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特許7317298ダイヤモンド電極、ダイヤモンド電極の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】ダイヤモンド電極、ダイヤモンド電極の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法
(51)【国際特許分類】
   C02F 1/461 20230101AFI20230724BHJP
   C09D 201/00 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 5/24 20060101ALI20230724BHJP
   C09D 7/61 20180101ALI20230724BHJP
   C09D 183/16 20060101ALI20230724BHJP
   C25B 11/052 20210101ALN20230724BHJP
   C25B 11/083 20210101ALN20230724BHJP
【FI】
C02F1/461 Z
C09D201/00
C09D5/24
C09D7/61
C09D183/16
C25B11/052
C25B11/083
【請求項の数】 2
(21)【出願番号】P 2019110075
(22)【出願日】2019-06-13
(65)【公開番号】P2020199478
(43)【公開日】2020-12-17
【審査請求日】2022-04-15
(73)【特許権者】
【識別番号】510314792
【氏名又は名称】株式会社エーワンテクニカ
(73)【特許権者】
【識別番号】000125370
【氏名又は名称】学校法人東京理科大学
(74)【代理人】
【識別番号】100158850
【弁理士】
【氏名又は名称】明坂 正博
(72)【発明者】
【氏名】金田 英一
(72)【発明者】
【氏名】近藤 剛史
【審査官】目代 博茂
(56)【参考文献】
【文献】特開2016-030806(JP,A)
【文献】特開平11-048035(JP,A)
【文献】特開平09-267948(JP,A)
【文献】特表2007-528495(JP,A)
【文献】特開2013-076130(JP,A)
【文献】米国特許出願公開第2011/0198238(US,A1)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
C02F1/46-1/48
C25B11/00-11/097
C09D1/00-10/00
C09D101/00-201/10
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、電極プレートとして前記基板上に互いに接触しないように立設された複数枚のイヤモンド電極と、を備える水処理装置であって、
前記ダイヤモンド電極は、
基材と、前記基材の表面に設けられ、導電性ダイヤモンド粉末と、前記導電性ダイヤモンド粉末よりも前記基材との密着性の高いコーティング剤とを含む導電層と、を備え、
前記コーティング剤は、ポリシラザンであり、
前記コーティング剤と前記導電性ダイヤモンド粉末との重量比率が9:1~7:3の範囲内であり、
前記電極プレートの大きさは600cm以上であり、
前記導電層の厚さは5μm以上である、
ことを特徴とする水処理装置。
【請求項2】
導電性ダイヤモンド粉末と、前記導電性ダイヤモンド粉末よりも基材との密着性の高いコーティング剤とを含む導電性コーティング剤を用意し、前記基材の表面に前記導電性コーティング剤を塗布し、前記基材の表面に前記導電性ダイヤモンド粉末を定着させて導電層を形成して製造されたダイヤモンド電極を電極プレートとして基板上に互いに接触しないように複数枚立設させる工程を備え、
前記導電性コーティング剤は、スクリーン印刷又は噴射によって塗布され、
前記電極プレートの大きさは600cm以上であり、
前記導電層の厚さは5μm以上であ
前記コーティング剤は、ポリシラザンであり、
前記コーティング剤と前記導電性ダイヤモンド粉末との重量比率が9:1~7:3の範囲内である、
ことを特徴とする水処理装置の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ダイヤモンド電極、ダイヤモンド電極の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法に関する。
【背景技術】
【0002】
電気分解で用いる電極の材料には、二酸化鉛、白金、二酸化イリジウム、二酸化チタン、二酸化スズなどが知られている。また、これらの材料以外では、高電圧に耐えられ、効率的にOHラジカルを発生することができるダイヤモンド電極も用いられる。
【0003】
ダイヤモンド電極は、物理的および化学的に安定という優れた特徴を有するため、水や水溶液を電解するための処理装置の電極や、医療用機器の電極など、様々な分野で利用されている。ダイヤモンド電極に関する技術として、特許文献1には、基材にCVD(Chemical Vapor Deposition)により導電性ダイヤモンドを被覆して電極を構成する技術が開示されている。
【0004】
しかしながら、CVDによってダイヤモンド電極を形成する場合、CVD装置(チャンバ)内に収容できる大きさの基材に限られ、大面積のダイヤモンド電極を形成することは容易ではない。しかも、CVDで基材の表面に電極として十分な厚さの導電性ダイヤモンドを成膜するには非常に長い処理時間が必要になる。このため、大面積で十分な厚さの導電層を有するダイヤモンド電極をCVDで形成することは現実的ではない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【文献】特開2007-238989号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明は、上記課題の解決のためになされたものであり、大面積の電極に対応でき、十分な厚さ、および均一な導電層を短期間で製造することができるダイヤモンド電極、ダイヤモンド電極の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記の課題を解決すべく、本発明の一形態は、基材と、基材の表面に設けられ、導電性ダイヤモンド粉末と、導電性ダイヤモンド粉末よりも基材との密着性の高いコーティング剤とを含む導電層と、を備えたダイヤモンド電極である。このような構成によれば、基材の表面にコーティング剤を利用して導電性ダイヤモンド粉末を十分な厚さで均一に被着させることができる。すなわち、導電性ダイヤモンド粉末を含むコーティング剤を基材の表面に塗布することで導電性ダイヤモンド粉末を含む導電層を構成することができる。
【0008】
本発明の一態様は、導電性ダイヤモンド粉末と、導電性ダイヤモンド粉末よりも基材との密着性の高いコーティング剤とを含む導電性コーティング剤を用意する工程と、基材の表面に導電性コーティング剤を塗布する工程と、基材の表面に前記導電性ダイヤモンド粉末を定着させて導電層を形成する工程と、を備えたダイヤモンド電極の製造方法である。このような構成によれば、導電性コーティング剤を基材の表面に塗布することで基材の表面に導電性ダイヤモンド粉末の層(導電層)を十分な厚さで均一に形成することができる。
【0009】
本発明の一態様は、導電性ダイヤモンド粉末と、導電性ダイヤモンド粉末よりも対象物との密着性の高いコーティング剤とを含む導電性コーティング剤を用意する工程と、対象物の表面に導電性コーティング剤を塗布する工程と、対象物の表面に導電性ダイヤモンド粉末を定着させて導電層を形成する工程と、を備えた導電性ダイヤモンドの塗布方法である。このような構成によれば、導電性コーティング剤を対象物の表面に塗布することで対象物の表面に導電性ダイヤモンドを十分な厚さで均一に、かつ短時間で塗布することができる。
【発明の効果】
【0010】
以上説明したように、本発明によれば、大面積の電極に対応でき、十分な厚さ、および均一な導電層を短期間で製造することができるダイヤモンド電極、ダイヤモンド電極の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0011】
図1】(a)および(b)は、本実施形態に係るダイヤモンド電極の構成例を示す模式断面図である。
図2】本実施形態に係るダイヤモンド電極の製造方法を例示するフローチャートである。
図3】(a)から(e)は、本実施形態に係るダイヤモンド電極の製造方法を例示する模式図である。
図4】(a)および(b)は、廃水処理装置への適用例を説明する模式図である。
図5】(a)および(b)は、電解特性の実験結果を示す図である。
図6】(a)から(c)は、電気メスへの適用例を説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、図面を参照して本発明の実施形態を説明する。
【0013】
(ダイヤモンド電極)
図1(a)および(b)は、本実施形態に係るダイヤモンド電極の構成例を示す模式断面図である。図1(b)は図1(a)の導電層20の拡大断面図である。
図1(a)に示すように、本実施形態に係るダイヤモンド電極1は、基材10と、基材10の表面10aに設けられた導電層20とを備える。基材10としては、板状体の金属、セラミックス、半導体、およびこれらの複合基板が用いられる。
【0014】
導電層20は、導電性ダイヤモンド粉末21と、コーティング剤22とを含む。導電性ダイヤモンド粉末21は、コーティング剤22の中に所定の割合で混合されている。コーティング剤22は、導電性ダイヤモンド粉末21よりも基材10との密着性が高い。コーティング剤22によって、導電性ダイヤモンド粉末21を基材10の表面10aに十分な厚さで被着させることができる。このコーティング剤22には、例えばポリシラザンが用いられる。
【0015】
図1(b)に示すように、導電性ダイヤモンド粉末21は、ダイヤモンド粉末210と、ダイヤモンド粉末210の表面10aに設けられた高不純物層211とを有する。ダイヤモンド粉末210は絶縁体であるが、このダイヤモンド粉末210の表面に、ダイヤモンド粉末よりも不純物濃度が高い高不純物層211を設けることで導電性ダイヤモンド粉末21が構成される。高不純物層211を構成する不純物としては、ボロンやリンが挙げられる。本実施形態では、不純物としてボロンが用いられる。これにより、ボロンドープダイヤモンド(以下、「BDD」とも言う。)が構成される。BDDは、導電性ダイヤモンド粉末21の一例である。
【0016】
基材10の表面10aに設けられる導電層20は、例えばポリシラザンであるコーティング剤22に導電性ダイヤモンド粉末21であるBDDが混合されたものである。コーティング剤22は基材10の表面10aに導電性ダイヤモンド粉末21を被着するためのバインダーとなる。複数の導電性ダイヤモンド粉末21はコーティング剤22の中で接触しており、導電層20の面方向への導通性を得ている。また、一部の導電性ダイヤモンド粉末21はコーティング剤22の表面から露出しており、導電層20と接する外部の部材との導通性を得られるようになっている。
【0017】
このようなダイヤモンド電極1によれば、基材10の表面10aにコーティング剤22を利用して導電性ダイヤモンド粉末21を十分な厚さで均一に被着させることができる。すなわち、導電性ダイヤモンド粉末21を含むコーティング剤22を基材10の表面10aに塗布することで導電性ダイヤモンド粉末21を含む導電層20を構成することができることから、大面積の基材10であっても、導電性ダイヤモンド粉末21を含む導電層20を容易に構成することができる。さらに比較的厚い導電層20が必要な場合でも、導電性ダイヤモンド粉末21を含むコーティング剤22を基材10の表面10aに均一に塗布することができるとともに、短時間で形成することが可能となる。
【0018】
ここで、BDDを用いた電極の耐久性については、成長したダイヤモンド粒子が大きいと、電極作製時にピンホール(ダイヤモンド粒子間の隙間)が発生する確率が高くなる。ピンホールが発生すると、物理的にも電気化学的にも不安定な金属カーバイド層(基材及びBDD層間の層)に廃水が浸透して、短期間で電極表面全体に剥離現象が連鎖的に発生する。
【0019】
このようなピンホールについての対策としては、できるだけ小さなダイヤモンド粒子、好ましくはナノサイズのダイヤモンド粒子で構成されている多結晶膜で成膜することが好ましい。そうすることにより、確率的にピンホールができる可能性が少なくなる。
【0020】
また、粒子結晶が小さいため、粒子境界を介した下層への流路が長くなる。実験的にもこのような微細結晶で構成されたダイヤモンド電極では、剥離が起こりにくく、寿命が長くなることが確認できている。
【0021】
しかしながら、このような理想的な結晶成長させたBDDの電極をCVDで形成しようとした場合、高度なCVDプロセスの制御が必要であり、安定な電極の製造技術確立の高いハードルとなっている。
【0022】
また、多結晶膜のダイヤモンド粒子が電解反応で消耗される「エッチング現象」も大きな課題の一つである。原因は明確になっていないが、電解質に有機物が存在するとダイヤモンド膜の消耗速度が著しく速くなるため、有機物分解の中間生成物として発生する有機ラジカルが関与して、ダイヤモンド結晶の消耗を進行させていると推察されている。このため、電解処理を行う対象物(例えば、廃水)に有機物が含まれているとこの膜消耗は常に起こり得る。
【0023】
上記のように、BDDを用いた電極には、ピンホール、エッチングおよび剥離といった課題があるが、本実施形態のようにBDDを塗布することによって構成されるダイヤモンド電極1では、これらの課題を解決することができる。
【0024】
その理由としては、本実施形態では、コーティング剤22としてポリシラザンを採用したガラスコーティングであり、様々な基材(コーティング対象物)に対する強い密着性を持つ。ポリシラザンは構成要素にSiH、NH、SiNを持ち、これら3つ全てが基材表面の活性基(-H)と反応結合することができる。
【0025】
BDDの表面化学修飾には活性基(-H)があるため、ポリシラザンと化学的に強く結合できる。BDDをCVDによって形成する薄膜電極のような機械的な結合ではなく、本実施形態のようなコーティング剤22ではBDDや基材10と化学的に強く結合するため、非常に強力に密着することができる。そのため、ピンホールやエッチング、剥離、金属基材の露出等のリスクが大きく削減され、耐久性も大きく向上すると考えられる。
【0026】
また、ポリシラザンは基材10と反応すると同時に、自己架橋、シリカ転化が進行し、基材10の表面にはシリカガラス膜が形成される。そのため、耐薬品性にも非常に優れて、廃液処理などにおいても大きな優位性となる。耐久性や耐薬品性は、製品化において、性能の安定性や製品寿命にも直結するため、非常に重要である。
【0027】
(ダイヤモンド電極の製造方法)
次に、ダイヤモンド電極の製造方法について説明する。
図2は、本実施形態に係るダイヤモンド電極の製造方法を例示するフローチャートである。
図3(a)から(e)は、本実施形態に係るダイヤモンド電極の製造方法を例示する模式図である。
本実施形態に係るダイヤモンド電極は、図2に示す工程によって製造される。
【0028】
(ステップS101:基材の用意)
先ず、ステップS101に示すように、基材10を用意する。一例として、金属板(ステンレス板)の基材10を用意する。
【0029】
(ステップS102:導電性コーティング剤の用意)
次に、ステップS102に示すように、導電性コーティング剤を用意する。導電性コーティング剤は、導電性ダイヤモンド粉末21とコーティング剤22とを混合したものである。図3(a)から(c)には、ダイヤモンド粉末から導電性コーティング剤の調合までの工程が示される。すなわち、図3(a)に示すように、ダイヤモンド粉末210を用意し、図3(b)に示すように、ダイヤモンド粉末210の表面に高不純物層211を設けて導電性ダイヤモンド粉末21を形成する。高不純物層211は、例えばCVDを用いてダイヤモンド粉末210の表面にボロンをドープすることによって形成される。この形成された導電性ダイヤモンド粉末21と、コーティング剤22とを所定の割合で混合することで、図3(c)に示す導電性コーティング剤20Aが調合される。
【0030】
一例として、コーティング剤22にはポリシラザンが用いられる。また、導電性コーティング剤20Aにおけるコーティング剤22と導電性ダイヤモンド粉末21との比率(重量%での比率)は、例えば、9:1~7:3程度である。コーティング剤22の比率が9を超えると密着性(耐久性)は高くなるものの導電性が低下する。一方、コーティング剤22の比率が7を下回ると導電性は向上するものの密着性(耐久性)が低下する。
【0031】
(ステップS103:導電性コーティング剤の塗布)
次に、ステップS103に示すように、導電性コーティング剤の塗布を行う。すなわち、ステップS101で用意した基材10の表面10aに、ステップS102で用意した導電性コーティング剤20Aを塗布する。本実施形態では、CVDではなく、基材10の表面10aに導電性コーティング剤20Aを塗布する。
【0032】
図3(d)には、基材10の表面10aに導電性コーティング剤20Aが塗布された状態が示される。塗布方法としては、スクリーン印刷や噴射が挙げられる。スクリーン印刷では、塗布する領域にスクリーンを載置し、スクリーン上に導電性コーティング剤20Aを塗布してスキージで均す。これにより、スクリーンの網目から導電性コーティング剤20Aが基材10上にほぼ均一な厚さで塗布される。
【0033】
また、噴射では、ノズルに所定圧力で導電性コーティング剤20Aを供給し、ノズルの先端開口から基材10の表面10aに向けて導電性コーティング剤20Aを吐出する。これにより、導電性コーティング剤20Aを基材10の表面10aに塗布する。
【0034】
導電性コーティング剤20Aをスクリーン印刷や噴射によって塗布することによって、基材10の表面10aに十分な厚さの導電性コーティング剤20Aを短時間で形成することができる。
【0035】
(ステップS104:導電性ダイヤモンド粉末の定着)
次に、ステップS104に示すように、導電性ダイヤモンド粉末の定着を行う。すなわち、図3(d)に示すように、基材10の表面10aに導電性コーティング剤20Aを塗布した後、図3(e)に示すように、導電性コーティング剤20Aを例えば乾燥させる。これにより、コーティング剤22を硬化させ、基材10の表面10aに導電性ダイヤモンド粉末21が定着する。導電性ダイヤモンド粉末21の定着によって基材10の表面10aに導電層20が設けられ、ダイヤモンド電極1が完成する。
【0036】
このような製造方法によれば、導電性コーティング剤20Aを基材10の表面10aに塗布することで基材10の表面10aに導電性ダイヤモンド粉末21の層(導電層20)を十分な厚さで均一に形成することができる。
【0037】
したがって、CVDのチャンバでは収容しきれないような大きさの基材10を用いることができ、しかも、十分な厚さの導電層20を短時間で形成することができる。例えば、CVDでは現実的ではない大きさの基材10および十分な厚さの導電層20を短時間で形成することができる。例えば、基材10の大きさは、600cm以上(例えば、縦20cm×横30cm以上)であってもよい。また、導電層20の厚さは、5μm以上であっても対応可能である。
【0038】
さらに、CVDによって導電性ダイヤモンドの層を形成する方法では、限られた種類の基材(シリコンやニオブなど)しか用いることができない。しかし、本実施形態のように、導電性コーティング剤20Aを基材10に塗布することによって導電層20を形成する方法では、幅広い基材10の材料に対応することができる。すなわち、本実施形態では、基材10の材料、形状、大きさの自由度が高く、多様なダイヤモンド電極1を低コストで製造することが可能となる。
【0039】
(導電性ダイヤモンドの塗布方法)
図2および図3で示すダイヤモンド電極の製造方法の一部は、導電性ダイヤモンドの塗布方法として適用可能である。導電性ダイヤモンドの塗布方法としては、基材10の代わりに導電性ダイヤモンドの層(導電層20)を形成する対象物を用いる。すなわち、導電性ダイヤモンドの塗布方法は、導電性ダイヤモンド粉末21と、導電性ダイヤモンド粉末21よりも対象物との密着性の高いコーティング剤22とを含む導電性コーティング剤20Aを用意する工程と、対象物の表面に導電性コーティング剤20Aを塗布する工程と、対象物の表面に導電性ダイヤモンド粉末21を定着させて導電層20を形成する工程と、を備える。これにより、導電性コーティング剤20Aを対象物の表面に塗布することで対象物の表面に導電性ダイヤモンドを十分な厚さで均一に、かつ短時間に塗布することが可能となる。
【0040】
(適用例:廃水処理装置)
次に、適用例について説明する。
図4(a)および(b)は、廃水処理装置への適用例を説明する模式図である。
図4(a)に示すように、本実施形態に係るダイヤモンド電極1は、廃水処理装置100の電極110として適用することが好適である。廃水処理装置100は、例えば浄水場のオゾン接触池で使用される。
【0041】
廃水処理装置100の電極110は、例えば図4(b)に示すように、取り付け用プレート111と、取り付け用プレート111に立設された複数枚の電極プレート112とを有する。取り付け用プレート111には電源ケーブル120が接続され、取り付け用プレート111から各電極プレート112に電圧を印加できるようになっている。この電極プレート112として、本実施形態に係るダイヤモンド電極1が適用される。
【0042】
廃水処理装置100の水槽は非常に大きいため、これに用いられる電極110の大きさ(表面積)も十分な大きさが必要となる。本実施形態に係るダイヤモンド電極1によれば、大きな基材10に十分な厚さの導電層20を短時間で構成することができ、大きな廃水処理装置100の電極110として有効に利用可能となる。
【0043】
また、本実施形態に係るダイヤモンド電極1では、大きさのみならず形状の自由度も高い。すなわち、導電性ダイヤモンド粉末21を含むコーティング剤22を塗布することで導電層20を形成できるため、平坦のみならず立体的な対象物にも導電性ダイヤモンドを塗布してダイヤモンド電極1を構成することができる。廃水処理装置100においては、例えば図4(b)に示すような電極プレート112に本実施形態に係るダイヤモンド電極1を用いることで、オゾンおよびOHラジカルを効率よく発生させることができる。
【0044】
本実施形態に係るダイヤモンド電極1を用いた廃水処理装置100で電解水処理を行うと、電極110上での直接電解に加えて、水の電解の結果生じるOHラジカルやオゾンによる間接電解が起きるため(図4(a)(1)参照)、効率よく有機物を処理することができる(図4(a)(2)参照)。発生したオゾンによって悪臭や菌を酸化分解し、酸素を放出する(図4(a)(3)参照)。また、水中でのオゾン分解反応によって生成されるOHラジカルは、オゾンよりも酸化力が強いため、難分解性の有害有機物も処理可能である。
【0045】
ここで、水中でオゾンとOHラジカルとを生成する方法としては、電極による電気分解が挙げられる。電気分解による水処理は、処理困難な難分解性物質(特に、有機系物質)を酸化分解し、低分子かつ安全な物質に変換できるため、廃水の環境負荷低減と、水資源の再利用・有効利用のための重要技術として位置づけされている。その中でも、ダイヤモンド電極1は、物理的・化学的に安定という優れた特性を有する。そのため、他の材料の電極よりも多くの優位性を持ち、あらゆる水処理用の電極として気体されている。
【0046】
具体的には、ダイヤモンド電極1を用いた水の電解では、従来の電極材料に比較してOHラジカルやオゾンの発生効率が高いことが知られている。これは、ダイヤモンド電極1では、水中で高電位を印加しても酸素の発生が起きにくい(酸素発生の過電圧が大きい)ことに起因する。
【0047】
例えば、代表的なオゾン発生用電極として二酸化鉛(PbO)が知られているが、有害な金属である鉛を含むため、金属物質の溶出の可能性から水処理用電極への利用に懸念がある。その他にも、酸化インジウム-酸化ニオブ(IrO-Nb)電極や、酸化インジウム-酸化タンタル(IrO-Ta)電極、白金(Pt)電極を用いたものもあるが、高価な貴金属類を使用するため、コストや資源の面で懸念がある。また、Pt電極は、電圧を常時印加していると脆くなるため、十分な耐久性を得られない。二酸化スズ(SnO)電極を用いたものもあるが、安定性が高くない。
【0048】
一方、ダイヤモンド電極1は、酸素発生の過電圧が大きき、OHラジカルやオゾン発生に適しているだけでなく、毒性がなく、安定性に優れ、原料資源のコストやリスクの問題がないので、水処理用電極材料としての利用に好適である。
【0049】
このように、他の金属の電極に比べて有利なダイヤモンド電極1について、本実施形態では、コーティング剤22としてポリシラザンを用いる。このため、廃水処理装置100のようにダイヤモンド電極1を浸漬する溶液の環境が過酷な場合や、印加電圧が高い場合であっても基材10の表面10aに設けられた導電層20を維持することができる。
【0050】
図5(a)および(b)は、電解特性の実験結果を示す図である。
ここで、実験を行った電極は、塗布型BDD電極(本実施形態に係るダイヤモンド電極1)、BDD薄膜電極(CVDで導電層を形成したダイヤモンド電極)およびPt(白金)電極である。
各電極での電解特性を調べるため、メチレンブルーをモデル有機汚染物質として、定電流電解を行った。実験では、0.01mMのメチレンブルー(硫酸にてph2に調整)を2mL用意し、各電極(電極面積1cm)に対して、+3.0V(vs.Ag/AgCl)付近となるような電流値で定電流電解を行った。溶液の吸光度からメチレンブルーの濃度を測定し、通電電荷量に対する濃度変化を調べた。
【0051】
図5(a)には、通電時間に対するメチレンブルーの濃度の変化が示され、図5(b)には、通電電荷量に対するメチレンブルーの濃度の変化が示される。図5(b)の挿入図は、通電電荷量を対数表示したものである。
【0052】
実験の結果、Pt電極、BDD薄膜電極および塗布型BDD電極のいずれも通電時間に対するメチレンブルーの減少率は同程度であった。一方、通電電荷量に対するメチレンブルーの減少率には大きな差が見られた。すなわち、BDD薄膜電極や塗布型BDD電極では、流れた電流に対してメチレンブルーの分解に利用される電流の割合が、Pt電極に比べて非常に大きいことが分かる。これは、直接電解のみではなく、OHラジカルやオゾン生成による間接電解による寄与があり、結果として効率よく電解が起きていると考えられる。したがって、塗布型BDD電極においても、BDDの持つ優れた電解特性が維持されていることが確かめられた。
【0053】
また、90分間の電解後でも塗布型BDD電極の表面に劣化(剥離など)は観察されなかった。すなわち、塗布型BDD電極は高電位にて長時間の電解を行っても導電層20の剥離は発生せず、十分な耐久性を有することが分かった。さらに、塗布型BDD電極では、高電位にて長時間の電解を行っても、導電性を失うことなく通電が可能であることが分かった。また、塗布型BDD電極では、従来、電解用電極として適用されていたPt電極やBDD薄膜電極よりも、非常に少ない消費電力で有機物を分解できることが確認できた。
【0054】
さらに、塗布型BDD電極を製造する際の導電性コーティング剤20Aの組成の最適化を実施し、その組成をもとに縦20cm×横30cm程度の大面積塗布型BDD電極を作製した。また、作製した大面積塗布型BDD電極を用いてメチレンブルーの定電流電解実験を行った結果、BDD薄膜電極に匹敵する電解効率と十分な耐久性を有することが確認された。さらに、化学プローブ法によるOHラジカル検出実験を行ったところ、大面積塗布型BDD電極による電解ではBDD薄膜電極を用いた場合と同程度のOHラジカルの生成を確認した。
【0055】
また、廃水処理の観点から、塗布型BDD電極を用いることで、従来の廃水燃焼に比べて、多くの優位性が確認されている。すなわち、難分解性の産業廃水の処理には、重油などと噴霧燃焼させながら廃水を燃やす燃焼処理方法があるが、ダイヤモンド電極1による処理と廃水燃焼処理とを比較した場合、ダイヤモンド電極1の方が燃焼法に対して約50%のCO削減効果があり、かつ安価に廃水処理できることが確認できている。
【0056】
また、本実施形態に係るダイヤモンド電極1は、生物処理に対して阻害性・有害性を示す高塩類濃度廃水、強アルカリ性廃水、強酸性廃水、芳香族有機化合物含有廃水、着色成分含有廃水、医薬産業廃水、化学産業廃水等の処理に有効であると考えられる。
【0057】
(適用例:電気メス)
図6(a)から(c)は、電気メスへの適用例を説明する図である。
本実施形態における導電性ダイヤモンドの塗布方法は、耐久性に優れ、導通性を担保できるため電気メスの電極の導電性皮膜として適用することができる。図6(a)から(c)には、外科的治療装置としての電気メス200A~200Cが示される。図6(a)に示す電気メス200Aは、ナイフ型、図6(b)に示す電気メス200Bは、スネアと呼ばれる輪状の針金(ワイヤ)型、図6(c)に示す電気メス200Cは、ボール型である。本実施形態における導電性ダイヤモンドの塗布方法によって、図6に示す電気メス200A~200Cの電極201の表面に導電性ダイヤモンド粉末21を含む導電層20が形成される。
【0058】
図6(a)に示すナイフ型の電気メス200Aは、生体組織を凝固して切断することができる。図6(b)に示すワイヤ型の電気メス200Bは生体組織を取り囲むようにして切除することができる。図6(c)に示すボール型の電気メス200Cは、生体組織に通電して凝固させることができる。このように、図6に示す電気メスは、各々機能が異なるため用途に応じて使い分けられている。なお、本実施形態における導電性ダイヤモンドの塗布方法の対象物は、図6に示す電気メスだけに限られるものではない。
【0059】
以上のように、本実施形態に係るダイヤモンド電極1は、基材10と、基材10の表面10aに設けられ、導電性ダイヤモンド粉末21と、導電性ダイヤモンド粉末21よりも基材10との密着性の高いコーティング剤22とを含む導電層20と、を備える。これにより、基材10の表面10aにコーティング剤22を利用して導電性ダイヤモンド粉末21を十分な厚さで被着させることができる。すなわち、導電性ダイヤモンド粉末21を含むコーティング剤22を基材10の表面10aに塗布することで導電性ダイヤモンド粉末21を含む導電層20を構成することができる。
【0060】
また、このダイヤモンド電極1において、導電性ダイヤモンド粉末21は、ダイヤモンド粉末210と、ダイヤモンド粉末210の表面に設けられ、ダイヤモンド粉末210よりも不純物濃度が高不純物層211と、を有していてもよい。これにより、絶縁体であるダイヤモンド粉末210の核の表面に、導電体となる高不純物層211が設けられた導電性ダイヤモンド粉末21が構成される。
【0061】
また、このダイヤモンド電極1において、基材10の大きさは600cm以上(例えば、縦20cm×横30cm以上)であってもよく、導電層20の厚さは5μm以上であってもよい。これにより、CVDのチャンバでは収容しきれないような大きさの基材10を用いることができ、十分な厚さの導電層20を短時間で形成することができる。
【0062】
また、このダイヤモンド電極1において、コーティング剤22はポリシラザンであることが好ましい。これにより、ダイヤモンド電極1を浸漬する溶液の環境が過酷な場合や、印加電圧が高い場合であっても基材10の表面10aに設けられた導電層20を維持することができる。
【0063】
また、本実施形態に係るダイヤモンド電極1の製造方法は、導電性ダイヤモンド粉末21と、導電性ダイヤモンド粉末21よりも基材10との密着性の高いコーティング剤22とを含む導電性コーティング剤20Aを用意する工程と、基材10の表面10aに導電性コーティング剤20Aを塗布する工程と、基材10の表面10aに導電性ダイヤモンド粉末21を定着させて導電層20を形成する工程と、を備える。このような構成によれば、導電性コーティング剤20Aを基材10の表面10aに塗布することで基材10の表面10aに導電性ダイヤモンド粉末21の層(導電層20)を十分な厚さで、かつ短時間に形成することができる。
【0064】
また、このダイヤモンド電極1の製造方法において、導電性コーティング剤20Aを塗布する工程は、導電性コーティング剤20Aをスクリーン印刷によって塗布することを含んでいてもよい。これにより、導電性コーティング剤20Aをスクリーン印刷することによって十分な厚さの導電層20を短時間で形成することができる。
【0065】
また、このダイヤモンド電極1の製造方法において、導電性コーティング剤20Aを塗布する工程は、導電性コーティング剤20Aを噴射して塗布することを含んでいてもよい。これにより、導電性コーティング剤20Aを噴射して塗布することによって十分な厚さの導電層20を短時間で形成することができる。
【0066】
また、本実施形態に係る導電性ダイヤモンドの塗布方法は、導電性ダイヤモンド粉末21と、導電性ダイヤモンド粉末21よりも対象物との密着性の高いコーティング剤22とを含む導電性コーティング剤20Aを用意する工程と、対象物の表面に導電性コーティング剤20Aを塗布する工程と、対象物の表面に導電性ダイヤモンド粉末21を定着させて導電層20を形成する工程と、を備える。このような構成によれば、導電性コーティング剤20Aを対象物の表面に塗布することで対象物の表面に導電性ダイヤモンドを十分な厚さで、かつ短時間で塗布することができる。
【0067】
以上説明したように、本発明によれば、大面積の電極に対応でき、十分な厚さの導電層を短期間で製造することができるダイヤモンド電極1、ダイヤモンド電極1の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法を提供することができる。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本実施形態に係るダイヤモンド電極1、ダイヤモンド電極1の製造方法および導電性ダイヤモンドの塗布方法は、大面積の電極に対応でき、短時間で導電層20を形成することができるため、廃水処理装置100の電極110や、電気メス等の外科的治療装置の電極、その他、有機物質の除去、除菌、消臭を行う装置の電極、家電分野、機能水生成装置、オゾン水生成装置、汚染物質センサーの電極、CO還元による有機物質合成および有機電界合成の分野、医療分野の各種装置の電極として好適に利用可能である。
【符号の説明】
【0069】
1 ダイヤモンド電極
10 基材
10a 表面
20 導電層
20A 導電性コーティング剤
21 導電性ダイヤモンド粉末
22…コーティング剤
100…廃水処理装置
110…電極
111…取り付け用プレート
112…電極プレート
120…電源ケーブル
200A…電気メス
200B…電気メス
200C…電気メス
201…電極
210…ダイヤモンド粉末
211…高不純物層

図1
図2
図3
図4
図5
図6