(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】加工挽肉及びその製造方法
(51)【国際特許分類】
A23L 13/00 20160101AFI20230724BHJP
A23L 13/10 20160101ALI20230724BHJP
【FI】
A23L13/00 A
A23L13/10
(21)【出願番号】P 2019111234
(22)【出願日】2019-06-14
【審査請求日】2022-03-28
(73)【特許権者】
【識別番号】713011603
【氏名又は名称】ハウス食品株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】100094569
【氏名又は名称】田中 伸一郎
(74)【代理人】
【識別番号】100103610
【氏名又は名称】▲吉▼田 和彦
(74)【代理人】
【識別番号】100109070
【氏名又は名称】須田 洋之
(74)【代理人】
【識別番号】100119013
【氏名又は名称】山崎 一夫
(74)【代理人】
【識別番号】100123777
【氏名又は名称】市川 さつき
(74)【代理人】
【識別番号】100111796
【氏名又は名称】服部 博信
(74)【代理人】
【識別番号】100193493
【氏名又は名称】藤原 健史
(72)【発明者】
【氏名】星野 彰太
(72)【発明者】
【氏名】巽 千夏
【審査官】戸来 幸男
(56)【参考文献】
【文献】特開2008-048614(JP,A)
【文献】特開2005-073616(JP,A)
【文献】特開2014-128202(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A23L 13/00-13/77
A23L 5/00-5/49
JSTPlus/JMEDPlus/JST7580(JDreamIII)
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(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
生の挽肉を、アルカリ性物質及
び成膜化物質を含む溶液中に分散させる分散工程と、
前記生の挽肉を、アルカリ性物質及
び成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態のまま加熱する加熱工程と、
を備える、加工挽肉の製造方法。
【請求項2】
前記加熱工程が、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及
び成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態で、これに熱水を加える工程を含む、請求項
1に記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項3】
前記加熱工程が、前記挽肉の蛋白質が熱変性する温度で加熱する工程を含む、請求項1
又は2に記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項4】
前記アルカリ性物質が、炭酸塩、炭酸水素塩、又は有機酸塩を含む、請求項1乃至
3のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項5】
前記成膜化物質が、澱粉、カラギナン、寒天、アルギン酸及びその塩類、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンド種子多糖類、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、プルラン、ジェランガム及びカードランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、請求項1乃至
4のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項6】
前記溶液中の前記アルカリ性物質の量が、0.3~10質量%である、請求項1乃至
5のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項7】
前記溶液中の前記成膜化物質の含有量が、0.3~10質量%である、請求項1乃至
6のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
【請求項8】
前記生の挽肉1質量部に対する前記溶液の量が、0.5~5質量部である、請求項1乃至
7のいずれかに記載の方法。
【請求項9】
請求項1乃至
8のいずれかに記載の方法により製造された加工挽肉を含む食品を、80℃で15分間に相当する以上の条件で密閉状態で加熱処理する工程を備える、加工食品の製造方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、加工挽肉及びその製造方法に関する。さらに、前記加工挽肉を含む加工食品の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
挽肉の調理方法の一つとして、水中で加熱する、即ち、茹でる方法が知られている。しかしながら、挽肉を茹でる場合、挽肉の粒同士が結着し、塊になってしまうという課題がある。
【0003】
上記に関連して、特許文献1(特開2005-73616号公報)には、生の鶏挽肉を液中に分散させてから70~100℃のボイル処理を施すことを特徴とする、そぼろ状鶏挽肉加熱加工食品の製造方法が記載されている。
また、特許文献2(特許第6022350号)には、生の鶏挽肉を酸度12~25の酸溶液に浸漬し、加熱して得られるpH4.6以下のそぼろ状挽肉が記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2005-73616号公報
【文献】特許第6022350号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
特許文献1の記載によれば、生の鶏挽肉を液中に分散させてから70~100℃のボイル処理を施すことにより、ブロック化せずそぼろ状の加熱済み鶏挽肉を得られる。しかし、本発明者らの知見によれば、特許文献1に記載の方法を用いても、挽肉の塊が生じることを完全に防ぐことは難しく、更に改善の余地がある。
また、特許文献2に記載の方法は、酸溶液に挽肉を浸漬させる必要があり、そぼろ状挽肉がpH4.6以下の酸味が強いものになる、という制約がある。
従って、本発明の課題は、茹でることにより挽肉を調理する加工挽肉の製造方法において、挽肉の塊が発生することを防ぐことができる、新たな加工挽肉の製造方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者らは、挽肉を、所定の物質を含む溶液中に分散させ、その後、加熱することによって、上記課題を解決できることを見出した。すなわち、本発明は、下記の事項を含んでいる。
[1]生の挽肉を、アルカリ性物質及び/又は成膜化物質を含む溶液中に分散させる分散工程と、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及び/又は成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態のまま加熱する加熱工程と、を備える、加工挽肉の製造方法。
[2]前記分散工程が、前記生の挽肉を、前記アルカリ性物質及び前記成膜化物質を含む溶液中に分散させる工程を含む、[1]に記載の加工挽肉の製造方法。
[3]前記加熱工程が、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及び/又は成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態で、これに熱水を加える工程を含む、[1]又は[2]に記載の加工挽肉の製造方法。
[4]前記加熱工程が、前記挽肉の蛋白質が熱変性する温度で加熱する工程を含む、[1]乃至[3]のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
[5]前記アルカリ性物質が、炭酸塩、炭酸水素塩、又は有機酸塩を含む、[1]乃至[4]のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
[6]前記成膜化物質が、澱粉、カラギナン、寒天、アルギン酸及びその塩類、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンド種子多糖類、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、プルラン、ジェランガム及びカードランからなる群から選択される少なくとも1種を含む、[1]乃至[5]のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
[7]前記溶液中の前記アルカリ性物質の量が、0.3~10質量%である、[1]乃至[6]のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
[8]前記溶液中の前記成膜化物質の含有量が、0.3~10質量%である、[1]乃至[7]のいずれかに記載の加工挽肉の製造方法。
[9]前記生の挽肉1質量部に対する前記溶液の量が、0.5~5質量部である、[1]乃至[8]のいずれかに記載の方法。
[10][1]乃至[9]のいずれかに記載の方法により製造された、加工挽肉。
[11][1]乃至[9]のいずれかに記載の方法により製造された加工挽肉を含む食品を、80℃で15分間に相当する以上の条件で密閉状態で加熱処理する工程を備える、加工食品の製造方法。
【発明の効果】
【0007】
本発明によれば、茹でることにより挽肉を調理する加工挽肉の製造方法において、挽肉の塊が発生することを防ぐことができる、新たな加工挽肉の製造方法が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0008】
以下、本発明の実施態様について、詳細に説明する。
【0009】
[第1の実施態様]
本発明の第1の実施態様に係る加工挽肉の製造方法は、生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させる分散工程と、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態のまま加熱する加熱工程とを備える。この方法によれば、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液を用いることにより、単に水等を溶媒として用いた場合よりも、挽肉の分散性を高めることができる。その結果、挽肉が塊になることを防ぐことができる。
また、この方法によれば、柔らかい加工挽肉を得ることができる。これは、アルカリ性物質により挽肉の組織(筋繊維等)がほぐされ、成膜化物質が挽肉の組織に浸透するからであると考えられる。
更に、この方法によれば、保存安定性が向上する。具体的には、長期保存後も、柔らかく、風味が維持される加工挽肉が提供される。これは、アルカリ性物質により挽肉がほぐされる結果、挽肉の表層部に成膜化物質が浸透し、浸透した成膜化物質が加熱によって膨潤(糊化、α化)して膜を形成し、形成された膜が挽肉の内部を保護するからであると考えられる。
加えて、本実施態様に係る方法によれば、歩留まりも向上する。
更に、本発明の第1の実施態様により製造された加工挽肉を含む食品を、レトルト処理等の、80℃で15分間に相当する以上の条件で密閉状態で加熱処理する場合、密閉状態での加熱処理の間に、前記アルカリ性物質及び成膜化物質が加工挽肉に作用することで、加工挽肉が更に柔らかくなり、風味が更に維持され、長期保存後もこれらの品質が更に維持される。
以下、各工程について詳述する。
【0010】
(1)分散工程
まず、生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させる。具体的には、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液を準備し、準備した溶液と生の挽肉を合せて、混合、振動等により、挽肉を分散させる。あるいは、アルカリ性物質又は成膜化物質の一方を含む溶液に生の挽肉を投入した後、他方の物質を溶液に投入してもよい。ここで、分散させた状態(分散状態)とは、挽肉が溶液中に常時分散していることを意味せず、多少分離、凝集していても、混合、振動等により分散状態になればよい。
好ましくは、本工程において、挽肉が分散した溶液を、1分以上ホールドする。ホールド時間は、好ましくは3分以上、より好ましくは5分以上、更に好ましくは5~15分である。
【0011】
挽肉としては、食用可能な肉類を原料とするものであればよく、特に限定されない。原料となる肉類としては、畜肉、及び魚介類等が挙げられ、好ましくは畜肉である。畜肉としては、例えば、牛肉、豚肉、鶏肉及び羊肉等が挙げられ、これらは単独であっても、複数の組み合わせであってもよい。畜肉として、好ましくは、鶏肉及び牛肉が挙げられる。一方、魚介類としては、例えば、魚類、エビ類、イカ類、及び貝類等が挙げられる。
挽肉のサイズは、例えば2~15mm、好ましくは3~9mmである。
【0012】
挽肉に対する溶液(挽肉を分散させた原料全体における挽肉を除く部分)の量は、挽肉が分散するような量であればよい。挽肉1質量部に対する溶液の量は、例えば、0.5~5質量部、好ましくは0.7~3質量部、より好ましくは0.9~2質量部である。このような範囲内であれば、分散性が良好となり、挽肉が塊になりにくい。また、前記アルカリ性物質及び成膜化物質による、挽肉の食感、風味の維持作用が達成され、良好な歩留まりも得られる。
【0013】
アルカリ性物質としては、水に溶解した際に、アルカリ性を示すものであればよく、特に限定されない。例えば、アルカリ性物質として、アルカリ金属又はアルカリ土類金属の水酸化物、及び、アルカリ金属又はアルカリ土類金属と弱酸との塩等が例示される。
例えば、アルカリ金属水酸化物としては、水酸化ナトリウム及び水酸化カリウム等が挙げられる。アルカリ土類金属水酸化物として、水酸化カルシウム及び水酸化マグネシウム等が挙げられる。
また、塩としては、アルカリ金属炭酸塩、及びアルカリ土類金属炭酸塩(炭酸マグネシウム等)等の炭酸塩;アルカリ金属炭酸水素塩(重曹(炭酸水素ナトリウム)等)、及びアルカリ土類金属炭酸水素塩等の炭酸水素塩;アルカリ金属有機酸塩(酢酸ナトリウム、クエン酸三ナトリウム、コハク酸二ナトリウム、酒石酸ナトリウム、酒石酸水素ナトリウム、リンゴ酸二ナトリウム、アスコルビン酸ナトリウム、グルコン酸ナトリウム等)、アルカリ土類金属有機酸塩(乳酸カルシウム等)、マグネシウム有機酸塩等の有機酸塩;及び、アルカリ金属リン酸塩、アルカリ土類金属リン酸塩、マグネシウムリン酸塩等の燐酸塩が挙げられる。
アルカリ性物質としては、これらのうち、炭酸塩、炭酸水素塩及び有機酸塩が好ましく、炭酸水素ナトリウム、及びクエン酸三ナトリウムが特に好ましい。
【0014】
また、アルカリ性物質として、pHをアルカリ側に緩衝する作用を有する物質を用いることが好ましい。そのような物質としては、好ましくは、酸解離定数pKa値が4以上、好ましくは5以上、更に好ましくは6以上の酸と、アルカリとから生じる塩を含む物質が挙げられる。このような物質を用いると、加工挽肉を、他の食材、例えば調味液等の液部や他の具材と組み合わせて、加工食品等として提供する際に、他の食材のpHが加工挽肉のpHよりも低い場合であっても、加工挽肉のpHを、他の食材のpHよりもアルカリ側のpH(例えば5.5~7.5、好ましくはpH6~7)に維持させることができ、食感、風味保持及び保存性向上等の作用が得られやすくなる。
【0015】
溶液中のアルカリ性物質の含有量は、例えば0.3~10質量%、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1~5質量%である。また、アルカリ性物質の含有量は、分散液のpHが、例えば5.5~8、好ましくは6.1~7.5となるような量である。
尚、本発明において、各成分の溶液中の含有量とは、後述する加熱工程において熱水が加えられる場合にあっては、熱水を加えた後の液の量を基準とした含有量ではなく、熱水を加える前の液の量を基準とした含有量を意味している。つまり、分散工程における、溶液中の各成分の含有量を意味している。
【0016】
本発明において、「成膜化物質」とは、水と共に加熱することで膨潤して保水性が向上する物質を意味する。成膜化物質として、具体的には、カラギナン、寒天、アルギン酸及びその塩類、ローカストビーンガム、タラガム、タマリンド種子多糖類、アラビアガム、カラヤガム、トラガントガム、プルラン、ジェランガム、カードラン、澱粉等が挙げられる。
澱粉としては、未加工澱粉及び加工澱粉のどちらも使用可能である。また、澱粉としては、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、コーンスターチ、タピオカ澱粉、及び米澱粉等の澱粉及びこれらの加工澱粉が挙げられる。また、小麦粉等のように、澱粉を含むものも、成膜化物質として使用することができる。
成膜化物質としては、1種類の成膜化物質を使用することが好ましいが、2種以上の成膜化物質を併用することも可能である。
好ましい成膜化物質は、澱粉である。澱粉としては、米澱粉及びコーンスターチが好ましく、米澱粉が最も好ましい。また、澱粉は、糊化温度が45~100℃程度や80~100℃程度のものが好ましい。これらの澱粉によると、より良好に成膜化作用を奏し、歩留まりも向上する。
【0017】
溶液中の成膜化物質の含有量は、特に限定されるものでは無いが、例えば、0.3~10質量%であり、好ましくは0.5~5質量%、より好ましくは1.0~5質量%である。
【0018】
挽肉を分散させた原料中には、その他の物質が含まれていてもよい。その他の物質としては、食塩及び香辛料などの調味料が挙げられる。その他の物質の含有量は、溶液中、例えば0.1~15質量%、好ましくは0.5~10質量%である。調味料が含まれていることにより、得られる加工挽肉に下味を付すことが可能になる。
【0019】
(2)加熱工程
次いで、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態のまま加熱する。加熱温度は、挽肉中の蛋白質が熱変性するような温度であることが好ましい。また、加熱温度は、成膜化物質が膨潤して保水性が向上するような温度であることが好ましい。言い換えれば、挽肉の蛋白質が熱変性し、挽肉の表層部に成膜化物質が粘性化して付着し、成膜化する温度以上の温度であることが好ましい。このような温度で加熱することにより、挽肉の表面組織が収縮し、挽肉の表層部分が、成膜化物質により成膜化処理される。
例えば、加熱温度は、70~100℃、好ましくは80~90℃である。加熱時間は、例えば、30秒~20分、好ましくは1.5~10分、より好ましくは1.5~6分である。
本工程では、好ましくは、前記生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させた状態で、これに熱水を加えることにより、挽肉を加熱することが好ましい。前記加熱中は、混合、振動等により、挽肉を液部中に分散させることが好ましい。このような方法によれば、挽肉に対する物理的負荷が少なくなる。挽肉に大きな物理的負荷を加えると、挽肉から蛋白質が溶出し、溶出した蛋白質によって挽肉の粒が結着しやすくなる。これに対して、前記原料に熱水を加える方法では、挽肉に物理的負荷が加わり難く、挽肉が結着しにくくなる。従って、塊の形成をより防ぎやすくなり、同時に挽肉の品質を維持することができる。また、1つの処理槽や釜で、分散工程乃至加熱工程を一連で実施することができる。
加えられる熱水の温度は、例えば、75~100℃、好ましくは80~95℃である。加えられる熱水の量は、添加前の、溶液1質量部に対して、例えば1~10質量部、好ましくは2~5質量部である。
【0020】
加熱後、溶液から挽肉を回収する。これにより、加工挽肉が得られる。前記熱水と同様の作用をするものであれば、油等の他の流動状である熱媒を、前記熱水を加える要領で用いてもよい。
【0021】
本実施態様により得られる加工挽肉は、そのまま提供されてもよいし、他の食材と組み合わされ、加工食品として提供されてもよい。
好適には、得られた加工挽肉は、単独で、あるいは、他の固形食材及び液部(ソース)と組み合わされ、加工食品として提供される。また、好ましくは、得られた加工挽肉は、加熱による殺菌処理、例えば、レトルト処理(密閉状態での加熱殺菌処理)を経て、加工食品として提供される。加熱による殺菌処理は、好ましくは、80℃で15分間に相当する以上の条件で、密閉状態で行われることが好ましい。「80℃で15分間に相当する以上の条件」とは、雰囲気温度で、80℃以上で、かつ80℃で15分間に相当する加熱がかかる時間以上の条件で加熱処理することを意味し、具体的には、80~100℃未満で15分間に相当する以上、100~120℃未満で10分間に相当する以上、120℃で5分間に相当する以上の条件、が挙げられる。
一般には、加熱による殺菌処理を行うと、処理熱によって加工挽肉がダメージを受ける。これに対して、本実施態様によれば、成膜化物質により挽肉の表層部に形成される膜が、アルカリ性物質により保水性が向上して、ジューシーとなった挽肉の内部組織を保護するので、処理熱によるダメージを軽減できる。その結果、保存期間が長くても、ジューシーな肉質が保持される。
また、液部の種類は特に限定されるものでは無いが、シチュー、カレー、ハヤシ等のソースや、煮物の調味液、ステーキ等用のタレ等が好適なものとして挙げられる。
【0022】
尚、本実施態様では、分散工程において、生の挽肉を、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中に分散させる態様について説明した。一方、生の挽肉を、アルカリ性物質を含む溶液中に分散させる工程と、成膜化物質を含む溶液中に分散させる工程とを、別々の工程により実施してもよい。
例えば、分散工程を、工程(A)及び工程(B)に分け、工程(A)において、まず、生の挽肉をアルカリ性物質を含む溶液中に分散させる。次いで、挽肉を、成膜化物質を含む溶液中に分散させる。そして、工程(B)において、得られた挽肉と溶液を分散させて加熱する。このような方法を採用しても、アルカリ性物質及び成膜化物質を含む溶液中において生の挽肉を分散するため、塊が形成されることを防ぐことができる。また、アルカリ性物質により肉がほぐされ、ほぐれた挽肉の表層部に成膜化物質が浸透し、表層部に膜を形成するため、挽肉の内部が保護されるという効果が奏される。
前記分散工程の間における、挽肉に対する物理的負荷を少なくするために、工程(B)では、前記加熱工程で熱水を加える要領で、工程(A)の処理物に、成膜化物質を含む溶液を加えるのがよい。なお、工程(A)に成膜化物質を含む溶液を使用し、工程(B)にアルカリ性物質を含む溶液を使用して、分散工程を実施することもできる。
【0023】
[第2の実施態様]
第1の実施態様では、分散工程において、アルカリ性物質と成膜化物質とを含む溶液に生の挽肉を分散させる態様について説明した。これに対して、本実施態様では、アルカリ性物質を含む溶液に生の挽肉が分散させられ、成膜化物質は使用されない。その他の点は、加熱工程を含めて、第1の実施態様と同様である。
本実施態様のように、成膜化物質を用いない場合であっても、アルカリ性物質を含む溶液を用いることによって、挽肉の分散性を高めることができる。その結果、塊になることなく、加工挽肉を得ることができるとの効果を奏する。また、本実施態様のように、アルカリ性物質を単独で用いる場合であっても、高い歩留まりを得ることができる。アルカリ性物質を用いることで、アルカリ緩衝作用を含め、挽肉のpHを中性付近にすることができるため、挽肉のpHが低酸性となって、用途が制約されるといった問題がない。
【0024】
[第3の実施態様]
第3の実施態様に係る加工挽肉の製造方法では、分散工程において、成膜化物質を含む溶液に生の挽肉が分散させられ、アルカリ性物質は使用されない。その他の点については、加熱工程を含めて、第1の実施態様と同様である。本実施態様のように、アルカリ性物質を用いない場合であっても、成膜化物質を用いることによって、挽肉の分散性を高めることができる。その結果、塊になることなく、加工挽肉を得ることができる、という効果を奏する。
【実施例】
【0025】
以下、本発明についてより詳細に説明するため、本発明者らによって行われた実施例について説明する。但し、本発明は以下の実施例に限定されて解釈されるべきものでは無い。
【0026】
表1-1及び1-2に、実施例1~15及び比較例1~2において使用した材料の組成を示す。尚、表中の値は、質量部を意味する。
また、表に記載の「鶏胸肉の挽肉(1)」とは、サイズ6mmの鶏胸肉の挽肉である。
「鶏胸肉の挽肉(2)」とは、サイズ3mmの鶏胸肉の挽肉である。
「牛豚合挽肉」とは、サイズ3mmのものである。
なお、本明細書中で挽肉のサイズは、全てミンチ処理に用いられるチョッパー等の目のサイズで規定される大きさである。
「リン酸架橋澱粉」とは、キャッサバ由来のリン酸架橋澱粉である。
【0027】
詳細には、加熱攪拌釜に、表1-1及び1-2に記載した材料を、表1-1及び1-2に記載した量にて投入し、約3分撹拌し、10分間ホールドした。次いで、加熱攪拌釜に、約90℃の温水約68質量部を投入し、全体の品温が約85℃に達するまで加熱攪拌し、85℃で約3分ホールドした。加熱攪拌釜から処理物を排出して、挽肉を分離冷却して、実施例1~15及び比較例1~2に係る加工挽肉を得た。表1-1及び1-2に記載した材料の量と、前記温水の量の総和が約100質量部となる。
【0028】
[pH]
各実施例及び比較例における製造過程において、85℃で約3分ホールドした後のpHを測定した。
[分散性]
各実施例及び比較例における製造過程において、85℃で約3分ホールドした後の原料中における挽肉の分散性を、次の基準に基づいて評価した。
◎:挽肉が、ほぼ完全に分散されており、サイズがそろった均一なそぼろ状挽肉である。
○:挽肉が、ほぼ分散されているそぼろ状挽肉であるが、一部、少量の肉同士の結着が見られる。
△:挽肉が、分散しているものと、肉同士が結着しているものが混在している。
×:肉同士が完全に結着し、団子状になっている。
[歩留り]
各実施例及び比較例について、得られた加工挽肉の重量を測定し、下記式に基づき、歩留まりを算出した。
(式1)歩留り(%)=得られた加工挽肉の重量(g)÷原料重量(g)×100
更に、下記の基準で、歩留まりを判定した。
◎:歩留りが75%以上である。
〇:歩留りが70%以上である。
△:歩留りが60%以上である。
×:歩留りが60%に満たない。
[食感1]
各実施例及び比較例で得られた加工挽肉について、食感を、次の基準に基づいて評価した。
◎:ジューシーで軟らかい、良好な食感である。
○:アルカリ性物質と成膜化物質とを含まない温水で得られた、比較例2の加工挽肉と比べて、明らかにジューシーで軟らかい食感であるが、◎よりは劣る。
△:比較例2で得られた加工挽肉と比べて、軟らかい食感であるが、○よりは劣る。
×:パサパサとした、非常に硬い食感である(比較例2と同等)。
【0029】
各実施例及び比較例において、得られた加工挽肉10質量部、カレーソース90質量部を用いて、常法によりレトルトカレーソースを製造した。
[食感2]
各実施例及び比較例において、レトルトカレーソースを製造した後、カレーソースに含まれる挽肉の食感を、次の基準に基づいて評価した。なお、実施例1においては、レトルトカレーソースを3か月保存した後、挽肉の食感を、同様の基準に基づいて評価した場合にも、製造後のものと同様の評価となることを確認した。
◎:レトルト処理前の加工挽肉より、改善レベルがやや低下するが、軟らかく、良好な食感である。
○:軟らかく、良好な食感であるが、◎よりは劣る。
△:比較例2の挽肉と比べて、軟らかい食感であるが、○よりは劣る。
×:パサパサとした、非常に硬い食感である(比較例2と同等)
[風味]
各実施例及び比較例において、レトルトカレーソースを製造した後、カレーソースに含まれる挽肉の風味を、次の基準に基づいて評価した。なお、実施例1においては、レトルトカレーソースを3か月保存した後、挽肉の風味を、同様の基準に基づいて評価した場合にも、製造後のものと同様の評価となることを確認した。
◎:挽肉に、下味がしっかり付いていて美味である。
○:挽肉に、下味が付いているが、◎よりは弱い。
△:挽肉に、多少下味が感じられるが、味付けが不十分である。
×:挽肉に、下味が感じられないか、あるいは、異味が感じられる。
【0030】
結果を表1-1及び1-2に示す。
アルカリ性物質及び成膜化物質を欠く比較例2では、加工挽肉の分散性が悪かった。また、加工挽肉の風味に関しても、下味の付着性が悪かった。これに対して、アルカリ性物質を単独で使用した実施例12、及び成膜化物質を単独で使用した実施例13においては、分散性が向上していた。実施例12では、更に、歩留まりも良好であった。このことから、アルカリ性物質又は成膜化物質を使用することにより、挽肉を分散させやすくなることが判った。また、アルカリ性物質には、歩留まりを向上させる効果があることも判った。
一方、挽肉13質量部に対して水1質量部を使用した比較例1においては、加工挽肉を得る処理において、挽肉が分散状態にならず、加工挽肉は、挽肉の粒子が相互に結着して団子状になった。このように比較例1の加工肉は、分散性がわるく、一方でアルカリ性物質及び成膜化物質が作用しているため、他の評価はよいものとなった。
これに対して、アルカリ性物質及び成膜化物質を併用し、分散工程と加熱工程を分散状態で実施した実施例1においては、分散性、歩留まり、食感1、食感2、及び風味の全てにおいて良好な結果であり、アルカリ性物質及び成膜化物質を併用し、分散状態で処理することにより、分散性及び歩留まりだけでなく、加工挽肉の食感と、これをレトルトカレーソースに用いた場合の、長期保存後の挽肉の食感及び風味も改善できることが判った。
アルカリ性物質及び成膜化物質を併用した他の実施例についても、いずれも加工挽肉の分散性が良好であった。
また、牛豚合挽肉を用いた実施例7と、成膜化物質としてコーンスターチを使用した実施例10とでは、前記実施例1と同様に、加工挽肉の分散性と食感に加えて、レトルトカレーソースに用いた場合の、長期保存後の挽肉の食感及び風味も改善できることが判った。
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