(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】カップリングトランスとそれを用いた電力線通信装置、並びに給電装置及び電動車両
(51)【国際特許分類】
H01F 17/06 20060101AFI20230725BHJP
H04B 3/56 20060101ALI20230725BHJP
H01F 27/29 20060101ALI20230725BHJP
H01F 17/04 20060101ALI20230725BHJP
H01F 27/00 20060101ALI20230725BHJP
H01F 27/28 20060101ALI20230725BHJP
H02J 13/00 20060101ALI20230725BHJP
H01F 19/00 20060101ALI20230725BHJP
【FI】
H01F17/06 A
H04B3/56
H01F27/29 J
H01F27/29 P
H01F17/04 N
H01F27/00 Q
H01F27/28 K
H02J13/00 B
H01F19/00 B
(21)【出願番号】P 2019000928
(22)【出願日】2019-01-08
【審査請求日】2021-12-13
【前置審査】
(73)【特許権者】
【識別番号】000005083
【氏名又は名称】株式会社プロテリアル
(72)【発明者】
【氏名】坂口 睦仁
(72)【発明者】
【氏名】伊藤 亨
【審査官】森岡 俊行
(56)【参考文献】
【文献】実開平04-116109(JP,U)
【文献】特開2008-245202(JP,A)
【文献】登録実用新案第3182682(JP,U)
【文献】実開平04-080017(JP,U)
【文献】特開平01-227409(JP,A)
【文献】特開平09-082529(JP,A)
【文献】国際公開第2012/046722(WO,A1)
【文献】実開平02-035411(JP,U)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01F 17/06
H04B 3/56
H01F 27/29
H01F 17/04
H01F 27/00
H01F 27/28
H02J 13/00
H01F 19/00
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
内周面と、外周面と、前記内周面と前記外周面とを繋ぐ2つの端面と、を備えた環状磁心に、3本の導線がトリファイラ巻でスパイラル状に巻き付けられたコイル部品
と、前記コイル部品を載置する端子台と、を備え、
前記トリファイラ巻では、前記導線の巻始め側と巻終り側とを除いて、前記環状磁心の外周面側にて一次巻線となる第1導線が中央にあり、その両隣に二次巻線となる第2導線と第3導線とが並んで配置され、且つ前記環状磁心の内周面側を除き多層に積み重ならないように周回させて巻き付けられ
、
前記端子台は、絶縁樹脂からなる基部と、前記基部の対面する第1側面及び第2側面に複数の金属端子と、を備え、
前記端子台は、前記第1側面側を除く三方に前記基部から立設する壁部と、前記壁部の上端部を覆う天板部と、前記第2側面側の壁部と前記天板部との間に開口部と、を備え、
前記第1導線の端部は、前記壁部の無い側を通して前記第1側面側の金属端子に接続し、前記第2導線と前記第3導線の端部は、前記開口部を通して前記第2側面側の壁部上部を超えて、前記第2側面側の金属端子に接続し、
前記第2側面側で、前記第2導線と前記第3導線の巻始め端部が接続する金属端子が隣り合い、前記第2導線と前記第3導線の巻終り端部が接続する金属端子が隣り合い、前記第2導線の巻終り端部が接続する金属端子と前記第3導線の巻始め端部が接続する金属端子とが隣り合っている、カップリングトランス。
【請求項2】
請求項1のカップリングトランスであって、
前記第1導線の巻数N1と、前記第2導線の巻数N2と、前記第3導線の巻数N3が、N1:N2:N3=1:1:1の関係にあるカップリングトランス。
【請求項3】
請求項
1または
2に記載のカップリングトランスであって、
前記コイル部品は前記環状磁心の一方の端面側が前記端子台の基部に対面して載置され、シリコーン樹脂で固定されたカップリングトランス。
【請求項4】
請求項1から
3のいずれかに記載のカップリングトランスを用いた電力線通信装置であって、
前記カップリングトランスの一次巻線側をPLC送受信装置に接続し、二次巻線側を電力線側に接続した電力線通信装置。
【請求項5】
請求項
4に記載の電力線通信装置を搭載した給電装置。
【請求項6】
請求項
4に記載の電力線通信装置を搭載した電動車両。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はカップリングトランスとそれを用いた電力線通信装置、給電装置及び電動車両に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、走行用モータとバッテリ等の装置を搭載し、外部の給電装置からバッテリに蓄積した電力にて走行用モータを駆動することで走行する電気自動車(EV:Electrical Vehicle)、プラグインハイブリッド自動車(PHV:Plug-in Hybrid Electric Vehicle)等(以下、電動車両ともいう)が普及し始めている。外部の給電装置(EVSE: Electric Vehicle Service Equipment)から電動車両に搭載されたバッテリへの充電は、給電装置と電動車両との間に接続した充電ケーブルを介して行われる。
【0003】
また、50~60Hzの商用電力網を含む電力系統と電動車両との間の双方向で電力の融通を行うシステムとしてV2G(Vehicle to Grid)が提唱されている。このシステムでは、移動に使用されていないV2Gに接続する電動車両のバッテリを電力貯蔵設備として見なし、電力系統の需給均衡の維持を目的として継続的な放電や、電力系統における周波数変動の抑制を目的として間欠的な充放電を行う。
【0004】
このようなシステムにおいては、電動車両側と給電装置側との間で、電動車両と電力網との接続可否、充電制御情報、充電量や料金等の管理情報のやり取りが必要となる。例えば特許文献1では、電力線通信(PLC:Power Line Communication)により、このような各種情報の送受信を行うことが提案されている。電動車両と給電装置とが電力線通信を行うには、充電ケーブル(電力線)に信号を重畳させたり、電力線に重畳された信号を取り出したりするカップリングトランス等の部品を使用した電力線通信装置を車両や給電装置に搭載する必要がある。
【0005】
図17に特許文献2に記載された電力線通信におけるカップリングトランスを含む電力線通信システムの回路構成の一例を示す。電力線通信で搬送に使用される周波数帯域は、低速通信では数10kHzから数100kHz、高速通信では2MHzから30MHz程度の周波数帯域が利用される。図示した例は、単相三線式の外線L1,L2および中性線Nを利用した電力線通信システムに用いられるものである。外線L1,L2、中性線Nから分岐した経路に、電源(図示せず)の商用周波数に対して高インピーダンスのカップリングコンデンサC1、C2、C3が接続し、その先にカップリングトランスT1を介してPLC送受信装置100が接続されている。図示したカップリングトランスT1は、巻数比が1:1:1となる3つの巻線M1、M2、M3を有し、これらのうち二次巻線となる2つの巻線M2、M3の一端どうしが接続した中間タップがカップリングコンデンサC2と接続し、巻線M2、M3の他端がカップリングコンデンサC1、C3に接続し、一次巻線となる巻線M1はPLC送受信装置100と接続されている。
【0006】
信号の送信を行う場合、送信信号はPLC送受信装置100を介してカップリングトランスT1の巻線M1に入力され、巻線M2、M3から出力されて外線L1,L2および中性線Nの電力線に対して重畳される。受信を行う場合は、前述と逆の経路で信号が電力線から分離されPLC送受信装置100により受信される。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【文献】特開2006-262570号公報
【文献】特開2003-347976号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
カップリングトランスT1は、例えば磁心(図示せず)と、磁心に巻回された第1導線の巻線M1、第2導線の巻線M2、第3導線の巻線M3とで構成され、一次巻線は第1導線の巻線M1で形成され、前記一次巻線と電磁的に結合する第二巻線は第2導線の巻線M2と第3導線の巻線M3が接続して形成される。このようなカップリングトランスT1では、第1導線の巻線M1と第2導線の巻線M2との結合と第1導線の巻線M1と第3導線の巻線M3との結合の結合差が大きくなると、カップリングトランスT1の二次巻線側から出力される信号の振幅差が大きく、また損失(挿入損失)が大きくなって、品質の良い信号が得られない場合がある。また電力線が他の機器に対するノイズ源となる場合があり、他の機器からのノイズの影響も受け易いと考えられる。更に、信号の受信を行う場合に一次巻線からPLCモデムへ出力される信号を劣化させる場合がある。その影響は通信に利用される周波数帯域が高い程、顕著になり易い。
【0009】
そこで本発明では、二次巻線が複数の導線で構成されるカップリングトランスで、高周波数での挿入損失の増加を抑えたカップリングトランスと、それを用いた電力線通信装置、給電装置、及び電動車両を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
第1の発明は、内周面と、外周面と、前記内周面と前記外周面とを繋ぐ2つの端面と、を備えた環状磁心に、3本の導線がトリファイラ巻でスパイラル状に巻き付けられたコイル部品を備え、前記トリファイラ巻では、前記導線の巻始め側と巻終り側とを除いて、前記環状磁心の外周面側にて一次巻線となる第1導線が中央にあり、その両隣に二次巻線となる第2導線と第3導線とが並んで配置されている、カップリングトランスである。
【0011】
第1の発明においては、前記第1導線の巻数N1と、前記第2導線の巻数N2と、前記第3導線の巻数N3が、N1:N2:N3=1:1:1の関係にあるのが好ましい。
【0012】
第1の発明においては、前記コイル部品が端子台に載置され、前記端子台は、絶縁樹脂からなる基部と、前記基部の対面する第1側面及び第2側面に複数の金属端子と、を備え、前記第1側面側の金属端子に前記第1導線の端部が接続し、前記第2側面側の金属端子に前記第2導線と前記第3導線の端部が接続し、前記第2側面側で、前記第2導線と前記第3導線の巻始め端部が接続する金属端子が隣り合い、前記第2導線と前記第3導線の巻終り端部が接続する金属端子が隣り合い、前記第2導線の巻終り端部が接続する金属端子と前記第3導線の巻始め端部が接続する金属端子とが隣り合うのが好ましい。
【0013】
また第1の発明においては、前記端子台の基部から立設し、前記第2側面側の金属端子と前記環状磁心との間を仕切る壁部を有し、前記コイル部品の前記第2導線と前記第3導線とは前記端子台の前記壁部上端を越えて前記金属端子と接続するのが好ましい。
【0014】
また第1の発明においては、前記コイル部品は前記環状磁心の一方の端面側が前記端子台の基部に対面して載置され、シリコーン樹脂で固定されるのが好ましい。更に、前記第1導線から前記第3導線は、少なくとも端部の色調がそれぞれ異なるのが好ましく、前記第1導線から前記第3導線は、絶縁被覆の色調がそれぞれ異なるのが好ましい。
【0015】
第2の発明は、第1の発明のカップリングトランスを用いた電力線通信装置であって、前記カップリングトランスの一次巻線側をPLC送受信装置に接続し、二次巻線側を電力線側に接続した電力線通信装置である。
【0016】
第3の発明は、第2の発明の電力線通信装置を搭載した給電装置である。
【0017】
第4の発明は、第2の発明の電力線通信装置を搭載した電動車両である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、環状磁心に、3本の導線がトリファイラ巻でスパイラル状に巻き付けられたコイル部品を備えるカップリングトランスで、高周波数での挿入損失の増加を抑えたカップリングトランスと、それを用いた電力線通信装置、給電装置、及び電動車両を提供することが出来る。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【
図1】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスの平面図である。
【
図2】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスの等価回路図である。
【
図3】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いるコイル部品の平面図である。
【
図4】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いる環状磁心の斜視図である。
【
図5】コイル部品の作製方法を説明するための図であり、環状磁心に3本の導線を巻回し始めた状態を示す。
【
図6】コイル部品の作製方法を説明するための図であり、コイル部品の3本の導線の端部を所定の方向に向けた状態を示す。
【
図7】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台の斜視図である。
【
図8】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの右側面図である。
【
図9】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台を上方から斜視図である。
【
図10】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台を下方から斜視図である。
【
図11】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台のA-A断面図である。
【
図12】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの正面図である。
【
図13】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの上平面図である。
【
図14】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの下平面図である。
【
図15】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの右側面図である。
【
図16】本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスの背面図である。
【
図17】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスを用いた電力線通信装置を単相三線式の電力線への接続例を示す回路図である。
【
図18】本発明の一実施形態に係るカップリングトランスを用いた電力線通信装置を三相三線式の電力線への接続例を示す回路図である。
【
図19】3本の導線を分離して巻回した比較例のカップリングトランスを説明するための図である。
【
図20】一次巻線と二次巻線の導線を分離して巻回した比較例のカップリングトランスを説明するための図である。
【
図21】カップリングトランスの挿入損失特性を評価する測定回路のブロック図である。
【
図22】本発明の実施例と比較例のカップリングトランスの挿入損失の周波数特性を示す図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
本発明のカップリングトランスの実施形態について説明するが、本発明は、以下に説明する実施形態に限定されない。
図1は本発明の一実施形態を示すカップリングトランスの平面図である。
図2は本発明の一実施形態を示すカップリングトランスの等価回路図である。なお
図1において、Sは導線の巻始めの端部側を、Eは巻終りの端部側であることを示し、
図2において第1導線から第3導線のそれぞれに付与された黒丸は巻線の巻始め側を示している。また、
図3は本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いるコイル部品の平面図であり、
図4は本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いる環状磁心の斜視図である。
図5はコイル部品の作製方法を説明するための図であり、環状磁心に3本の導線を巻回し始めた状態を示し、
図6はコイル部品の3本の導線の端部を所定の方向に向けた状態を示す。また、
図7は本発明の一実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台の斜視図である。これらの図を適宜参照して本発明の実施形態のカップリングトランスを説明する。
【0021】
図1に示したカップリングトランス1の例では、電気的機能の要部であるコイル部品10と、前記コイル部品10と他の回路との中継と面実装を担う金属端子110(T1~T8)を備える。前記コイル部品10は
図7に示すような端子台200に載置されている。コイル部品10は端子台200と接着剤等の固定手段で固着されている。接着剤はシリコーン系を用いることができ、シリコーン系の接着剤は硬度が柔らかく使用温度範囲も広い点で好ましい。
【0022】
端子台200は、絶縁樹脂からなる基部210と、前記基部210に設けられた金属端子110(T1~T8)を備える。
図7に示した例では、基部210で広面積に形成された対向する二面である上面211aおよび下面211bと、上面211aと下面211bとを繋ぐ4側面212a、212b、213a、213bを有する矩形状であって、対面する2側面212a、212bには金属端子110(T1~T8)が埋め込まれ、それぞれ先端部が突出している。金属端子110(T1~T8)によって回路基板に直接実装可能となる。なお図示した例ではコイル部品10の導線と接続しない金属端子110を備えている。これにより、実装基板との接続強度を増すことができ、安定した実装が可能となる。実装基板との接続強度が満足され、端子位置の変更等の対応が必要とされない場合は、導線と接続しない金属端子を設けなくても良い。
【0023】
またコイル部品10が載置される基部210の上面211aは平坦面となっているが、窪みを設けてコイル部品10の位置決めとしたり、固定用の接着剤溜りとしたりしても良い。また詳細は後述するが、基部210は上面211aから立設する壁部を備えているのが好ましい。
【0024】
金属端子110はSPCCや、ニッケル、コバルトおよび鉄の合金であるコバール、あるいは42アロイ等を用いるのが好ましい。
【0025】
また端子台200を構成する絶縁樹脂は、絶縁性、機械強度、耐薬品性、耐熱性、耐湿性及び成形性を有する樹脂であれば良く、PPS(Poly Phenylene Sulfide:ポリフェニレンサルファイド)樹脂、液晶ポリマー、PET(Polyethylene Terephthalate:ポリエチレンテレフタレート)樹脂、PBT(Poly Butylene Terephthalate:ポリブチレンテレフタレート)樹脂、ABS(Acrylonitrile butadiene styrene:アクリロニトリルブタジエンスチレン)樹脂等が好ましく、それらを射出成形法等の公知の方法で成形したものを用いることができる。
【0026】
コイル部品10の導体20、21、22の端部は適宜引き出されて、端子台200の金属端子110と接続される。
図1に示した例では、端子台200の第1側面212a側の金属端子T2、T3にコイル部品10の第1導線20の端部が接続し、第2側面212b側の金属端子T5、T6、T7、T8に第2導線21と第3導線22の端部が接続する。第1側面212a側で第1導線20の巻始め端部20Sが金属端子T2と接続し、巻終り端部20Eが金属端子T3と接続する。第2側面212b側では、第2導線21の巻始め端部21Sが金属端子T8と接続し、巻終り端部21Eが金属端子T6と接続し、第3導線22の巻始め端部22Sが金属端子T7と接続し、巻終り端部22Eが金属端子T5と接続する。結果、第2導線21の巻始め端部21Sと第3導線22の巻始め端部22Sが接続する金属端子T8、T7が隣り合い、第2導線21の巻終り端部21Eと第3導線22の巻終り端部22Eが接続する金属端子T6、T5が隣り合い、第2導線21の巻終り端部21Eと第3導線22の巻始め端部22Sが接続する金属端子T6、T7が隣り合ったカップリングトランス1となる。このような構成によれば、2次側の導線の巻始め・巻終りを分離できて、接続する端子への配線時に導線を交差しなくも良くなる点で好ましい。
【0027】
図1に示したカップリングトランス1では、
図2で示したカップリングトランスの等価回路図のように二次巻線を構成する第2導線21と第3導線22とは結線されていない個別の巻線M2、M3の状態となっている。そのためカップリングトランス1が実装される回路基板側との接続関係を変更することで、必要に応じて巻線M1、M2、M3間の極性の関係を変更することが可能である。
【0028】
図3に示すように、コイル部品10は、環状磁心15に巻回された第1導線20、第2導線22、第3導線23で構成された3つの巻線M1、M2、M3を有し、各巻線M1、M2、M3は導線を複数回巻回して構成される。カップリングトランス1は第1導体20が一次巻線M1を構成し、第2導体21と第3導体22とが二次巻線M2、M3を構成する。環状磁心15はフェライトなどの磁性体材料で形成され、図示した例では対面する端面(上面18、下面19)と、それらを繋ぐ外周面16と内周面17とを備えた円筒状であるが、外形を矩形状としても良いし、単一の、あるいは複数の磁性部材を組み合わせて所定形状としたものでも良い。
【0029】
環状磁心15には、NiZn系フェライト、MnZn系フェライトの磁性材料や,FeSi系、FeSiCr系、FeSiAl系、FeNi系、Fe系アモルファス材料等の等の金属系磁性材料を用いることが出来る。それらの中で、高い絶縁性や、2MHz以上の高周波帯域での利用を考慮すれば、NiZn系フェライトを用いるのが好ましい。環状磁心15は、
図4に示した円環状の他に矩形環状等の形状であってもよく、その材質や寸法の選定は、要求するET積の値(例えば1〔Vμs〕以上)を満足するように適宜選定すればよい。ET積は次式にて算出される。
ET=ΔB×N×Ae×10
6〔Vμs〕
ΔB:環状磁心の最大磁束密度Bm-環状磁心の残留磁束密度Br
Ae:環状磁心の断面積、N:巻数
【0030】
また第1導線20、第2導線22、第3導線23は、銅やアルミニウム、その合金といった導電性材料からなる導体に絶縁被覆を備える被覆線が用いられる。一般的には銅線にポリアミドイミドで絶縁被覆したエナメル線が用いられるが、一次巻線と二次巻線との絶縁を考慮すれば二層絶縁電線あるいは三層絶縁電線を用いるのが好ましい。
【0031】
高速通信で利用される高周波数帯域(2MHzから30MHz)での使用を考慮し、挿入損失が広い周波数で低損失の良好な周波数特性を得るのに、漏れインダクタンスが小さく、一次巻線と二次巻線の磁気結合が高くなるように環状磁心15に第1導線20、第2導線22、第3導線23を巻き回す。
図5に示すように、第1導体20を中央に、その両隣に第2導体22と第3導体23とが並んで位置するような三線の状態として、環状磁心15にスパイラル状にトリファイラ巻で、且つ環状磁心15の内周面17側を除き多層に積み重ならないように周回させて巻き付ける。
図3に示すように、環状磁心15の内周面17側は導線を通す領域が小さくて導線が重なり易いが、環状磁心15の外周面16側では、巻始めS側と巻終りE側を除いて一次巻線となる第1導線20が中央にあり、その両隣に二次巻線となる第2導線21と第3導線22とが並んで配置された状態とする三線の位置関係を容易に構成することが出来る。
【0032】
コイル部品10の各導線を、巻始めS側と巻終りE側の端部を
図5で示した状態から
図6に示した状態とした後、コイル部品10を端子台200の上面211aに搭載して接着固定する。
図6に示した状態では、第2導線21と第3導線22の端部は、端子台200に設けられた金属端子110に向かうように、第2導線21と第3導線22の巻始めS側の端部を環状磁心15の上面18側を通り、第2導線21と第3導線22の巻終りE側の端部を環状磁心15の下面19側を通して引き出されている。図示した例では三線の区別が容易なように予め端部の色調をそれぞれ異ならせてマーキングしている。油性ペンなどのマーカーを使用すれば容易に導線を彩色することが出来る。着色する位置や長さ、あるいはパターンを異ならせて巻始めS側と巻終りE側の端部の区別を容易とするのも好ましい。また導線のそれぞれで絶縁被覆の色調を異ならせても良い。
【0033】
端子台200に固定されたコイル部品10の各導線は、最端部のマーキングを残して端部側の一部の絶縁被覆を剥離する。あらわれた導体を端子台200に設けられた各導線に対応する金属端子110に前記マーキングを参考にして絡げてはんだ固定した後、各導線の余剰の端部を切断してカップリングトランス1とする。なお導体と金属端子110とのはんだ固定は各導線の余剰の端部を切断した後で行っても良い。
図1に示した形態では、コイル部品10を端子台200の上面211aと環状磁心15の下面19側とが対面するが、
図8に示すように環状磁心15の外周面16側が端子台200の上面211aと対面するように搭載しても良い。
【0034】
コイル部品10において、第1導線20に並んで、その両隣に第2導線21と第3導体22が並んで位置するので、一次巻線と二次巻線との間に発生する寄生容量の導線間の偏りが少なく、一次巻線となる第1導線の巻線M1と二次巻線となる第2導線の巻線M2との結合と、第1導線の巻線M1と二次巻線となる第3導線の巻線M3との結合との差を少なくすることが出来る。また第2導線21と第3導線22との間に第1導線20をおいて間隔を設けることが出来るので、第2導線21と第3導線22との二次巻線間の寄生容量を低下させることが出来て、高周波数帯での挿入損失の増加を抑制することが出来る。
【0035】
カップリングトランスを用いた電力線通信装置の単相三線式の電力線への接続例を前述の
図17を用いて説明する。電力線通信装置は変復調回路を備えたPLC送受信装置100とカップリングトランス1を含む。PLC送受信装置100はカップリングトランス1の一次巻線を構成する巻線M1に接続される。二次巻線を構成する巻線M2、M3は、電源の周波数では高インピーダンスで電力線通信信号の周波数では低インピーダンスであって、電力線通信信号成分を通過させる結合コンデンサC1、C2、C3を介して電力線へ接続される。巻線M2の巻始めS側は結合コンデンサC1を介して外線L1と接続し、巻終りE側は結合コンデンサC2を介して中性線Nと接続する。巻線M3の巻始めS側は結合コンデンサC2を介して中性線Nと接続し、巻終りE側は結合コンデンサC3を介して外線L2と接続する。なお結合コンデンサC1、C2、C3は電力線側の信号品質に応じて適宜省略することが出来る。
【0036】
PLC送受信装置100からの電力線通信の信号は、巻線M2を介して単相三線式の電力線の外線L1と中性線Nとの電力線間に出力され、また巻線M3を介して外線L2と中性線Nとの電力線間に出力される。一次巻線となる第1導線の巻数N1と、二次巻線となる第2導線の巻数N2と、二次巻線となる第3導線の巻数N3が、N1:N2:N3=1:1:1の関係にあれば、二次巻線側の巻線M2、M3のそれぞれから出力される信号は、一次巻線である巻線M1に入力した信号と略同じ振幅で、巻線M2、M3の極性によって同相あるは逆相の信号を出力する。また、外線L1と中性線N間、あるいは外線L2と中性線N間に重畳した電力線通信信号は巻線M1に現れてPLC送受信装置100はその信号を受信することができる。
【0037】
また、巻線M2の巻始めS側を外線L1と接続し、巻終りE側を中性線Nと接続するとともに、巻線M3の巻始めS側を外線L2と接続し、巻終りE側を中性線Nと接続すれば、巻線M1に対して巻線M2が同極性で巻線M3が逆極性となって、外線L1と中性線N間、外線L2と中性線N間のほかに、外線L1と外線L2との電力線間にも電力線通信の信号を重畳することが出来、200V系にも対応可能とすることが出来る。
【0038】
図18は三相三線式の電力線への電力線通信装置の接続例を示す回路図である。この場合もまたPLC送受信装置100はカップリングトランス1の一次巻線を構成する巻線M1に接続される。二次巻線を構成する巻線M2、M3は、巻線M2の巻始めS側が結合コンデンサC1を介してR相線R1と接続し、巻終りE側は結合コンデンサC2を介してS相線S1と接続する。巻線M3の巻始めS側は結合コンデンサC2を介してS相線S1と接続し、巻終りE側は結合コンデンサC3を介してT相線T1と接続する。このような構成によれば、三相三線式電力線のR相線R1とS相線S1との間、S相線S1とT相線T1との間、R相線R1とT相線T1との間に電力線通信信号を重畳することが出来る。
【0039】
電力線通信装置は、充電ケーブル(電力線)を介して接続する給電装置と電動車両のどちらにも用いることが出来る。
【0040】
次に、本発明の他の実施形態に係るカップリングトランスに用いる端子台ついて説明する。
図9は端子台を上方から見た斜視図であり、
図10は端子台を下方から見た斜視図である。
図11は端子台のA-A断面図である。
【0041】
図9に示した端子台200は、絶縁樹脂からなる矩形の基部210と前記基部210に設けられた金属端子110(T1~T8)を備えていて、更に基部210の三方の縁部から立設する壁部220、230、231と、前記基部210と対面し壁部220、230、231の上端側を覆う天板部240と、前記基部210の対面する側面側に設けられた金属端子110(T1~T8)を備える。金属端子110(T1~T4)が形成されたy方向の一方側が開口した箱状の形態で、金属端子110の端部はz方向にて基部210の下面211bと略同じか、僅かに低く(下面211bよりも突出する)形成されている。
【0042】
少なくとも壁部230、231の高さはz方向に見て前述のコイル部品の高さよりも高く形成されていて、基部210、壁部220、230、231と天板部240で囲まれた内空間に前述のコイル部品が収容可能となっていて、コイル部品に直接外力が作用するのを防ぐことが出来る。それによって端子台200からコイル部品が脱落するのを防ぎ、導線の巻状態の乱れによる電気的特性に変化が生じるのを抑制することが出来る。また天板部240は、少なくともコイル部品の導線を導出可能な幅で、対向する壁部230、231の間にわたって開口したスリット状開口部245を壁部220側に備えている。また壁部230、231のそれぞれは一部が壁部220側に突き出ていて、天板部240から壁部220の高さ方向の途中まで形成された突起状部235を備えている。
【0043】
壁部220側の金属端子110(T5~T8)はカップリングトランスの二次巻線と接続して高圧端子として機能する。二次巻線の端部が接続される高圧端子とコイル部品との間に壁部220が介在することで、金属端子110(T5~T8)とコイル部品との間の沿面距離を増大することが出来る。その壁部220によって沿面距離を確保することにより、金属端子110(T5~T8)とコイル部品との直線距離を小さく設定することができて、カップリングトランスを小型に構成することが出来る。
【0044】
また天板部240を平坦に形成することで、実装装置の真空チャックでチャッキングするのが容易となり、カップリングトランスの回路基板への実装において自動実装が可能となる。
【0045】
端子台200を下方から見た
図10に示すように、基部210の下面211bはコイル部品が配置される上面211aと対向し略全体が平坦となっている。なおZ軸方向における上下の関係は
図9をもとに説明するが、理解が容易なように
図10をもとにして上下関係を併記する場合がある。金属端子110(T1~T4)側では、段差部270を介して下面211bと離れた位置の4箇所に突起部260が形成されている。各突起部260には金属端子110が設けられていて、各突起部260の下端(
図10では上端)は基部210の下面211bと略同じか、僅かに低く(下面211bより落ち込む)形成され、各突起部260の段差部270から突き出た部分の形状は半円状となっている。また各突起部260の間には基部210の端部からy方向に向かって溝部250が形成されている。溝部250は基部210の上面211aから下面211bにわたって形成され、y方向に突起部260を超えて段差部270に至る間の位置まで形成される。図示した例では金属端子110(T1)と壁部231との間、金属端子110(T4)と壁部230との間にも溝部250が形成されている。
【0046】
図12は
図9から
図11で示した端子台を用いたカップリングトランスの正面図であり、
図13はその上平面図であり、
図14はその下平面図であり、
図15はその右側面図であり、
図16はその背面図である。基部210、壁部220、230、231と天板部240で囲まれた内空間に収容されたコイル部品10が接着剤(図示せず)で固定されている。
【0047】
端子台200に収容されたコイル部品10の一次巻線となる第1導線20の端部のそれぞれが溝部250を通って引き出される。一つの突起部を例にすれば
図14に示すように、第1導線20の端部20Eは溝部250aを通って基部210の下面211b側へ引き出され、段差部270を通って突起部260を巻くように曲面にそって他方の溝部250bへ向かう。第1導線20の端部20Sは溝部250bの一部を通って金属端子110に向かって導出され絡げ固定される。第1導線20の端部20Sも同様な手順にて他の金属端子110に導出され絡げ固定される。絡げ固定部の導線の端部の絡げ状態にばらつきがあってもカップリングトランスの面実装性を阻害することがないように、金属端子110のそれぞれは、絡げ固定部が基部210の下面211bよりもz方向に高い位置に形成される。また第1導線20は、溝部250や段差部270によって端子台200の下面211bから外側にはみ出すのを防いでいる。このため、カップリングトランスは端子台200の外形より大きくならず、また実装基板と向かい合う実装面側の平坦性が確保され面実装性を阻害することが無い。また突起部260によって導線を端子へ接続しやすくなり好ましい。
【0048】
第2導線21の端部21S、21Eと第3導線22の端部22S、22Eとは、
図13に示すように端子台200の上側のスリット状開口部245を通されて、端子台200の天板部240から壁部220の高さ方向の途中まで形成された突起状部235の間で壁部220にそって金属端子110(T5からT8)へ向けて導出されて絡げ固定される。突起状部235は第2導線21と第3導線22が外側にはみ出ない程度にy方向に突き出るように形成されていて、導線に外力が作用することで断線するといった問題を抑制することができる。また、第2導線21と第3導線22は第1導線20よりも金属端子110までの長さが長いため、カップリングトランスの製造後に第2導線21と第3導線22が振動によって端子台200の壁部220と干渉し擦れて絶縁皮膜が損傷しないように、壁部220のz方向の上端部側で導線が動かないように接着固定するのが好ましい。
【0049】
以上説明した本実施の実施形態に係るカップリングトランス1によれば、面実装が容易であるとともに、コイル部品10に直接外力が作用するのを防ぐことが出来、また導線の端部を端子台200により保護することが出来て、外力によって導線が断線するなどの問題を回避することができる。
【実施例】
【0050】
次に本発明の実施例について説明する。なお従前の説明と重複する内容は適宜省略して説明する。コイル部品10にNiZn系フェライト(日立金属製NB65S材)からなる環状磁心15(外径φ8mm-内径φ4mm-厚み4mm)を使って、
図12から
図16に示すカップリングトランス1を作製した。環状磁心15はET積を1.5〔Vμs〕として、磁性材料、磁心形状を選定した。また等価回路は
図2と同様である。第1導線20、第2導線21と第3導線22の巻数はそれぞれ8ターンとした。また各導線には、線径が0.2φ素線の3層絶縁電線を用いた。また端子台200の構成する絶縁樹脂はPPS樹脂を使用し、金属端子110にはコバールを使用した。
【0051】
コイル部品10の構成を
図3で示したものと同じとし、一次巻線となる第1導線20を挟むように二次巻線を構成する第2導線21と第3導線22とが両隣に並んで位置するように巻回したカップリングトランスを作成した。このカップリングトランスを試料Aとする。また比較のため、
図19に示すように一次巻線を構成する第1導線20の巻線M1と二次巻線を構成する第2巻線21の巻線M2と第3巻線22の巻線M3とをそれぞれ分離して巻回したコイル部品を使ってカップリングトランスを作成した。このカップリングトランスを試料Bとする。また
図20に示すように一次巻線を構成する第1導線20の巻線M1を、二次巻線を構成する第2巻線21の巻線M2及び第3巻線22の巻線M3から分離して巻回し、第2巻線M2と第3巻線M3をバイファイラ巻としたコイル部品を使ってカップリングトランスを作成した。このカップリングトランスを試料Cとする。得られたカップリングトランスの試料AからCを使って、漏洩インダクタンスと挿入損失の周波数特性を評価した。
【0052】
(漏洩インダクタンス)
試料AからCのカップリングトランスについて、アジレントテクノロジー社製のインピーダンスアナライザ4194Aを用いて漏洩インダクタンスを評価した結果を表1に示す。測定条件は、OSCレベル0.1V、周波数1MHzである。また表には二次巻線側の第2導線21の巻線M2をショートし第3導線22の巻線M3をオープンとした条件と、二次巻線側の第2導線21の巻線M2をオープンとし第3導線22の巻線M3をショートとした2条件での一次側のインダクタンスを示している。また試料Aを使って、測定器と接続するカップリングトランスの端子を替えて、第2導線21の巻線M2を一次巻線とし第1導線20の巻線M1と第3導線22の巻線M3を二次巻線とした、一次巻線を構成する導線が二次巻線を構成する導線で挟まれない条件(表中の比較例1)でも評価した。
【0053】
【0054】
漏洩インダクタンスは、第1導線20と第2導線21、第3導線22を分離して巻回した比較例2の試料B、比較例3の試料Cが大きく、実施例の試料Aがもっとも小さい結果であった。また第1導線20の巻線M1を二次巻線とし第2導線21の巻線M2を一次巻線とした比較例1の場合は実施例よりも漏洩インダクタンスは僅かに増加した。
【0055】
(挿入損失)
試料AからCのカップリングトランスについて、アジレントテクノロジー社製のインピーダンスアナライザ4194Aを用いて挿入損失を周波数1MHzから40MHzで評価した。
図21に挿入損失の評価方法を示す。結果を
図22に示す。比較例2の試料B、比較例3の試料Cでは、1MHzから40MHzの周波数で挿入損失が実施例より大きく、周波数が高くなるに従ってその差が大きくなった。また比較例1では10MHzまでは実施例1と略同程度の挿入損失であるが、10MHzを超える周波数では挿入損失が実施例より大きく、周波数が高くなるに従ってその差が大きくなった。
【0056】
本発明によれば、漏洩インダクタンスが小さく、10MHzを超える周波数でも挿入損失の増加が抑制されたカップリングトランスを得ることが出来る。
【符号の説明】
【0057】
1 カップリングトランス
10 コイル部品
15 環状磁心
20 第1導線
21 第2導線
22 第3導線
110 金属端子
200 端子台