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  • 特許-炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法 図1
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(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法
(51)【国際特許分類】
   B01J 20/18 20060101AFI20230725BHJP
   B01J 20/28 20060101ALI20230725BHJP
   B01D 53/04 20060101ALI20230725BHJP
   B01D 53/92 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
B01J20/18 B
B01J20/28 Z
B01D53/04 230
B01D53/92 280
【請求項の数】 5
(21)【出願番号】P 2018201904
(22)【出願日】2018-10-26
(65)【公開番号】P2019093382
(43)【公開日】2019-06-20
【審査請求日】2021-09-15
(31)【優先権主張番号】P 2017222485
(32)【優先日】2017-11-20
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
(73)【特許権者】
【識別番号】000003300
【氏名又は名称】東ソー株式会社
(72)【発明者】
【氏名】三橋 亮
(72)【発明者】
【氏名】中尾 圭太
(72)【発明者】
【氏名】吉岡 真人
【審査官】柴田 昌弘
(56)【参考文献】
【文献】特開平02-221115(JP,A)
【文献】特開平07-144128(JP,A)
【文献】特表2017-518250(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
B01J 20/00- 20/34
B01D 53/34- 53/96
B01D 53/02- 53/12
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
以下の粉末X線回折パターンを有するゼオライトを含み、該ゼオライトがYNU-5であることを特徴とする炭化水素吸着剤。
【表1】
【請求項2】
前記ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比が5以上200以下である請求項1に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項3】
前記ゼオライトのBET比表面積が300m/g以上700m/g以下である上記請求項1又は2に記載の炭化水素吸着剤。
【請求項4】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の吸着方法。
【請求項5】
請求項1乃至3のいずれか一項に記載の炭化水素吸着剤と炭化水素含有ガスとを接触させる工程を有する方法により、炭化水素を吸着する処理を行う、炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化水素吸着剤及び炭化水素の吸着方法に関する。
【背景技術】
【0002】
自動車や船舶などの移動体に使用されている内燃機関から排出される排ガスは炭化水素を多く含む。内燃機関から排出される炭化水素は三元触媒により浄化される。三元触媒が機能するためには200℃以上の温度環境が必要であるため、いわゆるコールドスタート時など、三元触媒が機能しない温度域では炭化水素吸着剤に炭化水素を吸着し、三元触媒が機能し始める温度域で吸着剤から炭化水素を放出し、これを三元触媒で分解・浄化している。炭化水素吸着剤にはゼオライトが一般的に使用されているが、起動時の内燃機関の排ガスには炭素数が異なる複数の炭化水素が含まれる。そのため、炭化水素吸着剤はこのような複数種の炭化水素を含むガスから炭化水素を吸着除去することが求められている。2種以上の炭化水素を含む炭化水素含有ガスから炭化水素を吸着除去するため、複数種の吸着剤を含んだ炭化水素吸着剤が検討されている。
【0003】
例えば、特許文献1ではゼオライトとコロイダルシリカを含有させた炭化水素吸着剤が提案されている。特許文献2ではアルミナに対するシリカのモル比(SiO/Al比)が異なる2種類のβ型ゼオライトを含む炭化水素吸着剤が提案されている。特許文献3では細孔構造の異なる複数種のゼオライトを混合して得られる炭化水素吸着剤が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【文献】特開2001―300319号
【文献】特開2007―275877号
【文献】特開平07-144128号
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
異なる吸着剤、特に、種類の異なるゼオライトを含む炭化水素吸着剤では、各ゼオライト構造に適した炭素水素が吸着される。そのため、複数種の炭化水素を含むガスからの炭化水素の吸着が効率的に行うことができず、その結果、炭化水素の吸着量が十分ではなかった。さらに、ゼオライト種ごとに耐熱性が異なるため、種類の異なるゼオライトを含む炭化水素吸着剤は、使用により、特定種の炭化水素の吸着量が低下するといった不具合が生じていた。
【0006】
これらの課題に鑑み、本発明は、複数種の炭化水素を含む炭化水素含有ガスからの炭化水素吸着量が大きい炭化水素吸着剤を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、内燃機関の排ガスからの炭化水素の吸着特性について検討した。その結果、単一種の炭化水素を含むガスからの吸着と、複数種の炭化水素を含むガスからの吸着は挙動が異なること、さらには特定の結晶構造を有するゼオライトを炭化水素吸着剤として使用することによって、複数種の炭化水素を含有する炭化水素含有ガスであっても、従来の炭化水素吸着剤と比べ、より大量の炭化水素を吸着することができることを見出した。
【0008】
すなわち、本発明の要旨は以下のとおりである。
[1] 以下の粉末X線回折パターンを有するゼオライトを含むことを特徴とする炭化水素吸着剤。
【0009】
【表1】
【0010】
[2] 前記ゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比が5以上200以下である上記[1]に記載の炭化水素吸着剤。
[3] 前記ゼオライトのBET比表面積が300m/g以上700m/g以下である上記[1]又は[2]に記載の炭化水素吸着剤。
[4] 上記[1]乃至[3]のいずれか記載の炭化水素吸着剤を使用する炭化水素の吸着方法。
[5] 上記[1]乃至[3]のいずれか記載の炭化水素吸着剤含む炭化水素含有気体の処理方法。
【発明の効果】
【0011】
本発明により、複数種の炭化水素を含む炭化水素含有ガスからの炭化水素吸着量が大きい炭化水素吸着剤を提供することができる。さらに、複数のゼオライトを使用することを必須とせずに、複数種の炭化水素を同時に吸着することができる。これに加え、本発明の炭化水素吸着剤は、複数のゼオライトを混合する工程を経ずに得ることもできるため、混合されたゼオライトを使用する炭化水素吸着剤とくらべ、製造コストが安価になることが期待でき、工業的なメリットが大きい。
【発明を実施するための形態】
【0012】
以下、本発明の炭化水素吸着剤について説明する。
【0013】
本発明の炭化水素吸着剤は少なくとも以下のXRDパターンを有するゼオライト、を含む。
【0014】
【表2】
【0015】
本発明の炭化水素吸着剤は、このようなXRDパターンを有するゼオライトを含むため、1種類の炭化水素を含む炭化水素含有ガスから炭化水素を吸着できることに加え、複数種の炭化水素を含む炭化水素含有ガスから炭化水素を吸着することができる。特に、従来のゼオライト系の炭化水素吸着剤と比べ、複数種の炭化水素を含む炭化水素含有ガスからの炭化水素吸着量が大きくなる。本発明において、該XRDパターンは、前述の表における各ピークを含むものであればよく、他のピークを含むものであってもよい。
【0016】
好ましくは、前記ゼオライトは少なくとも以下のXRDパターンを含む。
【0017】
【表3】
【0018】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤に含まれるゼオライトは酸素12員環及び酸素8員環を含む結晶構造を有するゼオライトであり、YNU-5であることが好ましい。
【0019】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤に含まれるゼオライトのアルミナに対するシリカのモル比(以下、「SiO/Al比」ともいう。)は5以上200以下であり、10以上100以下であることが好ましく、15以上50以下であることが更に好ましく、15以上30以下であることがより好ましい。
【0020】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤に含まれるゼオライトはBET比表面積が300m/g以上700m/g以下であり、400m/g以上600m/g以下であることが好ましい。
【0021】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤に含まれるゼオライトのカチオンタイプはプロトン型(H+型)又はアンモニウム型(NH型)のいずれかである。
【0022】
本発明の炭化水素吸着剤は金属又は金属イオンの少なくともいずれか(以下、「金属種」ともいう。)を含有していてもよい。金属種は、アルカリ金属、アルカリ土類金属、希土類金属、遷移金属及び貴金属からなる群の少なくともいずれか、を挙げることができる。
【0023】
本発明の炭化水素吸着剤は、結合剤を含んでいてもよく、シリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトからなる群の少なくとも1種を含んでいてもよい。
【0024】
本発明の炭化水素吸着剤は用途に応じた任意の形状であればよく、好ましくは、粉末又は成形体の少なくともいずれかが挙げられる。具体的な成形体の形状として、球状、略球状、楕円状、円板状、円柱状、多面体状、不定形状及び花弁状からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0025】
本発明の炭化水素吸着剤は、炭化水素含有ガスと本発明の炭化水素吸着剤とを接触させる工程を有する方法により、炭化水素を吸着することができる。
【0026】
好ましくは、炭化水素含有ガスは少なくとも1種の炭化水素を含むガスであり、2種以上の炭化水素を含むガスであることが好ましい。該炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素はパラフィン、オレフィン及び芳香族炭化水素からなる群の少なくともいずれかが挙げられる。該炭化水素の炭素数は1以上であればよく、1以上15以下であることが好ましい。好ましくは、炭化水素含有ガスに含まれる炭化水素は、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、炭素数5以上の直鎖状パラフィン、炭素数5以上の直鎖状オレフィン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群の少なくとも2種であり、メタン、エタン、エチレン、プロピレン、ブタン、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群の少なくとも2種であることが好ましく、メタン、エタン、エチレン及びプロピレンからなる群の少なくとも1種と、ベンゼン、トルエン及びキシレンからなる群の少なくとも1種とであることがより好ましい。炭化水素含有ガスは一酸化炭素、二酸化炭素、水素、酸素、窒素、窒素酸化物、硫黄酸化物及び水からなる群の少なくとも1種を含んでいてもよい。具体的な炭化水素含有ガスとして、内燃機関の排ガス等の燃焼ガスを挙げることができる。
【0027】
好ましくは、当該工程における接触温度は室温~200℃である。
【0028】
次に、本発明の炭化水素吸着剤の製造方法について説明する。
【0029】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤は、以下のXRDパターンを有するゼオライトを任意の形状とすることで製造される。
【0030】
【表4】
【0031】
本発明の炭化水素吸着剤は用途に適した任意の形状とすればよく、粉末又は成形体の少なくともいずれかの形状として、これを使用することが挙げられる。
【0032】
粉末とする場合、上記のゼオライトを水やアルコール等の溶媒に混合してスラリーとし、当該スラリーを基材にコーティングした吸着部材とすればよい。
【0033】
本発明の炭化水素吸着剤を成形体とする場合、上記のゼオライトを、必要により結合剤と混合し、任意の方法で成形すればよい。好ましくは、結合剤はシリカ、アルミナ、カオリン、アタパルジャイト、モンモリロナイト、ベントナイト、アロェン及びセピオライトからなる群の少なくとも1種である。成形方法は転動造粒成形、プレス成形、押し出し成形、射出成形、鋳込み成形及びシート成形からなる群の少なくとも1種を挙げることができる。
【0034】
好ましくは、本発明の炭化水素吸着剤に含まれるゼオライトは、シリカ源、アルミナ源、アルカリ源、水、及び、構造指向剤(以下、「SDA」ともいう。)としてジメチルジプロピルアンモニウムカチオン(以下、「MePr」ともいう。)を含む組成物(以下、「原料組成物」ともいう。)を結晶化する結晶化工程を有する製造方法、により製造する。好ましくは、原料組成物は以下のモル組成を有する。
【0035】
SiO/Al比 =10以上50以下
MePrNOH/SiO比=0.05以上0.30以下
Na/SiO比 =0.05以上0.30以下
K/SiO比 =0.05以上0.30以下
O/SiO比 =3以上50以下
好ましくは、結晶化工程では水熱処理により原料組成物を結晶化する。水熱処理の条件として、以下の条件を挙げることができる。
【0036】
結晶化温度 : 140℃以上180℃以下
結晶化時間 : 1日~10日
結晶化圧力 : 自生圧
結晶化工程で得られたゼオライトは、任意の方法で回収、洗浄、乾燥、焼成及びイオン交換の各工程に供してもよく、更には、脱アルミニウム処理してSiO/Al比を任意の値としてもよい。
【0037】
好ましくは、結晶化工程で得られたゼオライトは、焼成工程及びイオン交換工程に供することが好ましい。
【0038】
焼成工程はゼオライト中のSDAを除去する工程である。焼成条件は任意であるが、焼成条件として、酸化雰囲気中、焼成温度400℃以上800℃以下、焼成時間0.5時間以上12時間以下を挙げることができる。
【0039】
イオン交換工程はゼオライト中の固体酸を増やす工程である。イオン交換条件は任意であるが、イオン交換条件として、ゼオライトと塩化アンモニウム水溶液とを25℃以上200℃以下で接触させることが挙げられる。これにより、ゼオライトのカチオンタイプがナトリウム/カリウム型から、アンモニウム型(NH型)となる。好ましくは、イオン交換工程に供するゼオライトは焼成後のゼオライトである。
【図面の簡単な説明】
【0040】
図1】実施例及び比較例の炭化水素吸着量を示すグラフ
【実施例
【0041】
以下、実施例において本発明をさらに詳細に説明する。しかし、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0042】
(結晶構造の同定)
一般的なX線回折装置(装置名:UltimaIV、リガク社製)を使用し、試料のXRD測定をした。線源にはCuKα線(λ=1.5405Å)を用い、測定範囲は2θとして3°から43°の範囲で測定した。
【0043】
(組成分析)
フッ酸と硝酸の混合水溶液に試料を溶解して試料溶液を調製した。一般的なICP装置(装置名:OPTIMA5300DV、PerkinElmer社製)を使用して、当該試料溶液を誘導結合プラズマ発光分光分析(ICP-AES)で測定した。得られたSi及びAlの測定値から、試料のSiO/Al比を求めた。
(BET比表面積)
測定試料を350℃で2時間処理し、前処理とした。前処理後、通常の窒素吸着装置(装置名:BELSORP-miniII、MicrotracBEL社製)を使用し、測定温度77Kにおける窒素吸着等温線を測定した。得られた窒素吸着等温線の相対圧力0.01以上0.15以下の範囲について、BET法を使用してBET比表面積を算出した。
【0044】
実施例1
コロイダルシリカAS-40、Y型ゼオライト(製品名:HSZ-350HUA、東ソー社製)、MePrNOH、NaOH、KOH及びHOを混合し、以下のモル組成を有する原料組成物を得た。
【0045】
SiO:0.025Al:0.17MePrNOH
:0.15NaOH:0.17KOH:7H
得られた原料組成物をオートクレーブに充填し、160℃、6日間静置下で当該組成物を結晶化した。得られたゼオライトは、大気中550℃での焼成及び20%塩化アンモニウム水溶液での処理の後、大気中110℃で一晩乾燥した。これにより、SiO/Alが18.4及びBET比表面積が417m/gであり、カチオンタイプがNH型であるゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0046】
得られたゼオライトのXRDパターンを下表に示す。
【0047】
【表5】
【0048】
実施例2
以下の組成を有する原料組成物を使用したこと以外は実施例1と同様な方法でゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0049】
SiO:0.025Al:0.17MePrNOH
:0.10NaOH:0.20KOH:7H
得られたゼオライトは、SiO/Al比が21.1、及び、BET比表面積が412m/gであり、カチオンタイプがNH型のゼオライトであった。
【0050】
得られたゼオライトのXRDパターンを下表に示す。
【0051】
【表6】
【0052】
実施例3
以下の組成を有する原料組成物を使用したこと以外は実施例1と同様な方法でゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0053】
SiO:0.025Al:0.17MePrNOH
:0.15NaOH:0.15KOH:7H
得られたゼオライトは、SiO/Al比が21.2、及び、BET比表面積が415m/gであり、カチオンタイプがNH型のゼオライトであった。
【0054】
得られたゼオライトのXRDパターンを下表に示す。
【0055】
【表7】
【0056】
実施例4
実施例3のゼオライト10gと、硝酸銅水溶液4.58g(硝酸銅三水和物0.58g含有)と混合した後、空気中、110℃で一晩乾燥した。乾燥後のゼオライトを空気中、550℃で2時間焼成することで銅含有ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0057】
得られた銅含有ゼオライトはSiO/Al比が21.2、銅含有量が1.51重量%であった。
実施例5
実施例3のゼオライト10gを酸銀水溶液(硝酸銀濃度5.8重量%)78gに添加し、撹拌しながら60℃で3時間、混合することでイオン交換した。イオン交換後のゼオライトを濾過、洗浄、及び、空気中110℃で一晩乾燥することで銀含有ゼオライトを得、これを本実施例の炭化水素吸着剤とした。
【0058】
得られた銀含有ゼオライトはSiO/Al比が21.2、及び、銀含有量が7.18重量%であった。
【0059】
比較例1
SiO/Al比が38.0及びBET比表面積が437m/gであり、カチオンタイプがNH型であるMFI型ゼオライトを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0060】
比較例2
SiO/Al比が39.7及びBET比表面積が563m/gであり、カチオンタイプがH型であるβ型ゼオライトを本比較例の炭化水素吸着剤とした。
【0061】
測定例1
(測定試料の作製及び前処理)
炭化水素吸着剤を、各々加圧成形及び粉砕し、凝集径20~30メッシュの不定形の成形体とした。当該成形体1gを常圧固定床流通式反応管に充填し、窒素流通下、500℃で1時間処理した後、50℃まで降温することで前処理とした。
(炭化水素吸着)
前処理後の各炭化水素吸着剤に炭化水素含有ガスを流通させ、50℃から200℃の間で吸着した炭化水素を測定し炭化水素の吸着量とした。炭化水素含有ガスの組成及び測定条件を以下に示す。
【0062】
炭化水素含有ガス :プロピレン 1000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
ガス流量 :200mL/分
測定温度 :50~200℃
昇温速度 :10℃/分
測定時間 :15分
(炭化水素の吸着量の測定)
水素イオン化検出器(FID)を使用し、炭化水素吸着剤を通過した後のガス中の炭化水素を連続的に定量分析した。常圧固定床流通式反応管の入口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「入口濃度」とする。)と、常圧固定床流通式反応管の出口側の炭化水素含有ガスの炭化水素濃度(メタン換算濃度;以下、「出口濃度」とする。)を測定した。
【0063】
入口濃度の積分値をもって炭化水素吸着剤を通過した炭化水素量とし、当該炭化水素量から、出口濃度(メタン換算濃度)の積分値を差し引いた値を求め、各吸着材における炭化水素吸着量を炭化水素吸着剤の重量当たりの炭化水素吸着量(μmolC/g)として求めた。
【0064】
測定例2
以下の組成を有する炭化水素含有ガスを使用したこと以外は測定例1と同様な方法で炭化水素の吸着量を測定した。
【0065】
低級炭化水素含有ガス :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
測定例3
以下の組成を有する炭化水素含有ガスを使用したこと以外は測定例1と同様な方法で炭化水素の吸着量を測定した。
【0066】
低級炭化水素含有ガス :トルエン 3000体積ppmC(メタン換算濃度)
プロピレン 1000体積ppmC(メタン換算濃度)
水 3体積%
窒素 残部
測定例1乃至3の炭化水素の吸着量を下表に示し、測定例3の結果を図1に示す。
【0067】
【表8】
【0068】
上表からも明らかなように、実施例1、2の炭化水素吸着剤は、それぞれ、炭素数3の脂肪族炭化水素及び炭素数7の芳香族炭化水素を吸着することができることが確認できた。しかしながら、プロピレンのみを含有する炭化水素含有ガスからの炭化水素の吸着量が比較例1よりも低く、トルエンのみを含有する炭化水素含有ガスからの炭化の吸着量は比較例2と同程度であった。これより単一種の炭化水素を含有するガスからの吸着量は従来の炭化水素吸着材と同程度であることが確認できた。
【0069】
その一方で、実施例の炭化水素吸着剤は、プロピレン及びトルエンの両者含む炭化水素含有ガスからの炭化水素の吸着量が、MFI型ゼオライト及びβ型ゼオライトよりも高かった。これより、本発明の炭化水素吸着剤は複数種の炭化水素、更には炭素数の異なる炭化水素を含有する炭化水素含有ガスからの炭化水素の吸着除去が顕著に優れていることが確認できた。
【0070】
また実施例1、2と実施例の評価結果より、銅、銀といった金属種(活性金属)を含むことにより炭化水素吸着能はさらに向上することが確認した。


【産業上の利用可能性】
【0071】
本発明の炭化水吸着剤は、炭化水素含有ガスからの炭化水素の吸着除去に使用でき、炭素数の異なる炭化水素を含有する炭化水素含有ガスからの炭化水素吸着剤として特に適しており、例えば、内燃機関、更には自動車エンジンの排ガス処理システムに使用することができる。
図1