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特許7316866硬化性組成物ならびにそれを用いた耐熱性及び靭性に優れる硬化物
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】硬化性組成物ならびにそれを用いた耐熱性及び靭性に優れる硬化物
(51)【国際特許分類】
   C08G 73/12 20060101AFI20230721BHJP
【FI】
C08G73/12
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019135804
(22)【出願日】2019-07-24
(65)【公開番号】P2021017537
(43)【公開日】2021-02-15
【審査請求日】2022-06-13
(73)【特許権者】
【識別番号】000001085
【氏名又は名称】株式会社クラレ
(72)【発明者】
【氏名】關口 健治
(72)【発明者】
【氏名】鶴田 仁志
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 雄高
【審査官】堀内 建吾
(56)【参考文献】
【文献】特開平09-048852(JP,A)
【文献】特開平02-189329(JP,A)
【文献】特開昭58-025327(JP,A)
【文献】特開昭58-176211(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C08G 73/12
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記一般式(I);
【化1】
[式中、X及びYはそれぞれ独立して、NH2、NRaH、NHCOOH、及びNC(Ra2からなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、Raは炭素数1~30の炭化水素基、又は酸素原子および/または窒素原子を含む置換基を有する炭素数1~30の炭化水素基を表し、R1は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。nは6又は7である。]
で表される化合物(A)及び多官能性化合物(B)を含む、硬化性組成物であって、
前記多官能性化合物(B)が4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド及び/又は1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンである、硬化性組成物。
【請求項2】
請求項1に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる、硬化物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は特定の化合物を含む硬化性組成物ならびにそれを用いた耐熱性及び靭性に優れる硬化物に関する。
【背景技術】
【0002】
商業上利用可能なビスマレイミド樹脂及びエポキシ樹脂は耐熱性に優れた熱硬化性樹脂として知られており、電気電子産業、自動車産業、産業など幅広い産業で使用されている。しかしながら、これらの熱硬化性樹脂は靭性不足によりクラックが入ることがあり、用途を狭める原因となっていた。熱硬化性樹脂の靭性を改良するために、ジアミン、アリル化合物等の可撓性ある変性剤により変性した場合でも、好ましい耐熱性と靭性を両立できないという問題点もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【文献】特開平3-17130号公報
【文献】特開2002-88152号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明は、このような問題点に鑑み、硬化性組成物ならびにそれを用いた耐熱性及び靭性に優れる硬化物を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明者らは、上記の目的を達成すべく鋭意検討した結果、特定の化合物を含む組成物を用いることにより、耐熱性及び靭性に優れ、さらに高温でも寸法安定性に優れる硬化物になることを見出し、当該知見に基づいてさらに検討を重ねて本発明を完成させた。
【0006】
すなわち、本発明は下記[1]~[5]を提供する。
[1] 下記一般式(I);
【化1】

[式中、X及びYはそれぞれ独立して、NH、NRH、NHCOOH、及びNC(Rからなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、Rは炭素数1~30の炭化水素基、又は酸素原子および/または窒素原子を含む置換基を有する炭素数1~30の炭化水素基を表し、R は水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。nは6又は7である。]
で表される化合物(A)及び多官能性化合物(B)を含む、硬化性組成物。
[2]多官能性化合物(B)が、分子中に化合物(A)と反応する官能基を2つ以上含有し、化合物(A)と反応する官能基が、エポキシ基、活性ビニル基、(メタ)アクリルオキシ基、マレイミド基、酸無水物及びイソシアネート基からなる群より選ばれる少なくとも1種である、[1]に記載の硬化性組成物。
[3]多官能性化合物(B)が、分子中に化合物(A)と反応する官能基を2つ以上含有し、化合物(A)と反応する官能基が、エポキシ基又はマレイミド基である、[1]又は[2]に記載の硬化性組成物。
[4]前記多官能性化合物(B)が4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド及び/又は1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンである、[1]~[3]のいずれか1項に記載の硬化性組成物。
[5][1]~[4]に記載の硬化性樹脂組成物を硬化してなる、硬化物。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、特定の化合物を含む硬化性組成物を用いることにより、耐熱性及び靭性に優れ、さらに高温でも寸法安定性に優れる硬化物を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0008】
本発明の硬化性組成物は上記一般式(I)で表される化合物(A)と、多官能性化合物(B)(以降、化合物(B)と略記することがある)とを含む。この硬化性組成物を用いることにより耐熱性及び靭性に優れる硬化物となる。
【0009】
本発明を何ら限定するものではないが、上記のような優れた効果が奏される理由としては、特定の炭素鎖長をもつ化合物(A)を用いることで耐熱性と靭性が両立されることが要因の1つであると考えられる。
【0010】
[化合物(A)]
本発明において使用される化合物(A)は、下記一般式(I)で表される化合物である。
【0011】
【化2】
【0012】
一般式(I)中、X及びYはそれぞれ独立して、NH、NRH、NHCOOH、及びNC(Rからなる群より選ばれる少なくとも1種の基を表し、Rは炭素数1~30の炭化水素基、又は酸素原子および/または窒素原子を含む置換基を有する炭素数1~30の炭化水素基を表し、Rは水素原子又は炭素数1~6のアルキル基を表す。nは6又は7である。
【0013】
前記R中、炭素数1~30の炭化水素基として、例えば、アルキル基、アルケニル基、アリール基、アラルキル基等が挙げられ、具体的には、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基、n-ウンデシル基、n-ドデシル基、n-オクタドデシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、及びシクロヘキシル基などのアルキル基;ビニル基、アリル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、イソプロペニル基、ブテニル基、イソブテニル基、ペンテニル基、ヘキセニル基、cis-3-ヘキセニル基、シクロヘキセニル基などのアルケニル基;フェニル基、トリル基、キシリル基、及びナフチル基などのアリール基;ベンジル基、2-フェニルエチル基、2-ナフチルエチル基、及びジフェニルメチル基などのアラルキル基が挙げられる。
【0014】
前記R中、酸素原子および/または窒素原子を含む置換基を有する炭素数1~30の炭化水素基において、酸素原子および/または窒素原子を含む置換基として、ヒドロキシル基、ホルミル基、エステル基、(メタ)アクリル基、エーテル基、カルボキシル基、エポキシ基、アミノ基、シアノ基、アミド基が挙げられ、これらは炭素数1~30の炭化水素基中の任意の位置に結合してよい。炭素数1~30の炭化水素基は前記と同じである。
【0015】
一般式(I)中、Rが表す炭素数1~6のアルキル基としては、例えば、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n-ヘキシル基、シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基などが挙げられる。
【0016】
本発明において使用される化合物(A)の具体例としては、例えば下記の化合物などが挙げられ、これらのうちの1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0017】
【化3】
【0018】
【化4】
【0019】
【化5】
【0020】
【化6】
【0021】
【化7】
【0022】
【化8】
【0023】
【化9】
【0024】
【化10】
【0025】
【化11】
【0026】
これらの中でも、硬化物への靭性付与の観点から、化合物(A)は、下記一般式(II)で表される化合物(A-1)又は下記一般式(III)で表される化合物(A-2)であることが好ましく、1,9-ノナンジアミン又は2-メチル-1,8-オクタンジアミンであることがより好ましく、1,9-ノナンジアミンであることが更に好ましい。
【0027】
【化12】
【0028】
【化13】
【0029】
一般式(II)及び一般式(III)中、X及びYは前記一般式(I)の前記とX及びYと同義である。
【0030】
本発明の硬化性組成物において、化合物(A)として化合物(A-1)を使用する場合、靭性を付与するために、化合物(A-1)に更に化合物(A-2)を混合して用いてもよい。耐熱性と靭性を両立する観点から、化合物(A-1)と化合物(A-2)のモル比(A-1)/(A-2)は、99/1~1/99の範囲にあることが好ましく、96/4~4/96の範囲にあることがより好ましく、92/8~10/90の範囲にあることが更に好ましく、85/15~50/50の範囲にあることがより更に好ましい。
【0031】
本発明において使用される化合物(A)、化合物(A-1)及び化合物(A-2)は、例えば1,9-ノナンジアミン又は2-メチル-1,8-オクタンジアミンを用いて、下記(1)~(5)に示した変性方法により得られる。
(1)フェノール類とカルボニル基を有する化合物を反応させるマンニッヒ変性方法
(2)エポキシ化合物を反応させるエポキシ化合物付加変性方法
(3)置換又は非置換のアクリル化合物を反応させるマイケル付加変性方法
(4)ポリカルボン酸を反応させるポリアミド化変性方法
(5)ケトン化合物を反応させるケチミン化変性方法
【0032】
(1)マンニッヒ変性方法に使用されるフェノール類としては、例えばフェノール、アルキル置換フェノール、クレゾール、ハロゲン置換フェノール、アニソール、ビスフェノール-A、ビスフェノール-F及びそれらの混合物等が挙げられ、また前記のマンニッヒ変性方法に使用されるカルボニル基を有する化合物としては、例えばホルムアルデヒド、パラホルムアルデヒド、アセトアルデヒド、ベンズアルデヒド、アセトン及びそれらの混合物等が挙げられ、それぞれについて、その他のフェノール類及びその他のカルボニル化合物も使用できる。
【0033】
(2)エポキシ化合物付加変性方法に使用されるエポキシ化合物としては、例えばグリシジメタクリレート、オクチレンオキサイド、アリルグリシジルエーテル、ブチルグリシジルエーテル等の単官能エポキシ化合物やエチレングリコールジグリシジルエーテル、プロピレングリコールジグリシジルエーテル、ネオペンチルグリコールジグリシジルエーテル、ジグリシジルアニリン等の二官能エポキシ化合物等が挙げられる。その他の置換又は無置換のエポキシ化合物も使用できる。
【0034】
(3)マイケル付加変性方法に使用される置換又は無置換のアクリル化合物としては、例えばアクリル酸、メタクリル酸、アクリロニトリル、アクリルアミド、アクリル酸エステル、メタクリル酸エステル等が挙げられ、その他の置換又は無置換のアクリル化合物も使用できる。
【0035】
(4)ポリアミド化変性方法に使用されるポリカルボン酸としては、例えばモノマー酸、ダイマー酸、トリマー酸、トール油脂肪酸、フタル酸、マレイン酸等が挙げられ、その他のポリカルボン酸も使用できる。
【0036】
(5)ケチミン化変性方法に使用されるケトン化合物としては、例えばアセトン、メチルエチルケトン、ジイソプロピルケトン、メチルイソプロピルケトン、メチルイソブチルケトン等が挙げられ、その他のケトン化合物も使用できる。
【0037】
[化合物(B)]
本発明の硬化性組成物は、上記した化合物(A)及び多官能性化合物(B)を含む。当該多官能性化合物(B)としては、分子中に化合物(A)と反応する官能基を2つ以上含有し、化合物(A)と反応する官能基が、エポキシ基、活性ビニル基、(メタ)アクリルオキシ基、マレイミド基、酸無水物及びイソシアネート基からなる群より選ばれるいずれかである化合物が好ましく、硬化しやすさの観点から、化合物(A)と反応する官能基がエポキシ基又はマレイミド基のいずれかである化合物がより好ましい。
【0038】
本発明において、活性ビニル基は、ビニル基に電子求引性基が1つ以上置換された基である。上記電子求引性基としては、カルボキシル基、シアノ基、ホルミル基、エステル基、スルホニル基、ニトロ基、ハロゲン基などが挙げられる。
【0039】
化合物(A)と反応する官能基がエポキシ基である多官能性化合物(B)としては、従来公知のエポキシ化合物やエポキシ樹脂を用いることが出来る。例えばビスフェノールA系エポキシ樹脂、ビスフェノールF系エポキシ樹脂、ブロム化ビスフェノールA系エポキシ樹脂、グリシジルエーテル型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、線状脂肪族型エポキシ樹脂、脂環族型エポキシ樹脂などが挙げられる。これらのエポキシ樹脂は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0040】
化合物(A)と反応する官能基がマレイミド基である多官能性化合物(B)としては、従来公知のビスマレイミドを用いることが出来る。例えば4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、メタフェニレンビスマレイミド、ビスフェノールAジフェニルエーテルビスマレイミド、3,3′-ジメチル-5,5′-ジエチル-4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、4-メチル-1,3-フェニレンビスマレイミド、1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン等が挙げられる。これらの化合物は1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。
【0041】
本発明において、硬化物の耐熱性及び靭性を改善させる観点から、多官能性化合物(B)は4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド及び/又は1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサンであることが好ましい。
【0042】
本発明の硬化性組成物は、耐熱性及び靭性の観点から、化合物(A)と多官能性化合物(B)の総和を100質量%としたとき、化合物(A)は10質量%以上が好ましく、15質量%以上がより好ましく、また、40質量%以下が好ましく、30質量%以下が好ましい。
【0043】
本発明の硬化性組成物は、耐熱性及び靭性の観点から、化合物(A)と化合物(B)のモル比(A/B)は、1/3~3/1の範囲にあることが好ましく、1/2~2/1の範囲にあることがより好ましい。
【0044】
本発明の硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、化合物(B)と反応する化合物(A)以外の化合物(C)を含有してもよく、化合物(C)として、例えば、ジアミン、ジオール、アミノアルコールなどが挙げられる。
【0045】
本発明において、化合物(C)のジアミンとして、具体的には、エチレンジアミン、1,2-プロパンジアミン、1,3-プロパンジアミン、2-メチル-1,3-プロパンジアミン等の炭素数3以下の脂肪族ジアミン;シクロヘキサンジアミン、メチルシクロヘキサンジアミン、イソホロンジアミン等の脂環式ジアミン;p-フェニレンジアミン、m-フェニレンジアミン、キシリレンジアミン、4,4’-ジアミノジフェニルメタン、4,4’-ジアミノジフェニルスルホン、4,4’-ジアミノジフェニルエーテル等の芳香族ジアミンなどを挙げられ、これらのうちの1種又は2種以上を使用してもよい。
【0046】
本発明において、化合物(C)を使用する場合、化合物(A)と化合物(C)の総和を100モル%としたとき、化合物(A)の含有量は、硬化物の耐熱性及び靭性の観点から、90~100モル%が好ましい。
【0047】
本発明の硬化性組成物は、本発明の効果を損なわない範囲で、樹脂をさらに含んでいてもよい。当該樹脂としては、例えば、不飽和ポリエステル樹脂、ビニルエステル樹脂、ウレタン(メタ)アクリレート樹脂、フッ素樹脂、ポリアミド樹脂(ポリアミド66等)、ポリカーボネート樹脂、ポリウレタン樹脂などが挙げられる。
【0048】
不飽和ポリエステル樹脂としては、例えば、プロピレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体、エチレングリコール-無水フタル酸-無水マレイン酸共重合体など、多価アルコールとα,β-不飽和多塩基酸類及び他の多塩基酸類との共重合体や、これらの共重合体にスチレン等のラジカル重合性単量体を添加したものなどが挙げられる。また、これらの共重合体は、さらにアリルグリシジルエーテル等の不飽和アルコールのグリシジル化合物を共重合成分の1つとして含んでもよい。
【0049】
ビニルエステル樹脂としては、例えば、ビスフェノールA型のエポキシ樹脂末端に(メタ)アクリル酸を付加させたものなど、エポキシ樹脂に(メタ)アクリル酸を付加させたものなどが挙げられる。
【0050】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、例えば、多価アルコールと過剰の多価イソシアネートより合成されるイソシアネート基残存ポリマーに(メタ)アクリル酸や水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルを付加させたものなどが挙げられる。
【0051】
多価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、1,2-プロパンジオール、1,3-プロパンジオール、ネオペンチルグリコール、水添ビスフェノールA、水添ビスフェノールFなどが挙げられる。
【0052】
多価イソシアネートとしては、例えば、トリメチレンジイソシアネート、テトラメチレンジイソシアネート、ペンタメチレンジイソシアネート、ヘキサメチレンジイソシアネート、1,2-プロピレンジイソシアネート、1,2-ブチレンジイソシアネート、2,3-ブチレンジイソシアネート、1,3-ブチレンジイソシアネート、2,4,4-又は2,2,4-トリメチルヘキサメチレンジイソシアネート、リジンジイソシアネート、ジフェニルメタンジイソシアネート、イソホロンジイソシアネートなどが挙げられる。
【0053】
ウレタン(メタ)アクリレート樹脂としては、多価イソシアネートとしてヘキサメチレンジイソシアネートと、水酸基含有(メタ)アクリル酸エステルとしてペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレートとを反応させて得られるウレタン(メタ)アクリレート樹脂などが挙げられる。
【0054】
本発明の硬化性組成物は、希釈剤、硬化促進剤、触媒、顔料、染料、充填剤、紫外線吸収剤、増粘剤、低収縮化剤、老化防止剤、可塑剤、骨材、難燃剤、安定剤、繊維強化材、酸化防止剤、レベリング剤、たれ止め剤など、上記した化合物(A)、多官能性化合物(B)、化合物(C)及び樹脂以外の他の成分をさらに含んでいてもよい。
【0055】
顔料としては、例えば、酸化チタン、ベンガラ、アニリンブラック、カーボンブラック、シアニンブルー、クロムイエローなどが挙げられる。充填剤としては、例えば、タルク、マイカ、カオリン、炭酸カルシウム、クレーなどが挙げられる。
【0056】
[硬化性組成物の製造方法]
本発明の硬化性組成物の製造方法に特に制限はなく、上記した化合物(A)、多官能性化合物(B)、必要に応じて、化合物(C)、樹脂及びその他の成分を混合することにより製造することができる。
【0057】
[硬化物]
本発明の硬化物は、上記硬化性組成物を硬化させることにより得られ、硬化方法は特に制限はないが、例えば、上記硬化性組成物にマトリックス基材を含浸後、熱処理する方法、また、基材に上記硬化性組成物を塗布又は塗工し熱処理する方法等が挙げられる。
【0058】
[硬化物の用途]
本発明の硬化物の用途に特に制限はないが、本発明の硬化物は、耐熱性及び靭性に優れることから、例えば、自動車部品、原油掘削・輸送用途、電気・電子部品、家庭・事務用品・建材関係部品に使用でき、具体的には、パワーデバイス用封止材、FRP用ワニス、自動車用モジュール封止、フィルム用ワニス、積層板用ワニス等に使用することができる。
【実施例
【0059】
以下に本発明を実施例により具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例により何ら限定されるものではない。
なお、以下の実施例及び比較例において用いた、5%重量減少温度、熱膨張係数、貯蔵弾性率、及び最小曲げ半径の各評価方法を以下に示す。
【0060】
・5%重量減少温度
リガク製TG-8120を用いたTG/DTAにより測定した。窒素気流下(200mL/分)、昇温速度10℃/分で加熱した場合に重量が5%減少する温度を測定した。
本発明の硬化物は耐熱性に優れる。具体的にはJIS K7197に準じ測定した5%重量減少温度が、好ましくは330℃以上であり、より好ましくは340℃以上であることにより、硬化物が優れた耐熱性を有するといえる。
【0061】
・熱膨張係数
リガク製TMA-8310Lを用いたTMA法により測定した。硬化フィルムを長さ15mm、幅5mmに切り出し、荷重49mNの引張モードにおいて、窒素気流下(50mL/分)、昇温速度5℃/分で室温から300℃まで昇温して測定した。
高温での反りや変形を抑制するためにも、硬化物の熱膨張係数は低いことが望ましい。具体的にはJIS K7197に準じ測定した200℃から300℃の区間の熱膨張係数が200ppm/℃以下が好ましく、100ppm/℃以下がより好ましい。
【0062】
・貯蔵弾性率
硬化物を長さ40mm、幅10mmに切り出し、(株)日立ハイテクサイエンス製「EXSTAR DMS6100」を使用して、ISO6721に準拠して、引張モード、窒素気流下、3℃/分の昇温速度、10.0Hzで測定し、40℃、100℃、200℃及び300℃における貯蔵弾性率(GPa)を求めた。
本発明の硬化物は優れた高温弾性率を有する。具体的には、ISO 6721に準じ測定した100℃における貯蔵弾性率が、好ましくは2.0GPa以上であり、より好ましくは200℃における貯蔵弾性率が0.9GPa以上であることにより、硬化物が優れた高温弾性率を有するといえる。
【0063】
・最小曲げ半径
硬化フィルムを円筒に1周分巻き付けた後に、フィルムのクラック有無を目視で確認した。円筒の半径は0.5mm刻みで評価を行った。
本発明の硬化物は優れた靭性を有する。具体的には、本発明で得られる樹脂から成るフィルムの23℃における最小曲げ半径が好ましくは4mm以下であり、より好ましくは3mm以下であることにより、硬化物が優れた靭性を有するといえる。
【0064】
[実施例1]
BMI-1000(4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業製)32.8g(91.5mmol)を1,4-ジオキサン131gに40℃下で溶解させ、冷却してビスマレイミド溶液を調製した。また、NMDA(1,9-ノナンジアミン、株式会社クラレ製)7.24g(45.7mmol)を1,4-ジオキサン14g、エタノール14gに常温で溶解させ、ジアミン溶液を調製した。ビスマレイミド溶液とジアミン溶液を混合した混合溶液をエバポレーターを用いて室温で濃縮し、固形分が70質量%以上となってからN,N-ジメチルホルムアミドを20g加えて塗工溶液として回収した。
塗工溶液を銅箔上に塗布し1昼夜風乾させ、さらに80℃のオーブン中で乾燥させ、未硬化フィルムを得た。未硬化フィルムを窒素気流下で加熱硬化させ、膜厚275μmの硬化フィルムを得た。加熱硬化は150℃で1.5時間保持した後に、175℃で1.5時間保持し、さらに200℃で1.5時間保持し、最後に230℃で4時間行った。昇温は5℃/分とした。
【0065】
[実施例2]
BMI-TMH(1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン、大和化成工業製)32.0g(116mmol)を1,4-ジオキサン128gに40℃下で溶解させ、冷却してビスマレイミド溶液を調整した。また、NMDA(1,9-ノナンジアミン、株式会社クラレ製)7.96g(50.2mmol)を1,4-ジオキサン16g、エタノール16gに常温で溶解させ、ジアミン溶液を調整した。ビスマレイミド溶液とジアミン溶液を混合した以降は、使用するN,N-ジメチルホルムアミドの量を5gとした以外は実施例1と同じ条件で製造し、膜厚275μmの硬化フィルムを得た。
【0066】
[比較例1]
BMI-1000(4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド、大和化成工業製)31.3g(87.3mmol)を1,4-ジオキサン125gに40℃下で溶解させ、冷却してビスマレイミド溶液を調整した。また、DDM(4,4′-ジアミノジフェニルメタン、東京化成工業製)8.67g(43.7mmol)を1,4-ジオキサン17g、テトラヒドロフラン17gに常温で溶解させ、ジアミン溶液を調整した。ビスマレイミド溶液とジアミン溶液を混合した。以降は使用するジメチルホルムアミドの量を15gとした以外は実施例1と同じ条件で製造し、膜厚275μmの硬化フィルムを得た。
【0067】
[比較例2]
ビスマレイミド(BMI-1000、大和化成工業製)34.4g(96.0mmol)を1,4-ジオキサン138gに40℃下で溶解させ、冷却してビスマレイミド溶液を調整した。また、HMDA(1,6-ヘキサメチレンジアミン、東京化成工業製)5.58g(48.0mmol)を1,4-ジオキサン11g、エタノール11gに常温で溶解させ、ジアミン溶液を調整した。ビスマレイミド溶液とジアミン溶液を混合した以降は、使用するジメチルホルムアミドの量を15gとした以外は実施例1と同じ条件で製造し、膜厚275μmの硬化フィルムを得た。
【0068】
【表1】
【0069】
なお、表1に示す各成分は下記の通りである。
〔化合物(A)〕
・NMDA:1,9-ノナンジアミン
・DDM:4,4′-ジアミノジフェニルメタン
・HMDA:1,6-ヘキサメチレンジアミン
〔化合物(B)〕
・BMI-1000:4,4′-ジフェニルメタンビスマレイミド
・BMI-TMH:1,6′-ビスマレイミド-(2,2,4-トリメチル)ヘキサン
【0070】
表1から、実施例1の硬化物は高い重量減少温度を有しており、それを用いて得られた硬化物は高温での低い熱膨張率と高い弾性率を有しており、優れた靭性を有していることが分かる。実施例2の硬化物は耐熱性を保持しつつ非常に靭性に優れる。比較例1の硬化物は靭性が不十分である。比較例2の硬化物は重量減少温度が低く、靭性も不十分である。また、化合物(A)中のジアミン由来の単位としての機能を鑑みると、エポキシの硬化に化合物(A)を用いた場合にも同様の効果が得られることが容易に予測される。