(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】研磨用組成物および研磨システム
(51)【国際特許分類】
C09K 3/14 20060101AFI20230721BHJP
C09G 1/02 20060101ALI20230721BHJP
H01L 21/304 20060101ALI20230721BHJP
【FI】
C09K3/14 550D
C09K3/14 550Z
C09G1/02
H01L21/304 621D
H01L21/304 622X
(21)【出願番号】P 2019010484
(22)【出願日】2019-01-24
【審査請求日】2021-10-25
(31)【優先権主張番号】P 2018165032
(32)【優先日】2018-09-04
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000236702
【氏名又は名称】株式会社フジミインコーポレーテッド
(74)【代理人】
【識別番号】110000671
【氏名又は名称】IBC一番町弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】篠田 敏男
(72)【発明者】
【氏名】井澤 由裕
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 大輝
【審査官】澤村 茂実
(56)【参考文献】
【文献】特開2002-231666(JP,A)
【文献】特開2014-041911(JP,A)
【文献】特開2007-026488(JP,A)
【文献】再公表特許第2006/030595(JP,A1)
【文献】国際公開第2017/070074(WO,A1)
【文献】特開2016-194004(JP,A)
【文献】特開2017-163148(JP,A)
【文献】特開2007-008892(JP,A)
【文献】国際公開第2008/155987(WO,A1)
【文献】特表2005-529485(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C09K 3/14
C09G 1/02
H01L 21/304
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、
砥粒と、分配係数の対数値(LogP)が1.0以上である化合物と、分散媒と、を含有し、
酸化剤を実質的に含有せず、
pHが7.0未満であり、
前記化合物は、ソルビタンモノカプリレート、ジメチルラウリルアミンオキシド、ショ糖ラウリン酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ミリスチン酸イソプロピル、テトラデカナール、ラウリン酸ナトリウム、ミリスチン酸、ショ糖パルミチン酸エステル、サリチル酸オクチル、プロピレングリコールジカプリラート、ショ糖オレイン酸エステル、リシノール酸、ステアリン酸、オレイン酸ジエタノールアミド、2-ヘキシル-1-デカノール、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、フィトール、パルミチン酸イソオクチル、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリド及び酢酸トコフェロールからなる群から選択される1以上であ
り、
前記砥粒がシリカである、研磨用組成物。
【請求項2】
前記化合物の分配係数の対数値(LogP)が7.0以下である、請求項1に記載の研磨用組成物。
【請求項3】
前記化合物が界面活性剤である、請求項1または2に記載の研磨用組成物。
【請求項4】
前記砥粒は未変性シリカである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項5】
前記pHが1.5以上3.5以下である、請求項
4に記載の研磨用組成物。
【請求項6】
前記砥粒はカチオン変性シリカである、請求項1~
3のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【請求項7】
前記pHが3.5以上5.5以下である、請求項
6に記載の研磨用組成物。
【請求項8】
前記化合物が、ソルビタンモノカプリレート、ジメチルラウリルアミンオキシド、ショ糖ラウリン酸エステル、ソルビタンモノラウレート、ラウリン酸ナトリウム、ショ糖パルミチン酸エステル、ショ糖オレイン酸エステル、オレイン酸ジエタノールアミド、オレイン酸ナトリウム、パルミチン酸イソオクチルからなる群から選択される1以上である請求項1~
7のいずれか1項に記載の研磨用組成物。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、研磨用組成物および研磨システムに関する。
【背景技術】
【0002】
近年、半導体基板表面の多層配線化に伴い、デバイスを製造する際に、半導体基板を研磨して平坦化する、いわゆる、化学的機械的研磨(Chemical Mechanical Polishing;CMP)技術が利用されている。CMPは、シリカやアルミナ、セリア等の砥粒、防食剤、界面活性剤などを含む研磨用組成物(スラリー)を用いて、半導体基板等の研磨対象物(被研磨物)の表面を平坦化する方法であり、研磨対象物(被研磨物)は、シリコン、ポリシリコン、シリコン酸化膜(酸化ケイ素)、シリコン窒化物や、金属等からなる配線、プラグなどである。
【0003】
たとえば、特許文献1では、半導体集積回路の平坦化工程において化学的機械的研磨に用いられる研磨液であって、四級アンモニウムカチオン、有機酸、無機粒子、ならびに一般式(I)で示される化合物および一般式(I)で示される構造単位を含む高分子の少なくとも一方を含み、pHが1~7の範囲であることを特徴とする研磨液が開示されている。また、特許文献2では、式(1)で表されるポリグリセリン誘導体(A)、研磨材(B)、および水を含有する化学的機械的研磨用研磨組成物が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-88249号公報
【文献】特開2009-99819号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記特許文献1および2に記載の研磨液によれば、酸化ケイ素膜の表面に発生するスクラッチを抑制することができるとしている。しかしながら、本発明者らの検討によれば、特許文献1および特許文献2に記載の技術では、スクラッチの抑制が未だ不十分であるという問題があることがわかった。
【0006】
したがって、本発明は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の高い研磨速度を維持しつつ、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減することができる研磨用組成物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明者らは鋭意研究を積み重ねた。その結果、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、分配係数の対数値(LogP)が1.0以上である化合物と、分散媒と、を含有し、pHが7未満である、研磨用組成物により、上記課題が解決することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の高い研磨速度を維持しつつ、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減することができる研磨用組成物が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0009】
本発明は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨するために用いられる研磨用組成物であって、砥粒と、分配係数の対数値(LogP)が1.0以上である化合物と、分散媒と、を含有し、pHが7未満である、研磨用組成物である。当該研磨用組成物によれば、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の高い研磨速度を維持しつつ、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減することができる。
【0010】
本発明の研磨用組成物により上記効果が得られる理由の詳細は不明であるが、下記のようなメカニズムが考えられる。ただし、下記メカニズムはあくまで推測であり、これによって本発明の範囲が限定されることはない。
【0011】
特許文献1および2に記載の技術では、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを抑制することが十分ではなく、その原因について、本発明者らは鋭意検討を行った。その過程で、研磨パッドを用いて研磨対象物を研磨する際、研磨パッド屑が発生するが、研磨中のせん断応力により研磨パッド屑と砥粒とが凝集し、粗大粒子を作りやすくなり、この粗大粒子が原因となり、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチが増加するのではないかと、本発明者らは考えた。
【0012】
このような課題に対し、本発明者らは、砥粒と、分配係数の対数値(LogP、以下単に「LogP」とも称する)が1.0以上である化合物と、分散媒と、を含有し、pHが7未満である、研磨用組成物により上記課題が解決することを見出した。LogPが1.0以上である化合物は、一般に疎水部と親水部とを有しているが、研磨中に発生する研磨パッド屑の疎水性の表面に、疎水性相互作用で該化合物の疎水部が付着し、研磨パッド屑の表面は親水化される。表面が親水化された研磨パッド屑は、分散媒中(特に水中)で分散安定化し、砥粒との凝集が抑えられ、粗大粒子を形成しにくくなる。このようにして、研磨パッド屑と砥粒との粗大粒子の形成が抑制された本発明の研磨用組成物は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の高い研磨速度を維持しつつ、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減することができると考えられる。
【0013】
以下、本発明の実施の形態を説明する。なお、本発明は、以下の実施の形態のみには限定されない。また、本明細書において、特記しない限り、操作および物性等の測定は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件で行う。
【0014】
<研磨対象物>
[酸化ケイ素膜]
本発明に係る研磨対象物は、酸化ケイ素膜を有する。酸化ケイ素膜の例としては、たとえば、オルトケイ酸テトラエチルを前駆体として使用して生成されるTEOS(Tetraethyl Orthosilicate)タイプ酸化ケイ素膜(以下、単に「TEOS」とも称する)、HDP(High Density Plasma)膜、USG(Undoped Silicate Glass)膜、PSG(Phosphorus Silicate Glass)膜、BPSG(Boron-Phospho Silicate Glass)膜、RTO(Rapid Thermal Oxidation)膜等が挙げられる。
【0015】
本発明に係る研磨対象物は、酸化ケイ素以外に、他の材料を含んでいてもよい。他の材料の例としては、窒化ケイ素、炭窒化ケイ素(SiCN)、多結晶シリコン(ポリシリコン)、非晶質シリコン(アモルファスシリコン)、金属、SiGe等が挙げられる。
【0016】
<研磨用組成物>
[砥粒]
本発明の研磨用組成物に使用される砥粒の種類としては、特に制限されず、たとえば、シリカ、アルミナ、ジルコニア、チタニア等の金属酸化物が挙げられる。該砥粒は、単独でもよいしまたは2種以上組み合わせても用いることができる。該砥粒は、それぞれ市販品を用いてもよいし合成品を用いてもよい。
【0017】
砥粒の種類としては、好ましくはシリカであり、より好ましくはコロイダルシリカである。コロイダルシリカの製造方法としては、ケイ酸ソーダ法、ゾルゲル法が挙げられ、いずれの製造方法で製造されたコロイダルシリカであっても、本発明の砥粒として好適に用いられる。しかしながら、金属不純物低減の観点から、ゾルゲル法により製造されたコロイダルシリカが好ましい。ゾルゲル法によって製造されたコロイダルシリカは、半導体中に拡散性のある金属不純物や塩化物イオン等の腐食性イオンの含有量が少ないため好ましい。ゾルゲル法によるコロイダルシリカの製造は、従来公知の手法を用いて行うことができ、具体的には、加水分解可能なケイ素化合物(たとえば、アルコキシシランまたはその誘導体)を原料とし、加水分解・縮合反応を行うことにより、コロイダルシリカを得ることができる。
【0018】
砥粒は、表面修飾していないシリカ(未変性シリカ)であってもよいが、カチオン性基を有するシリカ(カチオン変性シリカ)がさらに好ましく、カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)が特に好ましい。カチオン性基を有するシリカ(コロイダルシリカ)は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の研磨速度をより向上させることができる。また、研磨パッド屑は一般に酸性条件下でゼータ電位がプラスであることから、ゼータ電位がプラスであるカチオン性基を有するシリカ(コロイダルシリカ)と研磨パッド屑との凝集はより抑制され、粗大粒子がより形成されにくくなり、研磨対象物表面のスクラッチをより低減することができる。
【0019】
カチオン性基を有するコロイダルシリカ(カチオン変性コロイダルシリカ)としては、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカが好ましく挙げられる。このようなカチオン性基を有するコロイダルシリカの製造方法としては、特開2005-162533号公報に記載されているような、アミノエチルトリメトキシシラン、アミノプロピルトリメトキシシラン、アミノエチルトリエトキシシラン、アミノプロピルトリエトキシシラン、アミノプロピルジメチルエトキシシラン、アミノプロピルメチルジエトキシシラン、アミノブチルトリエトキシシラン等のアミノ基を有するシランカップリング剤を砥粒の表面に固定化する方法が挙げられる。これにより、アミノ基が表面に固定化されたコロイダルシリカを得ることができる。
【0020】
砥粒の形状は、特に制限されず、球形状であってもよいし、非球形状であってもよい。非球形状の具体例としては、三角柱や四角柱などの多角柱状、円柱状、円柱の中央部が端部よりも膨らんだ俵状、円盤の中央部が貫通しているドーナツ状、板状、中央部にくびれを有するいわゆる繭型形状、複数の粒子が一体化しているいわゆる会合型球形状、表面に複数の突起を有するいわゆる金平糖形状、ラグビーボール形状等、種々の形状が挙げられ、特に制限されない。
【0021】
砥粒の大きさは特に制限されないが、砥粒の平均一次粒子径の下限は、5nm以上であることが好ましく、7nm以上であることがより好ましく、10nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均一次粒子径の上限は、120nm以下が好ましく、80nm以下がより好ましく、50nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均一次粒子径は、5nm以上120nm以下であることが好ましく、7nm以上80nm以下であることがより好ましく、10nm以上50nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均一次粒子径は、たとえば、BET法で測定される砥粒の比表面積に基づいて算出される。
【0022】
本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の下限は、10nm以上であることが好ましく、20nm以上であることがより好ましく、30nm以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の平均二次粒子径の上限は、250nm以下が好ましく、200nm以下がより好ましく、150nm以下がさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面にスクラッチなどのディフェクトを抑えることができる。すなわち、砥粒の平均二次粒子径は、10nm以上250nm以下であることが好ましく、20nm以上200nm以下であることがより好ましく、30nm以上150nm以下であることがさらに好ましい。なお、砥粒の平均二次粒子径は、たとえば、レーザー回折散乱法に代表される動的光散乱法により測定することができる。
【0023】
砥粒の平均会合度は、5.0以下であることが好ましく、3.0以下であることがより好ましく、2.5以下であることがさらに好ましい。砥粒の平均会合度が小さくなるにつれて、研磨対象物表面の欠陥発生をより低減することができる。また、砥粒の平均会合度は、1.0以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましい。砥粒の平均会合度が大きくなるにつれて、研磨用組成物による研磨速度が向上する利点がある。なお、砥粒の平均会合度は、砥粒の平均二次粒子径の値を平均一次粒子径の値で除することにより得られる。
【0024】
砥粒のアスペクト比の上限は、特に制限されないが、2.0未満であることが好ましく、1.8以下であることがより好ましく、1.5以下であることがさらに好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。なお、アスペクト比は、走査型電子顕微鏡により砥粒粒子の画像に外接する最小の長方形をとり、その長方形の長辺の長さを同じ長方形の短辺の長さで除することにより得られる値の平均であり、一般的な画像解析ソフトウエアを用いて求めることができる。砥粒のアスペクト比の下限は、特に制限されないが、1.0以上であることが好ましい。
【0025】
砥粒のレーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比であるD90/D10の下限は、特に制限されないが、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましい。また、研磨用組成物中の砥粒における、レーザー回折散乱法により求められる粒度分布において、微粒子側から積算粒子重量が全粒子重量の90%に達するときの粒子の直径(D90)と全粒子の全粒子重量の10%に達するときの粒子の直径(D10)との比D90/D10の上限は特に制限されないが、2.04以下であることが好ましい。このような範囲であれば、研磨対象物表面の欠陥をより低減することができる。
【0026】
砥粒の大きさ(平均一次粒子径、平均二次粒子径、アスペクト比、D90/D10等)は、砥粒の製造方法の選択等により適切に制御することができる。
【0027】
本発明の研磨用組成物中の砥粒の含有量(濃度)の下限は、0.01質量%以上であることが好ましく、0.05質量%以上であることがより好ましく、0.1質量%以上であることがさらに好ましい。また、本発明の研磨用組成物中、砥粒の含有量の上限は、20質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましく、3質量%以下であることがよりさらに好ましい。上限がこのようであると、研磨用組成物を用いて研磨した後の研磨対象物の表面に表面欠陥が生じるのをより抑えることができる。なお、研磨用組成物が2種以上の砥粒を含む場合には、砥粒の含有量はこれらの合計量を意図する。
【0028】
[分配係数の対数値(LogP)が1.0以上である化合物(スクラッチ低減剤)]
本発明の研磨用組成物は、分配係数の対数値(LogP、以下単に「LogP」とも称する)が1.0以上である化合物(以下、「スクラッチ低減剤」とも称する)を含む。スクラッチ低減剤は、研磨中に発生する疎水性の研磨パッド屑の表面に付着し、研磨パッド屑の表面を親水化する。これにより、研磨パッド屑と砥粒との粗大粒子の形成が抑制され、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の高い研磨速度を維持しつつ、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減することができる。
【0029】
ここで「LogP」とは、水と1-オクタノールとに対する有機化合物の親和性を示す値である。1-オクタノール/水の分配係数Pは、1-オクタノールと水との二液相の溶媒に微量の化合物が溶質として溶け込んだときの分配平衡で、それぞれの溶媒中における化合物の平衡濃度の比であり、底10に対するそれらの対数LogPで示す。すなわち、「LogP」とは、1-オクタノール/水の分配係数Pの対数値であり、分子の親疎水性を表すパラメータとして知られている。
【0030】
なお、本明細書において、分配係数の対数値(LogP)は、ACD/PhyChem Suite(ACD/Labs)を用いて化学物質の構造から算出している。
【0031】
本発明で用いられるスクラッチ低減剤のLogPは、1.0以上である。LogPが1.0未満の場合、疎水性相互作用による研磨パッド屑への吸着が起こり難く、粗大粒子の形成を抑制できない。
【0032】
LogPが1.0以上であるスクラッチ低減剤の具体的な例を以下に挙げる。なお、化合物名の後ろに示すカッコ内の数値は、LogPの値である。
【0033】
イソ酪酸(1.0)、2-アミノフェノール(1.0)、ジプロピレングリコールジメチルエーテル(1.02)、2,5-ジヒドロキシテレフタル酸(1.1)、2-フェノキシエタノール(1.1)、ジプロピレングリコールモノブチルエーテル(1.13)、3,5-ジメチルチアゾール(1.18)、2-ペンタノール(1.19)、プロピレングリコールモノブチルエーテル(1.19)、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(1.19)、ベンゾトリアゾール(1.22)、2-ペンチルグリセリルエーテル(1.25)、N-4-ヒドロキシフェニルグリシン(1.3)、1,2-オクタンジオール(1.3)、イソ吉草酸(1.3)、ソルビタンモノカプリレート(1.33)、トリプロピレングリコールモノブチルエーテル(1.34)、没食子酸エチル(1.4)、1-ペンタノール(1.4)、トリプロピレングリコールジメチルエーテル(1.46)、2-ヒドロキシエチルサリチレート(1.5)、4-ヒドロキシベンゼンスルホン酸(1.5)、トランスフェルラ酸(1.5)、2,4-ジヒドロキシ安息香酸(1.5)、1,2-ヘプタンジオール(1.5)、1-フェノキシ-2-プロパノール(1.52)、1,2-オクタンジオール(1.54)、エチレングリコールモノ-n-ヘキシルエーテル(1.57)、p-クマル酸(1.6)、3-ヒドロキシ安息香酸(1.6)、2,5-ジヒドロキシ安息香酸(1.6)、2,6-ジヒドロキシ安息香酸(1.6)、エチレングリコールモノへキシルエーテル(1.7)、ジエチレングリコールモノヘキシルエーテル(1.7)、プロピレングリコールジプロピオネート(1.76)、エチレングリコールモノブチルエーテルアセテート(1.79)、ジエチレングリコールジ-n-ブチルエーテル(1.92)、2-エチルヘキシルグリセリルエーテル(2.0)、アジピン酸ジイソプロピル(2.04)、1-オクチルグリセリルエーテル(2.1)、サリチル酸(2.1)、3-クロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(2.1)、2,4-ジメチルチアゾール(2.15)、5-クロロサリチル酸(2.3)、エチレングリコールモノ(2-エチルヘキシル)エーテル(2.46)、1-フェニル-5-メルカプトテトラゾール(2.56)、3,5-ジクロロ-4-ヒドロキシ安息香酸(2.8)、ジメチルラウリルアミンオキシド(3.09)、ショ糖ラウリン酸エステル(3.18)、1,3-ジフェニルグアニジン(3.34)、ソルビタンモノラウレート(3.37)、ミリスチン酸イソプロピル(4.42)、テトラデカナール(4.67)、ラウリン酸ナトリウム(4.77)、ミリスチン酸(4.94)、ショ糖パルミチン酸エステル(5.22)、サリチル酸オクチル(5.4)、プロピレングリコールジカプリラート(5.47)、1-メチルウンデカン(5.51)、ショ糖オレイン酸エステル(5.85)、リシノール酸(5.9)、ステアリン酸(6.61)、オレイン酸ジエタノールアミド(6.68)、2-ヘキシル-1-デカノール(6.8)、オレイン酸(7.0)、トリエチルヘキサノイン(7.05)、オレイン酸ナトリウム(7.42)、フィトール(8.0)、パルミチン酸イソオクチル(8.86)、トリ(カプリル酸/カプリン酸)グリセリド(9.25)、酢酸トコフェロール(10.61)。
【0034】
該スクラッチ低減剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。また、該スクラッチ低減剤は、合成品を用いてもよいし市販品を用いてもよい。
【0035】
スクラッチ低減剤のLogPの下限は、スクラッチをより少なくするという観点から、1.1以上であることが好ましく、1.2以上であることがより好ましく、1.3以上であることがさらに好ましく、1.3超であることが特に好ましい。また、スクラッチ低減剤のLogPの上限は、特に制限されないが、研磨パッド屑の分散安定性をさらに高めるという観点から、7.0以下であることが好ましく、5.0以下であることがより好ましく、4.0以下であることがさらに好ましい。
【0036】
また、当該スクラッチ低減剤は、界面活性剤であることが好ましい。スクラッチ低減剤が界面活性剤であれば、界面活性効果が得られるという利点を有する。かような界面活性剤であるスクラッチ低減剤の例としては、たとえば、ソルビタンモノカプリレート(1.33)、ジメチルラウリルアミンオキシド(3.09)、ショ糖ラウリン酸エステル(3.18)、ソルビタンモノラウレート(3.37)、ラウリン酸ナトリウム(4.77)、ショ糖パルミチン酸エステル(5.22)、ショ糖オレイン酸エステル(5.85)、オレイン酸ジエタノールアミド(6.68)、オレイン酸ナトリウム(7.42)、パルミチン酸イソオクチル(8.86)等が挙げられる。
【0037】
さらに、当該スクラッチ低減剤は、硫黄原子を有しないことが好ましい。硫黄原子を有するスクラッチ低減剤は、疎水性が高く、水への分散安定性が低下してしまう。また、pH7未満の条件では、研磨パッド屑は正に帯電しており、硫黄原子を有するスクラッチ低減剤の親水部(主として硫黄原子を有するオキソ酸部分)は、負に帯電する。そのため、スクラッチ低減剤の疎水部ではなく、スクラッチ低減剤の硫黄原子を有する親水部(主として硫黄原子を有するオキソ酸部分)が静電的に研磨パッド屑に吸着してしまい、研磨パッド屑の親水化効果を低減させる。一方、水酸基やカルボン酸基のような官能基を有し、硫黄原子を有しないスクラッチ低減剤は、水への分散安定性が高いことに加え、硫黄原子を有しないスクラッチ低減剤の親水部(水酸基やカルボン酸基)は、硫黄原子を有する親水部(オキソ酸部分)と比較して電離度が低い。よって、硫黄原子を有しないスクラッチ低減剤の親水部の帯電は、硫黄原子を有する親水部(オキソ酸部分)の帯電と比べて小さくなる。そのため硫黄原子を有しないスクラッチ低減剤の親水部が研磨パッド屑表面に静電的に吸着する度合は、硫黄原子を有する親水部と比べ低くなり、研磨パッド屑との疎水性相互作用による吸着度合が高くなる。よって、硫黄原子を有しないスクラッチ低減剤は、研磨パッド屑の親水化効果をより高めることができ、本発明の効果がより向上する。同様の観点から、スクラッチ低減剤は、硫黄原子と窒素原子との両方を有しないことがより好ましい。
【0038】
スクラッチ低減剤の含有量(濃度)は特に制限されないが、研磨用組成物の総質量に対して、1質量ppm以上であることが好ましく、10質量ppm以上であることがより好ましく、30質量ppm以上であることがさらに好ましい。また、スクラッチ低減剤の含有量(濃度)の上限は、研磨用組成物の総質量に対して、10000質量ppm以下であることが好ましく、5000質量ppm以下であることがより好ましく、3000質量ppm以下であることがさらに好ましい。すなわち、スクラッチ低減剤の含有量(濃度)は、研磨用組成物の総質量に対して、好ましくは1質量ppm以上10000質量ppm以下、より好ましくは10質量ppm以上5000質量ppm以下、さらに好ましくは30質量ppm以上3000質量ppm以下である。このような範囲であれば、高い研磨速度を維持しつつスクラッチを低減するという本発明の効果が効率よく得られる。なお、研磨用組成物が2種以上のスクラッチ低減剤を含む場合には、スクラッチ低減剤の含有量はこれらの合計量を意図する。
【0039】
[分散媒]
本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物を構成する各成分の分散のために分散媒が用いられる。分散媒としては、有機溶媒、水が挙げられるが、その中でも水を含むことが好ましい。
【0040】
研磨対象物の汚染や他の成分の作用を阻害することを抑制するという観点から、分散媒としては不純物をできる限り含有しない水が好ましい。このような水としては、たとえば、遷移金属イオンの合計含有量が100ppb以下である水が好ましい。ここで、水の純度は、たとえば、イオン交換樹脂を用いる不純物イオンの除去、フィルタによる異物の除去、蒸留等の操作によって高めることができる。具体的には、水としては、たとえば、脱イオン水(イオン交換水)、純水、超純水、蒸留水などを用いることが好ましい。通常は、研磨用組成物に含まれる分散媒の90体積%以上が水であることが好ましく、95体積%以上が水であることがより好ましく、99体積%以上が水であることがさらに好ましく、100体積%が水であることが特に好ましい。
【0041】
[研磨用組成物のpH]
本発明の研磨用組成物のpHは、7未満である。pHが7以上であると、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物表面のスクラッチ低減の効果が得られない。また、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の研磨レートも低下する。該pHは、6.5以下、6以下、5.5以下、5.0以下、5.0未満、4.0以下、3.5以下であってもよい。また、該pHの下限は、1以上、1.5以上、2以上、2.5以上、3以上、3.5以上であってもよい。
【0042】
なお、砥粒として、表面修飾していないシリカ(未変性シリカ)を用いる場合、研磨用組成物のpHは、1.5以上3.5以下が好ましい。また、砥粒として、カチオン変性シリカを用いる場合、研磨用組成物のpHは、3.5以上5.5以下が好ましい。
【0043】
なお、研磨用組成物のpHは、実施例に記載の方法により測定することができる。
【0044】
(pH調整剤、pH緩衝剤)
本発明に係る研磨用組成物は、pHを上記範囲内に調整する目的で、pH調整剤をさらに含んでいてもよい。
【0045】
pH調整剤としては、公知の酸、塩基、またはこれらの塩を使用することができる。pH調整剤として使用できる酸の具体例としては、たとえば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ酸、ホウ酸、炭酸、次亜リン酸、亜リン酸、およびリン酸等の無機酸や、ギ酸、酢酸、プロピオン酸、酪酸、吉草酸、2-メチル酪酸、n-ヘキサン酸、3,3-ジメチル酪酸、2-エチル酪酸、4-メチルペンタン酸、n-ヘプタン酸、2-メチルヘキサン酸、n-オクタン酸、2-エチルヘキサン酸、安息香酸、グリコール酸、サリチル酸、グリセリン酸、シュウ酸、マロン酸、コハク酸、グルタル酸、アジピン酸、ピメリン酸、マレイン酸、フタル酸、リンゴ酸、酒石酸、クエン酸、乳酸、ジグリコール酸、2-フランカルボン酸、2,5-フランジカルボン酸、3-フランカルボン酸、2-テトラヒドロフランカルボン酸、メトキシ酢酸、メトキシフェニル酢酸、フェノキシ酢酸、およびエチドロン酸(1-ヒドロキシエタン-1,1-ジホスホン酸、HEDP)等の有機酸が挙げられる。
【0046】
pH調整剤として使用できる塩基としては、エタノールアミン、2-アミノ-2-エチル-1,3-プロパンジオール等の脂肪族アミン、芳香族アミン等のアミン、水酸化第四アンモニウムなどの有機塩基、水酸化カリウム等のアルカリ金属の水酸化物、アルカリ土類金属の水酸化物、水酸化テトラメチルアンモニウム、アンモニア等が挙げられる。
【0047】
上記pH調整剤は、単独でもまたは2種以上混合しても用いることができる。
【0048】
また、上記の酸と組み合わせて、上記酸のアンモニウム塩や、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩をpH緩衝剤として用いてもよい。
【0049】
pH調整剤およびpH緩衝剤の添加量は、特に制限されず、研磨用組成物のpHが所望の範囲内となるよう適宜調整すればよい。
【0050】
[その他の添加剤]
本発明の研磨用組成物は、本発明の効果を損なわない範囲において、キレート剤、増粘剤、酸化剤、分散剤、表面保護剤、濡れ剤、LogPが1.0未満である界面活性剤、防錆剤、防腐剤、防カビ剤等の公知の添加剤をさらに含有してもよい。上記添加剤の含有量は、その添加目的に応じて適宜設定すればよい。
【0051】
本発明の研磨用組成物は、酸化剤を実質的に含有しないことが好ましい。ここでいう酸化剤の具体例としては、過酸化水素(H2O2)、過硫酸ナトリウム、過硫酸アンモニウム、ジクロロイソシアヌル酸ナトリウム等が挙げられる。なお、「研磨用組成物が酸化剤を実質的に含有しない」とは、少なくとも意図的には酸化剤を含有させないことをいう。したがって、原料や製法等に由来して微量の酸化剤が不可避的に含まれている研磨用組成物は、ここでいう酸化剤を実質的に含有しない研磨用組成物の概念に包含され得る。たとえば、研磨用組成物中における酸化剤のモル濃度が0.0005モル/L以下、好ましくは0.0001モル/L以下、より好ましくは0.00001モル/L以下、特に好ましくは0.000001モル/L以下である。
【0052】
<研磨用組成物の製造方法>
本発明の研磨用組成物の製造方法は、特に制限されず、たとえば、砥粒、LogPが1.0以上である化合物、および必要に応じて他の添加剤を、分散媒中で攪拌混合することにより得ることができる。各成分の詳細は上述した通りである。したがって、本発明は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を研磨するために用いられ、pHが7未満である研磨用組成物の製造方法であって、砥粒と、LogPが1.0以上である化合物と、分散媒と、を混合することを有する、研磨用組成物の製造方法を提供する。
【0053】
各成分を混合する際の温度は特に制限されないが、10℃以上40℃以下が好ましく、溶解速度を上げるために加熱してもよい。また、混合時間も、均一混合できれば特に制限されない。
【0054】
<研磨方法および半導体基板の製造方法>
上述のように、本発明の研磨用組成物は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物の研磨に好適に用いられる。よって、本発明は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物を準備する工程と、本発明の研磨用組成物を用いて前記研磨対象物を研磨する工程と、を含む研磨方法を提供する。また、本発明は、酸化ケイ素膜を含む半導体基板を上記研磨方法で研磨する工程を含む、半導体基板の製造方法を提供する。
【0055】
研磨装置としては、研磨対象物を有する基板等を保持するホルダーと回転数を変更可能なモータ等とが取り付けてあり、研磨パッド(研磨布)を貼り付け可能な研磨定盤を有する一般的な研磨装置を使用することができる。
【0056】
研磨パッドとしては、一般的な不織布、ポリウレタン、および多孔質フッ素樹脂等を特に制限なく使用することができる。研磨パッドには、研磨液が溜まるような溝加工が施されていることが好ましい。
【0057】
研磨条件については、たとえば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、たとえば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【0058】
研磨終了後、基板を流水中で洗浄し、スピンドライヤ等により基板上に付着した水滴を払い落として乾燥させることにより、金属を含む層を有する基板が得られる。
【0059】
本発明の研磨用組成物は一液型であってもよいし、二液型をはじめとする多液型であってもよい。また、本発明の研磨用組成物は、研磨用組成物の原液を水などの希釈液を使って、たとえば10倍以上に希釈することによって調製されてもよい。
【0060】
<研磨システム>
本発明は、酸化ケイ素膜を含む研磨対象物、研磨パッド、および研磨用組成物を含む研磨システムであって、前記研磨用組成物は、砥粒と、LogPが1.0以上である化合物と、分散媒と、を含み、前記研磨対象物の表面を前記研磨パッドおよび前記研磨用組成物と接触させる、研磨システムを提供する。
【0061】
本発明の研磨システムに適用される研磨対象物および研磨用組成物については、上記と同様であるため、ここでは説明を省略する。
【0062】
本発明の研磨システムに使用される研磨パッドは、特に制限されず、たとえば、発泡ポリウレタンタイプ、不織布タイプ、スウェードタイプ、砥粒を含むもの、砥粒を含まないもの等を使用することができる。
【0063】
本発明の研磨システムは、研磨対象物の両面を研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の両面を同時に研磨するものであってもよいし、研磨対象物の片面のみを研磨パッドおよび研磨用組成物と接触させて、研磨対象物の片面のみを研磨するものであってもよい。
【0064】
本発明の研磨システムでは、上記の研磨用組成物を含むワーキングスラリーを用意する。次いで、その研磨用組成物を研磨対象物に供給し、常法により研磨する。たとえば、一般的な研磨装置に研磨対象物をセットし、該研磨装置の研磨パッドを通じて該研磨対象物の表面(研磨対象面)に研磨用組成物を供給する。典型的には、上記研磨用組成物を連続的に供給しつつ、研磨対象物の表面に研磨パッドを押しつけて両者を相対的に移動(たとえば回転移動)させる。かかる研磨工程を経て研磨対象物の研磨が完了する。
【0065】
研磨条件については、たとえば、研磨定盤の回転速度は、10rpm(0.17s-1)以上500rpm(8.3s-1)以下が好ましい。研磨対象物を有する基板にかける圧力(研磨圧力)は、0.5psi(3.4kPa)以上10psi(68.9kPa)以下が好ましい。研磨パッドに研磨用組成物を供給する方法も特に制限されず、たとえば、ポンプ等で連続的に供給する方法が採用される。この供給量に制限はないが、研磨パッドの表面が常に本発明の研磨用組成物で覆われていることが好ましい。
【実施例】
【0066】
本発明を、以下の実施例および比較例を用いてさらに詳細に説明する。ただし、本発明の技術的範囲が以下の実施例のみに制限されるわけではない。なお、特記しない限り、「%」および「部」は、それぞれ、「質量%」および「質量部」を意味する。また、下記実施例において、特記しない限り、操作は室温(20℃以上25℃以下)/相対湿度40%RH以上50%RH以下の条件下で行われた。
【0067】
<研磨用組成物の調製>
(実施例1)
砥粒としてカチオン変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径31nm、平均二次粒子径62nm、平均会合度2.0)を、研磨用組成物の総質量を100質量%として1.5質量%の濃度となるように水に加えた。さらに、酢酸を0.15g/Lの濃度となるように、酢酸アンモニウムを0.06g/Lの濃度となるように、オレイン酸ジエタノールアミドを100質量ppmの濃度となるように、それぞれ添加した。その後、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは、4.5であった。
【0068】
砥粒の平均一次粒子径は、マイクロメリティックス社製の“Flow Sorb II 2300”を用いて測定されたBET法による砥粒の比表面積と、砥粒の密度とから算出した。また、砥粒の平均二次粒子径は、日機装株式会社製 動的光散乱式粒子径・粒度分布装置 UPA-UTI151により測定した。さらに、研磨用組成物(液温:25℃)のpHは、pHメーター(株式会社 堀場製作所製 型番:LAQUA)により確認した。
【0069】
(実施例2~4、比較例1~8)
スクラッチ低減剤の種類およびpH調整剤の種類を下記表1のように変更したこと以外は、実施例1と同様にして、各研磨用組成物を調製した。
【0070】
[評価1]
研磨対象物として、200mmのBPSG基板(アドバンスマテリアルズテクノロジー株式会社製)を準備した。上記で得られた実施例1~4および比較例1~8の各研磨用組成物を用いて、BPSG基板を以下の研磨条件で研磨した。
【0071】
(研磨条件)
研磨機として、Mirra(アプライド マテリアル社製)、研磨パッドとしてIC1000(ロームアンドハース社製)、研磨パッドのコンディショナーとしてA165(3M社製)をそれぞれ用いた。研磨圧力4.0psi(27.59kPa)、定盤回転数123rpm、ヘッド回転数117rpm、研磨用組成物の供給速度130ml/minの条件で、研磨時間は60秒で研磨を実施した。コンディショナーによるパッドコンディショニングは、研磨中に回転数120rpm、圧力5lbf(22.24N)、in-situで行った。
【0072】
<スクラッチ数>
研磨対象物表面のスクラッチ数は、ケーエルエー・テンコール社製のウェーハ検査装置“Surfscan(登録商標)SP2”を用いて、ウェーハ全面(ただし外周2mmは除く)の座標を測定し、測定した座標をReview-SEM(RS-6000、株式会社日立ハイテクノロジーズ製)で全数観察することで、スクラッチ数を測定した。
【0073】
<研磨レート>
研磨レート(Removal Rate;RR、研磨速度)は、以下の式により計算した。
【0074】
【0075】
膜厚は、光干渉式膜厚測定装置(ケーエルエー・テンコール(KLA-Tencor)株式会社製 型番:ASET-f5x)によって求めて、研磨前後の膜厚の差を研磨時間で除することにより研磨レートを評価した。
【0076】
スクラッチ数および研磨レートの評価結果を下記表1に示す。
【0077】
【0078】
上記表1から明らかなように、LogPが1.0以上であるスクラッチ低減剤を含む実施例の研磨用組成物を用いた場合、比較例1~8の研磨用組成物と比べて、BPSG膜を含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨でき、かつBPSG膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減できることがわかった。一方、比較例1~8の研磨用組成物を用いた場合、BPSG膜を含む研磨対象物表面のスクラッチの低減が不十分であり、また、比較例7~8の研磨用組成物を用いた場合、研磨速度が低いことがわかった。
【0079】
(実施例5)
砥粒として未変性コロイダルシリカ(平均一次粒子径31nm、平均二次粒子径62nm、平均会合度2.0)を、研磨用組成物の総質量を100質量%として0.5質量%の濃度となるように水に加えた。さらに、エチドロン酸(HEDP)を0.75g/Lの濃度となるように、オレイン酸ジエタノールアミドを100質量ppmの濃度となるように、それぞれ添加した。その後、室温(25℃)で30分攪拌混合し、研磨用組成物を調製した。得られた研磨用組成物のpHは、2.5であった。
【0080】
(実施例6~7、比較例9)
pH調整剤の量およびスクラッチ低減剤の種類を下記表2のように変更したこと以外は、実施例5と同様にして、各研磨用組成物を調製した。
【0081】
[評価2]
研磨対象物として、300mmのTEOS基板(アドバンテック株式会社製)を準備した。上記で得られた実施例5~7および比較例9の各研磨用組成物を用いて、TEOS基板を上記評価1と同様の研磨条件で研磨した。その後、上記評価1と同様の方法で、スクラッチ数および研磨レートを評価した。結果を下記表2に示す。
【0082】
【0083】
上記表2から明らかなように、LogPが1.0以上であるスクラッチ低減剤を含む実施例5~7の研磨用組成物を用いた場合、比較例9の研磨用組成物と比べて、TEOS膜を含む研磨対象物を高い研磨速度で研磨でき、かつTEOS膜を含む研磨対象物表面のスクラッチを十分に低減できることがわかった。一方、比較例9の研磨用組成物を用いた場合、TEOS膜を含む研磨対象物表面のスクラッチの低減が不十分であり、研磨速度も低いことがわかった。