(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】シム、ノズルおよび塗布装置
(51)【国際特許分類】
B05C 5/02 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
B05C5/02
(21)【出願番号】P 2019091298
(22)【出願日】2019-05-14
【審査請求日】2022-02-07
(73)【特許権者】
【識別番号】316011226
【氏名又は名称】AIメカテック株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100165179
【氏名又は名称】田▲崎▼ 聡
(74)【代理人】
【識別番号】100140718
【氏名又は名称】仁内 宏紀
(74)【代理人】
【識別番号】100211122
【氏名又は名称】白石 卓也
(74)【代理人】
【識別番号】100154852
【氏名又は名称】酒井 太一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 士朗
(72)【発明者】
【氏名】丸山 貴史
【審査官】横山 敏志
(56)【参考文献】
【文献】特開2000-153199(JP,A)
【文献】特開平11-188301(JP,A)
【文献】特開平07-171486(JP,A)
【文献】特開2013-212492(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2012/0027942(US,A1)
【文献】特開2019-089008(JP,A)
【文献】特開2015-039683(JP,A)
【文献】特開2013-099741(JP,A)
【文献】特開2016-179460(JP,A)
【文献】特開2017-041548(JP,A)
【文献】特開2005-058913(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B05C 1/00ー21/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
スリット状の吐出口を有するノズルに内蔵されるシムであって、
前記ノズルの先端に向けて開口する開口部を有し、
前記開口部は、前記ノズルの先端に最も近い部分において最大幅を有し、かつ、前記ノズルの先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有
し、
前記開口部は、前記ノズルの先端から最も遠い部分において最小幅を有し、かつ、前記ノズルの先端から最も遠い部分から前記ノズルの先端に近くなるに従って漸次広くなっており、
前記開口部は、前記開口部において前記ノズルの先端に最も近い部分を底辺とする等脚台形形状を有し、
前記開口部において前記ノズルの先端から最も遠い部分の一端をK1とし、
前記開口部において前記ノズルの先端に最も近い部分の一端のうち、前記K1と同じ側に位置する一端をK2とし、
前記シムにおいて前記ノズルの先端に最も近い部分の端縁上の点をK3とし、
前記K1と前記K2とを結ぶ線分と、前記K2と前記K3とを結ぶ線分とのなす角度をGとしたとき、
前記角度Gは、91°以上92°以下である
シム。
【請求項2】
前記開口部は、前記ノズルの先端寄りの部分から前記ノズルの先端に近くなるに従って漸次外側に位置するように傾斜する傾斜部を有し、
前記シムの延在方向および前記シムの厚み方向のそれぞれと直交する方向における前記傾斜部の高さをHとしたとき、
前記傾斜部の高さHは、3mm以上50mm以下である
請求項
1に記載のシム。
【請求項3】
前記開口部を流れる塗布液は、0.3Pa・s以上20Pa・s以下の粘度を有する
請求項1
または2に記載のシム。
【請求項4】
前記開口部は、前記シムにおいて前記ノズルの先端に最も近い部分の端縁に沿って間隔をあけて複数設けられている
請求項1から
3のいずれか一項に記載のシム。
【請求項5】
請求項1から
4のいずれか一項に記載のシムを備える
ノズル。
【請求項6】
基板を搬送する基板搬送部と、
請求項
5に記載のノズルを備え、搬送される前記基板に前記ノズルから塗布液を塗布する塗布部と、を含む
塗布装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シム、ノズルおよび塗布装置に関する。
【背景技術】
【0002】
液晶ディスプレイ等の表示パネルを構成するガラス基板上には、配線、電極およびカラーフィルタ等の微細なパターンが形成されている。例えばこのようなパターンは、フォトリソグラフィ法等の方法によって形成される。フォトリソグラフィ法は、レジスト材料を基板に塗布する塗布工程、塗布後にレジスト材料で形成された膜(以下「レジスト膜」という。)を露光する露光工程、および露光工程の後にレジスト膜を現像する現像工程を含む。
【0003】
例えば、塗布工程では、塗布液を吐出するノズルを備えた塗布装置が用いられる。例えば、特許文献1には、対向する一対のダイブロックの間に挟まれた特定形状のシムが開示されている。具体的に、特許文献1では、シムの開口部に位置する外周部のうち、塗布液の流路であるスロットの長手方向部分の長さをAとし、シムの開口部の開口幅をBとし、スロットの長手方向部分の一端をaとし、シムの開口部の一端のうち、aと同じ側に存在する一端をbとし、aを通るスロットの長手方向部分の法線と、シムの開口部を含む直線との交点をcとした際の、角bacの角度をθとしたとき、長さA-Bが0より大きく、10mm以下であり、角度θが0より大きく、10°以下となるように設計されている。
また、特許文献1には、長さA-Bが0であり、角度θが0°である従来のシムが開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、上記のシムを用いて塗布液を対象物に吐出すると、塗布幅が目標値よりも広くなりやすい。そのため、塗布幅を目標値に可及的に近づけることが要求されている。
【0006】
以上のような事情に鑑み、本発明は、塗布幅を目標値に可及的に近づけることが可能なシムおよびこれを備えたノズルを提供することを目的とする。加えて、このようなノズルを備えることで、塗布幅を厳密に管理し、高品質の塗布膜を形成することが可能な塗布装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明の一態様に係るシムは、スリット状の吐出口を有するノズルに内蔵されるシムであって、前記ノズルの先端に向けて開口する開口部を有し、前記開口部は、前記ノズルの先端に最も近い部分において最大幅を有し、かつ、前記ノズルの先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有することを特徴とする。
【0008】
この構成によれば、シムの開口部がノズルの先端に最も近い部分において最大幅を有しかつノズルの先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有することで、開口部においてノズルの先端に最も近い部分には最も広い空間が形成される。そのため、開口部から吐出される液体(塗布液)が表面張力(毛細管現象)によって開口部の長手方向両端部に引っ張られる。すると、開口部から吐出される塗布液は開口部の長手方向両端部ではその場にとどまりやすくなる。すなわち、開口部から吐出される塗布液は、開口部の長手方向中央部では所定の単位流量(開口部の長手方向における単位長さ当たりの流量)で吐出される一方、開口部の長手方向両端部近傍ではその場にとどまる分だけ単位流量よりも減少した流量で吐出される。これにより、塗布液を対象物に吐出する際、塗布幅が目標値よりも広くなりやすい傾向があっても、単位流量からの減少分だけ塗布幅の広がりを抑えることができる。したがって、塗布幅を目標値に可及的に近づけることができる。
【0009】
上記のシムにおいて、前記開口部は、前記ノズルの先端から最も遠い部分において最小幅を有し、かつ、前記ノズルの先端から最も遠い部分から前記ノズルの先端に近くなるに従って漸次広くなっていてもよい。
この構成によれば、開口部においてノズルの先端から最も遠い部分からノズルの先端に最も近い部分にわたって塗布液をスムーズに吐出することができる。
【0010】
上記のシムにおいて、前記開口部において前記ノズルの先端から最も遠い部分の一端をK1とし、前記開口部において前記ノズルの先端に最も近い部分の一端のうち、前記K1と同じ側に位置する一端をK2とし、前記シムにおいて前記ノズルの先端に最も近い部分の端縁上の点をK3とし、前記K1と前記K2とを結ぶ線分と、前記K2と前記K3とを結ぶ線分とのなす角度をGとしたとき、前記角度Gは、91°以上96°以下であってもよい。
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0011】
上記のシムにおいて、前記開口部は、前記開口部において前記ノズルの先端に最も近い部分を底辺とする等脚台形形状を有してもよい。
この構成によれば、開口部の長手方向両端部において互いに同等の塗布液がその場にとどまるため、塗布液を対象物に吐出する際に塗布幅の広がりを開口部の長手方向両端部においてバランスよく抑えることができる。したがって、塗布膜の膜厚、膜端の形状(エッジプロファイル)を均一にしやすい。
【0012】
上記のシムにおいて、前記開口部は、前記ノズルの先端から最も遠い部分と前記ノズルの先端寄りの部分との間にわたって一定の幅を有する定幅開口部と、前記定幅開口部に連なり、前記ノズルの先端寄りの部分から前記ノズルの先端に近くなるに従って漸次広くなる幅を有する拡幅開口部と、を有してもよい。
この構成によれば、塗布液は、定幅開口部では開口部の長手方向の全域にわたって単位流量で一様に通過する一方、拡幅開口部では開口部の長手方向両端部近傍で単位流量よりも減少した流量で通過する。すなわち、定幅開口部から拡幅開口部に移るタイミングで開口部の長手方向両端部近傍における塗布液の通過量を減少することができる。したがって、塗布液の種類、シムの材質等の要求仕様に対応しやすい。
【0013】
上記のシムにおいて、前記開口部は、前記ノズルの先端寄りの部分から前記ノズルの先端に近くなるに従って漸次外側に位置するように傾斜する傾斜部を有し、前記シムの延在方向および前記シムの厚み方向のそれぞれと直交する方向における前記傾斜部の高さをHとしたとき、前記傾斜部の高さHは、3mm以上50mm以下であってもよい。
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0014】
上記のシムにおいて、前記開口部を流れる塗布液は、0.3Pa・s以上20Pa・s以下の粘度を有してもよい。
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0015】
上記のシムにおいて、前記開口部は、前記シムにおいて前記ノズルの先端に最も近い部分の端縁に沿って間隔をあけて複数設けられていてもよい。
この構成によれば、塗布液を対象物に吐出する際、間隔をあけて複数の塗布膜を対象物に同時に形成することができる。例えば、1つの基板に複数のパネルを作る場合、隣り合う2つのパネル間に隙間を容易に設けることができる。
【0016】
本発明の一態様に係るノズルは、上記のシムを備えることを特徴とする。
【0017】
この構成によれば、上記シムを備えることで、塗布幅を目標値に可及的に近づけることが可能なノズルを提供することができる。
【0018】
本発明の一態様に係る塗布装置は、基板を搬送する基板搬送部と、上記ノズルを備え、搬送される前記基板に前記ノズルから塗布液を塗布する塗布部と、を含むことを特徴とする。
【0019】
この構成によれば、上記ノズルを備えることで、塗布幅を厳密に管理し、高品質の塗布膜を形成することが可能な塗布装置を提供することができる。
【発明の効果】
【0020】
本発明によれば、塗布幅を目標値に可及的に近づけることが可能なシムおよびこれを備えたノズルを提供することを目的とする。加えて、このようなノズルを備えることで、塗布幅を厳密に管理し、高品質の塗布膜を形成することが可能な塗布装置を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0021】
【
図7】実施形態に係るノズルの作用を説明するための図。
【
図10】実施形態に係るシムの開口部の作用を説明するための図。
【
図11】実施形態の変形例に係るシムの開口部の正面図。
【発明を実施するための形態】
【0022】
以下、図面を参照して、本発明の実施形態を説明する。以下の説明においては、XYZ直交座標系を設定し、このXYZ直交座標系を参照しつつ各部材の位置関係について説明する。水平面内の所定方向をX方向、水平面内においてX方向と直交する方向をY方向、X方向及びY方向のそれぞれと直交する方向(すなわち鉛直方向)をZ方向とする。
【0023】
<塗布装置>
図1に示すように、塗布装置1は、基板5に塗布液を塗布する装置である。例えば、基板5は、液晶パネルなどに用いられるガラス基板である。基板5は、矩形板状をなしている。塗布装置1は、基板5を搬送する基板搬送部2と、塗布液を塗布する塗布部3と、塗布部3を管理する管理部4と、を備える。
【0024】
<基板搬送部>
基板搬送部2は、Y方向に長手を有する。基板搬送部2は、Y方向に基板5を搬送する。Y方向は、塗布装置1における基板搬送方向である。
基板搬送部2は、架台7、ステージ8および搬送機構9を備える。
【0025】
<架台>
架台7は、Y方向に長手を有する。架台7は、ステージ8及び搬送機構9を支持する。例えば、架台7は、床面上に載置されている。
架台7は、X方向の中央に位置する架台本体7aと、架台本体7aの-X方向側に位置する第一架台側部7bと、架台本体7aの+X方向側に位置する第二架台側部7cと、を備える。
【0026】
架台本体7aは、ステージ8を支持する。
第一架台側部7b及び第二架台側部7cは、搬送機構9を支持する。第一架台側部7b及び第二架台側部7cのそれぞれには、Y方向に延在する一対の溝7d,7e(
図2参照)が設けられている。
【0027】
図2に示すように、一対の溝7d,7eは、X方向に並んで配置されている。以下、一対の溝7d,7eのうちX方向内側に位置する溝7dを「内溝7d」、X方向外側に位置する溝7eを「外溝7e」ともいう。内溝7dは、外溝7eよりも上方に位置している。内溝7dは、外溝7eよりもステージ8寄りに位置している。
【0028】
<搬送機構>
搬送機構9は、基板5をY方向に搬送する。搬送機構9は、第一架台側部7b及び第二架台側部7cのそれぞれの上部に一つずつ設けられている。搬送機構9は、ステージ8を挟んで一対設けられている。一対の搬送機構9は、ステージ8のX方向中央に対して線対称となっている。
【0029】
図1に示すように、搬送機構9は、スライダ9aと、基板5を保持する基板保持部9bと、ステージ8の側方でY方向に延びるレール9cと、を備える。
例えば、スライダ9aは、リニアモータ(不図示)を内蔵している。スライダ9aは、リニアモータの駆動によって、レール9cに沿って移動するようになっている。
【0030】
図2に示すように、基板保持部9bは、基板5のX方向側の側縁部を片持ちで保持する。基板保持部9bは、基板5においてステージ8よりもX方向外側にはみ出した部分を保持する。
基板保持部9bは、スライダ9aにおけるステージ8側の端部に設けられている。
図1に示すように、基板保持部9bは、Y方向に並んで複数(例えば本実施形態では4つ)設けられる。例えば、基板保持部9bには、基板5を吸着して保持する吸着パッド(不図示)が設けられていてもよい。
【0031】
レール9cは、第一架台側部7b及び第二架台側部7cのそれぞれにおけるステージ8側の上端部に設けられている。
【0032】
各搬送機構9は、それぞれ独立して基板5を搬送可能である。そのため、第一架台側部7b側の搬送機構9と、第二架台側部7c側の搬送機構9とによって、異なる基板5を保持することができる。これにより、各搬送機構9によって基板5を交互に搬送することができるため、スループット(例えば、単位時間当たりの基板の搬送速度)を向上することができる。
なお、上記基板5の半分程度の面積を有する基板を搬送する場合には、2つの搬送機構9で基板を1枚ずつ保持することができるため、2つの搬送機構9をY方向に並進させることによって、2枚の基板を同時に搬送することができる。
【0033】
<塗布部>
図1に示すように、塗布部3は、門型フレーム10、ノズル50、センサ15、供給部20および廃液部30を備える。
【0034】
<門型フレーム>
図2に示すように、門型フレーム10は、Z方向に延びる柱状をなす一対の支柱部材10aと、X方向に延びて一対の支柱部材10aの間をわたす架橋部材10bと、を備える。
各支柱部材10aは、第一架台側部7b及び第二架台側部7cにそれぞれ支持されている。
【0035】
架橋部材10bのX方向両端部は、一対の支柱部材10aの上端部にそれぞれ接続されている。これにより、門型フレーム10は、ステージ8をX方向に跨ぐように設けられている。架橋部材10bは、支柱部材10aに対してZ方向に昇降可能(
図2中矢印u方向に移動可能)とされている。例えば、架橋部材10bには、一対の支柱部材10aに対して架橋部材10bを上下移動可能なスライダが設けられていてもよい。
【0036】
門型フレーム10は、フレーム移動機構11に接続されている。フレーム移動機構11は、Y方向に延びるレール部材12と、駆動機構13と、を備える。
レール部材12は、第一架台側部7b及び第二架台側部7cの外溝7e内に1つずつ設けられている。
駆動機構13は、門型フレーム10に接続されている。塗布部3は、駆動機構13の駆動によって、レール部材12に沿ってY方向(
図1中矢印n方向)に移動可能とされている。
【0037】
<ノズル>
図2に示すように、ノズル50は、X方向(図中矢印v方向)に長手を有する長尺状をなしている。ノズル50は、スリットノズルである。ノズル50は、門型フレーム10の架橋部材10bの下端部(-Z方向側の端部)に着脱可能に取り付けられている。
【0038】
<センサ>
架橋部材10bの下端部には、X方向に沿って複数(例えば本実施形態では3つ)のセンサ15が設けられている。センサ15は、ノズル先端51aと、ノズル先端51aに対向する対向面(例えばノズル50の下方に配置された基板5の上面)との間の距離(Z方向の間隔)を測定する。
【0039】
<供給部>
図1に示すように、供給部20は、ノズル50に塗布液を供給可能なポンプ21と、ポンプ21に塗布液を供給可能な供給源22と、を備える。
【0040】
供給源22は、塗布液を貯留する貯留タンク22aを備える。貯留タンク22aには、窒素ガス等の不活性ガスを導入可能な配管24が接続されている。配管24は、不図示のバルブを介して加圧源23に接続されている。バルブの開閉制御によって、貯留タンク22a内の圧力が調整される。供給源22は、貯留タンク22a内の圧力調整によって、所定量の塗布液をポンプ21に向けて供給する。
【0041】
例えば、塗布液は、樹脂基板及び層間絶縁膜等を形成するための液状体を用いる。本実施形態において、塗布液は、1~10Pa・s程度の粘度を有するポリイミドを含む液状体を用いる。一般に、液晶表示装置に用いられるTFT及び液晶層等を形成するための液状体は、0.01Pa・s以下の粘度を有する。したがって、ポリイミドを含む液状体は、TFT及び液晶層等を形成するための液状体と比較して高い粘度を有する。なお、塗布液として、ポリイミドを含む液状体以外の液状体を用いてもよい。例えば、塗布液として、フォトレジスト等の薬液(液体)を用いてもよい。なお、塗布液の粘度は、例えば0.3Pa以上20Pa・s以下の範囲である。
【0042】
供給部20は、塗布液の供給路(流路)を形成する複数の配管24~26を備える。上述の通り、塗布液は、供給源22からノズル50に向けて流れる。以下、塗布液が流れる方向において、供給源22側を「上流側」、ノズル50側を「下流側」ということがある。供給源22は、上流側から順に、配管25、ポンプ21および供給配管26を介してノズル50に接続されている。
【0043】
<廃液部>
廃液部30は、ノズル50からの廃液を貯留する第一廃液ボトル31および第二廃液ボトル32を備える。第一廃液ボトル31および第二廃液ボトル32は、供給部20を挟んでノズル50の長手方向に離反している。第一廃液ボトル31および第二廃液ボトル32のそれぞれには、塗布液の廃液路(流路)を形成する第一廃液配管33および第二廃液配管34が接続されている。ノズル50からの廃液は、第一廃液配管33および第二廃液配管34のそれぞれを通じて第一廃液ボトル31および第二廃液ボトル32のそれぞれに向けて流れる。
【0044】
<管理部>
管理部4は、基板5に吐出される塗布液の吐出量が一定になるようにノズル50を管理する。
図1に示すように、管理部4は、塗布部3よりも-Y方向側に設けられている。管理部4は、予備吐出機構41、ディップ槽42、ノズル洗浄装置43、収容部44および保持部材45を備える。
【0045】
予備吐出機構41は、塗布液を予備的に吐出する。例えば、予備吐出機構41は、塗布部3が塗布処理領域に配置される状態で、ノズル50に最も近くなる位置に設けられている。
ディップ槽42の内部には、シンナーなどの溶剤が貯留されている。
【0046】
ノズル洗浄装置43は、ノズル50の吐出口60(
図2参照)近傍をリンス洗浄する。ノズル洗浄装置43は、X方向に移動する洗浄機構と、洗浄機構を移動させる移動機構(何れも不図示)と、を備える。
【0047】
収容部44は、予備吐出機構41、ディップ槽42およびノズル洗浄装置43を収容している。
図2に示すように、収容部44のX方向の長さは、門型フレーム10の支柱部材10a間の距離よりも小さい。門型フレーム10は、収容部44の上方で、収容部44を跨いでY方向に移動可能とされている。門型フレーム10を収容部44の上方に移動した状態で、ノズル50は、収容部44内の予備吐出機構41、ディップ槽42及びノズル洗浄装置43(
図1参照)に接近可能である。
【0048】
図2に示すように、保持部材45は、収容部44のX方向両端部を下方から支持している。
保持部材45は、管理部移動機構46に接続されている。管理部移動機構46は、Y方向に延びるレール部材47と、駆動機構48と、を備える。
レール部材47は、第一架台側部7b及び第二架台側部7cの内溝7d内に1つずつ設けられている。
駆動機構48は、保持部材45に接続されている。管理部4は、駆動機構48の駆動によって、レール部材47に沿ってY方向(
図1中矢印m方向)に移動可能とされている。
【0049】
<ノズル詳細>
図4に示すように、ノズル50は、長尺のノズル本体51と、ノズル本体51の上端に設けられた連結部材52と、ノズル本体51の長手方向(以下「ノズル長手方向」ともいう。)の両端に設けられた一対のサイドプレート53,54と、を備える。
図1および
図2においては、連結部材52を簡略化して図示している。
【0050】
図5の断面視で、ノズル本体51は、Y方向中央ほど下方に位置するように突出する下方突出部を備える。下方突出部の下端(以下「ノズル先端51a」という。)には、塗布液を吐出する吐出口60が形成されている。吐出口60は、ノズル長手方向に延びている。
【0051】
図5に示すように、ノズル本体51には、塗布液を吐出する吐出口60と、吐出口60に連通する流路61と、吐出口60と流路61とを接続する吐出用接続路69と、流路61に連通する脱気路62(
図4参照)と、流路61に塗布液を供給させる供給路63と、吐出口60の幅を調整するための凹溝72と、が設けられている。
【0052】
図5に示すように、ノズル本体51は、第一ノズル本体55および第二ノズル本体56を備える。第一ノズル本体55および第二ノズル本体56は、シム80を挟んでY方向に対向して配置されている。ノズル本体51は、第一ノズル本体55の面55f(Y方向内側面)と、第二ノズル本体56の面56f(Y方向内側面)と、を対向させ、第一ノズル本体55と第二ノズル本体56との間にシム80を挟持した状態で組み立てられている。
図3においては、シム80を簡略化して図示している。
【0053】
<第一ノズル本体>
図3に示すように、第一ノズル本体55は、ノズル長手方向に延在する長尺の部材である。第一ノズル本体55の長手方向は、ノズル長手方向と一致する。以下、第一ノズル本体55の長手方向を「ノズル長手方向」ともいう。
【0054】
例えば、第一ノズル本体55は、ステンレス鋼などの金属材料で形成されている。
図5に示すように、第一ノズル本体55において、第二ノズル本体56と対向する面55f(Y方向内側面)には、ノズル50において流路61を構成する凹部55aが設けられている。すなわち、流路61は、第一ノズル本体55に設けられている。
【0055】
図4に示すように、流路61は、供給路63に連通し、供給路63から供給されるを分散させる分散路64を含む。
分散路64は、ノズル長手方向に沿って直線状に形成されている。分散路64は、ノズル長手方向における第一ノズル本体55の中心位置を基準として、ノズル長手方向において対称な形状を有する。
【0056】
<第二ノズル本体>
図3に示すように、第二ノズル本体56は、ノズル長手方向に延在する長尺の部材である。第二ノズル本体56の長手方向は、ノズル長手方向と一致する。以下、第二ノズル本体56の長手方向を「ノズル長手方向」ともいう。
【0057】
例えば、第二ノズル本体56は、ステンレス鋼などの金属材料を用いて形成されている。第二ノズル本体56は、第一ノズル本体55と同じ材料を用いて形成されている。第二ノズル本体56において、第一ノズル本体55と対向する面56f(Y方向内側面)は、平面状となっている。第二ノズル本体56には、ノズル50において供給路63および脱気路62を構成する複数(例えば本実施形態では3つ)の貫通孔56aが設けられている。すなわち、供給路63および脱気路62は、第二ノズル本体56に設けられている。
【0058】
図5に示すように、供給路63は、第二ノズル本体56の厚み方向(Y方向)に延在する直線状をなしている。
図4に示すように、供給路63は、ノズル長手方向における第一ノズル本体55の中央部に位置している。供給路63は、第一ノズル本体55の分散路64の長手方向中央部に連通している。
【0059】
図4に示すように、脱気路62は、ノズル長手方向に離反して一対設けられている。一対の脱気路62は、ノズル長手方向における第一ノズル本体55の両端部に位置している。以下、一対の脱気路62のうちノズル長手方向において第二ノズル本体56の第一端部に位置する脱気路62aを「第一脱気路62a」、第二ノズル本体56の第二端部に位置する脱気路62bを「第二脱気路62b」ともいう。
【0060】
図3に示すように、第一脱気路62aおよび第二脱気路62bのそれぞれは、第二ノズル本体56の厚み方向(Y方向)に延在する直線状をなしている。
図4に示すように、第一脱気路62aおよび第二脱気路62bのそれぞれは、第一ノズル本体55の分散路64の端部に連通している。第一脱気路62aは、第一ノズル本体55の第一端部における分散路64に接続されている。第二脱気路62bは、第一ノズル本体55の第二端部における分散路64に接続されている。第一脱気路62aには、第一廃液配管33(
図1参照)が接続されている。第二脱気路62bには、第二廃液配管34(
図1参照)が接続されている。
【0061】
図3に示すように、第二ノズル本体56において、供給路63および脱気路62の下方には、凹溝72が設けられている。
図5に示すように、凹溝72は、第二ノズル本体56のY方向外側面からY方向内側に向けて窪んでいる。
図3に示すように、凹溝72は、ノズル長手方向に延在する直線状をなしている。
【0062】
<ノズル本体の内部構造>
図5の断面視で、ノズル本体51においては、第一ノズル本体55の凹部55aと第二ノズル本体56の面56fとで囲まれた空間が流路61となる。
図5の断面視で、凹部55aは、下方に向けて傾斜した長軸を有する楕円形状の一部を含む形状(楕円の円弧状)を有する。
図5の断面視で、第一ノズル本体55の面55fと第二ノズル本体56の面56fとの間の隙間であって、流路61と吐出口60との間に形成される隙間は、吐出用接続路69となる。
【0063】
吐出口60は、第一ノズル本体55と第二ノズル本体56とシム80とが組み合わされた状態において流路61の-Z側端部に形成された開口である。吐出口60は、ノズル長手方向に沿ってスリット状に形成されている。
例えば、ノズル長手方向における吐出口60の寸法は、基板5(
図2参照)のX方向の寸法よりも小さくてもよい。これにより、基板5の周辺領域に塗布液が塗布されることを抑制することができる。
【0064】
図5に示すように、ノズル本体51においては、流路61の内壁における最も低い位置P1が、吐出用接続路69と流路61との接続位置P2よりも低くなるように形成されている。ノズル本体51の内部には、吐出用接続路69と流路61との接続位置P2に鋭角状をなす鋭角部55bが設けられている。鋭角部55bは、流路61内の塗布液を切り出しながら吐出用接続路69側へと供給する。
【0065】
鋭角部55bは、第一ノズル本体55のうち吐出用接続路69を構成する面55fと流路61の内壁面の一部とで構成されている。例えば、鋭角部55bの角度A1は、15°以上90°以下の範囲に設定するのが好ましい。これにより、鋭角部55bにおいて塗布液を切り出しながら吐出用接続路69側に送り込むことが可能となる。塗布液の切り出しを効果的に行う観点からは、鋭角部55bの角度A1は、20°以上40°以下の範囲に設定するのがより好ましい。
【0066】
<連結部材>
図5に示すように、連結部材52は、ノズル本体51の吐出口60とは反対側の面(上面)に設けられている。連結部材52は、第一ノズル本体55および第二ノズル本体56を連結する。
図4に示すように、連結部材52は、ノズル長手方向に延在する長尺の部材である。例えば、連結部材52は、ステンレス鋼などの金属材料を用いて形成されている。連結部材52は、ノズル本体51と同じ材料を用いて形成されている。
【0067】
連結部材52は、ノズル本体51の上面の外形と同一の外形の矩形板状をなす天板である。
図3に示すように、連結部材52の四隅のそれぞれには、連結部材52を厚み方向に貫通する貫通孔52hが設けられている。第一ノズル本体55および第二ノズル本体56のそれぞれの上面の隅部には、各貫通孔52hに対応する位置に雌ネジ部55m,56mが設けられている。例えば、連結部材52の各貫通孔52hにボルト(不図示)を挿通して第一ノズル本体55および第二ノズル本体56の各雌ネジ部55m,56mに螺着することによって、第一ノズル本体55および第二ノズル本体56を連結することができる。連結部材52の上面には、供給部20および廃液部30が設けられている(
図2参照)。
【0068】
<サイドプレート>
図4に示すように、一対のサイドプレート53,54は、ノズル長手方向におけるノズル本体51の両端部に位置している。以下、一対のサイドプレート53,54のうちノズル長手方向においてノズル本体51の第一端部に位置するサイドプレート53を「第一サイドプレート53」、ノズル本体51の第二端部に位置するサイドプレート54を「第二サイドプレート54」ともいう。
【0069】
図3に示すように、第一サイドプレート53および第二サイドプレート54のそれぞれは、ノズル本体51をY方向に見た断面の輪郭形状と同一の形状を有している。例えば、第一サイドプレート53および第二サイドプレート54のそれぞれは、ステンレス鋼などの金属材料を用いて形成されている。
【0070】
第一サイドプレート53は、流路61および凹溝72の第一端部側を閉じる板部材である。
第二サイドプレート54は、流路61および凹溝72の第二端部側を閉じる板部材である。
【0071】
<調整機構>
図6に示すように、第二ノズル本体56には、吐出口60の幅を調整可能な調整機構70が設けられている。
図6においては、ノズル本体51における第二サイドプレート54の側の端部を示す。図示はしないが、ノズル本体51における第一サイドプレート53の側の端部においても、第二サイドプレート54の側の端部と同一の構成を有するため、説明を省略する。
【0072】
調整機構70は、ノズル長手方向に並ぶ複数の調整部材71を備える。
図5に示すように、各調整部材71は、Z方向で凹溝72と重なる位置に位置されている。各調整部材71は、供給路63および脱気路62(
図4参照)を避けた位置に配置されている。例えば、調整部材71は、調整ネジである。
【0073】
例えば、調整部材71を回動させることより、凹溝72の側壁面を押圧して吐出口60の幅を調整することができる。
図6に示すように、隣り合う2つの調整部材71の間隔は、ノズル長手方向における第二ノズル本体56の端部側ほど狭くなっている。すなわち、複数の調整部材71は、ノズル長手方向における第二ノズル本体56の端部側ほど密になるように配置されている。複数の調整部材71は、ノズル長手方向における第二ノズル本体56の両端部以外の部分(ノズル長手方向中央寄りの部分)において等間隔に配置されている。
【0074】
<塗布動作>
塗布装置1の塗布動作の一例について説明する。
図1に示すように、まず、塗布装置1の塗布動作においては、基板5をステージ8に搬入する。
次に、搬送機構9を用いて基板5を搬送しつつ塗布液を塗布する。
そして、塗布液を塗布した基板5を搬出する。このような動作を、一対の搬送機構9を用いて交互に行う。
【0075】
例えば、ステージ8に搬入された基板5を基板保持部9bで保持した後、スライダ9aをレール9cに沿ってY方向に移動させる。基板5は、スライダ9aの移動に伴ってY方向に移動する。
【0076】
基板5の搬送方向先端がノズル50の吐出口60(
図2参照)の位置に到達したとき、ノズル50の吐出口60から基板5へ向けて塗布液を吐出する。塗布液の吐出は、ノズル50の位置を固定させた状態で、スライダ9aによって基板5を搬送させることで、吐出口60と基板5の上面との相対位置を変更しながら行う。
【0077】
<ノズルの作用>
図7は、第一実施形態に係るノズル50の作用を説明するための図である。
図7においては、連結部材52、供給部20および廃液部30などの図示を省略する。
図1に示すポンプ21を用い、ノズル50に接続された供給配管26を介して、ノズル50に塗布液が供給される。
図7に示すように、塗布液は、供給配管26(
図1参照)から供給路63を経て流路61内に供給される。流路61内に供給された塗布液は、ノズル長手方向における流路61の両端端側に素早く充填される。
【0078】
塗布液は、ポンプ21(
図1参照)により加圧されているため、吐出用接続路69に向けて押し出される。
図7では、吐出用接続路69に向けて押し出される塗布液を符号LAで示し、脱気路62に向けて押し出される塗布液を符号LBで示している。
【0079】
このとき、ノズル50は、
図5の断面視で、流路61の内壁における最も低い位置P1が、吐出用接続路69と流路61との接続位置P2よりも低くなるように形成されているため、流路61内が加圧されないと塗布液が吐出用接続路69の中に流入し難くなる。そのため、流路61内に供給された塗布液がすぐに吐出用接続路69に流入することなく、まず流路61の全域にわたって充填され、内圧が高まったうえで吐出用接続路69に流入することとなる。したがって、ノズル長手方向における吐出口60の全域において塗布液の吐出量に差が出にくく、ムラなく塗布液を塗布することができる。
【0080】
ところで、本実施形態で用いる塗布液は、チキソトロピー(thixotropy)性を有している。そのため、塗布液に対してずり(ひずみ)をかけると、塗布液の高分子鎖がのびて、からまっていた高分子鎖がほどけることで抵抗(粘性)が低下する。
一般的にずりを大きくすると、高分子鎖が各所で切断(構造破壊)され、粘性がさらに低下してしまう。一度、切断された高分子鎖はなかなか元に戻らないため、ずりを除去しても粘性はしばらく低下したままとなってしまう。特に塗布液として粘度が高い塗布液を用いると、ずりによって塗布量にバラつきが生じるといった問題が発生する。
【0081】
これに対し、本実施形態のノズル50は、
図5に示したように、吐出用接続路69と流路61との接続位置P2に鋭角部55bを備える。鋭角部55bは塗布液を切り出しながら吐出用接続路69側へと送り込む。鋭角部55bにより切り出された塗布液には上述のずりが与えられないため、ずりを塗布液に与えることなく塗布を行うことが可能である。つまり、本実施形態のノズル50においては、塗布液のチキソトロピー性を考慮する必要がない。
【0082】
さらに、上述のように、ノズル50においては、流路61の内壁における最も低い位置P1が、吐出用接続路69と流路61との接続位置P2よりも低くなるように形成されており、流路61内に充填された塗布液の圧力が高まりやすい。高まった圧力は、塗布液を好適に脱気路62に向けて押し出すため、上述の鋭角部55bによる切り出し効果を得やすくすることができる。また、上述した高まった圧力は、
図7に示すように塗布液LBと共に気泡の排出を促すことができる。
【0083】
塗布液LBは、このように脱気路62内を流動し、廃液配管33,34を介して廃液ボトル31,32に排出される(
図1参照)。廃液配管33,34は、塗布液LBに含まれる気泡を流通させる脱気配管としても機能する。
【0084】
一方、流路61内に塗布液を供給するポンプ21(
図1参照)が、流路61内の塗布液を加圧し、この加圧によって塗布液が吐出用接続路69に押し出される。吐出用接続路69に押し出された塗布液LAは、鋭角部55bにより切り出されることで上述のずりが与えられない状態で吐出口60から吐出される。したがって、本実施形態によれば、塗布液LAのチキソトロピー性を考慮せずに、ムラの発生を抑えた塗布を行うことができる。
【0085】
上述のように塗布液に含まれる気泡は、脱気路62を介して外部に排出されるため、吐出口60からは、好適に気泡が除かれた塗布液LAが吐出される。
【0086】
ノズル50においては、供給路63および脱気路62がそれぞれ直線状に形成されているため、以上のような塗布液LA,LBの流動が滞りなく円滑に行われる。
【0087】
図1に示すように、ノズル50から吐出される塗布液は、基板5の移動に伴い、基板5上に塗布される。すなわち、基板5が塗布を吐出する吐出口60(
図2参照)の下を通過することにより、基板5の所定の領域に塗布膜が形成される。
【0088】
<シム>
図8に示すように、シム80は、X方向(ノズル長手方向)に長手を有している。シム80は、ノズル長手方向および上下方向(Z方向)の全域にわたって一様の厚みを有する(
図5参照)。シム80は、シム80の延在方向におけるシム80の中心位置(X方向中心位置)を基準として、シム80の延在方向において対称な形状を有する。シム80は、ノズル長手方向に延在する板状のシム本体81と、シム本体81においてノズル50の先端に向けて開口する開口部82と、を有する。
【0089】
開口部82は、シム80においてノズル50の先端に最も近い部分の端縁に沿って間隔をあけて複数設けられている。
図8の例では、9つの開口部82が配置されている。9つの開口部82は、シム80の延在方向の中央位置に配置された1つの開口部82A(以下「中央開口部82A」ともいう。)と、中央開口部82Aを挟んでシム80の延在方向両側に4つずつ配置された開口部82B(以下「側部開口部82B」ともいう。)と、である。側部開口部82Bは、中央開口部82Aよりも大きい開口幅を有する。8つの側部開口部82Bは、互いに実質的に同じ開口幅を有する。
【0090】
<開口部>
以下、開口部82の詳細について側部開口部82Bを挙げて説明する。中央開口部82Aは、開口幅の大きさ以外は側部開口部82Bと同様の構成を有するため詳細説明は省略する。
図9に示すように、側部開口部82B(以下単に「開口部82」ともいう。)は、ノズル50の先端(
図7参照)に最も近い部分(すなわち下端)において最大幅を有する。例えば、開口部82の開口幅W(最大幅)は、90mm程度に設定されている。
【0091】
開口部82は、ノズル50の先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有する。具体的に、開口部82は、ノズル50の先端から最も遠い部分(すなわち上端)において最小幅を有する。開口部82は、ノズル50の先端から最も遠い部分からノズル50の先端に近くなるに従って漸次広くなっている。
図9の正面視で、開口部82は、開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分を底辺とする等脚台形形状を有する。開口部82は、ノズル50の先端から最も遠い部分である上辺83と、一対の脚(開口部82の長手方向両端部)である第一側辺84および第二側辺85とによって画定されている。
【0092】
ここで、開口部82においてノズル50の先端から最も遠い部分の一端(上辺83の一端)をK1とする。開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分の一端(開口部82の開口側の角部頂点)のうち、K1と同じ側に位置する一端をK2とする。シム80においてノズル50の先端に最も近い部分の端縁上の点をK3とする。K1とK2とを結ぶ線分と、P2とP3とを結ぶ線分とのなす角度をGとする。本実施形態において、角度Gは、91°以上96°以下である。塗布幅を目標値に近づける観点からは、角度Gは、91°以上92°以下の範囲に設定するのがより好ましい。
【0093】
<シムの開口部の作用>
図10は、実施形態に係るシム80の開口部82の作用を説明するための図である。
塗布液がシム80の開口部82に流出すると、塗布液は開口部82の第一側辺84および第二側辺85に案内されて上辺83から下端開口に向かう。本実施形態では、シム80の開口部82がノズル50の先端に最も近い部分において最大幅を有することで、開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分には最も広い空間が形成される。そのため、開口部82から吐出される塗布液が表面張力(毛細管現象)によって第一側辺84および第二側辺85に引っ張られる。すると、開口部82から吐出される塗布液は開口部82の第一側辺84および第二側辺85ではその場にとどまりやすくなる。これにより、塗布液は、開口部82の長手方向中央部(開口幅中央部)において下方に凸をなすように湾曲して膨出する。
【0094】
すなわち、開口部82から吐出される塗布液は、開口部82の長手方向中央部では所定の単位流量(開口部82の長手方向における単位長さ当たりの流量)で吐出される。一方、開口部82から吐出される塗布液は、開口部82の第一側辺84および第二側辺85の近傍ではその場にとどまる分だけ単位流量よりも減少した流量で吐出される。これにより、塗布液を対象物に吐出する際、単位流量からの減少分だけ塗布幅の広がりを抑えることができる。図中符号Dは、第一側辺84および第二側辺85の近傍において減少する塗布幅を示す。
【0095】
以上のように、本実施形態のシム80は、スリット状の吐出口60を有するノズル50に内蔵されるシム80であって、ノズル50の先端に向けて開口する開口部82を有し、開口部82は、ノズル50の先端に最も近い部分において最大幅を有し、かつ、ノズル50の先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有する。
【0096】
この構成によれば、シム80の開口部82がノズル50の先端に最も近い部分において最大幅を有しかつノズル50の先端から離れた部分の少なくとも一部において前記最大幅よりも狭い幅を有することで、開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分には最も広い空間が形成される。そのため、開口部82から吐出される液体(塗布液)が表面張力(毛細管現象)によって開口部82の長手方向両端部に引っ張られる。すると、開口部82から吐出される塗布液は開口部82の長手方向両端部ではその場にとどまりやすくなる。すなわち、開口部82から吐出される塗布液は、開口部82の長手方向中央部では所定の単位流量(開口部82の長手方向における単位長さ当たりの流量)で吐出される一方、開口部82の長手方向両端部近傍ではその場にとどまる分だけ単位流量よりも減少した流量で吐出される。これにより、塗布液を対象物に吐出する際、塗布幅が目標値よりも広くなりやすい傾向があっても、単位流量からの減少分だけ塗布幅の広がりを抑えることができる。したがって、塗布幅を目標値に可及的に近づけることができる。
【0097】
開口部82は、ノズル50の先端から最も遠い部分において最小幅を有し、かつ、ノズル50の先端から最も遠い部分から前記ノズル50の先端に近くなるに従って漸次広くなっている。
この構成によれば、開口部82においてノズル50の先端から最も遠い部分からノズル50の先端に最も近い部分にわたって塗布液をスムーズに吐出することができる。
【0098】
開口部82においてノズル50の先端から最も遠い部分の一端をK1とし、開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分の一端のうち、K1と同じ側に位置する一端をK2とし、シム80においてノズル50の先端に最も近い部分の端縁上の点をK3とし、K1とK2とを結ぶ線分と、K2とK3とを結ぶ線分とのなす角度をGとしたとき、角度Gは、91°以上96°以下である。
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0099】
開口部82は、開口部82においてノズル50の先端に最も近い部分を底辺とする等脚台形形状を有している。
この構成によれば、開口部82の長手方向両端部において互いに同等の塗布液がその場にとどまるため、塗布液を対象物に吐出する際に塗布幅の広がりを開口部82の長手方向両端部においてバランスよく抑えることができる。したがって、塗布膜の膜厚、膜端の形状(エッジプロファイル)を均一にしやすい。
【0100】
開口部82を流れる塗布液は、0.3Pa・s以上20Pa・s以下の粘度を有する。
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0101】
開口部82は、シム80においてノズル50の先端に最も近い部分の端縁に沿って間隔をあけて複数設けられている。
この構成によれば、塗布液を対象物に吐出する際、間隔をあけて複数の塗布膜を対象物に同時に形成することができる。例えば、1つの基板に複数のパネルを作る場合、隣り合う2つのパネル間に隙間を容易に設けることができる。
【0102】
本実施形態のノズル50は、上記のシム80を備える。
【0103】
この構成によれば、上記シム80を備えることで、塗布幅を目標値に可及的に近づけることが可能なノズル50を提供することができる。
【0104】
本実施形態の塗布装置1は、基板5を搬送する基板搬送部2と、上記ノズル50を備え、搬送される基板5にノズル50から塗布液を塗布する塗布部3と、を含む。
【0105】
この構成によれば、上記ノズル50を備えることで、塗布幅を厳密に管理し、高品質の塗布膜を形成することが可能な塗布装置1を提供することができる。
【0106】
なお、上述した例において示した各構成部材の諸形状や組み合わせ等は一例であって、設計要求等に基づき種々変更可能である。
例えば、上記実施形態においては、搬送機構9が基板5をY方向に搬送する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、駆動機構13は、ノズル50を門型フレーム10と共にY方向に移動してもよい。例えば、基板5を定位置に配置し、ノズル50のみをY方向に移動してもよい。すなわち、基板5とノズル50とは、Y方向に相対的に移動可能であってもよい。
【0107】
上記実施形態においては、供給路63をノズル長手方向における第一ノズル本体55の中央部に配置した例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、供給路63をノズル長手方向における第一ノズル本体55の端部に配置してもよい。
【0108】
上記実施形態においては、分散路64がノズル長手方向における第一ノズル本体55の中心位置を基準として、第一ノズル本体55の長手方向において対称な形状を有している例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、分散路64がノズル長手方向における第一ノズル本体55の中心位置を基準として、第一ノズル本体55の長手方向において非対称な形状を有していてもよい。
【0109】
上記実施形態においては、ノズル本体51の上面に連結部材52が設けられている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、ノズル本体51の上面に連結部材52が設けられていなくてもよい。例えば、ノズル本体51の上面を供給部20および廃液部30の設置スペースとして活用してもよい。
【0110】
上記実施形態においては、ノズル長手方向におけるノズル本体51の両端部に一対のサイドプレート53,54が設けられている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、ノズル長手方向におけるノズル本体51の両端部にサイドプレートが設けられていなくてもよい。
【0111】
上記実施形態においては、第二ノズル本体56に吐出口60の幅を調整可能な調整機構70を設けた例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、第二ノズル本体56に調整機構70が設けられていなくてもよい。例えば、調整機構70は、第一ノズル本体55に設けられていてもよい。例えば、厚みの異なる複数のシムを用意しておき、シムを取り替えることで、吐出口60の幅を調整してもよい。
【0112】
上記実施形態においては、架橋部材10bには、一対の支柱部材10aに対して架橋部材10bを上下移動可能なスライダが設けられている例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、ステージ8には、基板5を昇降可能な昇降ピンが設けられていていてもよい。
【0113】
上記実施形態においては、開口部82は、開口部82においてノズルの先端に最も近い部分を底辺とする等脚台形形状を有する例を挙げて説明したが、これに限らない。例えば、
図11に示すように、開口部182は、ノズルの先端から最も遠い部分とノズルの先端寄りの部分との間にわたって一定の幅を有する定幅開口部182aと、定幅開口部182aに連なり、ノズルの先端寄りの部分からノズルの先端に近くなるに従って漸次広くなる幅を有する拡幅開口部182bと、を有してもよい。
【0114】
この構成によれば、塗布液は、定幅開口部182aでは開口部182の長手方向の全域にわたって単位流量で一様に通過する一方、拡幅開口部182bでは開口部182の長手方向両端部近傍で単位流量よりも減少した流量で通過する。すなわち、定幅開口部182aから拡幅開口部182bに移るタイミングで開口部182の長手方向両端部近傍における塗布液の通過量を減少することができる。したがって、塗布液の種類、シムの材質等の要求仕様に対応しやすい。
【0115】
開口部182は、ノズルの先端寄りの部分からノズルの先端に近くなるに従って漸次外側に位置するように傾斜する傾斜部186を有する。ここで、シムの延在方向およびシムの厚み方向のそれぞれと直交する方向における傾斜部186の高さをHとする。すなわち、傾斜部186の高さHは、傾斜部186のZ方向成分の長さである。このとき、傾斜部186の高さHは、3mm以上50mm以下であってもよい。
【0116】
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる。
【0117】
ここで、シムの延在方向における傾斜部186の幅をIとする。すなわち、傾斜部186の幅IはX方向の長さである。このとき、傾斜部186の幅Iは、H/10からH/2の範囲であってもよく、H/6からH/3の範囲であってもよい。例えば、傾斜部186の高さHが4mmのとき、傾斜部186の幅Iは1mmに設定される。
【0118】
この構成によれば、塗布幅を目標値により一層近づけることができる(表1参照)。
【0119】
なお、上記において実施形態又はその変形例として記載した各構成要素は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲で適宜組み合わせることができるし、また、組み合わされた複数の構成要素のうち一部の構成要素を適宜用いないようにすることもできる。
【実施例】
【0120】
以下、実施例により本発明をより具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0121】
本発明者は、シムの開口部を所定の形状にすることによって塗布幅を目標値に可及的に近づけることができることを以下の評価により確認した。
【0122】
(評価内容)
塗布液が流出するシムの開口部として以下の比較例1~3および実施例1~3に係る開口部を有するシムを用い、塗布幅が目標値にどれほど近づいたかを示す塗布幅の「目標値との差」、対象物に塗布された塗布液(塗布膜)の端縁形状の評価を示す「エッジ波打ち」の有無、目標厚みに対する塗布膜の厚みの評価を示す塗布膜の「プロファイル」をそれぞれ評価した。開口部に供給する塗布液の粘度は、5Pa・sとした。開口部の開口幅は、90mmとした。
【0123】
(比較例1)
比較例1のシムは、矩形形状の開口部を有するものを用いた。すなわち、比較例1においては、開口部の開口側の角部の角度(開口部の角度Gに相当)は90°である。
【0124】
(実施例1)
実施例1のシムは、等脚台形形状の開口部を有し、開口部の角度Gが91°であるものを用いた。
【0125】
(実施例2)
実施例2のシムは、等脚台形形状の開口部を有し、開口部の角度Gが92°であるものを用いた。
【0126】
(実施例3)
実施例3のシムは、矩形形状の開口部を有するシムの開口部の開口側の角部を1mm×4mmで面取りしたものを用いた。すなわち、実施例3においては、
図11に示す変形例の傾斜部の幅Iを1mm、傾斜部の高さHを4mmとしたもの(開口部の開口側の角部をX方向1mm、Z方向4mmだけ面取りしたもの)を用いた。
【0127】
(評価結果)
塗布幅の「目標値との差」の評価結果については、比較例1を基準とした場合、実施例1~3が良好な結果となった。ここで、塗布幅をx1とし、目標値をx2としたとき、目標値との差dxは、以下の式(1)により算出した。
dx=x2-x1 ・・・(1)
式(1)より、塗布幅x1が目標値x2よりも広いときは、目標値との差dxはプラスとなる。一方、塗布幅x1が目標値x2よりも狭いときは、目標値との差dxはマイナスとなる。
塗布膜の「エッジ波打ち」の評価結果については、実施例1~2が良好な結果となった。表1においては、エッジ波打ちが生じていれば「有」、エッジ波打ちが抑制されていれば「無」とした。
塗布膜の「プロファイル」の評価結果については、実施例2が良好な結果となった。ここで、塗布膜の厚みをz1とし、目標厚みをz2としたとき、塗布膜のプロファイルdzは、以下の式(2)より算出した。
dz=(z1/z2)×100 ・・・(2)
式(2)より、プロファイルdzが100%に近づくほど良好な結果となる。
【0128】
【0129】
以上により、開口部の角度Gが91°以上96°以下であるシム(実施例1~3)を用いることによって、塗布幅を目標値に可及的に近づけることができることが分かった。
また、等脚台形形状の開口部を有し、開口部の角度Gが91°または92°であるシム(実施例1、実施例2)を用いることによって、塗布幅を目標値に可及的に近づけるとともに塗布膜のエッジ波打ちを抑制することができることが分かった。
また、開口部の角度Gが92°であるシム(実施例2)を用いることによって、塗布幅を目標値に可及的に近づけるとともに塗布膜のエッジ波打ちを抑制しかつ塗布膜の良好なプロファイルを得られることが分かった。
【符号の説明】
【0130】
1…塗布装置 2…基板搬送部 3…塗布部 5…基板 50…ノズル 60…吐出口 80…シム 82…開口部 182…開口部 182a…定幅開口部 182b…拡幅開口部 186…傾斜部