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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-20
(45)【発行日】2023-07-28
(54)【発明の名称】締結部分の構造
(51)【国際特許分類】
   F16B 5/02 20060101AFI20230721BHJP
   H02G 3/16 20060101ALI20230721BHJP
   B60R 16/02 20060101ALN20230721BHJP
【FI】
F16B5/02 F
H02G3/16
B60R16/02 610B
【請求項の数】 7
(21)【出願番号】P 2020049792
(22)【出願日】2020-03-19
(65)【公開番号】P2021148230
(43)【公開日】2021-09-27
【審査請求日】2022-10-24
(73)【特許権者】
【識別番号】000005290
【氏名又は名称】古河電気工業株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】391045897
【氏名又は名称】古河AS株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100121603
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 元昭
(74)【代理人】
【識別番号】100141656
【弁理士】
【氏名又は名称】大田 英司
(74)【代理人】
【識別番号】100182888
【弁理士】
【氏名又は名称】西村 弘
(74)【代理人】
【識別番号】100196357
【弁理士】
【氏名又は名称】北村 吉章
(74)【代理人】
【識別番号】100067747
【弁理士】
【氏名又は名称】永田 良昭
(72)【発明者】
【氏名】河角 修平
【審査官】杉山 豊博
(56)【参考文献】
【文献】特開2012-047264(JP,A)
【文献】特開2018-019009(JP,A)
【文献】特開2013-141941(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
F16B 5/02
H02G 3/16
B60R 16/02
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
固定体を被固定体に固定する締結治具を挿入して締結するために、前記固定体に設けられた締結部分の構造であって、
前記固定体の表面から凹状となり、前記締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部と、
該筒状部における前記締結治具の挿入方向の後方端部と前記固定体の表面とを連結するとともに、前記筒状部における前記挿入方向の後方端部から前記固定体の表面に向かって徐々に拡径する拡径凹部とで構成され、
前記拡径凹部は、前記固定体が固定された前記被固定体を車体に搭載した搭載状態における下方側に形成された
締結部分の構造。
【請求項2】
前記拡径凹部は、
前記筒状部の表面側端部の全周に沿って設けられた
請求項1に記載の締結部分の構造。
【請求項3】
前記拡径凹部は、
前記挿入方向から視て、前記筒状部の中心に対する径方向に沿った幅が、前記搭載状態における下方側に向かうに伴い広くなる
請求項1又は請求項2に記載の締結部分の構造。
【請求項4】
前記拡径凹部は、
前記筒状部の中心に対する同一円周上における深さが、前記搭載状態における下方に向かうに伴い深くなる
請求項1乃至請求項3のうちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【請求項5】
前記拡径凹部には、外縁から前記搭載状態における下方側に向けて延出するとともに、前記挿入方向に向けて窪んだ延出溝部が設けられた
請求項1乃至請求項4のうちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【請求項6】
前記搭載状態における前記筒状部の上方側に、前記挿入方向と反対方向に突出する突出部が設けられた
請求項1乃至請求項5のうちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【請求項7】
前記拡径凹部は、
径方向内側に向かうに伴い溝の深さが緩やかに深くなる
請求項1乃至請求項6のうちのいずれかに記載の締結部分の構造。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
この発明は、例えば、被固定体に対して固定される固定体に設けられた締結部分の構造に関する。
【背景技術】
【0002】
例えば、自動車等の車両には、バッテリの電源を各電子機器に分配するため電気接続箱が搭載されている。この電気接続箱には、プリント基板やバスバーなどの電子部品を備えた内部回路が収納されている。
【0003】
このように車両に搭載されている電気接続箱は、例えば特許文献1に示すように、アッパーケース(被固定体)に設けられた挿通ロッドを、プリント基板や絶縁板などに挿通するとともに、ロアケース(固定体)の締結部分に突き当てている。そして、固定体の外側から締結部分にネジを挿通して、締結部分と挿通ロッドをネジ止めすることで、固定体と被固定体とを締結固定している。
【0004】
このように固定体と被固定体とを締結固定するための締結部分の構造は、電気接続箱に限らず一般的に、固定体の表面から被固定体側に向けて突出する凹状であるとともに、ネジなどの締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部で構成されているものが多い。
【0005】
ところで、このように固定体と被固定体とを締結固定した電気接続箱は、締結部分におけるネジの挿入方向が車両の前後方向又は車幅方向に向けられるように車両に搭載されることがある。このような場合、上述のような締結部分の構造では、雨天走行時や洗車時に水が筒状部に侵入するおそれがあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【文献】特開2012-165590号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
この発明は、上述した問題を鑑み、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を挿入する筒状部に水が侵入することを抑制できる締結部分の構造を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
この発明は、固定体を被固定体に固定する締結治具を挿入して締結するために、前記固定体に設けられた締結部分の構造であって、前記固定体の表面から凹状となり、前記締結治具を配置する底部を有する有底筒状の筒状部と、該筒状部における前記締結治具の挿入方向の後方端部と前記固定体の表面とを連結するとともに、前記筒状部における前記挿入方向の後方端部から前記固定体の表面に向かって徐々に拡径する拡径凹部とで構成され、前記拡径凹部は、前記固定体が固定された前記被固定体を車体に搭載した搭載状態における下方側に形成されたことを特徴とする。
【0009】
前記拡径凹部は、搭載状態における締結治具の挿入方向から視て、筒状部の下方側に少なくとも一部分が配置されていればよく、例えば、前記筒状部の表面側端部の全周又は一部分に沿って設けられていてよい。
なお、前記下方側とは、搭載状態における締結治具の挿入方向から視て、筒状部の中心よりも下半分側をさす。
【0010】
また、前記拡径凹部が前記筒状部の表面側端部の一部分に設けられている場合には、前記拡径凹部は単数でも複数でもよい。例えば、締結治具の挿入方向から視て、筒状部を挟んで対向する位置に配置されている、或いは、不規則に複数配置されていてもよい。
【0011】
また、前記拡径凹部は、搭載状態における締結治具の挿入方向から視て、筒状部の外縁に沿って円弧状に構成されていてもよいし、直線状に構成されていてもよい。
さらにまた前記拡径凹部は、挿入方向と直交する方向から視た断面において、筒状部の表面側の端部と前記固定体の表面とを、直線状や、挿入方向に向けて突出する円弧、あるいは角形状を有する段差形状や凹部形状で連結する構成を含む。
【0012】
この発明により、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を挿入する筒状部に水が侵入することを抑制できる。
詳述すると、筒状部における表面側の端部の外縁に、筒状部の表面側の端部と前記固定体の表面とを連結させた拡径凹部が構成されているため、固定体の表面を流れる水を拡径凹部に伝わせて、搭載状態における筒状部よりも下方側へ案内することができる。したがって、例えば洗車時や雨天走行時において、固定部に流れる水が筒状部へ侵入することを抑制できる。
【0013】
この発明の態様として、前記拡径凹部は、前記筒状部の表面側端部の全周に沿って設けられてもよい。
この発明により、搭載状態において筒状部の上方側から流れてきた水を拡径凹部に伝わせて、筒状部よりも下方側へ案内することができる。これにより、筒状部の上方側から流れてきた水が筒状部に侵入することをより抑制できる。
【0014】
またこの発明の態様として、前記拡径凹部は、前記挿入方向から視て、前記筒状部の中心に対する径方向に沿った幅が、前記搭載状態における下方側に向かうに伴い広くなってもよい。
上述の前記搭載状態における下方側に向かうに伴い幅が広くなるとは、連続的にあるいは段階的に幅広くなる場合を含む。具体的には、挿入方向から視て、拡径凹部が下方に向けて突出する楕円状に構成されている場合や、筒状部の表面側外縁を囲む六角形状や五角形状で構成されている場合などであってもよい。
【0015】
この発明によると、搭載状態における下方側に向かうに伴い拡径凹部の面積が大きくなるため、搭載状態において、固定体の表面を流れる水を確実に拡径凹部に伝わせて、筒状部よりも下方側へ案内することができる。このため、凹状凸部に伝わった水を筒状部よりも下方側へ確実に流すことができ、筒状部への浸水を確実に抑制できる。
【0016】
またこの発明の態様として、前記拡径凹部は、前記筒状部の中心に対する同一円周上における深さが、前記搭載状態における下方に向かうに伴い深くなってもよい。
この発明により、拡径凹部が構成する溝の体積が下方側に向かうにつれて大きくなるため、拡径凹部に伝わった水を搭載状態における筒状部よりも下方側へ、より確実に案内することができる。これにより、筒状部への水の侵入をより確実に抑制できる。また、拡径凹部が構成する溝の体積が下方に向かうに伴い増大するため、大量の水が集束しても筒状部よりも下方側へ水を案内することができる。
【0017】
またこの発明の態様として、前記拡径凹部には、外縁から前記搭載状態における下方側に向けて延出するとともに、前記挿入方向に向けて窪んだ延出溝部が設けられてもよい。
この発明により、前記拡径凹部を流れてきた水を延出溝部に沿って搭載状態における下方側へ案内することができる。これにより、拡径凹部に伝わった水を搭載状態における拡径凹部の下端側からさらに下方へ確実に案内することができる。換言すると、拡径凹部に伝わった水が下端側で溜まることなく、下方へ排水できるため、筒状部に水が侵入することをより確実に抑制することができる。
【0018】
またこの発明の態様として、前記搭載状態における前記筒状部の上方側に、前記挿入方向と反対方向に突出する突出部が設けられてもよい。
なお、前記上方側とは、搭載状態における締結治具の挿入方向から視て、筒状部の中心よりも上半分側をさす。
【0019】
この発明により、固定体を車体に搭載した搭載状態において、筒状部の上方から流れてきた水を突出部に当てて、水が流れる方向を変えることができる。このため、筒状部に水が直接侵入することを防止できる。
【0020】
また、固定体の表面を流れてきた水を突出部に当てることにより、水の流れる方向を変えて、拡径凹部に伝わるように水を案内できる。したがって、より確実に筒状部へ水が侵入することを抑制できる。
【0021】
またこの発明の態様として、前記拡径凹部は、径方向内側に向かうに伴い溝の深さが緩やかに浅くなってもよい。
この発明により、下方側において拡径凹部の傾きが大きくなるため、拡径凹部に伝わった水は、下方側においてより径外側に向けて流れることとなる。したがって、筒状部に水が侵入することをより確実に抑制することができる。
【発明の効果】
【0022】
本発明は、固定体と被固定体とを締結固定する締結治具を配置する筒状部に水が侵入することを抑制できる締結構造を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0023】
図1】車両に搭載された状態における電気接続箱の概略斜視図。
図2】電気接続箱の概略分解斜視図。
図3】ロアケースの底面図。
図4図3中におけるA-A矢視断面図。
図5図3中におけるB-B矢視断面図。
図6】水滴の移動を示した説明図。
図7】他の実施形態での締結部分の構造を示す説明図。
図8】他の実施形態での締結部分の構造を示す説明図。
図9】他の実施形態での締結部分の構造を示す説明図。
図10】他の実施形態での締結部分の構造を示す説明図。
【発明を実施するための形態】
【0024】
以下、図面に基づいて本発明の実施形態を詳述する。
本実施形態の電気接続箱1は、例えば車両のエンジンルームにおけるダッシュボード近傍に配置されている。このような電気接続箱1を構成するロアケース10とアッパーケース20とを締結ネジBで締結固定する締結構造40について、図1から図6を用いて説明する。
【0025】
図1は車両に搭載された状態における電気接続箱1を上方後側から視た概略斜視図を示し、図2は電気接続箱1を上方後側から視た概略分解斜視図を示し、図3はロアケース10の底面を表す底面図を示す。図4図3中におけるA-A矢視断面図を示し、図5図3中におけるB-B矢視断面図を示す。図6は電気接続箱1が車両に搭載された状態において、ロアケース10にかかった水滴の移動経路を表すための拡大部分底面図を示す。
【0026】
図7乃至図10は締結構造40の他の実施形態の説明図を示し、図7は他の実施形態でのロアケース10の底面を表す底面図を示し、図8及び図9は他の実施形態におけるA-A矢視断面図を示す。図10は他の実施形態でのロアケース10の底面を表す底面図を示す。
【0027】
図3乃至図5について詳述する。図3(a)はロアケース10の底面全体を表す全体底面図を示し、図3(b)は図3(a)におけるロアケース10の右下部分を拡大表示した拡大部分底面図を示す。
【0028】
図4(a)は、図3(b)におけるA-A矢視断面図を示し、図4(b)は図4(a)におけるα部の拡大図を示し、図4(c)は図4(a)におけるβ部の拡大図を示す。同様に、図5(a)は、図3(b)におけるB-B矢視断面図を示し、図5(b)は図5(a)におけるγ部の拡大図を示し、図5(c)は図5(a)におけるΔ部の拡大図を示す。
【0029】
なお、図7(a)及び図7(b)はそれぞれ他の実施形態での拡大底面図を示す。また、図8(a)乃至図8(c)及び図9(a)乃至図9(c)は他の実施形態における図4に対応する位置のA-A矢視断面図を示す。
【0030】
ここで、図1中の上下方向を上下方向Zとし、電気接続箱1の幅方向(図1において左上と右下とを結ぶ方向)を車幅方向Wとし、電気接続箱1の奥行方向(図1において左下と右上とを結ぶ方向)を前後方向Hとしている。
【0031】
また、上下方向Zにおいて上側を上方側Zuとし、下側を下方側Zdとする。車幅方向Wにおいて手前側(図1において右下側)を右側Wrとし、奥側(図1において左上側)を左側Wlとする。そして、前後方向Hにおいて奥側(図1において右上側)を前方側Hfとし、手前側(図1において左下側)を後方側Hbとする。
なお、図1中で示した方向は、便宜上、図2乃至図10において同様とする。
【0032】
電気接続箱1は、上述のようにエンジンルームにおける車室との仕切り板であるダッシュボード(図示省略)の近傍に搭載されている。この電気接続箱1の内部には、ヒューズやバスバーなどの電子部品が収納されている。そして、この電子部品は、車両に搭載されたバッテリや他の電子機器、あるいは、車室内に配置された電子機類と電気的に接続されている。
【0033】
電気接続箱1について詳述する。電気接続箱1は、図1及び図2に示すように、略矩形状に構成された筐体であり、ロアケース10と、ロアケース10に対して締結するアッパーケース20と、電気接続箱1の内部に収納されるプリント基板30とで構成されている。
【0034】
ロアケース10は、前方側Hfが開口した内部中空状の略箱状であり、内部に電子部品を組み付けるプリント基板30を収容する空間が構成されている。そして、ロアケース10は前後方向Hから視た外形が略長方形となるように、
【0035】
このロアケース10は、ロアケース10の側面を構成するロアケース側面11と、底面を構成するロアケース底面12で構成されており、ロアケース側面11のうち、右側Wrの面にはコネクタ接続部13が2つ設けられている。
【0036】
コネクタ接続部13は、図示しないワイヤーハーネスの一端に接続されたコネクタを着脱可能に構成されている。このように構成されたコネクタ接続部13にコネクタを接続することで、ワイヤーハーネスの他端に接続された電子機器と、後述するプリント基板30に組み付けてあるヒューズなどの電子部品とを電気的に接続することができる。
【0037】
ロアケース底面12は、前後方向Hから見て略長方形となるように構成されている。このロアケース底面12の各角部分には、ロアケース10とアッパーケース20とを締結ネジBで締結固定するための締結構造40が設けられている。
【0038】
締結構造40は、図1乃至図5に示すように、円筒部41と、拡径凹部42と、突出部43とで構成されている。
円筒部41は、ロアケース底面12から前方側Hfに向けてと突出する、後方側Hbが開口した有底の円筒体である。この円筒部41は、ロアケース底面12の表面に比べてわずかに前方側Hfに窪んでいる。
【0039】
このような円筒部41は、図3及び図4図5に示すように、ロアケース底面12から前方側Hfに突出するとともに、所定の内径を有する内周面を構成する円筒本体41a及び縮径部41bと、円筒部41の底面を構成する円筒底面部41cとで一体構成されている。
【0040】
円筒本体41aは、図4及び図5に示すように、所定の内径及び外径を有する円筒の筒状体であり、ロアケース底面12から前方側Hfに向けて所定の長さだけ突出している。なお、円筒本体41aの内径はロアケース10とアッパーケース20とを締結固定する締結ネジBの頭部の外径よりも少し大きくなるように構成されている。
【0041】
縮径部41bは、円筒本体41aの前方側Hfの端部から前方側Hfに延びる円筒状の筒状体である。この縮径部41bは、内径が円筒本体41aの内径と等しく、外径が円筒本体41aの外径よりも縮径されている。なお、縮径部41bの高さ(前後方向Hの長さ)は、後述するプリント基板30の板厚と略同じである。
【0042】
円筒底面部41cは、図4及び図5に示すように、縮径部41bの前方側Hfの端部に設けられた円筒部41の底面であり、円筒底面部41cの中心部分には、板厚方向(前後方向H)に沿って貫通する貫通孔Sが設けられている。なお、貫通孔Sの外径は締結ネジBのネジ部の外径よりも少し大きくなるように構成されている。
【0043】
拡径凹部42は、図3及び図4図5に示すように、円筒部41における表面側(後方側Hb)の端部と、ロアケース10におけるロアケース底面12とを連結し、円筒本体41aにおける後方側Hbの端部からロアケース底面12に向かって徐々に拡径するように構成されている。換言すると、拡径凹部42は、前後方向Hから視て、円筒本体41aにおける後方側Hbの端部からロアケース底面12に向かうに伴い、前後方向Hから視て円筒部41の中心に対して径方向に沿った幅が広くなるように構成されている。
【0044】
詳述すると、拡径凹部42は、図3に示すように、円筒部41の上方側Zuに設けられた半円状の上方拡径凹部42aと、円筒部41の下方側Zdに設けられた略半円状の下方拡径凹部42bと、拡径凹部42の下端から下方側Zdに向けて延出する延出溝部42cとで一体に構成されている。
【0045】
上方拡径凹部42aは、図3及び図4図5に示すように、前後方向Hから視て円筒部41の中心よりも上方側(上方側Zu)において、前方側Hfに向けて窪ませた断面円弧状の溝である。なお、上方拡径凹部42aは、前後方向Hから視て上方に向けて突出した半円となるように構成されている。
【0046】
この上方拡径凹部42aは、図4(c)及び図5(b)、図5(c)に示すように、径内側に向かうに伴い深さが深くなるとともに、径内側に向かうに伴い緩やかになるような断面円弧状に構成されている。また、上方拡径凹部42aは、前後方向Hから視て円筒部41の中心に対する同一円周上における深さが、下方側Zdに向かうに伴い深くなるように構成されている。
【0047】
下方拡径凹部42bは、図3及び図4図5に示すように、前後方向Hから視て円筒部41の中心よりも下方側(下方側Zd)において、前方側Hfに向けて窪ませた断面円弧状の溝である。なお、下方拡径凹部42bは、前後方向Hから視て下方に向けて突出した略半円となるように構成されている。
【0048】
この下方拡径凹部42bは、図3及び図4(b)に示すように、径内側に向かうに伴い深さ(前方側Hfの長さ)が深くなるとともに、径内側に向かうに伴い緩やかになるような断面円弧状に構成されている。また、下方拡径凹部42bは、図3及び図4(b)に示すように、下方側Zdに向かうに伴い、径外側に向けて拡径するとともに、径内側端部の深さ(前方側Hfの長さ)が深くなるように構成されている。また、下方拡径凹部42bは、前後方向Hから視て円筒部41の中心に対する同一円周上における深さが、下方側Zdに向かうに伴い深くなるように構成されている。
【0049】
延出溝部42cは、図3及び図4(b)に示すように、円筒部41の上下方向Zの下方側Zdの端部から下方側Zdに向けて設けられた下方拡径凹部42bの合流部分において、下方側Zdに向けて延出する凹部である。換言すると、拡径凹部42は、円筒部41の上下方向Zの下方側Zdの外縁には、上下方向Zに沿うとともに、下方側Zdに向かうに伴い徐々に浅くなる延出溝部42cを有する。
【0050】
突出部43は、円筒部41の上方側Zuにおいて、ロアケース底面12から後方側Hbに突出した、前後方向Hから見て上方に向けて突出する円弧状に構成されたリブである。そして、この突出部43の両端部は、円筒部41の車幅方向Wの外端と略同じ位置に配置されている。なお、突出部43の上方側Zuの頂点は、円筒部41の上端側(上方側Zu)の頂点と一致している。
【0051】
上述のように構成されたロアケース10とともに電気接続箱1を構成するアッパーケース20は、ロアケース10の前方側Hfの開口を覆うように構成された電気接続箱1の蓋である。
詳述すると、アッパーケース20は、図2に示すように、下方側Zdが開口した内部中空状の略箱状に形成されており、アッパーケース20の内面には、後方側Hbに向けて突出する被締結部50が、円筒部41に対応する位置に設けられている。
【0052】
被締結部50は、アッパーケース20の内面から後方側Hbに向けて突出する円柱体である。より詳しくは、被締結部50は、円筒部41と略同じ外径を有する円柱体であり、後方側Hb側に形成される底面の中心部分には、突出部43を挿通させた締結ネジBを螺合できるようなネジ孔が設けられている。
【0053】
プリント基板30は、絶縁性の板状体であり、その表面には電気接続箱1の内部に収納されるヒューズや抵抗器などの電子部品を組み付けた電子回路が設けられている。また、このプリント基板30には、電子回路とコネクタ接続部13とを電気的に接続するための接続部(図示省略)を備えている。
【0054】
このため、コネクタ接続部13と接続可能なコネクタを一端に備え、他端が電子機器類と接続されているワイヤーハーネスを介して、プリント基板30に設けた電子回路と電子機器類とを電気的に接続することができる。
【0055】
このように電子回路が設けられるプリント基板30には、図2に示すように、電気接続箱1に収納された状態において、締結構造40及び被締結部50に対応する位置に搭載孔31が設けられている。
搭載孔31は、板厚方向に沿って貫通した貫通孔であり、その外径は縮径部41bの外径と略同じ長さに構成されている。
【0056】
このように構成されたロアケース10とアッパーケース20とは、締結構造40と被締結部50とを締結ネジB止めすることによりプリント基板30を内部に収容した状態で、締結固定することができる。このように構成された電気接続箱1は、車両に搭載した状態において締結構造40からの水の侵入を抑制できる。
【0057】
以下、電気接続箱1を車両に搭載した搭載状態において、電気接続箱1に水がかかった場合の水の流れについて、図6に基づいて簡単に説明する。
電気接続箱1は、図1及び図6に示すように、エンジンルームにおけるダッシュボード近傍において、ロアケース底面12が車両後方である前方側Hfを向くとともに、コネクタ接続部13が右側Wrに配置されるように搭載される。すなわち、電気接続箱1を車両に搭載した状態において、ロアケース底面12に設けられた突出部43は上方側Zuに配置される。
【0058】
例えば雨天時の走行や洗車時においてエンジンルームの中に水が入ってきた場合、電気接続箱1に水がかかる可能性があるが、この水はロアケース底面12やロアケース側面11を伝って下方に流れることとなる。
【0059】
このようにロアケース底面12を伝って下方側Zdに流れる水は、図6に示すように、締結構造40の上方に流れてくることがある(図中矢印L1で示す。)。このように流れてきた水は突出部43に当たり流れる方向が変わることとなる(図中矢印L2で示す。)。これによって、水が円筒部41に直接流れることを防止でき、円筒部41の内部に水が侵入することを抑制できる。
【0060】
また、突出部43によって車幅方向Wの両方側に向けて流れが変えられた水は下方側Zdに流れて(図中矢印L3で示す。)、上方拡径凹部42aに入り込むこととなる。このように上方拡径凹部42aに入り込んだ水は、上方拡径凹部42aに伝って下方拡径凹部42bへと案内される(図中矢印L4で示す。)
【0061】
また、下方拡径凹部42bは上方拡径凹部42aと比べて下方側Zdに広がっているとともに、円筒部41の径内側の溝が深くなっているため、下方拡径凹部42bの傾斜角が大きくなる。これにより、下方拡径凹部42bを伝って流れる水を延出溝部42cに案内することができる(図中矢印L5で示す。)。
【0062】
そして、車幅方向Wの両側において下方拡径凹部42bを伝って流れる水は、下方拡径凹部42bの下端部分で合流するとともに、延出溝部42cに沿って下方側Zdに流れることとなる(図中矢印L6で示す。)。これにより、円筒部41の内部に水が侵入することを抑制できる。
【0063】
このような締結構造40は、ロアケース10をアッパーケース20に固定する締結ネジBを挿入して締結するために、ロアケース10に設けられている。そして締結構造40は、ロアケース10の表面(ロアケース底面12)から凹状となり、締結ネジBを配置する円筒底面部41cを有する有底筒状の円筒部41と、円筒部41の後方側Hbの端部とロアケース10の表面とを連結し、円筒部41の後方側Hbの端部からロアケース10の表面に向かって徐々に拡径する拡径凹部42とで構成されている。また、拡径凹部42は、ロアケース10が固定されたアッパーケース20を車体に搭載した搭載状態における下方側Zdに形成されている。
【0064】
このように、円筒部41における表面側の端部の外縁に、円筒部41の表面側の端部とロアケース10の表面とを連結させた拡径凹部42が構成されている。このため、ロアケース10の表面を流れる水を拡径凹部42に伝わせて、搭載状態における円筒部41よりも下方側Zdへ案内することができる。したがって、例えば洗車時や雨天走行時において、固定部に流れる水が円筒部41へ侵入することを抑制できる。
【0065】
また、拡径凹部42は、円筒部41の表面側端部の全周に沿って設けられている。これにより、搭載状態において円筒部41の上方側Zuから水が流れてきたとしても、水を拡径凹部42(上方拡径凹部42aから下方拡径凹部42b)に伝わせて、円筒部41よりも下方側Zdへ案内することができる。これにより、円筒部41の上方側Zuから流れてきた水が円筒部41に侵入することをより抑制できる。
【0066】
さらにまた、拡径凹部42は、締結ネジBの挿入方向である前後方向Hから視て、搭載状態における下方側Zdに向かうに伴い幅が広くなっていることにより、搭載状態における下方に向かうに伴い拡径凹部42の面積が大きくなっている。このため、搭載状態において、ロアケース10の表面を流れる水を拡径凹部42に伝わせて、円筒部41よりも下方側Zdへ案内することができる。このため、凹状凸部に伝わった水を円筒部41よりも下方側Zdへ確実に流すことができ、円筒部41への浸水を確実に抑制できる。
【0067】
さらにまた、拡径凹部42は、搭載状態における下方に向かうに伴い深くなっていることにより、拡径凹部42が構成する溝の体積が下方側Zdに向かうにつれて大きくなっている。そのため、拡径凹部42に伝わった水を搭載状態における円筒部41よりも下方側Zdへ、より確実に案内することができる。
【0068】
これにより、円筒部41への水の侵入をより確実に抑制できる。また、拡径凹部42が構成する溝の体積が下方に向かうに伴い増大するため、大量の水が集束しても円筒部41よりも下方側Zdへ水を案内することができる。
【0069】
また、拡径凹部42には、外縁から搭載状態における下方側Zdに向けて延出するとともに、締結ネジBの挿入方向(前方側Hf)に向けて窪んだ延出溝部42cが設けられている。このため、拡径凹部42を流れてきた水を延出溝部42cに沿って搭載状態における下方側Zdへ案内することができる。これにより、拡径凹部42に伝わった水を搭載状態における拡径凹部42の下端側からさらに下方へ確実に案内することができる。換言すると、拡径凹部42に伝わった水が下端側で溜まることなく、下方へ排水できるため、円筒部41に水が侵入することをより確実に抑制することができる。
【0070】
また、搭載状態における円筒部41の上方側Zu側に、締結ネジBの挿入方向の反対方向、すなわち、前後方向Hの後方側Hbに突出する突出部43が設けられている。これにより、ロアケース10で構成された電気接続箱1を車体に搭載した搭載状態において、円筒部41の上方側Zuから流れてきた水を突出部43に当てることができる。これにより、水が流れる方向を変えることができ、円筒部41に直接水が侵入することを防止できる。
【0071】
また、突出部43は上方側Zuに向けて突出する円弧で構成されているため、流れてきた水を右側Wr及び左側Wlに分断し、水が一か所に集中することを防止することができる。これにより、過度の水が拡径凹部42に向かうことを防止できるため、確実に円筒部41が浸水することを抑制できる。なお、突出部43は円弧状で構成される必要はなく、山なりに構成されてもよい。
【0072】
また、ロアケース10の表面を流れてきた水を突出部43に当てることにより、水の流れる方向を変えて、拡径凹部42に伝わるように水を案内できる。したがって、より確実に円筒部41へ水が侵入することを抑制できる。
【0073】
また、拡径凹部42は、径方向内側に向かうに伴い溝の深さが緩やかに浅くなっていることにより、下方側Zdにおいて、拡径凹部42の傾きが大きくなる。このため、拡径凹部42に伝わった水は、下方側Zdにおいてより径外側に向けて流れることとなる。したがって、円筒部41に水が侵入することをより確実に抑制することができる。
【0074】
以上、本発明の構成と、前述の実施態様との対応において、固定体は、ロアケース10に対応し、以下同様に、
被固定体は、アッパーケース20に対応し、
締結治具は、締結ネジBに対応し、
締結部分の構造は、締結構造40に対応し、
筒状部は、円筒部41に対応し、
挿入方向は、前後方向Hに対応し、
拡径凹部は、拡径凹部42に対応し、
下方側は、下方側Zdに対応し、
延出溝部は、延出溝部42cに対応し、
突出部は、突出部43に対応するが、この発明は、上述の実施形態の構成のみに限定されるものではなく、多くの実施形態を得ることができる。
【0075】
例えば、本実施形態では、前後方向Hに沿って視て拡径凹部42は円筒部41の全周に沿って設けられているが、円筒部41の中心よりも下半分側である、円筒部41の下方側Zdに少なくとも一部分が配置されていればよい。
【0076】
具体的には、締結構造40の他の実施形態を表す図7(a)に示すように、拡径凹部42は、円筒部41の車幅方向Wの両側及び下方側Zdに沿って設けられていてもよい。また、締結構造40の他の実施形態を表す図7(b)に示すように、円筒部41の車幅方向Wの両側のみに設けられ、その形状は部分的又は全部が直線状であってもよい。
【0077】
また、拡径凹部42が円筒部41の表面側端部の一部分に設けられている場合には、拡径凹部42は単数でも複数でもよい。具体的には、図7(a)及び図7(b)に示すように、締結ネジBの挿入方向(前後方向H)から視て、円筒部41を挟んで対向する位置に配置されていてもよい。なお、円筒部41を挟んで対向する位置である必要はなく、例えば不規則に複数配置されていてもよい。
【0078】
また、本実施形態では、拡径凹部42は、搭載状態における締結ネジBの挿入方向(前後方向H)から視て、円筒部41の外縁に沿って円弧状に構成されているが、例えば図8に示すように、拡径凹部42を直線状に構成してもよい。
【0079】
さらにまた、本実施形態では、拡径凹部42は、前後方向Hと直交する方向から視た断面において、円筒部41の表面側の端部とロアケース10の表面とを、下方側Zdに向けて突出する円弧状で構成されている。しかしながら、この構成に限定されず、角形状を有する段差形状や凹部形状で連結する構成としてもよい。
【0080】
さらには、本実施形態では、径内側が深くなるように拡径凹部42を構成しているが、図9に示すように、径外側が深くなるように拡径凹部42を構成してもよい。
【0081】
また、本実施形態では、前後方向Hから視て下方拡径凹部42bが下方側Zdに向かうに伴い円筒部41の表面側端部と拡径凹部42の径外側端部との長さが長くなるような円弧状で構成されている。しかしながら、下方拡径凹部42bは必ずしも円弧状になる必要はなく、例えば図10に示すように、前後方向Hから視て、円筒部41の表面側の外縁を囲むような五角形状で構成されている場合などであってもよい。
【0082】
また、本実施形態では、締結構造40を電気接続箱1のロアケース10に設けているが、必ずしもロアケース10である必要はなく、例えばアッパーケース20に設けてもよい。さらには、電気接続箱1でなく、他に内部への浸水を防止することを目的とした筐体、内部空間を形成するためカバーなどに設けてもよい。
【符号の説明】
【0083】
10 ロアケース
20 アッパーケース
40 締結構造
41 円筒部
42 拡径凹部
42c 延出溝部
43 突出部
B 締結ネジ
H 前後方向
Zd 下方側
図1
図2
図3
図4
図5
図6
図7
図8
図9
図10