(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】締結部分の構造
(51)【国際特許分類】
F16B 5/02 20060101AFI20230721BHJP
H02G 3/16 20060101ALI20230721BHJP
B60R 16/02 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
F16B5/02 F
H02G3/16
B60R16/02 610B
(21)【出願番号】P 2020049791
(22)【出願日】2020-03-19
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】小藪 尚紀
(72)【発明者】
【氏名】河角 修平
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047264(JP,A)
【文献】特開2018-019009(JP,A)
【文献】特開2013-141941(JP,A)
【文献】特開2013-141942(JP,A)
【文献】特開2015-047919(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/02
H02G 3/16
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体を被固定体に固定するための締結治具を挿入して締結するため、前記固定体に設けられた締結部分の構造であって、
前記固定体の表面から凹状となり、前記締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部と、
該筒状部の周方向の一部に設けられ、前記筒状部の内面に対して径外側に凹状となる溝部とで構成され、
前記溝部は、
前記締結治具の挿入方向の前方側から後方側に向かって溝の深さが深くなるように形成されるとともに、前記固定体が固定された前記被固定体を車体に搭載した搭載状態における下方側に形成された
締結部分の構造。
【請求項2】
前記溝部は、前記搭載状態における下方側に向かって先細りした
請求項1に記載の締結部分の構造。
【請求項3】
前記溝部は、前記締結治具の挿入方向から視て、互いに直交する2方向と前記筒状部の外縁との交差点のうち、下方側に配置される前記交差点の間に設けられた
請求項1又は請求項2に記載の締結部分の構造。
【請求項4】
前記筒状部は、前記締結治具の挿入方向から視て円形状に形成され、
前記溝部は、前記交差点から接線方向に沿って延びる直線部を備えた
請求項3に記載の締結部分の構造。
【請求項5】
前記固定体の表面には、前記搭載状態における前記筒状部の上方に、前記締結治具の挿入方向と反対方向に突出する凸部が設けられた
請求項1乃至請求項4うちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【請求項6】
前記筒状部の径外側に、前記締結治具の挿入方向に窪ませた凹部が設けられた
請求項1乃至請求項5うちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、被固定体に対して固定される固定体に設けられた締結部分の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両には、バッテリの電源を各電子機器に分配するため電気接続箱が搭載されている。この電気接続箱には、プリント基板やバスバーなどの電子部品を備えた内部回路が収納されている。
【0003】
このように車両に搭載されている電気接続箱は、例えば特許文献1に示すように、アッパーケース(被固定体)に設けられた挿通ロッドを、プリント基板や絶縁板などに挿通するとともに、ロアケース(固定体)の締結部分に突き当てている。そして、固定体の外側から締結部分にネジを挿通して、締結部分と挿通ロッドをネジ止めすることで、固定体と被固定体とを締結固定している。
【0004】
このように固定体と被固定体とを締結固定するための締結部分の構造は、電気接続箱に限らず一般的に、固定体の表面から被固定体側に向けて突出する凹状であるとともに、ネジなどの締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部で構成されている。
【0005】
ところで、このように固定体と被固定体とを締結固定した電気接続箱は、締結部分におけるネジの挿入方向が車両の前後方向又は車幅方向に向けられるように車両に搭載されることがある。このような場合、上述のような締結部分の構造では、雨天走行時や洗車時には水が筒状部に侵入するおそれがあった。これは、車両に搭載される電気接続箱のみならず、水の侵入するおそれのある場所に配置されるボックス体においても同様である。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述した問題を鑑み、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を挿入する筒状部に侵入した水を排出することができる締結部分の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、固定体を被固定体に固定するための締結治具を挿入して締結するため、前記固定体に設けられた締結部分の構造であって、前記固定体の表面から凹状となり、前記締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部と、該筒状部の周方向の一部に設けられ、前記筒状部の内面に対して径外側に凹状となる溝部とで構成され、前記溝部は、前記締結治具の挿入方向の前方側から後方側に向かって溝の深さが深くなるように形成されるとともに、前記固定体が固定された前記被固定体を車体に搭載した搭載状態における下方側に形成されたことを特徴とする。
【0009】
前記溝部は、前記筒状部の内面に対して単数又は複数設けられていてもよい。
また前記溝部は、挿入方向から視て矩形状や円弧状、三角形状、多角形状などを含む。
【0010】
上述の溝の深さとは、筒状部の内面から径外側に向けた長さをさし、前記溝部は、前記締結治具の挿入方向の前方側から後方側に向かうに伴い、この長さが長くなるように構成されている。
【0011】
この発明により、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を挿入する筒状部に侵入した水を排出することができる。
詳述すると、車体に搭載した搭載状態において、筒状部の内面を下方側に向けて窪ませた溝部は、締結治具の挿入方向の前方側から後方側に向かって溝の深さが深くなっている。このため、筒状部に水が侵入したとしても、溝部に沿って水を固定体の表面側に流し、外部に排出することができる。
【0012】
この発明の態様として、前記溝部は、前記搭載状態における下方側に向かって先細りしてもよい。
この発明により、溝部の体積が小さくなるため、溝部を流れる水の速さが速くできる。これにより、溝部に沿って固定部の表面側に水を効率よく流すことができるため、筒状部に侵入した水を効率よく外部に排出することができる。
【0013】
またこの発明の態様として、前記溝部は、前記締結治具の挿入方向から視て、互いに直交する2方向と前記筒状部の外縁との交差点のうち、下方側に配置される前記交差点の間に設けられてもよい。
この発明により、固定体に対してヒューズなどの電子部品を組み付ける際に、筒状部を固定体の位置決めに用いることができる。
【0014】
詳述すると、互いに直交する2軸に対応する2方向の交差点の間に溝部が設けられているため、固定体に対してヒューズなどの電子部品を組み付けるための位置決めを行う場合に、筒状部に挿入する位置決め治具は筒状部の内面に対して4点で接することができる。
【0015】
これにより、位置決めの際に、互いに直交する2軸に沿って、固定体が移動することを防止できる。したがって、固定体に対してヒューズなどの電子部品を組み付ける際に、筒状部を用いて位置決めを行うことができ、固定体を所望の位置で固定してヒューズなどの電子部品を所定の位置に組み付けることができる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記筒状部は、前記締結治具の挿入方向から視て円形状に形成され、前記溝部は、前記交差点から接線方向に沿って延びる直線部を備えてもよい。
この発明により、水を確実に排出できるとともに、筒状部を用いて確実に位置決めを行うことができる。
【0017】
詳述すると、交差点から接線方向に沿った直線部を設けることにより、交差点から外れた位置に溝部を形成することができる。このため、筒状部における位置決め治具と接触する箇所に溝部が配置されることがなく、位置決め治具を筒状部に挿入した場合に、互いに直交する2軸と筒状部との交差点で位置決め治具を確実に接触させることができる。すなわち、位置決め治具を筒状部の内面に確実に接触できるため、筒状部を用いて固定体を所望の位置でより確実に固定することができる。これにより、固定体に対してヒューズなどの電子部品を所望の位置により確実に組み付けることができる。
【0018】
また溝部が、前記交差点から接線方向に沿って延びる直線部を備えることにより、交差点よりも下方側に溝部を形成させることができる。このため、筒状部に侵入した水を下方側に形成された溝部に伝わせて確実に外部に排出させることができる。
【0019】
このように溝部が、互いに直交する2軸との交差点から接線方向に沿って延びる直線部を有することにより、新たな構成を増やすことなく、ヒューズなどの電子部品を所望の位置に確実に組み付けることができるとともに、筒状部に侵入した水を確実に外部に排出することができる。
【0020】
またこの発明の態様として、前記固定体の表面には、前記搭載状態における前記筒状部の上方に、前記締結治具の挿入方向と反対方向に突出する凸部が設けられてもよい。
この発明により、被固定体を車体に搭載した搭載状態において、筒状部の上方から流れてきた水を凸部に当てることができるため、筒状部への浸水を抑制できる。これにより、大量の水が固定体を伝ったとしても、筒状部に侵入する水の量を減少させることができる。したがって、筒状部に水が侵入したとしても、筒状部に水が溜まることを抑制して水を外部に排出することができる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記筒状部の径外側に、前記締結治具の挿入方向に窪ませた凹部が設けられてもよい。
この発明により、被固定体を車体に搭載した搭載状態において、筒状部の上方から流れてきた水を凹部に沿って下方に案内することができるため、筒状部への浸水を抑制することができる。これにより、固定体に水が伝ったとしても、筒状部に侵入する水の量を減少させることができる。したがって、筒状部に水が侵入したとしても、筒状部に水が溜まることを抑制して水を外部に排出することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、この発明は、上述した問題を鑑み、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を配置する筒状部に侵入した水を排出することができる締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
【
図1】車両に搭載された状態における電気接続箱の概略斜視図。
【
図8】位置決め治具に対するロアケースの配置状態を示した概略斜視図。
【
図9】位置決め治具と筒状部の接点を示した拡大底面図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
本実施形態の電気接続箱1は、例えば車両のエンジンルームにおけるダッシュボード近傍に搭載されている。このような電気接続箱1を構成するロアケース10とアッパーケース20とを締結固定する締結構造40について、
図1から
図9を用いて説明する。
【0025】
図1は車両に搭載された状態における電気接続箱1を上方後側から視た概略斜視図を示し、
図2は電気接続箱1を上方後側から視た概略分解斜視図を示し、
図3はロアケース10の底面を表す底面図を示す。
図4はロアケース底面12に設けられた円筒部41及び溝部42の概略拡大斜視図を示し、
図5は
図3中におけるA-A矢視断面図を示し、
図6は
図3中におけるB-B矢視断面図を示し、
図7は
図3中におけるC-C矢視断面図を示す。
図9は位置決め治具Jに対するロアケース10の配置状態をロアケース底面12の方向から視た概略斜視図を示し、
図9は、円筒部41と位置決めピンJ1との接点を表す拡大底面図を示す。
【0026】
図3及び
図4について詳述する。
図3(a)はロアケース10の底面全体を表す全体底面図を示し、
図3(b)は
図3(a)におけるロアケース10の右下部分を拡大表示した拡大部分底面図を示す。なお、
図8は
図3(b)と同じ位置の拡大底面図を示す。
【0027】
図4は、ロアケース底面12に設けられた締結構造40のうち、円筒部41及び溝部42を説明するための概略拡大斜視図である。なお、
図4では、円筒部41及び溝部42の構成を明確にするため、突出部43及び抑制溝44の図示を省略している。また、ロアケース底面12の裏側部分であり後方側Hbから視えない部分は点線で表示するが、構造を明確にするため第1直線部42a及び第2直線部42bについては実践で表示している。
【0028】
ここで、
図1中の上下方向を上下方向Zとし、電気接続箱1の幅方向(
図1において左上と右下とを結ぶ方向)を車幅方向Wとし、電気接続箱1の奥行方向(
図1において左下と右上とを結ぶ方向)を前後方向Hとしている。
【0029】
また、上下方向Zにおいて上側を上方側Zuとし、下側を下方側Zdとする。車幅方向Wにおいて手前側(
図1において右下側)を右側Wrとし、奥側(
図1において左上側)を左側Wlとする。そして、前後方向Hにおいて奥側(
図1において右上側)を前方側Hfとし、手前側(
図1において左下側)を後方側Hbとする。
なお、
図1中で示した方向は、便宜上、
図2乃至
図7において同様とする。
【0030】
電気接続箱1は、上述のようにエンジンルームにおける車室との仕切り板であるダッシュボード(図示省略)の近傍に搭載されている。この電気接続箱1の内部には、ヒューズやバスバーなどの電子部品が収納されている。そして、この電子部品は、車両に搭載されたバッテリや他の電子機器、あるいは、車室内に配置された電子機類と電気的に接続されている。
【0031】
電気接続箱1について詳述する。電気接続箱1は、
図1及び
図2に示すように、略矩形状に構成された筐体であり、ロアケース10と、ロアケース10に対して締結するアッパーケース20と、電気接続箱1の内部に収納されるプリント基板30とで構成されている。
【0032】
ロアケース10は、前方側Hfが開口した内部中空状の略箱状であり、内部に電子部品を組み付けるプリント基板30を収容する空間が構成されている。そして、ロアケース10は、前後方向Hから視た外形が略長方形状に構成されている。
【0033】
このロアケース10は、ロアケース10の側面を構成するロアケース側面11と、底面を構成するロアケース底面12で構成されており、ロアケース側面11のうち、右側Wrの面にはコネクタ接続部13が設けられている。
【0034】
コネクタ接続部13は、図示しないワイヤーハーネスの一端に接続されたコネクタを着脱可能に構成されている。このように構成されたコネクタ接続部13にコネクタを接続することで、ワイヤーハーネスの他端に接続された電子機器と、後述するプリント基板30に組み付けてあるヒューズなどの電子部品とを電気的に接続することができる。
【0035】
ロアケース底面12は、前後方向Hから見て略長方形となるように構成されており、各角部分にはロアケース10とアッパーケース20とを締結ネジBを用いて締結固定するための締結構造40が設けられている。
【0036】
締結構造40は、
図3乃至
図7に示すように、円筒部41と、溝部42と、突出部43と、抑制溝44とで構成されている。
円筒部41は、
図3乃至
図7に示すように、ロアケース底面12から前方側Hfに突出するとともに、所定の内径を有する内周面を構成する円筒本体41a及び縮径部41bと、円筒部41の底面を構成する円筒底面部41cとで一体構成されている。なお、円筒部41は、ロアケース底面12の板厚と略同じ厚さの厚みを有している。
【0037】
円筒本体41aは、
図4乃至
図7に示すように、所定の内径及び外径を有する円筒の筒状体であり、ロアケース底面12から前方側Hfに向けて所定の長さだけ突出している。なお、円筒本体41aの内径はロアケース10とアッパーケース20とを締結固定する締結ネジBの頭部の外径よりも少し大きくなるように構成されている。
【0038】
縮径部41bは、円筒本体41aの前方側Hfの端部から前方側Hfに延びる円筒状の筒状体である。この縮径部41bは、内径が円筒本体41aの内径と等しく、外径が円筒本体41aの外径よりも縮径されている。なお、縮径部41bの高さ(前後方向Hの長さ)は、後述するプリント基板30の板厚と略同じである。
【0039】
円筒底面部41cは、
図4乃至
図7に示すように、縮径部41bの前方側Hfの端部に設けられた円筒部41の底面であり、円筒底面部41cの中心部分には、板厚方向(前後方向H)に沿って貫通する貫通孔Sが設けられている。なお、貫通孔Sの外径は締結ネジBのネジ部の外径よりも少し大きくなるように構成されている。
このように構成された円筒部41には、締結ネジBを前後方向Hに沿って挿入できる。
【0040】
溝部42は、
図3乃至
図7に示すように、円筒部41の円筒本体41a及び縮径部41bの内周面を径外側(本実施形態における下方側Zd)に窪ませた溝であり、前後方向Hから視て円筒部41の周方向の下方側Zdに設けられている。
【0041】
詳しくは、溝部42は、
図3(b)に示すように、互いに直交する第1仮想線X及び第2仮想線Yが円筒部41の後方側Hbの端部と交差する右側交差点P1と下側交差点Q1との間に設けられている。
【0042】
なお、第1仮想線X及び第2仮想線Yは、
図3において点線で表した仮想線であり、ロアケース10の位置決めにおけるロアケース10の幅方向L及び奥行方向Dに対応している(
図8及び
図9参照)。また、本実施形態においては、第1仮想線X及び第2仮想線Yは車両に搭載した状態における車幅方向W及び上下方向Zに沿った直線である。
【0043】
また本実施形態において、右側交差点P1は、円筒本体41aの外縁と第1仮想線Xとの交差点(右側交差点P1,左側交差点P2)のうち右側Wrの交差点とする。また、下側交差点Q1は、円筒本体41aの外縁と第2仮想線Yとの交差点(下側交差点Q1,上側交差点Q2)のうち下方側Zdの交差点とする(
図3(b)参照)。
【0044】
この溝部42についてさらに詳しく説明する。
溝部42は、
図3(b)及び
図4に示すように、第1直線部42aと、第2直線部42bと、円筒本体41a及び第2直線部42bと連結する溝本体部42cとで一体に構成されている。
【0045】
第1直線部42aは、前方側Hfに向かうにつれて先細りする略直角三角形状の平面で構成されて、前後方向Hから視て、後方側Hbの端部は円筒部41における右側Wrの頂点である右側交差点P1から下方側Zdに向けて直線状に延出している。なお、後方側Hbにおける第1直線部42aの長さは、円筒部41の外径の半分である。
【0046】
第2直線部42bは、前方側Hfに向かうにつれて先細りする略直角三角形状の平面で構成され、前後方向Hから視て、後方側Hbの端部は円筒部41における下方側Zdの頂点である下側交差点Q1から右側Wrに向けて直線状に延出している。すなわち、第2直線部42bは、電気接続箱1を車両に搭載した搭載状態において、円筒部41の最下部から車幅方向Wに沿って延出している。なお、後方側Hbにおける第1直線部42aの長さは、前後方向Hから視て円筒部41の外径の半分の長さを有するである。
【0047】
溝本体部42cは、第1直線部42aの下方側Zdの端部と第2直線部42bの右側Wrの端部から下方側Zdに向けて窪ませた円弧状の溝である。すなわち、溝本体部42cは、前後方向Hから視て円筒部41の最下部よりも下方側Zdに設けられている。
【0048】
この溝本体部42cは、
図4及び
図5に示すように、後方側Hbに向かうに伴い下方側Zdに向けて傾斜している。
詳述すると、第1直線部42aは、円筒底面部41cにおける右側Wrの頂点である前方右頂点P3と、前後方向Hから見た第1直線部42aの最下点である第1下点P4と、右側交差点P1とで直角三角形を構成している(
図4参照)。
【0049】
また、第2直線部42bは、円筒底面部41cにおける下方側Zdの頂点である前方下頂点Q3と、前後方向Hから見た第2直線部42bの右側Wrの端部である第2端点Q4と、下側交差点Q1とで直角三角形を構成している(
図4参照)。
【0050】
そして、溝本体部42cは、円筒底面部41cの前方右頂点P3と前方下頂点Q3を結んだ円弧から後方側Hbに向かうに伴い、徐々に下方側Zdに向けて突出する円弧状の溝を構成している。すなわち、溝本体部42cは、下方側Zdに向かうに伴い先細りするような円弧状で構成されるとともに、前方側Hfに向かうに伴い円筒部41の径内側に向けて傾斜している。なお、溝本体部42cの前方側Hfの端部は円筒底面部41cと連結している(
図4及び
図5参照)。
また、ロアケース底面12の表面部分における第2直線部42bに対する溝本体部42cの最下点の垂直距離L1は、円筒部41の外径の4分の1程度の長さである。
【0051】
突出部43は、
図3及び
図6に示すように、円筒部41の上方側Zuにおいて、ロアケース底面12から後方側Hbに突出するリブであり、前後方向Hから見て上方側Zuに向けて凸状となる円弧状に構成されている。この突出部43における円弧の端部は、円筒部41の車幅方向Wの外端と略同じ位置に配置されている。なお、突出部43の上端頂点は、円筒部41の上端側(上方側Zu)の頂点と一致している。
【0052】
抑制溝44は、
図3及び
図7に示すように、前後方向Hから視て、円筒部41の右側Wr及び左側Wlの頂点から径外側において、前方側Hfに向けて窪ませた溝である。この抑制溝44は、前後方向Hから視て、上方が円筒部41の外縁に沿った円弧状に構成され、下方が上下方向Zに沿って直線状に構成されている。なお、円筒部41と抑制溝44との間隔は円筒部41と突出部43との間隔と略等しい。
【0053】
上述のように構成されたロアケース10とともに電気接続箱1を構成するアッパーケース20は、ロアケース10の前方側Hfの開口を覆うように構成された電気接続箱1の蓋である。
詳述すると、アッパーケース20は、
図2に示すように、後方側Hbが開口した内部中空状の略箱状に形成されており、アッパーケース20の内面には、後方側Hbに向けて突出する被締結部50が、円筒部41に対応する位置に設けられている。
【0054】
被締結部50は、アッパーケース20の内面から後方側Hbに向けて突出する円柱体である。より詳しくは、被締結部50は、円筒本体41aと略同じ外径を有する円柱体であり、後方側Hb側に形成される底面の中心部分には、突出部43を挿通させた締結ネジBを螺合できるようなネジ孔が設けられている。
【0055】
プリント基板30は、絶縁性の板状体であり、その表面には電気接続箱1の内部に収納されるヒューズや抵抗器などの電子部品を組み付けた電子回路が設けられている。また、このプリント基板30には、電子回路とコネクタ接続部13とを電気的に接続するための接続部(図示省略)を備えている。
【0056】
このため、コネクタ接続部13と接続可能なコネクタを一端に備え、他端が電子機器類と接続されているワイヤーハーネスを介して、プリント基板30に設けた電子回路と電子機器類とを電気的に接続することができる。
【0057】
このように電子回路が設けられるプリント基板30には、
図2に示すように、電気接続箱1に収納された状態において、締結構造40及び被締結部50に対応する位置に配置孔31が設けられている。この配置孔31は、板厚方向に沿って貫通した貫通孔であり、その外径は縮径部41bの外径と略同じ長さに構成されている。
【0058】
このように構成されたロアケース10とアッパーケース20とは、締結構造40と被締結部50とを締結ネジBでネジ止めすることにより、プリント基板30を内部に収容した状態で、締結固定することができる。この電気接続箱1は、車両に搭載した状態において円筒部41に侵入した水を排出することができる。
【0059】
以下、電気接続箱1を車両に搭載した搭載状態において、円筒部41に水が浸入した場合の水の流れについて簡単に説明する。
電気接続箱1は、エンジンルームにおけるダッシュボード近傍において、ロアケース底面12が車両後方である前方側Hfを向くとともに、コネクタ接続部13が右側Wrに配置されるように搭載される。すなわち、電気接続箱1を車両に搭載した状態において、円筒部41の内周面に設けられた溝部42は下方側Zdに配置される。
【0060】
ここで、前後方向Hから視て、円筒部41と第2仮想線Yとの交差点である下側交差点Q1は、円筒部41の後方側Hbでの最下点ある。そして、溝部42は、下側交差点Q1から右側Wrに向けて直線状に延びる第2直線部42bの右側Wrの端部と、第1直線部42aの下方側Zdの端部から下方側Zdに向けて窪んだ溝本体部42cを有する。したがって、溝本体部42cの溝底は円筒部41の最下点よりも下方側Zdに配置されている。また、溝部42は、円筒底面部41cから後方側Hbに向かうに伴い溝の深さが深くなっている。
このため、円筒部41に浸入した水は、円筒部41の内周面を伝って溝部42に移動するとともに、溝部42の内周面を伝って外部に流れて排出される。
【0061】
また、ロアケース底面12に設けられた締結構造40は、プリント基板30に対してヒューズなどの電子部品を所望の位置に配置できるようにロアケース10の位置決めにも用いることができる。
以下、締結構造40を用いたロアケース10の位置決めについて、
図8及び
図9に基づき簡単に説明する。
【0062】
初めに、ロアケース10の位置決めを行う位置決め治具Jについて簡単に説明する。
位置決め治具Jは、
図7に示すように、断面四角形に構成された複数の位置決めピンJ1を備えている。
【0063】
この位置決めピンJ1は、円筒部41と略同じ外径を有する円柱体であり、ロアケース底面12に設けられた円筒部41と対応する位置に配置されている。なお、本実施形態では、J1を締結構造40に対応するように4本備えているが、4本に限らず、2本や3本であってもよい。
【0064】
このように構成された位置決めピンJ1に対して締結構造40が対応するようにロアケース10を配置し、位置決めピンJ1を締結構造40に挿入させることでロアケース10の位置決めを行う(
図8参照)。
【0065】
ここで、右側Wrに配置された締結構造40では、
図9に示すように、前後方向Hから見て右側Wrに溝部42が配置されている。この溝部42は、上述のように、右側交差点P1から下方側Zdに向けて延出する第1直線部42aと、下側交差点Q1から延出する第2直線部42bとを有している。
【0066】
このため、円筒部41の外径と同じ外径を有する位置決めピンJ1を挿入した場合に、互いに直交する第1仮想線X及び第2仮想線Yが円筒部41と交差する4点(四半点)で、円筒部41と位置決めピンJ1が接することとなる(
図9参照)。このため、幅方向L及び奥行方向Dへのガタを確実に防止することができ、ロアケース10を所望の位置に正確に位置決めすることができる。
【0067】
このように締結構造40を所望の位置で正確に位置決めできるため、締結構造40に対してプリント基板30を所望の位置に配置することができる。したがって、プリント基板30に対して電子部品を所望の位置に配置することができる。
また、このようにロアケース10の正確な位置決めができることにより、プリント基板30への電子部品の配置を機械で行うこともでき、正確に電子部品を配置させつつ、作業の効率化を図ることができる。
【0068】
このように締結構造40は、ロアケース10をアッパーケース20に固定するための締結ネジBを挿入して締結するため、ロアケース10に設けられている。そして、締結構造40は、ロアケース10のロアケース底面12から凹状となり、締結ネジBを配置する円筒底面部41cを有する有底筒状の円筒部41と、円筒部41の周方向の一部に設けられ、円筒部41の内面に対して径外側に凹状となる溝部42とで構成されている。また、溝部42は、締結ネジBの前後方向Hの前方側Hfから後方側Hbに向かって溝の深さが深くなるように形成されるとともに、ロアケース10が固定されたアッパーケース20を車体に搭載した搭載状態における下方側Zdに形成されたことを特徴とする。
【0069】
これにより、ロアケース10とアッパーケース20とを締結固定する締結ネジBを挿入する円筒部41に侵入した水を排出することができる。
詳述すると、車体に搭載した搭載状態において円筒本体41a及び縮径部41bに形成された溝部42は、円筒部41よりも下方側Zdに配置されるとともに、前後方向Hの前方側Hfから後方側Hbに向かって溝の深さが深くなっている。このため、円筒部41に水が侵入したとしても、溝部42に沿って水をロアケース10のロアケース底面12に流し、外部に排出することができる。
【0070】
また、溝部42は、搭載状態における下方側Zdに向かって先細りしていることにより、溝部42の体積が小さくできる。このため、溝部42を流れる水の速さが速くなり、溝部42に沿って固定部の表面側に水を効率よく流すことができ、円筒部41に侵入した水を効率よく外部に排出することができる。
【0071】
さらにまた、溝部42は、締結ネジBの挿入方向から視て、互いに直交する2軸(第1仮想線X及び第2仮想線Y)と円筒部41の外縁との交差点(右側交差点P1、左側交差点P2,下側交差点Q1、上側交差点Q2)のうち、下方側Zdに配置される右側交差点P1及び下側交差点Q1の間に設けられている。これにより、ロアケース10に対してヒューズなどの電子部品を組み付ける際に、円筒部41をロアケース10の位置決めに用いることができる。
【0072】
詳述すると、溝部42は、互いに直交する2軸(第1仮想線X及び第2仮想線Y)の右側交差点P1及び下側交差点Q1の間に設けられている。このため、ロアケース10に対してヒューズなどの電子部品を組み付けるための位置決めを行う場合に、円筒部41に挿入する位置決めピンJ1と円筒部41の内周面を4点で接させることができる。
【0073】
これにより、位置決めの2軸(第1仮想線X及び第2仮想線Y)に対応する幅方向L及び奥行方向Dに沿って、ロアケース10が移動することを防止でき、ロアケース10に対してヒューズなどの電子部品を組み付ける際に、円筒部41を用いて位置決めを行うことができる。したがって、ロアケース10を所望の位置で固定することができ、所定の位置にヒューズなどの電子部品を組み付けることができる。
【0074】
このように、電気接続箱1は締結構造40を備えることにより、締結構造40に侵入した水を確実に排出できるとともに、ロアケース10に新たな構成を増やすことなく、ロアケース10に電子部品を組み付ける際の位置決め行うことができる。
【0075】
また、円筒部41は、前後方向Hから視て円形状に形成されており、溝部42は、交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)から接線方向に沿って延びる第1直線部42a及び第2直線部42bを備えている。これにより、締結構造40に侵入した水を確実に排出できるとともに、円筒部41を用いて確実にロアケース10の位置決めを行うことができる。
【0076】
詳述すると、交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)から接線方向に沿った第1直線部42a及び第2直線部42bを設けることにより、交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)から外れた位置に溝部42を形成することができる。これにより、円筒部41における位置決めピンJ1と接触する箇所に溝部42が配置されることがない。そのため、位置決めピンJ1を円筒部41に挿入した場合に、互いに直交する2方向と円筒部41との交差点(右側交差点P1、左側交差点P2,下側交差点Q1、上側交差点Q2)で位置決めピンJ1を接触させることができる。
【0077】
すなわち、位置決めピンJ1を円筒部41の内周面に確実に接触させることができるため、円筒部41を用いてロアケース10を所望の位置で固定し、ロアケース10に対してヒューズなどの電子部品を所望の位置に組み付けることができる。
【0078】
また溝部42が、交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)から接線方向に沿って延びる第1直線部42a及び第2直線部42bを備えることにより、交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)よりも下方側Zdに溝本体部42cを形成させることができる。このため、円筒部41に侵入した水を下方側Zdに形成された溝部42に伝わせて確実に外部に排出させることができる。
【0079】
このように溝部42は、互いに直交する2方向との交差点(右側交差点P1及び下側交差点Q1)から接線方向に沿って延びる第1直線部42a及び第2直線部42bを有している。このため、新たな構成を増やすことなく、ヒューズなどの電子部品を所望の位置に確実に組み付けることができるとともに、円筒部41に侵入した水を確実に外部に排出することができる。
【0080】
また、ロアケース10のロアケース底面12には、搭載状態における円筒部41の上方に、締結ネジBの挿入方向と反対方向に突出する突出部43が設けられている。これにより、アッパーケース20を車体に搭載した搭載状態において、円筒部41の上方から流れてきた水を突出部43に当てることができ、円筒部41への浸水を抑制でき、大量の水がロアケース10を伝ったとしても、円筒部41に侵入する水の量を減少させることができる。したがって、円筒部41に水が侵入したとしても、円筒部41に水が溜まることを抑制でき、より確実に水を外部に排出することができる。
【0081】
さらにまた、円筒部41の径外側に、締結ネジBの挿入方向に窪ませた抑制溝44が設けられていることにより、アッパーケース20を車体に搭載した搭載状態において、円筒部41の上方から流れてきた水を抑制溝44に沿って逃がすことができる。これにより、円筒部41への浸水を抑制することができ、ロアケース10を伝ったとしても、円筒部41に侵入する水の量を減少させることができる。したがって、円筒部41に水が侵入したとしても、円筒部41に水が溜まることを抑制し、確実に水を外部に排出することができる。
【0082】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、固定体は、ロアケース10に対応し、以下同様に、
被固定体は、アッパーケース20に対応し、
締結治具は、締結ネジBに対応し、
締結部分の構造は、締結構造40に対応し、
筒状部は、円筒部41に対応し、
溝部は、溝部42に対応し、
直線部は、第1直線部42a及び第2直線部42bに対応し、
凸部は、突出部43に対応し、
凹部は、抑制溝44に対応するが、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
【0083】
例えば、本実施形態において、溝部42は、円筒本体41a及び縮径部41bに対して一か所で径外側に凹状となるように構成されているが、一つに限定する必要はなく、複数設けてもよい。
【0084】
また、本実施形態において、溝部42は前後方向Hから視て下方側Zdに向けて突出する円弧状に構成されているが、この形状に限定されることはない。具体的には、例えば、矩形状や三角形状などの多角形状としてもよい。
【0085】
また、本実施形態では、締結構造40を電気接続箱1のロアケース10に設けているが、必ずしもロアケース10である必要はなく、例えばアッパーケース20に設けてもよい。さらには、電気接続箱1でなく、他に内部への浸水を防止することを目的とした筐体、内部空間を形成するためカバーなどに設けてもよい。
【符号の説明】
【0086】
10 ロアケース
20 アッパーケース
40 締結構造
41 円筒部
42 溝部
42a 第1直線部
42b 第2直線部
43 突出部
44 抑制溝
B 締結ネジ
Zd 下方側