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  • 特許-試料分析装置 図1
  • 特許-試料分析装置 図2
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-21
(45)【発行日】2023-07-31
(54)【発明の名称】試料分析装置
(51)【国際特許分類】
   G01N 1/00 20060101AFI20230724BHJP
   G01N 1/22 20060101ALI20230724BHJP
【FI】
G01N1/00 101R
G01N1/22 T
【請求項の数】 4
(21)【出願番号】P 2021554429
(86)(22)【出願日】2019-11-05
(86)【国際出願番号】 JP2019043212
(87)【国際公開番号】W WO2021090351
(87)【国際公開日】2021-05-14
【審査請求日】2022-04-27
(73)【特許権者】
【識別番号】501387839
【氏名又は名称】株式会社日立ハイテク
(74)【代理人】
【識別番号】110000350
【氏名又は名称】ポレール弁理士法人
(72)【発明者】
【氏名】大坂 明正
(72)【発明者】
【氏名】師子鹿 司
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 信二
【審査官】前田 敏行
(56)【参考文献】
【文献】特開2009-115651(JP,A)
【文献】特開平09-213722(JP,A)
【文献】特開2007-139551(JP,A)
【文献】特開2009-220121(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
G01N 1/00
G01N 1/22
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
試料が付着する紙片を加熱することによって前記試料を気化させた気化試料を生成して吸引する試料導入部と、
吸引された前記気化試料を分析する分析部を備える試料分析装置であって、
前記試料導入部は前記紙片に接触して前記紙片を加熱する加熱面を有し、前記加熱面には前記気化試料が流れる複数の流路が設けられ、前記流路のそれぞれには前記気化試料が吸引される吸引口が設けられ
前記複数の流路は、互いに交差する方向に設けられ、
前記吸引口は、前記複数の流路が交差する交差点のそれぞれに設けられることを特徴とする試料分析装置。
【請求項2】
請求項1に記載の試料分析装置であって、
前記複数の流路の間の断面積の差異は所定の範囲内であることを特徴とする試料分析装置。
【請求項3】
請求項に記載の試料分析装置であって、
前記複数の流路の断面積は等しいことを特徴とする試料分析装置。
【請求項4】
請求項に記載の試料分析装置であって、
前記複数の流路の断面形状は同じであることを特徴とする試料分析装置。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、被測定体に付着する試料を分析する試料分析装置に係り、特に被測定体に付着する試料が付着する紙片が導入される試料導入部に関する。
【背景技術】
【0002】
試料分析装置は、手荷物等の表面に付着する試料を分析する装置であり、空港やイベント会場等の不特定多数の人が集まる場所におけるセキュリティ対策等に用いられる。試料分析装置では、手荷物等の表面を拭き取った紙片の加熱によって紙片に付着した試料を気化させて気化試料とし、気化試料の吸引によって試料が採取されて分析される。紙片に付着した試料は微量であるので、気化試料を絶えず吸引して試料を漏れなく採取することが望ましい。
【0003】
特許文献1には、試料の採取効率を向上させるために、紙片に付着した試料を気化させる気化室の内壁に設けられた複数の凸部によって、気化試料を吸引する吸引口から紙片を離間させて、紙片による吸引口の閉塞を防止することが開示されている。吸引口の閉塞防止とともに、吸引口へ通ずる気化試料の流路が凸部の間の凹部によって確保されるので、試料の採取効率を向上させることができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2009-115651号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら特許文献1では、単一の吸引口へ通ずる複数の流路が確保されるものの、吸引口までの距離や断面積の流路間の差異によって、流路毎の気化試料の流量に偏りが生じる。すなわち、吸引口までの距離が長い流路または断面積が小さい流路を流れる気化試料は、流量が少ないため、吸引されにくく分析されない場合がある。
【0006】
そこで本発明は、試料が付着した紙片の加熱によって生じる気化試料の流量の差異を低減できる試料分析装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記目的を達成するために本発明は、試料が付着する紙片を加熱することによって生成される気化試料が流れる複数の流路のそれぞれに、気化試料が吸引される吸引口が設けられることを特徴とする。
【0008】
より具体的には、試料が付着する紙片を加熱することによって前記試料を気化させた気化試料を生成して吸引する試料導入部と、吸引された前記気化試料を分析する分析部を備える試料分析装置であって、前記試料導入部は前記紙片に接触して前記紙片を加熱する加熱面を有し、前記加熱面には前記気化試料が流れる複数の流路が設けられ、前記流路のそれぞれには前記気化試料が吸引される吸引口が設けられることを特徴とする。
【発明の効果】
【0009】
本発明によれば、試料が付着した紙片の加熱によって生じる気化試料の流量の差異を低減できる試料分析装置を提供することが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0010】
図1】実施例1の試料分析装置の構成例を示す図。
図2】実施例1の試料導入部の加熱面を示す図。
図3】実施例2の試料導入部の加熱面を示す図。
図4】実施例3の試料導入部の加熱面を示す図。
図5】実施例4の試料導入部の加熱面を示す図。
【発明を実施するための形態】
【0011】
以下、添付図面に従って本発明に係る試料分析装置の好ましい実施例について説明する。試料分析装置は、手荷物等の表面に付着する試料を分析する装置であり、手荷物等の表面を拭き取った紙片を加熱することにより、試料が気化された気化試料を生成し、吸引して分析する。
【実施例1】
【0012】
図1を用いて、本実施例の試料分析装置の全体構成の一例を説明する。試料分析装置は、手荷物等の表面を拭き取った紙片2が挿入される試料導入部1と紙片2に付着する試料を分析する分析部8とを備える。
【0013】
試料導入部1は、挿入された紙片2を加熱することで気化試料を生成するとともに、生成された気化試料を吸引する部分であり、第一加熱部4と第二加熱部5、加熱面6、駆動部3を有する。第一加熱部4と第二加熱部5は、それぞれの内部に設けられるヒータ12によって、紙片2に付着する試料が気化する温度、例えば250℃まで加熱される金属ブロックであり、互いに向き合うように配置される。第二加熱部5は、配管7と接続される開口部を中央に有し、第一加熱部4と向き合う面に加熱面6が取り付けられ、熱伝導によって加熱面6を加熱する。第二加熱部5の開口部の加熱面6の側には、異物の吸引を防ぐための防塵フィルタ11が設けられる。加熱面6は図2を用いて後述される金属ブロックであり、第二加熱部5に対して脱着可能である。第一加熱部4は駆動部3によって、図1中の両矢印の方向に移動させられ、加熱面6との間で紙片2を挟み込んだり、解放したりする。第一加熱部4と加熱面6で挟み込まれた紙片2が加熱されることにより生成される気化試料は、配管7を介して吸引される。
【0014】
分析部8は、配管7を介して吸引される気化試料を分析する部分であり、低圧力部10を有する。低圧力部10は、排気ポンプ9によって大気圧よりも低い圧力に保たれるとともに、配管7に接続される。試料導入部1の中が大気圧であるのに対して、低圧力部10の中は大気圧よりも低い圧力であるので、両者の差圧によって気化試料は配管7を介して低圧力部10へ至る。低圧力部10に至った気化試料はAPCI(Atmospheric Pressure Chemical Ionization)法やEI(Electron Ionization)法等によってイオン化された後、質量分析法等によって質量/電荷比、いわゆるm/z毎に分離されて個々に検出される。m/z毎に分離されて検出された結果に基づいて、紙片2に付着する試料が危険物質か否かが分析される。検出結果や分析結果は、図示されない表示装置に表示されたり、音声装置から出力されたりしても良い。
【0015】
図2を用いて、本実施例の加熱面6について説明する。図2(a)は紙片2に接触する側の加熱面6を示す斜視図であり、図2(b)は第二加熱部5に取り付けられる側の加熱面6を示す斜視図である。以降では、紙片2に接触する側を表側、第二加熱部5に取り付けられる側を裏側と称する。
【0016】
加熱面6の表側には複数の流路20が設けられる。流路20は加熱面6の表側に加熱面6と平行に設けられる溝であり、図2(a)には七本の流路20が設けられた加熱面6が例示される。流路20の断面は、同じ面積であって、さらに同じ形状であることが好ましい。例えば複数の流路20の各々が同じ幅と同じ深さの矩形断面を有することが好ましい。
【0017】
流路20の各々には吸引口21が設けられる。吸引口21は、加熱面6の表側から裏側へ貫通する穴であり、例えば流路20の長手方向の中心に設けられる。吸引口21は加熱面6の裏側で防塵フィルタ11及び配管7に接続される。
【0018】
加熱面6の裏側には、防塵フィルタ11及び配管7と接続される接続部22が設けられる。接続部22は加熱面6の裏側を掘削して設けられる凹部であって吸引口21に通じており、図2(b)には円と矩形を組み合わせた形状の接続部22が例示される。防塵フィルタ11及び配管7と接続部22とは、密閉が保たれるように接続される。
【0019】
加熱面6における気化試料の流れについて説明する。流路20は加熱面6の表側で開放されているので、紙片2の加熱によって生成される気化試料は流路20へ流入する。流路20の各々に設けられる吸引口21は低圧力部10に通ずる配管7に密閉を保って接続されており、低圧力部10の中は大気圧よりも低い圧力であるので、流路20へ流入した気化試料は吸引口21から吸引される。このとき紙片2と吸引口21とは、流路20の深さの分だけ離間されるので、紙片2による吸引口21の閉塞を防止できる。
【0020】
流路20を流れる気化試料の流量は、吸引口21までの距離や流路20の断面積や内壁面積等に応じて変化し、例えば円管の中の流体の流量Qは次式によって求められる。
【0021】
Q=πap/(8μL) … (式1)
ここで、aは円管の半径、pは円管両端での差圧、μは流体の粘度、Lは円管の長さである。
【0022】
流路20の各々に吸引口21が設けられると、単一の吸引口の場合に比べて、吸引口21までの距離の流路20間の差異が小さくなるので、気化試料の流量の差異を低減できる。さらに流路20の断面を同じ面積にしたり、同じ形状にしたりすることにより、流路20毎の気化試料の流量の差異をより小さくでき、気化試料の一部が吸引されずに分析されない事態を防止できる。なお、気化試料の流量は流路20間で等しいことが望ましいが、紙片2に付着した試料が漏れなく採取できるのであれば、流路20の各々の流量間に差異が生じても良い。すなわち流路20の間の断面積の差異は所定の範囲内であれば良く、例えば紙片2に付着した試料が漏れなく採取できる範囲内であれば良い。
【0023】
また流路20は紙片2が挿入される方向と平行に設けられることが好ましい。紙片2が挿入される方向と平行に流路20が設けられることにより、試料導入部1へ紙片2を挿抜するときの摩擦を低減できる。大き過ぎる摩擦は紙片2にしわを生じさせ、しわになった個所に付着する試料を採取しにくくする。つまり紙片2の挿抜時の摩擦を低減することにより、試料の採取効率を向上できる。
【実施例2】
【0024】
実施例1では、複数の流路20の各々が同じ幅と同じ深さの矩形断面を有する場合について説明した。本実施例では流路20の幅や深さが不均一な場合について説明する。なお本実施例と実施例1との違いは、加熱面6に設けられる流路20の断面形状であるので、それ以外の構成については説明を省略する。
【0025】
図3を用いて、本実施例の加熱面6について説明する。図3(a)は加熱面6の表側を示す斜視図、図3(b)は加熱面6の裏側を示す斜視図、図3(c)は図3(a)のA矢視図である。加熱面6の表側には、実施例1と同様に、複数の流路20が設けられる。ただし本実施例の流路20の一部は、他の流路20と幅と深さが異なる矩形断面を有する。具体的には、図3(c)に示されるように、両端の二本の流路20Eは、他の五本の流路20に比べ、幅が広く深さが浅い。ただし、流路20の各々の断面積が等しくされるか、断面積の差異が所定の範囲内にされる。
【0026】
このような構成により、流路20毎の気化試料の流量の差異を低減でき、気化試料の一部が吸引されずに分析されない事態を防止できる。また紙片2と吸引口21とは、流路20の深さの分だけ離間されるので、紙片2による吸引口21の閉塞を防止できる。さらに紙片2が挿入される方向と平行に流路20が設けられるので、紙片2の挿抜時の摩擦が低減されて試料の採取効率を向上できる。
【実施例3】
【0027】
実施例1では、複数の流路20の各々に単一の吸引口21が設けられる場合について説明した。本実施例では複数の流路20の各々に複数の吸引口21が設けられる場合について説明する。なお本実施例と実施例1との違いは、各々の流路20に設けられる吸引口21の数と、吸引口21に通じる接続部22の形状であるので、それ以外の構成については説明を省略する。
【0028】
図4を用いて、本実施例の加熱面6について説明する。図4(a)は加熱面6の表側を示す斜視図、図4(b)は加熱面6の裏側を示す斜視図である。加熱面6の表側には、実施例1と同様に、複数の流路20が設けられる。ただし本実施例の流路20の各々には、複数の吸引口21が設けられる。具体的には図4に示されるように、流路20の各々の上半分の中心に吸引口21Uが、下半分の中心に吸引口21Lが設けられる。なお本実施例の吸引口21U及び吸引口21Lは実施例1と位置が異なるので、吸引口21U及び吸引口21Lに通じる接続部22も異なる形状を有する。具体的には図4(b)に示されるように、本実施例の接続部22は横向きにしたHと円を組み合わせた形状を有する。
【0029】
このような構成により、実施例1に比べて吸引口21U及び吸引口21Lまでの距離が短くなるので、流路20における気化試料の流量が増え、紙片2に付着した試料の採取効率を向上できる。また流路20毎に吸引口21U及び吸引口21Lが設けられることにより、加熱によって分離した紙片2の一部が吸引口21Uを閉塞する場合であっても、吸引口21Lによって気化試料が吸引されるので、検出感度の低下を防止できる。また本実施例においても紙片2が挿入される方向と平行に流路20が設けられるので、紙片2の挿抜時の摩擦が低減されて試料の採取効率を向上できる。
【実施例4】
【0030】
実施例1では、紙片2が挿入される方向と平行に流路20が設けられる場合について説明した。本実施例では流路20が互いに交差する方向に設けられる場合について説明する。なお本実施例と実施例1との違いは、流路20の方向と、各々の流路20に設けられる吸引口21の数と、吸引口21に通じる接続部22の形状であるので、それ以外の構成については説明を省略する。
【0031】
図5を用いて、本実施例の加熱面6について説明する。図5(a)は加熱面6の表側を示す斜視図、図5(b)は加熱面6の裏側を示す斜視図である。加熱面6の表側には、実施例1と同様に、複数の流路20が設けられる。ただし本実施例の流路20は、互いに交差する方向に設けられる。具体的には図5(a)に示されるように、右上から左下に向かう方向に設けられる流路20Rと、左上から右下に向かう方向に設けられる流路20Lである。吸引口21は流路20Rと流路20Lの少なくとも一方に設けられれば良く、例えば図5(a)に示されるように流路20Rと流路20Lが交差する交差点に設けられる。なお本実施例の吸引口21は実施例1と位置が異なるので、吸引口21に通じる接続部22も異なる形状を有する。具体的には図5(b)に示されるように、本実施例の接続部22は横向きにしたHを複数組み合わせた形状を有する。
【0032】
このような構成により、実施例1に比べて吸引口21までの距離が短くなるので、流路20における気化試料の流量が増え、紙片2に付着した試料の採取効率を向上できる。また流路20Rまたは流路20Lに対して複数の吸引口21が設けられることにより、紙片2の一部がいずれかの吸引口21を閉塞する場合であっても、他の吸引口21によって気化試料が吸引されるので、検出感度の低下を防止できる。また特定の吸引口21に対して、流路20Rと流路20Lが通じているので、紙片2の一部によって例えば流路20Rが目詰まりする場合であっても流路20Lを通じて気化試料が吸引できる。
【0033】
以上、本発明の複数の実施例について説明した。本発明は上記実施例に限定されるものではなく、発明の要旨を逸脱しない範囲で構成要素を変形しても良い。例えば実施例3において、流路20毎に設けられる吸引口21の数は三つ以上であっても良い。また、上記実施例に開示されている複数の構成要素を適宜組み合わせても良い。さらに、上記実施例に示される全構成要素からいくつかの構成要素を削除しても良い。
【符号の説明】
【0034】
1:試料導入部、2:紙片、3:駆動部、4:第一加熱部、5:第二加熱部、6:加熱面、7:配管、8:分析部、9:排気ポンプ、10:低圧力部、11:防塵フィルタ、12:ヒータ、20:流路、21:吸引口、22:接続部
図1
図2
図3
図4
図5