒状容器220が図2における紙面手前側へ傾倒する。
【0022】
ヒータ(加熱装置)32は、チャンバー22の有底筒状容器220の外側面に取り付けており、チャンバー22を加熱する。
【0023】
温度センサ34は、チャンバー22の容器蓋222に取り付けられており、チャンバー22内の温度(チャンバー内温度)Tcを検出する。圧力センサ36は、チャンバー22の容器蓋222に取り付けられており、チャンバー22内の圧力(チャンバー内圧力)Pcを検出する。
【0024】
ガスサンプリング管38は、容器蓋222を貫通している。ガスサンプリング管38は、ガスの成分を分析する図示しない成分分析装置に連結されている。チャンバー22内のガスは、ガスサンプリング管38からサンプリングされて、成分分析装置でどのような成分を含んでいるかが分析される。なお、成分分析装置は、図示しない排ガス洗浄装置(スクラバー)に接続されており、成分が分析された後のガスは、排ガス洗浄装置により有害ガスの規定基準値以下まで無害化される。
【0025】
次に、こうして構成された実施例の試料処理装置20を用いて試料容器10に封入されている試料Sを処理する際の動作について説明する。
【0026】
最初に、駆動機構290で円板部材288を略鉛直上方向へ移動させて、円板部材288で容器蓋222を持ち上げて、チャンバー22を開いた状態とする。そして、試料容器10をチャンバー22の有底筒状容器220の内底部に載置する。
【0027】
試料容器10を有底筒状容器220の内底部に載置すると、駆動機構290で円板部材288を、容器蓋222の下端面と有底筒状容器220のフランジ部220aの上端面とが当接するまで略鉛直下方向へ移動させる。容器蓋222の下端面と有底筒状容器220のフランジ部220aの上端面とが当接したら、駆動機構290を停止してボルト224により容器蓋222を有底筒状容器220のフランジ部220aに固定し、チャンバー22を密閉する。
【0028】
次に、ガス供給装置と排ガス洗浄装置とを作動させると共にバルブ240,260を開弁させ、ガス排出管26からチャンバー22内のガスを排出しながらガス導入管24よりチャンバー22内に不活性ガスを導入して、チャンバー22内の空気を不活性ガスに置換する。チャンバー22内の空気を不活性ガスに置換したら、バルブ240,260を閉弁させると共に駆動機構290で円板部材288を更に略鉛直下方向へ移動させて、試料容器10を上から潰して破砕して開封する。チャンバー22内の空気を不活性ガスに置換してから試料容器10を開封することにより、試料容器10の試料Sが爆発的に燃焼することを抑制することができ、チャンバー内に不活性ガスを導入しない場合に比して、試料容器10をより安全に開封することができる。
【0029】
試料容器10を破砕したら、バルブ260を開弁させてガス排出管26でチャンバー22内のガスを排出しながらバルブ240を開弁させて、ガス導入管24で密閉されているチャンバー22内に空気を少しずつ導入し、チャンバー22内の不活性ガスを空気で置換していく。このとき、ヒータ32を作動させて、チャンバー22を加熱してチャンバー22内を昇温させる。図5は、ヒータ32の温度とチャンバー内温度Tcとチャンバー内圧力Pcの時間変化の一例を示す説明図である。図中、実線はヒータ32の温度の時間変化の一例を示している。破線はチャンバー内温度Tcの時間変化の一例を示している。一点鎖線はチャンバー内圧力Pcの時間変化の一例を示している。ヒータ32の温度が上昇するとチャンバー内温度Tcが上昇する。チャンバー22は圧力容器として構成されているから、ヒータ32の温度が上昇するとチャンバー内の圧力が抜けることなくチャンバー内圧力Pcが上昇する。
【0030】
このように、チャンバー22内の空気を不活性ガスに置換した上で試料容器10を破砕し、その後、チャンバー22内の不活性ガスを徐々に空気と置換することにより、試料Sが空気に触れると爆発的に燃焼する成分を含む場合でも、試料Sの爆発的な燃焼を抑制して、試料Sを酸化させることができる。したがって、試料Sが未知の成分を含み、その未知の成分が空気に触れると爆発的に燃焼する場合であっても、試料Sが爆発的に燃焼することを抑制できる。また、チャンバー22内の不活性ガスを徐々に空気と置換する際にヒータ32を作動させるから、試料Sの酸化を促進できる。さらに、ガス排出管26から排出したガスは、排ガス洗浄装置での中和処理などにより、大気に放出しても差し支えない状態にした上で大気に放出される。これにより、試料Sが未知な成分を含んでいるときでも、試料Sを安全に酸化させて処理することができる。
【0031】
続いて、ヒータ32を停止して、温度センサ34により検出されたチャンバー内温度Tcがチャンバー22の容器蓋222を開けて差し支えない程度に低い温度であることや、圧力センサ36により検出されたチャンバー内圧力Pcが容器蓋222を開けて差し支えない程度に低い圧力となっていること、ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスが大気に放出しても差し支えない成分のみを含むことを確認したときには、バルブ240,260を閉弁させると共に駆動機構290で円板部材288を上方へ移動させて、円板部材288で容器蓋222を持ち上げて開ける。これにより、チャンバー内温度Tcやチャンバー内圧力Pc、チャンバー22内のガス成分を確認せずに容器蓋222を開放するものに比して、より安全に容器蓋222を開放することができる。なお、「ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスが大気に放出しても差し支えない成分のみを含むこと」には、ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスに含まれる環境に対して有害な成分が環境基準値以下であること、および、ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスを大気に放出しても引火・発火の可能性が低いこと、および、ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスが作業者がばく露しても差し支えない成分のみを含むこと(ガスサンプリング管38からサンプリングされるガスに含まれる人体に毒性があるガスの成分が毒性基準値以下であること)、の3つのうちの少なくとも1つが含まれる。
【0032】
こうして容器蓋222を開けた後は、試料処理装置20の近くに回収容器80を配置した状態で、操作レバー302を図2において紙面手前側に回転させて、回転部材304、2つの固定部材306,2つの固定部材308を回転させて、有底筒状容器220を傾倒させる。図6は、チャンバー22の有底筒状容器220が傾倒する様子の一例を示す説明図である。図中、二点鎖線は、有底筒状容器220の動きの一例を示している。回収容器80は、有底筒状容器220を傾倒させたときに有底筒状容器220に残留している試料Sの酸化物S1や試料容器10が破砕された破砕物S2を回収可能な位置に配置されている。これにより、試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収することができる。
【0033】
以上説明した実施例の試料処理装置20によれば、試料容器10をチャンバー22に収容した状態で、ガス導入管24からチャンバー22内に不活性ガスを導入し、破砕装置28により試料容器10を破砕し、ガス排出管26からチャンバー22内のガスを排出しながらガス導入管24から空気を導入して、チャンバー22内の不活性ガスを空気と置換させ、温度センサ34により検出されたチャンバー内温度Tcや圧力センサ36により検出されたチャンバー内圧力Pcがチャンバー22を開けて差し支えない温度や圧力の範囲内であることを確認し、ガスサンプリング管38からチャンバー22内のガスをサンプリングしてサンプリングしたガスが大気へ放出しても差し支えない成分のみを含むことを確認した上で、チャンバー22を開けることにより、未知の成分を含む試料Sをより安全に処理することができる。
【0034】
また、チャンバー22内の不活性ガスを空気と置換させる際にヒータ32によりチャンバー22を加熱するから、試料Sの酸化を促進させることができる。
【0035】
さらに、容器蓋222を開けた状態で、傾倒機構30で有底筒状容器220を傾倒させることにより、有底筒状容器220に残留する試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収することができる。
【0036】
実施例の試料処理装置20では、容器蓋222を開けた状態で、傾倒機構30で有底筒状容器220を傾倒させることにより、有底筒状容器220に残留する試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収している。しかしながら、図7の変形例の試料処理装置20Bに例示するように、有底筒状容器220を外側容器として、有底筒状容器220の内側に取り外し可能に配置される内側容器230を配置して、試料容器10を破砕するときには内側容器230の底部に試料容器10を載置して容器蓋222を閉めた状態とし、試料容器10を破砕した後は、容器蓋222を開けて内側容器230を取り出することにより内側容器230に残留する試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収してもよい。こうすれば、有底筒状容器220を傾倒させて試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収する場合に比して、より安全に試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収することができる。特に、試料容器10が比較的大きいときには、有底筒状容器220を傾倒させるものに比して、より安全に試料Sの酸化物S1や試料容器10の破砕物S2を回収することができる
【0037】
実施例の試料処理装置20では、破砕装置28は、第2支持部材286の下端に円板状に形成された円板部材288を備え、円板部材288で試料容器10を上から潰して破砕している。しかしながら、図8の変形例の試料処理装置20Cに例示するように、破砕装置28の第2支持部材286の下端に円板部材288を設けることに代えて第2支持部材286の下端を鋭利となるように形成し、第2支持部材286を駆動機構290で下方に移動させて試料容器10の孔を穿ってもよい。また、図9の変形例の試料処理装置20Dに例示するように、破砕装置28の第2支持部材286の下端に円板部材288を設けることに代えて第2支持部材286の下端に複数の羽状の羽根部材292を設け、駆動機構290で第2支持部材286を回転させながら下降させ、回転する羽根部材292を試料容器10に接触させて試料容器10を破砕してもよい。
【0038】
実施例の試料処理装置20では、有底筒状容器220の側面にヒータ32を備えているが、図10の変形例の試料処理装置20Eに例示するように、有底筒状容器220の底面にヒータ32を備えていてもよいし、チャンバー22の内部にヒータ32を備えていてもよいし、ヒータ32を備えていなくてもよい。
【0039】
実施例の試料処理装置20では、チャンバー22において、容器蓋222が略鉛直方向へ移動可能に構成されている。しかしながら、容器蓋222が架台50に固定され、有底筒状容器220が略鉛直方向へ移動可能に構成されていてもよい。
【0040】
実施例の試料処理装置20では、容器蓋222を略鉛直上下方向へ移動させることにより、チャンバー22を開閉している。しかしながら、チャンバー22は、試料容器10を収容可能で開閉可能であれば如何なる形状をしていてもよく、例えば、容器蓋222を固定して有底筒状容器220を略鉛直上下方向へ移動させることによりチャンバー22を開閉してもよい。また、チャンバー22を内部が中空の円筒状として、側面に開閉可能な扉を形成し、この扉を開閉することでチャンバー22を開閉してもよい。
【0041】
実施例の試料処理装置20では、チャンバー22を全体として円筒状に形成しているが、チャンバー22を球状や直方体状に形成してもよい。
【0042】
実施例の試料処理装置20では、1つのガス導入管24を備え、ガス導入管24は、不活性ガスと空気とを切り替えてチャンバー22内に導入している。しかしながら、不活性ガスをチャンバー22内に導入する不活性ガス導入部と、空気をチャンバー22内に導入する空気導入部と、を個別に備えていてもよい。
【0043】
実施例の試料処理装置20では、ガス排出管26,27を設けているが、少なくとも1つのガス排出管26を設けていればよく、3つ以上のガス排出管26を設けていてもよい。
【0044】
実施例の試料処理装置20では、ガス排出管26,27のそれぞれが排ガス洗浄装置に接続されている。しかしながら、ガス排出管26,27のそれぞれが排ガス洗浄装置に接続されていない場合には、試料処理装置20全体をハウジングで囲み、ハウジング全体を排ガス洗浄装置に接続し、ハウジング内の気圧がハウジング外の気圧より低くなるようにハウジング内の気圧を調整すればよい。
【0045】
実施例の試料処理装置20では、チャンバー22内の不活性ガスを空気と置換させる際にヒータ32によりチャンバー22を加熱している。しかしながら、チャンバー22内の不活性ガスを空気と置換させた後にチャンバー22を加熱してもよい。
【0046】
実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係について説明する。実施例では、チャンバー22が「チャンバー」に相当し、ガス導入管24が「不活性ガス導入部」に相当し、ガス導入管24が「空気導入部」に相当し、ガス排出管26が「ガス排出部」に相当し、破砕装置28が「破砕装置」に相当し、温度センサ34が「温度センサ」に相当し、圧力センサ36が「圧力センサ」に相当し、ガスサンプリング管38が「ガスサンプリング部」に相当する。
【0047】
なお、実施例の主要な要素と課題を解決するための手段の欄に記載した発明の主要な要素との対応関係は、実施例が課題を解決するための手段の欄に記載した発明を実施するための形態を具体的に説明するための一例であることから、課題を解決するための手段の欄に記載した発明の要素を限定するものではない。即ち、課題を解決するための手段の欄に記載した発明についての解釈はその欄の記載に基づいて行なわれるべきものであり、実施例は課題を解決するための手段の欄に記載した発明の具体的な一例に過ぎないものである。
【0048】
以上、本発明を実施するための形態について実施例を用いて説明したが、本発明はこうした実施例に何等限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において、種々なる形態で実施し得ることは勿論である。
【産業上の利用可能性】
【0049】
本発明は、試料処理装置の製造産業などに利用可能である。
【符号の説明】
【0050】
10 試料容器、20,20B,20C,20D,20E 試料処理装置、22 チャンバー、24 ガス導入管、26 ガス排出管、28 破砕装置、30 傾倒機構、32 ヒータ、34 温度センサ、36 圧力センサ、38 ガスサンプリング管、50 架台、80 回収容器、220 有底筒状容器、220a フランジ部、222 容器蓋、224,285,310 ボルト、226 Oリング、230 内側容器、240,260,270 バルブ、280 第1円筒部材、282 第1支持部材、284 第2円筒部材、286 第2支持部材、288 円板部材、290 駆動機構、292 羽根部材、302 操作レバー、304 回転部材、306,308 固定部材、500 台座部、502 囲い部、S 試料、S1 酸化物、S2 破砕物。
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