(19)【発行国】日本国特許庁(JP)
(12)【公報種別】特許公報(B2)
(11)【特許番号】
(24)【登録日】2023-07-24
(45)【発行日】2023-08-01
(54)【発明の名称】非水電解液用添加剤、非水電解液、及びリチウムイオン二次電池
(51)【国際特許分類】
H01M 10/0567 20100101AFI20230725BHJP
H01M 4/131 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/505 20100101ALI20230725BHJP
H01M 4/525 20100101ALI20230725BHJP
H01M 10/052 20100101ALI20230725BHJP
【FI】
H01M10/0567
H01M4/131
H01M4/505
H01M4/525
H01M10/052
(21)【出願番号】P 2020513198
(86)(22)【出願日】2019-03-28
(86)【国際出願番号】 JP2019013613
(87)【国際公開番号】W WO2019198531
(87)【国際公開日】2019-10-17
【審査請求日】2022-01-26
(31)【優先権主張番号】P 2018074781
(32)【優先日】2018-04-09
(33)【優先権主張国・地域又は機関】JP
【国等の委託研究の成果に係る記載事項】(出願人による申告)平成25年度独立行政法人新エネルギー・産業技術総合開発機構(NEDO)「先進・革新蓄電池材料評価技術開発」委託研究、産業技術力強化法第19条の規定の適用を受ける特許出願
(73)【特許権者】
【識別番号】000003986
【氏名又は名称】日産化学株式会社
(74)【代理人】
【識別番号】110002240
【氏名又は名称】弁理士法人英明国際特許事務所
(72)【発明者】
【氏名】柴野 佑紀
【審査官】鈴木 雅雄
(56)【参考文献】
【文献】特開2014-175192(JP,A)
【文献】特開2014-067585(JP,A)
【文献】特開2017-004690(JP,A)
【文献】特表2016-532989(JP,A)
【文献】特開2014-078433(JP,A)
【文献】特表2012-504313(JP,A)
【文献】特表2009-545129(JP,A)
【文献】特開2004-342537(JP,A)
(58)【調査した分野】(Int.Cl.,DB名)
H01M 10/0567
H01M 4/131
H01M 4/505
H01M 4/525
H01M 10/052
CAplus/REGISTRY(STN)
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(3)~(5)のいずれかで表される化合物からなる非水電解液用添加剤。
【化1】
(式中、R
1
は、-C(=O)-O-R
x
、水素原子、Z
1
で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2
で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2
で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
R
2
~R
5
は、それぞれ独立に、水素原子、Z
1
で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2
で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、Z
2
で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ボロン酸基、スルホン酸基、リン酸基、シリル基、チオール基、-O-R
A
、-O-C(=O)-R
B
、又は-C(=O)-O-R
C
であり、R
A
、R
B
及びR
C
は、それぞれ独立に、Z
1
で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2
で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2
で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
R
xは、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
Z
1は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ
3で置換されていてもよい、炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基若しくは炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
Z
2は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ
3で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基であり;
Z
3は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、シリル基、又はチオール基であ
る。)
【請求項2】
R
1が、-C(=O)-O-R
x又は水素原子である請求項
1記載の非水電解液用添加剤。
【請求項3】
R
2~R
5が、全て水素原子である請求項
1又は
2記載の非水電解液用添加剤。
【請求項4】
請求項1~
3のいずれか1項記載の非水電解液用添加剤を含む非水電解液。
【請求項5】
前記添加剤の含有量が、0.01~10質量%である請求項
4記載の非水電解液。
【請求項6】
前記添加剤の含有量が、0.1~1質量%である請求項
5記載の非水電解液。
【請求項7】
請求項
4~
6のいずれか1項記載の非水電解液、並びにリチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極を備えるリチウムイオン二次電池。
【請求項8】
4.35~5Vの範囲で充電して使用する請求項
7記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項9】
前記正極に含まれる正極活物質が、リチウム複合層状酸化物である請求項
7又は
8記載のリチウムイオン二次電池。
【請求項10】
前記リチウム複合層状酸化物が、下記式(7)で表される化合物である請求項
9記載のリチウムイオン二次電池。
Li(Ni
aCo
bMn
c)O
2 (7)
(式中、a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1及びa+b+c=1を満たす数である。)
【請求項11】
式(7)で表される化合物が、LiCoO
2である請求項1
0記載のリチウムイオン二次電池。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、非水電解液用添加剤、非水電解液、及びリチウムイオン二次電池に関する。
【背景技術】
【0002】
スマートフォン、デジタルカメラ、携帯ゲーム機等の携帯電子機器の小型軽量化や高機能化の要求に伴い、近年、高性能電池の開発が積極的に進められており、充電により繰り返し使用できる二次電池の需要が大きく伸びている。中でも、リチウムイオン二次電池は、高エネルギー密度、高電圧を有し、また、充放電時におけるメモリー効果がないこと等から、現在最も精力的に開発が進められている二次電池である。また、近年の環境問題への取り組みから、電気自動車の開発も活発に進められており、その動力源としての二次電池には、より高い性能が求められるようになってきている。
【0003】
電気自動車やプラグインハイブリッド車のような環境対応車の電源、更には大型のエネルギー貯蔵用蓄電システム等のインフラ機器に二次電池を適用する場合には、性能向上とともに、これまで以上の高い信頼性と安全性が求められる。しかしながら、電池の性能を上げるために電池の高エネルギー密度化や高出力化を行うと、必然的に電池の異常加熱時や短絡時といった状況において電池の熱暴走が起こりやすくなり、安全性が低下する傾向にある。
【0004】
リチウムイオン二次電池は、リチウムを吸蔵・放出できる正極及び負極と、これらの間に介在するセパレータとを容器内に収容し、その中に電解液(リチウムイオンポリマー二次電池の場合は液状電解液のかわりにゲル状又は全固体型の電解質)を満たした構造を有する。正極活物質としてはLiCoO2等のリチウム複合酸化物が用いられ、負極活物質としては黒鉛等の炭素材料が用いられている。このようなリチウムイオン二次電池は、一般的に作動電圧を2.5~4.2Vとして用いられている。
【0005】
前述したように、リチウムイオン二次電池の適用範囲は拡大を続けており、更なる性能向上を目的として、充電電圧を4.2Vよりも高くして、正極活物質を高エネルギー密度化することが検討されている。
【0006】
しかしながら、充電電圧を高電圧化すると、特に高温における正極の表面近傍と電解液との反応が加速される等の要因により、電池の内部短絡時のような異常な状況において電池の熱暴走が起こりやすくなり、電池の安全性が著しく低下する。
【0007】
リチウムイオン二次電池の短絡に対する安全性を向上させる試みが、種々なされている。例えば、特許文献1や2では電解液にリン系の材料、特許文献3や4では電解液にイオン液体を添加し、電解液を難燃化することで、電池の安全性を向上させる試みがなされている。しかし、これらの材料のみでは、イオン伝導性が低く、電池性能が低下するため、一般的にリチウムイオン二次電池で主溶媒として用いられるカーボネート系溶媒と併用することが必須となる。これらカーボネート系溶媒は可燃性であるため、非水電解液を難燃化するためには、リン系の材料やイオン液体を大量に添加する必要があり、結果としてカーボネート系溶媒のみを用いた場合によりも電池性能が悪化し、またコストも高くなる。
【0008】
したがって、従来の有機電解質と添加剤の短所を克服するため、電極物質を改質したり、添加剤を含む新しい電解質を開発したりする試みが盛んに行われている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【文献】特開平4-184870号公報
【文献】特開2005-116424号公報
【文献】特開平11-297355号公報
【文献】特開2006-19070号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、このような事情に鑑みてなされたものであり、高電圧まで充電して使用するリチウムイオン二次電池であって、短絡時の安全性が向上したリチウムイオン二次電池を作製することができる、非水電解液用添加剤、非水電解液、及びそれを用いたリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者は、前記目的を達成するために鋭意検討を重ねた結果、特定の構造を有する添加剤を含む非水電解液を用いることで、高電圧まで充電して使用するリチウムイオン電池の短絡時の安全性が向上することを見出し、本発明を完成させた。
【0012】
すなわち、本発明は、下記非水電解液用添加剤、非水電解液、及びリチウムイオン二次電池を提供する。
1.少なくとも1つの芳香環を有しかつアミノ基を有しない化合物の該芳香環の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、下記式(1)で表される基で置換された化合物からなる非水電解液用添加剤。
【化1】
(式中、R
xは、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
Z
1は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ
3で置換されていてもよい、炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基若しくは炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
Z
2は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ
3で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基であり;
Z
3は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、シリル基、又はチオール基であり;
破線は、結合手である。)
2.更に、前記芳香環の炭素原子に結合する残りの水素原子の少なくとも1つが、下記式(2)で表される基で置換されている1の非水電解液用添加剤。
【化2】
(式中、R
yは、水素原子、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
Z
1、Z
2及び破線は、前記と同じである。)
3.R
yが、水素原子である2の非水電解液用添加剤。
4.下記式(3)~(5)のいずれかで表される化合物からなる1~3のいずれかの非水電解液用添加剤。
【化3】
(式中、R
1は、-C(=O)-O-R
x、水素原子、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
R
2~R
5は、それぞれ独立に、水素原子、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ボロン酸基、スルホン酸基、リン酸基、シリル基、チオール基、-O-R
A、-O-C(=O)-R
B、又は-C(=O)-O-R
Cであり、R
A、R
B及びR
Cは、それぞれ独立に、Z
1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z
2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ
2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基であり;
R
x、Z
1及びZ
2は、前記と同じである。)
5.R
1が、-C(=O)-O-R
x又は水素原子である4の非水電解液用添加剤。
6.R
2~R
5が、全て水素原子である4又は5の非水電解液用添加剤。
7.1~6のいずれかの非水電解液用添加剤を含む非水電解液。
8.前記添加剤の含有量が、0.01~10質量%である7の非水電解液。
9.前記添加剤の含有量が、0.1~1質量%である8の非水電解液。
10.7~9のいずれかの非水電解液、並びにリチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極を備えるリチウムイオン二次電池。
11.4.35~5Vの範囲で充電して使用する10のリチウムイオン二次電池。
12.前記正極に含まれる正極活物質が、リチウム複合層状酸化物である10又は11のリチウムイオン二次電池。
13.前記リチウム複合層状酸化物が、下記式(7)で表される化合物である12のリチウムイオン二次電池。
Li(Ni
aCo
bMn
c)O
2 (7)
(式中、a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1及びa+b+c=1を満たす数である。)
14.式(7)で表される化合物が、LiCoO
2である13のリチウムイオン二次電池。
【発明の効果】
【0013】
本発明の添加剤を用いたリチウムイオン二次電池は、高電圧まで充電しているにもかかわらず、特定の構造を有する添加剤を含む非水電解液を用いていることにより、短絡に対する安全性が向上している。そのため、本発明の添加剤を用いたリチウムイオン二次電池によって、安全性の高い電気自動車やプラグインハイブリッド車のような環境対応車の電源、更には大型のエネルギー貯蔵用蓄電システム等のインフラ機器が実現できる。
【発明を実施するための形態】
【0014】
[非水電解液用添加剤]
本発明の非水電解液用添加剤は、少なくとも1つの芳香環を有しかつアミノ基を有しない化合物の該芳香環の炭素原子に結合する水素原子の少なくとも1つが、下記式(1)で表される基で置換された化合物からなるものである。
【化4】
【0015】
式(1)中、破線は、結合手である。Rxは、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基である。前記化合物が式(1)で表される基を2つ以上有する場合、各Rxは、互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
【0016】
Z1は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ3で置換されていてもよい、炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基若しくは炭素数2~60の1価複素環含有基である。Z2は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、チオール基、シリル基、又はZ3で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基である。Z3は、ハロゲン原子、アミノ基、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、オキソ基、カルボキシ基、スルホ基、リン酸基、シリル基、又はチオール基である。
【0017】
前記1価脂肪族炭化水素基は、脂肪族炭化水素の1つの水素原子が脱離して得られる基であり、その具体例としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。また、これらの基は、直鎖状、分岐状、環状のいずれでもよい。
【0018】
前記アルキル基としては、メチル基、エチル基、n-プロピル基、イソプロピル基、n-ブチル基、イソブチル基、sec-ブチル基、tert-ブチル基、n-ペンチル基、n-ヘキシル基、n-ヘプチル基、n-オクチル基、n-ノニル基、n-デシル基等の直鎖状又は分岐状アルキル基;シクロプロピル基、シクロブチル基、シクロペンチル基、シクロヘキシル基、シクロヘプチル基、シクロオクチル基、シクロノニル基、シクロデシル基、ビシクロブチル基、ビシクロペンチル基、ビシクロヘキシル基、ビシクロヘプチル基、ビシクロオクチル基、ビシクロノニル基、ビシクロデシル基等の環状アルキル基が挙げられる。
【0019】
前記アルケニル基としては、ビニル基、1-プロペニル基、2-プロペニル基、1-メチルビニル基、1-ブテニル基、2-ブテニル基、3-ブテニル基、2-メチル-1-プロペニル基、2-メチル-2-プロペニル基、1-エチルビニル基、1-メチル-1-プロペニル基、1-メチル-2-プロペニル基、1-ペンテニル基、1-デセニル基、1-エイコセニル基等が挙げられる。
【0020】
前記アルキニル基としては、エチニル基、1-プロピニル基、2-プロピニル基、n-1-ブチニル基、2-ブチニル基、3-ブチニル基、1-メチル-2-プロピニル基、1-ペンチニル基、2-ペンチニル基、3-ペンチニル基、4-ペンチニル基、1-メチル-3-ブチニル基、2-メチル-3-ブチニル基、3-メチル-1-ブチニル基、1,1-ジメチル-2-プロピニル基、1-ヘキシニル基、1-デシニル基、1-ペンタデシニル基、1-エイコシニル基等が挙げられる。
【0021】
前記1価芳香族炭化水素基は、芳香族炭化水素の1つの水素原子が脱離して得られる基であり、アリール基、アラルキル基等が挙げられる。
【0022】
前記アリール基としては、フェニル基、メチルフェニル基、エチルフェニル基、n-プロピルフェニル基、イソプロピルフェニル基、ジメチルフェニル基、ビフェニリル基、ナフチル基、アントリル基、フェナントリル基等が挙げられる。
【0023】
前記アラルキル基としては、ベンジル基、メチルフェニルメチル基、エチルフェニルメチル基、n-プロピルフェニルメチル基、イソプロピルフェニルメチル基、ブチルフェニルメチル基、イソブチルフェニルメチル基、フェニルエチル基、ナフチルメチル基、フェニルシクロヘキシル基等が挙げられる。
【0024】
前記1価複素環含有基は、複素環式化合物の1つの水素原子が脱離して得られる基である。前記1価複素環含有基としては、2-チエニル基、3-チエニル基、2-フラニル基、3-フラニル基、2-オキサゾリル基、4-オキサゾリル基、5-オキサゾリル基、3-イソオキサゾリル基、4-イソオキサゾリル基、5-イソオキサゾリル基、2-チアゾリル基、4-チアゾリル基、5-チアゾリル基、3-イソチアゾリル基、4-イソチアゾリル基、5-イソチアゾリル基、2-イミダゾリル基、4-イミダゾリル基、2-ピリジル基、3-ピリジル基、4-ピリジル基等が挙げられる。
【0025】
これらのうち、Rxとしては、Z1で置換されていてもよい炭素数1~12のアルキル基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~12のアルケニル基、Z1で置換されていてもよい炭素数2~12のアルキニル基、Z2で置換されていてもよい炭素数7~20のアラルキル基が好ましく、従来アミノ基の保護基として用いられる置換基である、例えばtert-ブチル基、アリル基、ベンジル基、メチル基、2,2,2-トリクロロエチル基、フルオレニルメチル基、フルオレニルエチル基、2-トリメチルシリルエチル基等がより好ましく、tert-ブチル基が最も好ましい。
【0026】
前記化合物は、更に、前記芳香環の炭素原子に結合する残りの水素原子の少なくとも1つが下記式(2)で表される基で置換されていてもよい。
【化5】
【0027】
式(2)中、破線は、結合手である。Ryは、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基である。Z1、Z2及び結合手は、前記と同じである。前記化合物が式(2)で表される基を2つ以上有する場合、各Ryは、互いに同一であってもよく異なっていてもよい。
【0028】
前記1価脂肪族炭化水素基、1価芳香族炭化水素基及び1価複素環含有基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。これらのうち、Ryとしては、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数7~20のアラルキル基が好ましく、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基がより好ましく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基がより一層好ましく、水素原子が最も好ましい。
【0029】
前記化合物は、式(1)で表される基を少なくとも2つ含むことが、又は式(1)で表される基を少なくとも1つと式(2)で表される基を少なくとも1つとを含むことが好ましい。これによって、安全性を向上させつつ、電池特性を悪化させないような非水電解液とすることができる。なお、式(1)で表される基及び式(2)で表される基の数の上限は、可能な置換数である限り特に限定されないが、製造の観点から通常6程度である。
【0030】
前記化合物として、下記式(3)~(5)のいずれかで表されるものが好ましい。
【化6】
【0031】
式(3)~(5)中、R1は、-C(=O)-O-Rx、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基である。R2~R5は、それぞれ独立に、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ボロン酸基、スルホン酸基、リン酸基、シリル基、チオール基、-O-RA、-O-C(=O)-RB、又は-C(=O)-O-RCであり、RA、RB及びRCは、それぞれ独立に、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基である。なお、Rx、Z1及びZ2は、前記と同じである。
【0032】
前記1価脂肪族炭化水素基、芳香族炭化水素基及び複素環含有基としては、前述したものと同様のものが挙げられる。
【0033】
R1としては、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数7~20のアラルキル基が好ましく、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基がより好ましく、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数7~20のアルキル基がより一層好ましく、-C(=O)-O-Rx又は水素原子が更に好ましい。R2~R5としては、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数7~20のアラルキル基、-O-RA、-O-C(=O)-RB、-C(=O)-O-RCが好ましく、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数2~12のアルキルオキシカルボニル基、炭素数7~12のアルキルカルボニルオキシ基がより好ましく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基がより一層好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R2~R5の全てが水素原子であることが好ましい。
【0034】
前記化合物として、下記式(6)で表されるものも好ましい。
【化7】
【0035】
式(6)中、R11は、-C(=O)-O-Rx、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基である。R12~R19は、それぞれ独立に、水素原子、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の1価複素環含有基、ハロゲン原子、ヒドロキシ基、ニトロ基、シアノ基、ボロン酸基、スルホン酸基、リン酸基、シリル基、チオール基、-O-RA、-O-C(=O)-RB、又は-C(=O)-O-RCである。なお、RA、RB、RC、Z1及びZ2は、前記と同じである。
【0036】
式(6)中、Xは、単結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合、エーテル結合、チオエーテル結合、-N(RD)-(式中、RDは、水素原子、炭素数1~60の1価脂肪族炭化水素基又は炭素数6~60の1価芳香族炭化水素基である。)、カーボネート基、カルボニル基、スルホニル基、Z1で置換されていてもよい炭素数1~60の2価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~60の2価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~60の2価複素環含有基である。
【0037】
前記2価脂肪族炭化水素基は、前述した1価脂肪族炭化水素基から更に水素原子が1つ脱離した基であり、その具体例としては、メチレン基、エタン-1,1-ジイル基、エタン-1,2-ジイル基、プロパン-1,2-ジイル基、プロパン-1,3-ジイル基、ブタン-1,4-ジイル基、ペンタン-1,5-ジイル基、ヘキサン-1,6-ジイル基等のアルカンジイル基;シクロヘキサン-1,1-ジイル基、シクロヘキサン-1,2-ジイル基、シクロヘキサン-1,4-ジイル基等のシクロアルカンジイル基;エテン-1,1-ジイル基、エテン-1,2-ジイル基、2-ブテン-1,4-ジイル基等のアルケンジイル基;エチン-1,2-ジイル基等のアルキンジイル基等が挙げられる。
【0038】
前記2価芳香族炭化水素基は、前述した1価芳香族炭化水素基から更に水素原子が1つ脱離した基であり、その具体例としては、フェニレン基、メチルフェニレン基、エチルフェニレン基、n-プロピルフェニレン基、イソプロピルフェニレン基、ナフタレンジイル基、ビフェニルジイル基、ターフェニルジイル基等が挙げられる。
【0039】
前記2価複素環含有基は、前述した1価複素環含有基から更に水素原子が1つ脱離した基であり、その具体例としては、チオフェンジイル基、フランジイル基、オキサゾリンジイル基、イソオキサゾリンジイル基、チアゾールジイル基、イソチアゾールジイル基、イミダゾールジイル基、ピリジンジイル基等が挙げられる。
【0040】
R11としては、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数7~20のアラルキル基が好ましく、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数7~12のアラルキル基がより好ましく、-C(=O)-O-Rx、水素原子、炭素数1~4のアルキル基がより一層好ましく、-C(=O)-O-Rx又は水素原子が更に好ましい。R12~R19としては、水素原子、炭素数1~20のアルキル基、炭素数2~20のアルケニル基、炭素数2~20のアルキニル基、炭素数2~20のアラルキル基、-O-RA、-O-C(=O)-RB、-C(=O)-O-RCが好ましく、水素原子、炭素数1~12のアルキル基、炭素数2~12のアラルキル基、炭素数1~12のアルコキシ基、炭素数2~12のアルキルオキシカルボニル基、炭素数2~12のアルキルカルボニルオキシ基がより好ましく、水素原子、炭素数1~4のアルキル基がより一層好ましく、水素原子が最も好ましい。特に、R12~R19の全てが水素原子であることが好ましい。
【0041】
また、Xとしては、単結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合、エーテル結合、チオエーテル結合、-N(RE)-(式中、REは、水素原子、炭素数1~6の1価脂肪族炭化水素基又は炭素数6~12の1価芳香族炭化水素基である。)、カーボネート基、カルボニル基、スルホニル基、Z1で置換されていてもよい炭素数1~6の2価脂肪族炭化水素基、Z2で置換されていてもよい炭素数6~12の2価芳香族炭化水素基、又はZ2で置換されていてもよい炭素数2~12の2価複素環含有基が好ましく、単結合、エステル結合、アミド結合、ウレタン結合、尿素結合、エーテル結合、チオエーテル結合、-N(RF)-(式中、RFは、水素原子、又は炭素数1~6の1価脂肪族炭化水素基である。)、カーボネート基、カルボニル基、スルホニル基がより好ましく、単結合、エーテル結合、チオエーテル結合、-NH-がより一層好ましく、単結合が最も好ましい。
【0042】
[非水電解液]
本発明の非水電解液は、電解質、非水系有機溶媒、及び前記添加剤を含む。
【0043】
前記電解質は、リチウムイオン二次電池用として従来公知のものを使用することができる。その具体例としては、例えば、4フッ化ホウ酸リチウム、6フッ化リン酸リチウム、過塩素酸リチウム、トリフルオロメタンスルホン酸リチウム等のリチウム塩;テトラメチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラプロピルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、メチルトリエチルアンモニウムヘキサフルオロホスフェート、テトラエチルアンモニウムテトラフルオロボレート、テトラエチルアンモニウムパークロレート等の4級アンモニウム塩、リチウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド等のリチウムイミド;リチウムビス(オキサラト)ボレート等のリチウムボレート塩等が挙げられる。前記非水電解液中、前記電解質の含有量は、0.01~5mol/Lが好ましく、0.1~3mol/Lがより好ましい。
【0044】
前記非水系有機溶媒としては、リチウムイオン二次電池用として従来公知のものを使用することができる。その具体例としては、プロピレンカーボネート、エチレンカーボネート、ブチレンカーボネート等のアルキレンカーボネート;ジメチルカーボネート、メチルエチルカーボネート、ジエチルカーボネート等のジアルキルカーボネート;アセトニトリル等のニトリル類;ジメチルホルムアミド等のアミド類等が挙げられる。
【0045】
前記非水電解液中、前記添加剤の含有量は、0.01~10質量%が好ましく、0.1~1質量%がより好ましい。前記添加剤の含有量が前記範囲であれば、安全性を向上させつつ、電池特性を悪化させないような非水電解液とすることができる。
【0046】
前記非水電解液は、更に、リチウムイオン二次電池用として従来公知の添加剤(以下、その他の添加剤ともいう。)を含んでいてもよい。その他の添加剤としては、ビニレンカーボネート、ビニルエチレンカーボネート、フルオロエチレンカーボネート等のカーボネート;1-プロペン-1,3-スルトン等の含硫黄化合物;トリメチルホスフェート、トリエチルホスフェート等のリン酸エステル;トリメチルホスファイト、トリエチルホスファイト等の亜リン酸エステル;モノエトキシペンタフルオロシクロトリホスファゼン等の環状ホスファゼン化合物;シクロヘキシルベンゼン、ビフェニル等の芳香族化合物等が挙げられる。その他の添加剤の含有量は、本発明の効果を損なわない限り、特に限定されない。
【0047】
[リチウムイオン二次電池]
本発明のリチウムイオン二次電池は、前記非水電解液、並びにリチウムを吸蔵・放出することが可能な正極及び負極を備えるものである。
【0048】
[正極及び負極]
正極及び負極(以下、これらを総称して電極という。)は、集電体の上に電極合材層を備えるものである。また、前記集電体と電極合材層との間に、これらの間の密着力を高めたり接触界面の抵抗を下げたりするため、必要に応じてアンダーコート層を形成してもよい。
【0049】
前記集電体としては、リチウムイオン二次電池用として従来公知のものを使用することができる。その具体例としては、銅、アルミニウム、チタン、ステンレススチール、ニッケル、金、銀、これらの合金、カーボン材料、金属酸化物、導電性高分子等の薄膜が挙げられる。前記集電体の厚さは、特に限定されないが、本発明においては1~100μmが好ましい。
【0050】
前記電極合材層は、活物質、バインダーポリマー及び必要に応じて溶媒を含む電極スラリーを、集電体(アンダーコート層を形成する場合はアンダーコート層)上に塗布し、自然又は加熱乾燥して形成することができる。
【0051】
前記活物質としては、リチウムイオン二次電池に用いられている各種活物質を用いることができる。例えば、正極活物質としてリチウムイオンを吸着・離脱可能なカルコゲン化合物又はリチウムイオン含有カルコゲン化合物、ポリアニオン系化合物、硫黄単体及びその化合物等を用いることができる。
【0052】
このようなリチウムイオンを吸着離脱可能なカルコゲン化合物としては、例えば、FeS2、TiS2、MoS2、V2O6、V6O13、MnO2等が挙げられる。
【0053】
リチウムイオン含有カルコゲン化合物としては、例えば、LixNiyM1-yO2(ただし、Mは、Co、Mn、Ti、Cr、V、Al、Sn、Pb、及びZnから選ばれる少なくとも1種以上の金属元素であり、0.05≦x≦1.10、0.5≦y≦1.0)で表される化合物が挙げられる。このような化合物としては、LiCoO2、LiMnO2、LiMn2O4、LiMo2O4、LiV3O8、LiNiO2等が挙げられる。
【0054】
ポリアニオン系化合物としては、例えば、リン酸鉄リチウム(LiFePO4)等が挙げられる。硫黄化合物としては、例えばLi2S、ルベアン酸等が挙げられる。
【0055】
これらのうち、正極活物質としては、リチウムイオン含有カルコゲン化合物、特にリチウム複合層状酸化物が好ましい。前記リチウム複合層状酸化物としては、下記式(7)で表される化合物が好ましい。
Li(NiaCobMnc)O2 (7)
(式中、a、b及びcは、0≦a≦1、0≦b≦1、0≦c≦1及びa+b+c=1を満たす数である。)
【0056】
式(7)で表される化合物としては、LiCoO2、LiMnO2、LiNiO2、式(7)にてa=1/3、b=1/3及びc=1/3である化合物、式(7)にてa=0.5、b=0.2及びc=0.3である化合物、式(7)にてa=0.6、b=0.2及びc=0.2である化合物、式(7)にてa=0.8、b=0.1及びc=0.1である化合物等が好ましく、LiCoO2がより好ましい。
【0057】
一方、前記負極を構成する負極活物質としては、アルカリ金属、アルカリ合金、リチウムイオンを吸蔵・放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の単体、酸化物、硫化物、窒化物、又はリチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料を使用することができる。
【0058】
アルカリ金属としては、Li、Na、K等が挙げられ、アルカリ金属合金としては、例えば、Li-Al、Li-Mg、Li-Al-Ni、Na-Hg、Na-Zn等が挙げられる。
【0059】
リチウムイオンを吸蔵・放出する周期表4~15族の元素から選ばれる少なくとも1種の元素の単体としては、例えば、ケイ素やスズ、アルミニウム、亜鉛、ヒ素等が挙げられる。
【0060】
同じく酸化物としては、例えば、スズケイ素酸化物(SnSiO3)、リチウム酸化ビスマス(Li3BiO4)、リチウム酸化亜鉛(Li2ZnO2)、リチウム酸化チタン(Li4Ti5O12)、酸化チタン等が挙げられる。
【0061】
同じく硫化物としては、リチウム硫化鉄(LixFeS2(0≦x≦3))、リチウム硫化銅(LixCuS(0≦x≦3))等が挙げられる。
【0062】
同じく窒化物としては、リチウム含有遷移金属窒化物が挙げられ、具体的には、LixMyN(M=Co、Ni、Cu、0≦x≦3、0≦y≦0.5)、リチウム鉄窒化物(Li3FeN4)等が挙げられる。
【0063】
リチウムイオンを可逆的に吸蔵・放出可能な炭素材料としては、グラファイト、カーボンブラック、コークス、ガラス状炭素、炭素繊維、カーボンナノチューブ、これらの焼結体等が挙げられる。
【0064】
バインダーポリマーとしては、公知の材料から適宜選択して用いることができ、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリビニルピロリドン、ポリテトラフルオロエチレン、テトラフルオロエチレン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体、フッ化ビニリデン-ヘキサフルオロプロピレン共重合体(P(VDF-HFP))、フッ化ビニリデン-塩化3フッ化エチレン共重合体(P(VDF-CTFE))、ポリビニルアルコール、ポリイミド、エチレン-プロピレン-ジエン三元共重合体、スチレン-ブタジエンゴム、CMC、ポリアクリル酸(PAA)、ポリアニリン等の導電性高分子等が挙げられる。これらのバインダーポリマーは、1種単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0065】
なお、バインダーポリマーの添加量は、活物質100質量部に対し、0.1~20質量部、特に、1~10質量部が好ましい。
【0066】
溶媒としては、公知のものを使用することができるが、例えば、水;テトラヒドロフラン(THF)、ジエチルエーテル、1,2-ジメトキシエタン(DME)等のエーテル類;塩化メチレン、クロロホルム、1,2-ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;N,N-ジメチルホルムアミド(DMF)、N,N-ジメチルアセトアミド(DMAc)、N-メチル-2-ピロリドン(NMP)等のアミド類;アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン類;メタノール、エタノール、イソプロパノール、n-プロパノール、ブタノール等のアルコール類;n-ヘプタン、n-ヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類;ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類;エチレングリコールモノエチルエーテル、エチレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテル等のグリコールエーテル類;エチレングリコール、プロピレングリコール等のグリコール類等の有機溶媒が挙げられる。これらの溶媒は、1種単独で又は2種以上を混合して用いることができる。
【0067】
これらの溶媒からバインダーの種類に応じて適宜選択すればよいが、PVdF等の非水溶性のバインダーの場合はNMPが好適であり、PAA等の水溶性のバインダーの場合は水が好適である。
【0068】
なお、前記電極スラリーは、導電助剤を含んでいてもよい。導電助剤としては、例えば、カーボンブラック、ケッチェンブラック、アセチレンブラック、カーボンウイスカー、カーボンナノチューブ、炭素繊維、天然黒鉛、人造黒鉛、酸化チタン、酸化ルテニウム、アルミニウム、ニッケル等が挙げられる。
【0069】
電極スラリーの塗布方法としては、例えば、スピンコート法、ディップコート法、フローコート法、インクジェット法、スプレーコート法、バーコート法、グラビアコート法、スリットコート法、ロールコート法、フレキソ印刷法、転写印刷法、刷毛塗り、ブレードコート法、エアーナイフコート法等が挙げられる。これらのうち、作業効率等の点から、ディップコート法、バーコート法、ブレードコート法、スリットコート法、ロールコート法、グラビアコート法、フレキソ印刷法が好適である。
【0070】
また、電極スラリーを加熱乾燥する場合の温度も任意であるが、50~400℃程度が好ましく、80~150℃程度がより好ましい。
【0071】
前記アンダーコート層としては、電極用として公知のものを使用することができるが、例えば、国際公開第2016/194747号等に記載のものを使用することができる。
【0072】
電極合材層の形成部位は、用いるリチウムイオン二次電池のセル形態等に応じて適宜設定すればよく、集電体(又はアンダーコート層)の表面全部でもその一部でもよいが、ラミネートセル等に使用する目的で、金属タブと電極とを超音波溶接等の溶接により接合した電極構造体として用いる場合には、溶接部を残すため集電体(又はアンダーコート層)の表面の一部に電極スラリーを塗布して電極合材層を形成することが好ましい。特に、ラミネートセル用途では、集電体(又はアンダーコート層)の周縁を残したそれ以外の部分に電極スラリーを塗布して電極合材層を形成することが好適である。
【0073】
前記電極合材層の厚さは、電池の容量と抵抗のバランスを考慮すると、10~500μmが好ましく、10~300μmがより好ましく、20~100μmがより一層好ましい。
【0074】
また、電極は、必要に応じてプレスすることができる。プレス法は、一般に採用されている方法を用いることができるが、特に金型プレス法やロールプレス法が好ましい。ロールプレス法でのプレス圧は、特に限定されないが、0.2~3ton/cmが好ましい。
【0075】
本発明のリチウムイオン二次電池は、前述した正極及び負極、並びに非水電解液を備える限り、他の構成部材としては従来公知のものを使用することができる。例えば、セパレータとしては、セルロース系セパレータ、ポリオレフィン系セパレータ等が挙げられる。
【0076】
本発明のリチウムイオン二次電池の形態は特に限定されず、円筒型、扁平巻回角型、積層角型、コイン型、扁平巻回ラミネート型、積層ラミネート型等の従来公知の各種形態のセルを採用することができる。
【0077】
コイン型に適用する場合、前述した電極を、所定の円盤状に打ち抜いて用いればよい。例えば、リチウムイオン二次電池は、コインセルのワッシャーとスペーサーが溶接されたフタに、所定形状に打ち抜いたリチウム箔を所定枚数設置し、その上に、電解液を含浸させた同形状のセパレータを重ね、更に上から、電極合材層を下にして前記電極を重ね、ケースとガスケットを載せて、コインセルかしめ機で密封して作製することができる。
【0078】
積層ラミネート型に適用する場合、電極合材層が形成されていない部分(溶接部)で金属タブと溶接して得られた電極構造体を用いればよい。この場合、電極構造体を構成する電極は一枚でも複数枚でもよいが、一般的には、正負極とも複数枚が用いられる。正極を形成するための複数枚の電極は、負極を形成するための複数枚の電極と、一枚ずつ交互に重ねることが好ましく、その際、正極と負極の間には前述したセパレータを介在させることが好ましい。
【0079】
金属タブは、複数枚の電極の最も外側の電極の溶接部で溶接しても、複数枚の電極のうち、任意の隣接する2枚の電極の溶接部間に金属タブを挟んで溶接してもよい。金属タブの材質は、一般的にリチウムイオン二次電池に使用されるものであれば、特に限定されず、例えば、ニッケル、アルミニウム、チタン、銅等の金属;ステンレススチール、ニッケル合金、アルミニウム合金、チタン合金、銅合金等の合金等が挙げられる。これらのうち、溶接効率を考慮すると、アルミニウム、銅及びニッケルから選ばれる少なくとも1種の金属を含んで構成されるものが好ましい。金属タブの形状は、箔状が好ましく、その厚さは0.05~1mm程度が好ましい。
【0080】
溶接方法は、金属同士の溶接に用いられる公知の方法を用いることができ、その具体例としては、TIG溶接、スポット溶接、レーザー溶接、超音波溶接等が挙げられるが、超音波溶接にて電極と金属タブとを接合することが好ましい。
【0081】
超音波溶接の方法としては、例えば、複数枚の電極をアンビルとホーンとの間に配置し、溶接部に金属タブを配置して超音波をかけて一括して溶接する方法や、電極同士を先に溶接し、その後、金属タブを溶接する方法等が挙げられる。
【0082】
本発明では、いずれの方法でも、金属タブと電極とが前記溶接部で溶接されるだけでなく、複数枚の電極同士も互いに超音波溶接されることになる。溶接時の圧力、周波数、出力、処理時間等は、特に限定されず、用いる材料等を考慮して適宜設定すればよい。
【0083】
以上のようにして作製した電極構造体を、ラミネートパックに収納し、前述した電解液を注入した後、ヒートシールすることでラミネートセルが得られる。
【0084】
本発明のリチウムイオン二次電池は、高電圧、例えば4.2Vよりも高い電圧まで充電して使用することが可能である。充電電圧は、4.35~5Vの範囲が好ましく、4.35~4.7Vがより好ましい。非水電解液中に前述した添加剤を添加して使用することで、このような高電圧充電での使用が可能となる。
【実施例】
【0085】
以下、調製例、実施例及び比較例を挙げて本発明をより具体的に説明するが、本発明は下記実施例に限定されない。
【0086】
[実施例1]
カーボネート混合溶媒(炭酸エチレン:炭酸エチルメチル=1:3(体積比))にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて得られた溶液に、炭酸ビニレンを2質量%及び1-プロペン-1,3-スルトンを0.5質量%になるように添加し、更に添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,2-フェニレンジアミンを0.72質量%加え、非水電解液を調製した。
【0087】
正極活物質(LiCoO2、セルシード(登録商標)C20F、日本化学工業(株)製)100質量部、導電剤(アセチレンブラック、デンカブラック粉状品、デンカ(株)製)3質量部、結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVdF、#7208(8%NMP溶液)、(株)クレハ製)37.5質量部、及びNMP((株)三菱ケミカル製)13.2質量部を混合し、ペースト状の正極合材スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(アルミニウム箔、厚さ20μm、(株)UACJ製箔製)の両面に正極合材スラリーを均一に塗布し、乾燥させ、最後にロールプレス機を用いて圧縮することで、片面合材目付量18.0mg/cm2、片面合材厚み55μmの正極を作製した。
【0088】
負極活物質(黒鉛、MAG-E、日立化成(株)製)100質量部、増粘剤(CMC、品番2200、ダイセルファインケム(株)製)1.1質量部、結着剤(SBR、TRD2001(48.5%水分散液)、JSR(株)製)3.1質量部、及び純水131質量部を混合し、ペースト状の負極合材スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体(銅箔、厚さ16.5μm、(株)UACJ製箔製)の両面に負極合材スラリーを均一に塗布し、乾燥させ、最後にロールプレス機を用いて圧縮することで、片面合材目付量12.5mg/cm2、片面合材厚み96μmの負極を作製した。
【0089】
正極のアルミニウム箔の露出部にアルミニウム製の正極タブを、負極の銅箔の露出部にニッケル製の負極タブをそれぞれ溶接してリード部を形成し、セパレータ(厚み25μm、旭化成(株)製)を介在させつつ重ねて、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。巻回電極体を更に押しつぶして扁平状に成型し、扁平型巻回電極体を得た。扁平型巻回電極体をアルミニウムラミネートフィルム(EL408PH、大日本印刷(株)製)からなる外装体内に収納し、前記非水電解液を、正負極とセパレータの空孔体積に対して130体積%となるように注入した後に封止を行い、扁平型リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の作動電圧3~4.5Vにおける容量は1.2Ahであった。
最後に、作製した電池を400mA(1/3相当のレート)から40mA(1/30相当のレート)まで、4.5Vの定電流定電圧充電を行い、短絡試験用試料Aとした。
【0090】
[比較例1]
添加剤を用いない以外は、実施例1と同様の方法で短絡試験用試料Bを作製した。
【0091】
[比較例2]
添加剤として1,2-フェニレンジアミンを用いた以外は、実施例1と同様の方法で短絡試験用試料Cを作製した。
【0092】
[短絡試験]
短絡試験用試料A~Cの中央部に、電池温度監視用の熱電対を設置した。熱電対を設置した面の反対側の短絡試験用試料の中央部に、上部から直径10mmのジルコニアボールを、電池の電圧をモニターしながら、0.1mm/秒の速度で降下し、電池中央部を圧迫した。電池の電圧が、試験開始前の1/3以下になった時点で短絡が起こったとみなし、ジルコニアボールの降下を停止した。本試験において、電池温度が400℃以上まで上昇し、電池が発煙した場合に不安全、電池温度が110℃以下に留まり、電池からの発煙が見られなかった場合に安全とした。短絡試験用試料A~Cについて、それぞれ試行回数3回とした場合の試験結果を表1に示す。
【0093】
【0094】
表1に示したように、比較例1の添加剤を含まない非水電解液を用いた電池では、試行回数3回中3回とも、短絡後に電池の温度は512℃まで上昇し、激しい発煙が起こった。一方、比較例2の、添加剤として1,2-フェニレンジアミンを含む非水電解液を用いた電池では、試行回数3回中2回で短絡後の電池温度の上昇は、110℃以下に抑制されていたが、1回では電池の温度は400℃以上まで上昇し、激しい発煙が起こったことから、短絡時の安全性を向上する効果は不十分である。これに対し、実施例1の、添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,2-フェニレンジアミンを含む非水電解液を用いた電池では、0.72質量%という少量の添加量で、試行回数3回中3回で短絡後の電池温度の上昇は、110℃以下に抑制され、また発煙も見られず、短絡時の安全性を向上する効果が極めて高いことがわかった。
【0095】
[実施例2]
カーボネート混合溶媒(炭酸エチレン:炭酸エチルメチル=1:3(体積比))にLiPF6を1mol/Lになるように溶解させて得られた溶液に、炭酸ビニレンを2質量%及び1-プロペン-1,3-スルトンを0.5質量%になるように添加し、更に添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,3-フェニレンジアミンを0.72質量%加え、非水電解液を調製した。
【0096】
正極活物質(LiCoO2、セルシード(登録商標)C8hV、日本化学工業(株)製)100質量部、導電剤(アセチレンブラック、デンカブラック粉状品、デンカ(株)製)3質量部、結着剤(ポリフッ化ビニリデン:PVdF、#7208(8%NMP溶液)、(株)クレハ製)37.5質量部、及びNMP((株)三菱ケミカル製)13.2質量部を混合し、ペースト状の正極合材スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて正極集電体(アルミニウム箔、厚さ20μm、(株)UACJ製箔製)の両面に正極合材スラリーを均一に塗布し、乾燥させ、最後にロールプレス機を用いて圧縮することで、片面合材目付量17.3mg/cm2、片面合材厚み52μmの正極を作製した。
【0097】
負極活物質(黒鉛、MAG-E、日立化成(株)製)100質量部、増粘剤(CMC、品番2200、ダイセルファインケム(株)製)1.1質量部、結着剤(SBR、TRD2001(48.5%水分散液)、JSR(株)製)3.1質量部、及び純水131質量部を混合し、ペースト状の負極合材スラリーを調製した。続いて、コーティング装置を用いて負極集電体(銅箔、厚さ16.5μm、(株)UACJ製箔製)の両面に負極合材スラリーを均一に塗布し、乾燥させ、最後にロールプレス機を用いて圧縮することで、片面合材目付量12.5mg/cm2、片面合材厚み96μmの負極を作製した。
【0098】
正極のアルミニウム箔の露出部にアルミニウム製の正極タブを、負極の銅箔の露出部にニッケル製の負極タブをそれぞれ溶接してリード部を形成し、セパレータ(厚み25μm、旭化成(株)製)を介在させつつ重ねて、渦巻状に巻回して巻回電極体を作製した。巻回電極体を更に押しつぶして扁平状に成型し、扁平型巻回電極体を得た。扁平型巻回電極体をアルミニウムラミネートフィルム(EL408PH、大日本印刷(株)製)からなる外装体内に収納し、前記非水電解液を、正負極とセパレータの空孔体積に対して130体積%となるように注入した後に封止を行い、扁平型リチウムイオン二次電池を作製した。この電池の作動電圧3~4.5Vにおける容量は1.2Ahであった。
最後に、作製した電池を400mA(1/3相当のレート)から40mA(1/30相当のレート)まで、4.5Vの定電流定電圧充電を行い、短絡試験用試料Dとした。
【0099】
[実施例3]
添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミンを用いた以外は、実施例2と同様の方法で短絡試験用試料Eを作製した。
【0100】
[実施例4]
添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-アニリンを用いた以外は、実施例2と同様の方法で短絡試験用試料Fを作製した。
【0101】
[比較例3]
添加剤を用いない以外は、実施例2と同様の方法で短絡試験用試料Gを作製した。
【0102】
[短絡試験]
短絡試験用試料D~Gの中央部に、電池温度監視用の熱電対を設置した。熱電対を設置した面の反対側の短絡試験用試料の中央部に、上部から直径10mmのジルコニアボールを、電池の電圧をモニターしながら、0.1mm/秒の速度で降下し、電池中央部を圧迫した。電池の電圧が、試験開始前の1/3以下になった時点で短絡が起こったとみなし、ジルコニアボールの降下を停止した。本試験において、電池温度が400℃以上まで上昇し、電池が発煙した場合に不安全、電池温度が110℃以下に留まり、電池からの発煙が見られなかった場合に安全とした。短絡試験用試料D~Gについて、それぞれ試行回数3回とした場合の試験結果を表2に示す。
【0103】
【0104】
表2に示したように、より表面積が大きく危険性の高いLCO(C8hV)を用いた場合でも、添加剤としてN-(tert-ブトキシカルボニル)-1,3-フェニレンジアミン、N-(tert-ブトキシカルボニル)-1,4-フェニレンジアミン又はN-(tert-ブトキシカルボニル)-アニリンを含む非水電解液を用いた電池では、0.72質量%という少量の添加量で、試行回数3回中一部の電池で短絡後の電池温度の上昇は、110℃以下に抑制され、また発煙も見られず、短絡時の安全性を向上する効果が得られることがわかった。