(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】種体の作製方法、藻類の生産方法
(51)【国際特許分類】
A01G 33/00 20060101AFI20230724BHJP
【FI】
A01G33/00
(21)【出願番号】P 2019230488
(22)【出願日】2019-12-20
【審査請求日】2022-11-25
(73)【特許権者】
【識別番号】000183266
【氏名又は名称】住友大阪セメント株式会社
(73)【特許権者】
【識別番号】594018267
【氏名又は名称】株式会社中研コンサルタント
(74)【代理人】
【識別番号】110002734
【氏名又は名称】弁理士法人藤本パートナーズ
(72)【発明者】
【氏名】久恒 成史
(72)【発明者】
【氏名】鈴木 裕明
【審査官】吉原 健太
(56)【参考文献】
【文献】特開昭54-080896(JP,A)
【文献】特開2000-078907(JP,A)
【文献】特公昭50-013190(JP,B1)
【文献】特開2002-238399(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
A01G 33/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
藻類の胞子が胞子付着体に付着して培養されることで形成される種体を作製する種体の作製方法であって、
藻類は、アントクメであり、
アントクメの胞子を水中に供給する胞子供給体を水中に配置し、該水中に供給される胞子を胞子付着体に付着させる胞子付着工程を備えており、
胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であって海中に所定期間配置された茎部および仮根部を備えており、
茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部および仮根部が配置された直後の温度から5℃以上上昇する種体の作製方法。
【請求項2】
胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であってアントクメから葉部が取り除かれてから6ヶ月以上8ヶ月以下の期間海中に配置された茎部および仮根部を備えており、
茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部および仮根部が配置された直後の温度が15℃以上17℃以下であり、該海中に茎部および仮根部が配置されてから4ヶ月以上6ヶ月以下の期間に22℃以上29℃以下となり、該海中に茎部および仮根部が配置されてから7ヶ月以上8ヶ月以下の期間に19℃以上26℃以下となる請求項1に記載の種体の作製方法。
【請求項3】
胞子供給体は、アントクメが付着する藻類付着体と、該藻類付着体に付着したアントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部とを備える請求項1または2に記載の種体の作製方法。
【請求項4】
胞子付着体は、糸状に形成されてなる請求項1乃至3の何れか一項に記載の種体の作製方法。
【請求項5】
藻類付着体は、種体の一部を構成する胞子付着体と、種体が固定される固定部材とを備える請求項3または4に記載の種体の作製方法。
【請求項6】
藻類付着体に付着した状態のアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、該回収工程で回収したアントクメから葉部を取り除くことで残る茎部および仮根部を海中に配置して胞子供給体を作製する胞子供給体作製工程とを更に備える請求項3乃至5の何れか一項に記載の種体の作製方法。
【請求項7】
請求項1乃至6の何れか一項に記載の種体の作製方法で作製された種体を水中に配置し、胞子付着体をアントクメが付着する藻類付着体の少なくとも一部としてアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体に付着したアントクメから葉部を採取する採取工程とを備える藻類の生産方法。
【請求項8】
藻類育成工程では、複数の藻類付着体を上下方向に間隔を空けて水中に配置し、
回収工程では、少なくとも最も水深の浅い位置の藻類付着体に付着したアントクメを藻類付着体と共に回収し、回収された藻類付着体よりも水深の深い位置の藻類付着体を水深の浅い位置に移動する請求項7に記載の藻類の生産方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、藻類の胞子が胞子付着体に付着して培養されることで形成される種体の作製方法、および、その方法で作製された種体を用いた藻類の生産方法に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、海水や淡水で藻類を養殖する場合、藻類の胞子が胞子付着体に付着して培養されることで作製される種体が用いられる。胞子付着体としては、例えば、コンクリート、合成樹脂、セラミックス等で形成された板状の部材、あるいは、合成樹脂等で形成された糸状(一般に綱状、紐状と言われるものも含む)の部材が使用される。そして、斯かる種体を海中に設置することで藻類の養殖が行われている。
【0003】
例えば、コンブやワカメなどを養殖する際には、胞子を糸状の胞子付着体に付着させ、一定期間、陸上の水槽などで培養することで種糸(種体)を作製する。そして、斯かる種糸を板材に固定して海中に設置することでコンブやワカメなどの養殖が行われている(特許文献1参照)。
【0004】
上記のような種体を作製する際には、胞子付着体に付着させる胞子を水中に供給する胞子供給体が必要となる。ここで、藻類は、葉部と茎部と仮根部とを備え、葉部から胞子を放散させるものが多い。このため、胞子を放散できる状態の葉部を有する藻類が胞子供給体として使用される。
そして、種体を作製する方法では、胞子を放散可能な状態の葉部を有する藻類(胞子供給体)を水槽に入れて水中に胞子を放散させると共に、該水中に胞子付着体(例えば、糸状の部材)を配置し、該胞子付着体に胞子を付着させる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
ここで、藻類の葉部は、通常、商品として回収されるものであるため、養殖した藻類から胞子供給体となるものを得ることは困難である。このため、種体を作製する際には、水中に自生する藻類を新たに採取し、胞子供給体として用いることが必要となる。
しかしながら、水中で藻類を採取する作業は、藻類の育成状態などについて専門性が要求されると共に、時期的な制限があり、多大な労力も必要となる。このため、胞子供給体となる藻類を新たに採取して種体の作製を行うことは容易ではない。
【0007】
そこで、本発明は、種体の作製を容易に行うことができる種体の作製方法、および、その作製方法で作製された種体を用いた藻類の生産方法を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明に係る種体の作製方法は、藻類の胞子が胞子付着体に付着して培養されることで形成される種体を作製する種体の作製方法であって、藻類は、アントクメであり、アントクメの胞子を水中に供給する胞子供給体を水中に配置し、該水中に供給される胞子を胞子付着体に付着させる胞子付着工程を備えており、胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であって海中に所定期間配置された茎部および仮根部を備えており、茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部および仮根部が配置された直後の温度から5℃以上上昇する。
【0009】
斯かる構成によれば、アントクメの胞子を水中に供給する胞子供給体を水中に配置し、該水中に供給される胞子を胞子付着体に付着させる胞子付着工程を備える。また、胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であって海中に所定期間配置された茎部および仮根部を備える。
ここで、アントクメは、葉部以外に、茎部および仮根部からも比較的多くの胞子を放散可能である。そこで、茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度が、該海中に茎部および仮根部が配置された直後の温度から上記の範囲で上昇することで、茎部および仮根部を、胞子を放散可能な状態に、育成することできる。これにより、茎部および仮根部を胞子供給体の少なくとも一部として使用することができるため、胞子供給体として使用するアントクメを新たに水中から採取する必要がなく、種体の作製を容易に行うことができる。
【0010】
胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であって葉部が取り除かれてから6ヶ月以上8ヶ月以下の期間海中に配置された茎部および仮根部を備えており、茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部および仮根部が配置された直後の温度が15℃以上17℃以下であり、該海中に茎部および仮根部が配置されてから4ヶ月以上6ヶ月以下の期間に22℃以上29℃以下となり、該海中に茎部および仮根部が配置されてから7ヶ月以上8ヶ月以下の期間に19℃以上26℃以下となることが好ましい。
【0011】
斯かる構成によれば、胞子供給体は、アントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部であって葉部が取り除かれてから上記の期間海中に配置された茎部および仮根部を備える。そして、茎部および仮根部が海中に配置される期間における海中の温度は、上記の範囲となる。
これにより、茎部および仮根部が、胞子を放散可能な状態に、より確実に育成されるため、胞子供給体(茎部および仮根部)から胞子の供給を効果的に行うことができる。
【0012】
胞子供給体は、アントクメが付着する藻類付着体と、該藻類付着体に付着したアントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部とを備えてもよい。
【0013】
斯かる構成によれば、胞子供給体は、アントクメが付着する藻類付着体と、該藻類付着体に付着したアントクメから葉部が取り除かれることで残った茎部および仮根部とを備える。これにより、胞子付着工程において、胞子供給体が水中で移動し難くなるため、胞子付着工程を良好に行うことができる。
【0014】
胞子付着体は、糸状に形成されてなることが好ましい。
【0015】
斯かる構成によれば、胞子付着体が糸状に形成されてなることで、胞子付着工程において胞子付着体に胞子が付着し易くなる。また、胞子付着工程を行う際に、胞子付着体を任意の形状に配置することができるため、糸状の種体をより容易に作製することができる。
【0016】
藻類付着体は、種体の一部を構成する胞子付着体と、種体が固定される固定部材とを備えることが好ましい。
【0017】
斯かる構成によれば、藻類付着体は、種体を構成する胞子付着体と、種体を固定する固定部材とを備える。
これにより、種体における固定部材に固定された部分で藻類が育成し易くなる。このため、胞子供給体として使用される部分を効率的に得ることができる。
【0018】
藻類付着体に付着した状態のアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体に付着したアントクメから葉部を取り除くことで残る茎部および仮根部を海中に配置して胞子供給体を作製する胞子供給体作製工程とを更に備えることが好ましい。
【0019】
斯かる構成によれば、藻類付着体に付着した状態のアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体に付着したアントクメから葉部を取り除くことで残る茎部および仮根部を海中に配置して胞子供給体を作製する胞子供給体作製工程とを更に備える。
これにより、藻類付着体に付着したアントクメから葉部を商品等として採取しつつ胞子供給体を作製することができる。
【0020】
本発明に係る藻類の生産方法は、上記の種体の作製方法で作製された種体を水中に配置し、胞子付着体をアントクメが付着する藻類付着体の少なくとも一部としてアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体に付着したアントクメから葉部を採取する採取工程とを備える。
【0021】
斯かる構成によれば、上記何れかの種体の作製方法で作製された種体を水中に配置し、胞子付着体をアントクメが付着する藻類付着体の少なくとも一部としてアントクメを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成したアントクメを藻類付着体と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体に付着した藻類から葉部を採取する採取工程とを備える。これにより、葉部を商品等として採取しつつ葉部以外の部分を胞子供給体として使用することができる。
【0022】
藻類育成工程では、複数の藻類付着体を上下方向に間隔を空けて水中に配置し、回収工程では、少なくとも最も水深の浅い位置の藻類付着体に付着したアントクメを藻類付着体と共に回収し、回収された藻類付着体よりも水深の深い位置の藻類付着体を水深の浅い位置に移動することが好ましい。
【0023】
斯かる構成によれば、藻類育成工程では、複数の藻類付着体を上下方向に間隔を空けて配置する。また、回収工程では、少なくとも最も水深の浅い位置の藻類付着体に付着したアントクメを藻類付着体と共に回収し、回収された藻類付着体よりも水深の深い位置の藻類付着体を水深の浅い位置に移動する。
これにより、水深の浅い位置で育成が進んだアントクメを回収することができると共に、水深の深い位置の藻類付着体を水深の浅い位置に移動させてアントクメの育成を促進させることができる。このため、商品等として採取される葉部と、胞子供給体として使用される葉部以外の部分とをより効率的に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
以上のように、本発明によれば、種体の作製を容易に行うことができる種体の作製方法、および、その作製方法で作製された種体を用いた藻類の生産方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【
図1】本発明の一実施形態に係る種体の作製方法における種体を示した概略図。
【
図2】同実施形態に係る種体の作製方法で、藻類付着体に藻類が付着した状態を示す概略図。
【
図3】(a)は、同実施形態に係る種体の作製方法で用いる固定部材に種体が固定された状態を示す概略図、(b)は、(a)のI-I断面であって、固定部材の断面のみを示した図。
【
図4】同実施形態に係る種体の作製方法における藻類育成工程を示した概略図。
【
図5】同実施形態に係る種体の作製方法における胞子供給体を示した概略図。
【
図6】同実施形態に係る種体の作製方法における胞子付着工程を示した概略図。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、本発明の実施形態について
図1~6を参照しながら説明する。
【0027】
本実施形態に係る種体の作製方法は、
図1に示すように、藻類の胞子が胞子付着体10aに付着して培養されることで形成される種体10を作製するものである。つまり、種体10は、胞子付着体10aと、胞子付着体10aに付着した胞子が培養されてなる発芽体10bとを備える。本実施形態では、胞子付着体10aは、糸状(綱状または紐状の部材を含む)に形成されたものが用いられる。よって、本実施形態では、種体10を種糸100とも記載する。
【0028】
本実施形態に係る種体の作製方法は、藻類を育成する藻類育成工程を備える。該藻類育成工程は、
図2に示すように、藻類付着体20に付着した状態の藻類Xを育成するものである。藻類Xは、葉部X1と茎部X2と仮根部X3とを備える。また、藻類Xは、茎部X2および仮根部X3の少なくとも一方から胞子を放散可能なものである。斯かる藻類Xは、アントクメである。
【0029】
藻類付着体20は、種体10(種糸100)の一部を構成する胞子付着体10aと、種体10(種糸100)が固定される固定部材21とを備える。本実施形態では、固定部材21は、
図3(a)および
図3(b)に示すように、板状に形成された板状本体部21aと、該板状本体部21aの一方の面に形成される複数の突出部21bと、板状本体部21aを貫通する貫通部21cとを備える。そして、種糸100を複数の突出部21bに掛け回すことで、種糸100が固定部材21に固定される。この際、掛け回された種糸100の間隔が1cm以上となる部分が比較的多くなるように固定部材21に種糸100を掛け回すことが好ましい。板状の固定部材のサイズとしては、特に限定されるものではなく、例えば、平面視で60mm×200mmのものが挙げられる。
【0030】
また、藻類育成工程では、
図4に示すように、複数(例えば、二つ以上)の藻類付着体20を上下方向に間隔(例えば、15cm~40cmの間隔)を空けて水中に配置する。具体的には、各藻類付着体20の一部を構成する固定部材21の貫通部21cに綱材Yを通して藻類付着体20同士を連結する。また、該綱材Yの下端部に重りZを取り付ける。また、綱材Yの上端部を筏などの水面近くの部材(図示せず)に連結する。これにより、複数の藻類付着体20が上下方向に間隔を空けて水中に配置されるため、水中の上下方向の異なる位置(水深)で藻類Xを育成することができる。藻類育成工程は、日の当たる水面近傍で行われることが好ましい。また、藻類育成工程において、種体10(種糸100)を水中に配置する期間としては、特に限定されるものではなく、例えば、60日~150日程度であることが好ましい。
【0031】
また、本実施形態に係る種体の作製方法は、藻類育成工程で育成された藻類Xを藻類付着体20と共に回収する回収工程を備える。該回収工程では、少なくとも最も水深の浅い位置の藻類付着体20に付着した藻類Xを藻類付着体20と共に回収する。また、回収工程では、回収された藻類付着体20よりも水深の深い位置の藻類付着体20を水深の浅い位置に移動する。回収工程を行う時期としては、特に限定されるものではなく、藻類の育成状況に応じて適宜選択することが好ましい。例えば、藻類がアントクメである場合には、3月~5月であることが好ましい。また、回収工程を行う際の藻類の大きさとしては、特に限定されるものではなく、例えば、全長が15cm以上であることが好ましい。なお、藻類の全長とは、仮根部X3における藻類付着体20との接触位置からの最長長さである。
【0032】
また、本実施形態に係る種体の作製方法は、回収工程で回収された藻類Xから葉部X1を取り除くことで残る茎部X2および仮根部X3を海中に所定期間配置して、
図5に示す胞子供給体30を作製する胞子供給体作製工程を備える。茎部X2および仮根部X3が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部X2および仮根部X3が配置された直後の温度から5℃以上上昇する。
また、茎部X2および仮根部X3を海中に配置する期間としては、藻類Xから葉部X1が取り除かれてから6ヶ月以上8ヶ月以下の期間である。また、茎部X2および仮根部X3が海中に配置される期間における海中の温度は、該海中に茎部X2および仮根部X3が配置された直後の温度が15℃以上17℃以下であり、該海中に茎部X2および仮根部X3が配置されてから4ヶ月以上6ヶ月以下の期間に22℃以上29℃以下となり、該海中に茎部X2および仮根部X3が配置されてから7ヶ月以上8ヶ月以下の期間に19℃以上26℃以下となる。つまり、胞子供給体30は、藻類Xから葉部X1が取り除かれることで残った茎部X2および仮根部X3を備え、該茎部X2および仮根部X3が上記の温度環境の海中に上記の期間配置されたものである。
なお、海中の温度とは、水深7mの水温を測定日の0時から1時間毎に24時間測定し、得られた各水温に基づく算術平均値(一日の平均水温)である。
【0033】
胞子供給体30は、藻類Xが付着する藻類付着体20と、該藻類付着体20に付着した藻類Xから葉部X1が取り除かれることで残った茎部X2および仮根部X3とを備える。胞子供給体30は、作製直後に後述の胞子付着工程で使用されてもよく、所定環境で保存された後で後述の胞子付着工程で使用されてもよい。胞子供給体30を保存する方法としては、特に限定されるものではなく、例えば、水中(具体的には、海中や、海水を循環させた水槽中)で胞子供給体30を保存する方法が挙げられる。特に、後述の子嚢班の確認を容易に行うためには、胞子供給体30の保存は、海水等の水を循環させた水槽中で行うことが好ましい。このように、胞子供給体30を水中で保存する場合には、後述の胞子付着工程を行うに際し、胞子供給体30を所定時間(例えば、1時間程度)陰干しした後で使用することが好ましいが、陰干しすることなく使用してよい。
【0034】
また、本実施形態に係る種体の作製方法は、
図6に示すように、胞子供給体30から藻類Xの胞子を水中に供給し、胞子を胞子付着体10aに付着させる胞子付着工程を備える。胞子付着工程では、子嚢班の存在を確認した胞子供給体30を用いることが好ましい。藻類Xがアントクメであるため、胞子付着工程は、11月頃(アントクメの茎部X2や仮根部X3から胞子が放出され易い時期)に行うことが好ましい。また、胞子付着工程では、胞子供給体30を水槽Sの水中に配置して該水中に胞子を供給する工程と、胞子付着体10aを水中に配置して胞子付着体10aに胞子を付着させる工程とを備える。胞子付着体10aを水中に配置する際には、胞子供給体30から水中に胞子が放出されたことを顕微鏡等で確認することが好ましい。なお、胞子付着工程では、胞子供給体30を水中に配置する工程と、胞子付着体10aを水中に配置する工程とを同時に行ってもよく、何れか一方を先に行い、何れか他方を後に行ってもよい。また、胞子付着工程は、胞子供給体30を取り換えて複数回繰り返し行ってもよい。そして、胞子付着体10aに付着した胞子を培養することで、種体10(種糸100)が形成される。胞子を培養する環境としては、特に限定されるものではなく、例えば、海中や、海水が循環する水槽中が挙げられる。また、胞子を培養する期間としては、特に限定されるものではなく、藻類Xがアントクメであるため、60日~150日程度であることが好ましい。
【0035】
本実施形態に係る種体の作製方法で作製された種体10(種糸100)は、藻類の生産方法で使用することができる。斯かる藻類の生産方法は、上記の種体の作製方法で作製された種体10(種糸100)を用いて上記の藻類育成工程を行い、その後、上記の回収工程を行って、藻類Xが付着した藻類付着体20を回収し、回収された藻類付着体20に付着した藻類Xから茎部X2および仮根部X3を残して葉部X1を採取する採取工程を行うものである。
【0036】
以上のように、本発明に係る種体の作製方法、および、藻類の生産方法は、種体の作製を容易に行うことができる。
【0037】
即ち、藻類Xの胞子を水中に供給する胞子供給体30を水中に配置し、該水中に供給される胞子を胞子付着体10aに付着させる胞子付着工程を備える。そして、藻類Xは、アントクメである。また、胞子供給体30は、藻類Xから葉部X1が取り除かれることで残った茎部X2および仮根部X3であって藻類Xから葉部X1が取り除かれてから上記の期間海中に配置された茎部X2および仮根部X3を備える。
ここで、藻類Xであるアントクメは、葉部以外に、茎部および仮根部からも比較的多くの胞子を放散可能である。そこで、茎部X2および仮根部X3が海中に配置される期間における海中の温度が、該海中に茎部X2および仮根部X3が配置された直後の温度から上記の範囲で上昇することで、茎部X2および仮根部X3を、胞子を放散可能な状態に、育成することできる。このため、藻類Xから葉部X1を採取した際に残る部分(茎部X2および仮根部X3)を胞子供給体30の少なくとも一部として使用することができる。これにより、胞子供給体30として使用する藻類Xを新たに水中から採取する必要がないため、種体の作製を容易に行うことができる。
【0038】
そして、茎部X2および仮根部X3が海中に配置される期間における海中の温度は、上記の範囲となる。これにより、茎部X2および仮根部X3が、胞子を放散可能な状態に、より確実に育成されるため、胞子供給体30(茎部X2および仮根部X3)から胞子の供給を効果的に行うことができる。
【0039】
また、胞子供給体30は、藻類Xが付着する藻類付着体20と、該藻類付着体20に付着した藻類Xから葉部X1が取り除かれることで残った茎部X2および仮根部X3とを備える。
これにより、胞子付着工程において、胞子供給体30が水中で移動し難くなるため、胞子付着工程を良好に行うことができる。
【0040】
また、胞子付着体10aが糸状に形成されてなることで、胞子付着工程において胞子付着体10aに胞子が付着し易くなる。また、胞子付着工程を行う際に、胞子付着体10aを任意の形状に配置することができるため、糸状の種体をより容易に作製することができる。
【0041】
また、藻類付着体20は、種体10を構成する胞子付着体10aと、種体10を固定する固定部材21とを備える。
これにより、種体10における固定部材21に固定された部分で藻類Xが育成し易くなる。このため、胞子供給体30として使用される部分を効率的に得ることができる。
【0042】
また、藻類付着体20に付着した状態の藻類Xを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成された藻類Xから葉部X1を取り除くことで残る茎部X2および仮根部X3を海中に配置して胞子供給体30を作製する胞子供給体作製工程とを更に備える。
これにより、藻類付着体20に付着した藻類Xから葉部X1を商品等として採取しつつ胞子供給体30を作製することができる。
【0043】
また、藻類Xがアントクメであることで、胞子付着工程を効率的に行うことができる。具体的には、アントクメは、葉部X1以外に、茎部X2および仮根部X3からも比較的多くの胞子を放散可能である。このため、藻類Xがアントクメであることで、茎部X2および仮根部X3を備える胞子供給体30から胞子を効率的に供給することができる。これにより、胞子付着工程を効率的に行うことができる。
【0044】
また、上記何れかの種体の作製方法で作製された種体を水中に配置し、胞子付着体10aを藻類付着体20の少なくとも一部として藻類Xを育成する藻類育成工程と、該藻類育成工程で育成した藻類Xを藻類付着体20と共に回収する回収工程と、回収した藻類付着体20に付着した藻類Xから葉部X1を採取する採取工程とを備える。
これにより、葉部X1を商品等として採取しつつ葉部X1以外の部分を胞子供給体30として使用することができる。
【0045】
また、藻類育成工程では、複数の藻類付着体20を上下方向に間隔を空けて配置する。また、回収工程では、少なくとも最も水深の浅い位置の藻類付着体20に付着した藻類Xを藻類付着体20と共に回収し、回収された藻類付着体20よりも水深の深い位置の藻類付着体20を水深の浅い位置に移動する。
これにより、水深の浅い位置で育成が進んだ藻類Xを回収することができると共に、水深の深い位置の藻類付着体20を水深の浅い位置に移動させて藻類Xの育成を促進させることができる。このため、商品等として採取される葉部X1と、胞子供給体30として使用される葉部X1以外の部分とをより効率的に得ることができる。
【0046】
なお、本発明に係る種体の作製方法、および、藻類の生産方法は、上記実施形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲で種々の変更が可能である。また、上記した複数の実施形態の構成や方法等を任意に採用して組み合わせてもよく(1つの実施形態に係る構成や方法等を他の実施形態に係る構成や方法等に適用してもよく)、さらに、下記する各種の変更例に係る構成や方法等を任意に選択して、上記した実施形態に係る構成や方法等に採用してもよいことは勿論である。
【0047】
例えば、上記実施形態では、胞子付着体10aは、糸状(綱状および紐状も含む)に形成されたものであるが、これに限定されるものではなく、例えば、糸状以外の他の形状(例えば、板状など)に形成されたものであってもよく、または、糸状に形成された部材を他の形状(例えば、板状など)に形成された部材に取り付けて形成されたものであってもよい。
【0048】
また、上記実施形態では、胞子供給体30は、藻類付着体20と茎部X2および仮根部X3とを備えるように構成されているが、藻類付着体20を備えなくてもよい(具体的には、茎部X2および仮根部X3のみから構成されてもよい)。斯かる場合には、藻類付着体20に付着した藻類Xから葉部X1を取り除いた後、上記の期間海中に配置し、その後、藻類付着体20から茎部X2および仮根部X3を剥がし、該茎部X2および仮根部X3のみを胞子供給体30として使用してもよい。
【0049】
また、上記実施形態では、藻類付着体20は、胞子付着体10aと固定部材21とを備えるように構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、種体10が固定部材21に固定されることなく、水中に配置されて、藻類育成工程が行われる場合には、胞子付着体10aのみから藻類付着体20が構成されてもよい。または、固定部材21から胞子付着体10aを分離して、少なくとも一方で藻類付着体20が構成されてもよい。
【0050】
また、上記実施形態では、胞子供給体30は、胞子付着体10aおよび固定部材21を備えるように構成されているが、これに限定されるものではない。例えば、胞子付着体10aのみを藻類付着体20として用いる場合には、胞子供給体30は、固定部材21を備えないように構成されてもよい。または、固定部材21から胞子付着体10aを分離して、固定部材21のみを藻類付着体20として用いる場合には、胞子供給体30は、胞子付着体10aを備えないように構成されてもよい。
【0051】
また、上記実施形態における藻類育成工程を最初に行う際には、水中に自生する藻類を採取し、該藻類から放出される胞子を胞子付着体10aに付着させて種体を形成し、該種体を用いて藻類育成工程を行ってもよい。
【符号の説明】
【0052】
10…種体、10a…胞子付着体、10b…発芽体、20…藻類付着体、21…固定部材、21a…板状本体部、21b…突出部、21c…貫通部、30…胞子供給体、100…種糸、S…水槽、X…藻類、X1…葉部、X2…茎部、X3…仮根部、Y…綱材、Z…重り